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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】コロナウイルス治療薬および処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/60 20170101AFI20230906BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230906BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230906BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230906BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230906BHJP
   C07K 7/00 20060101ALN20230906BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K38/08 ZNA
A61K38/16
A61K45/00
A61P11/00
A61P31/14
A61P43/00 121
C07K7/00
C12N15/11 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022574090
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 US2021025819
(87)【国際公開番号】W WO2021207099
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】63/005,981
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522391501
【氏名又は名称】バソミューン セラピューティクス, インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】522391512
【氏名又は名称】ハミルトン, ダグラス エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン, ダグラス エー.
(72)【発明者】
【氏名】チク, ガニア
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/129618(WO,A1)
【文献】CID,2006年,Vol.43, No.6,p.748-756
【文献】EJMO,2020年03月,Vol.4, No.1,p.104-105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/60
A61K 38/08
A61K 38/16
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化22】
(式中、
nは、約25から約100までの整数であり、
各Xは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
各Yは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、そして
Rは、T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)またはT8ペプチド(配列番号5)である)の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む組成物、あるいは前記化合物またはその薬学的に許容される塩と薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物であって、ヒト被験体におけるコロナウイルス感染症に関連する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の処置および/もしくは予防において使用するための、または前記被験体におけるARDSの症状を好転することにおいて使用するための、組成物または医薬組成物であって、
ここで、前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、
組成物または医薬組成物。
【請求項2】
Rが、T7ペプチド(配列番号1)である、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項3】
nが、約40から約70までの、好ましくは、約48から約65までの、より好ましくは、約55の整数である、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項4】
Xが、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンまたは(C~C)-アルケニレンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項5】
Yが、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンまたは(C~C)-アルケニレンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項6】
前記式(I)の化合物が、
【化23】
(式中、
nは、約50~60の間のまたは約55の整数であり、そして
Rは、His-His-His-Arg-His-Ser-Phe(配列番号1)である)
またはその薬学的に許容される塩である、請求項1からのいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項7】
前記被験体が、TNF-α、IL-1β、MCP-1、IL-6およびIL-8から選択される、上昇したレベルの1種または複数の炎症促進性サイトカインを有すると同定される、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項8】
急性呼吸窮迫症候群が、サイトカインストームを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物または医薬組成物が、前記被験体に、第2の治療剤と逐次的にまたは同時発生的に同時投与されるものである、請求項1~のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項10】
前記第2の治療剤が、抗炎症薬、コロナウイルススパイクタンパク質に対する抗体、および抗ウイルス化合物から選択される、請求項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項11】
前記第2の治療剤が、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、ペラミビル、ビラミジン、リバビリンまたはオセルタミビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、レムデシビル、ロピナビル、リトナビル、ならびにヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログからなる群より選択される抗ウイルス化合物である、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項12】
前記第2の治療剤が、1種または複数の炎症性サイトカインを阻害する抗炎症薬である、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項13】
前記炎症性サイトカイン阻害剤が、エタネルセプト、サリルマブ、トシリズマブ、アダリムマブおよびカナキヌマブからなる群より選択される、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項14】
前記被験体が、前記化合物またはその薬学的に許容される塩を含む前記医薬組成物を投与される、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物または医薬組成物が、吸入、局所的、全身性、経口、鼻腔内および/または非経口投与によって前記被験体に投与されるものである、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項16】
前記処置が、前記被験体における肺内皮細胞の漏出を好転させることを含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項17】
前記処置が、前記被験体における肺内皮細胞を安定化することを含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項18】
前記被験体が、前記化合物の1回または複数の用量を投与され、各用量が、0.1~100μg/kgの間の前記化合物を含む、請求項1~1のいずれか一項に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項19】
前記化合物が静脈内注射により投与されるものである、請求項1に記載の使用のための組成物または医薬組成物。
【請求項20】

【化24】
(式中、
nは、約50~60の間のまたは約55の整数であり、そして
Rは、His-His-His-Arg-His-Ser-Phe(配列番号1)である)
の化合物またはその薬学的に許容される塩を含む組成物であって、ヒト被験体におけるコロナウイルス感染症に関連する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の処置および/もしくは予防のためのまたは前記被験体におけるARDSの症状を好転することのための医薬の製造における使用のための、組成物であって、
ここで、前記コロナウイルスが、SARS-CoV-2である、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2020年4月6日に出願された米国仮特許出願第63/005,981号の優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本開示は、バスキュロチド(Vasculotide)と比較して改善された活性を有する薬剤、ならびにその方法および使用に関する。特に、本開示は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等、コロナウイルス感染症、例えば、Covid-19、SARSおよびMERS関連肺病理等、呼吸器感染症の処置に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
いくつかの鍵となる役割を果たす分子が、血管恒常性の維持を調節することが同定された。そのうち最もよく知られたものの1つが、Tie2/アンジオポエチン(Ang)シグナル伝達軸である。この受容体チロシンキナーゼ(Tie2)およびタンパク質増殖因子(Ang)系は、2種の主要増殖因子、Ang1およびAng2が、血管内皮に位置する同じ受容体を介してそれぞれ抗炎症性または炎症促進性応答を伝播するという点において、若干独特である。大部分の受容体チロシンキナーゼとは異なり、Tie2は、Ang1の作用により、正常で健康な内皮細胞において構成的に活性な状態で維持される。この受容体は、増殖ならびに内皮細胞生存(MAPKおよびAKT)、透過性(VE-カドヘリン)および細胞間相互作用(ICAMおよびVCAM)を調節するいくつかの細胞内経路を活性化することが見出されており、これらは全て、正常な生理機能において、内皮細胞を静止状態に維持するように協力して働く。Tie2受容体リン酸化を特徴とするこの経路の活性化は、トランスドミナント(transdominant)シグナルとして機能する;これは、VEGF、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン、PAF、トロンビン、LPS、敗血症血清(septic serum)および炭疽毒素を含む無数の炎症性因子への曝露後の血管漏出の誘導に対抗する(Parikh SM, Virulence 2013)。Ang2レベルの急激な上昇は、数多くの異なる侵襲後に血管漏出、病的状態および死亡をもたらすことが繰り返し示されてきた。研究は、血管活性化の優位な根底にある状態を規定するのは、Ang1およびAng2の循環レベルの間の均衡であることを実証した。この事実から、この経路をモジュレートすることを目標とするアプローチは、治療適用を有し得る。
【0004】
Angの複雑な性質は、これまで精製および治療適用を妨げてきた。そのような訳で、この経路をモジュレートするための代替アプローチが広範に検査された。これまでに2種の主要なアプローチが記載された。第1のアプローチは、圧倒的により一般的であるが、アンタゴニスト性リガンド、Ang2の遮断に着目した。このクラスにおける治療薬は、Ang2に対する遮断抗体またはペプチボディとして大まかに定義することができる。Tie2標的化モジュレーターの第2のクラスは、Ang1の解明された構造的特徴を取り入れている。すなわち、当該の生理活性Ang1は、4個以上のサブユニットの多量体として天然に存在する。Ang1サブユニットが、Tie2受容体に結合し、その際、隣接受容体にクラスターを形成させる;トランスリン酸化を容易にする構成で受容体を有効に並置することが仮定される。Tie2受容体に対するAng1のアゴニスト性作用を模倣するために、隣接受容体に結合し、これにクラスターを形成させる、いくつかの大型の組換えタンパク質が作出された(Zhang et al. 2002;Cho et al. 2004;Han et al. 2016;米国特許第8,957,022号)。
【0005】
バスキュロチド(親バスキュロチドとも呼ばれる)は、Ang1の作用を模倣する、合理的に設計された完全に合成の化合物である。バスキュロチドの中心核は、10kDaの狭い分散度の4腕の(armed)ポリエチレングリコールからなる。高親和性Tie2結合ペプチド、特に、(-CHHHRHSF-、配列番号6)の共有結合性付着は、活性化マレイミド(malemide)基およびアミノ末端システインの反応により容易となる。この構造は、Tie2受容体に結合し、これを活性化するための最適な構成として規定された。親バスキュロチドによるTie2の直接的な活性化は、アトピー性疾患およびインフルエンザの前臨床モデルを含む、いくつかの別個のin vitroおよびin vivo試験において、優勢な抗血管漏出シグナルをもたらすことが示された(Bourdeau A, et al BMC Res Notes 2016およびSugiyama MG, et al Sci Rep 2015)。
【0006】
コロナウイルス誘導性急性肺傷害またはより重症のおよび関連する診断の急性呼吸窮迫症候群(ALI/ARDS)は、世界中で大衆に多大な犠牲を強いている。病原体媒介性ALI/ARDSの共通の保存された特色は、血管漏出の誘導である。感染に対する宿主の応答、特に、血管漏出の処置における治療アプローチは、常に変異し続けている病原体を特異的に目標とする治療薬で見られる抵抗性の急速な発生を伴うべきではない。現在、肺傷害の処置のために承認された、治療的に標的化されたアプローチは存在しない。コロナウイルス誘導性ALI/ARDSを処置するための、バスキュロチドおよび本明細書に開示されている化合物等のTie2アゴニストの使用は、その有効性が病原体の遺伝的変異によって限定され得るワクチンおよび/または抗ウイルス薬の使用に優る、ある特定の概念的な相違点(points of differentiation)を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第8,957,022号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Parikh SM, Virulence 2013
【文献】Bourdeau A, et al BMC Res Notes 2016
【文献】Sugiyama MG, et al Sci Rep 2015
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
概要
親バスキュロチドの化学分析は、結果として生じるペプチドPEGコンジュゲートが、5および6員環産物の混合物を含有することを明らかにした(図1A)。示されている5員のスクシンイミド環は、システイン上のチオール基によるマレイミドの直接的なアルキル化の結果として生じ、同じく示されている6員のチアジン(thiazin)環は、システインリンカー上の遊離アミン基を介したこの初期産物の転位の結果として生じる。これらの知見は、ペプチドが直鎖状スルファン部分を介してPEGに連結されて、活性化PEG四量体を形成した、より単純なバスキュロチドアナログ(Mpa-Br)の開発をもたらした。一実施形態では、Mpa-Brは、N末端におけるアミン側鎖を欠くシステインのアキラルアナログである3-メルカプトプロピオン酸を有するT7ペプチドの、ブロモアセトアミド(bromoacetimide)を含有する活性化PEG四量体への連結によって調製される(図1B)。結果として生じるペプチドPEGコンジュゲートは、転位に対して感受性の不安定な環構造を含まない単一の産物を提供する。
【0010】
したがって、本開示は、式(I)の化合物
【化1】
(式中、
nは、約25~約100の整数であり、
各Xは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
各Yは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
Rは、T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)および/もしくはT8ペプチド(配列番号5)またはそれらのレトロインベルソ(retro-inverso)ペプチドである)
またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0011】
ある実施形態では、化合物は、Tie2リン酸化;MAPK、AKTおよび/またはeNOSのリン酸化を刺激する;内皮細胞遊走を刺激する;内皮細胞からのMMP2放出、および血清除去(withdrawal)誘導性アポトーシスからの内皮細胞の保護を刺激する;マトリゲルアッセイにおいてin vivoで血管新生応答を刺激する;被験体の創傷に局所的に適用されたときに、被験体における創傷治癒を刺激する;血管漏出を減少させる;アレルギー性疾患を処置する、ならびに/またはインフルエンザおよびその関連する肺病理を処置する。
【0012】
ある実施形態では、Rは、配列番号1に示されるT7ペプチドである。
【0013】
ある実施形態では、本明細書に開示されている化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が本明細書に提供される。一実施形態では、薬学的に許容される担体は、局所的投与に適する。別の実施形態では、薬学的に許容される担体は、全身性投与に適する。さらに別の実施形態では、薬学的に許容される担体は、鼻腔内投与に、吸入にまたは灌流液の構成成分として適する。
【0014】
本明細書に開示されている式(I)の化合物を作製する方法であって、
(i)T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)および/もしくはT8ペプチド(配列番号5)またはそれらのレトロインベルソペプチドであるペプチドを、式(II)のチオール化合物
【化2】
と反応させて、式(III)の化合物
【化3】
を得るステップと、
(ii)式(III)の化合物を、式(IV)のPEG-四量体
【化4】
と反応させて、式(I)の化合物を得るステップと
を含み、式中、変数n、XおよびYが、上に定義される通りであり、LGが、適した脱離基であり、PGが、Hまたは適した保護基である、方法もまた、本明細書に提供される。
【0015】
一部の実施形態では、コロナウイルスに感染したヒト被験体を処置するための方法であって、治療有効量の本明細書に開示されている化合物、または化合物および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を被験体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態では、化合物は、Mpa-Br(図1B)である。他の実施形態では、化合物は、バスキュロチド(図1A)、またはそれぞれの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8957022号および同第9186390号に記載されているいずれかの化合物である。
