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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20230907BHJP
   F16H 57/08 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019097532
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020193624
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】牧角 知祥
(72)【発明者】
【氏名】牧添 義昭
(72)【発明者】
【氏名】島田 英史
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0111900(US,A1)
【文献】特開2012-177468(JP,A)
【文献】米国特許第04998909(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機構と、
前記減速機構で減速された回転を出力する回転体と、
前記回転体の外周縁部に配置され、前記減速機構で減速された回転を前記回転体に伝達する複数の回転伝達ピンと、
前記回転体を当該回転体の外周側で回転可能に支持するケースと、
内輪、外輪、および、転動体を有し、前記外輪が前記ケースに固定されるとともに、前記内輪が前記回転体に固定される軸受と、
を備え、
各前記回転伝達ピンは、軸方向の一端部から前記回転体の前記内輪の嵌合部よりも径方向外側に突出して、前記内輪を軸方向外側から係止する抜け規制部を有する減速機。
【請求項2】
前記回転体の前記抜け規制部の位置される側の軸方向の端面には、軸方向外側と径方向外側に開口し、前記抜け規制部の一部を収容する凹部が設けられている請求項に記載の減速機。
【請求項3】
前記回転伝達ピンの軸方向の一端部前記凹部の間には、前記回転伝達ピンの回転を規制する回転規制部が存在する請求項に記載の減速機。
【請求項4】
外部から回転を入力される入力シャフトと、
外周に外歯を有し、前記入力シャフトの回転に応じて旋回回転する旋回歯車と、
前記旋回歯車の外周側において前記外歯と噛み合い、かつ、前記外歯の歯数よりも数の多い内歯ピンと、
前記旋回歯車の自転と一体に回転する回転体と、
前記内歯ピンを保持するとともに、前記回転体を当該回転体の外周側で回転可能に支持するケースと、
前記回転体の外周縁部に配置され、軸方向の一端部が前記回転体に係止され、前記旋回歯車の自転を前記回転体に伝達する複数の回転伝達ピンと、
内輪、外輪、および、転動体を有し、前記外輪が前記ケースに係止されるとともに、前記内輪が前記回転体に係止される軸受と、
を備え、
各前記回転伝達ピンは、軸方向の一端部から前記回転体の前記内輪の嵌合部よりも径方向外側に突出して、前記内輪を軸方向外側から係止する抜け規制部を有する減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットや工作機械等においては、モーター等の回転駆動源の回転を減速するために減速機が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の減速機は、回転駆動源から入力された回転を減速する減速機構と、減速機構の出力部と一体に回転する円柱状の回転体と、を備え、減速機構と回転体が円筒状のケース内に配置されている。回転体は、ケースの内周部に軸受を介して回転可能に支持されている。
【0004】
減速機構は、クランク状の偏心部を有する入力シャフトと、入力シャフトの偏心部に係合されて当該偏心部とともに旋回回転する旋回歯車と、旋回歯車の外周側に対向して配置された複数の内歯ピンと、を備えている。内歯ピンは、ケースの内周面に保持されている。旋回歯車は、内歯ピンの数よりも歯数の少ない外歯を有し、入力シャフトの回転に伴う旋回回転によって外歯が内歯ピンと噛み合い状態で当接する。このとき、旋回歯車は、外歯の歯数が内歯ピンの数よりも少なく設定されているため、旋回歯車が一旋回する間に旋回方向と逆向きに所定のピッチだけ自転する。
【0005】
旋回歯車の外周縁部には、旋回歯車を軸方向に貫通する円形の動力伝達孔が形成され、出力側の回転体には、動力伝達孔内に挿通される回転伝達ピンが取り付けられている。回転伝達ピンは、回転体の軸心からオフセットした位置に取り付けられ、旋回歯車が自転するときに旋回歯車の動力伝達孔の内面と当接することにより、旋回歯車から回転トルクを伝達される。したがって、減速機構で減速された回転は、回転伝達ピンを通して回転体に伝達される。
