(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】柱梁架構体に設置される制振装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230907BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230907BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
E04H9/02 351
F16F15/02 Z
F16F7/00 Z
(21)【出願番号】P 2020083320
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】川島 学
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/116779(WO,A1)
【文献】特開2007-211503(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0115170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 - 15/36
F16F 7/00 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱及び梁の一方を構成して第1方向に延在する第1部材と、前記柱及び梁の前記一方を構成して前記第1方向に延在して、前記第1部材に対して前記第1方向に直交する第2方向の一方に配置された第2部材とを含む柱梁架構体に設置される制振装置であって、
前記第1方向及び前記第2方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、前記第1方向の長さ及び前記第2方向の長さを有し、前記第1部材に対して前記第2方向の前記一方に配置されたシーソー部材と、
前記シーソー部材を前記第1部材に対して前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に平行な第1軸線部回りに回転可能に接合するピン接合体と、
前記第1軸線部よりも前記第1方向の一方及び他方において、前記シーソー部材及び前記第1部材に連結した1対の第1ダンパーと、
一端部が前記第1軸線部よりも前記第2方向の前記一方に位置して前記第3方向に平行な第2軸線部回りに回転可能に前記シーソー部材に接合され、他端部が前記柱梁架構体における前記第2部材の一端側の隅部に前記第3方向に平行な第3軸線部回りに回転可能に接合された第1タイロッドと、
一端部が前記第2軸線部回りに回転可能に前記シーソー部材に接合され、他端部が前記柱梁架構体における前記第2部材の他端側の隅部に前記第3方向に平行な第4軸線部回りに回転可能に接合された第2タイロッドと
を備えることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記シーソー部材は、前記第3方向から見て三角形状をなす枠材又はパネル材を含み、
前記第2軸線部は、前記三角形状の1つの頂点の近傍に設けられ、
非地震時における前記第1タイロッド及び前記第2タイロッドは、前記シーソー部材における前記三角形状の前記1つの頂点から延びる辺部の延長線上に位置することを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記第1軸線部は、前記第1ダンパーが前記シーソー部材に連結する連結部よりも前記第2方向の前記一方に位置することを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
前記シーソー部材は、前記第3方向から見て逆Y字形状をなすことを特徴とする請求項3に記載の制振装置。
【請求項5】
前記第1部材から前記第2方向の前記一方に向かって延出し、延出端部が前記第1ダンパーよりも前記第2方向の前記一方に位置する1対の支柱部材、及び、1対の前記支柱部材の前記延出端部に固定された固定部材を含むフレーム部材と、
前記第1ダンパーとは前記第2方向の反対側から制振力を加えるべく、前記第1軸線部よりも前記第1方向の一方及び他方において、前記シーソー部材及び前記固定部材に連結した1対の第2ダンパーと
を更に備えることを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記柱梁架構体は、前記第1部材と前記第2部材との間に、前記柱又は梁の前記一方を構成する1以上の部材を含み、及び/又は、前記第3軸線部と前記第4軸線部との間に前記柱及び梁の他方を構成する1以上の部材を含むことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、柱梁架構体に設置され、タイロッド及びダンパーを含む制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
