(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】前立腺癌の骨転移遺伝子抽出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6827 20180101AFI20230907BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230907BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20230907BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230907BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
G01N33/53 M
G01N33/574 Z
C12N15/12
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2018198404
(22)【出願日】2018-10-22
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】517332720
【氏名又は名称】株式会社プラスパブレインズ
(73)【特許権者】
【識別番号】518374284
【氏名又は名称】今井 祐記
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】今井 祐記
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 隆史
(72)【発明者】
【氏名】菊川 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】沢田 雄一郎
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Cellular Physiology,2005年,Vol.202,p.361-370
【文献】医学検査,2018年01月25日,Vol.67, No.1,p.131-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6827
G01N 33/53
G01N 33/574
C12N 15/09
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌組織から全RNAを抽出する工程と、
抽出した前記全RNAに、骨転移の原因となる遺伝子である特定遺伝子としてGPRC5Aが含まれるか否かを判断する工程と、
を含む前立腺癌の骨転移
遺伝子抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の骨転移遺伝子抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、世界的にみて、非常に発症頻度の高い疾患である。前立腺癌は、早期診断、早期治療により高い確率で根治が見込める癌腫であるものの、治療抵抗性前立腺癌や進行性前立腺癌は、リンパ節転移や内臓転移を起こし、予後の悪化や、疼痛や骨折、麻痺などによるQOL(Quality Of Life)の低下を招くこととなる。
【0003】
局所浸潤前立腺癌や進行前立腺癌の治療戦略としてアンドロゲン除去療法は、重要な位置づけにある。一方、アンドロゲン除去療法の問題点は、治療経過とともにアンドロゲン非依存的な腫瘍増殖機構により治療抵抗性となることにある(去勢抵抗性前立腺癌)。ホルモン療法は、前立腺癌症例の90%以上に極めて有効である反面、数年後には多くの症例でPSA(Prostate Specific Antigen)の上昇を伴って病状が悪化する去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へ移行していく。現在のところ、CRPCの発生機序として提唱されているは、アンドロゲン受容体(AR)の増幅、AR遺伝子の突然変異体、ARの共役因子の活性化、リガンド非依存性のARのリン酸化、そしてARを介さない増殖シグナル伝達の活性化等である。現在、去勢抵抗性前立腺癌に対して、ドセタキセルやカバジタキセルを用いた化学療法、アビラテロンやエンザルタミドといった新規抗アンドロゲン薬など様々な薬剤が選択肢となりうるようになっているが、その使用方法や薬剤選択には未だコンセンサスは得られていない。また、ARV7のようなAR変異症例のエンザルタミドとアビラテロンに対する抵抗性が指摘されているように、その治療選択肢はまだ十分とは言えないのが現状である。
【0004】
そこで、CRPCや高悪性度の前立腺癌の生物学的特徴に着目し、そのうえでARを介さない増殖シグナルへのアプローチが新たな治療戦略の一つとして注目されている。ARを介さない増殖シグナルの活性化に関しては、上皮細胞成長因子(EGF)とその受容体(EGR-R)が前立腺癌組織に存在し、発現量が生存率と相関するという報告がある。さらに、他の成長因子の血管内皮成長因子(VEGF)やインスリン様成長因子(IGF)なども前立腺癌の進行に関係すると報告されている。また、様々なサイトカインも前立腺癌の進行にとって重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、前立腺癌からの骨転移を早期に発見する前立腺癌の骨転移遺伝子抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、全遺伝子から前立腺癌特異的な新規の治療ターゲットの抽出を試みた。代表的な前立腺癌細胞株には、PC3、DU145、及びLNCaPがある。しかし、これらは、細胞株の由来やアンドロゲンに対する反応性、ARの発現、前立腺特異抗原の発現に違いがみられる。本発明者らは、既存の前立腺癌細胞株のアンドロゲン依存性の有無という違いに着目した。臨床的にアンドロゲン非依存的な増殖を来す前立腺癌の予後が悪いことから、この違いを比較することで高悪性度の前立腺癌に特異的に発現している分子を抽出できるものと考えた。既存のビッグデータの解析から、アンドロゲン感受性の違いを踏まえ、前立腺癌特異的な癌進展を担う候補分子を抽出し、CRPCに対する新規の治療標的や骨転移等のマーカー遺伝子としての有用性を見出し、骨転移の早期発見や重点的フォローアップの対象の絞り込みなどへの応用につなげることができる。
