(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】強化繊維テープ材料およびその製造方法、強化繊維テープ材料を用いた強化繊維積層体および繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 70/16 20060101AFI20230907BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20230907BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20230907BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20230907BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20230907BHJP
B29K 105/14 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
B29C70/16
B29C70/50
B29B11/16
B32B5/26
B32B27/12
B29K105:08
B29K105:14
(21)【出願番号】P 2020536479
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2019029621
(87)【国際公開番号】W WO2020031771
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018150759
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018150760
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】神田 守
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 將之
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/087811(WO,A1)
【文献】特開2014-189013(JP,A)
【文献】特表2013-531707(JP,A)
【文献】特表2017-521291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維ストランドを製品形状に合わせた所望の形状となるよう、必要な箇所のみに配置するファイバープレイスメント法による樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、該テープ材料は前記ストランド集合体表面の片面のみに配置した第1の樹脂材料および、もう一方の面に配置した第1の樹脂材料とは軟化点が異なる第2の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第1の樹脂材料および第2の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有し、前記第2の樹脂材料の軟化点が40℃以上150℃以下であり、前記第1の樹脂材料の軟化点M1(℃)と第2の樹脂材料の軟化点M2(℃)との関係が、以下の式で表されることを特徴とする強化繊維テープ材料。
M1≧M2+10(℃)
【請求項2】
前記第1および第2の樹脂材料が、繊維状の第1または第2の樹脂材料からなる不織布の形態で、強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士と互いに拘束・一体化されていることを特徴とする、請求項1に記載の強化繊維テープ材料。
【請求項3】
樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、該テープ材料は前記ストランド集合体表面の少なくとも片面に配置した第4の樹脂材料および、一方の面に配置した第4の樹脂材料とは軟化点が異なる第3の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第4の樹脂材料および第3の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有し、強化繊維を1方向に並行に引き揃えた強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の両面に、軟化点が40℃以上200℃以下の加熱溶融性の第4の樹脂材料を軟化後に固化した状態で有し、前記第4の樹脂材料より軟化点の高い第3の樹脂材料が前記第4の樹脂材料を介して前記強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の片面に接着されており、前記第3の樹脂材料の軟化点M3[℃]と第4の樹脂材料の軟化点M4[℃]が次式を満たすことを特徴とする強化繊維テープ材料。
M3>M4+10(℃)
【請求項4】
前記第3の樹脂材料が不織布形態であり、その繊維形態を維持していることを特徴とする、請求項3に記載の強化繊維テープ材料。
【請求項5】
前記第4の樹脂材料が粒子形態であることを特徴とする、請求項3または4に記載の強化繊維テープ材料。
【請求項6】
前記強化繊維ストランドの断面の幅方向における両端部の厚みT1(μm)およびT3(μm)が、いずれも前記強化繊維ストランドの中央部における厚みT2(μm)に対して50~200%の範囲内であることを特徴とする、請求項3~5のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
【請求項7】
強化繊維ストランドのフィラメント数N〔単位:K〕および幅W〔mm〕が、4.8<N/W<12を満たすことを特徴とする、請求項3~6のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
【請求項8】
前記強化繊維ストランドが複数本、1方向に並行に引き揃えられていることを特徴とする、請求項3~7のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
【請求項9】
隣接する強化繊維ストランド間に隙間を設け、該強化繊維ストランドの長手方向と平行に形成されていることを特徴とする、請求項3~8のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
【請求項10】
強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する請求項1または2に記載の強化繊維テープ材料の製造方法であって、以下の工程を有する強化繊維テープ材料の製造方法。
a)強化繊維ストランドを引出し、所定の幅に調整したものを1本または複数本並べてストランド集合体を形成する工程
b)前記工程a)における前記ストランド集合体
表面の片面
のみに第1の樹脂材料を、
もう一方の面に第2の樹脂材料を供給し配置する工程
c)強化繊維ストランドおよび配置した第1の樹脂材料、第2の樹脂材料を加熱し、前記強化繊維ストランドに対して加圧することによって、前記強化繊維ストランドに対して、第1の樹脂材料については形態を残したまま固着し、第2の樹脂材料については溶融させ、少なくとも一部を前記強化繊維ストランド内に含浸させる工程
d)強化繊維テープ材料を冷却し、巻き取る工程
【請求項11】
前記工程b)において、前記第1または/および第2の樹脂材料が、事前に形成された繊維状の第1または/および第2の樹脂材料からなる不織布の形態で供給されることを特徴とする、請求項
10に記載の強化繊維テープ材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にファイバープレイスメント法に用いられる強化繊維テープ材料、強化繊維テープ材料の製造方法、強化繊維テープ材料を配置・積層してなる強化繊維積層体および繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と樹脂からなる繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:FRP)は、軽量かつ高強度という特性から、航空、宇宙、自動車用途などに用いられている。FRPの生産性と高強度を両立する成形法として、例えばレジン・トランスファー・モールディング成形法(Resin Transfer Molding:RTM)やVaRTM成形法(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)等のように、強化繊維積層体に後から樹脂を含浸・硬化させる成形法が挙げられる。RTM成形法は、マトリックス樹脂を予備含浸していないドライな強化繊維ストランド群で構成される強化繊維基材からなる強化繊維積層体を、成形型に配置・形状付けして、液状で低粘度のマトリックス樹脂を注入することにより、後からマトリックス樹脂を含浸・固化させてFRPを成形する成形法である。特に高い生産性が必要な場合は、樹脂注入時は成形型内キャビティを最終成形品厚みより厚くしておき、型閉じにより高速含浸させることで繊維強化プラスチックの成形時間を短縮する技術などが用いられる。また近年では、強化繊維積層体に液状の樹脂を塗布したのちに型締めを行い、樹脂を含浸させるウェットプレスモールディング法も用いられる。
