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  • 特許-脱線した車両の復旧作業用マット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】脱線した車両の復旧作業用マット
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
E01B37/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020039771
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2020153220
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019050299
(32)【優先日】2019-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390027292
【氏名又は名称】根本企画工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500418244
【氏名又は名称】株式会社交通建設
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 秀寿
(72)【発明者】
【氏名】根本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】秋山 光夫
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-058247(JP,A)
【文献】登録実用新案第3210279(JP,U)
【文献】特開2016-137745(JP,A)
【文献】特開2001-261289(JP,A)
【文献】特開平10-072809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱線した車両を押し上げるジャッキと前記車両が走行するレールが設置されている砕石からなるバラストとの間に挿入されるマットであって、
流動性のある粉粒体と、前記粉粒体が充填されかつ前記粉粒体の流動によって形状が変化する袋とからなり、
前記袋は、前記ジャッキが前記車両を押し上げた場合の荷重によって破断の生じない強度に構成されるとともに、前記バラストの凹部に対応する箇所に前記粉粒体が移動して前記凹部に対応する箇所の厚さが厚くなりかつ前記バラストの凸部に対応する箇所から前記粉粒体が移動して前記凸部に対応する箇所の厚さが薄くなることにより上面が平坦化するように構成されていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マット。
【請求項2】
請求項1に記載の脱線した車両の復旧作業用マットにおいて、
前記袋は、パラ系アラミド樹脂製繊維もしくは高強度ポリエチレン製繊維から構成されていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の脱線した車両の復旧作業用マットにおいて、
前記袋は、防水被膜もしくは撥水被膜を備えていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マット。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の脱線した車両の復旧作業用マットにおいて、
前記粉粒体は、軽量砂とパーライトと火山灰との少なくともいずれか一種もしくは二種以上の混合体と、合成樹脂ペレットとの少なくともいずれか一方から構成されていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マット。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の脱線した車両の復旧作業用マットにおいて、
