(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】廃液処理組成物及び廃液処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20230907BHJP
A61G 12/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B01D21/01 110
B01D21/01 101A
A61G12/00 W
(21)【出願番号】P 2019011239
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000205007
【氏名又は名称】大研医器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】漆間 正行
(72)【発明者】
【氏名】豊島 哲
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1991/011392(WO,A1)
【文献】特開2006-122795(JP,A)
【文献】特開2012-011363(JP,A)
【文献】国際公開第97/027883(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107724082(CN,A)
【文献】特開2018-202283(JP,A)
【文献】特開2018-202277(JP,A)
【文献】特開2000-070611(JP,A)
【文献】特開2003-201373(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105936566(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106830139(CN,A)
【文献】特開平02-157083(JP,A)
【文献】特開平11-299844(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103466732(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/00-30
B01J20/00-34
C02F1/28、52-56
A61G9/00-15/12、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術中や治療中の患者から排出される体液を含む廃液、或いは健常者から採取されて検査に使用された後に排出される体液を含む廃液を処理して、前記廃液を容器内において上清と凝集物に分離するための廃液処理組成物であって、
前記廃液は血液を含み、
前記廃液の血液濃度は2%~10%であり、
カチオン系高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種である固体状の凝集剤と、固体状のホウ素含有化合物とを含む廃液処理組成物。
【請求項2】
前記固体状の凝集剤は、カチオン系高分子凝集剤である請求項1に記載の廃液処理組成物。
【請求項3】
前記ホウ素含有化合物は、ホウ酸、ウレキサイト、ホウ砂及びケルナイトよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の廃液処理組成物。
【請求項4】
さらに、油脂吸収剤を含む請求項1~3のいずれかに記載の廃液処理組成物。
【請求項5】
体液を含む廃液を容器に収容し、請求項1~
4のいずれかに記載の廃液処理組成物を、容器内の廃液に投入して撹拌することにより、廃液を上清と凝集物に分離する分離工程と、前記上清がフィルターを介して廃棄される工程を含む、廃液処理方法。
【請求項6】
前記固体状の凝集剤の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上である請求項
5に記載の廃液処理方法。
【請求項7】
前記固体状のホウ素含有化合物の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上である請求項
5又は
6に記載の廃液処理方法。
【請求項8】
前記廃液処理組成物と、前記廃液処理組成物を収容する水溶性部材とを含む廃液処理組成物ユニットを、前記容器内において廃液に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記廃液において溶解させることにより、前記廃液処理組成物を前記廃液に含ませる接触工程をさらに備える請求項
5~7のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項9】
前記廃液処理組成物ユニットを構成する水溶性部材は、水溶性紙である請求項
8に記載の廃液処理方法。
【請求項10】
前記フィルターは、(15mm×15mm)以下の目開きを有するネットで構成される請求項
5~7のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項11】
前記フィルターは、二重構造になっており、(15mm×15mm)以下の目開きを有する第1のネットと、前記第1のネットより目開きサイズの小さい第2のネットで構成される請求項
5~7のいずれかに記載の廃液処理方法。
【請求項12】
前記攪拌は、4分~10分において行われる、請求項5~11のいずれかに記載の廃液処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液を含む廃液を処理するための廃液処理組成物、及びこのような廃液処理組成物を用いて廃液を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
手術中や治療中の患者から排出される体液を含む廃液、或いは健常者から採取されて検査に使用された後に排出される体液を含む廃液などは、適切な処理を施されてから廃棄される。これらの廃液は、例えば血液や体腔内洗浄液などを含むが、廃液の入手経路に関わらず院内感染の原因となることがある。したがって、こうした廃液の処理には、安全面で厳重な注意を払う必要がある。上記のような廃液を処理するための方法について、これまでにも様々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている廃液処理方法では、手術中や治療中の患者から排出された体液を含む廃液を容器に収容し、容器内の廃液に凝集剤を投入して撹拌することにより、廃液を上清と凝集物に分離する。その後、上清を容器から排出し、容器内に残存した凝集物を容器とともに焼却処理して廃棄される。また上清を容器から排出するに際しては、容器からの上清を、フィルターに通すことによって、上清中に混入している凝集物を濾過分別する。
【0004】
この廃液処理方法では、容器から排出された上清は加熱殺菌等の処理がされ、上清中に混入していた凝集物で、フィルターで分別された凝集物も含め、残りの凝集物は容器ごと焼却処理されるため、安全に廃液処理を行うことができる。また、上清を容器から排出するため、容器内の廃棄物の体積を小さくすることができ、取扱い性の点からも有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
廃液に含まれる血液の濃度は、廃液が収容された容器毎で異なるのが通常である。また上記のような方法によって廃液の処理を行う場合、廃液を上清と凝集物に分離する際の撹拌時間は、廃液中の血液の濃度に応じてより厳密に設定されるのが理想的である。
【0007】
しかしながら、容器毎で血液の濃度が異なる廃液に対して、廃液中の血液の濃度に応じて撹拌時間を厳密に設定することは困難であり、廃液中の血液の濃度に応じて適切な撹拌時間に設定されないことによって、様々な不都合を招いている。例えば、血液の濃度が薄い廃液(以下、「薄血廃液」と呼ぶことがある)を想定して撹拌時間を短く設定した場合に、実際の血液の濃度が想定した濃度よりも濃い廃液(以下、「濃血廃液」と呼ぶことがある)であるときには、撹拌時間が十分でなくなり、血液を十分に凝結していない凝集物が形成される。
【0008】
上記のような廃液処理は、全自動化の下で行われることが好ましいのであるが、このような全自動化を実施するに当たっては、廃液中の血液の濃度に応じて適正な撹拌時間を設定するためには、廃液中の血液濃度を計測する工程が必要となる。すなわち、廃液中の血液濃度を計測する工程が必要となることは、全自動化を実施する上での障害ともなる。
【0009】
