(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】シアン酸エステル及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 261/02 20060101AFI20230907BHJP
C08G 73/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C07C261/02 CSP
C08G73/06
(21)【出願番号】P 2019216911
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安田 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】岩本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】荒井 啓克
(72)【発明者】
【氏名】松下 海瑠
(72)【発明者】
【氏名】片桐 誠之
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222833(JP,A)
【文献】特開2018-168085(JP,A)
【文献】特開2015-199905(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021869(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/057144(WO,A1)
【文献】特開平11-124434(JP,A)
【文献】特開昭58-34822(JP,A)
【文献】ネットワークポリマー論文集,2019年11月10日,Vol.40, No.6,pp.287-300
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 261/02
C08G 73/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=2~4成分の含有量の合計が80面積%以上である、
シアン酸エステル。
【化1】
(式(1)中、nは繰り返し単位数を表す。Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項2】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n≧5成分の含有量が15面積%以下である、
請求項1に記載のシアン酸エステル。
【請求項3】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=1成分の含有量が12面積%以下である、
請求項1又は2に記載のシアン酸エステル。
【請求項4】
ポリスチレン換算における重量平均分子量(Mw)が300以上700以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
【請求項5】
ポリスチレン換算における、重量平均分子量(Мw)と数平均分子量(Mn)との分散比(Mw/Mn)が、1以上1.5以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
【請求項6】
Rが、水素原子である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のシアン酸エステルを含む、
樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、マレイミド化合物を含有する、
請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、前記シアン酸エステル以外のシアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
請求項7又は8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、
硬化物。
【請求項11】
基材と、
前記基材に含浸又は塗布された、請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を有する、
プリプレグ。
【請求項12】
請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
封止用材料。
【請求項13】
請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、強化繊維と、を含む、
繊維強化複合材料。
【請求項14】
請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン酸エステル及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン酸エステルは、硬化時にトリアジン環を形成する熱硬化性樹脂として知られている。シアン酸エステルにより得られる硬化物は、ガラス転移温度が高く、誘電率及び誘電正接が低く、電気絶縁性や難燃性にも優れるなど、優れた性質を有している。そのため、従来より、シアン酸エステルは、電気電子材料や構造用複合材料、接着剤、その他、種々の機能性高分子材料の原料として幅広く用いられている。
【0003】
このような事情のもと、より優れた性質を有するシアン酸エステルの開発が進められている。例えば、特許文献1には、誘電率及び誘電正接が低く、且つ、優れた難燃性及び耐熱性を有する硬化物を実現可能であり、しかも比較的に低粘度で優れた溶剤溶解性を有し取扱性にも優れる新規なシアン酸エステル化合物として、フェノール変性キシレンホルムアルデヒド樹脂をシアネート化して得られるシアン酸エステル化合物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、常温において液状で、かつ優れた低熱膨張率を有する硬化物が得られる新規な2官能シアナトフェニルタイプのシアン酸エステルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2013/021869A1
【文献】WO2012/057144A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されるようにシアン酸エステルとしては、所定の樹脂骨格を有するものが知られている。このように複数の繰り返し単位からなる樹脂骨格を有するシアン酸エステルは、繰り返し単位数の異なるシアン酸エステルの混合物であり、広い分子量分布を有する。
【0007】
本発明者らの検討の結果、このような繰り返し単位数の異なるシアン酸エステルの混合物を硬化させた場合に、硬化の途中で急激に粘度上昇が生じるなど、粘度上昇速度が一定とはならないことが分かってきた。硬化時の粘度上昇速度が一定でないと、硬化反応の制御がしにくく、取り扱い性に劣ったり、硬化不足などが生じたりする可能性がある。
【0008】
また、一方で、特許文献2に開示されるように分散のない低分子型のシアン酸エステルでは、重量減少率の点から問題が生じることが分かってきた。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低粘度のためハンドリング性に優れ、硬化時の粘度上昇速度が一定であり、かつ、重量減少率の低い、新規なシアン酸エステル、及び該シアン酸エステルを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、狭分散化することにより、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
下記式(1)で表される構造を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=2~4成分の含有量の合計が80面積%以上である、