【0007】
前立腺癌の代表的細胞株には、アンドロゲン依存性前立腺癌細胞株としてLNCaP、アンドロゲン非依存性で悪性度の高い細胞株としてPC3及びDU145が扱われる。そのため、代表的前立腺癌細胞株のマイクロアレイデータをNCBIの提供するGEO(Gene expression omnibus)より入手して(PC3:n=9、DU145:n=6、LNCaP:n=33のアレイデータセットサプリ;
図1参照)、LNCaPと比較し、PC3及びDU145におけるOrphan GPCR遺伝子の発現のHeatmapを作成した(
図1)。特に、GPCR Class CのOrphan GPCRに着目した結果、GPRC5Aは、
図1及び
図2に示すようにPC3、DU145に共通して発現がLNCaPに対してLog2FCで5倍上昇していることがわかった。そこで、PC3、DU145、LNCaPにおけるGPRC5Aの発現を、validation解析したところ、LNCaPと比較して、
図3に示すようにPC3、DU145で有意に発現が高いことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態で用いる代表的前立腺癌細胞株のマイクロアレイデータを示す概略図
【
図2】本実施形態で用いる代表的前立腺癌細胞株のマイクロアレイデータを示す概略図
【
図3】本実施形態においてPC3、DU145、LNCaPにおけるGPRC5Aの発現をvalidation解析した結果を示す概略図
【
図4】本実施形態において、GPRC5Aノックアウトによる細胞増殖の抑制を示す概略図
【
図5】本実施形態において、GPRC5Aノックアウトによる細胞増殖の抑制を示す概略図
【
図6】本実施形態において、GPRC5Aノックアウトによる細胞浸潤能を示す概略図
【
図7】本実施形態において、GPRC5Aノックアウトによる細胞浸潤能を示す概略図
【
図8】本実施形態において、GPRC5Aによる遊走能の抑制を示す概略図
【
図9】本実施形態において、マウスにおける腫瘍細胞の生着を示す図
【
図10】本実施形態において、マウスにおける腫瘍外観の写真を示す図
【
図11】本実施形態において、マウスにおける腫瘍重量を示す概略図
【
図12】本実施形態において、腫瘍細胞の増殖の写真を示す図
【
図13】本実施形態において、腫瘍細胞の蛍光免疫染色を示す図
【
図14】本実施形態において、腫瘍細胞におけるKi67陽性細胞の割合を示す概略図
【
図15】骨転移症例の前立腺癌組織におけるGPRC5A発現の上昇を示す概略図
【
図16】本実施形態において、マウスにおける腫瘍細胞の生着の写真を示す図
【
図17】本実施形態において、腫瘍細胞の生着を示す概略図
【
図18】本実施形態において、マウスにおける骨破壊像の写真を示す図
【
図20】本実施形態において、骨髄腔における骨破壊像の写真を示す図
【
図21】RNAシークエンスにより変動が認められた遺伝子をVolcanoプロットした概略図
【
図22】変動が認められた遺伝子群のDAVIDによるGO解析を示す概略図
【
図24】GO解析で上位にenrichされたgene setについて、GPRC5Aノックアウトとの相関を示す概略図
【
図26】各細胞周期におけるCCN、CDKの発現時期とGPRC5Aノックアウトによる発現変動との関係を示す概略図
【
図27】各細胞周期におけるCCN、CDKの発現時期とGPRC5Aノックアウトによる発現変動との関係を示す概略図
【
図28】本実施形態において、GPRC5Aノックアウトにより、CREBのリン酸化が亢進することを示す概略図
【
図29】本実施形態において、GPRC5AがCREBのリン酸化に抑制的に作用することを示す概略図
【
図30】本実施形態において、GPRC5AがCREBのリン酸化に抑制的に作用することを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、前立腺癌の骨転移判定方法の一実施形態を説明する。
(GPRC5Aノックアウトによる前立腺癌細胞の細胞増殖、細胞遊走の抑制)
GPRC5Aが前立腺癌の進展に及ぼす影響を確かめるために、
図2及び
図3に示すようにPC3-Luc及びDU145において、CRISPR/Cas9によるゲノム編集でGPRC5Aをノックアウト(KO)した。その結果、GPRC5Aノックアウトにより、
図4及び
図5に示すように細胞増殖の抑制が認められた。このことから、GPRC5Aは、高悪性度前立腺癌においては増殖を正に制御していることが分かった。一方、細胞浸潤能は、
図6及び
図7に示すように有意な変化が認められず、GPRC5AノックアウトによりFibronectinに対する接着能は上昇した。また、
図8に示すように、GPRC5A遊走能の抑制が認められた。このことから、GPRC5Aは、細胞遊走を正に制御していることが分かる。
