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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 47/04 20060101AFI20230907BHJP
   F16L 19/028 20060101ALI20230907BHJP
   F16L 33/22 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16L47/04
F16L19/028
F16L33/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019207185
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080970
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】小池 智幸
(72)【発明者】
【氏名】足立 智大
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐人
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/181686(WO,A1)
【文献】米国特許第04842548(US,A)
【文献】特開2013-122279(JP,A)
【文献】特開昭62-110093(JP,A)
【文献】特開昭62-118185(JP,A)
【文献】米国特許第05051541(US,A)
【文献】国際公開第2018/020898(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0122473(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0100097(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 47/04
F16L 19/028
F16L 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に雄ねじを含み、内周部に環状溝または環状突起を含む筒状の端部を有する継手本体と、
軸方向の一端はチューブの開口端へ圧入され、他端は、
前記継手本体の環状溝へ圧入され、または前記継手本体の環状突起に圧着する環状突起
を含み、前記継手本体の端部へチューブを接続するスリーブと、
軸方向の一端は前記チューブを受け入れ、他端は前記継手本体の雄ねじにねじ込まれるユニオンナットと
を備え、
前記継手本体は、
前記ユニオンナットの他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際の前記他端の軌道と交差するように設けられており前記他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記他端によって径方向に潰されることにより、前記ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させると共に前記他端が前記継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを許すように構成されている第1規制部と
前記第1規制部が潰された後に前記ユニオンナットに接触することにより、前記ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させるように、軸方向と交差して設けられている第2規制部
有する
ことを特徴とする管継手。
【請求項2】
前記ユニオンナットは雌ねじよりも奥に円環面を有し、
前記第2規制部は、
前記継手本体の筒状の端部の先端に位置し、
前記ユニオンナットの他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記第1規制部が潰された後に前記ユニオンナットの円環面に接触することで、前記ユニオンナットが前記継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを妨げるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の管継手。
【請求項3】
前記第2規制部は、
前記軌道と交差するように設けられており、
前記ユニオンナットの他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記第1規制部が潰された後に前記ユニオンナットの他端に接触することで、前記ユニオンナットが前記継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを妨げるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の管継手。
【請求項4】
前記ユニオンナットは雌ねじよりも奥に円環面を有し、
前記第2規制部は、
前記継手本体の筒状の端部の先端に位置し、
