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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形材料および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
C08J5/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020549239
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037367
(87)【国際公開番号】W WO2020067058
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018184573
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】大野 泰和
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
(72)【発明者】
【氏名】下山 明
(72)【発明者】
【氏名】本橋 哲也
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/143068(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/115225(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094706(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03733398(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08 -15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束幅Waoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束幅Wamが、下記(数式1)(数式2)および(数式4)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式2) Wao>Wam
(数式4) 1.05<Lao/Lam<1.30
【請求項2】
チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束幅Waoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束幅Wamが、下記(数式1)(数式2)および(数式5)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式2) Wao>Wam
(数式5) 1.05<Wao/Wam<1.50
【請求項3】
前記最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTaoと、前記中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTamが、さらに(数式3)を満たすことを特徴とする、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式3) Tao>Tam
【請求項4】
前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向における、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTamが、下記(数式6)を満たすことを特徴とする、請求項に記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式6) 1.01<Tao/Tam<2.00
【請求項5】
チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束厚みTamが、下記(数式1)(数式3)および(数式4)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式3) Tao>Tam
(数式4) 1.05<Lao/Lam<1.30
【請求項6】
チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束厚みTamが、下記(数式1)(数式3)および(数式5)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式3) Tao>Tam
(数式5) 1.05<Wao/Wam<1.50
【請求項7】
チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束厚みTamが、下記(数式1)および(数式)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式6) 1.01<Tao/Tam<2.00
【請求項8】
前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維長Laが3mm以上100mm以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
【請求項9】
前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維束幅Waが0.1mm以上60mm以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1~8のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
【請求項10】
前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維束厚みTaが0.01mm以上0.50mm以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1~9のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
【請求項11】
前記チョップド繊維束[A]のカット角度θが0°<θ<90°の範囲内であることを特徴とする、請求項1~10のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
【請求項12】
