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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 31/00 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B66B31/00 B
B66B31/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022029369
(22)【出願日】2022-02-28
(65)【公開番号】P2023125338
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】濱口 萌子
(72)【発明者】
【氏名】物部 愛
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-218878(JP,A)
【文献】特開2015-140219(JP,A)
【文献】特開2012-166937(JP,A)
【文献】特開2011-225305(JP,A)
【文献】特開2020-179976(JP,A)
【文献】特開2015-199596(JP,A)
【文献】特開2017-149563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通路の端部に位置する乗り口及び降り口と、
通路に沿って循環移動する無端搬送体と、
無端搬送体の側方に通路に沿って配置され、ハンドレールを循環移動可能に支持する欄干と、
無端搬送体上の乗客を検知する人検知部と、
欄干に通路に沿って所定の間隔を有して配置される複数の報知部と、
人検知部からの情報に基づき、通路のうち、乗り口付近及び降り口付近を除く領域において無端搬送体上を移動する乗客を検知し、かつ、乗客の移動量が所定の範囲を超えた場合、当該乗客に近い報知部に所定の報知を行わせる報知制御部とを備え、
報知制御部は、乗客が移動に伴って無端搬送体上の踏面を踏むたびに報知部から音が出るように、かつ、降り口に近づくにつれて報知の程度が高まるように、報知部を制御する
乗客コンベア。
【請求項2】
報知制御部は、無端搬送体上を逆方向に移動する乗客を検知した場合、無端搬送体上を順方向に移動する場合と異なる報知となるように報知部を制御する
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
報知部は、音響装置であり、
報知制御部は、報知の程度を高める方法として、報知部の出力強度又は出力頻度が上がるように報知部を制御する
請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
報知部は、音響装置であり、
報知制御部は、乗客と報知部との距離に応じて報知部の出力強度を調整する
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
通路は、乗客が横並び可能な幅を有して右レーンと左レーンとを備え、
報知部は、右レーン用と左レーン用とが設けられ、
報知制御部は、人検知部からの情報に基づき、乗客が左右いずれのレーンを移動しているかを検知可能であり、乗客が移動しているレーンの報知部に報知を行わせる
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環移動する無端搬送体により乗客を搬送する乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道といった乗客コンベアは、乗降口と搬送部とを備える。乗降口は、通路の始端部と終端部とに位置する(乗り口及び降り口)。搬送部は、無端搬送体を備え、無端搬送体が通路に沿って循環移動することにより、乗客を搬送する。乗客は、乗り口から無端搬送体の始端部(乗客受け入れ部)まで移動し、無端搬送体に乗り込むと、無端搬送体により搬送され、しかる後、無端搬送体の終端部(乗客送り出し部)に到達すると、降り口まで移動し、そのまま移動して乗客コンベアを後にする。
【0003】
無端搬送体による搬送中に乗客が無端搬送体上を移動(歩行又は走行、以下、同様)すると、他の乗客に接触するおそれがある。このため、乗客コンベアは、乗客を無端搬送体上に立たせたまま移動させることなく搬送することを前提としている。しかし、無端搬送体上を移動することや、その乗客の移動を妨げないよう無端搬送体の左右いずれか一方のレーンを空けることは、一般的な慣習として定着している。
【0004】
