(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】VOC除去用触媒の製造方法、VOC除去用触媒及びVOC除去方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20230907BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20230907BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20230907BHJP
B01J 23/889 20060101ALI20230907BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B01J37/02 301N
B01J37/34 ZAB
B01J35/04 311A
B01J23/889 A
B01D53/86 280
(21)【出願番号】P 2019082755
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲ジン▼
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】王 佩芬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1724143(CN,A)
【文献】国際公開第2017/154134(WO,A1)
【文献】特開昭48-053296(JP,A)
【文献】特開2009-220009(JP,A)
【文献】特表2001-517738(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107899582(CN,A)
【文献】特開平09-299791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0154375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質基材をカソードとして使用して、少なくとも2種の金属化合物を含む水溶液中でパルス電着処理を行う工程を含み、
前記金属化合物は、少なくともMnの化合物、並びに、Ni、Cu及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物であり、
前記導電性多孔質基材が銅フォームである、VOC除去用触媒の製造方法。
【請求項2】
導電性多孔質基材に金属酸化物が被覆されて形成され、
前記金属酸化物は、
Mnと、Ni、Cu及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属と、を少なくとも含む複合酸化物であり、
前記導電性多孔質基材が銅フォームである、VOC除去用触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で得られたVOC除去用触媒、あるいは、請求項2に記載のVOC除去用触媒を用いてVOCを除去する工程を備える、VOCの除去方法。
【請求項4】
前記水溶液は、Mo、W、Ti、Cr、Fe、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物をさらに含む、請求項1に記載のVOC除去用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、Mo、W、Ti、Cr、Fe、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属をさらに含む、請求項2に記載VOC除去用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC除去用触媒の製造方法、VOC除去用触媒及びVOC除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
VOCは、揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)の略称であり、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、メタノール及びジクロロメタン等が知られている。このようなVOCは、溶剤、接着剤、化学品原料等に広く利用されている反面、VOCは、光化学オキシダント、あるいは、浮遊粒子状物質(SPM)の原因になると指摘されていることから、大気汚染防止法によりその排出量が厳しく規制されている。
【0003】
VOCは、例えば、塗装(屋内、屋外)、洗浄、給油、化学製品の製造、印刷、接着等、様々な工程によって排出され、これらの中でも塗装からの排出が最も多いと言われており、固定発生源からの排出が5割以上を占めている。