【0006】
回転体をケースに回転可能に保持させる軸受は、内輪、外輪、および、転動体を有し、外輪がケースに係止され、内輪が回転体に係止されている。また、回転体は、内輪が嵌合される軸部と、軸部の一端部から径方向外側に張り出した抜け規制フランジと、軸部の他端側の外周面に形成された環状溝と、を有している。環状溝には、スナップリングが取り付けられる。内輪は、回転体の軸部に嵌合された状態において、回転体の抜け規制フランジとスナップリングとによって軸方向に抜け規制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平3-129148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の減速機は、回転体の軸部に嵌合溝が形成され、その嵌合溝にスナップリングを取り付けることによって、回転体の軸方向の一方の変位が規制されている。このため、上記の減速機では、回転体の構造が複雑になるうえ、スナップリング等の専用の抜け規制部品を組み付ける必要があり、このことが減速機の軸長の短縮化と製造コストの低減を図るうえでの支障となっていた。
【0009】
本発明は、軸長の短縮化と製造コストの低減を図ることができる減速機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る減速機は、減速機構と、前記減速機構で減速された回転を出力する回転体と、前記回転体の外周縁部に配置され、前記減速機構で減速された回転を前記回転体に伝達する複数の回転伝達ピンと、前記回転体を当該回転体の外周側で回転可能に支持するケースと、内輪、外輪、および、転動体を有し、前記外輪が前記ケースに固定されるとともに、前記内輪が前記回転体に固定される軸受と、を備え、各前記回転伝達ピンは、軸方向の一端部から前記回転体の前記内輪の嵌合部よりも径方向外側に突出して、前記内輪を軸方向外側から係止する抜け規制部を有する
【0011】
上記の構成により、軸受の軸方向の移動が回転伝達ピンによって制限される。このため、本態様に係る減速機を採用した場合には、専用の規制部材を設けたり、回転体の構造を複雑化することなく、軸受の軸方向の抜けを規制することができる。
【0013】
この場合、軸受の内輪が、回転伝達ピンの抜け規制部によって軸方向外側から係止される。このため、専用の規制部材を設けたり、回転体の構造を複雑化することなく、内輪の軸方向の抜けを規制することができる。
【0015】
この場合、回転伝達ピンの抜け規制部により、回転伝達ピン自体の回転体からの抜けと、軸受の内輪の抜けと、を規制することができる。このため、回転伝達ピンの形状を複雑にすることなく、軸受の内輪の抜けを確実に規制することができる。
【0016】
前記回転体の前記抜け規制部の位置される側の軸方向の端面には、軸方向外側と径方向内側に開口し、前記抜け規制部の一部を収容する凹部が設けられるようにしても良い。
【0017】
この場合、回転伝達ピンの抜け規制部が、回転体の端面の凹部に収容されるため、回転体の軸方向の端面からの抜け規制部の突出を抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、減速機の軸長のさらなる短縮を図ることができる。
【0018】
前記回転伝達ピンの軸方向の一端部前記凹部の間には、前記回転伝達ピンの回転を規制する回転規制部が存在するようにしても良い。
【0019】
この場合、回転伝達ピンがピン軸周りに回転することより、回転伝達ピンが回転体から位置ずれするのを抑制することができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る減速機は、外部から回転を入力される入力シャフトと、外周に外歯を有し、前記入力シャフトの回転に応じて旋回回転する旋回歯車と、前記旋回歯車の外周側において前記外歯と噛み合い、かつ、前記外歯の歯数よりも数の多い内歯ピンと、前記旋回歯車の自転と一体に回転する回転体と、前記内歯ピンを保持するとともに、前記回転体を当該回転体の外周側で回転可能に支持するケースと、前記回転体の外周縁部に配置され、軸方向の一端部が前記回転体に係止され、前記旋回歯車の自転を前記回転体に伝達する複数の回転伝達ピンと、内輪、外輪、および、転動体を有し、前記外輪が前記ケースに係止されるとともに、前記内輪が前記回転体に係止される軸受と、を備え、各前記回転伝達ピンは、軸方向の一端部から前記回転体の前記内輪の嵌合部よりも径方向外側に突出して、前記内輪を軸方向外側から係止する抜け規制部を有する。
