(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】経皮吸収抑制剤および害虫忌避剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20230907BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20230907BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20230907BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20230907BHJP
A01N 47/16 20060101ALI20230907BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20230907BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01N25/02
A01N25/06
A01N37/18 Z
A01N47/16 A
A01N53/08 110
A01P17/00
(21)【出願番号】P 2020046287
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】市川 晶子
(72)【発明者】
【氏名】関口 孝治
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030532(WO,A1)
【文献】特開2004-323347(JP,A)
【文献】特開2017-149653(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133124(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0138420(US,A1)
【文献】株式会社 東ソー分析センター,[技術資料] GPC法 (SEC法)入門講座,技術レポート, [online],2013年10月01日,p.1-6,[2023年4月20日検索], インターネット,<http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00297/t1001y.html>,<http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00297/pdf/T1001Y.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8の害虫忌避成分の経皮吸収を抑制する経皮吸収抑制剤であって、
式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足することを特徴とする、経皮吸収抑制剤。
Z-[O-(PO)a-[(PO)b/(EO)c]-H]n ・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~
6かつ1~
3個の水酸基を有する化合物から、全ての水酸基を除いた残基を示し、
nは1~
3の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ前記オキシプロピレン基POの平均付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの平均付加モル数を示し、
100≧a+b+c≧
15かつb/c=
1/3~5/1であり、
(PO)b/(EO)cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが
0.80≦x≦
0.97である。)
5≦Mz/Mw≦60 ・・・ (2)
【請求項2】
(A)請求項1記載の経皮吸収抑制剤0.1~20質量%、
(B)前記害虫忌避成分を0.1~50質量%、および
(C)溶剤を99.8~30質量%含有することを特徴とする、害虫忌避成分の経皮吸収が抑制される害虫忌避剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面温度が高い場合も害虫忌避成分の経皮吸収が抑制され、塗布時の害虫忌避成分由来の臭気を改善する新規な疎水性物質の経皮吸収抑制剤、およびそれを含む害虫忌避剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本来、皮膚は身体の表面を覆って、体の内部や各器官を保護し、外部からの異物の侵入や刺激から体を守る重要な器官である。しかし、物質の中には皮膚内に浸透しやすい薬物もある。浸透しやすい物質の条件としては、分子量が500以下であること(非特許文献1)、オクタノール/水分配係数(LogKO/W、LogPO/W)が1~3で、適度に脂溶性であること(非特許文献2)等が知られている。皮膚に浸透する物質としては、ニトログリセリン、エストラジオール、N,N-ジエチル-m-トルアミドなどが挙げられる。
【0003】
例えば、害虫から人体を守る害虫忌避剤は、害虫忌避成分としては、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、ピレスロイド剤、植物由来の精油等が使用されており、中でも、蚊に対する忌避効果が高いDEETをエタノール等の溶剤で可溶化したものが最も汎用的に使用されている。しかしながら、これらの害虫忌避成分は、経皮吸収がされ易いこと、揮発性を有していることから、皮膚表面から消失して効果が持続しにくいという課題があった。また、持続性を改善するために、忌避成分の配合量を増やすと、経皮吸収された忌避成分による刺激が生じたりするという課題があった。
【0004】