【0016】
一部の実施形態では、コロナウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ウイルス(例えば、GenBank受託番号NC_045512.2、MN985325.1、MN908947.3、YP_009724390.1、QHD43416.1)である。他の実施形態では、コロナウイルスは、SARS-CoV-1ウイルス(例えば、GenBank受託番号AY278741.1、AY274119.3、AY525636.1)または中東呼吸器症候群CoV(MERS-CoV)ウイルス(例えば、GenBank受託番号NC_019843.3)である。
【0017】
一部の好ましい実施形態では、ヒト被験体は、上昇したレベルの1種または複数の炎症促進性サイトカインを有すると同定される。好ましくは、ヒト被験体は、上昇したレベルのTNF-α、IL-1β、MCP-1、IL-6および/またはIL-8を有する。
【0018】
一部の実施形態では、コロナウイルスに感染したヒト被験体における急性呼吸窮迫症候群を処置するための方法であって、治療有効量の本明細書に開示されている化合物、または化合物および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を被験体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。
【0019】
一部の実施形態では、コロナウイルスに感染したヒト被験体における急性呼吸窮迫症候群の症状を処置および/または予防するための方法であって、予防または治療有効量の本明細書に開示されている化合物、または化合物および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を被験体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態では、被験体は、TNF-α、IL-1β、MCP-1、IL-6、IL-8、MCP-1、EGF、VEGF、アンジオポエチン-1およびアンジオポエチン-2から選択される、上昇したレベルの1種または複数の炎症促進性サイトカインを示す。一部の実施形態では、本明細書に開示されている化合物の予防有効量は、被験体における血管漏出の予防に有効な量である。他の実施形態では、本明細書に開示されている化合物の治療有効量は、被験体における血管漏出の処置(例えば、逆転)に有効な量である。
【0020】
コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)に関連する障害、症状または症候群を処置するための治療方法であって、治療有効量の本明細書に開示されている化合物または化合物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与するステップを含む治療方法もまた提供される。一部の実施形態では、本明細書に開示されている化合物または化合物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与することにより、被験体におけるコロナウイルス(例えば、SARS-Cov-2)感染症の少なくとも1種の症状または徴候を好転させる(ameliorate)またはその重症度を低下させるための方法であって、少なくとも1種の症状または徴候が、肺における炎症、肺胞損傷、発熱、咳、息切れ、下痢、臓器不全、肺炎、敗血症性ショックおよび死亡からなる群より選択される、方法が提供される。一部の実施形態では、化合物(またはこれを含む医薬組成物)は、コロナウイルス(例えば、SARS-Cov-2)感染症を有するまたはそれを有するリスクがある被験体に予防的にまたは治療的に投与することができる。リスクがある被験体は、免疫無防備状態の人物、高齢者(65歳を超える)、医療従事者、コロナウイルス(例えば、SARS-Cov-2)感染症が確認されたまたは疑われる人物(複数可)と濃厚接触した成人または小児、および肺感染症、心臓疾患、肥満または糖尿病等の基礎医学的状態(または併存症)を有する者を含むがこれらに限定されない。
【0021】
一部の実施形態では、第2の治療剤が、被験体に、本明細書に記載されている1種または複数の化合物と同時投与される(逐次的にまたは同時発生的に)。一部の態様では、第2の治療剤は、抗炎症薬、抗感染薬、SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対する抗体、抗ウイルス薬、抗酸化剤等の栄養補助食品、または当技術分野で公知の他のいずれかの薬物もしくは治療法である。抗炎症薬は、デキサメタゾン等のコルチコステロイド、および炎症性サイトカインの阻害剤(その非限定的な例は、エタネルセプト(eternacept)、サリルマブ、トシリズマブ、アダリムマブおよびカナキヌマブ(kanakinumab)を含む)を含む。
【0022】
Tie2受容体を活性化する方法であって、Tie2受容体が活性化されるように、Tie2受容体を本明細書に開示されている化合物と接触させるステップを含む方法もまた、本明細書に提供される。ある実施形態では、Tie2受容体の活性化は、Tie2受容体のヒトにおけるチロシン992(Y992)およびマウスのY990等のチロシン残基のリン酸化によって、またはMAPK、AKTもしくはeNOSのリン酸化によって証明される。
【0023】
漏出性血管の部位における血管透過性を減少させる方法であって、それを必要とする被験体における部位に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法もまた、本明細書に提供される。ある実施形態では、被験体は、脳卒中、黄斑変性症、黄斑浮腫、リンパ浮腫、血液網膜関門の崩壊、血液脳関門の崩壊、細菌誘導性血管漏出または腫瘍血管構造の正常化を有するまたはこれを有した。
【0024】
内皮細胞を保護する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法もまた、本明細書に提供される。一実施形態では、被験体は、腎臓傷害または腎臓線維症、脳卒中、血管性認知症、黄斑変性症、または糖尿病性合併症を有するまたはこれを有した。別の実施形態では、被験体は、肺傷害を有するまたはこれを有した。
【0025】
CFU-G細胞の増大を阻害する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法が、さらにまた本明細書に提供される。ある実施形態では、方法は、それを必要とする被験体における好酸球および/もしくは好塩基球を低下させるためのもの、アトピー性皮膚炎、喘息もしくはアレルギー性鼻炎、コロナウイルス(Covid 19、重症急性呼吸器症候群ウイルス((SARS COV))中東呼吸器症候群((MERS COV))、関連する肺傷害症候群、例えば、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置するためのもの、および/またはそれを必要とする被験体における好酸球および/もしくは好塩基球に関連する状態を処置するためのものである。
【0026】
一実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、好酸球および/または好塩基球起源の白血病である。別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、炎症性腸疾患である。さらに別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、寄生生物感染症である。
【0027】
別の実施形態では、CFU-G細胞の増大を阻害する方法は、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルを低下させるためのものであり、本開示の化合物を、それを必要とする患者に投与するステップを含み、サイトカインは、エオタキシン、IL-17、MIG、IL12/IL23(p40)、IL-9、MIP-1a、MIP-1b、RANTES、TNF-α、IL-1β、IL-5、IL-13およびMCP-、IL-2、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子、IFガンマ誘導性タンパク質10、単球走化性タンパク質1、マクロファージ炎症性タンパク質1-αまたは(of)IL-2、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子、IFガンマ誘導性タンパク質10、単球走化性タンパク質1、マクロファージ炎症性タンパク質1-α、TNF-αのうち少なくとも1種である。一実施形態では、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインは、エオタキシンを含む。
【0028】
別の実施形態は、本発明の化合物を投与することにより、コロナウイルス感染症(COVID 19、SARSおよびMERS)に関連するサイトカインストームを予防または阻害するための方法であり、サイトカインストームを構成するサイトカインは、エオタキシン、IL-17、MIG、IL12/IL23(p40)、IL-9、MIP-1a、MIP-1b、RANTES、TNF-α、IL-1β、IL-5、IL-13およびMCP-、IL-2、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子、IFガンマ誘導性タンパク質10、単球走化性タンパク質1、マクロファージ炎症性タンパク質1-αまたは(of)IL-2、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子、IFガンマ誘導性タンパク質10、単球走化性タンパク質1、マクロファージ炎症性タンパク質1-α、TNF-αのうち少なくとも1種を含む。一実施形態では、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインは、エオタキシンを含む。方法は、エタネルセプト、サリルマブ、トシリズマブ、アダリムマブ、カナキヌマブおよび/または他の炎症性サイトカイン阻害剤等、炎症性サイトカイン阻害剤の逐次的または同時発生的のいずれかでの同時投与をさらに含む。
【0029】
インフルエンザに、またはコロナウイルスに、またはインフルエンザもしくはコロナウイルスに関連する細菌重感染に感染した被験体を処置する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法が、さらになお本明細書に提供される。
【0030】
一実施形態では、方法は、本明細書に開示されている化合物と同時発生的にまたは逐次的に、抗ウイルス剤または抗マラリア剤を投与するステップをさらに含む。ある実施形態では、抗ウイルス剤は、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、ペラミビル、ビラミジン、リバビリンもしくはオセルタミビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、レムデシビル、ロピナビル、リトナビルまたはいずれかのヌクレオシドもしくはヌクレオチドアナログである。
【0031】
ある実施形態では、化合物は、局所的に、全身性に、鼻腔内に、吸入によってまたは灌流液として投与される。
【0032】
(a)本明細書に開示されている化合物と、(b)抗ウイルス剤もしくは抗マラリア剤および/または1種もしくは複数の炎症性サイトカイン阻害剤の阻害剤と、(c)コロナウイルスに感染した被験体を処置するためおよび/またはコロナウイルスに感染した被験体における細菌重感染を処置するためのキットの使用についての指示とを含むキットがさらに提供される。
【0033】
本開示の他の特色および利点は、次の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかし、詳細な説明および具体例は、本出願の実施形態を指し示しているものの、単なる説明として提供されており、特許請求の範囲は、これらの実施形態によって限定されるべきではないが、全体として本明細書と整合した最も広い解釈を与えられるべきであることを理解されたい。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒト被験体におけるコロナウイルス感染症に関連する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置および/もしくは予防する、または前記被験体におけるARDSの症状を好転させる方法であって、前記方法は、式(I):
【化20】
の化合物もしくはその薬学的に許容される塩を前記被験体に投与するステップ、または
前記化合物もしくはその薬学的に許容される塩および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を前記被験体に投与するステップを含み、式中、
nは、約25~約100の整数であり、
各Xは、独立してまたは同時に、(C ~C 20 )-アルキレンまたは(C ~C 20 )-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C ~C )-アルキル、(C ~C )-アルコキシ、(C ~C 10 )-アリールまたは(C ~C 10 )-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
各Yは、独立してまたは同時に、(C ~C 20 )-アルキレンまたは(C ~C 20 )-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C ~C )-アルキル、(C ~C )-アルコキシ、(C ~C 10 )-アリールまたは(C ~C 10 )-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
Rは、T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)またはT8ペプチド(配列番号5)である、
方法。
(項目2)
Rが、T7ペプチド(配列番号1)である、項目1に記載の方法。
(項目3)
nが、約40~約70、好ましくは、約48~約65、より好ましくは、約55の整数である、項目1に記載の方法。
(項目4)
Xが、独立してまたは同時に、(C ~C )-アルキレンまたは(C ~C )-アルケニレンである、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
Yが、独立してまたは同時に、(C ~C )-アルキレンまたは(C ~C )-アルケニレンである、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
Yが、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプトオクタン酸、11-メルカプトウンデカン酸、12-メルカプトドデカン酸または16-メルカプトヘキサデカン酸に由来する、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記式(I)の化合物が、
【化21】
またはその薬学的に許容される塩であり、式中、
nは、約50~60の間または約55の整数であり、
Rは、His-His-His-Arg-His-Ser-Phe(配列番号1)である、
項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記コロナウイルスが、SARS-CoV-1、SARS-CoV-2またはMERS-CoVウイルスである、項目1~7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記被験体が、TNF-α、IL-1β、MCP-1、IL-6およびIL-8から選択される、上昇したレベルの1種または複数の炎症促進性サイトカインを有すると同定される、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
急性呼吸窮迫症候群が、サイトカインストームを含む、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
好ましくは、抗炎症薬、コロナウイルススパイクタンパク質に対する抗体、および抗ウイルス薬から選択される、第2の治療剤の逐次的または同時発生的な同時投与をさらに含む、項目1~10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記抗ウイルス化合物が、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、ペラミビル、ビラミジン、リバビリンまたはオセルタミビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、レムデシビル、ロピナビル、リトナビル、ならびにヌクレオシドおよびヌクレオチドアナログからなる群より選択される、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記抗炎症薬が、1種または複数の炎症性サイトカインを阻害する、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記炎症性サイトカイン阻害剤が、エタネルセプト、サリルマブ、トシリズマブ、アダリムマブおよびカナキヌマブからなる群より選択される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記被験体に、前記化合物またはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物が投与される、項目1~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記化合物または医薬組成物が、吸入、局所的、全身性、経口、鼻腔内および/または非経口投与によって前記被験体に投与される、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記被験体における肺内皮細胞の漏出を好転させるステップを含む、項目1~16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記被験体における肺内皮細胞を安定化するステップを含む、項目1~16のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
図面の簡単な説明
実施形態は、次の図面との関連で下に記載される:
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1-1】図1Aは、マレイミドを含有する活性化PEG四量体へのN末端におけるシステインを有するT7ペプチドの連結により調製された、親バスキュロチドの概略図を示す。結果として生じるペプチドPEGコンジュゲートは、5および6員環産物の混合物を含有する。示されている5員のスクシンイミド環は、システイン上のチオール基によるマレイミドの直接的なアルキル化の結果として生じ、同じく示されている6員のチアジン環は、システインリンカー上の遊離アミン基を介したこの初期産物の転位の結果として生じる。図1Bは、一実施形態では、ブロモアセトアミドを含有する活性化PEG四量体への、N末端におけるアミン側鎖を欠くシステインのアキラルアナログである、3-メルカプトプロピオン酸を有するT7ペプチドの連結によって調製された、Mpa-Brの概略図を示す。
図1-2】同上。
【0036】