血液を十分に凝結していない凝集物は、微細で凝集強度が低い凝集物となる。また撹拌時間が十分でない場合には、十分に凝結されないで残った血液細胞が上清中に混入しており、このような血液細胞も上清中で微細で凝集強度が低い凝集物を形成しやすくなる。このような、微細で凝集強度が低い凝集物が多くなると、フィルターの目詰まりが発生する虞がある。
【0010】
逆に、濃血廃液であることを想定して撹拌時間を長く設定した場合に、実際には薄血廃液であったときには、大きく凝集強度が高い凝集物が当初形成されていても、長時間の撹拌によって凝集物が崩壊してしまい、血液が十分に凝結していない状態に戻って上清中に混入し、上記と同様にフィルターの目詰まりが発生する虞がある。
【0011】
こうしたことから、廃液を上清と凝集物に分離するに際して、フィルターの目詰まり発生を低減するためには、分離される凝集物は、比較的大きく凝集強度が高い凝集物であることが望ましい。形成される凝集物が、比較的大きく凝集強度が高いことは、廃液処理後の取扱い性の点からも必要な要件である。
【0012】
本発明は上記のような状況の下でなされたものであり、その目的は、撹拌時間を厳密に設定しなくても、廃液を効率よく処理して、比較的大きく凝集強度が高い凝集物を得ることができ、フィルターの目詰まり発生を低減できる廃液処理組成物、及びこうした廃液処理組成物を用いて廃液を処理するための有用な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、体液を含む廃液を効率よく処理して比較的大きく強度が高い凝集物を得ることができる廃液処理組成物の実現を目指して、様々な角度から検討した。その結果、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の凝集剤と、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物とを含む廃液処理組成物を用いて廃液を処理すれば、撹拌時間を厳密に設定しなくても、廃液を上清と凝集物に効果的に分離でき、分離された凝集物は比較的大きく強度も高くでき、フィルターの目詰まり発生という不都合を防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の一局面は、体液を含む廃液を処理して、前記廃液を容器内において上清と凝集物に分離するための廃液処理組成物であって、
OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の凝集剤と、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物とを含む点に要旨を有する廃液処理組成物である。
【0015】
本実施形態の廃液処理組成物で用いる、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の凝集剤としては、カチオン系高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本実施形態の廃液処理組成物で用いる、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物としては、ホウ素含有化合物が好ましい化合物として挙げられる。このホウ素含有化合物としては、具体的には、ホウ酸、ウレキサイト、ホウ砂及びケルナイトよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい化合物として挙げられる。
【0017】
本実施形態の廃液処理組成物は、さらに、油脂吸収剤を含むことが好ましい実施形態である。
【0018】
一方、本実施形態の廃液処理方法は、体液を含む廃液を容器に収容し、本実施形態の廃液処理組成物を、容器内の廃液に投入して撹拌することにより、廃液を上清と凝集物に分離する分離工程と、前記上清がフィルターを介して廃棄される工程を含む、廃液処理方法である。
【0019】
本実施形態の廃液処理方法において、前記固体状の凝集剤の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。また前記固体状の化合物の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。
【0020】
本実施形態の廃液処理方法における、より好ましい形態としては、本実施形態の廃液処理組成物と、水溶性部材とを含む廃液処理組成物ユニットを、前記容器内において前記廃液に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記廃液において溶解させることにより、前記廃液処理組成物を前記廃液に含ませる接触工程をさらに備える廃液処理方法が挙げられる。
【0021】
この実施形態の廃液処理方法においては、前記廃液処理組成物ユニットを構成する水溶性部材は、水溶性紙であることが好ましい。
【0022】
本実施形態の廃液処理方法において、前記フィルターは、(15mm×15mm)以下の目開きを有するネットで構成されることが好ましい。また前記フィルターは、二重構造になっており、(15mm×15mm)以下の目開きを有する第1のネットと、前記第1のネットより目開きサイズが小さい第2のネットで構成されることは好ましい実施形態である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、撹拌時間を厳密に設定しなくても、廃液を効率よく処理して、比較的大きく凝集強度が高い凝集物を得ることができ、フィルターの目詰まり発生を低減できる廃液処理組成物、及びこうした廃液処理組成物を用いて廃液を処理するための有用な方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の廃液処理方法を実施するときの廃液処理装置の構成例の概略を示す正面図である。
【
図2】本実施形態の廃液処理方法における準備工程の概略を示す正面図である。
【
図3】本実施形態における接触工程において、容器内に投下された廃液処理組成物ユニットの水溶性部材が溶解することにより、撹拌子が水溶性部材から解放されて廃液中に落下する過程及び廃液処理組成物が水溶性部材から解放されて廃液中に放出される過程を示す正面図である。
【
図4】実施例1において、2%の血液を含む溶液を光学顕微鏡で観察したときの状態を示す図面代用顕微鏡写真である。
【
図5】実施例1において、撹拌時間を4分としてサンプルを廃液処理した後、大ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図6】実施例1において、撹拌時間を4分としてサンプルを廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図7】実施例1において、各ネットを通過した後、小ネットを通過した溶液を光学顕微鏡で観察したときの状態を示す図面代用顕微鏡写真である。
【
図8】実施例1において、撹拌時間を10分としてサンプルを廃液処理した後、大ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図9】実施例1において、撹拌時間を10分としてサンプルを廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図10】実施例1において、小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、処理前の溶液の状態と比較して示す図面代用写真である。
【
図11】実施例2において、撹拌時間を4分としてサンプルを廃液処理した後、大ネット及び小ネットを用いて濾過分別した状態を示す図面代用写真である。
【
図12】実施例2において、撹拌時間を4分としてサンプルを廃液処理した後、中ネット又は小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、処理前の溶液の状態と比較して示す図面代用写真である。
【
図13】実施例2において、撹拌時間を4分としてサンプルを廃液処理した後、中ネット及び小ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図14】実施例2において、大ネット又は小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、処理前の溶液の状態と比較して示す図面代用写真である。
【
図15】比較例において、2%の血液を含む溶液をサンプルとして用いて廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を示す図面代用写真である。
【
図16】比較例において、
図15(B)に示した溶液を、光学顕微鏡で観察したときの状態を示す図面代用顕微鏡写真である。
【
