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特許7344752ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/04 20060101AFI20230907BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20230907BHJP
   B65D 57/00 20060101ALI20230907BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20230907BHJP
   B65D 85/48 20060101ALI20230907BHJP
   C03B 40/00 20060101ALI20230907BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
D21H11/04
B32B17/06
B65D57/00 B
B65D65/02 E
B65D85/48
C03B40/00
D21H27/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019191661
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021066966
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】507369811
【氏名又は名称】特種東海製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】暮沼 侑士
(72)【発明者】
【氏名】山岸 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】青野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】梶井 博一
(72)【発明者】
【氏名】平澤 智樹
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/104187(WO,A1)
【文献】特開2017-179688(JP,A)
【文献】特開2017-226479(JP,A)
【文献】国際公開第2014/098162(WO,A1)
【文献】特開2019-055820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B32B 1/00 - 43/00
B65D 57/00 - 59/08
B65D 65/00 - 65/46
B65D 85/30 - 85/48
C03B 40/00 - 40/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板合紙用木材パルプであって、
前記木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が2個/5m以下であるガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径が100μm以上1000μm未満である、請求項1記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項3】
前記ガラス板がディスプレイ用である請求項1又は2に記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項4】
前記ディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである請求項3記載のガラス板合紙用木材パルプ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のガラス板合紙用木材パルプからなるガラス板合紙。
【請求項6】
ガラス板合紙の製造のための請求項1乃至4のいずれかに記載の木材パルプの使用。
【請求項7】
木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、
表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が8個/100m以下であるガラス板用合紙。
【請求項8】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径が100μm以上1000μm未満である、請求項7記載のガラス板用合紙。
【請求項9】
前記ガラス板がディスプレイ用である請求項7又は8に記載のガラス板用合紙。
【請求項10】
前記ディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである請求項9記載のガラス板用合紙。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれかに記載のガラス板用合紙及びガラス板からなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板を複数枚積層して保管、運搬する過程において、ガラス板を包装する紙、及び、ガラス板の間に挟み込む紙、並びに、これらの紙の製造に使用される木材パルプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板を、複数枚積層して保管する過程、トラック等で運搬する流通過程等において、ガラス板同士が衝撃を受けて接触して擦れ傷が発生し、また、ガラス表面が汚染するのを防止する目的でガラス板の間に合紙と称される紙を挟み込むことが行われている。
【0003】
フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板は、一般の建築用窓ガラス板、車両用窓ガラス板等に比べて、高精細ディスプレイ用に使用されることから、ガラス表面は紙表面に含まれる不純物が極力無いクリーンな表面を保持していること、また、高速応答性や視野角拡大のために平坦度に優れていることが求められる。
