(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】光子検出装置
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20230907BHJP
G01J 1/44 20060101ALI20230907BHJP
G01J 11/00 20060101ALI20230907BHJP
H10N 60/10 20230101ALI20230907BHJP
H10N 60/12 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
G01J1/02 R
G01J1/44 P
G01J1/44 L
G01J11/00
H10N60/10 K
H10N60/12 D
H10N60/12 C
(21)【出願番号】P 2021503991
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007558
(87)【国際公開番号】W WO2020179554
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019037650
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019090365
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「極限的エネルギー効率を有する超伝導可逆計算機の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】竹内 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】三木 茂人
(72)【発明者】
【氏名】寺井 弘高
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-74026(JP,A)
【文献】特開2017-142146(JP,A)
【文献】特開2018-194518(JP,A)
【文献】特開平9-80138(JP,A)
【文献】特開2013-156238(JP,A)
【文献】特開2013-19777(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109813428(CN,A)
【文献】特開2009-232311(JP,A)
【文献】米国特許第9443576(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/00 - G01J 1/60
G01J 11/00
H10N 60/00 - H10N 60/12
H10N 60/35
H10N 60/82 - H10N 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路に接続され、前記検出電流に基づいて、当該検出電流を出力した超伝導光子検出素子を特定するアドレス情報信号を生成するアドレス情報生成回路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された第2伝送経路と、
前記第2伝送経路に接続され、前記検出電流に基づいて、前記複数の超伝導光子検出素子へ光子が入射した時間を示す時間情報信号を生成する時間情報生成回路と、を備えた、
光子検出装置。
【請求項2】
前記第2伝送経路は、複数の直流SQUID素子を備え、
前記第2伝送経路は、前記複数の直流SQUID素子を介して、前記複数の第1伝送経路と磁気結合されている、
請求項1に記載の光子検出装置。
【請求項3】
前記複数の直流SQUID素子のそれぞれは、一対のジョセフソン接合の間にインダクタを有し、
前記複数の第1伝送経路には、それぞれインダクタが設けられており、
前記直流SQUID素子のインダクタと、前記第1伝送経路のインダクタとが磁気結合されている、
請求項2に記載の光子検出装置。
【請求項4】
前記アドレス情報生成回路は、前記複数の第1伝送経路のそれぞれに接続された複数のアナログ/デジタル変換器を備え、
前記アナログ/デジタル変換器が備える論理回路が、交流電流駆動型の超伝導論理回路のみから構成されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項5】
前記交流電流駆動型の超伝導論理回路が、AQFP回路である、
請求項4に記載の光子検出装置。
【請求項6】
前記時間情報生成回路が備える論理回路が、直流電流駆動型の超伝導論理回路のみから構成されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項7】
前記直流電流駆動型の超伝導論理回路が、RSFQ回路である、
請求項6に記載の光子検出装置。
【請求項8】
前記超伝導光子検出素子が、SSPD素子である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項9】
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された第2伝送経路と、
前記第2伝送経路上において、隣接する前記第1伝送経路の間にそれぞれ設けられた複数の遅延回路と、を備え、
前記検出電流に応じて、前記第2伝送経路の一端から第1のパルス信号が出力されると共に、前記第2伝送経路の他端から第2のパルス信号が出力され、
前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の差に基づいて、前記検出電流を出力した超伝導光子検出素子が特定可能であると共に、前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の和に基づいて、前記検出電流の発生時刻が特定可能である、
光子検出装置。
【請求項10】
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された一対の第2伝送経路と、
前記一対の第2伝送経路のそれぞれにおいて、隣接する前記第1伝送経路の間にそれぞれ設けられた複数の遅延回路と、を備え、
前記検出電流に応じて、前記一対の第2伝送経路のそれぞれの一端から第1のパルス信号と第2のパルス信号とが出力され、
前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の差に基づいて、前記検出電流を出力した超伝導光子検出素子が特定可能であると共に、前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の和に基づいて、前記検出電流の発生時刻が特定可能である、
光子検出装置。
【請求項11】
前記複数の第1伝送経路のそれぞれは、前記第2伝送経路に設けられた少なくとも1つの直流SQUID素子を介して、前記第2伝送経路と磁気結合されている、
請求項9又は10に記載の光子検出装置。
【請求項12】
前記複数の第1伝送経路のそれぞれは、前記第2伝送経路に設けられた複数の直流SQUID素子を介して、前記第2伝送経路と磁気結合されている、
請求項9又は10に記載の光子検出装置。
【請求項13】
前記複数の直流SQUID素子同士が、インダクタを介して直列に接続されている、
請求項12に記載の光子検出装置。
【請求項14】
前記直流SQUID素子は、一対のジョセフソン接合の間にインダクタを有し、
前記複数の第1伝送経路のそれぞれには、インダクタが設けられており、
前記直流SQUID素子のインダクタと、前記第1伝送経路のインダクタとが磁気結合されている、
請求項11~13のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項15】
前記超伝導光子検出素子が、SSPD素子である、
請求項9~14のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は光子検出装置に関し、特に超伝導光子検出素子を複数備えた光子検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導ナノワイヤ単一光子検出素子(SSPD:Superconducting nanowire Single Photon Detector)、超伝導転移端型単一光子検出素子(TES:Transition Edge Sensor)等の超伝導光子検出素子が注目されている。このような超伝導光子検出素子は、例えば、アバランシェ・フォトダイオードなどの半導体光子検出素子に比べ、高い検出効率、高い時間分解能、低い暗計数率等の優れた性能を備えている。そのため、量子情報通信、衛生光通信、LIDAR(Light Detection And Ranging)、蛍光イメージング等の様々な分野への利用が期待されている。
【0003】
近年、複数の超伝導光子検出素子(例えばSSPD素子)をマトリクス状に配置した光子検出装置が検討されている。ここで、超伝導光子検出素子は、数K程度の極低温で動作するため、冷凍機内に格納されている。超伝導光子検出素子の個数が増えると、各超伝導光子検出素子からの検出信号を伝送する伝送経路(信号線)の本数も増える。そして、冷凍機外に引き出す伝送経路の本数が増えると、熱伝導によって冷凍機内の温度が上昇してしまうという問題があった。
このような問題に対し、特許文献1では、SFQ(Single-Flux-Quantum)回路などの超伝導論理回路からなる信号処理回路を冷凍機内に設け、冷凍機外に引き出す伝送経路の本数を抑制している。
【0004】
さらに、特許文献2では、SSPD素子が有する低ジッタ特性の劣化を防ぐため、信号処理回路を時間情報生成回路とアドレス情報生成回路とに分割している。具体的には、複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続された伝送経路を2つに分岐させ、一方に時間情報生成回路を接続し、他方にアドレス情報生成回路を接続している。時間情報生成回路は、複数の超伝導光子検出素子へ光子が入射した時間を示す時間情報信号を生成し、アドレス情報生成回路は、光子を検出した超伝導光子検出素子を特定するアドレス情報信号を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-232311号公報
【文献】特開2017-142146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2では、上述の通り、超伝導光子検出素子に接続された伝送経路のそれぞれを2つに分岐させている。そのため、アドレス情報生成回路に入力される伝送経路と同じ本数の伝送経路が時間情報生成回路にも入力されている。その結果、時間情報生成回路の回路規模が大きく、消費電力も大きいという問題があった。
【0007】
また、上述の通り、特許文献1、2に開示された光子検出装置は、超伝導論理回路からなる信号処理回路を備えている。そのため、回路規模が大きく、消費電力も大きいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、より回路規模が小さく、低消費電力な光子検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る光子検出装置は、
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路に接続され、前記検出電流に基づいて、当該検出電流を出力した超伝導光子検出素子を特定するアドレス情報信号を生成するアドレス情報生成回路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された第2伝送経路と、
前記第2伝送経路に接続され、前記検出電流に基づいて、前記複数の超伝導光子検出素子へ光子が入射した時間を示す時間情報信号を生成する時間情報生成回路と、を備える。
【0010】
前記第2伝送経路は、複数の直流SQUID素子を備え、前記第2伝送経路は、前記複数の直流SQUID素子を介して、前記複数の第1伝送経路と磁気結合されていてもよい。ここで、前記複数の直流SQUID素子のそれぞれは、一対のジョセフソン接合の間にインダクタを有し、前記複数の第1伝送経路には、それぞれインダクタが設けられており、前記直流SQUID素子のインダクタと、前記第1伝送経路のインダクタとが磁気結合されていてもよい。
【0011】
前記時間情報生成回路が備える論理回路が、直流電流駆動型の超伝導論理回路のみから構成されていてもよい。ここで、前記直流電流駆動型の超伝導論理回路が、RSFQ回路であってもよい。
【0012】
前記アドレス情報生成回路は、前記複数の第1伝送経路のそれぞれに接続された複数のアナログ/デジタル変換器を備え、前記アナログ/デジタル変換器が備える論理回路が、交流電流駆動型の超伝導論理回路のみから構成されていてもよい。ここで、前記交流電流駆動型の超伝導論理回路が、AQFP回路であってもよい。
また、前記超伝導光子検出素子が、SSPD素子であってもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る光子検出装置は、
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された第2伝送経路と、
前記第2伝送経路上において、隣接する前記第1伝送経路の間にそれぞれ設けられた複数の遅延回路と、を備え、
前記検出電流に応じて、前記第2伝送経路の一端から第1のパルス信号が出力されると共に、前記第2伝送経路の他端から第2のパルス信号が出力され、
前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の差に基づいて、前記検出電流を出力した超伝導光子検出素子が特定可能であると共に、前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の和に基づいて、前記検出電流の発生時刻が特定可能である。
【0014】
本発明の一態様に係る光子検出装置は、
複数の超伝導光子検出素子が配置された超伝導光子検出素子アレイと、
前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれに接続され、前記複数の超伝導光子検出素子のそれぞれから出力された検出電流を伝送する複数の第1伝送経路と、
前記複数の第1伝送経路の全てと磁気結合された一対の第2伝送経路と、
前記一対の第2伝送経路のそれぞれにおいて、隣接する前記第1伝送経路の間にそれぞれ設けられた複数の遅延回路と、を備え、
前記検出電流に応じて、前記一対の第2伝送経路のそれぞれの一端から第1のパルス信号と第2のパルス信号とが出力され、
前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の差に基づいて、前記検出電流を出力した超伝導光子検出素子が特定可能であると共に、前記第1及び第2のパルス信号の出力時刻の和に基づいて、前記検出電流の発生時刻が特定可能である。
【0015】
前記複数の第1伝送経路のそれぞれは、前記第2伝送経路に設けられた少なくとも1つの直流SQUID素子を介して、前記第2伝送経路と磁気結合されていてもよい。ここで、前記複数の第1伝送経路のそれぞれは、前記第2伝送経路に設けられた複数の直流SQUID素子を介して、前記第2伝送経路と磁気結合されていてもよい。ここで、前記複数の直流SQUID素子同士が、インダクタを介して直列に接続されていてもよい。
【0016】
前記複数の直流SQUID素子のそれぞれは、一対のジョセフソン接合の間にインダクタを有し、前記複数の第1伝送経路には、それぞれインダクタが設けられており、前記直流SQUID素子のインダクタと、前記第1伝送経路のインダクタとが磁気結合されていてもよい。
また、前記超伝導光子検出素子が、SSPD素子であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、より回路規模が小さく、低消費電力な光子検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係る光子検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る光子検出装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】第2の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図6】CMP1の動作を示すタイミングチャートである。