害虫忌避剤による刺激を緩和する手法として、特許文献1では、特定のアルキレンオキシド誘導体を含有した、害虫忌避効果の持続性に優れ、皮膚に対する刺激(ひりひり感)が少なく、塗布後の感触が滑らかで、経時安定性に優れる害虫忌避剤組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、特定のアルキレンオキシド誘導体を含有することで、害虫忌避剤の皮膚内部への浸透を抑制し、薬剤による刺激を減少させ、害虫忌避効果の持続性を向上させる手法が提案されている。
害虫忌避剤は、蚊が増えることから、夏、特に野外で使用されることが多いが、夏の野外や日差しの下では人間の皮膚表面温度が40℃を超えることがある。このように表面温度が高い状態では、皮膚への疎水性物質の浸透が促進され、皮膚刺激が起こりやすくなるという問題があった。
【0006】
一方、DEET等の害虫忌避成分については、忌避成分それ自体が特有の臭いを有しているという問題があった。そのため、例えば特許文献3には、害虫忌避成分、エタノールなどの水溶性溶剤及び水を配合し、水に対する水溶性溶剤の質量比が1.2~3.0となるよう規定することによって、皮膚感触と臭気を改善する手法が提案されている。しかし水溶性溶剤は害虫忌避成分の吸収を促進する可能性があった。
【0007】
このような背景から、皮膚表面温度が高い場合も高い吸収抑制効果を示し、塗布時の害虫忌避成分由来の臭気を改善する経皮吸収抑制剤およびその組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-70049号公報
【文献】WO 2018/030532号パンフレット
【文献】特開2003-192503号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】R.C. Wester et. al.; Percutaneous absorption. Mechanisms-Methodology-Drug-Delivery, New York, 107-23, 1983
【文献】T. Yano et al.; Life Sci., 39, 1043-50, 1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、皮膚表面温度が高い場合も害虫忌避成分の経皮吸収が抑制され、塗布時の害虫忌避成分由来の臭気を改善する新規な疎水性物質の経皮吸収抑制剤、およびそれを含む害虫忌避剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ゲル浸透クロマトグラフィー測定で求められる分子量パターンが左右非対称であり、分子量分布が高分子量側に偏った新規アルキルオキシド誘導体が、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8の害虫忌避成分の経皮吸収を抑制する経皮吸収抑制剤であって、
式(1)で表され、かつゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出される重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが式(2)の関係を満足することを特徴とする、経皮吸収抑制剤。
Z-[O-(PO)a-[(PO)b/(EO)c]-H]n ・・・(1)
(式(1)中、
Zは、炭素数1~6かつ1~3個の水酸基を有する化合物から、全ての水酸基を除いた残基を示し、
nは1~3の数を示し、
POはオキシプロピレン基を示し、
EOはオキシエチレン基を示し、
aおよびbは、それぞれ前記オキシプロピレン基POの平均付加モル数を示し、
cは前記オキシエチレン基EOの平均付加モル数を示し、
100≧a+b+c≧15かつb/c=1/3~5/1であり、
(PO)b/(EO)cは前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOがランダム付加していることを示し、前記オキシプロピレン基POと前記オキシエチレン基EOのランダム率xが0.80≦x≦0.97である。)
5≦Mz/Mw≦60 ・・・ (2)
【0013】
(2) (A)請求項1記載の経皮吸収抑制剤0.1~20質量%、
(B)害虫忌避成分を0.1~50質量%、および
(C)溶剤を99.8~30質量%含有することを特徴とする、害虫忌避成分の経皮吸収が抑制される害虫忌避剤組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規アルキルオキシド誘導体によれば、皮膚表面温度が高い場合も害虫忌避成分の経皮吸収が抑制され、塗布時の害虫忌避成分由来の臭気を改善する新規な疎水性物質の経皮吸収抑制剤、およびそれを含む害虫忌避剤組成物を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明にて定義されるMz/Mwを説明するためのモデルクロマトグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~5」は、2以上、5以下を表す。
【0017】
(成分(A):アルキレンオキシド誘導体)
本発明のアルキルオキシド誘導体は、式(1)で示される化合物である。
Z-[O-(PO)a-[ (PO)b/(EO)c]-H]n ・・・・(1)
【0018】
Zは、炭素数1~6であり、かつ1~3個の水酸基を有する化合物(Z(OH)n)から全ての水酸基を除いた残基であり、nは化合物(Z(OH)n)の水酸基の数で1~3である。1~3個の水酸基を有する化合物(Z(OH)n)としては、n=1であれば、メタノール、エタノール、ブタノール、n=2であればエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、n=3であればグリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。また、1~3個の水酸基を有する化合物として、これらの混合物を用いても良い。n=1~3が最も好ましく、n=1が特に好ましい。