図17】比較例において、10%の血液を含む溶液の廃液処理前後の状態を、光学顕微鏡で観察したときの状態を示す図面代用顕微鏡写真である。
【
図18】比較例において、
図15(B)に示した溶液を、廃液処理前の状態と比較して示す図面代用写真である。
【
図19】実施例3において、小ネットを用いて濾過分別したとき後の上清を、光学顕微鏡で観察したときの状態を、廃液処理前の状態と比較して示す図面代用顕微鏡写真である。
【
図20】実施例3において、小ネットを用いて濾過分別したとき後の上清の状態を廃液処理前の状態と比較して示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態の廃液処理組成物は、体液を含む廃液を処理して、前記廃液を容器内において上清と凝集物に分離するための廃液処理組成物であって、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の凝集剤と、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物とを含む廃液処理組成物である。
【0026】
本実施形態の廃液処理組成物で用いる凝集剤は、廃液に含まれる血液などの成分を凝集させて容器内において凝集物を生成させるためのものである。凝集剤は、例えば、血液に含まれる細胞成分である赤血球を凝集させる。
【0027】
本実施形態で用いる凝集剤としては、粉末状、粒状、塊状などの固体状のものが用いられる。但し、後述する廃液処理において液層中に分散しやすいようにするため、凝集剤は、粉末状又は粒状であることが好ましい。
【0028】
本実施形態で用いる固体状の凝集剤は、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する。この凝集剤は、本実施形態で用いる固体状の化合物、すなわちOH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物との相互作用によって、比較的大きく凝集強度が高い凝集物が形成される。
【0029】
本実施形態で用いる凝集剤は、表面がマイナスに荷電している血液などの成分を凝集物に取り込みやすいという観点から、プラス荷電を持っている凝集剤であることが好ましい。このような凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化第二鉄などの無機系凝集剤でもよく、これらの無機系凝集剤であっても水中ではヒドロキシ基(-OH基)を形成する。但し、形成される凝集物が大きく、凝集強度がより高い凝集物を得るという点を考慮すると、有機系凝集剤である高分子凝集剤であることが好ましい。
【0030】
上記高分子凝集剤としては、表面がマイナスに荷電している血液などの成分を凝集物に取り込みやすいという観点から、少なくともプラス荷電(陽イオン)を持っている凝集剤であることが好ましく、例えばポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びポリビニルアミジンなどのカチオン系高分子凝集剤の他、両性高分子凝集剤などが好ましい高分子凝集剤として挙げられる。
【0031】
但し、本実施形態で用いるカチオン系高分子凝集剤は、上記したものに限らず、陽イオンを有するジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの単独重合体若しくは、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとアクリルアミドとの共重合体などであればよい。また、上記両性高分子凝集剤は、上記ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド及びアクリル酸の共重合体が、好ましい凝集剤として挙げられる。
【0032】
上記説明では、OH基を有する凝集剤を中心に説明したが、NH基やFH基を有する凝集剤を用いることができる。NH基を有する凝集剤としては、例えばアクリルアミド(ノニオン系高分子凝集剤)、カチオンモノマーアクリルアミド共重合体(カチオン系高分子凝集剤)、アクリルアミドアクリル酸ナトリウム共重合体(アニオン系高分子凝集剤)などが挙げられる。
【0033】
本実施形態の廃液処理組成物は、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物をも含む。上記固体状の凝集剤と固体状の化合物を含ませることによって、本実施形態の廃液処理組成物を用いて廃液を処理したときに、形成される凝集物は、比較的大きく凝集強度も高くなり、また凝結されないで残る血液細胞が上清中に混入してくることも少なくなる。しかも、一旦形成された凝集物は、長時間の撹拌によっても崩壊することが抑えられる。本実施形態の廃液処理組成物を用いて廃液を処理すれば、凝集物によってフィルターの目詰まりが生じることが低減される。
【0034】
本実施形態で用いる固体状の化合物は、ホウ素含有化合物が好ましい化合物として挙げられるが、このホウ素含有化合物としては、廃液に投入したときにヒドロキシ基(-OH基)を有する水素ホウ酸イオンを形成するものであればよく、例えばホウ酸、ウレキサイト、ホウ砂及びケルナイトなどが好ましい化合物として挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。このうち、廃液の温度に関係なく溶けるという観点から、最も好ましい化合物はホウ砂である。
【0035】
上記説明では、OH基を有する化合物を中心に説明したが、NH基やFH基を有する化合物を用いることができる。廃液に投入したときにNH基を有する化合物としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化アルミニウム(AlN)等の窒素化合物が挙げられる。また廃液に投入したときにFH基を有する化合物としては、例えば、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)などが挙げられる。
【0036】
本実施形態の廃液処理組成物を用いることによって、体液を含む廃液を上清と凝集物に効果的に分離し、廃棄することができる。すなわち、本実施形態の廃液処理方法は、体液を含む廃液を容器に収容し、本実施形態の廃液処理組成物を、容器内の廃液に投入して撹拌することにより、廃液を上清と凝集物に分離する分離工程と、前記上清がフィルターを介して廃棄される工程を含む、廃液処理方法である。
【0037】
本実施形態の廃液処理方法において、前記凝集剤の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.05質量%以上である。凝集剤の廃液への投入量を、廃液全体に対して0.02質量%以上とすることによって、その効果が有効に発揮される。凝集剤の廃液への投入量の上限については、何ら限定するものではないが、その効果が飽和するという観点からして、0.3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.15質量%以下である。
【0038】
また固体状の化合物の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、0.03質量%以上である。固体状の化合物の廃液への投入量を、廃液全体に対して0.02質量%以上とすることによって、その効果が有効に発揮される。固体状の化合物の廃液への投入量の上限については、何ら限定するものではないが、その効果が飽和するという観点からして、0.8質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.11質量%以下である。
【0039】
なお、廃液処理組成物では、各成分の投入量が上記の範囲内となるように、固体状の凝集剤と固体状の化合物の含有割合を調整すればよい。
【0040】
形成される凝集物の隙間に血液などの成分とともに水分を取り込みつつスライムが形成される。これによって、凝結されないで残る廃液中の血液などを極力低減しつつ、スライム中に取り込むことができ、その結果、比較的大きく凝集強度が高い凝集剤が形成される。
【0041】
一方、無機系凝集剤を用いる場合には、形成される凝集物の凝集強度は若干低下する。但し、固体状の化合物を含ませることによって、無機系凝集剤単独で廃液を処理した場合に比べて、或る程度の凝集強度は確保できる。すなわち、無機系凝集剤単独で廃液を処理した場合には、血液細胞などの成分同士が凝結した比較的小さい凝集物となり、こうした凝集物は長時間の撹拌によって崩壊しやすいものであるが、固体状の化合物が同時に存在することによって、比較的小さい凝集物同士を強固に結合させることができ、長時間の撹拌によっても崩壊し難くなると推察される。