前記マトリックス樹脂[B]が、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂から選ばれる熱硬化性樹脂であることを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料を圧縮成形して得られる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続強化繊維の繊維束を切断しシート状に堆積させたチョップド繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料と、それより得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続強化繊維を切断した不連続強化繊維のチョップド繊維束をランダムに分散させたチョップド繊維束マットと、マトリックス樹脂からなる繊維強化樹脂成形材料を用いて、加熱・加圧成形により、3次元形状等の複雑な形状の繊維強化プラスチックを成形する技術が知られている。これらの成形技術としては、シートモールディングコンパウンド(以下、SMC)がある。
【0003】
SMC等の繊維強化樹脂成形材料を用いた成形品は、例えば12.5mm程度に切断したチョップド繊維束からなるチョップド繊維束マットに熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を含浸せしめたSMCシートは、加熱型プレス機を用いて加熱加圧することにより得られる。多くの場合、加圧前にSMCシートを成形体より小さく切断して金型に配置し、加圧により成形体の形状に流動させて成形を行うため、3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。しかしながら、SMCシートはそのシート化工程において、チョップド繊維束の流動性が悪い場合に、繊維束が十分に引き伸ばされないまま固まり、配向ムラが生じてしまうため、力学特性の低下やバラツキが大きくなるだけではなく、成形品のソリやヒケ等が発生しやすくなる課題があった。
【0004】
かかる課題を解決すべく、1,000本以下の炭素繊維を切断したチョップド繊維束を分散させることにより、クラック発生や進展を抑制するSMCシートを得ることが開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、強化繊維の繊維束を拡幅した状態で切断し、扁平形状のチョップド繊維束を用いることにより、優れた力学特性を発現するSMCシートの製造方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平01-163218号公報
【文献】特開2009-62648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、1,000本以下の炭素繊維からなるチョップド繊維束を用いてSMCシートを作製するには、高価なフィラメント数の少ない炭素繊維を使用するか、または安価なフィラメント数の多い炭素繊維を分繊して使用するか、いずれにせよ経済性の問題があった。さらには、単にチョップド繊維束の集束本数を減らしただけでは、シート状に堆積させたチョップド繊維束がかさ高くなり、SMC製造時にマトリックス樹脂の含浸を阻害するという問題点もあった。
【0008】
また、特許文献2では、扁平形状にすることによりチョップド繊維束の幅が大きくなるため、成形時の流動性を阻害する問題点があった。
【0009】
また、SMCシート等の繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、高温の金型面に接する最外層部分は樹脂の粘度低下により流動しやすくなるのに対して、熱が伝わりにくい中央層部分は樹脂の粘度低下が僅かであり流動しにくいため、十分な力学特性を発現できない問題があった。
【0010】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、繊維強化樹脂成形材料とした場合に優れた流動性を発現し、繊維強化プラスチックとした場合に優れた力学特性を発現する繊維強化樹脂成形材料、成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
[1]チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束幅Waoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束幅Wamが、下記(数式1)および(数式2)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式2) Wao>Wam
[2]前記最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTaoと、前記中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTamが、さらに(数式3)を満たすことを特徴とする、[1]に記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式3) Tao>Tam
[3]チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoおよび数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamおよび数平均繊維束厚みTamが、下記(数式1)および(数式3)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料。
(数式1) Lao>Lam
(数式3) Tao>Tam
[4]前記最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束幅Waoと、前記中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Wamが、さらに下記(数式2)を満たすことを特徴とする、[3]に記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式2) Wao>Wam
[5]前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向における、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Laoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lamが、下記(数式4)を満たすことを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式4) 1.05<Lao/Lam<1.30
[6]前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向における、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束幅Waoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Wamが、下記(数式5)を満たすことを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式5) 1.05<Wao/Wam<1.50
