(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】VOC処理用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/89 20060101AFI20230907BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230907BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230907BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B01J23/89 A ZAB
B01J37/02 101D
B01J37/08
B01D53/86 280
(21)【出願番号】P 2019148834
(22)【出願日】2019-08-14
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】394027559
【氏名又は名称】三谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】染川 正一
(72)【発明者】
【氏名】川見 佳正
(72)【発明者】
【氏名】藤原 哲之
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105013508(CN,A)
【文献】特開2019-013871(JP,A)
【文献】特開2008-086987(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157721(WO,A1)
【文献】特開2010-279911(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104084191(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)
:
(a)白金を原料とする担持液を調製する工程;
(b)コバルト・セリウム系複合酸化物を担持した担体を、前記担持液に浸漬する工程;及び
(c)前記浸漬後の担体を焼成する工程
を含み、
前記工程(a)における前記白金として、分散剤で保護された白金コロイドの溶液の原料を用い、
前記工程(b)において、前記担体は、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金及びセラミックス材の何れか1つを所望形状に成形したものであり、
前記コバルト・セリウム系複合酸化物上に白金を直接担持する
ことを特徴とするVOC処理用触媒の製造方法。
【請求項2】
白金の含有量a(単位:質量%)を0<a≦1.1とすることを特徴とする請求項1に記載のVOC処理用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物(VOC)処理用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装工場、印刷工場、化学工場等からの排ガスによる悪臭や大気汚染の問題、家庭・オフィスで使用される建材・電子機器等から放散され健康被害の要因となりうる揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:以下「VOC」と表記する。)を簡易的に処理する技術が求められている。処理方法として直接燃焼法、蓄熱燃焼法、触媒燃焼法、吸着処理法、プラズマ法等、各種の方法が提案されているが、これらの中で、触媒燃焼法は比較的低温で燃焼処理ができることから広く適用されている。
【0003】
しかしながら、触媒燃焼法による処理には一般に300~350℃程度の温度が必要となるため、加熱のための電気代、燃料費がかかるという問題点があった。またこの方法を家庭・オフィス向け処理装置に応用する場合においても電気代が高くなり、安全性確保や小型化実現等の課題も生じ、適用範囲が限定されていた。適用範囲を拡大するためにも、より低温で高活性を示す触媒が求められていた。
【0004】
VOCの種類によって触媒処理性能に差が生じることが多く、例えば、市販の白金担持アルミナ(Pt/Al2O3)触媒を用いて一般的な条件で処理する場合、トルエンのような芳香族炭化水素は200~250℃程度の比較的低温で処理できるが、ベンゼン環を含まない酢酸エチル等の処理には300~350℃程度の比較的高温が必要となる。一方、既に提案済みのコバルト・セリウム系複合酸化物(Co3O4-CeO2)触媒(特許文献1、2)を用いた場合、逆にベンゼン環を含まない酢酸エチル等のVOCを200~250℃程度の比較的低温で処理できるが、芳香族炭化水素の処理には300℃程度の比較的高温が必要となる。このため、ベンゼン環を含むVOCとそれを含まないVOCを個別に処理する場合にはよいが、両者のVOCを300℃より低い温度領域で同時に処理するための新たな触媒を開発する課題が生じた。
