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特許7344474高速吸放湿性重合体、ならびに該重合体を含有する繊維構造物、樹脂成型物、空調用素子、収着式熱交換モジュールおよび吸着式ヒートサイクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】高速吸放湿性重合体、ならびに該重合体を含有する繊維構造物、樹脂成型物、空調用素子、収着式熱交換モジュールおよび吸着式ヒートサイクル
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/12 20060101AFI20230907BHJP
   C08F 212/36 20060101ALI20230907BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20230907BHJP
   F24F 6/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08F8/12
C08F212/36
C08F220/44
F24F6/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020558378
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2019045091
(87)【国際公開番号】W WO2020105587
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018218582
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004053
【氏名又は名称】日本エクスラン工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永井 哲
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179379(WO,A1)
【文献】特開平02-091271(JP,A)
【文献】特開2018-076425(JP,A)
【文献】特開平08-042095(JP,A)
【文献】特開2010-037535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/12
C08F 212/36
C08F 220/44
F24F 6/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対カチオンが有機オニウムイオンであるカルボキシル基を2.0~8.0mmоl/g含有し、かつ架橋構造を有する有機系高分子であって、前記有機オニウムイオンが脂肪族アンモニウムイオン、ピリジニウムイオンおよびイミダゾリウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、前記有機オニウムイオンの含有する全てのアルキル基の炭素数が1~4であり、かつ前記有機オニウムイオンの含有する炭素数が1~20である事を特徴とする高速吸放湿性重合体。
【請求項2】
重合体の形状が繊維状、粒子状およびフィルム状のいずれかである事を特徴とする請求項1に記載の高速吸放湿性重合体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高速吸放湿性重合体を含有する繊維構造物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高速吸放湿性重合体を含有する樹脂成型物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の高速吸放湿性重合体を含有し、複数の気体貫通路を有することを特徴とする空調用素子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の高速吸放湿性重合体を、熱交換モジュールの表面に少なくとも一部に付着させたことを特徴とする収着式熱交換モジュール。
【請求項7】
請求項1または2に記載の高速吸放湿性重合体を、吸着コアとして含有することを特徴とする吸着式ヒートサイクル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた吸放湿性能を短時間で発現することのできる高速吸放湿性重合体、ならびに該重合体を含有する繊維構造物、樹脂成型物、空調用素子、収着式熱交換モジュールおよび吸着式ヒートサイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の水蒸気を含む空気の除湿に用いられる吸湿素子や吸着式ヒートサイクルには、シリカゲル、ゼオライト、活性炭等の無機系吸湿材が用いられてきたが、吸湿量が少ない、再生に高温を要する、吸放湿の繰り返し耐久性に乏しいといった欠点があった。
【0003】
これに対し、塩型カルボキシル基を含有する吸放湿性重合体が提案された。該吸放湿性重合体は、吸湿量が高く、低温再生が可能であり、吸放湿の繰り返し耐久性に優れるといった特徴がある(非特許文献1参照)。しかし、無機系吸湿材と比較して、吸湿速度に優位性が乏しいといった問題点があった。この種の吸放湿性重合体は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
この吸湿速度に対しては、例えば特許文献2では、吸放湿性重合体を特定の大きさの細孔を有する多孔質体とすることにより、吸湿速度に優れる吸湿材とする方法が提案されている。特許文献3では、吸放湿性重合体の含有するカルボキシル基をカリウム塩型として優れた吸湿速度を発現する方法が提案されている。しかし、依然として無機系吸湿材に対して優れた吸湿速度を発現できていないといった問題点がある。