前記ユニオンナットの他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記第1規制部が潰された後に前記ユニオンナットの円環面によって径方向に潰されることで、前記円環面が更に進むのを許すように構成されており、
前記継手本体は、
前記軌道と交差するように設けられており、前記ユニオンナットの他端が前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記第1規制部が潰された後に前記ユニオンナットの他端に接触することで前記ユニオンナットが前記継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを妨げると共に、前記ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させるように構成されている第3規制部
を更に有し、
前記ユニオンナットの他端は、前記継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、前記円環面が前記第2規制部に接触した後、前記第3規制部に接触するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の管継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体機器にチューブを接続する管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいては、ウェハへのレジストの塗布、ウェハの洗浄等に様々な薬液または超純水が使用される。これらの薬液等を扱うチューブ、管継手、バルブ、ポンプ等の配管設備が半導体製造装置には含まれる。この配管設備の特徴としては、薬液等に直に触れる部分がすべてフッ素樹脂で構成される点と、洗浄等のメンテナンスが比較的頻繁である点とが挙げられる。前者は、金属汚染による半導体の結晶欠陥、および電気的特性の劣化を防ぐことを目的とし、後者は、微粒子による配線の加工不良、および有機物による成膜異常を防ぐことを目的とする。これらの特徴を踏まえて配管設備には、高いシール性に加え、組み立てと分解との作業の容易性が求められる。
【0003】
配管設備の中でも管継手には、チューブの接続にスリーブ(インナーリングともいう。)を利用するものが含まれる。スリーブは、軸方向の一端がチューブの開口端に圧入され、他端が継手本体に接続された上で、ユニオンナットで継手本体に締め付けられる。この締め付けによりユニオンナットからスリーブの受ける力が、スリーブと継手本体との間のシールに利用される。この力の強さを、管継手の各部位が歪まない程度の適正な範囲に留めて、管継手に高いシール性を保たせるには、軸方向におけるユニオンナットの位置(締め付け位置)が適正に設定されなければならない。また、ユニオンナットの締め付け作業を容易にするには、締め付け位置が適正であるか否かを作業者に容易に把握させなければならない。たとえば、特許文献1、2に開示された管継手では、ユニオンナットと継手本体のフランジ部との間にリング部材が挟まれる。ユニオンナットは、適正な締め付け位置まで進むとリング部材に接触するので、それ以上の進行が妨げられる。その結果、ユニオンナットが適正な締め付け位置を越えては進みにくい。また、ユニオンナットが適正な締め付け位置にあるか否かを作業者が把握しやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-332070号公報
【文献】特開平11-094178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のリング部材のように、ユニオンナットの軌道上でユニオンナットの進行を妨げる構造を、以下、規制部と呼ぶ。規制部は特に、ユニオンナットの軸方向と交差して設けられている。これにより、規制部は、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる際にユニオンナットに周方向から接触し、ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させる。管継手では一般に、他の部材と同様に規制部も樹脂製である。したがって、ユニオンナットが適正な締め付け位置に到達したにもかかわらず作業者が誤ってユニオンナットを過度に締め付けると、ユニオンナットからの過剰な圧力で規制部が変形する。変形した規制部はユニオンナットの進行を完全には止められないので、ユニオンナットが適正な締め付け位置を越える。その結果、継手本体の全体が歪むので、管継手のシール性が損なわれる。ユニオンナットの締め付けが更に強い場合には継手本体がねじ切れる等、管継手が破損する危険性も生じる。
