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特許7344790排ガス燃焼処理装置の蓄熱部構造、及び、排ガス燃焼処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】排ガス燃焼処理装置の蓄熱部構造、及び、排ガス燃焼処理方法
(51)【国際特許分類】
   F23G 7/06 20060101AFI20230907BHJP
   F23G 5/46 20060101ALI20230907BHJP
   F23G 7/00 20060101ALI20230907BHJP
   F23J 15/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F23G7/06 101Z
F23G5/46 A ZAB
F23G7/00 A
F23J15/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019236068
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105466
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】影山 健友
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-195539(JP,A)
【文献】特開2012-229159(JP,A)
【文献】特開2001-201033(JP,A)
【文献】特開2005-233602(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110296424(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 5/00 - 7/12
F23J 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼空間と連通する蓄熱部を複数備え、揮発性有機化合物を含む排ガスを前記燃焼空間において燃焼処理し、処理済みのガスの熱を前記蓄熱部で回収すると共に、前記燃焼空間に供給される排ガスを前記蓄熱部で予熱するものであり、それぞれの前記蓄熱部が、未処理の排ガスが供給される排ガス供給モードと、前記燃焼空間における燃焼処理済みのガスが排出されるガス排出モードと、パージ用ガスが供給されるパージモードに切替えられる蓄熱式の排ガス燃焼処理装置において、
それぞれの前記蓄熱部は複数層からなり、前記燃焼空間の下部に連設されていると共に、
複数層の前記蓄熱部は、通気性を有する材料で形成された通気性容器に中実ボール状の蓄熱体が離脱不能に収容された蓄熱ユニットで構成された蓄熱層と、ハニカム構造体によって構成された蓄熱層の双方を備え、
前記蓄熱ユニットで構成された蓄熱層は、前記蓄熱部の最上層のみで前記燃焼空間に接するように設けられており、
前記蓄熱体は、前記通気性容器に最密充填される場合の個数がN個となる大きさの球体であり、前記通気性容器に(N-1)個が充填されていることにより、前記パージモードで供給されるガスの圧力によって前記通気性容器の内部で動くものであり、揮発性有機化合物の燃焼残渣を粉砕する作用と、蓄熱作用とを兼ね備えている
ことを特徴とする蓄熱部構造。
【請求項2】
前記通気性容器は一辺が10cm~30cmの立方体であると共に、前記蓄熱体の直径は1cm~3cmであり、
前記通気性容器に対する前記中実ボール状の蓄熱体の充填率は、29体積%~68体積%である
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱部構造。
【請求項3】
前記中実ボール状の蓄熱体は炭化珪素焼結体で、1個当たりの質量が1.6g~15gで、直径は1.2cm~2.6cmであり、
前記通気性容器に対する前記中実ボール状の蓄熱体の充填率は、34体積%~66体積%である
ことを特徴とする請求項2に記載の蓄熱部構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法であり、
前記中実ボール状の蓄熱体によって前記処理済みのガスの熱を回収し、且つ、前記燃焼空間に供給される排ガスを前記中実ボール状の蓄熱体の熱によって予熱すると共に、