【0019】
n=1の場合、式(1)において、Zは、R1である。R1は、炭素数1~6の炭化水素基である。R1で示される炭素数1~6の炭化水素基は、炭素と水素からなる官能基であり、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基から選ばれる1種であり、好ましくはアルキル基またはアルケニル基であり、炭素数1~6のアルキル基またはアルケニル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が最も好ましい。炭素数1~6のアルキル基としては直鎖でも分岐でも良いが、直鎖のものがより好ましい。炭素数1~6の直鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などを挙げることができる。R1で示される炭素数1~6の炭化水素基は1種のみでも、2種以上でもよい。
【0020】
POはオキシプロピレン基、EOはオキシエチレン基、a,bはそれぞれPO、EOの平均付加モル数を示す。aは0~100の数を示し、bは1~100の数を示し、cは1~200を示し、a+b+c≧10である。
【0021】
(PO)b/(EO)cは、POとEOがランダム付加してなるポリオキシアルキレン基を示し、POとEOのモル比(b/c)は1/3~5/1、POとEOのランダム率xが0.80≦x≦0.97である。
a+b+cが15未満であると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。こうした観点から、a+b+cを15以上とすることが更に好ましく,25以上が最も好ましい。
また、a+b+cが大きくなるにつれて粘度が上昇する。分散・配合のしやすさの観点から、a+b+cは100以下とすることが特に好ましい。
また、PO、EOの全平均付加モル数n×(a+b+c)は、30以上とすることが好ましく、40以上とすることが更に好ましく、50以上とすることが最も好ましい。また、100以下とすることが好ましく、80以下とすることが最も好ましい。
【0022】
b/cが1/3未満であると、害虫忌避剤組成物とした際にべたつきが生じる可能性がある。5/1以上であると製剤安定性が悪くなる可能性がある。b/cは好ましくは1/3~3/1であり、より好ましくは1/3~2/1である。
【0023】
POとEOのランダム率xは、式(3)より求められる。
x=(b+c)/(a+b+c) ・・・(3)
ランダム率xは0.80≦x≦0.97とする。ランダム率xが0.80未満になると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。0.8以上とすることが特に好ましく、0.85以上が最も好ましい。
また、ランダム率xは0.97以下であることが最も好ましい。
【0024】
(アルキレンオキシド誘導体のGPC特性)
本発明のアルキレンオキシド誘導体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)において、示差屈折率計を用いて得られたクロマトグラムによって得られる分子量に規定される。このクロマトグラムとは、屈折率強度と溶出時間との関係を表すグラフである。
【0025】
本発明の誘導体では、クロマトグラムから得られる重量平均分子量(Mw)とz平均分子量(Mz)の比率Mz/Mwが5≦Mz/Mw≦60である。
【0026】
図1のクロマトグラムのモデル図を参照しつつ、Mz/Mwの算出方法について更に説明する。横軸は溶出時間を、縦軸は示差屈折率計を用いて得られた屈折率強度を示す。ゲル浸透クロマトグラフに試料溶液を注入して展開すると、最も分子量の高い分子から溶出が始まり、屈折率強度の増加に伴い、溶出曲線が上昇していく。その後、屈折率強度が最大となる極大点を過ぎると、溶出曲線は下降していく。
【0027】
ここでMw、MzはGPCからそれぞれ下記式によって求められる。
【数1】
【0028】
ただし、Nはポリマー分子の数、Mは分子量、Cは試料濃度である。
Mwは、分子量を重みとして用いた加重平均、Mzは、分子量の2乗を重みとして用いた加重平均である。Mwは高分子量の存在に影響を受け、MzはMwよりもさらに大きく高分子量の存在に影響を受ける。そのため本発明のアルキレンオキシド誘導体は
図1に示したクロマトグラムのようなMw、Mzが得られる。
【0029】
Mz/Mwが5より小さくなると、経皮吸収抑制効果が不十分になる可能性がある。Mz/Mwが60より大きくなると、分子量分布における高分子量側の偏りが大きくなり粘度の上昇などが見られ、各製剤へ分散・配合しにくくなる。この観点から、Mz/Mwが60以下であることが好ましく、40以上であることが更に好ましく、50以上であることが特に好ましい。
【0030】
本発明において、Mz/Mwを求めるためのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)は、システムとしてSHODEX(登録商標) GPC101GPC専用システム、示差屈折率計としてSHODEX RI-71s、ガードカラムとしてSHODEX KF-G、カラムとしてHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1ml/分の流速で流し、得られた反応物の0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mlを注入し、BORWIN GPC計算プログラムを用いて屈折率強度と溶出時間で表されるクロマトグラムを得る。