図2-1】図2Aは、トリプトファン蛍光分光法を使用した、溶液中の均質な組換え受容体集団、ヒトTie2Fcへの親バスキュロチド結合の検出を示す。図2Cは、トリプトファン蛍光分光法を使用した、溶液中の均質な組換え受容体集団、ヒトTie2FcへのMPA-Br結合の検出を示す。ヒトTie2Fc受容体と増加濃度のリガンドとの(A、C)(○)またはリガンド単独での(□)インキュベーション後の、固有蛍光強度の増加および結果として生じる結合曲線。295nmの波長で試料を励起した。図2Bは、ヒトTie2Fcへの親バスキュロチドの特異的飽和結合曲線を示す。図2Dは、ヒトTie2FcへのMpa-Brの特異的飽和結合曲線を示す。一部位特異的結合の非線形回帰のため、親バスキュロチド単独またはMPABr単独の固有蛍光強度を、総結合から減算した。ヒトTie2Fcへの親バスキュロチドおよびMPA-Brの正規化された特異的結合の結果として生じるKd値は、それぞれ102.9nMおよび2.623nMである。図2Eは、ヒトIgGFcと親バスキュロチドの結合曲線を示す。図2Fは、ヒトIgGFcとMPA-Brの結合曲線を示す。ヒトIgGFcおよび親バスキュロチドまたはヒトIgGFcおよびMPA-Brにより、結合の飽和は観察されない。図2Gは、様々な種の組換えTie2FCに対する、親バスキュロチドおよびMPA-Brの結合定数を描写する表を示す。トリプトファンスキャニング蛍光分光法を使用して、指し示される種の組換えTie2Fc受容体に対する、親バスキュロチドおよびMPA-Brの結合定数を決定した。
図2-2】同上。
【0037】
図3図3Aは、親バスキュロチドおよびMPA-Brが、Tie2受容体を活性化することを示す。漸増用量の親バスキュロチドおよびMPA-Brで処置されたHUVEC細胞におけるリン酸化Tie-2。正規化された平均±SEMとして表現されたデータ、処置なし(NT)と比べた、一元配置ANOVA事後ホルム・シダック(Holm-Sidak)多重比較、p<0.05、**p<0.01。視覚的に分かり易くするために、破線(hatched line)が、MPA-Br処置から親バスキュロチド処置を分ける。図3Bは、親バスキュロチドおよびMPA-Brが、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)を活性化することを示す。親バスキュロチドおよびMPA-Brで処置されたHUVEC細胞におけるMAPK(Erk2)のリン酸化。正規化された平均±SEMとして表現されたデータ、処置なし(NT)と比べた、一元配置ANOVA事後ホルム・シダック多重比較、p<0.05、****p<0.0001。
【0038】
図4-1】図4Aは、指し示される濃度の親バスキュロチドおよびMPA-Brで処置されたHMVECtert細胞(テロメラーゼにより不死化されている)におけるリン酸化Tie-2を示す(平均±SEMとして表現されたデータ、スチューデントt検定、p<0.05、**p<0.01、処置群 対 内皮基本培地(EBM)処置群)。図4Bは、指し示される濃度の親バスキュロチドおよびMPA-Brで処置された初代マウス肺微小血管内皮細胞におけるリン酸化Tie-2を示す(平均±SEMとして表現されたデータ、一元配置ANOVA事後ホルム・シダック、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、#p=0.06、処置群 対 処置なし(NT))。
図4-2】同上。
【0039】
図5図5Aは、ラット糸球体に由来する初代培養内皮細胞を示し、図5Bは、イヌ大動脈に由来する初代培養内皮細胞を示し、図5Cは、カニクイザル糸球体に由来する初代培養内皮細胞を示す。細胞は、指し示される濃度のMPA-Br(mBr)で15分間刺激した。リン酸化Tie2をELISAにより定量化し、示されているデータは、総Tie2タンパク質レベルに対して正規化された場合の、Tie2の相対的活性化(pTie2)を表す。ヒト組換えアンジオポエチン1(Ang1)が陽性対照として含まれた。平均±SEMとして表現されたデータ、スチューデントt検定、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、処置群 対 処置なし(NT)。ラットについてn=3、イヌについてn=4およびカニクイザルについてn=3。
【0040】
図6-1】図6A~6Iは、親VTおよびMPA-Brが、X31(H3N2)インフルエンザ接種後にマウスを保護することを示す。マウスに、0日目に64HAU X31を鼻腔内で感染させた。指し示される用量の親VTまたはMPA-Brを、感染48時間後から開始して、試験の持続時間にわたり、24時間毎に腹腔内(I.P.)で与えた。生存率を12日目まで毎日モニターした(図6A)。感染から5日後(図6B)および6日後(図6C)に測定された初期体重に対する割合。感染後5日目(図6D)および6日目(図6E)の動脈血酸素飽和度。感染5日後(図6F)または6日後(図6G)に測定された体温。感染から5日目(図6H)および6日目(図6I)に測定された活動性スコア。マンテル・コックスログランク(Mantel Cox Log Rank)解析によって生存統計を行った、***p<0.001。他の統計的尺度は全て、次の通りであった:フィッシャーの事後検定による一元配置ANOVAを介して、インフルエンザ(Flu)とPBSに対して、#p<0.05、ダネット事後検定による一元配置ANOVAを介して、インフルエンザとPBSに対してp<0.05、**p<0.01、***p<0.001および****p,0.0001。
図6-2】同上。
図6-3】同上。
【0041】
図7-1】図7A、Bは、スプラーグドーリーラットに、時間ゼロに尾静脈注射により指し示される用量の親VTまたはMPA-Brを与えたことを示す。指し示される時点で血漿を収集して、ELISAによる試験薬剤の循環レベルの定量化を容易にした。グラフは、経時的な全身性循環からの循環MPA-Br(図7A)および親VT(図7B)の損失を描写する。表は、120ug/kg用量に関する計算されたクリアランス、分布体積および終末半減期値について詳しく述べる。試験の1つのアーム(arm)は、連続3日間にわたり24時間毎に1回の用量(複数用量MD 120ug/kg)として送達されるMPA-Brを提供した。
図7-2】同上。
【0042】
図8図8は、背側が剪毛された雄FVBマウスに、皮膚ヒスタミン負荷の1時間前に、指し示される量の親バスキュロチドまたはMPA-Br(IPによる)を与えたことを示す。尾静脈経由で送達されるエバンスブルー(EB)色素は、ヒスタミン曝露の直後に投与した。ヒスタミン負荷から30分後に、標準化された皮膚(cutaneous skin)生検材料を、心臓灌流されたマウスから取り出した。620nmにおける吸光度を使用して、全処置群について、EB色素血管外遊出(extravassation)の量を計算した。EBの平均量±SEMとして表現されたデータ、PBSビヒクル対照と比べた一元配置ANOVA事後ダネット多重比較、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0043】
図9-1】図9A~Dは、インピーダンス測定によって決定された、トロンビンおよびTNF-α誘導性HUVEC細胞不安定化のMPA-Br(AV-001)阻害を説明する。図9A、Cは、正規化CIの時間分解変化を示す。図9B、Dは、ビヒクル対照処置に対して正規化された総AUCを示す。条件毎にN=3。および**について、それぞれP<0.01およびP<0.001。
図9-2】同上。
【0044】
図10-1】図10A~Gは、インピーダンス測定によって決定された、COVID-19患者血清誘導性HUVEC細胞完全性の不安定化のMPA-Br(AV-001)阻害を説明する。図10A~Cは、HD1またはCOVID-19血清(IgG8、IgM5、IgM6)±AV-001による負荷後のCIの時間分解変化を示す。図10D~Gは、ビヒクル対照処置に対して正規化された総AUCを示す。条件毎にN=3。**および***について、それぞれP<0.01、P<0.001およびP<0.0001。
図10-2】同上。
【0045】
図11図11は、健康なドナーまたはCOVID-19患者(IgG8、IgM5およびIgM6)由来の血清とのインキュベーション後の細胞インピーダンス(透過性)に対するAV-001の効果を説明する。データは、血清+AV-001と共にインキュベートされた細胞と、血清+ビヒクル対照と共にインキュベートされた細胞において測定された細胞指数の差として提示される。データは、平均±SEM(平均の標準誤差)としてプロットされ、事後フィッシャーLSD多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)によって評価される(**および***それぞれP<0.01およびP<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
定義
用語「(C~C)-アルキル」は、本明細書で使用される場合、1~「p」個の炭素原子を含有する、直鎖および/または分枝鎖、飽和アルキルラジカルを意味し、(pがいくつであるかに応じて)メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2,2-ジメチルブチル、n-ペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、n-ヘキシルおよびその他を含み、式中、変数pは、アルキルラジカルにおける最大の炭素原子数を表す整数である。
【0047】
用語「(C~C)-アルケニル」は、本明細書で使用される場合、2~「p」個の炭素原子を含有する、直鎖および/または分枝鎖、不飽和アルキル部分を意味し、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含み、(pがいくつであるかに応じて)エテニル、1-プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、t-ブテニル、1-ペンテニル、2-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-1-ペンチル、4-メチル-1-ペンチル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニルおよびその他を含み、式中、変数pは、アルケニルラジカルにおける最大の炭素原子数を表す整数である。
【0048】
用語「(C~C)-アルコキシ」は、そこに酸素原子が取り付けられた、上に定義される通りのアルキル基を意味する。本明細書で使用される場合、この用語は、そこに酸素原子が取り付けられた、1~「p」個の炭素原子を含有する、直鎖および/または分枝鎖、飽和アルキルラジカルを意味し、(pがいくつであるかに応じて)メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、s-ブトキシ、イソブトキシ、t-ブトキシ、2,2-ジメチルブトキシ、n-ペントキシ、2-メチルペントキシ、3-メチルペントキシ、4-メチルペントキシ、n-ヘキソキシ(hexoxy)およびその他を含み、式中、変数pは、アルコキシラジカルにおける最大の炭素原子数を表す整数である。
【0049】
用語「アリール」は、本明細書で使用される場合、少なくとも1個の芳香環、例えば、単一の環(例えば、フェニル)または複数の縮合環(例えば、ナフチル)を含有する、環式の基を指す。本開示のある実施形態では、アリール基は、フェニル、ナフチル、インダニル、アントラセニル(anthracenyl)、1,2-ジヒドロナフチル、1,2,3,4-テトラヒドロナフチル、フルオレニル、インダニル、インデニルおよびその他等、6、9または10個の原子を含有する。
【0050】
用語「ヘテロアリール」は、本明細書で使用される場合、N、OおよびSから選択される少なくとも1個のヘテロ原子ならびに少なくとも1個の芳香環を有する、芳香環式または多環式の環系を指す。ヘテロアリール基の例は、とりわけ、フリル、チエニル、ピリジル、キノリニル、イソキノリニル、インドリル、イソインドリル、トリアゾリル、ピロリル、テトラゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、カルバゾリル、ベンゾオキサゾリル、ピリミジニル、ベンズイミダゾリル(benzimidazolyl)、キノキサリニル、ベンゾチアゾリル、ナフチリジニル(naphthyridinyl)、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、プリニル(purinyl)およびキナゾリニルを限定することなく含む。
【0051】
用語「ハロ」は、本明細書で使用される場合、ハロゲン原子を指し、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)を含む。
【0052】
上述の基のいずれかに付けられる接尾辞「エン(ene)」は、この基が、二価である、すなわち、2個の他の基の間に挿入されることを意味する。
【0053】
レトロインベルソペプチドは、本明細書で使用される場合、d-アミノ酸が逆方向の配列(reverse sequence)で置換されたペプチドを指す。側鎖トポロジーは、元の分子(一次構造)を模倣し、よって、結合を提供するであろう。
【0054】
本開示の化合物
一実施形態では、本発明者らは、バスキュロチド(VT)よりも改善された活性を有する新規薬剤の1クラスを提供し、このような新規薬剤の1つを、実施例において「Mpa-Br」と呼ぶ。
【0055】
したがって、本開示は、式(I)の化合物、
【化5】
(式中、
nは、約25~約100の整数であり、
各Xは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
各Yは、独立してまたは同時に、(C~C20)-アルキレンまたは(C~C20)-アルケニレンであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
Rは、T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)もしくはT8ペプチド(配列番号5)またはそれらのレトロインベルソペプチドである)
および/またはその薬学的に許容される塩を提供する。
【0056】
一実施形態では、Rは、T7ペプチドであり、このT7ペプチドは、アミノ酸配列:His-His-His-Arg-His-Ser-Phe(配列番号1)を含む。別の実施形態では、Rは、GA3ペプチドであり、このGA3ペプチドは、アミノ酸配列:Trp-Thr-Ile-Ile-Gln-Arg-Arg-Glu-Asp-Gly-Ser-Val-Asp-Phe-Gln-Arg-Thr-Trp-Lys-Glu-Tyr-Lys(配列番号2)を含む。別の実施形態では、Rは、T4ペプチドであり、このT4ペプチドは、アミノ酸配列:Asn-Leu-Leu-Met-Ala-Ala-Ser(配列番号3)を含む。さらに別の実施形態では、Rは、T6ペプチドであり、このT6ペプチドは、アミノ酸配列:Lys-Leu-Trp-Val-Ile-Pro-Lys(配列番号4)を含む。さらに別の実施形態では、Rは、T8ペプチドであり、このT8ペプチドは、アミノ酸配列:His-Pro-Trp-Leu-Thr-Arg-His(配列番号5)を含む。
【0057】
T4、T6、T7およびT8は、Tournaire, R. et al. (2004) EMBO Reports 5:262-267に記載されているTie2結合ペプチドT4、T6、T7およびT8である。GA3もまた、Wu, X. et al. (2004) Biochem. Biophys. Res. Commun. 315:1004-1010に記載されているTie2結合ペプチドである。
【0058】
一実施形態では、nは、約40~約70、または約48~約65、または約55の整数である。
【0059】
別の実施形態では、Xは、独立してまたは同時に、(C~C10)-アルキレンまたは(C~C10)-アルケニレンである。別の実施形態では、Xは、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンまたは(C~C)-アルケニレンである。別の実施形態では、Xは、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンである。別の実施形態では、Xは、メチレン(-CH-)である。別の実施形態では、必要に応じた置換基は、ハロまたは(C~C)-アルキルまたはCHのうち1種または複数である。
【0060】
別の実施形態では、Yは、独立してまたは同時に、(C~C10)-アルキレンまたは(C~C10)-アルケニレンである。別の実施形態では、Yは、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンまたは(C~C)-アルケニレンである。別の実施形態では、Yは、独立してまたは同時に、(C~C)-アルキレンである。別の実施形態では、Yは、エチレン(-CHCH-)である。別の実施形態では、Yは、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプトヘキサン酸、8-メルカプトオクタン酸(Mercaptooctanic acid)、11-メルカプトウンデカン酸、12-メルカプトドデカン酸または16-メルカプトヘキサデカン酸に由来する。
【0061】
一実施形態では、式(I)の化合物は、
【化6】
(式中、
nは、約50~60の間または約55の整数であり、
Rは、His-His-His-Arg-His-Ser-Phe(配列番号1)である)
またはその薬学的に許容される塩である。
【0062】
別の実施形態では、薬学的に許容される塩は、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩またはHCl塩形態等、酸付加塩である。別の実施形態では、式(I)の化合物は、酢酸塩または塩酸塩である、塩である。
【0063】
他の実施形態では、本開示はまた、式(I)の化合物の四量体に加えて、二量体および三量体を含む。一実施形態では、本開示は、次式
【化7】
(式中、
Wは、独立してもしくは同時に、ヒドロキシ置換された(C~C20)-アルキルもしくはヒドロキシ置換された(C~C20)-アルケニルであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールもしくは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種もしくは複数に必要に応じて置換されているか、または
Wは、X-S-Y-C(O)-R、
(式中、n、X、YおよびRは、上に定義される通りである)である)
を有する二量体、三量体および四量体化合物を含む。
【0064】
一実施形態では、Wは、ヒドロキシ置換された(C~C10)-アルキルまたはヒドロキシ置換された(C~C10)-アルケニルである。別の実施形態では、Wは、ヒドロキシ置換された(C~C)-アルキルまたはヒドロキシ置換された(C~C)-アルケニルである。別の実施形態では、Wは、-CH-OHである。
【0065】
一実施形態では、二量体は、次の構造
【化8】
(式中、Wは、独立してまたは同時に、ヒドロキシ置換された(C~C20)-アルキルまたはヒドロキシ置換された(C~C20)-アルケニルであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
n、X、YおよびRは、上に定義される通りである)
を有する。
【0066】
別の実施形態では、三量体は、次の構造
【化9】
(式中、Wは、独立してまたは同時に、ヒドロキシ置換された(C~C20)-アルキルまたはヒドロキシ置換された(C~C20)-アルケニルであり、これらはそれぞれ、ハロ、アミノ、ヒドロキシ、(C~C)-アルキル、(C~C)-アルコキシ、(C~C10)-アリールまたは(C~C10)-ヘテロアリールのうち1種または複数に必要に応じて置換されており、
n、X、YおよびRは、上に定義される通りである)
を有する。
【0067】
別の実施形態では、四量体が、式(I)の化合物である。
【0068】
ある実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、Tie2アゴニスト活性を示す。このTie2アゴニスト活性は、当技術分野で十分に確立されているTie2活性化の指標を使用して検出することができる。例えば、本明細書に開示されている化合物は、Tie2リン酸化(例えば、ヒトTie2のアミノ酸残基Y992等のチロシン残基におけるリン酸化)を刺激することができる。
【0069】
したがって、ある実施形態では、化合物は、Tie2リン酸化を刺激する。
【0070】
さらに、本明細書に開示されている化合物は、MAPK、AKT(例えば、ヒトAKTのアミノ酸残基S473におけるリン酸化)および/またはeNOS(例えば、eNOSのアミノ酸残基S1177におけるリン酸化)のリン酸化等、Tie2の下流シグナル伝達経路における分子のリン酸化を刺激することができる。特定のタンパク質のリン酸化を刺激する化合物の能力は、化合物で処置された細胞ライセートのイムノブロットアッセイ等、当技術分野で周知の標準技法を使用して決定することができる。
