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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】制御バルブ
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20230907BHJP
   F16K 5/04 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F01P7/16 503
F16K5/04 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019060918
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020159312
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】大関 哲史
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-032940(JP,A)
【文献】特開2014-177979(JP,A)
【文献】特開2016-138453(JP,A)
【文献】特開2005-009512(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157630(WO,A1)
【文献】実開昭62-140274(JP,U)
【文献】国際公開第2018/149448(WO,A1)
【文献】特開2006-153140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/14, 7/16,
F16K 5/00- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から液体が流入する流入口、及び、内部に流入した液体を外部に流出させる流出口を有するケーシングと、
前記ケーシングの内部に軸線を中心に回転可能に配置され、内外を連通する弁孔が形成された円筒状の周壁部を有する弁体と、
軸方向の一端部が、前記流出口の下流側に連通するとともに、軸方向の他端部に、前記弁体の前記弁孔の回転経路と少なくとも一部がラップする位置で前記周壁部の外周面に摺動自在に当接する弁摺接面が設けられたシール筒部材と、を備えた制御バルブにおいて、
前記周壁部の前記弁孔の縁部のうちの、前記弁体の回転方向の前方側と後方側の少なくともいずれか一方に、前記周壁部の外周面に対して窪み、かつ一端部が前記弁孔に連なる底面を有する流量制御溝が設けられ、
前記流量制御溝の前記底面は、正面視が略矩形状に形成されるとともに、前記弁孔に近づくほど深さが深くなっており、
さらに、前記底面は、前記弁体の前記軸線と平行な直線状の第1端辺を有し、該第1端辺は、前記周壁部の前記外周面との境界部とされていることを特徴とする制御バルブ。
【請求項2】
前記流量制御溝は、前記弁孔に向かって開口面積が増大するように、前記周壁部の外周面に対して前記底面が傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の制御バルブ。
【請求項3】
前記弁体の前記弁孔と、前記弁孔に対応する前記シール筒部材がそれぞれ複数設けられ、
前記流量制御溝は、すべての前記シール筒部材が前記弁体の周壁部によって非連通にされている状態から、対応する前記シール筒部材と最初に連通する前記弁孔の連通開始側の縁部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の制御バルブ。
【請求項4】
前記弁体の前記弁孔と、前記弁孔に対応する前記シール筒部材がそれぞれ複数設けられ、
前記流量制御溝は、一つの前記シール筒部材を残して残余の前記シール筒部材が前記弁体の周壁部によって非連通にされている状態から、一つの前記シール筒部材を最後に非連通にする前記弁孔の連通終了側の縁部に設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の制御バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用冷却水の流路切換等に用いられる制御バルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷却水を用いてエンジンを冷却する冷却システムでは、ラジエータとエンジンの間を循環するラジエータ流路とは別に、ラジエータをバイパスするバイパス流路やオイルウォーマを通過する暖気流路等が併設されることがある。この種の冷却システムでは、流路の分岐部に制御バルブが介装され、その制御バルブによって適宜流路が切り換えられる。制御バルブとしては、ケーシング内に円筒状の弁体が回転可能に配置され、弁体の回転位置に応じて任意の流路が開閉されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の制御バルブは、ケーシングに、冷却水等の液体が流入する流入口と、その流入した液体を外部に流出させる複数の流出口が設けられている。弁体の周壁には、内外を連通する弁孔が複数の流出口と対応して複数形成されている。各流出口には、略円筒状のシール筒部材の一端部側が摺動自在に保持されている。各シール筒部材の一端部は対応する流出口の下流側に連通している。また、各シール筒部材の他端部には、弁体の外周面に摺動自在に当接する弁摺接面が設けられている。各シール筒部材の弁摺接面は、弁体の対応する弁孔の回転経路とラップする位置において、弁体の外周面に摺接する。
【0004】
上記制御バルブの弁体は、シール筒部材が対応する弁孔と連通する位置にあるときには、弁体の内側領域から対応する流出口への液体の流出を許容し、シール筒部材が対応する弁孔と連通しない位置にあるときには、弁体の内側領域から対応する流出口への液体の流出を遮断する。なお、弁体は、電動モータ等のアクチュエータによって回転位置を操作される。
【0005】
この種の制御バルブは、弁体の回転によってシール筒部材と弁孔の連通状態(連通と非連通)が切り換えられる。そして、弁体の回転による連通状態の切り換えが急激に行われると、流出口を流れる液体の流量が急激に変化し、流出口側の圧力変動が大きくなり易い。この対策として、シール筒部材が弁孔と連通を開始する連通開始初期等に、弁孔側からの液体の流入量を漸増させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の制御バルブは、弁体の周壁部の弁孔の縁部のうちの、弁体の回転方向の前方側に、周壁部を貫通するスリットが形成されている。スリットは、弁孔から弁体の回転方向に沿って延び、シール筒部材が弁孔と直接連通する前段階で、弁体の内側領域の液体を、スリットを通してシール筒部材に誘導する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-3064号公報