【
図7】バッファ回路BUFを構成する交流電流駆動型の超伝導論理回路の一例である。
【
図8】バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路REDの構成を示す回路図である。
【
図9】バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路REDの動作を示すタイミングチャートである。
【
図10】パラレル/シリアル変換器PSCの構成を示す回路図である。
【
図11】パラレル/シリアル変換器PSCの動作を示すタイミングチャートである。
【
図12】電圧ドライバVD1の構成を示す回路図である。
【
図13】電圧ドライバVD1の動作を示すタイミングチャートである。
【
図14】DC/SFQ変換器DSCの構成を示す回路図である。
【
図15】DC/SFQ変換器DSCの動作を示すタイミングチャートである。
【
図16】第3の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図17】第4の実施形態に係る光子検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図18】第4の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図19】第5の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図20】第5の実施形態に係る光子検出装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図21】第6の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図22】第7の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図23】第8の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【
図24】第9の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0020】
(第1の実施形態)
<光子検出装置の構成>
まず、
図1を参照して、第1の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る光子検出装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る光子検出装置は、SSPDアレイ10、アドレス情報生成回路20、時間情報生成回路30、n(nは2以上の自然数)本の第1伝送経路TL11~TL1n、1本の第2伝送経路TL2を備えている。また、
図1に示すように、第1の実施形態に係る光子検出装置は冷凍機に格納されている。
【0021】
SSPDアレイ10は、例えばマトリクス状に配置された複数のSSPD素子を備えている。各SSPD素子は、メアンダ状の超伝導ナノワイヤを有している。超伝導ナノワイヤに1つの光子が入射すると、その部位が一時的に超伝導状態から常伝導状態に移行し、SSPD素子からパルス状の検出電流が出力される。
なお、SSPD素子に限らず、TES素子やその他の超伝導光子検出素子を用いてもよい。
【0022】
図1の例では、複数のSSPD素子は、それぞれ第1伝送経路TL11~TL1nに接続されている。
図1には、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状のアナログ検出電流Ia2が出力された様子が示されている。光子検出装置がイメージセンサであれば、1つのSSPD素子が1画素(ピクセル)に該当する。
なお、SSPDアレイ10を構成する複数のSSPD素子は、それぞれ第1伝送経路に接続されているが、1対1で接続されている必要はない。
【0023】
アドレス情報生成回路20は、第1伝送経路TL11~TL1nに接続されている。ここで、第1伝送経路TL11~TL1nのそれぞれは、複数のSSPD素子に接続されている。すなわち、アドレス情報生成回路20は、SSPD素子から出力されたアナログ検出電流Ia1~Ianに基づいて、光子が入射したSSPD素子を特定するアドレス情報信号を生成する。
【0024】
時間情報生成回路30は、第2伝送経路TL2に接続されている。ここで、第2伝送経路TL2は、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと磁気結合素子MC1~MCnを介して磁気結合されている。すなわち、時間情報生成回路30は、SSPD素子から出力されたアナログ検出電流Ia1~Ianに基づいて、複数のSSPD素子のいずれかに光子が入射した時間を示す時間情報信号を生成する。
【0025】
例えば、
図1に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状のアナログ検出電流Ia2が出力されると、磁気結合素子MC2を介して、第2伝送経路TL2に一時的に電流が流れ、時間情報生成回路30に入力される。
【0026】
<効果の説明>
上述の通り、特許文献2では、超伝導光子検出素子に接続された伝送経路のそれぞれを2つに分岐させている。そのため、アドレス情報生成回路に入力される伝送経路と同じ本数の伝送経路が時間情報生成回路にも入力されている。その結果、時間情報生成回路の回路規模が大きく、消費電力も大きいという問題があった。
【0027】
これに対し、本実施形態に係る光子検出装置では、1本の第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと磁気結合素子MC1~MCnを介して磁気結合されている。すなわち、超伝導光子検出素子(SSPD素子)に接続された伝送経路を2つに分岐させていない。そのため、1本の第2伝送経路TL2のみが時間情報生成回路30に入力される。その結果、特許文献2に比べ、時間情報生成回路30の回路規模及び消費電力を大幅に削減することができる。
なお、第2伝送経路TL2の本数は、1本に限定されず、第1伝送経路TL11~TL1nよりも少ない本数であればよい。
【0028】
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図2を参照して、第1の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成について説明する。
図2は、
図1に示した第1の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図2では、簡易な例として、SSPDアレイ10を構成するn個のSSPD素子が1列に並べて設けられており、n本の第1伝送経路TL11~TL1nに1対1で接続されている。
以下に、アドレス情報生成回路20、第2伝送経路TL2、時間情報生成回路30の詳細について説明する。以下の説明ではn=4の場合について説明する。
【0029】
<アドレス情報生成回路20の構成>
アドレス情報生成回路20は、
図2に示すように、n個のアナログ/デジタル変換器ADC1~ADCn、ORゲートOR、バイナリエンコーダBE、パラレル/シリアル変換器PSC、電圧ドライバVD1を備えている。
なお、アナログ/デジタル変換器ADC1~ADCn、バイナリエンコーダBE、パラレル/シリアル変換器PSC、電圧ドライバVD1の詳細な回路構成については、第2の実施形態において説明する。
【0030】
n個のアナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnのそれぞれは、n本の第1伝送経路TL11~TL1nに1対1で接続されている。アナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnは、それぞれ第1伝送経路TL11~TL1nを介して入力されたアナログ検出電流Ia1~Ianをデジタル電流信号Id1~Idnに変換する。
図2には、アナログ/デジタル変換器ADC2によって、アナログ検出電流Ia2がデジタル電流信号Id2に変換出力された様子が示されている。
なお、アナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnの出力信号は、デジタル電流信号に限定されず、デジタル電圧信号であってもよい。
【0031】
バイナリエンコーダBEは、アナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnから出力されたデジタル電流信号Id1~Idnをエンコードする。バイナリエンコーダBEの出力にはm本の伝送経路が設けられており、各伝送経路からデジタル電流信号Ibe1~Ibemが出力される。ここで、m=log2nであって、n=4の場合、m=2である。
なお、バイナリエンコーダBEの出力信号もデジタル電流信号に限定されず、デジタル電圧信号であってもよい。
【0032】
バイナリエンコーダBEを設けることによって、信号数が減るため、後段のパラレル/シリアル変換器PSCの回路規模を縮小することができる。また、後述するパラレル/シリアル変換器PSCによってシリアル信号に変換された後に最終的に出力されるアドレス情報信号Vaddのビット列が短くなるため、高速化に有利である。さらに、例えばパラレル/シリアル変換器PSCを設けない場合に、冷凍機外に取り出すパラレル信号線の本数を少なくすることができる。
【0033】
ORゲートORは、いずれかのSSPD素子において光子が検出されたことを示すフラグ信号Iflgを生成する。そのため、ORゲートORには、アナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnから出力された全てのデジタル電流信号Id1~Idnが入力される。フラグ信号Iflgもデジタル電流信号である。
なお、ORゲートORの出力信号もデジタル電流信号に限定されず、デジタル電圧信号であってもよい。
【0034】
パラレル/シリアル変換器PSCは、入力されたm個のデジタル電流信号Ibe1~Ibemとフラグ信号Iflgからなるパラレル信号をシリアル信号に変換する。そのため、パラレル/シリアル変換器PSCの出力には1本の伝送経路が設けられており、当該伝送経路からデジタル電圧信号Vpscが出力される。
なお、パラレル/シリアル変換器PSCの出力信号もデジタル電圧信号に限定されず、デジタル電流信号であってもよい。
【0035】
電圧ドライバVD1は、デジタル電圧信号Vpscを増幅し、アドレス情報信号Vaddを出力する。アドレス情報信号Vaddは、アドレス情報生成回路20の出力信号であって、冷凍機外に取り出される。
なお、アドレス情報信号を電流信号としてもよい。また、電圧ドライバVD1に代えて、電流ドライバを設けてもよい。
【0036】
<第2伝送経路TL2の構成>
時間情報生成回路30の詳細について説明する前に、第2伝送経路TL2の詳細について詳細に説明する。
図2に示すように、第2伝送経路TL2には、n個の直流SQUID素子SQ1~SQnが直列に接続されている。SQUID素子SQ1~SQnは
図1に示した磁気結合素子MC1~MCnの一態様である。SQUID素子SQ1の一端は、電流源CSと共に時間情報生成回路30に接続されている。SQUID素子SQ1の他端は、SQUID素子SQ2の一端に接続されている。同様に、他のSQUID素子も接続され、最後のSQUID素子SQnの一端は接地されている。
【0037】
図2に示すように、SQUID素子SQ1~SQnのそれぞれには、一対のジョセフソン接合間にインダクタが設けられている。このSQUID素子SQ1~SQnのそれぞれに設けられたインダクタと、第1伝送経路TL11~TL1nのそれぞれに設けられたインダクタとが、対向配置されて磁気結合している。すなわち、第2伝送経路TL2は、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てとSQUID素子SQ1~SQnを介して磁気結合されている。
【0038】
ここで、SQUID素子SQ1~SQnには、電流源CSからバイアス電流Ibが供給されている。通常、SQUID素子SQ1~SQnは超伝導状態であるため、電流源CSから供給されたバイアス電流Ibは、全量SQUID素子SQ1~SQnを流れ、抵抗素子Rが設けられた時間情報生成回路30には流れない。
【0039】
他方、
図2に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状のアナログ検出電流Ia2が出力されると、第1伝送経路TL12と磁気結合したSQUID素子SQ2に一時的に電位差が発生する。それに伴い、一時的に時間情報生成回路30にバイアス電流Ibが流れるため、アナログ電流信号Isqが発生する。
【0040】
このように、第2伝送経路TL2に直列接続されたn個のSQUID素子SQ1~SQnは、入力されたn個のアナログ検出電流Ia1~Ianからなるパラレル信号をシリアル信号(アナログ電流信号Isq)に変換するパラレル/シリアル変換器としての機能も有している。
【0041】
<時間情報生成回路30の構成>
時間情報生成回路30は、
図2に示すように、抵抗素子R、アナログ/デジタル変換器ADC、電圧ドライバVD2を備えている。
なお、アナログ/デジタル変換器ADC、電圧ドライバVD2の詳細な回路構成については、第2の実施形態において説明する。
【0042】
アナログ/デジタル変換器ADCは、アナログ電流信号Isqをデジタル電圧信号Vdに変換する。
なお、アナログ/デジタル変換器ADCの出力信号は、デジタル電圧信号に限定されず、デジタル電流信号であってもよい。
【0043】
電圧ドライバVD2は、電圧ドライバVD1と同様に、デジタル電圧信号Vdを増幅し、時間情報信号Vtmpを出力する。時間情報信号Vtmpは、時間情報生成回路30の出力信号であって、冷凍機外に取り出される。
なお、時間情報信号を電流信号としてもよい。また、電圧ドライバVD2に代えて、電流ドライバを設けてもよい。
【0044】
<光子検出装置の動作>
次に、
図3を参照して、第1の実施形態に係る光子検出装置の動作について説明する。
図3は、第1の実施形態に係る光子検出装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。上述の通り、n=4の場合について示している。
【0045】
ここで、第1伝送経路TL11に接続されたSSPD素子にはアドレス「00」、第1伝送経路TL12に接続されたSSPD素子にはアドレス「01」、第1伝送経路TL13に接続されたSSPD素子にはアドレス「10」、第1伝送経路TL14に接続されたSSPD素子にはアドレス「11」が割り当てられている。
【0046】
図3の最上段に示すように、第1伝送経路TL11に接続されたSSPD素子からアナログ検出電流Ia1が出力されると、
図3の下から2段目及び最下段に示した時間情報信号Vtmp及びアドレス情報信号Vaddが出力される。この場合、アドレス情報信号Vaddとして、信号「100」が出力される。ここで、先頭の「1」は上述のフラグ信号Iflgに基づくフラグビットであるため、アドレスは「00」であることを示している。
【0047】
同様に、
図3の上から2段目に示すように、第1伝送経路TL12に接続されたSSPD素子からアナログ検出電流Ia2が出力されると、時間情報信号Vtmp及びアドレス情報信号Vaddが出力される。この場合、アドレス情報信号Vaddとして、アドレス「01」であることを示す信号「101」が出力される。
【0048】
同様に、
図3の上から3段目に示すように、第1伝送経路TL13に接続されたSSPD素子からアナログ検出電流Ia3が出力されると、時間情報信号Vtmp及びアドレス情報信号Vaddが出力される。この場合、アドレス情報信号Vaddとして、アドレス「10」であることを示す信号「110」が出力される。
【0049】
同様に、
図3の上から4段目に示すように、第1伝送経路TL14に接続されたSSPD素子からアナログ検出電流Ia4が出力されると、時間情報信号Vtmp及びアドレス情報信号Vaddが出力される。この場合、アドレス情報信号Vaddとして、アドレス「11」であることを示す信号「111」が出力される。
【0050】
<効果の説明>
上述の通り、特許文献2では、超伝導光子検出素子に接続された伝送経路のそれぞれを2つに分岐させている。そのため、アドレス情報生成回路に入力される伝送経路と同じ本数の伝送経路が時間情報生成回路にも入力されている。従って、時間情報生成回路の回路規模が大きく、消費電力も大きいという問題があった。