外部から前記蓄熱部を介して前記燃焼空間にガスを供給する際のガス圧によって、前記通気性容器の内部で前記中実ボール状の蓄熱体を吹き上がらせ、揮発性有機化合物の燃焼残渣を粉砕し、前記燃焼残渣の前記蓄熱部への堆積を抑制することにより、前記蓄熱部における圧力損失の増大を抑制する保守を、排ガスの燃焼処理と同時に行う
ことを特徴とする排ガス燃焼処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱式の排ガス燃焼処理装置の蓄熱部構造、及び、該蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の工場からの排ガスに含まれる揮発性有機化合物を燃焼処理する装置として、蓄熱式の排ガス燃焼処理装置が使用されている。これは、燃焼空間と連通する蓄熱部を複数備えており、未処理の排ガスが蓄熱部を介して燃焼空間に導入されるモードと、燃焼空間で燃焼処理した処理済みのガスが蓄熱部を介して外部に排出されるモードとに、各蓄熱部を切替えるものである。燃焼空間で高温となった処理済みのガスは、蓄熱部に配された蓄熱体に熱を与えて低温となって排出され、未処理の排ガスは高温の蓄熱体によって予熱されてから燃焼空間に導入されるため、熱効率よく排ガスの燃焼処理を行うことができる。
【0003】
このような蓄熱式の排ガス燃焼処理装置の蓄熱部に配される蓄熱体としては、一般的に、セラミックスのハニカム構造体が使用されている(例えば、特許文献1参照)。ハニカム構造体は、多数の隔壁により区画されたセルが単一の方向に延びている構造であり、セルを通過するガスと熱交換を行う。
【0004】
ところが、従来の蓄熱式の排ガス燃焼処理装置では、処理済みのガスが蓄熱部を介して外部に排出される際に、揮発性有機化合物の燃焼残渣が、蓄熱部におけるガスの流入面、すなわち、燃焼空間と接している面に堆積してしまうことがあり、ハニカム構造体のセルが目詰まりする原因となっていた。セルが目詰まりすると、蓄熱部のガス流通性が低下すると共に、圧力損失の増大によってハニカム構造体の破損に至る場合もある。
【0005】
特に、近年では、シリコーン樹脂の用途が拡大したことから、排ガス中の揮発性有機化合物にシリコーン樹脂が含まれるケースが増加している。シリコーン樹脂の酸化分解により生じたシリカは、針状または繊維状であり、絡み合って皮膜化し、ハニカム構造体のセルの開口を被覆してしまう。そのため、シリコーン樹脂を含む排ガスを処理する排ガス燃焼処理装置では、ハニカム構造体の目詰まりに起因して短期間で処理能力が低下してしまうという問題や、ハニカム構造体の交換を行うために頻繁に排ガスの処理を停止しなくてはならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-195540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、蓄熱式の排ガス燃焼処理装置において、蓄熱部の圧力損失の増大が抑制されており、長期にわたり安定して排ガスの燃焼処理を行うことを可能とする蓄熱部構造、及び、該蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる蓄熱部構造は、
「燃焼空間と連通する蓄熱部を複数備え、揮発性有機化合物を含む排ガスを前記燃焼空間において燃焼処理し、処理済みのガスの熱を前記蓄熱部で回収すると共に、前記燃焼空間に供給される排ガスを前記蓄熱部で予熱するものであり、それぞれの前記蓄熱部が、未処理の排ガスが供給される排ガス供給モードと、前記燃焼空間における燃焼処理済みのガスが排出されるガス排出モードと、パージ用ガスが供給されるパージモードに切替えられる蓄熱式の排ガス燃焼処理装置において、
それぞれの前記蓄熱部は複数層からなり、前記燃焼空間の下部に連設されていると共に、
複数層の前記蓄熱部は、通気性を有する材料で形成された通気性容器に中実ボール状の蓄熱体が離脱不能に収容された蓄熱ユニットで構成された蓄熱層と、ハニカム構造体によって構成された蓄熱層の双方を備え、
前記蓄熱ユニットで構成された蓄熱層は、前記蓄熱部の最上層のみで前記燃焼空間に接するように設けられており、
前記蓄熱体は、前記通気性容器に最密充填される場合の個数がN個となる大きさの球体であり、前記通気性容器に(N-1)個が充填されていることにより、前記パージモードで供給されるガスの圧力によって前記通気性容器の内部で動くものであり、揮発性有機化合物の燃焼残渣を粉砕する作用と、蓄熱作用とを兼ね備えている」ものである。
【0009】