【文献】特開2016-138452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の制御バルブは、弁孔に対するシール筒部材の連通開始初期に、弁体の周壁部を貫通するスリットによってシール筒部材に流入する液体の流量を漸増させる構成とされている。このため、連通開始初期の流量増加をより緩やかにしようとすると、スリットの間隔を狭めざるを得ない。しかし、スリットの間隔を狭めると、液体中に混入しているコンタミがスリット内に噛み込み易くなり、所期の性能を長期にわたって維持することが難しくなる。
【0009】
そこで本発明は、シール筒部材と弁孔の連通状態の切り換え時における流出口での緩やかな流量変化特性を長期にわたって維持することができる制御バルブを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る制御バルブは、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明に係る制御バルブは、外部から液体が流入する流入口、及び、内部に流入した液体を外部に流出させる流出口を有するケーシングと、前記ケーシングの内部に軸線を中心に回転可能に配置され、内外を連通する弁孔が形成された円筒状の周壁部を有する弁体と、軸方向の一端部が、前記流出口の下流側に連通するとともに、軸方向の他端部に、前記弁体の前記弁孔の回転経路と少なくとも一部がラップする位置で前記周壁部の外周面に摺動自在に当接する弁摺接面が設けられたシール筒部材と、を備えた制御バルブにおいて、前記周壁部の前記弁孔の縁部のうちの、前記弁体の回転方向の前方側と後方側の少なくともいずれか一方に、前記周壁部の外周面に対して窪み、かつ一端部が前記弁孔に連なる底面を有する流量制御溝が設けられ、前記流量制御溝の前記底面は、正面視が略矩形状に形成されるとともに、前記弁孔に近づくほど深さが深くなっており、さらに、前記底面は、前記弁体の前記軸線と平行な直線状の第1端辺を有し、該第1端辺は、前記周壁部の前記外周面との境界部とされていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、シール筒部材の軸方向の他端部が弁体の周壁部の外周面に閉塞されると、弁体の内側から流出口への液体の流出が遮断される。この状態から弁体が回転して、シール筒部材の軸方向の他端部が弁体の弁孔に連通する(ラップする)と、弁体の内側から流出口に液体が流出する。
弁孔の縁部のうちの、弁体の回転方向の前方側に流量制御溝が設けられている場合には、弁体の回転に伴って、シール筒部材の内部通路が弁孔と直接連通する前に流量制御溝がシール筒部材の内部通路と次第にラップする。これにより、弁体の内側の液体が弁孔と流量制御溝を通して流出口に流出する。このとき、流量制御溝とシール筒部材のラップが開始すると、そのラップの量の増大に応じて弁体の内側から流出口への液体の流出量が漸増する。この結果、流出口に多量の液体が急激に流れ込むことによる流出口側の急激な圧力変動が抑制される。
また、弁孔の縁部のうちの、弁体の回転方向の後方側に流量制御溝が設けられている場合には、弁体の回転に伴って、弁孔とシール筒部材(の内部通路)が直接連通した状態からその連通が遮断されると、流量制御溝のみがシール筒部材(の内部通路)とラップするようになる。このとき、弁体の内部の液体は弁孔と流量制御溝を経由して流出口に流出する。流量制御溝とシール筒部材(の内部通路)のラップ量は、弁体の回転に伴って次第に漸減し、流出口への液体の流出量もそれに伴って漸減する。この結果、流出口への液体の流れ込みが急激に停止することによる流出口側の急激な圧力変動が抑制される。
本発明に係る制御バルブの場合、シール筒部材と弁孔の連通状態の切り換え時に、底面を有する流量制御溝によって液体の流量を緩やかに変化させることができるため、流量制御溝の溝幅をある程度広げても微小な流量制御を行うことができる。したがって、液体に混入しているコンタミが流量制御溝に噛み込むのを防止することができる。
【0012】
前記流量制御溝は、前記弁孔に向かって開口面積が増大するように、前記周壁部の外周面に対して前記底面を傾斜させても良い。
【0013】
この場合、流量制御溝とシール筒部材(の内部通路)のラップ量の変化に応じて、流出口への液体の流量を滑らかに増減変化させることが可能になる。
【0014】
制御バルブは、前記弁体の前記弁孔と、前記弁孔に対応する前記シール筒部材がそれぞれ複数設けられ、前記流量制御溝は、すべての前記シール筒部材が前記弁体の周壁部によって非連通にされている状態から、対応する前記シール筒部材と最初に連通する前記弁孔の連通開始側の縁部に設けられるようにしても良い。
【0015】
すべてのシール筒部材が弁体の周壁部によって非連通にされている状態から、一つのシール筒部材が最初に弁孔に連通すると、その弁孔を通してケーシング内の液体が流出口に勢い良く流れ込み易くなる。しかし、本形態の制御バルブでは、最初に連通する弁孔の連通開始側の縁部に、底面を有する流量制御溝が設けられているため、連通開始時における流出口への液体の流入を緩やかにし、急激な圧力変動を抑制することができる。
【0016】
制御バルブは、前記弁体の前記弁孔と、前記弁孔に対応する前記シール筒部材がそれぞれ複数設けられ、前記流量制御溝は、一つの前記シール筒部材を残して残余の前記シール筒部材が前記弁体の周壁部によって非連通にされている状態から、一つの前記シール筒部材を最後に非連通にする前記弁孔の連通終了側の縁部に設けられるようにしても良い。
【0017】
残余のシール筒部材が非連通にされた状態から、最後の一つのシール筒部材が非連通にされると、最後の一つのシール筒部材を通して流出口に勢い良く流れ込んでいた液体の流れが急激に停止することになり易い。本形態の制御バルブでは、シール筒部材を最後に非連通にする弁孔の連通終了側の縁部に、底面を有する流量制御溝が設けられているため、連通終了時における流出口への液体の流入停止を緩やかにし、急激な圧力変動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る制御バルブは、周壁部の弁孔の縁部のうちの、弁体の回転方向の前方側と後方側の少なくともいずれか一方に、周壁部の外周面に対して窪み、かつ一端部が弁孔に連なる底面を有する流量制御溝が設けられている。このため、流量制御溝の機能によってシール筒部材の連通開始時や連通終了時における流出口での急激な流量変化を抑制することができる。そして、本発明に係る制御バルブで採用する流量制御溝は、周壁部の外周面に対して窪み、かつ一端部が弁孔に連なる底面を有するため、溝幅を極端に狭めることなく、シール筒部材の連通開始時や連通終了時における流出口での急激な流量変化を抑制することができる。
したがって、本発明によれば、コンタミの噛み込み等によって所期の性能が低下するのを防止しつつ、シール筒部材と弁孔の連通状態の切り換え時における流出口での緩やかな流量変化特性を長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る冷却システムのブロック図である。
図2】実施形態に係る制御バルブの斜視図である。
図3】実施形態に係る制御バルブの分解斜視図である。