【0021】
本態様に係る減速機は、入力シャフトに外部から回転が入力されると、入力シャフトの回転に応じて旋回歯車が旋回回転する。このとき、旋回歯車は、外歯が内歯ピンに噛み合った状態で旋回する。内歯ピンの数は旋回歯車の外歯の歯数よりも多く設定されているため、旋回歯車は、一旋回する間に所定のピッチで自転する。旋回歯車の自転は、回転伝達ピンを通して回転体に伝達される。したがって、入力シャフトの回転は、旋回歯車で減速されて回転体に出力される。また、本態様に係る減速機の場合、回転体を回転可能に支持する軸受の内輪は、回転伝達ピンの抜け規制部によって軸方向外側から係止される。このため、本構成を採用した場合には、専用の規制部材を設けたり、回転体の構造を複雑にすることなく、内輪の軸方向の抜けを規制することができる。
【発明の効果】
【0035】
上述の減速機は、軸受の軸方向の移動が回転伝達ピンによって制限されるため、専用の抜け規制部品を追加したり、回転体の構造を複雑化することなく、軸受の抜けを規制することができる。したがって、上述の減速機を採用した場合には、軸長の短縮化と製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】第1実施形態の減速機の縦断面図。
図2】第1実施形態の減速機を出力側から見た正面図。
図3】第2実施形態の減速機の縦断面図。
図4】第2実施形態の減速機を出力側から見た正面図。
図5】第2実施形態の回転伝達ピンの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下で説明する各実施形態においては、同一部分に共通符号を付して、重複する説明を一部省略するものとする。
【0038】
(第1実施形態)
最初に、図1図2に示す第1実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の減速機10の縦断面図であり、図2は、減速機10を出力側から見た正面図である。
本実施形態の減速機10は、例えば、産業用ロボットの関節可動部等にモーター等の回転駆動源とともに用いられる。減速機10の入力側には図示しない回転駆動源が接続されている。
【0039】
減速機10は、略円筒状のケース11と、ケース11の軸心部に回転可能に配置された入力シャフト12と、入力シャフト12の回転を減速する減速機構13と、減速機構13で減速された回転を出力する出力回転体14(回転体)と、を備えている。
【0040】
ケース11は、ロボットの関節可動部等に取り付けられるケース本体部11Aと、ケース本体部11Aの軸方向の一方の端面にボルト15によって締結固定された円環状の端部ブロック11Bと、を有する。
【0041】
入力シャフト12は、軸方向の一端部側に図示しない回転駆動源が接続され、軸方向の他端部側が出力回転体14の軸心孔14aに軸受16を介して回転可能に支持されている。入力シャフト12は、軸方向の中央領域に、入力シャフト12の中心軸線o1に対して径方向に偏心した一対の偏心部12A,12Bを有する。一対の偏心部12A,12Bは、中心軸線o1の回りに位相が相互に180°ずれるように偏心している。各偏心部12A,12Bは、断面円形状に形成され、その外周面に偏心部軸受17が取り付けられている。
【0042】
減速機構13は、外周に外歯20を有し、入力シャフト12の回転に応じて旋回回転する第1旋回歯車18Aおよび第2旋回歯車18Bと、ケース本体部11Aの内周面に形成された図示しないピン溝と、そのピン溝に保持された複数の内歯ピン19と、を備えている。各内歯ピン19は、ケース本体部11Aの内周のピン溝に、中心軸線o1と平行になるように転動可能に保持されている。第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bは、ケース11の内径よりも若干小さい外径に形成されている。第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各外周面に形成された外歯20の歯数は、内歯ピン19の数よりも僅かに少なく(例えば、一つ少なく)設定されている。
【0043】
第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各中心部には、それぞれ所定内径の貫通孔21が形成されている。各貫通孔21には、入力シャフト12の各偏心部12A,12Bに取り付けられた偏心部軸受17が嵌入されている。第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bは、偏心部軸受17を介して入力シャフト12の各偏心部12A,12Bに回転可能に支持されている。
