(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ワーク保持装置
(51)【国際特許分類】
B23F 23/06 20060101AFI20230907BHJP
B23Q 3/06 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B23F23/06
B23Q3/06 304F
(21)【出願番号】P 2019127348
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591092615
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトギヤシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 修
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-132416(JP,A)
【文献】特開2015-039766(JP,A)
【文献】特開2003-117726(JP,A)
【文献】特開平02-139116(JP,A)
【文献】特開昭59-030629(JP,A)
【文献】特開昭58-186523(JP,A)
【文献】特表2015-528548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0036791(US,A1)
【文献】独国実用新案第202010005564(DE,U1)
【文献】中国実用新案第203459774(CN,U)
【文献】特開昭49-019485(JP,A)
【文献】実開昭57-199430(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
B23Q 3/00-3/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車であるワークを保持するワーク保持装置であって、
前記ワークの内周面に設けられた肩部に係合可能な肩部係合部と、
前記ワークの背面に対向する平坦面を備え、前記平坦面において前記ワークを支持するワーク支持部と、
前記肩部係合部を、前記ワーク支持部に向かって押し付ける押付装置と
を含むワーク保持装置
であって、
前記押付装置が、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって引き込む引込装置を含み、
前記引込装置が、駆動源と、前記駆動源により軸線方向に移動可能な引込ロッドとを含み、前記引込ロッドを前記軸線方向に引き込むことにより、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって押し付けるワーク保持装置。
【請求項2】
前記肩部係合部と前記引込ロッドとが、前記肩部係合部と前記引込ロッドとが互いに前記軸線方向に相対移動可能な非係合状態と、前記肩部係合部と前記引込ロッドとが前記軸線方向に一体的に移動可能な係合状態とに切換え可能に設けられた
請求項1に記載のワーク保持装置。
【請求項3】
当該ワーク保持装置が、前記ワークの内周面を規定する内周規定部材を含み、
前記引込装置が、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって引き込むとともに、前記内周規定部材に前記軸線方向の押付力を付与するものである
請求項1または2に記載のワーク保持装置。
【請求項4】
前記引込装置が、前記肩部係合部と前記内周規定部材との間に設けられた弾性部材を含み、前記弾性部材を介して前記内周規定部材に前記押付力を付与するものである
請求項3に記載のワーク保持装置。
【請求項5】
前記肩部係合部が、前記肩部に当接可能な肩部押さえ部材と、前記肩部押さえ部材を保持する保持部材と、前記肩部押さえ部材と前記保持部材との間に設けられ、前記肩部押さえ部材の前記保持部材に対する軸線方向の相対位置を調整可能な調整部とを含む
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【請求項6】
前記肩部押さえ部材が、外周部に設けられ、前記肩部に当接可能な当接部と、内周部に設けられた雌ねじ部とを含み、
前記保持部材が、概して軸線方向に伸びた円筒状を成し、外周部に設けられ、前記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部を含み、
前記調整部が、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部とを含む
請求項5に記載のワーク保持装置。
【請求項7】
前記ワークが、前記歯車としてのまがり歯かさ歯車
である請求項1ないし6のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【請求項8】
前記ワークが、前記歯車としてのべベルギヤである請求項1ないし6のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【請求項9】
前記ワークが、前記歯車としてのハイポイドギヤである請求項1ないし6のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【請求項10】
前記ワークが、前記歯車としてのすぐ歯かさ歯車である請求項1ないし6のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【請求項11】
当該ワーク保持装置が、前記ワークの複数の歯面の研磨と、前記歯面における歯当たり位置の検査との少なくとも一方において、前記ワークを保持するものである