[7]前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向における、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTaoと、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTamが、下記(数式6)を満たすことを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
(数式6) 1.01<Tao/Tam<2.00
[8]前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維長Laが3mm以上100mm以下の範囲内であることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
[9]前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維束幅Waが0.1mm以上60mm以下の範囲内であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
[10]前記チョップド繊維束[A]の数平均繊維束厚みTaが0.01mm以上0.50mm以下の範囲内であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
[11]前記チョップド繊維束[A]のカット角度θが0°<θ<90°の範囲内であることを特徴とする、[1]~[10]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
[12]前記マトリックス樹脂[B]が、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂から選ばれる熱硬化性樹脂であることを特徴とする、[1]~[11]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形材料を圧縮成形して得られる成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維強化樹脂成形材料は優れた流動性を発現し、成形品とした場合に優れた力学特性を発現する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明で用いられるチョップド繊維束の2次元平面投影図の一例であり、チョップド繊維束の繊維長、繊維束幅および先端角度の鋭角θ、θの測定箇所を示した図である。
図2】本発明の繊維強化樹脂成形材料を製造する、糸規制ユニットトラバース方式の工程の一例を示す概略図である。
図3】本発明の繊維強化樹脂成形材料を製造する、カッターロールトラバース方式の工程の一例を示す概略図である。
図4】本発明の繊維強化樹脂成形材料を製造する、段階的な散布方式の工程の一例を示す概略図である。
図5】本発明で用いられる分散器5の構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の繊維強化樹脂成形材料の1つめの態様は、チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、少なくとも3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Lao(mm)および数平均繊維束幅Wao(mm)と、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lam(mm)および数平均繊維束幅Wam(mm)が、下記(数式1)および(数式2)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料である。
(数式1) Lao>Lam
(数式2) Wao>Wam
【0015】
また、本発明の繊維強化樹脂成形材料の2つめの態様は、チョップド繊維束[A]にマトリックス樹脂[B]を含浸させてなる繊維強化樹脂成形材料[C]であって、前記繊維強化樹脂成形材料[C]の厚み方向において、少なくとも3層以上の積層構成を有し、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Lao(mm)および数平均繊維束厚みTao(mm)と、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lam(mm)および数平均繊維束厚みTam(mm)が、下記(数式1)および(数式3)を満たすことを特徴とする、繊維強化樹脂成形材料である。
(数式1) Lao>Lam
(数式3) Tao>Tam
【0016】
本発明におけるチョップド繊維束とは、一方向に配列された多数本の連続強化繊維束を、繊維長手方向に一定の間隔をおいて切断した繊維束のことである。強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンオキサール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも炭素繊維(特にPAN系炭素繊維)は、これら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。
【0017】
本発明におけるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。特に、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂を用いると、強化繊維に対して優れた界面接着性を発現することから、SMCシートとして用いる場合に好適である。また、熱硬化性樹脂は、各種添加剤、フィラー、着色剤等を含んでいてもよい。
【0018】
本発明における繊維強化樹脂成形材料は、チョップド繊維束にマトリックス樹脂を含浸させることにより得られる。特にマトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いたものは、SMC(シートモールディングコンパウンド)と呼ばれ、成形品の中間体として利用することができる。このSMCにおけるマトリックス樹脂の含有量としては、チョップド繊維束の全重量を基準として、20質量%以上75質量%以下の範囲内であるのがよい。
【0019】
本発明における繊維強化樹脂成形材料の積層構成の1つめの態様とは、繊維長および繊維束幅が同じチョップド繊維束がランダムに配向された層の、繊維強化樹脂成形材料の厚み方向における数のことである。この繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、高温の金型面に接する最外層部分は樹脂の粘度低下により流動しやすいので、補強効果に優れる繊維が長く、かつ繊維束幅が広いチョップド繊維束からなる層であることが好ましい。一方、熱が伝わりにくい中央層部分は樹脂の粘度低下が僅かであり流動しにくいので、流動性に優れる繊維長が短くかつ繊維束幅が狭いチョップド繊維束からなる層であることが好ましい。力学特性に優れた成形品を得るために、繊維強化樹脂成形材料の表側および裏側の最外層と中央層から構成される、少なくとも3層以上の積層構成であることが好ましい。また、反りがない成形品を得るために、面対称に積層することが好ましい。