「中実ボール状の蓄熱体」の材質は特に限定されるものではなく、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、アルミナ、コージェライト等のセラミックス、アルミニウム、ステンレス、銅等の金属、セラミックスと金属の複合材料とすることができる。
【0010】
本構成の蓄熱部構造では、通気性を有する材料で形成された通気性容器に、中実ボール状の蓄熱体が離脱不能に収容された蓄熱ユニットを使用する。そして、蓄熱式の排ガス燃焼処理装置において、少なくとも燃焼空間に接するように、蓄熱ユニットで構成された蓄熱層が設けられる。ボール状の蓄熱体は、従来の排ガス燃焼処理装置で蓄熱体として使用されていたハニカム構造体とは異なり、動きやすい。そのため、仮に、揮発性有機化合物の燃焼残渣が蓄熱体の表面に堆積したとしても、蓄熱体が動くことによって燃焼残渣を粉砕することができる。粉砕され微小な粉末となった燃焼残渣は、蓄熱体間の空隙を落下して蓄熱部を通過する。従って、燃焼残渣の堆積に起因して蓄熱部の圧力損失が増大することを有効に抑制することができ、長期にわたり安定して排ガスの燃焼処理を行うことができる。なお、中実ボール状の蓄熱体は、通気性容器に離脱不能に収容されているため、蓄熱体が大きく吹き上がるように大きく動いたとしても、通気性容器から飛び出してしまうことがない。
【0011】
本発明にかかる蓄熱部構造は、上記構成に加え、
前記通気性容器は一辺が10cm~30cmの立方体であると共に、前記蓄熱体の直径は1cm~3cmであり、
前記通気性容器に対する前記中実ボール状の蓄熱体の充填率は、29体積%~68体積%である」ものとすることができる。
【0012】
本構成により、詳細は後述するように、中実ボール状の蓄熱体が通気性容器の内部で動くのに適した空間を、蓄熱体間に存在させることができる。
【0013】
本発明にかかる蓄熱部構造は、上記構成に加え、
「前記中実ボール状の蓄熱体は炭化珪素焼結体で、1個当たりの質量が1.6g~15gで、直径は1.2cm~2.6cmであり、
前記通気性容器に対する前記中実ボール状の蓄熱体の充填率は、34体積%~66体積%である」ものとすることができる。
【0014】
本発明では、蓄熱部における圧力損失の増大を抑制する手段として採用したボール形状は、蓄熱体自身の形状である。そのため、このボール形状の部材は、蓄熱体としての作用に優れていることが望ましい。そこで、本発明ではボール状の蓄熱体を中実とすると共に、本構成では更に炭化珪素の焼結体製とし、且つ、通気性容器に対する中実ボール状の蓄熱体の充填率を29体積%~68体積%としている。炭化珪素は熱伝導率が高いため、中実ボール状の蓄熱体の中心部まで熱交換に寄与させることができる。また、充填率をこの範囲とすることにより、詳細は後述するように、従来の排ガス燃焼処理装置で蓄熱体として使用されていたハニカム構造体を炭化珪素焼結体で形成した場合の熱容量と、ハニカム構造体と同一サイズの通気性容器に収容させた中実ボール状の蓄熱体の熱容量を同程度とし、蓄熱体としての作用を十分に発揮させることができる。
【0015】
次に、本発明にかかる排ガス燃焼処理方法は、
「上記に記載の蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法であり、
前記中実ボール状の蓄熱体によって前記処理済みのガスの熱を回収し、且つ、前記燃焼空間に供給される排ガスを前記中実ボール状の蓄熱体の熱によって予熱すると共に、
外部から前記蓄熱部を介して前記燃焼空間にガスを供給する際のガス圧によって、前記通気性容器の内部で前記中実ボール状の蓄熱体を吹き上がらせ、揮発性有機化合物の燃焼残渣を粉砕し、前記燃焼残渣の前記蓄熱部への堆積を抑制することにより、前記蓄熱部における圧力損失の増大を抑制する保守を、排ガスの燃焼処理と同時に行う」ものである。
【0016】
本発明の排ガス燃焼処理方法は、蓄熱部における圧力損失の増大を抑制する作用を発揮させる部材自体が蓄熱体である点が、一つの特徴である。加えて、蓄熱部における圧力損失の増大を抑制する保守(メンテナンス)が、排ガス燃焼処理の進行と同時に行われる点、すなわち、蓄熱部において圧力損失が増大したことを検知してから、何らかの保守処理を行うのではなく、本来の目的である排ガス燃焼処理を行いながら、蓄熱部の状態を望ましい状態に維持できる点を、大きな特徴の一つとしている。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、蓄熱式の排ガス燃焼処理装置において、蓄熱部の圧力損失の増大が抑制されており、長期にわたり安定して排ガスの燃焼処理を行うことを可能とする蓄熱部構造、及び、該蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)は通気性容器の斜視図であり、図1(b)は他の材料で形成された通気性容器の斜視図であり、図1(c)は蓋の形態の異なる通気性容器の概略構成図である。