【0006】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、ユニオンナットに適正な締め付け位置を確実に越えさせないことができる管継手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの観点における管継手は、継手本体と、スリーブと、ユニオンナットとを備えている。継手本体は筒状の端部を有する。この端部は、外周部に雄ねじを含み、内周部に環状溝または環状突起を含む。スリーブは、継手本体の端部へチューブを接続する。ユニオンナットの軸方向の一端はチューブを受け入れ、他端は継手本体の雄ねじにねじ込まれる。継手本体は第1規制部と第2規制部とを有する。これらの規制部は、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、ユニオンナットに接触し、ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させるように、軸方向と交差して設けられている。ユニオンナットは、継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、第1規制部に接触した後、第2規制部に接触する。
【0008】
第1規制部は、ユニオンナットに接触した後には変形して、ユニオンナットが継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを許してもよい。第2規制部は、ユニオンナットに接触することで、ユニオンナットが継手本体の雄ねじに沿って更に進むのを妨げてもよい。第1規制部は継手本体の雄ねじよりも径方向において外側に位置してもよい。第2規制部は継手本体の雄ねじよりも径方向において内側に位置してもよい。
【0009】
継手本体は第3規制部を更に有してもよい。第3規制部は、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、ユニオンナットに接触し、ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクを急上昇させるように、軸方向と交差して設けられている。ユニオンナットは、継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、第2規制部に接触した後、第3規制部に接触してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明による上記の管継手では、ユニオンナットが、継手本体の雄ねじにねじ込まれる際、第1規制部に接触した後、第2規制部に接触する。このようにユニオンナットは規制部との二重の接触で進行を妨げられるので、適正な締め付け位置を越えてまでは進行しにくい。さらに、ユニオンナットを通して作業者の手に伝わるトルクは、ユニオンナットが第1規制部に接触した時点で一旦、急上昇する。したがって、適正な締め付け位置へユニオンナットが到達する前に、その位置へのユニオンナットの接近が作業者の手に伝わるので、作業者にユニオンナットの過度な締め付けを警戒させやすい。こうして、この管継手は、ユニオンナットに適正な締め付け位置を確実に越えさせないことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1による管継手の外観を示す斜視図である。
図2図1が示す直線II-IIに沿った管継手の部分断面図である。
図3】(a)、(b)は、図2と同様な管継手の部分断面図であり、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる様子を時間順に示す。
図4】(a)、(b)は、本発明の実施形態2による管継手の部分断面図であり、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる様子を時間順に示す。
図5】(a)、(b)、(c)は、本発明の実施形態3による管継手の部分断面図であり、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる様子を時間順に示す。
図6】(a)、(b)は、実施形態1による管継手についてそのような変形の一例を示す部分断面図であり、ユニオンナットが継手本体の雄ねじにねじ込まれる様子を時間順に示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
《実施形態1》
【0013】
図1は、本発明の実施形態1による管継手100の外観を示す斜視図である。図2は、図1が示す直線II-IIに沿った管継手100の部分断面図である。管継手は、接続形式に応じて様々な形状を有している。たとえば、図1に示す管継手100はティーと呼ばれるものであり、3本のチューブ500をT字形に接続するのに利用される。チューブ500は白色または半透明な管であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素樹脂から成る。各チューブ500が接続される管継手100の端部の構造は共通であり、図2が示すように、継手本体110、スリーブ120、およびユニオンナット130を含む。
【0014】