【0004】
このような観点から、VOC排出量をさらなる低減すべく、VOCをより効率良く除去する技術の確立が望まれている。これまでにも種々のVOC除去方法が提案されている。VOCの排出対策技術は、大別すると、(1)回収・再生方式;(2)密閉方式;(3)燃焼・分解方式;(4)物質代替方式の4方式に分類できる。
【0005】
燃焼・分解方式は、VOCを二酸化炭素や水などに分解することによって、VOCを処理する。従来型の塗装や印刷などに代表されるように、物質や成分比の異なる複数のVOCを使用する場合は、VOCを回収・再生しても、これを再利用する利点が少ないので、燃焼・分解方式が現実的であるといえる。
【0006】
燃焼・分解方式の中でも特に、燃焼によってVOCを分解する方法は、日本では1960年頃から行われている。燃焼方法としては、例えば、直接燃焼法、触媒燃焼法、蓄熱燃焼法が知られている。中でも触媒燃焼法とは、白金、パラジウム等を担持した触媒を用いてVOCを200~350℃の低温下で酸化分解する方法である。この方法で使用するVOC除去装置の特徴は、低温で運転ができる点、小型軽量化しやすい点、爆発危険性が少ない点、サーマルNOxの副生がない点等が挙げられる。
【0007】
しかし、触媒燃焼法では、触媒劣化の程度が把握しにくい等の課題もあることから、被毒されにくく寿命の長い新触媒の開発や、耐熱性の向上及び低コスト化等の観点からの触媒の開発が進められている。最近では白金などの高価な貴金属を使用しない安価な触媒も提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Applied Catalysis B: Environmental 104 (2011) 144-150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、近年、VOC除去用触媒においては、白金などの高価な貴金属を使用しないことに加えて、より効率よくVOCを除去できる性質を有することが望まれており、また、そのような触媒を簡便な方法で製造することが望まれていた。特に低温で処理してもVOCの除去効率に優れるVOC除去用触媒が強く要望されていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で製造でき、低温で処理してもVOCの除去効率に優れるVOC除去用触媒及びその製造方法並びにVOC除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性多孔質基材として銅フォームを使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
導電性多孔質基材をカソードとして使用して、少なくとも2種の金属化合物を含む水溶液中でパルス電着処理を行う工程を含み、
前記金属化合物は、Ni、Cu、Co、Mo、W、Ti、Cr、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の化合物であり、
前記導電性多孔質基材が銅フォームである、VOC除去用触媒の製造方法。
項2
導電性多孔質基材に金属酸化物が被覆されて形成され、
前記金属酸化物は、Ni、Cu、Co、Mo、W、Ti、Cr、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属の複合酸化物であり、
前記導電性多孔質基材が銅フォームである、VOC除去用触媒。
項3
項1に記載の製造方法で得られたVOC除去用触媒、あるいは、項2に記載のVOC除去用触媒を用いてVOCを除去する工程を備える、VOCの除去方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のVOC除去用触媒の製造方法によれば、VOC除去用触媒を簡便な方法で製造することができ、得られたVOC除去用触媒によれば、従来よりも低温でVOCを処理してもVOCの除去効率に優れる。
【0014】
本発明のVOC除去用触媒によれば、低温でVOCを処理してもVOCの除去効率に優れる。
【0015】
本発明のVOC除去方法によれば、低温でVOCを処理することができるので、VOCの除去に適した方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】銅フォームの電気化学的酸化処理の方法を説明する概略図である。
【
図2】各実施例及び比較例で得たVOC除去用触媒のSEM画像を示す。
【
図3】各実施例及び比較例で得たVOC除去用触媒の評価試験結果を示し、温度とトルエンのコンバージョンとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0018】
