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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0612 20160101AFI20230907BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M8/0612
H01M8/12 101
H01M8/04 J
H01M8/04225
H01M8/04746
H01M8/0432
H01M8/04302
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019161390
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021039906
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 晋
(72)【発明者】
【氏名】姫野 友克
(72)【発明者】
【氏名】臼田 昌弘
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-32986(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110367(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガスとカソードガスとを用いて発電する固体酸化物型燃料電池を備える燃料電池システムであって、
原燃料としての炭化水素系の液体燃料を貯留する第1タンクと、
前記原燃料を加熱して気体燃料と残留液体燃料とを生成する蒸発器と、
前記第1タンクに貯留された原燃料を前記蒸発器に供給する第1供給器と、
前記固体酸化物型燃料電池から排出される排出ガス、及び前記蒸発器に接続された第1供給路を通じて供給される前記気体燃料を燃焼させる燃焼器と、
前記蒸発器に接続された第2供給路を通じて供給される残留液体燃料を貯留する第2タンクと、
前記第2供給路を通過する残留液体燃料の流量を調整するバルブと、
前記第2タンクに貯留された残留液体燃料を前記固体酸化物型燃料電池へと供給する第2供給器を含み、当該第2供給器から供給された残留液体燃料を気化して改質し、前記アノードガスとして前記固体酸化物型燃料電池に供給するアノード供給系と、
前記燃料電池システムの運転状態に応じて、前記第1供給器、前記第2供給器、及び前記バルブを制御するコントローラと、を備える、
燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記コントローラは、
前記燃料電池システムの起動時又はシステム起動後の通常運転中に、前記第1供給器により前記第1タンクの原燃料を前記蒸発器に供給することで、前記蒸発器で生成された気体燃料を前記燃焼器に供給し、前記バルブを開弁させることで、前記蒸発器で生成された残留液体燃料を前記第2タンクへと回収させる回収処理を実行する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記コントローラは、
前記回収処理による残留液体燃料の回収が完了した場合に前記バルブを閉弁して前記回収処理を停止する停止処理を実行し、
終了条件が成立するまでの間、前記回収処理及び前記停止処理を繰り返し実行する、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池システムであって、
前記コントローラは、
システム起動後に前記固体酸化物型燃料電池の温度が発電開始可能温度に到達して暖機が完了した場合に、前記終了条件が成立したと判定する、
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の燃料電池システムであって、
前記コントローラは、前記終了条件が成立した場合に、前記バルブを一旦開弁した後に全閉状態に制御する、
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記燃焼器の上流側に当該燃焼器を加熱するためのヒータをさらに備え、
前記第1供給路は、前記固体酸化物型燃料電池と前記ヒータとの間に接続される、
燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記燃焼器の上流側に当該燃焼器を加熱するためのヒータをさらに備え、
前記第1供給路は、前記ヒータと前記燃焼器との間に接続される、
燃料電池システム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記第2タンクに貯留された液体燃料を前記蒸発器へと供給する第3供給器をさらに備える、
燃料電池システム。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池システムであって、
前記蒸発器に接続されたタンクであって、前記第3供給器から供給された液体燃料のうち前記蒸発器において残留した残留液体燃料を貯留する第3タンクをさらに備え、
前記アノード供給系は、前記第3タンクに貯留された残留液体燃料を前記固体酸化物型燃料電池へと供給する第4供給器と、をさらに備える、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炭化水素を含有する燃料を改質した改質燃料を用いて発電する燃料電池システムにおいて、改質触媒でのコーキングを抑制するために、改質触媒に銀成分を含む活性金属を用いたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-185989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の燃料電池システムでは、改質触媒に比較的高価な銀成分を含む活性金属を用いるので、燃料電池システム全体として製造コストが高くなる。
【0005】