【0042】
体液を含む廃液には、血液、生理食塩水などの成分だけではなく、脂肪などの油脂成分も含まれることがある。このような油脂成分を除去するために、本実施形態の廃液処理組成物には、必要によって、油脂吸収剤を含んでもよい。このような油脂吸収剤としては、活性炭が好ましい油脂吸収剤として挙げられる。油脂吸収剤を含む場合には、前記油脂吸収剤の廃液への投入量が、廃液全体に対して0.02~0.3質量%となるように、廃液処理組成物中の含有量を調整することが好ましい。投入量は、より好ましくは、0.05質量%以上であり、0.15質量%以下である。なお、廃液処理組成物に、上記した固体状の凝集剤及び固体状の化合物とともに、油脂吸収剤を含む場合には、廃液処理組成物中でこれらの含有割合(質量比)を厳密に調整しなくても、(固体状の凝集剤):(固体状の化合物):(油脂吸収剤)で、1:1:1となるように配合してもよい。
【0043】
体液を含む廃液が収容された容器内においては、上記した油脂成分の他、体液に由来する血餅、泡などの浮遊物が廃液上に浮かんでいることがある。このような浮遊物があり、しかも、凝集剤として粉末状、粒状などの固体状の凝集剤を用いる場合には、廃液が収容された容器内に凝集剤を直に投入しても、固体状の凝集剤が廃液に接触する前に浮遊物に付着してしまうため、廃液中に凝集剤が十分に行き渡らないことがある。その結果、廃液を上清と凝集物とに分離する効率が低下する。なお、本実施形態で用いる固体状の化合物も、基本的に粉末状、粒状であることが好ましい。
【0044】
本実施形態の廃液処理組成物を用いて廃液を処理するにあたっては、上記のような問題をも解決できる廃液処理方法であることが好ましい。すなわち、本実施形態の廃液処理方法において、より好ましい実施形態としては、廃液処理組成物と、水溶性部材とを含む廃液処理組成物ユニットを、前記容器内において廃液に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記廃液において溶解させることにより、前記廃液処理組成物を前記廃液に含ませる接触工程をさらに備える廃液処理方法が挙げられる。
【0045】
好ましい実施形態の廃液処理方法では、容器内において廃液に浮かぶ浮遊物に、粉末状、粒状などの固体状の凝集剤、及びホウ素含有化合物が直に接触することを防ぐことができる。その結果、その溶解した部分から廃液処理組成物を廃液に接触させることができる。したがって、廃液処理組成物が廃液と接触する前に浮遊物に付着することに起因して廃液処理組成物が廃液中に十分に行き渡らないという問題が生じることもない。これにより、この実施形態の廃液処理方法では、接触工程において、廃液処理組成物を廃液に十分に含ませることができるため、その廃液を分離工程において撹拌することにより、所望の量の廃液処理組成物を廃液中に分散させることができる。
【0046】
その結果、廃液に含まれる成分が廃液処理組成物によって効率よく凝集物となるため、容器内において廃液を上清と凝集物に効率よく分離することができる。分離された上清は、例えば容器から排出されて適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。また、分離された凝集物は、容器とともに、又は容器とは別個に、例えば焼却処理などの適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。このような廃液処理方法を適用すれば、粉末状、粒状などの固体状の凝集剤及びホウ素含有化合物を用いる場合であっても、浮遊物を有する廃液を効率良く処理できる。
【0047】
以下、好ましい実施形態の廃液処理方法について、廃液処理装置の構成例を示した図面を参照しつつ説明する。但し、本実施形態の廃液処理方法を実施するための廃液処理装置は図示した構成に限定されない。
【0048】
図1は、本実施形態の廃液処理方法を実施するときに用いられる廃液処理装置10の一例の概略を示す正面図である。廃液処理装置10は、容器20と、保持容器28と、廃液処理組成物ユニット40と、撹拌装置50とを備える。容器20は、容器本体21と、上蓋22とを有する。容器本体21は、容器20内に吸引されて流入する廃液を保持するためのものである。容器本体21は、変形可能な可撓性を有している。
【0049】
これにより、容器本体21は、容器20の内部の圧力と、外部の圧力との差に応じて内部の容積が増減するように構成されている。この外部の圧力は、後述する保持容器28と容器本体21との間の空間の圧力である。容器本体21は、例えば軟質の合成樹脂などのように容易に変形可能な材料を用いて形成されている。
【0050】
容器20は、保持容器28と分離可能なように構成されており、廃液を処理する準備の段階で、容器本体21が収縮した状態の容器20を、保持容器28に取り付けられて
図1に示した状態とされる。これにより、容器本体21が保持容器28内に収容されるとともに、保持容器28の上部の開口部が上蓋22によって塞がれる。
【0051】
また、上蓋22に設けられた接続口24にチューブ23の一端が接続され、接続口26にはチューブ25の一端が接続される。また、保持容器28に設けられた接続口29には、チューブ30の一端が接続される。
【0052】
容器本体21は、
図1に示すように廃液処理に使用する前においては、例えば蛇腹状に複数の折り目が形成されており、容器20の内部の容積が小さくなるように収縮した状態にある。
【0053】
容器20を廃液処理に使用する際には、容器20の内部の圧力が容器20の外部の圧力よりも大きくなるように容器20の内外の圧力が調節される。これにより、
図2に示すように、容器20の内部の容積が大きくなるように、容器本体21の折り目が伸びて拡張した状態になる。なお、本実施形態では、上記のように容器本体21が伸縮可能(変形可能)に構成されているが、これに限られない。容器本体21は、使用前後とも同じ形状で変形しないように構成されていてもよい。
【0054】
容器20は、使い捨て容器として構成されている。すなわち、容器20は、後述する廃棄工程において、容器20内に収容された廃液処理組成物とともに廃棄される。但し、容器20は、必ずしも使い捨て容器でなくてもよく、本実施形態の廃液処理方法を実施した後、殺菌、洗浄などの適切な処理が行われることにより再利用可能に構成されていてもよい。
【0055】
上蓋22は、容器本体21の上部の開口部を塞ぐためのものである。
図1及び
図2に示すように、上蓋22には、接続口24と接続口26とが設けられている。接続口24には、接触工程において廃液を容器20内に導くためのチューブ23が接続される。接続口26には、接触工程において容器20内の空気を容器本体21の外部に排出するチューブ25が接続される。
【0056】
また、
図1に示すように、容器20内における予め定められた位置において、廃液処理組成物ユニット40が容器20に支持されている。具体的には、廃液処理組成物ユニット40は、容器20の上蓋22に取り付けられ、上蓋22に支持されている。
【0057】
本実施形態では、廃液処理組成物ユニット40は、上述のように使用前には、容器20に支持されている(具体的には、上蓋22の下面に支持されている)。一方、廃液処理組成物ユニット40は、後述する接触工程の適切な時点において、容器20(具体的には、上蓋22の下面)から外されて廃液に投下される。
【0058】
また本実施形態では、上蓋22には、投下機構31が設けられている。投下機構31は、接触工程において、容器20内に収容された廃液に廃液処理組成物ユニット40を投下するためのものである。投下機構31は、廃液処理組成物ユニット40に対する容器20による支持(具体的には、廃液処理組成物ユニットに対する上蓋22による支持)を、容器20の外部からの操作によって解除して容器20内の廃液に廃液処理組成物ユニット40を落下させることができるように構成されている。当該操作は、作業者による手動で行われてもよく、廃液処理装置10の制御部による自動で行われてもよい。
【0059】
具体的には、投下機構31は、例えば、廃液処理を行う作業者が容器20の外部から操作可能な投下ボタンである。作業者がこの投下ボタンを押し下げることにより、上蓋22に支持されていた廃液処理組成物ユニット40が下方に押されて上蓋22から外れ、廃液の液面に向かって落下する。なお、投下機構31は、
図1に示す投下ボタンに限られず、接触工程における適切な時点で、操作者によって手動で又は廃液処理装置10の制御部によって自動で、廃液処理組成物ユニット40を廃液に投下することができるものであれば他の機構を採用できる。
【0060】
図1及び