【0051】
これに対し、本実施形態に係る光子検出装置では、1本の第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと磁気結合素子MC1~MCnを介して磁気結合されている。すなわち、超伝導光子検出素子(SSPD素子)に接続された伝送経路を2つに分岐させていない。
【0052】
そのため、1本の第2伝送経路TL2のみが時間情報生成回路30に入力される。従って、時間情報生成回路30が備えるアナログ/デジタル変換器も1個のアナログ/デジタル変換器ADCのみとなる。その結果、特許文献2に比べ、時間情報生成回路30の回路規模及び消費電力を大幅に削減することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図4を参照して、第2の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図4は、第2の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図4に示すように、第2の実施形態に係る光子検出装置では、光子検出装置のアドレス情報生成回路20が、
図2に示したアナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnに代えて、コンパレータCMP1~CMPn及び立ち上がりエッジ検出回路REDを備えている。さらに、第2の実施形態に係る光子検出装置では、アドレス情報生成回路20が、立ち下がりエッジ検出回路FEDを備えている。また、時間情報生成回路30が、
図2に示したアナログ/デジタル変換器ADCに代えて、DC/SFQ変換器DSCを備えている。
【0054】
<アドレス情報生成回路20の詳細な構成>
以下にアドレス情報生成回路20が備えるコンパレータCMP1~CMPn、バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路RED、パラレル/シリアル変換器PSC、及び電圧ドライバVD1の詳細な構成について説明する。
【0055】
n個のコンパレータCMP1~CMPnのそれぞれは、n本の第1伝送経路TL11~TL1nに1対1で接続されている。例えば、コンパレータCMP1は、第1伝送経路TL11を介して入力されたアナログ検出電流Ia1をデジタル電流信号Id1に変換する。他のコンパレータCMP2~CMPnについても同様である。
図4には、コンパレータCMP2によって、アナログ検出電流Ia2がデジタル電流信号Id2に変換出力された様子が示されている。このように、コンパレータCMP1~CMPnは、アナログ/デジタル変換器の一態様である。
【0056】
ここで、
図5、
図6を参照して、コンパレータCMP1~CMPnの詳細な構成及び動作について説明する。
図5は、コンパレータCMP1の構成を示す回路図である。
図6は、CMP1の動作を示すタイミングチャートである。他のコンパレータCMP2~CMPnの構成及び動作もコンパレータCMP1と同様である。
【0057】
図5に示すように、コンパレータCMP1は、マッチング抵抗Rm、電流源CS1、バッファ回路BUFを備えている。
マッチング抵抗Rmの一端からアナログ検出電流Ia1が入力される。マッチング抵抗Rmの他端はバッファ回路BUFの入力端に接続されている。バッファ回路BUFの出力端からデジタル電流信号Id1が出力される。バッファ回路BUFの入力端には、直流の閾値電流Ithを生成する電流源CS1が接続されている。
【0058】
図6に示すように、バッファ回路BUFは、詳細には後述する
図7に示した交流励起電流(バイアス電流)Ixに同期して、アナログ検出電流Ia1をサンプリングする。そのため、交流励起電流Ixの周波数がサンプリング周波数fsmpとなり、サンプリング周期はその逆数(1/fsmp)となる。
図6に示すように、アナログ検出電流Ia1が閾値電流Ithより大きい場合、「1」が出力され、アナログ検出電流Ia1が閾値電流Ithより小さい場合、「0」が出力される。このように、バッファ回路BUFは、交流の閾値電流Ithに同期して、RZ方式のデジタル電流信号を出力する。
【0059】
ここで、本実施形態に係るバッファ回路BUFは、交流電流駆動型の超伝導論理回路から構成される。交流電流駆動型の超伝導論理回路としては、断熱型QFP(AQFP:Adiabatic Quantum-Flux-Parametron)回路に代表されるQFP回路やRQL(Reciprocal Quantum Logic)回路等を用いてもよい。交流電流駆動型の超伝導論理回路は、SFQ回路などの直流電流駆動型の超伝導論理回路よりも低消費電力である点で優れている。
【0060】
ここで、
図7は、バッファ回路BUFを構成する交流電流駆動型の超伝導論理回路の一例である。
図7に示したAQFP回路は、インダクタL1、L2、Lq、出力インダクタLout、ジョセフソン接合J1、J2、励磁インダクタLx1、Lx2を備えている。このAQFP回路は、ジョセフソン接合J1、インダクタL1、Lqから構成される超伝導ループと、ジョセフソン接合J2、インダクタL2、Lqから構成される超伝導ループと、を備えている。励磁インダクタLx1、Lx2に交流励起電流Ixを流し、励磁インダクタLx1、Lx2と磁気結合されたインダクタL1、L2を介して2つの超伝導ループに励起磁束を印加する。
【0061】
例えば、ジョセフソン接合J2がスイッチした場合を「0」、ジョセフソン接合J1がスイッチした場合を「1」と定義する。論理「0」の場合、インダクタLqに負の電流が流れ、論理「1」の場合、インダクタLqに正の電流が流れる。そして、このインダクタLqに流れる電流に応じて、インダクタLqと磁気結合された出力インダクタLoutにも出力電流Ioutが流れ、出力される。
【0062】
次に、
図8、
図9を参照して、バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路REDの構成及び動作について説明する。
図8は、バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路REDの構成を示す回路図である。
図9は、バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路REDの動作を示すタイミングチャートである。
図8、
図9はn=4の場合であって、
図8にはフラグ信号Iflgを生成するORゲートORも示されている。
【0063】
バイナリエンコーダBE、立ち上がりエッジ検出回路RED、ORゲートORは、いずれもコンパレータCMP1~CMPnと同様に、AQFP回路などの交流電流駆動型の超伝導論理回路から構成される。このような構成によって、アドレス情報生成回路20の消費電力を低減することができる。
【0064】
バイナリエンコーダBEは、n=4であるため、2つのORゲートOR1、OR2からなる。ORゲートOR1には、デジタル電流信号Id2、Id4が入力され、デジタル電流信号Ibe1が出力される。ORゲートOR2には、デジタル電流信号Id3、Id4が入力され、デジタル電流信号Ibe2が出力される。
【0065】
そのため、
図9の下から3段目に示すデジタル電流信号Ibe1の値は、
図9の上から2、4段目に示すデジタル電流信号Id2、Id4の値が「1」であるタイミングにおいて「1」となる。また、
図9の下から2段目に示すデジタル電流信号Ibe2の値は、
図9の上から3、4段目に示すデジタル電流信号Id3、Id4の値が「1」となるタイミングにおいて「1」となる。
図9において、バイナリエンコーダBEから出力されたデジタル電流信号Ibe1、Ibe2の値は、一部破線で描かれている。
【0066】
ORゲートORは、
図2を参照して説明した通り、いずれかのSSPD素子において光子が検出されたことを示すフラグ信号Iflgを生成する。そのため、
図8に示すように、ORゲートORには、全てのデジタル電流信号Id1~Id4が入力され、フラグ信号Iflgが出力される。そのため、
図9の最下段に示すフラグ信号Iflgの値は、
図9の上から1~4段目に示す全てのデジタル電流信号Id1~Id4の値が「1」となるタイミングにおいて「1」となる。
図9において、ORゲートORから出力されたフラグ信号Iflgの値は、一部破線で描かれている。
【0067】
図8に示すように、デジタル電流信号Ibe1、Ibe2、フラグ信号Iflgは、それぞれ立ち上がりエッジ検出回路REDを通過する。エッジ検出回路REDの回路構成は同じである。立ち上がりエッジ検出回路REDは、ANDゲートAND、遅延回路DCを備えている。遅延回路DCは入力信号を1サイクルだけ遅延させる。ANDゲートANDには、入力信号と遅延回路DCの出力信号の反転信号とが入力される。
【0068】
図9には、立ち上がりエッジ検出回路REDを通過したデジタル電流信号Ibe1、Ibe2、フラグ信号Iflgが実線で示されている。
図9に矢印で示すように、立ち上がりエッジ検出回路REDを通過すると、立ち上がりエッジに位置する1サイクルのみが「1」に維持され、2サイクル目以降の値は「1」から「0」に切り換わる。
【0069】
ここで、
図2に示した第1の実施形態に係るアナログ/デジタル変換器ADC1~ADCnは、例えば
図5に示したコンパレータCMP1~CMPnの後段にそれぞれ
図8に示した立ち上がりエッジ検出回路REDを接続した回路構成を有する。第2の実施形態に係る光子検出装置では、
図4、
図8に示したように、立ち上がりエッジ検出回路REDがバイナリエンコーダBEの後段に配置されている。そのため、第1の実施形態に係る光子検出装置に比べ、立ち上がりエッジ検出回路REDの個数を削減することができ、回路規模を縮小することができる。
なお、立ち上がりエッジ検出回路REDは省略することもできる。
【0070】
次に、
図10、
図11を参照して、パラレル/シリアル変換器PSCの構成及び動作について説明する。
図10は、パラレル/シリアル変換器PSCの構成を示す回路図である。
図11は、パラレル/シリアル変換器PSCの動作を示すタイミングチャートである。
図10、
図11は、n=4の場合である。
図10に示すように、パラレル/シリアル変換器PSCは、4つのQFP/SFQ変換器QSC1~QSC4、3つのDフリップフロップDFF1~DFF3、インバータINVを備えている。
【0071】
QFP/SFQ変換器QSC1~QSC3は、それぞれQFP回路によるデジタル電流信号Ibe1、Ibe2、フラグ信号IflgをSFQパルス信号であるデジタル電圧信号に変換する。QFP/SFQ変換器QSC4は、インバータINVを介して入力されたフラグ信号Iflgの反転信号をSFQパルス信号であるデジタル電圧信号に変換する。
【0072】
ここで、インバータINV及びQFP/SFQ変換器QSC1~QSC4の入力側は、交流電流駆動型の超伝導論理回路であるQFP回路から構成される。本実施形態では、AQFP回路から構成されている。一方、QFP/SFQ変換器QSC1~QSC4の出力側は、直流電流駆動型の超伝導論理回路であるSFQ回路から構成される。本実施形態では、RSFQ回路から構成されている。
【0073】
DフリップフロップDFF1~DFF3は、パラレル/シリアル変換用のシフトレジスタを構成している。
図10に示すように、フラグ信号Iflg、デジタル電流信号Ibe1、Ibe2は、それぞれQFP/SFQ変換器QSC1~QSC3によってデジタル電圧信号に変換され、DフリップフロップDFF1~DFF3にデータとして入力される。フラグ信号Iflgの反転信号は、QFP/SFQ変換器QSC4によってデジタル電圧信号に変換され、DフリップフロップDFF1~DFF3にクロックとして入力される。DフリップフロップDFF1~DFF3は、直流電流駆動型の超伝導論理回路であるSFQ回路から構成される。本実施形態では、RSFQ回路から構成されている。
【0074】
そして、DフリップフロップDFF1~DFF3に入力されたデータは、その順にデジタル電圧信号Vpscとして出力される。そのため、
図11に示すように、例えばフラグ信号Iflgの値が「1」、デジタル電流信号Ibe1の値が「0」、デジタル電流信号Ibe2の値が「0」であれば、デジタル電圧信号Vpscとして「100」が出力される。
図11に示すように、その他の場合も同様である。
なお、パラレル/シリアル変換器PSCをQFP回路のみから構成することもできる。その場合、QFP/SFQ変換器QSC1~QSC4は不要となる。
【0075】
次に、
図12、
図13を参照して、電圧ドライバVD1の構成及び動作について説明する。
図12は、電圧ドライバVD1の構成を示す回路図である。
図13は、電圧ドライバVD1の動作を示すタイミングチャートである。
図12に示すように、電圧ドライバVD1、VD2は同一の構成を有し、電圧ドライバVD2の場合の入出力信号についても括弧内に示されている。しかしながら、ここでは電圧ドライバVD1について説明する。
【0076】
図12に示すように、電圧ドライバVD1は、k(kは自然数)対の直流SQUID素子SQ11、SQ21~SQ1k、SQ2kを備えている。すなわち、電圧ドライバVD1、VD2は、直流電流駆動型の超伝導論理回路であるSFQ回路から構成される。SQUID素子SQ11、SQ21は、いずれも一対のジョセフソン接合の間にインダクタを有しており、互いに磁気結合されている。他のSQUID素子SQ12、SQ22等についても同様である。
【0077】
図12に示すように、k個のSQUID素子SQ11~SQ1kは直列に接続されている。SQUID素子SQ11の一端からアドレス情報信号Vaddが出力され、SQUID素子SQ11の他端はSQUID素子SQ12の一端に接続されている。同様に、他のSQUID素子も接続され、最後のSQUID素子SQ1kの一端は接地されている。
【0078】
他方、k個のSQUID素子SQ21~SQ2kの一端はいずれも接地されており、他端はそれぞれk個のSQUID素子SQ11~SQ1kと磁気結合されている。また、SQUID素子SQ21~SQ2kでは、一方のジョセフソン接合とインダクタとの間のノードにデジタル電圧信号Vpscが入力され、他方のジョセフソン接合とインダクタとの間のノードにリセット信号Vrst1が入力される。
【0079】
デジタル電圧信号Vpscの値が一旦「1」になると、デジタル電圧信号Vpscの値が「0」に切り換わっても、SQUID素子SQ21に磁束が保持される。そのため、SQUID素子SQ21と磁気結合されたSQUID素子SQ11によって電圧に変換されたアドレス情報信号Vaddの値は「1」に保持される。ここで、リセット信号Vrst1の値が「1」になると、逆方向の磁束によってSQUID素子SQ21に保持されていた磁束が打ち消される。そのため、アドレス情報信号Vaddの値は「0」に切り換わる。
【0080】
他のSQUID素子SQ12、SQ22やSQUID素子SQ1k、SQ2k等についても同様である。ここで、kの値を大きくしてSQUID素子対の数を増やす程、アドレス情報信号Vaddを増幅することができる。
【0081】
図13には、電圧ドライバVD1の入力信号であるデジタル電圧信号Vpsc、リセット信号Vrst1、出力信号であるアドレス情報信号Vaddが示されている。ここで、リセット信号Vrst1は、デジタル電圧信号Vpscの反転信号などから生成することができる。なお、電圧ドライバVD1もQFP回路のみから構成することもできる。また、当然のことながら、
図13に示した信号は一例であって、様々なパターンがあり得る。
【0082】
<時間情報生成回路30の詳細な構成>
以下に時間情報生成回路30が備えるDC/SFQ変換器DSC及び電圧ドライバVD2の詳細な回路構成について説明する。ここで、電圧ドライバVD2は、上述の電圧ドライバVD1と同一の構成を有する。
【0083】
図4に示したDC/SFQ変換器DSCは、
図2に示したアナログ/デジタル変換器ADCの一態様である。DC/SFQ変換器DSCは、アナログ電流信号IsqをSFQパルス信号であるデジタル電圧信号Vsfqに変換するSFQ回路である。
なお、SFQパルス信号であるデジタル電圧信号Vsfqは連続したパルス信号となる場合もあるが、その場合、例えば先頭のパルス信号のみが使用されるため、
図4では1つのパルス信号として模式的に描かれている。
【0084】