【0044】
入力シャフト12が図示しない回転駆動源から駆動力を受けて回転すると、入力シャフト12の各偏心部12A,12Bが所定の半径で同方向に旋回し、それに伴って第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bが同じ半径で同方向に旋回する。このとき、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各外歯20が、ケース本体部11Aの内周に保持された複数の内歯ピン19と噛み合うように接触する。本実施形態の減速機構13は、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各外歯20の歯数が、ケース本体部11Aの内歯ピン19の数よりも僅かに少なく設定されているため、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bが一旋回する間に、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bがケース本体部11Aの内歯ピン19から回転方向の反力を受け、旋回方向と逆方向に所定のピッチ分だけ自転する。したがって、本実施形態の減速機構13では、入力シャフト12の回転が所定の減速比に減速されて第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bを自転させる。
【0045】
出力回転体14は、中心部に軸心孔14aを有する短軸円柱状に形成されている。出力回転体14は、ケース11内の第2旋回歯車18Bと隣接する位置に配置されている。出力回転体14は、換言すれば、ケース11内の減速機構13の位置される側と逆側の軸方向の端部領域に配置されている。出力回転体14は、例えば、クロスローラーベアリング等の軸受22を介してケース11に回転可能に支持されている。軸受22は、内輪22iおよび外輪22oと、これらの間で転動する転動体22rと、を有する。
【0046】
また、出力回転体14の外周縁部には、複数のピン嵌入孔23が円周方向に等間隔に離間して形成されている。複数のピン嵌入孔23は、出力回転体14の軸心(入力シャフト12の中心軸線o1)を中心とした同心円上に配置されている。各ピン嵌入孔23は、出力回転体14の軸心(入力シャフト12の中心軸線o1)と平行になるように出力回転体14を貫通している。各ピン嵌入孔23には、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの自転を出力回転体14に伝達するための回転伝達ピン24が嵌入されている。回転伝達ピン24は、略一定外径の軸部24aと、軸部24aの軸方向の一端側から径方向外側に張り出すフランジ部24bと、軸部24aの軸方向の他端側から軸部24aと同軸に突出する雄ねじ部24cと、を有する。雄ねじ部24cは、軸部24aよりも小径に形成され、外周面に雄ねじが切られている。
【0047】
第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの出力回転体14の各ピン嵌入孔23に対応する位置には、ピン嵌入孔23よりも内径の大きい円形の回転伝達孔25が形成されている。第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各回転伝達孔25には、対応する回転伝達ピン24の軸部24aが挿通されている。回転伝達ピン24の軸部24aは、基部側が出力回転体14のピン嵌入孔23に嵌合され、先端部側が第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの各回転伝達孔25に挿通されている。軸部24aの先端側の外周面には、外周面の摩擦抵抗の小さい一対の摺動リング26が嵌合されている。各摺動リング26は、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bが前述のように旋回回転しつつ自転する際に、対応する回転伝達孔25の内面に摺接する。これにより、第1旋回歯車18Aと第2旋回歯車18Bの自転の回転力を回転伝達ピン24に伝達する。回転伝達ピン24に伝達された回転力は、回転伝達ピン24の軸方向の一端側を保持する出力回転体14に伝達される。
