(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20230907BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20230907BHJP
【FI】
B23K26/21 E
B23K26/082
(21)【出願番号】P 2020029809
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸男
(72)【発明者】
【氏名】都藤 智仁
(72)【発明者】
【氏名】平岡 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聖也
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129231(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/189855(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/104762(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる板状の第1部材と、金属材料からなる第2部材とをレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、
前記第2部材を前記第1部材の一方の主面に当接または近接させる配置ステップと、
レーザ光を、前記第2部材を前記第1部材に当接または近接させる前記一方の主面とは反対側の主面である前記第1部材の他方の主面に照射するレーザ光照射ステップと、
を備え、
前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材および前記第2部材を溶融させて、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部、および前記第1部材と前記第2部材の接合部に隅肉部を形成する、
レーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以下となる範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とする、
レーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査させる、
レーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以上となる場合、前記第2部材の幅方向の範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とし、
前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査して、前記レーザ光の照射範囲に溶加材を供給する、
レーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れかに記載のレーザ溶接方法において、
前記溶接部を複数形成する、
レーザ溶接方法。
【請求項6】
請求項5に記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光照射ステップでは、
複数の前記溶接部を互いに離間して形成した後、
隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を形成する、
レーザ溶接方法。
【請求項7】
請求項5に記載のレーザ溶接方法において、
前記レーザ光照射ステップでは、
複数の前記溶接部を互いに離間して形成しつつ、
隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を連続して形成する、
レーザ溶接方法。
【請求項8】
金属材料からなる板状の第1部材と、金属材料からなる第2部材とをレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記レーザ光を集光する集光部と、
前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、
前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第2部材を前記第1部材の一方の主面に当接または近接させた状態で、
前記レーザ光を、前記第2部材を前記第1部材に当接または近接させる前記一方の主面とは反対側の主面である前記第1部材の他方の主面に照射させ、
前記レーザ光の照射により、前記第1部材および前記第2部材を溶融させて、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部、および前記第1部材と前記第2部材の接合部に隅肉部を形成させる、
レーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ溶接装置において、
前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以下となる範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とする、
レーザ溶接装置。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザ光の照射に際しては、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査させる、
レーザ溶接装置。
【請求項11】
請求項8に記載のレーザ溶接装置において、
溶加材を供給する溶加材供給機を更に備え、
前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以上となる場合、前記第2部材の幅方向の範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する範囲である所定領域とし、
前記レーザ光の照射に際しては、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査して、前記レーザ光の照射範囲に前記溶加材を供給する、
レーザ溶接装置。
【請求項12】
請求項8から請求項11の何れかに記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザ光の照射により、前記溶接部を複数形成する、
レーザ溶接装置。
【請求項13】
請求項12に記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザ光の照射に際しては、
複数の前記溶接部を互いに離間して形成した後、
隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を形成する、
レーザ溶接装置。
【請求項14】
請求項12に記載のレーザ溶接装置において、
前記レーザ光の照射に際しては、
複数の前記溶接部を互いに離間して形成しつつ、
隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を連続して形成する、
レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士の接合には、レーザ溶接技術が用いられることがある。レーザ溶接による金属部材同士の接合は、レーザ光の照射によって金属部材の一部を溶融させ、凝固させることでなされる。レーザ溶接により金属部材同士を接合する場合には、抵抗溶接などによる場合に比べて、溶接速度が速く、熱影響が少ない、という優位性がある。
【0003】
特許文献1には、2枚の金属板を互いに垂直に突き合せ、突き合せ部に沿ってレーザ光を照射して溶接を行い、T形またはH形の形鋼を形成するレーザ溶接方法が開示されている。特許文献1に開示の方法では、突き合せた金属板の両面から対向する位置に2つのレーザビームを同時に照射するとともに、同方向に照射点を移動させて溶接を行うこととしている。
【0004】
特許文献2には、ウェブ材の両端部にフランジ材を押し当てた2箇所のT字状継手部を、ウェブ材の片面側から同時にレーザ光を照射して1パス溶接を行う溶接H形鋼の製造方法が開示されている。特許文献2に開示の方法では、溶接前のフランジ材を、レーザ光照射側におけるウェブ材となす角度が、レーザ光照射側とは反対側におけるウェブ材となす角度よりも小さくなるように保持した状態でレーザ溶接を行うこととしている。
【0005】
特許文献3には、車両用シートの製造において、スライダのアッパーレールと連結ブラケットとをレーザ溶接する方法が開示されている。特許文献3に開示の方法では、アッパーレールにおける断面U字形状をした部分の上面に対して、断面L字形状をした連結ブラケットの下面を重ね合わせ、重ね合わせの両側部分にレーザ光を照射することとしている。
【0006】
特許文献4には、構造物のT字継手、重ね継手に隅肉溶接を行うに際して、アーク溶接とレーザ溶接とを複合させて溶接を行う方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、丸棒状の金属棒を、その中心線に平行に配した箔状の金属板にレーザ溶接する装置が開示されている。特許文献5に開示の技術では、平坦な板面上に配置した金属板上の所定位置に金属棒を配置し、この金属棒を逆Y字状の光学ユニットの二股状の凹部で金属板側に加圧した状態にして、光学ユニットの上部から入射されたレーザ光を二股状の分岐経路に2分割して導波し、分岐経路の端部に配設された集光レンズによって集光し、集光スポットが金属板上に配置された金属棒との接触箇所の近傍部位になるように両側からレーザ光を照射することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-21912号公報
【文献】特許第5656220号公報
【文献】特開2019-69784号公報
【文献】特許第3907373号公報
