(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ポリオレフィン微多孔膜を備える多層多孔膜
(51)【国際特許分類】
B32B 5/32 20060101AFI20230907BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20230907BHJP
C08J 9/42 20060101ALI20230907BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B32B5/32
H01M50/409
C08J9/42 CES
B32B27/32 C
(21)【出願番号】P 2019012371
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川口 遼馬
(72)【発明者】
【氏名】片桐 健
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126275(JP,A)
【文献】特開2011-108444(JP,A)
【文献】特開2016-076323(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175050(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146237(WO,A1)
【文献】特許第5952504(JP,B2)
【文献】特開2013-101954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01M 50/40-50/497
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜と、イオン性無機フィラー、及びバインダを含み、前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に設けられる多孔層とを備え、
前記イオン性無機フィラーが硫酸バリウムであり、
前記バインダが、アクリル酸エステル単量体を含む樹脂ラテックスバインダを含み、
前記イオン性無機フィラーのメジアン径(D50)が0.05~0.40μmであり、
前記イオン性無機フィラーに対する前記バインダの量が固形分で0.1~4.0質量%であ
り、
前記多孔層の剥離強度が200~1000g/cmである、多層多孔膜。
【請求項2】
前記イオン性無機フィラーのBET比表面積が7~100m
2/gである、請求項1に記載の多層多孔膜。
【請求項3】
前記バインダの体積平均粒径に対する前記ポリオレフィン微多孔膜の孔径の比が0.01~1.0である、請求項1又は2に記載の多層多孔膜。
【請求項4】
前記バインダの体積平均粒径が0.05~0.3μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項5】
前記イオン性無機フィラーのメジアン径(D50)に対する前記バインダの体積平均粒径の比が、0.10~1.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の多層多孔膜を備える、セパレータ。
【請求項7】
150℃における熱収縮率が5%以下である、請求項
6に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記ポリオレフィン微多孔膜の孔径が0.15μm以下である、請求項
6又は
7に記載のセパレータ。
【請求項9】
前記ポリオレフィン微多孔膜の最大熱収縮応力が5.0g以下である、請求項
6~
8のいずれか1項に記載のセパレータ。
【請求項10】
正極と、請求項1~
5のいずれか1項に記載の多層多孔膜と、負極とを備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜を備える多層多孔膜等に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)に代表される非水系二次電池は、携帯用電子機器の小型電源として従来広く利用され、近年、産業用又は車載用の大型蓄電産業への適用について一層期待が高まっている。この種の非水系二次電池の内部において、正負極間にはセパレータが配されている。セパレータは、正極と負極との直接的な接触を防ぎ、かつ、微多孔中に保持した非水電解液を通じてイオンを透過させる機能を有する。特にポリオレフィン微多孔膜は、イオン透過性に優れる傾向にあるため、LIB用セパレータの構成材料として広く利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水溶性重合体と、水と、BET比表面積が3.0m2/g以上6.3m2/g以下である硫酸バリウムとを含む組成物を用いて形成した多孔層を、ポリオレフィン多孔性基材に積層した、LIB用セパレータが記載されている。また、特許文献2には、モース硬度が6以下である硫酸バリウムと、ポリビニルアルコール(PVA)である樹脂バインダとを含む耐熱層を、ポリオレフィン製の積層多孔フィルムに積層した、LIB用セパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6337512号公報
【文献】特許第5697328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大型蓄電産業への非水系二次電池の適用について一層期待が高まっている背景の下、セパレータには、良好なイオン透過性の確保と共に、更なる安全性の確保(例えば、高温時におけ熱収縮率の低減)が切望されている。
しかしながら、従来より、良好なイオン透過性の確保と熱収縮率の低減とはトレードオフの関係にあるためその両立を図ることが困難、との認識が強かった。その両立を図る観点について、特許文献1、及び2でも具体的に検討されておらず、特許文献1、及び2を含めた従来技術に対して改良の余地があった。なお、このような問題は、大型蓄電産業に適用される非水系二次電池のセパレータに限られず、小型電源として利用される非水系二次電池のセパレータにおいても同様に存在する。
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減と、の両立を図ることができる多層多孔膜、及びそのような多層多孔膜を備えるセパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の要件を具備することで上記の課題を解決できることを見出して本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリオレフィン微多孔膜と、イオン性無機フィラー、及びバインダを含み、前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に設けられる多孔層とを備え、
前記イオン性無機フィラーのメジアン径(D50)が0.05~0.40μmであり、
前記イオン性無機フィラーに対する前記バインダの量が固形分で0.1~4.0質量%である、多層多孔膜。
[2]
前記イオン性無機フィラーのBET比表面積が7~100m2/gである、[1]に記載の多層多孔膜。
[3]
前記イオン性無機フィラーが硫酸バリウムを含む、[1]又は[2]に記載の多層多孔膜。
[4]
前記バインダの体積平均粒径に対する前記ポリオレフィン微多孔膜の孔径の比が0.01~1.0である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の多層多孔膜。
[5]
前記バインダの体積平均粒径が0.05~0.3μmである、[1]~[4]のいずれか1項に多層多孔膜。
[6]
前記イオン性無機フィラーのメジアン径(D50)に対する前記バインダの体積平均粒径の比が、0.10~1.0である、[1]~[5]のいずれか1項に多層多孔膜。
[7]
前記バインダがアクリル酸エステル単量体を含む、[1]~[6]のいずれか1項に多層多孔膜。
[8]
前記多孔層の剥離強度が200~1000g/cmである、[1]~[7]のいずれか1項に多層多孔膜。
[9]
[1]~[8]のいずれか1項に記載の多層多孔膜を備える、セパレータ。
[10]
正極と、[1]~[8]のいずれか1項に記載の多層多孔膜と、負極とを備える、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る多層多孔膜によれば、メジアン径D50を比較的小さい特定の範囲内に制御しているため、比較的密な多孔層を実現でき、更にバインダ量を少量に抑えながらも、十分な結着力を確保できるため、熱収縮率の低減を図ることができる。しかも、バインダ量を少量に抑えることができる分、良好なイオン透過性を確保できる。従って、本発明によれば、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減との両立を図ることができる多層多孔膜、及びそのような多層多孔膜を備えるセパレータを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について説明する。以下の実施形態は、本発明の一態様であるため、本発明は以下の実施形態のみに限定されない。以下の実施形態は、本発明の要旨の範囲内で適宜変形して実施可能である。
本明細書における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」、及びそれに対応する「メタクリル」を意味する。また、本明細書での「~」とは、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。
【0010】
<多層多孔膜>
本実施形態に係る多層多孔膜(以下、単に「多層多孔膜」ともいう。)は、ポリオレフィン微多孔膜と、イオン性無機フィラー、及びバインダを含む多孔層とを備える。イオン性無機フィラーのメジアン径D50が、0.05~0.40μmであり、かつ、イオン性無機フィラーに対するバインダの量が、固形分で0.1~4.0質量部である。