請求項1ないし10のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを保持するワーク保持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホブ盤に用いられるワーク保持装置が記載されている。ホブ盤において、ホブカッタによって円筒状を成すワークの外周部に歯が形成される。ワーク保持装置は、ワークの内径部に挿入されるサポートセンタと、ワークを上下方向から押さえる上部クランプ部および下部クランプ部とを含み、上部クランプ部が、ワークに対し反対側に形成された球面を有する部材と、その球面に当接可能な面を有する球面座金とを含む。ワーク保持装置において、ワークは、サポートセンタが内径部に挿入された状態で、上部クランプ部と下部クランプ部とによってクランプされるが、ワークの端面にフレがある場合には、上部クランプ部において、球面を有する部材が球面座金に対し摺動させられつつ全体として傾動する。それによって、ワークの端面のフレの影響が吸収され、サポートセンタに及び難くすることができる。したがって、ワークの端面にフレがあっても、サポートセンタで適正に芯出しした状態でワークをクランプすることが可能となり、歯溝のフレを低減することができる。
【0003】
特許文献2には、歯車であるワークのラッピングを行うラッピング装置が記載されている。このラッピング装置においては、リングギヤ(まがり歯かさ歯車)とピニオンギヤとが位相差を有して回転させられる。そのため、両歯車の歯面の間に噛合面圧を発生させてラッピング加工を施すことが可能となる。歯面の進み部では高い面圧が作用して強いラッピング加工が施され、歯面の遅れ部では低い面圧が作用して弱いラッピング加工が施されるのであり、その結果、ピッチ誤差や歯形誤差を修正することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-42183号公報
【文献】特開平11-821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、歯車の歯当たり位置の個内バラツキの低減と、歯当たり位置検査装置による検査結果と歯車を装置に組み付けた状態における歯当たり位置との差の低減との少なくとも一方を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るワーク保持装置は、歯車であるワークが背面においてワーク支持部の平坦面に支持された状態で、ワークの肩部に係合する肩部係合部をワーク支持部に向かって押し付けて、ワークを保持するものである。肩部係合部がワーク支持部に向かって押し付けられることにより、背面が平坦面に押し付けられ、平坦面に密着させられる。それにより、背面のダレ、ウネリを矯正することができる。
【0007】
一方、上記歯車は、例えば、装置としての差動装置に組み付けられることがあるが、差動装置において、歯車の背面はデフケースのフランジの平坦面に複数のボルトにより固定される。そのため、歯車が差動装置に組み付けられた状態で、歯車の背面は平坦面に密着した状態にある。
【0008】
このように、本ワーク保持装置は、背面の状態が、歯車が差動装置に組み付けられた状態と同様の状態となるように、ワークを保持するものである。また、ワーク保持装置は、ワークの背面のダレ、ウネリを矯正してワークを保持するものであるのに対して、特許文献1に記載のワーク保持装置は、背面のフレを許容しつつ端面をクランプすることにより、芯振れを抑制してワークWを保持するものであり、これらは異なる。
【0009】
以上のことから、例えば、歯当たり位置検査装置において、ワークがワーク保持装置により保持され、背面が平坦面に密着させられた状態で、ワークの歯当たり位置の検査が行われることにより、歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置と、歯車が差動装置に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置との差を小さくすることができる。
【0010】
また、例えば、ラッピング装置において、ワークがワーク保持装置により保持され、背面が平坦面に密着させられた状態で、ラッピングが行われることにより、歯面を精度よく研磨することが可能となる。その結果、歯車の複数の歯の各々の歯当たり位置のバラツキである個内バラツキを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例であるワーク保持装置の断面図である。
【
図2】上記ワーク保持装置によって保持されるワークである歯車の斜視図である。
【
図3】上記歯車が組み付けられた差動装置の断面図である。
【
図4】上記ワークの背面のダレを説明するための図である。
【
図5】上記ワーク保持装置の構成要素である保持部材を示す図である。(a)底面図である。(b)(a)のCC断面図である。(c)(a)のBB断面図である。(d)(a)のAA断面図である。
【
図6】上記ワーク保持装置の構成要素である引き込みロッドの一部を示す図である。(a)平面図である。(b)側面図である。
【
図7】(a)ワーク保持装置によって保持されることなくラッピングが行われた歯車(矯正なしラップ歯車と称する)が差動装置に組み付けられた状態において測定された歯当たり位置を示す図である。(b) ワーク保持装置によって保持された状態でラッピングが行われた歯車(矯正有りラップ歯車と称する)が差動装置に組み付けられた状態において測定された歯当たり位置を示す図である。 (c)背面研削が行われた歯車が差動装置に組み付けられた状態において測定された歯当たり位置を示す図である。
【
図8】(a)矯正有りラップ歯車について、ワーク保持装置によって保持されることなく歯当たり位置の検査が行われた結果を示す図である。(b)ワーク保持装置により保持された状態で歯当たり位置の検査が行われた結果を示す図である。(c)矯正有りラップ歯車が差動装置に組み付けられた状態で測定された歯当たり位置を示す図である。
【
図9】(a)矯正有りラップ歯車について、矯正なし検査において取得された歯当たり位置と、矯正有りラップ歯車が差動装置に組み付けられた状態で取得された歯当たり位置との変化を示す図である。(b)矯正有り検査において取得された歯当たり位置と、矯正有りラップ歯車が差動装置に組み付けられた状態で取得された歯当たり位置との変化を示す図である。
【