図4図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図2のV-V線に沿う拡大図である。
図6図5のVI部拡大図である。
図7】実施形態の弁体の一部とシール筒部材を示す斜視図である。
図8図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。
図9図8のIX部拡大図である。
図10】弁体が回転した状態を示す図8と同様の断面図である。
図11図10のXI部拡大図である。
図12】実施形態の弁体の周壁部の模式的な展開図である。
図13】実施形態の弁体の回転制御による各流出口の流量変化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では、冷却水を用いてエンジンを冷却する冷却システムに、本実施形態の制御バルブを採用した場合について説明する。
【0021】
<冷却システム>
図1は、冷却システム1のブロック図である。
図1に示すように、冷却システム1は、車両駆動源に少なくともエンジンを具備する車両に搭載される。なお、車両としては、エンジンのみを有する車両の他、ハイブリッド車両やプラグインハイブリッド車両等であっても構わない。
【0022】
冷却システム1は、エンジン2(ENG)、ウォータポンプ3(W/P)、ラジエータ4(RAD)、ヒートエクスチェンジャ5(H/EX)、ヒータコア6(HTR)、EGRクーラ7(EGR)及び制御バルブ8(EWV)が各種流路10~14により接続されて構成されている。
ウォータポンプ3、エンジン2及び制御バルブ8は、メイン流路10上で上流から下流にかけて順に接続されている。メイン流路10では、ウォータポンプ3の動作により冷却水(液体)がエンジン2及び制御バルブ8を順に通過する。
【0023】
メイン流路10には、ラジエータ流路11、暖機流路12、空調流路13及びEGR流路14がそれぞれ接続されている。これらラジエータ流路11、暖機流路12、空調流路13及びEGR流路14は、メイン流路10のうちウォータポンプ3の上流部分と制御バルブ8とを接続している。
【0024】
ラジエータ流路11には、ラジエータ4が接続されている。ラジエータ流路11では、ラジエータ4において、冷却水と外気との熱交換が行われる。
【0025】
暖機流路12には、ヒートエクスチェンジャ5が接続されている。ヒートエクスチェンジャ5とエンジン2との間には、オイル流路18を通してエンジンオイルが循環している。暖機流路12では、ヒートエクスチェンジャ5において、冷却水とエンジンオイルとの熱交換が行われる。すなわち、ヒートエクスチェンジャ5は、水温が油温よりも高い場合にオイルウォーマとして機能し、エンジンオイルを加熱する。一方、ヒートエクスチェンジャ5は、水温が油温よりも低い場合にオイルクーラとして機能し、エンジンオイルを冷却する。
【0026】
空調流路13には、ヒータコア6が接続されている。ヒータコア6は、例えば空調装置のダクト(不図示)内に設けられている。空調流路13では、ヒータコア6において、冷却水とダクト内を流通する空調空気との熱交換が行われる。
【0027】
EGR流路14には、EGRクーラ7が接続されている。EGR流路14では、EGRクーラ7において、冷却水とEGRガスとの熱交換が行われる。
【0028】
上述した冷却システム1では、メイン流路10においてエンジン2を通過した冷却水が、制御バルブ8内に流入した後、制御バルブ8の動作によって各種流路11~13に選択的に分配される。これにより、早期昇温や高水温(最適温)制御等を実現でき、車両の燃費向上が図られている。
【0029】
<制御バルブ>
図2は、制御バルブ8の斜視図である。図3は、制御バルブ8の分解斜視図である。
図2図3に示すように、制御バルブ8は、ケーシング21と、弁体22(図3参照)と、駆動ユニット23と、を主に備えている。
【0030】
<ケーシング>
ケーシング21は、有底筒状のケーシング本体25と、ケーシング本体25の開口部を閉塞する蓋体26と、を有している。なお、以下の説明では、ケーシング21の軸線O1に沿う方向を単にケース軸方向という。ケース軸方向において、ケーシング本体25のケース周壁31に対してケーシング本体25の底壁部32に向かう方向を第1側といい、ケーシング本体25のケース周壁31に対して蓋体26に向かう方向を第2側という。さらに、軸線O1に直交する方向をケース径方向といい、軸線O1回りの方向をケース周方向という。
【0031】
ケーシング本体25のケース周壁31には、複数の取付片33が形成されている。各取付片33は、ケース周壁31からケース径方向の外側に突設されている。制御バルブ8は、例えば各取付片33を介してエンジンルーム内に固定される。なお、各取付片33の位置や数等は、適宜変更が可能である。
【0032】
図4は、図2のIV-IV線に沿う断面図である。
図3図4に示すように、ケース周壁31における第2側に位置する部分には、ケース径方向の外側に膨出する流入ポート37が形成されている。流入ポート37には、流入ポート37をケース径方向に貫通する流入口37a(図4参照)が形成されている。流入口37aは、ケーシング21内外を連通している。流入ポート37の開口端面(ケース径方向の外側端面)には、上述したメイン流路10(図1参照)が接続される。
【0033】
図4に示すように、ケース周壁31において、軸線O1を間に挟んで流入ポート37にケース径方向で対向する位置には、ケース径方向の外側に膨出するラジエータポート41が形成されている。ラジエータポート41には、フェール開口41a及びラジエータ流出口41b(流出口)がケース軸方向に並んで形成されている。フェール開口41a及びラジエータ流出口41bは、ラジエータポート41をそれぞれケース径方向に貫通している。本実施形態において、フェール開口41aは、上述した流入口37aにケース径方向で対向している。また、ラジエータ流出口41bは、フェール開口41aに対してケース軸方向の第1側に位置している。
【0034】
ラジエータポート41の開口端面(ケース径方向の外側端面)には、ラジエータジョイント42が接続されている。ラジエータジョイント42は、ラジエータ流出口41bとラジエータ流路11(図1参照)の上流端部との間を接続している。なお、ラジエータジョイント42は、ラジエータポート41の開口端面に溶着(例えば、振動溶着等)されている。
【0035】
フェール開口41aには、サーモスタット45が設けられている。サーモスタット45は、上述した流入口37aにケース径方向で対向している。サーモスタット45は、ケーシング21内を流れる冷却水の温度に応じてフェール開口41aを開閉する。
【0036】
蓋体26のうち、軸線O1に対してケース径方向でラジエータポート41寄りに位置する部分には、EGR流出口51が形成されている。EGR流出口51は、蓋体26をケース軸方向に貫通している。本実施形態において、EGR流出口51は、フェール開口41aの開口方向(ケース径方向)に交差(直交)している。また、EGR流出口51は、ケース軸方向から見た正面視において、サーモスタット45に少なくとも一部が重なり合っている。
【0037】