図2に示すように、容器20は、保持容器28に保持される。保持容器28は、容器20を保持可能な程度の剛性を有している。保持容器28は、容器本体21の全体を収容可能な容器である。
図1に示すように、保持容器28の上部の開口部は、容器20の上蓋22によって塞がれる。
【0061】
図1及び
図2に示すように、保持容器28には、接続口29が設けられている。接続口29には、チューブ30が接続される。チューブ30は、後述する準備工程、接続工程などにおいて、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気を吸引することにより、当該空間の圧力を容器本体21の内部の圧力よりも小さくして容器本体21を収縮状態から拡張状態にするため、又はその拡張状態を維持するためのものである。
【0062】
保持容器28は、リユース容器として構成されている。すなわち、保持容器28は、本実施形態に係る廃液処理方法に使用された後、殺菌、洗浄などの適切な処理が行われることにより再利用される。
【0063】
図1及び
図2に示すように、廃液処理組成物ユニット40は、凝集剤41と、撹拌子42と、固体状の化合物44と、これら凝集剤41、撹拌子42及び固体状のホウ素含有化合物44を収容する水溶性部材43とを有する。以下では、固体状の化合物44を、ホウ素含有化合物44と呼ぶことがある。
【0064】
廃液処理組成物ユニット40に含まれる凝集剤41及びホウ素含有化合物44の量は、例えば容器本体21の容量などを考慮して、上記した好ましい投入量に調整される。また、粉末状又は粒状の凝集剤41及びホウ素含有化合物44の粒径は、特に限定されるものではなく、後述する接触工程での廃液の液層における分散のしやすさなどを考慮して適宜設定される。
【0065】
撹拌子42は、後述する撹拌工程において容器20内の液層を撹拌するために用いられる。後述する撹拌装置50がマグネチックスターラーであるので、撹拌子42としては、例えば、棒磁石が合成樹脂などによって被覆された細長い形態のものを用いることができる。撹拌子42は、重さ調節部材の一例であり、廃液処理組成物ユニット40の重さを調節するための機能も有している。撹拌子42の質量は、後述する接触工程において廃液に投下された廃液処理組成物ユニット40の一部又は全体が浮遊物を通過して、浮遊物の下方にある廃液に到達するように調整される。具体的に、撹拌子42としては、廃液に含まれる血液よりも比重が大きいものを用いることができる。また、撹拌子42の質量は、廃液処理組成物ユニット40全体の質量が、その廃液処理組成物ユニット40と同体積の廃液の質量よりも大きくなるように調整されるのが好ましい。
【0066】
水溶性部材43を構成する材料としては、例えば、水溶性を有する合成樹脂などを用いることができる。このような合成樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコールなどを例示できるが、これに限られない。例えば、水溶性の紙であってもよい。このような水溶性紙を、水溶性部材の素材として用いることによって、廃液処理組成物ユニットを廃液に接触させたときに水溶性部材の溶解が迅速に進行し、それだけ廃液処理効率が高くなる。なお、水溶性部材が廃液に接触したときから、それが溶解して内部の廃液処理組成物が廃液に接触するまでの時間は、水溶性部材を構成する材料、水溶性部材の厚みなどを変えることによって適宜調節できる。
【0067】
水溶性部材43には、粉末状又は粒状の凝集剤41と、撹拌子42及びホウ素含有化合物44が収容されている。具体的に、例えば、1枚の水溶性紙を二つ折りにして水溶性紙を重ねるか、又は2枚の水溶性紙を重ねて、これらの水溶性紙の間に凝集剤41、撹拌子42及びホウ素含有化合物を配置した状態で、水溶性紙の周縁部分を例えば融着などの接合方法を用いて接合する。これにより、凝集剤41と撹拌子42とが密封された状態の廃液処理組成物ユニット40が得られる。
【0068】
なお、凝集剤41、撹拌子42及びホウ素含有化合物44は、必ずしも水溶性フィルムによって密封されている必要はなく、収容空間が廃液処理組成物ユニット40の外部と多少連通していてもよい。すなわち、接触工程において水溶性フィルムが液層に接触する前に、凝集剤41、撹拌子42及びホウ素含有化合物44が水溶性フィルムの収容空間から外に出てしまうようなことがない程度に、凝集剤41、撹拌子42及びホウ素含有化合物44が水溶性フィルムに囲まれて保持されていればよい。
【0069】
撹拌装置50は、後述する撹拌工程において容器20内の廃液を撹拌するためのものである。本実施形態では、撹拌装置50としてマグネチックスターラーが用いられている。この撹拌装置50(マグネチックスターラー50)は、本体51と、上述した撹拌子42とを備える。すなわち、本実施形態において、撹拌子42は、廃液処理組成物ユニット40の一部を構成するとともに、撹拌装置50の一部をも構成している。
【0070】
マグネチックスターラー50の本体51は、図略の駆動部や制御部、これらを収容する筐体などを備える。撹拌子42の回転速度は、駆動部や制御部によって調節される。マグネチックスターラー50の筐体の天板上には、保持容器28がセットされる。なお、撹拌装置50としては、例えば、モーターに連結された回転軸の回転によって廃液を撹拌するメカニカルスターラーなどの他の撹拌装置を用いることもできる。
【0071】
次に、本実施形態に係る廃液処理方法について説明する。本実施形態に係る廃液処理方法は、準備工程と、接触工程と、分離工程と、排出工程と、廃棄工程とを備える。
【0072】
(準備工程)
まず、準備工程について説明する。準備工程は、後述する接触工程の前に行われる工程であり、接触工程において容器20内に廃液を吸引することが可能な状態にするためのものである。
【0073】
準備工程においては、
図1に示すように、撹拌装置50の本体51上に保持容器28をセットする。そして、
図1に示すように容器本体21が収縮した状態の容器20を、
図1に示すように保持容器28に取り付ける。これにより、容器本体21が保持容器28内に収容されるとともに、保持容器28の上部の開口部が上蓋22によって塞がれる。
【0074】
また、準備工程においては、上蓋22に設けられた接続口24にチューブ23の一端が接続され、接続口26にはチューブ25の一端が接続される。また、保持容器28に設けられた接続口29には、チューブ30の一端が接続される。
【0075】
また、チューブ25には、チューブ25を通じて容器20内の空気を吸引するための吸引装置32が設けられる。チューブ30には、チューブ30を通じて、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気を吸引する吸引装置33が設けられる。吸引装置32,33としては、例えば、病棟に設けられた吸引源32,33を使用することができる。また、吸引装置32,33としては、ローラーポンプ(チューブポンプ)などのように陰圧を発生させることができるポンプ32,33を使用することもできる。なお、吸引装置32,33の何れか一方を省略して、チューブ25を通じた空気の吸引とチューブ30を通じた空気の吸引とを1つの吸引装置によって行うように構成されていてもよい。
【0076】
準備工程においては、
図1に示すように収縮状態にある容器本体21を、
図2に示すように拡張状態とする。具体的に、
図1に示す準備工程においては、チューブ23の他端は、開放されており、容器本体21の外部の空気がチューブ23を通じて容器本体21の内部に流入可能な状態にある。
【0077】
この状態で、ポンプ33の運転を開始すると、保持容器28と容器本体21との間の空間にある空気がチューブ30を通じて保持容器28の外に吸引される。一方、容器本体21の内部には、チューブ23を通じて外部の空気が自由に流入可能である。このため、保持容器28と容器本体21との間の空間の圧力が容器20内(容器本体21内)の圧力よりも小さくなる。このような圧力差が生じることにより、
図1に示すように収縮していた容器本体21は、
図2に示すように保持容器28内において拡張される。その後、吸引装置33の運転を停止する。なお、吸引装置33がローラーポンプである場合、ポンプの運転が停止されている状態においては、そのポンプによってチューブ30の流路が塞がれている。上記の準備工程により、廃液処理組成物ユニット40が保持された容器20を、接触工程を行うための位置にセットすることができる。
【0078】
(接触工程)
次に、接触工程について説明する。接触工程は、廃液処理組成物ユニット40を容器20内において廃液に接触させ、水溶性部材43を廃液において溶解させることにより、凝集剤41及びホウ素含有化合物44を廃液に含ませるために行われる。
