(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】柱梁架構体に設置される制振装置のタイロッドに引張力を導入する方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230907BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230907BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20230907BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
E04H9/02 351
F16F15/023 Z
F16F15/04 A
F16F15/02 Z
(21)【出願番号】P 2020083321
(22)【出願日】2020-05-11
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】川島 学
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/116779(WO,A1)
【文献】特開2008-19579(JP,A)
【文献】特開2009-236245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
F16F 15/00 - 15/36
F16F 7/00 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱及び梁の一方を構成して互いに対向する第1部材及び第2部材を含む柱梁架構体に対して前記第1部材に平行な所定方向に長さを有するシーソー部材と、前記シーソー部材における前記所定方向の中間部及び前記第1部材に接合して、前記シーソー部材を前記第1部材に対して前記柱梁架構体の構面に直交する軸線方向回りに回転可能にするピン接合体と、制振力を加えるべく前記シーソー部材及び前記第1部材に連結したダンパーと、一端部が前記シーソー部材における前記所定方向の一端部に前記軸線方向回りに回転可能に接合され、他端部が前記柱梁架構体における前記第2部材の一端側の隅部に前記軸線方向回りに回転可能に接合された第1タイロッドと、前記第1タイロッドに交差するように配置され、一端部が前記シーソー部材における前記所定方向の他端部に前記軸線方向回りに回転可能に接合され、他端部が前記柱梁架構体における前記第2部材の他端側の隅部に前記軸線方向回りに回転可能に接合された第2タイロッドとを備える制振装置において、前記第1タイロッド及び前記第2タイロッドに引張力を導入する方法であって、
前記ピン接合体及び前記シーソー部材を前記柱梁架構体に設置するステップと、
前記第1タイロッド及び前記第2タイロッドを前記シーソー部材及び対応する前記隅部に接合するステップと、
前記接合するステップの前又は後に、前記ダンパーを前記シーソー部材及び前記第1部材に連結するステップとを備え、
前記接合するステップは、前記第2タイロッドが前記シーソー部材及び前記隅部に接合し、前記シーソー部材が設置完了後の姿勢に対して前記第2タイロッドが短くなる向きに傾き、かつ、前記第1タイロッドの前記一端部及び前記他端部の一方が前記シーソー部材又は対応する前記隅部に連結した状態で、ジャッキによって前記第1タイロッドの前記一端部及び前記他端部の他方を引っ張ることにより前記第1タイロッドに引張力を導入して、前記第1タイロッドの前記一端部及び前記他端部の前記他方を対応する前記隅部又は前記シーソー部材に連結することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2タイロッドはターンバックルを含み、
前記接合するステップは、前記シーソー部材が設置完了後に所望の姿勢となるように、前記第1タイロッドに引張力が加わっていない状態で前記ターンバックルを回して前記第2タイロッドの長さ及び前記シーソー部材の傾きを調整することを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1タイロッドの前記一端部及び前記他端部の前記他方は、前記シーソー部材に接合する前記一端部であり、
前記接合するステップは、前記第1タイロッドに引張力を導入するときの反力が前記シーソー部材に加わるように、前記ジャッキを前記シーソー部材に取り付け、引張力の導入後に前記ジャッキを前記シーソー部材から取り外すことを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、柱梁架構体に設置されてタイロッド及びダンパーを備える制振装置のタイロッドに引張力を導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柱梁架構体に設置される耐震部材としてブレースが挙げられる。ブレースは互いに交差するように柱梁架構体の対角線上に1対設けられる。特許文献1は、このような1対のブレースに類似する構造を備える制振装置を記載している。特許文献1に記載の制振装置は、梁に回転可能に支持された平行部材(シーソー部材)と、梁及び平行部材を連結する1対のダンパーと、互いに交差し、一端部において平行部材の端部に回転可能に支持され、他端部において他の梁の端部に回転可能に支持された第1ブレース及び第2ブレース(タイロッド)とを備える。第1ブレースは、クロスターンバックルを含み、第2ブレースは、クロスターンバックルに設けられた貫通孔を貫通している。