シアン酸エステル。
【化1】
(式(1)中、nは繰り返し単位数を表す。Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。)
〔2〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n≧5成分の含有量が15面積%以下である、
〔1〕に記載のシアン酸エステル。
〔3〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=1成分の含有量が12面積%以下である、
〔1〕又は〔2〕に記載のシアン酸エステル。
〔4〕
ポリスチレン換算における重量平均分子量(Mw)が300以上700以下である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
〔5〕
ポリスチレン換算における、重量平均分子量(Мw)と数平均分子量(Mn)との分散比(Mw/Mn)が、1以上1.5以下である、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
〔6〕
Rが、水素原子である、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のシアン酸エステル。
〔7〕
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載のシアン酸エステルを含む、
樹脂組成物。
〔8〕
さらに、マレイミド化合物を含有する、
〔7〕に記載の樹脂組成物。
〔9〕
さらに、前記シアン酸エステル以外のシアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
〔7〕又は〔8〕に記載の樹脂組成物。
〔10〕
〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を硬化させてなる、
硬化物。
〔11〕
基材と、
前記基材に含浸又は塗布された、〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、
を有する、
プリプレグ。
〔12〕
〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
封止用材料。
〔13〕
〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物と、強化繊維と、を含む、
繊維強化複合材料。
〔14〕
〔7〕~〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む、
接着剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低粘度によりハンドリング性に優れ、硬化時の粘度上昇速度が一定であり、かつ、重量減少率の低い、新規なシアン酸エステル、及び該シアン酸エステルを含む樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1及び比較例1で得られたシアン酸エステルの硬化の進行を示す図であって、横軸を時間とし、縦軸をlog(測定時粘度η/初期粘度η
0)として、重合の進行度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
〔シアン酸エステル〕
本実施形態のシアン酸エステルは、下記式(1)で表される構造を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=2~4成分の含有量の合計が80面積%以上のものである。
【化2】
(式(1)中、nは繰り返し単位数を表す。Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。)
【0016】
上記式(1)において、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。このなかでも、Rは水素原子であることが好ましい。
【0017】
上記式(1)において、nは、繰り返し単位数を表し、1以上の整数であり、好ましくは1~20である。本実施形態のシアン酸エステルは、上記式(1)においてnの異なる成分を含む混合物であり、上記式(1)においてnが2である成分、nが3である成分、及びnが4である成分が大部分を占める狭分散シアン酸エステルである。
【0018】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=2~4成分の含有量の合計は、80面積%以上であり、好ましくは82面積%以上であり、より好ましくは85面積%以上であり、さらに好ましくは90面積%以上であり、特に好ましくは95面積%以上である。n=2~4成分の含有量の合計が80面積%以上であることにより、粘度が低く、かつ硬化時の粘度上昇速度が一定となる。また、n=2~4成分の含有量の合計の上限は特に制限されないが、好ましくは99面積%以下であり、より好ましくは98面積%以下であり、さらに好ましくは97面積%以下である。n=2~4成分の含有量の合計が99面積%以下であることにより、製造コストが抑えられる傾向にある。
【0019】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n=1成分の含有量は、好ましくは12面積%以下であり、より好ましくは10面積%以下であり、さらに好ましくは5面積%以下であり、特に好ましくは3面積%以下である。n=1成分の含有量が12面積%以下であることにより、重量減少率が低下する傾向にある。また、n=1成分の含有量の下限は特に制限されないが、好ましくは0.1面積%以上であり、より好ましくは0.3面積%以上であり、さらに好ましくは0.5面積%以上である。n=1成分の含有量が0.1面積%以上であることにより、製造コストが抑えられる傾向にある。
【0020】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%において、n≧5成分の含有量は、好ましくは15面積%以下であり、より好ましくは10面積%以下であり、さらに好ましくは5面積%以下であり、特に好ましくは3面積%以下である。n≧5成分の含有量が15面積%以下であることにより、粘度がより低下する傾向にある。また、n≧5成分の含有量の下限は特に制限されないが、好ましくは1面積%以上であり、より好ましくは1.5面積%以上であり、さらに好ましくは2面積%以上である。n≧5成分の含有量が1面積%以上であることにより、製造コストが抑えられる傾向にある。
【0021】
上記各成分の含有量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより得られたクロマトグラムから、シアン酸エステルに該当するクロマトグラム全体の面積と、そのシアン酸エステルのn成分ごとのピーク面積を算出し、全体の面積に対する各成分のピーク面積の割合(面積%)で表すことができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件としては、例えば、実施例に記載する条件が挙げられるがこれに限定されるものではなく、適宜、面積%により各成分を定量できる条件を用いることができる。
【0022】
本実施形態のシアン酸エステルの、ポリスチレン換算における重量平均分子量(Mw)(以下、単に「重量平均分子量(Mw)」ともいう。)は、好ましくは300以上700以下であり、より好ましくは300以上600以下であり、さらに好ましくは350以上500以下である。シアン酸エステルの重量平均分子量(Mw)が300以上であることにより、n=1成分が相対的に少なくなり、重量減少率が低下する傾向にある。また、シアン酸エステルの重量平均分子量(Mw)が700以下であることにより、n≧5成分が相対的に少なくなり、粘度が低下する傾向にある。