1.VOC除去用触媒の製造方法
本発明のVOC除去用触媒の製造方法は、導電性多孔質基材をカソードとして使用して、少なくとも1種の金属化合物を含む水溶液中で電着処理を行う工程を含む。以下、この工程を「電着工程」と略記する。特に本発明の製造方法では、前記導電性多孔質基材が銅フォームである。
【0019】
本発明の製造方法は、電着工程を具備することにより、VOC除去用触媒を簡便な方法で製造することができ、得られたVOC除去用触媒を用いることで、低温でVOCを処理することができる。従って、本発明の製造方法で得られるVOC除去用触媒は、VOCの除去効率が優れる。
【0020】
電着工程で使用する銅フォームは、銅を主体とする基材であって、導電性を有し、かつ、多孔質に形成された基材である。銅フォームは、VOC除去用触媒作用を有する後記金属酸化物又は金属複合酸化物を保持する役割を果たす。銅フォームの形状は特に限定されず、例えば、板状、線状、棒状、メッシュ状等の形状に形成される。なお、銅フォームには、本発明の効果が得られる範囲内で、他の成分(例えば、不可避的に混入する金属等の元素)が含まれていてもよい。
【0021】
電着工程で使用する銅フォームは公知の方法で得ることができ、あるいは、市販品等から銅フォームを入手することもできる。
【0022】
電着工程で使用する銅フォームは、その表面にさらに銅のナノワイヤが形成されていてもよい。この場合、銅フォーム上にナノワイヤを介して金属が均一に分散して存在しやすくなり、銅フォーム上に形成される後記金属酸化物又は金属複合酸化物による触媒活性がさらに高まる。この結果、得られるVOC除去用触媒のVOC除去効率がいっそう高まるものとなる。
【0023】
従って、本発明の製造方法は、銅フォーム表面上に銅ナノワイヤを形成する工程を備えることが好ましい。
【0024】
銅フォーム上に銅ナノワイヤを形成する方法は特に限定されず、例えば、公知のナノワイヤの形成方法を広く採用することができる。例えば、銅フォームの電気化学的酸化処理(電気酸化)により、銅フォーム上に銅ナノワイヤを形成することができる。電気酸化の方法も特に限定されず、例えば、公知の電気酸化の方法を適用することができる。一例として、定電流法による電気酸化を挙げることができる。
【0025】
図1は、銅フォームの電気化学的酸化処理の方法を説明する概略図であって、定電流法によって銅フォーム上に銅ナノワイヤを形成する様子を模式的に示している。
【0026】
定電流法で銅フォーム上に銅ナノワイヤを形成する場合、
図1に示すように、作用電極(Working Electrode)、対電極(Counter electrode)、参照電極(Reference electrode)及び電解液を備えた電解装置を使用することができる。作用電極としては、ナノワイヤを形成させるための銅フォームを使用することができる。対電極としては、例えば、公知の不溶性電極を使用することができ、炭素、白金族金属、金などを素材とする電極が挙げられる。白金族金属としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、及びイリジウムが挙げられ、中でも白金が好ましい。対電極に含まれる白金族金属は、上記した金属種を1種単独で又は2種以上含んでいてもよい。また、白金族金属は、合金、金属酸化物等の状態で含まれていてもよい。参照電極としては、銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、水銀/塩化水銀電極(Hg/HgCl
2電極)、標準水素電極などを使用することができる。
【0027】
電解液の種類も特に限定されず、定電流法で使用され得る公知の電解液を広く使用することができ、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を使用することができる。電解液がアルカリ水溶液である場合、その濃度は特に限定されず、例えば、2~6Mとすることができる。
【0028】
定電流法による電気酸化の条件(電流、電圧、電解時間等)も特に限定されず、公知の定電流法の条件を広く適用することができる。
【0029】
定電流法により、
図1に示すように、銅フォーム上に銅ナノワイヤが形成される。銅ナノワイヤの大きさは特に限定されず、例えば、直径は1~150nm程度とすることができる。
【0030】
電着工程では、少なくとも1種の金属化合物を含む水溶液中で電着処理を行う。金属化合物に含まれる金属の種類は特に限定されず、例えば、VOC除去用触媒で使用される金属を広く適用することができる。以下、金属化合物における金属を「金属M」と表記する。金属Mの種類としては、例えば、VOC除去用触媒で使用される各種金属を挙げることができる。
【0031】