柱梁架構体に設置される耐震部材としてブレースが挙げられる。ブレースは互いに交差するように柱梁架構体の対角線上に1対設けられる。地震時において、上層の梁が下層の梁に対して梁の延在方向に振動すると、延在方向の一方に揺れている間は、一方のブレースが引張力を受けるとともに他方のブレースが圧縮力を受け、延在方向の他方に揺れている間は、一方のブレースが圧縮力を受けるとともに他方のブレースが引張力を受ける。ブレースが引張形式で設計されている場合は、引張力が支配的に柱梁架構体に耐震力を与える。この場合、ブレースは圧縮力を受けている間は耐震力の向上に寄与させることができない。これに対して、ブレースが座屈拘束ブレース等を用いて設計されている場合は、圧縮力が耐震力の向上に寄与することができるが、そのためには、座屈拘束ブレース等の圧縮力に耐える剛性、耐力を有するような剛強な取付部材を設計する必要があった。
【0003】
このようなブレース構造に対して、ブレースに圧縮力が作用せず、耐震力だけでなく制振力を有する装置として、例えば、
図5に示すような制振装置1が挙げられる(特許文献1)。制振装置1は、梁2に回転可能に支持された平行部材3(シーソー部材)と、梁2及び平行部材3を連結する1対のダンパー4と、互いに交差し、一端部において平行部材3の端部に回転可能に支持され、他端部において他の梁2の端部に回転可能に支持された第1ブレース5及び第2ブレース6(タイロッド)とを備える。第1ブレース5は、クロスターンバックル7を含み、第2ブレース6は、クロスターンバックル7に設けられた貫通孔を貫通している。
【0004】
仮に、平行部材3が梁2に支持されておらず、かつ1対のダンパー4がないとすると、平行部材3の左右方向の中心は、水平に動くが上下に動かない(近似直線運動、非特許文献1参照)。制振装置1は、平行部材3の回転の軸線を梁2と平行部材との間に設けることにより、近似直線運動を近似的に満足する。また、制振装置1は、平行部材3と梁2との間を1対のダンパー4の設置スペースとしている。
【0005】
地震時に、第1及び第2ブレース5,6の一方が引張力を受け伸長すると平行部材3の一端側を引き上げ、平行部材3の他端側が下降して第1及び第2ブレース5,6の他方の端部が引き下げられる。この平行部材の変位によって柱梁架構体の対角線が短くなることに起因する該他方のブレースの短くなる方向への変位が吸収されるため、該他方のブレースは、圧縮力をほとんど受けない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】田川浩 他「近似直線運動機構に基づくU形ダンパー付き制振構造」、日本建築学会構造系論文集、第75巻、第648号、443-451頁、2010年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示す制振装置1は、第1ブレース5に、第2ブレース6を挿通させるための貫通孔を有する特殊なターンバックル(クロスターンバックル7)が使用されている。直径90mmまでの部材を挿通させる貫通孔を有するクロスターンバックル7は、規格品として存在する。しかし、それ以上の直径の部材を挿通させる貫通孔を有するクロスターンバックル7は、特注品となるためコスト増加の要因となる。また、このような巨大なクロスターンバックル7は、回転させることが困難である。更に、クロスターンバックル7の中央を第2ブレース6が貫通するため、第1ブレース5に引張力を導入する前後の施工精度の確保が困難である。また、クロスターンバックル7とその中を貫通する第2ブレース6とが風等の影響によって互いに衝突すると、その衝突音が騒音となる。
【0009】
また、引用文献1に記載の装置において、ダンパー4の変位を大きくするには平行部材3の延在方向の長さを延ばす必要があり、平行部材3の延在方向の長さを延ばすと納まりが悪かった。また、平行部材3には、ダンパー4及びブレース5,6の連結部と梁からの支持部とに大きな力が加わるため、高い剛性、耐力が要求された。
【0010】
このような事情に鑑み、本発明は、柱梁架構体に設置される制振装置であって、コストが抑制され、施工精度の確保が容易で、騒音の発生が抑制された制振装置を提供することを目的とする。本発明のある実施形態は、部材の剛性、耐力を確保し易い制振装置を提供することを目的とする。本発明のある実施形態は、納まりの良い制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある実施形態は、柱及び梁の一方を構成して第1方向に延在する第1部材(13)と、前記柱及び梁の前記一方を構成して前記第1方向に延在して、前記第1部材に対して前記第1方向に直交する第2方向の一方に配置された第2部材(14)とを含む柱梁架構体(11,31)に設置される制振装置(10,30,40,50)であって、前記第1方向及び前記第2方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、前記第1方向の長さ及び前記第2方向の長さを有し、前記第1部材に対して前記第2方向の前記一方に配置されたシーソー部材(15,41)と、前記シーソー部材(15,41)を前記第1部材に対して前記第1方向及び前記第2方向に直交する第3方向に平行な第1軸線部(20)回りに回転可能に接合するピン接合体(16,42)と、前記第1軸線部(20)よりも前記第1方向の一方及び他方において、前記シーソー部材(15,41)及び前記第1部材(13)に連結した1対の第1ダンパー(17)と、一端部が前記第1軸線部(20)よりも前記第2方向の前記一方に位置して前記第3方向に平行