蓋体26において、EGR流出口51の開口縁には、EGRジョイント52が形成されている。EGRジョイント52は、ケース軸方向の第2側に向かうに従いケース径方向の外側に延びる管状に形成され、EGR流出口51と上述したEGR流路14(図1参照)の上流端部との間を接続している。
【0038】
図3に示すように、ケース周壁31において、ラジエータポート41よりもケース軸方向の第1側に位置する部分には、ケース径方向の外側に膨出する暖機ポート56が形成されている。暖機ポート56には、暖機ポート56をケース径方向に貫通する暖機流出口56a(流出口)が形成されている。暖機ポート56の開口端面には、暖機ジョイント62が接続されている。暖機ジョイント62は、暖機流出口56aと上述した暖機流路12(図1参照)の上流端部とを接続している。なお、暖機ジョイント62は、暖機ポート56の開口端面に溶着(例えば、振動溶着等)されている。
【0039】
図2図3に示すように、ケース周壁31のうち、ケース軸方向におけるラジエータポート41と暖機ポート56との間であって、かつ暖機ポート56に対してケース周方向で180°程度ずれた位置には、空調ポート66が形成されている。空調ポート66には、空調ポート66をケース径方向に貫通する空調流出口66a(流出口)が形成されている。空調ポート66の開口端面には、空調ジョイント68が接続されている。空調ジョイント68は、空調流出口66aと上述した空調流路13(図1参照)の上流端部とを接続している。なお、空調ジョイント68は、空調ポート66の開口端面に溶着(例えば、振動溶着等)されている。
【0040】
<駆動ユニット>
図2に示すように、駆動ユニット23は、ケーシング本体25の底壁部32に取り付けられている。駆動ユニット23は、図示しないモータや減速機構、制御基板等がユニットケース内に収納されている。
【0041】
<弁体>
図3図4に示すように、弁体22は、ケーシング21内に収容されている。弁体22は、円筒状に形成され、ケーシング21の内部において、ケーシング21の軸線O1と同軸に配置されている。弁体22は、軸線O1回りに回転することで、上述した各流出口(ラジエータ流出口41b、暖機流出口56a及び空調流出口66a)を開閉する。
【0042】
図4に示すように、弁体22は、ロータ本体72の内側に内側軸部73がインサート成形されて構成されている。内側軸部73は、軸線O1と同軸に延在している。
【0043】
内側軸部73の第1側端部は、底壁部32に形成された貫通孔(大気開放部)32aを通して底壁部32をケース軸方向に貫通している。内側軸部73の第1側端部は、上述した底壁部32に設けられた第1ブッシュ(第1軸受)78に回転可能に支持されている。具体的に、底壁部32には、ケース軸方向の第2側に向けて第1軸収容壁79が形成されている。第1軸収容壁79は、上述した貫通孔32aを取り囲んでいる。第1軸収容壁79の内側には、上述した第1ブッシュ78が嵌合されている。
【0044】
内側軸部73のうち、第1ブッシュ78よりもケース軸方向の第1側に位置する部分(底壁部32よりも外側に位置する部分)には、連結部73aが形成されている。連結部73aは、ケーシング21の外部において、上述した駆動ユニット23に連結されている。これにより、駆動ユニット23の動力が内側軸部73に伝達される。
【0045】
内側軸部73の第2側端部は、上述した蓋体26に設けられた第2ブッシュ(第2軸受)84に回転可能に支持されている。具体的に、蓋体26には、ケース軸方向の第1側に向けて第2軸収容壁86が形成されている。第2軸収容壁86は、上述したEGR流出口51よりもケース径方向の内側で、軸線O1を取り囲んでいる。第2軸収容壁86の内側には、上述した第2ブッシュ84が嵌合されている。
【0046】
ロータ本体72は、上述した内側軸部73の周囲を取り囲んでいる。ロータ本体72は、内側軸部73を覆う外側軸部81と、外側軸部81を囲繞する周壁部82と、外側軸部81と周壁部82を連結するスポーク部83と、を有している。
【0047】
外側軸部81は、内側軸部73におけるケース軸方向の両端部を露出させた状態で、内側軸部73の周囲を全周に亘って取り囲んでいる。本実施形態では、外側軸部81及び内側軸部73によって弁体22の回転軸85を構成している。
【0048】
上述した第1軸収容壁79内において、第1ブッシュ78に対してケース軸方向の第2側に位置する部分には、第1リップシール87が設けられている。第1リップシール87は、第1軸収容壁79の内周面と回転軸85(外側軸部81)の外周面との間をシールする。第1軸収容壁79内において、第1リップシール87よりもケース軸方向の第1側に位置する部分は、貫通孔32aを通じて大気に開放されている。
【0049】
一方、上述した第2軸収容壁86内において、第2ブッシュ84に対してケース軸方向の第1側に位置する部分には、第2リップシール88が設けられている。第2リップシール88は、第2軸収容壁86の内周面と回転軸85(外側軸部81)の外周面との間をシールする。蓋体26には、蓋体26をケース軸方向に貫通する貫通孔(大気開放部)98が形成されている。
【0050】
弁体22の周壁部82は、軸線O1と同軸に配置されている。周壁部82は、ケーシング21内において、流入口37aよりもケース軸方向の第1側に位置する部分に配置されている。具体的に、周壁部82は、ケース軸方向において、フェール開口41aを回避し、かつラジエータ流出口41b、暖機流出口56a及び空調流出口66aに跨る位置に配置されている。周壁部82の内側は、流入口37aを通してケーシング21内に流入した冷却水がケース軸方向に流通する流通路91を構成している。一方、ケーシング21内において、周壁部82よりもケース軸方向の第2側に位置する部分は、流通路91に連通する接続流路92を構成している。なお、周壁部82の外周面と、ケース周壁31の内周面と、の間には、ケース径方向に隙間C2が設けられている。
【0051】
周壁部82において、上述したラジエータ流出口41bとケース軸方向の同位置には、周壁部82をケース径方向に貫通する弁孔95が形成されている。弁孔95は、ケース径方向から見てラジエータ流出口41bに挿入されたシール筒部材131と少なくとも一部が重なり合う場合に、弁孔95を通じて周壁部82内(流通路91)とラジエータ流出口41bとを連通させる。
【0052】
周壁部82において、上述した暖機流出口56aとケース軸方向の同位置には、周壁部82をケース径方向に貫通する別の弁孔96が形成されている。弁孔96は、ケース径方向から見て暖機流出口56aに挿入されたシール筒部材131と少なくとも一部が重なり合う場合に、弁孔96を通じて周壁部82内(流通路91)と暖機流出口56aとを連通させる。
【0053】
周壁部82において、上述した空調流出口66aとケース軸方向の同位置には、周壁部82をケース径方向に貫通するさらに別の弁孔97が形成されている。弁孔97は、ケース径方向から見て空調流出口66aに挿入されたシール筒部材131と少なくとも一部が重なり合う場合に、弁孔97を通じて周壁部82内(流通路91)と空調流出口66aとを連通させる。
なお、周壁部82に形成された空調流路用の弁孔97と暖気流路用の弁孔96の周縁部の詳細構造については後に説明する。