図10】(a)矯正なしラップ歯車のバックラッシの個内バラツキを示す図である。(b)矯正有りラップ歯車のバックラッシの個内バラツキを示す図である。
【
図11】矯正なしラップ歯車と矯正有りラップ歯車とがそれぞれ組み付けられた差動装置の振動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るワーク保持装置を図面に基づいて詳細に説明する。本ワーク保持装置は、歯車としてのまがり歯かさ歯車であるワークWに作業(例えば、切削加工、研磨、研削、検査等が該当する)が行われる場合に、ワークWを保持するものである。本明細書において、ワークWとは、作業の対象を表す場合と、作業が終了したものを表す場合とがあるが、作業が終了したワークW(例えば、装置に組み付けられた歯車)を、まがり歯かさ歯車W、または、歯車Wと称する場合もある。
【0013】
ワークであるまがり歯かさ歯車Wは、
図2に示すように、概して円筒状または円錐状を成し、軸線Lが示す方向(以下、歯車の軸線方向、または、軸線方向と称する)の一端部に複数の歯Tが形成されたものである。複数の歯Tの各々は、それぞれ、一対の歯面FA,FBを含む。また、歯車Wの軸線方向の歯Tが設けられた側と反対側の端面が背面FCである。さらに、歯車Wの内径側(小径側)をトー(Toe)側、外径側(大径側)をヒール(Heel)側と称するが、トー側の内周面は、軸線方向において段付き形状とされ、内周面の中間部に肩部としての肩面Sが設けられる。内周面のうち肩面Sより背面FC側の部分においては肩面Sより歯Tが形成される側の部分より小径とされる。
【0014】
まがり歯かさ歯車Wは、装置としての車両の差動装置に組み付けられることが多い。
図3に示すように、差動装置200において、まがり歯かさ歯車Wは、背面FCにおいて、デフケース202のフランジ204に、円周方向に隔たった複数のボルト206により固定される。背面FCは、フランジ204の平坦面204Fに密着した状態にある。また、デフケース202には、一対のピニオンギヤ210,212を保持するピニオンギヤシャフト214が一体的に回転可能に保持される。一方、左右駆動輪に連結された車軸220,222には、一体的に回転可能に差動ギヤ216,218が設けられ、これら差動ギヤ216,218は、ピニオンギヤ210,212に噛合させられる。
また、まがり歯かさ歯車Wには駆動用ピニオンギヤP(
図2にも示す)が、互いに回転軸が直交する状態で噛合させられる。駆動用ピニオンギヤPには車両の駆動源に連結されたプロペラシャフト224が一体的に回転可能に取り付けられる。
【0015】
差動装置200において、駆動用ピニオンギヤPの回転方向が異なると、歯車Wの駆動用ピニオンギヤPと当接する歯面が異なる。例えば、車両が前進する方向に駆動用ピニオンギヤPが回転させられる場合に、歯車Wの、駆動用ピニオンギヤPの歯面と当接する歯面FA,FB(
図2参照)の一方を前進面(または加速面)と称し、車両が後退する方向に駆動ピニオンギヤPが回転させられる場合に、駆動ピニオンギヤPと当接する歯面FA,FBの他方を後退面(または減速面)と称する。
【0016】
ワークWについては、切削加工により歯が形成された後に、焼き入れが行われ、その後、ラッピング装置においてラッピング(研磨)が行われる。ラッピングにおいて、ワークWと駆動用ピニオンギヤP(差動装置200においてワークWと噛合させられるものである)とが、これらの間に研磨剤(ラッピングオイル)が供給されつつ、互いに噛合した状態で回転させられる。また、駆動用ピニオンギヤ(以下、単に、ピニオンギヤと称する場合がある)Pが正方向と逆方向との両方向に回転させられることにより、歯面FA,FBの両方の研磨が行われる。
【0017】
ラッピングが行われたワークWについては、歯面FA,FBの各々における歯当たり位置の検査が歯当たり位置検査装置において行われる。歯当たり位置の検査において、ワークWの複数の歯Tのうちの一部の(例えば、互いに中心角90°隔たった位置にある)歯の歯面に塗料(光明丹と称する。以下、同様とする)を塗布し、ピニオンギヤPと噛合させる。歯面FA,FBの各々において、ピニオンギヤPが当接した部分は光明丹が剥げる。その光明丹が剥げた部分が歯当たり部Hとされ、その歯当たり部Hの重心点Gの位置が歯当たり位置として取得される。この場合において、ピニオンギヤPが両方向に回転させられることにより、前進面、後退面(歯面FA,FB)の各々における歯当たり位置が取得される。歯当たり位置は、例えば、重心点Gの歯面FA,FBの各々のトー側またはヒール側からの距離や歯先または歯底からの距離等で表すことができる。本明細書において、歯当たり位置検査装置による検査が行われ、作業者による歯当たり位置の測定により取得された歯当たり位置を、歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置、または、単に、検査結果と称する場合がある。また、歯当たり位置は、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態においても取得される。
【0018】
近年、燃費向上、排出ガスの抑制等により、車両の軽量化が図られ、差動装置200の軽量化が図られる。まがり歯かさ歯車Wの薄肉化が図られ、焼き入れに伴う歪の歯面への影響が大きくなる。例えば、焼き入れ時の歪により、ワークWについて歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置と、ワークWが差動装置200に組み付けられた状態で取得された歯当たり位置との差が大きくなる。
【0019】
一方、歯車Wの評価は、歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置に基づいて行われるが、歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置と、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置との再現性が要求される。そのため、歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置と、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置との差の低減が求められる。