本発明は、低製造コストで、コーキングを抑制可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様によれば、アノードガスとカソードガスとを用いて発電する固体酸化物型燃料電池を備える燃料電池システムを提供する。燃料電池システムは、原燃料としての炭化水素系の液体燃料を貯留する第1タンクと、原燃料を加熱して気体燃料と残留液体燃料とを生成する蒸発器と、第1タンクに貯留された原燃料を蒸発器に供給する第1供給器と、燃料電池から排出される排出ガス、及び蒸発器に接続された第1供給路を通じて供給される気体燃料を燃焼させる燃焼器と、蒸発器に接続された第2供給路を通じて供給される残留液体燃料を貯留する第2タンクと、第2供給路を通過する残留液体燃料の流量を調整するバルブと、第2タンクに貯留された残留液体燃料を燃料電池へと供給する第2供給器を含み、当該第2供給器から供給された残留液体燃料を気化して改質し、アノードガスとして燃料電池に供給するアノード供給系と、燃料電池システムの運転状態に応じて、第1供給器、第2供給器、及びバルブを制御するコントローラと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一つの態様によれば、簡易な構成によってアノードガスに含まれる炭素成分の含有率を低下させるため、低製造コストで、かつコーキングを抑制可能な燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態による燃料電池システムの構成の概要を示す図である。
図2図2は、第1実施形態による燃料電池システムの原燃料の気液平衡図である。
図3A図3Aは、第1実施形態による燃料電池システムの燃料生成制御の前半部分を説明するフローチャートである。
図3B図3Bは、第1実施形態による燃料電池システムの燃料生成制御の後半部分を説明するフローチャートである。
図4図4は、第2実施形態による燃料電池システムの燃料生成制御を説明するフローチャートである。
図5図5は、第3実施形態による燃料電池システムの構成の概要を示す図である。
図6図6は、第3実施形態による燃料電池システムの燃料再生成制御を説明するフローチャートである。
図7図7は、第4実施形態による燃料電池システムの構成の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態に係る燃料電池システム100について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
まず、図1から図3Bを参照して、第1実施形態による燃料電池システム100について説明する。
【0011】
図1は、第1実施形態による燃料電池システム100の構成の概要を示す図である。
【0012】
図1に示す燃料電池システム100は、燃料電池スタック14に対して発電に必要となるアノードガス及びカソードガスを供給し、燃料電池スタック14を電気負荷(車両走行用の電動モータ等)に応じて発電させるシステムである。
【0013】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック14にアノードガスを供給するアノードガス供給系統20と、燃料電池スタック14にカソードガスを供給するカソードガス供給系統30と、燃料電池スタック14から排出されたアノードオフガス及びカソードオフガスを排気する排気系統40と、燃料電池システム100のシステム全体の動作を統括的に制御するコントローラ60とを備える。
【0014】
燃料電池スタック14は、複数の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)を積層した積層電池である。一の固体酸化物型燃料電池(燃料電池セル)は、セラミック等の固体酸化物で形成された電解質層を、アノードガスが供給されるアノード電極と、カソードガスが供給されるカソード電極とにより挟み込むことにより構成されている。例えば、アノードガスは水素及び炭化水素等を含むガスであり、カソードガスは酸素等を含むガスである。
【0015】
アノードガス供給系統20は、アノード供給通路52と、低濃度燃料タンク200と、第2インジェクタ22と、改質処理装置9と、を備える。
【0016】
改質処理装置9及び燃料電池スタック14は、アノード供給通路52を介して燃料供給源である低濃度燃料タンク200に接続されている。低濃度燃料タンク200には、炭化水素の濃度が原燃料に対して相対的に低い濃度の液体燃料が貯留されている。この低濃度燃料タンク200に貯留される液体燃料は、例えば含水エタノールである。この低濃度燃料の生成方法については後述する。
【0017】
アノード供給通路52は、低濃度燃料タンク200から改質処理装置9へ供給する燃料の量を調節する第2インジェクタ22を備えている。
【0018】
改質処理装置9は、低濃度燃料タンク200から供給される液体燃料を、燃料電池スタック14における発電に用いるために適切な状態とするために改質処理する装置である。改質処理装置9は、改質器用蒸発器10及び改質器12により構成される。
【0019】
改質器用蒸発器10は、低濃度燃料タンク200からアノード供給通路52を介して供給される低濃度燃料を、排気通路57を介して供給される燃焼ガスとの熱交換によって加熱して気化させる熱交換器である。
【0020】
より詳細には、改質器用蒸発器10は、燃料入口10aから燃料出口10bに向かって流れる燃料と、燃焼ガス入口10cから燃焼ガス出口10dに向かって流れる燃焼ガスと、の熱交換を可能とする内部構造を有する。
【0021】
改質器12は、改質器用蒸発器10による気化後の燃料を燃料電池スタック14に供給するために適切な状態とするために改質反応させてアノードガスを生成する。例えば、改質器12は、図示しない改質用触媒を備え、当該改質用触媒によって改質器用蒸発器10からの気体燃料を水蒸気改質し、水素及び炭素を主成分とする改質処理後のアノードガス(以下では、「改質燃料」とも記載する)を生成する。
【0022】
また、改質器12は、燃料入口12aから燃料出口12bに向かって流れる気体燃料と、燃焼ガス入口12cから燃焼ガス出口12dに向かって流れる燃焼ガスと、の熱交換を可能とする内部構造を有する。すなわち、本実施形態の改質器12は、気体燃料を改質反応に適した温度とすべく燃焼ガスの保有熱で当該気体燃料を加熱する。
【0023】
次に、燃料電池スタック14にカソードガス(空気)を供給するカソードガス供給系統30について説明する。
【0024】
カソードガス供給系統30は、カソード供給通路58と、エアブロア300と、空気熱交換器24と、を備える。
【0025】