【0031】
本発明のアルキレンオキシド誘導体を製造する際には、好ましくは、開始剤として、複合金属シアン化物触媒(以下、DMC触媒と略記する)の存在下で、炭素数3のアルキレンオキシド、すなわちオキシプロピレンを開環付加させる。反応容器内に、分子中に少なくとも1個の水酸基を有する開始剤とDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の攪拌下、オキシプロピレンを連続もしくは断続的に添加し付加重合する。オキシプロピレンは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
【0032】
この時、オキシプロピレンの平均供給速度に制限はないがオキシプロピレンの仕込み量によって変化させることが望ましい。具体的にはオキシプロピレンの全供給量の5~20wt%を供給する間の速度(単位時間あたりの供給量)をV1、オキシプロピレンの全供給量の20~50wt%を供給する間の速度をV2、オキシプロピレンの全供給量の50~100wt%を供給する間の速度をV3としたとき、V1/V2=1.1~2.0、V2/V3=1.1~1.5となるようにオキシプロピレンの平均供給速度を制御することが好ましい。
【0033】
また、反応温度は、50℃~150℃が好ましく、70℃~110℃がより好ましい。反応温度が150℃より高いと、触媒が失活するおそれがある。反応温度が50℃より低いと、反応速度が遅く生産性に劣る。
【0034】
本発明における開始剤としては、式(1)において、Z(OH)nとして、炭素数1~24かつ水酸基の数xが1~6の化合物もしくはそれら化合物にオキシプロピレン付加したものを使用することができる。開始剤としては、例えば、ブタノール、ブチルプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン、アルキルグリコシド、キシリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、イノシトールなどが挙げられる。ZがR1である場合には、開始剤としては、R1で示される炭素数1~24の炭化水素基を有する1価アルコール(R1OH)を使用することができる。
【0035】
開始剤およびオキシプロピレンに含まれる微量の水分量については特に制限はないが、開始剤に含まれる水分量については、0.5wt%以下、オキシプロピレンについては0.01wt%以下であることが望ましい。
【0036】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するアルキレンオキシド誘導体に対して、0.0001~0.1wt%が好ましく、0.001~0.05wt%がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して導入してもよいし、順次分割して導入してもよい。重合反応終了後、複合金属錯体触媒の除去を行う。触媒の除去はろ別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことが出来る。
本発明におけるDMC触媒は公知のものを用いることができるが、たとえば、式(6)で表わすことができる。
Md[M’y(CN)z]e(H2O)f・(R)g ・・・(6)
【0037】
式(6)中、MおよびM’は金属、Rは有機配位子、d、e、yおよびzは金属の原子価と配位数により変わる正の整数であり、fおよびgは、金属の配位数により変わる正の整数である。
金属Mとしては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などがあげられ、なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
金属M’としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などがあげられ、なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0038】
有機配位子Rとしてはアルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましくはtert-ブチルアルコールが配位したZn3[Co(CN)6]2である。
【0039】
(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量を100質量%としたとき、(A)成分の含有量は、好ましくは0.1~20質量%とすることが好ましく、更に好ましくは0.5~15質量%、特に好ましくは0.5~10質量%である。(A)成分の含有量が少なすぎると、経皮吸収抑制効果が不十分になる場合があり、含有量が多すぎると、害虫忌避剤組成物とした際にべたつきが生じる可能性がある。
【0040】
(成分(B):害虫忌避成分)
本発明に用いる害虫忌避成分(B)は、害虫を寄せ付けない作用を有する薬剤で、例えば、ピレトリン、ジャスモリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、ビフェントリン、シラフルオフェン等のピレスロイド剤、プロポクスル、フェノブカルブ等のカーバメート剤、ジクロルボス、フェンチオン、フェニトロチイオン等の有機リン剤、イミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系等の害虫駆除成分、また、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、イカリジン、2,3,4,5-ビス-(δ-ブチレン)-テトラヒドロフルフラール(MGK-11)、イソシンコメロン酸ジ-n-プロピル(MGK-326)等の化学合成忌避成分、ナフタリン、しょうのう、パラジクロロベンゼン等の衣類用防虫剤、ユーカリ油、シトロネラ油、レモングラス油、ハッカ油、ゼラニウム油、ローズマリー油、タイム油等の精油、p-メンタン-3,8-ジオール、L-メントール、シネオール、α-ピネン、シトロネラール、カンファー、リナロール等の精油由来の害虫忌避成分が挙げられる。
