(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】電池作製設備および電極スタックの作製空間形成方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20230907BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230907BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20230907BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020037926
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】松下 昇平
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐貴
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-167425(JP,A)
【文献】特開2018-160338(JP,A)
【文献】特表2015-510254(JP,A)
【文献】特開2014-112631(JP,A)
【文献】特開2021-140903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系非晶質固体電解質を含む固体電解質層と正極活物質層と負極活物質層とを積層して電極スタックを作製する作製空間を有する作製室と、
前記作製空間の酸素濃度を測定する酸素濃度センサと、
前記作製室に形成され、前記作製空間の酸素が少なくとも排出される排出口と、
前記排出口から前記作製空間の酸素を少なくとも排出させる排出手段と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記作製空間の酸素濃度を測定する測定処理と、
前記測定処理で測定された前記酸素濃度が、予め設定された閾値以上か否かを判定する判定処理と、
前記判定処理で前記酸素濃度が前記閾値以上であると判定されたとき、前記作製空間において、前記電極スタックに対して短絡検査を実施することができないことを作業者に通知する検査不可通知処理と、
前記検査不可通知処理の後、前記作製空間の酸素を排出させる排出処理と、
前記判定処理で前記酸素濃度が前記閾値未満であると判定されたとき、前記作製空間において、前記電極スタックに対して短絡検査を実施することができることを作業者に通知する検査可能通知処理と、
を実行可能に構成され、
前記閾値は、前記電極スタックの電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度である、電池作製設備。
【請求項2】
前記作製室には、循環排出口、および、循環給入口が形成され、
前記循環排出口に接続された循環排出路と、
前記循環給入口に接続された循環給入路と、
前記循環排出路および前記循環給入路に接続された酸素除去装置と、
を備えた、請求項1に記載された電池作製設備。
【請求項3】
前記制御装置は、前記酸素除去装置に、前記循環排出路を通じて前記作製空間の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ前記気体から酸素を除去した除去気体を、前記循環給入路を通じて前記作製空間に送り込む酸素除去制御を行わせる酸素除去処理を実行可能に構成され、
前記制御装置は、前記酸素除去処理の後に前記測定処理を実行する、請求項2に記載された電池作製設備。
【請求項4】
前記排出口と前記循環排出口とは同一のものであり、
前記排出手段と前記酸素除去装置とは同一のものであり、
前記排出処理では、前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせる、請求項3に記載された電池作製設備。
【請求項5】
前記作製室には、給入口が形成され、
前記給入口に接続され、前記作製空間に不活性ガスを送り込む不活性ガス発生装置を備え、
前記制御装置は、前記排出処理の後、前記作製空間に不活性ガスを給入する給入処理を実行可能に構成された、請求項1から3までの何れか1つに記載された電池作製設備。
【請求項6】
前記給入処理で給入される不活性ガスは、窒素である、請求項5に記載された電池作製設備。
【請求項7】
前記作製室には、給入口が形成され、
前記給入口に接続され、前記作製空間に不活性ガスを送り込む不活性ガス発生装置を備え、
前記制御装置は、前記判定処理によって前記酸素濃度が前記閾値以上であると判定されたとき、前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせることが可能か否かを判定する除去判定処理を実行可能に構成され、
前記排出処理では、前記除去判定処理によって前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせることが可能と判定されたとき、前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせ、
前記排出処理では、前記除去判定処理によって前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせることが不可能と判定されたとき、前記作製空間の酸素を前記排出口から排出させ、
前記制御装置は、前記除去判定処理によって前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせることが不可能と判定されたときの前記排出処理の後、前記作製空間に不活性ガスを給入する給入処理を実行可能に構成された、請求項3に記載された電池作製設備。
【請求項8】
前記除去判定処理では、前記測定処理で測定された前記酸素濃度が、前記閾値よりも高い除去閾値以上か否かを判定し、前記除去閾値未満のとき、前記酸素除去制御を前記酸素除去装置に行わせることが可能であると判定する、請求項7に記載された電池作製設備。
【請求項9】
前記閾値は、100ppm以下の何れかの酸素濃度である、請求項1から8までの何れか1つに記載された電池作製設備。
【請求項10】
前記作製空間には、不活性ガスが充填されている、請求項1から9までの何れか1つに記載された電池作製設備。
【請求項11】
硫化物系非晶質固体電解質を含む固体電解質層と正極活物質層と負極活物質層とを積層して電極スタックを作製する作製空間の酸素濃度を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定した前記酸素濃度が、予め設定された閾値以上か否かを判定する判定工程と、
前記判定工程において、前記酸素濃度が前記閾値以上であると判定したとき、前記作製空間において、前記電極スタックに対して短絡検査を実施することができないことを作業者に通知する検査不可通知工程と、
前記検査不可通知工程の後、前記作製空間の酸素を排出する排出工程と、
前記判定工程において、前記酸素濃度が前記閾値未満であると判定したとき、前記作製空間において、前記電極スタックに対して短絡検査を実施することができることを作業者に通知する検査可能通知工程と、
を包含し、
前記閾値は、前記電極スタックの電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度である、電極スタックの作製空間形成方法。
【請求項12】
前記排出工程では、前記作製空間の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ前記気体から酸素を除去した除去気体を、前記作製空間に送り込む、請求項11に記載された電極スタックの作製空間形成方法。
【請求項13】
前記排出工程で前記作製空間の酸素を排出した後、前記作製空間に新たな不活性ガスを給入する給入工程を更に包含する、請求項11に記載された電極スタックの作製空間形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池作製設備および電極スタックの作製空間形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、硫化水素の発生を抑制できる硫化物系固体電解質電池に関する発明が開示されている。特許文献1に開示された発明では、正極と負極との間に、硫化物系固体電解質層が介在している。特許文献1には、硫化物系固体電解質は、大気中の水分と反応して潮解して、硫化水素が発生すること、および、硫化物固体電解質層および電極を含む発電要素の外周表面に撥水コートを設けることなどが開示されている。また、特許文献1に開示された発明では、硫化物系固体電解質層は、アルゴンが充填されたグローブボックス内で作製されることが開示されている。
【0003】
例えば特許文献2には、全固体電池の短絡検査の方法が開示されている。特許文献2に開示された検査方法には、以下の(i)~(v)の工程が含まれている。