本実施形態に係る時間情報生成回路30すなわちDC/SFQ変換器DSC及び電圧ドライバVD2は、直流電流駆動型の超伝導論理回路であるSFQ回路から構成される。直流電流駆動型の超伝導論理回路は、QFP回路などの交流電流駆動型の超伝導論理回路よりも時間分解能に優れており、時間情報生成回路30に好適である。直流電流駆動型のSFQ回路としては、通常の高速SFQ(RSFQ:Rapid Single Flux Quantum)回路の他、より低消費電力であるEnergy-efficient RSFQ回路などを用いてもよい。
【0085】
まず、
図14、
図15を参照して、DC/SFQ変換器DSCの構成及び動作について説明する。
図14は、DC/SFQ変換器DSCの構成を示す回路図である。
図15は、DC/SFQ変換器DSCの動作を示すタイミングチャートである。
【0086】
図14に示すように、DC/SFQ変換器DSCは、6個のインダクタL11~L16、3個のジョセフソン接合J11~J13、電流源CS11を備えたRSFQ回路である。
直列に接続されたインダクタL11~L14のインダクタL11の一端からアナログ電流信号Isqが入力される。インダクタL11の他端とインダクタL12の一端との接続ノードには、インダクタL15を介して電流源CS11からバイアス電流が供給されている。
【0087】
インダクタL12の他端とインダクタL13の一端との接続ノードには、一端が接地されたジョセフソン接合J11の他端が接続されている。同様に、インダクタL13の他端とインダクタL14の一端との接続ノードには、一端が接地されたジョセフソン接合J12の他端が接続されている。すなわち、インダクタL13とジョセフソン接合J11、J12とから超伝導ループが構成されている。
【0088】
アナログ電流信号Isqが入力されると、ジョセフソン接合J11がスイッチし、上述の超伝導ループに磁束量子Φ0が保持される。それに伴い、
図14に破線矢印で示すように周回電流が発生する。周回電流が、臨界電流値を超えると、ジョセフソン接合J12がスイッチし、
図14に示すように、磁束量子Φ0がジョセフソン接合J12を介して図面右側に移動する。この際、ジョセフソン接合J12の両端に、
図14に示すように、パルス状の電圧信号が発生し、インダクタL14の他端からデジタル電圧信号Vsfqとして出力される。
【0089】
なお、インダクタL15と電流源CS11との間のノードには、インダクタL16の一端が接続されている。インダクタL16の他端には、一端が接地されたジョセフソン接合J13の他端が接続されている。
【0090】
図15には、DC/SFQ変換器DSCの入力信号であるアナログ電流信号Isq、出力信号であるデジタル電圧信号Vsfqが示されている。
図15に示すように、アナログ電流信号Isqの立ち上がりと同時に、デジタル電圧信号Vsfqとしてパルス電圧が発生する。
【0091】
次に、上述の
図12を参照して、電圧ドライバVD2の構成及び動作について説明する。
図12に示すように、電圧ドライバVD1、VD2は同一の構成を有し、電圧ドライバVD2の場合の入出力信号についても括弧内に示されている。ここでは電圧ドライバVD2について説明する。
【0092】
図12に示すように、電圧ドライバVD2の場合、SQUID素子SQ21~SQ2kにおいて、一方のジョセフソン接合とインダクタとの間のノードにデジタル電圧信号Vsfqが入力され、他方のジョセフソン接合とインダクタとの間のノードにリセット信号Vrst2が入力される。そして、SQUID素子SQ11の一端から時間情報信号Vtmpが出力される。
【0093】
ここで、
図4に示すように、リセット信号Vrst2は、例えば、立ち下がりエッジ検出回路FEDを通過させたフラグ信号Iflgから生成する。
なお、立ち下がりエッジ検出回路FEDの出力信号はQFP回路によるデジタル電流信号である。そのため、電圧ドライバVD2に入力するリセット信号Vrst2を生成するにはSFQパルス信号であるデジタル電圧信号に変換するQFP/SFQ変換器が必要だが、
図4では省略されている。
【0094】
(第3の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図16を参照して、第3の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図16は、第3の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図16に示すように、第3の実施形態に係る光子検出装置では、SSPDアレイ10において、16個のSSPD素子SSが4行×4列でマトリクス状に配置されている。なお、
図16では、
図2に示した冷凍機は省略されている。
【0095】
図16に示すように、第3の実施形態に係る光子検出装置は、
図2に示した第1の実施形態に係る光子検出装置に対し、第3伝送経路TL31~TL34がさらに設けられている。また、アドレス情報生成回路20が、4個のアナログ/デジタル変換器ADC31~ADC34、バイナリエンコーダBE30をさらに備えている。
【0096】
ここで、
図16ではSSPDアレイ10の詳細が図示されている。SSPDアレイ10は、16個のSSPD素子SS及び抵抗素子Rs、4つの電流源CS31~CS34、4つのインダクタL31~L34を備えている。
図16に示すように、各SSPD素子SSの一端は、第1伝送経路TL11~TL14のいずれかに接続されている。各SSPD素子SSの他端は、抵抗素子Rsを介して第3伝送経路TL31~TL34のいずれかに接続されている。
【0097】
一端が接地された4つの電流源CS31~CS34の他端は、それぞれ第1伝送経路TL11~TL14に接続されている。例えば、第1伝送経路TL11に接続された4つのSSPD素子SSに、電流源CS31からバイアス電流が供給される。
一端が接地された4つのインダクタL31~L34の他端は、それぞれ第3伝送経路TL31~TL34に接続されている。
【0098】
図16では、4本の第1伝送経路TL11~TL14が、SSPD素子SSの列に対応して設けられている。すなわち、第1伝送経路TL11~TL14は、それぞれ図面縦方向に並べられた4個のSSPD素子SSに共通に接続されている。例えば、第1伝送経路TL12に接続された4個のSSPD素子SSのいずれかに光子が入射すると、アナログ検出電流Ia2が出力される。
【0099】
さらに、第3の実施形態に係る光子検出装置では、4本の第3伝送経路TL31~TL34がSSPD素子の行に対応して設けられている。すなわち、第3伝送経路TL31~TL34は、それぞれ図面横方向に並べられた4個のSSPD素子に共通に接続されている。例えば、第3伝送経路TL32に接続された4個のSSPD素子のいずれかに光子が入射すると、アナログ検出電流Ia32が出力される。
【0100】
ここで、斜線を付したSSPD素子SSに着目する。
このSSPD素子SSは、第1伝送経路TL12を介してアナログ/デジタル変換器ADC2に接続されると共に、第3伝送経路TL32を介してアナログ/デジタル変換器ADC32に接続されている。通常、電流源CS32から供給されたバイアス電流は、
図16において破線矢印で示したように、第1伝送経路TL12、SSPD素子SS、抵抗素子Rs、第3伝送経路TL32を介して、インダクタL32を流れる。ここで、アナログ/デジタル変換器ADC2及びADC32は入力にマッチング抵抗(不図示)を有する。そのため、バイアス電流は、アナログ/デジタル変換器ADC2にはほとんど流れない。また、バイアス電流は、アナログ/デジタル変換器ADC32には流れず、インダクタL32に流れる。
【0101】
他方、斜線を付したSSPD素子SSに光子が入射すると、SSPD素子SSに一時的に抵抗が発生し、第1伝送経路TL12を介してアナログ/デジタル変換器ADC2にバイアス電流が流れるため、正のアナログ検出電流Ia2が発生する。同時に、インダクタL32に流れるバイアス電流が減るため、第3伝送経路TL32を介してアナログ/デジタル変換器ADC32からインダクタL32に電流が流れ込み、負のアナログ検出電流Ia32が発生する。
【0102】
このように、あるSSPD素子SSに光子が入射すると、そのSSPD素子SSが接続された第1伝送経路に正のアナログ検出電流が発生すると共に第3伝送経路に負のアナログ検出電流が発生する。そのため、光子が入射したSSPD素子SSのアドレスを特定することができる。
【0103】
4個のアナログ/デジタル変換器ADC31~ADC34のそれぞれは、4本の第3伝送経路TL31~TL34に1対1で接続されている。アナログ/デジタル変換器ADC31~ADC34は、それぞれ第3伝送経路TL31~TL34を介して入力されたアナログ検出電流Ia31~Ia34をデジタル電流信号Id31~Id34に変換する。
図16には、アナログ/デジタル変換器ADC32によって、アナログ検出電流Ia32がデジタル電流信号Id32に変換出力された様子が示されている。
なお、アナログ/デジタル変換器ADC31~ADC34の出力信号は、デジタル電流信号に限定されず、デジタル電圧信号であってもよい。
【0104】
バイナリエンコーダBE30は、アナログ/デジタル変換器ADC31~ADC34から出力されたデジタル電流信号Id31~Id34をエンコードする。バイナリエンコーダBE30の出力には2本の伝送経路が設けられており、各伝送経路からデジタル電流信号Ibe31~Ibe32が出力される。
なお、バイナリエンコーダBE30の出力信号もデジタル電流信号に限定されず、デジタル電圧信号であってもよい。
【0105】
パラレル/シリアル変換器PSCは、入力されたデジタル電流信号Ibe1~Ibe2、Ibe31~Ibe32、及びフラグ信号Iflgからなるパラレル信号をシリアル信号に変換する。そのため、パラレル/シリアル変換器PSCの出力には1本の伝送経路が設けられており、当該伝送経路からデジタル電圧信号Vpscが出力される。
なお、パラレル/シリアル変換器PSCの出力信号もデジタル電圧信号に限定されず、デジタル電流信号であってもよい。
【0106】
第1の実施形態と同様に、電圧ドライバVD1は、デジタル電圧信号Vpscを増幅し、アドレス情報信号Vaddを出力する。アドレス情報信号Vaddは、アドレス情報生成回路20の出力信号であって、冷凍機外に取り出される。
なお、アドレス情報信号を電流信号としてもよい。また、電圧ドライバVD1に代えて、電流ドライバを設けてもよい。
その他の構成は、第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0107】
(第4の実施形態)
<光子検出装置の構成>
まず、
図17を参照して、第4の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図17は、第4の実施形態に係る光子検出装置の構成を示すブロック図である。
図17に示すように、第4の実施形態に係る光子検出装置は、いずれも超伝導材料から構成されたSSPDアレイ10、n(nは2以上の自然数)本の第1伝送経路TL11~TL1n、1本の第2伝送経路TL2、n個の磁気結合素子MC1~MCn、及びn個の遅延回路DC1~DCnを備えている。また、
図17に示すように、超伝導状態を維持するために冷凍機に格納されている。
【0108】
SSPDアレイ10は、例えばマトリクス状に配置された複数のSSPD素子を備えている。各SSPD素子は、メアンダ状の超伝導ナノワイヤを有している。超伝導ナノワイヤに1つの光子が入射すると、その部位が一時的に超伝導状態から常伝導状態に移行し、SSPD素子からパルス状の検出電流が出力される。
なお、SSPD素子に限らず、TES素子やその他の超伝導光子検出素子を用いてもよい。
【0109】
図17の例では、複数のSSPD素子は、それぞれ第1伝送経路TL11~TL1nに接続されている。
図17には、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力された様子が示されている。光子検出装置がイメージセンサであれば、1つのSSPD素子が1画素(ピクセル)に該当する。
なお、SSPDアレイ10を構成する複数のSSPD素子は、それぞれ第1伝送経路に接続されているが、1対1で接続されている必要はない。
【0110】
図17に示すように、SSPDアレイ10から延設された第1伝送経路TL11~TL1nの先端は、それぞれ抵抗R1~Rnを介して接地されている。第2伝送経路TL2は、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと磁気結合素子MC1~MCnを介して磁気結合されている。
【0111】
ここで、第2伝送経路TL2の両端は、それぞれ冷凍機外まで延設されている。そして、第2伝送経路TL2には、冷凍機外に設けられた電流源CSからバイアス電流Ibが供給されている。第2伝送経路TL2の両端には、直流電流であるバイアス電流Ibを遮断するためのコンデンサC1、C2が設けられている。
【0112】
より詳細には、
図17に示すように、バイアス電流Ibの上流側に設けられたコンデンサC1の一端は、電流源CSに接続されている。そして、終端抵抗Rt1の一端に接続されたコンデンサC1の他端からパルス電圧(第1のパルス信号)Voutpが出力される。終端抵抗Rt1の他端は接地されている。
【0113】
他方、
図17に示すように、バイアス電流Ibの下流側に設けられたコンデンサC2の一端は、インダクタLの一端に接続されている。そして、終端抵抗Rt2の一端に接続されたコンデンサC2の他端からパルス電圧(第2のパルス信号)Voutnが出力される。ここで、終端抵抗Rt2の他端は接地されている。インダクタLの他端は接地されており、第2伝送経路TL2を介してバイアス電流IbがインダクタLを流れる。
【0114】
図17に示すように、第2伝送経路TL2上には遅延回路DC1~DCnが設けられている。そのうち遅延回路DC1~DC(n-1)は、それぞれ隣接する第1伝送経路TL11~TL1nの間に設けられている。例えば、遅延回路DC1は、第2伝送経路TL2上において、隣接する第1伝送経路TL11、TL12の間に設けられている。より詳細には、遅延回路DC1は、第1伝送経路TL11と磁気結合された磁気結合素子MC1と、第1伝送経路TL12と磁気結合された磁気結合素子MC2との間に設けられている。
【0115】
同様に、遅延回路DC2は、第2伝送経路TL2上において、隣接する第1伝送経路TL12、TL13(不図示)の間に設けられている。より詳細には、遅延回路DC2は、第1伝送経路TL12と磁気結合された磁気結合素子MC2と、第1伝送経路TL13と磁気結合された磁気結合素子MC3(不図示)との間に設けられている。
図示しない遅延回路DC3~DC(n-1)についても同様である。
【0116】
なお、第2伝送経路TL2は、複数本であってもよい。例えば、nが大きい場合、第2伝送経路TL2を2本とし、一方の第2伝送経路TL2を第1伝送経路TL11~TL1(k-1)の全てと磁気結合し、他方の第2伝送経路TL2を第1伝送経路TL1k~TL1nの全てと磁気結合してもよい(ここで、kは2<k<nの自然数)。
【0117】
他方、
図17に示すように、遅延回路DCnは、隣接する第1伝送経路の間には設けられていない。遅延回路DCnの一端は、磁気結合素子MCnの一端に接続され、遅延回路DCnの他端は、インダクタLの一端及びコンデンサC2の一端に接続されている。
【0118】
このように、第2伝送経路TL2上において、磁気結合素子MC1~MCnと遅延回路DC1~DCnとが交互に直列に接続されている。そして、バイアス電流Ibは、磁気結合素子MC1~MCn及び遅延回路DC1~DCnを流れる。
【0119】
<光子検出装置の動作>
例えば、
図17に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力されると、磁気結合素子MC2の両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2の一端から正のパルス電圧Voutpが出力されると共に、第2伝送経路TL2の他端から負のパルス電圧Voutnが出力される。
【0120】