【文献】特許第3935639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術では、次の(i)~(ix)のような問題がある。
【0010】
(i)従来技術では、レーザ光のスポット径や溶融範囲が狭く、正確に溶接個所に狙いを定めなければならず、レーザ光もしくは溶接対象部材が位置ずれを起こすと裕度が低いために正しく接合できない。
【0011】
(ii)従来技術では、溶接する対象部材の突き合せの開先精度が悪い場合、ワークギャップができることでスポット径の小さいレーザ光が照射箇所を通り抜けてしまったり、適切に溶接できず、溶け落ち、溶け込み不足、アンダーカットができてしまったりすることで疲労強度が著しく低下する。これを回避しようとすれば、開先精度を向上させる必要があり、大幅なコストアップを招くことになる。
【0012】
(iii)従来技術では、複数枚重ねた状態で溶接しようとすると厚くなり、溶け込み深さを深くするためにより高いエネルギのレーザ光が必要になる。この場合、低速度で走査した場合には溶け落ちやポロシティが発生しやすく、逆に高速度で走査した場合にはスパッタが発生しアンダーフィルやハンピングが形成しやすくなるために制御が難しくなる。また、積層することで各部材の精度誤差が累積し、溶接箇所が適切に当接しないなどで接合されないか十分な強度を有しない場合が生じる。
【0013】
(iv)レーザ溶接により接合を行った場合には、アーク溶接により接合を行った場合よりも角変形量(歪み)が小さいが、上記特許文献2に開示の技術のように角変形量(歪み)を防止したり矯正したりする必要がある。
【0014】
(v)従来技術では、溶接する形状によって、レーザ光を照射する方向や範囲に制限があるために一部分しか溶接できず、十分な強度を得ることができない。例えば、板材の主面にパイプの外周面を当接または近接させて溶接する場合は、互いに接している部分を線でしか溶接することができず、十分な強度を得ることができない。
【0015】
(vi)従来技術では、隅肉部分はレーザ光の照射部分に小さく形成されるか、ほとんど形成されない。隅肉を形成するには、上記特許文献4に開示の技術のように、アーク溶接と複合させるか、フィラー材等の溶加材を加えるか、隅肉が形成できるだけ余分に部材の形状を追加するなどの必要がある。
【0016】
(vii)従来技術では、連続溶接する場合に後半になるに従って入熱量が入る。また、レーザ光の出力が一定の場合、端部になると走査速度が低下するため、入熱量が増加して溶け落ち制御が難しくなる。
【0017】
(viii)従来技術では、T字継手等の両側に隅肉形状を形成するためには、複数回のレーザ照射を行うか、複数台のレーザヘッドを用いる必要がある。このため、工程の増加もしくは設備費用の増加を招く。また、レーザ溶接機の他に、例えばアーク溶接機などの別の設備が必要な場合が生じる。
【0018】
(ix)従来技術では、レーザ溶接装置のヘッドやレーザ光が届かない複雑な形状や狭い箇所にレーザ溶接を行う必要がある場合には、専用のレーザ溶接装置が必要となったり、レーザ光を上記のような箇所に照射できるように構造を変更したり、複数の工程を要したりするなどの問題がある。
【0019】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたものであって、金属板に対して種々の形状を有する金属部材を溶接するにあたって、高い位置裕度を持って、かつ、複雑な接合形態においても溶加材を添加せず隅肉部を形成でき、高い生産性で高強度に接合することができるレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様に係るレーザ溶接方法は、金属材料からなる板状の第1部材と、金属材料からなる第2部材とをレーザ溶接により接合するレーザ溶接方法であって、前記第2部材を前記第1部材の一方の主面に当接または近接させる配置ステップと、レーザ光を、前記第2部材を前記第1部材に当接または近接させる前記一方の主面とは反対側の主面である前記第1部材の他方の主面に照射するレーザ光照射ステップと、を備え、前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材および前記第2部材を溶融させて、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部、および前記第1部材と前記第2部材の接合部に隅肉部を形成する。
【0021】
上記態様に係るレーザ溶接方法では、第2部材を第1部材に当接または近接させる上記一方の主面とは反対側の主面である第1部材の上記他方の主面にレーザ光を照射することで、複雑な形状を有している側にレーザ光を照射することを回避することができ、複雑な形状を実現しようとすることに起因する複数回のパスや複数台のレーザヘッドの使用、レーザ光が届かない箇所への専用装置の追加や工程、照射方向の制限などが不要となり、上記(v)、(viii)、(ix)の課題を解決することができる。
【0022】
また、上記態様に係るレーザ溶接方法では、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部を形成し、広い溶接部の幅を有することでレーザ光や溶接対象部材の位置ズレに対する裕度を向上させると同時に、レーザ光照射が上記溶接部内で完結するので後半になるにつれて入熱量が増加し、溶け落ち制御が難しくなるということがない。また、広い溶接部の幅と深い溶け込み量となることで、溶接熱が集中せず、溶接する部材の両面に対称に近い溶融池が形成される状態となることで角変形量(歪み)をより抑えることができる。また、溶融する幅や深さが広がったことで、溶融金属量が増加し、適切なギャップ量であれば溶加材の供給や隅肉部用の形状を追加することなく接合部に溶融金属の一部が流れ込み、表面張力により別途処理を施すことなく内方側に窪んだ曲面(R形状)を形成し、応力集中が起こり難い隅肉部となる。さらに、プレスのせん断面や破断面などの開先精度が低い箇所や複数枚重ねることで発生する精度誤差によるワークギャップなどに増加した溶融金属の一部が流れ込むことで十分な接合強度を確保することができ、上記(i)~(iv)、(vi)、(vii)の課題を解決することができる。
【0023】
以上より、上記態様に係るレーザ溶接方法では、上記(i)~(ix)の課題を解決することができる。これにより、上記態様に係るレーザ溶接方法では、金属板に対して種々の形状を有する金属部材を溶接するにあたって、高い位置裕度を持って、かつ、複雑な接合形態においても溶加材を添加せず隅肉部を形成でき、高い生産性で高強度に接合することができる。
【0024】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以下となる範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とする、こととしてもよい。
【0025】
上記のように、レーザ光を照射する領域である所定領域を、上記投影された範囲に設定することにより、溶加材を加えたり、隅肉が形成できるだけ余分に部材の形状を追加したりしなくても、前記第1部材と前記第2部材の接合部に十分大きな隅肉部を形成することが可能となる。よって、上記構成を採用する場合には、第1部材と第2部材とをより高強度に接合するのに優位である。
【0026】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査させる、こととしてもよい。
【0027】
上記のように、所定箇所の周りをレーザ光のスポットを周回走査させることにより溶接部および隅肉部を形成する場合には、第1部材および第2部材を溶融・攪拌させて溶接部を形成するので、第1部材と第2部材との間に隙間が空いていても、当該隙間に溶融金属を流し込むことができ、高い接合強度を得ることができる。
【0028】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以上となる場合、前記第2部材の幅方向の範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とし、前記レーザ光照射ステップでは、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査して、前記レーザ光の照射範囲に溶加材を供給する、こととしてもよい。
【0029】
上記のように、上記隙間が第1部材の板厚の1/2以上となる場合に、レーザ光の照射範囲に溶加材を供給することにより、接合強度の低下や溶け落ち等の問題の発生を抑制することができる。よって、上記構成を採用する場合には、例え上記隙間が第1部材の板厚の1/2以上であっても、第1部材と第2部材とを高い強度で接合することが可能となる。
【0030】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記溶接部を複数形成する、こととしてもよい。
【0031】
上記のように、溶接部を複数形成することにより、溶接の後半や端部での入熱量の入りすぎによる溶け落ち等の問題の発生を抑制しながら、第1部材と第2部材とを高い強度で接合することができる。
【0032】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光照射ステップでは、複数の前記溶接部を互いに離間して形成した後、隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を形成する、こととしてもよい。
【0033】
上記のように、隣り合う溶接部同士の間を接続するように線状溶接部を形成することとする場合には、気密性の確保、および応力の低い箇所での工数低減を図ることができる。
【0034】
上記態様に係るレーザ溶接方法において、前記レーザ光照射ステップでは、複数の前記溶接部を互いに離間して形成しつつ、隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を連続して形成する、こととしてもよい。
【0035】