【0003】
地震時に、第1及び第2ブレースの一方が引張力を受け伸長すると平行部材の一端側を引き上げ、平行部材の他端側が下降して第1及び第2ブレースの他方の端部が引き下げられる。この平行部材の変位によって柱梁架構体の対角線が短くなることに起因する第1及び第2ブレースの他方の短くなる方向への変位が吸収されるため、該他方は、圧縮力をほとんど受けない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の制振装置の第1及び第2ブレースは、地震時にわずかに圧縮力を受けるおそれがあるため、あらかじめ双方に引張力を導入しておくことが望ましい。第1及び第2ブレースがターンバックルを含む構造であれば、作業員がターンバックルを回転させることにより引張力を導入できるが、人力でターンバックルを回転させて十分な引張力を導入することは困難である。第1及び第2ブレースにそれぞれジャッキ等により引張力を導入することは、手間がかかるとともに、クロスターンバックルの貫通孔の位置と貫通孔に挿通される第2ブレースとの位置を合わせる必要がある等、施工精度の管理が難しかった。
【0006】
このような問題に鑑み、本発明は、柱梁架構体に設置される制振装置のタイロッドに簡便に十分な引張力を導入できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある実施形態は、柱及び梁の一方を構成して互いに対向する第1部材(13)及び第2部材(14)を含む柱梁架構体(11)に対して前記第1部材(13)に平行な所定方向に長さを有するシーソー部材(15)と、前記シーソー部材における前記所定方向の中間部及び前記第1部材(13)に接合して、前記シーソー部材(15)を前記第1部材(13)に対して前記柱梁架構体(11)の構面に直交する軸線方向回りに回転可能にするピン接合体(16)と、制振力を加えるべく前記シーソー部材(15)及び前記第1部材(13)に連結したダンパー(17)と、一端部が前記シーソー部材(15)における前記所定方向の一端部に前記軸線方向回りに回転可能に接合され、他端部が前記柱梁架構体(11)における前記第2部材(14)の一端側の隅部に前記軸線方向回りに回転可能に接合された第1タイロッド(18)と、前記第1タイロッド(18)に交差するように配置され、一端部が前記シーソー部材(15)における前記所定方向の他端部に前記軸線方向回りに回転可能に接合され、他端部が前記柱梁架構体(11)における前記第2部材(14)の他端側の隅部に前記軸線方向回りに回転可能に接合された第2タイロッド(19)とを備える制振装置(10)において、前記第1タイロッド(18)及び前記第2タイロッド(19)に引張力を導入する方法であって、前記ピン接合体(17)及び前記シーソー部材(15)を前記柱梁架構体(11)に設置するステップと、前記第1タイロッド(18)及び前記第2タイロッド(19)を前記シーソー部材(15)及び対応する前記隅部に接合するステップと、前記接合するステップの前又は後に、前記ダンパー(17)を前記シーソー部材(15)及び前記第1部材(13)に連結するステップとを備え、前記接合するステップは、前記第2タイロッド(19)が前記シーソー部材(15)及び前記隅部に接合し、前記シーソー部材(15)が設置完了後の姿勢に対して前記第2タイロッド(19)が短くなる向きに傾き、かつ、前記第1タイロッド(18)の前記一端部及び前記他端部の一方が前記シーソー部材(15)又は対応する前記隅部に連結した状態で、ジャッキ(24)によって前記第1タイロッドの前記一端部及び前記他端部の他方を引っ張ることにより前記第1タイロッド(18)に引張力を導入して、前記第1タイロッド(18)の前記一端部及び前記他端部の前記他方を対応する前記隅部又は前記シーソー部材(15)に連結することを含むことを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、ジャッキにより第1タイロッドを引っ張るため、十分な引張力を導入することができ、第2タイロッドに直接に引張力を加えなくとも第2タイロッドに引張力が導入されるため、簡便に第1及び第2タイロッドの双方に引張力を導入できる。