燃料電池スタック14のカソード極入口14bは、カソード供給通路58を介して酸化剤ガス供給源としてのエアブロア300と接続されている。したがって、エアブロア300に設定される出力に応じた流量の空気がカソード極入口14bを介して燃料電池スタック14内に供給される。
【0026】
エアブロア300の出力は、燃料電池システム100の運転状態に応じてコントローラ60によって適宜設定される。
【0027】
空気熱交換器24は、エアブロア300からの空気を、排気通路57を介して供給される燃焼ガスとの熱交換によって加熱する機能を有する。特に、空気熱交換器24は、空気入口24aから空気出口24bに向かって流れる空気と、燃焼ガス入口24cから燃焼ガス出口24dに向かって流れる燃焼ガスと、の熱交換を可能とする内部構造を有する。
【0028】
燃料電池スタック14は、改質器12からのアノードガス(改質燃料)とエアブロア300からのカソードガス(空気)の供給を受けて発電する。燃料電池スタック14に供給されるアノードガスの流量は第2インジェクタ22により調整され、カソードガスの流量はエアブロア300により調整される。
【0029】
続いて、排気系統40について説明する。
【0030】
排気系統40は、オフガス配管54と、ヒータ15と、燃焼器16と、燃焼器用蒸発器18と、を備える。
【0031】
オフガス配管54は、燃料電池スタック14のアノード極出口14cに接続されるアノードオフガス配管54a、及び燃料電池スタック14のカソード極出口14dに接続されるカソードオフガス配管54bを有する。アノードオフガス配管54aには、燃料電池スタック14のアノード極内からのアノードオフガスが排出される。一方、カソードオフガス配管54bには、燃料電池スタック14のカソード極内からのカソードオフガスが排出される。
【0032】
そして、これらアノードオフガス配管54a及びカソードオフガス配管54bは、それぞれアノード極出口14c及びカソード極出口14dの直後において合流し、一つのオフガス配管54を構成する。
【0033】
燃焼器16は、燃料電池スタック14から排出されるアノードオフガス及びカソードオフガスを燃焼させる装置であって、オフガス配管54に配置される。
【0034】
より詳細には、燃焼器16は、上記アノードオフガス等を触媒燃焼させるための、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)等の触媒材料を担体に支持させてなる触媒部を備える。なお、燃焼器16には、当該触媒部を加熱するための電気式のヒータ15が設けられる。
【0035】
このようにヒータ15を設け、燃料電池システム100の起動時などに触媒部を触媒反応に好適な温度まで昇温させる処理(すなわち、燃焼器16の暖機)を実行することで、ヒータ15により触媒部の加熱を促進し、燃焼器16の速やかな暖機を図ることができる。ヒータ15は、燃焼器16と一体的に設けられて燃焼器16の触媒部を加熱する構成としてもよいし、燃焼器16よりも上流側のオフガス配管54に配置し、オフガス配管54を流れるガスを加熱して、このガスにより燃焼器16の触媒部を加熱する構成としてもよい。
【0036】
燃焼器16は、燃焼ガス流路56を介して燃焼器用蒸発器18に接続されている。燃焼器用蒸発器18は、システム起動時等において、後述する原燃料タンク400から原燃料供給路41を通じて供給される原燃料を、燃焼器16から燃焼ガス流路56を介して供給される高温のガスとの熱交換によって加熱する熱交換器である。
【0037】
燃焼器用蒸発器18の排気ガス出口18dには、燃焼器用蒸発器から排出されるガスを外部へと排気するための排気通路57が接続されている。排気通路57は、分岐部J2において、アノードガス供給系統20に向かう第1排気通路57aと、カソードガス供給系統30に向かう第2排気通路57bとに分岐する。
【0038】
第1排気通路57aは改質器12及び改質器用蒸発器10に連通し、第2排気通路57bは空気熱交換器24に連通するように構成されている。改質器用蒸発器10よりも下流側の第1排気通路57aと空気熱交換器24よりも下流側の第2排気通路57bとは合流部J3において合流し、一つの排気通路としてマフラ50等の消音装置に接続する。このように、排気通路57に流入した排気ガス等は、マフラ50等を介して燃料電池システム100の外部に排出される。
【0039】
本実施形態の燃料電池システム100では、例えばエタノール濃度が40%程度の含水エタノールを燃料として使用することを想定している。このような含水エタノール等の炭化水素系の液体燃料を燃料として用いると、燃料中の炭素成分の濃度によっては、改質器12や燃料電池スタック14のアノード電極で炭素が析出するコーキングが生じることがある。このようなコーキングが発生すると、改質器12での改質効率や燃料電池スタック14での発電効率が低下してしまう。
【0040】
そこで、本実施形態による燃料電池システム100は、炭化水素系の液体燃料を原燃料として用いた場合であっても、原燃料に含まれる炭素成分を発電に悪影響を及ぼさない程度に低減した低濃度燃料を生成することで、燃料電池スタック14等におけるコーキングを抑制するように構成されている。以下では、原燃料タンク400に貯留された原燃料から低濃度燃料を生成するための構成について説明する。
【0041】
燃焼器用蒸発器18は、当該燃焼器用蒸発器18の燃料入口18aにおいて原燃料供給路41と接続されている。燃焼器用蒸発器18は、原燃料供給路41を介して、原燃料が貯留されている原燃料タンク400に接続されている。原燃料供給路41には、原燃料タンク400から燃焼器用蒸発器18へ供給する原燃料の量を調節する第1インジェクタ31が設けられている。
【0042】
燃焼器用蒸発器18は、原燃料タンク400から供給された原燃料を貯留可能な容器であって、燃焼器16から供給される高温のガスを用いて原燃料を加熱するように構成されている。燃焼器用蒸発器18内で加熱された原燃料は、炭素成分濃度の高い気体燃料と気体燃料よりも炭素成分の濃度が低い残留液体燃料とに分離される。
【0043】
図2は、本実施形態の原燃料の気液平衡図である。図2の横軸は液相の濃度を示しており、縦軸は気相の濃度を示している。
【0044】