そこで、無端搬送体を構成する各踏段に荷重センサが配置され、あるいは、無端搬送体の側方に位置する欄干に通路に沿って所定の間隔を有して複数の非接触式センサが配置され、あるいは、天井にカメラが配置され、これら人検知部からの情報に基づき、無端搬送体上を移動する乗客が検知された場合、スピーカ等の報知部が当該乗客に対する注意喚起を目的として所定の報知を行うという報知装置を備える乗客コンベアが提案されている(特許文献1ないし3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-218878号公報
【文献】特開2012-236660号公報
【文献】特開2010-64821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これら従来の乗客コンベアに比べ、無端搬送体上を移動する乗客に対する注意喚起力が高く、これにより、無端搬送体上の移動に対して高い抑制効果を有する乗客コンベアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明に係る乗客コンベアは、
通路の端部に位置する乗り口及び降り口と、
通路に沿って循環移動する無端搬送体と、
無端搬送体の側方に通路に沿って配置され、ハンドレールを循環移動可能に支持する欄干と、
無端搬送体上の乗客を検知する人検知部と、
欄干に通路に沿って所定の間隔を有して配置される複数の報知部と、
人検知部からの情報に基づき、通路のうち、乗り口付近及び降り口付近を除く領域において無端搬送体上を移動する乗客を検知し、かつ、乗客の移動量が所定の範囲を超えた場合、当該乗客に近い報知部に所定の報知を行わせる報知制御部とを備え、
報知制御部は、乗客が移動に伴って無端搬送体上の踏面を踏むたびに報知部から音が出るように報知部を制御する
乗客コンベアである。
【0009】
そして、本発明に係る乗客コンベア
報知制御部は、降り口に近づくにつれて報知の程度が高まるように報知部を制御する
乗客コンベアである
【0011】
また、本発明に係る乗客コンベアの別の態様として、
知制御部は、無端搬送体上を逆方向に移動する乗客を検知した場合、無端搬送体上を順方向に移動する場合と異なる報知となるように報知部を制御する
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係る乗客コンベアのさらに別の態様として、
報知部は、音響装置であり、
報知制御部は、報知の程度を高める方法として、報知部の出力強度又は出力頻度が上がるように報知部を制御する
との構成を採用することができる。
【0014】
また、発明に係る乗客コンベアのさらに別の態様として、
報知部は、音響装置であり、
報知制御部は、乗客と報知部との距離に応じて報知部の出力強度を調整する
との構成を採用することができる。
【0015】
また、発明に係る乗客コンベアのさらに別の態様として、
通路は、乗客が横並び可能な幅を有して右レーンと左レーンとを備え、
報知部は、右レーン用と左レーン用とが設けられ、
報知制御部は、人検知部からの情報に基づき、乗客が左右いずれのレーンを移動しているかを検知可能であり、乗客が移動しているレーンの報知部に報知を行わせる
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の乗客コンベアに比べ、無端搬送体上を移動する乗客に対する注意喚起力が高く、これにより、無端搬送体上の移動に対して高い抑制効果を有する乗客コンベアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、エスカレータの概略断面側面図である。
図2図2は、エスカレータが備える報知装置の一構成例の説明図であって、エスカレータの概略断面側面図である。
図3図3は、報知装置の一構成例の説明図であって、エスカレータの傾斜部から降り口にかけての概略平面図である。
図4図4は、報知装置による報知方法の説明図であって、エスカレータの傾斜部から降り口にかけての概略平面図である。
図5図5は、報知装置の報知制御1のタイミングチャートである。
図6図6は、報知装置の報知制御1’のタイミングチャートである。
図7図7は、報知装置の報知制御2のタイミングチャートである。
図8図8は、報知装置の報知制御3であって、図8(a)は、降り口付近における報知制御3のタイミングチャートであり、図8(b)は、乗り口付近における報知制御3のタイミングチャートである。
図9図9(a)~(e)は、報知装置の報知制御4の各例の説明図である。
図10図10(a)~(e)は、報知装置の報知制御5の各例の説明図である。