【0004】
このような用途向けの、ガラス板の割れや表面の傷つきを防止できる合紙、また、ガラス表面を汚染しない合紙として、いくつかのガラス合紙が既に提案されている。例えば、特許文献1には、古紙を原料とし、且つ、フッ素コーティング皮膜を有するガラス合紙が提案されている。また、特許文献2には、ガラス板の表面に圧着させたときに、当該ガラス板の表面に発生する長径10μm以上の不動異物の密度が50個/m以下となるようなガラス合紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-188785号公報
【文献】特開2017-226479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの合紙によってフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板表面の汚染を完全に防げるわけではなく、何らかの原因によるガラス板表面の汚染のため、ガラス板の欠陥率が上昇することがあるのが実状である。
【0007】
特に最近は採算性の観点から、フラットパネル・ディスプレイ等の製造工程において高い歩留まりが求められ、フラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板表面の汚染をいかに防止するかが重要である。
【0008】
本発明は、高い清浄度及び傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板向けの、当該ガラスの表面の汚染を実際上問題のないレベルにまで低減することが可能な合紙、並びに、当該合紙用の木材パルプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例えば、TFT液晶ディスプレイの製造工程の一つであるアレイ工程のカラーフィルター基板作製時に、ガラス板表面が汚染されている場合、断線等の問題が生じることが知られている。カラーフィルター基板は、ガラス板に半導体膜、ITO膜(透明導電膜)、絶縁膜、アルミ金属膜等の薄膜をスパッタリングや真空蒸着法等で形成して作製されるが、ガラス板表面に汚染物質が存在すると薄膜から形成した回路パターンに断線が生じたり、絶縁膜の欠陥による短絡が生じるからである。また、カラーフィルター基板の作製において、ガラス板にフォトリソグラフィによるパターンを形成するが、この工程でレジスト塗布時のガラス板面に汚染物質が存在すると、露光や現像後のレジスト膜にピンホールが生じ、その結果断線や短絡が生じる。同様な問題が有機ELディスプレイの製造でも確認されている。有機ELディスプレイはガラス基板にITO陽極、有機発光層、陰極等の薄膜をスパッタリングや蒸着や印刷等で形成して作製されるため、ガラス基板表面に薄膜を阻害する異物が存在すると非発光となる問題が生じる。
【0010】
このようなガラス板の汚染原因は特定が困難であったが、その原因の1つがガラス板用合紙に含まれるポリテトラフルオロエチレン粒子であることが判明した。
【0011】
そこで、更に鋭意検討の結果、本発明者らは、ガラス板用合紙の表面に現れる、又は、ガラス板用合紙の製造に使用される木材パルプに含まれるポリテトラフルオロエチレン粒子の量を抑制することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
これまで、高い清浄度及び傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板向けの合紙には、ポリテトラフルオロエチレン粒子が含まれていても問題はないと考えられていた。実際に、特許文献2の実施例(特開2017-226479号公報の[表1]等参照)には、ガラス板用合紙にポリテトラフルオロエチレン粒子を意図的に配合しても当該合紙と接触するガラス板の表面に発生する不動異物の量を50個/m以下に抑制可能である旨が示されている。
【0013】
しかし、50個/m以下であっても、実際には、高い清浄度及び傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板の表面にポリテトラフルオロエチレン粒子が所定量以上転移すると問題を生じ得る。これは驚くべき知見であり、当該知見に基づく本発明の技術的意義は当該技術分野において顕著である。
【0014】
そこで、本発明では、ガラス板と接触する合紙及びその原料となる木材パルプにおいてポリテトラフルオロエチレン粒子の存在割合を極微量に制限することによって、当該粒子に由来するガラス板表面の汚染を実際上問題のないレベルにまで低減する。
【0015】
本発明の第一の態様は、ガラス板合紙用木材パルプであって、当該木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が2個/5m以下であるであるガラス板合紙用木材パルプに関する。
【0016】
本発明の第一の態様における前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は100μm以上1000μm未満であることが好ましい。
【0017】
本発明の第一の態様における前記ガラス板はディスプレイ用であることが好ましく、特にディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであることが好ましい。
【0018】
本発明の第二の態様は、木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって、表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が8個/100m以下であるガラス板用合紙に関する。
【0019】
本発明の第一の態様における前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径が100μm以上1000μm未満であることが好ましい。