また、歯面FA,FBの各々の歯当たり位置は、予め定められた範囲内に位置することが要求される。そのため、歯車Wの複数の歯面FA,FBの各々の歯当たり位置のバラツキである個内バラツキの低減が求められる。
【0020】
そして、種々の実験等により、歯車Wについて歯当たり位置検査装置において取得された歯当たり位置と、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置との差は、歯車Wの背面FCの半径方向の傾き(ダレと称する。
図4に示す。)の影響を大きく受けることが分かった。また、歯当たり位置の個内バラツキは背面FCのウネリ(背面FCにおけるダレ量の変化、面フレ)の影響を大きく受けることが分かった。
そこで、ラッピングが行われる場合、歯当たり位置の検査が行われる場合に、ワークWを、背面FCのダレ、ウネリを矯正して保持するワーク保持装置10が得られたのである。
【実施例】
【0021】
以下、ラッピング装置に用いられるワーク保持装置10の一例を
図1に示す。ラッピング装置は、本体12、本体12に対してベアリング13を介して回転可能に保持された主軸(スピンドル)14、主軸14を回転させる回転駆動装置18等を含む。主軸14には、ワーク保持装置10が一体的に回転可能に取り付けられる。回転駆動装置18は、モータ20と、モータ20の回転を主軸14に伝達する回転伝達機構21とを含む。回転駆動装置18は、主軸14の回転にブレーキ力を付与することもできる。
【0022】
ワーク保持装置10は、ワークWを背面FCにおいて支持するワーク支持部26と、ワークWの内周面を規定する内周規定部材30と、ワークWの肩面Sに係合可能な肩部係合部としての肩面係合部32と、肩面係合部32をワーク支持部26に向かって押し付ける押付装置34とを含む。ワーク保持装置10は、ワーク保持治具、背面矯正治具と称することができる。
【0023】
ワーク支持部26は、軸線Mが示す方向(以下、ワーク保持装置の軸線方向、または、軸線方向と称する)に伸びた概して中空の筒状を成し、軸線方向に並んで大径部26a、中径部26b、小径部26cを有する段付き形状を成す。大径部26aの端面に背面FCに対向する平坦面24が形成される。平坦面24は、概して円環状を成し、背面FCのほぼ全体と面接触可能な面である。本実施例において、平坦面24は、ほぼ背面FCに対応する形状、大きさの面である。また、小径部26cは、先端部に向かうにつれて半径が小さくなる傾斜部とされ、小径部26cにおいて主軸14に一体的に回転可能に取り付けられる。
【0024】
内周規定部材30は、概して円環の板状を成し、軸線方向に押付力が加えられることにより、主として半径方向に弾性変形可能なものである。内周規定部材30の外周面がワークWの内周面に当接することにより、ワークWの内周面の位置が規定され、ワークWの中心位置が規定される。そのため、内周規定部材30を中心位置規定部材、芯出し部材と称することもできる。
【0025】
肩面係合部32は、肩面Sに当接可能な肩部押さえ部材としての肩面押さえ部材40と、肩面押さえ部材40を保持する保持部材42と、肩面押さえ部材40の軸線方向の位置を規定する位置決め部材44とを含む。
【0026】
肩面押さえ部材40は、中央に貫通穴を有し、概してかさ状を成す。肩面押さえ部材40の外周部が曲げられて、円環状の当接部50とされ、円環状の当接部50のワーク支持部26に対向する面がワークWの肩面Sに当接する。肩面押さえ部材40は、ワークWの肩面Sの内周側の部分を覆う形状を成す。そのため、肩面押さえ部材40を蓋部材と称することができる。また、肩面押さえ部材40の内周部には雌ねじ部40sが形成される。
【0027】
保持部材42は、軸線方向に伸び、概して中空筒状を成す。保持部材42の外周部には雌ねじ部40sと螺合する雄ねじ部42sが形成され、内周部の軸線方向の中間部には、
図5(a)~(d)に示すように、内周側に突出する凸部52が複数個、互いに間隔を隔てて形成される。本実施例において、凸部52は、中心角120°ずつ隔たった位置に3個設けられる。3つの凸部52は、それぞれ、扇形を成し、凸部52が位置しない隙間42pは、
図5(a)に示すように、放射線状に凹んだ3個の凹部54を有する形状を成す。また、
図5(d)に示すように、凸部52の各々の周方向の一端部には、それぞれ、ストッパ52sが設けられる。
また、保持部材42の側壁には、軸線方向および周方向に互いに間隔を隔てて、半径方向に貫通するボルト穴56が複数設けられる。
【0028】
位置決め部材44は、概して有底筒状を成し、内周部に雄ねじ部42sに螺合する雌ねじ部44sが形成されたものである。位置決め部材44はナット部と称することができる。また、位置決め部材44の筒部の側壁には1つのボルト穴58が半径方向に貫通して形成される。
【0029】
保持部材42の雄ねじ部42sと肩面押さえ部材40の雌ねじ部40s、位置決め部材44の雌ねじ部44sとの螺合により、保持部材42に、肩面押さえ部材40が取り付けられるとともに、位置決め部材44が取り付けられる。雄ねじ部42sと雌ねじ部40sとにより、保持部材42に対する肩面押さえ部材40の軸線方向の位置が調整され、位置決め部材44が、肩面押さえ部材40に当接する位置に取り付けられる。そして、ボルト穴58と複数のボルト穴56の1つとを貫通して図示しないセットボルトが螺合させられることにより、位置決め部材44と保持部材42との軸線方向の相対位置が決まり、その結果、位置決め部材44と肩面押さえ部材40との軸線方向の相対位置が決まる。本実施例において、肩面押さえ部材40、保持部材42、位置決め部材44は、軸線方向に一体的に移動可能とされる。また、保持部材42の雄ねじ部42sおよび肩面押さえ部材40の雌ねじ部40s等により、保持部材42に対する肩面押さえ部材40の軸線方向の相対位置を決める調整部60が構成される。
【0030】