図11図11(a),(b)は、報知装置の報知制御6の各例のタイミングチャートである。
図12図12は、報知装置の別構成例の説明図であって、エスカレータの傾斜部から降り口にかけての概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<全体構成>
以下、本発明に係る実施形態として、乗客コンベアの一つであるエスカレータの各実施形態について説明するが、まずはこれに先立ち、エスカレータの全体構成について説明する。
【0019】
図1に示すように、エスカレータ1は、トラス2と、乗降口3と、搬送部4と、ハンドレール部5と、制御部6とを備える。トラス2は、エスカレータ1の自重及び積載荷重を支える構造体である。トラス2は、2つの水平端部2a,2aと、傾斜部2bとを備える。乗降口3は、トラス2の両端部2a,2aの上部に設けられ、通路の端部(始端部、終端部)に位置する。搬送部4は、トラス2に支持され、踏面が通路に沿って移動することにより、乗客をその位置に立たせたまま移動させることなく搬送する。ハンドレール部5も、トラス2に支持され、通路の両側に通路に沿って設けられる。制御部6は、エスカレータ1の各部に対する制御を行い、エスカレータ1の円滑な運行を制御する。制御部6は、制御盤の形態で設けられる。
【0020】
なお、本実施形態においては、エスカレータ1は、乗客を左から右(階下から階上)に搬送する上りの設定となっている。このため、エスカレータ1は、左から右に、乗り口3A、搬送部4、降り口3Bを備える。制御部6により設定が逆に切り替えられると、乗り口3Aは降り口に、降り口3Bは乗り口に切り替わり、乗客を右から左(階上から階下)に搬送する下りの設定となる。
【0021】
乗降口3は、トラス2の水平端部2aの上方に設けられる。乗降口3は、フロアプレート30を備える。フロアプレート30は、乗降口3の床を構成し、通路の端部(始端部、終端部)に設置される。フロアプレート30の先端は、乗降口3と搬送部4との境界を画する。
【0022】
搬送部4は、無端搬送体40を備える。無端搬送体40は、複数の踏段(ステップ)41,…が無端状に連結されたものである。無端搬送体40は、トラス2内にトラス2の長手方向に沿って循環移動可能に配置される。搬送部4の駆動機構は、駆動モータ42と、減速機43と、一対のスプロケット44,44と、踏段チェーン45とを備える。駆動モータ42及び減速機43は、トラス2の上端部側の水平端部2aに設けられる。一方のスプロケット44も、トラス2の上端部側の水平端部2aに設けられ、減速機43及びチェーンやベルト等の伝達手段を介して駆動モータ42の駆動が伝達される。他方のスプロケット44は、トラス2の下端部側の水平端部2aに設けられる。踏段チェーン45は、複数の踏段41,…を無端状に連結する手段であって、一対のスプロケット44,44に巻き掛けられる。無端搬送体40は、駆動モータ42の駆動に伴って踏段チェーン45が循環移動することにより、一方向又は反対方向に循環移動する。
【0023】
ハンドレール部5は、ハンドレール50と、欄干51とを備える。ハンドレール50は、移動手摺とも呼ばれ、可撓性を有する無端状である。ハンドレール50は、無端搬送体40と連動して循環移動する。欄干51は、無端搬送体40の側方に無端搬送体40の長手方向に沿って配置される。欄干51は、下辺部がトラス2に支持され、ハンドレール50を循環移動可能に支持する。ハンドレール50及び欄干51は、通路の両側に通路に沿って一対設けられる。
【0024】
<報知装置>
図2及び図3に示すように、エスカレータ1は、報知装置を備える。報知装置は、無端搬送体40上を移動する乗客に対する注意喚起を目的として所定の報知を行う装置である。報知装置は、人検知部70と、報知部71と、報知制御部とを備える。
【0025】
人検知部70は、通路に沿って所定の間隔を有して複数配置される。より詳しくは、人検知部70は、各踏段41に配置されることにより、無端搬送体40の全長に亘って踏段41のピッチ間隔を有して複数配置される。人検知部70は、踏段41の踏板部に配置される。人検知部70は、踏段41の踏板部の全域をカバーするように配置され、当該踏板部上の乗客を検知することができるのみならず、乗客が当該踏板部の右レーンにいるか左レーンにいるか右レーン及び左レーンに跨っているかを検知することができる。一例として、人検知部70は、圧電式又はひずみゲージ式の圧力センサ(荷重センサ)を用いて構成される。
【0026】