【0010】
In vitroにおいてGPRC5Aが高悪性度前立腺癌細胞の細胞増殖を制御していることを受け、次にin vivoにおける腫瘍増殖を確認した。WTPC3-Luc細胞とGPRC5AノックアウトPC3-Lucをマトリゲルに溶解し、ヌードマウスの皮下に移植した。In vivo bioluminescence imagingにて腫瘍細胞の生着及び増大を確認したところ、
図9に示すようにいずれの群においても腫瘍細胞の生着を認めるものの、GPRC5Aノックアウトにより増大が抑制された。輝度の定量においても、GPRC5Aノックアウトにより、有意にその抑制が認められた。腫瘍外観については、
図10に示すようにGPRC5AノックアウトPC3-Luc群は、顕著に腫瘍増大が抑制されていた。腫瘍重量による定量においても、
図11に示すように主要増殖は有意に抑制されていた。組織学的解析では、Control群では、PC3-Luc細胞が均質に増殖している。これに対して、GPRC5Aノックアウト群では、
図12に示すように器質化したマトリゲルが大部分を占め、腫瘍細胞の増殖はわずかであった。そこで、GPRC5AノックアウトによるPC3-Luc細胞の増殖マーカーの変化を評価するため、
図13に示すようにLuciferaseとKi67の蛍光免疫染色を行った。その結果、腫瘍細胞におけるKi67陽性細胞の割合は、
図14に示すようにGPRC5Aノックアウト群において抑制されていた。これらの結果から、GPRC5Aは、in vivoにおいて、高悪性度前立腺癌細胞増殖を正に制御していることがわかる。
【0011】
(GPRC5Aノックアウトによる前立腺癌骨転移の成立の抑制)
高悪性度前立腺癌やCRPCは、高頻度に骨転移を来し、予後の悪化を来す。このことから、臨床サンプルを用いた遺伝子発現データベース(Oncomine: https://www.oncomine.org)及びGEOから、CRPCかつ骨転移を認める前立腺癌患者の原発巣でのマイクロアレイデータを解析した(Tamura et al (15). GSE6811, 骨転移あり:n=3、骨転移なし:n=10)。これによると、骨転移症例の前立腺癌組織では、
図15に示すようにGPRC5Aの発現が上昇していることがわかった。このことから、GPRC5Aは、骨転移の成立にも関与している可能性が示唆された。
【0012】
そこで、GPRC5Aが前立腺癌骨転移の成立に及ぼす影響を確かめるために、GPRC5AをノックアウトしたPC3-Luc細胞を、
図16に示すようにヌードマウスの脛骨にXenograftし、in vivo bioluminescence imagingにて腫瘍細胞の生着及び増大を確認した。その結果、GPRC5AノックアウトPC3-Luc群は、
図16及び
図17に示すように顕著に骨転移の成立が抑制された。その程度の強さは、皮下と比べて圧倒的な差がある。マイクロCTによる骨形態計測では、Control群では骨転移巣の増大による顕著な骨破壊像が認められた。これに対し、GPRC5Aノックアウト群の場合、
図18に示すように骨形態はintact群と同様なまでにその形態を保っていた。骨密度で骨破壊の程度を定量したところ、
図19に示すようにControl群ではintact群に比し、骨密度が有意に減少し、骨破壊を反映している。これに対し、GPRC5Aノックアウト群では、骨密度はintact群と同レベルに保たれており、腫瘍細胞の生着及び増大が強く抑制されていることが示された。HE染色による組織学的評価を行なったところ、Control群では骨髄腔に溶骨性の骨破壊像が認められた。また、GPRC5Aノックアウト群では、
図20に示すように腫瘍細胞の生着や骨破壊像は確認されず、骨形態はintact群と同レベルに保たれていた。さらに、TRAP染色を行なったところ、Control群では腫瘍細胞に接して破骨細胞増加が認められた。これに対し、GPRC5Aノックアウト群では、
図20に示すように破骨細胞の局在や密度は、intact群と同レベルに保たれていた。皮下へのXenograftにおいてはGPRC5Aノックアウト群において、増殖は抑制されたのに対し、腫瘍の生着そのものは認められていた。これらのことから、GPRC5Aは、増殖の抑制のみならず、骨転移の成立そのものを抑制していると考えられる。
【0013】
(GPRC5Aによる前立腺癌細胞における細胞周期関連遺伝子の発現の調節)
これまでの結果から、GPRC5Aは、前立腺癌の腫瘍細胞の増殖制御及び骨転移制御因子の一つであることが見出された。
この詳細な分子メカニズムを解明するため、Wild Type PC3LucとGPRC5AノックアウトPC3LucのRNAシークエンスを行った。RNAシークエンスにより変動が認められた遺伝子をVolcanoプロットしたところ、
図21に示すようにGPRC5Aノックアウトにより511の遺伝子群は有意にupregulateされており、443の遺伝子群は有意にdownregulateされていた。変動が認められた遺伝子群のDAVIDによるGO解析では、
図22に示すようにupregulateされている遺伝子群は、細胞周期関連遺伝子や、細胞分裂関連遺伝子として上位に分類された。これに対し、Downregulateされていた遺伝子群は、細胞増殖との強い関連は見出されなかった(サプリ)。また、多様な解析を行うためGSEAによる解析も行った。その結果、
図23に示すようにNES>1.5で16のgene setがenrichされ、そのうち、8のgene setが細胞周期に関連するものであった。さらに、GSEAのGO解析で上位にenrichされたgene setについて、GPRC5Aノックアウトとの相関を検証したところ、