検出電流I2の発生時刻をt0とすると、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpは、時刻t0から遅延回路DC1による遅延時間だけ遅れる。すなわち、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpの時刻t0からの遅延時間(tp-t0)は、遅延回路DC1による遅延時間に等しくなる。他方、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnは、時刻t0から遅延回路DC2~DCnによる遅延時間だけ遅れる。すなわち、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnの時刻t0からの遅延時間(tn-t0)は、遅延回路DC2~DCnによる遅延時間に等しくなる。
【0121】
比較のために、時刻t0に第1伝送経路TL1nにおいて検出電流Inが発生した場合を考える。この場合、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpの時刻t0からの遅延時間(tp-t0)は、遅延回路DC1~DC(n-1)による遅延時間に等しくなる。他方、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnの時刻t0からの遅延時間(tn-t0)は、遅延回路DCnによる遅延時間に等しくなる。
【0122】
このように、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との差(tp-t0)-(tn-t0)は、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかによって異なる。この遅延時間の差(tp-t0)-(tn-t0)は、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に等しい。従って、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に基づいて、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。その結果、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。
【0123】
他方、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との和(tp+tn-2×t0)は、常に全ての遅延回路DC1~DCnによる遅延時間の合計に等しくなる。すなわち、この遅延時間の和(tp+tn-2×t0)は、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生しても一定となる。従って、出力時刻tp、tnの和(tp+tn)に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0124】
<効果の説明>
本実施形態に係る光子検出装置では、1本の第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと磁気結合素子MC1~MCnを介して磁気結合されている。そのため、第1伝送経路TL11~TL1nでの検出電流の発生に伴い、第2伝送経路TL2の一端からパルス電圧Voutpが、第2伝送経路TL2の他端からパルス電圧Voutnが出力される。ここで、第2伝送経路上TL2における隣接する第1伝送経路の間に、それぞれ遅延回路が設けられている。
【0125】
そのため、上述の通り、パルス電圧Voutp、Voutnの出力時刻tp、tnの差に基づいて、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。また、パルス電圧Voutp、Voutnの出力時刻tp、tnの和に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0126】
このように、本実施形態に係る光子検出装置は、極めてシンプルな回路構成で、検出電流が発生した位置及び時刻を特定できる。その結果、従来の光子検出装置に比べ、回路規模及び消費電力を大幅に削減できる。
【0127】
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図18を参照して、第4の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成について説明する。
図18は、
図17に示した第4の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図18では、簡易な例として、SSPDアレイ10を構成するn個のSSPD素子が1列に並べて設けられており、n本の第1伝送経路TL11~TL1nに1対1で接続されている。第4の実施形態に係る光子検出装置は、超伝導回路から構成されているため、バイアス電流を印加した状態での待機電力はゼロであり、低消費電力である。
【0128】
図18に示すように、第2伝送経路TL2は、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てとSQUID素子SQ1~SQnを介して磁気結合されている。SQUID素子SQ1~SQnは
図17に示した磁気結合素子MC1~MCnの一態様である。
【0129】
ここで、第2伝送経路TL2の両端は、それぞれ冷凍機外まで延設されている。光子検出信号を伝送する伝送線路として、n本の第1伝送経路TL11~TL1nを冷凍機から延出するのではなく、第2伝送経路TL2の両端のみを冷凍機から延出しているため、冷凍機内の温度上昇を抑制できる。
【0130】
そして、第2伝送経路TL2には、冷凍機外に設けられた電流源CSからバイアス電流Ibが供給されている。第2伝送経路TL2の両端には、直流電流であるバイアス電流Ibを遮断するためのコンデンサC1、C2が設けられている。
【0131】
より詳細には、
図18に示すように、バイアス電流Ibの上流側に設けられたコンデンサC1の一端は、電流源CSに接続されている。そして、終端抵抗Rt1の一端に接続されたコンデンサC1の他端からパルス電圧Voutpが出力される。ここで、終端抵抗Rt1の他端は接地されている。すなわち、パルス電圧Voutpは、終端抵抗Rt1の端子間電圧である。終端抵抗Rt1は、例えば測定器の内部インピーダンスである。
【0132】
他方、
図18に示すように、バイアス電流Ibの下流側に設けられたコンデンサC2の一端は、インダクタLの一端に接続されている。そして、終端抵抗Rt2の一端に接続されたコンデンサC2の他端からパルス電圧Voutnが出力される。ここで、終端抵抗Rt2の他端は接地されている。すなわち、パルス電圧Voutnは、終端抵抗Rt2の端子間電圧である。終端抵抗Rt2は、例えば測定器の内部インピーダンスである。インダクタLの他端は接地されており、第2伝送経路TL2を介してバイアス電流IbがインダクタLに流れる。
なお、図示されたパルス電圧Voutp及びパルス電圧Voutnが出力される第2伝送経路TL2の両端部の回路構成はあくまでも一例であり、何ら限定されない。
【0133】
冷凍機内の第2伝送経路TL2上には、SQUID素子SQ1~SQnと遅延回路DC1~DCnとが交互に直列に接続されており、SQUID素子SQ1~SQn及び遅延回路DC1~DCnにバイアス電流Ibが流れる。そのため、nの値によらずバイアス電流Ibを一定にできる。
【0134】
バイアス電流Ibの最上流側に設けられたSQUID素子SQ1の一端は、電流源CSに接続されると共にコンデンサC1の一端に接続されている。SQUID素子SQ1の他端は、遅延回路DC1の一端に接続され、遅延回路DC1の他端は、SQUID素子SQ2の一端に接続されている。同様に、SQUID素子SQ2の他端は、遅延回路DC2の一端に接続され、遅延回路DC2の他端は、SQUID素子SQ3(不図示)の一端に接続されている。
図示しないSQUID素子SQ3~SQUID素子SQ(n-1)についても同様である。
【0135】
そして、バイアス電流Ibの最下流側に設けられたSQUID素子SQnの一端には、遅延回路DC(n-1)(不図示)が接続され、SQUID素子SQnの他端には、遅延回路DCnの一端が接続されている。遅延回路DCnの他端は、インダクタLの一端及びコンデンサC2の一端に接続されている。
【0136】
図18に示すように、SQUID素子SQ1~SQnのそれぞれには、一対のジョセフソン接合間にインダクタが設けられている。このSQUID素子SQ1~SQnのそれぞれに設けられたインダクタと、第1伝送経路TL11~TL1nのそれぞれに設けられたインダクタとが、対向配置されて磁気結合している。すなわち、第2伝送経路TL2は、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てとSQUID素子SQ1~SQnを介して磁気結合されている。
【0137】
SQUID素子SQ1~SQnのそれぞれは、
図18に示した寄生容量Cp1~Cpnを有している。ここで、寄生容量Cp1~CpnのキャパシタンスはいずれもCpとする。
遅延回路DC1は、SQUID素子SQ1の寄生容量Cp1、インダクタL1、及び遅延線路DL1から構成されている。一端がコンデンサC1に接続されたSQUID素子SQ1の他端は、インダクタL1の一端に接続されると共に寄生容量Cp1を介して接地されている。インダクタL1の他端は、遅延線路DL1の一端に接続され、遅延線路DL1の他端は、SQUID素子SQ2の一端に接続されている。
【0138】
ここで、寄生容量Cp1及びインダクタL1(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)が、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくなるようにインダクタンスLmが設定されている。例えば、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値は、50Ωである。また、遅延線路DL1は、遅延時間を大きくするために、例えば配線長を大きくした配線などである。遅延線路DL1のインピーダンスも、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくなるように設定されている。遅延回路DC1による遅延時間は、寄生容量Cp1及びインダクタL1による遅延時間√(Lm・Cp)と遅延線路DL1による遅延時間との合計であり、調整可能である。
【0139】
なお、第2伝送経路TL2上にインピーダンス整合回路等を設けた場合には、寄生容量Cp1及びインダクタL1(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)、遅延線路DL1のインピーダンスを終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくしなくてもよい。
【0140】
同様に、遅延回路DC2は、SQUID素子SQ2の寄生容量Cp2、インダクタL2、及び遅延線路DL2から構成されている。一端が遅延線路DL1に接続されたSQUID素子SQ2の他端は、インダクタL2の一端に接続されると共に寄生容量Cp2を介して接地されている。インダクタL2の他端は、遅延線路DL2の一端に接続され、遅延線路DL2の他端は、SQUID素子SQ3の一端に接続されている。
【0141】
ここで、寄生容量Cp1及びインダクタL1と同様に、寄生容量Cp2及びインダクタL2(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)と、遅延線路DL2のインピーダンスとは、いずれも終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC2による遅延時間は、寄生容量Cp2及びインダクタL2による遅延時間√(Lm・Cp)と遅延線路DL2による遅延時間との合計であり、調整可能である。
【0142】
なお、第2伝送経路TL2上にインピーダンス整合回路等を設けた場合には、寄生容量Cp2及びインダクタL2(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)、遅延線路DL2のインピーダンスを終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくしなくてもよい。
図示しない遅延回路DC3~DC(n-1)についても同様である。
【0143】
遅延回路DCnは、SQUID素子SQnの寄生容量Cpn、インダクタLnから構成され、遅延線路は備えていない。インダクタLnの一端は、一端が遅延線路DL(n-1)(不図示)に接続されたSQUID素子SQnの他端に接続されている。このSQUID素子SQnの他端は、寄生容量Cpnを介して接地されている。インダクタLnの他端は、インダクタLの一端及びコンデンサC2の一端に接続されている。
なお、遅延回路DCnが遅延線路を備えていてもよい。
【0144】
ここで、寄生容量Cp1及びインダクタL1と同様に、寄生容量Cpn及びインダクタLn(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)は、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DCnによる遅延時間は、寄生容量Cpn及びインダクタLnによる遅延時間√(Lm・Cp)である。
【0145】
なお、第2伝送経路TL2上にインピーダンス整合回路等を設けた場合には、寄生容量Cpn及びインダクタLn(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)を終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくしなくてもよい。
【0146】
<光子検出装置の動作>
例えば、
図18に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力されると、SQUID素子SQ2の両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2の一端から正のパルス電圧Voutpが出力されると共に、第2伝送経路TL2の他端から負のパルス電圧Voutnが出力される。
【0147】
検出電流I2の発生時刻をt0とすると、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpは、時刻t0から遅延回路DC1による遅延時間だけ遅れる。すなわち、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpの時刻t0からの遅延時間(tp-t0)は、遅延回路DC1による遅延時間に等しくなる。他方、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnは、時刻t0から遅延回路DC2~DCnによる遅延時間だけ遅れる。すなわち、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnの時刻t0からの遅延時間(tn-t0)は、遅延回路DC2~DCnによる遅延時間に等しくなる。
【0148】
比較のために、時刻t0に第1伝送経路TL1nにおいて検出電流Inが発生した場合を考える。この場合、正のパルス電圧Voutpの出力時刻tpの時刻t0からの遅延時間(tp-t0)は、遅延回路DC1~DC(n-1)による遅延時間に等しくなる。他方、負のパルス電圧Voutnの出力時刻tnの時刻t0からの遅延時間(tn-t0)は、遅延回路DCnによる遅延時間に等しくなる。
【0149】
このように、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との差(tp-t0)-(tn-t0)は、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかによって異なる。この遅延時間の差(tp-t0)-(tn-t0)は、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に等しい。従って、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に基づいて、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。その結果、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。
【0150】
