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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】神経幹細胞の分化促進剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20230907BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20230907BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N5/0793 ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019094535
(22)【出願日】2019-05-20
(65)【公開番号】P2020188692
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 将大
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0025786(US,A1)
【文献】特開2015-137244(JP,A)
【文献】FEBS Letters,2000年,Vol.486,pp.291-296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0797
C12N 5/0793
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンネンタケ胞子に、温度が31~60℃で、かつ圧力が7~30MPaの超臨界二酸化炭素を供給する抽出工程により得られたマンネンタケ胞子の超臨界二酸化炭素抽出物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤であって、該有効成分の最終濃度が0.01重量%以上0.5重量%以下で使用することを特徴とする、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤
【請求項2】
(A)マンネンタケ胞子に、温度が31~60℃で、かつ圧力が7~30MPaの超臨界二酸化炭素を供給する抽出工程により得られたマンネンタケ胞子の超臨界二酸化炭素抽出物と、(B)キキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンから選択される1種又は2種以上の生薬の熱水抽出物との混合物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤であって、該有効成分の最終濃度が0.01重量%以上0.5重量%以下で使用することを特徴とする、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤
【請求項3】
マンネンタケ胞子に、温度が31~60℃で、かつ圧力が7~30MPaの超臨界二酸化炭素を供給する抽出工程により得られたマンネンタケ胞子の超臨界二酸化炭素抽出物と、キキョウ及びサンザシから選択される1種又は2種の生薬の熱水抽出物との混合物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤であって、該有効成分の最終濃度が0.01重量%以上0.5重量%以下で使用することを特徴とする、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤
【請求項4】
神経幹細胞を、請求項1~3のいずれか1項に記載の剤を含有する培地で72時間以上培養する工程を含む、神経幹細胞の神経細胞への分化促進方法。
【請求項5】
神経幹細胞を、請求項1~3のいずれか1項に記載の剤を含有する培地で72時間以上培養する工程を含む、神経細胞の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の剤を含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳の海馬領域は、記憶や学習を司る領域であり、海馬歯状回における神経幹細胞からの正常な神経新生が、記憶や学習において重要な役割を担っている。もし、この神経新生に滞りが生じた場合は、物忘れや認知症などの脳の異常を引き起こす可能性がある。実際、神経新生は加齢により低下するため、加齢に伴い記憶や学習能力が落ちたと感じる人は多い。よって、記憶や学習能力を改善するためには、神経幹細胞からの神経新生が重要であり、神経新生を促進することができれば、より効果的な記憶や学習の改善効果を発揮することができると考えられる。
【0003】
近年、臓器・組織に存在する幹細胞が老化することが明らかになりつつある(非特許文献1)。具体的に幹細胞の老化とは、増殖能力や分化能力が低下することであり、臓器や組織の再生能力の低下の原因と考えられている。脳に存在する神経幹細胞の分化能力もまた、加齢に伴い著しく低下することが報告されている(非特許文献2)。よって、各臓器・組織に存在する幹細胞の分化能力を向上させる技術は、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、各種疾患の予防・治療・改善等、抗加齢(抗老化)の用途に極めて有効であると考えられる。
【0004】
これまで、神経幹細胞または神経前駆細胞から神経細胞への分化促進活性を有する物質として、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、DPA(ドコサペンタエン酸)及びこれらの誘導体(特許文献1)、インターロイキン-6レセプターとインターロイキン-6の融合タンパク質(特許文献2)、Gly-Pro-Alaで表されるペプチド(特許文献3)、アルブチン(特許文献4)、ピセアタンノール(特許文献5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5240757号公報
【文献】特開2000-248000号公報
【文献】特開2011-111440号公報
【文献】特開2015-67600号公報
【文献】特開2016-94406号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Beane O.S.ら, PLoS One, 2014年, Vol. 9, 12号, e115963