【0023】
本実施形態のシアン酸エステルの、重量平均分子量(Мw)とポリスチレン換算における数平均分子量(Mn)(以下、単に「数平均分子量(Mn)」ともいう。)との分散比(Mw/Mn)は、好ましくは1以上1.5以下であり、より好ましくは1以上1.4以下であり、さらに好ましくは1以上1.3以下であり、特に好ましくは1以上1.2以下である。分散比(Mw/Mn)が1.5以下であることにより、n=2~4成分の合計含有量が80面積%以上であるなかでも、より狭分散なシアン酸エステルを得ることができる。これにより、粘度がより低くなり、かつ硬化時の粘度上昇速度が一定となる傾向にある。
【0024】
上記シアン酸エステルの重量平均分子量(Мw)と、数平均分子量(Mn)と、分散比(Mw/Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより算出することができる。この際に用いるゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定条件については、n成分の含有量を求める条件と同様の条件を用いることができる。
【0025】
〔シアン酸エステルの製造方法〕
本実施形態のシアン酸エステルは、式(1)と同様の骨格を有する下記式(2)で表されるフェノール樹脂の有するヒドロキシ基をシアネート化するシアネート化工程を有する製造方法により得ることができる。
【化3】
(式(2)中、nは繰り返し単位数を表す。Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。)
【0026】
なお、上記式(2)において、n及びRは、式(1)と同様のものを例示することができる。また、式(2)で表されるフェノール樹脂としては、特に制限されないが、例えば、上記式(2)においてnの異なる成分を含む混合物を用いることができる。この場合、フェノール樹脂は、上記式(2)においてnが2である成分、nが3である成分、及びnが4である成分が大部分を占める狭分散フェノール樹脂であることが好ましい。
【0027】
フェノール樹脂の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、フェノールノボラック樹脂を合成する場合には、フェノールとホルムアルデヒドを酸触媒の存在下で反応させ、得られた反応生成物から酸触媒、水及び未反応のフェノールを除去して、フェノールノボラック樹脂を得る方法が挙げられる。
【0028】
さらに、これを狭分散とする方法としては、得られたフェノールノボラック樹脂を蒸留し、繰り返し単位数の小さいものを除去する方法が考えられる。狭分散フェノール樹脂を得る方法は、これに限定されず、樹脂の溶解性の違いを利用した再沈殿を繰り返したり、再結晶を繰り返したり、リサイクルGPC等で不要成分を除去したり、その他、従来公知の精製方法を応用して、n=1成分やn≧5成分を除く方法が挙げられる。また、得られたフェノールノボラック樹脂を蒸留し、繰り返し単位数の比較的小さいものを分取することにより、高分子量成分を除去する方法や、得られたフェノールノボラック樹脂に触媒とモノマーを添加して高温で加熱し、高分子量成分を分解する方法、得られたフェノールノボラック樹脂に高温のスチームを吹き込んで、高分子量成分を分解する方法、なども適宜利用することができる。
【0029】
フェノール樹脂の有するヒドロキシ基をシアネート化する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。例えば、フェノール樹脂とハロゲン化シアンとを、溶媒中で、塩基性化合物存在下で反応させる方法が挙げられる。より具体的には、反応基質であるフェノール樹脂を、ハロゲン化シアン溶液又は塩基性化合物溶液のどちらかに予め溶解させた後、ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液とを接触させることが好ましい。ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液とを接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、撹拌混合させたハロゲン化シアン溶液に塩基性化合物溶液を注下していく方法、撹拌混合させた塩基性化合物溶液にハロゲン化シアン溶液を注下していく方法、ハロゲン化シアン溶液と塩基性化合物溶液とを連続的に交互に又は同時に供給していく方法等が挙げられる。この中でも副反応を抑制し、より高純度のシアン酸エステルを高収率で得る観点から、撹拌混合させたハロゲン化シアン溶液に塩基性化合物溶液を注下していく方法が好ましい。
【0030】
上記製造方法で用いるハロゲン化シアンとしては、特に限定されないが、例えば、塩化シアン及び臭化シアンが挙げられる。ハロゲン化シアンは、シアン化水素又は金属シアニドとハロゲンとを反応させる方法等の公知の製造方法により得られたハロゲン化シアンを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、シアン化水素又は金属シアニドとハロゲンとを反応させて得られたハロゲン化シアンを含有する反応液をそのまま用いることもできる。
【0031】
また、フェノール樹脂をシアネート化する際にハロゲン化シアンを用いる場合、該ハロゲン化シアンの使用量は、フェノール樹脂のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは1.0~5.0molであり、より好ましくは1.0~3.5molである。
【0032】
ハロゲン化シアン溶液に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどのケトン系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、イソオクタンなどの脂肪族系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ジエチルエーテル、ジメチルセルソルブ、ジグライム、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルソルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル系溶媒;水溶媒など何れも用いることができる。これらは、反応基質に合わせて、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、塩基性化合物としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリアミルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチル-n-ブチルアミン、メチルジ-n-ブチルアミン、メチルエチル-n-ブチルアミン、ドデシルジメチルアミン、トリベンジルアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジフェニルメチルアミン、ピリジン、ジエチルシクロヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン等の3級アミン等の有機塩基;又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩基が挙げられる。
【0034】
このなかでも、収率よく目的物が得られることなどから、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンがより好ましく、トリエチルアミンなどの有機塩基、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が好ましい。
【0035】