図24に示すようにこれらはGPRC5Aノックアウトと高い相関が認められた。このことから、GPRC5Aノックアウトによる細胞増殖能の低下は、細胞周期及び細胞分裂の変化によるものと考えられる。GPRC5Aは、細胞周期関連遺伝子の発現に抑制的に関与していることが考えられる。そのため、CCNやCDKといった細胞周期関連遺伝子の発現を調べた。定量的RT-PCRによる解析ではGPRC5Aノックアウトにより、CCNAやCCNB群、及びCCNAやBと共役的に働くCDK1の発現が上昇していた。一方、
図25に示すようにCCND1の発現は抑制されていた。
【0014】
各細胞周期におけるCCN、CDKの発現時期とGPRC5Aノックアウトによる発現変動とをまとめると、
図26及び
図27に示すようにG2/M期に発現する細胞周期関連遺伝子の上昇、及びG1期に発現する細胞周期関連遺伝子の抑制が認められた。そこで、GPRC5Aノックアウトが細胞周期に実際に影響しているかをフローサイトメトリーにて確認した。これによると、Control群に対し、G2/M期の割合は増加し、G1期の割合は低下していた。これはG2/M期からG1期への移行が障害されている状態であると考えられる。以上から、GPRC5Aノックアウトによる細胞増殖の抑制は、細胞周期関連遺伝子の発現サイクルの協調不全によりもたらされたものであると考えられる。
【0015】
(GPRC5AによるCREBのリン酸化の抑制、細胞増殖及び骨転移の成立の制御)
GPCRには、代表的にGsα、Giαなどのクラスがある。これら、Gsα、Giαのシグナル伝達は、cAMP依存的なシグナルがCREBのリン酸化で調節されている。そこで、GPRC5AがCCNやCDKなどの細胞周期関連遺伝子の遺伝子発現をどのように調節しているかを確認するため、CREBのリン酸化を確認した。これによると、
図28に示すようにGPRC5Aノックアウトにより、CREBのリン酸化は亢進していることが分かった。このことから、PC3においてはCREBのリン酸化により、細胞増殖は抑制されることが示唆された。そこで、PC3-Luc細胞においてForskolinでCREBのリン酸化を惹起し、PC3の細胞増殖を評価した。その結果、
図29及び
図30に示すようにForskolin 30μM添加後、CREBのリン酸化の亢進をWBにより確認するとともに、BrdUにより細胞増殖能を確認した。これによると、GPRC5Aノックアウト時と同様に、増殖能の抑制が認められた。以上のことから、高悪性度前立腺癌細胞において、GPRC5Aは、CREBのリン酸化に抑制的に作用しており、細胞周期調節や骨転移に関わる遺伝子の転写調節を行い、細胞増殖や骨転移の成立に関与していると考えられる。
【0016】
(考察)
前立腺癌の主な進展・増殖機構は、ARを介した増殖シグナルの活性であるものの、ARを介さない増殖シグナルの活性経路も存在する。ARを介さないシグナル活性経路は、前立腺癌の進行、CRPCへの変化において、種々の成長因子やサイトカイン、miRNAやエピジェネティクス制御が関与することが報告されている。そして、ARを介さないシグナル活性経路は、新たな治療標的となる可能性が追及されている。そのシグナル活性において、GPCR、とりわけOrphan GPCRが治療標的として大きなポテンシャルを秘めている。本発明者らは、前立腺癌の代表的細胞株の性質の違いと治療標的として大いなる可能性を秘めているGPCR Orphan groupとに着目したビッグデータ解析により、新たに前立腺癌特異的な癌進展及び骨転移制御機構を担う候補分子であるGPRC5Aを抽出することができた。
【0017】
GPRC5Aは、GPCR family C class IVに分類される。GPCR family C class IVは、レチノイン酸刺激により誘導され、胚発達、分化、腫瘍形成、上皮の恒常性の維持に働いていると考えられている。GPRC5Aは、肺組織の恒常性の維持に働いており、肺上皮細胞に多く分布している。肺癌においては、EGFRシグナルのnegative modulatorとして肺癌に抑制的に働いていると報告されている。一方、膵臓癌や大腸癌や乳癌、骨髄異形成症候群等において、発現が上昇しているという報告もあり、癌腫や組織型により発現は異なっている。前立腺癌においては発現が上昇しているという報告はあるものの、分子機構を詳細に解析した報告はない。今回、本発明者らは、前立腺癌の進展と、GPRC5Aとの関連を検証した。
【0018】
GPCRの代表的なシグナルカスケードには、cAMP依存性経路(アデニリルシクラーゼ経路)があり、細胞内シグナル伝達において重要な役割を果たす。その機構は、膜受容体に結合したGタンパク質によってアデニル酸シクラーゼ(AC)が活性化される。そして、このACにより、アデノシン三リン酸(ATP)は、ピロリン酸及び3',5'-サイクリックAMP(cAMP)へ変換される。cAMPは、環状ヌクレオチド依存性イオンチャネル及びプロテインキナーゼA(PKA)のような他のタンパク質と相互作用するか、又は直接的に調節することによってセカンドメッセンジャーとして作用する。cAMPにより、PKAは活性化され、PKA触媒サブユニットが核に移行し、転写因子CREBをリン酸化する。リン酸化されたCREBは、小アクチベーターCBP/P300と結合し、転写調節因子CREによって標的遺伝子の発現を促す。CREBの標的遺伝子としては、転写因子、代謝調節遺伝子、細胞周期制御遺伝子、分泌制御遺伝子などが報告されている。cAMP依存性経路の機能不全は、腫瘍の発生及び進行、抗癌剤耐性に寄与することが報告されている。
【0019】