【0005】
このような問題点から、現状、優れた吸湿量と吸湿速度の発現を両立できる吸湿材は無い。一方、吸着式ヒートサイクルの性能は如何に速く大きな吸湿量を得るか、即ち吸湿量と吸湿速度により決まるため、該吸着式ヒートサイクルの性能に制限がある。現段階での吸着式ヒートサイクルの性能では、装置の小型化が難しく普及が遅れており、とくに設置容積に限りがある車載用吸着式冷凍サイクルにおいては吸着材の性能不足の問題は顕著であり、実用化の妨げになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-225610号公報
【文献】特開2000-017101号公報
【文献】特開2001-011320号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】齋藤潔、外22名、「デシカント空調システムの基礎理論と最新技術」、第1版、S&T出版、2015年9月、p.75-83.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い吸放湿性を有し、かつその吸放湿性を短時間で発現することのできる、即ち吸放湿速度にも優れる重合体および該重合体を含有する繊維構造物、樹脂成型物、空調用素子、収着式熱交換モジュールおよび吸着式ヒートサイクルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、吸放湿材料の吸放湿性能、特に吸放湿速度に焦点を絞り鋭意検討を進めてきた。その結果、カルボキシル基の対カチオンを嵩高く電荷密度の低い低配位性の有機オニウムイオンとすることで、該重合体の吸湿速度が大きく向上するという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の手段により達成される。
(1) 対カチオンが有機オニウムイオンであるカルボキシル基を2.0~8.0mmоl/g含有し、かつ架橋構造を有する有機系高分子であって、前記有機オニウムイオンが脂肪族アンモニウムイオン、ピリジニウムイオンおよびイミダゾリウムイオンよりなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、前記有機オニウムイオンの含有する全てのアルキル基の炭素数が1~4であり、かつ前記有機オニウムイオンの含有する炭素数が1~20である事を特徴とする高速吸放湿性重合体。
【0011】
) 重合体の形状が繊維状、粒子状およびフィルム状のいずれかである事を特徴とする(1)に記載の高速吸放湿性重合体。

【0012】
) (1)または)に記載の高速吸放湿性重合体を含有する繊維構造物。
) (1)または)に記載の高速吸放湿性重合体を含有する樹脂成型物。
【0013】
) (1)または)に記載の高速吸放湿性重合体を含有し、複数の気体貫通路を有することを特徴とする空調用素子。
) (1)または)に記載の高速吸放湿性重合体を、熱交換モジュールの表面の少なくとも一部に付着させたことを特徴とする収着式熱交換モジュール。
) (1)または)に記載の高速吸放湿性重合体を、吸着コアとして含有することを特徴とする吸着式ヒートサイクル。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高速吸放湿性重合体は、親水部であるカルボキシル基の対カチオンに嵩高く電子密度が低い低配位性の有機オニウムイオンを用いているため、水蒸気収着時のイオン解離が速く、優れた吸湿速度を発現できる。また、該高速吸放湿性重合体を収着コアとして用いた場合、非常に効率の高い省エネルギータイプの収着式ヒートサイクルを提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】吸放湿シートをコルゲート状に加工した片段シートの一例を示す図である。
図2】吸放湿シートをハニカム状に加工した収着エレメントの一例を示す図である。
図3】吸放湿シートを加工しローター形状とした吸放湿素子の一例を示す図である。
図4図3に示すローター素子を用いたデシカント空調システムの一例を示す図である。
図5図1に示す片段シートを通気方向が同方向になるように積層した吸放湿性ブロック素子の一例を示す図である。
図6図1に示す片段シートを通気方向が異方向になるように交互積層した吸放湿性ブロック素子の一例を示す図である。
図7図5に示すブロック素子を用いたバッチ切替式の調湿システムの一例を示す図である。
図8】高速吸放湿性重合体を用いた収着式熱交換モジュールの一例を示す図である。
図9図8に示す収着式熱交換モジュールを用いた吸着式ヒートポンプシステムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。まず本発明における高速吸放湿性重合体は、架橋構造を有し、かつ含有する全てのアルキル基の炭素数が1~4である有機オニウムイオンを対カチオンとするカルボキシル基(以下、有機オニウム塩型カルボキシル基という)を2.0~8.0mmol/g含有する重合体からなることが必要である。本発明では、有機オニウム塩型カルボキシル基とすることで、イオン対の解離速度と高分子鎖の柔軟性を高め、従来の高吸放湿性重合体と比較して吸湿速度を飛躍的に向上させたことを特徴としている。
【0017】
本発明にかかる高速吸放湿性重合体中の有機オニウム塩型カルボキシル基の量は、2.0~8.0mmol/g、好ましくは3.0~8.0mmol/g、より好ましくは3.0~6.0mmol/gである。有機オニウム塩型カルボキシル基の量が2.0mmol/g未満の場合には、十分な吸放湿性能が得られないことがあり、また、8.0mmol/gを超える場合には、吸湿時の膨潤が激しくなり高速吸放湿性重合体の寸法安定性が不十分となる、あるいは吸放湿性能が頭打ちとなる一方で、製造時の加水分解の反応時間が長くなるなどの問題を起こすことがある。