図2の点Aに示されるように、本実施形態の原燃料は、例えば、エタノール水溶液中のエタノール(炭素成分)の濃度が略40%であるとき、これを気化した気相のエタノール濃度は略60%となる。このように、燃焼器用蒸発器18において原燃料が加熱されると、気化した燃料である気体燃料のエタノール(炭素成分)の濃度が、残留した液体である残留液体燃料の濃度よりも高くなる。
【0045】
図1に示すように、燃焼器用蒸発器18は気体燃料出口18bを有しており、気体燃料出口18bとオフガス配管54とが第1供給路53により接続される。また、燃焼器用蒸発器18は液体燃料出口18eを有しており、液体燃料出口18eと低濃度燃料タンク200とが第2供給路59により接続される。第2供給路59には、バルブ210が設けられており、バルブ210の開閉量によって第2供給路59を流れる残留液体の流量が調節される。
【0046】
以下では、燃焼器用蒸発器18において加熱された原燃料のうち、気化せずに液体として残留した液体燃料を残留液体燃料又は低濃度燃料と称する。一方、燃焼器用蒸発器18において加熱された原燃料のうち、気化した燃料を気体燃料と称する。燃焼器用蒸発器18において生成された残留液体燃料(低濃度燃料)は、第2供給路59を通じて低濃度燃料タンク200に貯留され、気体燃料は第1供給路53を通じて燃焼器16へ供給される。
【0047】
本実施形態の燃料電池システム100では、燃焼器用蒸発器18において生成された低濃度燃料は改質器12等によりアノードガスに改質され、燃料電池スタック14での発電に利用される。一方、燃焼器用蒸発器18において生成された気体燃料は第1供給路53及びオフガス配管54を介して燃焼器16に供給される。システム起動時(暖機時)等においては、エアブロア300から供給される空気と、燃焼器用蒸発器18から供給される気体燃料とを燃焼器16にて燃焼させることで、高温の燃焼ガスを生成し、このガスを用いて改質器12や空気熱交換器24等での熱交換が行われる。
【0048】
なお、本実施形態において、燃焼器温度とは、排気通路57における燃焼器16の出口の温度を意味する。燃焼器温度は、燃焼器16の燃焼ガス出口付近の温度を直接検出して取得しても良いし、当該燃焼ガス出口付近の温度に相関する他の燃料電池システム100内の要素の温度検出値から推定して取得しても良い。また、燃焼器温度を、燃焼器16の燃焼ガス出口付近の温度に相関する温度以外の他の任意の物理量(各部の熱容量及び保有熱量など)に基づいて推定しても良い。
【0049】
次に、燃料電池システム100における制御装置としてのコントローラ60について説明する。
【0050】
コントローラ60は、(CPU)等の各種演算・制御装置、ROM及びRAM等の各種記憶装置、並びに入出力インターフェース等を備えるマイクロコンピュータからなる電子制御ユニットとして構成されている。
【0051】
コントローラ60は、燃料電池システム100の起動時等には低濃度燃料を生成する制御を実行し、システム起動後等には定常運転制御を実行する。
【0052】
ここにいうシステム起動時とは、燃料電池システム100の運転が停止している状態(燃料電池スタック14を含む燃料電池システム100内の各要素の動作が停止している状態)において、コントローラ60が外部からのシステム起動指令を検出したことをトリガとして、改質器12、燃料電池スタック14、及び燃焼器16等の燃料電池システム100内の要素をそれぞれの作動に適した所望温度に昇温させるプロセス(燃料電池システム100の起動のための暖機運転)が実行されている期間を指す。なお、システム起動時には、燃料電池スタック14の非発電状態(アイドルストップ状態)からの復帰の際の暖機運転の期間も含まれ得る。
【0053】
図3A及び図3Bを参照して、本実施形態の燃料電池システム100において、原燃料から低濃度燃料を生成するための燃料生成制御について説明する。
【0054】
この燃料生成制御は、コントローラ60にプログラムされた制御であって、システム起動時等の所定のタイミングで実行される制御である。本制御が開始されると、まずステップS301において、コントローラ60は、エアブロア300を制御することによって、空気熱交換器24及び燃料電池スタック14へ所定流量の空気を供給する。空気供給を開始した後、コントローラ60はステップS302の処理を実行する。
【0055】
ステップS302において、コントローラ60は、第2供給路59のバルブ210を閉止する。バルブ210が閉止されることによって、燃焼器用蒸発器18から低濃度燃料タンク200への液体燃料の流入が禁止される。このようにバルブ210を閉じることで燃焼器用蒸発器18内に液体燃料を貯留することが可能な状態となる。バルブ210の閉止が完了すると、処理はステップS303に移行する。
【0056】
ステップS303において、コントローラ60は第1インジェクタ31を作動させる。これにより、原燃料タンク400から燃焼器用蒸発器18に原燃料の供給が開始され、燃焼器用蒸発器18内に原燃料が貯留される。所定量の原燃料が貯留された後、コントローラ60はステップS304の処理を実行する。
【0057】
ステップS304において、コントローラ60はヒータ15を作動させる。これにより、ヒータ15を通過するガス及びヒータ15からの熱伝導により、燃焼器16及び燃焼器用蒸発器18等が加温される。燃焼器用蒸発器18の温度が上昇しはじめると、当該燃焼器用蒸発器18内の原燃料の一部が気化し始め、気体燃料が第1供給路53を通じてオフガス配管54に還流される。このように還流された気体燃料は燃料電池スタック14から排出された空気とともに燃焼器16で燃焼され、高温の燃焼ガスが燃焼器用蒸発器18、改質器12、改質器用蒸発器10、空気熱交換器等に供給され、各種機器の暖機が促進されることとなる。
【0058】
ステップS305において、コントローラ60は、燃焼器16の温度が所定の温度に達したか否かを判定する。ここにいう所定の温度とは、例えば、これ以上加温されなくても気体燃料を燃焼器16にて燃焼させることができる温度(自立燃焼温度)であり、例えば200[℃]以上の温度が想定される。ステップS305において、コントローラ60は、燃焼器16の温度が所定の温度に達した場合には、ステップS306の処理を実行する。一方、燃焼器16の温度が所定の温度に達していない場合には、コントローラ60は燃焼器温度が所定の温度に到達するまで待機する。
【0059】
ステップS306において、コントローラ60はヒータ15を停止させる。ヒータ15の停止が完了すると、処理はステップS307に移行する。