塩基性化合物の使用量は、フェノール樹脂のヒドロキシ基1molに対して、好ましくは1.0~8.0molであり、より好ましくは1.0~5.0molであり、さらに好ましくは1.0~3.5molである。塩基性化合物の使用量が上記範囲内であることにより、シアン酸エステルの収率がより向上する傾向にある。
【0036】
塩基性化合物は、有機溶媒又は水などの溶媒に溶解させた溶液として用いることができる。
【0037】
フェノール樹脂をシアネート化する際の反応の進行度は、液体クロマトグラフィー又はIRスペクトル法等で分析することができる。また、シアネート化工程において副生するジシアンやジアルキルシアノアミド等の揮発成分は、ガスクロマトグラフィーで分析することができる。
【0038】
シアネート化工程により得られた反応液から目的とするシアン酸エステルを単離する操作は、特に制限されず、通常の後処理操作、及び、分離・精製操作を用いることができる。具体的には、反応液からシアン酸エステルを含む有機溶媒層を分取し、水洗後、濃縮、沈殿化又は晶析、或いは、水洗後、溶媒置換する方法が挙げられる。
【0039】
洗浄の際には、過剰のアミン類を除去するため、薄い塩酸などの酸性水溶液を用いる方法も採られる。充分に洗浄された反応液から水分を除去するために、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムなどの一般的な方法を用いて乾燥操作をすることができる。濃縮及び溶媒置換の際には、シアン酸エステルの重合を抑えるため、減圧下90℃以下の温度に加熱して有機溶媒を留去することが好ましい。
【0040】
沈殿化又は晶析の際には、溶解度の低い溶媒を用いることができる。例えば、エーテル系の溶剤やヘキサン等の炭化水素系溶剤又はアルコール系溶剤を反応溶液に滴下する、又は逆注下する方法を採ることができる。
【0041】
また、得られた粗生成物を洗浄するために、反応液の濃縮物や沈殿した結晶をエーテル系の溶剤やヘキサン等の炭化水素系溶剤、又はアルコール系の溶剤で洗浄する方法を採ることができる。反応溶液を濃縮して得られた結晶を再度溶解させた後、再結晶させることもできる。また、晶析する場合は、反応液を単純に濃縮又は冷却して行ってもよい。
【0042】
また、得られたシアン酸エステルをさらに狭分散化してもよい。具体的には、得られたシアン酸エステルを蒸留し、繰り返し単位数の小さいものを除去する方法が考えられる。また、狭分散シアン酸エステルを得る方法は、これに限定されず、樹脂の溶解性の違いを利用した再沈殿を繰り返したり、再結晶を繰り返したり、リサイクルGPC等で不要成分を除去したり、その他、従来公知の精製方法を応用して、n=1成分やn≧5成分を除く方法が挙げられる。
【0043】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、上記シアン酸エステルを含み、必要に応じて、マレイミド化合物や、上記シアン酸エステル以外のシアン酸エステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂及び重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。
【0044】
(マレイミド化合物)
マレイミド化合物は、1分子中にマレイミド基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。マレイミド化合物の1分子当たりのマレイミド基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0045】
マレイミド化合物としては、特に制限されないが、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、下記式(3)で表されるマレイミド化合物、及び下記式(4)で表されるマレイミド化合物、これらマレイミド化合物のプレポリマー、及び、上記マレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられる。マレイミド化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0046】
(その他のシアン酸エステル樹脂)
その他のシアン酸エステル樹脂は、上記式(1)で表されるシアン酸エステル以外のシアン酸エステル樹脂であれば特に制限されず、1分子中に芳香環に直接結合したシアン酸エステル基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができる。
【0047】
このようなシアン酸エステル樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド型シアン酸エステル樹脂、及びビフェニルアラルキル型シアン酸エステル樹脂が挙げられる。シアン酸エステル樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
(フェノール樹脂)
フェノール樹脂は、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。
【0049】
フェノール樹脂としては、特に制限されないが、例えば、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、下記式(6)で表されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、下記式(7)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、及びポリビニルフェノール類等が挙げられる。フェノール樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。エポキシ樹脂の1分子当たりのエポキシ基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0051】
エポキシ樹脂としては、特に限定されず従来公知のエポキシ樹脂を用いることができ、例えば、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスナフタレン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド型エポキシ樹脂、アントラキノン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、トリアジン骨格エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジル型エステル樹脂、ブタジエン等の二重結合含有化合物の二重結合をエポキシ化した化合物、及び、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。エポキシ樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
(オキセタン樹脂)
オキセタン樹脂としては、一般に公知のものを使用でき、その種類は特に限定されない。その具体例としては、オキセタン、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3’-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成製商品名)、OXT-121(東亞合成製商品名)等が挙げられる。これらのオキセタン樹脂は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
(重合可能な不飽和基を有する化合物)