前記袋のうち前記バラストの上面に対向する下面側にゴムシートが設けられていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプルタイタンパをはじめとする各種の重量級保線作業車が脱線した場合に、その保線作業車をジャッキアップしてレール上に戻す復旧作業に使用するマットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の保守作業、たとえば道床のつき固め、軌条の通り整正などにはマルチプルタイタンパ(マルタイ)など各種の保線作業車が使用される。これらの車両は単に走行するだけでなくさまざまな作業を行なうための機器を装備しており、いずれもかなりの重量を有する。一方、この種の保線作業車は、通常の営業用の車両に比較すると、雪や土砂に埋もれているなどの正常ではない線路に進入しなければならない事例が多いため、脱線の確率が高いのが実情であり、そのため脱線を想定した復旧訓練などもしばしば行なわれているのが現状である。
【0003】
脱線復旧にはジャッキ等で車両を持ち上げ、レール上に戻すことが必要であり、保線作業車はそういう事態に備えてアウトリガーやジャッキをあらかじめ装備しているものも多い。また、脱線した保線作業車をジャッキアップするために通常のジャッキを使用する場合ももちろんある。いずれにしてもこれらのジャッキを線路脇の道床部分に突き立てて作業を行なうことになる。そのジャッキを設置する箇所が砂利や砕石などで構成されている場合には道床(バラスト)の上面が平らではなく、いわゆる不陸状態であり、ジャッキを安定して立てることが困難である。そのため、従来、バラストの表面を熊手やスコップ等でできるだけ水平にならし、その上に挿入スペースの高さに合わせて木材等のスペーサ(保線現場ではパッキンともいう)を積み重ねてからジャッキを作動させる作業方法が採られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
砕石の凹凸面を丁寧にならす作業にはかなりの労力と時間を要するから、これに替えて砂や土を砕石同士の間やくぼみに充填して表面を水平にすることも考えられる。しかしながら、事後的に土砂を取り除くことを考慮すると強固に突き固めることはできないので、土砂の部分にはほとんど支持力が発生しないのが実情であって、ジャッキを安定して支持する点であまり効果が見られないばかりか、作業後に土砂を完全に除去しないと後日雑草が生えるなどの弊害を生じる。
【0005】
通常の布袋や麻袋に砂や土を詰めて砕石の上に敷く方法も考えられるが、このような方法では、一時的には効果が認められるものの、詰めるものによってかなりの重量となり、作業者に負担がかかる。また、麻袋や通常の布袋では砕石のとがった部分によってすぐに破れが発生し、繰り返しの使用ができないなどの問題点があった。
【0006】
本発明は、軽量で持ち運びが容易であり、かつバラストを形成している砕石等のとがった部分によっても破れが生じ難く、したがって脱線復旧作業の効率化を図り、また繰り返し使用できるマットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、脱線した車両を押し上げるジャッキと前記車両が走行するレールが設置されている砕石からなるバラストとの間に挿入されるマットであって、流動性のある粉粒体と、前記粉粒体が充填されかつ前記粉粒体の流動によって形状が変化する袋とからなり、前記袋は、前記ジャッキが前記車両を押し上げた場合の荷重によって破断の生じない強度に構成されるとともに、前記バラストの凹部に対応する箇所に前記粉粒体が移動して前記凹部に対応する箇所の厚さが厚くなりかつ前記バラストの凸部に対応する箇所から前記粉粒体が移動して前記凸部に対応する箇所の厚さが薄くなることにより上面が平坦化するように構成されていることを特徴とする脱線した車両の復旧作業用マットである。
【0008】
本発明においては、前記袋は、パラ系アラミド樹脂製繊維もしくは高強度ポリエチレン製繊維から構成されていてよい。
【0009】
本発明においては、前記袋は、防水被膜もしくは撥水被膜を備えていてよい。
【0010】
本発明においては、前記粉粒体は、軽量砂とパーライトと火山灰の少なくともいずれか一種もしくは二種以上の混合体と、合成樹脂ペレットとの少なくともいずれか一方から構成されていてよい。
【0011】