な第2軸線部(22)回りに回転可能に前記シーソー部材(15,41)に接合され、他端部が前記柱梁架構体(11,31)における前記第2部材(14)の一端側の隅部に前記第3方向に平行な第3軸線部(24)回りに回転可能に接合された第1タイロッド(18)と、一端部が前記第2軸線部(22)回りに回転可能に前記シーソー部材(15,41)に接合され、他端部が前記柱梁架構体(11,31)における前記第2部材(14)の他端側の隅部に前記第3方向に平行な第4軸線部(25)回りに回転可能に接合された第2タイロッド(19)とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1タイロッド及び第2タイロッドが互いに共通の第2軸線部でシーソー部材に回転可能に接合し、クロスターンバックルのような特殊な部材を使用する必要がないため、コストが抑制され、施工精度の確保が容易で、騒音の発生が抑制される。
【0013】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記シーソー部材(15)は、前記第3方向から見て三角形状をなす枠材又はパネル材を含み、前記第2軸線部(22)は、前記三角形状の1つの頂点の近傍に設けられ、非地震時における前記第1タイロッド(18)及び前記第2タイロッド(19)は、前記シーソー部材(15)における前記三角形状の前記1つの頂点から延びる辺部の延長線上に位置することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、シーソー部材が三角形状であるため、低コストでシーソー部材の剛性、耐力を容易に確保することができ、また、シーソー部材及び第1及び第2タイロッドを近似直線運動が近似的に保存される構造にできる。
【0015】
本発明のある実施形態は、上記の第1の構成において、前記第1軸線部(20)は、前記第1ダンパー(17)が前記シーソー部材(41)に連結する連結部よりも前記第2方向の前記一方に位置することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、第1軸線部と第2軸線部との間の距離が短くなって第1ダンパーの変位量が増加して第1ダンパーのエネルギー吸収量が増加するため、制振装置が有効に作動することになる。
【0017】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記シーソー部材(41)は、前記第3方向から見て逆Y字形状をなすことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、逆Y字の形状が内側に凹の形状であるため、凹部分のスペースを有効に活用でき、例えば、凹部分は第1及び第2タイロッドに引張力を導入するためのジャッキの設置スペースとなる。
【0019】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記第1部材(13)から前記第2方向の前記一方に向かって延出し、延出端部が前記第1ダンパー(17)よりも前記第2方向の前記一方に位置する1対の支柱部材(51a)、及び、1対の前記支柱部材(51a)の前記延出端部に固定された固定部材(51b)を含むフレーム部材(51)と、前記第1ダンパー(17)とは前記第2方向の反対側から制振力を加えるべく、前記第1軸線部(20)よりも前記第1方向の一方及び他方において、前記シーソー部材(15)及び前記固定部材(51b)に連結した1対の第2ダンパー(52)とを更に備えることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、第2ダンパーによってエネルギー吸収性能を大きくすることができる。
【0021】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記柱梁架構体(31)は、前記第1部材(13)と前記第2部材(14)との間に、前記柱又は梁の前記一方を構成する1以上の部材(32)を含み、及び/又は、前記第3軸線部(24)と前記第4軸線部(25)との間に前記柱及び梁の他方を構成する1以上の部材(12)を含むことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、柱及び/又は梁を跨いで制振装置を設置できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、柱梁架構体に設置される制振装置であって、コストが抑制され、施工精度の確保が容易で、騒音の発生が抑制され、部材の剛性、耐力を確保し易い制振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】第1実施形態の変形例に係る制振装置の正面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は第1実施形態に係る制振装置10を示す。制振装置10は、建物の柱梁架構体11に設置される。柱梁架構体11は、鉛直方向に延在し互いに隣り合う1対の柱部材12と、1対の柱部材12間に水平に掛け渡された梁部材である第1部材13と、第1部材13よりも上層において1対の柱部材12間に水平に掛け渡された梁部材である第2部材14とを備える。柱梁架構体11は、鉄骨造、鉄筋コンクリート等のコンクリート造、若しくは木造、又は、これらの複合構造等である。図示する柱梁架構体11は、1対の柱部材12並びに第1及び第2部材13,14がH形鋼によって構成された鉄骨造である。