本実施形態では、GPRC5AがCREBのリン酸化を介した経路において、細胞周期関連遺伝子の発現を調節し、細胞増殖を制御していることを示している。GPRC5Aノックアウトによって、CREBのリン酸化が亢進したことから、GPRC5Aは阻害性Gタンパク質共役型受容体(Giα)であると考えられる。GPRC5Aノックアウトにより、一部のCCNやCDKといった細胞周期関連遺伝子の上昇を来していたにも関わらず、細胞増殖は抑制された。正常な細胞周期は、CCNやCDKが規則的に発現上昇及び低下することで維持されており、GPRC5Aノックアウトにより、細胞周期関連遺伝子の発現の規則性が損なわれ、増殖能の低下を来したものと考えられる。CREBのリン酸化を促進する物質としてForskolinが知られている。そのため、前立腺癌細胞株においてForskolin添加によりCREBのリン酸化を惹起したところ、GPRC5Aノックアウトと同様にその増殖が抑制された。このことから、cAMP依存性経路は、前立腺癌細胞の増殖に抑制的に関与していることが示唆された。
【0020】
前立腺癌細胞において、GPRC5Aは、CREBのリン酸化を抑制し、細胞周期関連遺伝子の発現を制御し、他の癌腫と同様に細胞増殖や細胞遊走、細胞接着などの腫瘍進展に関わっていると考えられる。また、詳細な分子機構は不明であるものの、GPRC5Aは骨転移の成立にも関与していることも明らかである。腫瘍抑制因子であるp53は、GPRC5Aの発現を抑制するという報告がある。p53は、骨芽細胞の分化、及び骨芽細胞依存性の破骨細胞の分化を制御することが知られており、これらの分子機構が骨転移の成立にも関与していると想定される。しかし、問題点として、ヒト前立腺癌における骨転移は、造骨性骨転移であることが多い。これに対し、本実施形態で用いている前立腺癌細胞株は、溶骨性の骨転移巣を形成する点で相違がある。また、別の問題点として、ヒト前立腺癌の主要な骨転移成立経路は、血行性転移が想定される。これに対し、本実施形態では脛骨骨髄腔に、直接、腫瘍細胞を播種する点で非生理的であることが挙げられる。これらの問題点は、今後、造骨性骨転移を成立させうる細胞株を使用すること、血行性転移モデルによる骨転移の評価が必要であると考えられる。
【0021】
GPRC5Aは、骨をはじめとした転移症例の前立腺癌原発組織において高発現し、予後との相関も認められることから、新規の予後予測マーカーとして期待できる分子であると考えられる。また、前立腺癌に対するアンドロゲン除去療法中の去勢抵抗性前立腺癌への進展は、前立腺癌の治療において最も重要な課題の一つである。GPRC5AとCRPCへの発展が相関している可能性もある。
【0022】
(実施例)
・遺伝子発現マイクロアレイ解析
前立腺癌におけるGPCR Orphan receptorの発現を調べるために、既存のビックデータから遺伝子発現解析を行った。未処理の前立腺癌細胞株PC3、DU145及びLNCaPのマイクロアレイ生データは、GEO(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)よりダウンロードした。生データは、The Comprehensive R Archive Networkが提供する解析ソフトであるR(https://cran.r-project.org/)を使用し、RMA(Irizarry et al. , 2003)を用いて正規化し、遺伝子発現を比較した。 臨床前立腺癌サンプルマイクロアレイの生データは、Oncomine(https://www.oncomine.org/)により非転移症例サンプルと有骨転移、かつCRPC症例サンプルのマイクロアレイ解析を行った報告を検索し、解析した(Tamuraら、2007)。これらの臨床サンプルデータは、GER2R分析ツールによって、非転移症例と、有骨転移かつCRPC症例におけるGPRC5Aの発現とを比較した。
【0023】
・細胞培養
PC3-Luc細胞株(JCRB細胞バンクより提供)は、7%ウシ胎仔血清及び抗生物質(カタログ番号15240062, Thermo Fisher Scientific)を添加したHam's F-12K培地(カタログ番号080-08565, Wako, Japan)中で培養した。DU145及びLNCaP細胞株は10%ウシ胎仔血清及び抗生物質を添加したRPMI-1640培地(カタログ番号187-02705, Wako, Japan)中で培養した。いずれの細胞も37℃、5%CO2条件下で培養した。
【0024】
・CRISPR / Cas9によるGPRC5Aのノックアウト
GPRC5Aは、Guide-itTM CRISPR/Cas9 Systems(カタログ番号632601 Clontech Laboratories、Inc., California,USA)を用いてノックアウトした。 ガイドRNA(gRNA)配列及びシークエンス確認用のプライマーは、オンラインプログラムCHOPCHOP(https://chopchop.rc.fas.harvard.edu/dev/)を用いて設計した。gRNAを組み込んだベクターは、ScreenFect A(カタログ番号299-73203 Wako, Japan)によりマニュアルに従いPC3-Luc細胞及びDU145細胞にトランスフェクトし、BD FACSAria(Becton、Dickinson and Company)を用いてZsGreenをトランスフェクトのレポーターとして単一細胞に選別して培養した。
【0025】
・GPRC5Aの過剰発現