【0005】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った発明者らは、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒に直接担持、さらに好ましくはコロイド溶液を原料とするという方法で所定量の白金を担持させるという新規な組み合わせにより、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒の低温活性がより高まることを見出し、芳香環を含む、含まないに関わらず低温で高い活性が持続可能なVOC処理用触媒に関する発明を提案した(特許文献3)。従来から広く用いられている典型的な原料である塩化白金酸を用いてコバルト・セリウム系複合酸化物触媒上に白金を担持しようとした場合、白金が均一に分散されず凝集してしまい、性能が向上しないことが特許文献3により明らかになっている。分散剤で保護された白金コロイドを原料とすることにより、コバルト・セリウム系複合酸化物触媒への白金の直接担持に成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再表2014/157721号公報
【文献】特開2018-126738号公報
【文献】特開2019-13871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3は粉末触媒を用いた検討結果に基づき提案したものであり、工業的に本技術を適用する際はボールやハニカム等の担体に、白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物を担持しなければならない。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされてものであり、コバルト・セリウム系複合酸化物へ白金を直接担持させるとともに、ボールやハニカム等の担体への担持に際して触媒性能が向上する技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、担持液中の白金量が同じ場合、予めセラミックス製のハニカム担体上にコバルト・セリウム系複合酸化物を担持したのち、別の担持液を用いて白金を担持(後付け)する方が、性能が良くなることを見出した。市販の従来触媒である白金担持アルミナの半分以下(1.1質量%以下)の白金量で、50℃以上低い温度でトルエン及び酢酸エチルの混合成分を完全燃焼させることができた。さらに、塗装ブースにおけるシンナー吹き付け分岐排ガスを用いた触媒性能評価においても、セラミックス製のハニカム担体上に担持させた白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物を用いることにより、ベンゼン環を含むVOC(芳香族炭化水素)及びベンゼン環を含まないVOCの両方を含む成分を250℃で完全燃焼させることに成功した。本発明はこのような知見に基づき完成するに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明のVOC処理用触媒の製造方法は、以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴としている:
(a)白金を原料とする担持液を調製する工程;
(b)コバルト・セリウム系複合酸化物を担持した担体を、前記担持液に浸漬する工程;及び
(c)前記浸漬後の担体を焼成する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、白金直接担持コバルト・セリウム系複合酸化物触媒を製造でき(アルミナ等の典型的な担体上にコバルト・セリウム系複合酸化物及び白金を担持するのではなく、コバルト・セリウム系複合酸化物上に直接白金を担持でき)、市販の白金アルミナ触媒やコバルト・セリウム系複合酸化物触媒と比較して低い温度で高い性能を確保できる。これにより、工場等での処理温度を低下させることによる電気代、燃料費の削減や家庭・オフィス向け小型触媒処理装置の実用化が可能となる。さらに既存の触媒では対応が困難であった低温仕様の触媒の処理技術分野への用途拡大を図ることで、大気汚染、室内環境の改善に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】トルエン単一成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して混合担持、二度漬けした時の違いを示す図である。