【文献】Molofsky A.V.ら, Nature, 2006年, Vol. 443, 7110号, pp. 448-452
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、神経幹細胞の神経細胞への分化を促進する新規な物質を見出し、神経幹細胞の分化促進剤として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物又はマンネンタケ胞子の超臨界抽出物と他の生薬の抽出物の混合物が、神経幹細胞の神経細胞への分化について優れた促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤。
(2)(A)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と、(B)キキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンから選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤。
(3)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と、キキョウ及びサンザシから選択される1種又は2種の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤。
(4)神経幹細胞を、(1)~(3)のいずれかに記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、神経幹細胞の神経細胞への分化促進方法。
(5)神経幹細胞を、(1)~(3)のいずれかに記載の剤を含有する培地で培養する工程を含む、神経細胞の製造方法。
(6)(1)~(3)のいずれかに記載の剤を含有する、神経幹細胞の神経細胞への分化促進用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤は、神経幹細胞の分化を促進して神経細胞を効率的に誘導し、神経新生を促進することができるので、加齢等に伴う記憶や学習能力の低下の改善に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤
本発明に係る神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤(以下、「神経幹細胞の分化促進剤」と記載する場合がある)は、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物(マンネンタケ胞子油とも称する)、又は、(A)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と、(B)キキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンから選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有する。
【0012】
本発明において、「神経幹細胞」には、神経細胞(ニューロン)への分化が可能な細胞及びグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト)への分化が可能な細胞の両方が含まれるが、神経細胞(ニューロン)への分化が優位な細胞が好ましい。神経幹細胞は、Sox2、TLX、Id1、Nestin等のマーカーにより特徴づけられる。
【0013】
本発明において、「神経幹細胞の神経細胞への分化促進」とは、本発明の薬剤を投与又は摂取する前と比較して、神経幹細胞の神経細胞への分化が活性化することをいい、具体的には、神経幹細胞から分化した神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、それらの幼若細胞、前駆細胞のいずれか、好ましくは神経細胞の細胞数が増加することをいう。ここで、「神経細胞」とは、神経突起及び軸索を伸長し、次の神経細胞との間にシナプスを形成し、神経伝達物質を分泌するものをいう。
【0014】
マンネンタケは、マンネンタケ科(Ganodermataceae)マンネンタケ属(Ganoderma)に属する担子菌で、生薬「霊芝」に用いられる。霊芝は、中国の薬学古書である「本草綱目」や「神農本草経」によると、赤霊芝(赤芝)、黒霊芝(黒芝)、紫霊芝(紫芝)、青霊芝(青芝)、黄霊芝(黄芝)及び白霊芝(白芝)が存在すると記載されている。また、赤霊芝の一種として、鹿角霊芝も知られている。本発明に用いられる「マンネンタケ胞子」は、上記マンネンタケ科マンネンタケ属の霊芝の胞子であれば特に限定はされず、例えば、赤霊芝、黒霊芝、紫霊芝、青霊芝、黄霊芝、白霊芝の胞子が挙げられるが、赤霊芝(Ganoderma lucidum)、黒霊芝(Ganoderma sinense、Ganoderma japonicum、Ganoderma atrum)の胞子がより好ましい。
【0015】
マンネンタケ胞子は、霊芝が成熟する頃に菌傘に現れる褐色の粉末状の物質である。本発明において、マンネンタケ胞子には、胞子及び複数個の胞子が内生した胞子のうを包含するものとする。マンネンタケ胞子の抽出には、回収したマンネンタケ胞子をそのまま用いてもよいが、胞子の細胞壁を物理的な力によって崩壊させるための破壁処理を行うことが好ましい。破壁の処理方法は、特に限定されないが、例えば、微粒化処理、ロールプレス処理、磨砕処理、超高圧マイクロスチーム処理、及び通常工業的に用いられるその他の機械的方法で行うことができる。破壁胞子を用いる場合は、上記のいずれかの方法で得たものでもよいし、市販品を利用することもできる。
【0016】
本発明において、マンネンタケ胞子の抽出方法は、マンネンタケ胞子に超臨界状態にある流体(超臨界流体)を接触させる方法であれば特に限定はされないが、安全かつ容易に脱溶剤を行なうことができる点で、超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)による抽出方法が好ましい。超臨界二酸化炭素とは、温度が31℃以上、圧力が7MPa以上の条件下で流体状態になった二酸化炭素をいい、本発明において、超臨界状態にはその近傍の状態も含むものとする。
【0017】