押付装置34は、本実施例において、引込ロッド64と、駆動源としてのシリンダ66とを備えた引込装置34である。引込装置34は、肩面係合部32を矢印Pの方向に引き込むことにより、肩面係合部32をワーク支持部26に向かって押し付けるものである。シリンダ66は、引込ロッド64の回転を許容しつつ、軸線方向に移動させるものである。
引込ロッド64は、軸線Mに沿って伸びたものであり、本実施例においては、複数の部材が連結されて構成される。引込ロッド64は、軸線方向に伸びたロッド本体72と、一端部に設けられ、肩面係合部32に係合可能なロッド側係合部70と、他端部に設けられたシリンダ66への連結部71とを含む。
【0031】
ロッド側係合部70は、
図6に示すように、ロッド本体72から外周側に放射線状に突出した複数の凸部74を含む。凸部74は、本実施例において、中心角120°間隔で設けられ、保持部材42の凸部52によって規定される凹部54に対応する形状、すなわち、ロッド係合部70は隙間42pに挿入可能な形状を成す。凸部74のワーク支持部側の面76は、上述の保持部材42の凸部52の位置決め部材側の面78(
図5参照)に係合可能とされる。
【0032】
引込ロッド64と肩面係合部32の保持部材42とが、ロッド側係合部70と隙間42pとが対応する相対位相(非係合位相)にある場合において、引込ロッド64と肩面係合部32とが互いに軸線方向に相対移動可能な非係合状態となる。非係合状態において、ロッド側係合部70が保持部材42の内周側に挿入したり、保持部材42から離脱したりすることが可能とされる。
そして、ロッド側係合部70が保持部材42の凸部52より位置決め部材44側の位置にある場合に、引込ロッド64と保持部材42とが相対回転可能とされる。そして、引込ロッド64と保持部材42とが、凸部74が凸部52に対応する相対位相(係合位相)にある場合に、引込ロッド64と肩面係合部32とが軸線方向に一体的に移動可能な係合状態となる。係合状態において、引込ロッド64の引込みに伴って引込ロッド64の凸部74の面76と保持部材42の凸部52の面78とが当接させられ、肩面係合部32が引き込まれる。
また、ロッド側係合部70の引込ロッド64に対する相対回転限度は、凸部74のストッパ52sへの当接により規定される。
【0033】
シリンダ66は、市販品である回転油圧シリンダ(豊和工業株式会社製 回転油圧シリンダHH4C)である。シリンダ66は、ディストリビュータ90とシリンダ部92とを含み、ディストリビュータ90の本体がラッピング装置の本体12に固定されるとともに、ディストリビュータ90の本体にシリンダ部92が相対回転可能に保持される。シリンダ部92は、シリンダ本体94と、シリンダ本体94に液密かつ軸線方向に相対移動可能に嵌合されたピストン95とを含み、ピストン95のピストンロッド96に引込ロッド64が連結部71において連結される。また、ピストンロッド96の外周部に液密にロッドカバー98が設けられる。これらシリンダ本体94、ピストン95、ロッドカバー98は、主軸14にボルト等を介して、一体的に回転可能に取り付けられる。また、シリンダ本体94とロッドカバー98とによって設けられる液室の内部は、ピストン95により2つの2つの油圧室100,102に仕切られる。
【0034】
ディストリビュータ90には、切換えバルブ110を介して、低圧源112と高圧源114とが接続される。切換えバルブ110の制御により、油圧室102に低圧源112が連通させられ、油圧室100に高圧の油圧が供給される状態と、油圧室100に低圧源112が連通させられ、油圧室102に高圧の油圧が供給される状態とに切換えられる。
油圧室100に高圧の油圧が供給され、油圧室102から排出させられることにより、引込ロッド64が矢印P方向に引き込まれる。引込ロッド64には、シリンダ66により、ワークWの背面FCのダレ、ウネリを良好に矯正可能な引込力が付与される。油圧室102に高圧の油圧が供給され、油圧室100から排出させられることにより引込ロッド64が矢印Pとは反対方向に押し出される。引込ロッド64に加えられた引込力が解除される。
【0035】
また、肩面係合部32の保持部材42の凸部52のワーク支持部26側の面80と、内周規定部材30との間には弾性部材としてのさらばね116と、内周規定部材30を押圧する押圧部材118とが軸線方向に並んで設けられる。さらばね116、押圧部材118は、概して環状を成す。押圧部材118は、さらばね116を介して加えられた軸線方向の押付力を内周規定部材30に伝達するものである。
【0036】
ラッピング装置は、ピニオンギヤPを回転駆動する回転駆動装置120を含む。回転駆動装置120は、回転駆動源としての電動モータ122と、電動モータ122の回転をピニオンギヤPを保持する保持軸に伝達する回転伝達装置124とを含む。
また、ラッピング装置には、図示を省略するが、研磨剤(ラッピングオイル)を供給する研磨剤供給装置が設けられる。研磨剤供給装置によって、ピニオンギヤPとワークWとが噛合する部分に研磨剤が供給される。
【0037】
以上のように構成されたラッピング装置において、ラッピングが行われる場合には、ワークWはワーク保持装置10により保持される。ワーク支持部26が主軸14に嵌合され、引込ロッド64が、さらばね116、押圧部材118、内周規定部材30を貫通する状態で取り付けられる。ワークWは、ワークWの軸線Lとワーク保持装置10の軸線Mとが一致する姿勢で、背面FCがワーク支持部26の平坦面24に当接した状態で支持される。この状態で、引込ロッド64はワークWの内周部を通って位置する。また、引込ロッド64には肩面係合部32が取り付けられ、係合状態とされる。
【0038】
シリンダ66の駆動により引込ロッド64が引き込まれる。それにより、さらばね116が弾性変形させられ、内周規定部材30に軸線方向の押付力が加えられて、半径方向に弾性変形させられる。内周規定部材30の外周面がワークWの内周面に当接させられ、ワークWの内周面の位置が規定され、中心位置が規定される。また、肩面係合部32が肩面Sに当接し、ワーク支持部26に向かって押し付けられる。背面FCが平坦面24に押し付けられ、平坦面24に密着させられる。それにより、背面FCのダレ、ウネリが矯正される。また、さらばね116により、肩面Sに加えられる押付力と内周規定部材30に加えられる押付力とが調整される。