(i)電池を充電した後に、電池の自己放電による電圧降下量ΔV1を求める工程
(ii)電圧降下量ΔV1が所定の第1の基準値を超えるか否かを判定する工程
(iii)電圧降下量ΔV1が所定の第1の基準値を超えた場合に、電池の使用時の拘束圧を超える圧力下で電池を充電し、自己放電させて自己放電による電圧降下量ΔV2を求める工程
(iv)電圧降下量ΔV2が所定の第2の基準値を超えるか否かを判定する工程
(v)電圧降下量ΔV2が所定の第2の基準値を超えた場合に、電池を不良品と判定する工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-9255号公報
【文献】特開2015-122169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硫化物系固体電解質電池を作製する作製工程では、硫化物からなる固体電解質粒子を含む固体電解質層を有する電極体が用意される。電極体は、固体電解質層と、固体電解質層に重ねられた正極活物質層と、正極活物質層の位置とは異なる他の位置において固体電解質層に重ねられた負極活物質層とを備えている。正極活物質層は、正極集電体に取り付けられている。負極活物質層は、負極集電体に取り付けられている。また、このような硫化物からなる固体電解質粒子を含む固体電解質層を有する電極体は、大気中の水分の影響を受けないように密閉された空間で作成されうる。かかる電極体は、例えば、露点-70℃以下のアルゴンガス雰囲気などで形成される作製空間内で、作製される。
【0006】
ところで、本発明者は、かかる硫化物系固体電解質電池の作製工程において、作製された電極体の短絡検査を行うことを考えている。かかる短絡検査が行なわれることによって、短絡した電極体を排除し、不良品の発生が抑制される。このことで、後工程に送られる短絡した電極体の数が少なくなり、後工程の無駄が減り、歩留まりが向上する。この短絡検査では、短絡していない電極体を短絡しているとする誤検出を少なくするように、電極体を作製および管理することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで提案される電池作製設備は、作製室と、酸素濃度センサと、排出口と、排出手段と、制御装置とを備えている。作製室は、固体電解質層と正極活物質層と負極活物質層とを積層して電極スタックを作製する作製空間を有する。酸素濃度センサは、作製空間の酸素濃度を測定する。排出口は、作製室に形成され、作製空間の酸素が少なくとも排出される。排出手段は、排出口から作製空間の酸素を少なくとも排出させる。制御装置は、作製空間の酸素濃度を測定する測定処理と、測定処理で測定された酸素濃度が、予め設定された閾値以上か否かを判定する判定処理と、判定処理で酸素濃度が閾値以上であると判定されたとき、作製空間の酸素を排出させる排出処理と、を実行可能に構成されている。閾値は、電極スタックの電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度である。
【0008】
本発明者は、電極スタックを作製する際、および、作製された電極スタックの短絡検査を行うまでの間において、酸素濃度が高いところに電極スタックが置かれることで、酸素濃度に起因して電極スタックの電圧降下が生じることがあることを見出した。そして、酸素濃度に起因して電極スタックの電圧降下が生じることで、短絡していない電極スタックを短絡しているとする誤検出が発生することを見出した。ここで提案される電池作製設備では、作製室の作製空間では、酸素濃度が閾値未満となるように酸素濃度が調整される。よって、酸素濃度に起因して電極スタックの電圧降下を生じ難くすることができる。したがって、短絡検査の際に、酸素濃度に起因した上記の誤検出の発生を抑制することができる。
【0009】
ここで提案される電池作製設備では、作製室には、循環排出口、および、循環給入口が形成されていてもよい。電池作製設備は、循環排出口に接続された循環排出路と、循環給入口に接続された循環給入路と、循環排出路および循環給入路に接続された酸素除去装置と、を備えていてもよい。
【0010】
ここで提案される電池作製設備では、制御装置は、酸素除去装置に、循環排出路を通じて作製空間の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素を除去した除去気体を、循環給入路を通じて作製空間に送り込む酸素除去制御を行わせる酸素除去処理を実行可能に構成されていてもよい。制御装置は、酸素除去処理の後に測定処理を実行してもよい。
【0011】
ここで提案される電池作製設備では、排出口と循環排出口とは同一のものであってもよい。排出手段と酸素除去装置とは同一のものであってもよい。排出処理では、酸素除去制御を酸素除去装置に行わせてもよい。
【0012】
ここで提案される電池作製設備では、作製室には、給入口が形成されてもよい。電池作製設備は、給入口に接続され、作製空間に不活性ガスを送り込む不活性ガス発生装置を備えていてもよい。制御装置は、排出処理の後、作製空間に不活性ガスを給入する給入処理を実行可能に構成されてもよい。
【0013】
ここで提案される電池作製設備では、給入処理で給入される不活性ガスは、窒素であってもよい。
【0014】
ここで提案される電池作製設備では、作製室には、給入口が形成されてもよい。電池作製設備は、給入口に接続され、作製空間に不活性ガスを送り込む不活性ガス発生装置を備えていてもよい。制御装置は、判定処理によって酸素濃度が閾値以上であると判定されたとき、酸素除去制御を酸素除去装置に行わせることが可能か否かを判定する除去判定処理を実行可能に構成されてもよい。排出処理では、除去判定処理によって酸素除去制御を酸素除去装置に行わせることが可能と判定されたとき、酸素除去制御を酸素除去装置に行わせてもよい。排出処理では、除去判定処理によって酸素除去制御を酸素除去装置に行わせることが不可能と判定されたとき、作製空間の酸素を排出口から排出させてもよい。制御装置は、除去判定処理によって酸素除去制御を酸素除去装置に行わせることが不可能と判定されたときの排出処理の後、作製空間に不活性ガスを給入する給入処理を実行可能に構成されてもよい。
【0015】
ここで提案される電池作製設備では、除去判定処理では、測定処理で測定された酸素濃度が、閾値よりも高い除去閾値以上か否かを判定し、除去閾値未満のとき、酸素除去制御を酸素除去装置に行わせることが可能であると判定してもよい。
【0016】
ここで提案される電池作製設備では、閾値は、100ppm以下の何れかの酸素濃度であってもよい。
【0017】
ここで提案される電池作製設備では、作製空間には、不活性ガスが充填されていてもよい。
【0018】
ここで提案される電極スタックの作製空間形成方法は、測定工程と、判定工程と、排出工程とを包含する。測定工程では、固体電解質層と正極活物質層と負極活物質層とを積層して電極スタックを作製する作製空間の酸素濃度を測定する。判定工程では、測定工程で測定した酸素濃度が、予め設定された閾値以上か否かを判定する。排出工程では、判定工程において、酸素濃度が閾値以上であると判定したとき、作製空間の酸素を排出する。閾値は、電極スタックの電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度である。
【0019】
ここで提案される電極スタックの作製空間形成方法によれば、作製空間では、酸素濃度が閾値未満となるように酸素濃度が調整される。よって、酸素濃度に起因して電極スタックの電圧降下を生じ難くすることができる。したがって、短絡検査の際に、酸素濃度に起因した上記の誤検出の発生を抑制することができる。
【0020】
ここで提案される電極スタックの作製空間形成方法では、排出工程では、作製空間の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素を除去した除去気体を、作製空間に送り込んでもよい。
【0021】
ここで提案される電極スタックの作製空間形成方法は、排出工程で作製空間の酸素を排出した後、作製空間に新たな不活性ガスを給入する給入工程を更に包含してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】電極スタックの作製過程を示す模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る電池作製設備を示す概念図である。
【
図4】第1実施形態に係る電池作製設備のブロック図である。
【
図5】第1実施形態において、作製空間の酸素濃度を調整する手順を示すフローチャートである。
【
図6】第2、3実施形態に係る電池作製設備を示す概念図である。
【
図7】第2実施形態に係る電池作製設備のブロック図である。
【
図8】第2実施形態において、作製空間の酸素濃度を調整する手順を示すフローチャートである。
【
図9】第3実施形態に係る電池作製設備のブロック図である。
【