【0054】
弁体22は、軸線O1回りの回転に伴い、弁孔95,96,97と、これらに対応する各流出口41b,56a,66aとの連通及び遮断を切り替える。なお、弁孔95,96,97と流出口41b,56a,66aの連通パターンは、適宜設定が可能である。
【0055】
つづいて、暖機ポート56及び暖機ジョイント62の接続部分の詳細について説明する。なお、ラジエータポート41とラジエータジョイント42との接続部分、及び空調ポート66と空調ジョイント68との接続部分については、暖機ポート56及び暖機ジョイント62の接続部分と同等の構成であるため、説明を省略する。
【0056】
図5は、図2のV―V線に相当する拡大断面図である。以下の説明では、暖機流出口56aの軸線O2に沿う方向をポート軸方向(第1方向)という場合がある。この場合、ポート軸方向において、暖機ポート56に対して軸線O1に向かう方向を内側といい、暖機ポート56に対して軸線O1から離間する方向を外側という。また、軸線O2に直交する方向をポート径方向(第2方向)といい、軸線O2回りの方向をポート周方向という場合がある。
図5に示すように、暖機ポート56は、ポート軸方向に延びるシール筒部101と、シール筒部101からポート径方向の外側に張り出すポートフランジ部102と、を有している。シール筒部101の内側は、上述した暖機流出口56a(流出口)を構成している。本実施形態において、シール筒部101の内径は、ポート軸方向の外側端部を除く領域で一様に設定されている。
【0057】
ポートフランジ部102の外周部分には、ポート軸方向の外側に突出する囲繞壁105が形成されている。囲繞壁105は、ポートフランジ部102の全周に亘って形成されている。ポートフランジ部102において、囲繞壁105に対してポート径方向の内側に位置する部分には、ポート軸方向の外側に突出するポート接合部106が形成されている。ポート接合部106は、ポートフランジ部102の全周に亘って形成されている。
【0058】
暖機ジョイント62は、軸線O2と同軸に配置されたジョイント筒部110と、ジョイント筒部110におけるポート軸方向の内側端部からポート径方向の外側に張り出すジョイントフランジ部111と、を有している。
【0059】
ジョイントフランジ部111は、外径がポートフランジ部102と同等で、かつ内径がシール筒部101の外径よりも大きい環状に形成されている。ジョイントフランジ部111の内周部分には、ポート軸方向の内側に突出するジョイント接合部113が形成されている。ジョイント接合部113は、ポート接合部106にポート軸方向で対向している。暖機ポート56及び暖機ジョイント62は、ポート接合部106とジョイント接合部113との対向面同士が振動溶着されることで、互いに接合されている。
【0060】
ジョイント筒部110は、ジョイントフランジ部111の内周縁からポート軸方向の外側に延在している。ジョイント筒部110は、ポート軸方向の外側に向かうに従い段階的に縮径する多段筒状に形成されている。具体的には、ジョイント筒部110は、大径部121、中径部122及び小径部123がポート軸方向の外側に向けて順に連なっている。
【0061】
大径部121は、上述したシール筒部101に対してポート径方向の外側に間隔をあけた状態で、シール筒部101を囲繞している。中径部122は、シール筒部101に対してポート軸方向に隙間Q1をあけて対向している。
【0062】
暖機ポート56及び暖機ジョイント62で囲まれた部分には、シール機構130が設けられている。シール機構130は、シール筒部材131と、付勢部材132と、シールリング133と、ホルダ134と、を有している。なお、図3に示すように、上述したラジエータポート41内及び空調ポート66内にも、暖機ポート56内に設けられたシール機構130と同様の構成からなるシール機構130が設けられている。本実施形態の説明では、ラジエータポート41内及び空調ポート66内に設けられたシール機構130については、暖機ポート56内に設けられたシール機構130と同様の符号を付して説明を省略する。
【0063】
図5に示すように、シール筒部材131は、暖機流出口56a内に挿入されている。シール筒部材131は、軸線O2と同軸に延びる周壁を有している。シール筒部材131の周壁は、ポート軸方向の外側に向かうに従い外径が段状に縮径する多段筒状に形成されている。具体的には、シール筒部材131の周壁は、ポート軸方向の外側(軸方向の一端側)に位置され、暖機流出口56aの下流側に連通する第1筒部142と、ポート軸方向の内側(軸方向の他端側)に位置され、第1筒部142よりも内径及び外径が大きい第2筒部141と、を有している。
【0064】
シール筒部材131は、大径の第2筒部141がシール筒部101の内周面に摺動可能に挿入されている。第2筒部141におけるポート軸方向の内側端面は、弁体22の周壁部82の外周面に摺動自在に当接する弁摺接面141aを構成している。なお、本実施形態において、弁摺接面141aは、周壁部82の外周面の曲率半径に倣って形成された湾曲面とされている。
【0065】
第1筒部142の外周面は、第2筒部141の外周面に対して段差面143を介して連なっている。段差面143は、ポート軸方向の内側に向かうに従いポート径方向の外側に傾斜した後、ポート径方向の外側にさらに延設されている。したがって、小径の第1筒部142の外周面と、シール筒部101の内周面と、の間には、ポート径方向にシール隙間Q2が設けられている。
【0066】
第1筒部142におけるポート軸方向の外側端面(以下、「座面142a」という。)は、ポート軸方向と直交する平坦面とされている。第1筒部142の座面142aは、ポート軸方向においてシール筒部101の外側端面と同等の位置に配置されている。なお、シール筒部材131は、暖機ジョイント62に対してポート径方向及びポート軸方向で離間している。
【0067】
付勢部材132は、シール筒部材131の座面142aと、暖機ジョイント62における小径部123のポート軸方向の内側端面と、の間に介在している。付勢部材132は、例えばウェーブスプリングである。付勢部材132は、シール筒部材131をポート軸方向の内側に向けて(周壁部82に向けて)付勢している。
【0068】
シールリング133は、例えばYパッキンである。シールリング133は、開口部(二股部)をポート軸方向の内側に向けた状態で、シール筒部材131の第1筒部142に外挿されている。具体的に、シールリング133は、上述したシール隙間Q2内に配置された状態で、二股部の各先端部が第1筒部142の外周面及びシール筒部101の内周面にそれぞれ摺動可能に密接している。なお、シール隙間Q2内において、シールリング133に対してポート軸方向の内側領域は、シール筒部101の内周面とシール筒部材131の第2筒部141との隙間を通じてケーシング21の液圧が導入される。段差面143は、ポート軸方向におけるシール筒部材131の弁摺接面141aと相反する向きに形成されている。段差面143は、ケーシング21内の冷却水の液圧を受けてポート軸方向の内側に押圧される受圧面を構成している。
【0069】
図6は、図5のVI部拡大図である。