重合可能な不飽和基を有する化合物としては、一般に公知のものを使用でき、その種類は特に限定されない。その具体例としては、エチレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物;メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類;ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類;アリルクロライド、酢酸アリル、アリルエーテル、プロピレン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等のアリル化合物;ベンゾシクロブテン樹脂が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物は、1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0054】
(硬化促進剤)
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルイミダゾール等のイミダゾール類;過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチル-ジ-パーフタレートなどの有機過酸化物;アゾビスニトリルなどのアゾ化合物;N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2-N-エチルアニリノエタノール、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N-メチルピペリジンなどの第3級アミン類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどのフェノール類;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの水酸基含有化合物に溶解してなるもの;塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩;ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物などが挙げられる。これらのなかでも、トリフェニルイミダゾールが硬化反応を促進し、ガラス転移温度がより向上する傾向にあるため、特に好ましい。
【0055】
(充填材)
本実施形態の樹脂組成物は、充填材をさらに含有してもよい。充填材としては、特に限定されないが、例えば、無機充填材及び有機充填材が挙げられる。充填材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0056】
無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、中空シリカなどのシリカ類;ホワイトカーボンなどのケイ素化合物;チタンホワイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物;窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物;硫酸バリウムなどの金属硫酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウムなどの金属水和物;酸化モリブデン、モリブデン酸亜鉛などのモリブデン化合物;ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛などの亜鉛化合物;アルミナ、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、Eガラス、Aガラス、NEガラス、Cガラス、Lガラス、Dガラス、Sガラス、MガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラスなどのガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラスなどが挙げられる。
【0057】
また、有機充填材としては、特に限定されないが、例えば、スチレン型パウダー、ブタジエン型パウダー、アクリル型パウダーなどのゴムパウダー;コアシェル型ゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー;シリコーンゴムパウダー;シリコーン複合パウダーなどが挙げられる。
【0058】
〔シランカップリング剤及び湿潤分散剤〕
本実施形態の樹脂組成物は、シランカップリング剤や湿潤分散剤をさらに含んでもよい。
【0059】
シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系化合物;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系化合物;γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリルシラン系化合物;N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系化合物;フェニルシラン系化合物などが挙げられる。シランカップリング剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0060】
湿潤分散剤としては、塗料用に使用されている分散安定剤であれば、特に限定されないが、例えば、ビッグケミー・ジャパン(株)製のDISPER-110、111、118、180、161、BYK-W996、W9010、W903等が挙げられる。
【0061】
(溶剤)
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤をさらに含んでもよい。溶剤を含むことにより、樹脂組成物の調製時における粘度が下がり、ハンドリング性がより向上するとともに後述する基材への含浸性がより向上する傾向にある。
【0062】
溶剤としては、樹脂組成物中の樹脂成分の一部又は全部を溶解可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;メチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びそのアセテートなどが挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
〔用途〕
本実施形態の樹脂組成物は、硬化物、プリプレグ、金属箔張積層板、積層樹脂シート、樹脂シート、プリント配線板、封止用材料、繊維強化複合材料、又は接着剤として好適に用いることができる。以下、これらについて説明する。
【0064】
〔硬化物〕
本実施形態の硬化物は、上記樹脂組成物を硬化させてなるものである。硬化物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、熱や光などを用いて通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、特に限定されないが、硬化が効率的に進み、かつ得られる硬化物の劣化を防止する観点から、120℃から300℃の範囲内が好ましい。光硬化の場合、光の波長領域は、特に限定されないが、光重合開始剤等により効率的に硬化が進む100nmから500nmの範囲で硬化させることが好ましい。
【0065】
〔プリプレグ〕
本実施形態のプリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布された、上記樹脂組成物と、を有する。プリプレグの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、本実施形態における樹脂成分を基材に含浸又は塗布させた後、100~200℃の乾燥機中で1~30分加熱するなどして半硬化(Bステ-ジ化)させることで、本実施形態のプリプレグを作製することができる。
【0066】