図10】第3実施形態において、作製空間の酸素濃度を調整する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ここで開示される電池作製設備、および、電極スタックの作製空間形成方法の一実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。本発明は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。以下の説明において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0024】
<第1実施形態>
図1は、電極スタック100の模式図である。
図2は、電極スタック100の作製過程を示す模式図である。まず、ここで開示される電池作製設備で作製される電極スタック100について説明する。
【0025】
電極スタック100は、
図1に示すように、固体電解質層111と、正極活物質層121と、正極集電体122と、負極活物質層131と、負極集電体132とを備えている。
【0026】
固体電解質層111は、固体電解質粒子を含む層である。本実施形態では、固体電解質には、例えば、リチウム二次電池の固体電解質材料として用いられる材料が適用される。例えば固体電解質として、酸化物系非晶質固体電解質、Li2S-SiS2,LiI-Li2S-SiS2,LiI-Li2S-P2S5,LiI-Li2S-P2O5,LiI-Li3PO4-P2S5,Li2S-P2S5などの硫化物系非晶質固体電解質などが挙げられる。
【0027】
正極活物質層121は、固体電解質層111に重ねられた層であって、正極活物質粒子を含む層である。本実施形態では、正極活物質層121は、例えば正極活物質粒子、固体電解質粒子、バインダ、導電助剤の混合物からなる層である。正極活物質層121には、増粘剤が含まれていてもよい。
【0028】
正極活物質粒子は、リチウムイオン二次電池の正極活物質材料として用いられる材料であれば、特に限定されない。正極活物質粒子として、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)の他、ニッケル酸リチウム(LiNiO2),Li1+xNi1/3Mn1/3Co1/3O2,マンガン酸リチウム(LiMn2O4)などが挙げられる。正極活物質粒子は、層構造であってもよいし、スピネル構造であってもよい。また、正極活物質粒子には、コーティングが施されていてもよい。
【0029】
正極集電体122は、正極活物質層121に重ねられる集電体である。正極集電体122には、所要の耐食性を備えた材料が用いられる。正極集電体122に用いられる材料として、SUS,Ni,Cr,Au,Pt,Al,Fe,Ti,Znなどが挙げられる。正極集電体122は、例えば、かかる材料の金属箔であり得る。本実施形態では、正極集電体122に正極活物質層121が塗工されたシートは、正極シート120(
図2参照)と称される。
【0030】
負極活物質層131は、負極活物質粒子を含む層である。負極活物質層131は、正極活物質層121の位置とは異なる他の位置において固体電解質層111に重ねられている。負極活物質層131は、例えば負極活物質粒子、正極活物質粒子、固体電解質粒子、バインダの混合物からなる層である。負極活物質層131には、導電助剤や増粘剤が含まれていてもよい。
【0031】
負極活物質粒子は、リチウムイオン二次電池の負極活物質材料として用いられる材料であれば、特に限定されない。負極活物質粒子として、例えばグラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料(C)、SiおよびSi合金、Li4Ti5O12などが挙げられる。
【0032】
負極集電体132は、負極活物質層131に重ねられる集電体である。負極集電体132には、所要の耐食性を備えた材料が用いられる。負極集電体132に用いられる材料として、SUS,Cu,Ni,Fe,Co,Znなどが挙げられる。本実施形態では、負極集電体132に負極活物質層131が塗工されたシートは、負極シート130(
図2参照)と称される。
【0033】
電極スタック100は、
図1に示すように、硫化物からなる固体電解質粒子を含む固体電解質層111と、固体電解質層111に重ねられた正極活物質層121と、正極活物質層121の位置とは異なる他の位置において固体電解質層111に重ねられた負極活物質層131とを備えている。本実施形態では、正極活物質層121と負極活物質層131とは、固体電解質層111を挟んで対向するように配置されている。正極集電体122は、正極活物質層121にさらに重ねられているとよい。また、負極集電体132は、負極活物質層131にさらに重ねられているとよい。正極活物質層121と、固体電解質層111と、負極活物質層131との重ね方、正極集電体122と負極集電体132とを含めた配置などは、特に限定されない。
【0034】
本実施形態では、電極スタック100は、固体電解質層111と、正極活物質層121と、正極集電体122と、負極活物質層131と、負極集電体132とを積層することで作製される。電極スタック100の作製では、
図2に示すように、例えば転写シート112に固体電解質層111が塗工された電解質シート110と、正極集電体122に正極活物質層121が塗工された正極シート120と、負極集電体132に負極活物質層131が塗工された負極シート130とをそれぞれ作製する。固体電解質層111と、正極活物質層121と、負極活物質層131とが形成された、それぞれのシートは、電極スタック100として重ねられるように、予め定められた形状に裁断される。
【0035】
電極スタック100の作製では、
図1に示すように、負極活物質層131に固体電解質層111が重ねられ、転写シート112が剥がされる。さらに固体電解質層111に正極活物質層121が重ねられる。これによって、正極活物質層121と、負極活物質層131とが、固体電解質層111を介して重ねられた1つの電池要素が作製される。このように、負極活物質層131と正極活物質層121とが、固体電解質層111を介して重ねられることによって電極スタック100が作製される。
【0036】
本実施形態では、電極スタック100の作製のうち、正極活物質層121と、負極活物質層131と、固体電解質層111とを重ね合わせる工程のことを、積層工程という。
【0037】
電極スタック100は、さらに複数用意される。そして、正極活物質層121と、負極活物質層131とが、固体電解質層111を介して重ねられるように、複数の電極スタック100がさらに重ねられる。これによって、電池の蓄電要素としての電極体が作製される。つまり、電極スタック100が重ねられることによって、予め定められた電池の蓄電容量が確保される。
【0038】
ところで、本発明者は、このように作製される固体電解質二次電池について、歩留まりを向上させたいと考えている。例えば作製された電極スタック100毎に検査し、不良品を取り除くことで、上記歩留まりが向上する。
【0039】
そこで、本実施形態では、電極スタック100に対して短絡検査を実施する。短絡検査とは、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132との電位差を測定することによって、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132との短絡を調べる検査のことである。例えば正極集電体122は正極活物質層121に起因する電位を示す。負極集電体132は負極活物質層131に起因する電位を示す。
【0040】
正極集電体122と負極集電体132とが絶縁されていれば、正極集電体122と負極集電体132とは、予め定められた電位差を凡そ示す。そのため、短絡検査において、正極集電体122と負極集電体132との電位差が、予め定められた電位差よりも小さければ、正極集電体122と負極集電体132との短絡が疑われる。そして、予め定められた電位差が得られない電極スタック100を不良品として除去することで、複数の電極スタック100が積層されて作製される電極体や電池の歩留まりを向上させることができる。また、電極体や電池に短絡した電極スタック100が含まれることで、全体として不良品となる可能性が高くなるため、歩留まりが悪くなる。
【0041】
しかしながら、本発明者の知見によれば、電極スタック100の短絡検査において、不良品として扱われる電極スタック100の割合が想定よりも多いことが見出された。つまり、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132とが、本来あるべき電位差を示さない場合が含まれていた。かかる原因について、本発明者は、上記積層工程を経て電極スタック100が作製された後で、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132との電位差が経時的に低下していく事象を発見した。つまり、電極スタック100の電圧が降下していく事象を見出した。その結果、短絡していない電極スタック100を短絡していると誤検出することがあった。