多孔層は、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に設けられる。従って、ポリオレフィン微多孔膜の片面のみに多孔層が設けられる態様と、ポリオレフィン微多孔膜の両面に多孔層が設けられる態様とのいずれも本発明に含まれる。なお、本明細書における「片面」とは、非水系二次電池に組み込まれたとき、正極又は負極に対向する面を意味する。
【0011】
従来より、良好なイオン透過性の確保と熱収縮率の低減とはトレードオフの関係にありその両立を図ることが困難、との認識が強かった。すなわち、基材と多孔層とを備えるセパレータにおいて、高温時における熱収縮率の低減を図るべく、多孔層に含有させる無機フィラー(アルミナ又はベーマイト等)の粒径を下げる等して、多孔層の密度を増加させ、フィラー間の結着点の個数を増やすことを検討したと仮定する。しかしその場合、従来技術の下では、多孔層に含有させるバインダ量も増加させざるを得ず、そうすると、セパレータのイオン透過性が低下する傾向にあった。
これに対して、本実施形態に係る多層多孔膜によれば、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減との両立を図ることができる。
【0012】
多層多孔膜が奏する作用効果については、下記の通り推察することができる。
すなわち、イオン結合性を有しない無機フィラー(アルミナ又はベーマイト等)は、その粒子表面が水酸基で覆われているのに対して、本実施形態に係るイオン性無機フィラーは、その粒子表面の成分を含めてイオン結合性を有している。そのため、イオン性無機フィラーを用いることで、その粒子表面の少なくとも一部のイオンが溶媒中で積極的に電離し、これにより、粒子表面に電荷を生じ易くなる。つまり、イオン性無機フィラーを用いることで、多孔層中の結着、及び/又はポリオレフィン微多孔膜と多孔層との結着において、電荷同士のクーロン力をより強く作用させることができるようになる。よって、単位結着面積当たりの結着力を向上させることができる。
【0013】
このように、本実施形態に係る多層多孔膜によれば、フィラーの粒径を下げてフィラー間の結着点の個数を増やしつつ、バインダ量を少量に抑えながらも、フィラー間の十分な結着力を確保でき、熱収縮率の低減を図ることができる。かかる多層多孔膜によれば、該多層多孔膜を備えるセパレータを用いた非水系二次電池に対する、釘刺し試験における安全性の向上が期待される。バインダ量を少量に抑えながらも十分な結着力を確保できるという上記の効果の発現は、硫酸バリウムを含むイオン性無機フィラーを用いた場合に顕著であると期待される。
【0014】
しかも、本実施形態に係る多層多孔膜によれば、バインダ量を少量に抑えることができる分、良好なイオン透過性を確保できる。そして、かかる多層多孔膜によれば、良好なイオン透過性を確保できることで、該多層多孔膜を備えるセパレータを用いた非水系二次電池の電池特性(レート特性)の向上等も期待される。
【0015】
なお、本実施形態に係るイオン性無機フィラーは、そのメジアン径D50を比較的小さい特定の範囲内に制御しているため、比較的密な多孔層を実現でき、また、フィラー間の結着点も比較的多く確保できる。これらも熱収縮率の低減に寄与している。メジアン径D50を比較的小さい特定の範囲内に制御している分、そのBET比表面積は比較的大きくなる傾向にあるが、本実施形態に係る各種構成の組み合わせにより、多孔膜中の、残存水分量の増加の抑制も図られる。
以上に亘って、多層多孔膜が奏する作用効果について推察したが、本発明は、上記の通り推察した理論に拘束されない。
【0016】
多層多孔膜の厚さとしては、特に限定されないが、好ましくは3.0μm以上、より好ましくは10μm以上である。一方、多層多孔膜の厚さは、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは30.0μm以下である。多層多孔膜の厚さが5.0μm以上であることは、セパレータの耐電圧又は機械的強度の観点から好ましい。一方、多層多孔膜の厚さが50.0μm以下であることは、電池の容量の観点から好ましい。多層多孔膜の厚さは、後述する多孔層とポリオレフィン微多孔膜の膜厚の変更等により制御可能である。
【0017】
多層多孔膜の透気度としては、特に限定されないが、好ましくは500秒/100cm3以下、より好ましくは300秒/100cm3以下であり、さらに好ましくは200秒/100cm3以下である。透気度が500秒/100cm3以下であることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。透気度は、JIS P-8117に準拠して測定される透気抵抗度である。
【0018】
多層多孔膜の150℃における熱収縮率としては、釘刺し時の安全性を向上させる観点から、好ましくは10.0%未満であり、より好ましくは5.0%以下、更に好ましくは4.0%以下である。ここで、セパレータの熱収縮率としては、MD熱収縮率、及びTD熱収縮率の両者のうち、大きい方の値を用いる。熱収縮率の測定方法は実施例の項目において後述する。セパレータの熱収縮率は、後述の微多孔膜の最大熱収縮応力と多孔層の構成を適宜組み合わせることにより調整することができる。
【0019】
多層多孔膜の突刺強度としては、特に限定されないが、好ましくは200gf以上、より好ましくは300gf以上、更に好ましくは350gf以上である。突刺強度が200gf以上であることは、セパレータを電極と共に捲回したときにおける、脱落した活物質等による破膜を抑制する観点、及び充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制する観点からも好ましい。突刺強度は、実施例に記載の方法に準じて測定される。突刺強度は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率、及び/又は延伸温度の変更等により制御可能である。
【0020】
多層多孔膜は、それ自体がセパレータとして利用可能である。また、本発明の作用効果を阻害しない範囲内であれば、多層多孔膜上に他の層(例えば、接着層として機能する熱可塑性ポリマー含有層)を積層でき、このような他の層を含む多層多孔膜もセパレータとして利用可能である。以下、多層多孔膜を構成可能な各部材について説明する。
【0021】
[ポリオレフィン微多孔膜(基材)]
ポリオレフィン微多孔膜は、それ自体が従来セパレータとして用いられていたものでもよい。ポリオレフィン微多孔膜としては、孔径の微細な多孔質膜が好ましく、加えて、電子伝導性がなくイオン伝導性があり、かつ、非水電解液(有機溶媒)の耐性が高いものがより好ましい。
ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィン樹脂を含む。ポリオレフィン樹脂の含有量は、ポリオレフィン微多孔膜の全質量に対して、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、そして100質量%であってもよい。
【0022】
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、通常の押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用できるポリオレフィン樹脂であってもよい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等を単量体とするホモポリマー、並びにそれらの単量体2種以上のコポリマー、及び多段ポリマーが挙げられる。これらのホモポリマー、コポリマー、及び多段ポリマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂の代表例としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブテンが挙げられ、より詳細には、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、ポリブテン、及びエチレンプロピレンラバーが挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0024】
中でも、ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレンが好ましい。特に、低融点、かつ、高強度であることから、高密度ポリエチレンが好ましく、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm3以上であるポリエチレンがより好ましい。これらのポリエチレンの製造時に用いられる重合触媒は、特に限定されないが、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。
非水系二次電池に短絡又は過充電等の異常事態が生じると、最悪の場合には発火に至る可能性がある。このような事態を防ぐため、非水系二次電池には、様々な安全機能が組み込まれている。安全機能の一つに、シャットダウン機能がある。シャットダウン機能とは、電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞することで非水電解液内のイオン伝導を抑制し、電気化学反応の進行をストップさせる機能である。一般に、シャットダウン温度が低いほど、安全性が高いとされる。ポリエチレンは、適度なシャットダウン温度を有するため、基材の構成要素として好ましく用いられる。
【0025】