上記のように、複数の溶接部(スポットを周回走査して形成される溶接部)を形成しつつ、線状溶接部を連続して形成する場合にも、複数の溶接部を形成した後に線状溶接部を形成する場合と同様に、気密性の確保、および応力の低い箇所での工数低減を図ることができる。
【0036】
本発明の一態様に係るレーザ溶接装置は、金属材料からなる板状の第1部材と、金属材料からなる第2部材とをレーザ溶接により接合するレーザ溶接装置であって、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記レーザ光を集光する集光部と、前記レーザ光のスポットを走査する走査部と、前記レーザ発振器および前記走査部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第2部材を前記第1部材の一方の主面に当接または近接させた状態で、前記レーザ光を、前記第2部材を前記第1部材に当接または近接させる前記一方の主面とは反対側の主面である前記第1部材の他方の主面に照射させ、前記レーザ光の照射により、前記第1部材および前記第2部材を溶融させて、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部、および前記第1部材と前記第2部材の接合部に隅肉部を形成させる。
【0037】
上記態様に係るレーザ溶接装置では、第2部材を第1部材に当接または近接させる上記一方の主面とは反対側の主面である第1部材の上記他方の主面にレーザ光を照射することで、複雑な形状を有している側にレーザ光を照射することを回避することができ、複雑な形状を実現しようとすることに起因する複数回のパスや複数台のレーザヘッドの使用、レーザ光が届かない箇所への専用装置の追加や工程、照射方向の制限などが不要となり、上記(v)、(viii)、(ix)の課題を解決することができる。
【0038】
また、上記態様に係るレーザ溶接装置では、平面視で略円形状またはオーバル形状の溶接部を形成し、広い溶接部の幅を有することでレーザ光や溶接対象部材の位置ズレに対する裕度を向上させると同時に、レーザ光照射が上記溶接部内で完結するので後半になるにつれて入熱量が増加し、溶け落ち制御が難しくなるということがない。また、広い溶接部の幅と深い溶け込み量となることで、溶接熱が集中せず、溶接する部材の両面に対称に近い溶融池が形成される状態となることで角変形量(歪み)をより抑えることができる。また、溶融する幅や深さが広がったことで、溶融金属量が増加し、適切なギャップ量であれば溶加材の供給や隅肉部用の形状を追加することなく接合部に溶融金属の一部が流れ込み、表面張力により別途処理を施すことなく内方側に窪んだ曲面(R形状)を形成し、応力集中が起こり難い隅肉部となる。さらに、プレスのせん断面や破断面などの開先精度が低い箇所や複数枚重ねることで発生する精度誤差によるワークギャップなどに増加した溶融金属の一部が流れ込むことで十分な接合強度を確保することができ、上記(i)~(iv)、(vi)、(vii)の課題を解決することができる。
【0039】
以上より、上記態様に係るレーザ溶接装置では、上記(i)~(ix)の課題を解決することができる。これにより、上記態様に係るレーザ溶接装置では、金属板に対して種々の形状を有する金属部材を溶接するにあたって、高い位置裕度を持って、かつ、複雑な接合形態においても溶加材を添加せず隅肉部を形成でき、高い生産性で高強度に接合することができる。
【0040】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以下となる範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する領域である所定領域とする、こととしてもよい。
【0041】
上記のように、レーザ光を照射する領域である所定領域を、上記投影された範囲に設定することにより、溶加材を加えたり、隅肉が形成できるだけ余分に部材の形状を追加したりしなくても、前記第1部材と前記第2部材の接合部に十分大きな隅肉部を形成することが可能となる。よって、上記構成を採用する場合には、第1部材と第2部材とをより高強度に接合するのに優位である。
【0042】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記レーザ光の照射に際しては、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査させる、こととしてもよい。
【0043】
上記のように、所定箇所の周りをレーザ光のスポットを周回走査させることにより溶接部および隅肉部を形成する場合には、第1部材および第2部材を溶融・攪拌させて溶接部を形成するので、第1部材と第2部材との間に隙間が空いていても、当該隙間に溶融金属を流し込むことができ、高い接合強度を得ることができる。
【0044】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、溶加材を供給する溶加材供給機を更に備え、前記第2部材が前記第1部材に当接または近接する前記一方の主面と、当該一方の主面と前記第2部材の表面との隙間が前記第1部材の板厚の1/2以上となる場合、前記第2部材の幅方向の範囲を前記第1部材の前記他方の主面に投影し、当該投影された範囲を前記レーザ光を照射する範囲である所定領域とし、前記レーザ光の照射に際しては、前記第1部材の前記所定領域内に中心を持つ所定箇所の周りを前記レーザ光のスポット径よりも大きな径となるように前記スポットを周回走査して、前記レーザ光の照射範囲に前記溶加材を供給する、こととしてもよい。
【0045】
上記のように、上記隙間が第1部材の板厚の1/2以上となる場合に、レーザ光の照射範囲に溶加材を供給することにより、接合強度の低下や溶け落ち等の問題の発生を抑制することができる。よって、上記構成を採用する場合には、例え上記隙間が第1部材の板厚の1/2以上であっても、第1部材と第2部材とを高い強度で接合することが可能となる。
【0046】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記レーザ光の照射により、前記溶接部を複数形成する、こととしてもよい。
【0047】
上記のように、溶接部を複数形成することにより、溶接の後半や端部での入熱量の入りすぎによる溶け落ち等の問題の発生を抑制しながら、第1部材と第2部材とを高い強度で接合することができる。
【0048】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記レーザ光の照射に際しては、複数の前記溶接部を互いに離間して形成した後、隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を形成する、こととしてもよい。
【0049】
上記のように、隣り合う溶接部同士の間を接続するように線状溶接部を形成することとする場合には、気密性の確保、および応力の低い箇所での工数低減を図ることができる。
【0050】
上記態様に係るレーザ溶接装置において、前記レーザ光の照射に際しては、複数の前記溶接部を互いに離間して形成しつつ、隣り合う前記溶接部同士を接続するように、平面視で線状の線状溶接部を連続して形成する、こととしてもよい。
【0051】
上記のように、複数の溶接部(スポットを周回走査して形成される溶接部)を形成しつつ、線状溶接部を連続して形成する場合にも、複数の溶接部を形成した後に線状溶接部を形成する場合と同様に、気密性の確保、および応力の低い箇所での工数低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0052】
上記の各態様では、金属板に対して種々の形状を有する金属部材を溶接するにあたって、高い位置裕度を持って、かつ、複雑な接合形態においても溶加材を添加せず隅肉部を形成でき、高い生産性で高強度に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ溶接装置の構成を示す模式図である。
【
図2】レーザ溶接により板材同士を接合する方法を説明するための斜視図であって、(a)は金属板同士を突き合せた状態で配置する配置ステップを示し、(b)は金属板の上面にレーザ光を照射するレーザ光照射ステップを示す。
【
図3】レーザ溶接の際のレーザ光のスポットの走査軌跡を示す平面図である。
【
図6】金属板の突き合せ部分とレーザ光のスポットの周回中心との位置関係を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す断面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)である。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)である。
【
図10】本発明の第5実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)である。
【
図11】金属板およびパイプ材と溶接部の中心との位置関係を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【
図12】本発明の第6実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)である。
【
図13】本発明の第7実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための斜視図である。
【
図14】(a)は、本発明の第8実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図、(b)は、本発明の第9実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図、(c)は、本発明の第10実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図、(d)は、本発明の第11実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図、(e)は、本発明の第12実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図、(f)は、本発明の第13実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部を示す平面図である。