【0042】
本発明者は、上記の電極スタック100の電圧降下について、上記の積層工程の間、および、積層工程を経て作製された後であって、短絡検査前において、電極スタック100が置かれている空間の酸素濃度が低い程、電圧降下が小さく抑えられることを見出した。電圧降下の原因や、電圧降下が小さく抑えられる原因などは、明確に解明されていない。しかしながら、上記事象から酸素濃度との関係で電圧降下が生じていると推察される。酸素濃度との関係で電圧降下が生じている電極スタック100には、実際に短絡していないものが含まれると考えられる。
【0043】
図3は、本実施形態に係る電池作製設備10を示す概念図である。
図4は、電池作製設備10のブロック図である。そこで、本実施形態では、上記の積層工程における電極スタック100の作製は、
図3に示す電池作製設備10で行われる。また、積層工程を経て作製され、かつ、短絡検査の前の電極スタック100は、電池作製設備10に収容される。次に、本実施形態に係る電池作製設備10について説明する。
【0044】
電池作製設備10は、積層工程を行う設備である。また、電池作製設備10は、積層工程を経て正極活物質層121と、負極活物質層131と、固体電解質層111とを積層して作製された電極スタック100であって、短絡検査前の電極スタック100が収容される設備である。本実施形態では、短絡検査は、電池作製設備10に収容された状態の電極スタック100に対して行われてもよい。電池作製設備10では、後述する作製空間12を有する作製室11内の酸素濃度が、予め定められた閾値以下となるように、作製空間12の酸素濃度を調整した状態で、積層工程が行われる。
【0045】
本実施形態では、
図3に示すように、電池作製設備10は、作製室11と、酸素濃度センサ20と、循環排出路30と、循環給入路35と、酸素除去装置40と、制御装置80(
図4参照)とを備えている。
【0046】
作製室11は、積層工程が行われるところであり、固体電解質層111と正極活物質層121と負極活物質層131とを積層して電極スタック100を作製するところである。積層工程を経て、作製室11には、積層された電極スタック100が収容された状態となる。なお、作製室11で短絡検査が行われてもよい。
【0047】
本実施形態では、作製室11内の空間であって、積層工程が行われて電極スタック100が作業者によって作製される空間のことを作製空間12という。作製空間12は、不活性ガスによって充填された空間である。すなわち、作製空間12の雰囲気は、不活性ガス雰囲気である。作製空間12の酸素濃度は比較的に低い。
【0048】
ここで、作製室11の作製空間12に充填された不活性ガスの種類は特に限定されない。本実施形態では、作製空間12は、窒素によって充填されている。ただし、作製空間12は、例えばアルゴンによって充填されてもよい。
【0049】
なお、作製室11の具体的な種類は特に限定されない。本実施形態では、作製室11は、いわゆるグローブボックスである。作製室11の作製空間12は、外気と遮断されており、作業者は、作製空間12で作業を行うことができる。図示は省略するが、本実施形態では、グローブボックスである作製室11には、作業者の手が装着されるグローブが取り付けられたグローブ孔が形成されている。作業者は、手に上記グローブを装着し、上記グローブ孔を通じて、作製室11内で手を使って電極スタック100に関する作業を行うことができる。
【0050】
上述のように、本実施形態に係る作製室11は、いわゆるグローブボックスであり、作業者の手を入れて作業をすることができる程度の大きさの作製空間12を有している。しかしながら、作製空間12の大きさは特に限定されない。例えば、全固体電池を作製する製造ラインに沿って自動で電極スタック100が作製される場合、作製室11の作製空間12は、電極スタック100を自動で作製する機械が収容される程度の大きさであり、作業者が入ることができる程度の大きさである。
【0051】
本実施形態では、
図3に示すように、作製室11には、循環排出口15と、循環給入口16とが形成されている。循環排出口15は、作製室11の作製空間12の気体が排出される部位である。ここでは、作製空間12の気体に含まれる酸素および水分の一部が循環排出口15から排出される。また、本実施形態では、作製空間12は、不活性ガス雰囲気であるため、不活性ガスの一例である窒素も、酸素および水分と共に循環排出口15から排出される。
【0052】
循環給入口16は、酸素および水分が除去された除去気体が作製室11の作製空間12に給入される部位である。ここでは、循環排出口15から排出された作製空間12の気体であって、酸素除去装置40によって、酸素および水分が除去された除去気体が、循環給入口16を通じて作製空間12に送り込まれる。本実施形態では、酸素および水分が除去された除去気体とは、作製空間12に充填されている不活性ガスであり、ここでは窒素である。そのため、循環給入口16を通じて窒素が作製空間12に送り込まれる。
【0053】
なお、循環排出口15と循環給入口16との位置関係は、特に限定されない。本実施形態では、循環排出口15および循環給入口16は、作製室11の上部に形成されている。しかしながら、循環排出口15および循環給入口16は、作製室11の中央部に形成されていてもよいし、作製室11の下部に形成されていてもよい。特に、酸素が比較的に重いという性質を考慮すると、循環排出口15は、作製室11の下部に形成されていることが好ましい。また、本実施形態では、循環排出口15および循環給入口16は、作製室11に対する同じ高さの位置に形成されている。しかしながら、循環排出口15は、循環給入口16よりも高い位置に形成されていてもよいし、循環給入口16よりも低い位置に形成されていてもよい。
【0054】
酸素濃度センサ20は、作製室11の作製空間12の酸素濃度C1(
図5参照)を測定するセンサである。なお、酸素濃度センサ20の配置位置は特に限定されない。本実施形態では、酸素濃度センサ20は、作製空間12に配置されている。ここでは、酸素が比較的に重いという性質を考慮すると、酸素濃度センサ20は、作製空間12のうちの下部の空間に配置されているとよい。ただし、酸素濃度センサ20は、作製空間12の上部の空間に配置されていてもよいし、中央部の空間に配置されていてもよい。
【0055】
循環排出路30は、作製室11の循環排出口15に接続されており、循環排出口15と連通している。循環給入路35は、作製室11の循環給入口16に接続されており、循環給入口16と連通している。なお、循環排出路30および循環給入路35を形成する材料は特に限定されない。循環排出路30および循環給入路35は、例えば可撓性を有する材料(例えばゴムなど)によって形成されている。循環排出路30および循環給入路35は、例えばチューブであり、管状のものである。
【0056】
酸素除去装置40は、作製室11の作製空間12の酸素を除去する装置である。本実施形態では、酸素除去装置40は、酸素と共に水分を除去することができる。酸素除去装置40は、作製空間12から、酸素および水分が含まれた気体(典型的には不活性ガス)を取り込み、酸素および水分を除去した後の除去気体(典型的には不活性ガス)を、作製空間12に送り込む。このように、酸素除去装置40は、酸素および水分を除去した後の不活性ガスを作製空間12に送り込む装置であり、いわゆる不活性ガス精製装置である。
【0057】
本実施形態では、酸素除去装置40によって行われる制御であって、循環排出路30を通じて作製空間12の酸素および水分が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素および水分を除去した除去気体を、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込む一連の制御のことを「酸素除去制御」という。
【0058】
ここでは、酸素除去装置40は、循環排出路30および循環給入路35に接続されている。循環排出路30の一端は循環排出口15に接続され、循環排出路30の他端は、酸素除去装置40に接続されている。循環給入路35の一端は、酸素除去装置40に接続され、循環給入路35の他端は、循環給入口16に接続されている。
【0059】
なお、酸素除去装置40の具体的な構成は特に限定されない。酸素除去装置40は、例えば循環ポンプ41と、吸着フィルタ42とを備えている。循環ポンプ41は、循環排出路30を通じて作製空間12における酸素および水分が含まれた気体を吸引するポンプである。また、循環ポンプ41は、酸素除去装置40内で酸素および水分が除去された除去気体を、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込むポンプである。
【0060】