【0003】
樹脂を含浸・硬化させることで繊維強化樹脂成形体に成形される強化繊維積層体は、従来は織物やノンクリンプファブリック(Non Crimp Fabric:NCF)のような、強化繊維ストランドに樹脂が含浸されていないドライな強化繊維ストランド群から構成される一定幅の(すなわち、略矩形の)布帛形態をした強化繊維基材から所望の形状を切り出したものを三次元形状に賦形、固着することで形成される。ところがこのように一定幅の布帛から所望形状を切り出すと、その後に残る端材が多く生成される。すなわち、強化繊維の廃棄量が多くなり、あらかじめ一定幅の布帛形態をした強化繊維基材を製造しておく従来の手法では製造コストが高くなるという課題があった。
【0004】
このような課題に対し、強化繊維ストランドを製品形状に合わせた所望の形状となるよう、必要な箇所のみに配置するファイバープレイスメント法が注目されている。ファイバープレイスメント法によれば、必要な箇所に必要な量の強化繊維を配置するため、廃棄される強化繊維の量を大幅に低減させることができる。さらにファイバープレイスメント法で製造される強化繊維基材は従来の織物やNCFに比べて強化繊維ストランドのクリンプが少なく真直性に優れるため、樹脂を注入・硬化させて得られるFRPは高い力学的強度を有する。
【0005】
ファイバープレイスメント法に用いられる強化繊維テープ材料に関する従来技術として、例えば特許文献1や特許文献2では、強化繊維ストランドに対し、両側の面に同一の熱可塑性樹脂製の不織布をステッチやニッティングをせずに加熱冷却のみで貼り合わせてテープ材料を製作する方法が示されている。
【0006】
また、ファイバープレイスメント法に用いられる強化繊維テープ材料に関する従来技術として、例えば、複数の強化繊維ストランドが間隔を有して平行に配置され、その両面を熱可塑性不織布と接着することにより結合一体化したテープの技術が提案されている(特許文献3)。また、特許文献4では、強化繊維ストランドを一方向に引き揃えた強化繊維シートに熱可塑性樹脂からなる不織布を当接させ、ガラス転移温度以上融点未満の温度域で加圧することにより一体化したテープの技術が提案されている。
【0007】
これら特許文献3、4の従来技術では、複数の強化繊維ストランドを熱可塑性不織布と接着により結合一体化することで、テープの形態保持、熱可塑不織布自体を流路とすることによる、含浸流路を確保した強化繊維テープ材を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5854504号公報
【文献】特許第5584224号公報
【文献】特許第5830095号公報
【文献】特許第5851714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、ファイバープレイスメント法で製造される強化繊維基材は従来の織物やNCFに比べて強化繊維ストランドのクリンプが少なく真直性に優れるため、樹脂を注入・硬化させて得られるFRPは高い力学的強度を有する。しかしながら、ファイバープレイスメント法で製造された強化繊維基材は、強化繊維ストランドの真直性ゆえに樹脂注入時の樹脂流路が少なく、従来の織物やNCFに比べて極端に含浸性が悪くなる。含浸性が悪くなると、注入成形における樹脂注入に要する時間が長くなることで生産サイクルが長くなり、注入成形の高生産性というメリットが失われてしまう。また、注入成形では注入する樹脂が高粘度化する前に(すなわち、ポットライフ内に)樹脂注入を完了する必要があるが、強化繊維基材の含浸性が悪いと使用可能な樹脂やプロセスに制限が生じるだけでなく、樹脂が基材に含浸していない所謂未含浸・ドライスポットと呼ばれる欠陥が生じやすくなり、製品の剛性や強度といった力学的特性の低下の原因となる。
【0010】
ファイバープレイスメント法、特に自動でテープ材料を配置する装置技術を用いる場合においては、強化繊維テープ材料はボビン・リール等から引き出され、糸道中のガイドローラーを通り、型に近い位置でIR(赤外線)ヒーター等により加熱し、配置ローラーで圧力を受けながら型上に配置される。ガイドローラー通過の際には面方向に押し付けられ、また配置時には熱と型への押付け圧力を受けることになるため、それらの外力によりテープ材料本来の幅が変化し、広がってしまうことがある。幅の変化により、強化繊維ストランド間の隙間(ギャップ)が埋められると、樹脂流路をふさいでしまうことになり、注入成形時に、強化繊維基材内で樹脂が高速流動しにくくなる。加えて、複数の強化繊維ストランドを、間隙を設けながら引き揃えて熱可塑性樹脂製不織布などで一体化したテープ材料においては、テープ間の隙間だけでなく、構成する強化繊維ストランドの幅が変化することで、テープ内に予め設けた間隙にも同様の問題が生じる。従って配置される強化繊維テープ材料に対しては、寸法安定性に優れ、強化繊維基材の樹脂流動流路を確保できる材料であることが求められる。
【0011】
このような問題点に対して、上記特許文献1においては、強化繊維ストランドの両面に配置した熱可塑性樹脂製不織布をわざと強化繊維ストランドからはみださせた状態で貼り合せた後に、端部の不織布のみを処理することで、テープ端部から強化繊維がほつれることを避け、その結果テープを構成するストランド幅の標準偏差が0.25mm以下となるような材料およびその製造方法を示している。両面の不織布を強化繊維に貼り付け固定する方法としては、不織布そのものを軟化させて固着させる場合と、強化繊維ストランドと不織布間に配した樹脂接着剤により、固着させる方法とが示されている。特許文献1の発明は高いストランド幅精度を実現しているものの、両面に配置する不織布が本質的に同一のものを用いること、不織布を固着している接着剤成分の量がわずかであることから、3次元形状(例えば垂直面)を有する成形型に沿わせて固定しようとした場合、テープ材料と成形型との間、または既に配置したテープ材料と新たに配置しようとするテープ材料(次の層のテープ材料)との間に、新たに樹脂材料を塗布して固着するか、テープ材料を構成する不織布が十分に軟化する温度まで高温に加熱して貼り合わせる必要がある。ただし、テープ材料を加熱した場合、テープ表面の不織布は押しつぶされ強化繊維ストランド上で膜を形成するか、溶けて強化繊維ストランド内に含浸するなどして、強化繊維ストランド層間の隙間を維持できなくなる。
【0012】
ここで、厚み方向への樹脂の流動について説明を加える。面内方向に隣り合う強化繊維ストランド間の隙間が厚み方向に連続的に重なる場合、その空隙は厚み方向の貫通孔となるため、樹脂が厚み方向に流動しやすくなることは容易に想定できる。しかしながら、面内方向で隣り合う強化繊維ストランド間の隙間が実質的に無い場合や、テープ幅が広く基材全体としてこの貫通孔の存在確率が低くなる場合には、厚み方向だけでなく、層間や層内の隙間も利用して面内方向にも樹脂が流動することで、厚み方向に隣り合う上の層の強化繊維ストランド間の隙間と、下の層の強化繊維ストランド間の隙間が連続した流路を形成することが可能になる。このような連続した樹脂流路が形成されることで厚み方向にも樹脂が容易に流動することが可能になる。
【0013】
しかしながら、前述の通り、特許文献1の発明は配置の工程の間にこれら厚み方向の強化繊維ストランド間の隙間が埋まってしまうことがあり、樹脂流動経路が減少して、結果として積層体への樹脂注入時間が長くなってしまう問題があった。
【0014】
特許文献2においては、得られたテープ材料に針のような穿孔デバイスをテープ材料に突き入れてテープ材料を貫通する貫通孔を予め設けることで、厚み方向の樹脂流動性を改善したテープ材料が示されている。しかしながら、予め設けた貫通孔も、層間を固着するために加熱して、テープ材料表面の不織布材料を溶かしてしまうと、設けた貫通孔が保持できない場合があり、その場合結果として積層体への樹脂注入時間が長くなってしまう問題があった。
【0015】
また、上記特許文献3の方法においては、複数の強化繊維ストランドを熱可塑性不織布と接着により結合一体化した場合、熱可塑不織布を溶融した際に流路の一部を溶融樹脂が埋めてしまうため、熱可塑不織布が溶融していない状態に比べて含浸性が低下していた。また、融点の高い不織布が溶融してテープ内部に含浸しているためテープが硬く、後工程にて強化繊維積層体を成形型に配置・形状付けする際に良好な賦形特性が得られなかった。
【0016】
さらに、上記特許文献4の方法においては、ガラス転移温度以上融点未満の温度域で加圧しているため、熱可塑不織布が軟化して強化繊維ストランドに加圧されて接着する際に流路の一部を軟化した樹脂が埋めてしまうため、熱可塑不織布が軟化していない状態に比べて含浸性が低下していた。
【0017】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、ツール(成形型)への固着・配置が容易で、強化繊維ストランドの幅変化を抑制可能で、樹脂流動時間の短縮が可能であり、成形サイクル全体の高速化、製品内の未含浸部分の発生も抑制可能な強化繊維テープ材料と、その製造方法を提供することにある。