【0071】
したがって、ある実施形態では、化合物は、MAPK、AKTおよびeNOSのリン酸化を刺激する。
【0072】
別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、内皮細胞に対する実証可能な効果を有する。例えば、本明細書に開示されている化合物は、内皮細胞遊走の刺激、内皮細胞からのMMP2放出および血清除去誘導性アポトーシスからの内皮細胞の保護の刺激からなる群より選択される、内皮細胞に対する少なくとも1種の効果を有することができる。必要に応じて、本明細書に開示されている化合物は、内皮細胞に対するこれらの効果のうち少なくとも2種を有する、または内皮細胞に対するこれらの効果のうち全3種を有する。内皮細胞に対するこれらの効果のうちいずれかを有する化合物の能力は、細胞遊走を評価するためのボイデン(Boyden)チャンバーアッセイ、MMP2放出を評価するためのザイモグラフィアッセイ、または血清除去誘導性アポトーシスを評価するための細胞死ELISAアッセイ等、当技術分野で公知のアッセイを使用して決定することができる。
【0073】
したがって、ある実施形態では、化合物は、内皮細胞遊走を刺激する;内皮細胞からのMMP2放出および/または血清除去誘導性アポトーシスからの内皮細胞の保護を刺激する。
【0074】
一実施形態では、本明細書に開示されている化合物におけるPEG分子の数は、必要に応じて、約21,500ダルトン未満の分子量、約8,000ダルトン~約21,500ダルトンの分子量範囲、約12,500ダルトン、約15,500ダルトンまたは約14,000ダルトンの分子量をもたらす数である。
【0075】
本明細書に開示されている化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物もまた、本明細書に提供される。
【0076】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理的に適合性である、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、ならびにその他を含む。必要に応じて、担体は、局所的投与に、または静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄もしくは上皮投与に適する(例えば、注射または注入による)。投与経路に応じて、活性化合物は、化合物を不活性化し得る酸および他の天然条件の作用から化合物を保護するための材料中にコーティングされ得る。
【0077】
薬学的に許容される担体は、所望の投与経路に適するように選択することができる。例えば、一実施形態では、薬学的に許容される担体は、局所的投与に適する。局所的投与に適した担体の非限定的な例は、IntraSite Gel(Smith&Nephewから市販)である。別の実施形態では、薬学的に許容される担体は、全身性投与に適する。全身性(例えば、静脈内)投与に適した担体の非限定的な例は、リン酸緩衝食塩水(PBS)である。
【0078】
さらに別の実施形態では、薬学的に許容される担体は、鼻腔内投与に適する。さらに別の実施形態では、薬学的に許容される担体は、吸入に適する。さらなる実施形態では、薬学的に許容される担体は、灌流液の構成成分として適する。
【0079】
医薬組成物は、1種または複数の薬学的に許容される塩を含むことができる。「薬学的に許容される塩」は、元の化合物の所望の生物活性を保持し、いかなる望ましくない毒性学的効果も付与しない塩を指す(例えば、Berge, S. M. et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19を参照)。斯かる塩の例は、酸付加塩および塩基付加塩を含む。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸およびその他等の無毒性無機酸に、ならびに脂肪族モノおよびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸(alkanoic acid)、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸、およびその他(酢酸等)等の無毒性有機酸に由来する塩を含む。塩基付加塩は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムおよびその他等のアルカリ土類金属に、ならびにN,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインおよびその他等の無毒性有機アミンに由来する塩を含む。
【0080】
医薬組成物は、薬学的に許容される抗酸化剤を含むこともできる。薬学的に許容される抗酸化剤の例は、(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムおよびその他等の水溶性抗酸化剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールおよびその他等の油溶性抗酸化剤;ならびに(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸およびその他等の金属キレート剤を含む。
【0081】
医薬組成物において用いることができる、適した水性および非水性担体の例は、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびその他等)およびこれらの適した混合物、オリーブ油等の植物油、ならびにオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルを含む。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティング材料の使用によって、分散物の場合は要求される粒径の維持によって、および界面活性物質の使用によって維持することができる。
【0082】
これらの組成物は、例えば、保存料、湿潤剤、乳化剤および/または分散剤を含有することもできる。微生物の存在の予防は、滅菌手順、ならびに様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸およびその他の包含の両方によって確実にすることができる。組成物中に糖、塩化ナトリウムおよびその他等の等張剤を含むことが望ましい場合もある。加えて、注射可能な薬学的形態の延長された吸収が、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン等、吸収を遅延させる作用物質の包含によってもたらされ得る。
【0083】
治療組成物は典型的に、無菌であり、製造および貯蔵条件下で安定していなければならない。無菌の注射可能な溶液は、要求に応じて、上に列挙されている成分のうち1種または組合せと共に、妥当な溶媒中に要求される量で活性化合物を組み込み、続いて、滅菌精密濾過することにより調製することができる。組成物は、高い薬物濃度に適した、溶液、マイクロエマルション、リポソームまたは他の規則正しい構造物として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールおよびその他)およびこれらの適した混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散物の場合は要求される粒径の維持によって、および界面活性物質の使用によって維持することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール、または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。
【0084】
担体材料と組み合わせて単一の剤形を産生することができる活性成分の量は、処置されている被験体および特定の投与のモードに応じて変動するであろう。担体材料と組み合わせて単一の剤形を産生することができる活性成分の量は、一般に、治療効果を産生する組成物の量となるであろう。一般に、100パーセントのうち、この量は、薬学的に許容される担体と組み合わせた、約0.01パーセント~約99パーセントの活性成分、好ましくは、約0.1パーセント~約70パーセント、最も好ましくは、約1パーセント~約30パーセントの活性成分の範囲に及ぶであろう。
【0085】
投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療応答)をもたらすように調整される。例えば、単一のボーラスを投与することができる、いくつかの分割用量を経時的に投与することができる、または用量は、治療状況の緊急事態によって指し示される通りに比例的に低下もしくは増加させることができる。非経口組成物は、投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、投薬単位形態で製剤化することができる。投薬単位形態は、本明細書で使用される場合、処置されるべき被験体のための単位投薬量として適した物理的に別々の単位を指す;各単位は、要求される薬学的担体に関連した所望の治療効果を産生するように計算された所定の量の活性化合物を含有する。投薬単位形態のための仕様は、(a)活性化合物の特有の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b)個体における感受性の処置のための斯かる活性化合物の配合の技術分野に固有の限界によって指示され、これらに直接的に依存する。
【0086】
本明細書に開示されている化合物の全身性投与のため、投薬量は、典型的に、約0.00001~100mg/kg、より通常は、0.1~100μg/kg(宿主体重)の範囲に及ぶ。例えば、投薬量は、0.1μg/kg、0.5μg/kg、5μg/kg、10μg/kg、30μg/kg体重、0.1mg/kg体重、0.3mg/kg体重、0.5mg/kg体重または1mg/kg体重であり得る。局所的投与のため、例示的な投薬量濃度は、約1ng/ml~約10ng/mlである。
【0087】
医薬組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、患者にとって毒性がない、特定の患者、組成物および投与のモードのための所望の治療応答の達成に有効である活性成分の量を得るように変動され得る。選択された投薬量レベルは、用いられる特定の組成物またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、用いられている特定の化合物の排泄速度、処置の持続時間、用いられる特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置されている患者の年齢、性別、体重、状態、全般的な健康状態および以前の病歴、ならびに医療分野で周知の同様の因子を含む、種々の薬物動態因子に依存するであろう。当業者であれば、被験体のサイズ、被験体の症状の重症度、および選択された特定の組成物または投与経路等の因子に基づき斯かる量を決定することができるであろう。
【0088】
作製方法
本明細書に開示されている式(I)の化合物を作製する方法であって、
(i)T7ペプチド(配列番号1)、GA3ペプチド(配列番号2)、T4ペプチド(配列番号3)、T6ペプチド(配列番号4)および/もしくはT8ペプチド(配列番号5)またはそれらのレトロインベルソペプチドであるペプチドを、式(II)のチオール化合物
【化10】
と反応させて、式(III)の化合物
【化11】
またはその塩を得るステップと、
(ii)式(III)の化合物を、式(IV)のPEG-四量体
【化12】
と反応させて、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩を得るステップと
を含み、変数n、XおよびYが、上に定義される通りであり、LGが、適した脱離基であり、PGが、Hまたは適した保護基である、方法もまた、本明細書に提供される。
【0089】
一実施形態では、適した脱離基は、ハロ、トシレートまたはメシレートである。さらなる実施形態では、脱離基は、ブロモである。
【0090】
一実施形態では、適した保護基は、トリチルである。
【0091】
一実施形態では、式(III)の化合物は、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩または塩酸塩等、酸付加塩である。
【0092】
一部の実施形態では、ペプチド(R)は先ず、ポリスチレン樹脂に結合される。別の実施形態では、次に、ポリスチレン樹脂に結合されたペプチドは、式(II)のチオール化合物と反応させられる。さらなる実施形態では、式(III)の化合物は、ポリスチレン樹脂に結合され、これは、式(IV)の化合物と反応させられる前に切断される。
【0093】
一実施形態では、式(III)の化合物および式(IV)の化合物の間の反応は、約5~約8の間または約6~約8の間または約6~約7の間、または6.5のpHで遂行される。
【0094】
他の実施形態では、式(III)のチオール化合物は、上に記載されており、不飽和部分をさらに含有する、四量体PEG分子とのマイケル付加反応における求核剤として使用される。例えば、式(III)の化合物は、
【化13】
(式中、
Tは、アクリレート部分またはビニルスルホン部分等、不飽和部分である)
等の四量体PEG分子と反応させられる。
【0095】
別の実施形態では、アクリレート部分は、
【化14】
である。
【0096】
別の実施形態では、ビニルスルホン部分は、
【化15】
である。
【0097】
一実施形態では、式(III)の化合物におけるチオール部分は、マイケル付加反応における求核剤として作用して、
【化16】
または
【化17】
(式中、RおよびYは、上に定義される通りである)
等、本開示の追加的な化合物を形成する。
【0098】
方法および使用
血管新生のTie2活性化および刺激
【0099】
別の態様は、本明細書に開示されている化合物を使用する方法および本明細書に開示されている化合物の使用に関係する。本明細書に検討される通り、本明細書に開示されている化合物を使用して、in vitroまたはin vivoのいずれかで、Tie2受容体を活性化することができる。よって、ある実施形態では、Tie2受容体を活性化する方法であって、Tie2受容体が活性化されるように、Tie2受容体を本明細書に開示されている化合物と接触させるステップを含む方法が提供される。Tie2受容体を活性化するための、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。Tie2受容体を活性化するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用がさらに提供される。Tie2受容体の活性化における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらになお提供される。
【0100】
Tie2受容体の活性化は、様々なin vitroおよびin vivoアッセイを含むがこれらに限定されない、当技術分野で十分に確立されているTie2活性化の多数の可能な指標のいずれかによって証明することができる。一実施形態では、例えば、Tie2受容体の活性化は、Tie2受容体のチロシン残基、例えば、ヒトTie2のチロシン992(Y992)のリン酸化によって証明される。別の実施形態では、例えば、Tie2受容体の活性化は、MAPK、AKTまたはeNOSのリン酸化によって証明される。
【0101】
本明細書に開示されている化合物は、血管新生活性を有することが示されたバスキュロチドよりも、増加した応答規模およびより広い用量範囲を有することが示されたため(例えば、図3A、B、4A、B、5A~Cおよび8Aを参照)、被験体における血管新生を刺激する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法もまた提供される。それを必要とする被験体における血管新生を刺激するための、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする被験体における血管新生を刺激するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用がさらに提供される。それを必要とする被験体における血管新生の刺激における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらになお提供される。
【0102】
ある実施形態では、化合物によって刺激された血管新生は、次の特性のうち少なくとも1種によって特徴付けされる:
a)血管周囲支持細胞の動員;
b)漏出性である筈の血管が漏出し難いこと;
c)十分に規定された枝分かれ;および
d)内皮細胞アポトーシスの阻害。
【0103】
血管周囲支持細胞の動員は、平滑筋細胞のマーカーの検出によって、例えば、平滑筋アクチン1(Sma1)、NG2またはデスミンに対する抗体による免疫染色によって実証することができる。血管が漏出し難いことは、in vitroおよび/またはin vivoアッセイを含む、当技術分野で確立されている血管透過性アッセイを使用して評価することができる。in vivo血管透過性アッセイの非限定的な例は、エバンスブルーまたはFITCアルブミンのいずれかを使用したマイルズ(Miles)アッセイである。本明細書で使用される場合、血管の透過性の程度が、その成長がVEGF処置またはセロトニンもしくはヒスタミン等の他の血管炎症性メディエーターによる処置によって刺激された血管の透過性の程度に満たない場合、血管は、「非漏出性」と考慮されるべきである。十分に規定された枝分かれは、例えば、新たに形成された血管のイメージング、ならびに特定の画像視野における血管の数および結節の数の定量化によって実証することができる。十分に規定された枝分かれは、例えば、血管の数の結節の数に対する比が1.0:0.5、必要に応じて1.0:0.7またはさらには1.0:1.0である血管新生等、有意なかつ組織化された血管分枝によって指し示される。さらに、新生血管の流動力学は、マイクロドプラ超音波を使用して評価することができる。
【0104】
血管新生を刺激するための方法において、部位は、本明細書に開示されている化合物単独と接触され得る、またはその代わりに、部位は、1種または複数の追加的な血管新生剤と接触され得る。よって、別の実施形態では、血管新生方法は、被験体における部位を、第2の血管新生剤と接触させるステップをさらに含む。本明細書に開示されている化合物と組み合わせて使用され得る追加的な血管新生剤の非限定的な例は、VEGF、PDGF、G-CSF、組換えヒトエリスロポエチン、bFGFおよび胎盤増殖因子(PLGF)を含む。したがって、一実施形態では、第2の血管新生剤は、VEGFである。別の実施形態では、第2の血管新生剤は、PDGF、G-CSF、組換えヒトエリスロポエチン、bFGF、Ang2阻害剤および胎盤増殖因子(PLGF)からなる群より選択される。
【0105】
血管新生を刺激する本明細書に開示されている化合物の能力を考慮すると、本明細書に開示されている化合物は、血管新生の促進が望ましい種々の臨床状況において使用することができる。斯かる徴候の非限定的な例は、再生組織の血管新生、虚血性肢疾患(ischemic limb disease)、脳虚血、動脈硬化症を含む血管炎症の状態、虚血壊死、発毛の刺激、および勃起機能不全を含む。
【0106】
漏出性血管の部位における血管透過性を減少させる方法であって、それを必要とする被験体における部位に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法もまた、本明細書に提供される。それを必要とする被験体における漏出性血管の部位における血管透過性を減少させるための、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする被験体における漏出性血管の部位における血管透過性を減少させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用がさらに提供される。それを必要とする被験体における漏出性血管の部位における血管透過性の減少における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらになお提供される。
【0107】