また、セパレータの耐熱性を向上させるため、ポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂とを含むことも好ましい。ポリプロピレンの立体構造としては、特に限定されないが、例えば、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、及びアタクティックポリプロピレンが挙げられる。ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂の例は上記の通りである。ポリプロピレンの製造時に用いられる重合触媒は、特に限定されないが、例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、及びメタロセン系触媒が挙げられる。
【0026】
ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの全質量に対するポリプロピレンの含有割合(ポリプロピレン/ポリオレフィン)としては、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能との両立の観点から、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~20質量%、更に好ましくは4~10質量%である。同様の観点から、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィンの全質量に対するポリプロピレン以外のオレフィン樹脂、例えばポリエチレンの含有割合(ポリプロピレン以外のオレフィン樹脂/ポリオレフィン)は、好ましくは65~99質量%、より好ましくは80~97質量%、更に好ましくは90~96質量%である。
【0027】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量としては、特に限定されないが、好ましくは3万以上1200万以下、より好ましくは5万以上200万未満、更に好ましくは10万以上100万未満である。粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形のときのメルトテンションが大きくなり成形性がより良好になると共に、ポリマー同士の絡み合いにより更に高強度となる傾向にあるため好ましい。一方、粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れる傾向にあるため好ましい。更に、粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔を閉塞し易く、より良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。なお、粘度平均分子量(Mv)は、ASTM-D4020に基づき、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃で測定された極限粘度[η]から、下記式により算出される。
ポリエチレン:[η]=6.77×10-4Mv0.67(Chiangの式)
ポリプロピレン:[η]=1.10×10-4Mv0.80
なお、例えば、粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で用いる代わりに、粘度平均分子量200万のポリオレフィンと粘度平均分子量27万のポリオレフィンとの混合物であって、その粘度平均分子量が100万未満の混合物を用いてもよい。
【0028】
ポリオレフィン微多孔膜は、任意の添加剤を含有することができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン以外のポリマー;無機フィラー(無機粒子);フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;並びに着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。勿論、添加剤の合計含有量は、ポリオレフィン微多孔膜中のポリオレフィン樹脂100質量部に対して0質量部であってもよい。
【0029】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、200℃以上の融点を持ち、電気絶縁性が高く、かつ、非水系二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが挙げられる。従って、ポリオレフィン微多孔膜が含有可能な、上記の添加剤としての無機フィラーは、本実施形態に係るイオン性無機フィラーに該当する無機フィラーでもよく、該イオン性無機フィラーに該当しない無機フィラーでもよい。
なお、本実施形態に係るイオン性無機フィラーの具体例と、本実施形態に係るイオン性無機フィラーに該当しない無機フィラーの具体例とについては後述する。
【0030】
ポリオレフィン微多孔膜の気孔率としては、特に限定されないが、好ましくは20%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上である。一方、その気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。気孔率を20%以上とすることは、イオン透過性をより有効、かつ、確実に確保する観点から好ましい。一方、気孔率を90%以下とすることは、突刺強度をより有効、かつ、確実に確保する観点から好ましい。気孔率は、例えば、ポリオレフィン微多孔膜の試料の体積(cm3)、質量(g)、膜密度(g/cm3)から、下記式:
気孔率=(体積-質量/膜密度)/体積×100
により求めることができる。ここで、例えばポリエチレンから成るポリオレフィン微多孔膜の場合、膜密度を0.95(g/cm3)と仮定して計算することができる。気孔率は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0031】
ポリオレフィン微多孔膜の透気度としては、特に限定されないが、好ましくは10秒/100cm3以上、より好ましくは50秒/100cm3以上である。一方、その透気度は、好ましくは500秒/100cm3以下、より好ましくは300秒/100cm3以下である。透気度を10秒/100cm3以上とすることは、非水系二次電池の自己放電を抑制する観点から好ましい。一方、透気度を500秒/100cm3以下とすることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。透気度は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0032】
ポリオレフィン微多孔膜の孔径(平均孔径)としては、好ましくは0.15μm以下、より好ましくは0.10μm以下である。一方、孔径は、好ましくは0.01μm以上である。孔径を0.15μm以下とすることは、非水系二次電池の自己放電を抑制し、容量低下を抑制する観点から好適である。孔径は、実施例に記載の方法に準じて測定される。孔径は、ポリオレフィン微多孔膜を製造するときの延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0033】
ポリオレフィン微多孔膜の厚さとしては、特に限定されないが、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上である。一方、その厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは30μm以下である。膜厚を2μm以上とすることは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、膜厚を50μm以下とすることは、非水系二次電池におけるセパレータの占有体積が減るため、非水系二次電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の厚さは、実施例に記載の方法に準じて測定される。ポリオレフィン微多孔膜の厚さは、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0034】
ポリオレフィン微多孔膜の最大熱収縮応力(例えば、30~200℃での最大熱収縮応力)としては、特に限定されないが、好ましくは10.0g以下、より好ましくは7.0g以下、更に好ましくは5.0g以下である。最大熱収縮応力が10.0g以下であることが好ましい。ポリオレフィン微多孔膜の最大熱収縮応力は、実施例に記載の方法に準じて測定される。ポリオレフィン微多孔膜の最大熱収縮応力は、ポリオレフィン微多孔膜の延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0035】
以上説明したポリオレフィン微多孔膜は、単層に限られず、複数の層を含むことができる。従って、例えば、異なるポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン微多孔膜を複数層に亘って積層した積層体も、本発明のポリオレフィン微多孔膜に含まれる。
【0036】
[多孔層]
本実施形態に係る多孔層は、イオン性無機フィラー、及びバインダを含み、上記のポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に設けられる。
【0037】
多孔層の剥離強度としては、特に限定されないが、200~1000g/cmであることが好ましい。多孔層の剥離強度が大きいことは、ポリオレフィン微多孔膜とフィラーとの結着点、及びフィラー同士の結着点1個当たりの結着力が大きいことにつながり、耐変形性が向上する傾向にある。多孔層の剥離強度は、実施例に記載の方法に準じて測定される。多孔層の剥離強度は、多孔層に含まれるイオン性無機フィラー、及び/又はバインダの種類、更にはこれらの含有量の変更等により制御可能である。
【0038】