【0060】
ステップS307において、コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の温度が原燃料の沸点に達しており、かつ沸点に到達後所定時間経過しているか否かを判定する。この判定は、燃焼器用蒸発器18内に貯留された原燃料の気液分離が十分に行われたか否か、より具体的には、燃料電池システム100の運転に必要な量の残留液体燃料(低濃度燃料)が生成されたか否かを判断するための処理である。
【0061】
燃焼器用蒸発器18の温度が原燃料の沸点に達してから所定時間経過するまでの間には、原燃料の一部が気化して炭素成分の濃度が高い気体燃料が生成される。この際、燃焼器用蒸発器18内には、気体燃料よりも炭素成分の濃度が低い低濃度液体燃料が残留液体燃料として生成される。燃焼器用蒸発器18で生成された気体燃料が燃焼器16にて燃焼される点については前述した通りである。
【0062】
ステップS307において、コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の温度が沸点に達してから所定時間経過したと判定した場合、図3BのステップS308の処理を実行する。
【0063】
図3Bに示すように、ステップS308では、コントローラ60は、バルブ210を開弁(全開)する制御を行う。バルブ210が開弁されると、燃焼器用蒸発器18内に残留した低濃度液体燃料が第2供給路59を通じて低濃度燃料タンク200に供給される。例えば、低濃度燃料タンク200を燃焼器用蒸発器18の下方に配置し、これらを第2供給路59で連結することで、燃焼器用蒸発器18内の残留液体燃料を、重力を利用して低濃度燃料タンク200へと流下させることが可能となる。また、燃焼器用蒸発器18にポンプを設け、当該ポンプを用いて残留液体燃料を低濃度燃料タンク200へ供給してもよい。
【0064】
そして、ステップS309において、コントローラ60は、残留液体燃料の回収が完了したか否かを判定する。回収が完了したか否かの判定は、例えば燃焼器用蒸発器18に設けられた体積又は質量を測定するセンサの値に基づいて行われてもよい。この場合、コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の内部の残留液体燃料の体積又は質量に相当する値が略0になったことを検出した場合に、残留液体燃料の回収が完了したと判定する。なお、バルブ210が開弁されてから所定の時間経過した場合に、燃料の回収が完了したと判定してもよい。このように、コントローラ60は、残留液体燃料の回収が完了したと判定した場合に、処理をステップS310に移行させる。
【0065】
ステップS310において、コントローラ60は、バルブ210を閉止する。バルブ210が閉止されることによって、燃焼器用蒸発器18から低濃度燃料タンク200への残留液体燃料の排出は停止する。
【0066】
ステップS311において、コントローラ60は、燃料電池システム100の起動が完了したか否か、つまり燃料電池スタック14の暖機が完了したか否かを判定する。このような終了条件の判定は、燃料電池スタック14自体の温度又はカソードオフガス等の温度を検出する温度センサによって検出される温度に基づいて判定される。コントローラ60は、例えば、この温度センサの示す値が発電開始可能な暖機完了温度(例えば700~800[℃])以上となった場合にシステム起動が完了したと判定する。ステップS311において、コントローラ60が、燃料電池スタック14が起動したと判定すると、処理はステップS312に移行する。
【0067】
ステップS312において、コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の内部に残留した液体燃料を完全に排出するために、閉弁状態にあるバルブ210を一旦開弁し、全開状態とした後に再度閉弁する開閉処理を行う。これにより、燃焼器用蒸発器18内に残留液体燃料が抜け切れていなかった場合であっても、燃焼器用蒸発器18内を空にすることができる。
【0068】
そして、ステップS313において、コントローラ60は、燃料電池システム100を発電モードへ移行させる。発電モードでは、コントローラ60は、エアブロア300を制御して所定流量の空気(カソードガス)を燃料電池スタック14に供給するとともに、第2インジェクタ22を制御して低濃度燃料タンク200に貯留された低濃度燃料を燃料電池スタック14へと供給する。第2インジェクタ22から供給された低濃度液体燃料は、改質器用蒸発器10にて気化されるとともに改質器12にてアノードガスに改質された後、燃料電池スタック14に供給される。燃料電池スタック14は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、発電要求に応じた電力を発電する。
【0069】
なお、上述したステップS303からステップS307における残留液体燃料の生成及び回収を実行する処理は「回収処理」と称し、またステップS308からステップS310の回収停止を実行する処理は「停止処理」と称する。このように、第1実施形態では、燃料電池システム100のシステム起動時に回収処理及び停止処理を実行する。
【0070】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
【0071】
本実施形態の燃料電池システム100は、アノードガスとカソードガスとを用いて発電する固体酸化物型燃料電池を備える。燃料電池システム100は、原燃料としての炭化水素系の液体燃料を貯留する原燃料タンク(第1タンク)400と、原燃料を加熱して気体燃料と残留液体燃料とを生成する燃焼器用蒸発器18と、原燃料タンク400に貯留された原燃料を燃焼器用蒸発器18に供給する第1インジェクタ(第1供給器)31と、燃料電池スタック14から排出される排出ガス、及び燃焼器用蒸発器18に接続された第1供給路53を通じて供給される気体燃料を燃焼させる燃焼器16と、燃焼器用蒸発器18に接続された第2供給路59を通じて供給される残留液体燃料を貯留する低濃度燃料タンク200と、第2供給路59を通過する残留液体燃料の流量を調整するバルブ210と、低濃度燃料タンク(第2タンク)200に貯留された残留液体燃料を燃料電池スタック14へと供給する第2インジェクタ(第2供給器)22を含み、当該第2インジェクタ22から供給された残留液体燃料を気化して改質し、アノードガスとして燃料電池スタック14に供給するアノードガス供給系統20と、燃料電池システム100の運転状態に応じて、第1インジェクタ31、第2インジェクタ22、及びバルブ210を制御するコントローラ60と、を備える。