そして、本発明では、前記袋のうち前記バラストの上面に対向する下面側にゴムシートが設けられ、前記粉粒体は、前記ゴムシートに対して隔離された状態で前記袋に充填されていてよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるマットは、脱線した車両をレール上に復旧させる際に、その車両の近辺のバラスト上に置かれる。バラストは砕石によって形成されているから、その表面は平坦ではなく、また傾斜している場合が多く、さらにはレールを固定しているボルトの頭部が突き出ている場合もある。本発明に係るマットは、流動性のある粉粒体を袋に充填して構成されているから、砕石やボルトなどによるバラスト表面の凹凸に倣って変形する。その状態でマットの表面を手作業などによって平坦に均す。粉粒体自体が流動性を有し、また袋は粉粒体に合わせて形状が変化するから、バラストの凸部に相当する箇所にある粉粒体は、バラストの凹部に相当する箇所に移動し、当該凹部を埋める。その結果、マットの下面は、バラストの表面に沿って凹凸になっているが、表面(上面)は平坦に近くなる。また、バラスト表面が傾斜している場合に、袋の内部の粉粒体を、バラストの低い側に移動させ、こうすることによりマットの表面が水平に近い状態になる。ついで、マットの上に木製の角材などのスペーサもしくはパッキンを載せ、その上にジャッキ等の押し上げ装置を立てる。マットの表面がほぼ水平になっているので、ジャッキ等の押し上げ装置は、ほぼ鉛直線に沿って起立し、脱線した車両を押し上げる際の荷重が押し上げ装置にまっすぐ(鉛直方向に沿って)掛かる。その結果、ジャッキ等の押し上げ装置が不安定になるなどの事態を回避できる。
【0013】
ジャッキ等の押し上げ装置で車両を押し上げた場合、マットには大きい荷重が掛かり、これに対してバラストの表面は砕石などによって凹凸になっているが、袋が高強度に構成されているから、砕石の角などが当たっていても、内部の粉粒体が多量に流れ出すなどの袋の破断が生じることが回避される。また、マットには圧縮荷重が掛かり、これに対して粉粒体が流動性を有しているから、マットには横方向に膨らむ荷重が作用するが、袋が上述したように高強度であることにより、膨張による破断(内部の粉粒体が多量に流れ出すなどの袋の破断)が生じることが回避される。
【0014】
車両をレール上に移動させて復旧作業が終了した場合には、ジャッキ等の押し上げ装置およびスペーサもしくはパッキンを取り除いて回収し、併せてマットを回収する。したがって、砂などの粉粒体がバラストに残ったり、砕石同士の間隙に詰まったりする事態を回避できる。そして、砂などの粉粒体は袋に充填した状態で、すなわちマットとして搬送や設置などを行うことができるので、本発明によれば、バラストの表面を均すなどの作業を省略できることと併せて、マット(粉粒体)の取り扱いが容易になり、ひいては脱線した車両の復旧作業を容易かつ迅速化あるいは高効率化することができる。
【0015】
また、本発明では、粉粒体として合成樹脂ペレットを使用した場合、車両の押し上げに伴う荷重によって粉粒体が変形するとしても、粉粒体が破砕したり摩耗したりして細かい粉になることが殆どない。したがって、粉粒体の粉が袋から漏れ出て作業環境を悪化させるなどの事態を未然に回避もしくは抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明では、バラストの表面に向き合う下面側にゴムシートが配置されているから、車両を押し上げることに伴う荷重がゴムシートによって分散され、したがってバラストが軟弱で沈み込みやすい場合であっても押し上げ装置が載っている箇所のみが極端に沈み込むことが回避もしくは緩和される。そのため、マットの沈み込み箇所の周辺における曲げや引っ張りが、ゴムシートを用いない場合に比較して小さくなり、その結果、袋の破断や亀裂を抑制してマットの全体としての耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るマットを一部切り欠いて示す斜視図である。
図2】そのマットをバラストの上面において均した状態を示す側面図である。
図3】そのマットを使用して保線作業車をジャッキアップしている状況を示す説明図である。
図4】本発明の他の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施例であるマット1を図1に示す。ここに示すマット1は、脱線した車両(例えば保線作業車)を持ち上げるためのジャッキを設置する水平平坦面を創り出すためのものであって、袋2の内部に流動性のある粉粒体3を充填して構成されている。マット1の輪郭形状は、円形や矩形あるいは方形など必要に応じて適宜の形状であってよい。製造性や取り扱いもしくは保管の容易性などを考慮すると、矩形もしくは方形であることが好ましい。また、大きさは、要は、ジャッキやその下側に介在させるスペーサ(もしくはパッキン)の底面より幾分大きければよく、一例として縦横それぞれが300mm程度(300mm×300mm程度)であればよい。また、マット1の厚さは、50mm~100mm程度であってよい。ここで、「厚さ」とは、マット1を水平において、内部の粉粒体3を均等に均した状態で測った高さ方向の寸法の最大値もしくは平均値である。言い換えれば、水平に置いた状態での厚さが上記の寸法になる程度の量の粉粒体3が袋2の内部に充填されている。