pME18S II-Myc-CT -GPRC5Aの構築のために、PC3-Luc の相補的DNAから、5'-AAAAGCTGCGGAATTCCCTTGGCACTAGGGTCCAGA -3 '及び、5'- CGAGGTCGACAGATCTGCTGCCCTCTTTCTTTACTTC-3 'をプライマーとしPCRを行い、GPRC5Aプロモーター断片を作出した。In-Fusion HDクローニングキット(cat.no.639642, Takara Bio, USA)により、GPRC5Aプロモーター断片をpME18S II-Myc-CTプラスミドに組み込んだ。このようにして作成したpME18S II-Myc-CT-GPRC5Aを、Lipofectamine 3000 Reagent(カタログ番号L3000015, Thermo Fisher Scientific)を用いてPC3-Lucにトランスフェクトし、GPRC5Aを強制発現した。
【0026】
・リアルタイムRT-PCR
全RNAを、ISOGEN(カタログ番号 319-90211 Nippongene, Japan)及びRNeasyスピンカラムキット(カタログ番号74106 Qiagen, USA)で処理し、続いてDNaseI(カタログ番号 79254 Qiagen, USA)で処理した。続いてPrimeScript RT Master Mix(カタログ番号 RR036A Takara Bio Inc., Japan)を用いて500ngの全RNAより相補的DNAを合成した。Thermal Cycler Dice(Takara Bio Inc.)によりSYBR Premix Ex Taq II(カタログ番号 RR820S Takara Bio Inc., Japan)をプロトコールに従い使用し、リアルタイムRT-PCRを行った。遺伝子発現レベルをSDM法によって定量し、ハウスキーピング遺伝子RPLPOの発現レベルで正規化した。
【0027】
・TAクローニング
CRISPR/Cas9によるゲノム編集におけるgRNAの変異の確認は、TAクローニングで行った。GPRC5AのgRNA標的配列を挟むように、5'- CTTCCTCTTTGGGATCCTCTTT-3 '、及び5'- AGAAGAGGACGTAGGTGAGCAG-3'として設計した(上述のCHOP-CHOPにより設計)。上記のプライマーを用いてPCR反応を行い、標的部位を含む約266bpの断片をクローニングした。このPCR産物は、TA-Enhancerクローニングキット(カタログ番号316-08271、Nippongene, Japan)のプロトコールに従いにTAクローニング用のプラスミドにライゲーションした。続いて、そのプラスミドをE. col i DH5α Competent Cell(カタログ番号 9057 Takara Bio Inc., Japan)に形質転換した後、SOC培地にて培養後、コロニーをFastGeneTM プラスミドミニキット(カタログ番号 FG-90502 NIPPON Genitics, Japan)にてプロトコールに従いミニプレップを行い、シークエンスを解析した。
【0028】
・ウェスタンブロッティング
50mMのトリス-HCl(pH8.0)、150mmol/lの塩化ナトリウム、0.5w/v%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1w/v%のドデシル硫酸ナトリウム、0.0w/v%の硫酸ナトリウムを含有するRIPA緩衝液(カタログ番号 188-02453 Wako, Japan)に、プロテアーゼ阻害剤カクテル(カタログ番号 11697498001 Roche, Germany)を添加し、細胞ペレットを溶解した。全細胞抽出物をSDS-PAGEによって分離し、iBlot(登録商標) Gel Transfer Device(カタログ番号 IB1001 invitrogen)、及びiBlot(登録商標) Gel Transfer Stacks,Mini(カタログ番号IB4010-02 invitrogen)をプロトコールに従い使用しPVDF膜に移した。次に、一次抗体反応として抗GPRC5A抗体(カタログ番号12968 Cell Signaling Technology Japan, Japan)、抗CREB抗体(カタログ番号 D76D11 CST Japan, Japan)、phospho-CREB抗体(カタログ番号 87G3 CST Japan, Japan)、及び抗β-アクチン抗体(カタログ番号 2F3 Wako, Japan)を使用した。抗GPRC5A抗体及び抗ACTB抗体反応は、メンブレンを、Tween-20(PBST)を含むPBS中の5%スキムミルクを用いて、室温で1時間ブロックした後、一次抗体を5%スキムミルクバッファーに1:1000の割合で溶解し、4℃オーバーナイトで反応させた。抗CREB抗体及び抗phospho-CREB抗体反応は、ブロッキング及び抗体反応に5%BSAを使用した。一次抗体反応後、PBSTで洗浄した後、HRP結合二次抗体(1:8000, カタログ番号 P0161, P0448 Dako)を、室温で1時間反応させた。BSTで洗浄した後、Chemi-Lumi One Ultra(カタログ番号 11644-40 Nacalai Tesque, Japan)、及びImageQuant LAS 4000(GE Healthcare、USA)を用いてシグナルを検出した。
【0029】
・細胞増殖アッセイ