【
図15】(a)は、本発明の第14実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)、(b)は、本発明の第15実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す平面図、(c)は、第15実施形態に係る溶接部を示す断面図である。
【
図16】(a)は、本発明の第16実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図、(b)は、第16実施形態に係る溶接部を示す断面図、(c)は、第17実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図、(d)は、第17実施形態に係る溶接部を示す断面図である。
【
図17】本発明の第18実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部を示す斜視図(一部断面図)である。
【
図18】(a)は、実施例に係るレーザ溶接方法を示す斜視図、(b)は、比較例に係るレーザ溶接方法を示す斜視図、(c)は、実施例に係るレーザ溶接方法により形成されたT字継手における鋼板の形状変形状態を示す断面図、(d)は、比較例に係るレーザ溶接方法により形成されたT字継手における鋼板の形状変形状態を示す断面図である。
【
図19】(a)は、実施例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の方法を示す模式図、(b)は、比較例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の第1の方法を示す模式図、(c)は、比較例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の第2の方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0055】
[第1実施形態]
1.レーザ溶接装置1の概略構成
図1は、第1実施形態に係るレーザ溶接装置1の構成を示す模式図である。
【0056】
図1に示すように、レーザ溶接装置1は、レーザ発振器11と、光路12と、集光部13と、を備える。レーザ発振器11は、当該レーザ発振器11に接続されたコントローラ(制御部)16からの指令に従ってレーザ光LBを発振する。
【0057】
レーザ発振器11で発振されたレーザ光LBは、光路12を通り集光部13へと伝搬される。集光部13では、伝搬されてきたレーザ光LBが金属板(第1部材)501の上面に集光される(スポットが形成される)。ここで、集光部13は、レーザ光LBを集光する機能(集光部としての機能)とともに、スポットを金属板501の上面上で走査する機能(走査部としての機能)も有する。スポットの走査に関しても、コントローラ16からの指令に従ってなされる。
【0058】
コントローラ16は、CPU、RAM、ROMなどから構成されたマイクロプロセッサと、その周辺回路と、を含み構成されている。
【0059】
なお、本実施形態に係るレーザ溶接装置1では、光路12の一例として光ファイバーケーブルを用いているが、これ以外にもレーザ光LBを伝搬することができる種々の航路を採用することもできる。ここで、本実施形態では、一例として、金属板501と金属板(第2部材)502とを接合してT字継手を形成することとしている。
【0060】
レーザ溶接装置1は、溶接ロボット14と、当該溶接ロボット14の駆動に係る駆動ドライバ15と、を備える。溶接ロボット14は、その先端部分に集光部13が取り付けられており、駆動ドライバ15に接続されたコントローラ16からの指令に従って、集光部13を3次元で移動させる。
【0061】
2.レーザ溶接方法の概略
図2は、レーザ溶接により板材同士を接合する方法を説明するための斜視図であって、
図2(a)は金属板501の下面501bに金属板502の端面502aを突き合せた状態で配置する配置ステップを示し、
図2(b)は金属板501の上面501aにレーザ光LBを照射するレーザ光照射ステップを示す。
図3は、レーザ溶接の際のレーザ光LBのスポットの走査軌跡L
LBを示す平面図である。
【0062】
(1)配置ステップ
先ず、第1部材としての金属板501と、第2部材としての金属板502と、を準備する。このうち金属板501は、板厚がT501である。
【0063】
図2(a)に示すように、金属板501の下面501bに対して金属板502の端面502aを突き合せる。このとき、金属板501の下面501bと金属板502の端面502aとの間にわずかな隙間が残っていてもよい。換言すれば、金属板501の下面501bに対して金属板502の端面502aを近接させてもよい。
【0064】
(2)レーザ光照射ステップ
図2(b)に示すように、金属板501の下面501bに金属板502の端面502aを突き合せた状態を維持しながら、金属板501の上面501aの所定領域に対してレーザ光LBを照射する。レーザ光LBの照射においては、
図2(b)の矢印で示すように、レーザ光LBのスポットが所定箇所の周りを周回するように走査する。具体的には、
図3に示すように、金属板501の上面501aにおける箇所Ax503を中心とし、当該箇所Ax503を周回中心としてその周囲を周回し、走査軌跡L
LBが渦巻き状となるようにレーザ光LBのスポットを周回走査する。
【0065】
ここで、
図3に示すように、レーザ光LBを照射する領域(所定領域)は、金属板501の上面501aのうち、金属板502の端面502aが当接した領域の反対側(金属板501の板厚T501を挟んだ反対側)の部分の一部とその周辺領域である。そして、レーザ光LBのスポットが周回する領域の外径φLは、金属板502の板厚に相当する領域W502以上となっている。
【0066】
このように外径φLを領域W502以上(金属板502の板厚以上)とすることにより、金属板501と金属板502との接合しようとする部分を溶融させることができ、本実施形態のようにT字継手を形成しようとする場合に、当該継手の応力集中箇所に隅肉部を形成することができ、金属板501と金属板502とを高強度に接合することができる。
【0067】
3.溶接部503の形態
図4は、レーザ溶接装置1を用いた溶接により形成される溶接部503を示す平面図であり、
図5は、
図4のV-V線断面を示す断面図である。
【0068】
図3に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いて金属板501と金属板502とを接合した場合、平面視で略円形の溶接部503が形成されることになる。ただし、溶接部の平面視形状については、略円形に限らず、オーバル形状でもよい。
【0069】
図5に示すように、金属板501,502および溶接部503を断面で見る場合に、平面視略円形の溶接部503における上面(金属板501の上面501a側の面)503aは、金属板501の上面501aの周囲よりも若干凹んだ形状となる。
【0070】
また、平面視略円形の溶接部503では、金属板501の下面501b側であって、金属板502の突き合せ部分に近い箇所に、隅肉部503b,503cを有する。隅肉部503b,503cは、
図2(b)に示すようにレーザ光LBのスポットを周回させながら溶接を行うことによる溶融金属の流れ込みにより、突き合せた部分の両脇部分にワイヤなどの溶加材を供給しなくても形成される。よって、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板501と金属板502とを高強度に接合することができる。
【0071】
4.レーザ光LBのスポットの周回中心Ax503の位置設定
図6は、金属板501,502の突き合せ部分とレーザ光LBのスポットの周回中心Ax503との位置関係を示す図であって、
図6(a)は平面図、
図6(b)は正面図である。
【0072】
図6(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接においては、金属板501の下面501bに金属板502の端面502aを突き合せて当接させる(
図2(a)を参照)。このため、金属板501と金属板502の突き合せ部分は、金属板502の板厚に相当する領域W502ということになる。
【0073】
本実施形態に係るレーザ溶接においては、レーザ光LBのスポットの周回中心Ax503を、金属板501の上面501aにおける領域W502に相当する範囲に設定することとしている。これにより、
図6(a)に示すように、金属板501の上面501aにおける領域W502内に中心を有する平面視略円形の溶接部503が形成されることになる。
【0074】
以上のように、周回中心Ax503を設定することにより、溶加材の供給や溶接部の周辺部分を予め加工するなどしなくても、金属板501の下面501bと金属板502の端面502aとの突き合せ部分の両脇部分に隅肉部503b,503cを形成することができ、金属板501と金属板502とを高強度に接合するのに優位である。
【0075】
また、接合しようとする両部材501,502をレーザ光で溶融することで、接合角部に重力と表面張力の作用で隅肉部503b,503cが形成され、さらに強度アップが図られる。
【0076】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部509を示す断面図である。
【0077】
本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。上記第1実施形態と相違する点は、接合しようとする金属板506~508が3枚である点である。
【0078】