【
図2】酢酸エチル単一成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して混合担持、二度漬けした時の違いを示す図である。
【
図3】トルエン及び酢酸エチル混合成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して混合担持、二度漬けした時の違いを示す図である。
【
図4】トルエン及び酢酸エチル混合成分燃焼時における完全燃焼温度に関して混合担持、二度漬けした時の違いをまとめた図である。
【
図5】トルエン単一成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して白金担持量を変えた時の違いを示す図である。
【
図6】酢酸エチル単一成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して白金担持量を変えた時の違いを示す図である。
【
図7】トルエン及び酢酸エチル混合成分燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性に関して白金担持量を変えた時の違いを示す図である。
【
図8】トルエン及び酢酸エチル混合成分燃焼時における完全燃焼温度に関して白金担持量を変えた時の違いをまとめた図である。
【
図9】塗装ブースにおけるシンナー吹き付け分岐排ガスを用いた触媒性能評価系を示す図である。
【
図10】シンナー吹き付け分岐排ガス中のVOC成分の燃焼時におけるCO
2生成率(燃焼率)の温度依存性を示す図である。(a)市販従来触媒 白金担持アルミナ触媒、(b)コバルト・セリウム系複合酸化物触媒(白金担持なし)、(c)白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物触媒
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明において、前記工程(a)は、白金を原料とする担持液に特に制限はないが、分散剤で保護された白金コロイドの溶液を原料とすることが好ましい。白金コロイドの溶液を原料とした場合、担持される白金粒子の分散性を高めることができる。白金コロイドの保護剤としては、ポリビニルポロリドンが好適であるが、それ以外にも、たとえば、ポリビニルポロリドン以外の高分子、配位子、ミセル等を使用することを妨げない。
【0015】
本発明において、前記工程(b)は、コバルト・セリウム系複合酸化物に特に制限はないが、特許文献1、2が参照される。その一例を示すと、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子を、コバルトイオン生成可能な塩又は化合物、セリウムイオンを生成可能な塩又は化合物、及び水と混合して触媒浸漬液を調製する工程、得られた触媒浸漬液を担体に浸漬処理する工程、及び浸漬処理後の担体を焼成する工程によって製造することができる。これにより、担体物質に、触媒粒子が担持される。触媒粒子は、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子のまわりがコバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物及びセリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物で覆われている。ここで平均粒子径は、レーザー回折法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(d0.5)を意味する。また、「コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物で覆われている」とは、コバルト酸化物粒子の表面にコバルト酸化物及びセリウム酸化物が形成されていることを意図する。したがって、触媒粒子は、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子と、コバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物と、セリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物と、を有して構成されており、前記コバルト酸化物及び前記セリウム酸化物が前記コバルト酸化物粒子の表面に形成されている。触媒粒子は、コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物の他、銅イオンを前駆体とする銅酸化物で覆われていてもよい。すなわち、触媒粒子は、さらに銅イオンを前駆体とする銅酸化物を有して構成され、前記コバルト酸化物、前記セリウム酸化物、及び前記銅酸化物が前記コバルト酸化物粒子の表面に形成されていてもよい。担持触媒は、触媒粒子の分散性向上のために、複合ケイ酸塩を主体とする粘土鉱物を有してもよく、触媒粒子同士が分散された構造であってもよい。