図2図2(a)蓄熱ユニットの概略構成図であり、図2(b)は蓄熱ユニットにおける蓄熱体の吹き上がりを説明する模式図である。
図3図3(a)は本実施形態の蓄熱部構造の縦断面図であり、図3(b)は変形例の蓄熱部構造の縦断面図である。
図4図4は蓄熱式の排ガス燃焼処理装置の構成図である。
図5図5はハニカム構造体を使用した従来の蓄熱部構造における問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態である蓄熱部構造、この蓄熱部構造が採用される蓄熱式の排ガス燃焼処理装置100、及び、本実施形態の蓄熱部構造を使用して行われる排ガス燃焼処理方法について、図面を用いて具体的に説明する。
【0020】
まず、排ガス燃焼処理装置100の概略構成について、図4を用いて説明する。排ガス燃焼処理装置100は、燃焼炉90と、燃焼炉90の内部空間である燃焼空間Sと連通する空間をそれぞれ有する複数の蓄熱部60とを備えている。燃焼炉90は、燃焼空間Sを加熱するためのバーナ等の加熱装置80を備えている。
【0021】
複数の蓄熱部60として、ここでは三つの蓄熱部60a,60b,60cが燃焼炉90の下部に連設されている場合を例示する。各蓄熱部60a,60b,60cには、排ガス供給パイプ21から、それぞれ切替弁31,32,33を介して未処理の排ガスが供給される。未処理の排ガスは、上昇しつつ蓄熱部60を通過して燃焼空間Sに導入される。排ガスが燃焼空間Sにおいて加熱されることにより、排ガスに含まれていた揮発性有機化合物が燃焼(酸化分解)する。処理済みのガスを外部に排出する際は、蓄熱部60a,60b,60cの空間をそれぞれ切替弁41,42,43を介してガス排出パイプ49と連通させる。また、蓄熱部60a,60b,60cの内部に滞留している未処理の排ガスを燃焼空間Sに追い出すために、パージ用ガス供給パイプ22から、それぞれ切替弁51,52,53を介してパージ用ガスが蓄熱部60a,60b,60cに供給される。パージ用ガスとしては、外気、または、ガス排出パイプ49を介して排出される処理済みのガスを使用することができる。
【0022】
複数の蓄熱部60は、それぞれ未処理の排ガスが供給される排ガス供給モードと、処理済みのガスが排出されるガス排出モードとに切替えられるものであり、一部の蓄熱部60が排ガス供給モードにあるとき、他の蓄熱部60はガス排出モードとされる。また、排ガス供給モードからガス排出モードに切替えられる際、ガス排出モードに先立って、パージ用ガスが蓄熱部60に供給されるパージモードに切替えられる。例えば、三つの蓄熱部60a,60b,60cのうち、何れか一つが排ガス供給モードにあると共に、他の一つがガス排出モードにあり、残る一つがパージモードにあるように、モードの切替えが行われる。
【0023】
なお、蓄熱部60は複数であれば、その数は限定されない、例えば、五つの蓄熱部60a~60eを有する場合、表1に示すように、(1)~(5)の順に行うモードの切替えを、繰り返すことができる。
【0024】
【表1】
【0025】
上述したように、従来の排ガス燃焼処理装置では、蓄熱体としてハニカム構造体Hを使用し、図5に示すように、ハニカム構造体Hが水平方向に並設された層を複数積層することにより蓄熱部60を構成させていた。そうすると、燃焼処理済みのガスを、蓄熱部60を介して排出する排出モードの際に、排ガスに含まれていた揮発性有機化合物の燃焼残渣70が、最上層のハニカム構造体H、すなわち、燃焼空間Sと接する層のハニカム構造体Hに堆積してしまう。燃焼残渣70は、ハニカム構造体Hのセルの内部に入り込むと共に、セルの開口を被覆するため、ハニカム構造体Hにおける圧力損失が増大してしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、蓄熱部60の少なくとも一部を、通気性を有する材料で形成された通気性容器10に、中実ボール状の蓄熱体Bが離脱不能に収容された蓄熱ユニット1(蓄熱単位)で構成する。蓄熱部60において蓄熱体の層(蓄熱層)が複数層であれば、燃焼空間Sと接する最上層を蓄熱ユニット1で構成して蓄熱層とする。つまり、蓄熱部60が蓄熱体の複数層からなる場合、図3(a)に示すように、全ての層を蓄熱ユニット1で構成した例は参考例である。本実施形態では、図3(b)に示すように、燃焼空間Sと接する最上層のみを蓄熱ユニット1で構成し、その他の層はハニカム構造体Hによって構成する。揮発性有機化合物の燃焼残渣が堆積するのは、処理済みガスが燃焼空間Sから蓄熱部60に流入するときであるため、燃焼空間Sに接する一つの層のみを蓄熱ユニット1で構成すれば、目的とする作用効果を十分に得ることができる。