踏段41の総数がmとすると、特定の踏段41を始めとして、全ての踏段41,…は、1つずつ識別番号が割り当てられ(踏段41(1)~41(m))、これに伴い、全ての人検知部70,…は、1つずつ踏段41の識別番号と同じ識別番号が割り当てられる(人検知部70(1)~70(m))。
【0027】
人検知部70は、送信部を備える。送信部は、荷重検知信号を自身の識別番号と紐付けて送信する。送信部は、信号を近距離無線通信で送信する。近距離無線通信とは、通信距離が1メートル程度以内ないし数メートル以内、又は、数十メートル以内の無線通信であり、無線LAN、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信等の通信規格に係る無線通信である。
【0028】
なお、人検知部70は、踏段41という可動部に配置される。そこで、人検知部70への給電方法としては、ワイヤレス給電、摺動式給電、バッテリ、発電機(ダイナモ)等が採用可能である。ワイヤレス給電では、トラス2側に送電コイルが配置され、踏段41に受電コイルが配置される。摺動式給電では、トラス2側に踏段41の移動方向に沿って給電線が配置され、踏段41に給電線に摺接する受電体が配置される。バッテリは、踏段41に配置される。発電機は、たとえば踏段41の後輪の回転により発電するもので、踏段41に配置される。
【0029】
報知部71は、通路に沿って所定の間隔を有して複数配置される。より詳しくは、報知部71は、通路を長手方向に複数に分けた領域のそれぞれの領域に配置される。領域の分割数がn(n<m)とすると(領域A1~An)、全ての報知部71,…は、1つずつ識別番号が割り当てられる(報知部71(1)~71(n))。なお、領域A1は、乗り口3A付近であって、無端搬送体40の乗客受け入れ部の領域(乗り口3Aに接続される端部領域、本実施形態においては、踏段2個分の領域)であり、領域Anは、降り口3B付近であって、無端搬送体40の乗客送り出し部の領域(降り口3Bに接続される端部領域、本実施形態においては、踏段2個分の領域)であり、領域A2~An-1は、無端搬送体40の傾斜部を(n-2)数に分けた領域(本実施形態においては、それぞれが踏段3個分の領域)である。
【0030】
報知部71は、欄干51の通路に面する構成(欄干パネル52、スカートガード53及びデッキカバー54)のうち、スカートガード53に配置される。ただし、報知部71は、欄干パネル52又はデッキカバー54に配置されるものであってもよい。一例として、報知部71は、スピーカ等の音響装置である。報知部71は、電源線ないし信号線を介して報知制御部に電気的に接続される。これにより、報知部71は、報知制御部により制御される。
【0031】
報知制御部は、エスカレータ1の制御部6がその機能を実行する。報知制御部は、受信部と、乗客検知部と、送信部とを備える。受信部は、人検知部70の送信部が送信する信号を受信する。乗客検知部は、人検知部70からの信号に基づき、無端搬送体40上を移動する乗客を検知する。送信部は、乗客検知部が乗客を検知した場合、当該乗客に近い報知部71に対し、所定の報知を行わせる指令信号を送信する。
【0032】
<報知装置の報知制御1>
報知指令信号が発出される条件は、i)連続する所定数の踏段41,…に亘って荷重変位が発生すること(一例として、所定数は3である。しかし、所定数は2であってもよいし、4以上であってもよい)、ii)荷重変化のピッチ時間が所定の時間以内であること(一例として、所定の時間は1.5秒)、の両方を満たすことである。
【0033】
図5は、報知制御1のタイミングチャートである。なお、タイミングチャートにおける人検知部70及び報知部71の識別番号の特定は、図4に基づく一例である。報知制御部は、常時、全ての人検知部70,…からの信号の有無を監視している。そして、報知制御部は、連続する3つの踏段41,…に亘って荷重変位を確認すると(図中A→C)、無端搬送体40上を移動する乗客がいると判断する。それと同時に、報知制御部は、乗客が位置する領域、すなわち、乗客を検知する人検知部70(図例では、70(m-3))が位置する領域(図例では、An-2)の報知部71を特定し(図例では、71(n-2))、当該報知部71に対し、報知指令信号を発出する(図中C)。なお、報知部71の特定は、無端搬送体40の長さ及び踏段41の総数が既知であり、制御部6が無端搬送体40の移動速度及び無端搬送体40の原点位置を把握していることから、報知制御部による特定が可能である。報知内容は、たとえば「歩行をおやめください。」といった内容の音声や、ブザー音やチャイム音等の音である。
【0034】