【0018】
また、前記有機オニウムイオンの含有する全てのアルキル基の炭素数は1~4である。オニウムイオンに炭素が含まれない場合には、配位性が高くなり十分な吸湿速度を得ることができない、あるいは対カチオンの安定性が乏しく容易に気化蒸散するといった問題がある。また、オニウムイオンの含有するアルキル基の炭素数が4を超える場合には、疎水性が高くなり十分な吸湿性能を得ることができないといった問題を起こすことがある。
【0019】
また、有機オニウムイオンの含有炭素数は好ましくは1~20、より好ましくは2~10、さらに好ましくは4~8である。オニウムイオンに炭素が含まれない場合には、配位性が高くなり十分な吸湿速度を得ることができない、あるいは対カチオンの安定性が乏しく容易に気化蒸散するといった問題がある。また、有機オニウムイオンの含有炭素数が20を超える場合には、疎水性が高くなり十分な吸湿性能を得ることができないといった問題を起こすことがある。
【0020】
前述した有機オニウムイオンの結合量は、十分な吸湿性能を得るためには、総量で2mmol/g以上であることが望ましい。すなわち、ジメチルイミダゾリウムイオンおよびテトラブチルアンモニウムイオンの2種類の有機オニウムイオンが結合している場合であれば、ジメチルイミダゾリウムイオンおよびテトラブチルアンモニウムイオンの合計量が2mmol/g以上であることが望ましい。なお、結合量の上限については、高速吸放湿性重合体中のカルボキシル基に結合できる最大量である。
【0021】
なお、本発明の高速吸放湿性重合体中のカルボキシル基が2mmol/gよりも多量にある場合でも、上述したように有機オニウムイオンが2mmol/g結合していれば吸放湿性能が得られる。しかし、有機オニウムイオンが結合していないカルボキシル基は、その潜在的な吸放湿性能を有効に利用できないまま存在するだけで、多量のカルボキシル基を有することの吸放湿に対する利点が現れない。この利点を顕在させるにはカルボキシル基全体の少なくとも50mol%以上、好ましくは70mol%以上に有機オニウムイオンが結合していることが望ましい。
【0022】
また、本発明の高速吸放湿性重合体中のカルボキシル基の塩型として、前述してきた有機オニウムイオン以外のカチオンも含有することができる。例えば、Li,Na,K,Rb,Csといったアルカリ金属のカチオン、Be,Mg,Ca,Sr,Baといったアルカリ土類金属のカチオン、NH 、PH といった無機系オニウムイオン類などを挙げることができる。
【0023】
本発明に採用する有機オニウムイオンとしては、第1~4級アンモニウムイオン、第1~4級ホスホニウムイオン、第1~3級オキソニウムイオン、第1~3級スルホニウムイオン等が挙げられる。これらのうち、好ましくは第1~4級アンモニウムイオン、より好ましくは第4級アンモニウムイオンである。
【0024】
第4級アンモニウムイオンとしては、例えば、脂肪族アンモニウムイオン、ピロリジウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、ピロリウムイオン、オキサゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピラゾリウムイオン、1,2,3-トリアゾリウムイオン、1,2,4-トリアゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、キノリニウムイオン、カルバゾリウムイオン等が挙げられる。具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム、1-プロピルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム等が挙げられる。
【0025】
本発明に特に好ましい有機オニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、プロピルトリメチルアンモニウム、1,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム等を例示することができる。
【0026】
また、本発明の高速吸放湿性重合体は、高い吸放湿性能を発現させるため、および吸湿時の形状安定性を維持するため、架橋構造を有することが必須である。この架橋構造は、本発明の目的とする吸放湿性能および該性能を生かした製品の性能に影響を及ぼさない限りにおいては特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。
【0027】
また、本発明における高速吸放湿性重合体の形態としては特に制限はなく、粒子状、繊維状、フィルム状など適宜選択することができる。粒子の場合、脱水乾燥した粉末状だけでなく、水に分散させたエマルジョン状であってもよく、各種用途に応じてその形態を選択でき、かつ、各種成形体の添加剤として使用することができるため、その適用範囲が広く有用である。また、これら粒子の大きさとしては、用途に応じて適宜選定することができ、特に制限はないが、平均粒子径が1000μm以下、好ましくは100μm以下の場合、各種添加剤としての適用範囲が広がるため、実用的価値の大きなものとなる。
【0028】
高速吸放湿性重合体の形態が繊維状である場合、紙、不織布、織物、編み物、繊維成形体などへの各種加工が容易に行え、使用できる用途がひろがり有用である。また、フィルム状の場合、直接コルゲートなどの加工に供することができ、フィルターなどの用途に有用である。
【0029】