【0072】
燃料電池システム100によれば、原燃料タンク400から供給される炭化水素系の液体燃料は、燃焼器用蒸発器18において、気体燃料と残留液体燃料とに気液分離される。このように、燃料電池システム100は、燃料を蒸発させることが可能な燃焼器用蒸発器18を活用し、低濃度の液体燃料を生成する簡素な構成となっている。図2を用いて説明したように、本実施形態の炭化水素系の液体燃料を原燃料として使用した場合、気体燃料の炭素成分の濃度は残留液体燃料の炭素成分の濃度よりも高くなる。したがって、燃焼器用蒸発器18においては、炭素成分の濃度が高く酸化しやすい易燃性の気体燃料と、炭素成分の濃度が低い残留液体燃料とが生成される。燃料電池システム100では炭素成分の濃度が低い低濃度燃料が改質器12で改質されてアノードガスとして燃料電池スタック14に供給されるため、改質器12や燃料電池スタック14でのコーキングを抑制することができる。また、従来技術のように改質触媒に比較的高価な銀成分を含む活性金属を用いることがないので、燃焼電池システム100の製造コストも抑制することができる。
【0073】
また、炭素成分の濃度が高い易燃性の気体燃料は燃焼器16で効率的に燃焼するため、燃焼器16から十分に高温となった燃焼ガスが排出される。その結果、燃料電池システム100の起動時間等を短縮することが可能となる。なお、燃焼器16には濃度の高い気体燃料が供給されるが、燃焼器16内は通常、酸素が多い状態となっており、気体燃料に含まれる炭素成分は二酸化炭素として排出されるため、コーキングが生じることはない。
【0074】
さらに、本実施形態の燃料電池システム100では、システム起動時に、第1インジェクタ31により原燃料タンク400の原燃料を燃焼器用蒸発器18に供給することで燃焼器用蒸発器18において生成された気体燃料を燃焼器16に供給するとともに、バルブ210を開弁させることで燃焼器用蒸発器18において生成された残留液体燃料を低濃度燃料タンク200へと回収させる回収処理を実行する。
【0075】
このように、燃料電池システム100の起動時に低濃度燃料を生成するため、燃料電池システム100の起動開始直後からコーキング抑制の効果を生じさせることができる。
【0076】
また、燃料電池システム100のコントローラ60は、燃料電池システム100の起動が完了した場合(終了条件が成立した場合)に、バルブ210を一旦開弁した後に全閉状態に制御する。バルブ210の開閉処理によって燃焼器用蒸発器18の内部の残留液体燃料を完全に抜くことで、定常運転後に予期せぬタイミングで残留液体燃料が気化して燃焼器16で燃焼してしまうこと等を防止することができる。
【0077】
さらに、本実施形態の燃料電池システム100は、燃焼器16の上流側に当該燃焼器16を加熱するためのヒータ15を備え、第1供給路53は燃料電池スタック14とヒータ15との間に接続される。
【0078】
このように、気体燃料がヒータ15の上流に供給されることによって、燃焼器用蒸発器18において気化された気体燃料が燃焼器16に供給されるまでの距離を、気体燃料がヒータ15と燃焼器16との間に供給される場合と比較して長くすることができる。これにより、燃焼器16よりも上流側において気体燃料と空気との混合が促進され、燃焼器16において気体燃料を均質に燃焼させることができる。これにより、燃焼器16から十分に高温となった燃焼ガスが排出され、燃料電池システム100の起動時間をより短縮することができる。また、燃焼器16における燃焼気体の混合の偏りに起因する種々の問題、例えばホットスポットの発生等を抑制することが可能となる。
【0079】
なお、燃料電池システム100において第1供給路53は、ヒータ15と燃焼器16との間に接続されてもよい。気体燃料が燃焼器16に供給されるまでの距離が長くなりすぎると、燃焼器16の供給される前に気体燃料の一部が凝縮してしまうことが懸念される。しかしながら、気体燃料をヒータ15と燃焼器16との間に供給する場合には、燃焼器用蒸発器18からの気体燃料が凝縮してしまう前に燃焼器16に供給することができ、燃焼器16での燃焼が安定する。その結果、システム起動時間の遅れを抑制することができる。
【0080】
なお、燃料電池システム100において、システム起動時に回収処理及び停止処理を実行したが、発電モードに移行した後の所定のタイミングにおいて回収処理及び停止処理を実行するようにしてもよい。例えば、起動時に行った回収処理において低濃度燃料タンク200に貯留した残留液体燃料が少なくなった場合には、通常運転中に回収処理を再開することによって低濃度燃料タンク200の残留液体燃料を補充することが可能となる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態における燃料電池システム100について説明する。第1実施形態では燃料生成制御において「回収処理」及び「停止処理」を一度しか行わないが、第2実施形態では「回収処理」及び「停止処理」を複数回実行する点において第1実施形態と異なる。なお、第2実施形態における燃料電池システム100の構成は第2実施形態と同様である。
【0082】
図4は、第2実施形態における燃料電池システム100の燃料生成制御を示すフローチャートである。第1実施形態と同様の処理には同一の符号を付すとともに、説明を簡略化する。また、第2実施形態の燃料生成制御は、第1実施形態と同様にシステム起動時、すなわちコントローラ60がシステム起動指令を検出したときに開始する。
【0083】
ステップS301において、コントローラ60は、エアブロア300を制御することによって空気の供給を開始する。そして、ステップS302において、コントローラ60は、第2供給路59のバルブ210を閉止する制御を行う。バルブ210の閉止が完了すると、処理はステップS303に移行する。
【0084】
その後、コントローラ60は、第1実施形態と同様のステップS303からステップS307の「回収処理」を行う。これら回収処理が完了すると、コントローラ60は第1実施形態と同様のステップS308からステップS310の「停止処理」を行う。停止処理が完了すると、コントローラ60はステップS405の処理を実行する。