【0039】
このように、ワークWがワーク保持装置10により保持された状態で、ワークWとピニオンギヤPとは、これらの噛合部分に研磨剤が供給されつつ、互いに回転させられる。それにより、ワークWの歯面FA,FBについてラッピングが行われる。
【0040】
次に、歯当たり位置検査装置において、ワークWについて歯当たり位置の検査が行われる。歯当たり位置検査装置は、研磨剤供給装置を含まないが、その他の部分の構造はラッピング装置とほぼ同じである。ワークWがワーク保持装置10により保持された状態において、ワークWとピニオンギヤPとが噛合した状態で、互いに回転させられる。それにより、光明丹が塗布された歯面FA,FBの歯当たり位置が求められる。
【0041】
次に、本実施例に係るワーク保持装置によって保持されて作業が行われた歯車Wについて取得された歯当たり位置について、本実施例に係るワーク保持装置によって保持されることなく作業が行われた歯車Wについて取得された歯当たり位置と比較して説明する。
【0042】
図7(a)には、ワーク保持装置10により保持されることなくラッピングが行われた歯車(以下、「矯正なしラップ歯車」と略称する。
図7において同様とする)を差動装置200に組み付けた状態(ASSY Assembly)で歯当たり位置を測定した結果を示し、
図7(b)には、ワーク保持装置10により保持された状態でラッピングが行われた歯車(以下、「矯正有りラップ歯車」と略称する。
図7,8において同様とする)を差動装置200に組み付けた状態(ASSY)で歯当たり位置を測定した結果を示す。また、
図7(c)には、矯正なしラップ歯車の背面FCを研削して、差動装置200に組み付けた状態(ASSY)で歯当たり位置を測定した結果を示す。
図7(a),(b),(c)の各々に、光明丹を塗布した面(前進面、後退面)の各々における歯当たり部Hと、その歯当たり部Hの重心点Gとを示した。そして、重心点Gのうちの最もトー側の点の位置と最もヒール側の点の位置との間隔(差の絶対値)を歯当たり位置の個内バラツキAf,Ab、Bf,Bb、Cf,Cbとして取得した。
【0043】
図7(b)に示す矯正有りラップ歯車が差動装置200に組み付けられた状態において取得された前進面、後退面の各々の歯当たり位置の個内バラツキBf、Bbは、
図7(a)に示す矯正なしラップ歯車が差動装置200に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置の個内バラツキAf,Abより小さいことが明らかである。
Bf<Af,Bb<Ab
特に、矯正有りラップ歯車が差動装置200に組み付けられた状態において取得された後退面の歯当たり位置の個内バラツキBbが小さいことが明らかである。
【0044】
また、
図7(b)に示す歯当たり位置の個内バラツキBf,Bbは、
図7(c)に示す背面FCが研削された歯車が差動装置200に組み付けられた状態において取得された歯当たり位置の個内バラツキCf,Cbと同等またはそれより小さいことが明らかである。
Cf≧Bf,Cb≧Bb
【0045】
以上のことから、ワークWがワーク保持装置10により保持された状態でラッピングが行われることにより、歯面FA,FBの研磨が良好に行われ、歯当たり位置の個内バラツキが小さくなることが明らかである。また、矯正有りラップ歯車については、背面FCを研削した歯車以上に歯当たり位置の個内バラツキが小さくなる。その結果、ワークWがワーク保持装置10により保持された状態でラッピングが行われることにより、歯車Wの背面研削を行う必要性が低くなる。
【0046】
図8(a)には、歯当たり位置検査装置において、矯正有りラップ歯車がワーク保持装置10によって保持されることなく歯当たり位置の検査(矯正なし検査と略称する)が行われた結果を示し、
図8(b)には、矯正有りラップ歯車がワーク保持装置10により保持された状態で歯当たり位置の検査(矯正有り検査と略称する)が行われた結果を示す。
図8(a),(b)には、歯車単体(KIT)で、すなわち、差動装置200に組み付けられることなく、歯当たり位置の検査が行われた場合の結果を示した。また、
図8(c)には、矯正有りラップ歯車が差動装置200に組み付けられた状態(ASSY)で歯当たり位置が測定された結果を示す。
【0047】
また、
図8(a),(b),(c)の各々に、歯当たり部H、歯当たり部Hの重心点G、歯当たり位置の個内バラツキαf,αb、βf,βb、γf,γbを示す。また、
図8(a),(b),(c)の各々の場合の重心点Gの平均位置Gαf,Gαb、Gβf,Gβb、Gγf,Gγbをそれぞれ求め、重心点Gの平均位置の
図8(a)の場合から
図8(c)の場合への移動量(それぞれの重心点の平均位置の差の絶対値)ΔG1f,ΔG1b、
図8(b)の場合から
図8(c)の場合への移動量ΔG2f,ΔG2bを取得して、それぞれ、
図9(a),(b)に示した。
ΔG1f=|Gγf-Gαf|、ΔG1b=|Gγb-Gγb|
ΔG2f=|Gγf-Gβf|、ΔG2b=|Gγb-Gβb|
【0048】
図8(b)の場合の矯正有り検査が行われた場合の歯当たり位置の個内バラツキβf,βbが
図8(a)の場合の矯正なし検査が行われた場合の歯当たり位置の個内バラツキαf,αbより小さいことが明らかである。
βf<αf
βb<αb
このことから、歯当たり位置検査装置においてワーク保持装置10を用いることにより歯当たり位置の個内バラツキが小さくなることがわかる。
【0049】
また、
図9(a),(b)に示すように、重心点Gの平均位置の
図8(b)の場合から
図8(c)の場合への移動量ΔG2f、ΔG2bは重心点Gの平均位置の
図8(a)の場合から
図8(c)の場合への移動量ΔG1f,ΔG1bより小さいことが明らかである。
ΔG2f<ΔG1f
ΔG2b<ΔG1b