継手本体110は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PTFE、PFA等、フッ素樹脂製の円筒部材である。継手本体110(厳密には、その端部である。以下同じ。)は外筒111と内筒112との二重構造である。外筒111と内筒112とは共通の基端部119から同じ方向(図2ではZ軸の正方向)へ同軸に突出している。外筒111は外周面にフランジ113と雄ねじ114とを含む。フランジ113は外筒111の基端部から径方向に張り出している。雄ねじ114はフランジ113の傍から外筒111の先端115へ向かって、軸方向(Z軸の正方向)へ伸びている。内筒112は環状の突起であり、先端116が外筒111の先端115よりも短い。内筒112の先端116は、軸方向(Z軸方向)に対する傾斜面117を含み、継手本体110の基端部119から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)ほど内径が増大している。外筒111の内部空間のうち外筒111の先端115から内筒112の先端116までの範囲にはスリーブ(インナーリング)120が収められる。外筒111の内周面と内筒112の外周面とが対向する部分は、環状溝118を形成している。
【0015】
スリーブ120は、PTFE、PFA等、フッ素樹脂製の円筒部材であり、継手本体110と同軸に配置されている。スリーブ120の先端部121はチューブ500の開口端に圧入されており、基端部122は継手本体111の内筒112と環状溝118とに嵌め合わされている。これにより、継手本体110の基端部119と内筒112、スリーブ120、およびチューブ500それぞれの内部空間が連通して、薬液または超純水等の流体の流路を形成している。
【0016】
スリーブ120の先端部121は膨出部123を含む。膨出部123は、軸方向(Z軸方向)の位置に応じて外径がなだらかに増減している部分であり、軸方向(Z軸方向)における中央部に外径が最大となる部分(ピーク)を含む。このピークの外径はチューブ500の内径よりも大きいので、膨出部123がチューブ500の開口端へ圧入されることによりその開口端を内側から拡げる。この拡張に逆らうチューブ500の弾性力は、チューブ500の開口端がスリーブ120の膨出部123を抱き込むように作用するので、その開口端がスリーブ120の先端部121にしっかりと固定されている。
【0017】
スリーブ120の基端部122は環状突起124と環状溝125とを含む。環状突起124はスリーブ120の基端部122の周全体から軸方向(図ではZ軸の負方向)へ突出しており、先端部が継手本体110の環状溝118に挿入されている。環状突起124の内径は継手本体110の内筒112の外径よりもわずかに小さいので、継手本体110の環状溝118の中へ環状突起124は圧入(締まり嵌め)状態で設置される。これにより環状突起124の内周面と内筒112の外周面とが隙間なく接触する。スリーブ120の環状溝125は環状突起124の基端の内側に位置している。環状溝125の中には継手本体110の内筒112の先端116が挿入されている。環状溝125は、内筒112の先端116の傾斜面117と同じ方向に傾斜した部分を含み、この部分が内筒112の傾斜面117に接触している。
【0018】
ユニオンナット130は、PTFE、PFA、PVDF等、フッ素樹脂製の円筒部材であり、継手本体110、スリーブ120、およびチューブ500を同軸に囲んでいる。ユニオンナット130の端部のうち継手本体110に近い方、すなわち先端131からは弧状突起133が、たとえば3つ、軸方向(Z軸の負方向)へ突き出している(図1参照)。弧状突起133は、ユニオンナット130の先端131の開口の縁に沿って等間隔で並んでいる。弧状突起133は、継手本体110のフランジ113に接触してそれを変形させている。ユニオンナット130の端部のうち継手本体110から遠い方、すなわち基端132にはチューブ500が同軸に挿入されている。
【0019】
ユニオンナット130の内周面は、継手本体110から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)順に、雌ねじ134、段部135、およびテーパ面136を含む。雌ねじ134はユニオンナット130の先端131から継手本体110の外筒111の先端115近傍まで伸びており、継手本体110の雄ねじ114と噛み合っている(螺合している)。段部135は、雌ねじ134よりも内径が狭い部分であり、チューブ500のうちスリーブ120の膨出部123によって広げられた部分と対向している。雌ねじ134と段部135との間の境界には円環面137が、軸方向と交差する方向に広がっている。円環面137は、継手本体110の外筒111の先端115と接触可能な位置に設けられている。テーパ面136は、段部135よりも内径が狭い部分であり、段部135から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)に従って内径が減少している。テーパ面136は、チューブ500のうちスリーブ120の先端の開口近傍に位置する部分と接触している。これにより、ユニオンナット130の雌ねじ134が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれた際、ユニオンナット130からの圧力がテーパ面136からチューブ500に加わり、更にスリーブ120を通してスリーブ120と継手本体110の内筒112との接触部分へ伝わる。その結果、スリーブ120の環状突起124の内周面と継手本体110の内筒112の外周面との間、およびスリーブ120の環状溝125と継手本体110の内筒112の傾斜面117との間が隙間なく圧着する。こうして継手本体110とスリーブ120との隙間が密閉される。