多孔層の厚さとしては、特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。一方、多孔層の厚さは、好ましくは10.0μm以下、より好ましくは8.0μm以下、更に好ましくは6.0μmである。多孔層の厚さが0.5μm以上であると、耐熱性がより向上する傾向にあるため好ましい。一方、多孔層の厚さが10.0μm以下であることは、イオン透過性の観点から好ましい。なお、ここで言う多孔層の厚さは、ポリオレフィン微多孔膜の両面に多孔層が設けられている場合、少なくとも一方の面における多孔層の厚さである。多孔層の厚さは、実施例に記載の方法に準じて測定される。多孔層の厚さは、多孔層を構成する各成分の配合量、及び多孔層を形成するための塗布液の塗布量の変更等により制御可能である。
【0039】
多孔層の透気度としては、好ましくは100秒/100cm3以下、より好ましくは50秒/100cm3以下である。透気度が100秒/100cm3以下であることは、良好な充放電特性を得る観点から好ましい。一方、多孔層の透気度としては、良好なイオン透過性の確保する観点から、45秒/100cm3未満であることが好ましい。また、多孔層の透気度は、実質的に0秒/100cm3であっても構わない。
ここでの透気度は、以下の式から算出する。
多孔層の透気度(秒/100cm3)=多層多孔膜の透気度-ポリオレフィン微多孔膜の透気度
【0040】
[イオン性無機フィラー]
本実施形態に係るイオン性無機フィラーは、イオン結合性を有する無機フィラーである。すなわち、イオン性無機フィラーとは、カチオンとアニオンとの組み合わせから成り、イオン結合性の高い化学結合によって電気的に中性である無機フィラーをいう。本実施形態に係る多層多孔膜は、その構成要素の一つにこのようなイオン性無機フィラーを含むことで、バインダ量を少量に抑えながらも十分な結着力を確保できる。
【0041】
イオン性無機フィラーのアニオンは、特に限定されないが、バインダ量を少量に抑えながらも十分な結着力を確保する観点から、好ましくは硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、ハロゲン化物イオンであり、電池内部での安定性の観点から、より好ましくは硫酸イオン、リン酸イオン、ハロゲン化物イオンであり、更に好ましくは硫酸イオン、リン酸イオンであり、特に好ましくは硫酸イオンである。
イオン性無機フィラーのカチオンは、特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンであって、より好ましくはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンであり、更に好ましくはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオンであり、特に好ましくはバリウムイオンである。
【0042】
従って、本実施形態に係るイオン性無機フィラーとしては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム等、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム等、フッ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム等が挙げられ、中でも硫酸バリウムが最も好ましい。イオン性無機フィラーとして硫酸バリウムを用いることで、他のイオン性無機フィラーを用いる場合と比べ、バインダ量を少量に抑えながらも結着力の更なる向上が期待される。従って、硫酸バリウムを含むイオン性無機フィラーが用いられることで、例えば、多孔層の剥離強度の更なる向上が期待される。イオン性無機フィラーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
いわゆる金属酸化物は、イオン結合性よりも化学結合性が高いため、本実施形態に係るイオン性無機フィラーには含まれない。従って、本実施形態に係るイオン性無機フィラーに該当しない無機フィラーの具体例としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、及び酸化鉄等の無機酸化物;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。
なお、本実施形態に係る多孔層は、本発明の作用効果を阻害しない範囲内で、イオン性無機フィラーに該当しない無機フィラーを含んでもよい。多孔層の全質量に対する、本実施形態に係るイオン性無機フィラーに該当しない無機フィラーの含有割合(イオン性無機フィラーに該当しない無機フィラー/多孔層)は、例えば、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、実質的に0質量%であることが更に好ましい。
【0044】
イオン性無機フィラーのメジアン径D50としては、0.05~0.40μmが好ましい。メジアン径D50を比較的小さい特定の範囲内に制御しているため、比較的密な多孔層を実現でき、また、バインダとの結着点も比較的多く確保できる。従って、上記のメジアン径D50は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.08μm以上、更に好ましくは0.10μm以上である。メジアン径D50が上記の値以上であることは、多孔層が密になり過ぎることを防止し易くなる観点、ひいては、良好なイオン透過性を確保し易くなる観点から好ましい。一方、上記のメジアン径D50は、好ましくは0.40μm以下、より好ましくは0.35μm以下、更に好ましくは0.30μm以下である。メジアン径D50が上記の値以下であることは、熱収縮率の低減を図り易くなる観点から好ましい。メジアン径D50は、実施例に記載の方法に準じて測定される。メジアン径D50は、イオン性無機フィラーの粒径、及びその分布等により制御可能である。
【0045】
イオン性無機フィラーの形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、及び塊状(ブロック状)等が挙げられ、上記の形状を有するイオン性無機フィラーを複数種併用してもよい。このようなイオン性無機フィラーは、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用い、所定の無機原料を粉砕することで得ることができる。そのため、粉砕の程度を調節することで、イオン性無機フィラーの粒径、及びその分布を制御可能である。
【0046】
イオン性無機フィラーのBET比表面積としては、特に限定されないが、7~100m2/gであることが好ましく、より好ましくは10m2/g以上、更に好ましくは12m2/g以上である。イオン性無機フィラーのBET比表面積は、既知であるBET法により算出される。イオン性無機フィラーのBET比表面積は、イオン性無機フィラーの粒径、及びその分布の変更等により制御可能である。
【0047】
多孔層の全質量に対するイオン性無機フィラーの含有割合(イオン性無機フィラー/多孔層)としては、特に限定されないが、例えば、70質量%以上100質量%未満が好ましく、90質量%以上99質量%以下が更に好ましく、95質量%以上98質量%以下が特に好ましい。
【0048】
(バインダ)
本実施形態に係るバインダは、例えば、いわゆる樹脂バインダである。樹脂バインダの樹脂の種類としては、特に限定されないが、非水電解質に不溶であり、かつ、非水系二次電池の使用範囲において電気化学的に安定なものを用いることができる。
【0049】
本実施形態に係るバインダの樹脂の具体例としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、PVA、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;並びにポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル等の、融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
樹脂バインダの具体例としては、以下の1)~6)が挙げられる。
1)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物;
2)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、アクリルアミド単量体単位を含む共重合体;
3)PVA系樹脂:例えば、PVA、及びポリ酢酸ビニル;
4)含フッ素樹脂:例えば、PVdF、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
5)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
6)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0051】
バインダは、樹脂ラテックスバインダを含むことが好ましい。樹脂ラテックスバインダとしては、例えば、不飽和カルボン酸単量体と、これらと共重合可能な他の単量体との共重合体を用いることができる。ここで、脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えばブタジエン、及びイソプレンが挙げられ、不飽和カルボン酸単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、他の単量体としては、例えば、スチレンが挙げられる。中でも、バインダは、アクリル酸エステル単量体を含むことが好ましい。アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアメタクリレート;エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;が挙げられ、これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