【0079】
まず、容器20内に廃液を流入させる。このとき、チューブ23の他端側から体液を含む廃液が吸引される。上蓋22の接続口26とチューブ25との間には、止水フィルター34が設けられている。止水フィルター34は、容器20内に収容された廃液の一部が容器20外に流出し、チューブ25に流入するのを防ぐために設けられている。止水フィルター34は、容器20内の廃液の一部が接続口26を通じて止水フィルター34に到達すると、吸引をストップするように構成されている。
【0080】
具体的に、例えば、止水フィルター34は、中空の流路部材と、吸収体とを備える。流路部材は、接続口26とチューブ25とを連通する流路を有する。吸収体は、その流路に設けられている。吸収体は、液体の吸収性が非常に優れた繊維(超吸収加工された繊維)を素材とする。吸収体は、空気が流れる隙間を有する一方で、液体を吸収すると一瞬で膨潤する。これにより、止水フィルター34は、膨潤後の吸引をストップすることができるので、接触工程において容器20内の廃液がチューブ25に流入するのを防止できる。
【0081】
吸引装置32の運転が開始されると、容器20内の空気がチューブ25を通じて容器本体21の外に排出されることに伴って生じる陰圧により、体液を含む廃液がチューブ23を通じて吸引されて容器20内に流入する。このとき、容器本体21の拡張状態を維持するために、吸引装置33の運転も行うことが好ましい。
【0082】
容器20内への廃液の吸引終了後、配管チューブ25が容器20(具体的には、止水フィルター34)から取り外される。止水フィルター34は、接続口26に取り付けた状態のままである。
【0083】
次いで、容器20内の廃液に廃液処理組成物ユニット40を投下する。
図3は、投下工程の概略を示す正面図である。
図3(A)、
図3(B)及び
図3(C)は、投下工程において、容器20内に投下された廃液処理組成物ユニット40の水溶性部材43が溶解して撹拌子42が解放される過程、及び凝集剤41とホウ素含有化合物44が廃液に放出される過程を示す正面図である。
【0084】
投下工程においては、投下機構31の一例である投下ボタンが作業者によって手動で又は廃液処理装置10の制御部によって自動で押し下げられる。これにより、上蓋22に支持されていた廃液処理組成物ユニット40が上蓋22から外れて廃液70の液面に向かって落下する。
【0085】
本実施形態では、凝集剤41及びホウ素含有化合物44が水溶性部材43に収容されているため、この収容状態においては、容器20内の廃液70の表層部分において廃液70に浮かぶ浮遊物72に凝集剤41及びホウ素含有化合物44が直に接触することを防ぐことができる。
【0086】
また本実施形態では、上述したように廃液処理組成物ユニット40は、重さ調節部材としての撹拌子42を有している。このため、
図3(A)に示すように、廃液処理組成物ユニット40の少なくとも一部が、浮遊物72の下方にある廃液70に到達する。このように水溶性部材43が廃液70に接触すると、
図3(B)に示すように水溶性部材43のうちの廃液70に接触している部分が次第に溶解する。水溶性部材43の一部が溶解すると、水溶性部材43の収容空間に収容された凝集剤41、ホウ素含有化合物44及び撹拌子42が廃液70に露出する。そして、水溶性部材43の溶解がさらに進行すると、水溶性部材43は、凝集剤41、ホウ素含有化合物44及び撹拌子42を保持できなくなるため、凝集剤41及びホウ素含有化合物44の一部又は全部並びに撹拌子42は、廃液70中に放出される。そして、
図3(C)に示すように、凝集剤41及びホウ素含有化合物44の大半は、廃液70中に放出され、撹拌子42は、容器本体21の底面上に落下する。
【0087】
なお、接触工程においては、水溶性部材43の全体が完全に溶解する必要はなく、水溶性部材43の一部が溶解せずに残っていてもよい。
【0088】
(分離工程)
次に、分離工程について説明する。分離工程は、凝集剤41及びホウ素含有化合物44を含ませた廃液70を撹拌し、廃液70を容器20内において上清と凝集物に分離するために行われる。この分離工程は、撹拌工程と、この撹拌工程の後に行われる静置工程とを含む。
【0089】
撹拌工程では、接触工程において容器本体21の底面に落下した撹拌子42を廃液70において回転させる。撹拌子42の回転速度などは、マグネチックスターラー50の本体51によって制御される。上述した接触工程において廃液70には凝集剤41及びホウ素含有化合物44が含まれており、撹拌工程においてその廃液70を撹拌することにより、凝集剤41及びホウ素含有化合物44を廃液70全体に行き渡らせることができる。その結果、廃液70に含まれる成分が、凝集剤41及びホウ素含有化合物44によって効率よく凝集物となる。
【0090】
凝集物の生成に必要な撹拌が完了すると、マグネチックスターラー50の運転が停止される。そして、容器本体21及びその内部の廃液70が静置されると、容器20内において凝集物が沈殿するため、廃液70を上清と凝集物に分離することができる。
【0091】
(排出工程)
次に、排出工程について説明する。排出工程は、上清を容器20から排出するために行われる。これにより、容器20内の廃棄物の体積を小さくすることができる。この排出工程では、容器20内の上清が容器20から排出される。本実施形態における排出工程では、容器20の容器本体21を収縮させて容器本体21の容積を小さくすることにより、容器20の上部から上清だけを容器20の外に排出する。
【0092】
このとき吸引装置(図示せず)を用いて容器20内の空気及び上清を吸引してこれらを容器20外に排出する。例えば上蓋22の接続口24に、排出チューブが接続される。この排出チューブには、吸引装置として例えばローラーポンプが設けられている。排出工程は、接続口24などの他の開口部が閉じられた状態で行われる。
【0093】
ローラーポンプの運転を開始すると、容器20内の空気及び上清が吸引されてこれらが容器20外に排出される。その排出による陰圧で容器本体21が収縮する。これにより、容器本体21が収縮した後の容器20内には、凝集物と少量の上清とが残る。
【0094】
なお、容器本体21に対して容器本体21の外部から圧力を加えて容器本体21を潰すことによって容器20の上部から上清だけを容器20の外に排出してもよい。
【0095】
(廃棄工程)
次に、廃棄工程について説明する。廃棄工程では、容器20が保持容器28から取り外される。そして、容器20内に残る凝集物は、容器20とともに焼却処理などの適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。また、容器20から排出された上清は、フィルター(図示せず)を通して、上清中の凝集物を濾過分別した後、適切な処理が施されることにより、安全に廃棄される。
【0096】
上記廃棄工程で用いられるフィルターとしては、目開きサイズが(10mm×10mm)~(15mm×15mm)程度の大ネットであることが好ましい。
【0097】
本実施形態の廃液処理方法では、比較的大きく凝集強度が高い凝集物が得られるので、上記のような大ネットで構成されたフィルターを用いても、十分な濾過ができ、かつ、濾過時間も短縮される。
【0098】
また、上記廃棄工程で用いられるフィルターとしては、二重構造になっており、上記した大ネットと、当該大ネットより線径及び目開きの小さいネット(後記実施例で示す中ネットまたは小ネット)で構成されるものを用いることもできる。中ネットの目開きサイズとしては、(1mm×1mm)~(10mm×10mm)程度であることが好ましく、小ネットの目開きサイズは(1mm×1mm)以下であることが好ましい。なお、用いるフィルターは、目開きサイズが小さすぎると、本実施形態の廃液処理方法においても、目詰まり発生が生じることになる。したがって、各ネットの目開きサイズは、少なくとも(50μm×50μm)~(100μm×100μm)よりも大きいことが好ましい。
【0099】
本実施形態の廃液処理方法では、上記廃棄工程で用いられるフィルターとして、上記のような二重構造とし、上流側の大ネットで容器内の上清を濾過した後に、大ネットを通過した凝集物を、大ネットより線径及び目開きの小さいネットで、捕捉することによって、排出される上清がよりきれいな状態となる。
【0100】
以上説明したように、凝集剤41及びホウ素含有化合物44が水溶性部材43に収容されているため、容器20内において廃液70に浮かぶ浮遊物72に凝集剤41及びホウ素含有化合物44が直に接触することを防ぐことができる。そして、廃液処理組成物ユニット40を廃液70に接触させて水溶性部材43を廃液70において溶解させることにより、その溶解した部分から凝集剤41及びホウ素含有化合物44を廃液70に放出して廃液70に接触させることができる。