【0027】
制振装置10は、シーソー部材15と、シーソー部材15と第1部材13とを接合して、シーソー部材15を第1部材13に対して回転可能に支持するピン接合体16と、第1部材13とシーソー部材15の両端部とを互いに連結する1対の第1ダンパー17と、それぞれ一端部においてシーソー部材15にピン接合し、他端部において柱梁架構体11における柱部材12と第2部材14の相反する側との隅部にピン接合する第1タイロッド18及び第2タイロッド19とを備える。
【0028】
シーソー部材15は、3つの長尺材を互いの端部で剛結合した三角形の枠材から構成され、三角形の枠によって画定される面は、柱梁架構体11の構面に平行である。長尺材として、形鋼等の鋼材を用いてもよい。シーソー部材15は、第1部材13及び第2部材14の延在方向、並びに上下方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、第1部材13及び第2部材14の延在方向の長さ及び上下方向の長さを有すれば、他の形状及び/又は他の素材によって構成されてもよく、例えば正面視で三角形の鋼製のパネル材で形成されてもよい。三角形状のシーソー部材15は、二等辺三角形であることが好ましく、底辺が水平に配置され、1対の等辺が底辺の両端部から上方に向かって互いに近づくように配置される。
【0029】
ピン接合体16は、第1部材13に固定された下部16aと、シーソー部材15の底辺の中央に固定された上部16bとを含み、上部16bが下部16aに柱梁架構体11の構面に直交する第1軸線部20回りに回転可能に支持される。このため、シーソー部材15は、第1部材13に対して第1軸線部20回りに回転可能である。ピン接合体16は、例えばクレビスによって構成されてもよい。
【0030】
1対の第1ダンパー17は、ピン接合体16を挟むように配置され、それぞれ、下端部にて第1部材13に固定され、上端部にてシーソー部材15の底辺の相反する端部の近傍、すなわち三角形の底辺と等辺とがなす頂点の近傍に固定される。第1ダンパー17は、制振ダンパーであって、例えば、鋼材ダンパー等の履歴型ダンパー、オイルダンパー又は粘弾性ダンパー等である。1対の第1ダンパー17は、互いに同じものでも異なるものでもよい。1対の第1ダンパー17は、シーソー部材15の左右両端部に対して上下方向に減衰力を与える。
【0031】
第1タイロッド18及び第2タイロッド19は、他部材とピン接合できるように両端部がフォーク状に形成された鋼棒を含む。なお、第1タイロッド18及び/又は第2タイロッド19は、1本の鋼棒で構成されることに代えて、互いの遠位側の端部がフォーク状に形成された2つの鋼棒と、2つの鋼棒の互いに近接する側の端部を互いに連結するターンバックル21とを含んでもよい(
図1では、第1タイロッド18がターンバックル21を含み、第2タイロッド19が1本の鋼棒で構成されている)。第1タイロッド18及び第2タイロッド19の一端部と、シーソー部材15の2つの等辺がなす頂点の近傍の部分とは、柱梁架構体11の構面に直交する第2軸線部22回りに回転可能に互いに接合される。第1タイロッド18の他端部は、1対の柱部材12の一方と第2部材14の一端部(
図1では左端部)との隅部にガセットプレート23を介して柱梁架構体11の構面に直交する第3軸線部24回りに回転可能に接合している。第2タイロッド19の他端部は、1対の柱部材12の他方と第2部材14の他端部(
図1の右端部)との隅部にガセットプレート23を介して柱梁架構体11の構面に直交する第4軸線部25回りに回転可能に接合している。
【0032】
第2軸線部22は、上下方向において第1軸線部20に整合していることが好ましく、第2軸線部22の上下方向位置は、第1部材13と第2部材14との間の中央よりも第1部材13に近く、かつ第1軸線部20よりも上方の位置である。第1タイロッド18及び第2タイロッド19の長さは互いに略等しく、第1タイロッド18及び第2タイロッド19の第2部材14に対する角度は互いに略等しいことが好ましい。非地震時において、第1タイロッド18及び第2タイロッド19は、三角形状のシーソー部材15における第2軸線部22を含む頂点から延びる辺部を構成する部材の延長線上に配置されることが好ましい。ガセットプレート23は、溶接等により柱部材12と第1部材13及び第2部材14に固定されている。第1タイロッド18及び第2タイロッド19の双方に非地震時に引張力が加わるように、あらかじめ第1タイロッド18及び第2タイロッド19の双方に引張力を導入しておくことが好ましい。
【0033】
地震時に第2部材14が第1部材13に対して左右に変位する場合の制振装置10の作用効果を説明する。
【0034】
地震時に第2部材14が第1部材13に対して