これは、96ウェルプレートに、細胞を1.0×104個/well播種し、経時的にMTT細胞数測定キット(カタログ番号 23506-80 Nacalai Tesque, Japan)をプロトコールに従って使用し、570nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。5-ブロモ-2'-デオキシウリジン(BrdU)取り込みアッセイ(カタログ番号 11647229001 Roche, Germany)を、プロトコールに従い使用した。370nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。
【0030】
・細胞遊走アッセイ
これは、親株PC3-Luc細胞及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞を、100%コンフルエンスの密度で、6ウェルプレートに播種した。1%FBS含有培地(Ham's F-12K培地、カタログ番号080-08565、和光)で24時間飢餓状態として増殖を抑制し、200μlのピペットチップを用いて各ウェルをスクラッチした。その後、細胞を無血清培地(Ham's F-12K培地、カタログ番号080-08565 Wako, Japan)に変更して24時間培養し、同一部位の単位面積当たりの遊走細胞数を計測した。
【0031】
・細胞接着アッセイ
これは、CytoSelectTM 48- Well Cell Adhesion Assay(カタログ番号CBA-070、; Cell Biolabs Inc., USA)を用いて行った。プロトコールに従い、24時間血清飢餓状態にした親株PC3-Luc細胞及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞は、0.5×106/mlの濃度となるように無血清培地(Ham's F-12K培地、カタログ番号080-08565 Wako, Japan)に溶解し、接着プレートに播種した。90分間インキュベートし後、接着細胞を固定して染色した。 次いで、染色細胞に抽出溶液を添加し、溶解した。この溶液の一部を96ウェルプレートのウェルに移し、マイクロプレートリーダーで560nmの波長を測定した。
【0032】
・細胞浸潤アッセイ
これは、CytoSelectTM 24-Well Cell Invasion Assay(カタログ番号CBA-110 Cell Biolabs Inc., USA)を用いて行った。プロトコールに従い、親株PC3-Luc細胞及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞を、PBSで洗浄し、無血清培地中に0.5×106/mlで懸濁した。次いで、細胞懸濁液を各インサートの内側に置き、底部ウェルを、7%FBSを含む培地で満たした。37℃、5%CO2で22時間インキュベートした後、インサートの内部の細胞を機械的に除去し、浸潤した細胞を固定し、キットのCell Stain Solutionで染色して乾燥させた。次いで、細胞抽出溶液を添加し、染色された浸潤細胞を溶解し、一部を96ウェルプレートのウェルに移し、マイクロプレートリーダーで560nmの波長を測定した。
【0033】
・細胞アポトーシスアッセイ
親株PC3-Luc細胞及びDU145細胞、並びにGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞及びDU145細胞におけるアポトーシスを、In Situ Cell Death Detection Kit(カタログ番号11684817910 Roche, Germany)を用いて、プロトコールに従い調べた。 DAPIを用いて核を染色し、蛍光顕微鏡(Keyence、Japan)を用いてアポトーシスの染色シグナルを評価した。
【0034】
・細胞周期アッセイ
親株PC3-Luc細胞、DU145細胞、及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞の細胞周期を調べるため、6ウェルプレートに各細胞を1×105個播種し、48時間後にBD CycletestTM Plus DNA Kit(カタログ番号 340242 BD Biosciences, USA)をプロトコールに従い使用し、サンプルを精製し、FCMにて細胞周期を評価した。
【0035】
・ヒト前立腺癌細胞異種移植
皮下移植は、まず100μlのMatrigel Basement Membrane HC(カタログ番号 354248 Corning, USA)に1×106個の親株PC3-Luc及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞を氷上で溶解した。次に、イソフルランによる麻酔下で、5週齢の雄ヌードマウス(日本クレア)の背部に、26Gシリンジを用いて、細胞液を注射した。キャリパーを用いて、腫瘍体積を1週間ごとに測定した。5週間後、マウスを安楽死させ、腫瘍を摘出、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝溶液(カタログ番号163-20145、Wako)で固定し、組織学的検査に用いた。
【0036】
脛骨骨髄内移植は、まず10μlの滅菌PBSに1×104個の親株PC3-Luc及びGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞を溶解した。次に、イソフルランによる麻酔下で、5週齢の雄ヌードマウス(日本クレア)の左後肢の膝関節部に皮切を加え、膝関節を露出させ、膝蓋腱やや外側から脛骨骨髄腔に向けて、26G針を穿刺し脛骨に穴をあけた。続いて、27G針付きシリンジを用いて、骨髄内に細胞液を注射した後、穿刺腔を骨蝋(カタログ番号 0050010 東京エム・アイ商会 Japan)で塞ぎ、皮膚を5-0ナイロン糸(カタログ番号 NN3283 日腸工業)で閉創した。移植後3週目より1週間ごとにin vivo imagingにて腫瘍細胞の生着、増殖を評価した。移植後6週間で安楽死させ、脛骨を採取、骨形態計測、骨密度計測及び組織学的解析を行った。