樹脂組成物(充填材を含む。)の含有量は、プリプレグの総量に対して、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。樹脂組成物の含有量が上記範囲内であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0067】
基材としては、特に限定されず、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを、目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。基材を構成する繊維の具体例としては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス、球状ガラス、NEガラス、Lガラス、Tガラスなどのガラス繊維;クォーツなどのガラス以外の無機繊維;ポリパラフェニレンテレフタラミド(ケブラー(登録商標)、デュポン(株)製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(テクノーラ(登録商標)、帝人テクノプロダクツ(株)製)などの全芳香族ポリアミド;2,6-ヒドロキシナフトエ酸・パラヒドロキシ安息香酸(ベクトラン(登録商標)、(株)クラレ製)、ゼクシオン(登録商標、KBセーレン製)などのポリエステル;ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(ザイロン(登録商標)、東洋紡績(株)製)、ポリイミドなどの有機繊維が挙げられる。これらのなかでも、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。これら基材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。織布の織り方としては、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。また、これらを開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さや質量は、特に限定されないが、通常は0.01~0.3mm程度のものが好適に用いられる。とりわけ、強度と吸水性との観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m2以下のガラス織布が好ましく、Eガラス、Sガラス、及びTガラスのガラス繊維からなるガラス織布がより好ましい。
【0069】
〔積層樹脂シート〕
本実施形態の積層樹脂シートは、支持体と、該支持体上に配された、上記樹脂組成物と、を有する。積層樹脂シートとは、薄葉化の1つの手段として用いられるもので、例えば、金属箔やフィルムなどの支持体に、直接、樹脂組成物を塗布及び乾燥して製造することができる。
【0070】
支持体としては、特に限定されないが、各種プリント配線板材料に用いられている公知の物を使用することができる。例えばポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム等の有機系のフィルム基材、アルミニウム箔、銅箔、金箔などの導体箔、ガラス板、SUS板、FPR等の板状の無機系フィルムが挙げられる。その中でも電解銅箔、PETフィルムが好ましい。
【0071】
塗布方法としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。
【0072】
積層樹脂シートは、上記樹脂組成物を支持体に塗布後、半硬化(Bステージ化)させたものであることが好ましい。具体的には、例えば、上記樹脂組成物を銅箔などの支持体に塗布した後、100~200℃の乾燥機中で、1~60分加熱させる方法などにより半硬化させ、積層樹脂シートを製造する方法などが挙げられる。支持体に対する樹脂組成物の付着量は、積層樹脂シートの樹脂厚で1~300μmの範囲が好ましい。
【0073】
〔単層樹脂シート〕
本実施形態の単層樹脂シートは、樹脂組成物を含む。単層樹脂シートは、樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。樹脂シートの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、上記積層樹脂シートから、支持体を剥離又はエッチングすることにより得ることができる。なお、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、シート基材を用いることなく単層樹脂シートを得ることもできる。
【0074】
〔金属箔張積層板〕
本実施形態の金属箔張積層板は、少なくとも1枚以上積層された上記プリプレグと、該プリプレグの片面または両面に配された金属箔とを有する。すなわち、本実施形態の金属箔張積層板は、上記プリプレグと、金属箔とを積層して硬化して得られるものである。
【0075】
導体層は、銅やアルミニウムなどの金属箔とすることができる。ここで使用する金属箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔などの公知の銅箔が好ましい。また、導体層の厚みは、特に限定されないが、1~70μmが好ましく、より好ましくは1.5~35μmである。
【0076】
金属箔張積層板の成形方法及びその成形条件は、特に限定されず、一般的なプリント配線板用積層板及び多層板の手法及び条件を適用することができる。例えば、金属箔張積層板の成形時には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを用いることができる。また、金属箔張積層板の成形において、温度は100~350℃、圧力は面圧2~100kgf/cm2、加熱時間は0.05~5時間の範囲が一般的である。さらに、必要に応じて、150~350℃の温度で後硬化を行うこともできる。また、上述のプリプレグと、別途作成した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることも可能である。
【0077】
〔プリント配線板〕
本実施形態のプリント配線板は、絶縁層と、該絶縁層の表面に形成された導体層とを含み、前記絶縁層が、上記樹脂組成物を含む。上記の金属箔張積層板は、所定の配線パターンを形成することにより、プリント配線板として好適に用いることができる。そして、上記の金属箔張積層板は、良好な成形性及び耐薬品性を有し、そのような性能が要求される半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0078】
本実施形態のプリント配線板は、具体的には、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、上述の金属箔張積層板(銅張積層板等)を用意する。金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を施し、次いでその内層回路表面に上述のプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材及び樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアを除去するためデスミア処理が行われる。その後この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、更に外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成し、プリント配線板が製造される。
【0079】
上記の製造例で得られるプリント配線板は、絶縁層と、この絶縁層の表面に形成された導体層とを有し、絶縁層が上述した本実施形態の樹脂組成物を含む構成となる、すなわち、上述のプリプレグ(基材及びこれに添着された上述の樹脂組成物)、金属箔張積層板の樹脂組成物層(上述の樹脂組成物からなる層)が、上述の樹脂組成物を含む絶縁層を構成することになる。