このような共重合体の重合方法に特に制限はないが、乳化重合が好ましい。乳化重合の方法としては、特に制限はなく、既知の方法を用いることができる。単量体、及びその他の成分の添加方法については、特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、及び連続添加方法の何れも採用することができ、重合方法は、一段重合、二段重合、又は三段階以上の多段階重合のいずれも採用することができる。
【0052】
ここで、バインダは、水溶性重合体又は粒子状分散重合体であることが好ましい。ここで、水溶性重合体とは25℃においてその物質0.5gを100gの水に溶解したとき、不溶分が0.005g(1.0質量%)未満である重合体である。具体的には、水溶性重合体としては、ポリ(メタ)アクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、PVA、ポリカルボン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。
また、粒子状分散重合体は水中で粒子形状を有した状態で分散する重合体である。具体的には、樹脂ラテックスバインダ、PVA、PVdF等が挙げられる。なお、粒子状分散重合体は、長期の分散安定性を保つため、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ジメチルアミノエタノール等のアミン類を用いてpH5~12の範囲に調整することが好ましい。
【0053】
バインダの体積平均粒径としては、特に限定されないが、0.01~0.50μmが好ましい。より好ましくは0.45μm以下、更に好ましくは0.40μm以下、特に好ましくは0.35μm以下である。体積平均粒径が上記の範囲内の値であることは、イオン性無機フィラーとの結着点を確保する観点から好ましい。バインダの体積平均粒径は、実施例に記載の方法に準じて測定される。バインダの体積平均粒径は、例えば、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、及びpH等を調整することで制御することが可能である。
【0054】
(バインダと他の構成要素との関係)
イオン性無機フィラーに対するバインダの量(バインダ/イオン性無機フィラー)は、固形分で0.1~4.0質量%が好ましい。本実施形態においては、バインダ量を少量に抑えながらも、十分な結着力を確保でき、ひいては、熱収縮率の低減を図ることができる。しかも、バインダ量を少量に抑えることができる分、バインダ量が多くなるのに起因してイオン透過性が低下する事態を回避でき、これにより、良好なイオン透過性を確保できる。従って、イオン性無機フィラーに対するバインダの量は、固形分で、好ましくは4.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。バインダの量が上記の値以下であることで、イオン透過性が低下する事態を確実に回避することができる。
【0055】
イオン性無機フィラーのメジアン径D50に対するバインダの体積平均粒径の比(バインダの体積平均粒径/イオン性無機フィラーのメジアン径D50は、0.10~1.0であることが好ましい。かかる比は、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.8である。かかる比が上記の値以下であることは、バインダの体積平均粒径が、イオン性無機フィラーのメジアン径D50よりも十分に小さいことを意味する。イオン性無機フィラーの粒子数に応じて結着点の数が有限である中で、イオン性無機フィラーのメジアン径D50よりも十分に小さいことで、イオン性無機フィラーとバインダとの結着点が多くなり易く、その結果、熱収縮率の低減を図り易い傾向にある。一方、かかる比は、より好ましくは0.12以上、更に好ましくは0.15以上である。かかる比が上記の値以上であることで、イオン性無機フィラー同士の隙間に比べてバインダの径が小さくなり過ぎることを防止でき、その結果、バインダがイオン性無機フィラー間に存在し易くなり、本発明の効果を確実に得ることができる。
【0056】
バインダの体積平均粒径に対するポリオレフィン微多孔膜の孔径の比(ポリオレフィン微多孔膜の孔径/バインダの体積平均粒径)は、0.01~1.0であることが好ましい。かかる比は、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.10以上である。かかる比が上記の値以上であることで、ポリオレフィン微多孔膜の孔径が小さくなり過ぎず、ポリオレフィン微多孔膜の良好な透過性を確保し易くなる。一方、かかる比は、より好ましくは0.90以下、更に好ましくは0.80以下である。かかる比が上記の値以下であることで、ポリオレフィン微多孔膜の多孔中へのバインダの落ち込みを防止し易くなり、その結果、良好なイオン透過性を確保し易くなる。
【0057】
[任意の層]
上記で説明した多層多孔膜上に、任意の層を設けた態様も本発明に含まれる。従って、ポリオレフィン微多孔膜の片面に多孔層を備えた多層多孔膜に対しては、多孔層側の面上に任意の層を設けた態様、ポリオレフィン微多孔膜側の面上に任意の層を設けた態様、及び両方の面上に任意の層を設けた態様のいずれも本発明に含まれる。また、ポリオレフィン微多孔膜の両面に多孔層を備えた多層多孔膜に対しては、一方の多孔層側の面上に任意の層を設けた態様、他方の多孔層側の面上に任意の層を設けた態様、多孔層とポリオレフィン微多孔膜の間に任意の層を設けた態様、及び両方の面上に任意の層を設けた態様のいずれも本発明に含まれる。
【0058】
任意の層としては、例えば、接着層として機能し得る熱可塑性ポリマー含有層が挙げられる。熱可塑性ポリマー含有層の存在形態(パターン)は、例えば、多層多孔膜の全面にわたって熱可塑性ポリマーが相互に分散して存在する状態でもよく、海島状に存在する状態でもよい。熱可塑性ポリマーが海縞状に存在する場合、その配置パターンとしては、例えば、ドット状、ストライプ状、格子状、縞状、亀甲状、ランダム状等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。この他、任意の層としては、本実施形態に係る多孔層とは異なる多孔層も挙げられる。
これら任意の層の、種類、総数、存在形態(パターン)、及び厚さは、本発明の作用効果を阻害しない範囲内であれば特に制限されない。
【0059】
<セパレータの製造方法>
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法は、特に限定されず、既知の製造方法を採用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、場合により延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法;ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法;ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法;及びポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法が挙げられる。
【0060】
以下、ポリオレフィン微多孔膜を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤を溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、及びバンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤、及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置サイドフィードしながら混練する。
【0061】
可塑剤としては、ポリオレフィンの融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒を用いることができる。このような不揮発性溶媒の具体例として、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコールが挙げられる。これらの中で、流動パラフィンが好ましい。
【0062】
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とから成る組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下である。可塑剤の質量分率をこの範囲とすることにより、溶融成形時のメルトテンションと、均一かつ微細な孔構造の形成性とが両立する観点で好ましい。
【0063】
次に、上記のようにして加熱溶融、及び混練して得られた溶融混練物をシート状に成形する。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自体が挙げられるが、金属製のロールが熱伝導の効率が高いため好ましい。この場合、金属製のロールに接触させる際に、ロール間で溶融混練物を挟み込むと、熱伝導の効率が更に高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上するため、より好ましい。Tダイよりシート状に押し出す際のダイリップ間隔は400μm以上3000μm以下であることが好ましく、500μm以上2500μm以下であることが更に好ましい。
【0064】