【0009】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記第2タイロッド(19)はターンバックル(23)を含み、前記接合するステップは、前記シーソー部材(15)が設置完了後に所望の姿勢となるように、前記第1タイロッドに引張力が加わっていない状態で前記ターンバックル(23)を回して前記第2タイロッド(19)の長さ及び前記シーソー部材(15)の傾きを調整することを含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、ターンバックルを回すことにより、導入される引張力の値及びシーソー部材の姿勢を容易に調整することができる。
【0011】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記第1タイロッド(18)の前記一端部及び前記他端部の前記他方は、前記シーソー部材(15)に接合する前記一端部であり、前記接合するステップは、前記第1タイロッド(18)に引張力を導入するときの反力が前記シーソー部材(15)に加わるように、前記ジャッキ(24)を前記シーソー部材(15)に取り付け、引張力の導入後に前記ジャッキ(24)を前記シーソー部材(15)から取り外すことを含むことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、第1タイロッドの一端部のシーソー部材への接合を容易に行える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、柱梁架構体に設置される制振装置のタイロッドに簡便に十分な引張力を導入できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態に係る制振装置の設置手順を示す説明図
【
図3】実施形態に係る制振装置の設置手順を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は実施形態に係る制振装置10を示す。制振装置10は、建物の柱梁架構体11に設置される。柱梁架構体11は、鉛直方向に延在し互いに隣り合う1対の柱部材12と、1対の柱部材12間に水平に掛け渡された梁部材である第1部材13と、第1部材13よりも上層において1対の柱部材12間に水平に掛け渡された梁部材である第2部材14とを備える。柱梁架構体11は、鉄骨造、鉄筋コンクリート等のコンクリート造、若しくは木造、又は、これらの複合構造等である。図示する柱梁架構体11は、1対の柱部材12並びに第1及び第2部材13,14がH形鋼によって構成された鉄骨造である。
【0017】
制振装置10は、シーソー部材15と、シーソー部材15と第1部材13とを接合して、シーソー部材15を第1部材13に対して回転可能に支持するピン接合体16と、第1部材13とシーソー部材15の両端部とを互いに連結する1対のダンパー17と、互いに交差するように配置され、それぞれ一端部においてシーソー部材15の互いに異なる端部にピン接合し、他端部において柱梁架構体11における第2部材14の相反する側と柱部材12との隅部にピン接合する第1タイロッド18及び第2タイロッド19とを備える。
【0018】
シーソー部材15は、第1部材13と平行な方向に長手方向の長さを有する長尺材を含み、例えば、形鋼や鋼管等の鋼材から構成される。シーソー部材15は、柱梁架構体11の構面に直交する軸線回りの曲げに対する剛性、耐力が高いことが好ましい。
【0019】
ピン接合体16は、第1部材13に固定された下部16aと、シーソー部材15の長手方向の中央の下面に固定された上部16bとを含み、上部16bが下部16aに柱梁架構体11の構面に直交する軸線部20回りに回転可能に支持される。このため、シーソー部材15は、第1部材13に対して軸線部20回りに回転可能である。ピン接合体16は、例えばクレビスによって構成されてもよい。
【0020】
1対のダンパー17は、ピン接合体16を挟むように配置され、それぞれ、下端部にて第1部材13に固定され、上端部にてシーソー部材15の長手方向の相反する端部の下面に固定される。ダンパー17は、制振ダンパーであって、例えば、鋼材ダンパー等の履歴型ダンパー、オイルダンパー又は粘弾性ダンパー等である。1対のダンパー17は、互いに同じものでも異なるものでもよい。
【0021】
第1タイロッド18は、互いの遠位側の端部がフォーク状に形成された2つの鋼棒18a,18bと、2つの鋼棒18a,18bの互いに近接する側の端部を互いに連結するクロスターンバックル21とを含む。クロスターンバックル21は貫通孔21aを有する。第1タイロッド18の下端部は、シーソー部材15の長手方向の一方の端部(図の左端部)に柱梁架構体11の構面に直交する軸線回りに回転可能に接合する。第1タイロッド18の上端部は、柱梁架構体11における図の右側の柱部材12と第2部材14の右端部とによって形成される隅部にガセットプレート22を介して柱梁架構体11の構面に直交する軸線回りに回転可能に接合する。