【0085】
ステップS405において、コントローラ60は、終了条件を満たすか否かを判定する。コントローラ60は、終了条件を満たさないと判定した場合にはステップS303~S310を繰り返す。一方で、コントローラ60は、終了条件を満たすと判定した場合にはステップS312以降の処理を実行する。
【0086】
ここにいう終了条件とは、例えば、システム起動後に燃料電池スタック14の温度が発電開始可能温度な温度であって、暖機が完了したと判定可能な温度となっているか否かに基づく。このような温度としては例えば700[℃]を超える温度が想定される。あるいは、他の終了条件として、低濃度燃料タンク200に貯留された低濃度燃料の液量が所定の値に達した場合と定義されてもよい。この場合、低濃度燃料タンク200内の低濃度燃料の液量は、例えば第2供給路59に設けられた図示しない流量センサ、又は低濃度燃料タンク200の近傍に設けられてタンクの質量を検出する質量センサによって検出される構成としてもよい。なお、この所定の値は任意に設定可能である。
【0087】
また、他の終了条件としては、例えばステップS303~S310の回収処理及び停止処理の繰り返し回数が所定回数となった場合と定義されてもよい。
【0088】
ステップS312以降の処理は、第1実施形態で説明した処理と同様の処理である。つまり、コントローラ60は、ステップS312におけるバルブ210の開閉処理を制御することによって燃焼器用蒸発器18の内部の残留燃料を排出すると、ステップS313において燃料電池システム100を発電モードに移行させる。
【0089】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
【0090】
本実施形態の燃料電池システム100では、コントローラ60は、残留液体燃料の回収が完了した場合にバルブ210を閉弁して回収処理を停止する停止処理を実行し、終了条件が成立するまでの間、回収処理及び停止処理を繰り返し実行する。
【0091】
このように、本実施形態の燃料電池システム100は、終了条件が成立するまで低濃度燃料の生成を繰り返すため、十分な量の低濃度燃料を低濃度燃料タンク200に貯留することが可能となる。また、回収処理及び停止処理の繰り返しによって多くの気体燃料を燃焼器16に供給することができ、燃料電池システム100における熱交換効率を向上し、燃料電池スタック14の起動時間をより短縮することが可能となる。
【0092】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態における燃料電池システム100について説明する。第3実施形態では、第1実施形態で説明した燃料生成制御によって一旦生成された低濃度燃料を、再度燃焼器用蒸発器18において蒸発させることによって、低濃度燃料よりも炭素成分の濃度が低い第2低濃度燃料を生成する点において異なる。ここでは、この第2低濃度燃料を生成する制御を「燃料再生成制御」と称する。
【0093】
図5は、第3実施形態における燃料電池システム100の構成の概要を示す図である。第3実施形態における燃料電池システム100は、第1実施形態の燃料電池システム100に対して、燃焼器用蒸発器18と低濃度燃料タンク200とをつなぐ通路61と、燃焼器用蒸発器18へ流入する燃料の量を調節する第3インジェクタ35と、が追加されている。
【0094】
燃焼器用蒸発器18は、当該燃焼器用蒸発器18を通過する高温のガスにより、原燃料タンク400からの液体燃料、又は低濃度燃料タンク200からの液体燃料を加熱し、気体燃料と残留液体燃料とを生成するように構成されている。低濃度燃料タンク200からの液体燃料を用いて残留液体燃料を生成すると、残留液体燃料の炭素成分濃度はさらに低下する。
【0095】
図6を参照して、本実施形態における燃料再生成制御について説明する。ここでは、第1及び第2実施形態と同様の処理には同一の符号を付して説明を簡略化する。
【0096】
コントローラ60は、本制御が開始されると第1実施形態と同様にステップS301~S310の処理を実行する。これらの処理を実行することで、低濃度燃料タンク200には低濃度燃料が貯留された状態となっている。本実施形態では、このように生成された低濃度燃料を用いて、低濃度燃料よりもさらに炭素成分の濃度が低い第2低濃度燃料を生成する。
【0097】
そこで、コントローラ60は、ステップS601において、第3インジェクタ35を作動させる。これにより、低濃度燃料タンク200から燃焼器用蒸発器18へ、通路61を通じて低濃度燃料の供給が開始される。そして、燃焼器用蒸発器18内に低濃度燃料が所定量貯留された後、コントローラ60は第3インジェクタ35を停止し、ステップS602の処理を実行する。
【0098】
ステップS602において、コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の温度が沸点に達してから所定時間経過したか否かを判定する。燃焼器用蒸発器18の温度が原燃料の沸点に達してから所定時間経過するまでの間には、低濃度燃料の一部が気化して気体燃料が生成されるとともに、燃焼器用蒸発器18内には、炭素成分の濃度がさらに低い第2低濃度液体燃料が残留液体燃料として生成される。コントローラ60は、燃焼器用蒸発器18の温度が沸点に達してから所定時間経過した場合には、ステップS603以降の処理を実行する。
【0099】
ステップS603では、コントローラ60は、バルブ210を開弁(全開)する制御を行う。バルブ210が開弁されると、燃焼器用蒸発器18の残留した第2低濃度液体燃料が第2供給路59を通じて低濃度燃料タンク200に供給される。
【0100】
そして、ステップS604において、コントローラ60は、第2低濃度燃料の回収が完了したか否かを判定する。回収が完了したか否かの判定は、例えば燃焼器用蒸発器18に設けられた体積又は質量を測定するセンサの値に基づいて行われる。なお、回収が完了したか否かの判定は、バルブ210を開弁してからの経過時間に基づいて行われてもよい。
【0101】
ステップS604において燃料回収が完了したと判定されると、ステップS605において、コントローラ60は、バルブ210を閉止する。バルブ210が閉止されることによって、燃焼器用蒸発器18から低濃度燃料タンク200への第2低濃度燃料の排出は停止する。