超臨界状態にある二酸化炭素による抽出条件として、温度は31~100℃が好ましく、31~80℃がより好ましく、31~60℃がさらに好ましく、また、圧力は7~100MPaが好ましく、7~50MPaが好ましく、7~30MPaがさらに好ましい。なかでも、温度が31~80℃で、かつ圧力が7~50MPaであることが特に好ましく、温度が31~60℃で、かつ圧力が7~30MPaであることが最も好ましい。抽出の際の超臨界二酸化炭素の供給量としては、例えば、マンネンタケ胞子(乾燥物換算)1重量部に対して、5~500重量部が好ましく、10~100重量部がより好ましい。また、抽出時間としては、30分~24時間が好ましく、1~10時間がより好ましい。更に、共溶媒(エントレーナー)として有機溶媒を用いることもできる。共溶媒(エントレーナー)としては、エタノール、アセトン等が挙げられる。中でも、安全性の面からエタノールが好ましい。
【0018】
超臨界状態にある二酸化炭素による抽出は、例えば、上記抽出条件の二酸化炭素を連続的に吹き込むことにより行うことができる。次いで、マンネンタケ胞子の抽出物を含有する二酸化炭素流体を分離槽に導き、常用されている方法、例えば、圧力を下げる方法、温度を変化させる方法等で分離する。この際、分離槽には抽出された溶質を吸着できる吸着剤や、溶解や分散させることができる媒体(溶剤、基剤)等を充填しておくこともでき、抽出条件に応じた適当な分離手段を採用できる。分離された二酸化炭素は、液化槽に輸送して再利用することができる。
【0019】
「キキョウ」(和名:桔梗、学名:PLATYCODI RADIX)は、キキョウ科(Campanulaceae)の多年草であるキキョウ(学名:Platycodon grandiflorus A. De Candolle)の根であり、キキョウの乾燥したもの(生干桔梗)と、コルク皮を除き乾燥したもの(晒桔梗)がある。生薬(日本薬局方)では主に去痰薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「キキョウ(桔梗)」として用いられる、キキョウの根(生干桔梗)又はコルク皮を除いた根(晒桔梗)が好ましい。なお、キキョウは生薬名(日本薬局方)であると同時に植物名である。
【0020】
「サンザシ」(和名:山査子、学名:CRATAEGI FRUCTUS)は、バラ科(Rosaceae)のサンザシ(Crataegus cuneata Siebold et Zuccarini)又はオオミサンザシ(Crataegus pinnatifida Bunge var. major N. E. Brown)の偽果をそのまま、または縦切り若しくは横切りしたものであり、生薬(日本薬局方)では主に消化吸収補助薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「サンザシ(山査子)」として用いられる、サンザシの果実(偽果)が好ましい。なお、サンザシは、生薬名(日本薬局方)であると同時に植物名である。
【0021】
「オオバコ」(和名:大葉子(オオバコ)、別名:車前草(シャゼンソウ)、学名:
PLANTAGINIS HERBA)は、オオバコ科(Plantaginaceae)の多年草であるオオバコ(学名:Plantago asiatica Linne)の花期の全草であり、生薬(日本薬局方)では主に去痰薬として用いられている。オオバコとしては、日本在来種ではオオバコ(Plantago asiatica)、エゾオオバコ(Plantago camtschatica)、トウオオバコ(Plantago japonica)、ハラオオバコ(Plantago lanceolata)、その近縁の帰化種であるセイヨウオオバコ(Plantago major)、ツボミオオバコ(Plantago virginica)等が挙げられ、その同属又は近縁植物でもよい。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「シャゼンソウ(車前草)」として用いられる、オオバコの全草が好ましい。
【0022】
「カンゾウ」(和名:甘草、学名:GLYCYRRHIZAE RADIX)は、マメ科(Fabaceae)の多年草であるカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)の根又は走出茎(ストロン)、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)であり、生薬(日本薬局方)では主に鎮痛鎮痙薬(胃腸薬)、去痰薬として用いられている。カンゾウとしては、ウラルカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)、スペインカンゾウ(学名:Glycyrrhiza glabra)、シナカンゾウ(学名:Glycyrrhiza echinata)等が挙げられ、その同属又は近縁植物でもよい。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「カンゾウ(甘草)」として用いられる、カンゾウの根又は走出茎(ストロン)が好ましい。なお、カンゾウは生薬名(日本薬局方)であると同時に植物名である。
【0023】
「チンピ」(和名:陳皮、学名: AURANTII NOBILIS PERICARPIUM)は、ミカン科(Rutaceae)の常緑低木であるウンシュウミカン(学名:Citrus unshiu Marcowicz又はCitrus reticulata Blanco)の成熟した果皮であり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「チンピ(陳皮)」として用いられる、ウンシュウミカンの果皮が好ましい。
【0024】
「ショウキョウ」(和名:生姜、学名:ZINGIBERIS RHIZOMA)は、ショウガ科(Zingiberaceae)の多年草であるショウガ(学名:Zingiber officinale Roscoe)の根茎で、ときに周皮を除いたものであり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。「ショウキョウ」はショウガの根茎を生のまま乾燥させたもの、「カンキョウ」はショウガの根茎を蒸して乾燥したものである。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ショウキョウ(生姜)」として用いられている、ショウガの根茎が好ましい。