【0080】
また、金属箔張積層板を用いない場合には、上記プリプレグ、上記積層樹脂シート、又は上記樹脂組成物からなるものに、回路となる導体層を形成しプリント配線板を作製してもよい。この際、導体層の形成に無電解めっきの手法を用いることもできる。
【0081】
本実施形態のプリント配線板は、上述の絶縁層がめっきピール強度、曲げ強度、誘電率、熱重量減少率に優れた特性を有することから、半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0082】
〔封止用材料〕
本実施形態の封止用材料は、本実施形態の樹脂組成物を含む。封止用材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、封止材料用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで封止用材料を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【0083】
〔繊維強化複合材料〕
本実施形態の繊維強化複合材料は、本実施形態の樹脂組成物と、強化繊維とを含む。強化繊維としては、一般的に公知のものを用いることができ、特に限定されない。その具体例としては、Eガラス、Dガラス、Lガラス、Sガラス、Tガラス、Qガラス、UNガラス、NEガラス、球状ガラス等のガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維などが挙げられる。強化繊維の形態や配列については、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。また、強化繊維の形態としてプリフォーム(強化繊維からなる織物基布を積層したもの、又はこれをステッチ糸により縫合一体化したもの、あるいは立体織物や編組物などの繊維構造物)を適用することもできる。
【0084】
これら繊維強化複合材料の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。その具体例としては、リキッド・コンポジット・モールディング法、レジン・フィルム・インフュージョン法、フィラメント・ワインディング法、ハンド・レイアップ法、プルトルージョン法等が挙げられる。このなかでも、リキッド・コンポジット・モールディング法の一つであるレジン・トランスファー・モールディング法は、金属板、フォームコア、ハニカムコア等、プリフォーム以外の素材を成形型内に予めセットしておくことができることから、種々の用途に対応可能であるため、比較的、形状が複雑な複合材料を短時間で大量生産する場合に好ましく用いられる。
【0085】
〔接着剤〕
本実施形態の接着剤は、本実施形態の樹脂組成物を含む。接着剤の製造方法としては、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。例えば、上記した樹脂組成物と、接着剤用途で一般的に用いられる各種公知の添加剤或いは溶媒等を、公知のミキサーを用いて混合することで接着剤を製造することができる。なお、混合の際の、各成分の添加方法は、一般に公知の方法を適宜適用でき、特に限定されない。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例で原料として用いたフェノールノボラック類は、特開平8-57578、特開2006-137928、特許第6422666号等の文献を参考に合成した。
【0087】
(水酸基含有芳香族化合物のOH基(g/eq.)当量の測定)
JIS-K0070に準拠して、ピリジン-塩化アセチル法によりOH基当量(g/eq.)を求めた。
【0088】
(実施例1)狭分散ノボラック型シアン酸エステル1の合成
狭分散型フェノールノボラック樹脂1(重量平均分子量Mw310;OH基当量102g/eq.;OH基換算0.294mol)30.0g及びトリエチルアミン22.4g(0.221mol;ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン150gに溶解させ、これを溶液1とした。
【0089】
塩化シアン28.9g(0.470mol;ヒドロキシ基1molに対して1.60mol)、ジクロロメタン67.4g、36%塩酸49.1g(0.485mol;ヒドロキシ基1molに対して1.65mol)、水305gを、撹拌下、液温-6~-2℃に保ちながら、溶液1を11分かけて注下した。溶液1注下終了後、同温度にて5分撹拌した後、トリエチルアミン37.2g(0.368mol;ヒドロキシ基1molに対して1.25mol)をジクロロメタン37.2gに溶解させた溶液(溶液2)を11分かけて注下した。溶液2注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0090】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を、0.1N塩酸150mLで2回洗浄した後、水150mLで6回洗浄した。水洗6回目の廃水の電気伝導度は8μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0091】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に70℃で1時間濃縮乾固させて目的とする狭分散ノボラック型シアン酸エステル1(薄黄色粘性物)を36.2g得た。得られた狭分散ノボラック型シアン酸エステル1の重量平均分子量Mwは409であった。また、狭分散ノボラック型シアン酸エステル1のIRスペクトルは2235m-1及び2261cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0092】
(実施例2)狭分散ノボラック型シアン酸エステル2の合成
狭分散型フェノールノボラック樹脂30.0g(重量平均分子量Mw338;OH基当量106g/eq.;OH基換算0.283mol)及びトリエチルアミン21.5g(0.212mol;ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン150gに溶解させ、これを溶液3とした。
【0093】
塩化シアン27.8g(0.452mol;ヒドロキシ基1molに対して1.60mol)、ジクロロメタン64.9g、36%塩酸47.3g(0.467mol;ヒドロキシ基1molに対して1.65mol)、水293gを、撹拌下、液温-7~-4℃に保ちながら、溶液3を11分かけて注下した。溶液3注下終了後、同温度にて5分撹拌した後、トリエチルアミン35.8g(0.354mol;ヒドロキシ基1molに対して1.25mol)をジクロロメタン35.8gに溶解させた溶液(溶液4)を11分かけて注下した。溶液4注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0094】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を、0.1N塩酸150mLで2回洗浄した後、水150mLで6回洗浄した。水洗6回目の廃水の電気伝導度は9μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0095】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に70℃で1時間濃縮乾固させて目的とする狭分散ノボラック型シアン酸エステル2(薄黄色粘性物)を36.0g得た。得られた狭分散ノボラック型シアン酸エステル2の重量平均分子量Mwは442であった。また、狭分散ノボラック型シアン酸エステル2のIRスペクトルは2234cm-1及び2261cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0096】