【0048】
また、減速機10の出力回転体14の位置される側と逆側の軸方向の端部には、円環状の端部プレート27が配置されている。端部プレート27には、複数の挿通孔28が形成されている。各挿通孔28には、第1旋回歯車18Aの回転伝達孔25から突出した回転伝達ピン24の雄ねじ部24cが挿通されている。挿通孔28から突出した雄ねじ部24cの先端部には締結用のナット29が締め込まれている。これにより、端部プレート27は、複数の回転伝達ピン24の端部に一体に締結固定されている。したがって、端部プレート27は、出力回転体14と常時一体に回転する。
【0049】
ここで、出力回転体14をケース11に回転可能に支持させる軸受22は、外輪22oがケース11の内周部に係止されるとともに、内輪22iが出力回転体14の外周部に係止されている。
【0050】
ケース11は、ケース本体部11Aと端部ブロック11Bとの突合せ部の内周側に、両者に跨るように環状溝40が形成されている。環状溝40は、矩形状の断面形状に形成され、径方向内側に開口している。環状溝40には、軸受22の外輪22oが装着されている。外輪22oは、端部ブロック11Bがケース本体部11Aに複数のボルト15によって締結固定されることにより、軸方向に予圧が付与されている。
【0051】
一方、出力回転体14の外周部には、軸受22の内輪22iの嵌合される軸部14bと、軸部14bの軸方向内側(第2旋回歯車18Bの位置される側)の端部から径方向外側に張り出す規制フランジ14cと、が形成されている。軸部14bには、軸受22の内輪22iが嵌合され、その状態で内輪22iの軸方向内側の端面が規制フランジ14cに当接している。これにより、内輪22iの軸方向内側の変位が規制されている。また、軸部14bの軸長(出力回転体14の軸方向外側の端面から規制フランジ14cまでの長さ)は、内輪22iの軸長よりも長く設定されている。したがって、内輪22iが軸部14bに組付けられた状態では、内輪22iの軸方向外側の端面は、出力回転体14の軸方向外側の端面よりも軸方向内側に窪んだ位置に配置されている。
【0052】
また、出力回転体14の軸方向外側の端面には、軸方向に所定深さで窪む複数の凹部30が形成されている。各凹部30の底面には、ピン嵌入孔23の端部が開口している。また、各凹部30は、図2に示すように、出力回転体14の正面視で略方形状に形成され、出力回転体14の径方向外側方向に開口している。各凹部30には、ピン嵌入孔23に嵌入された回転伝達ピン24のフランジ部24bが収容されている。
【0053】
本実施形態の場合、回転伝達ピン24のフランジ部24bは、軸部24aから径方向外側に円形状に張り出している。フランジ部24bの外径は、当該フランジ部24bの外縁部が出力回転体14の軸部14bよりも径方向外側に突出するように設定されている。フランジ部24bの外縁部は、雄ねじ部24cにナット29が締め込まれて回転伝達ピン24が出力回転体14に固定された状態において、軸受22の内輪22iの軸方向外側の端面を軸方向外側から係止する。本実施形態においては、フランジ部24bが、内輪22iを軸方向外側から係止する抜け規制部を構成している。
なお、図中の符号41は、出力回転体14に連結される回転部材の締結孔である。
【0054】
以上のように、本実施形態の減速機10は、軸受22の内輪22iが、回転伝達ピン24の抜け規制部(フランジ部24b)によって軸方向外側から係止されている。このため、専用の抜け規制部品を追加したり、出力回転体14の構造を複雑化することなく、軸受22の内輪22iの抜けを規制することができる。したがって、本実施形態の減速機10を採用した場合には、減速機10の軸長の短縮化と製造コストの低減を容易に図ることができる。
【0055】
特に、本実施形態の減速機10では、抜け規制部が回転伝達ピン24の軸方向の一端部から径方向外側に張り出すフランジ部24bによって構成されているため、回転伝達ピン24の形状を複雑にすることなく、内輪22iの軸方向の抜けを確実に規制することができる。即ち、出力回転体14からの回転伝達ピン24の抜けを規制するフランジ部24bによって内輪22iの抜けを規制するため、フランジ部24bの外径を拡大するだけで、内輪22iの軸方向の抜けを確実に規制することができる。
【0056】
また、本実施形態の減速機10では、出力回転体14の軸方向外側の端面に凹部30が設けられ、その凹部30に回転伝達ピン24のフランジ部24bの一部が収容されている。このため、出力回転体14の端面からフランジ部24bが軸方向に突出するのを抑制することができる。したがって、本構成を採用した場合には、減速機10の軸長をより短縮することができる。