【0025】
「ケイヒ」(和名:桂皮、学名:CINNAMOMI CORTEX)は、クスノキ科(Lauraceae)のトンキンニッケイ(カシア)(学名:Cinnamomum cassia Blume)又はその他同属植物の樹皮、又は周皮の一部を除いたものであり、生薬(日本薬局方)では主に健胃薬として用いられている。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ケイヒ(桂皮)」として用いられる、ニッケイの樹皮が好ましい。
【0026】
「ニンジン」(和名:人参、学名:GINSENG RADIX)は、ウコギ科(Araliaceae)の多年草であるオタネニンジン(学名:Panax ginseng C. A. Meyer、別名:高麗人参、朝鮮人参、薬用人参)の細根を除いた根又はこれを軽く湯通ししたものであり、生薬(日本薬局方)では主に保健強壮薬や健胃薬に使用される。オタネニンジンは、その同属又は近縁植物でもよく、例えば、トチバニンジン(学名:Panax japonicus C.A.Mey)、サンシチニンジン(学名:Panax notoginseng)、セイヨウニンジン(学名:Panax quinquefolius)、シベリアニンジン(学名:Eleutherococcus senticosus)等が挙げられる。本発明において使用する抽出原料は、生薬の「ニンジン(人参)」として用いられる、オタネニンジンの根が好ましい。
【0027】
本発明において、キキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンの抽出には、上記の抽出原料をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0028】
抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であってもよいし、常温や冷温抽出方法であってもよい。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水若しくは熱水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水若しくは熱水、低級アルコール、液状多価アルコール等が好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いてもよい。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0029】
抽出溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば抽出原料(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、対象植物及び使用する溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。
【0030】
また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0031】
本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤は、上記のようにして得られたマンネンタケ胞子の超臨界抽出物を有効成分として含有してもよく、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と、
キキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンから選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物を有効成分として含有してもよい。マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と組み合わせて用いる生薬の抽出物は、キキョウ抽出物、サンザシ抽出物、オオバコ抽出物、カンゾウ抽出物、チンピ抽出物、ショウキョウ抽出物、ケイヒ抽出物、ニンジン抽出物のいずれか1種でもよいが、2種以上が好ましく、3種がより好ましい。なかでも、キキョウ抽出物、サンザシ抽出物が好ましい。2種以上を併用する場合、その組み合わせや混合比率は限定されない。
【0032】
マンネンタケ胞子の超臨界抽出物、又は、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物とキキョウ、サンザシ、オオバコ、カンゾウ、チンピ、ショウキョウ、ケイヒ、及びニンジンから選択される1種又は2種以上の生薬の抽出物との混合物(以下、「生薬抽出物」という)は、生体レベル(生体内)でも又は培養レベル(生体外)でも神経幹細胞の分化を促進する作用を有するので、本発明の神経幹細胞の分化促進剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して投与することによって神経幹細胞の分化を促進するための薬剤として、また、神経幹細胞の分化を促進し、神経細胞を製造するための幹細胞培養用培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬としても使用することができる。
【0033】
本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤は、有効成分である上記生薬抽出物が、神経幹細胞の神経細胞への分化促進作用を有するので、神経幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に神経細胞が形成されないことに関連する神経系の疾患又は病態を治療、改善、及び予防するのに有効である。神経幹細胞の分化機能低下又は不全に関連する神経系の疾患又は病態としては、例えば、物忘れ、認知症、アルツハイマー病、脊髄損傷、脊髄小脳変性症、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発ニューロパチー、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、脳血管障害(脳梗塞、脳卒中、脳動脈瘤)、脳血管障害による運動障害、進行性核上性麻痺、振戦、てんかん、脳外傷、うつ病、不眠症、学習障害、不安障害(パニック障害、強迫性障害等)、統合失調症、発達障害、注意欠陥多動性障害などが挙げられる。また、「神経幹細胞の分化機能低下又は不全」は、加齢、内的要因(ストレス、不安、緊張等)、外的要因(外傷等)のいずれによるものであってもよい。