図7に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、配置ステップにおいて、金属板506と金属板507とを重ね合わせ、金属板508の端面を金属板507の下面に当接または近接させる。なお、本実施形態では、金属板506と金属板507との間に微細な隙間G1が空いている。ただし、金属板506と金属板507との間の隙間G1については、必ずしも必要ではない。
【0079】
そして、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、レーザ光LBを金属板506の上方から当該金属板506の上面506aに対して照射して平面視略円形の溶接部509を形成する。これにより、金属板506と金属板507と金属板508とが接合される。
【0080】
なお、本実施形態でも、レーザ光照射ステップにおいて、レーザ光LBのスポットを所定箇所の周りを周回するように走査して、平面視で略円形またはオーバル形状の溶接部509が形成されるとともに、上記実施敬愛と同様に、隅肉部509b,509cが形成される。そして、
図7に示すように、平面視略円形の溶接部509の上面509aは、金属板506の上面506aよりも若干凹んだ形状となる。
【0081】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、重ね合わせた2枚の金属板506,507を含む状態での溶接を行うものであるが、上記第1実施形態と同様に高強度での接合を行うことができる。
【0082】
ここで、上記特許文献2に開示の技術では、金属板の上面からレーザ光を照射し、上面上でレーザ光のスポットをウィービング(ジグザグ状に走査、曲線状に走査、波形状に走査、螺旋状に走査)している。このような方法を採用する場合には、溶接が可能な金属部材の配置形態に限りがあり、配置形態によっては十分な接合強度を得ることができない場合も生じ得る。
【0083】
また、上記(iii)のように、従来技術では、
図7に示すように複数枚の金属板を重ね合わせて溶接を行う場合、公差内であっても部材ごとの精度誤差によって生じるズレにより狙い位置裕度が低いという問題が生じる。
【0084】
また、
図7などに示すような形態の継手を形成しようとする場合には、開先精度が必要となり、ワークギャップ裕度が0.2未満程度であることから、プレス加工で生じるせん断面や破断面により接合強度に影響がでる。
【0085】
さらに、ワークギャップがある場合には、アンダーカットが発生するという問題や、金属板を複数枚重ねて継手を形成することができないという問題などがある。
【0086】
これに対して、本実施形態に係るレーザ溶接方法を採用すれば、上記のような問題を解決することができ、比較的高い自由度を持って金属部材の溶接を行うことができる。
【0087】
[第3実施形態]
図8は、本発明の第3実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略半円形の溶接部513を示す斜視図(一部断面図)である。
【0088】
本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。上記第1実施形態と相違する点は、金属板511に対する金属板512の配置形態と溶接部513の形成箇所である。
【0089】
図8に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、2枚の金属板(第1部材、第2部材)511,512を用いて角継手を形成する。具体的には、金属板511の下面(一方の主面)511bにおける端部に対して、金属板512の端面を当接または近接させる。そして、金属板511の上面(他方の主面)511aに対してレーザ光LBを照射する。そして、上記第1実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板511の上面511aの所定箇所の周りを周回させる。これにより、平面視略半円形の溶接部513が形成される。
【0090】
また、金属板511の下面511bに対して金属板512が突き合わされた部分に隅肉部513bが形成される。
【0091】
レーザ光LBのスポットの周回に係る領域の定義については、上記第1実施形態と同じである。ただし、角継手の形成においては、金属板511の上面511aの外側へのレーザ光LBの照射を行わないように走査軌跡が制御される。
【0092】
上記のようなレーザ溶接方法により角継手を形成する場合にも、上記第1実施形態と同様に、高い位置裕度を持って金属板511と金属板512とを高強度に接合することができる。
【0093】
[第4実施形態]
図9は、本発明の第4実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部518を示す斜視図(一部断面図)である。
【0094】
本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。上記第1実施形態と相違する点は、L字断面の金属板517を第2部材として用いる点である。
【0095】
図9に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、2枚の金属板(第1部材、第2部材)516,517を用いてフレア形継手を形成する。具体的には、金属板516の下面(一方の主面)516bに対して、L字形状の断面を有する金属板517の一部を当接させる。そして、金属板516の上面(他方の主面)516aに対してレーザ光LBを照射する。本実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板516の上面516aの所定箇所の周りを周回させる。これにより、平面視略円形の溶接部518が形成される。
【0096】
また、金属板516の下面516bに対して金属板517が当接した部分の近傍の隙間部分に隅肉部518bが形成される。
【0097】
ここで、上面516aにおけるレーザ光LBを照射する領域は、上面516aを平面視した場合に、金属板517の曲折部517aが配される箇所の金属板516の板厚を挟んだ反対側の箇所とその周辺領域である。なお、レーザ光LBのスポットの周回に係る領域の定義については、上記第1実施形態と同じである。
【0098】
上記のようなレーザ溶接方法により角継手を形成する場合にも、上記第1実施形態と同様に、高い位置裕度を持って金属板516と金属板517とを高強度に接合することができる。
【0099】
[第5実施形態]
図10は、本発明の第5実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部523を示す斜視図(一部断面図)である。
図11は、金属板521およびパイプ材522と溶接部523の中心(レーザ光LBのスポットの周回中心)Ax523との位置関係を示す図であって、
図11(a)は平面図、
図11(b)は正面図である。
【0100】
1.レーザ溶接方法
図10に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、金属板(第1部材521とパイプ材522とを接合する。具体的には、金属板521の下面(一方の主面)521bに対して、パイプ材522の外周面の一部を当接または近接させる。そして、金属板521の上面(他方の主面)521aに対してレーザ光LBを照射する。そして、本実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板521の上面521aの所定箇所の周りを周回させる。これにより、平面視略円形の溶接部523が形成される。
【0101】
また、金属板521の下面521bに対してパイプ材522が当接または近接する箇所の両脇部分に隅肉部523b,523cが形成される。
【0102】
ここで、上面521aにおけるレーザ光LBを照射する領域は、上面521aを平面視した場合に、パイプ材522の外周面が当接または近接された箇所の金属板521の板厚を挟んだ反対側の箇所とその周辺領域である。なお、レーザ光LBのスポットの周回に係る領域の定義については、上記第1実施形態と同じである。
【0103】
上記のようなレーザ溶接方法により角継手を形成する場合にも、上記第1実施形態と同様に、高い位置裕度を持って金属板521とパイプ材522とを高強度に接合することができる。
【0104】
2.レーザ光LBのスポットの周回中心Ax523
図11(a)、(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板521の下面(一方の主面)521bとパイプ材522の外周面522aとが当接または最も近接する箇所をレーザ光LBのスポットの周回中心Ax523に設定した。このため、本実施形態に係るレーザ溶接方法を用いた場合には、平面視で周回中心Ax523を中心とした平面視略円形の溶接部523が形成されることとになる。
【0105】
しかしながら、レーザ光LBのスポットの周回中心Ax523については、範囲Ar522で設定することが可能である。具体的には、範囲Ar522を次のように設定する。
【0106】
図11(b)に示すように、金属板521の下面521bに対してパイプ材522の外周面522aの一部を当接または近接させる。このとき、金属板521の下方において、当該金属板521の下面521bから隙間G2空けた状態で仮想線L0を引く。そして、仮想線L0とパイプ材522の外周面522aとの交点を箇所P1,P2とする。
【0107】
ここで、隙間G2は、金属板521の板厚T521の1/2以下としている。
【0108】
箇所P1,P2のそれぞれから金属板521の上面521aに対して直交する仮想線L1,L2を引く。この場合に、仮想線L1と仮想線L2との間の領域が範囲Ar522に設定される。
【0109】
上記のように、範囲Ar522を設定したのは、次のような経緯からである。
【0110】