【0101】
したがって、凝集剤41及びホウ素含有化合物44が廃液70に接触する前に凝集剤41及びホウ素含有化合物44が浮遊物72に付着することに起因して凝集剤41及びホウ素含有化合物44が廃液70に十分に行き渡らないという問題が生じることを防ぐことができる。これにより、接触工程において、凝集剤41及びホウ素含有化合物44を廃液70に十分に含ませることができるため、その廃液70を分離工程において撹拌することにより、所望の量の凝集剤41及びホウ素含有化合物44を廃液70に分散させることができる。その結果、廃液70に含まれる成分が、凝集剤41及びホウ素含有化合物44によって比較的大きく凝集強度が高い凝集物となるため、容器20内において廃液70を上清と凝集物に効率よく分離することができる。分離された上清には、凝集物の混入が極力低減されており、微細で凝集強度が低い凝集物の形成が抑制され、フィルターの目詰まりの発生を低減できる。
【0102】
以上、本発明の概略について説明したが、これらを纏めると下記の通りである。すなわち、本実施形態の廃液処理組成物は、体液を含む廃液を処理して、前記廃液を容器内において上清と凝集物に分離するための廃液処理組成物であって、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の凝集剤と、OH基、NH基およびFH基よりなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する固体状の化合物とを含む廃液処理組成物である。
【0103】
本実施形態の廃液処理組成物で用いる固体状の凝集剤としては、カチオン系高分子凝集剤及び両性高分子凝集剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また前記固体状の化合物としては、ホウ素含有化合物が好ましい化合物として挙げられ、より具体的には、ホウ酸、ウレキサイト、ホウ砂及びケルナイトよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい化合物として挙げられる。本実施形態の廃液処理組成物は、さらに、油脂吸収剤を含むことが好ましい実施形態である。
【0104】
一方、本実施形態の廃液処理方法は、体液を含む廃液を容器に収容し、上記本実施形態の廃液処理組成物を、容器内の廃液に投入して撹拌することにより、廃液を上清と凝集物に分離する分離工程と、前記上清がフィルターを介して廃棄される工程を含む、廃液処理方法である。
【0105】
本実施形態の廃液処理方法において、前記固体状の凝集剤の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。また前記固体状の化合物の廃液への投入量は、廃液全体に対して0.02質量%以上であることが好ましい。
【0106】
本実施形態の廃液処理方法における、より好ましい形態としては、本実施形態の廃液処理組成物と、水溶性部材とを含む廃液処理組成物ユニットを、前記容器内において前記廃液に接触させ、前記水溶性部材の一部又は全体を前記廃液において溶解させることにより、前記廃液処理組成物を前記廃液に含ませる接触工程をさらに備える廃液処理方法が挙げられる。
【0107】
この実施形態の廃液処理方法においては、前記廃液処理組成物ユニットを構成する水溶性部材は、水溶性紙であることが好ましい。
【0108】
これらの構成を採用することによって、撹拌時間を厳密に設定しなくても、廃液を効率よく処理して、比較的大きく凝集強度が高い凝集物を得ることができ、フィルターの目詰まりの発生を低減できる。
【0109】
本実施形態の廃液処理方法において、前記フィルターは、(15mm×15mm)以下の目開きを有するネットで構成されることが好ましい。本実施形態の廃液処理方法では、比較的大きく凝集強度が高い凝集物が得られるので、上記のような目開きを有する大ネットで構成されたフィルターを用いても、十分な濾過ができ、かつ、濾過時間も短縮される。
【0110】
また前記フィルターは、二重構造になっており、(15mm×15mm)以下の目開きを有する第1のネットと、前記第1のネットより目開きサイズが小さい第2のネットで構成されることは好ましい実施形態である。本実施形態の廃液処理方法では、上記廃棄工程で用いられるフィルターとして、上記のような二重構造とし、上流側の第1のネットで容器内の上清を濾過した後に、第1のネットを通過した凝集物を、第1のネットより目開きサイズが小さい第2のネットで捕捉することによって、排出される上清がよりきれいな状態となる。
【0111】
以下、実施例に基づいて、本発明の作用効果をより具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前記及び後記の趣旨に徴して設計変更することは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
薄血廃液を想定した、2%(質量割合;血液濃度については以下同じ)の血液を含む溶液(4L)をサンプルとして用いた。この溶液に対し、活性炭、ホウ砂及び高分子凝集剤を下記の量(溶液に対する割合)となるように投入し、撹拌を行った。この2%の血液を含む溶液における、廃液処理組成物によって処理(以下では便宜上、溶液中で凝集物を形成するまでの処理を「廃液処理」と呼ぶことがある。)する前の血液個数は、血球計算盤で測定したときに、750万個/mLである。2%の血液を含む溶液を光学顕微鏡で、倍率:100倍で観察したときの状態を、
図4(図面代用顕微鏡写真)に示す。
【0113】
(各成分の添加量:溶液に対する割合)
活性炭:0.075質量%
ホウ砂:0.062質量%
高分子凝集剤(ポリアクリル酸エステル):0.075質量%
溶液中に形成された凝集物を、フィルターを想定した目開きサイズの異なる2種類のネット(大ネット及び中ネット)を夫々用いて濾過分別した。このとき、濾過分別後1分間静置し、各ネット上に捕捉された凝集物の質量と、各ネットを通過した凝集物を、目開きサイズがさらに細かい(500μm×500μm;線径:0.1mm)ネット(以下、「小ネット」と呼ぶ)で捕捉した凝集物の質量及びそれら凝集物の割合を測定した。なお、撹拌時間は、2%の血液を含む溶液に対して凝集物のサイズ及び凝集強度に対して最も適切と思われる4分と、濃血廃液を廃液処理する上で十分な時間で且つ薄血廃液を廃液処理したときに一旦形成されたフロックが壊れる可能性がある10分の2通りとした。
【0114】
(用いたネット)
(a)大ネット(合成樹脂製)
目開きサイズ:5mm×5mm(正方形)
線径:2.45~2.60mm
(b)中ネット(合成樹脂製)
目開きサイズ:1.5mm×1.5mm(正方形)
線径:1.96~2.0mm
その結果を、下記表1に示す。
【0115】
【0116】
撹拌時間を4分として処理した後、大ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図5(図面代用写真)に示す。
図5(A)は、大ネット上に残った凝集物の状態、
図5(B)は、大ネットで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図5(C)は、小ネット上に残った凝集物の状態を、夫々示している。
【0117】
撹拌時間を4分として廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図6(図面代用写真)に示す。
図6(A)は、中ネット上に残った凝集物の状態、
図6(B)は、中フィルターで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図6(C)は、小ネット上に残った凝集物の状態を、夫々示している。
【0118】
上記各ネットを通過した後、小ネットを通過した溶液を、光学顕微鏡で倍率:100倍で観察したときの状態を、
図7(図面代用顕微鏡写真)に示す。
図7(A)は大ネットを通過した後、小ネットを通過した溶液、
図7(B)は中ネットを通過した後、小ネットを通過した溶液、を夫々示している。なお、
図7(A)に示した溶液における血液個数は、620個/mLであり、
図7(B)に示した溶液における血液個数は、3100個/mLである。
【0119】
撹拌時間を10分として廃液処理した後、大フィルターを用いて濾過分別したときの状態を
図8(図面代用写真)に示す。
図8(A)は、大ネット上に残った凝集物の状態、
図8(B)は、大ネットで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図8(C)は、小ネット上に残った凝集物の状態を、夫々示している。