【0018】
また、本発明は、良好な賦形性および良好な樹脂含浸性を有する強化繊維テープ材料およびそれを用いた強化繊維積層体と繊維強化樹脂成形体を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は次の構成を採る。
(1)樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、該テープ材料は前記ストランド集合体表面の少なくとも片面に配置した第1または第4の樹脂材料および、一方の面に配置した第1または第4の樹脂材料とは軟化点が異なる第2または第3の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第1または第4の樹脂材料および第2または第3の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有することを特徴とする強化繊維テープ材料。
(2)前記ストランド集合体表面の片面のみに前記第1の樹脂材料を配置し、もう一方の面に前記第2の樹脂材料を配置してなることを特徴とする、(1)に記載の強化繊維テープ材料。
(3)前記第2の樹脂材料の軟化点が40℃以上150℃以下であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の強化繊維テープ材料。
(4)前記第1の樹脂材料の軟化点M1(℃)と第2の樹脂材料の軟化点M2(℃)との関係が、以下の式で表されることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
M1≧M2+10(℃)
(5)前記第1および第2の樹脂材料が、繊維状の第1または第2の樹脂材料からなる不織布の形態で、強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士と互いに拘束・一体化されていることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(6)強化繊維を1方向に並行に引き揃えた強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の両面に、軟化点が40℃以上200℃以下の加熱溶融性の第4の樹脂材料を軟化後に固化した状態で有し、前記第4の樹脂材料より軟化点の高い第3の樹脂材料が前記第4の樹脂材料を介して前記強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の片面に接着されていることを特徴とする、(1)に記載の強化繊維テープ材料。
(7)前記第3の樹脂材料の軟化点M3[℃]と第4の樹脂材料の軟化点M4[℃]が次式を満たすことを特徴とする、(6)に記載の強化繊維テープ材料。
M3>M4+10(℃)
(8)前記第3の樹脂材料が不織布形態であり、その繊維形態を維持していることを特徴とする、(6)または(7)に記載の強化繊維テープ材料。
(9)前記第4の樹脂材料が粒子形態であることを特徴とする、(6)~(8)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(10)前記強化繊維ストランドの断面の幅方向における両端部の厚みT1(μm)およびT3(μm)が、いずれも前記強化繊維ストランドの中央部における厚みT2(μm)に対して50~200%の範囲内であることを特徴とする、(6)~(9)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(11)強化繊維ストランドのフィラメント数N〔単位:K〕および幅W〔mm〕が、4.8<N/W<12を満たすことを特徴とする、(6)~(10)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(12)前記強化繊維ストランドが複数本、1方向に並行に引き揃えられていることを特徴とする、(6)~(11)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(13)隣接する強化繊維ストランド間に隙間を設け、該強化繊維ストランドの長手方向と平行に形成されていることを特徴とする、(6)~(12)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料。
(14)(1)~(13)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料を配列・積層し、その層間を固着させた強化繊維積層体。
(15)(14)に記載の強化繊維積層体に、マトリックス樹脂を含浸・硬化させた繊維強化樹脂成形体。
(16)強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する(1)~(5)のいずれかに記載の強化繊維テープ材料の製造方法であって、以下の工程を有する強化繊維テープ材料の製造方法。
a)強化繊維ストランドを引出し、所定の幅に調整したものを1本または複数本並べてストランド集合体を形成する工程
b)前記工程a)における前記ストランド集合体の少なくとも片面に第1の樹脂材料を、一方の面に第2の樹脂材料を供給し配置する工程
c)強化繊維ストランドおよび配置した第1の樹脂材料、第2の樹脂材料を加熱し、前記強化繊維ストランドに対して加圧することによって、前記強化繊維ストランドに対して、第1の樹脂材料については形態を残したまま固着し、第2の樹脂材料については溶融させ、少なくとも一部を前記強化繊維ストランド内に含浸させる工程
d)強化繊維テープ材料を冷却し、巻き取る工程
(17)前記工程b)において、前記ストランド集合体の片面のみに第1の樹脂材料を、もう一方の面に第2の樹脂材料を供給し配置する、(16)に記載の強化繊維テープ材料の製造方法。
(18)前記工程b)において、前記第1または/および第2の樹脂材料が、事前に形成された繊維状の第1または/および第2の樹脂材料からなる不織布の形態で供給されることを特徴とする、(16)または(17)に記載の強化繊維テープ材料の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、本発明に係る強化繊維テープ材料を用いることで、特にRTM成形用のシート基材や予備賦形体(プリフォーム)をファイバープレイスメント法により製作するに当たって、ツール(成形型)への固着・配置が容易になり、かつ、配置の工程における強化繊維ストランドの幅変化をも抑制し、その結果、樹脂注入工程における、樹脂流動時間を短縮できるという効果が得られる。このことにより、成形サイクル全体の高速化が図れるだけでなく、樹脂流動が容易であることは製品内の未含浸の発生も抑制することも可能となり、品質の安定化という効果も得られる。
【0021】
また、本発明に係る強化繊維テープ材料および強化繊維積層体、繊維強化樹脂成形体によれば、良好な賦形性および後工程の成形にて良好な樹脂含浸性を有する強化繊維テープ材料およびその積層シート基材、成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明における第1の形態に係る強化繊維テープ材料の一実施態様を示す概略断面図である。
【
図2】
図1の強化繊維テープ材料の概略斜視図である。
【
図3】複数本の強化繊維ストランドで第1の形態に係る強化繊維テープ材料を構成した場合の一例を示す概略斜視図である。
【
図4】本発明における第2の形態に係る強化繊維テープ材料の一実施態様を示す概略斜視図である。
【
図5】本発明における第2の形態に係る強化繊維テープ材料を構成する強化繊維ストランドの厚みと幅の説明図である。
【
図6】本発明における第2の形態に係る強化繊維テープ材料を構成する複数の強化繊維ストランドに第4の樹脂材料を介して不織布を接着させた場合の一例を示す概略斜視図である。
【
図7】本発明における第1の形態に係る強化繊維テープ材料の積層例を示す概略構成図である。
【
図8】本発明における第2の形態に係る強化繊維テープ材料の積層例を示す概略構成図である。
【
図9】本発明における第1、第2の形態に係る強化繊維テープ材料が混在する場合の積層例を示す概略構成図である。
【
図10】本発明の強化繊維テープ材料の製造方法の一実施態様を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
本発明に係る強化繊維テープ材料は、樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、該テープ材料は前記ストランド集合体表面の少なくとも片面に配置した第1または第4の樹脂材料および、一方の面に配置した第1または第4の樹脂材料とは軟化点が異なる第2または第3の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第1または第4の樹脂材料および第2または第3の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有することを特徴とする強化繊維テープ材料である。この本発明に係る強化繊維テープ材料においては、代表的に、次の第1の形態、第2の形態を採ることができる。