具体的に金属化合物は、Ni、Cu、Co、Mo、W、Ti、Cr、Al、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属Mの化合物であることが好ましい。この場合、VOC除去用触媒を製造しやすく、また、得られるVOC除去用触媒もVOCの除去効率に優れる。
【0032】
金属化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知の金属Mの無機酸塩、公知の金属Mの有機酸塩、公知の金属Mの水酸化物及び公知の金属Mのハロゲン化物等を広く使用することができる。金属Mの化合物は水和物であってもよい。
【0033】
金属Mの無機酸塩としては、金属Mの硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0034】
金属Mの有機酸塩としては、金属Mの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0035】
電着工程で使用する金属Mの化合物としては、水に溶解して水溶液を形成しやすいことが好ましく、この場合、VOC除去用触媒を製造しやすい。中でも、電着工程で使用する金属Mの化合物としては、金属Mの硝酸塩、金属Mの硫酸塩及び金属Mの塩化物等であることが好ましく、金属Mの硝酸塩であることがより好ましい。
【0036】
電着工程で使用する金属化合物は、1種単独で使用してもよく、あるいは異なる2種以上を併用することが可能である。得られるVOC除去用触媒がVOCの除去効率に優れやすくなる点で、電着工程で使用する金属化合物は、異なる2種以上を併用することが好ましい。異なる2種以上の金属化合物を併用する場合、各金属化合物は、同じ種類の塩であることが好ましい。例えば、各金属化合物は、すべて硝酸塩とすることができる。
【0037】
電着工程で使用する金属化合物が2種以上である場合、少なくとも一つの金属化合物は、Ni、Cu及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。この場合、Ni、Cu、Coは電着しやすい金属であるので、銅フォーム上に金属酸化物又は金属複合酸化物が形成されやすい。この場合において、他の金属化合物は、難電着性とされているMo、W、Ti、Cr、Al、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことができる。易電着性であるNi、Cu、Co等の金属化合物と、難電着性の金属の化合物との組み合わせることで、単独では電着することが難しい金属にあっても、電着が起こりやすくなるからである。
【0038】
電着工程で使用する金属化合物が2種以上である場合、Coを含む金属化合物と、Mnを含む金属化合物の組み合わせを採用することが特に好ましく、この場合、得られるVOC除去用触媒は、より低温でのVOC除去が可能となる。
【0039】
電着工程において、異なる2種以上の金属化合物を併用する場合、各金属化合物の使用割合は特に限定されない。例えば、2種の金属化合物を併用する場合、一方の化合物の金属Mと、他方の化合物の金属Mとのモル比は1:0.1~1:20とすることができ、1:1~1:10とすることが特に好ましい。特に、金属化合物がCoを含む金属化合物と、Mnを含む金属化合物の組み合わせを含む場合、CoとMnのモル比(Co:Mn)が1:0.1~1:20とすることができ、1:1~1:10とすることが特に好ましい。
【0040】
金属化合物の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法で得ることができる。あるいは、市販品等から金属化合物を入手することもできる。
【0041】
電着工程で使用する金属化合物を含む水溶液の調製方法は特に限定されず、例えば、少なくとも1種の金属化合物と、溶媒とを混合することで調製できる。溶媒としては、水、あるいは、水と低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等の炭素数1~4のアルコール)との混合物を使用することができ、特に好ましくは、水である。水は、蒸留水、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水、電解水などの各種の水を用いることができる。溶媒には、本発明の効果が阻害されない限り、pH調整剤、粘度調整剤、防かび剤等を含有していてもよい。
【0042】
電着工程で使用する金属化合物を含む水溶液の濃度は特に限定されない。例えば、水溶液において、金属Mの濃度(2種以上の金属が存在する場合は、各金属Mそれぞれの濃度)が0.1~1000mmol/Lであることが好ましい。この場合、構造が安定なVOC除去用触媒を容易に形成することができる。金属M(2種以上の金属が存在する場合は、各金属Mのそれぞれ)の濃度は0.5~500mmol/Lであることがより好ましく、1~100mmol/Lであることが特に好ましい。