【0027】
なお、ここでは、複数の蓄熱ユニット1が水平方向に並設されることによって、一つの蓄熱層(一段の蓄熱層)が形成されている場合を図示しているが、一つの蓄熱層が単一の蓄熱ユニット1からなる構成とすることもできる。
【0028】
通気性容器10に、中実ボール状の蓄熱体Bが離脱不能に収容された態様としては、図1(a),(b)及び図2(a)に例示するように、通気性を有する材料で有底筒状に形成された容器本体11に蓄熱体Bが収容されており、容器本体11の開口が通気性を有する材料で形成された蓋体12によって被覆されている態様とすることができる。或いは、図1(c)に例示するように、それぞれ蓄熱体Bが収容されている複数の容器本体11の開口が、通気性を有する材料で形成された一つの蓋体12で被覆されている態様とすることができる。
【0029】
また、蓄熱ユニット1により形成された蓄熱層が複数積層されている場合、最上段の層を構成する蓄熱ユニット1においては、蓄熱体Bを離脱不能に収容するために容器本体11の開口が上記のような通気性の蓋体12で被覆されている必要があるが、二段目以降の蓄熱層では、容器本体11の開口をその上段の層における通気性の容器本体11によって被覆することができる。そのため、通気性容器10が必ずしも蓋体12を備えていなくても、蓄熱体Bが離脱不能に通気性容器10に収容されている態様とすることができる。
【0030】
通気性を有する材料としては、図1(a)に示すように網体を使用することができる。或いは、図1(b))に示すように、パンチングメタルシートを使用することができる。燃焼処理が行われる温度を考慮し、通気性を有する材料は700℃以上の耐熱性を有することが望ましく、耐熱鋼で形成された網体やパンチングメタルシートを使用することができる。蓄熱体Bを離脱不能に通気性容器10に収容するため、網体の網目の大きさや、パンチングメタルシートの孔部の大きさは、中実ボール状の蓄熱体Bの最大径より小さく設定される。
【0031】
なお、水平方向に並設される複数の通気性容器10、または、上下に積層される通気性容器10は、フック状の部材やワイヤによって、互いに連結してもよい。
【0032】
ハニカム構造体Hは押出成形により成形されるため、一般的に角柱状である。そのため、セルの方向を一致させるように複数のハニカム構造体Hを並べたり積層したりしていた従来の蓄熱部では、多少の外力が作用してもハニカム構造体Hは動くことがない。これに対して、本実施形態の蓄熱ユニット1では、蓄熱体Bがボール状であるため動きやすい。そのため、蓄熱部60に排ガスを供給する際、或いは、パージ用ガスを供給する際に、そのガス圧によって中実ボール状の蓄熱体Bを動かすことができる。従って、仮に、揮発性有機化合物の燃焼残渣が蓄熱体Bの表面に堆積したとしても、蓄熱体Bが動くことによって燃焼残渣が粉砕され、微小な粉末となって蓄熱体B間の空隙を落下し、蓄熱部60を通過する。これにより、蓄熱部60の目詰まりによる圧力損失の増大を、有効に抑制することができる。
【0033】
中実ボール状の蓄熱体Bは、図2(b)に模式的に示すように、蓄熱部60に排ガスを供給する際、或いは、パージ用ガスを供給する際のガス圧(図示、矢印)で、吹き上がるように動くことが望ましい。そのためには、通気性容器10の高さを、中実ボール状の蓄熱体Bの最大径の5倍以上とすることが望ましい。中実ボール状の蓄熱体Bが吹き上がるように動くことにより、その上昇及び落下時の衝撃や摩擦によって、揮発性有機化合物の燃焼残渣がより微細に粉砕されると共に、蓄熱体B間の空隙を介して落下し易い。
【0034】