上述してきた本発明における高速吸放湿性重合体は、高い吸放湿速度と飽和吸湿率を有している。吸放湿速度と飽和吸湿率との間で完全な正比例の関係は成り立たないが、本発明の高速吸放湿性重合体の目的である優れた吸放湿速度、吸放湿性能を達成するためには、少なくとも飽和吸湿率が20℃、65%RH(相対湿度)および20℃、90%RHにおいてそれぞれ20重量%以上、40重量%以上であることが望ましい。この飽和吸湿率の値がそれぞれの相対湿度で20重量%および40重量%に満たない場合、基本的性能として吸湿性能が低いものとなり、またその結果放湿性能も劣ったものとなり、本目的を達成することができない場合がある。
【0030】
次に、本発明の高速吸放湿性重合体の製造方法について述べる。本発明の高速吸放湿性重合体は、主に、単量体の重合工程、架橋構造の導入工程、カルボキシル基の導入工程および有機オニウムイオンの導入工程の各工程を経ることによって製造することができる。ここで、各工程の順序は、それぞれの工程で採用する手法の特徴を踏まえて設定すればよく、複数の工程を同時に実施するなどしてもよい。以下に各工程について詳述する。
【0031】
まず、カルボキシル基の導入方法としては、特に限定は無く、例えば、カルボキシル基を有する単量体を単独重合または共重合可能な他の単量体と共重合することによって重合体を得る方法(第1法)、カルボキシル基に誘導することが可能である官能基を有した単量体を重合し、得られた重合体の該官能基を化学変性によりカルボキシル基に変換する方法(第2法)、あるいはグラフト重合により前記2法を実施する方法が挙げられる。
【0032】
上記第1法のカルボキシル基を有する単量体を重合する方法としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボキシル基を含有する単量体を単独で、またはこれらの単量体の2種以上を、あるいは単量体と共重合可能な他の単量体との共重合による方法が挙げられる。
【0033】
第2法の化学変性法によりカルボキシル基を導入する方法としては、例えば化学変性処理によりカルボキシル基に変性可能な官能基を有する単量体の単独重合体、あるいは2種以上からなる共重合体、または、共重合可能な他の単量体との共重合体を重合し、得られた重合体を加水分解によってカルボキシル基に変性し、変性により得られたカルボキシル基が所期の塩型でない場合には、さらに、上記の塩型に変換する方法が適用される。
【0034】
このような方法をとることのできる単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を有する単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボン酸基を有する単量体の無水物、エステル誘導体、アミド誘導体、架橋性を有するエステル誘導体等を挙げることができる。
【0035】
上記の無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸等を挙げることができる。エステル誘導体としては、メチル、エチル、プロピル等のアルキルエステル誘導体;メトキシエチレングリコール等のアルキルエーテルエステル誘導体;シクロヘキシル、ベンジル等の環状化合物エステル誘導体;ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキルエステル誘導体;(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸等のカルボン酸アルキルエステル誘導体;エチレングリコール(メタ)アクリレート等の架橋性アルキルエステル類を挙げることができる。アミド誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物等が例示できる。
【0036】
また、化学変性によりカルボキシル基を導入する他の方法として、アルケン、ハロゲン化アルキル、アルコール、アルデヒド等の酸化等も挙げることができる。
【0037】
上記第2法における重合体の加水分解反応によりカルボキシル基を導入する方法についても特に限定はなく、既知の加水分解条件を利用することができる。例えば、上記単量体を重合し架橋された重合体にアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムやアンモニア、水酸化アンモニウム等の塩基性水溶液を用いカルボキシル基を導入する方法、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の強酸、または蟻酸、酢酸等の有機酸と反応させ、カルボキシル基を導入する方法が挙げられる。なお、該カルボキシル基が2.0~8.0mmol/gとなる条件については、反応の温度、濃度、時間等の反応因子と導入されるカルボキシル基量の関係を実験で明らかにすることにより、決定することができる。
【0038】
上述のようにしてカルボキシル基を導入された重合体においてカルボキシル基の対カチオンが所期の有機オニウムイオンでない場合は、続いて該重合体を有機オニウムイオンの水酸化物やハロゲン化物などの溶液と混合させることでイオン交換により対カチオンのうち少なくとも一部を所期の有機オニウムイオンに変換する。
【0039】
処理条件としては、重合体中のカルボキシル基量に対して有機オニウムイオンが1~5当量、好ましくは1.5~3当量含有される溶液に重合体を浸漬し、20~80℃で30~240分間処理するといった例を挙げることができる。
【0040】
また、架橋を導入する方法においても特に限定はなく、前述したカルボキシル基の導入方法における単量体の重合の段階において、架橋性単量体を共重合させることによる架橋導入方法、あるいは単量体をまず重合し、その後、化学的反応による、あるいは物理的なエネルギーによる架橋構造の導入といった後架橋法等を挙げることができる。中でも特に、単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、あるいは重合体を得たあとの化学的後架橋による方法では、共有結合による強固な架橋を導入することが可能であり、吸放湿に伴う物理的、化学的変性を受け難いという点で好ましい。