【0034】
本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤における生薬抽出物の含有量は、特に限定されないが、抽出物の性状(抽出液、濃縮物、又は乾燥物)により、例えば、当該薬剤全量に対して、0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%であることがより好ましい。
【0035】
2.神経幹細胞の分化促進方法、神経細胞の製造方法
本発明はまた、神経幹細胞を、上記神経幹細胞の分化促進剤を含有する培地で培養する工程を含む、神経幹細胞の分化促進方法、ならびに、神経幹細胞を、上記神経幹細胞の分化促進剤を含有する培地で培養する工程を含む、神経細胞の製造方法に関する。本発明に係る方法において神経幹細胞から分化誘導して製造された神経細胞は、一般的に体外で培養後、神経損傷部や組織を再生させたい部位に直接注射などで移植することが可能である。すなわち、本発明に係る方法にて製造された神経細胞は移植材料(細胞移植剤)として用いることができる。
【0036】
本発明に係る方法において用いる培地は、上記神経幹細胞の分化促進剤を添加する以外は、特に限定はされず、神経幹細胞の培養及び分化のために一般的に使用されている培地及び添加剤を用いればよい。
【0037】
具体的には、神経幹細胞を培養する培地には、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbecco' s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が用いられる。また、上記培地には、細胞の増殖速度を増大させるために、及び/又は、神経細胞への分化誘導の補助のために、必要に応じて、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、ビオチン、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン等)等を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。上記各成分を基本培地に適宜添加した市販品の培地を使用することもできる。
【0038】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清(例えば、10%FBS)が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0039】
上記の本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤あるいは本発明に係る方法に準じて、上記の生薬抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、神経幹細胞の分化促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、上記の生薬抽出物を培地と混合し、神経幹細胞の分化促進用培地として提供することもできる。
【0040】
神経幹細胞の培養に用いる培養器は、神経幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。培養器は、細胞非接着性であっても細胞接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0041】
幹細胞培養に使用される培地に対する生薬抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤における生薬抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、生薬抽出物の乾燥物に換算して、例えば10~10000μg/mL、好ましくは100~5000μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、これらの抽出物を定期的に培地に添加してもよい。
【0042】
幹細胞の培養条件は、幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約36~37℃である。COガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0043】
神経幹細胞の神経細胞への分化が促進されたか否かのin vitroでの判定は、当業者が通常行う方法によって行うことが可能であり、例えば、本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤の非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤の存在下で培養した該幹細胞において神経細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで有意に高いか否かで評価することができる。神経細胞マーカー遺伝子としては、例えば、Map2(Microtubule-Associated Protein-2)遺伝子、NeuN(Fox-3, Rbfox3, Hexaribonucleotide Binding Protein-3) 遺伝子、Tuj1 (Neuron-specific class III beta-tubulin)遺伝子、NCAM(Neural Cell Adhesion Molecule)遺伝子などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0044】
3.神経幹細胞の神経細胞への分化促進用組成物
本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに医薬品(医薬部外品を含む)、飲食品等の各種組成物に配合して提供できる。
【0045】
本発明に係る神経幹細胞の分化促進剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0046】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0047】