【0020】
ここで、最外層とは、繊維強化樹脂成形材料を厚み方向に対して、表側および裏側の層であり、中央層とは、設計上繊維強化樹脂成形材料の側面以外の表側および裏側に現れていない層のことをいう。
【0021】
また、本発明における繊維強化樹脂成形材料の積層構成2つめの態様とは、繊維長および繊維束厚みが同じチョップド繊維束がランダムに配向された層の、繊維強化樹脂成形材料の厚み方向における数のことである。この繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、高温の金型面に接する最外層部分は樹脂の粘度低下により流動しやすいので、補強効果に優れる繊維が長く、かつ繊維束厚みが大きいチョップド繊維束からなる層であることが好ましい。一方、熱が伝わりにくい中央層部分は樹脂の粘度低下が僅かであり流動しにくいので、流動性に優れる繊維長が短くかつ繊維束厚みが小さいチョップド繊維束からなる層であることが好ましい。力学特性に優れた成形品を得るために、繊維強化樹脂成形材料の表側および裏側の最外層と中央層から構成される、少なくとも3層以上の積層構成であることが好ましい。また、反りがない成形品を得るために、面対称に積層することが好ましい。
【0022】
ここで、最外層とは、繊維強化樹脂成形材料を厚み方向に対して、表側および裏側の層であり、中央層とは、設計上繊維強化樹脂成形材料の側面以外の表側および裏側に現れていない層のことをいう。
【0023】
本発明の繊維強化樹脂成形材料用いて成形する際は、繊維強化樹脂成形材料を複数枚重ねて用いてもよい。重ねた繊維強化樹脂成形材料の厚み方向において、補強効果に優れる繊維が長く、かつ繊維束幅が広いチョップド繊維束からなる層と流動性に優れる繊維長が短くかつ繊維束幅が狭いチョップド繊維束からなる層を交互に積層させることで、もしくは、重ねた繊維強化樹脂成形材料の厚み方向において、補強効果に優れる繊維が長く、かつ繊維束厚みが大きいチョップド繊維束からなる層と流動性に優れる繊維長が短くかつ繊維束厚みが小さいチョップド繊維束からなる層を交互に積層させることで、断面が均一な成形品を得ることができ、ひいては力学特性に優れた成形品を得ることができる。断面が均一な成形品としては、成形品の厚み方向最外層付近に繊維乱れの少ない成形品であることが例示できる。
【0024】
また、実質的にランダムに配向するとは、チョップド繊維束を散布した際の配向を任意の方向から開始して-90°≦θ<90°の方向で45°ずつの4方向(-90°≦θ<-45°、-45°≦θ<0°、0°≦θ<45°、45°≦θ<90°)で区分した際に、各方向に配向された繊維束の全体における割合が25±2.5%の範囲内と比較的均一に分布されていることを示す。チョップド繊維束が実質的にランダムに配向していることにより、チョップド繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂成形材料は等方性材料として取り扱うことができるため、前記繊維強化樹脂成形材料を用いて成形品を成形する際の設計が容易となる。
【0025】
チョップド繊維束の繊維配向測定は、以下のように実施する。まず、チョップド繊維束マットから、マット厚み方向にわたり、全てのチョップド繊維束が見えるようにマット厚み方向にスライスした画像を撮影する。スライスした画像を撮影する方法としては、特に制限されないが、チョップド繊維束の配向を保ったままでチョップド繊維束を媒体に転写させることをマット厚み方向にわたり繰り返して行い、転写後の画像を撮影する方法などが挙げられる。ここで、本発明における全てのチョップド繊維束とは、測定する範囲内に存在するチョップド繊維束の90%以上を表すものとする。次に、得られた画像から、各チョップド繊維束の繊維長手方向(角度)を計測する。繊維長手方向(角度)の計測は、画像処理ソフトを用いてコンピュータ上で計測しても良いし、時間は掛かるものの人手で分度器を用いて計測することもできる。得られた繊維長手方向(角度)の値から、ヒストグラムを作成し、4方向分布で整理する。なお、測定するマットの面積は、10,000mm以上とする。
【0026】
本発明の繊維強化樹脂成形材料において、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長をLao(mm)、数平均繊維束幅をWao(mm)、数平均繊維束厚みをTao(mm)とする。また、中央層のチョップド繊維束の数平均繊維長をLam(mm)、数平均繊維束幅をWam(mm)、数平均繊維束厚みをTam(mm)とする。
【0027】
チョップド繊維束の数平均繊維長測定は、以下のように実施する。チョップド繊維束マットから無作為に選んだ100個のチョップド繊維束について、図1に示すように、各1つのチョップド繊維束のLとLの2点測定した平均値を算出する。次に、100個のチョップド繊維束の平均を、数平均繊維長とする。計測は、画像処理ソフトを用いてコンピュータ上で計測しても良いし、人手でノギスを用いて計測することもできる。
【0028】
また、チョップド繊維束の数平均幅測定は、以下のように実施する。数平均幅Waは、チョップド繊維束マットから無作為に選んだ100個のチョップド繊維束について、図1に示すように、各1つのチョップド繊維束の最大幅Wを測定した上で、100個のチョップド繊維束の平均を、数平均幅Waとする。計測は、画像処理ソフトを用いてコンピュータ上で計測しても良いし、人手でノギスを用いて計測することもできる。また、測定する100個のチョップド繊維束は、前記数平均繊維長を測定するチョップド繊維束と同じものを用いてもよい。
【0029】
チョップド繊維束の数平均厚み測定は、以下のように実施する。数平均厚みTaは、チョップド繊維束マットから無作為に選んだ100個のチョップド繊維束について、各々を直径11.28mmの平面をもつ圧子と、圧子の平面と平行に設置された平面の間に、チョップド繊維束の繊維長Lと、繊維束幅Wがなす面が平面と平行になるように設置し、圧子により30gの負荷をチョップド繊維束にかけた状態の繊維束厚みを測定する。そして、100個のチョップド繊維束の平均を、数平均厚みTaとする。また、測定する100個のチョップド繊維束は、前記数平均繊維長を測定するチョップド繊維束と同じものを用いてもよい。
【0030】
本発明の1つめの繊維強化樹脂成形材料は、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Lao(mm)、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lam(mm)の関係は、Lao>Lamであることが重要である。また、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束幅Wao(mm)と中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Wam(mm)の関係は、Wao>Wamであることが重要である。Lao≦LamまたはWao≦Wamであると、繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、最外層部の流動性は中央層よりも流動性が悪いため、チョップド繊維束の十分な力学特性を発現できない。