【0019】
マット1は、脱線した車両を押し上げることに伴う圧縮荷重を受けるだけでなく、砕石やレールを固定しているボルトの頭部などの尖った角に押し付けられることによる剪断荷重や、袋2が膨張しようとすることによる引っ張り荷重を受ける。袋2は、このような荷重を受けても破断しない高強度に構成されている。ここで「破断」とは、内部の粉粒体3が多量に流れ出す程度の開口部が生じることであり、袋2を構成している繊維の数本が切れたり、内部の粉粒体3が僅かにこぼれ出る穴が開く程度の損傷は含まない意味である。また、袋2はマット1の重量を決める要因の一つであるから、強度を損なわない範囲で可及的に軽量であることが好ましい。したがって、袋2は高強度繊維によって形成されており、この種の繊維の例は、ケブラー(登録商標)等のパラ系アラミド樹脂製繊維(芳香族ポリアミド系樹脂繊維)やイザナス(登録商標)等の高強度ポリエチレン製繊維である。これらの繊維は、同じ重量の鋼線の5倍以上の引張り強さを有し、スーパー繊維とも呼ばれ、FRP構造体の補強材としても使用される。またスーパー繊維で作られた布はとがった刃物などに対しても耐力があり、「耐刃防護生地」(セーフティクロス)として知られている。また、袋2を構成する繊維は、弾性を有していることが好ましい。マット1に大きい荷重が作用した場合に、周囲の形状に倣うようにある程度の変形を生じさせて局部的に大きい荷重が作用したり、そのために破断したりすることを抑制するためである。また、袋2はそのようなわずかな変形を許容するように繊維を編んだものであることが好ましい。
【0020】
なお、袋2には、内部の粉粒体3が布目から漏れ出さないように、布の表面に適宜の塗料による塗装を施すことが好ましい。また、粉粒体3の流動性を確保し、また重量が増大することを回避するために、防水被膜もしくは撥水被膜を袋2の表面に塗装などによって形成しておくことが好ましい。
【0021】
袋2に充填される粉粒体3について説明すると、粉粒体3は袋2の内部に閉じ込められて広い面積で荷重を受けた場合、粒子同士が強く接触し、あるいは噛み合って形状を維持することにより、荷重を支える作用をなし、また荷重もしくは外力が小さくかつ局部的に作用する場合には流動して全体として形状を変化させる作用をなすものである。したがって、そのような流動が可能になるように、袋2に対する充填量が前述したように設定されている。また、粉粒体3の粒径は、流動性を損なわずに、かつ充分な荷重支持作用を生じる粒径に設定されており、一例としては平均粒径が0.5mm~1.3mm程度、嵩比重が0.15~0.21(平均値は0.18)程度である。
【0022】
この種の粉粒体3は、川砂や海砂であってもよいが、現場での取り扱いを容易にするために比重の小さい粉粒体3を採用することが好ましい。軽量の粉粒体3の例は、いわゆる軽量砂や園芸用などに市販されている「パーライト」や粒状の軽石や火山灰などである。いずれも流動性がよく、そのためにさまざまな周囲の形状に馴染みやすいこと、軽いことなどの特長がある。
【0023】
パーライトはガラス質の火山岩を焼成、膨張させた粒状の砂利で、化学成分は非晶質アルミナ珪酸塩石英である。きわめて軽量で真比重は2.3程度、嵩比重は0.1~0.5程度である。人体や環境に対する毒性もないから、取り扱ったり、こぼれたりしても安全である。また、火山灰は、圧縮すると一時的に固化する性質があるため、本発明における粉粒体3として好ましい。
【0024】
また、本発明における粉粒体3は合成樹脂製のものであってもよい。例えば、合成樹脂製品の射出成形の原料として使用される合成樹脂ペレットを粉粒体3として使用することができる。この種の粉粒体3は、例えば、ポリプロピレンと炭酸カルシウムとを体積比で94:6の割合で混合した粒径が3mm程度の粉粒体3であってよい。
【0025】
本発明に係るマットは、一例として、パラ系アラミド繊維製で縦横300mm×300mm程度の座布団状の布袋に厚さ30mm程度にパーライトを詰めたものであって、その重量は約3kgであり、脱線現場での作業を迅速化し、また作業者の負担の軽減に充分資することができる。