本発明の発明者等は、金属板521の板厚T521に対して隙間G2が1/2よりも大きくなると、隙間G2が大きくなるのに従ってせん断力が低下するといった問題や、溶け落ちといった問題が発生することを究明した。このような問題について本発明者等が鋭意検討した結果、隙間G2が(T521/2)よりも大きくなることで溶接部523に働く曲げ応力が大きくなり、かつ、溶融して隙間G2に流れ込む金属の量が増えることで厚さのバラツキや応力集中部での板厚減少が生じ、これらが強度低下の原因であると考えられる。よって、確実に溶接品質を保証するためには、隙間G2を金属板521の板厚T521の1/2以下に抑えることが必要であると結論付けた。
【0111】
また、2枚の金属板をレーザ溶接時にその隙間(GAP)と引張せん断力との関係を実験した結果、GAPが板厚の20%までは強度は微増し、30%で上昇幅が減少し、50%で、GAPが“0”と同程度となり、70%では17%低下するという結果を得ている。
【0112】
なお、本実施形態では、金属板521とパイプ材522の溶接において、上記のように範囲Ar522を規定することとしたが、第2部材としてはパイプ材522に限定されるものではなく、金属板や線材など、種々の部材でも同様である。
【0113】
[第6実施形態]
図12は、本発明の第6実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部528を示す斜視図(一部断面図)である。
【0114】
本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。上記第1実施形態と相違する点は、線材527を第2部材として用いる点である。
【0115】
図12に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、金属板(第1部材)526の下面(一方の主面)526bに対して線材(第2部材)527を接合する。具体的には、金属板526の下面526bに対して、線材527の端面を当接または近接させる。そして、金属板526の上面(他方の主面)526aに対してレーザ光LBを照射する。そして、本実施形態においても、上記第1実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板526の上面526aの所定箇所の周りを周回させる。これにより、平面視略円形の溶接部528が形成される。
【0116】
また、金属板526の下面526bに対して線材527が当接または近接した部分の両脇に隅肉部528b,528cが形成される。
【0117】
ここで、上面526aにおけるレーザ光LBを照射する領域は、上面526aを平面視した場合に、線材527の端面が当接または近接された箇所の金属板526の板厚を挟んだ反対側の箇所とその周辺領域である。なお、レーザ光LBのスポットの周回に係る領域の定義については、上記第1実施形態と同じである。
【0118】
上記のようなレーザ溶接方法を用いた接合の場合にも、上記第1実施形態と同様に、高い位置裕度を持って金属板526と線材527とを高強度に接合することができる。
【0119】
[第7実施形態]
図13は、本発明の第7実施形態に係るレーザ溶接方法を説明するための斜視図である。
【0120】
本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。上記第1実施形態と相違する点は、金属板531と金属板532との配置形態、およびワイヤ(溶加材)533を供給する点である。
【0121】
図13に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、上記第1実施形態と同様に、2枚の金属板(第1部材、第2部材)531,532を用いてT字継手を形成する。具体的には、金属板531の下面(一方の主面)531bに対して、金属板532の端面532aを近接させる。ここで、本実施形態では、金属板531の下面531bと金属板532の端面532aとの間の隙間G3が金属板531の板厚T531の1/2以上である。
【0122】
そして、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、照射範囲にワイヤ(溶加材)533を供給しながら金属板531の上面(他方の主面)531aに対してレーザ光LBを照射する。なお、上記第1実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板531の上面531aの所定箇所の周りを周回させることにより、平面視略円形状の溶接部が形成される。
【0123】
上記のようなレーザ溶接方法により角継手を形成する場合にも、上記第1実施形態と同様に、高い位置裕度を持って金属板531と金属板532とを高強度に接合することができる。
【0124】
ここで、板厚T531の1/2以上の隙間G3が空いた状態で金属板531と金属板532とを配置してレーザ溶接を行う場合、ワイヤ533の供給を行わなかった場合には強度低下や溶け落ちなどの問題を生じることが考えられる。これに対して、本実施形態のように、レーザ溶接に際してワイヤ533を供給する場合には、隙間G3による金属不足(隙間G3への流れ込みによる不足)をワイヤ533の供給により補うことができ、上記のような強度不足や溶け落ちといった問題が生じるのを抑制することができる。
【0125】
なお、上記ではワイヤ533の供給に係る装置を特に言及していないが、溶接ロボット14のヘッドや他の箇所にワイヤ533を必要に応じて供給するワイヤ供給機(溶加材供給機)を設けることとすれば
図13に示すように溶加材の供給を実行することが可能である。
【0126】
[第8実施形態]
図14(a)は、本発明の第8実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部538を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0127】
図14(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板536の一方の主面(
図14(a)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板537の端面を当接または近接させる。そして、金属板536の他方の主面(
図14(a)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部538を複数形成して行く。
【0128】
複数の溶接部538は、互いに重なりを有する状態で形成され、金属板537の端面が延びる方向に配置されている。
【0129】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第1実施形態と同様の効果を得られるのに加えて、例えば、気密性が必要とされるような溶接を行うのに優位となる。
【0130】
[第9実施形態]
図14(b)は、本発明の第9実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部541を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0131】
図14(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板539の一方の主面(
図14(b)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板540の端面を当接または近接させる。そして、金属板539の他方の主面(
図14(b)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部541を複数形成して行く。
【0132】
複数の溶接部541は、互いに離間した状態で、金属板540の端面が延びる方向に配置されている。
【0133】
以上のようなレーザ溶接方法を用いる場合にも、上記第8実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0134】
[第10実施形態]
図14(c)は、本発明の第10実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部544を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0135】
図14(c)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板542の一方の主面(
図14(c)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板543の端面を当接または近接させる。そして、金属板542の他方の主面(
図14(c)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部544を複数形成して行く。
【0136】
複数の溶接部544は、並行する2列をなすように設けられており、各列の構成は、上記第8実施形態と同様である。なお、列同士は、間に間隔をおいて設けられている。
【0137】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第1実施形態と同様の効果を得られるのに加えて、例えば、上記第8実施形態のレーザ溶接方法よりも更に気密性が必要とされるような溶接を行うのに優位となる。
【0138】
[第11実施形態]
図14(d)は、本発明の第11実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部547を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0139】
図14(d)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板545の一方の主面(
図14(d)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板546の端面を当接または近接させる。そして、金属板545の他方の主面(