ここで、シール筒部材131において、段差面143の面積S1と、弁摺接面141aの面積S2とは、以下の式(1),(2)を満たすように設定されている。
S1<S2≦S1/k …(1)
α≦k<1 …(2)
k:弁摺接面141aと弁体22の周壁部82との間の微少隙間を流れる冷却水の圧力減少定数
α:冷却水の物性によって決まる圧力減少定数の下限値
なお、段差面143の面積S1と弁摺接面141aの面積S2は、ポート軸方向に投影したときの面積を意味する。
【0070】
式(2)におけるαは、冷却水の種類や、使用環境(例えば、温度)等によって決まる圧力減少定数の標準値である。例えば、通常使用条件下において、水の場合にはα=1/2となる。使用する冷却水の物性が変化した場合には、α=1/3等に変化する。
また、式(2)における圧力減少定数kは、弁摺接面141aがポート径方向の外側端縁から内側端縁にかけて均一に周壁部82に接しているときには、圧力減少定数の標準値であるα(例えば、1/2)となる。但し、シール筒部材131の製造誤差や組付け誤差等によって、弁摺接面141aの外周部分と周壁部82との間の隙間が弁摺接面141aの内周部分に対して僅かに増大することがある。この場合、式(2)における圧力減少定数kは、次第にk=1に近づくことになる。
【0071】
本実施形態では、シール筒部材131の弁摺接面141aと周壁部82の外周面との間に、摺動を許容するために微小な隙間があることを前提として、段差面143と弁摺接面141aの各面積S1,S2の関係が式(1),(2)によって決められている。
すなわち、シール筒部材131の段差面143には、上述したようにケーシング21内の冷却水の圧力がそのまま作用する。一方で、弁摺接面141aには、ケーシング21内の冷却水の圧力がそのまま作用しない。具体的に、冷却水の圧力は、弁摺接面141aと周壁部82の間の微小な隙間を冷却水がポート径方向の外側端縁から内側端縁に向かって流れるときに圧力減少を伴いつつ作用する。このとき、冷却水の圧力は、ポート径方向の内側に向かって漸減しつつ、シール筒部材131をポート軸方向の外側に押し上げようとする。
【0072】
その結果、シール筒部材131の段差面143には、段差面143の面積S1にケーシング21内の圧力Pを乗じた力がそのまま作用する。一方、シール筒部材131の弁摺接面141aには、弁摺接面141aの面積S2にケーシング21内の圧力Pと圧力減少定数kとを乗じた力が作用する。
【0073】
本実施形態の制御バルブ8は、式(1)からも明らかなようにk×S2≦S1が成り立つように面積S1,S2が設定されている。このため、P×k×S2≦P×S1の関係も成り立つ。
したがって、シール筒部材131の段差面143に作用する押し付け方向の力F1(F1=P×S1)は、シール筒部材131の弁摺接面141aに作用する浮き上がり方向の力F2(F2=P×k×S2)以上に大きくなる。よって、本実施形態の制御バルブ8においては、ケーシング21内の冷却水の圧力の関係のみによっても、シール筒部材131と周壁部82との間をシールすることができる。
【0074】
一方、本実施形態では、上述したようにシール筒部材131の段差面143の面積S1が弁摺接面141aの面積S2よりも小さい。そのため、ケーシング21内の冷却水の圧力が大きくなっても、シール筒部材131の弁摺接面141aが過剰な力で周壁部82に押し付けられるのを抑制できる。したがって、本実施形態の制御バルブ8を採用した場合には、弁体22を回転駆動する駆動ユニット23の大型化及び高出力化を回避することができる上、シール筒部材131や各ブッシュ78,84(図4参照)の早期摩耗を抑制できる。
【0075】
このように、本実施形態では、シール筒部材131に作用するポート軸方向の内側への押し付け力が、シール筒部材131に作用するポート軸方向の外側への浮き上がり力を下回らない範囲で、弁摺接面141aの面積S2が段差面143の面積S1よりも大きく設定されている。そのため、周壁部82に対するシール筒部材131の過剰な力での押し付けを抑制しつつ、シール筒部材131と周壁部82との間をシールできる。
【0076】
上述したホルダ134は、隙間Q1内において、暖機ポート56及び暖機ジョイント62に対してポート軸方向に移動可能に構成されている。また、ホルダ134は、暖機ポート56及び暖機ジョイント62の少なくとも何れかにポート軸方向で離間可能に配置されている。ホルダ134は、ホルダ筒部151と、ホルダフランジ部152と、規制部153と、を有している。
【0077】
ホルダ筒部151は、ポート軸方向に延在している。ホルダ筒部151は、シール隙間Q2内にポート軸方向の外側から挿入されている。ホルダ筒部151におけるポート軸方向の内側端面には、上述したシールリング133の底部が当接可能とされている。すなわち、ホルダ筒部151は、シールリング133のポート軸方向の外側への移動を規制する。
【0078】
ホルダフランジ部152は、ホルダ筒部151におけるポート軸方向の外側端部からポート径方向の外側に突設されている。ホルダフランジ部152は、シール筒部101におけるポート軸方向の外側端面と、中径部122におけるポート軸方向の内側端面と、の間の隙間Q1に配置されている。ホルダ134のポート軸方向の内側への移動は、シール筒部101によって規制され、ホルダ134のポート軸方向の外側への移動は、中径部122によって規制される。
【0079】
規制部153は、ホルダ筒部151の内周部分からポート軸方向の外側に筒状に突出して形成されている。規制部153は、付勢部材132のポート径方向の移動を、ホルダ筒部151とともに規制する。
【0080】
<制御バルブの基本動作>
次に、上述した制御バルブ8の基本動作を説明する。
図1に示すように、メイン流路10において、ウォータポンプ3により送出される冷却水は、エンジン2で熱交換された後、制御バルブ8に向けて流通する。図4に示すように、メイン流路10においてエンジン2を通過した冷却水は、流入口37aを通してケーシング21内の接続流路92に流入する。
【0081】
接続流路92内に流入した冷却水のうち、一部の冷却水はEGR流出口51内に流入する。EGR流出口51内に流入した冷却水は、EGRジョイント52を通ってEGR流路14内に供給される。EGR流路14内に供給された冷却水は、EGRクーラ7において、冷却水とEGRガスとの熱交換が行われた後、メイン流路10に戻される。
【0082】
一方、接続流路92内に流入した冷却水のうち、EGR流出口51内に流入しなかった冷却水は、ケース軸方向の第2側から流通路91内に流入する。流通路91内に流入した冷却水は、流通路91内をケース軸方向に流通する過程で各流出口に分配される。すなわち、流通路91内に流入する冷却水は、各流出口のうち対応する弁孔に連通している流出口を通して各流路11~13に分配される。
【0083】
制御バルブ8において、弁孔と流出口との連通パターンを切り替えるには、弁体22を軸線O1回りに回転させる。そして、設定したい連通パターンに対応する位置で弁体22の回転を停止させることで、弁体22の停止位置に応じた連通パターンで弁孔と流出口とが連通する。
【0084】
<弁体の弁孔回りの詳細構造>