【0016】
コバルト酸化物粒子は、各種のコバルト化合物、例えば炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機酸塩やアルコラート、カルボン酸塩、錯塩等の有機化合物や有機塩等の焼成物、乾固物であってよい。なかでも炭酸塩を前駆体とした化合物を空気中250~400℃で低温焼成することで作製したものが好ましい。また、コバルト酸化物粒子は、平均粒子径が0.8~2.0μmの範囲内に粉砕処理されたものであることも好ましい。粉砕処理は乾式粉砕処理でもよいし湿式粉砕処理でもよくその処理方法は問わない。例えば、乾式ジェットミルを用いて粉砕処理を行ってもよいし、乾式ビーズミル法や湿式回転ボールミル法等によって粉砕処理を行ってもよい。コバルト酸化物粒子の平均粒子径が0.8μm未満の場合には、コバルトの酸化物粒子同士が凝集しやすくなり、加熱下でその比表面積低下を招き、活性が低下しやすいので好ましくない。また、2.0μmを超える場合には、担体との接着面積が小さく、剥離しやすくなるため好ましくない。かかる観点から、活性が低下しにくく耐久性が良好でありしかも剥離性が良好な、耐久性と剥離性とのバランスが良好な担持触媒を得るためには、コバルト酸化物粒子の平均粒子径は0.8~2.0μmの範囲が好ましい。
【0017】
そして本発明での前記コバルトイオン、セリウムイオンは、コバルト、そしてセリウムが塩もしくは化合物として水溶性のものとして形成される。例えば、硝酸塩、硫酸塩等である。このようなコバルトイオン、セリウムイオンには、銅イオンを共存させてもよい。銅イオンを共存させて製造した担持触媒は、コバルト酸化物粒子のまわりがコバルト酸化物及びセリウム酸化物の他、銅イオンを前駆体とする銅酸化物で覆われたものとなる。銅イオンは、触媒粒子の酸化物質量比で0.1~30質量%の範囲になるようにコバルトイオン及びセリウムイオンに共存させるのがより好ましい。これによって、触媒性能がより良好な担持触媒を得ることができる。
【0018】
そして、本発明において用いられる担体は従来公知のものをはじめとして各種のものでよい。例えば、好ましいものとしては、ステンレス鋼、鉄鋼、銅合金、アルミニウム合金及びセラミックス材の何れか1つを所望形状に成形したものが例示される。具体的には、ボールやハニカム等が挙げられる。また、担体については、直径5μm~50μm程度の気孔を表面に有する多孔質構造体を採用することができ、本発明の担持触媒として、この担体に触媒粒子が保持された構造にすることもできる。
【0019】
以上のようなエレメント(要素)により構成される担持触媒は、各種の方法であってもよいが、好ましくは以下のプロセスによって製造することができる。
【0020】
すなわち、まず、平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子を、コバルトイオン生成可能な塩や化合物、セリウムイオン生成可能な塩や化合物、そして水とともに混合して触媒浸漬液を調製する。必要に応じて、銅イオン生成可能な塩や化合物や、カオリン、活性白土等の複合ケイ酸塩を主体とする粘土鉱物を混合して触媒浸漬液を調製してもよい。次いで、これを担体に浸漬処理し、脱水後に焼成する。この焼成によってコバルトイオン、セリウムイオンは各々酸化物に変換されることになる。触媒浸漬液に銅イオンが含まれる場合には、この焼成によって銅イオンも酸化物に変換されることになる。
【0021】
本発明の担持触媒において、(i)平均粒子径0.8~2.0μmのコバルト酸化物粒子、(ii)コバルトイオンを前駆体とするコバルト酸化物、(iii)セリウムイオンを前駆体とするセリウム酸化物の質量比については、特に限定されないが、(i):20~50質量%、(ii):6~12質量%、(iii):39~66質量%が考慮される。また焼成温度については、特に限定されないが、200~600℃が考慮される。また、担体への担持量についても、触媒の使用対象のVOCの種類や処理条件等を考慮して適宜に定めることができるが、一般的には、質量比として、担体に対して10~30質量%の範囲が好ましく考慮される。