【0020】
本発明の第一の態様における前記ガラス板はディスプレイ用であることが好ましく、特にディスプレイがTFT液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイであることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、本発明の第一の態様の前記木材パルプからなるガラス板合紙、及び/又は、本発明の第二の態様の前記ガラス板用合紙、並びに、ガラス板との積層物にも関する。
【0022】
更に、本発明は、ガラス板合紙、特に本発明の第二の態様のガラス板合紙、の製造のための本発明の第一の態様の前記木材パルプの使用にも関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の木材パルプからなるガラス板合紙並びに本発明のガラス板用合紙はガラス板へのポリテトラフルオロエチレン粒子の転写を抑制乃至回避することができる。このように、ガラス板へのポリテトラフルオロエチレン粒子の転写を抑制乃至回避することにより、TFT液晶ディスプレイ等の製造工程においてカラーフィルム等の回路断線を防止することが可能となる。
【0024】
本発明では、ガラス板用合紙の製造に使用される木材パルプ中のポリテトラフルオロエチレンの全体量、又は、ガラス板用合紙中のポリテトラフルオロエチレンの全体量を一定以下にするのではなく、木材パルプ中又はガラス板用合紙の表面に局所的に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の数を一定以下とするので、ガラス板に転写する可能性のあるポリテトラフルオロエチレンを個々の粒子のレベルで制御することができ、ポリテトラフルオロエチレンに由来するガラス板表面の汚染を実際上問題のないレベルにまで低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ガラス板へ合紙が使用される際に、合紙中のポリテトラフルオロエチレン粒子がガラス板へ転写する傾向があり、特に、表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の数が2個/5mを超える紙を調製しうる木材パルプからなる合紙、或いは、表面に存在するポリテトラフルオロエチレンの数が8個/100mを超える合紙をガラス板に使用すると、ガラス板へ転写するポリテトラフルオロエチレン粒子が増加し、ガラス板上のポリテトラフルオロエチレン粒子数が所定の閾値を超えて、当該ガラス板を用いるパネル形成時の問題を引き起こす。
【0026】
なお、特許文献2の実施例(特開2017-226479号公報の[0104]等参照)には、ポリテトラフルオロエチレンはガラスに付着しにくく、また、付着したとしても、洗浄工程でガラス板から容易に脱落する旨が記載されているものの、50個/m以下(5000個/100m以下)という比較的高いレベルでポリテトラフルオロエチレン粒子のガラス板への付着を許容すると、洗浄によってガラス板からポリテトラフルオロエチレンを全て除去することは困難であり、洗浄後のガラス板に依然として付着しているポリテトラフルオロエチレンは、比較的少量であっても、断線等の問題を引き起こす。
【0027】
したがって、本発明のガラス板合紙用木材パルプは、当該木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の存在割合が2個/5m以下である。また、本発明のガラス板用合紙は、木材パルプからなるガラス用合紙であって、表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の存在割合が8個/100m以下である。これにより、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙又は本発明のガラス用合紙の表面に存在し、ガラス板への転移の可能性があるポリテトラフルオロエチレン粒子の数を問題のない水準まで低減することができる。
【0028】
前記手すき紙の表面上に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の個数は1個/5m以下であることが好ましく、0個/5mであることが特に好ましい。
【0029】
前記ガラス板用合紙の表面上に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の個数は7個/100m以下であることが好ましく、6個/100m以下であることがより好ましく、5個/100m以下であることが更により好ましく、4個/100m以下であることが更により好ましく、3個/100m以下であることが更により好ましく、2個/100m以下であることが特に好ましい。
【0030】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が更により好ましい。また、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は1000μm未満が好ましく、900μm未満がより好ましく、800μm未満が更により好ましい。
【0031】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は、例えば、顕微鏡法によって決定することができる。すなわち、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は、前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面の所定面積を顕微鏡で直接観察することで決定することができる。前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の顕微鏡画像上の形状が楕円形の場合は、画像上の楕円形の長径の平均が100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が更により好ましく、また、1000μm未満であることが好ましく、900μm未満であることがより好ましく、800μm未満であることが更により好ましい。前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の顕微鏡画像上の形状が非円形又は非楕円の場合は、面積円相当径が100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上が更により好ましく、また、1000μm未満であることが好ましく、900μm未満であることがより好ましく、800μm未満であることが更により好ましい。