【0024】
[強化繊維テープ材料の第1の形態]
樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、該テープ材料は前記ストランド集合体表面の片面のみに配置した第1の樹脂材料およびもう一方の面に配置した第1の樹脂材料とは軟化点が異なる第2の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第1の樹脂材料および第2の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有することを特徴とする強化繊維テープ材料。
【0025】
[強化繊維テープ材料の第2の形態]
樹脂注入成形用の、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料であって、強化繊維を1方向に並行に引き揃えた強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の両面に、軟化点が40℃以上200℃以下の加熱溶融性の第4の樹脂材料を軟化後に固化した状態で有し、前記第4の樹脂材料より軟化点の高い第3の樹脂材料が前記第4の樹脂材料を介して前記強化繊維ストランドからなる前記ストランド集合体の片面に接着されており、前記第3および第4の樹脂材料によって、前記強化繊維ストランドを構成する強化繊維同士または/および複数の強化繊維ストランド同士が互いに拘束・一体化されてなるものであり、第3の樹脂材料および第4の樹脂材料はマトリックス樹脂透過性を有することを特徴とする強化繊維テープ材料。
【0026】
まず、上記強化繊維テープ材料の第1の形態と第2の形態に共通する事項について説明する。
本発明に用いられる強化繊維としては、特に制限はなく、例えば炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維等が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、成形体の比強度、比剛性が高く軽量化の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる成形品の経済性を高める観点から、ガラス繊維を好ましく用いることができる。さらに、得られる成形品の衝撃吸収性や賦形性を高める観点から、アラミド繊維を好ましく用いることができる。また、得られる成形体の導電性を高める観点から、ニッケルや銅、イッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。
【0027】
本発明に用いる強化繊維ストランドは、例えば強化繊維に有機繊維、有機化合物や無機化合物を混合してもよく、サイジング剤を付着させたものであったりしてもよい。本発明における強化繊維テープ材料とは、強化繊維ストランドそのものであってもよく、複数の強化繊維ストランドから構成されていてもよい。
【0028】
しかしながら、表面に配置する樹脂材料と同じ軟化点(例えば、ガラス転移温度もしくは融点)を有する熱可塑性樹脂製の繊維や、その熱可塑性樹脂繊維とその他の強化繊維を混織した強化繊維ストランドは、本発明が目的とする効果を得られないために使用を避けるべきである。
【0029】
強化繊維ストランドを構成する強化繊維の単繊維数は、3000本~60000本であることが好ましく、10000本~60000本であることがより好ましい態様である。強化繊維の単繊維数が10000本未満である場合、強化繊維テープ材料の強化繊維目付けが低くなり、ファイバープレイスメント法を用いて製品形状に合わせた所望の形状となるように強化繊維テープ材料を順次配置していく際に、より多くの本数の強化繊維テープ材料を配置することとなり、強化繊維テープ材料の配置に時間を要し、生産性を低下させてしまう。強化繊維の単繊維数が3000本未満である場合、一層生産性が低下する。強化繊維の単繊維数が60000本より多い場合、強化繊維テープ材料の強化繊維目付けが高くなり、ファイバープレイスメント法を用いて製品形状に合わせた所望の形状となるように強化繊維テープ材料を順次配置していく際に、1層あたりの強化繊維目付けが高すぎることで、配向設計の範囲を狭めてしまう。
【0030】
第1または第4の樹脂材料および第2または第3の樹脂材料としては、加熱溶融性を有していればよく、材質としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、さらに、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、およびこれら樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂等を用いることができる。
【0031】
これらの加熱溶融性の樹脂材料は、強化繊維積層体とした際の層間を固着する接着機能のほか、含浸時におけるマトリックス樹脂流路を確保する目的や、高いじん性を発揮する材質の樹脂を使用することで層間を強化する目的でも使用することができる。また、導電性、難燃性などの機能性を付与するために、無機材料の微粒子等を混ぜた樹脂とすることもできる。これらの樹脂材料は、含浸時におけるマトリックス樹脂流路を確保する目的や、高いじん性を発揮する材質の樹脂を使用することで層間を強化する目的でも使用することができる。
【0032】
本発明の強化繊維テープ材料は、樹脂注入成形法により複合材料として成形されるため、強化繊維ストランド表面に配置される第1または第4の樹脂材料および第2または第3の樹脂材料はマトリクス樹脂透過性を有する必要がある。樹脂透過性を有するとは、言い換えればマトリックスとなる樹脂が流動するための隙間を有していればよく、これら樹脂材料からなる短繊維または/および長繊維を用いた織物、編み物、不織布等の形態を用いることができる。
【0033】
一方でマトリックスとなる樹脂が実質的に透過することができない、例えば、貫通孔を有しないフィルム形態や、不織布や織物として製作されたものの繊維同士が隙間無く融着したような形態では用いることができない。
【0034】
次に、上記強化繊維テープ材料の第1の形態について説明する。
第1の形態に係る強化繊維テープ材料の一実施態様の断面図を
図1に、斜視図を
図2に示す。また、強化繊維ストランドを複数本有する場合における第1の形態に係る強化繊維テープ材料の一実施態様の斜視図を
図3に示す。
図1および
図2に示す実施態様においては、1本の強化繊維ストランド3で構成されるストランド集合体の表面の片面のみにマトリックス樹脂透過性を有する第1の樹脂材料1が配置され、ストランド集合体のもう一方の面にはマトリックス樹脂透過性を有し、第1の樹脂材料1とは軟化点が異なる第2の樹脂材料2が配置され、第1の樹脂材料1と第2の樹脂材料2によって、強化繊維ストランド3を構成する強化繊維同士が互いに拘束・一体化された強化繊維テープ材料101が構成されている。第1の樹脂材料1は例えば粒子の形態で付与され、第2の樹脂材料2は例えば不織布の形態で付与される。
図3に示す実施態様においては、隙間をもって互いに並行に配置された複数本の強化繊維ストランド3で構成されるストランド集合体の表面の片面のみに第1の樹脂材料1が配置され、もう一方の面には第2の樹脂材料2が配置され、第1の樹脂材料1と第2の樹脂材料2によって強化繊維ストランド3同士が互いに拘束・一体化された強化繊維テープ材料が構成されている。
【0035】
このような第1の形態に係る強化繊維テープ材料においては、第2の樹脂材料の軟化点が40℃以上150℃以下であることが好ましい。さらには、40℃以上130℃以下が好ましく、さらには40℃以上100℃以下が好ましい。
【0036】
また、前記第1の樹脂材料の軟化点M1(℃)と第2の樹脂材料の軟化点M2(℃)との関係が、以下の式で表されることが好ましい。
M1≧M2+10(℃)
【0037】
本明細書において、「軟化点」とは、樹脂材料がその温度以上の温度になったときに樹脂材料が軟化/溶融する温度を指す。具体的には、樹脂材料が結晶性ポリマーである場合には融点を指すものとし、樹脂材料が非晶性ポリマーである場合にはガラス転移点を指すものとする。
【0038】
したがって、上記第1、第2の樹脂材料の軟化点の関係は、ガラス転移温度もしくは融点の関係として捉えることも可能であり、第1の樹脂材料のガラス転移温度(Tg1)もしくは融点(Tm1)と第2の樹脂材料のガラス転移温度(Tg2)もしくは融点(Tm2)との関係として捉えることが可能である。この場合、以下の式の範囲内であることが好ましい。
Tg1 ≧ Tg2 + 10(℃) または Tm1 ≧ Tm2 + 10(℃)
より好ましくは、
Tg1 ≧ Tg2 + 80(℃) または Tm1 ≧ Tm2 + 80(℃)
さらには、以下の範囲であることがさらに好ましい。
Tg1 ≧ Tg2 + 100(℃) または Tm1 ≧ Tm2 + 100(℃)
【0039】
ここで言う軟化点や、ガラス転移温度や融点は、DSC装置(示差走査熱量計)を用いて、使用する樹脂材料を測定することで得られ、簡易的には樹脂材料メーカー発行の技術情報に記載の値を参考とすることができる。