【0026】
図2および図3を参照して上記のマット1の使用方法および作用を説明する。袋2に対する粉粒体3の充填率は100%より大幅に少ないから、例えば図1に示す把手4を持って吊り下げた場合、粉粒体3は袋2の底部にたまった状態になる。このように吊り下げた状態では、マット1は棒状に丸まった形状であり、平坦面はない。ここで、充填率は、袋2を最大限膨らませた状態における袋2の容積に対する粉粒体3の体積の割合である。実用上の一例を挙げれば、充填率は60%~80%程度である。
【0027】
マット1を砕石のバラストBの上面に置くと、袋2の底部にたまっていた粉粒体3による山が崩れて、バラストBの上面に倣うように粉粒体3が流れる。粉粒体3は飽くまでも個体の集まりであるから、元の山の部分に多く集まった状態になっている。これを均すように、マット1の表面を水平方向に手もしくは棒などでなでると、粉粒体3はその流動性のために、袋2の内部で移動する。図2に粉粒体3を均した状態を模式的に示してあり、バラストBの上面における凸部に対応する部分の粉粒体3は当該凸部に対応する部分から水平方向(なでる方向)に移動させられてその部分のマット1の厚さが薄くなり、また凹部に対応する部分では、その凹部に粉粒体3が入り込むように粉粒体3が移動して当該凹部に対応する部分でのマット1の厚さが厚くなる。その結果、マット1の下面はバラストBの上面に倣った凹凸面になるのに対して、マット1の上面は平坦化される。すなわち、粉粒体3を水平に均すことにより水平平坦面をバラストBの上面に創出できる。なお、バラストBの上面が傾斜している場合には、傾斜方向での下側に粉粒体3が多く移動させられるので、マット1の上面を水平に近い平坦面とすることができる。
【0028】
ジャッキ(押し上げ装置)を設置する複数箇所(例えば4箇所)のそれぞれにマット1を上記のように配置し、図3に示すように、その上に1枚目のスペーサ5を置いて水平であることを確かめる。スペーサ5は、マット1における荷重を受ける面積(受圧面積)を広くするために設けた木製平板状のブロックである。水平でなかった場合はマット1の表面を均して水平にする。袋2の中の粉粒体3の流動性がよいので、容易に水平に均すことができる。さらに、ジャッキ6を伸ばした場合に車体7がレールRの上面より高く持ち上がるように、スペーサ5を必要枚数追加し、その上にジャッキ6の下面を突き当てる。したがって、ジャッキ6は水平面の上に設置されることになるので、鉛直方向に起立している。
【0029】
その状態でジャッキ6に油圧などの圧力流体を供給してそのロッドを伸ばすことにより、車体7が持ち上げられる。その場合、マット1が沈むように変形することがあるが、袋2の内部の粉粒体3は荷重に応じてわずかに移動するから、スペーサ5やジャッキ6は水平を維持したまま沈む。すなわち、車体7を持ち上げる(押し上げる)ことによる荷重は、ジャッキ6やスペーサ5に対して鉛直方向に作用し、したがってジャッキ6はマット1によって安定して保持される。
【0030】
脱線した車両の車輪8がレールRの上面より所定寸法h、浮くように車体7をジャッキアップした後、必要に応じて水平方向に車両を移動させてレールRの上に降ろせば、脱線した保線作業車の復旧作業は完了する。脱線復旧作業を30分以内に終了することを目標としている場合、本発明に係る上記のマット1を使用すれば、軽量であることによりその搬送が容易であるだけでなく、バラストB上においてその上面を水平に平らにすることは容易で迅速に行うことができるから、充分に目標を達成できる。なお、図3で符号Sは枕木を示す。
【0031】
車両をレールR上に移動させて復旧作業を完了した後、ジャッキ6およびスペーサ5をマット1の上から取り除いて回収し、併せてマット1を回収する。マット1の袋2は、前述したように、車両のジャッキアップに伴う荷重を受けても破断しない強度に構成されているから、袋2を把手4によって引き上げるだけで、その内部の粉粒体3ごと持ち上げて回収することができる。そのため、本発明に係る上記のマット1によれば、砂などの粉粒体3が砕石の間に入り込んでしまったり、その粉粒体3を回収する作業が必要になったり、さらには砕石の間に残存した砂から雑草が生えたりすることを未然に回避することができる。結局、脱線復旧作業を迅速化、高効率化することができる。また、粉粒体3は使い捨てではなく、マット1として再度使用できる。
【0032】