【0020】
継手本体110の雄ねじ114に沿った(すなわち、Z軸の負方向への)ユニオンナット130の進行は、継手本体110のフランジ113とユニオンナット130の弧状突起133との接触、および継手本体110の外筒111の先端115とユニオンナット130の円環面137との接触により二重に止められている。すなわち、継手本体110のフランジ113と外筒111の先端115との両方が、ユニオンナット130に対する規制部として機能する。
【0021】
図3の(a)、(b)は、図2と同様な管継手100の部分断面図であり、ユニオンナット130が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる様子を時間順に示す。ユニオンナット130が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれ始めると、まず、図3の(a)が示すように、弧状突起133が継手本体110のフランジ113に接触する。この時点で一旦、ユニオンナット130から作業者の手に伝わるトルクが急上昇する。たとえば、弧状突起133がフランジ113に接触した後では、接触する前よりも、トルクが10~20%上昇する。一方、フランジ113はユニオンナット130との接触で、図3の(b)が示すように変形するので、ユニオンナット130は雄ねじ114に沿って進行し続ける。その後、図3の(b)が示すように、ユニオンナット130の円環面137が継手本体110の外筒111の先端115に接触し、作業者の手に伝わるトルクを更に急上昇させる。このときのユニオンナット130の軸方向(Z軸方向)における位置が適正な締め付け位置として設計されている。フランジ113よりも外筒111の先端115は分厚いので、ユニオンナット130との接触では変形しにくい。したがって、外筒111の先端115が変形する前に、作業者の手に伝わるトルクの更なる急上昇により、作業者がユニオンナット130を停止させる可能性が高い。
[実施形態1の利点]
【0022】
本発明の実施形態1による管継手100では、ユニオンナット130が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる際、まずユニオンナット130の弧状突起133が継手本体110のフランジ113に接触し、その後、ユニオンナット130の円環面137が継手本体110の外筒111の先端115に接触する。このようにユニオンナット130は継手本体110の規制部113、115との二重の接触で進行を妨げられるので、適正な締め付け位置を越えてまでは進行しにくい。さらに、ユニオンナット130を通して作業者の手に伝わるトルクは、ユニオンナット130の弧状突起133が継手本体110のフランジ113に接触した時点で一旦、急上昇する。したがって、適正な締め付け位置へユニオンナット130が到達する前に、すなわち継手本体の外筒111の先端115へユニオンナット130の円環面137が到達する前に、適正な締め付け位置へのユニオンナット130の接近が作業者の手に伝わる。これにより管継手100は、適正な締め付け位置へユニオンナット130が到達する前に、作業者にユニオンナット130の過度な締め付けを警戒させることができる。こうして、管継手100は、ユニオンナット130に適正な締め付け位置を確実に越えさせないことができる。
【0023】
なお、ユニオンナット130の弧状突起133が円環面137よりも先に、継手本体110のフランジ113に接触することが好ましい。それは、ユニオンナット130との接触で変形する継手本体110のフランジ113が雄ねじ114よりも径方向において外側に位置するので、その変形が雄ねじ114にもスリーブ120にも影響しにくいからである。フランジ113の変形に伴って雄ねじ114が変形することも傾くこともないので、ユニオンナット130を適正な締め付け位置まで確実にねじ込むことができる。また、フランジ113の変形に伴う応力が、ユニオンナット130のテーパ面136からスリーブ120へ伝わる応力には影響しないので、継手本体110の内筒112とスリーブ120との間のシール性が劣化する危険性がない。
《実施形態2》
【0024】
図4の(a)、(b)は、本発明の実施形態2による管継手200の部分断面図であり、ユニオンナット230が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる様子を時間順に示す。実施形態2による管継手200は実施形態1による管継手100とは、ユニオンナット230の構造が異なる。その他の要素は実施形態1による管継手100と構造が共通する。図4では、実施形態1による管継手100と実施形態2による管継手200との間で構造が共通する要素には同じ符号を付し、それら共通の要素の詳細については、実施形態1についての説明を援用する。