【0040】
本発明においては、第2の樹脂材料の軟化点により、最終的な強化繊維テープ材料の取扱性が変化する。40℃以上であることにより、室温環境下でも第2の樹脂材料が溶融せず、タック(粘着)性も生じないため、冷凍・冷蔵保管をせずに、保管することが可能になり、一方で、150℃以下であることによりファイバープレイスメント法により成形型へ本強化繊維テープ材料の固着を実施する際に、加熱に要する時間が少なくなり、素早く配置することが可能になる。
【0041】
第1の樹脂材料の軟化点が第2の樹脂材料の軟化点に比べて10℃以上、好ましくは80℃以上高温であることで、ファイバープレイスメント法により成形型への固着を実施する際に、第2の樹脂材料がタック性を発揮する温度でも第1の樹脂材料は確実に溶融せず形態を保つことができるため、層間に第1の樹脂材料による層を維持することが可能になる。
【0042】
本発明においては、前記第1および第2の樹脂材料が、繊維状の第1または第2の樹脂材料からなる不織布の形態で、強化繊維同士または/および、複数の強化繊維ストランド同士と互いに拘束・一体化されている形態を採ることができる。
【0043】
不織布形態においては、繊維をランダムに絡み合わせたマット形態、複数方向に配置された繊維が互いに溶融固着または接着剤により一体化された形態などから選ぶことができる。また、等方性で密度のばらつきが少ない形態でもよく、また機能性を付与するために異方性を有するように特異な配置パターン(例えば格子状、スパイラル状、波状など)を有する形態でもよい。これらのパターンをもった形態を選んだ場合、配置する形状によって、最終的なテープ材料のドレープ性(賦形性)を変化させることができる。配置する形状によって、強化繊維ストランドの繊維方向に連続して固着した樹脂と、幅方向に連続して固着した樹脂の割合を変化させることが可能になり、特に繊維方向の割合を減らし、幅方向の割合を増すことで、強化繊維同士の固着を維持しながら、繊維方向に垂直な方向に曲げやすい強化繊維テープ材料を得ることができる。
【0044】
一方で、短繊維または/および長繊維がランダムに絡み合ったマット状などの、特定の方向に繊維方向が偏らない形態を選んだ場合、強化繊維ストランド表面の第1及び第2の樹脂材料は概ね等方性かつ均一な密度に配置することが可能であり、例えば、面外方向の衝撃が加わった場合に層間に生じる亀裂(クラック)を抑制するための機能や、導電性、難燃性などを期待して樹脂を選定する場合などには、等方性を有する形態を選ぶことが効果的といえる。
【0045】
次に、上記強化繊維テープ材料の第2の形態について説明する。
第2の形態に係る強化繊維テープ材料は、強化繊維ストランドからなるストランド集合体の両面に、軟化点が40℃以上200℃以下の加熱溶融性の第4の樹脂材料を軟化後に固化した形態で有し、前記第4の樹脂材料より軟化点の高い第3の樹脂材料が前記第4の樹脂材料を介して前記強化繊維ストランドの片面に接着されている強化繊維テープ材料である。
【0046】
図4は第2の形態に係る強化繊維テープ材料の実施態様を示しており、強化繊維ストランド1本の場合の構成例を示している。
強化繊維テープ材料102は強化繊維ストランド3の両面に第4の樹脂材料5が軟化後に固化した形態で存在し、第4の樹脂材料5を介して強化繊維ストランド3の片面に第3の樹脂材料4が軟化していない状態で存在することにより形成される。複数本の強化繊維ストランド3が、隙間をもって互いに並行に配置される構成については、
図3に示した第1の形態に係る強化繊維テープ材料と同様の構成を採ることができる。
【0047】
また、第2の形態に係る強化繊維テープ材料においては、加熱溶融性の第4の樹脂材料は、その軟化点M1(℃)が40℃以上200℃以下であることが重要である。このような第4の樹脂材料を用いることによって、加熱により粘度が低下した後、冷却する等して常温に戻った状態のときに、強化繊維ストランドを構成するフィラメント同士を固定し、強化繊維ストランドとして一定の形態を保持することがより確実になる。
【0048】
なお、本明細書において、「軟化後に固化した状態」とは、加熱により粘度が低下した後、冷却する等して常温に戻った状態を指す。
【0049】
また、第2の形態に係る強化繊維テープ材料においては、強化繊維テープ材料の層間および表層に存在する第4の樹脂材料の付与量は、強化繊維テープ材料が100質量部であるのに対して、0.1~20質量部の範囲であることが好ましい。第4の樹脂材料の付与量が0.1質量部より小さい場合は、第4の樹脂材料を介して第3の樹脂材料を接着することにより強化繊維テープ材料の形状を保持することが困難となる。一方、第4の樹脂材料の付与量が20質量部よりも大きい場合、第4の樹脂材料の拘束が強いため、前記強化繊維テープ材料を3次元形状に変形させる際に、型の形状に追従しにくくなる可能性がある。マトリックス樹脂の粘度が向上して流動性が低下し生産性が低下するだけでなく、マトリックス樹脂の流動に長時間を要し、マトリックス樹脂の注入成形に必要なマトリックス樹脂粘度が上昇してしまい、未含浸が発生し、著しく成形品の力学特性が悪化する。特に、第4の樹脂材料の付与量が2~15質量部の範囲であるとき、テープの型への形状追従性が比較的良好であり、かつ樹脂注入時の含浸性を阻害しないため、より好ましい態様である。
【0050】
第2の形態に係る強化繊維テープ材料においては、第4の樹脂材料の軟化点M4[℃]と第3の樹脂材料の軟化点M3[℃]が次の式を満たすことが重要である。
M3>M4+10
M3はM4+10よりも大きいことが好ましく、M4+50よりも大きいことがさらに好ましく、M4+90よりも大きいことが一層好ましい。M3がM4+10以下の場合、第4の樹脂材料を介して第3の樹脂材料を接着する際に、加熱時の温度ムラ等により第3の樹脂材料が一部軟化してしまい、その結果、後工程の樹脂注入工程で強化繊維テープ材料の面内含浸性が低下するおそれがある。
【0051】
なお、第4の樹脂材料の形状は特に限定されるものではなく、マトリックス樹脂透過性を有していればよく、粒子形状、不織布形状、フィルム、メッシュ、エマルジョン、コーティング、または強化繊維ストランドに巻きつける補助糸でもよいが、両面散布が容易な点から粒子形状であることが好ましい。
【0052】
第3の樹脂材料の形状は特に限定されるものではなく、マトリックス樹脂透過性を有していればよく、粒子形状、不織布形状、フィルム、メッシュ、エマルジョン、コーティング、または強化繊維ストランドに巻きつける補助糸でもよいが、後工程の樹脂注入工程の面内含浸性が優れることから不織布形状であることが好ましく、不織布の繊維形態は軟化・溶融することないまま保持されていることが好ましい。
【0053】
図5は第2の形態に係る強化繊維テープ材料300を構成する強化繊維ストランドの厚みと幅の説明図を示す。
【0054】
第2の形態に係る強化繊維テープ材料300においいては、強化繊維フィラメントはサイジング材などの集束材により集束させて強化繊維ストランド301となっているが、この強化繊維ストランド301は、集束材によって形状を完全に固定されてはおらず、張力開放時に形態が変化してしまう場合もある。
【0055】
ここで、強化繊維ストランド301について、断面の幅方向における両端部の厚みT1(μm)およびT3(μm)が、いずれも前記強化繊維ストランド301の中央部における厚みT2(μm)に対して50~200%の範囲内であることが重要である。上限値は150%より小さいことがより好ましい。なお、
図5において、302は第4の樹脂材料、303は第3の樹脂材料を示している。
【0056】
T1(μm)およびT3(μm)が、T2(μm)に対して200%以下であることにより、ファイバープレイスメント法にて配置された強化繊維ストランドの幅変化を抑制することが可能となる。なぜなら、強化繊維ストランドの端部が中央部に比べて極端に厚い場合、強化繊維ストランドはファイバープレイスメント法にて型上に押し付けられるため、端部が押付けられることで拡がってしまうが、T1(μm)およびT3(μm)が、T2(μm)に対して200%以下である場合、端部の幅が拡がることをおさえられる。このような強化繊維ストランドからなるテープを用いることで、樹脂含浸流路となるストランド間の隙間を確保することが可能となり、樹脂含浸時の生産性を向上させることができる。T1(μm)およびT3(μm)が、T2(μm)に対して100%に近いほど、その効果はより顕著になる。
【0057】
一方、強化繊維ストランド端部の厚みが、強化繊維ストランド中央部に対して小さい場合には、強化繊維ストランドからなる強化繊維テープ材がファイバープレイスメント法にて型上に配置される際に、強化繊維ストランドの中央部が押付けられることで、幅方向に全体的に拡がってしまうが、T1(μm)およびT3(μm)が、T2(μm)に対して50%以上である場合、強化繊維ストランドは、幅方向全体にわたって押付けられて、荷重を分散するため、幅が拡がることをおさえられる。従って、その下限値は50%より大きいことが重要であり、75%以上であることがより好ましい。
【0058】