【0022】
前記工程(b)では、前記白金として、分散剤で保護された白金コロイドの溶液の原料を用い、コバルト・セリウム系複合酸化物上に白金を直接担持し、白金の含有量a(単位:質量%)を0<a≦1.1とすることが好ましい。この範囲であると触媒性能の向上等に適している。
【0023】
前記工程(c)では、コバルト・セリウム系複合酸化物を担持した担体を、白金を原料とする担持液に浸漬した後、浸漬後の担体を焼成する。焼成温度については、特に限定されないが、200~600℃が考慮される。
【0024】
本発明によれば、予め担体上にコバルト・セリウム系複合酸化物を担持したのち、別の担持液を用いて白金を担持(後付け)することで、触媒性能を高めることができる。たとえば、市販の白金アルミナ触媒やコバルト・セリウム系複合酸化物触媒と比較して低い温度で高い性能を確保できる。これにより、工場等での処理温度を低下させることによる電気代、燃料費の削減や家庭・オフィス向け小型触媒処理装置の実用化が可能となる。さらに既存の触媒では対応が困難であった低温仕様の触媒の処理技術分野への用途拡大を図ることで、大気汚染、室内環境の改善に貢献できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.小型固定床流通層型装置による触媒性能評価
小型固定床流通層型装置による触媒性能評価を以下のように行った。
【0026】
管状電気炉内に設置した触媒充填管(内径3mm)内に、粒径約1mmに粉砕した担持触媒を充填し、この充填層にトルエン、酢酸エチルのいずれか、又は両方の蒸気を含む乾燥空気を連続的に流通させた。乾燥空気の体積に対するトルエン、酢酸エチル(蒸気)の体積の割合は、約260~270ppmの範囲に調整した。空間速度は約10000h-1、流速は100mL・min-1とした。
【0027】
管状電気炉内の触媒充填層の温度の制御に関しては次のとおりとした。担持触媒を充填した充填管を乾燥空気流通下で400℃に昇温した後、トルエン、酢酸エチルのいずれか、又は両方の蒸気を含む乾燥空気を流通させ1時間その温度を保持し、その後30℃まで1分間に1℃ずつ降温させた。降温時に熱伝導度検出器付きガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent 3000 Micro GC)を用いてガス中のCO2濃度、及びトルエン、酢酸エチル濃度を測定した。トルエン、酢酸エチルが完全燃焼した際のガス中のCO2濃度をC1、触媒充填層を通過した後に生成したガス中のCO2濃度をC2とした時、CO2生成率(燃焼率)a(%)はa=C2/C1×100の式から求めた。
【0028】
白金の担持方法に関し、コバルト・セリウム系複合酸化物原料と白金原料を同じ担持液に混合し、セラミックス製のハニカム担体上に担持する方法(混合担持という)、及びセラミックス製のハニカム担体上にコバルト・セリウム系複合酸化物を担持したのち、別の担持液を用いて白金を担持する方法(二度漬けという)の二通りの方法を評価・比較した。
【0029】
硝酸セリウム六水和物186g、硝酸コバルト六水和物42g、四三酸化コバルト47g、硝酸銅三水和物1.2g、純水200mLを混合、撹拌し担持液1とした。
【0030】
担持液1と白金コロイド溶液(分散剤ポリビニルピロリドンで保護された白金コロイド溶液、溶液中の白金含有量:4質量%、田中貴金属工業株式会社製)1.7gを混合、撹拌した溶液の中に、セラミックス製のハニカム担体を約15秒間浸漬した後、乾燥させ、空気中において380℃で3時間焼成することにより担持触媒1(混合担持の条件で担持した触媒)を得た。
【0031】
担持液1の中に、セラミックス製のハニカム担体を約15秒間浸漬した後、乾燥させ、空気中において380℃で3時間焼成することにより担持触媒2(コバルト・セリウム系複合酸化物(白金担持なし))を得た。
【0032】
図1にトルエン単一成分に対する、
図2に酢酸エチル単一成分に対する、
図3にトルエン及び酢酸エチルの混合成分に対する触媒活性(CO
2生成率(燃焼率)の温度依存性)を示す。
図1、
図2、
図3において混合担持の条件Bでは、白金を担持しない場合Aと比べてトルエン、酢酸エチルの完全燃焼温度(a=100%に達する温度)に大きい違いは見られなかった。
【0033】
白金コロイド溶液1.7gと純水200mLを混合、撹拌した溶液の中に担持触媒2を約15秒間浸漬した後、乾燥させ、空気中において380℃で3時間焼成することにより担持触媒3(二度漬けの条件で担持した触媒)を得た。担持触媒表面上の白金量はエネルギー分散型蛍光X線分析(株式会社堀場製作所製、X線分析顕微鏡 XGT-7200V)により求めた。