【0025】
図4の(b)が示すように、ユニオンナット230の内周面は、実施形態1によるものとは異なり、雌ねじ134とテーパ面136との間に段部135を含まないので、継手本体の外筒111の先端115とは接触しない。一方、ユニオンナット230の弧状突起133は継手本体110のフランジ113を押しつぶし、それを乗り越えて継手本体110の基端部119に接触している。
【0026】
継手本体110の雄ねじ114に沿ったユニオンナット230の進行は、継手本体110のフランジ113とユニオンナット230の内周面との接触、および継手本体110の基端部119とユニオンナット230の弧状突起133との接触により、二重に止められている。すなわち、継手本体110のフランジ113と基端部119との両方が、ユニオンナット230に対する規制部として機能する。
【0027】
ユニオンナット230は継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれ始めると、まず、図4の(a)が示すように、弧状突起133が継手本体110のフランジ113に接触する。この接触により、ユニオンナット230から作業者の手に伝わるトルクが一旦、急上昇する。一方、フランジ113はユニオンナット230との接触で変形するので、ユニオンナット230は雄ねじ114に沿って進行し続ける。その後、図4の(b)が示すように、ユニオンナット230の弧状突起133がフランジ113を押しつぶし、それを乗り越えて継手本体110の基端部119に接触するので、作業者の手に伝わるトルクが更に急上昇する。このときのユニオンナット230の軸方向(Z軸方向)における位置が適正な締め付け位置として設計されている。フランジ113よりも基端部119は分厚いので、ユニオンナット230との接触では変形しにくい。したがって、基端部119が変形する前に作業者の手に伝わるトルクの更なる急上昇により、作業者がユニオンナット230を停止させる可能性が高い。
[実施形態2の利点]
【0028】
本発明の実施形態2による管継手200では、ユニオンナット230が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる際、ユニオンナット230の弧状突起133が、まず継手本体110のフランジ113に接触し、その後、それを乗り越えて継手本体110の基端部119に接触する。このようにユニオンナット230は継手本体110との二重の接触で進行を妨げられるので、適正な締め付け位置を越えてまでは進行しにくい。さらに、ユニオンナット230を通して作業者の手に伝わるトルクは、ユニオンナット230の弧状突起133が継手本体110のフランジ113に接触した時点で一旦、急上昇する。したがって、適正な締め付け位置へユニオンナット230が到達する前に、すなわち継手本体の基端部119へユニオンナット230の弧状突起133が到達する前に、適正な締め付け位置へのユニオンナット230の接近が作業者の手に伝わる。これにより管継手200は、適正な締め付け位置へユニオンナット230が到達する前に、作業者にユニオンナット230の過度な締め付けを警戒させることができる。こうして、管継手200は、ユニオンナット230に適正な締め付け位置を確実に越えさせないことができる。
【0029】
なお、継手本体110の規制部と最後に接触する部位は、実施形態1によるユニオンナット130では円環面137であって、継手本体110の雄ねじ114よりも径方向において内側に位置する。これに対し、実施形態2によるユニオンナット230では弧状突起133であって、継手本体110の雄ねじ114よりも径方向において外側に位置する。したがって、仮に継手本体110の軸に対してユニオンナットの軸が傾いた場合、実施形態2による管継手200よりも実施形態1による管継手100の方が、ユニオンナットの締め付け位置の適正な位置からのずれを小さく抑えやすい。
《実施形態3》
【0030】
図5の(a)、(b)、(c)は、本発明の実施形態3による管継手300の部分断面図であり、ユニオンナット330が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる様子を時間順に示す。実施形態3による管継手300は実施形態1による管継手100とは、ユニオンナット330の構造が異なる。その他の要素は実施形態1による管継手100と構造が共通する。図5では、実施形態1による管継手100と実施形態3による管継手300との間で構造が共通する要素には同じ符号を付し、それら共通の要素の詳細については実施形態1についての説明を援用する。
【0031】