図1の右方に向かう地震力(慣性力)を受けると、1対の柱部材12が右に傾くように第2部材14が第1部材13に対して平行な状態を保って移動し、柱梁架構体11は平行四辺形に変形する。変形した柱梁架構体11では変形前に比べて、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなり、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなる。柱梁架構体11の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第2タイロッド19に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向に柱梁架構体11に作用する。また、第2タイロッド19に生じた引張力によって、シーソー部材15が第1軸線部20回りに時計回りに回転する。この回転は、第1タイロッド18の両端部が接合されている第2軸線部22と第3軸線部24との間の距離を拡げる。この回転による第2軸線部22と第3軸線部24との間の距離の増加量は、柱梁架構体11の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第1タイロッド18を圧縮させる方向の長さの減少量に概ね等しいため、第1タイロッド18の長さは非地震時の長さと略変わらず、第1タイロッド18に圧縮力が加わることが抑制される。
【0035】
続いて、地震の振動方向が変化し、第2部材14が第1部材13に対して
図1の左方に向かう地震力を受けると、柱部材12が右に傾いた状態から鉛直の状態に戻る間も、第1ダンパー17からの減衰力によって、第1タイロッド18に引張力が生じ、この引張力が柱梁架構体11に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0036】
柱部材12が左に傾くと、変形した柱梁架構体11では変形前に比べて、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなり、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなる。柱梁架構体11の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第1タイロッド18に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向に柱梁架構体11に作用する。また、第1タイロッド18に生じた引張力によって、シーソー部材15が第1軸線部20回りに反時計回りに回転する。この回転は、第2タイロッド19の両端部が接合されている第2軸線部22と第4軸線部25との間の距離を拡げる。この回転による第2軸線部22と第4軸線部25との間の距離の増加量は、柱梁架構体11の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第2タイロッド19を圧縮させる方向の長さの減少量に概ね等しいため、第2タイロッド19の長さは、非地震時の長さと略変わらず、第2タイロッド19に圧縮力が加わることが抑制される。
【0037】
続いて、地震の振動方向が変化し、第2部材14が第1部材13に対して
図1の右方に向かう地震力を受けると、柱部材12が左に傾いた状態から鉛直の状態に戻る間も、第1ダンパー17からの減衰力によって、第2タイロッド19に引張力が生じ、この引張力が柱梁架構体11に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0038】
制振装置10は、地震時に以上のような動きを繰り返す。
【0039】
図1に示す第1実施形態に係る制振装置10は、
図5に示す従来の制振装置1に比べて、クロスターンバックル7のような特殊な部品を使用しないためコストを削減でき、風によって第1タイロッド18及び第2タイロッド19が互いに衝突しないため騒音を防止できる。また、第1タイロッド18と第2タイロッド19とが互いの端部において回転可能に接合しているため、第1タイロッド18及び第2タイロッド19の双方が非地震時に引張力を受けるようにあらかじめ引張力を導入する場合、引張力を導入する前後の施工精度の確保が容易である。第1タイロッド18及び/又は第2タイロッド19がターンバックル21を含む場合、ターンバックル21は、クロスターンバックル7に比べて細いため、ターンバックル21を回転させることにより、第1タイロッド18及び/又は第2タイロッド19の長さ及び/又は引張力の調整を容易に行える。
【0040】
シーソー部材15が、柱梁架構体11の構面に直交する方向から見て三角形状の枠材又はパネル材を含むため、柱梁架構体11の構面に平行な方向に対する必要な剛性、耐力を容易に確保できる。また、非地震時における第1タイロッド18及び第2タイロッド19が、三角形状のシーソー部材15における第2軸線部22を含む頂点から延びる辺部の延長線上に延在するため、近似直線運動が近似的に保存される。
【0041】
1対の第1ダンパー17はシーソー部材15に回転に抵抗する方向に力を加えるため、1対の第1ダンパー17は、シーソー部材15並びに第1タイロッド18及び第2タイロッド19を介して、柱梁架構体11に制振力を加える。
【0042】