【0034】
図1において二度漬けの条件Cでは、白金を担持しない場合Aと比べてトルエン単一成分に対する完全燃焼温度は30℃程度低くなった。
図2において二度漬けの条件Cでは、白金を担持しない場合Aと比べて酢酸エチル単一成分に対する完全燃焼温度にほとんど違いは見られなかった。
図3において二度漬けの条件Cでは、白金を担持しない場合Aと比べてトルエン及び酢酸エチルの混合成分に対する完全燃焼温度は40℃以上低くなった。トルエン及び酢酸エチルの混合成分に対する完全燃焼温度を
図4にまとめた。
【0035】
担持触媒1(混合担持の条件で担持した触媒)の表面上の白金量を蛍光X線分析により求めたところ、0.01質量%(原子組成百分率で0.01原子%未満)であり、担持触媒3(二度漬けの条件で担持した触媒)の表面上の白金量は、0.05質量%(0.01原子%)であった。二度漬けの条件では担持白金が外表面に集中するため、担持液中の白金量が同じ場合、混合担持よりも二度漬けの方が低温活性に優れることが示された。酢酸エチルのみを処理する場合は、白金を担持しなくても良いが、トルエン単一成分、トルエン及び酢酸エチルの混合成分を処理する場合は、二度漬けで白金を担持することが優位となる。
【0036】
白金量を変えて担持液を調製した時の担持触媒表面上の白金量、触媒性能を評価・比較した。
【0037】
白金コロイド溶液1.7gと純水200mLを混合、撹拌した溶液の中に担持触媒2を約1分間浸漬した後、乾燥させ、空気中において380℃で3時間焼成することにより担持触媒4を得た。
【0038】
担持触媒4の表面上の白金量を蛍光X線分析により求めたところ、0.06質量%(0.01原子%)であった。
図5にトルエン単一成分に対する、
図6に酢酸エチル単一成分に対する、
図7にトルエン及び酢酸エチルの混合成分に対する触媒活性(CO
2生成率(燃焼率)の温度依存性)を示す。
図5、
図6、
図7において白金量0.05質量%の条件Bは前述の結果である。
図5では条件Bより白金量0.06質量%の条件Cの方が30℃程度、完全燃焼温度が低くなったが、
図6、
図7では条件Bと条件Cとで完全燃焼温度にほとんど違いはなかった。条件Cと白金を担持しない場合Aを比較すると、酢酸エチル単一成分では完全燃焼温度にほとんど違いは見られない(
図6)が、トルエン単一成分に対しては白金を担持することにより完全燃焼温度が60℃程度低くなり(
図5)、トルエン及び酢酸エチルの混合成分に対しては50℃程度低くなった(
図7)。トルエン及び酢酸エチルの混合成分に対する完全燃焼温度を
図8にまとめた。
【0039】
白金コロイド溶液17gと純水200mLを混合、撹拌した溶液の中に担持触媒2を約1分間浸漬した後、乾燥させ、空気中において380℃で3時間焼成することにより担持触媒5を得た。
【0040】
担持触媒5の表面上の白金量を蛍光X線分析により求めたところ、0.76質量%(0.09原子%)であった。
図5、
図6、
図7において白金量0.76質量%の条件Dと白金を担持しない場合Aを比較すると、酢酸エチル単一成分では完全燃焼温度にほとんど違いは見られない(
図6)が、トルエン単一成分に対しては白金を担持することにより完全燃焼温度が90℃程度低くなり(
図5)、トルエン及び酢酸エチルの混合成分に対しては60℃程度低くなった(
図7)。酢酸エチルのみを処理する場合は、白金を担持しなくても良いが、トルエン単一成分、トルエン及び酢酸エチルの混合成分を処理する場合は、白金量を増加させた方が優位となる。
【0041】
市販従来触媒白金担持アルミナ(日揮ユニバーサル株式会社製)の表面上の白金量、触媒性能を評価・比較した。
【0042】
市販従来触媒白金担持アルミナの表面上の白金量を蛍光X線分析により求めたところ、2.2質量%(0.32原子%)であった。
図5、
図7において白金量0.76質量%の条件Dと白金担持アルミナ使用時Eを比較すると、トルエン単一成分に対しては白金担持アルミナの方が完全燃焼温度が10℃程度低い(
図5)が、トルエン及び酢酸エチルの混合成分に対しては白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物(条件D)の方が50℃以上低くなった(
図7)。トルエン及び酢酸エチルの混合成分を処理する場合は、白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物を使用する方が優位となる。担持触媒5の表面上の白金量は、白金担持アルミナの表面上の白金量の半分以下の量であるが、50℃以上低い温度でトルエン及び酢酸エチルの混合成分を完全燃焼させることができた。