ある実施形態では、被験体は、脳卒中、黄斑変性症、黄斑浮腫、リンパ浮腫、血液網膜関門の崩壊、血液脳関門の崩壊、細菌誘導性血管漏出、ウイルス誘導性血管漏出を有するもしくはこれを有した、または腫瘍血管構造の正常化を必要とする。
【0108】
バスキュロチドは、例えば、内皮細胞のアポトーシスを阻害することにより、内皮細胞において保護的効果を有することが以前に示された。腎血管構造における内皮細胞を保護するTie2アゴニストの能力は、実験モデルにおける腎線維症を好転させることが報告された(Kim, W. et al. (2006) J. Am. Soc. Nephrol. 17:2474-2483)。本明細書において、MPA-Brは、HUVEC、HMVECにおいてならびに初代ラット、イヌおよびカニクイザル内皮細胞においてTie2リン酸化を誘導することが示された。さらに最近、VTは、Thamm K et al 2016によって、移植後の急性腎臓傷害を好転させることが示された(マウスにおいて)。これは、VTを受けているマウスにおける移植関連の腎臓線維症の低下と解釈された。Rubig E et al, 2016は、VTが、虚血再灌流後の急性腎臓傷害の程度を低下させたことを示した。傷害の低下は、生存増加、傷害された腎臓内の血流改善および血管漏出低下を特徴とした。
【0109】
したがって、内皮細胞を保護する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。それを必要とする被験体における内皮細胞を保護するための、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする被験体における内皮細胞を保護するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用がさらに提供される。それを必要とする被験体における内皮細胞を保護するための、本明細書に開示されている化合物がさらになお提供される。
【0110】
斯かる方法または使用は、種々の臨床状況において使用することができ、その非限定的な例は、肺傷害、腎臓傷害、腎臓線維症、脳卒中、血管性認知症、黄斑変性症および糖尿病性合併症(例えば、腎臓、眼、皮膚および/または肢における)を含む。
【0111】
好酸球および/または好塩基球に関連する状態
MPA-Brは、CFU-G細胞の増大を阻害することが以前に示されたバスキュロチドよりも改善された標的結合および薬物動態を有する化合物である。
【0112】
したがって、CFU-G細胞の増大を阻害する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本開示はまた、それを必要とする動物または細胞におけるCFU-G細胞の増大を阻害するための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。それを必要とする動物または細胞におけるCFU-G細胞の増大を阻害するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする動物または細胞におけるCFU-G細胞の増大の阻害における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0113】
用語「CFU-G」は、本明細書で使用される場合、好酸球、好塩基球および好中球等の顆粒球を産生する血液形成細胞の一型である、コロニー形成単位-顆粒球細胞を指す。「増大の阻害」は、本明細書で使用される場合、無処置対照と比較した、顆粒球コロニー形成細胞の数の、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%またはそれよりも多い減少を指す。
【0114】
MPA-Brは、T細胞、B細胞、単球または好中球のより一般的な免疫抑制なしで、循環する好酸球および好塩基球において、アトピー性疾患の低下をもたらすことが以前に示されたバスキュロチドよりも改善された結合および薬物動態を有する化合物である。したがって、本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球を低下させる方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球を低下させるための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球を低下させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球の低下における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0115】
語句「好酸球および/または好塩基球を低下させる」は、本明細書で使用される場合、対照と比較して少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%または80%少ない好酸球および/または好塩基球が循環している、循環する好酸球および/または好塩基球の数の低下を指す。さらに、好塩基球の低下は、マスト細胞の低下をもたらし、よって、好塩基球の低下は、マスト細胞の低下を含む。
【0116】
好酸球および好塩基球は、アレルギー性応答に関係付けられる。さらに、MPA-Brは、皮膚ヒスタミン曝露後の血管漏出を減弱することが本明細書において示された。
【0117】
用語「処置または処置すること」は、本明細書で使用される場合、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能であるか検出不能であるかにかかわらず、1種または複数の症状または状態の軽減または好転、疾患の程度の縮小、疾患の安定化された(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡散を予防すること、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の好転または緩和、および寛解(部分的であるか完全であるかにかかわらず)を含むことができるがこれらに限定されない。
【0118】
別の実施形態では、本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球に関連する状態を処置する方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球に関連する状態を処置するための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球に関連する状態を処置するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする動物または細胞における好酸球および/または好塩基球に関連する状態の処置における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。一実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、骨髄異形成症候群である。別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性好酸球性白血病、急性好酸球性白血病、好酸球増加症を伴う慢性骨髄単球性白血病、および急性好塩基球性白血病等、好酸球および/または好塩基球起源の白血病である。別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、炎症性腸疾患である。さらに別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、寄生生物感染症である。さらに別の実施形態では、好酸球および/または好塩基球に関連する状態は、特発性好酸球増多症候群(HES)である。
【0119】
本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルを低下させる方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、それを必要とする動物または細胞における炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルを低下させるための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。それを必要とする動物または細胞における炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルを低下させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする動物または細胞における炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルの低下における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。一実施形態では、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルは、血清炎症性サイトカインおよび/またはケモカインレベルである。一実施形態では、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインは、エオタキシン、IL-17、MIG、IL12/IL23(p40)、IL-9、MIP-1a、MIP-1b、RANTES、TNF-α、IL-1β、IL-5、IL-13およびMCP-1、IL-2、IL-6、IL-7、顆粒球コロニー刺激因子、IFガンマ誘導性タンパク質10、単球走化性タンパク質-1、マクロファージ炎症性タンパク質1-αおよびエオタキシンのうち少なくとも1種を含む。さらに別の実施形態では、炎症性サイトカインおよび/またはケモカインは、エオタキシンを含む。斯かる方法および使用は、COVID 19、SARSおよびMERS感染症ならびに関連ARDS等、コロナウイルス感染症を含む、増加した炎症性サイトカインおよび/またはケモカインに関連する疾患および状態の処置における治療適用を有する。
【0120】
ある実施形態では、方法および使用は、本明細書に開示されている化合物と組み合わせた免疫調節物質またはコルチコステロイドの投与または使用をさらに含む。
【0121】
インフルエンザおよびコロナウイルス感染症
MPA-Brは、バスキュロチドと同様に、インフルエンザのマウスモデルにおける罹患率および死亡率を改善することが示されたが、より低い投薬量で有効である。
【0122】
したがって、インフルエンザまたはコロナウイルス、例えば、COVID19、SARSおよびMERSに感染した被験体を処置する方法であって、それを必要とする被験体に本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。インフルエンザまたはコロナウイルス、例えば、SARSおよびMERS COVID 19に感染した被験体を処置するための、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。インフルエンザに感染した被験体を処置するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用がさらに提供される。インフルエンザまたはコロナウイルス、例えば、COVID 19、SARSおよびMERSおよびコロナウイルス関連ARDSに感染した被験体の処置における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらになお提供される。
【0123】
本開示はまた、COVID 19、SARSおよびMERSならびにその関連ARDS等のインフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における肺内皮漏出を減少させる方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、COVD 19およびその関連ARDSおよびその関連ARDS等のインフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における内皮漏出を減少させるための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。インフルエンザに感染した動物または細胞における内皮漏出を減少させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。COVID 19およびその関連ARDS等のインフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における内皮漏出の減少における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0124】
本明細書で使用される場合、コロナウイルスは、プラスセンスRNAゲノムを有するエンベロープウイルスである。本発明によって包含されるコロナウイルスの例は、COVID 19、SARS、C型肝炎およびMERSを含むがこれらに限定されない。
【0125】
本明細書で使用される場合、用語「肺内皮漏出」は、肺微小血管内皮の関門完全性の損失または増加した透過性を指す。用語「肺内皮漏出を減少させる」は、本明細書に記載されている方法および使用によって処置されていない対照と比較して、少なくとも5、10、15、25、50、75または100%の肺内皮漏出の減少を指す。一実施形態では、肺内皮漏出は、経内皮電気抵抗(TEER)、またはデキストラン等のフルオレセインをタグ付けされた化合物の蛍光によって測定される。用語「肺内皮漏出を減少させる」はまた、本明細書に記載されている方法および使用によって処置されていない対照と比較して、少なくとも5、10、15、25、50、75または100%の肺微小血管内皮の透過性の増加を指す。
【0126】
インフルエンザおよびコロナウイルスによる低用量感染は、その後の細菌への曝露の際に、肺内皮を漏出増加させ易くし、これは、プライミングとして公知の現象であり、バスキュロチドが、このプライミング誘導性漏出を抑止することができることが以前に示された。Tie2受容体の改善された結合を有し、インフルエンザおよびコロナウイルスのマウスモデルにおいて要求される投薬量を低下させる、MPA-Brは、同じまたはより低い投薬量で同様のまたは改善された活性をもたらすことが予想される。
【0127】
したがって、本開示はまた、それを必要とする動物または細胞におけるインフルエンザおよびコロナウイルスに関連する細菌重感染を処置する方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、それを必要とする動物または細胞におけるインフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を処置するための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。それを必要とする動物または細胞におけるインフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を処置するための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。それを必要とする動物または細胞におけるインフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染の処置における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0128】
本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させる方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させるための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における生存の増加および/または死亡率の減少における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0129】
本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における肺内皮漏出を減少させる方法であって、本明細書に開示されている化合物を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における肺内皮漏出を減少させるための、本明細書に開示されている化合物の使用を提供する。インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における肺内皮漏出を減少させるための医薬の調製における、本明細書に開示されている化合物の使用もまた提供される。インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞における肺内皮漏出の減少における使用のための、本明細書に開示されている化合物がさらに提供される。
【0130】
本明細書で使用される場合、用語「細菌重感染」は、低用量インフルエンザ感染またはコロナウイルス感染を含む原発性インフルエンザ感染に続発して、または典型的には、その後に生じる細菌感染を指す。細菌重感染は、インフルエンザまたはコロナウイルス感染と同時にまたはその後に起こる肺炎として定義することもできる。一実施形態では、細菌重感染の原因となる細菌は、Staphylococcus aureus(S.aureus)またはStaphylococcus pneumonia(S.pneumonia)等、グラム陽性細菌である。理論によって制約されないが、インフルエンザおよびコロナウイルス感染は、肺内皮をプライミングし、続発性細菌感染が起きた場合に、漏出に対するその感受性をより高くすると考えられる。結果として、細菌重感染は、他の点では日常的なインフルエンザおよびコロナウイルスによる感染の後に、重症肺傷害を引き起こし得る。
【0131】
本明細書で使用される場合、表現「インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染」は、一実施形態では、インフルエンザまたはコロナウイルス感染と同時期にまたはそれと同時に起こる細菌重感染を指す。別の実施形態では、表現「インフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染」は、インフルエンザまたはコロナウイルス感染に続いてまたはその後に起こる細菌重感染を指す。
【0132】
抗ウイルス剤による現在の処置は、感染の開始初期と処置との間で時間が経過するのでそれほど有効ではなく、このことは、患者が、必ずしも症状が生じた直後に処置を受けるとは限らないため問題になる。抗ウイルス処置の減退する有効性とは対照的に、バスキュロチドは、遅延された様式で与えた場合であっても有効であることが以前に実証されており、MPA-Brもまた、投与が感染後48時間遅延された場合に有効性を示した。
【0133】
したがって、ある実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、感染の約24時間後または少なくとも24時間後に使用または投与される。別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、感染の約48時間後または少なくとも48時間後に使用または投与される。さらに別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、感染の約72時間後または少なくとも72時間後に使用または投与される。
【0134】
バスキュロチドによる処置はまた、インフルエンザによる原発性ウイルス肺炎および急性肺傷害のマウスモデルにおいて、抗ウイルス処置の有効性を低下させず、生存を増加させることが以前に示された。MPA-Brが、同じまたはより低い投薬量で、同様のまたは改善された活性を有することが予想される。したがって、本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞を処置する方法であって、それを必要とする動物または細胞に(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞を処置するための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用を提供する。インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞を処置するための医薬の調製における、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用もまた提供される。インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞の処置における使用のための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤がさらに提供される。
【0135】
本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させる方法であって、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させるための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用を提供する。インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における生存を増加させるおよび/または死亡率を減少させるための医薬の調製における、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用もまた提供される。インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における生存の増加および/または死亡率の減少における使用のための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤がさらに提供される。
【0136】
本開示はまた、インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における肺内皮漏出を減少させる方法であって、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤を投与するステップを含む方法を提供する。本開示はまた、インフルエンザに感染した動物または細胞における肺内皮漏出を減少させるための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用を提供する。インフルエンザに感染した動物または細胞における肺内皮漏出を減少させるための医薬の調製における、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤の使用もまた提供される。インフルエンザまたはコロナウイルスに感染した動物または細胞における肺内皮漏出の減少における使用のための、(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤がさらに提供される。
【0137】
用語「抗ウイルス剤」は、本明細書で使用される場合、インフルエンザウイルスによる感染症等のウイルス感染症の処置に使用される薬物を指す。一実施形態では、抗ウイルス剤は、繁殖するウイルスの能力を抑制する薬剤である。抗ウイルス剤の例は、アマンタジン、リマンタジン、ザナミビル、ペラミビル、ビラミジン、レムデシビル、リバビリンおよびオセルタミビル(Tamiflu(登録商標)としても公知)、リトナビル、ロピナビル(lopinovir)および別の抗ウイルスヌクレオシドまたはヌクレオチドアナログを含むがこれらに限定されない。
【0138】
用語「処置または処置すること」は、本明細書で使用される場合、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るためのアプローチを意味する。有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能であるか検出不能であるかにかかわらず、1種または複数の症状または状態の軽減または好転、疾患の程度の縮小、疾患の安定化された(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡散を予防すること、疾患進行の遅延または減速、疾患状態の好転または緩和、および寛解(部分的であるか完全であるかにかかわらず)を含むことができるがこれらに限定されない。本明細書で使用される場合、用語「処置または処置すること」は、インフルエンザまたはコロナウイルスによるウイルス感染症に続発する細菌重感染を予防することまたは遅滞させることも含む。インフルエンザおよびコロナウイルス処置の有益な結果の例は、生存を増加させること、死亡率を減少させること、肺内皮漏出を減少させること、体重減少を減少させること、および/または低体温症を予防すること、および動脈血酸素化(arterial oxygenation)を改善することを含む。
【0139】
用語「生存を増加させる」は、本明細書で使用される場合、インフルエンザもしくはコロナウイルスによる感染および/またはこれらのウイルスに関連する細菌重感染後に動物が生存する時間の長さを増加させることを意味する。一実施形態では、用語「生存を増加させる」は、本明細書に記載されている方法および使用で処置されていない動物と比較して、これらのウイルスによる感染後に動物が生存する時間の長さの少なくとも5、10、25、50、75、100、200%増加を指す。
【0140】
用語「死亡率を減少させる」は、本明細書で使用される場合、本明細書に記載されている方法および使用で処置されていない動物と比較したときに、インフルエンザもしくはコロナウイルスおよび/またはインフルエンザもしくはコロナウイルスに関連する細菌重感染を有する動物または細胞の死亡率を減少させることを意味する。一実施形態では、死亡率は、本明細書に記載されている方法および使用で処置されていない動物と比較したときに、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95%減少する。
【0141】
用語「投与すること」は、in vitroまたはin vivoでの動物または細胞への本明細書に記載されている薬剤の投与を含む。
【0142】
用語「被験体」または「動物」は、本明細書で使用される場合、ヒトを含む動物界の全メンバーを含む。
【0143】
用語「細胞」は、単一の細胞と共に複数の細胞または細胞の集団を含む。細胞に投与することは、in vitro(またはex vivo)と共にin vivoで投与することを含む。
【0144】
本明細書に開示されている化合物は、局所的、全身性、経口、鼻腔内または吸入を含むいずれか適した方法によって投与することができる。
【0145】
抗ウイルス剤もまた、局所的、全身性、経口、鼻腔内または吸入を限定することなく含む、いずれか適した様式で投与することができる。
【0146】
本明細書に開示されている化合物および抗ウイルス剤は、同時発生的に(同時期に)投与することができる。別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物および抗ウイルス剤は、逐次的に投与することができる。本明細書に開示されている化合物は、抗ウイルス剤の前に投与することができる、または抗ウイルス剤は、本明細書に開示されている化合物の前に投与することができる。ある実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、抗ウイルス剤の約24時間後または少なくとも24時間後に使用または投与される。別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、抗ウイルス剤の約48時間後または少なくとも48時間後に使用または投与される。さらに別の実施形態では、本明細書に開示されている化合物は、抗ウイルス剤の約72時間後または少なくとも72時間後に使用または投与される。
【0147】
本明細書に記載されている薬剤の「有効量」の投与は、所望の結果の達成に必要な投薬量および期間で有効な量として定義される。本明細書に開示されている化合物の有効量は、動物の疾患状態、年齢、性別および体重等の因子に従って変動し得る。抗ウイルス剤の有効量も、動物の疾患状態、年齢、性別および体重等の因子に従って変動し得る。
【0148】
投薬レジメンは、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を毎日投与することができる、または用量は、治療状況の緊急事態によって指し示される通りに比例的に低下させることができる。投与のモード(例えば、注射もしくは局所的適用によるin vivo、または培養におけるex vivo)も、投薬レジメンに影響を与えるであろう。
【0149】
本明細書に記載されている方法および使用は、単独での、または本明細書に開示されている化合物を含む医薬組成物の一部としての、本明細書に開示されている化合物の投与または使用を含む。
【0150】
一実施形態では、本明細書における方法および使用における使用のための、本明細書に開示されている化合物を含む医薬組成物は、本明細書に開示されている抗ウイルス剤をさらに含む。必要に応じて、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0151】
斯かる医薬組成物は、病巣内、静脈内、局所的(topical)、直腸、非経口、局所性(local)、吸入(inhalant)、鼻腔内または皮下、皮内、筋肉内、髄腔内、経腹膜、経口および脳内使用のためのものであり得る。組成物は、液体、固体または半固体形態、例えば、丸剤、錠剤、クリーム剤、ゼラチンカプセル剤、カプセル剤、坐剤、軟ゼラチンカプセル剤、ゲル剤、膜、錠剤(tubelet)、液剤または懸濁剤であり得る。組成物は、灌流液の形態であってもよい。
【0152】
医薬組成物は、患者に投与され得る、また、有効量の活性物質が、薬学的に許容されるビヒクルとの混合物中で組み合わされるように、薬学的に許容される組成物の調製のために、それ自体が公知の方法によって調製することができる。適したビヒクルは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences (Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., USA 2003 - 20th Edition)およびThe United States Pharmacopeia: The National Formulary (USP 24 NF19) published in 1999に記載されている。
【0153】
これに基づき、本明細書に記載されている方法および/または使用における使用のための医薬組成物は、排他的ではないものの、1種または複数の薬学的に許容されるビヒクルまたは希釈剤と併せて、そして適したpHを有し生理学的流体と等浸透圧性(iso-osmotic)である緩衝溶液中に含有される活性化合物または物質を含む。医薬組成物はその上、コルチコステロイドおよび免疫モジュレーター等の他の薬剤を含有することができる。
【0154】
(a)本明細書に開示されている化合物および(b)抗ウイルス剤を含む組成物もまた提供される。必要に応じて、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0155】
(a)本明細書に開示されている化合物および(b)本明細書に記載されている抗ウイルス剤を含むキットがさらに提供される。一実施形態では、キットは、容器をさらに含む。別の実施形態では、キットは、それを必要とする動物もしくは細胞におけるインフルエンザもしくはコロナウイルスを処置するため、ならびに/またはインフルエンザもしくはコロナウイルス感染症を有する動物における生存を増加させるおよび/もしくは死亡率を減少させるためのキットの使用についての指示を含有する。他の実施形態では、キットは、それを必要とする動物または細胞におけるインフルエンザまたはコロナウイルスに関連する細菌重感染を処置するためのキットの使用についての指示を含有する。さらなる実施形態では、キットは、インフルエンザまたはコロナウイルスを有する動物における肺内皮漏出を減少させるためのキットの使用についての指示を提供する。
【0156】
キットの本明細書に開示されている化合物および抗ウイルス剤は、必要に応じて、同時発生的なまたは逐次的な使用のためのものである。本明細書に開示されている化合物は、抗ウイルス剤/第2の血管新生剤の前の使用のためのものであり得る、または抗ウイルス剤/第2の血管新生剤は、本明細書に開示されている化合物の前の使用のためのものであり得る。
【0157】
生体材料
本明細書に開示されている化合物を生体材料中に組み込んで、次いでこれを被験体における部位に植え込んで、これにより、当該部位に化合物の効果を提供することもできる。マトリックスまたは足場を提供する生体材料は、使用に適する。化合物を、単独で、またはVEGF、PDGF、G-CSF、組換えヒトエリスロポエチン、bFGFおよび胎盤増殖因子(PLGF)等の1種もしくは複数の追加的な薬剤と組み合わせて組み込むことができる。適した生体材料の非限定的な例は、マトリゲル、皮膚代用物および架橋グリコサミノグリカンハイドロゲルを含む(例えば、Riley, C.M. et al. (2006) J. Biomaterials 27:5935-5943に記載されている通り)。したがって、別の態様は、本明細書に開示されている化合物が単独で、または1種もしくは複数の追加的な薬剤と組み合わせて組み込まれた生体材料組成物に関係する。生体材料を含む包装された材料も包含される。包装された材料は、生体材料の使用のために標識されてよい。
【0158】
上の開示は、本出願について全般的に記載する。次の具体的な実施例を参照することにより、より完全な理解を得ることができる。この実施例は、単に説明目的で記載されており、本出願の範囲の限定が意図されるものではない。状況が、都合がよいと示唆するまたはそのようにすることができるときに、形態の変化および均等物の置換が考慮される。本明細書において特異的な用語が用いられてきたが、斯かる用語は、記述的な意味で意図され、限定を目的としない。
【実施例
【0159】
次の非限定的な実施例は、本開示を説明するものである。
【0160】
(実施例1)
結果
【0161】
トリプトファン蛍光分光法を使用した、均質な種特異的組換え受容体集団への親バスキュロチドおよびMPA-Br結合の検出
【0162】
アミノ酸トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンは、280nmの波長で、特にトリプトファンは295nmで励起された場合に、固有の蛍光特性を呈する。この発光スペクトルは、タンパク質の構造上のコンフォメーションおよびその溶媒に高度に依存する。構造上のコンフォメーションに関して、リガンドのその受容体への結合が原因で起こるスペクトルの変化が、用量依存性結合を特徴付けするための固有のマーカーとして使用された。この目的で、種特異的Tie2Fcタンパク質の固有の蛍光特性、および親バスキュロチドまたはMPA-Brの存在下での発光スペクトルの変化を利用して、結合動態を特徴付けた。
【0163】
組換えヒトTie2Fc受容体およびリガンド親バスキュロチドまたはMPA-Brのインキュベーションにより、固有蛍光強度の用量依存性増加が観察された(図2A、C)。どちらの場合も、蛍光強度は、飽和性であることが見出された。受容体およびリガンド複合体によって生成された蛍光強度から、リガンド単独によって生成された蛍光強度を減算することによって、特異的シグナルを導き出した。一部位特異的結合の非線形回帰を使用して、ヒトTie2Fcへの親バスキュロチドおよびMPA-Brの正規化された特異的結合の結果として生じるKdは、102.9nMおよび2.623nMである(図2B、D)。組換えマウスTie2Fcに対する親バスキュロチドおよびMPA-Brについて、および組換えラットおよびカニクイザルTie2Fcを用いてMPA-Br単独について同一の試験を行った(生データ図示せず)。決定された解離定数(Kd)は、図2Gで詳しく述べる。
【0164】
組換えTie2受容体が、ヒトIgG Fcとの融合タンパク質であることを考慮して、親バスキュロチドまたはMPA-Brに結合する組換えヒトIgG Fcの能力を決定した。重要なことに、蛍光強度の用量依存性増加は、いずれのリガンドに対しても観察されなかった(図2E、F)。
【0165】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、HUVECにおけるTie2およびMAPKリン酸化を誘導する
【0166】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)において親バスキュロチドおよびMPA-BrのTie2活性化潜在力を評価した。変動する用量の両方のリガンドで処置されたHUVECは、Tie2および下流シグナル伝達分子MAPKの活性化の増加を呈した(図3A、B)。一般に、MPA-Brは、親バスキュロチドよりも、より低い濃度で開始する増加した応答規模およびより広い用量範囲を呈した;親バスキュロチドの1000ng/mlにおける単一の有意な応答のみと比較して、10~100ngの用量でTie2を有意に活性化する。親バスキュロチドおよびMPA-Br処置は両者共に、Tie2受容体に対して特徴的な釣鐘状の用量応答を呈した。この型の用量応答は、Tie2リガンドについて以前に注記されており、この受容体チロシンキナーゼの活性化に関連する共通の特色であると思われる(Brkovic A, et al 2007、Sturn DH, et al 2005、Murdoch C, et al 2007、Gruber BL, et al 1995およびMaliba R, et al 2008)。親バスキュロチドまたはMPA-BrのいずれかによるHUVECの刺激は、MAPKの下流活性化をもたらした。Tie2およびMAPK活性化試験のための陽性対照としてヒト組換えAng1を使用した。
【0167】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、HMVECtertにおけるTie2リン酸化を誘導する
【0168】
HUVECに関して上で詳しく述べられている試験と同様のTie2活性化試験を、テロメラーゼにより不死化されているヒト微小血管内皮細胞(真皮起源)(HMVECtert)において完了した。異なる血管床または相対的内径の血管由来の内皮細胞が、異なって挙動することは十分に受け入れられ、そのため、HMVECtertを利用した試験は、異なる起源のヒト内皮細胞における比較を容易にした。指し示される濃度の親バスキュロチドまたはMPA-BrによるHMVECtertの刺激は、Tie2受容体の用量依存性活性化をもたらした(図3A)。この場合もやはり、用量応答は釣鐘状であり、MPA-Brは、0.2ng/ml~10ng/mlの範囲に及ぶ濃度で統計的に有意なアゴニスト活性を呈した。親バスキュロチド刺激後の活性化は、5倍高い濃度で明らかになり、1ng/ml~100ng/mlの範囲に及んだ。Tie2活性化の相対的規模は、親バスキュロチド(ほぼ2.6倍)またはヒト組換えAng1(800ng/ml)のいずれかと比較した場合に、MPA-Br(ほぼ3.3倍)に対してより大きかった。HUVECおよびHMVECtertの両方における、親バスキュロチドと比較した場合のMPA-Brのアゴニスト効力増加は、ヒトTie2受容体に対して呈される改善された結合特性の関数であり得る(図2Gを参照)。
【0169】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、MLMVECにおけるTie2リン酸化を誘導する。
【0170】
本明細書に詳しく述べられているいくつかの前臨床有効性試験は、試験種としてマウスを利用する。したがって、親バスキュロチドおよびMPA-BrのTie2アゴニスト効力を特異的に評価するために、初代マウス肺微小血管内皮細胞(MLMVEC)を使用したin vitro細胞培養系を使用した。親バスキュロチドおよびMPA-Brは、濃度特異的、釣鐘状の用量応答を呈した。Tie2のMPA-Br媒介性活性化は、10ng/ml~5000ng/mlの範囲に及ぶ濃度において明らかであったが、親バスキュロチドは、100ng/ml~5000ng/mlの範囲に及んだ濃度でTie2の活性化を促進した。Tie2の統計的に有意な活性化が、MPA-Brでは、親バスキュロチドの場合の10分の1の濃度で起こったものの、Tie2受容体の誘導の相対的規模は、親バスキュロチドおよびMPA-Brで異ならなかった。
【0171】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、初代ラット、イヌおよびカニクイザル内皮細胞におけるTie2リン酸化を誘導する