上述したように脱線した車両を押し上げた場合、その荷重が粉粒体3に掛かり、粉粒体3は圧縮されるだけでなく、粒子同士が擦れ合って流動する。その場合、合成樹脂ペレットを主体として粉粒体3が構成されていれば、粉粒体3の粒子が変形することがあっても、粉々に破砕することが殆どない。したがって、粉粒体3をこのような合成樹脂製とすることにより、粉粒体3が粉になって袋2から漏れ出たり、そのために作業環境が悪化したりすることを回避もしくは抑制することができる。
【0033】
上記の図2図3に示す例は、バラストBが十分な強度を有している場合の例であるが、地盤の突き固めが不足しているなどのことによって、バラストBの耐圧強度が部分的に不足し、その上にマット1やジャッキ6をおいて車両の押し上げ作業を行う場合、まっと1がバラストBと共に沈み込むことがある。このような事態に備えて、ゴムシートを備えた構成とすることが好ましい。そのゴムシートは、マット1の一部がバラストBと共に沈み込むこと、もしくはその際に応力が集中することを防止もしくは抑制するためのものであり、マット1の下側すなわちバラストBと対向する下面側に設けることが好ましい。このゴムシートは、粉粒体3と一緒に袋2の内部に配置してもよいが、そのゴムシートとバラストBとの間に粉粒体3が入り込まないようにするために、ゴムシートと粉粒体3とは袋3の中で離隔した構成とすることが好ましい。その例を図4に模式的な断面図で示してある。
【0034】
図4に示す例では、袋2の内部に仕切り板9が挿入されていて、この仕切り板9によって袋2の内部が二室に区分されている。仕切り板9は、袋2の内部を二室に区分するためのものであるから、荷重を受けて容易に変形し、また復元する柔軟な素材で構成されており、袋2と同様の布であってもよい。したがって仕切り板9は袋2とほぼ同様の輪郭を有し、その全周の全体が袋2に縫い合わされている。袋2の内部で仕切り板9によって区画された空室のうち使用時に上側となる上室には、合成樹脂製ペレットなどの粉粒体3が充填されている。その粉粒体3は前述したとおりであってよい。
【0035】
これに対して、袋2の内部で仕切り板9によって区画された空室のうち使用時に下側(バラストBの上面と対向する下側)となる下室にゴムシート10が配置されている。すなわち、粉粒体3とゴムシート10とは、互いに隔離された状態で袋2の内部に収容されている。ゴムシート10は、下室の内部に収容可能でかつ合成ゴムからなる可及的に大型の板材であり、ジャッキ6で車両を押し上げた際の荷重で破断せずに弾性変形する厚さあるいは強度のものが採用されている。より具体的には厚さが数mm程度のシート材である。図4に示す例における他の構成は、図1図2に示す例の構成と同様であってよい。なお、本発明では、上記の仕切り板9を設けずに、粉粒体3とゴムシート10とを二段に分けて袋2の中に収容した構成であってもよい。また、本発明では、ゴムシート10を袋2に入れずに、布などの保護材で覆った状態で袋2の下面側に取り付けてもよい。
【0036】
図4に示すように構成したマット1であっても、図3に示すように、バラストBの上に敷くとともに、その上にスペーサ5を介してジャッキ6を置き、脱線した車両の車体7をそのジャッキ6によって押し上げる。その場合にバラストBが荷重に耐えられずに沈み込むと、スペーサ5を置いてあるマット1の中央部が沈み込むが、マット1の底面に掛かる荷重が上述したゴムシート10によって分散するために、マット1の沈み込みが抑制されるとともに、下側の窪んだ箇所の周縁部におけるコーナーの曲率が小さくなる。そのため、袋2における当該コーナーの付近の布地に掛かる引っ張り力や剪断力が緩和される。言い換えれば、ゴムシート10を下面側に設けたことにより、袋2の破断が生じにくくなり、袋2あるいはマット1の耐久性が向上する。
【0037】
なお、本発明は上述した具体例に限定されないのであって、袋2に充填する粉粒体3は一種類である必要はなく、上述した粉粒体3の二種類もしくはそれ以上の粉粒体を混ぜた混合体としてもよい。また、袋2は単一の袋に替えて、同種もしくは異種の袋を二重もしくはそれ以上に重ねた構造としてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…マット、 2…袋、 3…粉粒体、 4…把手、 5…スペーサ、 6…ジャッキ、 7…(保線作業車の)車体、 8…車輪、 9…仕切り板、 10…ゴムシート、 B…バラスト、 R…レール、 S…枕木。
図1
図2
図3
図4