図7は、弁体22の一部とシール筒部材131の斜視図であり、図8は、図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。なお、図7では、軸方向の一部を切り出した弁体22が示されている。図9は、図8のIX部拡大図である。また、図10は、弁体22の回転が進んだ状態を示す図8と同様の断面図であり、図11は、図10のXI部拡大図である。
図7図11は、弁体22の周壁部82のうちの、空調流路用の弁孔97を含む部分と、弁孔97によって連通と遮断が行われるシール筒部材131が示されている。弁体22の周壁部82は、弁孔97の縁部のうちの、弁体22の回転方向Rの前方側に流量制御溝57が形成されている。
【0085】
流量制御溝57は、周壁部82の外周面に対して弁体22の軸心O1方向に窪み、かつ一端部が弁孔97に連なる底面57aを有している。底面57aは、正面視が略矩形状に形成され、弁孔97に臨む辺のみが弁孔97の内周面によって略円弧形状に形成されている。つまり、流量制御溝57の底面57aは、弁体22の軸線O1と平行な直線状の第1端辺57a-1と、第1端辺57a-1と対向する位置で弁孔97に臨む第2端辺57a-2と、第1端辺57a-1と第2端辺57a-2の端部同士を連結する一対の側辺57a-3と、を有する。本実施形態の場合、流量制御溝57の底面57aは、弁孔97に近づくほど窪み深さが深くなるように傾斜している。流量制御溝57は、弁孔97に向かって開口面積が次第に増大する。本実施形態の場合、底面57aの第1端辺57a-1は、周壁部82の外周面(窪んでいない外周面)との境界部とされている。なお、本実施形態では、弁孔97に臨む第2端辺57a-2が略円弧状に形成されているが、第2端辺57a-2は、必ずしも略円弧状である必要はなく、例えば、直線状であっても良い。
【0086】
図12は、弁体22の周壁部82の模式的な展開図である。
図12に示すように、ラジエータ流路用の弁孔95は、周壁部82の円周方向を長軸方向とする長円形状とされている。これに対し、暖気流路用の弁孔96は、例えば、丸孔形状とされている。暖気流路用の弁孔96は、周壁部82の円周方向に間隔をあけて複数形成されている。図示の例において、暖気流路用の弁孔96は、大径孔が周壁部82の円周方向に2つ並び、大径孔よりも小さい小径孔が周壁部82の円周方向に二つ並んでいる。また、空調流路用の弁孔97は、周壁部82の円周方向を長軸方向とする長円形状とされている。
【0087】
図12に示すように、暖気流路用の4つの弁孔96のうちの、一つの弁孔96Aの縁部には、上述した空調流路用の弁孔97の縁部のものと同様の流量制御溝57が設けられている。ただし、周壁部82上の暖気流路用の弁孔96Aの縁部に設けられる流量制御溝57は、弁孔96Aの縁部のうちの、弁体22の回転方向Rの後方側に配置されている。暖気流路用の弁孔96Aの縁部の流量制御溝57は、弁孔96Aに向かって開口面積が漸増するように底面57aが傾斜している。
なお、本実施形態では、流量制御溝57は、弁体22の周壁部82のうちの、空調流路用の弁孔97の回転方向Rの前方側の縁部と、暖気流路用の弁孔96Aの回転方向Rの後方側の縁部と、に設けられているが、流量制御溝57を設ける弁孔はこれらの弁孔に限定されるものではない。流量制御溝57は、任意の弁孔に、弁孔の回転方向Rの前方側と後方側の少なくとも一方に設けることができる。ただし、本実施形態の説明で例示した制御バルブ8の場合、以下で説明するように、シール筒部材131が空調流路用の弁孔97と連通を開始するときや、シール筒部材131と暖気流路用の弁孔96Aの連通が終了するときに、流出口での冷却水の流量変化が大きくなり易いため、上記の部位に流量制御溝57を設定することは特に有効である。
【0088】
図13は、弁体22の回転制御による各流出口(暖機流出口56a,空調流出口66a,ラジエータ流出口41b)の流量変化の様子を示す図である。本実施形態の場合、弁体22の回転制御よる4つの流出口の開度変化は、以下の三つのモードを持つ。
(1)ヒータカットモード
空調流出口66aを閉じた状態でラジエータ流出口41bを開けるモード。
(2)ヒータ通水モード
空調流出口66aを開けた状態でラジエータ流出口41bを開けるモード。
(3)全閉モード
暖機流出口56aとラジエータ流出口41bと空調流出口66aとをすべて閉じるモード。
(4)切換モード
ラジエータ流出口41b及び暖機流出口56aを開けた状態で、空調流出口66aの開閉を切り替えるモード。
【0089】
図13において、横軸は、制御バルブ8の動作範囲を示し、縦軸は、各流出口の開度(0%から100%まで)を示す。図13の(a)には、暖機流出口56aの開度が示されている。図13の(b)には、空調流出口66aの開度が示されている。図13(c)には、ラジエータ流出口41bの開度が示されている。
制御バルブ8の動作範囲は、9個の領域A,B,C,D,E,F,G,H,Iに区分されている。
【0090】
全閉モードは、領域Aのみで構成されている。領域Aでは、暖機流出口56aと空調流出口66aとラジエータ流出口41bとの全ての開度が0%になる。
ヒータ通水モードは、4個の領域B,C,D,Eから構成される。領域Bでは、暖機流出口66aとラジエータ流出口41bの開度が0%のままで、空調流出口66aの開度が0%から100%までの範囲で変化する。領域Cでは、ラジエータ流出口41bの開度が0%且つ空調流出口66aの開度が100%のままで、暖機流出口56aの開度が0%から100%までの範囲で変化する。領域Dでは、空調流出口66aの開度が100%のままで、暖機流出口56aの開度が100%から0%までの範囲で変化し、ラジエータ流出口41bの開度が0%から約80%までの範囲で変化する。領域Eでは、空調流出口66aの開度が100%のままで、暖機流出口56aの開度が0%から100%までの範囲で変化し、ラジエータ流出口41bの開度が約80%から100%までの範囲で変化する。
【0091】
切替モードは、領域Iのみで構成される。領域Iでは、暖機流出口56aとラジエータ流出口41bの開度が100%のままで、空調流出口66aの開度が100%から0%までの範囲で変化する。
【0092】
ヒータカットモードは、3個の領域H,G,Fから構成される。領域Hでは、空調流出口66aの開度が0%のままで、暖機流出口56aの開度が100%から0%までの範囲で変化し、ラジエータ流出口41bの開度が100%から約80%までの範囲で変化する。領域Gでは、空調流出口66aの開度が0%のままで、暖機流出口56aの開度が0%から100%までの範囲で変化し、ラジエータ流出口41bの開度が約80%から0%までの範囲で変化する。領域Fでは、空調流出口66aとラジエータ流出口41bの開度が0%のままで、暖機流出口56aの開度が100%から0%までの範囲で変化する。
【0093】