【0031】
また、本発明の1つめの繊維強化樹脂成形材料は、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTao(mm)と、前記中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTam(mm)が、さらに関係式Tao>Tamを満たすことが好ましい。
前記範囲であれば、繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、繊維強化樹脂成形材料の流動性が改善し、優れた力学特性を発現できる。
【0032】
本発明の2つめの繊維強化樹脂成形材料は、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維長Lao(mm)、中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lam(mm)の関係は、Lao>Lamであることが重要である。また、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTao(mm)と中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束厚みTam(mm)の関係は、Tao>Tamであることが重要である。Lao≦LamまたはTao≦Tamであると、繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、最外層部の流動性は中央層よりも流動性が悪いため、チョップド繊維束の十分な力学特性を発現できない。
【0033】
また、本発明の2つめの繊維強化樹脂成形材料は、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束幅Wao(mm)と、前記中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Wam(mm)が、さらに下記関係式Wao>Wamを満たすことが好ましい。
前記範囲であれば、繊維強化樹脂成形材料を、加熱型プレス機を用いて加熱加圧する際に、繊維強化樹脂成形材料の流動性が改善し、優れた力学特性を発現できる。
【0034】
本発明の繊維強化樹脂成形材料は、繊維強化樹脂成形材料の厚み方向において剥離しにくい良好な層間の重なりが得られることから、好ましい最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平繊維長Lao(mm)と中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維長Lam(mm)の関係は、好ましくは1.05<Lao/Lam<1.30の範囲内であり、より好ましくは1.10<Lao/Lam<1.20の範囲内である。
【0035】
また、好ましい最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束幅Wao(mm)と中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Wam(mm)の関係は、好ましくは1.05<Wao/Wam<1.50の範囲内であり、より好ましくは1.15<Wao/Wam<1.45の範囲内である。
【0036】
さらに、最外層のチョップド繊維束[Ao]の数平均繊維束厚みTao(mm)と中央層のチョップド繊維束[Am]の数平均繊維束幅Tam(mm)の関係は、好ましくは1.01<Tao/Tam<2.00の範囲内であり、より好ましくは1.05<Tao/Tam<1.80の範囲内であり、さらに好ましくは1.10<Tao/Tam<1.75の範囲内であり、特に好ましくは1.15<Tao/Tam<1.70の範囲内である。
【0037】
本発明の繊維強化樹脂成形材料において、チョップド繊維束の数平均繊維長La(mm)が3mm以上100mm以下の範囲内であることが好ましい。チョップド繊維束の数平均繊維長La100mm以下とすることにより、成形品とした場合に複雑な形状の成形追従性に優れたものとすることができる。連続繊維から構成されるマットや織物等の布帛体の場合、繊維長手方向には繊維が流動しないため、あらかじめ設形した形状に沿って賦形しなければ複雑形状を形成することはできない。数平均繊維長を3mm未満にすると、成形品とした場合に複雑な形状の成形追従性は優れるものの、他の要件を満たしても高い力学特性は得られない。成形品とした場合の複雑な形状の成形追従性と力学特性との関係を鑑みると、より好ましくは5mm以上50mm以下の範囲内であり、さらに好ましくは8mm以上30mm以下の範囲である。
【0038】
本発明の繊維強化樹脂成形材料において、チョップド繊維束の数平均幅Wa(mm)が0.1mm以上60mm以下の範囲内であることが好ましい。チョップド繊維束の数平均幅Wa(mm)が0.1mm未満であると、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内であるチョップド繊維束は、成形品とするまでの加工工程において、チョップド繊維束が繊維長手方向に対して曲がってしまい繊維の真直性を失い、成形品とした際の強化繊維による補強効果が十分に得られない、すなわち力学特性が発現しない場合があり、好ましくない。一方、数平均幅Wa(mm)が60mmを超えると、繊維強化樹脂成形材料において樹脂含浸不良が発生しやすくなることや、流動性が悪くなるため、成形品とした際に力学特性が低下する場合があり、好ましくない。より好ましい数平均幅Wa(mm)は0.5mm以上50mm以下、さらに好ましくは1mm以上30mm以下の範囲内である。本発明において、チョップド繊維束を断面から見た際に、長辺側を幅、短辺側を厚みとする。
【0039】
本発明の繊維強化樹脂成形材料において、チョップド繊維束の数平均厚みTa(mm)が0.01mm以上0.50mm以下の範囲内であることが好ましい。チョップド繊維束の数平均厚みTa(mm)が0.01mm未満であると、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内であるチョップド繊維束は、成形品とするまでの加工工程において、チョップド繊維束が繊維長手方向に対して曲がってしまい繊維の真直性を失い、成形品とした際の強化繊維による補強効果が十分に得られない、すなわち力学特性が発現しない場合があり、好ましくない。一方、数平均厚みTa(mm)が0.50mmを超えると、繊維強化樹脂成形材料において樹脂含浸不良が発生しやすくなることや、流動性が悪くなるため、成形品とした際に力学特性が低下する場合があり、好ましくない。より好ましい数平均厚みTa(mm)は0.02mm以上0.30mm以下、さらに好ましくは0.03mm以上0.20mm以下の範囲内である。