【0172】
ラット糸球体内皮細胞、イヌ大動脈内皮細胞およびカニクイザル糸球体内皮細胞の初代細胞培養物を、変動する濃度のMPA-Brで刺激した。全ての場合において、これらの細胞培養アッセイは、Tie2活性化のMPA-Br依存性増加を呈した。用量応答は、ヒトおよびマウス内皮細胞試験で注記される特徴的な釣鐘状に似ており、Tie2受容体リン酸化の統計的に有意な増加は、0.2ng/mlと50ng/mlとの間を中心とした。全ての場合において、ヒト組換えAng1は、ベースラインTie2リン酸化の有意な増加をもたらした(処置なし(NT)と比較して)。
【0173】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、X31(H3N2)インフルエンザへの曝露後に罹患率および死亡率を改善する
【0174】
インフルエンザ(H3N2、64HAU/マウス)に感染したC57Bl/6Jマウスは、体重減少を生じ(図6B、C)、感染5~7日後の間に致死的効果に屈し始めた。100ng/マウス/日で投与された親バスキュロチドの有効性を以前に検査したところ(Sugiyama MG et al, 2015)、X31インフルエンザによるC57Bl/6Jマウスの感染後の生存の増強において無効であることが見出された。親バスキュロチド(500ng、腹腔内に毎日--最適であると以前に規定されている)またはMPA-Br(31.25ngまたは200ng、腹腔内に毎日)の投与は、感染したマウスの全生存を有意に改善した(p<0.001)(図6A)。加えて、親バスキュロチドおよびMPA-Brは、肺酸素化(SpO2)、熱調節および活動性スコアを有意に改善した(図6D~I)。MPA-Brが、親バスキュロチドに対して優越性を呈したいくつかの尺度が存在した。これらの例は、消耗からの保護(6日目、MPA-Br 200ng/日、図6C)および動脈血酸素化(6日目、MPA-Br 200ng/日、図6E)を特に含む。31.25ng/マウス/日で送達されたMPA-Brは、16分の1の用量の低下を表す。全ての試験エンドポイントにおいて、31.25ng/マウス/日で送達されたMPA-Brは、親バスキュロチドに等しいまたはより優れた成績を収めた。これは、親バスキュロチドと比較した用量の2.5分の1への低下を表す、MPA-Br 200ng/マウス/日にも当てはまった。
【0175】
雄スプラーグドーリーラットにおける親バスキュロチドおよびMPA-Brの薬物動態解析
【0176】
指し示される量(ug/kg)の親バスキュロチドおよびMPA-Brを、雄スプラーグドーリーラットへのボーラス注射により静脈内投与した。一連の時限の採血を行い、血漿調製物を、親バスキュロチドまたはMPA-Brを定量化するように特異的に設計された所有権のある酵素結合免疫吸着アッセイに適用した。経時的な試験薬剤の定量化は、分布体積、クリアランスおよび終末半減期を含む薬物動態(PK)尺度の計算を容易にした(図7A、B)。120ug/kg用量は、これらの試験における検出の最大の感度をもたらし、したがって、提示されるPK尺度は、この特定の用量レベルに関係する。親バスキュロチド(図7B)およびMPA-Br(図7A)は、同様の分布体積およびクリアランス速度を呈したが、MPA-Brは、親バスキュロチドよりも著しく長く循環した(t1/2 68分 対 34分)。24時間毎に1回を連続3日間の120ug/kgにおける複数用量(MD)静脈内設定でMPA-Br PKを評価した。この特定の投薬アプローチは、単一の120ug/kg IV用量と異ならず、毎日投与されたときに薬物の蓄積がないことを示唆する。
【0177】
親バスキュロチドおよびMPA-Brは、皮膚ヒスタミン曝露後の血管漏出を減弱する
【0178】
以前の試験は、ヒスタミンへの曝露後の血管漏出誘導の対抗におけるTie2の必須の(obligate)役割を強調した。特に、Tie2の天然のアンタゴニストであるアンジオポエチン2が遺伝的に欠損したマウスは、ヒスタミン負荷後に血管漏出応答を開始することが全くできない(Benest AV et al, Plos One, 2013)。そのため、親バスキュロチドおよびMPA-Br等の、Tie2の特異的アゴニストの投与は、ヒスタミン誘導性血管漏出を阻害すると仮定された。皮膚ヒスタミン負荷の1時間前に予防的用量の親バスキュロチドまたはMPA-Brを与えた雄FVBマウスは、エバンスブルー色素トレーサーの血管外遊出によって評価されたときに、ビヒクル処置マウスよりも有意に少ない血管漏出を呈した(図8A)。重要なことに、500ng/マウスの最適用量で送達された親バスキュロチド処置は、ヒスタミン誘導性血管漏出の低下において、等しい用量のまたは4分の1の(125ng/マウス)MPA-Brよりも劣った成績を収めた。
【0179】
方法および材料:
バスキュロチドアナログMpa-Brをもたらす、3-メルカプトプロピオン酸(Mpa)リンカーを介した四量体Tie2結合ペプチド(T7)の調製
【0180】
概観:Mpa-Brのために実行される製造プロセスは、いくつかのステップを要求した。第1のステージにおいて、FMOC固相ペプチド合成技法を使用して、T7ペプチドおよび3-メルカプトプロピオン酸(mercaptoproprionic acid)(Mpa)生産ペプチド(elaborated peptide)を調製した。これは、N末端に3-メルカプトプロピオニルリンカーを有するT7ペプチドを含むMpa-His-His-His-Arg-His-Ser-Phe-OHをもたらした(配列番号7)。これに続いて、切断および脱保護、RP-HPLC精製および最終産物の凍結乾燥によるフリーズドライによって、TFA塩としてMpa-T7ペプチドを単離した。第2のステージにおいて、(ブロモアセトアミド)-PEG10KとMpa-ペプチドのコンジュゲーションを遂行し、続いて、PEGコンジュゲートの2つのレベルの精製を行った。第1の精製ステップは、Mpa-BrコンジュゲートTFA塩を生じるRP-HPLCクロマトグラフィーを含む。この産物は、凍結乾燥により、このステージで単離することができる、またはTFA対イオンが、TFA塩中間体の単離なしで、イオン交換クロマトグラフィーにより、酢酸塩形態へと直接的に交換される。この初期産物をフリーズドライして、自由に流動する固体としてMpa-Br酢酸塩を単離した。
【0181】
Mpa T7-ペプチド製造
ステップ1:樹脂上でのアセンブリ
【0182】
CS Bioペプチド合成機を使用して、40g樹脂インプットによりWangポリスチレン樹脂(初期官能化1.2mmol/g)上でT7ペプチド配列をアセンブルした。4時間にわたりDMFにおいて8当量のアミノ酸および4当量のDICを使用して、Wang樹脂にFmoc-Phe-OHをローディングした。Fmocローディング検査は、45.4mmolスケール合成に対応する0.8mmol/gローディングが達成されたことを指し示した。全アミノ酸は、DIC/Oxyma化学(3当量、136.2mmol)を使用して単一カップリングされた。0.5M AcO/DMFをキャッピングのために使用し、20%ピペリジン/DMFをFmoc脱保護のために使用した。T7ペプチド配列の完了後に、試行切断を実行し、RP-HPLC解析は、77.5%粗純度で配列がアセンブルに成功したことを指し示した。
【0183】
4時間にわたるDMFにおける3当量のDIC/Oxymaの存在下で3当量のTrt-Mpa-OHを使用して、樹脂結合T7ペプチドへのMpa(Sigma-Aldrich、USA)のカップリングを実行した。樹脂を洗浄し(DMF、MeOHおよびMTBE)、真空デシケーター内で一晩乾燥させた後に、89.1%の合成収率に対応する、124.5gの最終樹脂を得た(84.5g重量増加)。試行切断解析は、78.5%の粗純度でMpa-T7ペプチドが形成されたことを指し示した。ESI-MS解析は、Mpaペプチドが形成されたことを確認した(観察されたMS=1044.4)。
【0184】
ステップ2:切断および脱保護
【0185】
樹脂結合Mpa-T7ペプチドを、TFA/TIS/水/EDT(92.5:2.5:2.5:2.5)を含む切断溶液で3時間処理した。ペプチドを貧溶媒(anti-solvent)(iPrO)で沈殿させ、ペプチドを濾過によって単離して、粗生成物を生じた。樹脂結合Mpa-T7ペプチドを切断して、全体で38%回収および91.8%収率に対応する、31.5g粗ペプチドを生じた。粗生成物のRP-HPLC解析は、粗純度が70.5%であることを指し示した。
【0186】
ステップ3:精製
【0187】
粗Mpa-T7ペプチド(24g)を緩衝液A(15mM TEAP)に希釈し、5~10%緩衝液B(20%MeCN/水)の勾配および88mL/分の流量による、Luna C18(3)PREP 250×50mm PhenomenexカラムにおけるRP-HPLCを使用して精製した。TEAP精製由来の産物プールを組み合わせ、0.5%TFA/水を用いて5部において1部を希釈した。ペプチド溶液の半分を精製カラムへと戻してローディングし、産物をカラム上で初期洗浄し、0.5%TFAを含有する水/MeCN(10%)で溶出させ、その後、緩衝液Bを、MeCNにおける0.1%TFAに置き換え、20~60%Bの勾配を適用することにより産物を溶出させた。残っているペプチド溶液を用いてこのステップを反復し、産物プールを組み合わせ、凍結乾燥して、樹脂ローディングステップからの全体で43.7%収率に対応する、TFA塩としての11.4gのMpa-T7ペプチドを生じた。最終解析は、6.7g正味ペプチド(25.8%収率)に対応する、61%のペプチド含有量および96.2%のRP-HPLC純度を指し示した。
【0188】
Mpa-Brコンジュゲート製造
ステップ1:コンジュゲーション
【0189】
0.13M NaClを含有する100mMリン酸ナトリウム(二塩基性)緩衝液pH8(120ml)にMpa-T7ペプチドTFA塩(2mmol)および(ブロモアセトアミド)-PEG10K(JenKem、USA)(0.48mmol)を溶解することにより、コンジュゲーション反応を行った。反応溶液のpHがpH6.5であると確認し、反応混合物を30℃で22時間撹拌した。反応進行をRP-HPLCによってモニターし、4腕置換四量体ブロモアセトアミドから完全にコンジュゲートされた産物へのおよそ58%変換まで進めた。反応完了時に、粗混合物は、大まかに、それぞれほぼ30%の3腕およびほぼ7%の2腕中間体を含有した。少量の単一腕産物を得た。
【0190】
ステップ2:Mpa-Br TFA塩の精製
【0191】
反応混合物を緩衝液A(水+0.1%TFA)で1:1希釈し、10~75%緩衝液B(MeCN:水(60:40)+0.1%TFA)の勾配および42mL/分の流量によりLuna C18(3)PREP 250×30mmカラムを用いて、10mL画分を収集する精製を実行した。このステージにおいて凍結乾燥によって単離された産物は、約45%の収率およびRP-HPLCによる純度>99%で、Mpa-Br TFA塩をもたらした。
【0192】
ステップ3:Mpa-Br対イオン交換
【0193】
TFA対イオンを有するMpa-Brコンジュゲートは、蝋様/粘着性のコンシステンシーを有するアモルファス材料を生じる。この物理的特徴に取り組むために、ステップ2に記載されている通りに得られたRP-HPLC精製Mpa-Br TFA塩画分から直接的に塩交換を行った。凍結乾燥前に、画分を組み合わせ(ほぼ500mL)、水で1:1希釈した。溶液をRP-HPLCカラムにローディングし、42mL/分の流量によるLuna C18(3)PREP 250×30mmカラムを使用した酢酸塩交換プロセスにより採取し、以下を含むいくつかのステップの後に10mL画分を収集した;初期カラム平衡化(1%AcOHを含有する0.5M NHOAc)、試料のローディングと、それに続く、交換プロセス(1%AcOHを含有する0.5M NH4OAc)、酢酸アンモニウム除去ステップ(1%AcOH(緩衝液A)およびMeCN(緩衝液B)、10%B)および溶出プロセス(1%AcOH(緩衝液A)およびMeCN(緩衝液B)、10~50%B)。産物をプールし、凍結乾燥して、自由に流動する結晶性固体としてMpa-Br酢酸塩をもたらした。解析は、42.1%の全体的収率で、完全に置換されたペプチドコンジュゲートMpa-Brに対応する、RP-HPLCにより100%純度を指し示した。イオンクロマトグラフィーによる残存する臭素(Br)に関するコンジュゲートの解析は、<0.1%Brを確認し、4腕ブロモアセトアミド-PEG四量体の完全置換を指し示した。Mpa-Br酢酸塩の追加的な解析をSCXクロマトグラフィーによっても実行し、Mpa-Br酢酸塩の純度は、90.0%であることが見出された。
【0194】
トリプトファン蛍光分光法:
【0195】
リガンドおよび受容体相互作用。2×濃度の各リガンド(親バスキュロチドおよびMPA-Br)を25μLで調製し、25μLの2×濃度のTie2Fc受容体と混合して、最終体積50μLに1×濃度のリガンドおよび受容体を生成した。リガンドの濃度は、受容体の結合飽和に達するほど十分に高くなるべきである。10nmの設定読み取り間隔および読み取りに先立つ5秒間の自動混合とともに、295nmの励起波長、360nmの開始発光波長スキャン、および450nmの終了発光波長スキャンに設定されたSpectraMaxM2プレートリーダーによって周囲温度で試料を読み取った。データは、SoftMaxを使用してコンパイルし、Prismを使用して解析した。
【0196】
受容体およびリガンド。R&D Systemsから組換え受容体を購入した(組換えヒトTie-2Fc(R&D Systems)、組換えマウスTie-2Fc(R&D Systems)、組換えラットTie2-FC(R&D Systems)および組換えカニクイザルTie2-FC(SinoBiological)。リガンドは、Bachemによって製造された(親バスキュロチドおよびMPA-Br)。陰性IgG-FC対照は、R&D Systemsから供給された。受容体およびリガンドの両方を、DPBS(GE Life Sciences-HyClone)に再懸濁した。
【0197】
Tie2リン酸化--HUVEC:
【0198】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、製造業者の推奨に従って、20%O、5%COおよび37℃の加湿チャンバー内で、100mm組織培養プレートにて、「EGM single quots」(Lonza)を補充した完全内皮基本培地(EBM)(Lonza)に播種した。90%コンフルエンスに達した細胞を、完全EBM培地における指定濃度の親バスキュロチド、MPA-Brまたはアンジオポエチン-1(R&D Systems)で15分間刺激した。15分間の刺激の後に、細胞を氷上に置き、氷冷PBSにおいて2回洗浄した。IC12溶解緩衝液(1%NP-40、20mM Tris(pH8.0)、137mM NaCl、10%グリセロール、2mM EDTA、1mM活性化オルトバナジン酸ナトリウム)における使用のために、細胞ライセートを調製した。製造業者の使用説明書(Thermo Scientific)の通りに、BCAタンパク質濃度キットを使用して、各ライセートのタンパク質濃度を測定した。製造業者のプロトコールに従って、試料を、リン酸化Tie2および総Tie2レベルを測定するELISAに供した。それぞれリン酸化Tie2および総Tie2読み取りのために、各試料由来の20μgまたは5μgのタンパク質を、2連でローディングした。リン酸化Tie2:総Tie2比を試料毎に決定した。次に、各実験において、全処置群のTie2リン酸化のレベルを、処置なし群(NT、完全EBMのみ)のものに対して正規化した。
【0199】
MAPKリン酸化--HUVEC:
【0200】
上述の通りにHUVECを培養した。(1mM EDTA、0.5%Triton(登録商標) X-100、6M尿素、5mM NaF、100uM PMSF、25mMピロリン酸ナトリウム、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、pH7.2~7.4、1×cOmplete(商標)ミニEDTA不含プロテアーゼ阻害剤)においてライセートを調製した。製造業者の使用説明書(Thermo Scientific)の通りに、BCAタンパク質濃度キットを使用して、各ライセートのタンパク質濃度を測定した。製造業者のプロトコール(R&D Systems)に従って、試料を、リン酸化MAPKおよび総MAPKレベルを測定するELISAに供した。それぞれリン酸化MAPKおよび総MAPK読み取りのために、各試料由来の20μgまたは10μgのタンパク質を、2連でローディングした。リン酸化MAPK:総MAPK比を試料毎に決定した。次に、各実験において、全処置群のMAPKリン酸化のレベルを、処置なし群(NT、EBMのみ)のものに対して正規化した。
【0201】
Tie2リン酸化--HMVECtert
【0202】
ヒトテロメラーゼ逆転写酵素/触媒サブユニット(tert)により不死化されたヒト微小血管内皮細胞(真皮起源)(Shao and Guo (2004))を、100mm組織培養プレートにて、完全内皮基本培地-2(EBM-2)(Lonza)に播種し、20%O、5%COおよび37℃の加湿チャンバー内で培養した。増殖培地は、10%ウシ胎仔血清、1×pen/strep、1ug/mlヒドロコルチゾンおよび100ng/ml EGFを補充したEBM-2からなった。90%コンフルエンスに達した細胞を、完全EBM-2培地における指定濃度の親バスキュロチド、MPA-Brまたはアンジオポエチン-1で15分間刺激した。15分間の刺激の後に、細胞を氷上に置き、氷冷PBSにおいて2回洗浄した。IC12溶解緩衝液(1%NP-40、20mM Tris(pH8.0)、137mM NaCl、10%グリセロール、2mM EDTA、1mM活性化オルトバナジン酸ナトリウム)における使用のために、細胞ライセートを調製した。BCAタンパク質濃度キットを使用して、各ライセートのタンパク質濃度を測定した。試料を、pYTie2および総Tie2濃度を測定するELISAに供した。各試料由来の20μgのタンパク質を、各ウェルにローディングし、各試料を2連で実行した。pTie2の総Tie2に対する相対的な比を試料毎に決定した。各実験において、各処置群におけるTie-2リン酸化のレベルを、EBM処置群のものに対して正規化した。
【0203】
Tie2リン酸化--初代マウス肺微小血管内皮細胞
【0204】
初代マウス肺内皮細胞(Cell Biologics)を、100mm組織培養プレートにて、「EGM single quots」(Lonza)を補充した完全内皮基本培地(EBM)(Lonza)に播種した。90%コンフルエンスに達した細胞を、完全EBM培地における指定濃度の親バスキュロチド、MPA-Brまたはアンジオポエチン-1(R&D systems)で15分間刺激した。15分間の刺激の後に、細胞を氷上に置き、氷冷PBSにおいて2回洗浄した。IC12溶解緩衝液(1%NP-40、20mM Tris(pH8.0)、137mM NaCl、10%グリセロール、2mM EDTA、1mM活性化オルトバナジン酸ナトリウム)における使用のために、細胞ライセートを調製した。製造業者の使用説明書(Thermo Scientific)の通りに、BCAタンパク質濃度キットを使用して、各ライセートのタンパク質濃度を測定した。製造業者のプロトコール(マウスTie2、R&D Systems)に従って、試料を、リン酸化Tie2および総Tie2レベルを測定するELISAに供した。それぞれリン酸化Tie2および総Tie2読み取りのために、各試料由来の50μgまたは5μgのタンパク質を、3連でローディングした。リン酸化Tie2:総Tie2比を試料毎に決定した。次に、各実験において、全処置群のTie2リン酸化のレベルを、処置なし群(NT、完全EBMのみ)のものに対して正規化した。
【0205】
Tie2リン酸化--初代ラット糸球体内皮細胞:
【0206】