ここで強化繊維ストランド端部の厚みT1(μm)、T3(μm)とは、強化繊維ストランドの進行方向と同一平面上における、進行方向に対して垂直方向をなす方向をストランド幅方向とみなしたときに、ストランドの幅方向における、各端部から1mm内側の部分の厚みとする。また、ストランド中央部厚みT2とは、ストランド幅方向の中央部分、すなわち左右の端部からの距離が等しい部分の厚みを指す。
【0059】
また、強化繊維ストランド301の幅W〔mm〕とフィラメント数N〔単位K〕について、4.8<N/W<12であることが重要である。下限値は5.8より大きいことが好ましく、7.8より大きいことがより好ましい。
【0060】
N/Wが4.8より大きい場合、強化繊維ストランドのフィラメント数が一定であれば、ストランド幅をより小さくすることができる。この場合、強化繊維ストランドをファイバープレイスメント法にて一方向に配列すると、隣り合う強化繊維ストランドとの隙間(ギャップ)を細かく調整しながら配置することが可能となる。その結果、強化繊維ストランド同士の隙間をマトリックス樹脂の流路として確保することができ、成形時のマトリックス樹脂流動性を容易にすることができる。
【0061】
一方、強化繊維ストランドのストランド幅が一定であれば、フィラメント数Nを増やすことができる。この場合、強化繊維ストランドをファイバープレイスメント法にて一方向に配列した基材の1層当りの目付けを大きくすることができ、基材の積層に要する時間を短縮し、生産性を向上することができる。
【0062】
N/Wの値が大きくなることで、その効果はより顕著になる。ただし、N/Wの値が大きくなり過ぎると、強化繊維ストランドのフィラメント数が一定であれば、ストランド幅が小さくなり過ぎてしまい、強化繊維ストランドの配置時間が大幅に増える課題が生じたり、強化繊維ストランドのストランド幅が一定であれば、フィラメント数Nが増えすぎてしまい、基材の厚みの制御が困難になるほか、強化繊維ストランド内へのマトリックス樹脂含浸が困難になったりするおそれがある。このような観点から、N/Wの上限値は12であることが重要であり、10より小さいことが好ましく、8より小さいことがより好ましい。
【0063】
ここで、強化繊維ストランド301の各厚みT1(μm)、T2(μm)、T3(μm)は以下のように測定する。強化繊維テープ材料は、200~3000cNの範囲の一定張力で引き出された状態で、常温硬化性の樹脂を付与して含浸・硬化させることでその形態を保存する。得られたサンプルを包埋して、断面を観察することで、その端部および中央部における強化繊維ストランド厚みを測定することができる。
【0064】
また、強化繊維ストランド301の幅は以下のとおり測定する。超高速・高精度寸法測定器(例えば、株式会社キーエンス製 LS-9500)を用いて、強化繊維ストランド301を、200~3000cNの範囲の一定張力、2.5m/分の一定速度で10m巻き出しながらストランド幅を計測する。ストランド幅は、強化繊維ストランド301の進行方向と同一平面上における、進行方向に対して垂直方向をなす、強化繊維ストランド301の外寸(一方の端部から他方の端部までの最大距離)を指す。ストランド幅は1秒ごとに計測し、得られたデータの平均値を強化繊維ストランド幅とした。
【0065】
図6は第2の形態に係る強化繊維テープ材料の別の実施態様を示す。
強化繊維テープ材料400は一方向に沿って並べられた複数の強化繊維ストランド401の両面に第1の樹脂402が軟化後に固化した形態で存在し、第1の樹脂402を介して強化繊維ストランド401の片面に第2の樹脂403が軟化していない状態で存在することにより形成される。
【0066】
強化繊維テープ材料400は、複数本の強化繊維ストランド401が、第3の樹脂材料403によって互いに拘束・一体化されていることが好ましい。さらに、強化繊維テープ材料400を構成する複数の強化繊維ストランド401(幅:W)同士の間には隙間が存在することが好ましい。
【0067】
強化繊維テープ材料400が強化繊維ストランド401を複数含み、互いに一体化されていることにより、強化繊維テープ材の単位長さあたりの強化繊維フィラメント数および重量は大きくなり、ファイバープレイスメント法で強化繊維ストランド401を引き揃えて基材とするのに要する時間を短縮し、生産性を向上することができる。また、強化繊維テープ材料を構成する複数の強化繊維ストランド401間に隙間があることで、ファイバープレイスメント法にて一方向に配列し基材とした場合、マトリックス樹脂の流路を確保することができる。また、強化繊維テープ材料をファイバープレイスメント法にて隙間なく一方向に配列して基材とした場合にも、強化繊維テープ材料内で固定されている複数の強化繊維ストランド401の間に隙間が設けられているため、成形時のマトリックス樹脂流動性を確保することができる。
【0068】
次に、強化繊維テープ材料を用いた強化繊維積層体の例について、
図7~
図9を用いて説明する。本発明では、ファイバープレイスメント法を用いて、強化繊維テープ材料を平行に配置した基材を形成し、各基材を織り交じることなく重ね合わせて、各基材の層間を接着することにより、強化繊維積層体を製作することができる。
【0069】
第1の形態に係る強化繊維テープ材料を用いた強化繊維積層体の一実施態様として、例えば
図7(A)に示すような強化繊維ストランド3の片面に第1の樹脂材料1、もう一方の面に第2の樹脂材料2を配置した強化繊維テープ材料を、例えば
図7(B)に示すように4方向(基準方向0°と、基準方向0°に対し90°、45°、-45°の合計4方向)の配置角度にて積層することで、強化繊維積層体501を構成することができる。
【0070】
また、第2の形態に係る強化繊維テープ材料を用いた強化繊維積層体の一実施態様として、例えば
図8(A)に示すような強化繊維ストランド3の両面に第4の樹脂材料5、一方の面に第3の樹脂材料4を配置した強化繊維テープ材料を、例えば
図8(B)に示すように4方向(基準方向0°と、基準方向0°に対し90°、45°、-45°の合計4方向)の配置角度にて積層することで、強化繊維積層体502を構成することができる。
【0071】
さらに、
図9に示すように、
図7(A)に示したような第1の形態に係る強化繊維テープ材料と
図8(A)に示したような第2の形態に係る強化繊維テープ材料が任意の積層形態で積層された混在型の強化繊維積層体503を構成することもできる。
【0072】
これらの
図7~9のいずれかの構成をとることで、軟化点の低い第2の樹脂材料もしくは第4の樹脂材料を介して強化繊維積層体を構成する強化繊維テープ材料同士を安定的に接着することができ、かつ、軟化点の高い第1の樹脂材料もしくは第3の樹脂材料が形態を保つことで、強化繊維積層体の層間がつぶれることを抑制し、成形時の樹脂流路がふさがれることを抑制できる。
【0073】
次に、本発明の強化繊維テープ材料を製造する方法、とくに、第1の形態に係る強化繊維テープ材料を製造する方法について説明する。
【0074】
本発明に係る製造方法は、強化繊維ストランドを1本または複数本備えたストランド集合体を有する強化繊維テープ材料の製造方法、とくに第1の形態に係る強化繊維テープ材料の製造方法であって、以下の工程を有する強化繊維テープ材料の製造方法。
a)強化繊維ストランドを引出し、所定の幅に調整したものを1本または複数本並べてストランド集合体を形成する工程
b)前記工程a)における前記ストランド集合体の少なくとも片面に第1の樹脂材料を、一方の面に第2の樹脂材料を供給し配置する工程
c)強化繊維ストランドおよび配置した第1の樹脂材料、第2の樹脂材料を加熱し、前記強化繊維ストランドに対して加圧することによって、前記強化繊維ストランドに対して、第1の樹脂材料については形態を残したまま固着し、第2の樹脂材料については溶融させ、少なくとも一部を前記強化繊維ストランド内に含浸させる工程
d)強化繊維テープ材料を冷却し、巻き取る工程
【0075】
本発明に係る強化繊維テープ材料の製造方法の実施に用いる強化繊維テープ材料の製造装置の一例を
図10に示す。強化繊維ストランド3を幅調整機構11で所定の幅に調整し、その各面に第1の樹脂材料1と第2の樹脂材料2を配置し、上下に設けられた周回されるベルト16で送りながら、加熱部(ヒーター)12、加圧部(ニップロール)13、冷却部14と順に通過され、巻き取り装置15にて強化繊維テープ材料17が巻き取られる。
【0076】
強化繊維ストランドに対して、第1および第2の樹脂材料を供給する方法としては、予め、織ったり、編んだり、不織布状に形成しておいた樹脂材料を供給する方法、繊維状の樹脂を切断して散布する方法、粉末状の樹脂を吹き付ける方法、溶媒と混ぜてスラリー状となった樹脂をローラーやはけを介して塗布した後溶媒を乾燥させる方法、また溶融させた樹脂を吹き付けるメルトブロー法などによって供給する方法のうちの1つまたはこれらを組み合わせた方法を選ぶことができる。
【0077】
第1の樹脂材料は形態を残したまま、強化繊維ストランドへ固着することで、注入成形時におけるマトリックス樹脂流路を確保することが容易になる。一方、第2の樹脂材料は溶融させ、少なくとも一部を強化繊維ストランド内に含浸させることで、強化繊維同士または/および、複数の強化繊維ストランド同士が連続した樹脂により強固に固着一体化され、配置工程における面外方向の加圧力を受けても、強化繊維ストランド幅が変化しにくくなる。