このようにして得たシート状成形体を、次いで延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができる。得られる微多孔膜の強度等の観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる微多孔膜が裂け難くなり、高い突刺強度を有するものとなる。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、及び多数回延伸等の方法を挙げることができる。突刺強度の向上、延伸の均一性、シャットダウン性の観点から同時二軸延伸が好ましい。
【0065】
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることが更に好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることが更に好ましい。延伸倍率をこの範囲の倍率とすることにより、より十分な強度を付与することができると共に、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる点で好ましい。
なお、MD方向とは、例えばポリオレフィン微多孔膜を連続成形するときの機械方向を意味し、TD方向とは、MD方向を90°の角度で横切る方向を意味する。
【0066】
上記のようにして得られたシート状成形体を、更に圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延により、特にシート状成形体の表層部分の配向を増大させることができる。圧延面倍率は1倍より大きく3倍以下であることが好ましく、1倍より大きく2倍以下であることがより好ましい。この範囲の圧延倍率とすることにより、最終的に得られる微多孔膜の膜強度が増加し、かつ、膜の厚さ方向により均一な多孔構造を形成することができる点で好ましい。
【0067】
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して微多孔膜を得る。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。微多孔膜の収縮を抑えるために、浸漬、乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。また、微多孔膜中の可塑剤の残存量は1質量%未満にすることが好ましい。
【0068】
抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n-ヘキサン、及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、及び1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;並びにアセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0069】
微多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後又は微多孔膜の形成後に熱固定や熱緩和等の熱処理を行ってもよい。微多孔膜に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
【0070】
[多孔層の形成方法]
多孔層を形成する方法としては、特に限定されず、既知の方法によって形成することができる。例えば、イオン性無機フィラーとバインダとを含有する塗布液をポリオレフィン微多孔膜に塗布する方法が挙げられる。また、イオン性無機フィラー、及びバインダを含む原料と、ポリオレフィン微多孔膜の原料とを共押出法により積層して押し出してもよいし、ポリオレフィン微多孔膜と多孔層とを個別に作製後、それらを貼り合せてもよい。
【0071】
塗布液の溶媒としては、イオン性無機フィラーとバインダとを均一かつ安定に分散又は溶解できるものが好ましく、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
塗布液には、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;酸、アルカリを含むPH調製剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0072】
イオン性無機フィラーとバインダとを、塗布液の媒体に分散又は溶解させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、及び撹拌羽根等による機械撹拌が挙げられる。
【0073】
塗布液をポリオレフィン微多孔膜に塗布する方法については、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、及びスプレー塗布法が挙げられる。
【0074】
塗布後に塗布膜から溶媒を除去する方法については、ポリオレフィン微多孔膜に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はない。例えば、ポリオレフィン微多孔膜を固定しながら、ポリオレフィン微多孔膜を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法、バインダに対する貧溶媒に浸漬してバインダを凝固させると同時に溶媒を抽出する方法が挙げられる。またデバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲においては溶媒を一部残存させてもよい。
【0075】
<セパレータ>
本実施形態に係るセパレータは、上記の多層多孔膜を備える。多層多孔膜のそれ自体をセパレータとして用いることができ、また、多層多孔膜に対して上記の任意の層を設けた積層体もセパレータとして用いることができる。このようなセパレータは、上記の多層多孔膜を備えるため、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減との両立を図ることができる。従って、LIBに代表される非水系二次電池に好適に用いることができる。
【0076】
<蓄電デバイス>
本実施形態に係るセパレータは、非水系二次電池をはじめとする各種の蓄電デバイスに好適に用いることができる。蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、例えば、非水系二次電池、コンデンサー、及びキャパシタが挙げられる。それらの中でも、本発明による作用効果による利益がより有効に得られる観点から、電池が好ましく、非水系二次電池がより好ましく、LIBが更に好ましい。
【0077】
セパレータを用いてLIBを製造する場合、正極、負極、及び非水電解液に限定はなく、それぞれ既知のものを用いることができる。
正極としては、正極集電体上に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極を好適に用いることができる。正極集電体としては、例えばアルミニウム箔が挙げられる。正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、スピネル型LiMnO4、及びオリビン型LiFePO4等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。正極活物質層には、正極活物質の他、バインダ、導電材等を適宜含んでいてもよい。
【0078】
負極としては、負極集電体上に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極を好適に用いることができる。負極集電体としては、例えば銅箔が挙げられる。負極活物質としては、例えば、黒鉛質、難黒鉛化炭素質、易黒鉛化炭素質、及び複合炭素体等の炭素材料;並びにシリコン、スズ、金属リチウム、及び各種合金材料が挙げられる。
【0079】
非水電解液としては、特に限定されないが、電解質を有機溶媒に溶解した電解液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートが挙げられる。電解質としては、例えば、LiClO4、LiBF4、及びLiPF6等のリチウム塩が挙げられる。
【0080】
<非水系二次電池の製造方法>
セパレータを用いて非水系二次電池を製造する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法を例示することができる。まず、幅10~500mm(好ましくは80~500mm)、長さ200~4000m(好ましくは1000~4000m)の縦長形状のセパレータを製造する。次いで、正極-セパレータ-負極-セパレータ、又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で積層し、円又は扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得る。その捲回体をデバイス缶(例えば電池缶)内に収納し、更に電解液を注入することにより、製造することができる。又は電極、及びセパレータを折り畳んで捲回体としたものを、デバイス容器(例えばアルミニウム製のフィルム)に入れて電解液を注液する方法によって製造してもよい。
【0081】
このとき、捲回体に対して、プレスを行うことができる。具体的には、セパレータと、集電体、及びその集電体の少なくとも片面に形成された活物質層を有する電極とを、前者の熱可塑性ポリマー含有層と活物質層とが対向するように重ね合わせてプレスを行う方法を例示することができる。
【0082】
プレス温度は、効果的に接着性を発現できる温度として例えば20℃以上が好ましい。また熱プレスによるセパレータにおける孔の目詰まり又は熱収縮を抑える点で、プレス温度は微多孔膜に含まれる材料の融点よりも低いことが好ましく、120℃以下が更に好ましい。プレス圧力はセパレータにおける孔の目詰まりを抑える観点から20MPa以下が好ましい。プレス時間については、ロールプレスを用いたときに1秒以下でもよく、数時間の面プレスでもよいが、生産性の観点から2時間以下が好ましい。
【0083】