他方、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との和(tp+tn-2×t0)は、常に全ての遅延回路DC1~DCnによる遅延時間の合計に等しくなる。すなわち、この遅延時間の和(tp+tn-2×t0)は、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生しても一定となる。従って、出力時刻tp、tnの和(tp+tn)に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0151】
<効果の説明>
本実施形態に係る光子検出装置では、1本の第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てとSQUID素子SQ1~SQ2を介して磁気結合されている。そのため、第1伝送経路TL11~TL1nでの検出電流の発生に伴い、第2伝送経路TL2の一端からパルス電圧Voutpが、第2伝送経路TL2の他端からパルス電圧Voutnが出力される。ここで、第2伝送経路上TL2における隣接する第1伝送経路の間に、それぞれ遅延回路が設けられている。
【0152】
そのため、上述の通り、パルス電圧Voutp、Voutnの出力時刻tp、tnの差に基づいて、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。また、パルス電圧Voutp、Voutnの出力時刻tp、tnの和に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0153】
このように、本実施形態に係る光子検出装置は、極めてシンプルな回路構成で、検出電流が発生した位置及び時刻を特定できる。その結果、従来の光子検出装置に比べ、回路規模及び消費電力を大幅に削減できる。
【0154】
(第5の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図19を参照して、第5の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図19は、第5の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。ここで、
図18に示した第4の実施形態に係る光子検出装置では、第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと、それぞれ1個のSQUID素子SQ1~SQnを介して磁気結合されている。
【0155】
これに対し、
図19に示すように、第5の実施形態に係る光子検出装置では、第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと、それぞれ3個ずつのSQUID素子SQ11~SQ13、SQ21~SQ23、・・・、SQn1~SQn3を介して磁気結合されている。また、SQUID素子SQ11~SQ13、SQ21~SQ23、・・・、SQn1~SQn3のそれぞれは、寄生容量Cp11~Cp13、Cp21~Cp23、・・・、Cpn1~Cpn3(いずれもキャパシタンスCpとする)を有している。
なお、当然のことながら、各第1伝送経路と磁気結合されるSQUID素子の個数は、複数であればよく、適宜決定される。
【0156】
図19に示すように、第1伝送経路TL11に磁気結合されたSQUID素子SQ11~SQ13は、インダクタL11、L12を介して直列接続されている。
より詳細には、一端が電流源CS及びコンデンサC1に接続されたSQUID素子SQ11の他端は、インダクタL11の一端に接続されると共に寄生容量Cp11を介して接地されている。インダクタL11の他端は、SQUID素子SQ12の一端に接続されている。SQUID素子SQ11の寄生容量Cp11及びインダクタL11(インダクタンスLm)から遅延回路DC11が構成されている。遅延回路DC11のインピーダンス√(Lm/Cp)は、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC11による遅延時間は、√(Lm・Cp)である。
【0157】
SQUID素子SQ12の他端は、インダクタL12の一端に接続されると共に寄生容量Cp12を介して接地されている。インダクタL12の他端は、SQUID素子SQ13の一端に接続されている。SQUID素子SQ12の寄生容量Cp12及びインダクタL12(インダクタンスLm)から遅延回路DC12が構成されている。遅延回路DC12のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC12による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
【0158】
SQUID素子SQ13の他端は、インダクタL13の一端に接続されると共に寄生容量Cp13を介して接地されている。インダクタL13の他端は、遅延線路DL1の一端に接続され、遅延線路DL1の他端は、SQUID素子SQ21の一端に接続されている。SQUID素子SQ13の寄生容量Cp13、インダクタL13(インダクタンスLm)、及び遅延線路DL1から遅延回路DC13が構成されている。寄生容量Cp13及びインダクタL13によるインピーダンス√(Lm/Cp)と、遅延線路DL2のインピーダンスとは、いずれも終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC13による遅延時間は、寄生容量Cp13及びインダクタL13による遅延時間√(Lm・Cp)と遅延線路DL1による遅延時間との合計である。
【0159】
なお、第4の実施形態と同様に、第2伝送経路TL2上にインピーダンス整合回路等を設けた場合には、寄生容量Cp11~Cp13及びインダクタL11~L13(インダクタンスLm)によるインピーダンス√(Lm/Cp)、並びに遅延線路DL1のインピーダンスを終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しくしなくてもよい。以下同様である。
【0160】
同様に、
図19に示すように、第1伝送経路TL12に磁気結合されたSQUID素子SQ21~SQ23は、インダクタL21、L22を介して直列接続されている。
より詳細には、一端に遅延線路DL1に接続されたSQUID素子SQ21の他端は、インダクタL21の一端に接続されている。このSQUID素子SQ21の他端は、寄生容量Cp21を介して接地されている。インダクタL21の他端は、SQUID素子SQ22の一端に接続されている。SQUID素子SQ21の寄生容量Cp21及びインダクタL21(インダクタンスLm)から遅延回路DC21が構成されている。遅延回路DC21のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC21による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
【0161】
SQUID素子SQ22の他端は、インダクタL22の一端に接続されている。このSQUID素子SQ22の他端は、寄生容量Cp22を介して接地されている。インダクタL22の他端は、SQUID素子SQ23の一端に接続されている。SQUID素子SQ22の寄生容量Cp22及びインダクタL22(インダクタンスLm)から遅延回路DC22が構成されている。遅延回路DC22のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC22による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
【0162】
SQUID素子SQ23の他端は、インダクタL23の一端に接続されている。このSQUID素子SQ23の他端は、寄生容量Cp23を介して接地されている。インダクタL23の他端は、遅延線路DL2の一端に接続され、遅延線路DL2の他端は、SQUID素子SQ31(不図示)の一端に接続されている。SQUID素子SQ23の寄生容量Cp23、インダクタL23(インダクタンスLm)、及び遅延線路DL2から遅延回路DC23が構成されている。寄生容量Cp23及びインダクタL23によるインピーダンス√(Lm/Cp)と、遅延線路DL2のインピーダンスとは、いずれも終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DC23による遅延時間は、寄生容量Cp23及びインダクタL23による遅延時間√(Lm・Cp)と遅延線路DL2による遅延時間との合計である。
【0163】
同様に、
図19に示すように、第1伝送経路TL1nに磁気結合されたSQUID素子SQn1~SQn3は、インダクタLn1、Ln2を介して直列接続されている。
より詳細には、一端に遅延線路DL(n-1)(不図示)に接続されたSQUID素子SQn1の他端は、インダクタLn1の一端に接続されている。このSQUID素子SQn1の他端は、寄生容量Cpn1を介して接地されている。インダクタLn1の他端は、SQUID素子SQn2の一端に接続されている。SQUID素子SQn1の寄生容量Cpn1及びインダクタLn1(インダクタンスLm)から遅延回路DCn1が構成されている。遅延回路DCn1のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DCn1による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
【0164】
SQUID素子SQn2の他端は、インダクタLn2の一端に接続されている。このSQUID素子SQn2の他端は、寄生容量Cpn2を介して接地されている。インダクタLn2の他端は、SQUID素子SQn3の一端に接続されている。SQUID素子SQn2の寄生容量Cpn2及びインダクタLn2(インダクタンスLm)から遅延回路DCn2が構成されている。遅延回路DCn2のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DCn2による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
【0165】
SQUID素子SQn3の他端は、インダクタLn3の一端に接続されている。このSQUID素子SQn3の他端は、寄生容量Cpn3を介して接地されている。インダクタLn3の他端は、インダクタLの一端及びコンデンサC2の一端に接続されている。SQUID素子SQn3の寄生容量Cpn3及びインダクタLn3(インダクタンスLm)から遅延回路DCn3が構成されている。遅延回路DCn3のインピーダンス√(Lm/Cp)も、終端抵抗Rt1、Rt2の抵抗値と等しい。遅延回路DCn3による遅延時間も、√(Lm・Cp)である。
図示しないSQUID素子SQ31~SQ33、・・・、SQ(n-1)1~SQ(n-1)3も同様である。
【0166】
図19に示すように、例えば、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子から検出電流I2が出力されると、SQUID素子SQ21~SQ23の両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2の一端から正のパルス電圧Voutpが出力されると共に、第2伝送経路TL2の他端から負のパルス電圧Voutnが出力される。
【0167】
第5の実施形態では、
図18に示した第4の実施形態に比べ、第1伝送経路TL12に磁気結合されたSQUID素子の個数が多いため、正のパルス電圧Voutp及び負のパルス電圧Voutnの振幅を大きくできる。
その他の第1伝送経路についても同様である。
【0168】
その他の構成は、第4の実施形態に係る光子検出装置と同様であるため、説明を省略する。第5の実施形態に係る光子検出装置も、第4の実施形態に係る光子検出装置と同様に、極めてシンプルな回路構成で、検出電流が発生した位置及び時刻を特定できる。その結果、従来の光子検出装置に比べ、回路規模及び消費電力を大幅に削減できる。
【0169】
<光子検出装置の動作>
ここで、
図20は、第5の実施形態に係る光子検出装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図20は、n=4の場合を示している。
図20の例では、最初に、時刻t01に第1伝送経路TL11において発生した検出電流I1に伴って、時刻tp1に正のパルス電圧Voutpが出力され、続いて、時刻tn1に負のパルス電圧Voutnが出力されている。
次に、時刻t02に第1伝送経路TL12において発生した検出電流I2に伴って、正のパルス電圧Voutpが時刻tp2に出力され、続いて、負のパルス電圧Voutnが時刻tn2に出力されている。
【0170】
次に、時刻t03に第1伝送経路TL13において発生した検出電流I3に伴って、負のパルス電圧Voutnが時刻tn3に出力され、続いて、正のパルス電圧Voutpが時刻tp3に出力されている。
最後に、時刻t04に第1伝送経路TL14において発生した検出電流I4に伴って、負のパルス電圧Voutnが時刻tn4に出力され、続いて、正のパルス電圧Voutpが時刻tp4に出力されている。
【0171】
図20に示した通り、正のパルス電圧Voutpと負のパルス電圧Voutnとの出力時刻の差(tp1-tn1)、(tp2-tn2)、(tp3-tn3)、(tp4-tn4)は、それぞれ異なる。そのため、第1伝送経路TL11~TL14のいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。
【0172】
他方、正のパルス電圧Voutpの遅延時間と負のパルス電圧Voutnの遅延時間との和(tp1-t01)+(tn1-t01)、(tp2-t02)+(tn2-t02)、(tp3-t03)+(tn3-t03)、(tp4-t04)+(tn4-t04)は、いずれも等しい。従って、出力時刻の和に基づいて、検出電流I1~I4の発生時刻t01、t02、t03、t04を特定できる。
【0173】
(第6の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図21を参照して、第6の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図21は、第6の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図21に示すように、第6の実施形態に係る光子検出装置では、SSPDアレイ10において、9個のSSPD素子SSが3行×3列でマトリクス状に配置されている。
【0174】
図21に示すように、第6の実施形態に係る光子検出装置は、
図18に示した第4の実施形態に係る光子検出装置(n=3の場合)に加え、第3伝送経路TL31~TL33、1本の第4伝送経路TL4、3個のSQUID素子SQ41~SQ43、及び3個の遅延回路DC41~DC43を備えている。
【0175】
ここで、
図21ではSSPDアレイ10の詳細が図示されている。SSPDアレイ10は、9個のSSPD素子SS及び抵抗Rs、3つの電流源CS31~CS33、3つのインダクタL31~L33を備えている。
図21に示すように、各SSPD素子SSの一端は、第1伝送経路TL11~TL13のいずれかに接続されている。各SSPD素子SSの他端は、抵抗Rsを介して第3伝送経路TL31~TL33のいずれかに接続されている。
【0176】
3つの電流源CS31~CS33からそれぞれ第1伝送経路TL11~TL13にバイアス電流が供給されている。例えば、第1伝送経路TL12に接続された3つのSSPD素子SSに、電流源CS32からバイアス電流が供給される。
一端が接地された3つのインダクタL31~L33の他端は、それぞれ第3伝送経路TL31~TL33に接続されている。
【0177】
図21では、3本の第1伝送経路TL11~TL13が、SSPD素子SSの列に対応して設けられている。すなわち、第1伝送経路TL11~TL13は、それぞれ図面縦方向に並べられた3個のSSPD素子SSに共通に接続されている。例えば、第1伝送経路TL12に接続された3個のSSPD素子SSのいずれかに光子が入射すると、検出電流I2が出力される。
【0178】
さらに、第6の実施形態に係る光子検出装置では、3本の第3伝送経路TL31~TL33がSSPD素子の行に対応して設けられている。すなわち、第3伝送経路TL31~TL33は、それぞれ図面横方向に並べられた3個のSSPD素子に共通に接続されている。例えば、第3伝送経路TL32に接続された3個のSSPD素子のいずれかに光子が入射すると、検出電流I32が出力される。ここで、SSPDアレイ10から延設された第3伝送経路TL31~TL33の先端は、それぞれ抵抗R31~R33を介して接地されている。