【0078】
前記b)の工程において、前記第1または/および第2の樹脂材料は、事前に形成された繊維状の第1または/および第2の樹脂材料からなる不織布の形態で供給するのが好ましい。
【0079】
事前に所望の形態となるように形成した樹脂材料を用意してから配置することで、強化繊維ストランド表面に配置する樹脂材料の品質(単位面積当たりの重量や繊維の密度、配置模様など)の管理が容易になる。また、織物や編み物は相対的に製作コストが高く、強化繊維テープ材料の製造費用を抑える意味でも、不織布形態が望ましい。
【0080】
前記第1の樹脂材料は第1の樹脂材料からなる繊維方向がランダムな不織布の形態で供給され、一方で第2の樹脂材料は第2の樹脂材料からなる規則的な繊維配向を有した不織布の形態で供給することができる。
【0081】
第1の樹脂材料は第2の樹脂材料に比べガラス転移点または融点が高く、配置時の加熱や加圧によって実質的に形態が変化しない(させない)ため、注入成形時におけるマトリックス樹脂流路を確保する目的や、高いじん性を発揮する材質の樹脂を使用することで層間を強化する目的、また、導電性、難燃性などの機能性を付与する目的に注目した材料選択に適しており、また、強化繊維テープ材料の積層体およびこれに樹脂を注入して得られる成形品においても目的とした特性が等方的・均一に発揮される必要があるため、不織布を構成する樹脂繊維がランダムに配置される形態が適している。
【0082】
一方で、第2の樹脂材料はガラス転移点または融点が低く、強化繊維ストランドと一体化する際に、一部もしくは大部分が強化繊維ストランド内に含浸する。そのため、強化繊維ストランド内に溶融含浸した後にもマトリックス樹脂透過性を維持するためには、強化繊維ストランドに配置する前の段階で、規則的な繊維間の間隔を設けた形態を用いることが適している。
【実施例】
【0083】
本発明における第1の形態に係る強化繊維テープ材料について、実施例に基づいて説明する。
<強化繊維ストランド>
東レ(株)製炭素繊維束「T800SC-24K」を用いた。
【0084】
<強化繊維テープ材料>
(実施例1)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド1本に対して、
図10に示すように片面から第1の樹脂材料1としての不織布(ポリアミド樹脂製、融点190℃)、もう一方の面から第2の樹脂材料2としての不織布(ポリアミド樹脂製、融点95℃)を投入し、炭素繊維束を挟み込むように配置しながら、180℃に加熱した加熱部12と加圧部13(ニップロール、加圧力:0.1MPa)を通過させ、その後40℃以下に冷却し巻き取ることで、不織布と炭素繊維ストランドを一体化した強化繊維テープ材料を得た。
【0085】
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ500mmほど切り出し、平板上に静置して表面の観察と幅測定をしたところ、第1の樹脂材料1としての不織布は構成する繊維の形態が残る形で強化繊維ストランドに固着し、一方、第2の樹脂材料2としての不織布は溶融し繊維の形態が残らず、強化繊維ストランド内に含浸していた。また強化繊維ストランドは不織布等を一体化させる前と同じ幅を保っていた。
【0086】
室温にて、該テープ材料を平板に対してローラーを使って押付けたところ、幅の変化は極わずかであった。強化繊維テープ材料を80℃に加熱しながら平板に対して同様にローラーで押付けたところ、強化繊維ストランドの幅はほぼ変化せず、平板に対して貼り付けることができた。
【0087】
(実施例2)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド6本を、平行に、0.3mmの間隙を開けて引き揃えながら引出した以外は、実施例1と同様の作業を行い、不織布と複数の炭素繊維ストランドを一体化した強化繊維テープ材料を得た。巻き取った後の、表面観察、幅測定、室温および80℃においてローラーで平板に対して押付ける試験をしたところ、実施例1と同様の結果を得た。
【0088】
(比較例1)
ボビンから手作業で引出した炭素繊維ストランドを長さ500mmほどに切り出し、平板上に静置して幅を測定したところ、幅はおよそ8mmであった。室温にて、該ストランドを平板に対して、ローラーで押付けたところ、目に見えて幅が広がりおよそ10mmとなった。また、80℃に加熱しながら平板に対して同様にローラーで押付けたが、平板には貼り付かなかった。
【0089】
(比較例2)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド6束を、平行に、0.3mmの間隙を開けて引き揃えながら引出した炭素繊維ストランド群に対して、片面から第1の樹脂材料1としての不織布を投入し、210℃に加熱した加圧部(ニップロール、加圧力:0.1MPa)を通過させ、その後冷却し巻き取ることで、不織布と複数の炭素繊維ストランドを一体化した強化繊維テープ材料を得た。
【0090】
巻き取った後の、表面観察、幅測定、室温および80℃でのローラーで押付ける試験をしたところ、第1の樹脂材料1としての不織布は溶融し繊維の形態が残らず、強化繊維ストランド内に含浸していた。また強化繊維ストランドは第1の樹脂材料1としての不織布を一体化させる前と同じ幅を保っていた。平板に対してローラーで押付けたところ、室温および80℃ともに張り付かなかった。
【0091】
(比較例3)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド6束を、平行に、0.3mmの間隙を開けて引き揃えながら引出した炭素繊維ストランド群に対して、片面から第1の樹脂材料1としての不織布を投入し、180℃に加熱した加圧部(ニップロール、加圧力:0.1MPa)を通過させ、その後冷却し巻き取ることで、不織布と複数の炭素繊維ストランドを一体化した強化繊維テープ材料を得た。
【0092】
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ500mmほど切り出そうとしたところ第1の樹脂材料1としての不織布と強化繊維ストランドの大部分が固着されておらず、平板上に静置して幅を測定する際には、ばらばらに分離し、一体化したテープ材料ではなくなった。
【0093】
(比較例4)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド6束を、平行に、0.3mmの間隙を開けて引き揃えながら引出した炭素繊維ストランド群に対して、両面から第1の樹脂材料1としての不織布を投入し、210℃に加熱した加圧部(ニップロール、加圧力:0.1MPa)を通過させ、その後冷却し巻き取ることで、不織布と複数の炭素繊維ストランドを一体化した強化繊維テープ材料を得た。巻き取った後の幅測定結果は、比較例2と同様であった。
【0094】
(比較例5)
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから4.0mm幅に幅を調整しながら引出した炭素繊維ストランド6束を、平行に、0.3mmの間隙を開けて引き揃えながら引出した炭素繊維ストランド群に対して、片面から第1の樹脂材料1としての不織布を投入し、もう一方の面からはバインダー粒子(エポキシ樹脂、平均粒径200μm、融点80℃、図示なし)を吹き付けたのち、180℃に加熱した加圧部(ニップロール、加圧力:0.1MPa)を通過させ、その後冷却し巻き取ることで、片面の不織布ともう一方の面のバインダー粒子を複数の炭素繊維ストランドと一体化した強化繊維テープ材料を得た。
【0095】
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ500mmほど切り出し、平板上に静置して表面の観察と幅測定をしたところ、第1の樹脂材料1としての不織布は構成する繊維の形態が残る形で強化繊維ストランドに固着し、一方、バインダー粒子は溶融し粒子形態が残らず、強化繊維ストランド内に含浸していた。また強化繊維ストランドは不織布等を一体化させる前に比べ幅が広がり、引き揃える際に設けた間隙が強化繊維によって埋まっていた。
【0096】
室温にて、該テープ材料を平板に対してローラーを使って押付けたところ、特に幅方向の最も外側の強化繊維ストランドは6~7mmまで広がった。さらに強化繊維テープ材料を80℃に加熱しながら平板に対して同様にローラーで押付けたところ、平板への貼り付きは確認できたが、室温時と同様に目に見えて幅変化が生じていた。
【0097】
<シート材および積層体>
(実施例1)
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ200mmほど切り出し、これを繰り返して0.3mmを狙った間隔を開けて平板(ツール)上に仮止めした、約300mm角に切り出し、中央に100mm角の穴を開けたフィルムの上に平行に並べてテープで固定し、約200mm×200mmの強化繊維テープ材料を用いたシートを1層形成した。その後1層目の繊維方向と直交する向きに、1層目のテープ材料の上から2層目を形成し、さらに直交する向きに(1層目と同じ向きに)3層目を形成し、と繰り返し、全部で35層からなる積層体を製作した。得られた積層体を成形用ツール上に配置し、バッグフィルムで覆い、バッグ面側(バッグフィルムの内面側)から真空吸引しながら全体を70℃に加熱した。その後、ツール面側より70℃に加熱した樹脂を注入した。(所謂VaRTM法にて成形を行った。)結果、厚み方向に樹脂は完全に含浸した。