また、報知制御部は、さらに荷重変位の継続を確認し、乗客がなおも移動して次の領域(図例では、An-2からAn-1)に移行したと判断すると、報知部71を更新し(図例では、71(n-1))、当該報知部71に対し、報知指令信号を発出する(図中E)。そして、報知制御部は、乗客が移動をやめたことを確認するまで(図中F)、報知指令信号の発出を継続する。
【0035】
乗客が報知に従って移動するのをやめると、最後に荷重検知をした人検知部70(図例では、70(m-1))における荷重変動が無くなり、一定レベルとなる。これに伴い、報知制御部は、報知指令信号の発出を停止し、あるいは、報知指令停止信号を発出する。この結果、報知の目的が達成され、当該報知部71からの報知が停止される。
【0036】
このように、報知制御1によれば、乗客が無端搬送体40上を移動する場合、当該乗客に近い報知部71から報知が行われ、この状態は、乗客が移動をやめない限り継続する。このため、報知制御1によれば、無端搬送体40上を移動する乗客に対する注意喚起力が高く、これにより、無端搬送体40上の移動に対して高い抑制効果を有するエスカレータを提供することができる。
【0037】
また、報知制御1によれば、無端搬送体40上を移動する乗客に近い報知部71のみが作動し、それ以外の報知部71,…は作動しない。これにより、無端搬送体40上に静止して立っている乗客には、報知が全く聞こえないか、聞こえにくくなる。このため、報知制御1によれば、報知対象者以外の乗客に不快感を与えることなく、無端搬送体40上の移動を効果的に抑止することができる。
【0038】
また、報知制御1によれば、乗客の移動量が所定の範囲を超えた場合に報知が行われ、乗客の移動量が所定の範囲内であれば、報知は行われない。これにより、乗客が他の乗客を避けるために少し移動する場合や、安定した姿勢を確保するために少し移動する場合等、無端搬送体40上を移動して進む意図がない乗客に不要な報知が行われて不快感を与えるのを防ぐことができる。
【0039】
なお、乗客が報知に従って移動するのをやめた場合、これをトリガーとして移動中とは異なる内容を報知するというオプションを追加してもよい。報知内容は、たとえば、正解を連想する音や、「今後もエスカレータを安全にご利用ください。」といった内容の音声である。これにより、利用者に正しい乗り方を意識してもらうことができ、将来の歩行を抑止することができる。
【0040】
<報知装置の報知制御1’>
報知制御1’は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、図6及び図5の71(n-1)及び71(n-2)のチャートを比較すればわかるとおり、報知部71の出力形態である。
【0041】
上述のとおり、1つの報知部71は、1つの領域A内で2つ又は3つの人検知部70を管轄する。このため、1つの領域A内において、人検知部70と報知部71との距離は異なる。すなわち、1つの領域A内において、乗客と報知部71との距離は異なる。したがって、1つの領域A内において、乗客がどの位置にいようとも、報知部71の出力強度が同じであると、乗客にとって報知の強弱が発生する。そこで、1つの領域A内において、報知部71から乗客までの距離が遠いときには、報知部71の出力強度を上げ、これにより、乗客がどの位置にいようとも、乗客にとって報知が一定レベルで聞こえるようにする。これにより、乗客は、報知が明らかに自分に向いたものであることを認識する。
【0042】
このため、報知制御1’によれば、報知制御1よりもさらに注意喚起力を高めることができる。
【0043】
<報知装置の報知制御2>
報知制御2は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、図7及び図5の71(n-1)及び71(n-2)のチャートを比較すればわかるとおり、報知部71の出力形態である。
【0044】
報知制御2では、報知が連続するのではなく、乗客が移動に伴って無端搬送体40上の踏面を踏むたびに報知部71から音が出るという乗客に移動に応じたステップ調的な報知態様が採用される。音は、たとえば、「ピコ」、「ピー」、「ブー」といった単発の電子音であったり、警告音であったり、不快音であったりする。いずれであっても、足を踏み出すたびに音が鳴り、乗客は、これに羞恥心を抱いたり、不快な思いをする。この結果、乗客は、音がならないよう忌避、すなわち、移動するのをやめる。
【0045】
このため、報知制御2によれば、報知制御1と同様、あるいは報知制御1以上に、無端搬送体40上を移動する乗客に対する注意喚起力が高く、これにより、無端搬送体40上の移動に対して高い抑制効果を有するエスカレータを提供することができる。