【0043】
電着工程で使用する水溶液には、本発明の効果が阻害されない限り、他の添加剤を含むことができる。他の添加剤としては、例えば、pH調整剤を挙げることができる。
【0044】
電着工程において、電着処理の方法は特に限定されず、公知の電着処理の方法を広く採用することができる。例えば、前記水溶液に前記導電性多孔質基材を浸漬し、電着処理を実施することができる。
【0045】
本発明の製造方法では、電着工程において、導電性多孔質基材である銅フォームをアノードとして使用して、電着処理を行う。銅フォームは前述のように銅ナノワイヤが形成されていてもよい。
【0046】
電着処理では、各種の電着法を採用することができる。電着法としては、定電流法(GM)、定電圧法(PM)、サイクリックボルタンメトリー法(CV)、パルス電着処理法などの電着処理方法などが挙げられる。パルス電着処理法は、金属イオンの電着速度を制御できる電着処理法であり、例えば、高端電圧と低端電圧とを一定周期で印加するパルス電圧法(PPM)、高端電流と低端電流とを一定周期で印加するパルス電流法(PGM)、高端電圧の印加と開回路状態とを一定周期で繰り返し行う単極性パルス電圧法(UPED)などが挙げられる。
【0047】
電着法は、パルス電着処理法が好ましく、中でも単極性パルス電圧法(UPED)がより好ましい。
【0048】
電着処理における電着法として、単極性パルス電圧法(UPED)を採用する場合、単極性パルス電圧法の条件としては特に制限されない。例えば、印加電圧として-0.6~1.8V、定電流は0~15mA、パルスのオン/オフ時間は0.5~1秒、サイクル回数は100~1000の条件を採用することができ、より具体的な例としては、印加電圧が-1V、定電流は10mA、オン/オフ時間が1sの条件にて単極性パルス電圧法を行うことができる。
【0049】
電着処理を行う際の水溶液の温度は特に制限されず、例えば0~50℃程度、好ましくは20~30℃とすることができる。
【0050】
電着工程において、電着処理は、カソードの他、アノード、参照電極、電解装置、電源、制御ソフトウェア等を使用することができる。これらの種類は、特に制限されず、目的に応じて公知のものを使用することができる。例えば、参照電極としては、銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)、水銀/塩化水銀電極(Hg/HgCl2電極)、標準水素電極などを使用することができる。
【0051】
電着処理で使用するアノードとしては、例えば、公知の不溶性電極を使用することができる。アノードとしては、例えば、炭素、白金族金属、金などを素材とする電極を用いることができる。白金族金属としては、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、及びイリジウムが挙げられ、中でも白金が好ましい。アノードに含まれる白金族金属は、上記した金属種を1種単独で又は2種以上含んでいてもよい。また、白金族金属は、合金、金属酸化物等の状態で含まれていてもよい。
【0052】
アノードの形状は特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。形状としては、例えば、金属線、シート状、板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。具体的には、螺旋状白金線、白金板などを例示することができる。
【0053】
電着処理において、水溶液のpHは特に制限されず、例えば6未満、好ましくは2~5程度、より好ましくは3~4程度である。
【0054】
電着工程における電着処理によって、銅フォーム上に金属Mの水酸化物が形成される。金属Mが異なる2種以上の金属化合物を使用した場合は、銅フォーム上に2種以上の金属Mを含有する複水酸化物が形成される。
【0055】
電着処理の後、水酸化物又は複水酸化物が形成された銅フォームを焼成処理することができる。これにより、導電性多孔質基材上の水酸化物又は複水酸化物が焼成され、酸化物に変化する。導電性多孔質基材上の複水酸化物が形成されていた場合は、焼成によって、複合酸化物へと変化し得る。
【0056】
つまり、本発明の製造方法では、電着工程の後、電着工程で電着処理された銅フォームを焼成処理する工程を含むことができる。以下、この工程を焼成工程と略記する。
【0057】