本発明の医薬品は、経口又は非経口的に投与することができるが、好ましくは経口投与である。本発明の医薬品を経口投与する場合は、錠剤(糖衣錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、丸剤、内用水剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などに製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬品を非経口投与する場合は、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0048】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0049】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0050】
また、製剤化に当たっては、本発明の神経幹細胞の分化促進剤の有効成分である生薬抽出物以外の1種以上の有効成分を併用してもよい。併用に適した有効成分としては、脳機能の改善に効果があるとされている、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)、ホスファチジルセリン、コエンザイムQ10等を挙げることができる。
【0051】
本発明の医薬品は、上記神経疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0052】
本発明の医薬品における神経幹細胞の分化促進剤の含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、上記の生薬抽出物の乾燥物に換算して、0.001~30重量%が好ましく、0.01~10重量%がより好ましい。上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。また、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0053】
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、生薬抽出物として0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。
【0054】
また、本発明の神経幹細胞の分化促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。本発明の神経幹細胞の分化促進剤は、特に高齢者のもの忘れや認知機能の低下の改善及び予防のために長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に継続して摂取できる点で上記の健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0055】
さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用する場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
【0056】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0057】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0058】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0059】
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程において生薬抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、生薬抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。カプセル状のサプリメントでは、生薬抽出物を含有する液状、懸濁状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、又はカプセル基剤で被包成形して製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、鉄、カリウム等のミネラル類、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンB、ビオチン、葉酸等のビタミン類、食物繊維等)を添加することもできる。
【0060】
本発明の飲食品における生薬抽出物の配合量は、神経幹細胞の分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【0061】
本発明の飲食品の摂取量は、前述の疾患又は病態の予防や改善を目的として摂取する場合、摂取させる対象の状態、摂取形態、摂食量等により異なるが、生薬抽出物として、成人1日につき、0.1~1000mg、好ましくは1~500mg、より好ましくは5~300mgである。前記の量は1回で摂取させてもよいが、数回(2~4回)に分けて摂取してもよい。本発明の飲食品は、摂取量の目安とするため1回に摂取するべき量の飲食品が、1個の袋やビン等の容器に包装又は充填されていることが好ましい。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
(製造例1)マンネンタケ胞子の超臨界抽出物
内容積5Lの抽出槽にマンネンタケの胞子1kgを仕込み、これに超臨界二酸化炭素(温度60℃、圧力25MPa、二酸化炭素供給量15m)を約4.5時間供給し、抽出槽に接続した分離槽(温度40℃、圧力4MPa)に導いて炭酸ガスと抽出物を分離し、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物を15.9g得た。
【0064】
(製造例2)キキョウの熱水抽出物の製造
キキョウの根の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してキキョウの熱水抽出物を5.1g得た。
【0065】
(製造例3)サンザシの熱水抽出物の製造