上記のようにして製造された非水系二次電池、特にLIBは、本実施形態に係る多層多孔膜を備えるため、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減との両立を図ることができる。従って、優れた電池特性(レート特性)の発揮、また、更なる安全性の向上(例えば、多孔層の剥離強度、及び多層多孔膜における釘差し強度の向上)が期待される。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されない。
【0085】
以下の測定方法により、各物性を評価した。
(1)膜厚(μm)
微小測厚器(東洋精機社製,タイプKBM(商標))を用い、ポリオレフィン微多孔膜又は多孔層の膜厚を、室温23℃で測定した。
【0086】
(2)透気度(秒/100cm3)
JIS P-8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機社製,G-B2(商標))を用い、ポリオレフィン微多孔膜、及び多層多孔膜の透気度を測定した。そして、下記の式に基づき、多孔層を算出した。
多孔層の透気度(秒/100cm3)=多層多孔膜の透気度-ポリオレフィン微多孔膜の透気度
【0087】
(3)突刺強度(gf)
ハンディー圧縮試験器「KES-G5」(カトーテック社製)を用い、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで多層多孔膜を固定した。固定された多層多孔膜の中央部に対し、針先端の曲率半径0.5mm、及び突刺速度2mm/秒の条件下で、25℃雰囲気下で突刺試験を行うことにより、多層多孔膜の突刺強度(gf)を測定した。
【0088】
(4)ポリオレフィン微多孔膜の孔径の測定(μm)
バブルポイント法(JIS K 3832)の測定原理を応用した米国Porus Materials、Inc.製のパームポロメーター(Perm-Porometer)によって測定した平均流量孔径の値をポリオレフィン微多孔膜の孔径とした。測定に際しては、含浸溶媒として、PMI社製GALWICK(表面張力15.9dyn/cm)を用いた。
【0089】
(5)多孔層の剥離強度
幅76mm×長さ126mmのスライドガラス上に、両面テープ(ナイスタックNWBB-15)で、多孔層側が上に向くように多層多孔膜を張り付けた。
試験片の多孔層側の面に、メンディングテープ(スコッチ MP-12)を貼り付けた。スライドガラスを平らな状態に固定し、かつメンディングテープの一端を折り返し、スライドガラスに対して水平方向に引張り速度100mm/分で引っ張って剥がし、そのときの応力を測定した。測定を2回行い、その平均値を求めてこれを剥離強度とした。
【0090】
(6)150℃での熱収縮率(%)
多層多孔膜を一辺100mm(MDに沿って100mm、及びTDに沿って100mm)の正方形状に切り出し、予め150℃に熱してある熱風乾燥機内に1時間、サンプルを静置した。このとき、温風がサンプルに直接当たらないよう、サンプルを2枚のコピー紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さ(mm)を測定し、以下の式にて熱収縮率(%)を算出した。測定はMD、TDの各々に沿って行い、数値の大きい方の値を熱収縮率(%)とした。
熱収縮率(%)={(100-加熱後の長さ)/100}×100
【0091】
(7)釘刺し試験
a.正極の作製
正極活物質であるリチウム、ニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物粉末(Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3]O2)とリチウムマンガン複合酸化物粉末(LiMn2O4)を質量比率70:30で機械混合した混合正極活物質:85質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:6質量部、及びバインダであるPVdF:9質量部を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。この正極合剤含有ペーストを、アルミニウム箔からなる厚さ20μmの集電体の両面に均一に塗布し、130℃において3分間乾燥させた後、ロールプレス機で圧縮成形を行って、全厚が130μmになるように正極合剤層の厚さを調整し、アルミニウム箔をリードタブとした正極を作製した。
【0092】
b.負極の作製
負極活物質である黒鉛:91質量部と、バインダであるPVdF:9質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。この負極合剤含有ペーストを、銅箔からなる厚さ15μmの集電体の両面に均一に塗布し、120℃において3分間乾燥させた後、ロールプレス機で圧縮成形を行って、全厚が130μmになるように負極合剤層の厚さを調整し、銅箔をリードタブとした負極を作製した。
【0093】
c.非水電解液の調製
非水電解液としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0094】
d.セル作製
上記の正極シート27枚、負極シート28枚を交互に重ね、各々を多層多孔膜にて隔離することで電極板積層体を作製した。多層多孔膜は交互に九十九折に折りたたむことで電極板積層体を作製した。この電極板積層体をアルミニウム製ラミネートフィルムに収納し、3辺をヒートシールした。なお、正極リードタブ、及び負極リードタブをラミネートフィルム1辺から導出させた。更に、乾燥後、この容器内に上記の非水電解液を注入し、残りの1辺を封口した。こうして作製される評価用の電池は、容量が10Ahとなるように設計された。
【0095】
e.釘刺し評価
d.で得た電池を、25℃の環境下、0.3Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電したラミネートセルを防爆ブース内に静置し、セル中央部に、直径2.5mmの鉄製釘を、25℃前後の環境下で、3mm/秒の速度で貫通させた。釘は貫通した状態で維持させ、1分以内に発火、爆発したものを×、15分以内に発火、爆発したものを△、発火、爆発しないものを○とした。
【0096】
(8)多層多孔膜のレート特性
a.正極の作製
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物粉末(Li[Ni1/3Mn1/3Co1/3]O2)を91.2質量部、導電助材としてグラファイト、及びアセチレンブラックを各々2.3質量部、並びにバインダとしてPVdFを4.2質量部の比率で用意し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、ダイコーターを用いて正極活物質塗布量が120g/m2となるように塗布した。130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機を用い、正極活物質のかさ密度が2.90g/cm3となるように圧縮成形した。これを面積2.00cm2の円形に打ち抜いたものを、正極として用いた。
【0097】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイトを96.6質量部、バインダとして、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量部とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量部を用意し、これらを精製水に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ16μmの銅箔の片面に、ダイコーターを用いて負極活物質塗布量が53g/m2となるように塗布した。120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機を用い、負極活物質のかさ密度が1.35g/cm3となるように圧縮成形した。これを面積2.05cm2の円形に打ち抜いたものを、負極として用いた。
【0098】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより、非水電解液を調製した。
【0099】
d.電池組立
正極と負極の各々の活物質面が対向するように、下から、負極、多層多孔膜、及び正極の順に重ねた。この積層体を、本体容器と蓋とが絶縁されている蓋付きステンレス金属製容器に収容することでセルを得た。このセルを、減圧下、65℃で12時間乾燥した後、アルゴンボックス中でこの容器内に非水電解液を注入して密閉することで、評価用の電池を得た。
【0100】
e.レート特性の評価
d.で得た電池を、25℃の環境下、0.3Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、0.3Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を8時間とした。なお、1Cとは電池が1時間で放電される電流値である。
次に、簡易電池を1Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、1Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を3時間とし、1Cの定電流で放電した時の容量を1C放電容量(mAh)とした。
次に、簡易電池を1Cの定電流で充電し、4.2Vに到達した後、4.2Vの定電圧で充電して、10Cの定電流で3.0Vまで放電した。定電流での充電と定電圧での充電時間の合計を3時間とし、2Cの定電流で放電した時の容量を2C放電容量(mAh)とした。
そして、下記式より1C放電容量に対する10C放電容量の割合を算出し、この値を出力特性とした。
出力特性(%)=(10C放電容量/1C放電容量)×10
【0101】
(9)最大熱収縮応力(g)