【0040】
本発明のチョップド繊維束は、チョップド繊維束の端面がなす線の方向が繊維長手方向に対して数平均角度θ(0°<θ<90°)の角度をなすことが好ましい。すなわち、切断してチョップド繊維束を得る場合、その切断角度が斜め方向であることが好ましい。なお、ここでいう角度は、上記の2つの方向の線がなす角度のうち、小さい方を指す。ここで本発明における数平均角度θの好ましい範囲としては、0°<θ<45°であり、より好ましくは5°<θ<30°である。上記の上限と下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。チョップド繊維束の切断角度が斜め方向であることにより、繊維強化樹脂成形材料における樹脂含浸性が優れ、かつ成形品とした際にチョップド繊維束の端部に応力が集中しにくくなるので、力学特性が向上する。かかる範囲において、高い力学特性と低バラツキの発現と、切断ミスを抑制し、所望の角度で切断可能な高プロセス性の両立を図ることができる。
【0041】
チョップド繊維束の繊維長手方向に対する数平均角度測定は、以下のように実施する。チョップド繊維束マットから無作為に選んだ100個のチョップド繊維束について、図1に示すように、各1つのチョップド繊維束において端部両側の角度θ、θを計測する。100個のチョップド繊維束について計測を行い、計200点の平均を、数平均角度とする。計測は、画像処理ソフトを用いてコンピュータ上で計測しても良いし、人手で分度器を用いて計測することもできる。
【0042】
本発明のチョップド繊維束は、チョップド繊維束の数平均フィラメント本数が、500本以上12,000本未満の範囲内であることが好ましい。チョップド繊維束の数平均フィラメント本数が500本未満であると、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内であるチョップド繊維束は、成形品とするまでの加工工程において、チョップド繊維束が繊維長手方向に対して曲がってしまい繊維の真直性を失い、成形品とした際の強化繊維による補強効果が十分に得られない、すなわち力学特性が発現しない場合があり、好ましくない。一方、数平均フィラメント本数が12000本以上であると、成形品とした際にチョップド繊維束の端部に応力集中が発生しやすくなり、力学特性のバラツキが大きくなる場合があるため、好ましくない。
【0043】
上記数平均フィラメント本数のチョップド繊維束マットを作製する方法としては、フィラメント本数が500本以上12000本未満の範囲内である連続繊維束を、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内となるように繊維長手方向に切断し、チョップド繊維束を実質的にランダムに配向させる方法がある。別の方法としては、フィラメント本数が1000本以上の連続繊維束を、繊維長手方向に沿って複数の束に分繊した後に、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内となるように繊維長手方向に切断し、チョップド繊維束を実質的にランダムに配向させる方法、または、フィラメント本数が1000本以上の連続繊維束を、数平均繊維長が3mm以上100mm以下の範囲内となるように繊維長手方向に切断した後に、繊維長手方向に沿って複数のチョップド繊維束に分割し、チョップド繊維束を実質的にランダムに配向させる方法、あるいは、前記2つの方法を組み合わせた方法がある。例えば、フィラメント数が48,000本の連続繊維束を、繊維長手方向に沿って3000本ずつ(16等分)の束に分繊した後に、数平均繊維長が12.5mmとなるように繊維長手方向に切断し、さらにチョップド繊維束に衝撃を与えることにより半分に分割し、数平均フィラメント本数が1,500本のチョップド繊維束マットを得ることができる。
【0044】
チョップド繊維束の数平均フィラメント本数は、以下のように測定する。数平均繊維長を測定後の100個のチョップド繊維束について、質量を測定する。1つのチョップド繊維束において、繊維長、質量、比重(公称値)、繊維径(公称値)から、フィラメント本数を算出する。100個のチョップド繊維束の平均を、数平均フィラメント本数とする。
本発明のチョップド繊維束マットは、単位面積あたりの繊維量Fm(繊維目付)が50g/m以上5,000g/m以下の範囲内であることが好ましい。繊維目付が5,000g/mを超えると、厚さ数ミリ~数センチ程度の成形品を得るにあたり、チョップド繊維束マットならびに繊維強化樹脂成形材料の調整範囲が限られ、生産性よく得ることが困難となるため好ましくない。また、繊維強化樹脂成形材料を得るためにチョップド繊維束マットにマトリックス樹脂を含浸させる際、必然的にマット厚みが大きくなるため、マトリックス樹脂の含浸不良を生じる場合があり、安定した品質の繊維強化樹脂成形材料、ならびに該繊維強化樹脂成形材料を用いた成形品を得ることが出来ない場合がある。一方、繊維目付が50g/m未満であると、厚さ数ミリ~数センチ程度の成形品を得るにあたり、チョップド繊維束マットならびに繊維強化樹脂成形材料を多数積層して成形する必要が生じるため、生産性よく得ることが困難となるため好ましくない。
【0045】
本発明のチョップド繊維束マットは、単位面積あたりの繊維量Fm(繊維目付)の変動係数が20%以下であことが好ましい。繊維強化樹脂成形材料を生産性よく得るためには繊維目付の変動係数が小さいことが好ましく、成形品とした場合に優れた力学特性を発現させるためにも変動係数が小さいことが好ましい。繊維目付の変動係数は、小さければ小さいほど好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
変動係数は、標準偏差を平均値で除した値(%)で表される。本発明においては、同一のチョップド繊維束マットから無作為に選んだ10箇所の測定結果で評価する。
【0047】
本発明の繊維強化樹脂成形材料は、図2~4に示した、次の切断工程(A)およびシート化工程(B)から製造されることが好ましく、さらに成形工程(C)を経て、成形品を得ることができる。
【0048】
(A)切断工程
強化繊維からなる連続繊維束を切断してチョップド繊維束を作製する。生産性を向上させるためには、予め繊維長手方向に沿って複数の繊維束となるように分繊された、複数の連続繊維束を同時に切断するのが好ましい。チョップド繊維束の裁断方法としては、例えば、ギロチンカッターやカッターロールなどに連続繊維束を挿入することにより切断できる。特に、切断角度が斜め方向であるチョップド繊維束においては、連続繊維束をカッターロールなどに斜めに挿入するほか、螺旋状刃が設けられたカッターロールなども用いることができる。この際、最外層のチョップド繊維束[Ao]が数平繊維長Lao(mm)となるように、また、中央層のチョップド繊維束[Am]が数平均繊維長Lam(mm)となるように切断する方法としては、カッターロールの切断間隔を調整する方法、カッターロールへの連続繊維束の供給速度を調整する方法、カッターロールの切断刃のピッチ変更する方法、図2に示すようにカッターロール4を回転させると共に回転軸方向に往復運動させる方法、または、図3に示すようにカッターロール4の回転軸方向に糸規制ユニット3をトラバースさせて繊維束[A]を切断する方法などにより、連続繊維束を切断する方法があげられる。