このように、歯当たり位置の検査においてワーク保持装置10を用いることにより、検査結果を、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態において測定された歯当たり位置に近づけることができる。その結果、歯当たり位置検査装置において、ワーク保持装置10によって保持された歯車の検査結果に基づく評価を、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態の歯当たり位置の評価に近づけることができる。
【0050】
図10(a),(b)には、矯正有りラップ歯車と矯正なしラップ歯車とを、それぞれ、23個ずつ、差動装置200に組み付けた状態で、バックラッシ(Backlash)の測定を行った結果を示す。横軸は、歯車の各々におけるバックラッシの最小値と最大値との差(以下、バックラッシの個内バラツキと称する)を示し、縦軸に個数を示す。
図10(a)に示す矯正なしラップ歯車のバックラッシの個内バラツキの平均値HBL1より、
図10(b)に示す矯正有りラップ歯車のバックラッシの個内バラツキの平均値HBL2の方が小さいことが明らかである。
HBL2<HBL1
【0051】
上述のように、ワークWがワーク保持装置10により保持された状態でラッピングが行われることにより、歯当たり位置の個内バラツキが小さくなり、その結果、バックラッシの個内バラツキが小さくなったと考えられる。
また、歯車Wのバックラッシの個内バラツキが小さくなり、バックラッシが0になり難くされる。その結果、歯車WとピニオンギヤPとの噛合において、ワークWの焼き付き等の加工不良を起こり難くすることができる。
【0052】
図11には、図示しない振動測定装置において、矯正有りラップ歯車と、矯正なしラップ歯車とを、それぞれ、差動装置200に組み付けた状態において、駆動用ピニオンギヤPに加えるトルクを変化させつつ差動装置200の振動を測定した結果を示す。
図11から、矯正有りラップ歯車が組み付けられた差動装置200においては、トルクの大部分の領域において、矯正なしラップ歯車が組み付けられた差動装置200におけるより、振動が抑制されることが明らかである。
【0053】
このように、ワークWがワーク保持装置10により保持された状態でラッピングが行われることにより、歯当たり位置の個内バラツキが小さくなり、その結果、歯車Wが差動装置200に組み付けられた状態で、振動が抑制されたと考えられる。
【0054】
また、本実施例に係るワーク保持装置10においては、調整部60によって保持部材42に対する肩面押さえ部材40の軸線方向の相対位置が調整可能とされている。そのため、肩面Sの背面FCからの距離が異なるワークWについては、保持部材42の肩面押さえ部材40の軸線方向の相対位置を調整することによって対応することができる。また、内径が異なる(肩面Sによって形成される半径が異なる)ワークWについては、保持部材42に取り付ける肩面押さえ部40の形状(外径)を変えることによって対応することができる。
【0055】
仮に、肩面係合部32が一体的に設けられたものである場合には、ワークWの形状に合わせて肩面係合部32を製造する必要がある。それに対して、本実施例においては、調整部60により調整することによって対応したり、肩面押さえ部材40のみを交換することにより対応したりすること等ができる。このように、本実施例においては、ワークWの形状に合わせて肩面係合部32を作成する必要がないため、ワーク保持装置10のコストアップを抑制することができる。また、例えば、肩面係合部32の構成部材のうちの1つが寿命になった場合には、その構成部材を交換すればよく、肩面係合部全体を交換する必要がない。そのため、肩面係合部32のコストアップを良好に回避することができるのである。
【0056】
さらに、本ワーク保持装置10において、肩面係合部32によりワークWの肩面Sの内周側の部分全体が覆われるため、ラッピング時に研磨剤が内周規定部材30に供給され難くなる。一方、内周規定部材36に研磨剤が供給された状態で内周規定部材30の着脱等を行うと、内周規定部材36の外周面が研磨剤により摩耗し易くなる。それに対して、本実施例においては、内周規定部材30に研磨剤が供給され難くされるため、内周規定部材30の摩耗を良好に抑制し、寿命を長くすることができる。
【0057】
また、背面研削の必要性が低くなることから、背面研削工程をなくすことができる。その場合には、歯車Wの製造工数を低減することができ、背面研削用の工具、加工機が不要となる。その結果、歯車Wのコストダウンを図ることができる。
【0058】
なお、肩面係合部32を、歯車Wの肩面Sの内周部全体を覆う形状とすることは不可欠ではない。肩面押さえ部材40は、複数か所において肩面Sに当接可能な形状を成すものとすることができる。
また、さらばね116の代わりに、他の弾性部材を利用することができる。
さらに、内周規定部材30に押付力を加える装置と、肩面係合部32をワーク支持部26に押し付ける装置とをそれぞれ別個に設けることができる。その場合には、さらばね116は不要となる。
また、本ワーク保持装置は、ラッピング装置と歯当たり位置検査装置との両方に適用されることは不可欠ではなく、いずれか一方の装置において適用されるようにする等、その他、本発明は、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
10:ワーク保持装置 24:平坦面 26:ワーク支持部 32:肩面係合部 34:引込装置 40:肩面押さえ部材 42:保持部材 44:位置決め部材 60:調整部 64:引込ロッド 66:シリンダ 116:さらばね
【特許請求可能な発明】
【0060】
(1)歯車であるワークを保持するワーク保持装置であって、
前記ワークの内周面に設けられた肩部に係合可能な肩部係合部と、
前記ワークの背面に対向する平坦面を備え、前記平坦面において前記ワークを支持するワーク支持部と、
前記肩部係合部を、前記ワーク支持部に向かって押し付ける押付装置と
を含むワーク保持装置。
【0061】
ワーク支持部は、平坦面に背面が対向する状態でワークを支持するものである。ワーク支持部が備えた平坦面は、背面全体に接触可能な面とすることができる。例えば、平坦面を、ワークの背面に対応する形状、大きさ以上を成すものとすることができる。
【0062】