【0046】
<報知装置の報知制御3>
報知制御3は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、報知制御3では、乗り口3A付近及び降り口3B付近では、報知が行われない点である。
【0047】
図8(a)は、降り口3B付近における報知制御3のタイミングチャートであり、図8(b)は、乗り口3A付近における報知制御3のタイミングチャートである。これらからわかるとおり、降り口3B付近及び乗り口3A付近では、所定の範囲を超える移動量の乗客が検知されたとしても、報知制御部は、報知部71に対し、報知指令信号を発出しない。降り口3B付近(すなわち領域An)の報知部71(n)及び乗り口3A付近(すなわち領域A1)の報知部71(1)は、通常の報知(降り口3Bに近づくことへの注意喚起等の報知)を行うのみである。なお、乗り口3A側の報知制御3では、上記報知制御1の条件i)の所定数を3から1減らして2としている。
【0048】
降り口3B付近は、乗客を降り口3Bへ送り出す領域であり、乗り口3A付近は、乗客を乗り口3Aから受け入れる領域である。必然的に乗客の移動が発生する領域である。これらにおいても移動抑制のための報知が行われるとすると、乗客によっては、混乱する。そこで、報知制御3では、これらの領域では、報知が行われないようにしている。このため、報知制御3によれば、乗客に対し、降り口3Bへの移動及び乗り口3Aからの移動に集中できる状況を提供することができる。
【0049】
<報知装置の報知制御4>
報知制御4は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、報知制御4では、所定の条件において、報知の程度を変化させるという点である。
【0050】
具体的には、報知制御4では、i)降り口3B付近において、又は、ii)降り口3Bに近づくにつれて、報知の程度が高まるようになっている。報知の程度が高まるとは、たとえば、報知部71の出力強度が上がる、報知部71の出力頻度が上がる、といったことである。図9(a)及び(b)は、i)であって報知部71の出力強度が上がる例である。そのうち、図9(a)は、降り口3B付近(領域An)の報知部71(n)の出力強度が上がる例であり、図9(b)は、降り口3B付近(領域An及びその隣の領域An-1のうちの降り口3B寄りの領域)の報知部71(n),71(n-1)の出力強度が上がる例である。図9(c)及び(d)は、ii)であって報知部71の出力強度が上がる例である。そのうち、図9(c)は、出力強度が線形に変化する例であり、図9(d)は、出力強度が曲線的に変化する例である。図9(e)は、図9(a)の例に対して報知制御1’の概念を導入した例である。
【0051】
このように、報知制御4では、エスカレータを利用する上で特に高い注意を払うべき箇所(降り口3B付近)において、強い警戒感を与える報知が行われる。このため、報知制御4によれば、安全性を高めることができる。
【0052】
<報知装置の報知制御5>
報知制御5は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、報知制御5では、所定の条件において、報知の程度を変化させるという点である。
【0053】
具体的には、報知制御5では、i)エスカレータ1が上りの場合の降り口3B付近において、又は、ii)エスカレータ1が下りの場合の乗り口3A付近において、又は、iii)エスカレータ1が上りの場合の降り口3Bに近づくにつれて、報知の程度が高まるようになっている。図10(a)及び(b)は、i)又はii)であって報知部71の出力強度が上がる例である。図10(c)及び(d)は、iii)であって報知部71の出力強度が上がる例である。図10(e)は、図10(a)の例に対して報知制御1’の概念を導入した例である。
【0054】
このように、報知制御5では、報知制御4と同様、エスカレータを利用する上で特に高い注意を払うべき箇所(高所)において、強い警戒感を与える報知が行われる。このため、報知制御5によれば、安全性を高めることができる。
【0055】
<報知装置の報知制御6>
報知制御6は、報知制御1の変形例であり、基本的には、報知制御1と同じである。異なる点は、報知制御6では、所定の条件において、報知の程度を変化させるという点である。
【0056】
具体的には、報知制御6では、無端搬送体40上を逆方向に移動する逆行が検知された場合、報知の程度が高まるようになっている。逆行は、非常に危険であり、直ちにやめさせるべき移動行為であるため、図11に示すように、逆行が検知されると、直ちに強い報知が行われるようになっている。