図5の(c)が示すように、ユニオンナット330の弧状突起133は、継手本体110の基端部119に接触している。ユニオンナット330の内周面は、継手本体110から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)順に、雌ねじ334、段部335、およびテーパ面336を含む。雌ねじ334は、ユニオンナット330の先端131の開口の縁よりも軸方向(Z軸方向)において少し内側(Z軸の正側)から、継手本体110の外筒111の先端115近傍まで伸びており、継手本体110の雄ねじ114と噛み合っている(螺合している)。ユニオンナット330の先端131の開口の縁と雌ねじ334との間の境界には第1円環面337が、軸方向と交差する方向に広がっている。第1円環面337は継手本体110のフランジ113に接触し、それを変形させている。段部335は、雌ねじ334よりも内径が狭い部分であり、チューブ500のうちスリーブ120の膨出部123によって広げられた部分と対向している。雌ねじ334と段部335との間の境界には第2円環面338が軸方向と交差する方向に広がっている。第2円環面338は、継手本体110の外筒111の先端115に接触し、それを変形させている。テーパ面336は段部335よりも内径が狭い部分であり、段部335から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)に従って内径が減少している。テーパ面336は、チューブ500のうちスリーブ120の先端の開口近傍に位置する部分と接触している。これにより、実施形態1によるテーパ面135と同様、ユニオンナット330の雌ねじ334が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれた際、ユニオンナット330からの圧力がテーパ面336からチューブ500に加わり、更にスリーブ120を通してスリーブ120と継手本体110の内筒112との接触部分へ伝わる。
【0032】
継手本体110の雄ねじ114に沿ったユニオンナット330の進行は、継手本体110のフランジ113とユニオンナット330の第1円環面337との接触、継手本体110の外筒111の先端115とユニオンナット330の第2円環面338との接触、および継手本体110の基端部119とユニオンナット330の弧状突起133との接触により三重に止められている。すなわち、継手本体110のフランジ113、外筒111の先端115、および基端部119のいずれもが、ユニオンナット330に対する規制部として機能する。
【0033】
ユニオンナット330が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれ始めると、まず、図5の(a)が示すように、第1円環面337が継手本体110のフランジ113に接触する。この接触により、ユニオンナット330から作業者の手に伝わるトルクが一旦、急上昇する。一方、フランジ113はユニオンナット330との接触で、図5の(b)が示すように変形するので、ユニオンナット330は雄ねじ114に沿って進行し続ける。次に、図5の(b)が示すように、第2円環面338が継手本体110の外筒111の先端115に接触する。この接触により、ユニオンナット330から作業者の手に伝わるトルクが更に急上昇する。一方、外筒111の先端115はユニオンナット330との接触で、図5の(c)が示すように変形するので、ユニオンナット330は雄ねじ114に沿って進行し続ける。続いて、図5の(c)が示すように、ユニオンナット330の弧状突起133が継手本体110の基端部119に接触する。この接触により、ユニオンナット330から作業者の手に伝わるトルクが再び急上昇する。このときのユニオンナット330の軸方向(Z軸方向)における位置が適正な締め付け位置として設計されている。フランジ113と外筒111の先端115とのいずれよりも基端部119は分厚いので、ユニオンナット330との接触では変形しにくい。したがって、基端部119が変形する前に、作業者の手に伝わるトルクの更なる急上昇により、作業者がユニオンナット330を停止させる可能性が高い。
[実施形態3の利点]
【0034】
本発明の実施形態3による管継手300では、ユニオンナット330が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれる際、まずユニオンナット330の第1円環面337が継手本体110のフランジ113に接触し、次にユニオンナット330の第2円環面338が継手本体110の外筒111の先端115に接触し、その後、ユニオンナット330の弧状突起133が継手本体110の基端部119に接触する。このようにユニオンナット330は継手本体110との三重の接触で進行を妨げられるので、適正な締め付け位置を越えてまでは進行しにくい。さらに、ユニオンナット330を通して作業者の手に伝わるトルクは、ユニオンナット330の第1円環面337が継手本体110のフランジ113に接触した時点と、ユニオンナット330の第2円環面338が継手本体110の外筒111の先端115に接触した時点との2度、急上昇する。したがって、適正な締め付け位置へユニオンナット330が到達する前に、すなわち継手本体110の基端部119へユニオンナット330の弧状突起133が到達する前に、適正な締め付け位置へのユニオンナット330の接近が作業者の手に2段階で伝わる。これにより管継手300は、適正な締め付け位置へユニオンナット330が到達する前に、作業者にユニオンナット330の過度な締め付けを2度にわたって警戒させることができる。こうして、管継手300は、ユニオンナット330に適正な締め付け位置を確実に越えさせないことができる。