本実施形態では、蓄熱体の形状をボール状とすることにより蓄熱部の目詰まりを抑制しているが、“目詰まりを抑制するための部材自身が蓄熱体である”ところも特徴である。そのため、中実ボール状の蓄熱体が、蓄熱作用に優れていることが望ましい。そのために、中実ボール状の蓄熱体を、炭化珪素の焼結体製とすることができる。一般的に、蓄熱体を中実ボール状とすると、その中心部分は熱交換に寄与しないという難点がある。これに対し、炭化珪素は熱伝導率が高いため、中実ボール状であっても、その中心部分まで熱交換に寄与させることができるという利点を有している。加えて、炭化珪素は熱膨張率が小さいため、処理済みガスから熱を回収するガス排出モードと、未処理ガスに熱を与えて予熱する排ガス供給モードとの切替えが、繰り返されることによる熱衝撃に対する耐性が高い利点も有している。
【0035】
炭化珪素の焼結体製の中実ボールの密度は、1.7g/cm~1.9g/cmである。一方、従来の排ガス燃焼処理装置において蓄熱体として使用されていた一般的なハニカム構造体は、セル密度が約100セル/inch、隔壁厚さが約0.5ミリメートルであり、これを炭化珪素の焼結体で形成すると、密度は0.7g/cm~0.9g/cmである。従って、通気性容器に収容された中実ボール状の蓄熱体の熱容量を、通気性容器と同サイズのハニカム構造体の熱容量と同程度とすることを目的として、両者の質量を同程度とするためには、中実ボール状の蓄熱体の通気性容器への充填率(体積百分率)は、41%~47%とする。
【0036】
また、熱容量を大きくすることだけを考えれば、中実ボール状の蓄熱体を通気性容器に数多く収容させるのが望ましいところ、通気性容器の内部で中実ボール状の蓄熱体が動くためには、通気性容器に蓄熱体をぎっしりと詰め込むのではなく、蓄熱体間に適度な空隙を存在させる必要がある。そこで、取扱いの容易性(ハンドリング性)を考慮して、通気性容器のサイズを一辺が10cm~30cmの立方体とし、中実ボール状の蓄熱体を直径が1cm~3cmの真球と仮定して、中実ボール状の蓄熱体が動くための充填率(体積百分率)を計算した。
【0037】
考え方としては、球体が空間に最密充填される場合の充填率(体積百分率)74%から、そのときに通気性容器に収容される蓄熱体の数を算出し、更に通気性容器一辺当たりの蓄熱体の数(N)を算出する。これにより、蓄熱体が通気性容器に最密充填されたときの状態が、N個×N個の蓄熱体の層がN個積層されている状態に近似される。蓄熱体が上下及び左右に1個分動くには、少なくとも各方向の球体の数が(N-1)個である必要があると考えると、そのときに通気性容器に収容される蓄熱体の個数は(N-1)個であり、その全体積から通気性容器における充填率(体積百分率)が算出される。計算の結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
この計算結果から、通気性容器のサイズ及び中実ボール状の蓄熱体のサイズが上記の設定のとき、通気性容器の内部で中実ボール状の蓄熱体が動くためには、充填率(体積百分率)を29%~68%とすればよいと言える。更に、中実ボール状の蓄熱体の熱容量をハニカム構造体と同程度以上とするために、通気性容器に収容される中実ボール状の蓄熱体の質量を、通気性容器と同一サイズのハニカム構造体の質量以上とするためには、上記の計算結果を考え合わせ、通気性容器に対する中実ボール状の蓄熱体の充填率(体積百分率)を、41%~68%とすればよいと言うことができる。
【0040】
また、中実ボール状の蓄熱体の質量を小さく抑えれば、蓄熱部にガスを供給する際のガス圧で吹き上がり易いため、蓄熱体1個当たりの質量は1.6g~15gとすることが望ましい。その場合、蓄熱体が炭化珪素の焼結体製であれば、上記の密度から、中実ボール状の蓄熱体の望ましい直径は1.2cm~2.6cmである。そして、中実ボール状の蓄熱体の直径がこの範囲のとき、表2と同様に算出される充填率は、34%~66%である。
【0041】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0042】
例えば、上記では、蓋体を備える通気性容器の例として、容器本体と分離される態様の蓋体を図1に示したが、これに限定されず、容器本体の開口縁にヒンジによって取り付けられており、ヒンジ軸周りの回動によって容器本体の開口を開閉する蓋体とすることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 蓄熱ユニット
10 通気性容器
11 容器本体
12 蓋体
60 蓄熱部
60a,60b,60c 蓄熱部
100 排ガス燃焼処理装置
B 中実ボール状の蓄熱体
H ハニカム構造体
S 燃焼空間
図1
図2
図3
図4
図5