【0098】
(実施例2)
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ200mmほど切り出し、これを繰り返して実施例1と同様に積層体を形成し、実施例1と同様にVaRTM法にて成形を行ったところ、実施例1と同様に厚み方向に樹脂は完全に含浸した。
【0099】
(比較例1)
ボビンから引出した炭素繊維ストランドを実施例1と同様に整列・積層し、VaRTM法にて成形を行った。注入側の面からおよそ30層目までは樹脂が到達したが、反対側の面まで樹脂が到達せず、未含浸となった。また、炭素繊維ストランドを整列させる作業中には、狙った繊維束間の間隙が維持できず、多数の箇所で隙間が埋まったり、繊維束同士が重なったりする箇所が見られた。
【0100】
(比較例2~5)
巻き取ったボビンから再度手作業で強化繊維テープ材料を長さ200mmほど切り出し、これを繰り返して実施例1と同様に積層体を形成し、VaRTM法にて成形を行ったところ、比較例2および比較例4では、およそ20層目までは樹脂が到達したが、反対側の面まで樹脂が到達せず、未含浸となった。比較例3では、強化繊維テープ材料を切り出す際、不織布と強化繊維の一体性が保てず、積層を断念した。比較例5では、実施例1と同様に厚み方向に樹脂は完全に含浸したものの、含浸時間が1.5倍の長さとなった。
【0101】
これら評価結果をまとめると、表1の通りとなった。
【0102】
【0103】
次に、本発明における第2の形態に係る強化繊維テープ材料について、実施例に基づいて説明する。
【0104】
(実施例3)
<強化繊維ストランド>
強化繊維ストランドとして、予めサイジング処理を施した、東レ株式会社製強化繊維「トレカ」(登録商標)T800SC、強化繊維フィラメント数が24,000本(N=24K)を用いた。
【0105】
<強化繊維テープ材料>
強化繊維テープ材料製造装置を用いて、ボビンから幅W’=8mm、フィラメント数N〔K〕=24(N/W=3)の強化繊維ストランドを引出して、厚みを調整しながらスリットせずに幅を狭めることで、W=4.0mm幅の炭素繊維ストランド1束(フィラメント数N=24〔K〕、N/W=6、端部の厚みT1=332μm、中央の厚みT2=293μm、もう一方の端部の厚みT3=320μm、端部と中央部の厚みの比率T1/T2=113%、およびT3/T2=109%)を得た。その後、軟化点温度80℃の加熱溶融樹脂粒子(平均粒径:0.2mm)を強化繊維ストランドの両面に散布し、溶融、冷却することで、その形態が固定された強化繊維ストランドを得た。
【0106】
3本の強化繊維ストランドを、隣接強化繊維ストランド間にそれぞれ0.2mmの隙間を設けるように幅方向に平行に引きそろえた後、軟化点温度200℃の不織布(材質:ポリアミド)をその片面に配置し、110℃にて加熱して3本の強化繊維ストランドを互いに拘束・一体化させることにより、強化繊維テープ材料を得た。
【0107】
<積層シート基材>
図示しないファイバープレイスメント装置を用いて、架台上に強化繊維テープ材料を、それぞれのテープ間にそれぞれ0.2mmの隙間を設けるように一方向に引き揃えて配置し、1000mm×1000mmの正方形形状となるように強化繊維テープ材料を切断しながら配置を繰り返して基材を製作し、それぞれの基材を構成する強化繊維ストランドの配向方向が直交するように積層し、各層間を接着することで積層シート基材を製作した。
【0108】
<強化繊維積層体>
複数の前記積層シート基材を強化繊維積層体目付けが2.4kg/m2となるように積層し、C型の型上に配置した後、バッグフィルムとシーラントにて密閉して真空に減圧した状態で、80℃のオーブンで1時間加熱した。その後、オーブンから取り出し、強化繊維積層体型を室温まで冷却した後に放圧して強化繊維積層体を得た。得られた強化繊維積層体は皺が生じることなく、賦形性良好であった。
【0109】
<繊維強化樹脂成形体>
得られた強化繊維積層体上に樹脂拡散媒体(アルミ金網)を積層し、平面状の成形金型とバッグ材とでシーラントを用いて密閉することによりキャビティを形成し、100℃のオーブン中に入れた。強化繊維積層体の温度が100℃に達した後に密閉したキャビティを真空に減圧して、マトリックス樹脂を100℃に保ちながら大気圧との差圧のみで注入した。樹脂が含浸した後、減圧を続けながら180℃に昇温し、2時間放置して硬化させて脱型し、FRP平板を得た。得られたFRP平板は未含浸が生じることなく、含浸性が良好であった。
【0110】
(実施例4)
<強化繊維ストランド>
実施例3と同様の強化繊維ストランドを用いた。
【0111】
<強化繊維テープ材料>
実施例3と同等の方法で、軟化点温度110℃の加熱溶融樹脂粒子(平均粒径:0.2mm)を強化繊維ストランドの両面に散布し、溶融、冷却することで、その形態が固定された強化繊維ストランドを得た。強化繊維ストランド間にそれぞれ0.2mmの隙間を設けるように幅方向に平行になるよう、図示しない不織布貼り付け装置を用いて3本の強化繊維ストランドを並行に引き出し、軟化点温度180℃の不織布(材質:ポリアミド)をその片面に当接した状態で、不織布貼り付け装置のラミネーターにて110℃で加熱して拘束・一体化させることにより、強化繊維テープ材料を得た。
【0112】
<強化繊維積層体>
実施例3と同等の方法で作製した複数の積層シート基材を強化繊維積層体目付けが2.4kg/m2となるように積層し、C型の型上に配置した後、バッグフィルムとシーラントにて密閉して真空に減圧した状態で、110℃のオーブンで1時間加熱した。その後、オーブンから取り出し、強化繊維積層体型を室温まで冷却した後に放圧して強化繊維積層体を得た。得られた強化繊維積層体は皺が生じることなく、賦形性良好であった。
【0113】
<繊維強化樹脂成形体>
得られた強化繊維積層体上に樹脂拡散媒体(アルミ金網)を積層し、平面状の成形金型とバッグ材とでシーラントを用いて密閉することによりキャビティを形成し、100℃のオーブン中に入れた。強化繊維積層体の温度が100℃に達した後に密閉したキャビティを真空に減圧して、マトリックス樹脂を100℃に保ちながら大気圧との差圧のみで注入した。樹脂が含浸した後、減圧を続けながら180℃に昇温し、2時間放置して硬化させて脱型し、FRP平板を得た。得られたFRP平板は未含浸が生じることなく、含浸性が良好であった。
【0114】
(比較例6)
<強化繊維ストランド>
強化繊維ストランドとして、予めサイジング処理を施した、東レ株式会社製強化繊維「トレカ」(登録商標)T800SC、強化繊維フィラメント数が24,000本(N=24K)を用いた。
【0115】
<強化繊維テープ材料>
図示しない不織布貼り付け装置を用いて、幅W=8mm、フィラメント数N〔K〕=24(N/W=3)の強化繊維ストランドを、間にそれぞれ0.2mmの隙間を設けるように3本平行に引き出して、軟化点温度180℃の不織布(材質:ポリアミド)をその両面に当接した状態で、不織布貼り付け装置のラミネーターにて180℃で加熱して拘束・一体化させることにより、強化繊維テープ材料を得た。
【0116】
<強化繊維積層体・繊維強化樹脂成形体>
実施例3と同等の方法で作製した複数の積層シート基材を強化繊維積層体目付けが2.4kg/m2となるように積層し、C型の型上に配置した後、得られた強化繊維積層体上に樹脂拡散媒体(アルミ金網)を積層し、平面状の成形金型とバッグ材とでシーラントを用いて密閉することによりキャビティを形成し、密閉したキャビティを真空に減圧した。この際、強化繊維積層体の一部にしわが発生した。その後、強化繊維積層体を100℃のオーブン中に入れ、強化繊維積層体の温度が100℃に達した後マトリックス樹脂を100℃に保ちながら大気圧との差圧のみで注入した。樹脂が含浸した後、減圧を続けながら180℃に昇温し、2時間放置して硬化させて脱型し、FRP平板を得た。得られたFRP平板は一部未含浸が生じた。
【0117】
上記実施例3、4、比較例6の結果を表2にまとめた。
【0118】
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明で得られる強化繊維テープ材料や、これを用いた強化繊維積層体はマトリックス樹脂の含浸性に優れるため、特に、航空機や自動車、船舶等向けの大型部材や、風車ブレードのような一般産業用途の部材にも好適である。
【符号の説明】
【0120】
1:第1の樹脂材料
2:第2の樹脂材料
3:強化繊維ストランド
4:第3の樹脂材料
5:第4の樹脂材料
11:幅調整機構
12:加熱部(ヒーター)
13:加圧部(ニップロール)
14:冷却部
15:巻き取り装置
16:ベルト
17:強化繊維テープ材料
101、102:強化繊維テープ材料
300、400:強化繊維テープ材料
301、401:強化繊維ストランド
302、402 第4の樹脂材料
303、403:第3の樹脂材料
501、502、503:強化繊維積層体