吸着フィルタ42は、酸素を吸着させるフィルタである。本実施形態では、吸着フィルタ42は、気体に含まれる水分も吸着させる。ここでは、作製空間12の酸素および水分が含まれた気体は、循環排出路30を通じて酸素除去装置40内に取り込まれる。酸素除去装置40に取り込まれた気体は、吸着フィルタ42を通過する。このとき、気体に含まれる酸素および水分が吸着フィルタ42に吸着され、気体は、酸素および水分が除去された除去気体となる。そして、吸着フィルタ42を通過した除去気体は、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込まれる。
【0061】
図4に示す制御装置80は、作製室11の作製空間12の酸素濃度C1(
図5参照)を調整する制御を行う。制御装置80は、例えば予め定められたプログラムに沿って駆動するコンピュータによって具現化されうる。制御装置80の各機能は、制御装置80を構成する各コンピュータの演算装置(プロセッサ、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-processing unit)とも称される。)や記憶装置(メモリーやハードディスクなど)と、ソフトウェアとの協働によって処理される。例えば制御装置80の各構成および処理は、コンピュータによって具現化されるデータを予め定められた形式で記憶するデータベース、データ構造、予め定められたプログラムに従って所定の演算処理を行う処理モジュールなどとして、または、それらの一部として具現化されうる。
【0062】
図4に示すように、本実施形態では、制御装置80は、酸素濃度センサ20、および、酸素除去装置40(詳しくは、循環ポンプ41)に通信可能に接続されている。制御装置80は、酸素濃度センサ20から作製空間12の酸素濃度C1(
図5参照)の測定結果を受信する。制御装置80は、酸素除去装置40の循環ポンプ41の駆動を制御する。
【0063】
制御装置80は、記憶部81と、酸素除去制御部83と、測定部85と、判定部87と、排出制御部89と、第1通知部91と、第2通知部92とを備えている。制御装置80の各部は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。制御装置80の各部は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されるものであってもよいし、回路に組み込まれるものであってもよい。なお、制御装置80の各部の詳細な説明は後述する。
【0064】
次に、本実施形態に係る電池作製設備10において、作製室11の作製空間12の酸素濃度C1を調整する手順について、
図5のフローチャートに沿って説明する。ここでは、電池作製設備10内で積層工程を行うことで、電極スタック100が作製される。そして、作製された電極スタック100は、短絡検査開始まで、作製室11内に保管される。
【0065】
図5のステップS101では、酸素除去処理が行われる。本実施形態では、酸素除去処理は、制御装置80の酸素除去制御部83(
図4参照)によって実行される。酸素除去制御部83は、酸素除去装置40の循環ポンプ41を駆動させることで、酸素除去装置40に酸素除去制御を行わせる。例えば酸素除去制御部83は、除去信号を酸素除去装置40に送信する。そして、除去信号を受信した酸素除去装置40は、循環ポンプ41を駆動させて、酸素除去制御を行う。
【0066】
酸素除去制御では、循環ポンプ41が駆動することで、作製空間12の酸素および水分が含まれた気体を、循環排出路30を通じて酸素除去装置40に取り込む。そして、酸素除去装置40において、気体を吸着フィルタ42に通過させることで、酸素および水分が除去された除去気体となる。除去気体を、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込む。このことによって、作製空間12内の酸素および水分を除去し、作製空間12の酸素濃度C1を低くすることができる。
【0067】
なお、ステップS101において、酸素除去制御を行う時間、すなわち循環ポンプ41を駆動する時間は、予め定められた所定の時間である。所定の時間は、記憶部81に記憶されている。所定の時間は、作製空間12の大きさや、作製空間12の実際の酸素濃度によって適宜設定されるものである。
【0068】
このように、酸素除去処理を実行した後、ステップS103では、測定処理が行われる。測定処理では、作製空間12の酸素濃度C1を測定する。本実施形態では、測定処理は、制御装置80の測定部85(
図4参照)によって実行される。測定部85は、酸素濃度センサ20から作製空間12の酸素濃度C1を取得することで、作製空間12の酸素濃度C1を測定する。ここでは、測定部85は、例えば酸素濃度センサ20に測定信号を送信する。当該測定信号を受信した酸素濃度センサ20は、作製空間12の酸素濃度C1を測定し、測定した酸素濃度C1を測定部85に送信する。このことによって、測定部85は、作製空間12の酸素濃度C1を取得することができる。なお、測定部85によって測定された作製空間12の酸素濃度C1は、記憶部81に記憶される。
【0069】
次に、ステップS105では、判定処理が行われる。本実施形態では、判定処理は、制御装置80の判定部87(
図4参照)によって実行される。判定部87は、ステップS103において測定部85によって測定された作製空間12の酸素濃度C1が、予め定められた閾値Th1以上であるか否かを判定する。
【0070】
ここで、
図4に示すように、閾値Th1は、記憶部81に予め記憶された値である。閾値Th1は、電極スタック100の電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度に設定される。この許容値は、0であることが好ましいが、全固体電池としての機能を発揮する上で許容される値である。ここでは、電極スタック100に対して短絡検査をする際に、酸素濃度に起因して電圧降下が生じ、短絡していない電極スタック100を短絡していると誤検出しない程度の値に、閾値Th1が設定されるとよい。
【0071】
なお、この閾値Th1の具体的な値は特に限定されない。例えば閾値Th1は、200ppm以下、好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下であるとよい。例えば、作製室11の一例であるグローブボックスにおいて不活性ガス雰囲気を調整する際、通常、グローブボックス内は、酸素濃度が1000ppm程度になるように調整される。本実施形態では、通常のグローブボックス内の酸素濃度よりも低くするように、閾値Th1が設定されている。このことによって、酸素濃度に起因して、電極スタック100の電圧降下が発生することを抑えることができる。
【0072】
図5のステップS105において、酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定されたとき、判定結果をYESとして次にステップS107に進む。ステップS107では、検査不可通知処理を行う。この検査不可通知処理は、制御装置80の第1通知部91(
図4参照)によって実行される。第1通知部91は、例えば作業者に短絡検査を実施することができないことを通知する。第1通知部91は、例えばディスプレイに短絡検査を実施できない旨のメッセージを表示する。ただし、短絡検査を実施することができない旨の通知方法は特に限定されない。第1通知部91は、例えば第1の色を点灯させる第1の光源(図示せず)を点灯させてもよいし、図示しないブザーで、第1の音を鳴らすようにして、短絡検査を実施することができない旨を通知してもよい。
【0073】
次に、ステップS109では、排出処理が行われる。排出処理では、作製空間12の酸素を排出する。本実施形態では、排出処理は、制御装置80の排出制御部89(
図4参照)によって実行される。ここでは、排出制御部89は、ステップS101と同様に、酸素除去装置40の循環ポンプ41を駆動させることで、酸素除去装置40に酸素除去制御を行わせる。例えば排出制御部89は、除去信号を酸素除去装置40に送信する。そして、除去信号を受信した酸素除去装置40は、循環ポンプ41を駆動させて、酸素除去制御を行う。このような排出処理が行われた後、再度、ステップS103の測定処理を行う。
【0074】
図5のステップS105において、作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1以上ではないと判定されたとき、すなわち酸素濃度C1が閾値Th1未満であると判定されたとき、判定結果をNOとして次にステップS111に進む。ステップS111では、検査可能通知処理を行う。この検査可能通知処理は、制御装置80の第2通知部92(
図4参照)によって実行される。第2通知部92は、例えば作業者に短絡検査を実施することができることを通知する。第2通知部92は、例えばディスプレイに短絡検査を実施できる旨のメッセージを表示する。ただし、短絡検査を実施することができる旨の通知方法は特に限定されない。第2通知部92は、例えば上記第1の色とは異なる第2の色を点灯させる第2の光源(図示せず)を点灯させてもよいし、図示しないブザーで、上記第1の音とは異なる第2の音を鳴らすことで、短絡検査を実施する旨を通知してもよい。