(2)前記押付装置が、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって引き込む引込装置を含む(1)項に記載のワーク保持装置。
【0063】
(3)前記引込装置が、駆動源と、前記駆動源により軸線方向に移動可能な引込ロッドとを含み、前記引込ロッドの前記軸線方向の移動により、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって引き込むものである(2)項に記載のワーク保持装置。
【0064】
駆動源は、流体シリンダを含むものとしたり、電動モータを含むものとしたりすること等ができる。駆動源は、引込ロッドの回転を許容しつつ軸線方向に移動させるものであり、背面を平坦面に密着させ得る駆動力を出力可能なものである。
【0065】
(4)前記引込ロッドが、一端部に設けられ、前記肩部係合部と係合可能なロッド側係合部と、他端部に設けられ、前記駆動源に連結される連結部とを含む(3)項に記載のワーク保持装置。
【0066】
(5)前記肩部係合部と前記引込ロッドとが、互いに軸線方向に相対移動可能な非係合状態と、前記軸線方向に一体的に移動可能な係合状態とに切換え可能に設けられた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【0067】
例えば、肩部係合部と引込ロッドとの軸線回りの相対回転により、非係合状態と係合状態とに切換え可能とすることができる。例えば、ロッド側係合部と前記肩部係合部との軸線回りの相対回転により、係合状態と非係合状態とに切換え可能とすることができる。
【0068】
(6)当該ワーク保持装置が、前記ワークの内周面を規定する内周規定部材を含み、
前記引込装置が、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって引き込むとともに、前記内周規定部材に、前記軸線方向の押付力を付与するものである(2)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
ワークの内周面は概して段付き形状を成し、肩部より背面側の内径が肩部より歯面側の内径より小さくされる。内周規定部材は、肩部より背面側の内周面に挿入される。内周規定部材によりワークの内周面が規定され、中心位置が規定される。内周規定部材は、軸線方向の押付力が加えられることにより、半径方向に弾性変形可能な弾性部材とすることができる。
【0069】
(7)前記引込装置が、前記肩部係合部と前記内周規定部材との間に設けられた弾性部材を含み、前記弾性部材を介して前記内周規定部材に前記押付力を付与するものである(6)項に記載のワーク保持装置。
【0070】
弾性部材により内周規定部材に加えられる押付力と、肩部押さえ部材に加えられる押付力との調整が図られる。
【0071】
(8)前記肩部係合部が、前記肩部に当接可能な肩部押さえ部材と、前記肩部押さえ部材を保持する保持部材と、前記肩部押さえ部材と前記保持部材との間に設けられ、前記肩部押さえ部材の前記保持部材に対する軸線方向の相対位置を調整可能な調整部とを含む(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【0072】
肩部係合部は、1つの部材から構成されたものであっても、複数の部材から構成されたものであってもよい。
【0073】
(9)前記肩部押さえ部材が、外周部に設けられ、前記肩部に当接可能な当接部と、内周部に設けられた雌ねじ部とを含み、
前記保持部材が、概して軸線方向に伸びた円筒状を成し、外周面に形成され、前記雌ねじ部と螺合可能な雄ねじ部を含み、
前記調整部が、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部とを含む(8)項に記載のワーク保持装置。
【0074】
肩部押さえ部材は、中央部に貫通穴を有し、軸線方向にワーク支持部に近づくにつれて、半径が大きくなる概して傘状を成すものとすることができる。また、肩部押さえ部材の外周部にフランジ部が設けられ、フランジ部を当接部とすることができる。
【0075】
(10)前記肩部係合部が、前記保持部材の前記雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部を有し、前記肩部押さえ部材の前記保持部材における前記軸線方向の相対位置を決める位置決め部材を含む(8)項または(9)項に記載のワーク保持装置。
保持部材に肩部押さえ部材と位置決め部材との両方を螺合させて、互いに相対移動不能に固定することが望ましい。それにより、保持部材に対する肩部押さえ部材の軸線方向の位置を、その都度、調整する必要がなくなり、作業時間を短縮することができる。
【0076】
(11)当該ワーク保持装置が、前記ワークの内周面を規定する内周規定部材と、前記肩部係合部を前記ワーク支持部に向かって押し付ける第1押付装置と、前記内周規定部材に、前記内周規定部を前記ワーク支持部に向かって押し付ける押付力を加える第2押付装置とを含む(1)項ないし(10)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【0077】
第1押付装置と第2押付装置とは同じものであっても互いに別個のものであってもよい。また、第1押付装置と第2押付装置との少なくとも一方が引込装置とすることができる。
【0078】
(12)前記ワークが、前記歯車としてのまがり歯かさ歯車である(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
【0079】
その他、ワークはハイポイドギヤ、すぐ歯かさ歯車、べベルギヤ等とすることもできる。
【0080】
(13)当該ワーク保持装置が、前記ワークに設けられた複数の歯面の研磨と、前記歯面における歯当たり位置の検査との少なくとも一方において、前記ワークを保持するものである(1)項ないし(12)項のいずれか1つに記載のワーク保持装置。
ワーク保持装置は、焼き入れ後の工程において用いることが望ましいが、焼き入れが行われない歯車については、加工工程において用いることもできる。