焼成工程において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、100℃以上とすることができ、150~450℃とすることが好ましく、200~400℃とすることがより好ましい。焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程1において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、所望の酸化物が形成される程度に適宜設定することができる。
【0058】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0059】
焼成処理を行う前に必要に応じて、電着工程で電着処理された銅フォームを、空気中又は真空中で50℃~150℃で乾燥処理を行うこともできる。
【0060】
上記焼成処理によって、銅フォーム上の金属の水酸化物又は複水酸化物が酸化物又は複合酸化物へと変化し、銅フォームが金属の酸化物又は複合酸化物で被覆される。特に、銅フォームに銅ナノワイヤが形成されている場合は、焼成処理で生成された酸化物又は複合酸化物が銅ナノワイヤを被覆するように形成される。
【0061】
本発明の製造方法では、電着工程を備えることで、従来の化学合成法に比べて合成時間を短縮することができる。従来の化学合成法では、反応時間が長い上に反応温度も高くする必要があり、また、反応後は洗浄が必要であったのに対して、電着工程を備える本発明の製造方法では、反応時間が短く、反応後の洗浄等も必ずしも必要でない。
【0062】
また、本発明の製造方法では、従来の化学合成法で必要であった合成後の造粒工程も不要になるので、これによっても全体の製造時間が従来よりも短縮され、得られた生成物をそのままVOC除去用触媒として使用することができる。
【0063】
さらに、本発明の製造方法では、電着工程を備えることで、金属酸化物又は金属の複合酸化物は担体(銅フォーム)上に均一に分布しやすく、特に、金属MがNi、Cu、Coのような易電着性の金属を含む場合は、難電着性の金属をあわせて電着させることができ、例えば、Mn及びCoを含む複合酸化物の形成も容易になる。
【0064】
その上、本発明の製造方法では、担体である導電性多孔質基材として銅フォームを使用することで、例えば、公知のニッケルフォーム等のような基材を使用した場合に比べて、VOCをより低温で除去することが可能となる。これにより、従来の化学合成法で得られた触媒よりも少ない使用量で、VOCを効率的に除去することができる。
【0065】
2.VOC除去用触媒
本発明のVOC除去用触媒は、導電性多孔質基材に金属酸化物が被覆されて形成される。特に本発明のVOC除去用触媒は、前記導電性多孔質基材が銅フォームである。本発明のVOC除去用触媒は、例えば、前述の本発明のVOC除去用触媒の製造方法によって得ることができる。
【0066】
VOC除去用触媒において、銅フォームの種類は、本発明の製造方法で使用する銅フォームの種類と同様である。従って、銅フォームには、銅ナノワイヤが形成されていてもよい。
【0067】
銅フォーム上に形成される金属酸化物は、前記金属Mの酸化物である。念のための注記に過ぎないが、金属酸化物は、金属Mを2種以上含む複合金属酸化物であってもよい。
【0068】
VOC除去用触媒において、金属酸化物は、Ni、Cu、Co、Mo、W、Ti、Cr、Al、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物又は複合酸化物であることが好ましい。この場合、VOC除去用触媒は、VOCの除去性能が向上しやすい。
【0069】
中でも、Ni、Cu、Coは電着しやすい金属であるので、金属酸化物に含まれる金属Mは、Ni、Cu及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合において、金属Mはさらに、難電着性とされているMo、W、Ti、Cr、Al、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。金属Mが易電着性であるNi、Cu、Co等を含むことで、触媒の製造方法として電着法を採用した場合に、難電着性の金属をも電着させることが可能になり、各金属が均一に分散したVOC除去用触媒を得ることができる。
【0070】
金属酸化物は、Co及びMnの両方を含む複合金属酸化物であることが特に好ましく、この場合、得られるVOC除去用触媒は、より低温でのVOC除去が可能となる。
【0071】
銅フォーム上に形成される金属酸化物(複合金属酸化物も含む)の形状は特に限定されない。例えば、金属酸化物は、ナノワイヤ状、ナノロッド状、花びら形状の粒子、球状粒子、多孔質状の粒子等のいずれかの形状に形成され、VOC除去性能が特に優れるという点で、ナノワイヤ状、ナノロッド状であることが好ましい。
【0072】
本発明のVOC除去用触媒は、上記構造を有することで、低温でVOCを処理してもVOCの除去効率に優れ、特に、本発明の製造方法でVOC除去用触媒を得た場合は、除去効率がさらに高まる。