【0179】
第4伝送経路TL4は、3本の第3伝送経路TL31~TL33の全てとSQUID素子SQ41~SQ43を介して磁気結合されている。ここで、第4伝送経路TL4の両端は、第2伝送経路TL2の両端と同様に、それぞれ冷凍機外まで延設されている。光子検出信号を伝送する伝送線路として、第1伝送経路TL11~TL13及び第3伝送経路TL31~TL33を冷凍機から延出するのではなく、第2伝送経路TL2及び第4伝送経路TL4の両端のみを冷凍機から延出しているため、冷凍機内の温度上昇を抑制できる。
そして、第4伝送経路TL4には、冷凍機外に設けられた電流源CSyからバイアス電流Ibyが供給されている。第4伝送経路TL4の両端には、直流電流であるバイアス電流Ibyを遮断するためのコンデンサC3、C4が設けられている。
【0180】
より詳細には、
図21に示すように、バイアス電流Ibyの上流側に設けられたコンデンサC3の一端は、電流源CSyに接続されている。そして、終端抵抗Rt3の一端に接続されたコンデンサC3の他端からパルス電圧Voutpyが出力される。ここで、終端抵抗Rt3の他端は接地されている。
【0181】
他方、
図21に示すように、バイアス電流Ibyの下流側に設けられたコンデンサC4の一端は、インダクタLyの一端に接続されている。そして、終端抵抗Rt4の一端に接続されたコンデンサC4の他端からパルス電圧Voutnyが出力される。ここで、終端抵抗Rt4の他端は接地されている。インダクタLyの他端は接地されており、第4伝送経路TL4を介してバイアス電流IbyがインダクタLyに流れる。
【0182】
冷凍機内の第4伝送経路TL4上には、SQUID素子SQ41~SQ43と遅延回路DC41~DC43とが交互に直列に接続されており、SQUID素子SQ41~SQ43及び遅延回路DC41~DC43にバイアス電流Ibyが流れる。
【0183】
バイアス電流Ibyの最上流側に設けられたSQUID素子SQ41の一端は、電流源CSyに接続されると共にコンデンサC3の一端に接続されている。SQUID素子SQ41の他端は、遅延回路DC41の一端に接続され、遅延回路DC41の他端は、SQUID素子SQ42の一端に接続されている。
【0184】
同様に、SQUID素子SQ42の他端は、遅延回路DC42の一端に接続され、遅延回路DC42の他端は、バイアス電流Ibの最下流側に設けられたSQUID素子SQ43の一端に接続されている。
そして、SQUID素子SQ43の他端には、遅延回路DC43の一端が接続されている。遅延回路DC43の他端は、インダクタLyの一端及びコンデンサC4の一端に接続されている。
その他の構成は、第4の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0185】
<光子検出装置の動作>
ここで、斜線を付したSSPD素子SSに着目する。
このSSPD素子SSは、第1伝送経路TL12及び第3伝送経路TL32に接続されている。通常、電流源CS32から供給されたバイアス電流は、
図21において破線矢印で示したように、第1伝送経路TL12、SSPD素子SS、抵抗Rs、第3伝送経路TL32を介して、インダクタL32を流れる。ここで、第1伝送経路TL12の先端には抵抗R2が設けられているため、電流源CS32よりも抵抗R2側にはバイアス電流はほとんど流れない。また、第3伝送経路TL32の先端には抵抗R32が設けられているため、インダクタL32よりも抵抗R32側には電流が流れない。
【0186】
他方、斜線を付したSSPD素子SSに光子が入射すると、SSPD素子SSに一時的に抵抗が発生する。そのため、第1伝送経路TL12における電流源CS32よりも抵抗R2側にバイアス電流が流れ、正の検出電流I2が発生する。同時に、インダクタL32に流れるバイアス電流が減るため、第3伝送経路TL32における抵抗R32側からインダクタL32に電流が流れ込み、負の検出電流I32が発生する。
【0187】
時刻t0に検出電流I2及びI32が発生すると同時に、第1伝送経路TL12に接続されたSQUID素子SQ2及び第3伝送経路TL32に接続されたSQUID素子SQ42の両端に一時的に電位差が生じる。その結果、時刻tpに第2伝送経路TL2の一端から正のパルス電圧Voutpが出力されると共に、時刻tnに第2伝送経路TL2の他端から負のパルス電圧Voutnが出力される。さらに、時刻tpyに第4伝送経路TL4の一端から正のパルス電圧Voutpyが出力されると共に、時刻tnyに第4伝送経路TL4の他端から負のパルス電圧Voutnyが出力される。
【0188】
第4の実施形態において説明した通り、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との差(tp-t0)-(tn-t0)は、第1伝送経路TL11~TL13のいずれにおいて検出電流が発生したのかによって異なる。この遅延時間の差(tp-t0)-(tn-t0)は、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に等しい。従って、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に基づいて、第1伝送経路TL11~TL13のいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。
【0189】
同様に、正のパルス電圧Voutpyの遅延時間(tpy-t0)と、負のパルス電圧Voutnyの遅延時間(tny-t0)との差(tpy-t0)-(tny-t0)は、第3伝送経路TL31~TL33のいずれにおいて検出電流が発生したのかによって異なる。この遅延時間の差(tpy-t0)-(tny-t0)は、出力時刻tpy、tnyの差(tpy-tny)に等しい。従って、出力時刻tpy、tnyの差(tpy-tny)に基づいて、第3伝送経路TL31~TL33のいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。
【0190】
このように、第1伝送経路TL11~TL13及び第3伝送経路TL31~TL33のいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができるため、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。
図21の例では、第1伝送経路TL12及び第3伝送経路TL32に接続されたSSPD素子から検出電流が出力されている。
【0191】
他方、正のパルス電圧Voutpの遅延時間(tp-t0)と、負のパルス電圧Voutnの遅延時間(tn-t0)との和(tp+tn-2×t0)は、常に全ての遅延回路DC1~DC3による遅延時間の合計に等しくなる。すなわち、この遅延時間の和(tp+tn-2×t0)は、第1伝送経路TL11~TL13のいずれにおいて検出電流が発生しても一定となる。従って、出力時刻tp、tnの和(tp+tn)に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0192】
同様に、正のパルス電圧Voutpyの遅延時間(tpy-t0)と、負のパルス電圧Voutnyの遅延時間(tny-t0)との和(tpy+tny-2×t0)は、常に全ての遅延回路DC41~DC43による遅延時間の合計に等しくなる。すなわち、この遅延時間の和(tpy+tny-2×t0)は、第3伝送経路TL31~TL33のいずれにおいて検出電流が発生しても一定となる。従って、出力時刻tpy、tnyの和(tpy+tny)に基づいても、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0193】
従って、出力時刻tp、tn又は出力時刻tpy、tnyのいずれかの和に基づいて、発生時刻t0を特定できる。なお、出力時刻tp、tnの和から求めた発生時刻t0と、出力時刻tpy、tnyの和から求めた発生時刻t0との平均値を採用してもよい。
【0194】
以上に説明した通り、SSPD素子がマトリクス状に配置された光子検出装置でも、極めてシンプルな回路構成で、検出電流が発生した位置及び時刻を特定できる。その結果、従来の光子検出装置に比べ、回路規模及び消費電力を大幅に削減できる。
【0195】
(第7の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図22を参照して、第7の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図22は、第7の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図22に示すように、第7の実施形態に係る光子検出装置では、
図18に示した第4の実施形態に係る光子検出装置と比べ、冷凍機内に、時間情報生成回路31、32及びリセット回路RSTが設けられている。また、
図18では冷凍機外に設けられている電流源CSが、
図22では冷凍機内に設けられている。
【0196】
図22に示すように、時間情報生成回路31、32は、第2伝送経路TL2の両端に設けられており、
図2、
図4に示した時間情報生成回路30と同様の構成を有している。
具体的には、時間情報生成回路31は、第2伝送経路TL2の一端に設けられており、抵抗素子R11、アナログ/デジタル変換器ADC11、電圧ドライバVD11を備えている。時間情報生成回路32は、第2伝送経路TL2の他端に設けられており、抵抗素子R12、アナログ/デジタル変換器ADC12、電圧ドライバVD12を備えている。
【0197】
なお、アナログ/デジタル変換器ADC11、ADC12は、
図2に示したアナログ/デジタル変換器ADC(すなわち
図4に示したDC/SFQ変換器DSC)に対応し、詳細な回路構成も同様である。また、電圧ドライバVD11、VD12は、
図2、
図4に示した電圧ドライバVD2に対応し、詳細な回路構成も同様である。
【0198】
例えば、
図22に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力されると、SQUID素子SQ2の両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2の一端に接続されたアナログ/デジタル変換器ADC11には、抵抗R11を介して、正のアナログパルス電圧Vapが入力される。アナログ/デジタル変換器ADC11は、アナログパルス電圧Vapをデジタル電圧信号Vdpに変換する。一方、第2伝送経路TL2の他端に接続されたアナログ/デジタル変換器ADC12には、抵抗R12を介して、負のアナログパルス電圧Vanが入力される。アナログ/デジタル変換器ADC12は、アナログパルス電圧Vanを反転させて、デジタル電圧信号Vdnに変換する。
【0199】
電圧ドライバVD11は、デジタル電圧信号Vdpを増幅し、時間情報信号Voutpを出力する。時間情報信号Voutpは、時間情報生成回路31の出力信号であって、冷凍機外に取り出される。同様に、電圧ドライバVD12は、デジタル電圧信号Vdnを増幅し、時間情報信号Voutnを出力する。時間情報信号Voutnは、時間情報生成回路32の出力信号であって、冷凍機外に取り出される。
なお、アナログパルス電圧Vanを反転させずに、デジタル電圧信号Vdn及び時間情報信号Voutnを負の電圧信号としてもよい。
【0200】
リセット回路RSTは、アナログ/デジタル変換器ADC11、ADC12から出力されたデジタル電圧信号Vdp、Vdnに基づいて、リセット信号Vrst11、Vrst12を生成する。リセット回路RSTにデジタル電圧信号Vdp、Vdnの両方が入力されると、リセット回路RSTがリセット信号Vrst11、Vrst12を出力する。
【0201】
リセット信号Vrst11は、電圧ドライバVD11に入力され、リセット信号Vrst12は、電圧ドライバVD12に入力される。検出電流I2の発生に伴って「0」から「1」に切り換わっていた時間情報信号Voutpの値が、リセット信号Vrst11によって、「1」から「0」にリセットされる。同様に、検出電流I2の発生に伴って「0」から「1」に切り換わっていた時間情報信号Voutnの値が、リセット信号Vrst12によって、「1」から「0」にリセットされる。
なお、
図22に示した時間情報信号Voutp、Voutnのリセット方法は、あくまでも一例であって、他にも様々な方法が考えられる。
【0202】
第4の実施形態と同様に、検出電流の発生時刻をt0、時間情報信号Voutpの出力時刻(立ち上がり時刻)をtp、時間情報信号Voutnの出力時刻(立ち上がり時刻)をtnとする。その場合、第4の実施形態と同様に、出力時刻tp、tnの差(tp-tn)に基づいて、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。また、出力時刻tp、tnの和(tp+tn)に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0203】
第5の実施形態では、第4の実施形態に比べ、第1伝送経路TL11~TL1nに磁気結合されたSQUID素子の個数を増やすことによって、正のパルス電圧Voutp及び負のパルス電圧Voutnの振幅を大きくしていた。これに対し、本実施形態では、時間情報生成回路31、32を設けることによって、第1伝送経路TL11~TL1nに磁気結合されたSQUID素子の個数を増やさずに、出力信号(時間情報信号Voutp、Voutn)の振幅を大きくできる。
【0204】
ここで、第1伝送経路に磁気結合されたSQUID素子の個数を増やす第5の実施形態に比べ、時間情報生成回路31、32を設ける本実施形態の方が、回路スペースの増大を抑制できる。
その他の構成は、第4の実施形態に係る光子検出装置と同様であるため、説明を省略する。
なお、当然のことながら、
図21に示した第6の実施形態と本実施形態とを組み合わせてもよい。
【0205】
(第8の実施形態)
<光子検出装置の詳細構成>
次に、
図23を参照して、第8の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図23は、第8の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
ここで、
図18に示した第4の実施形態に係る光子検出装置では、第2伝送経路TL2が、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと、それぞれ1個のSQUID素子SQ1~SQnを介して磁気結合されている。そして、第2伝送経路TL2の両端から出力される正のパルス電圧Voutp及び負のパルス電圧Voutnを用いて、検出電流が発生した位置及び時刻を特定する。
【0206】
これに対し、
図23に示すように、第8の実施形態に係る光子検出装置では、一対の第2伝送経路TL2a、TL2bが設けられている。そして、第2伝送経路TL2aは、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと、それぞれ1個のSQUID素子SQ1a~SQnaを介して磁気結合されている。同様に、第2伝送経路TL2bは、n本の第1伝送経路TL11~TL1nの全てと、それぞれ1個のSQUID素子SQ1b~SQnbを介して磁気結合されている。そして、第2伝送経路TL2a、TL2bの一端のみが冷凍機外まで延設されており、それぞれの一端から出力される正のパルス電圧Vouta、Voutbを用いて、検出電流が発生した位置及び時刻を特定する。
【0207】
詳細には、
図23に示すように、第2伝送経路TL2aには、冷凍機外に設けられた電流源CSaからバイアス電流Ibaが供給されている。バイアス電流Ibaの上流側に位置する第2伝送経路TL2aの一端には、直流電流であるバイアス電流Ibaを遮断するためのコンデンサCaが設けられている。コンデンサCaの一端は、電流源CSaに接続されている。そして、終端抵抗Rtaの一端に接続されたコンデンサCaの他端からパルス電圧Voutaが出力される。ここで、終端抵抗Rtaの他端は接地されている。
【0208】
他方、バイアス電流Ibaの下流側に位置する第2伝送経路TL2aの一端は、抵抗Raを介して接地されている。一端が接地された抵抗Raの他端は、一端が接地されたインダクタLaの他端に接続されており、第2伝送経路TL2aを介してバイアス電流IbaがインダクタLaに流れる。