図14(d)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部547を複数形成して行く。
【0140】
複数の溶接部547は、上記第9実施形態と同様の列をなすとともに、当該列同士が間に間隔をおいて並設されている。
【0141】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第1実施形態と同様の効果を得られるのに加えて、例えば、上記第9実施形態のレーザ溶接方法よりも更に気密性が必要とされるような溶接を行うのに優位となる。
【0142】
[第12実施形態]
図14(e)は、本発明の第12実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部550を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0143】
図14(e)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板548の一方の主面(
図14(e)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板549の端面を当接または近接させる。そして、金属板548の他方の主面(
図14(e)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部550を複数形成して行く。
【0144】
複数の溶接部550は、互いに重なりを有する状態で形成され、平面視で千鳥状をなすように設けられる。
【0145】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第8実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0146】
[第13実施形態]
図14(f)は、本発明の第13実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部553を示す平面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0147】
図14(f)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板551の一方の主面(
図14(f)の手前側主面に対して反対側となる主面)に金属板552の端面を当接または近接させる。そして、金属板551の他方の主面(
図14(f)の手前側主面)に平面視略円形の溶接部553を複数形成して行く。
【0148】
複数の溶接部553は、互いに離間した状態で形成され、平面視で千鳥状をなすように設けられる。
【0149】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第9実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0150】
[第14実施形態]
図15(a)は、本発明の第14実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部(平面視略円形の溶接部556と平面視線状の線状溶接部557)を示す斜視図(一部断面図)である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0151】
図15(a)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板554の下面(一方の主面)554bにパイプ材555の外周面の一部が当接または近接するように配置する。そして、金属板554の上面(他方の主面)554aにレーザ光LBを照射して平面視略円形の溶接部556と平面視線状の線状溶接部557とをそれぞれ複数形成する。
【0152】
また、金属板554の下面554bに対してパイプ材555が当接または近接する部分の両脇に隅肉部556b,556cが形成される。
【0153】
ここで、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、溶接部556と線状溶接部557とを連続して形成することとしてもよいし、先に複数の溶接部556を形成しておき、その後に溶接部556同士の間を繋ぐように線状溶接部557を形成することとしてもよい。なお、連続して形成するとは、レーザ光の発振を維持しながらレーザ光LBのスポットを走査することで平面視略円形の溶接部556と線状溶接部557とを連続して形成するという意味である。
【0154】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第8実施形態などと同様の効果を得ることができるとともに、更なる気密性を確保するのに優位である。
【0155】
[第15実施形態]
図15(b)は、本発明の第15実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部(平面視略円形の溶接部560と平面視線状の線状溶接部561)を示す平面図であり、
図15(c)は、その断面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0156】
図15(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板558の下面(一方の主面)558bにパイプ材559の外周面の一部が当接または近接するように配置する。そして、金属板558の上面(他方の主面)558aにレーザ光LBを照射して2つの溶接部560と1つの線状溶接部561とを形成する。なお、2つの溶接部560は、互いにパイプ材559の径方向に離間しており、線状溶接部561はパイプ材559の径方向に沿って延びるように形成される。
【0157】
また、金属板558の下面558bに対してパイプ材559が当接または近接する部分の両脇に隅肉部560b,560cが形成される。
【0158】
本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、平面視略円形の溶接部560と線状溶接部561とを連続して形成することとしてもよいし、先に2つの溶接部560を形成しておき、その後に溶接部560同士の間を繋ぐように線状溶接部561を形成することとしてもよい。
【0159】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、上記第5実施形態などと同様の効果を得ることができるとともに、次のような効果を得ることもできる。
【0160】
本実施形態に係るレーザ溶接方法では、例えば、隅肉溶接効果を得るために幅を持たせたいような場合に、剥離またはせん断荷重が加わった際の応力分布でパイプ材559の径方向の中央部に加わる応力が端部よりも小さいことに着目して、当該部分を線状溶接部561で繋ぐようにして作業工程の短縮を図ることができる。
【0161】
[第16実施形態]
図16(a)は、本発明の第16実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部564を示す斜視図であり、
図16(b)は、その断面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0162】
図16(a)、(b)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、金属板562の下面(一方の主面)562bに円形断面の線材(第2部材)563の外周面の一部が当接または近接するように配置する。そして、金属板562の上面(他方の主面)562aにレーザ光LBを照射して平面視略円形の溶接部564を複数形成する。複数の溶接部564は、線材563が延びる方向に互いに離間した状態で形成される。
【0163】
また、金属板562の下面562bに対して線材563が当接または近接する部分の両脇に隅肉部564b,564cが形成される。
【0164】
以上のようなレーザ溶接方法を用いれば、高い位置裕度を持って、かつ、高強度に金属板562に円形断面の線材563を接合することができる。
【0165】
[第17実施形態]
図16(c)は、第17実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された溶接部(平面視略円形の溶接部567と平面視線状の線状溶接部568)を示す斜視図であり、
図16(d)は、その断面図である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0166】
図16(c)、(d)に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、金属板565の下面(一方の主面)565bに、L字形状の断面を有する金属板566の一部を当接させる。そして、金属板565の上面(他方の主面)565aに対してレーザ光LBを照射して3つの溶接部567と2つの線状溶接部568とを形成する。なお、3つの溶接部567は、互いに離間しており、線状溶接部568は溶接部567同士の間を繋ぐように形成される。
【0167】
本実施形態に係るレーザ溶接方法でも、溶接部567と線状溶接部568とを連続する工程で形成することとしてもよいし、先に3つの溶接部567を形成しておき、その後に溶接部567同士の間を繋ぐように線状溶接部568を形成することとしてもよい。
【0168】
また、金属板565の下面565bに対して金属板566が当接する部分の近傍に隅肉部567bが形成される。
【0169】
以上のようなレーザ溶接方法では、上記第4実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、更に気密性が必要とされるような溶接を行うのに優位となる。
【0170】
[第18実施形態]
図17は、本発明の第18実施形態に係るレーザ溶接方法により形成された平面視略円形の溶接部571を示す斜視図(一部断面図)である。本実施形態でも、上記第1実施形態に係るレーザ溶接装置1と基本的に同じ構成のレーザ溶接装置を使用する。