【0022】
第2タイロッド19は、互いの遠位側の端部がフォーク状に形成された2つの鋼棒19a,19bと、2つの鋼棒19a,19bの互いに近接する側の端部を互いに連結するターンバックル23とを含む。第2タイロッド19の下端部は、シーソー部材15の長手方向の他方の端部(図の右端部)に柱梁架構体11の構面に直交する軸線回りに回転可能に接合する。第2タイロッド19の上端部は、柱梁架構体11における図の左側の柱部材12と第2部材14の左端部とによって形成される隅部にガセットプレート22を介して柱梁架構体11の構面に直交する軸線回りに回転可能に接合する。第2タイロッド19における下側の鋼棒19bがクロスターンバックル21の貫通孔21aを貫通している。
【0023】
貫通孔21a、すなわち、第1タイロッド18及び第2タイロッド19の交差部は、上下方向においてピン接合体16の軸線部20に整合し、第1部材13と第2部材14との間の中央よりも下方に位置する。また、軸線部20から第1タイロッド18とシーソー部材15との互いの接合部までの距離は、軸線部20から第2タイロッド19とシーソー部材15との互いの接合部までの距離に等しい。第1タイロッド18とシーソー部材15との互いの接合部及び第2タイロッド19とシーソー部材15との互いの接合部は、1対のダンパー17とシーソー部材15との互いの連結部に上下方向において整合することが好ましい。
【0024】
地震時に第2部材14が第1部材13に対して
図1の右方に向かう地震力(慣性力)を受けると、1対の柱部材12が右に傾くように第2部材14が第1部材13に対して平行移動し、柱梁架構体11は平行四辺形に変形する。変形した柱梁架構体11では変形前に比べて、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなり、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなる。柱梁架構体11の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第1タイロッド18に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向に柱梁架構体11に作用する。また、第1タイロッド18に生じた引張力によってが、シーソー部材15が軸線部20回りに時計回りに回転する。この回転は、第2タイロッド19の下端部が接合したシーソー部材15の右端部を下降させる。このシーソー部材15の動きによる第2タイロッド19を伸長させる方向の変位量が、柱梁架構体11の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第2タイロッド19を圧縮させる方向の変位量に概ね等しいため、第2タイロッド19の長さは非地震時の長さと略変わらず、第2タイロッド19に圧縮力が加わることが抑制される。
【0025】
続いて、地震の振動方向が変化し、第2部材14が第1部材13に対して
図1の左方に向かう地震力を受けると、柱部材12が右に傾いた状態から鉛直の状態に戻る間も、ダンパー17からの減衰力によって、第2タイロッド19に引張力が生じ、この引張力が柱梁架構体11に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0026】
柱部材12が左に傾くと、変形した柱梁架構体11では変形前に比べて、左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなり、右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなる。柱梁架構体11の左上隅と右下隅とを結ぶ対角線が長くなるため、第2タイロッド19に引張力が生じ、この引張力が地震力に抵抗する方向に柱梁架構体11に作用する。また、第2タイロッド19に生じた引張力によって、シーソー部材15が軸線部20回りに反時計回りに回転する。この回転は、第1タイロッド18の下端部が接合したシーソー部材15の左端部を下降させる。このシーソー部材15の動きによる第1タイロッド18を伸長させる方向の変位量が、柱梁架構体11の右上隅と左下隅とを結ぶ対角線が短くなることによる第1タイロッド18を圧縮させる方向の変位量に概ね等しいため、第1タイロッド18の長さは非地震時の長さと略変わらず、第1タイロッド18に圧縮力が加わることが抑制される。
【0027】
続いて、地震の振動方向が変化し、第2部材14が第1部材13に対して
図1の右方に向かう地震力を受けると、柱部材12が左に傾いた状態から鉛直の状態に戻る間も、ダンパー17からの減衰力によって、第1タイロッド18に引張力が生じ、この引張力が柱梁架構体11に対して地震力に抵抗する方向に作用する。
【0028】
制振装置10は、地震時に以上のような動きを繰り返す。
【0029】