【0073】
さらに、本発明のVOC除去用触媒は、金属酸化物又は金属の複合酸化物が担体(銅フォーム)上に均一に分布しやすいことから、従来の化学合成法で得られた触媒よりも少ない使用量で、VOCを効率的に除去することができる。特に、本発明の製造方法でVOC除去用触媒を得た場合は、より均一に担体上に金属酸化物又は金属の複合酸化物が分布しやすくなり、VOC除去効率がより一層高まる。
【0074】
3.VOC除去方法
本発明のVOC除去方法は、前記本発明の製造方法で得られたVOC除去用触媒を用いてVOCを除去する工程を備える。あるいは、本発明のVOC除去方法は、前記本発明のVOC除去用触媒を用いてVOCを除去する工程を備える。
【0075】
例えば、本発明のVOC除去用触媒を容器内に収容し、該容器にトルエン等のVOCを導入し、所定の温度で処理することで、VOCを燃焼する。これにより、VOCを除去することができる。必要に応じて、容器内には窒素及び酸素の一方又は両方を流入させることができ、窒素及び酸素の一方又は両方の存在下でVOCを燃焼させることができる。容器の種類は特に限定されず、例えば、VOCの触媒燃焼で使用される公知の容器を広く使用することができる。
【0076】
容器内でのVOCの処理温度は特に限定されず、公知のVOCの除去のために設定される処理温度と同様とすることができる。特に本発明では、上記VOC除去用触媒を使用することで、低温であってもVOC除去効率に優れることから、例えば、350℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは280℃以下でVOCを処理することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
濃度が3MであるKOH溶液40mL中に、Cuフォーム(1.5cm×1.5cm)を浸漬し、40mAの印加電流及び1200秒の持続時間で定電流法を用いて電気酸化処理(電解酸化)を行った(
図1参照)。この電気酸化処理では、対電極として白金糸、作用電極としてCuフォーム、参照電極として銀/塩化銀電極(Ag/AgCl電極)を使用した。電解酸化後、Cuフォームを蒸留水で洗浄した。これにより、表面にナノワイヤが形成されたCuフォーム(以下、「CuフォームA」と表記する)を準備した。
一方、0.28704gのMn(NO
3)
2・3H
2Oと、0.29103gのCo(NO
3)
2・6H
2Oとを同時に100mLの蒸留水に溶解し、透明になるまで撹拌することで、Mnの濃度が0.01mol/L、Coの濃度が0.01mol/Lである水溶液を調製した。この水溶液中のMn:Coの比は1:1であった。この水溶液に、CuフォームAを
カソードとして浸漬し、単極性パルス電圧法により電着処理を行った。単極性パルス電圧法は、印加電圧を-1V、パルスのオン/オフ時間を1秒に設定し、サイクル数1000回で行った。また、
アノード(対電極)として白金電極、参照電極としてAg/AgClを使用した。この電着処理により、CuフォームA上にCoとMnの複水酸化物を形成させた。このように電着処理されたCuフォームAを80℃の雰囲気下で一晩、真空乾燥処理をし、その後、該導電性多孔質基材を空気中、350℃の雰囲気下で2時間にわたって焼成処理した。この焼成処理では、昇温速度を5℃/分とした。この焼成処理により、Co及びNiの複合物で被覆された導電性多孔質基材をVOC除去用触媒として得た。このVOC除去用触媒を「0.01Mn-0.01Co/Cu foam」と命名した。
【0079】
(実施例2)
Mn(NO3)2・3H2Oの使用量を1.4352gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去用触媒として得た。このVOC除去用触媒を「0.05Mn-0.01Co/Cu foam」と命名した。
【0080】
(実施例3)
Mn(NO3)2・3H2Oの使用量を2.8704gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去用触媒として得た。このVOC除去用触媒を「0.10Mn-0.01Co/Cu foam」と命名した。
【0081】
(比較例1)
CuフォームAの代わりにニッケルフォーム(1.5cm×1.5cm)を使用したこと以外は実施例1と同様の方法でVOC除去用触媒として得た。このVOC除去用触媒を「0.10Mn-0.01Co/nickel foam」と命名した。
【0082】
<評価方法>
(SEM測定)
SEM(走査型電子顕微鏡)画像の観察は、日立ハイテクノロジーズ社製「走査電子顕微鏡SU8010」を使用して行った。
【0083】
(元素分析)