ラット初代糸球体内皮細胞(Cell Biologics)を、20%O、5%COおよび37℃の加湿チャンバー内で、完全ラット内皮細胞培地/wキット(Cell Biologics)において増殖させ、80~90%コンフルエンシーに達したら1:3に分割した。ラット腎臓糸球体内皮細胞におけるMPA-BrによるTie2の活性化を検査するために、95~100%コンフルエント細胞を、血清含有培地において指し示される濃度の試験薬剤で15分間刺激した。陽性対照としてヒトAng-1(R&D Systems)を使用した。ヒトホスホ-Tie-2 ELISAキット(R&D Systems)において推奨される溶解緩衝液IC12(上に詳述)を使用して、細胞ライセートを収集し、ラットTie2に対して検証された捕捉抗体の置き換えを伴うELISA(ヒトホスホ-Tie2および総Tie2 ELISAキット、R&D Systems)を使用して、チロシン-リン酸化Tie2および総Tie2を測定した。マウス抗Tie2抗体(BD Pharmingen(商標))およびウサギTEKポリクローナル抗体(MyBioSource)を、それぞれpTie2および総Tie2 ELISAにおいて捕捉抗体として使用した。次に、各実験において、全処置群のTie2リン酸化のレベルを、処置なし群(NT、完全ラット内皮細胞培地)のものに対して正規化した。
【0207】
Tie2リン酸化--初代イヌ大動脈内皮細胞:
【0208】
イヌ初代大動脈内皮細胞(Cell Biologics)を、20%O、5%COおよび37℃の加湿チャンバー内で、完全イヌ内皮細胞培地/wキット(Cell Biologics)において増殖させ、80~90%コンフルエンシーに達したら1:3に分割した。初代カニクイザル糸球体内皮細胞において行われたTie2活性化試験は、ラット初代糸球体内皮細胞試験について上で詳しく述べたアプローチに従って行った。
【0209】
Tie2リン酸化--初代カニクイザル糸球体内皮細胞:
【0210】
初代カニクイザル糸球体内皮細胞(Cell Biologics)を、HMVECtertについて上に提示した詳細に従って培養した。初代カニクイザル糸球体内皮細胞において行われたTie2活性化試験は、ラット初代糸球体内皮細胞試験について上で詳しく述べたアプローチに従って行った。
【0211】
皮膚ヒスタミン負荷:
【0212】
Jackson Laboratoriesから10週齢雄FVBマウスを購入した。マウスを、標準明:暗サイクルの動物施設に収容し、食物および水に自由にアクセスできるようにした。0日目に、マウスをイソフルランで麻酔し、背側部全体を電動シェーバーで剪毛した。残存する毛を、脱毛クリームの塗布により除去した。残存するクリームを滅菌ガーゼおよび水で除去した。4日目に、マウスは、200ul腹腔内注射としてビヒクル対照(滅菌PBS)、親バスキュロチドまたはMPA-Brのいずれかを受けた。PBS/親バスキュロチド/MPA-Brの送達1時間後に、マウスを、イソフルラン麻酔下に置き、その時点で、100ulの1%エバンスブルー色素(滅菌PBS中に含有される)を尾静脈経由で静脈内送達した。エバンスブルー色素投与の直後に、まだ麻酔下にあるうちに、単一のPBS注射(背側、皮内、50ul)および3個の等しく間隔をあけたヒスタミン注射(背側、皮内、50ul中に含有された1.25ug)を適用した。皮内注射が完了したら、マウスを麻酔から覚まし、25分間にわたりその収容ケージ内に戻した。
【0213】
心臓灌流(cardiac transperfusion)。ヒスタミンへの曝露の25分後に、マウスを、妥当な体積の2.5%アバチン(avertin)(腹腔内注射を介して100ul/10g体重)で麻酔下に置いた。麻酔の深く定常な状態(deep plane)が得られたら、マウスを仰臥位で置いて固定し、胸部を外科的に切開し、心臓を露出させ、23ゲージ針で終端するカテーテルを左心室に挿入した。カテーテルが確実に適所に置かれたら、右心房においてカットを入れて、100mmHgにてカテーテル経由で25mlの冷PBSを送達して、血管内エバンスブルー色素を全て流し出した。マウスが有効に灌流されたら、背側皮膚を外科的に除去した。標準化された皮膚穿孔器を使用して、マウス毎に4個の12mm皮膚生検材料を収集した(1個のPBS、3個のヒスタミン)。全ての場合において、PBSを受けた生検材料を、当該の個々のマウスのベースライン対照とした。
【0214】
エバンスブルー色素血管外遊出の定量化。皮膚生検材料を標識されたチューブ内に置き、これを摂氏60度のオーブン内に16時間置いて、全ての水分を除去した。乾燥皮膚生検材料を秤量し、1.5mlのホルムアミドを含有するチューブ内に置き、次いでこれを摂氏60度のウォーターバス内に72時間置いた。72時間後に、チューブを500RCFで遠心分離し、100ul試料を、620nmおよび405nmでの測定のために平底96ウェルマイクロタイタープレートに取り出した。エバンスブルー色素血管外遊出の量(皮膚1gあたりug)を計算することができるように、高いおよび低い実験データ点を包含するエバンスブルー色素標準曲線を構築した。
【0215】
インフルエンザ試験:
【0216】
実験設計。14週齢C57BL/6Jマウスを購入した(Jackson Laboratories)。マウスを、標準明:暗サイクルの動物施設に収容し、食物および水に自由にアクセスできるようにした。全実験について、マウスを5%イソフルランで鎮静させ、最終体積80uLへとPBSで希釈されたインフルエンザウイルス(下のウイルスセクションを参照)に鼻腔内感染させた。感染後に、マウスを、体重を一致させた対照および処置群に分けた;各実験処置アームは、1群当たり10匹のマウスを使用し、マウスを、7日目までに100%死亡率を引き起こした64 HAUのインフルエンザウイルスに感染させた。次の群が含まれた:インフルエンザウイルス単独を受けたマウス(インフルエンザ)、親バスキュロチド(腹腔内注射による0.1mL PBSにおける500ng)またはMPA-Br(腹腔内注射による0.1mL PBSにおける200ngまたは31.25ng)も受けた感染マウス。親バスキュロチドまたはMPA-Brによる処置は、感染48時間後に開始し、試験の持続時間にわたり24時間毎に1回与えた。対照マウス(インフルエンザ)は、感染48時間後に開始して試験の持続時間にわたり、0.1mL PBSの毎日の腹腔内注射を受けた。
【0217】
ウイルス。インフルエンザAウイルスHKx31(H3N2)は元々、Tania Watts博士から得て、Szretter, K. J., Balish, A. L. & Katz, J. M., 2006に従って増やした。培養上清由来のウイルス力価は、MDCK(メイディン・ダービー・イヌ腎臓)細胞において標準プラーク形成アッセイを行うことにより、またはヒツジ赤血球の凝集(ヘマグルチニン単位、HAU)を測定することにより決定した。
【0218】
パルスオキシメトリ測定。C57BL/6J用の小型の襟クリップのいずれかを使用して、覚醒した(麻酔されていない)マウスにおいて、Mouse Ox Plusデバイスおよびソフトウェア(Starr Life Sciences、Oakmont、PA)を使用して、動脈血酸素飽和度を測定した。C57BL/6Jマウスのため、感染数日前に、化学的脱毛クリームを使用して、首の付け根の周囲の毛を除去した。SO2測定のため、最大SO2測定値を記録する前に、マウスを、数分間そのホームケージに置いて襟クリップに慣れさせた。
【0219】
活動性スコアリングガイドライン
【0220】
マウスを毎日2回観察し、毎日1回秤量し、1~5の活動性スコアを割り当てた。5のスコアを受けるために、マウスは、正常で、活発かつ好奇心旺盛な挙動を示す必要がある。マウスは、動き回り、ケージの側面で直立する。4のスコアのため、マウスは、それほど活発ではない。マウスは、それほど頻繁には立ち上がらず、ケージの隅に留まることを好む。3のスコアのため、マウスは、より活発ではなく、移動時にしばしば停止して座る。マウスは、営巣する隅(nest corner)に留まる。2のスコアのため、マウスは、触れたときだけ、短い距離しか移動しない。マウスは、好ましくは、営巣する隅に潜む。最後に、1のスコアのため、マウスは瀕死である。5~3の活動性スコアは、許容されるとみなされる。2の活動性スコアを有するマウスは、入念にモニターされ、活動性が、2のスコアよりも下に減少した場合、マウスは屠殺された。その上、30%を超える体重減少を経験するマウスは、ほかに許容される活動性スコアがあっても関係なく、安楽死された。
【0221】
マイケル付加のための包括的反応方法
【0222】
活性化PEG四量体(ビニルスルホンまたはアクリレート等)(117~118mg、1当量)およびMpa-ペプチド(100mg、1.5当量)を、遮光した50ml丸底フラスコに添加し、最終ペプチド濃度5mg/mlとするためにPBS(pH6.5、20ml)を添加した。反応物をRTで撹拌し、pHメーターを使用してpHを確認し、様々な時間間隔でHPLCによって反応の進行をモニターした。反応混合物をpH3.5へと酸性化した後に、次のステップを使用する精製を行った:
【0223】
ステップ1 フラッシュLC:
カラム:逆相C18、Fuji、200Å、40gカラム30μm(特注充填)。
勾配プロファイル:63分で10~100%B
溶離液:溶離液A=水中0.1%TFA
溶離液B=60%アセトニトリル、40%水中0.1%TFA
検出:UV(λ=210nm/254nm)
カラム温度:RT
流量:40mL/分
【0224】
ステップ2 調製用HPLC:
カラム:逆相C18、Daiso Bio C18、200Å、10μm 25mm×250mm(特注充填)。
勾配プロファイル:77分で45~100%B
溶離液:溶離液A=水中3%アセトニトリルにおける0.1%HFBA
溶離液B=60%アセトニトリル、40%水中0.1%HFBA
検出:UV(λ=210nm)
カラム温度:RT
流量:30mL/分
【0225】
ステップ3 調製用HPLC:
カラム:逆相C18、Daiso Bio C18、200Å、10μm 25mm×25mm(特注充填)。
勾配プロファイル:84分で40~100%B
溶離液:溶離液A=水中0.1%TFA
溶離液B=60%アセトニトリル、40%水中0.1%TFA
【0226】
ビニルスルホン-PEGコンジュゲートの収量は、48mgであり、アクリレート-PEGコンジュゲートの収量は、15.2mgであり、両者共にTFA塩としての収量である。
【0227】
(実施例2)
【0228】
COVID-19疾患重症度および死亡率は、多臓器不全に寄与する、ウイルス肺感染によって誘発される急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をもたらすサイトカインストームに関連付けられる。肺内皮および上皮細胞の炎症促進性サイトカイン媒介性傷害は、肺胞浮腫、炎症性細胞の浸潤および低酸素に加えて、血管透過性の促進により血液/空気関門の完全性を損なう(Zhang B, et al.. PLoS One. 2020;15(7))。細胞-細胞接合部調節不全およびその後の透過性の原因となるサイトカインは、VEGF、IL-1、IL-6、IL-18およびTNFaを含む(Anna Flavia Ribeiro dos Santos Miggiolaro Respir Med Case Rep. 2020; 31;Giovanni Zarrilli Int. J. Mol. Sci. 2021, 22)。
【0229】
COVID-19疾患におけるMPA-Br(別名AV-001)治療法の潜在的な利益を調査するために、本発明者らは、SAR-CoV-2によって感染した入院患者由来の血清とのインキュベーション後にヒト内皮細胞層において誘発された透過性を相殺する薬物の潜在力を評価した。MPA-Brありおよびなしでの患者血清とのインキュベーション後の細胞層インピーダンスを測定することにより、透過性を評価した。インピーダンスの変化は、サイズ、体積、形状、または拡散する、増殖するもしくは生存する能力を含む、細胞完全性の変化を誘導するいずれかの応答を反映する。
【0230】
材料および試薬
【0231】
全てのヒト血清試料は、BIOIVT North Americaから購入した。健常なドナー血清(ロット#HMN409204、別名HD1)は、2019年11月より前に収集された。COVID-19血清試料は、SAR-CoV-2が陽性と検査されており、IgG陽性(ロット#HMN373551-SR1、別名IgG8)またはIgM陽性(ロット#HMN3737821-SR1、別名IgM5およびHMN373745-SR1、別名IgM6)のいずれかであった。トロンビン(#SIBW3046 Sigma Aldrich)およびヒトTNF-a(#B249570、Biolegend)を陽性対照として使用した。MPA-Br薬物製品(COA#VASO(AV-001)-2019-240919)は、薬物物質ロット#1000019615(Bachem)を使用して調製した。細胞層インピーダンスは、xCelligence Real Time Cellular Analyzer(RTCA、Agilent)を使用して測定した。
【0232】
方法
【0233】
HUVEC(カタログ#C2519AS、ロット#0000560573;継代2;Lonza、USA)を、1ウェル当たり20,000個の細胞/100mlで96ウェルE-プレートにて、補充されたEBM-2増殖培地(カタログ#CC-3162、Lonza、USA)にプレーティングした。xCELLigence RTCA(Agilent)上にプレートをローディングし、コンフルエンスとなるまで48時間増殖させた。細胞増殖および単層形成を、継続的インピーダンス読み取りによってリアルタイムでモニターした。細胞が、インピーダンスプラトーによって決定される通りに単層を形成したら、血清を欠乏させた。3時間の血清なしのインキュベーションおよびインピーダンス安定化の後に、細胞に、健常なドナー(HD1)またはCOVID-19患者(IgG8、IgM5またはIgM6)由来の血清(1/10希釈)±MPA-Brを負荷した。ビヒクル対照±MPA-Brと並行して、トロンビン(0.25ng/mL)±MPA-BrおよびTNFα(0,5ng/mL)±MPA-Brを陽性対照として使用した。E-プレートをインキュベーターに戻し、インピーダンスの変化を18時間モニターした。条件毎に3連のウェルで実施した。
【0234】
インピーダンスデータを、xCELLigence RTCAソフトウェアによって細胞指数(CI)に変換し、細胞処置前のCIに対して正規化した。
【0235】
データは、正規化された細胞指数および対照に対する%(AUC)として提示した。
【0236】
サイトカイン定量化
【0237】
LEGENDplexヒト炎症パネル(BioLegend、カタログ#740808、ロット#B304336)およびヒト血管新生パネル(BioLegend、カタログ#740698、ロット#B317560)を使用して、健常なドナーCOVID-19血清試料において血清サイトカインを定量化した。製造業者のプロトコールに従ってレベル2+バイオセイフティー下でアッセイを行い、V字底プレートにおいて染色を行い、取得のためのFACSチューブに移した。LEGENDplexソフトウェアv8.0(BioLegend)によりデータを解析した。
【0238】
統計解析
【0239】
全ての反復にわたるデータを平均±SEM(平均の標準誤差)としてプロットし、事後フィッシャーLSD多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)によって評価する。GraphPad Prism v9.1.0(GraphPad Software Inc.、San Diego、USA)により全ての統計解析を行った。p-値≦0.05を統計的に有意であると考慮した。
【0240】
結果
【0241】
トロンビン陽性対照およびTNFα(COVID-19患者血清において測定される主要な炎症促進性サイトカインの1種)へのHUVECの曝露は、無処置対照と比べた正規化CIによって測定される通り、インピーダンス損失を有意に減少させた。TNF-aおよびトロンビン負荷後のそれぞれ5ng/mLおよび0.5~5ng/mLのMPA-Brによる処置は、無処置HUVECと比較して、経時的に正規化CIの有意な増加をもたらした(図9A~C)。ビヒクル対照処置に対して正規化された総AUCの評価は、TNF-aおよびトロンビン負荷細胞のためのそれぞれ5ng/mLおよび0.5~5ng/mL MPA-Brによる処置が、ビヒクル対照細胞(負荷されておらず、かつ処置されていない)のCIと同等な、正規化CIの統計的に有意な増加をもたらしたことを明らかにした(図9B~D)。
【0242】
COVID-19患者IgG8およびIgM6由来の血清とのインキュベーション後に、健常なドナー(DH)由来の血清とのインキュベーションと比較して、有意により低いCIが記録されており、患者の血清中に含有される炎症促進性サイトカインが、内皮細胞層の完全性を損なうことを確認する。
【0243】
MPA-Brによる処置後に、観察されたCI損失の回復は、HD1 CIと同等であった(図10A~B)。ビヒクル対照処置に対して正規化された総AUCの評価は、0.5~5ng/mL AV-001用量の両方による処置が、CIの統計的に有意な増加をもたらしたことを明らかにした(図10D~E)。COVID-19患者試料IgMは、患者試料IgG8およびIgM6と比較して、より低いCI損失を有した(図10A~C)が、AUCが、ビヒクル対照に対して正規化された場合、0.5~5ng/mL MPA-Brによる処置後に、正規化CIの統計的に有意な増加が観察された(図10D~F)。特に、IL1b、MCP-1、TNF-a、IL-6、IL-8、EGF、VEGF、アンジオポエチン-1およびアンジオポエチン-2に関して、HD1において測定されたレベルの比として提示された場合の、HD1およびCOVID-19血清試料において定量化されたサイトカインレベル(下の表1)は、全3種のCOVID-19血清が、HD1と比較して、より高いレベルの炎症促進性サイトカインを含有したことを指し示す。重要なことに、患者IgG8およびIgM6と比較した、患者IgM5のサイトカインプロファイルの差は、高レベルのIL1b、TNF-a、MCP-1およびIL-6が、より大きい細胞損傷の誘導において有意な役割を果たし得ることを指し示す。
表1
【表1-1】
【表1-2】
表1:上述の材料および方法に指し示される通りに、LEGENDplexヒト炎症および血管新生パネルを使用して、COVID-19患者(IgG8、IgM5およびIgM6)および健康なドナー(HD1)における血清分析物を定量化した。データは、COVID患者における分析物濃度の、HD1における濃度に対する比として提示されている。
【0244】
患者試料HD1に関して、高用量(5ng/mL)のMPA-Brによる処置は、ビヒクル対照処置に対して正規化された総AUCによって評価された場合に、正規化細胞インピーダンス(CI)の統計的に有意な増加をもたらしたが、より低い用量(0.5ng/mL)ではそのようにはならなかった(図10D~G)。
【0245】
補体タンパク質は、COVID-19患者試料HD1由来の血清によるCI改善についての説明をもたらす、細胞完全性に影響する潜在力を有するため、これらの実験において使用された患者血清は、非活性化されなかった。
【0246】
HD1またはCOVID-19患者(IgG8、IgM5およびIgM6)由来の血清とのインキュベーション後の細胞インピーダンス(透過性)に対するMPA-Brの効果はまた、血清+AV-001と共にインキュベートされた細胞および血清+ビヒクル対照と共にインキュベートされた細胞との間の細胞指数の差を計算することにより評価した。HDと比較したCOVID-19血清と共にインキュベートされた全細胞についての有意差を得た(図11)。
【0247】
全体的に見て、データは、MPA-Brが、COVID-19患者由来の血清中に含有される炎症促進性サイトカインによって誘発される内皮細胞不安定化を阻害する潜在力を有することを指し示す。
【0248】
本開示を、実施例であると現在考慮されているものを参照しつつ記載してきたが、本開示が、開示されている実施例に限定されないことを理解されたい。それとは反対に、本開示は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる様々な修正および均等な配置を網羅することが意図される。
【0249】
あらゆる刊行物、特許および特許出願は、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願のそれぞれが、その全体が参照により組み込まれていると特にかつ個々に指し示されているのと同じ程度まで、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0250】
参考文献
【化18】
【化19】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
【配列表】
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