【0120】
撹拌時間を10分として廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図9(図面代用写真)に示す。
図9(A)は、中フィルター上に残った凝集物の状態、
図9(B)は、中フィルターで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図9(C)は、小フィルター上に残った凝集物の状態を、夫々示している。
【0121】
中フィルターを通過した後、小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、廃液処理前の溶液の状態と比較して
図10(図面代用写真)に示す。
図10において左側が廃液処理前の溶液の状態を示し、右側が小ネットで濾過分別したとき後の上清の状態を示している。
【0122】
通常の廃液には、最大で10%程度の血液が含まれているが、10分の撹拌時間はこのような濃血廃液を廃液処理する上で十分な時間である(後記実施例2参照)。上記結果は、薄血廃液に対して、10分の撹拌時間で撹拌しても、凝集物が崩壊しないことを示している。
【0123】
(実施例2)
濃血廃液を想定した、10%の血液を含む溶液(4L)をサンプルとして用いた。この溶液に対し、活性炭、ホウ砂及び高分子凝集剤を、実施例1と同じ条件で投入し、4分の撹拌を行った。
【0124】
溶液中に形成された凝集物を、実施例1で用いた大ネット及び小ネットで順次濾過分別した。また溶液中に形成された上記凝集物を、実施例1で用いた中ネット及び小ネットで順次濾過分別した。このときの濾過分別は、4分の撹拌後、3分間静置した後に行った。
各ネット上に捕捉された凝集物の状態、各ネットで濾過分別後の上清の状態を観察した。
【0125】
10%の血液を含む溶液をサンプルとして用いて廃液処理した後、大ネット及び小ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図11(図面代用写真)に示す。
図11(A)は、大ネット上に残った凝集物の状態、
図11(B)は、大ネットで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図11(C)は、小ネット上に残った凝集物の状態を、夫々示している。また大ネット又は小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、処理前の溶液の状態と比較して
図12に示す。
図12において左側が廃液処理前の溶液の状態、中央が大ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態、右側が小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、夫々示している。
【0126】
10%の血液を含む溶液をサンプルとして用いて廃液処理した後、中ネット及び小ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図13(図面代用写真)に示す。
図13(A)は、中ネット上に残った凝集物の状態、
図13(B)は、中ネットで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態、
図13(C)は、小ネット上に残った凝集物の状態を、夫々示している。また中ネット又は小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、処理前の溶液の状態(10%の血液を含む溶液の状態)と比較して
図14に示す。
図14において左側が廃液処理前の溶液の状態、中央が中ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態、右側が小ネットを用いて濾過分別した後の上清の状態を、夫々示している。
【0127】
実施例2に示したような濃血廃液を、本実施形態の廃液処理組成物を用いて廃液処理すれば、撹拌時間を4分程度に設定することで凝集物の形成は完了することが分かる。また上記結果は、二重構造のフィルターを用いて処理することが有用であることを示している。
【0128】
実施例1、2の結果から明らかなように、活性炭、ホウ砂及び高分子凝集剤を含む廃液処理組成物を用いて廃液処理すれば、撹拌時間を廃液中の血液濃度に応じて厳密に設定しなくても(例えば、撹拌時間を4分程度に設定することで)、比較的大きく十分な凝集強度を有し、フィルターの目詰まりを招くような凝集物を生じることなく、効果的に廃液を処理できることが分かる。
【0129】
(比較例)
実施例1で用いた2%の血液を含む溶液(4L)をサンプルとして用いた。この溶液に対し、活性炭及び高分子凝集剤を下記の量で含むように添加し、10分の撹拌を行った。このとき濃血廃液を想定した、10%の血液を含む溶液(4L)をサンプルとして、同様の実験を行った。この10%の血液を含む溶液における、廃液処理前の血液個数は、血球計算盤で測定したときに、3950万個/mLである。
【0130】
(各成分の添加量:廃液に対する割合)
活性炭:0.075質量%
高分子凝集剤(ポリアクリル酸エステル):0.075質量%
廃液中に形成された凝集物を、実施例1で示した2種類のネットを用いて、実施例1と同様にして濾過分別した。
【0131】
2%の血液を含む溶液をサンプルとして用いて廃液処理した後、中ネットを用いて濾過分別したときの状態を
図15(図面代用写真)に示す。
図15(A)は、中ネット上に残った凝集物の状態、
図15(B)は、中ネットで濾過分別した溶液(上清に相当)の状態を、夫々示している。また上記
図15(B)で示した溶液を、光学顕微鏡で倍率:100倍で観察したときの状態を
図16(図面代用顕微鏡写真)に示す。
【0132】
また10%の血液を含む溶液(4L)の廃液処理前後の状態を、
図17(図面代用顕微鏡写真)に示す。
図17(A)は10%の血液を含む溶液の廃液処理前を(観察の便宜上、10倍希釈した溶液を用いた)、
図17(B)は10%の血液を含む溶液の廃液処理後を、光学顕微鏡で倍率:100倍で観察したときの状態を、夫々示している。
【0133】
図17(B)に示した廃液処理後の溶液の状態を、処理前の溶液の状態(10%の血液を含む溶液の状態)と比較して
図18(図面代用写真)に示す。
図18において左側が廃液処理前の溶液の状態を示し、右側が処理後の溶液の状態を示している。なお、
図17(B)に示した溶液における血液個数は、血球計算盤で測定したときに、37万個/mLである。
【0134】
これらの結果から明らかなように、ホウ砂を含有させずに活性炭及び高分子凝集剤だけで廃液処理すれば、廃液中の血液が凝集物によって十分凝集されずに、溶液中に十分残っていることが分かる。こうした血液は、微細で凝集強度が低い凝集物を形成しやすくなり、フィルターの目詰まりの原因となる。
【0135】
(実施例3)
薄血廃液を想定した、2%の血液を含む溶液(5L)をサンプルとして用いた。この溶液に対して、活性炭、ホウ砂及び高分子凝集剤を下記の量で含むように投下し、4分の撹拌を行った。すなわち、実施例2では、廃液処理組成物中のホウ砂の量を実施例1よりも、10倍に増やした例である。
【0136】
(各成分の添加量:溶液に対する割合)
活性炭:0.075質量%
ホウ砂:0.62質量%
高分子凝集剤(ポリアクリルエステル):0.075質量%
廃液中に形成された凝集物を、上記した小ネットを用いて濾過分別した。このときの濾過分別は、撹拌後1分間静置した後に行った。
【0137】
廃液処理前後の溶液を、光学顕微鏡で倍率:100倍で観察したときの状態を
図19(図面代用顕微鏡写真)に示す。
図19(A)は、廃液処理前の溶液の状態を示しており、前記
図4に示した状態とほぼ対応している。
図19(B)は廃液処理後の溶液の状態を示しており、溶液中の血液は十分除去されていることが分かる。
【0138】
また廃液処理前後の溶液の状態を
図20(図面代用写真)に示す。
図20において左側が廃液処理前の溶液の状態を示し、右側が廃液処理後の溶液の状態を示している。
【0139】
これらの結果から明らかなように、ホウ砂の含有量を10倍に増やした廃液処理組成物を用いても、比較的大きく十分な凝集強度を有し、フィルターの目詰まりを招くような凝集物を生じることなく、効果的に廃液を処理できることが分かる。
【符号の説明】
【0140】
20 容器
21 容器本体
22 上蓋
28 保持容器
31 投下機構
40 廃液処理組成物ユニット
41 固体状の凝集剤
42 撹拌子
43 水溶性部材
44 固体状の化合物(ホウ素含有化合物)
50 撹拌装置
70 廃液
72 浮遊物