【0041】
単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法では、架橋性ビニル化合物を用い、カルボキシル基を有する、あるいはカルボキシル基に変性できる単量体と共重合することにより共有結合に基づく架橋構造を有する架橋重合体を得ることができる。しかし、この場合、単量体であるアクリル酸などが示す酸性条件、あるいは重合体でのカルボキシル基への変性を行う際の化学的な影響(例えば加水分解など)を受けない、あるいは受けにくい架橋性単量体である必要がある。
【0042】
単量体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法に使用できる架橋性単量体としては、グリシジルメタクリレート、N-メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物を挙げることができ、なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、それらを含有してなる架橋重合体に施すカルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0043】
また、後架橋による方法としても特に限定はなく、例えば、ニトリル基を有するビニルモノマーの含有量が50重量%以上よりなるニトリル系重合体の含有するニトリル基と、ヒドラジン系化合物またはホルムアルデヒドを反応させる後架橋法を挙げることができる。なかでもヒドラジン系化合物による方法は、酸、アルカリに対しても安定で、しかも形成される架橋構造自体が親水性であるので吸湿性の向上に寄与でき、また、重合体に付与した多孔質等の形態を保持することができる強固な架橋を導入できるといった点で極めて優れている。なお、該反応により得られる架橋構造に関しては、その詳細は同定されていないが、トリアゾール環あるいはテトラゾール環構造に基づくものと推測されている。
【0044】
ここでいうニトリル基を有するビニルモノマーとしては、ニトリル基を有する限りにおいては特に限定はなく、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、コスト的に有利であり、また、単位重量あたりのニトリル基量が多いアクリロニトリルが最も好ましい。
【0045】
ヒドラジン系化合物との反応により架橋を導入する方法としては、目的とする架橋構造が得られる限りにおいては特に制限はなく、反応時のアクリロニトリル系重合体とヒドラジン系化合物の濃度、使用する溶媒、反応時間、反応温度など必要に応じて適宜選択することができる。このうち反応温度については、あまりに低温である場合は反応速度が遅くなり反応時間が長くなりすぎること、また、あまりに高温である場合は原料アクリロニトリル系重合体の可塑化が起り、重合体の形態が破壊されるという問題点が生じる場合がある。従って、好ましい反応温度としては、50~150℃、さらに好ましくは80~120℃である。また、ヒドラジン系化合物と反応させるアクリロニトリル系重合体の部分についても特に限定はなく、その用途、該重合体の形態に応じて適宜選択することができる。具体的には、該重合体の表面のみに反応させる、または、全体にわたり芯部まで反応させる、特定の部分を限定して反応させる等適宜選択できる。なお、ここに使用するヒドラジン系化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硝酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネイト等のヒドラジンの塩類、およびエチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のヒドラジン誘導体である。
【0046】
以上に述べてきた本発明の高速吸放湿性重合体は、これを含有した繊維構造物や樹脂成型体などの成形体とすることにより、よりその用途が広範になる。特に、紙、不織布、織物、編み物、シート、塗膜、発泡体などの成形体に使用した場合、気体との接触面積が大きく、かつ、形態保持性が優れていることにより、吸放湿性の素材として有用である。これらを構成する方法としては、本発明の高速吸放湿性重合体を使用する限りにおいては特に限定はなく、具体的には繊維状の該重合体により形態を構成するもの、あるいは粒子状の該重合体を担持させたものなどのいずれの方法でもよい。ただ、加工が簡単で、コストが安い点より、粒子状の高速吸放湿性重合体を担持させたものの場合、より良い結果を得ることができる。
【0047】
本発明の高速吸放湿性重合体の担持方法としては、特に限定はなく、素材を構成するマトリックスに混入、含浸させたり、バインダーを用いて塗布あるいは包含させたりするなどさまざまな方法を採用することができる。また、本発明の高速吸放湿性重合体はマトリックス内部に存在させてもよいし、マトリックス表面に存在させてもよい。たとえば、紙、不織布、織物、編み物、シート、発泡体等の製造過程で該重合体を混入する方法、あるいはこれらに該重合体のスラリーを含浸させる方法、あるいはバインダーを利用し塗布させる方法などを採用することができる。
【0048】
本発明の高速吸放湿性重合体の利用方法として、特に好適なものとして、紙、フィルム、シート等の適当な基材に定着させた吸放湿性シートとして使用する方法やアルミなどの金属製の基材に定着させて収着式熱交換モジュールとして使用する方法を挙げることができる。吸放湿性シートや収着式熱交換モジュールにおいては、吸放湿のための成形体としての表面積を大きくすることができるので、吸放湿の速度をさらに速めることに有効である。
【0049】