VOC除去用触媒の元素分析は、HORIBA社製の「エネルギー分散型X線分析装置」を使用して行った。
【0084】
(VOC除去試験)
各実施例及び比較例で得たVOC除去用触媒のトルエン除去試験を行った。この試験では、反応器内にVOC除去用触媒を石英ウールで挟み込むように充填し、そこへトルエンを所定の流速で流入させて反応させることで、トルエンを除去するようにした。反応器と、酸素ボンベ及び窒素ボンベとが連結しており、反応器内に酸素及び窒素を流入できるようにした。トルエン除去試験の条件として、内径8mmのガラス反応器を使用し、そこへVOC除去用触媒の充填量を100mg充填し、反応器内のトルエン濃度を913~1027体積ppmとなるようにした。また、反応器内へのキャリアー用窒素ガス流量を35mL/min、トルエン導入用窒素ガス流量を5mL/min、酸素ガス流量を10mL/minとした。反応器内での反応温度を150~350℃の範囲の種々の温度に調節して、トルエン除去特性を評価した。この際、100~350℃においては、10℃温度が変わるごとに2度サンプリングし、210~270℃においては、5℃温度が変わるごとに2度サンプリングし、270~300℃においては、10℃温度が変わるごとに2度サンプリングした。VOC濃度の測定は、島津製作所社製「GC-2014ガスクロマトグラフ」を使用した。また、反応器出口から排出される二酸化炭素濃度をHORIBA社製FT-IRガス分析装置「FG-120」を使用して計測した。
【0085】
(評価結果)
図2は、実施例及び比較例で得られたVOC除去用触媒のSEM画像を示している。
図2(a)は比較例1、(b)~(d)はそれぞれ実施例1~3のVOC除去用触媒のSEM画像である。また、
図2の各SEM画像中には一部拡大画像(破線内)を挿入している。
【0086】
図2から、比較例1のVOC除去用触媒では、ニッケルフォーム触媒担体上にMn-Co種が一部凝集していた。一方、実施例1~3のVOC除去用触媒は、Mn-Co種がCuフォームのナノワイヤ上に均一に形成されていることを確認した。
【0087】
表1には、実施例及び比較例で得られたVOC除去用触媒のEDSによる元素分析結果を示している。
【0088】
【0089】
表1から、実施例で得られたVOC除去用触媒は、銅フォーム上にMn及びCoを含む複合酸化物が形成されていることがわかった。Mn及びCoの組成は、触媒担体(フォーム)及び製造時に使用する水溶液の初期溶液濃度によって影響することもわかった。特に、ニッケルフォームを使用した場合、Mnの電着量は少なかった。
【0090】
図3には、実施例1~7で得られたVOC除去用触媒によるVOC除去試験の結果を示している。
図3は、温度(X軸)とトルエン除去率(Y軸)との関係を示すプロットである。
【0091】
表2には、実施例及び比較例で得られたVOC除去用触媒によるVOC除去試験の結果を示している。
【0092】
図3及び表2の結果から、VOC除去用触媒はいずれも、代表的なVOC物質の一種であるトルエンの触媒燃焼の触媒として使用することで、トルエンを除去できることがわかった。実施例1~3の中では、製造時に使用する水溶液中のMn:Co比が10:1(0.10:0.01)のときに最適な触媒性能が得られた。また、実施例1~3のように銅フォームを備えるVOC除去用触媒を使用した場合のトルエンの完全燃焼温度は、ニッケルフォームを備えるVOC除去用触媒を使用した場合のトルエンの完全燃焼温度よりも低かった。また、表2に示すように、いずれのVOC除去用触媒を使用した場合も、トルエン導入量と誤差範囲内で対応する量のCO
2の生成が観測されたことから、トルエンは全てCO
2へと変換され、CO等は副生しないことがわかった。
【0093】
以上より、Co及びMnの複合酸化物からなるVOC除去用触媒は、いわゆる合金化効果によって、相乗的にVOC除去性能が高まったものと思われる。ここでいう合金化効果とは、合金化することにより単一金属の場合とは異なる幾何学的効果(アンサンブル効果)や電子的効果(リガンド効果)を触媒機能(活性,選択性,安定性など)に与えること意味する。
【0094】
Co及びMnの複合酸化物が優れたVOC除去性能を示す以上、他の金属の組み合わせによる複合酸化物も同様の性能を示すものと推察される。中でも、Ni、Cu、Co、Mo、W、Ti、Cr、Al、Fe、Mn、V、Zn、Mg及びLaからなる群より選ばれる少なくとも2種の金属を含む複合金属酸化物は、実施例の金属酸化物触媒と同様のVOC除去効果を示すといえる。特に、Co及びMnの複合酸化物が優れたVOC除去効果を示すことから、酸素の活性化能力に優れたMn,Mo,W及びVのいずれか1種と、炭化水素の活性化能力をもつFe,Co,Ni及びCuのいずれか1種とを組み合わせた複合酸化物は、いずれも優れたVOC除去効果を示すと推察される。
【0095】