【0209】
第2伝送経路TL2bも第2伝送経路TL2aと同様である。
詳細には、
図23に示すように、第2伝送経路TL2bには、冷凍機外に設けられた電流源CSbからバイアス電流Ibbが供給されている。バイアス電流Ibbの上流側に位置する第2伝送経路TL2bの一端には、直流電流であるバイアス電流Ibbを遮断するためのコンデンサCbが設けられている。コンデンサCbの一端は、電流源CSbに接続されている。そして、終端抵抗Rtbの一端に接続されたコンデンサCbの他端からパルス電圧Voutbが出力される。ここで、終端抵抗Rtbの他端は接地されている。
【0210】
他方、
図23に示すように、バイアス電流Ibbの下流側に位置する第2伝送経路TL2bの一端は、抵抗Rbを介して接地されている。一端が接地された抵抗Rbの他端は、一端が接地されたインダクタLbの他端に接続されており、第2伝送経路TL2bを介してバイアス電流IbbがインダクタLbに流れる。
なお、インダクタLa、Lbを設けずに、バイアス電流Iba、Ibbが抵抗Ra、Rbに流れる構成でもよい。また、インダクタLa、Lb、及び抵抗Ra、Rbを、冷凍機外に設けてもよい。
【0211】
図23に示すように、第2伝送経路TL2a上には、SQUID素子SQ1a~SQnaと遅延回路DC1a~DCnaとが交互に直列に接続されており、バイアス電流Ibaが流れる。同様に、第2伝送経路TL2b上には、SQUID素子SQ1b~SQnbと遅延回路DC1b~DCnbとが交互に直列に接続されており、バイアス電流Ibbが流れる。そのため、nの値によらずバイアス電流Iba、Ibbを一定にできる。
【0212】
図23に示すように、遅延回路DC1a~DCnaの構成は、
図18に示した遅延回路DC1~DCnの構成と同様である。例えば、遅延回路DC1aは、遅延回路DC1と同様に、SQUID素子SQ1aの寄生容量Cp1、インダクタL1、及び遅延線路DL1から構成されている。
【0213】
また、遅延回路DC1b~DC(n-1)bは、遅延回路DC1a~DC(n-1)aにおける遅延線路DL1~DL(n-1)に代えて、遅延時間の異なる遅延線路DL1b~DL(n-1)bを備えている。例えば、遅延回路DC1bは、SQUID素子SQ1bの寄生容量Cp1、インダクタL1、及び遅延線路DL1bから構成されている。
【0214】
なお、遅延回路DCna、DCnbは、いずれも
図18に示した遅延回路DCnと同様、寄生容量Cpn及びインダクタLnから構成され、遅延線路を備えていない。また、
図23に示すように、SQUID素子SQ1a~SQna、SQ1b~SQnbの寄生容量は、それぞれ
図18に示したSQUID素子SQ1~SQnの寄生容量Cp1~Cpnに等しいものとする。
また、遅延回路DC1b~DCnbにおけるSQUID素子SQ1b~SQnbの寄生容量及びインダクタは、遅延回路DC1a~DCnaにおけるSQUID素子SQ1a~SQnaの寄生容量及びインダクタと異なってもよい。
【0215】
<光子検出装置の動作>
例えば、
図23に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力されると、SQUID素子SQ2a、SQ2bの両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2a、第2伝送経路TL2bの一端からそれぞれパルス電圧Vouta、Voutbが出力される。
【0216】
検出電流I2の発生時刻をt0とすると、パルス電圧Voutaの出力時刻taは、時刻t0から遅延回路DC1aによる遅延時間だけ遅れる。すなわち、パルス電圧Voutaの出力時刻taの時刻t0からの遅延時間(ta-t0)は、遅延回路DC1aによる遅延時間Taに等しくなる。ここで、遅延回路DC1a~DC(n-1)aの遅延時間は、等しくTaであるものとする。
【0217】
同様に、パルス電圧Voutbの出力時刻tbは、時刻t0から遅延回路DC1bによる遅延時間Tbだけ遅れる。すなわち、パルス電圧Voutbの出力時刻tbの時刻t0からの遅延時間(tb-t0)は、遅延回路DC1bによる遅延時間に等しくなる。ここで、遅延回路DC1b~DC(n-1)bの遅延時間は、等しくTb(≠Ta)であるものとする。
【0218】
この場合、パルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との差(ta-t0)-(tb-t0)は、Ta-Tbとなる。
一方、パルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との和(ta-t0)+(tb-t0)は、Ta+Tbとなる。
【0219】
比較のために、時刻t0に第1伝送経路TL1nにおいて検出電流Inが発生した場合を考える。この場合、パルス電圧Voutaの出力時刻taの時刻t0からの遅延時間(ta-t0)は、遅延回路DC1a~DC(n-1)aによる遅延時間(n-1)Taに等しくなる。他方、パルス電圧Voutbの出力時刻tbの時刻t0からの遅延時間(tb-t0)は、遅延回路DC1b~DC(n-1)bによる遅延時間(n-1)Tbに等しくなる。
【0220】
従って、パルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との差(ta-t0)-(tb-t0)は、(n-1)(Ta-Tb)となる。
一方、パルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との和(ta-t0)+(tb-t0)は、(n-1)(Ta+Tb)となる。
【0221】
一般化すると、k(1≦k≦n)番目の第1伝送経路TL1kにおけるパルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との差(ta-t0)-(tb-t0)は、(k-1)(Ta-Tb)となる。この遅延時間の差(ta-t0)-(tb-t0)は、出力時刻ta、tbの差(ta-tb)に等しい。
【0222】
すなわち、ta-tb=(k-1)(Ta-Tb)が成立する。
従って、k=(ta-tb)/(Ta-Tb)+1が成立し、Tb≠Taであるため、出力時刻ta、tbの差(ta-tb)に基づいて、kの値が得られる。すなわち、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。その結果、検出電流を出力したSSPD素子を特定できる。
【0223】
他方、k番目の第1伝送経路TL1kにおけるパルス電圧Voutaの遅延時間(ta-t0)と、パルス電圧Voutbの遅延時間(tb-t0)との和(ta+tb-2×t0)は、(k-1)(Ta+Tb)となる。
すなわち、ta+tb-2×t0=(k-1)(Ta+Tb)が成立する。
従って、t0={ta+tb-(k-1)(Ta+Tb)}/2が成立し、得られたkの値を代入すれば、出力時刻ta、tbの和(ta+tb)に基づいて、検出電流の発生時刻t0も特定できる。
【0224】
図18に示した第4の実施形態等のように、両端から出力される正のパルス電圧Voutp及び負のパルス電圧Voutnを用いる場合、ほぼ同時に複数の検出電流が発生した場合に、その位置及び時刻を正確に特定できない虞があった。一例として、
図18において、1番目の第1伝送経路TL11に検出電流が発生した直後に、n番目の第1伝送経路TL1nに検出電流が発生した場合について考える。この場合、2組のパルス電圧Voutp、Voutnが発生する。
【0225】
ここで、第1伝送経路TL11において先に発生した検出電流による正のパルス電圧Voutpは、第1伝送経路TL1nにおいて後から発生した検出電流による正のパルス電圧Voutpよりも先に観測される。つまり、第1伝送経路TL11の方が、第1伝送経路TL1nよりも正のパルス電圧Voutpの出力に近いため、正のパルス電圧Voutpは検出電流が発生した順番に観測される。
【0226】
しかしながら、第1伝送経路TL11において先に発生した検出電流による負のパルス電圧Voutnは、第1伝送経路TL1nにおいて後から発生した検出電流による負のパルス電圧Voutnよりも後に観測される虞がある。つまり、第1伝送経路TL11の方が、第1伝送経路TL1nよりも負のパルス電圧Voutnの出力から遠いため、負のパルス電圧Voutnは、検出電流が発生した順番と逆順に観測される虞がある。
このように、検出電流が発生する順番とパルス電圧が観測される順番とが逆転すると、観測された正のパルス電圧Voutpと負のパルス電圧Voutnとを1対1で対応付けられず、検出電流が発生した位置及び時刻を正確に特定できない。
【0227】
これに対し、本実施形態では、正のパルス電圧Voutp及び負のパルス電圧Voutnを用いずに、正のパルス電圧Vouta、Voutbのみを用いる。そのため、検出電流が発生する順番とパルス電圧Vouta、Voutbが観測される順番とが必ず一致する。従って、ほぼ同時に複数の検出電流が発生しても、パルス電圧Vouta、Voutbを1対1で対応付けられ、検出電流が発生した位置及び時刻を正確に特定できる。
【0228】
その他の構成は、第4の実施形態に係る光子検出装置と同様であるため、説明を省略する。
なお、本実施形態と第5の実施形態とを組み合わせてもよい。すなわち、第2伝送経路TL2a、TL2bのそれぞれにおいて、第1伝送経路TL11~TL1nに磁気結合されたSQUID素子の個数を増やすことによって、パルス電圧Vouta、Voutbの振幅を大きくしてもよい。
また、第2伝送経路TL2a、TL2bの各一端から出力される正のパルス電圧Vouta、Voutbに代えて、各他端から出力される負のパルス電圧を用いて、検出電流が発生した位置及び時刻を特定してもよい。
【0229】
(第9の実施形態)
次に、
図24を参照して、第9の実施形態に係る光子検出装置の構成について説明する。
図24は、第9の実施形態に係る光子検出装置の詳細構成を示すブロック図である。
図24に示すように、第9の実施形態に係る光子検出装置は、
図23に示した第8の実施形態と
図22に示した第7の実施形態とを組み合わせた構成を有している。
【0230】
図24に示すように、第9の実施形態に係る光子検出装置では、
図23に示した光子検出装置と比べ、冷凍機内に、時間情報生成回路31a、31b及びリセット回路RSTが設けられている。また、
図23では冷凍機外に設けられている電流源CSa、CSbが、
図24では冷凍機内に設けられている。
【0231】
図24に示すように、時間情報生成回路31a、31bは、それぞれ第2伝送経路TL2a、TL2bの一端に設けられており、
図22に示した時間情報生成回路31と同様の回路構成を有している。具体的には、時間情報生成回路31aは、抵抗素子R11a、アナログ/デジタル変換器ADC11a、電圧ドライバVD11aを備えている。時間情報生成回路31bは、抵抗素子R11b、アナログ/デジタル変換器ADC11b、電圧ドライバVD11bを備えている。
【0232】
例えば、
図24に示すように、第1伝送経路TL12が接続されたSSPD素子からパルス状の検出電流I2が出力されると、SQUID素子SQ2a、SQ2bの両端に一時的に電位差が生じる。その結果、第2伝送経路TL2aの一端に接続されたアナログ/デジタル変換器ADC11aには、抵抗R11aを介して、正のアナログパルス電圧Vaaが入力される。アナログ/デジタル変換器ADC11aは、アナログパルス電圧Vaaをデジタル電圧信号Vdaに変換する。一方、第2伝送経路TL2bの一端に接続されたアナログ/デジタル変換器ADC11bには、抵抗R11bを介して、正のアナログパルス電圧Vabが入力される。アナログ/デジタル変換器ADC11bは、アナログパルス電圧Vabをデジタル電圧信号Vdbに変換する。
【0233】
電圧ドライバVD11aは、デジタル電圧信号Vdaを増幅し、時間情報信号Voutaを出力する。時間情報信号Voutaは、時間情報生成回路31aの出力信号であって、冷凍機外に取り出される。同様に、電圧ドライバVD11bは、デジタル電圧信号Vdbを増幅し、時間情報信号Voutbを出力する。時間情報信号Voutbは、時間情報生成回路31bの出力信号であって、冷凍機外に取り出される。
【0234】
リセット回路RSTは、アナログ/デジタル変換器ADC11a、ADC11bから出力されたデジタル電圧信号Vda、Vdbに基づいて、リセット信号Vrsta、Vrstbを生成する。リセット回路RSTにデジタル電圧信号Vda、Vdbの両方が入力されると、リセット回路RSTがリセット信号Vrsta、Vrstbを出力する。
【0235】
リセット信号Vrstaは、電圧ドライバVD11aに入力され、リセット信号Vrstbは、電圧ドライバVD11bに入力される。検出電流I2の発生に伴って「0」から「1」に切り換わっていた時間情報信号Voutaの値が、リセット信号Vrstaによって、「1」から「0」にリセットされる。同様に、検出電流I2の発生に伴って「0」から「1」に切り換わっていた時間情報信号Voutbの値が、リセット信号Vrstbによって、「1」から「0」にリセットされる。
【0236】
第8の実施形態と同様に、検出電流の発生時刻をt0、時間情報信号Voutaの出力時刻(立ち上がり時刻)をta、時間情報信号Voutbの出力時刻(立ち上がり時刻)をtbとする。その場合、第8の実施形態と同様に、出力時刻ta、tbの差(ta-tb)に基づいて、第1伝送経路TL11~TL1nのいずれにおいて検出電流が発生したのかを知ることができる。また、出力時刻ta、tbの和(ta+tb)に基づいて、検出電流の発生時刻t0を特定できる。
【0237】
本実施形態では、時間情報生成回路31a、31bを設けることによって、第1伝送経路TL11~TL1nに磁気結合されたSQUID素子の個数を増やさずに、出力信号(時間情報信号Vouta、Voutb)の振幅を大きくできる。すなわち、回路スペースの増大を抑制しつつ、出力信号の振幅を大きくできる。
【0238】
この出願は、2019年3月1日に出願された日本出願特願2019-037650及び2019年5月13日に出願された日本出願特願2019-090365を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0239】
10 SSPDアレイ
20 アドレス情報生成回路
30、31、31a、31b、32 時間情報生成回路
ADC、ADC1~ADCn、ADC31~ADC34 アナログ/デジタル変換器
ADC11、ADC11a、ADC11b、ADC12 アナログ/デジタル変換器
AND ANDゲート
BE、BE30 バイナリエンコーダ
BUF バッファ回路
CMP1~CMPn コンパレータ
C1~C4、Ca、Cb コンデンサ
CS、CS1、CS11、CS31~CS34、CSa、CSb、CSy 電流源
DFF1~DFF3 Dフリップフロップ
Cp1~Cpn 寄生容量
Cp11~Cp13、・・・、Cpn1~Cpn3 寄生容量
DC、DC11~DC13、・・・、DC41~DC43 遅延回路
DC1~DCn、DC1a~DCna、DC1b~DCnb 遅延回路
DL1~DL(n-1)、DL1b~DL(n-1)b 遅延線路
DSC DC/SFQ変換器
FED 立ち下がりエッジ検出回路
INV インバータ
J1、J2、J11~J13 ジョセフソン接合
L1、L2、L11~L16、L31~L34、Lq インダクタ
L11~L13、L21~L23、・・・、Ln1~Ln3 インダクタ
L、La、Lb、Ly、L1~Ln インダクタ
Lout 出力インダクタ
Lx1、Lx2 励磁インダクタ
MC1~MCn 磁気結合素子
OR、OR1、OR2 ORゲート
PSC パラレル/シリアル変換器
QSC1~QSC4 QFP/SFQ変換器
R、Ra、Rb、Rs、R1~Rn、R31~R33 抵抗素子
R11、R11a、R11b、R12 抵抗素子
Rt1~Rt4、Rta、Rtb 終端抵抗
RED 立ち上がりエッジ検出回路
Rm マッチング抵抗
RST リセット回路
SQ1~SQn、SQ11~SQ1k、SQ21~SQ2k SQUID素子
SQ11~SQ13、・・・、SQn1~SQn3 SQUID素子
SQ1a~SQna、SQ1b~SQnb SQUID素子
SS SSPD素子
TL11~TL1n 第1伝送経路
TL2、TL2a、TL2b 第2伝送経路
TL31~TL33 第3伝送経路
TL4 第4伝送経路
VD1、VD11、VD11a、VD11b、VD12、VD2 電圧ドライバ