【0049】
切断後のチョップド繊維束は、分散器(ディストリビュータ)により、チョップド繊維束が実質的にランダムに配向するよう調整することもできる。また、チョップド繊維束が分散器に接触する際、チョップド繊維束は、繊維長手方向に沿って複数のチョップド繊維束に分割することもできる。
【0050】
切断後のチョップド繊維束の積層方法として、図2または図3に示すように、数平均繊維長Lao(mm)と数平均繊維長Lam(mm)のチョップド繊維束のうち、分散器により数平均繊維長Lao(mm)のチョップド繊維束のみ分散器の前後に選択的に散布する方法や、図4に示すように最初に数平繊維長Lao(mm)のチョップド繊維束を散布し、次に数平均繊維長Lam(mm)のチョップド繊維束を散布し、再度、数平繊維長Lao(mm)チョップド繊維束を散布する、段階的な散布方法があげられる。
【0051】
分散器の構造については特に限定されないが、例えば、図5のように、円筒状であり、側面に少数本のワイヤー11が設置された分散器が好ましい。また、カッターロール4の真下であるとともに、分散器の回転軸12がチョップド繊維束マットの厚み方向と垂直、かつチョップド繊維束マットの搬送方向と垂直となるように設置されることが好ましい。分散器の幅Lcはカッターロールの幅よりも十分に大きいことが好ましい。
【0052】
分散器の回転方向を図2、または図3中の矢印のように時計周りとした場合、一部のチョップド繊維束[A]は分散器の上部でワイヤー11と接触し、その衝撃でチョップド繊維束マットの搬送方向に飛ばされ、その他のチョップド繊維束[A]は複数のワイヤー11同士の隙間を通って落下した後、分散器の下部でワイヤー11と接触し、その衝撃でチョップド繊維束マットの搬送方向と逆方向に飛ばされる。ワイヤー11の本数は限定されないが、~8本が好ましく、4~6本がより好ましい。下限値より小さい場合、チョップド繊維束は主に分散器の下に散布され、チョップド繊維束マットの搬送方向とその逆方向に飛ばされにくくなる。上限値より大きい場合、チョップド繊維束は主にチョップド繊維束マットの搬送方向と分散器の下に散布され、搬送方向と逆方向に飛ばされにくくなる。分散器との接触の衝撃でチョップド繊維束が搬送方向に飛ばされる場合、重量が大きいチョップド繊維束ほど、例えば、繊維長をはじめとする、維束幅、繊維束厚みが大きいチョップド繊維束[A]ほど、分散器との接触の衝撃でチョップド繊維束マットの搬送方向とその逆方向に飛ばされやすく、チョップド繊維束マットの表面と裏面に局在しやすい。また、分散器の回転速度が大きいほど、この効果の影響が大きくなる。また、必要に応じて分散器の搬送方向下流に邪魔板を設置することで、前述の影響を抑制することができる。これら条件の組み合わせで繊維強化樹脂材料の層構造を制御できる。
【0053】
(B)シート化工程
チョップド繊維束マットに両面からシート状のマトリックス樹脂で挟み込み、チョップド繊維マットとマトリックス樹脂とを一体化する。チョップド繊維束マットにマトリックス樹脂を加圧等の手段によって含浸させることにより、シート状の繊維強化樹脂成形材料を得る。このようにして得られた繊維強化樹脂成形材料のうち、熱硬化性樹脂を使用したものは一般的にSMCシートと呼ばれる。
【0054】
(C)成形工程
本発明の成形品は、前記繊維強化樹脂成形材料を用い、一般的に用いられるプレス成形法にて得ることができる。すなわち、目的の成形品形状をなした上下分離可能な金型を準備し、金型のキャビティの投影面積よりも小さく、かつキャビティ厚よりも厚い状態でキャビティ内に樹脂成形材料を配置する。次に、加熱加圧し、金型を開き成形品を取り出すことで製造する。なお、成形温度、成形圧力、成形時間は目的とする成形品の形状に合わせて適宜選択することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。チョップド繊維束マットを作製後、マトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂成形材料としてSMCシートを作製し、SMCシートを用いてプレス成形を行い、以下の評価方法にて引張特性を取得した。
【0056】
<使用原料>
連続強化繊維束:
繊維7.2μm、引張弾性率240GPa、フィラメント数50,000本の連続した炭素繊維束(ZOLTEK社製、製品名:“ZOLTEK(登録商標)”PX35-50K 繊維数:50,000本)を用いた。
マトリックス樹脂[VE]:
DIC株式会社製ビニルエステル樹脂に、硬化剤、増粘剤、内部離型剤等を加え、十分に混合・攪拌して得られた樹脂コンパウンドを用いた。
【0057】
<チョップド繊維束の評価方法>
繊維強化樹脂成形材料を電気炉で加熱してマトリックス樹脂を分解させ、残存したチョップド繊維束の表側および裏側の最外層部と、残存したチョップド繊維束を厚み方向の真ん中で二つに分けた中央層部から、無作為に選んだ100個のチョップド繊維束について、評価を実施した。
【0058】
チョップド繊維束の繊維長、繊維束幅についてはノギスを用いて0.1mmの精度で測定し、角度については分度器を用いて1°の精度で測定した。なお、サンプルの状態としては、平らな場所に静置し無張力の状態で測定を行った。
【0059】
チョップド繊維束の厚み測定は次の方法で測定した。厚さ測定器(大栄科学精器製作所製、FS-60DS)を用いて、各々を直径11.28mmの平面をもつ圧子と、圧子の平面と平行に設置された平面の間に、チョップド繊維束の繊維長Lと、繊維束幅Wがなす面が平面と平行になるように配置し、圧子により30gの負荷をチョップド繊維束にかけた状態の繊維束厚みを0.01mmの精度で測定した。各層ごとに100個のチョップド繊維束の厚みの平均を、各層の数平均繊維束厚みとした。なお、チョップド繊維束[A]の数平均繊維束厚みTaは各層の数平均厚みの平均値とした。
【0060】
<チョップド繊維束マットの評価方法>
チョップド繊維束マットの単位面積あたりの繊維量Fm(繊維目付)は、マット幅方向にわたり、100mm×100mmの大きさのものを等間隔に10箇所切り出したものについて、質量を0.01g単位まで測定し、1mあたりの質量に換算して、繊維目付Fmを算出した。
【0061】
次に、厚さ測定器(大栄科学精器製作所製、FS-60DS)を用いて、0.1kNの条件下でマット厚みTmを測定した。繊維目付Fmとマット厚みTmとから、かさ高性Bmを算出した。
【0062】
<引張特性の評価方法>
各実施例および比較例で得られた平板状の成形品より、長さ250mm、幅25mmの引張強度試験片を切り出した。ISO527-4(1997)に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度1.0mm/分で引張強度を測定した。測定した試験片の数はn=10とし、平均値を引張強度とした。