ここでいう「定着」とは、基材上に高速吸放湿性重合体が固定されている状態を言い、その固定の強さ、固定の方式は特に限定がなく、物理的に固定化された状態であってもよいし、あるいは化学的結合により固定化された状態であってもよい。中でも、本発明の高速吸放湿性重合体が直接基材と、あるいはバインダー等のなんらかの化合物を介して基材と化学的に結合した状態の場合、耐久性の点で優れており好ましい結果を与える。
【0050】
また、基材に定着させる高速吸放湿性重合体の量については特に制限はなく、使用される用途に応じた量を適宜選定して定着させることができる。ただ、基材の量に対して定着量があまりに多すぎると、紙などの基材では強度的に耐えられない場合があり、あるいは吸湿層が厚くなり、吸湿層深部の高速吸放湿性重合体を有効に使用できず効率が落ちる場合がある。また。あまりに定着量が少なすぎると本来の目的である吸放湿性能が十分に得られない場合がある。このような観点から好ましい定着量の目安としては、5~300g/mである。
【0051】
また、定着の部分における、基材以外のものに対する高速吸放湿性重合体の割合についても特に限定はないが、吸放湿性能をできるだけ高める観点から、その割合も可能な限り高くするほうが好ましい。ただ本発明の高速吸放湿性重合体は親水性が高いため、基材に高速吸放湿性重合体を単独で定着させた場合には、用途によっては耐水性が不十分になる場合がある。そこで、必要に応じ後述の方法などを用いることにより、より強固に定着させることもできる。そのような場合においても、本発明の高速吸放湿性重合体の機能を十分に発現させる観点から、定着の部分に占める割合を好ましくは50重量%、より好ましくは70重量%を超えるようにすることが望ましい。
【0052】
また、吸放湿性シートにおいては、その基材としては特に限定はなく、使用される用途に応じて適宜選択し用いることができる。例えば、紙、不織布、織物、編み物、繊維成形体、樹脂成形体、フィルム、シート、金属板などの形態を有するものを挙げることができ、またこれらの基材を構成する素材としても有機物、無機物あるいは金属等、特に限定はない。中でも紙、不織布あるいは多孔質のシート等の形態は、適度に空隙を有し、さらには表面の凹凸があることにより、高速吸放湿性重合体を容易に定着することができ、さらに単位容積あたりの定着面の表面積を上げることも可能で、吸放湿速度を向上させるのに好適である。
【0053】
また、収着式熱交換モジュールにおいては、その基材としては、熱交換の効率を上げる観点から熱伝導度に優れる金属であることが望ましく、熱伝導度が50W/m・K)以上の場合、効率の高い熱交換を行うことができるため好ましい。かかる熱伝導度に優れる金属としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、スチール等を挙げることができ、中でも、価格の点から実用的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金がより好ましい。
【0054】
本発明の高速吸放湿性重合体を基材へ定着させる方法についても特に限定はなく、一般に用いられる方法を適宜使用することができる。一般には、高速吸放湿性重合体を含む分散液を基材に付着あるいは浸漬させ、その後乾燥等により分散媒を取り除く方法がとられる。ここで、前記分散媒としては、水、あるいは有機溶媒を挙げることができ、これらの混合物も使用することができる。かかる分散液を付着させる方法としても限定はなく、一般にコーティング方法を活用することができる。中でも、一度に基材の両面と中心部に確実に付着できることから、含浸による塗工法が優れている。
【0055】
もう一つの定着の方法としては、基材に重合により高速吸放湿性重合体に変換することのできる単量体を含む溶液を塗布または浸漬させ、次に該単量体の重合を行うことにより該基材表面上に高速吸放湿性重合体を定着せしめる方法である。ここで、重合により高速吸放湿性重合体に変換することのできる単量体としては、先にカルボキシル基導入の方法の説明の中に記載した単量体、および既述の架橋剤等を挙げることができる。
【0056】
定着の強さとしては特に限定はないが、高速吸放湿性重合体を定着した吸放湿性シートおよび収着式熱交換モジュールの一般的な使用においては、吸放湿を繰り返しながら連続して長時間にわたり使用される場合が多く、また、結露などにより定着された高速吸放湿性重合体が水に曝される場合もあり、これらの使用状況においても、脱離することなく吸放湿性能を発現するものが好ましい。このような点より、高速吸放湿性重合体を単に物理的に定着させただけのものよりも、基材と化学的に結合する、あるいはなんらかの化合物を介して化学的に結合する、さらには高速吸放湿性重合体同士をお互いに結合させる、あるいはこの結合したものを基材に化学的に結合させるもの等が好ましい。
【0057】
上述してきた吸放湿性シートの使用される形態としては特に限定はなく、シート形状のままで用いることも、またさらに成型加工を施して使用することもできる。なかでも高速吸放湿性重合体の特徴である、高い吸放湿速度を活かす形態として、空気等の気体を通過させることのできる多数の穴、すなわち気体貫通路を有した状態となるように吸放湿性シートを積層した積層体(例えば、図3図5図6など)を挙げることができ、空調用素子などとして好適に用いることができる。このような積層体は、吸放湿に関与する水蒸気との接触面積を広く取ることができ、また圧力損失も低く抑えることができるような成型も可能であり実用的にも有利である。また、かかる積層体を構成する際には、吸放湿性シートのみを重ね合わせてもよいし、途中に吸放湿性シート以外のシート状あるいは成型された材料を挿入してもよい。
【0058】