1対のダンパー17はシーソー部材15に回転に抵抗する方向に力を加えるため、1対のダンパー17は、シーソー部材15並びに第1タイロッド18及び第2タイロッド19を介して、柱梁架構体11に制振力を加える。
【0030】
上述のように、地震時に第1タイロッド18及び第2タイロッド19に圧縮力が加わることが抑制される。しかし、地震時に第1タイロッド18及び第2タイロッド19にわずかに圧縮力が加わるおそれがあるので、あらかじめ、第1タイロッド18及び第2タイロッド19の双方に引張力を導入しておくことが望ましい。この引張力の値は、地震時に第1タイロッド18及び第2タイロッド19に加わるおそれのある圧縮力よりも大きく設定される。
図2及び
図3を参照して、第1タイロッド18及び第2タイロッド19への引張力の導入手順について説明する。
【0031】
図2に示すように、作業員は、ピン接合体16、シーソー部材15、1対のダンパー17及びガセットプレート22を柱梁架構体11に設置する。
【0032】
次に、
図3に示すように、作業員は、第1タイロッド18の上端部を柱梁架構体11の右上隅のガセットプレート22にピン接合し、第2タイロッド19をクロスターンバックル21の貫通孔21aに挿通し、第2タイロッド19の両端部をそれぞれシーソー部材15の右端部及び柱梁架構体11の左上のガセットプレート22にピン接合する。この時、第2タイロッド19は、設置完了後の長さよりも短い長さを有し、シーソー部材15は右端部が上昇するように傾いた状態にある。導入する引張力に基づき、第1タイロッド18及び第2タイロッド19の伸縮量が算定されており、必要に応じて、設置完了後に所定値の引張力が得られるとともにシーソー部材15が第1部材13に平行になるように、ターンバックル23を回転させて、第2タイロッド19の長さ及びシーソー部材15の傾きを調整する。
【0033】
作業員は、ジャッキ24によって、第1タイロッド18の下端部を引っ張ることにより第1タイロッド18に引張力を導入し、第1タイロッド18の下端部をシーソー部材15の左端部にピン接合する。この時、シーソー部材15が時計回りに回転して第1部材13と平行になり、第1タイロッド18及び第2タイロッド19に互いに略等しい引張力が導入される。シーソー部材15の第1部材13に対する平行精度を確保できなかった場合には、作業員は、第1タイロッド18の下端部のシーソー部材15の左端部への接合を解除し、ターンバックル23を回転させてシーソー部材15の傾きを調整した後、第1タイロッド18への引張力の導入及びシーソー部材15への接合をやり直す。作業員がジャッキ24を第1タイロッド18から取り外すことにより、制振装置10の設置が完了する。ジャッキ24として、センターホールジャッキ等を使用できる。ジャッキ24をシーソー部材15に取り付けて第1タイロッド18をジャッキ24で引っ張る時の反力をシーソー部材15からとれば、ジャッキ24によって第1タイロッド18に導入される引張力は、設置完了後の第1タイロッド18に生じる引張力に等しい。第1タイロッド18をジャッキ24で引っ張るときの反力を第1部材13からとれば、ジャッキ24によって第1タイロッド18に導入される引張力は、設置完了後の第1タイロッド18に生じる引張力よりも大きく、第1タイロッド18をシーソー部材15に接合後、シーソー部材15が回転して、第1タイロッド18に生じている引張力が減少し、第2タイロッド19に引張力が生じる。
【0034】
このように、ジャッキ24を用いることにより、十分な引張力を導入できる。また、第2タイロッド19をジャッキ24で引っ張らなくとも、第1タイロッド18をジャッキ24で引っ張ることにより、第2タイロッド19にも引張力が導入されるため、簡便に引張力を導入することができる。
【0035】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。第2部材が第1部材の下方に設置された梁部材でもよく、第1部材及び第2部材が柱部材であってもよい。クロスターンバックルは、第1タイロッドではなく第2タイロッドに設けられて、第1タイロッドがクロスターンバックルの貫通孔を貫通していてもよい。また、クロスターンバックルを設けず、単に、第1タイロッド及び第2タイロッドが、柱梁架構体の構面に直交する方向に互いにわずかにずれて配置されてもよい。第1タイロッドの下端部をシーソー部材にピン接合した後、第1タイロッドの上端部をジャッキで引っ張って該上端部をガセットプレートにピン接合してもよい。1対のダンパーは、第1及び第2タイロッドに引張力を導入した後に設置してもよい。
【符号の説明】
【0036】
10:制振装置
11:柱梁架構体
12:柱部材
13:第1部材(下層の梁部材)
14:第2部材(上層の梁部材)
15:シーソー部材
16:ピン接合体
17:ダンパー
18:第1タイロッド
19:第2タイロッド
20:軸線部
23:ターンバックル
24:ジャッキ