【0041】
中でも、安全性、害虫忌避効果の観点から、N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、イカリジン、フェノトリン、精油が好ましく、より好ましくはN,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)である。
【0042】
本発明で用いる(B)害虫忌避成分は、オクタノール/水分配係数LogPO/Wが0~8である。こうした害虫忌避成分は、皮膚に吸収されやすく、このため本発明の作用効果が特に顕著となる。こうした観点から、(B)害虫忌避成分のオクタノール/水分配係数LogPO/Wを0~8とするが、0~5が更に好ましく、0~3が特に好ましい。
【0043】
本発明において、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量を100質量%としたとき、害虫忌避成分(B)の含有量は、好ましくは0.1~50質量%である。害虫忌避成分(B)の添加量が0.1質量%未満の場合は、十分な害虫忌避効果が得られにくい。このため、害虫忌避成分(B)の添加量は、0.1質量%以上とすることが好ましく、1質量%以上が好ましく、3質量%以上が更に好ましい。また、害虫忌避成分(B)の添加量が50質量%を上回ると、塗布時の感触が悪化したり、皮膚刺激を生じたりする場合がある。このため、害虫忌避成分(B)の添加量は、50質量%以下とするが、20質量%以下が好ましく、15質量%以下が更に好ましい。
【0044】
(成分(C):溶剤)
溶剤(C)としては、水、水溶性有機溶媒、および水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が好ましく、水と水溶性有機溶剤の質量比率が3:1~1:1の混合溶媒がさらに好ましい。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-メチル-2-プロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等を例示できる。水溶性有機溶剤の中でもメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールが好ましく、さらに好ましくはエタノールである。
(C)溶剤の含有量は、成分(A)および成分(B)の残部であるので,99.8~30質量%となる。
【0045】
(添加剤)
本発明の害虫忌避剤組成物に対しては、通常添加可能な添加剤を更に加えることができる。こうした添加剤としては、界面活性剤、炭化水素油、エステル油、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン油等の油分、グリセリン、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の保湿剤、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール等の防腐剤、エチレンジアミン四酢酸塩、エデト酸等のキレート剤、ジステアリン酸エチレングリコール等のパール化剤、パラメトキシケイ皮酸エステル、メトキシジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤、増粘剤、酸化防止剤、pH調整剤、植物抽出物、アミノ酸、ビタミン類、色素、香料を適宜配合することができる。
【0046】
本発明の害虫忌避剤組成物は、常法に従って製造できる。また、その剤型は任意であり、透明系液体状、パール系液体状、ペースト状、クリーム状、ゲル状、固形状、エアゾール型スプレー、非エアゾール型のスプレー状として使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(複合金属シアン化物錯体触媒の合成)
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mlの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートK3Co(CN)6を0.84g含む15mlの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16ml、tert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目濾過)を行い、固体を得た。この固体に、水14ml、tert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(2回目濾過)を行い、固体を得た。
【0048】
さらに再度、この固体にtert-ブチルアルコール18.6g、メタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち濾過操作(3回目濾過)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、複合金属シアン化物錯体触媒0.7gを得た。
【0049】