【0043】
2.塗装ブースにおけるシンナー吹き付け分岐排ガスを用いた触媒性能評価
塗装ブースにおけるシンナー吹き付け分岐排ガスを用いた触媒性能評価は以下のように行った。触媒性能評価系を
図9に示す。スプレーガンを用いて塗装ブース内でシンナー吹き付けを行い、吹き付け後の気化した成分を排ガスダクトに通過させた。熱線式風量計により実測したダクトを通過する排ガスの空塔速度(線速度)は8600m/h、風量は3400m
3
N/hであった。
【0044】
触媒充填層内に、担持触媒(担体:15×15×50mmのセラミックス製のハニカム)を充填し、この充填層にダクト分岐排ガスを連続的に流通させた。リボンヒーターを予熱層及び触媒充填層に巻き付け加熱した。空間速度は約29000h-1とした。触媒処理前後のガス中のVOC総濃度及び触媒処理後のガス中のCO2濃度をそれぞれ、VOC総濃度分析計(水素炎イオン化型検出器(FID)付き、東亜ディーケーケー株式会社製、GHT-200型)、CO2濃度計(理研計器株式会社製、赤外線式CO2モニター RI-215D)を用いて計測した。触媒処理前のダクト分岐排ガス中のVOC総濃度(単位:ppmC)をC3、触媒充填層を通過した後に生成したガス中のCO2濃度(単位:ppm)をC4とした時、CO2生成率(燃焼率)b(%)はb=C4/C3×100の式から求めた。触媒充填層の温度を300℃から150℃に減少させた時のCO2生成率(燃焼率)を50℃おきに求めた。本試験におけるC3の値は、700~900ppmCの範囲に調整した。
【0045】
触媒処理前のダクト分岐排ガス中のVOC成分(吹き付けに用いたシンナーが気化された成分)をガスクロマトグラフ/質量分析計(アジレント・テクノロジー株式会社製、Agilent 7890A GC 5975C GC/MSD)により分析した。ガスクロマトグラム中に検出された成分のピーク面積比を表1に示す。ベンゼン環を含むVOC(芳香族炭化水素)であるトルエン及びベンゼン環を含まないVOCである酢酸エチル、酢酸ブチル等が混在した排ガス組成であった。
ガスクロマトグラフ/質量分析により検出された触媒処理前のダクト分岐排ガス中のVOC成分
【0046】
【表1】
触媒充填層内に市販従来触媒である白金担持アルミナ(日揮ユニバーサル株式会社製)を充填し、充填層温度150℃、200℃、250℃、300℃におけるCO
2生成率(燃焼率)を求めた。
【0047】
図10(a)に示すように市販従来触媒である白金担持アルミナにおいては、充填層温度300℃ではダクト分岐排ガス中の表1に示す成分がほぼ完全燃焼している(b=100%に達している)が、250℃以下ではCO
2生成率が70%未満に低下した。
【0048】
触媒充填層内に担持触媒2(コバルト・セリウム系複合酸化物(白金担持なし))を充填し、充填層温度150℃、200℃、250℃、300℃におけるCO2生成率(燃焼率)を求めた。
【0049】
図10(b)に示すように担持触媒2(コバルト・セリウム系複合酸化物(白金担持なし))においては、充填層温度300℃ではダクト分岐排ガス中の表1に示す成分が完全燃焼しているが、250℃以下ではCO
2生成率が概ね80%以下に低下した。
【0050】
触媒充填層内に担持触媒5(白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物)を充填し、充填層温度150℃、200℃、250℃、300℃におけるCO2生成率(燃焼率)を求めた。
【0051】
図10(c)に示すように担持触媒5(白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物)においては、充填層温度250℃、300℃において、ダクト分岐排ガス中の表1に示す成分を完全燃焼させることができた。150℃、200℃においても、他の触媒(白金担持アルミナ及びコバルト・セリウム系複合酸化物)と比べCO
2生成率は高くなった。ベンゼン環を含むVOC(芳香族炭化水素)及びベンゼン環を含まないVOCが混合する系においては、白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物を用いることが優位となる。前述のとおり、担持触媒5の表面上の白金量は、0.76質量%(0.09原子%)であり、この値は、白金担持アルミナの表面上の白金量2.2質量%(0.32原子%)よりも小さい値である。白金担持コバルト・セリウム系複合酸化物を用いることにより、より少ない白金量でダクト分岐排ガス中の表1に示す成分を250℃で完全燃焼させることができた。