図13に示すように、全閉モードからヒータ通水モードへの移行時には、暖機流出口56aと空調流出口66aとラジエータ流出口41bのすべての開度が0%の状態(対応するすべてシール筒部材131が非連通の状態)から、空調流出口66aの開度が単独で0%から100%に変化する(図13中のP1点参照)。つまり、空調流出口66aに対応するシール筒部材131が最初に弁孔97との連通を開始する。このとき、弁孔97を通して弁体22の内側(ケーシング21内)の冷却水が勢いよく空調流出口66a内に流れ込み易くなる。このため、弁体22の周壁部82のうちの、空調流路用の弁孔97の回転方向Rの前方側の縁部に流量制御溝57を配置することは特に有効となる。
【0094】
また、図13に示すように、ヒートカットモードから全閉モードへの移行時には、空調流出口66aとラジエータ流出口41bの開度が0%の状態(対応する二つのシール筒部材131が非連通の状態)から、暖機流出口56aの開度が100%から0%に変化する(図13中のP2参照)。つまり、暖機流出口56aに対応するシール筒部材131が最後に弁孔95との連通を終了する(弁孔95と非連通となる)このため、弁体22の周壁部82のうちの、暖気流路用の弁孔96Aの回転方向Rの前方側の縁部に流量制御溝57を配置することは特に有効となる。
【0095】
<シール筒部材の連通開始動作と連通終了動作>
弁体22の周壁部82のうちの、空調流路用の弁孔97の回転方向Rの前方側の縁部には、上述のように流量制御溝57が設けられている。このため、弁体22の周壁部82の外周面が、空調流路13に連通するシール筒部材131を閉塞した状態(図7図9と、図13の全閉モード参照)から、弁体22の回転によってヒータ通水モードに移行しようとすると、シール筒部材131の内部通路が弁孔97と直接連通する前に流量制御溝57がシール筒部材131の内部通路と次第にラップするようになる(図10図11参照)。
これにより、弁体22の内側の冷却水が、弁孔22と流量制御溝57を経由してシール筒部材131から空調流出口66aへと流出するようになる。こうして、流量制御溝57とシール筒部材131の内部通路とのラップ量が増大すると、そのラップ量の増大に応じて弁体22の内側から空調流出口66aへの冷却水の流出量が漸増する。この結果、シール筒部材131の内部通路が弁孔97と直接連通する際に、空調流出口66aに多量の冷却水が急激に流れ込まなくなる。
【0096】
また、弁体22の周壁部82のうちの、暖機流路用の弁孔96Aの回転方向Rの後方側の縁部には、上述のように流量制御溝57が設けられている。このため、弁体22の暖機流路用の弁孔96Aがシール筒部材131の内部通路(暖機流出口56a)と直接連通した状態(図13のヒータカットモード参照。)から、弁体22の回転によって全閉モードに移行しようとすると、暖機流路用の弁孔96Aがシール筒部材131の内部通路との直接的な連通を終えた後に、流量制御溝57のみがシール筒部材131の内部通路とラップするようになる。このとき、弁体22の内部の冷却水は弁孔96Aと流量制御溝57を経由して暖機流出口56aに流出する。
こうして、流量制御溝57とシール筒部材131の内部通路とのラップ量が増大すると、そのラップ量の増大に応じて弁体22の内側から暖機流出口56aへの冷却水の流出量が漸増する。この結果、暖機流出口56aへの冷却水の流れ込みが急激に停止することがなくなる。
【0097】
<実施形態の効果>
以上のように、本実施形態の制御バルブ8は、弁体22の周壁部82の弁孔の縁部のうちの、弁体22の回転方向の前方側と後方側の少なくともいずれか一方に、周壁部82の外周面に対して窪み、かつ一端部が弁孔に連なる底面57aを有する流量制御溝57が設けられている。このため、流量制御溝57の機能によってシール筒部材131の連通開始時や連通終了時に流出口で冷却水の急激な流量変化が生じるのを抑制することができる。そして、本実施形態の制御バルブ8の流量制御溝57は、周壁部82の外周面に対して窪み、かつ一端部が弁孔に連なる底面57aを有するため、溝幅を極端に狭めることなく、シール筒部材131の連通開始時や連通終了時に流出口で冷却液の急激な流量変化が生じるのを抑制することができる。
【0098】
したがって、本実施形態の制御バルブ8では、コンタミの噛み込み等によって所期の性能が低下するのを防止することができる。よって、シール筒部材131と弁孔97,96Aの連通状態の切り換え時における流出口での緩やかな流量変化特性を長期にわたって維持することができる。
【0099】
また、本実施形態の制御バルブ8では、弁孔97,96Aに向かって流量制御溝57の開口面積が次第に増大するように、流量制御溝57の底面57aが傾斜している。このため、流量制御溝57とシール筒部材131の内部通路とのラップ量の変化に応じて、流出口への冷却水の流量を滑らかに増減変化させることができる。
【0100】
また、本実施形態の制御バルブ8では、すべてのシール筒部材131が弁体22の周壁部82によって非連通にされている状態から、シール筒部材131と最初に連通を開始する空調流路用の弁孔97の連通開始側の縁部に流量制御溝57が設けられている。このため、最も急激に冷却水が空調流出口66aに流れ込みやすい条件下において、連通開始時における空調流出口66aの冷却水の流入を緩やかにすることができる。したがって、本実施形態の制御バルブ8を採用した場合には、シール筒部材131の連通開始時における空調流出口66aでの急激な圧力変動を抑制することができる。
【0101】
さらに、本実施形態の制御バルブ8は、ラジエータ流出口41bと空調流出口66aに対応する各シール筒部材が非連通にされている状態から、対応するシール筒部材を最後に非連通にする暖気流路用の弁孔の連通終了側の縁部に流量制御溝57が設けられている。このため、勢い良く流れ込んでいた冷却水の流れが急激に停止することになり易い条件下において、連通終了時における暖機流出口56aでの冷却液の急激な流入停止を緩やかにすることができる。本実施形態の制御バルブ8を採用した場合には、シール筒部材131の連通終了時における空調流出口66aでの急激な圧力変動を抑制することができる。
【0102】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、流量制御溝47の底面57aが弁孔に向かって傾斜して形成されているが、流量制御溝47の底面57aは必ずしも傾斜する必要はなく、弁孔側に向かって開口面積が増大するように階段状に形成するようにしても良い。
【0103】
また、上記の実施形態では、弁体を円筒状(軸方向の全体に亘って一様な径)に形成した場合について説明したが、この構成に限られない。即ち、弁体の周壁部の外径を軸方向で変化させてもよい。この場合、弁体の周壁部は、例えば球状(軸方向の中央部から両端部に向かうに従い径が縮小する形状)や、鞍型(軸方向の中央部から両端部に向かうに従い径が拡大する形状)や、球状や鞍型が軸方向に複数連なった形状等の三次曲面を有する形状であっても良い。
【符号の説明】
【0104】
8…制御バルブ
21…ケーシング
22…弁体
37a…流入口
41b…ラジエータ流出口(流出口)
56a…暖機流出口(流出口)
57…流量制御溝
57a…底面
66a…空調流出口(流出口)
82…周壁部
95,96,97…弁孔
131…シール筒部材
141a…弁摺接面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13