【0032】
前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面上に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の個数は、例えば、前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面の所定面積を顕微鏡で直接観察することで決定することができる。この場合、粒子の材質は蛍光X線分析等の元素分析により特定することができる。
【0033】
また、前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面上に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の個数は、例えば、前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面の所定面積をクリーニングして得られた収集物中に含まれるポリテトラフルオロエチレン粒子の個数を集計して決定してもよい。前記クリーニングの手法は特に限定されるものではないが、例えば、ブラシによる機械的クリーニングでもよく、また、洗浄液による化学的クリーニングでもよい。なお、洗浄液による化学的クリーニングは、例えば、水等の洗浄液を前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面に塗布したり、或いは、水等の洗浄液中に前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙を浸漬したりして実施することが可能であり、使用後の洗浄液を収集・濾過して濾過物中のポリテトラフルオロエチレン粒子の個数を集計することができる。
【0034】
なお、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱法により体積基準で決定することもできる。この場合、前記手すき紙又は前記ガラス板用合紙の表面の所定面積をクリーニングして得られた収集物中に含まれるポリテトラフルオロエチレン粒子の個数を集計して決定することが好ましい。既述のとおり、前記クリーニングの手法は特に限定されるものではなく、例えば、ブラシによる機械的クリーニングでもよく、また、洗浄液による化学的クリーニングでもよい。
【0035】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子は、その全てがポリテトラフルオロエチレンから構成されていてもよく、また、その一部がポリテトラフルオロエチレン以外から構成されていてもよい。後者の場合は、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の50重量%超、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上がポリテトラフルオロエチレンからなり、また、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の50重量%未満、好ましくは30重量%未満、より好ましくは10重量%未満がポリテトラフルオロエチレン以外からなることが好適である。
【0036】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の一部がポリテトラフルオロエチレン以外から構成されている場合、当該構成要素はポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂が好ましい。前記フッ素樹脂としては、特には、限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等が挙げられる。
【0037】
例えば、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子は、ポリテトラフルオロエチレンからなるコア粒子と当該コア粒子の少なくとも一部の表面上にコーティング層を備えていてもよい。前記コーティング層の材質は特には限定されないがポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂であってもよい。ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂としては、例えば、上記のものが挙げられる。
【0038】
前記ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンのホモポリマーであってもよく、また、テトラフルオロエチレンとその他のフッ化モノマーとの共重合体(特に、ブロック共重合体)であってもよい。前記フッ化モノマーとしては、特には限定されないが、テトラフルオロエチレン以外のパーフルオロビニルモノマー、パーフルオロビニルエーテルモノマー、若しくは、これらの混合物が挙げられる。テトラフルオロエチレン以外のパーフルオロビニルモノマーとしては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(CF=CF-CF)、1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピレン(CF=CH-CF)、及び、1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロピレン(CFH=CF-CF)等が挙げられる。パーフルオロビニルエーテルモノマーとしては、例えば、CF=CF-OR(RはCF等のパーフルオロアルキル基を表す)等が挙げられる。