【0075】
次に、ステップS113では、作業者は、短絡検査を行う。作業者は、作製空間12において、電極スタック100に対して短絡検査を実施する。ここでは、作業者は、
図1に示すように、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132との電位差を測定することによって、電極スタック100の正極集電体122と負極集電体132との短絡を調べる。本実施形態では、作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1未満の状態で、電極スタック100の短絡検査が行われる。そのため、電極スタック100に対して短絡検査をする際に、酸素濃度C1に起因して電圧降下が生じ難くなり、短絡していない電極スタック100を短絡していると誤検出することを抑制することができる。
【0076】
以上、本実施形態では、
図3および
図4に示すように、電池作製設備10は、作製室11と、酸素濃度センサ20と、循環排出口15と、酸素除去装置40と、制御装置80を備えている。作製室11は、固体電解質層111と正極活物質層121と負極活物質層131(
図1参照)とを積層して電極スタック100を作製する作製空間12を有する。酸素濃度センサ20は、作製空間12の酸素濃度C1(
図5参照)を測定する。循環排出口15は、作製室11に形成され、作製空間12の酸素が少なくとも排出される。酸素除去装置40は、循環排出口15から作製空間12の酸素を少なくとも排出させる。制御装置80は、
図5に示すように、作製空間12の酸素濃度C1を測定する測定処理(ステップS103)と、測定処理で測定された酸素濃度C1が、予め設定された閾値Th1以上か否かを判定する判定処理(ステップS105)と、判定処理で酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定されたとき、作製空間12の酸素を排出させる排出処理(ステップS109)と、を実行可能に構成されている。閾値Th1は、電極スタック100の電圧降下が予め定められた許容値に抑えられる酸素濃度である。
【0077】
本実施形態では、電極スタック100の短絡検査前において、電極スタック100は、作製室11の作製空間12で作製され、かつ、保管される。作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1以上になると、作製空間12の酸素が排出されるため、作製空間12の酸素濃度C1は閾値Th1未満となるように調整される。このように、酸素濃度C1が閾値Th1未満となるように調整された作製空間12に電極スタック100が置かれるため、酸素濃度C1に起因した電極スタック100の電圧降下を生じ難くすることができる。したがって、短絡検査の際に、酸素濃度C1に起因した、短絡検査の誤検出の発生を抑制することができる。
【0078】
本実施形態では、閾値Th1は、200ppm以下の何れかであり、好ましくは100ppm以下の何れかであり、特に好ましくは50ppm以下の何れかの酸素濃度である。例えば、作製室11のようなグローブボックスにおいて不活性ガス雰囲気に調整する際、通常、グローブボックス内は、酸素濃度が1000ppm程度になるように調整される。しかしながら、本実施形態では、通常のグローブボックス内の酸素濃度よりも低くするように、閾値Th1を例えば100ppm以下に設定する。このことで、酸素濃度C1に起因して、電極スタック100の電圧降下が発生することをより抑制することができる。
【0079】
本実施形態では、作製空間12には、不活性ガスが充填されている。このことによって、不活性ガスが充填された作製空間12に対して、
図5のステップS103の測定処理が行われる。よって、判定処理において、作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定され難くすることができ、酸素濃度C1に起因した電極スタック100の電圧降下を発生し難くすることができる。
【0080】
本実施形態では、
図3に示すように、循環排出路30は、作製室11に形成された循環排出口15に接続されている。循環給入路35は、作製室11に形成された循環給入口16に接続されている。酸素除去装置40は、循環排出路30および循環給入路35に接続されている。このことによって、酸素除去装置40によって酸素が除去された除去気体は、循環給入路35を通じて、作製空間12に戻される。このように、酸素除去装置40を通過させて、作製空間12内の気体を循環させることで、酸素が除去された気体を作製空間12に送り込むことができる。
【0081】
本実施形態では、制御装置80は、酸素除去装置40に、循環排出路30を通じて作製空間12の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素を除去した除去気体を、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込む酸素除去制御を行わせる酸素除去処理(
図5のステップS101)を実行可能に構成されている。制御装置80は、酸素除去処理の後に測定処理(
図5のステップS103)を実行する。このことによって、測定処理の前において酸素除去処理が行われることで、作製空間12の酸素濃度C1を低くした状態で、測定処理を行うことができる。よって、
図5のステップS105の判定処理において、作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定され難くすることができ、酸素濃度C1に起因した電極スタック100の電圧降下を発生し難くすることができる。
【0082】
本実施形態では、循環排出口15が排出口の一例であり、酸素除去装置40が排出手段の一例である。
図5のステップS109の排出処理では、酸素除去制御を酸素除去装置40に行わせることで、循環排出口15から作製空間12の酸素を排出させている。このことによって、測定処理の前に行われる酸素除去処理と、排出処理とで、同じ酸素除去装置40を使用して、作製空間12の酸素を排出させている。よって、酸素除去処理と排出処理とで、それぞれ酸素を除去または排出する専用の装置を使用しなくてもよいため、電池作製設備10の部品点数を減らすことができる。
【0083】
なお、本実施形態では、電極スタック100の作製空間形成方法が含まれる。電極スタック100の作製空間形成方法は、
図5のステップS103の測定処理に対応した測定工程と、
図5のステップS105の判定処理に対応した判定工程と、
図5のステップS109の排出処理に対応した排出工程とを包含する。測定工程では、固体電解質層111と正極活物質層121と負極活物質層131とを積層して電極スタック100を作製する作製空間12の酸素濃度C1を測定する。判定工程では、測定工程で測定した酸素濃度C1が、予め設定された閾値Th1以上か否かを判定する。排出工程では、判定工程において、酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定したとき、作製空間12の酸素を排出する。排出工程では、作製空間12の酸素が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素を除去した除去気体を、作製空間12に送り込む。かかる作製空間形成方法であっても、酸素濃度C1が閾値Th1未満となるように調整された作製空間12に電極スタック100が置かれるため、酸素濃度C1に起因した電極スタック100の電圧降下を生じ難くすることができる。したがって、短絡検査の際に、酸素濃度C1に起因した、短絡検査の誤検出の発生を抑制することができる。
【0084】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る電池作製設備10Aについて説明する。
図6は、本実施形態に係る電池作製設備10Aを示す概念図である。
図7は、本実施形態に係る電池作製設備10Aのブロック図である。
【0085】
図6および
図7に示すように、電池作製設備10Aは、作製室11Aと、酸素濃度センサ20と、循環排出路30と、循環給入路35と、酸素除去装置40と、制御装置80Aとを備えている。更に、電池作製設備10Aは、排出路50と、排出ポンプ55と、給入路60と、不活性ガス発生装置70とを備えている。なお、本実施形態において、酸素濃度センサ20と、循環排出路30と、循環給入路35と、酸素除去装置40とは、それぞれ
図3に示す第1実施形態の酸素濃度センサ20と、循環排出路30と、循環給入路35と、酸素除去装置40と同じものであるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
図6に示すように、作製室11Aは、第1実施形態の作製室11と同様に、積層工程が行われる空間であり、固体電解質層111と正極活物質層121と負極活物質層131(