(合成例1:実施例化合物A1の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと複合金属シアン化物錯体触媒0.03gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、オキシプロピレン176gを滴下し、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を測定したところ、1時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を90℃に保ちながら、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にオキシプロピレン1054gとオキシエチレン1164gの混合物を滴下した。添加終了後、90℃で1時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、ろ過を行った。得られた化合物1について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0050】
ただし、ブタノールはKHネオケム製、オキシプロピレンは住友化学製、オキシエチレンは日本触媒製のものを用いた。
【0051】
(合成例2、3:実施例化合物A2、A3の合成)
出発原料、オキシプロピレンとオキシエチレンの平均付加モル数、ランダム率以外は、合成例1と同様の方法で化合物を合成した。得られた実施例化合物A2、A3について、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0052】
(合成例4:比較例化合物A’1の合成)
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイル、蒸気ジャケットを装備した5Lオートクレーブに、ブタノール56gと触媒としての水酸化カリウム6.0gを仕込み、窒素置換後、110℃へと昇温し、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にオキシプロピレン1230gとオキシエチレン1164gの混合物を滴下した。添加終了後、110℃で1.5時間反応させ、75~85℃で1時間減圧処理後、反応物を5Lナスフラスコに移し、速やかに1N塩酸で中和し、窒素ガス雰囲気下で脱水後、ろ過を行った。
【0053】
合成例1~4のクロマトグラムから求められるMz/Mw、化合物の特性を表1に示す。ただし、水酸基価はJIS K-1557-1に準拠して測定したものであり、分子量は水酸基価より算出したものである。
【0054】
更に、比較例化合物として、市販品である、SY-DP9(ポリオキシプロピレン(9)ジグリセリルエーテル、坂本薬品工業製)を用いた。
【0055】
(実施例1~7、比較例1~5の調製)
各実施例、比較例組成物を調製した。表2~5に示した組成で原料を配合し、室温で均一になるまで混合することによって、液状の害虫忌避剤組成物を得た。
【0056】
(経皮吸収抑制試験)
得られた害虫忌避剤組成物を用いて、下記方法に従い、害虫忌避成分の経皮吸収率を測定した。なお、試験装置として、垂直型拡散セルを使用した。
1. 皮膚透過性試験用メンブレン(Strat-M、メルクミリポア社製)を垂直型拡散セルに、メンブレンの真皮構造側がレセプターセル側に位置するように取り付けた。
2. メンブレンの角層構造側に、上記調製した害虫忌避組成物を約1mL滴下し、アルミ箔で覆い、固定した。
3. レセプターセルには純水を5mL満たした。
4. 実験の間、レセプターセルはスターラーでセル内の純粋を撹拌させ、レセプターセルを覆っているウォータージャケットには、ヒーター/サーキュレーターにより、45℃の温水を循環させることで、レセプターセル内の温度を45℃で一定に保った。
5. レセプターセル内の温度が45℃になった時点から、1時間後に、レセプターセル2のサンプリング・ポートより生理食塩水を400μLサンプリングし、その後同量の純水を戻し、液量を一定にした。
6. サンプリング液中の害虫忌避成分量をHPLCによって測定した。害虫忌避成分量の測定結果より、下記式により、ブランクに対する相対経皮吸収率(%)を算出した。
1時間後のブランクに対する経皮吸収率=
(1時間後の実施例および比較例の経皮吸収量)/(1時間後のブランクの経皮吸収量)×100
【0057】
得られたブランクに対する相対経皮吸収率について、下記の基準で判定し、試験結果を表2、3に記載した。
◎: ブランクに対する相対経皮吸収率が、30%未満である
○: ブランクに対する相対経皮吸収率が、30%以上、40%未満である
△: ブランクに対する相対経皮吸収率が、40%以上、60%未満である
×: ブランクに対する相対経皮吸収率が、60%以上である
【0058】
(塗布時の臭気の改善効果)
害虫忌避剤であるDEETについて、塗布時の臭気の改善効果を評価した。実施例1および4~7、比較例1、4、5を、モニター10名の腕に2mlずつスプレーで塗布し、官能評価を行った。塗布時の臭気について、ブランクと比較して、下記評点基準により3段階で相対評価した。10名の合計点を算出し、以下の評価基準により評価した。試験結果を表4,5に記載した。
評点基準
3点: 害虫忌避成分由来の臭気が改善されている
2点: 害虫忌避成分由来の臭気がやや改善されている
1点: 害虫忌避成分由来の臭気が改善されていない
評価基準
◎: 25点以上
○: 20点以上、25未満
△: 20点未満
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
実施例1~7より、本発明の害虫忌避剤組成物は、いずれも体温より高い45℃下での試験で、経皮吸収の抑制、および害虫忌避成分由来の臭気の改善効果に優れていた。
【0065】
これに対して、比較例1~5から明らかなように、本発明のアルキレンオキシド誘導体に該当しない比較例化合物1や、比較例物質は、経皮吸収の抑制、および害虫忌避成分由来の臭気の改善効果を満たさなかった。