【0039】
本発明において使用可能な木材パルプは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の木材パルプを単独あるいは混合したものである。この木材パルプを主体とし、必要に応じてこれに麻、竹、藁、ケナフ、楮、三椏や木綿等の非木材パルプ、カチオン化パルプ、マーセル化パルプ等の変性パルプ、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリエステル等の合成繊維や化学繊維、またはミクロフィブリル化パルプを単独で、あるいは混合して併用することができる。ただし、パルプ中に樹脂分が多く含まれると、当該樹脂分がガラス板表面を汚す等の悪影響を及ぼす可能性があるので、できるだけ樹脂分の少ない化学パルプ、例えば針葉樹晒クラフトパルプを単独で使用することが好ましい。また、砕木パルプのような高収率パルプは、樹脂分が多く含まれるので好ましくない。なお、合成繊維や化学繊維を混合させると削刀性が向上し、合紙を平版にする際の作業性が向上するが、廃棄物処理の面においてリサイクル性が悪くなるので注意が必要である。
【0040】
本発明の木材パルプは、原料となる木材チップから、蒸解工程、精選・洗浄工程、漂白工程等を経る通常の木材パルプの製造方法において、ポリテトラフルオロエチレンの混入を回避することよって製造することが可能であるが、例えば、木材パルプの製造設備としてポリテトラフルオロエチレンによるコーティングが施されていないものを使用することで、及び/又は、木材パルプの製造に使用される各種の添加剤にポリテトラフルオロエチレンが含まれないように配慮することで、好適に製造することができる。
【0041】
本発明の木材パルプを製造する際に、木材パルプの叩解を進めると紙層間強度が増す効果が期待できる。しかしながら、叩解を進めることによって木材パルプ中の微細繊維が増加すると、合紙として使用中に紙粉が発生する恐れがあるので、必要以上に叩解度を進めることは好ましくない。よって本発明において好ましい叩解度は300~650mlc.s.f.である。
【0042】
このようにして製造された本発明のガラス板合紙用木材パルプは、当該木材パルプを用いてJIS P 8222に準拠した方法で調製された手すき紙の表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が2個/5m以下である。
【0043】
前記手すき紙の厚みは、0.01~2mmであることが好ましく、0.05~1mmであることがより好ましく、0.1~0.5mmであることが更により好ましい。
【0044】
前記手すき紙の坪量は、20~80g/mであることが好ましく、25~70g/mであることがより好ましく、30~60g/mであることが更により好ましい。
【0045】
また、本発明のガラス板用合紙は、例えば、本発明の木材パルプを使用して、通常の抄紙(製紙)方法により得ることができる。抄紙機としては、公知の長網抄紙機、円網抄紙機、短網抄紙機、長網と円網のコンビネーション抄紙機等を使用可能であるが、抄紙工程中にポリテトラフルオロエチレンの混入を回避することが好ましい。例えば、抄紙機等のガラス板用合紙の製造設備としてポリテトラフルオロエチレンによるコーティングが施されていないものを使用することが好ましい。
【0046】
本発明の性能を損なわない範囲で、本発明の木材パルプを主体とした製紙用繊維に対して、必要に応じて接着剤、防黴剤、各種の製紙用填料、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、サイズ剤、着色剤、定着剤、歩留まり向上剤、スライムコントロール剤等の各種の薬品を添加することができるが、これらの薬品にはポリテトラフルオロエチレンが含まれないように配慮することが好ましい。
【0047】
なお、ガラス板合紙の抄造の途中および/または製造後でカレンダー処理、スーパーカレンダー処理、ソフトニップカレンダー処理、エンボス等の加工を行っても構わない。加工処理により、表面性や厚さを調整することができる。
【0048】
このようにして製造された本発明のガラス板用合紙は、表面に存在するポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が8個/100m以下である。
【0049】
前記ガラス合紙の厚みは、0.01~2mmであることが好ましく、0.05~1mmであることがより好ましく、0.1~0.5mmであることが更により好ましい。
【0050】
本発明のガラス板用合紙の坪量は、20~80g/mであることが好ましく、25~70g/mであることがより好ましく、30~60g/mであることが更により好ましい。
【0051】
本発明の木材パルプから得られた合紙、特に本発明のガラス板合紙、はガラス板の間に挿入されて使用される。例えば、前記ガラス板合紙は複数のガラス板の間に、典型的には、1枚ずつ挿入され、全体として、積層体とされ、当該積層体が保管、運搬の対象となる。また、本発明の木材パルプからなる合紙、特に本発明のガラス板合紙、を用いてガラス板単体又は前記積層体を包装してもよい。
【0052】
ガラス板としては特に限定されるものではないが、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル(特にTFT液晶ディスプレイパネル)、有機ELディスプレイパネル等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板であることが好ましい。フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板の表面には微細な電極、隔壁等が形成されるが、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙、特に本発明のガラス板合紙、を使用することにより、そもそも、ガラス板へのポリテトラフルオロエチレン粒子の転写が抑制乃至回避されるので、ガラス板の表面に微細な電極、隔壁等が形成されても、ポリテトラフルオロエチレン粒子による不都合を抑制乃至回避することができ、結果的に、ディスプレイの欠陥を抑制乃至回避することができる。