図1参照)とを積層して電極スタック100を作製する作製空間12を有している。作製空間12は、不活性ガス(例えば窒素)によって充填されている。作製室11Aには、第1実施形態の作製室11と同様に、循環排出口15および循環給入口16が形成されている。
【0087】
本実施形態では、作製室11Aには、排出口17が形成されている。排出口17には、排出路50が接続されている。この排出路50の一端は、排出口17に接続されており、作製室11Aの作製空間12と連通している。排出路50の他端は、作製室11Aの外部と連通している。排出路50は、例えば可撓性を有する材料(例えばゴムなど)によって形成されている。排出路50は、例えばチューブであり、管状のものである。
【0088】
排出路50には、排出ポンプ55が設けられている。排出ポンプ55は、排出手段の一例であり、排出口17を通じて作製空間12の酸素を少なくとも排出させるポンプである。排出ポンプ55を駆動させることで、作製空間12の気体に含まれる酸素および水分の一部が排出口17および排出路50を通じて作製室11Aの外部に排出される。また、本実施形態では、作製空間12は、不活性ガス雰囲気であるため、不活性ガスの一例である窒素も、酸素および水分と共に排出口17および排出路50を通じて排出される。
【0089】
本実施形態では、作製室11Aには、給入口18が形成されている。給入口18には、給入路60が接続されている。給入路60の一端は、給入口18に接続されており、作製室11Aの作製空間12と連通している。給入路60の他端は、不活性ガス発生装置70に接続されている。給入路60は、例えば可撓性を有する材料(例えばゴムなど)によって形成されている。給入路60は、例えばチューブであり、管状のものである。
【0090】
不活性ガス発生装置70は、不活性ガスを発生させて、発生させた不活性ガスを作製空間12に送り込む装置である。本実施形態では、不活性ガス発生装置70は、不活性ガスとして窒素を発生させる。しかしながら、不活性ガス発生装置70は、アルゴンを発生させてもよい。本実施形態では、不活性ガス発生装置70から発生した不活性ガスは、給入路60および給入口18を通じて作製室11Aの作製空間12に送り込まれる。
【0091】
図7に示すように、本実施形態に係る制御装置80Aは、第1実施形態の制御装置80と同様に、コンピュータの演算装置(プロセッサ、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-processing unit)とも称される。)や記憶装置(メモリーやハードディスクなど)によって構成されている。制御装置80Aは、酸素濃度センサ20、および、酸素除去装置40(詳しくは、循環ポンプ41)に通信可能に接続されている。また、制御装置80Aは、排出ポンプ55、および、不活性ガス発生装置70に通信可能に接続されている。制御装置80Aは、排出ポンプ55の駆動、および、不活性ガス発生装置70の不活性ガスを発生させるタイミングなどを制御する。
【0092】
本実施形態では、制御装置80Aは、記憶部81と、酸素除去制御部83と、測定部85と、判定部87と、排出制御部89Aと、給入制御部95と、第1通知部91と、第2通知部92とを備えている。制御装置80Aの各部は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。制御装置80Aの各部は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されるものであってもよいし、回路に組み込まれるものであってもよい。
【0093】
次に、本実施形態に係る電池作製設備10Aにおいて、作製室11Aの作製空間12の酸素濃度C1を調整する手順について、
図8のフローチャートに沿って説明する。
【0094】
本実施形態において、
図8に示すステップS201の酸素除去処理、ステップS203の測定処理、ステップS205の判定処理、および、ステップS207の検査不可通知処理は、それぞれ
図5に示す第1実施形態のステップS101の酸素除去処理、ステップS103の判定処理、ステップS105の判定処理、および、ステップS107の検査不可通知処理と同様の処理である。また、
図8に示すステップS211の検査可能通知処理、および、ステップS213の短絡検査は、それぞれ
図5に示す第1実施形態のステップS111の検査可能通知処理、および、ステップS113の短絡検査と同様の処理である。そのため、ステップS201、S203、S205、S207、S211、S213の各処理の説明は省略する。
【0095】
本実施形態では、
図8に示すように、ステップS207の検査不可通知処理の後に、ステップS209の排出処理と、ステップS210の給入処理が順に行われる。ステップS209の排出処理は、ステップS205の判定処理において、作製空間12の酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定されたとき、作製空間12に不活性ガスを給入する。本実施形態では、ステップS209の排出処理は、制御装置80Aの排出制御部89A(
図7参照)によって実行される。排出制御部89Aは、排出ポンプ55を駆動させるように排出ポンプ55を制御する。排出ポンプ55を駆動させると、
図6に示すように、作製空間12の酸素および水分が含まれた気体(典型的には、不活性ガス)が、排出口17および排出路50を通じて、作製室11Aの外部へ排出される。このことで、作製空間12内の酸素を排出することができる。
【0096】
図8に示すように、ステップS209の排出処理において、作製空間12の酸素を排出した後、ステップS210では、給入処理が行われる。給入処理は、作製空間12に不活性ガスを吸入する処理である。本実施形態では、給入処理は、制御装置80Aの給入制御部95(
図7参照)によって実行される。給入制御部95は、
図6に示す不活性ガス発生装置70を駆動させる。このことで、不活性ガス発生装置70から不活性ガス(典型的には、窒素)が発生する。不活性ガス発生装置70によって発生された不活性ガスは、給入路60および給入口18を通じて、作製空間12に送り込まれる。ステップS210の給入処理の後、ステップS203の測定処理が再度行われる。
【0097】
このように、ステップS209およびステップS210の処理が行われることで、作製空間12の酸素が排出されつつ、不活性ガスが作製空間12に供給される。そのため、作製空間12内の酸素濃度C1を低くすることができる。なお、ステップS209の排出処理が行われる時間および排出される酸素が含まれる気体の量、ならびに、ステップS210の給入処理が行われる時間および吸入される不活性ガスの量は、特に限定されず、ステップS203の測定処理によって測定された作製空間12の酸素濃度C1において適宜に設定されてもよい。
【0098】
以上、本実施形態では、
図6に示すように、作製室11Aには、給入口18が形成されている。電池作製設備10Aは、給入口18に接続され、作製空間12に不活性ガスを送り込む不活性ガス発生装置70を備えている。制御装置80Aは、排出処理(
図8のステップS209)の後、作製空間12に不活性ガスを給入する給入処理(
図8のステップS210)を実行可能に構成されている。例えば酸素除去装置40によって酸素を除去することができる酸素量を超えた酸素量を、排出処理で排出させたい場合があり得る。このような場合であっても、排出ポンプ55で酸素を排出した後に、給入処理で新たな不活性ガスを作製空間12に送り込むことで、作製空間12の酸素濃度C1を閾値Th1未満にすることができる。
【0099】
本実施形態では、
図8のステップS210の給入処理で給入される不活性ガスは、窒素である。このことによって、給入処理で、作製空間12に窒素を送り込むことで、作製空間12を不活性ガス雰囲気にすることができる。
【0100】
なお、本実施形態であっても、電極スタック100の作製空間形成方法が含まれる。電極スタック100の作製空間形成方法は、
図8のステップS203の測定処理に対応した測定工程と、
図8のステップS205の判定処理に対応した判定工程と、
図8のステップS209の排出処理に対応した排出工程と、
図8のステップS210の給入処理に対応した給入工程とを包含する。測定工程では、固体電解質層111と正極活物質層121と負極活物質層131とを積層して電極スタック100を作製する作製空間12の酸素濃度C1を測定する。判定工程では、測定工程で測定した酸素濃度C1が、予め設定された閾値Th1以上か否かを判定する。排出工程では、判定工程において、酸素濃度C1が閾値Th1以上であると判定したとき、作製空間12の酸素を排出する。給入工程では、排出工程で作製空間12の酸素を排出した後、作製空間12に新たな不活性ガスを給入する。かかる作製空間形成方法であっても、酸素濃度C1が閾値Th1未満となるように調整された作製空間12に電極スタック100が置かれるため、酸素濃度C1に起因した電極スタック100の電圧降下を生じ難くすることができる。したがって、短絡検査の際に、酸素濃度C1に起因した、短絡検査の誤検出の発生を抑制することができる。