積層体の具体例としては、図1に例示されるようなコルゲート状(波状)、図2に例示されるようなハニカム状(四角、六角、八角等の蜂の巣状)、ロールコア状(疑円形状)等の形態とすることができる。図1のコルゲート状のものでは、吸放湿性シート1を連続的に折り曲げ、多数の山部と谷部を連続して有するシートを作製し、次に別の平坦なシートの表面に前記の折り曲げたシートの谷部の底部を接着または融着して作製する。この得られた片段シートをさらに積み重ねる、あるいはロール状に巻くなどして多数の穴を有する積層体として用いることができる。なお、上記の折り曲げるシートおよび平坦なシートは両方とも吸放湿性シート1であってもよく、またいずれか片方のみが吸放湿性シート1よりなっていてもよい。
【0059】
上述した積層体は、その吸湿・放湿の性能を活用した吸放湿性ローターなどの空調用素子として、除湿あるいは加湿のための装置に組み込んで利用することが可能である。このような装置の例としては、図4に示すようなシステムを有する装置を挙げることができる。かかるシステムは、吸放湿性ローター2、これを回転させるモーター3、空気を送風あるいは吸引するためのファン9、再生用の熱源8などからなり、矢印で図示するように空気を通過させることによって、空気の除湿あるいは加湿を行い、所定の場所を一定の湿度に調湿することができるようにするものである。
【0060】
また、別の具体例としては、片段シートを図5に示すように同方向に積層した空調用素子、あるいは図6に示すように異なる方向に積層した空調用素子が挙げられる。前者の空調用素子は、例えば、図7に示すようなバッチ方式で、加湿と除湿を交互に行うことにより加除湿による湿度調整を行う装置に用いることができ、また、後者の空調用素子においては、湿度の異なる気体4および6を、それぞれの孔の異なった方向から通過させることにより、それぞれの気体を隔てている平坦な吸放湿性シート1で吸放湿が起こり、一方の気体から他方の気体への湿度の移動、即ち潜熱交換が生じるので、潜熱交換装置などに用いることができる。
【0061】
また、本発明における収着式熱交換モジュールの形態としては特に限定はなく、シート状、板状、またはプレートフィン型、コルゲートフィン型、スリットフィン型、エロフィンチューブ型など、既存の熱交換器に適用されるものを制限なく使用できる。中でも伝熱効率が高く小型化ができるコルゲートフィン型あるいはエロフィンチューブ型が好ましい。
【0062】
かかる本発明の収着式熱交換モジュールは、吸湿の際の発熱、放湿の際の吸熱を活用することにより、吸着式ヒートポンプや吸着式蓄熱システム等として利用することが可能である。例えば、図8に示すような収着式熱交換モジュール(吸着コアともいう)よりなる吸着器13を使用した、図9に示すようなシステムを有する吸着式ヒートポンプを挙げることができる。
【0063】
ここで、図9は、吸着材に吸着質(この実施の形態では水蒸気)を吸着する操作、および熱交換器からの温水18の温熱により吸着材から吸着質を脱着する操作を繰り返すと共に、吸着質の吸着操作により発生した吸着熱を冷却水17により冷却するユニットである吸着器13、吸着質の蒸発により得られた冷水20を外部へ取り出すとともに、発生した吸着質の蒸気を吸着器13へ送り出す蒸発器14、吸着器13で脱着された吸着質の蒸気を外部の冷却水19により凝縮させるとともに、凝縮した吸着質を蒸発器14に供給し、かつ、吸着質の凝縮により得られた温熱を冷却水19へ移動させることで外部へ放出する凝縮器15を備えているシステム構成である。
【実施例
【0064】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部および百分率は、断りのない限り重量基準を示す。まず、各特性の評価方法および評価結果の表記方法について説明する。
【0065】
<飽和吸湿率の測定>
絶乾させた高速吸放湿性重合体を乳鉢で細かく粉砕し、乾燥粉末状としたものを測定試料として用いる。該重合体粉末約0.2gを熱風乾燥機で105℃、30分間乾燥し重量を測定する(Wd(g))。次に試料を温度20℃で相対湿度65%RHまたは90%RHに調製された恒温恒湿器に24時間放置し、吸湿した試料の重量を測定する(Ww(g))。以上の値をもとに、次式により算出したものである。
飽和吸湿率(重量%)={(Ww-Wd)/Wd}×100
【0066】
<5分間吸湿初速度の測定>
絶乾させた高速吸放湿性重合体を乳鉢で細かく粉砕、乾燥粉末状としたものを測定試料として用いる。該重合体粉末約0.2gを熱風乾燥機で105℃、30分間乾燥し重量を測定する(Wd1(g))。次に、試料を温度30℃、飽和塩法により75%RHに調製した密閉容器内に5分間静置し、吸湿した試料の重量を測定する(Ww1(g))。以上の結果をもとに、5分間吸湿初速度を次式により算出する。
5分間吸湿初速度((g/g)/s)={(Ww1-Wd1)/Wd1}/300
【0067】
<塩型カルボキシル基量の測定>
まず、十分乾燥した試料約1gを精秤し(W2(g))、これに200mlの水を加えた後、50℃に加温しながら1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にし、次いで0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V2(ml))を求め、次式によって全カルボキシル基量(Aa(mmol/g))を算出する。
Aa(mmol/g)=0.1×V2/W2
別途、上述の全カルボキシル基量測定操作中の1mol/l塩酸水溶液添加によるpH2への調製をすることなく同様に滴定曲線を求め、試料中に含まれるH型カルボキシル基(COOH)の量(Ab(mmol/g))を求める。これらの結果から次式により塩型カルボキシル基量を算出する。
塩型カルボキシル基量(mmol/g)=Aa-Ab
【0068】
[実施例1]