島津製作所製TMA50(商標)を用いて測定した。MD(TD)の値を測定する場合は、TD(MD)に幅3mmに切り出したサンプルを、チャック間距離が10mmとなるようにチャックに固定し、専用プローブにセットする。初期荷重を1.0gとし、定長で30℃から200℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、その時発生する荷重(g)を測定し、その最大値を求めた。MD、及びTDについて測定行い、数値の大きい方を最大熱収縮応力(g)とした。
【0102】
(10)イオン性無機フィラーの粒径(μm)
レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用い、イオン性無機フィラーの分散液又は塗料スラリーにおける、粒径分布を測定した。必要に応じて、ベースラインとして水又は樹脂バインダの粒径分布を用い、上記の分散液又はスラリー塗工液における粒径分布を調整した。累積頻度が50%となる粒径を、イオン性無機フィラーのメジアン径D50とした。
【0103】
(11)バインダの体積平均粒径(μm)
光散乱法による粒径測定装置(LEED&NORTHRUP社製MICROTRACTMUPA150)を用い、バインダの体積平均粒径(μm)を測定した。
【0104】
[製造例1]ポリオレフィン微多孔膜
Mv25万のホモ高密度ポリエチレン46.0質量部と、Mv70万のホモ高密度ポリエチレン47.0量部と、Mv40万のホモポリマーのポリプロピレン7.0質量部とをタンブラーブレンダーを用いてドライブレンドし、ポリマー混合物を得た。得られたポリマー混合物100質量部に対して、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1.0質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、ポリマー等混合物を得た。得られたポリマー等混合物に対して窒素で置換を行った後、二軸押出機へ、窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーに、プランジャーポンプにより注入した。これらを溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が62質量%(樹脂組成物濃度が38質量%)となるように、フィーダー、及びポンプの駆動を制御した。これにより、溶融混練物を得た。なお、溶融混練条件は、設定温度200℃、スクリュー回転数100rpm、及び吐出量230kg/hで行った。
【0105】
続いて、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚さ1200μmのゲルシートを得た。
次に、得られたゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行った。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.4倍、設定温度123℃とした。次に、二軸延伸後のシートを塩化メチレン槽に導き、かかるシート塩化をメチレン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、次いで、塩化メチレンを乾燥除去した。その後にシートをTDテンターに導き、熱固定を行った。熱固定温度は125℃で、TD最大倍率を1.5倍、緩和率は1.3とした。以上の工程により、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜A1を得た。
得られたポリオレフィン微多孔膜A1について、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0106】
[製造例2](ポリオレフィン微多孔膜)
上記の溶融混練条件における吐出量を180kg/hとし、また、得られるゲルシートの厚さを1000μmとした以外は、製造例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜A2を得た。ポリオレフィン微多孔膜A2について、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0107】
[製造例3](ポリオレフィン微多孔膜)
上記の溶融混練条件における吐出量を260kg/hとし、また、得られるゲルシートの厚さを1500μmとした以外は、製造例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜A3を得た。ポリオレフィン微多孔膜A3について、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0108】
[製造例4](ポリオレフィン微多孔膜)
二軸延伸の設定延伸条件を、MD倍率10.0倍、TD倍率8.0倍とした以外は、製造例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜A4を得た。ポリオレフィン微多孔膜A4について、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0109】
[製造例5](ポリオレフィン微多孔膜)
二軸延伸の設定延伸条件を、MD倍率10.0倍、TD倍率8.0倍、及び設定温度127℃とした以外は、製造例1と同様にして、ポリオレフィン微多孔膜A5を得た。ポリオレフィン微多孔膜A5について、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0110】
[実施例1](多層多孔膜)
硫酸バリウム(D50=0.35μm、比表面積12m2/g)を100質量%、アクリルラテックス(体積平均粒径=0.12μm)を硫酸バリウムに対して固形分で2.0質量%、及びポリカルボン酸アンモニウムを硫酸バリウムに対して固形分で1.0質量部を用意し、これらを硫酸バリウムに対して100質量%の水に均一に分散させて塗布液を得た。上記ポリオレフィン微多孔膜A1の表面にグラビアコーターを用いて塗布液を塗布した後、60℃にて乾燥して水を除去することで、ポリオレフィン微多孔膜A1上に厚さ3μmの多孔層が形成された、総膜厚15μm、透気度175秒/100cm3の多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0111】
[実施例2~11]
イオン性無機フィラー、及び/又はバインダの粒径又は配合量等を表1又は表2の通りに異ならせた以外は、実施例1と同様にして、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0112】
[実施例12~15]
ポリオレフィン微多孔膜の厚さ又は孔径を表1又は表2の通りに異ならせた以外は、実施例1と同様にして、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0113】
[実施例16]
グラビアコーターで2度塗布することでポリオレフィン微多孔膜の両面に厚さ1.5μmずつの多孔層を形成した以外は、実施例1と同様にして、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0114】
[実施例17]
接着性樹脂(アクリルポリマー、ガラス転移温度70℃、平均粒子径380nm、電解液膨潤度2.8)を80質量部と、異なるガラス転移温度を有する接着性樹脂(アクリルポリマー、ガラス転移温度-6℃、平均粒子径132nm、電解液膨潤度2.5)を20質量%とを混合し、水を加えることで接着性樹脂含有塗布液(接着性樹脂濃度3質量%)調製した。これを実施例1に記載の多孔層を備えるポリオレフィン微多孔膜の表面にグラビアコーターを用いてドット状に塗布した。その後、60℃にて乾燥して水を除去した。更に、もう片面も同様にして塗布液を塗工し、乾燥させることにより、接着性樹脂の重量0.2g/m2、表面被覆率30%、ドットの平均長径50μm、厚さ0.5μmの接着層を有する多層多孔膜を得た。
得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【0115】
[比較例1~8]
イオン性無機フィラー、及び/又はバインダの構成等を表1又は表2の通りに異ならせた以外は、実施例1と同様にして、多層多孔膜を得た。得られた多層多孔膜をセパレータとして用い、上記方法により物性を測定した。得られた結果を表1又は表2に示す。
【表1】
【表2】
【0116】
上記のとおり、多層多孔膜の150℃における熱収縮率は、釘刺し時の安全性を向上させる観点から10.0%未満が好ましく、かつ、多孔層の透気度は、良好なイオン透過性の確保する観点から45秒/100cm3未満が好ましい。
表1、及び2から分かるように、実施例1~17は、多層多孔膜の150℃における熱収縮率と、多孔層の透気度とのいずれも上記の範囲内であった。これに対して、比較例1~8では、多層多孔膜の150℃における熱収縮率と、多孔層の透気度とのうち、一方が範囲外となった。
従って、実施例1~17によれば、良好なイオン透過性の確保と、熱収縮率の低減と、の両立を図ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係る多層多孔膜、及びセパレータは、良好なイオン透過性の確保と共に、高温時における熱収縮率の低減の向上を図ることができる。
従って、本発明に係る多層多孔膜、及びセパレータを用いた非水系二次電池によれば、優れた電池特性(レート特性)の発揮、また、更なる安全性の向上(例えば、多孔層の剥離強度の向上、及び多層多孔膜における釘差し強度の向上等)が期待される。このため、本発明に係る多層多孔膜、及びセパレータは、近年、特に高容量化が望まれる、電気自動車(EV)に搭載されるLIBをはじめとして、携帯用電子機器の小型電源のみならず、産業用又は車載用の大型蓄電産業への好適に適用することができる。