【0101】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る電池作製設備10Bについて説明する。本実施形態に係る電池作製設備10Bは、
図6に示すように、第2実施形態の電池作製設備10Aと同様の構成であり、作製室11Aと、酸素濃度センサ20と、循環排出路30と、循環給入路35と、酸素除去装置40と、排出路50と、排出ポンプ55と、給入路60と、不活性ガス発生装置70とを備えている。
【0102】
図9は、本実施形態に係る電池作製設備10Bのブロック図である。本実施形態では、
図9に示すように、電池作製設備10Bは、制御装置80Bを更に備えている。制御装置80Bは、第1実施形態の制御装置80と同様に、コンピュータの演算装置(プロセッサ、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-processing unit)とも称される。)や記憶装置(メモリーやハードディスクなど)によって構成されている。制御装置80Bは、酸素濃度センサ20、および、酸素除去装置40(詳しくは、循環ポンプ41)に通信可能に接続されている。また、制御装置80Bは、排出ポンプ55、および、不活性ガス発生装置70に通信可能に接続されている。制御装置80Bは、排出ポンプ55の駆動、および、不活性ガス発生装置70の不活性ガスを発生させるタイミングなどを制御する。
【0103】
制御装置80Bは、記憶部81と、酸素除去制御部83と、測定部85と、判定部87と、第1排出制御部89Bと、第2排出制御部89Cと、給入制御部95と、除去判定部97と、第1通知部91と、第2通知部92とを備えている。制御装置80Bの各部は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。制御装置80Bの各部は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されるものであってもよいし、回路に組み込まれるものであってもよい。
【0104】
次に、本実施形態に係る電池作製設備10Bにおいて、作製室11Aの作製空間12の酸素濃度C1を調整する手順について、
図10のフローチャートに沿って説明する。
【0105】
本実施形態において、
図10のステップS301の酸素除去処理、ステップS303の測定処理、ステップS305の判定処理、および、ステップS307の検査不可通知処理は、それぞれ
図5に示す第1実施形態のステップS101の酸素除去処理、ステップS103の測定処理、ステップS105の判定処理、および、ステップS107の検査不可通知処理と同様の処理である。また、
図10のステップS311の検査可能通知処理、および、ステップS313の短絡検査は、それぞれ
図5の第1実施形態のステップS111の検査可能通知処理、および、ステップS113の短絡検査と同様の処理である。そのため、ステップS301、S303、S305、S307、S311、S313の各処理の説明は省略する。
【0106】
本実施形態では、
図10に示すように、ステップS307の検査不可通知処理の後に、ステップS308の除去判定処理が行われる。本実施形態では、除去判定処理は、制御装置80Bの除去判定部97(
図9参照)によって実行される。除去判定部97は、酸素除去制御を酸素除去装置40に行わせることが可能か否かを判定する。ここで、酸素除去制御とは、酸素除去装置40によって行われる制御であって、循環排出路30を通じて作製空間12の酸素および水分が含まれた気体を取り込み、取り込んだ気体から酸素および水分を除去した除去気体を、循環給入路35を通じて作製空間12に送り込む一連の制御のことである。
【0107】
図6に示すように、酸素除去装置40では、酸素および水分を吸着フィルタ42に吸着させることで、酸素および水分を含む気体から、酸素および水分を除去することができる。この吸着フィルタ42には、酸素および水分を吸着することができる上限量が予め設定されている。そのため、気体に上限量を超える酸素および水分が含まれている場合、酸素および水分を十分に除去することができない。
【0108】
そこで、本実施形態では、除去判定部97は、作製空間12の酸素濃度C1が除去閾値Th2(
図10参照)以上であるか否かを判定する。
図9に示すように、この除去閾値Th2は、記憶部81に予め記憶されている値であり、閾値Th1よりも高い値である。除去閾値Th2は、
図6に示す循環ポンプ41を駆動させて、作製空間12から取り込まれた空気に含まれる酸素量が、上記の上限値を超えるような値である。
【0109】
そのため、
図10のステップS308において、作製空間12の酸素濃度C1が除去閾値Th2未満の場合には、除去判定部97は、酸素除去装置40によって、作製空間12から取り込まれた空気に含まれる酸素の全てを除去することができると判定し、酸素除去制御を酸素除去装置40に行わせることが可能であると判定する。この場合、ステップS308の判定結果をNOとして、次に、ステップS309に進む。
【0110】
ステップS309では、第1排出処理を行う。このステップS309の第1排出処理は、第1実施形態のステップS109(
図5参照)の排出処理と同じである。すなわち、ステップS309では、
図9に示す第1排出制御部89は、酸素除去装置40の循環ポンプ41を駆動させることで、酸素除去装置40に酸素除去制御を行わせる。
図10に示すように、このような第1排出処理が行われた後、再度、ステップS303の測定処理を行う。
【0111】
一方、ステップS308において、作製空間12の酸素濃度C1が除去閾値Th2以上の場合には、除去判定部97は、酸素除去装置40によって、作製空間12から取り込まれた空気に含まれる酸素の全てを除去することができないと判定し、酸素除去制御を酸素除去装置40に行わせることが不可能であると判定する。この場合、ステップS308の判定結果をYESとして、次に、ステップS315の第2排出処理、および、ステップS317の給入処理を順に行う。
【0112】
なお、ステップS315の第2排出処理は、第2実施形態のステップS209(
図8参照)の排出処理と同じである。すなわち、ステップS315では、
図9に示す第2排出制御部89Aは、排出ポンプ55を駆動させるように排出ポンプ55を制御する。
図6に示すように、排出ポンプ55を駆動させると、作製空間12の酸素および水分が含まれた気体(典型的には、不活性ガス)が、排出口17および排出路50を通じて、作製室11Aの外部へ排出される。このことで、作製空間12内の酸素を排出することができる。
【0113】
図10のステップS317の給入処理は、第2実施形態のステップS210(
図8参照)の給入処理と同じである。すなわち、ステップS317では、
図9に示す給入制御部95は、不活性ガス発生装置70を駆動させる。このことで、不活性ガス発生装置70から不活性ガス(典型的には、窒素)が発生する。
図6に示すように、不活性ガス発生装置70によって発生された不活性ガスは、給入路60および給入口18を通じて、作製空間12に送り込まれる。
図10に示すように、ステップS317の給入処理の後、ステップS303の測定処理が再度行われる。
【0114】
以上のように、本実施形態では、酸素除去装置40が酸素除去制御を行うことが可能か否かによって、ステップS309の第1排出処理で酸素除去装置40を使用して作製空間12の酸素を排出するか、ステップS315の第2排出処理で排出ポンプ55を使用して作製空間12の酸素を排出するかを選択している。よって、酸素除去装置40が使用できない場合であっても、排出ポンプ55を使用して作製空間12の酸素を排出して、作製空間12の酸素濃度C1を低くすることができる。
【0115】
本実施形態では、ステップS308の除去判定処理では、ステップS305の測定処理で測定された酸素濃度C1が、閾値Th1よりも高い除去閾値Th2以上か否かを判定し、除去閾値Th2未満のとき、酸素除去制御を酸素除去装置40に行わせることが可能であると判定する。このように、測定された作製空間12の酸素濃度C1に応じて、酸素除去装置40を使用して作製空間12の酸素を排出するか、排出ポンプ55を使用して作製空間12の酸素を排出するかを選択することで、作製空間12の酸素濃度C1を低くすることができる。
【符号の説明】
【0116】
10、10A、10B 電池作製設備
11 作製室
12 作製空間
15 循環排出口
16 循環給入口
17 排出口
18 給入口
20 酸素濃度センサ
30 循環排出路
35 循環給入路
40 酸素除去装置
50 排出路
55 排出ポンプ
60 給入路
70 不活性ガス発生装置
80、80A、80B 制御装置
100 電極スタック
111 固体電解質層
121 正極活物質層
131 負極活物質層