重合槽にアクリロニトリル(AN)80部、ジビニルベンゼン20部からなる単量体混合液、および過硫酸アンモニウム4部を水330部に溶解した酸化剤水溶液を添加し、温度を65℃まで昇温して3時間重合させる。得られたポリマー分散液を遠心脱水することで、粉末状アクリロニトリル系重合体を得た。
【0069】
得られた粉末状アクリロニトリル系重合体450部に、450部の水酸化ナトリウムと3600部の水を添加し、95℃で60時間反応を行うことにより、ニトリル基を加水分解しカルボキシル基(加水分解終了時点ではナトリウム塩型)に変換した。加水分解後のポリマー分散液を、75重量%の硫酸水溶液によりpH10に調製し、吸引ろ過により洗浄を行い、遠心脱水することで粉末状吸放湿性重合体を得た。
【0070】
得られた粉末状吸放湿性重合体を75重量%硫酸水溶液にてpH2に調製し、吸引ろ過後に10重量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液にて再びpH10まで調製することで、該重合体のカルボキシル基をテトラメチルアンモニウム(TMA)型に変換した。吸引ろ過で脱塩、洗浄後、遠心脱水することで、実施例1の高速吸放湿性重合体を得た。得られた高速吸放湿性重合体の特性は表1に示す通りであり、飽和吸湿率は、20℃×65%RHのとき48%と優れた吸湿性を有していた。また、5分間吸湿初速度も非常に優れた値を示すことが確認された。
【0071】
[実施例2]
実施例1において、水酸化テトラメチルアンモニウムをヨウ化1,3-ジメチルイミダゾリウムに変更したこと以外は同様にして、1,3-ジメチルイミダゾリウム(DMI)塩型カルボキシル基を有する実施例2の高速吸放湿性重合体を得た。該重合体の飽和吸湿率、5分間吸湿初速度はともに実施例1には劣るものの、吸湿性能自体は非常に優れていることが確認できた。これは、実施例1と比較して、単位重量当たりのカルボキシル基量が低下したこと、対カチオンとなる有機オニウムイオンの疎水性が上がったことによるものと考えられる。
【0072】
[実施例3]
実施例1において、水酸化テトラメチルアンモニウムを臭化テトラブチルアンモニウムに変更したこと以外は同様にして、テトラブチルアンモニウム(TBA)塩型カルボキシル基を有する実施例3の高速吸放湿性重合体を得た。該重合体の飽和吸湿率、5分間吸湿初速度はともに実施例1にはやや劣るものの、吸湿性能自体は非常に優れていることが確認できた。これは、実施例1と比較して、単位重量当たりのカルボキシル基量が低下したこと、対カチオンとなる有機オニウムイオンの炭素数が多く疎水性が上がったことによるものと考えられる。
【0073】
[実施例4]
実施例1において、水酸化テトラメチルアンモニウムを臭化1-エチルピリジニウムに変更したこと以外は同様にして、1-エチルピリジニウム(EPY)塩型カルボキシル基を有する実施例4の高速吸放湿性重合体を得た。該重合体の飽和吸湿率、5分間吸湿初速度はともに実施例1にはやや劣るものの、吸湿性能自体は非常に優れていることが確認できた。これは、実施例1と比較して、単位重量当たりのカルボキシル基量が低下したこと、対カチオンとなる有機オニウムイオンの炭素数が多く疎水性が上がったことによるものと考えられる。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、水酸化テトラメチルアンモニウムを塩化1-ドデシルピリジニウムに変更したこと以外は同様にして、1-ドデシルピリジニウム(DPY)塩型カルボキシル基を有する比較例1の吸放湿性重合体を得た。該重合体の飽和吸湿率、5分間吸湿初速度はともに実施例1に大きく劣り、吸湿性能自体も劣っていることが確認できた。これは、実施例1と比較して、単位重量当たりのカルボキシル基量が大きく低下したこと、対カチオンとなる有機オニウムイオンの含有するアルキル鎖の炭素数が10を超えており、疎水性が大きく上昇したことによるものと考えられる。
【0075】
[比較例2]
実施例1で作製した粉末状吸放湿性重合体について吸湿性能を評価した。該重合体の飽和吸湿率は実施例1を上回るものの、5分間吸湿初速度では大きく劣ることが確認できた。これは、実施例1と比較して単位重量当たりのカルボキシル基量が増加したが、一方で対カチオンとなるナトリウムイオンのイオン半径が小さく、電子密度が高いため、イオン解離が鈍く、吸湿速度が低下したものと考えられる。
【0076】
[比較例3]
実施例1において、水酸化テトラメチルアンモニウムを水酸化カリウムに変更したこと以外は同様にして、カリウム(K)塩型カルボキシル基を有する比較例3の吸放湿性重合体を得た。該重合体の飽和吸湿率は実施例1とほぼ同等であるものの、5分間吸湿初速度は実施例1には劣るものであった。これは、実施例1と比較して、対カチオンであるカリウムイオンは、有機オニウムイオンよりもイオン半径が小さく、電子密度が高いため、イオン解離が鈍いことによるものと考えられる。
【0077】
[参考例1]
A型シリカゲル(林純薬製)について吸湿性能を評価した。A型シリカゲルの飽和吸湿率、5分間吸湿初速度はともに、実施例1より劣ることが確認できた。
【0078】
【表1】
【0079】
表1からわかるように、本発明の高速吸放湿性重合体は、従来の吸放湿性重合体である比較例2や3と同等の飽和吸湿率を有しつつ、これらよりも優れた5分間吸湿初速度を有するものである。
【符号の説明】
【0080】
1 吸放湿性シート
2 吸放湿性ローター
3 モーター
4 被除湿高湿度気体
5 除湿後気体
6 被加湿低湿度気体
7 加湿後気体
8 ヒーター等熱源
9 ファン
10 除湿・加湿領域区切りシール
11 吸放湿性素子充填カラム
12 3方バルブ
13 吸着器
14 蒸発器
15 凝縮器
16 流路切り替えバルブ
17 冷却水
18 温水
19 冷却水
20 冷水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9