[変形例]
【0035】
(1)図1が示す管継手100の全体の形状は一例に過ぎない。すなわち、管継手はティーの他、エルボ、ベンド、クロス、ソケット等、異なる形状のものであってもよい。また、バルブやフィルター等の流体機器に設けられる管継手(チューブ接続口)であってもよい。この場合、当該流体機器のボディと一体的に形成される構造であってもよい。いずれの場合も、チューブとの接続部の構造は、図2が示す実施形態1のもの、図4が示す実施形態2のもの、または図5が示す実施形態3のものと同様であればよい。
【0036】
(2)図1が示すユニオンナット130の弧状突起133の数、周方向の長さ、および周方向の間隔は一例に過ぎない。たとえば、弧状突起133は単一でもよく、その場合、周方向の長さはユニオンナット130の全周にわたってもよい。
【0037】
(3)実施形態3による管継手300ではユニオンナット330が、弧状突起133、第1円環面337、および第2円環面338の三か所で継手本体110の規制部119、113、115と接触している。これらの中から、実施形態2によるユニオンナット230のように第2円環面338が除去され、ユニオンナット330の進行が弧状突起133と第1円環面337とで二重に止められてもよい。
【0038】
(4)図2図5が示す継手本体110とスリーブ120との間の接続部の構造は一例に過ぎず、多様な変形があり得る。
図6の(a)、(b)は、実施形態1による管継手100についてそのような変形の一例400を示す部分断面図であり、ユニオンナット130が継手本体410の雄ねじ114にねじ込まれる様子を時間順に示す。継手本体410とスリーブ420との間の接続部以外の構造は実施形態1による管継手100と共通する。図6では、実施形態1による管継手100と変形例による管継手400との間で共通する要素には同じ符号を付し、それら共通の要素の詳細については、実施形態1についての説明を援用する。
【0039】
図6の(b)が示す継手本体410は、図2が示す継手本体110とは、内筒412の形状が異なる。内筒412は環状の突起であり、外周面413の全体がテーパ状であり、継手本体410の基端部119から軸方向へ離れる(Z軸の正方向へ向かう)ほど外径が減少している。
【0040】
図6の(b)が示すスリーブ420は、図2が示すスリーブ120とは、基端部422の形状が異なる。基端部422は環状突起424を含む。環状突起424はスリーブ420の基端部422の周全体から軸方向(図ではZ軸の負方向)へ突出しており、先端部が継手本体410の環状溝118に挿入されている。環状突起424は内周面425の全体がテーパ状であり、スリーブ420の基端部422から軸方向へ離れる(Z軸の負方向へ向かう)ほど内径が増加している。すなわち、環状突起424の内周面425は内筒412の外周面413と、軸方向(Z軸方向)に対する傾斜の方向が等しい。これにより、環状突起424の内周面425は内筒412の外周面413と広い面積で接触している。
【0041】
ユニオンナット130が継手本体410の雄ねじ114にねじ込まれ始めた後、まず、図6の(a)が示すように、弧状突起133が継手本体410のフランジ113に接触する。このときフランジ113は、図6の(b)が示すように変形するので、ユニオンナット130は雄ねじ114に沿って進行し続ける。その後、図6の(b)が示すように、ユニオンナット130の円環面137が継手本体410の外筒111の先端115に接触する。このときのユニオンナット130の軸方向(Z軸方向)における位置が適正な締め付け位置として設計されている。
【0042】
ユニオンナット130の雌ねじ134が継手本体410の雄ねじ114にねじ込まれた際、ユニオンナット130からの圧力がテーパ面136からチューブ500の外周面に加わり、更にスリーブ420を通してスリーブ420の環状突起424の内周面425と継手本体410の内筒412の外周面413との接触部分へ伝わる。その結果、スリーブ420の環状突起424の内周面425と継手本体410の内筒412の外周面413との間が隙間なく圧着する。こうして、継手本体410とスリーブ420との隙間が密閉される。
【符号の説明】
【0043】
100 管継手
110 継手本体
111 継手本体の外筒
112 継手本体の内筒
113 フランジ
114 雄ねじ
120 スリーブ
121 スリーブの先端部
122 スリーブの基端部
123 膨出部
130 ユニオンナット
131 ユニオンナットの先端
132 ユニオンナットの基端
133 弧状突起
134 雌ねじ
135 段部
136 テーパ面
137 円環面
500 チューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6