【0037】
・In vivo imaging
D-ルシフェリン(カタログ番号123-03943 Wako, Japan)を滅菌PBSに溶解(40mg/ml)した。27G針の注射器を使用してルシフェリン溶液100μlをマウスの腹腔内に注入した。注射5分後にイソフルランによる麻酔下でAEQUORIA-2D/8600(Hamamatsu Photonics K. K.)プラットフォームにマウスを置き撮影した。撮影は、毎回同じ条件下で行い、得られた発光像をGrayscaleに変換後、ImageJで同一面積でのintegrated densityとして輝度を定量及び解析した。
【0038】
・骨密度測定及びμCT
脛骨骨髄内移植より6週後の脛骨を採取し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で1日間固定し、70%エタノールに浸した。骨ミネラルアナライザー(DCS-600EX アロカ, Japan)を用いて二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)により脛骨の骨密度(BMD)を測定した。続いて、Scanco MedicalμCT35システム(SCANCO Medical, Switzerland)を用いて、脛骨のマイクロコンピュータ断層撮影スキャンを実施した。
【0039】
・組織学的評価
腫瘍細胞皮下移植片及び腫瘍細胞脛骨骨髄内移植後の脛骨は、サンプリング後、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で1日間固定し、70%エタノールに浸した。皮下移植サンプルはパラフィンに包埋し、脛骨サンプルはモールス溶液で脱灰した後パラフィンに包埋した。パラフィン切片は、ミクロトーム(RM2255、Leica Biosystems)で10μm厚に薄切りにされ組織学的評価に使用した。脛骨骨髄内移植サンプルのHE染色は、各サンプルをキシレン及びアルコールによる脱パラフィン処理後に滅菌水で洗浄し、ヘマトキシリン-エオジン染色を行った。TRAP染色は、各サンプルを同様に脱パラフィン処理後に滅菌水で洗浄し、TRAP/ALP Stain kit(カタログ番号 294-67001 Wako, Japan)をプロトコールに従い使用し染色した。皮下移植サンプルの蛍光免疫染色は、パラフィン切片をキシレン及びアルコールにより脱パラフィン処理を行った後、滅菌水で洗浄し、PH6.0のクエン酸緩衝液を加え、マイクロウェーブ処理を900wで10分間施した後、500wで15分間施した。PBSで洗浄した後、PBSで1:50に希釈したヤギ血清(カタログ番号 143-06561 Wako, Japan)を用いて室温で30分間ブロッキングを行った。anti-Luciferase抗体(カタログ番号 PM016 MBL)及びanti-Ki67抗体(カタログ番号 14-5698-82 invitrogen)は、それぞれ抗体希釈液(カタログ番号 S2022 Dako, Japan)で1:200に希釈し4℃オーバーナイトで反応させた。PBSで洗浄後、2次抗体反応(DAPI)を加えてマウントし観察した。
【0040】
・RNAシークエンス
親株PC3-Luc及び2種類のGPRC5AノックアウトPC3-Luc細胞は、上記と同様の方法で全RNAを採取した。Bioanalyzer, RNA6000 pico kitでRNAの品質チェックを行い、RIN値が8以上のサンプルを解析に使用した。各サンプル200ngを使用して、illumina社TruSeq Stranded mRNA LT Sample Prep kit のマニュアルに準じてライブラリーを作成した。Bioanalyzer, DNA 1000 kitでライブラリーの品質チェクを行い、品質が問題ない事を確認した。Kapa Library Quantification KitでqPCRベースのライブラリーの定量を行い、マニュアル通りにライブラリーを希釈した後、qPCRを実施した。qPCRでの定量結果に基づき、各ライブラリーを均等に混ぜ合わせた後、ライブラリー濃度19pMでMiSeq Reagent kit V3 150 cycle kitを用いて75bpペアエンドで解析を実施し、fastqファイルを取得した。Tophatでfastqファイルをヒトゲノムデータhg38へのマッピングを行い、発現解析ツールcufflinksで各サンプルの正規化、2群間(PC3 vs GPRC5A KO1及びKO2)の発現差解析を行った。
【0041】
・Statistical analysis
全てのグラフは平均値±SEMを表わしている。平均値間の有意な差は、Microsoft Excel、EZRバージョン1.35(Kanda, 2013)、又はGraphPad Prism7を用いて、両側検定、スチューデントt検定(2つの群を分析した場合)、又はone way ANOVAを行った後、Student Newman-Keuls検定(3群以上について)を行った。 2つのデータセットの正規性は、Kolmogorov-Smirnov検定、及びShapiro-Wilk検定を有意水準0.05で評価した。グループで正規性が確認された場合、両側スチューデントt検定を行い、確認されなかったとき、マンホイットニーU検定をそれぞれ適用した。
【0042】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。