(比較例1)汎用ノボラック型シアン酸エステル1の合成
汎用型フェノールノボラック樹脂30.0g(重量平均分子量Mw493;OH基当量105g/eq.;OH基換算0.286mol)及びトリエチルアミン21.8g(0.215mol;ヒドロキシ基1molに対して0.75mol)をジクロロメタン150gに溶解させ、これを溶液5とした。
【0097】
塩化シアン28.1g(0.457mol;ヒドロキシ基1molに対して1.60mol)、ジクロロメタン65.6g、36%塩酸47.7g(0.471mol;ヒドロキシ基1molに対して1.65mol)、水296gを、撹拌下、液温-6~-3℃に保ちながら、溶液5を11分かけて注下した。溶液5注下終了後、同温度にて5分撹拌した後、トリエチルアミン39.1g(0.386mol;ヒドロキシ基1molに対して1.35mol)をジクロロメタン39.1gに溶解させた溶液(溶液6)を11分かけて注下した。溶液6注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0098】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を、0.1N塩酸150mLで2回洗浄した後、水150mLで6回洗浄した。水洗6回目の廃水の電気伝導度は10μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0099】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に70℃で1時間濃縮乾固させて目的とする汎用ノボラック型シアン酸エステル1(薄黄色粘性物)を36.0g得た。得られた汎用ノボラック型シアン酸エステル1の重量平均分子量Mwは848であった。また、汎用ノボラック型シアン酸エステル1のIRスペクトルは2234cm-1及び2261cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0100】
(比較例2)汎用ノボラック型シアン酸エステル2の合成
汎用型フェノールノボラック樹脂25.0g(重量平均分子量Mw480;OH基当量105g/eq.;OH基換算0.238mol)及びトリエチルアミン24.1g(0.238mol;ヒドロキシ基1molに対して1.0mol)をジクロロメタン150gに溶解させ、これを溶液7とした。
【0101】
塩化シアン23.4g(0.381mol;ヒドロキシ基1molに対して1.60mol)、ジクロロメタン54.6g、36%塩酸39.8g(0.393mol;ヒドロキシ基1molに対して1.65mol)、水282gを、撹拌下、液温-6~-1℃に保ちながら、溶液7を10分かけて注下した。溶液7注下終了後、同温度にて5分撹拌した後、トリエチルアミン21.7g(0.214mol;ヒドロキシ基1molに対して0.90mol)をジクロロメタン21.7gに溶解させた溶液(溶液8)を8分かけて注下した。溶液8注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0102】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を、0.1N塩酸150mLで2回洗浄した後、水150mLで6回洗浄した。水洗6回目の廃水の電気伝導度は14μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
【0103】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に70℃で1時間濃縮乾固させて目的とする汎用ノボラック型シアン酸エステル2(薄黄色粘性物)を30.0g得た。得られた汎用ノボラック型シアン酸エステル2の重量平均分子量Mwは763であった。また、汎用ノボラック型シアン酸エステル2のIRスペクトルは2234cm-1及び2262cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0104】
〔n成分の面積比、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び、分散度(Mw/Mn)の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析により得られたクロマトグラムから、クロマトグラム全体の面積と、実施例及び比較例で得られたシアン酸エステルのn成分ごとのピーク面積を算出した。また、実施例及び比較例で得られたシアン酸エステルのクロマトグラム全体における重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求め、分散度(Mw/Mn)を求めた。測定条件を以下に示す。
【0105】
(測定条件)
装置 :LaChromElite((株)日立ハイテクノロジーズ製)
カラム :TSKgel GMHHR-M×2 (東ソー(株)製)
溶離液 :テトラヒドロフラン
流速 :1mL/min
温度 :40℃
検出器 :RI
標準物質:ポリスチレンスタンダード
【0106】
〔粘度〕
動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント(株)製 Discovery HR-2)を用いて、実施例及び比較例で得られたシアン酸エステルの40℃及び80℃の条件下での粘度を測定した。
【0107】
〔重量減少率(%)〕
示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製 TG/DTA6200)を用い、実施例及び比較例で得られたシアン酸エステルを、窒素雰囲気下において、開始温度40℃、昇温速度10℃/分で150℃まで昇温し、さらに等温で30分間保持した後の重量を測定することにより、重量減少率を下式に基づき算出した。
重量減少率(%)=(I-J)/I×100
Iは開始温度での重量を、Jは150℃で30分間保持した後の重量を表す。
【0108】
【0109】
表1に示すとおり、実施例のシアン酸エステルは、比較例のシアン酸エステルよりも、n=2~4成分の比率が高く、また分散度も小さく、狭分散化されていることが確認できる。更に、実施例のシアン酸エステルは、比較例のシアン酸エステルよりも、40℃及び80℃における粘度が低く、重量減少率も同等以下であることが分かる。
【0110】
〔予備重合試験〕
上記評価に加え、実施例1と比較例1のシアン酸エステルを用いた予備重合試験を行った。予備重合試験では、撹拌子を投入した100mLの3つ口フラスコに、実施例1及び比較例1のシアン酸エステルそれぞれ50gを仕込んで150℃に加温し、撹拌しながら所定時間反応させて予備重合物を得た。経時的に、得られた予備重合物の125℃の条件下における粘度を測定し、重合の進行速度を確認した。横軸を時間とし、縦軸をlog(測定時粘度η/初期粘度η
0)として、重合の進行度をプロットした図を
図1に示す。
【0111】
図1に示すとおり、実施例1のシアン酸エステルを用いた場合には、一定の粘度上昇率で、重合が進行することが分かった。一方で、比較例1のシアン酸エステルを用いた場合には、時間が経つにつれて粘度上昇率が高くなり、粘度上昇率が一定でないことが分かった。この理由は、比較例1のシアン酸エステルは、分散が広く、高n成分が多く含まれるため、途中から急激に高分子量体が生じるが、実施例1のシアン酸エステルは、分散が狭く、高n成分が少ないため、比較的順序良く多量体化していくためと考えられる。しかし、理由は上記に制限されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のシアン酸エステルは、プリプレグ、封止用材料、繊維強化複合材料、接着材等の材料として、産業上の利用可能性を有する。