【0057】
(第2実施形態)
つづいて、図3図5に示す第2実施形態について説明する。
図3は、本実施形態の減速機110の縦断面図であり、図4は、減速機110を出力側から見た正面図である。図5は、本実施形態の回転伝達ピン124の斜視図である。
本実施形態の減速機110は、略円筒状のケース11と、ケース11の軸心部に回転可能に配置された入力シャフト12と、入力シャフト12の回転を減速する減速機構13と、減速機構13で減速された回転を出力する出力回転体14(回転体)と、を備えている。本実施形態の減速機110は、基本構成は第1実施形態とほぼ同様であるが、ケース11の一部と、出力回転体14に取り付けられる回転伝達ピン124の形状が第1実施形態のものと異なっている。
【0058】
ケース11のケース本体部11Aは、図3に示すように、軸方向内側の端部領域(減速機構13の位置される側の軸方向の端部領域)の外周面に、産業用ロボット等の減速機110を設置する装置の設置ベース部材50が嵌合されている。ケース本体部11Aの軸方向内側の端部領域には、段差状の縮径部55が形成されている。より具体的には、ケース本体部11Aの軸方向外側領域には、基本外径部54が形成されており、その基本外径部54の軸方向内側に、基本外径部54よりも外径の小さい縮径部55が形成されている。ケース本体部11Aの縮径部55の内側には、内歯ピン19を保持するピン溝が形成されている。
【0059】
設置ベース部材50は、円筒状に形成され、ケース本体部11Aの縮径部55の外周面に軸方向内側から嵌合固定される。これにより、ケース本体部11A(ケース11)は、円筒状の設置ベース部材50によって補強され、入力荷重による変形を抑制される。本実施形態では、ケース本体部11Aの縮径部55が、ベース嵌合部を構成している。
【0060】
円筒状の設置ベース部材50の肉厚は、ケース本体部11Aの基本外径部54と縮径部55の外径差とほぼ同じに設定されている。このため、ケース本体部11Aの縮径部55に設置ベース部材50が嵌合されると、設置ベース部材50の外周面と、ケース本体部11Aの外周面がほぼ連続することになる。
【0061】
設置ベース部材50の材質は、ケース本体部11A(ケース11)よりもヤング率の高い材料とすることが望ましい。このような材質を選定した場合には、ケース本体部11A(ケース11)の変形をより効率良く抑制することができる。
また、設置ベース部材50の材質は、ケース本体部11A(ケース11)よりも線膨張係数の小さい材質とすることが望ましい。このような材質を選定した場合には、温度上昇によって設置ベース部材50によるケース本体部11A(ケース11)の拘束が低下するのを抑制することができる。
【0062】
また、回転伝達ピン124は、第1実施形態のものと同様に、略一定外径の軸部124aと、軸部124aの軸方向の一端側から径方向外側に張り出すフランジ部124bと、軸部124aの軸方向の他端側から軸部124aと同軸に突出する雄ねじ部124cと、を有する。ただし、フランジ部124bは、外周面の一部に直線状の面取り部60が設けられている。本実施形態では、面取り部60が一つのみ設けられ、フランジ部124bが正面視で略D状を成すように形成されている。フランジ部124bは、出力回転体14の端面の凹部30内に収容された際に、凹部30の平坦な側壁30a(規制面)と当接可能とされている。したがって、フランジ部124bが凹部30内に所定の向きで収容されると、フランジ部124bの面取り部60が凹部30の側壁30aと当接することにより、回転伝達ピン124が出力回転体14に回り止めされる。
本実施形態では、フランジ部124bの面取り部60と凹部30の側壁30a(規制面)とが、回転伝達ピン124の回転を規制する回転規制部を構成している。
【0063】
以上のように、本実施形態の減速機110は、基本的な構成は第1実施形態の減速機10と同様であるため、第1実施形態の減速機10とほぼ同様の基本的な効果を得ることができる。
【0064】
また、本実施形態の減速機110は、ケース11の減速機構13の位置される側の軸方向の端部領域に、ベース嵌合部を成す縮径部55が形成され、その縮径部55の外周面に円筒状の設置ベース部材50が嵌合されている。このため、減速機110の作動に伴うケース11の減速機構側領域の変形を設置ベース部材50によって抑制することができる。
【0065】