サンザシの偽果の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してサンザシの熱水抽出物を2.6g得た。
【0066】
(製造例4)オオバコの熱水抽出物の製造
オオバコの全草(シャゼンソウ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してオオバコの熱水抽出物を5.5g得た。
【0067】
(製造例5)カンゾウの熱水抽出物の製造
カンゾウの根の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの熱水抽出物を5.1g得た。
【0068】
(製造例6)チンピの熱水抽出物の製造
ウンシュウミカンの果皮(チンピ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してチンピの熱水抽出物を6.1g得た。
【0069】
(製造例7)ショウキョウの熱水抽出物の製造
ショウガの根茎(ショウキョウ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してショウキョウの熱水抽出物を3.7g得た。
【0070】
(製造例8)ケイヒの熱水抽出物の製造
ニッケイの樹皮(ケイヒ)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してケイヒの熱水抽出物を2.1g得た。
【0071】
(製造例9)ニンジンの熱水抽出物の製造
オタネニンジンの根(ニンジン)の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してニンジンの熱水抽出物を6.7g得た。
【0072】
[実施例2]
神経幹細胞の分化促進効果の評価
実施例1で製造した抽出物(製造例1~9)、及び当該抽出物の混合物(製造例10~18)の神経幹細胞に対する分化促進効果の評価実験を次のとおり行った。
【0073】
神経幹細胞として、MEB5細胞(JCRB細胞バンク)を用いた。Dulbecco's Modified Eagle's Medium-high glucose(5μg/mL insulin, 10ng/mL EGF, 50μg/mL holo-transferrin, 10ng/mL biotin, 30nM Na-selenite)培地(Sigma社製)で維持した上記神経幹細胞を、細胞数が1×105個となるように12ウェルプレート(Falcon社製)に播種した。次に、上記培地を分化培地であるDulbecco's Modified Eagle's Medium-high glucose(5μg/mL insulin, 50μg/mL holo-transferrin, 10ng/mL biotin, 30nM Na-selenite)培地(Sigma社製)に置き換え、被験物質(製造例1~18の各抽出物)を最終濃度が100μg/mLとなるように添加し、72時間培養した。抽出物の混合物の場合は各抽出物の比率が同じになるように添加し、抽出物の総和が上記の濃度となるようにした。
【0074】
培養72時間後に細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、成熟神経マーカーであるMap2(Microtubule-Associated Protein-2)、未熟神経マーカーであるTuj1 (Neuron-specific class III beta-tubulin)の遺伝子発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0075】
(Map2用プライマーセット)
5'-ACTCAGCAACGTCTCATCTT-3' (配列番号1)
5'-GTATTCACAAGCCCTGCTTA-3' (配列番号2)
(Tuj1用プライマーセット)
5'-CTCAAAATGTCATCCACCTT-3' (配列番号3)
5'-GTGAACTCCATCTCATCCAT-3' (配列番号4)
(18srRNA(内部標準)用プライマーセット)
5'-CCGAGCCGCCTGGATAC-3' (配列番号5)
5'-CAGTTCCGAAAACCAACAAAATAGA-3'(配列番号6)
【0076】
神経幹細胞の分化促進効果は、抽出物を添加していない細胞におけるMap2、Tuj1のmRNAの発現量を内部標準である18s ribosomal RNA(18srRNA)の発現量に対する割合として算出したMap2、Tuj1遺伝子相対発現量(Map2、Tuj1遺伝子発現量/18srRNA遺伝子発現量)の値を1とし、これに対し、抽出物を添加して培養した細胞におけるMap2、Tuj1の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示すように、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物、キキョウの抽出物、サンザシの抽出物、オオバコの抽出物、カンゾウの抽出物、チンピの抽出物、ショウキョウの抽出物、ケイヒの抽出物、及びニンジンの抽出物に、いずれも優れた神経幹細胞の分化促進効果が認められた(製造例1~9)。また、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物と他の生薬の抽出物との併用では、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物(製造例1)とキキョウの抽出物(製造例2)の混合物(製造例10)、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物(製造例1)とサンザシの抽出物(製造例3)の混合物(製造例11)、マンネンタケ胞子の超臨界抽出物(製造例1)とキキョウの抽出物(製造例2)とサンザシの抽出物(製造例3)の混合物(製造例18)に、神経幹細胞の分化促進効果について顕著な相乗効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の神経幹細胞の神経細胞への分化促進剤は、生体内で又は生体外で、神経幹細胞を効率的に神経細胞に分化誘導させることができる。よって、本発明は、神経幹細胞の機能低下や不全に関連する神経系疾患や病態を治療、改善、及び予防するための医薬品やサプリメントなどの製造分野、移植材料の製造分野において利用できる。
【配列表】
0007344536000001.app