【0057】
このように、報知制御6では、逆行という危険な行為に対し、強い警戒感を与える報知が行われる。このため、報知制御6によれば、危険な行為を即座に停止させる効果が期待できる。
【0058】
あるいは、乗客が順方向に移動する場合は、「歩行をおやめください。」といった内容の音声でアナウンスするのに対し、乗客が逆方向に移動(逆行)する場合は、「逆行をおやめください。」といった内容の音声でアナウンスするようにしてもよい。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
上記実施形態においては、報知部71は、無端搬送体40の一側方に配置される。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。たとえば、図12に示すように、報知部71は、右レーン用と左レーン用とが設けられ、報知制御部は、人検知部70からの情報に基づき、乗客が左右いずれのレーンを移動しているかを検知可能であり、乗客が移動しているレーンの報知部71に報知を行わせるようにしてもよい。これによれば、報知対象者以外の乗客に不快感を与えることなく、無端搬送体40上の移動を抑止するという効果をさらに高めることができる。
【0061】
また、上記実施形態においては、人検知部70は、踏段41に配置される荷重センサである。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。人検知部は、公知の種々の手段を採用することができる。たとえば、人検知部は、欄干に配置される光電センサ、超音波センサ又は電波センサ等の非接触式センサである。あるいは、人検知部は、天井等に配置されるカメラ等の撮像装置である。撮像画像に対してテンプレートマッチング、ブロックマッチング等の画像処理に施すことにより、移動する乗客を検知することができる。
【0062】
また、上記実施形態においては、報知部71は、聴覚的出力手段であるスピーカ等の音響装置である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。報知部は、LED等を用いた視覚的出力手段であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、所定の条件において、報知の程度を変化させるようにしている。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。要は、音の3要素(音の高さ、大きさ、音色(たとえば楽器の違い等))の少なくとも1つを変化させる、音の長さを変化させる、音声の内容を異ならせる、といった異なる報知であればよい。
【0064】
また、上記実施形態においては、乗客が横並び可能な幅を有するエスカレータである。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。エスカレータは一人幅用のものであってもよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、乗客コンベアは、エスカレータである。しかし、本発明は、動く歩道にも適用できることは言うまでもない。なお、動く歩道には、踏段式の無端搬送体を備えるものと、ベルト式の無端搬送体(無端帯状搬送体)を備えるものとがある。
【0066】
また、物理的に干渉するものでない限り、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に適用すること、以上に記載した技術要素を他の実施形態ないし例に係る技術要素と置換すること、以上に記載した技術要素同士を組み合わせること等は、当然に可能であり、これは、本発明が当然に意図するところである。
【符号の説明】
【0067】
1…エスカレータ、2…トラス、2a…水平端部、2b…傾斜部、3…乗降口、3A…乗り口、3B…降り口、30…フロアプレート、4…搬送部、40…無端搬送体、41…踏段、42…駆動モータ、43…減速機、44…スプロケット、45…踏段チェーン、5…ハンドレール部、50…ハンドレール、51…欄干、52…欄干パネル、53…スカートガード、54…デッキカバー、6…制御部(報知制御部)、70…人検知部、71…報知部、A1~An…分割領域
図1
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図4
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図10
図11
図12