【0102】
S605の処理の後、コントローラ60は、S311以降の処理を実行する。コントローラ60は、ステップS311において燃料電池スタック14の起動が完了したことを確認した後、ステップS312においてバルブの開閉処理の制御を行い、ステップS313において燃料電池システム100を発電モードへ移行させる。発電モードでは、コントローラ60は、エアブロア300を制御して所定流量の空気(カソードガス)を燃料電池スタック14に供給するとともに、第2インジェクタ22を制御して低濃度燃料タンク200に貯留された第2低濃度燃料を燃料電池スタック14へと供給する。第2インジェクタ22から供給された第2低濃度液体燃料は、改質器用蒸発器10にて気化されるとともに改質器12にてアノードガスに改質された後、燃料電池スタック14に供給される。燃料電池スタック14は、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて、発電要求に応じた電力を発電する。
【0103】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
【0104】
本実施形態の燃料電池システム100は、低濃度燃料タンク(第2タンク)200に貯留された低濃度燃料(液体燃料)を燃焼器用蒸発器18へと供給する第3インジェクタ(第3供給器)35をさらに備える。
【0105】
このように構成された燃料電池システム100によれば、燃焼器用蒸発器18において炭素成分の濃度を低減した低濃度燃料を、再び燃焼器用蒸発器18に供給して、さらに炭素成分の濃度を低減した第2低濃度燃料を生成することができる。これにより、原燃料及び低濃度燃料と比較して相対的に炭素成分の濃度が低い第2低濃度燃料が生成されるため、より効果的に改質器12及び燃料電池スタック14でのコーキングの発生を抑制することができる。
【0106】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態における燃料電池システム100について説明する。第4実施形態では、第3実施形態で説明した第2低濃度燃料を低濃度燃料タンク200とは別のタンクである第2低濃度燃料タンク500に貯留する。
【0107】
図7は、第4実施形態における燃料電池システム100の構成の概要を示す図である。第4実施形態における燃料電池システム100には、第3実施形態の燃料電池システム100に対して、第2低濃度燃料タンク500と、第2低濃度燃料タンク500と第2インジェクタ22よりも上流側のアノード供給通路52とをつなぐ通路62と、通路62に設けられた第4インジェクタ55と、燃焼器用蒸発器18と第2低濃度燃料タンク500とをつなぐ通路64と、通路64に設けられた第2バルブ510と、が追加されている。
【0108】
本実施形態の燃料電池システム100では、低濃度燃料タンク200の低濃度燃料を用いて燃焼器用蒸発器18において第2低濃度燃料を生成した後に、第2バルブ510を開弁して、燃焼器用蒸発器18内の第2低濃度燃料を第2低濃度燃料タンク500に供給する。このように、燃料電池システム100では、低濃度燃料タンク200には原燃料よりも炭素成分の濃度の低い低濃度燃料が貯留され。第2低濃度燃料タンク500には低濃度燃料よりも炭素成分の濃度の低い第2低濃度燃料が貯留されることとなる。
【0109】
本実施形態の燃料電池システム100は、通路62に設けられた第4インジェクタ55によって、第2低濃度燃料タンク500に貯留された第2低濃度燃料が燃料電池スタック14に供給可能となっている。このように、アノードガス供給系統20は、燃料電池スタック14に対して第2低濃度燃料が供給可能な第4インジェクタ55をさらに備えている。したがって、燃料電池システム100では、システム運転状態に応じて、低濃度燃料タンク200の燃料と、第2低濃度燃料タンク500の燃料とを選択的に使用することが可能となっている。
【0110】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
【0111】
本実施形態の燃料電池システム100は、燃焼器用蒸発器(蒸発器)18に接続された第2低濃度燃料タンク(タンク)500であって、第3インジェクタ(第3供給器)35から供給された液体燃料のうち燃焼器用蒸発器(蒸発器)18において残留した第2低濃度燃料(残留液体燃料)を貯留する第2低濃度燃料タンク(第3タンク)500と、第2低濃度燃料タンク500に貯留された残留液体燃料をアノードガス供給系統(アノード供給系)20へと供給する第4インジェクタ(第4供給器)55と、をさらに備える。
【0112】
したがって、図7に示される三つのタンクには、炭素成分の濃度が段階的に異なる燃料が貯留されることになる。具体的には、原燃料タンク400、低濃度燃料タンク200、そして第2低濃度燃料タンク500の順に炭素成分の濃度が高い燃料が貯留される。
【0113】
上述のように、三段階の炭素成分の濃度が異なる燃料が、三つのタンクのそれぞれに貯留されているため、コントローラ60は、運転状態に応じて炭素成分の濃度が異なる燃料を選択的に使用することができる。特に、第2低濃度燃料タンク500の第2低濃度燃料を使用する場合、第2低濃度燃料は炭素成分の濃度が最も低いため、改質処理装置9及び燃料電池スタック14でのコーキングの発生をより効果的に抑制することができる。
【0114】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0115】
上記した各実施形態において、燃焼器用蒸発器18は、ヒータ15で加熱されたガスや燃焼器16から排出されたガス等に加熱されるように構成されているが、温度調節機構(ヒータ等)を一体的に備えて当該温度調節機構により加熱されるよう構成されてもよい。
【符号の説明】
【0116】
14 燃料電池スタック
16 燃焼器
18 燃焼器用蒸発器
20 アノードガス供給系統
22 第2インジェクタ
31 第1インジェクタ
53 第1供給路
59 第2供給路
60 コントローラ
100 燃料電池システム
200 低濃度燃料タンク
210 バルブ
400 第1タンク
500 第2低濃度タンク
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7