ケースの軸方向の端部領域に設置ベース部材が嵌合されていない従来の減速機では、減速機の作動に伴って減速機構からケースに大きな荷重が作用すると、ケースが変形して性能の低下の原因となり易い。特に、本実施形態のように、出力回転体14が減速機構13から離間した位置で片持ちでケース11に軸受支持される減速機では、ケース11のうちの、軸受22の配置されていない減速機構13側部分にケース11の壁を径方向外側に広げるような荷重が作用し易い。本実施形態の減速機110は、このような不都合を解消することも課題として案出されている。
【0066】
また、本実施形態の減速機110では、ケース11の減速機構13の位置される側の軸方向の端部領域の外周に段差状の縮径部55が形成され、その縮径部55がベース嵌合部とされている。このため、設置ベース部材50の外周面と、ケース11の基本外径部54との外径の差を小さくすることができる。したがって、本構成を採用した場合には、減速機110を設置ベース部材50に取り付けた状態において、装置全体をコンパクト化できるととともに、外観も良好にすることができる。
【0067】
さらに、本実施形態の減速機110は、減速機構13の自転を出力回転体14に伝達する回転伝達ピン124と、出力回転体14との間に、回転伝達ピン124の回転を規制する回転規制部(回転伝達ピン124の面取り部60、および、凹部30の側壁30a)が設けられている。このため、経時使用によって回転伝達ピン124が回転して、回転伝達ピン124とナット29の螺合が緩むのを抑制することができる。特に、減速機110のほぼ全体を樹脂材料によって形成した場合に、熱膨張によって出力回転体14のピン嵌入孔23と回転伝達ピン124の軸部124aとの嵌合が緩んだとき等に回転伝達ピン124の回り止めは有効となる。
【0068】
回転伝達ピンが出力回転体のピン嵌入孔に嵌合されただけの従来の減速機の場合、減速機構側から(例えば、第1旋回歯車や第2旋回歯車の回転伝達孔の壁から)回転力が回転伝達ピンに伝達されたときに、回転伝達ピンがナットに対して相対的に回転し、回転伝達ピンとナットの螺合が緩む事象が考えられる。本実施形態の減速機110は、このような不都合を解消することも課題として案出されている。
【0069】
また、本実施形態の減速機110は、回転伝達ピン124が抜け規制部であるフランジ部124bを有し、そのフランジ部124bと出力回転体14の間に、回転規制部(面取り部60と側壁30a)が設けられている。このため、回転伝達ピン124のフランジ部124bにより、軸受22の内輪22iの軸方向の抜けと、回転伝達ピン124の回転を規制することができる。
ただし、本実施形態では、フランジ部124bに回転規制部である面取り部60が形成されているが、回転規制部は、回転伝達ピン124のフランジ部124b以外の部分(例えば、軸部124a)に設けることも可能である。
【0070】
本実施形態の減速機110では、回転伝達ピン124の抜け規制部が、回転伝達ピン124の軸方向の一端部側から径方向外側に張り出すフランジ部124bによって構成されている。そして、フランジ部124bの外周面は、一つの面取り部60を有し、出力回転体14は、面取り部60と当接可能な平坦な側壁30a(規制面)を有し、回転規制部は、面取り部60と側壁30aによって構成されている。このため、極めて簡単な構成により、出力回転体14に対する回転伝達ピン124の回転を規制することができる。
ただし、フランジ部124bに形成する面取り部60は、一つに限るものでなく、二つ以上であっても良い。
【0071】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、出力回転体14と端部プレート27を出力回転体14側の一つの軸受22によってケース11に回転可能に支持させているが、出力回転体14と端部プレート27をそれぞれ別の軸受によってケース11に回転可能に支持させる場合には、出力回転体14の規制フランジ14cは省略することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
10,110…減速機、11…ケース、12…入力シャフト、13…減速機構、14…出力回転体(回転体)、18A…第1旋回歯車(旋回歯車)、18B…第2旋回歯車(旋回歯車)、19…内歯ピン、20…外歯、22…軸受、22i…内輪、22o…外輪、22r…転動体、24,124…回転伝達ピン、24b,124b…フランジ部(抜け規制部)、29…ナット、30…凹部、30a…側壁(規制面,回転規制部)、50…設置ベース部材、55…縮径部(ベース嵌合部)、60…面取り部(回転規制部)
図1
図2
図3
図4
図5