【0171】
図17に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接では、2枚の金属板(第1部材、第2部材)569,570を用いて重ね継手を形成する。具体的には、金属板569の下面(一方の主面)569bに対して、金属板570を重ね合わせる。なお、金属板569と金属板570とは、互いに隙間なく重ね合わせることとしてもよいし、互いの間に隙間を空けて重ね合わせることとしてもよい。次に、金属板569の上面(他方の主面)569aに対してレーザ光LBを照射して平面視略円形の溶接部571を形成する。なお、本実施形態でも、上記第1実施形態から上記第17実施形態と同様に、レーザ光LBのスポットを金属板569の上面569aの所定箇所の周りを周回させる。これにより、平面視略円形の溶接部571が形成される。
【0172】
また、金属板569の下面569bに対して金属板570が重ね合わされた部分の端部に隅肉部571bが形成される。
【0173】
上記のようなレーザ溶接方法により角継手を形成する場合にも、上記第1実施形態などと同様に、高い位置裕度を持って金属板569と金属板570とを高強度に接合することができる。
【0174】
[効果の確認]
(1)熱変形による形状変形(角変形)
(i)実施例および比較例
図18(a)は、実施例に係るレーザ溶接方法を示す斜視図であり、
図18(b)は、比較例に係るレーザ溶接方法を示す斜視図である。
【0175】
先ず、
図18(a)、(b)に示すように、40mm×100mm×3.2mmの熱間圧延鋼板(SPFH590)を準備した。そして、鋼板572の下面572bに対して鋼板573の端面を突き合せた状態で配置した。
【0176】
・実施例
図18(a)に示すように、実施例に係るレーザ溶接方法では、鋼板572の上面572aにレーザ光LBを照射するとともに、レーザ光LBのスポットを所定箇所の周りを周回するように走査して平面視略楕円形状の溶接部574を5つ形成した。各溶接部574の平面形状は、二点鎖線で囲んだ部分に示すように、長径が7mmで、短径が3.5mmであり、5つの溶接部574により合計で35mmの溶接部を形成した。
【0177】
なお、レーザ溶接の条件を3500Wで250mm/sとした。
【0178】
・比較例
図18(b)に示すように、比較例に係るレーザ溶接方法では、鋼板572の下面572bに対する鋼板573の突き合せの一方側からレーザ光LBを照射し、突き合せに係る鋼板573の端辺に沿ってレーザ光LBのスポットを走査した。これにより鋼板573の端辺に沿って線状の溶接部974を形成した。溶接部974の長さは、35mmとした。
【0179】
なお、レーザ溶接の条件を3500Wで50mm/sとした。
【0180】
(ii)形状変形(角変形)
図18(c)は、実施例に係るレーザ溶接方法により形成されたT字継手における鋼板572の形状変形状態を示す断面図であり、
図18(d)は、比較例に係るレーザ溶接方法により形成されたT字継手における鋼板572の形状変形状態を示す断面図である。
【0181】
先ず、
図18(c)に示すように、実施例に係るレーザ溶接方法では、鋼板572が角度θ1だけ変形した。角度θ1は、略0.1°であった。
【0182】
次に、
図18(d)に示すように、比較例に係るレーザ溶接方法では、鋼板572が角度θ2だけ変形した。角度θ2は、略0.5°であった。
【0183】
以上のように、実施例に係るレーザ溶接方法を用いる場合には、従来技術と同様の比較例に係るレーザ溶接方法を用いる場合に比べて、角変形量(歪み)を略1/5とすることができた。よって、実施例に係るレーザ溶接方法では、高い強度で低い歪みでの接合が可能である。
【0184】
(2)疲労強度
(i)試験方法
図19(a)は、実施例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の方法を示す模式図であり、
図19(b)は、比較例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の第1の方法(比較例1の方法)を示す模式図であり、
図19(c)は、比較例に係るサンプルを用いた疲労強度試験の第2の方法(比較例2の方法)を示す模式図である。
【0185】
・実施例
図19(a)に示すように、上記実施例に係るT字継手のサンプルを準備し、鋼板572を固定した。そして、鋼板573における鋼板572の下面572bから40mmの箇所に、破断するまで100N-800Nの繰り返し荷重Pをかけた。
【0186】
・比較例1の方法
図19(b)に示すように、上記比較例に係るT字継手のサンプルを準備し、鋼板572を固定した。そして、鋼板573における溶接部974の形成の際にレーザ光LBを照射した側の主面573aに対して、上記実施例と同様に鋼板572の下面572bから40mmの箇所に、破断するまで100N-800Nの繰り返し荷重Pをかけた。
【0187】
・比較例2の方法
図19(c)に示すように、上記比較例に係るT字継手のサンプルを準備し、鋼板572を固定した。そして、鋼板573における溶接部974の形成の際にレーザ光LBを照射した側とは反対側の主面573bに対して、上記実施例と同様に鋼板572の下面572bから40mmの箇所に、破断するまで100N-800Nの繰り返し荷重Pをかけた。
【0188】
(ii)疲労強度試験結果
図20は、疲労強度試験の結果を示すグラフである。
【0189】
図20に示すように、実施例では、サイクル数が140000を超えた。これに対して、比較例1では、サイクル数が30000に届かず、比較例2では、サイクル数が20000にも届かなかった。
【0190】
以上のように、実施例は、比較例1に対して4~5倍の疲労強度を有し、比較例2に対して7倍以上の疲労強度を有することが分かった。
【0191】
なお、従来技術に係るレーザ溶接方法を用いて、鋼板573の両主面573a,573b側に隅肉部を形成すれば、疲労強度の向上を幾分か図ることは可能であると考えられるが、このように両主面573a,573b側に隅肉部を形成しようとする場合には、レーザ光LBの照射において複数回のパスや複数のレーザヘッドを準備したりすることが必要となり、生産性の低下が避けられない。
【0192】
また、実施例に係るレーザ溶接方法により形成されたT字継手では、上記第1実施形態から上記実施形態18と同様に、隅肉部が内方側に凹んだ曲面(R曲面)となるので、応力集中が起こり難く、応力集中を低減するために別途の処理(例えば、ピーニング処理やグラインダー処理など)を施す工程や前後に工程を追加する必要もない。よって、高い生産性を確保するのにも優位である。
【0193】
[変形例]
上記第1実施形態および上記第3実施形態から上記第18実施形態では、2つの部材を接合するためにレーザ溶接を用い、上記第2実施形態では、3つの部材を接合するのにレーザ溶接を用いたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、1枚の金属板(第1部材)と3つ以上の第2部材とを接合するのに上記のようなレーザ溶接方法を用いることも可能である。
【0194】
上記第1実施形態から上記第18実施形態では、平面視略円形の溶接部503,509,513,518。523,528,538,541,544,547,550,553,556,560,564,567,571を形成し、上記実施例では、平面視略楕円形の溶接部574を形成することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、平面視オーバル形の溶接部や、平面視で多角形状(角丸の多角形状)の溶接部を形成することとしてもよい。
【0195】
上記第1実施形態から上記第18実施形態では、レーザ光LBのスポットを走査するために集光部13を制御することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、溶接ロボット14の先端部分を駆動制御することでレーザ光LBのスポットを走査してもよいし、X-Yテーブルなどを用いてレーザ光LBのスポットを走査することとしてもよい。
【0196】
また、上記第1実施形態から上記第18実施形態では、溶接時において、レーザ光LBのスポットを移動させることとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、溶接される側の第1部材および第2部材を移動させて、相対的にレーザ光LBのスポットを走査することとしてもよい。
【0197】
さらに、本発明は、上記第1実施形態から上記第18実施形態を任意に組み合わせてレーザ溶接を実行することとしてもよい。
【符号の説明】
【0198】
1 レーザ溶接装置
11 レーザ発振器
13 集光部
16 コントローラ(制御部)
501,506,511,516,521,526,531,536,539,542,545,548,551,554,558,562,565,569 金属板(第1部材)
572 鋼板(第1部材)
501a,506a,511a,516a,521a,526a,531a,554a,558a,562a,565a,569a,572a 上面(他方の主面)
501b,521b,531b,572b,511b,516b,521b,526b,554b,558b,562b,565b,569b 下面(一方の主面)
502,508,512,517,532,537,540,54,546,549,552,566,570 金属板(第2部材)
522,555,559 パイプ材(第2部材)
527,563 線材(第2部材)
573 鋼板(第2部材)
503,509,513,518。523,528,538,541,544,547,550,553,556,560,564,567,571,574 略円形状溶接部(溶接部)
503b,503c,509b,509c,513b,518b,523b,523c,528b,528c,556b,556c,560b,560c,564b,564c,567b,571b 隅肉部
557,561,568 線状溶接部
533 ワイヤ(溶加材)