【0063】
(実施例1)
炭素繊維糸条を、幅が50mmとなるように拡幅処理を施した後に、3mm等間隔に行にセットした分繊処理手段により幅方向に16等分となるように分繊し、繊維束[A]を得た。得られた繊維束[A]を、ニップロールとカッターロール間に送り込み、繊維束[A]の供給量を変えず、図2に示すように、カッターロール4を回転運動させると共に回転軸方向に往復運動させることで、連続的に繊維束を切断した。次に、分散器を用いて、散布することにより、1m幅のチョップド繊維束マットを得た。得られたチョップド繊維束マットの繊維目付は1,000g/mであった。
【0064】
次に、マトリックス樹脂[VE]を、ドクターブレードを用いて均一にポリプロピレン製の離型フィルム2枚それぞれに塗布し、2枚の樹脂シートを作製した。これら2枚の樹脂シートで上記の得られたチョップド繊維束マットを上下から挟み込み、ローラーで樹脂をマット中に含浸させることにより、SMCシートを得た。この時、SMCシートの強化繊維質量含有率が55%になるように、樹脂シート作製の段階で樹脂の塗布量を調整した。
【0065】
得られたSMCシートを250×250mmに切り出し、300×300mmのキャビティを有する平板金型上の中央部に配置(チャージ率にして70%相当)した後、加熱型プレス成形機により、10MPaの加圧のもと、約140℃×5分間の条件により硬化せしめ、300×300mmの平板状の成形品を得た。この成形品の引張強度は、300MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0066】
(実施例2)
カッターロール4を往復運動させず、図3に示すように、カッターロール4の回転軸方向に糸規制ユニット3をトラバースさせて繊維束[A]を切断すること以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。この成形品の引張強度は、300MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0067】
(実施例3)
繊維束[A]を、図4に示すように、繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ13.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、続いて繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ12.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、さらに繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ13.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布したこと以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。この成形品の引張強度は、290MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
繊維束[A]を、繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ12.5mm間隔の回転軸方向に往復運動させないカッターロールを用いた以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。この成形品の引張強度は、250MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
繊維束[A]を、図4に示すように、繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ12.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、続いて繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ13.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、さらに繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ12.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布したこと以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。この成形品の引張強度は、290MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例3)
図4に示すように、繊維束[A]を、繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ13.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、続いて炭素繊維糸条を、幅が36mmとなるように拡幅処理を施した後に、4.5mm等間隔に行にセットした分繊処理手段により幅方向に8等分となるように分繊して得られた繊維束を繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ12.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布し、さらに繊維束[A]を、繊維束の長手方向に対して角度15°に切断刃が傾き、かつ13.5mm間隔のカッターロールを用いて切断後散布したこと以外は、実施例1と同様に、成形品を得た。この成形品の引張強度は、290MPaであった。評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の繊維強化樹脂成形材料、成形品の用途としては、軽量性および優れた力学特性が要求される、ドアやバンパー補強材やシート(パネルやフレーム)などの自動車部材、クランクやホイールリムなどの自転車部材、ヘッドやラケットなどのゴルフやテニスなどのスポーツ部材、内装材などの交通車輌/航空機部材、ロボットアームなどの産業機械部材が挙げられる。中でも、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるドアやバンパー補強材やシート(パネルやフレーム)等の自動車部材に好ましく適用できる。
【符号の説明】
【0073】
1: チョップド繊維束
2: 炭素繊維
3: 糸規制ユニット
4: カッターロール
5: 分散器
6: 熱硬化性樹脂
7: フィルム
8: コンベア
9: 樹脂含浸工程
10: 繊維強化樹脂成形材料
11: ワイヤー
12: 分散器の回転軸
A: 切断工程
B: シート化工程
Lc: 分散器の幅
図1
図2
図3
図4
図5