【0053】
特に、ディスプレイの大型化に伴い、フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板のサイズ及び重量は増大しているが、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙、特に本発明のガラス板合紙、はそのような大型乃至大重量のガラス板の表面を良好に保護することができる。特に、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙、特に本発明のガラス板合紙、はポリテトラフルオロエチレン粒子の点在数が極めて少ないので、大重量のガラス板によって押圧されてもポリテトラフルオロエチレン粒子がガラス板に転写することが抑制乃至回避される。したがって、本発明の木材パルプからなるガラス板合紙、特に本発明のガラス板合紙、は、表面の清浄性が特に求められるフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板に好適に使用することができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[ガラス板への転写試験方法(輸送テスト)]
アルミ製で75度の角度がつけられたL 字架台上のガラス載置面に発泡ウレタンを敷き、ガラス板を垂直方向に載置するための載置面と、載置面の後端部から垂直方向に延びる背もたれ面に向けて、サイズ680mm×880mm×0.7mmのガラス板120枚と各ガラス板の間にガラス板合紙を挿入して、背もたれ面に平行となるように立てかけ、架台に固定された帯状のベルトを後端部から背もたれ面へ全周にわたり掛け渡してガラス板を固定した。上記のようにセットされた架台は、外部からの埃や塵等の混入を防ぐため包装資材で全面を被覆した。その後、トラックでの輸送テストを実施した。輸送テスト条件は、輸送距離1000km(輸送途中に40℃×95%RHの環境下に5日間保管)でテストを実施した。
【0056】
[実施例1](木材パルプの製造)
蒸解工程と、洗浄工程と、酸素脱リグニン反応工程と、二酸化塩素及び過酸化水素による多段晒漂白工程と、乾燥工程からなる針葉樹晒クラフトパルプの製造装置において、漂白工程中および乾燥工程中の配管フランジのガスケットとしてステンレス製のものを使用し、さらに、乾燥工程中に使用されるドライヤーとしてクロムメッキしたシリンダーを備えたドライヤーを用いて、針葉樹晒クラフトパルプAを得た。この針葉樹晒クラフトパルプAを原料としてJIS P 8222に準拠した方法で手すき紙を作製した。この手すき紙を2.5m/秒の速度で移動するコンベアーに貼り付け、線径0.075mmのナイロン製回転ブラシを回転速度500rpmにて手すき紙へ1mm押し付けることで手すき紙表面をブラッシングした。この際、ブラシの回転方向は手すき紙の進行方向とは逆とした。ブラッシングにより手すき紙表面から脱落した異物についてSEM-EDS分析を行ったところ、手すき紙の表面に存在する100μm以上の径のポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が2個/5mであった。
【0057】
[比較例1](木材パルプの製造)
漂白工程中および乾燥工程中の配管フランジのガスケットとしてポリテトラフルオロエチレン製のものを使用し、乾燥工程中に使用されるドライヤーとしてポリテトラフルオロエチレンを表面にコーティングしたシリンダーを備えたドライヤーを使用した以外は実施例1と同様にして針葉樹晒クラフトパルプBを得た。この針葉樹晒クラフトパルプBを原料としてJIS P 8222に準拠した方法で手すき紙を作製した。この手すき紙についてSEM-EDS分析を行ったところ、手すき紙の表面に存在する100μm以上の径のポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が3個/5mであった。
【0058】
[実施例2](ガラス合紙の製造)
木材パルプとして針葉樹晒クラフトパルプAを使用して、長網抄紙機による抄紙を行い、坪量50g/mのガラス板用合紙を得た。このガラス板合紙を2.5m/秒の速度で移動するコンベアーに貼り付け、線径0.075mmのナイロン製回転ブラシを回転速度500rpmにてガラス板用合紙へ1mm押し付けることでガラス板用合紙の表面をブラッシングした。この際、ブラシの回転方向はガラス板用合紙の進行方向とは逆とした。ブラッシングによりガラス板用紙表面から脱落した異物についてSEM-EDS分析を行ったところ、ガラス用合紙の表面に存在する100μm以上の径のポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が6個/100mであった。
【0059】
[比較例2](ガラス合紙の製造)
木材パルプとして針葉樹晒クラフトパルプBを用いた以外は実施例2と同様にして、坪量50g/mのガラス板用合紙を得た。このガラス板合紙についてSEM-EDS分析を行ったところ、ガラス用合紙の表面に存在する100μm以上の径のポリテトラフルオロエチレン粒子の割合が9個/100mであった。
【0060】
実施例2及び比較例2で得たガラス板合紙のガラス板への転写を輸送テストにて確認したところ、実施例2の合紙を使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際には、カラーフィルムの断線が認められなかった。一方、比較例2の合紙を使用したガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際には、カラーフィルムの断線が認められた。