図2を参照して、第1実施形態の変形例に係る制振装置30について説明する。変形例に係る制振装置30は、柱及び梁を跨いで柱梁架構体31に取り付けられている。柱梁架構体31は、第1部材13と第2部材14との間に梁を構成する第3部材32を含み、第3軸線部24と第4軸線部25との間に柱部材12を含む。第3部材32と、第3軸線部24及び第4軸線部25の間の柱部材12とは、複数存在してもよい。また、第3部材32と、第3軸線部24及び第4軸線部25の間の柱部材12との一方が存在しなくてもよい。第1タイロッド18及び第2タイロッド19は、圧縮力が加わることが抑制されることから細い部材で構成できるため、柱及び/又は梁を跨いだ区間の変形を1つの制振装置30で制振構造としても第1タイロッド18及び第2タイロッド19が過大に太くなることを抑制できる。
【0043】
図3を参照して、第2実施形態に係る制振装置40について説明する。第1実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、説明を省略する。第2実施形態に係る制振装置40は、シーソー部材41及びピン接合体42の形状が第1実施形態と異なる。
【0044】
シーソー部材41は、柱梁架構体11の構面に直交する方向から見て、逆Y字形状をなし、形鋼等の鋼製の3本の長尺材の一端部を互いに溶接や締結具(図示せず)による締結等によって剛接合することによって形成される。
【0045】
ピン接合体42は、第1部材13に固定された下部42aと、シーソー部材41の下辺の左右方向の中央であって逆Y字の屈折部に固定された上部42bとを含み、上部42bが下部42aに柱梁架構体11の構面に直交する第1軸線部20回りに回転可能に支持される。ピン接合体42は、例えばクレビスによって構成されてもよい。第1軸線部20は、シーソー部材41と第1ダンパー17との互いの連結部よりも上方に位置する。
【0046】
シーソー部材41は、第1部材13及び第2部材14の延在方向、並びに上下方向に加わる地震時の力に対して剛体とみなせ、第1部材13及び第2部材14の延在方向の長さ及び上下方向の長さを有し、かつ、第1軸線部20をシーソー部材41と第1ダンパー17との互いの連結部よりも上方に位置させることができる形状であれば、逆Y字形状以外の形状を有してもよい。例えば、シーソー部材41は、第1実施形態のシーソー部材15の形状に対して下辺の中央が上方に凹むように変形した形状でもよい。
【0047】
第1軸線部20がシーソー部材41と第1ダンパー17との互いの連結部よりも上方に位置することにより、第1軸線部20と第2軸線部22との間の距離が短くなる。地震時の第2軸線部22の変位量が同じならば、第1軸線部20と第2軸線部22との間の距離が短い方がシーソー部材41の回転角度が大きくなる。このため、シーソー部材41の左右方向の長さを大きくしなくとも、第1ダンパー17の変位量を第1実施形態より増幅できる。従って、制振装置40のエネルギー吸収効率がよくなる。
【0048】
逆Y字形状のシーソー部材41は、第1実施形態の三角形状のシーソー部材15に比べて逆Y字の形状が内側に凹の形状であるため、凹部分のスペースを有効に活用でき、例えば、このスペースを第1タイロッド18及び第2タイロッド19に引張力を導入するためのジャッキ等の設置スペースとして利用できる。
【0049】
図4を参照して、第3実施形態に係る制振装置50について説明する。第1実施形態と共通する構成については、同じ符号を付し、説明を省略する。第3実施形態に係る制振装置50は、第1部材13に固定されたフレーム部材51と、フレーム部材51に固定されて、第1ダンパー17とは反対側からシーソー部材15に制振力を加える1対の第2ダンパー52とを備える点で第1実施形態と異なる。
【0050】
フレーム部材51は、第1部材13から上方に向かって延出し、延出端部が第1ダンパー17よりも上方に位置する1対の支柱部材51aと、両端部において1対の支柱部材51aの延出端部に固定された固定部材51bを含む。
【0051】
1対の第2ダンパー52は、第1ダンパー17とは上下方向の反対側から制振力を加えるべく、第1軸線部20の左方及び右方において、シーソー部材15及び前記固定部材51bに連結している。第2ダンパー52は、制振ダンパーであって、例えば、鋼材ダンパー等の履歴型ダンパー、オイルダンパー又は粘弾性ダンパー等である。1対の第2ダンパー52は、互いに同じものでも異なるものでもよく、第1ダンパー17と同じものでも異なるものでもよい。
【0052】
第2ダンパー52を設けることにより、制振装置のエネルギー吸収量を大きくすることができる。
【0053】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。第2部材が第1部材の下方に設置された梁部材でもよく、第1部材及び第2部材が柱部材であってもよい。第1実施形態の変形例に係る柱梁架構体を第2又は第3実施形態に適用してもよく、第2実施形態のシーソー部材を第3実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0054】
10,30,40,50:制振装置
11,31:柱梁架構体
12:柱部材
13:第1部材
14:第2部材
15,41:シーソー部材
16,42:ピン接合体
17:第1ダンパー
18:第1タイロッド
19:第2タイロッド
20:第1軸線部
22:第2軸線部
24:第3軸線部
25:第4軸線部
32:第3部材(他の部材)
51:フレーム部材
51a:支柱部材
51b:固定部材
52:第2ダンパー