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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】Fc含有ポリペプチドの安定化
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230907BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230907BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230907BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230907BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230907BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230907BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230907BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
C12N15/13
A61K39/395 M
A61P43/00 111
C07K16/00 ZNA
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020160475
(22)【出願日】2020-09-25
(62)【分割の表示】P 2016531860の分割
【原出願日】2014-07-30
(65)【公開番号】P2021019598
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】61/860,800
(32)【優先日】2013-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グナセーカラン・カナン
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー・ラバリー
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック・ダブリュ・ジェイコブセン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511337(JP,A)
【文献】特表2001-523971(JP,A)
【文献】特表2013-511281(JP,A)
【文献】国際公開第2012/078688(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのポリペプチドを含む二量体であって、各ポリペプチドは抗体Fc領域を含み、前記Fc領域はヒンジ領域を欠き、KabatのEU番号付けスキームに基づきT394C置換を含み、前記2つのポリペプチドにおける前記T394C残基の間でジスルフィド結合が形成される、二量体。
【請求項2】
Fcが、KabatのEU番号付けスキームに基づき、V259、A287、R292、V302、L306、V323又はI332における1つ又は複数のアミノ酸置換を含むCH2領域を含む、請求項1に記載の二量体。
【請求項3】
FcのC末端の1つ又は複数のアミノ酸が欠失している、請求項1に記載の二量体。
【請求項4】
FcのC末端の3つ、2つ又は1つのアミノ酸が欠失している、請求項3に記載の二量体。
【請求項5】
FcのC末端の末端アミノ酸が欠失している、請求項3に記載の二量体。
【請求項6】
各ポリペプチドが抗体重鎖を含む、請求項1に記載の二量体。
【請求項7】
各ポリペプチドがFc融合タンパク質を含む、請求項1に記載の二量体。
【請求項8】
ホモ二量体である、請求項1~のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項9】
ヘテロ二量体である、請求項1~のいずれか一項に記載の二量体。
【請求項10】
請求項8のホモ二量体を含む抗体。
【請求項11】
請求項9のヘテロ二量体を含む抗体。
【請求項12】
請求項8のホモ二量体を含むFc融合タンパク質。
【請求項13】
請求項9のヘテロ二量体を含むFc融合タンパク質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2013年7月31日に出願された米国仮特許出願第61/860,800号の利益を主張するものであり、同出願を参照により本明細書に援用する。
【0002】
配列表
本出願は、電子的に提出したASCII形式の配列表を含むものであり、同配列表の全体を参照により本明細書に援用する。2014年7月28日に作成された当該ASCII形式の複製の名称は、A-1852-WO-PCT_SL.txtであり、大きさは122,988バイトである。
【背景技術】
【0003】
抗体は、治療用分子の開発者にとって魅力的ないくつかの特性を持つことから、生物薬剤産業内で選択される手段になってきている。抗体は、特定の構造または細胞への標的能に加えて、その標的細胞がFc受容体細胞を介した食作用及び殺傷を受けるようにする(Raghavan and Bjorkman 1996)。更に、pH依存的に新生児型Fc受容体(FcRn)と相互作用する抗体の能力により、血清半減期の増大がもたらされる(Ghetie and Ward 2000)。抗体のこの固有の特徴のため、Fc-融合分子を操作することにより血清中の治療用タンパク質またはペプチドの半減期を拡大することが可能である。
【0004】
抗体は、IgG、IgA、IgE、IgM及びIgDを含む、タンパク質の免疫グロブリンクラスに属する。ヒト血清中に最も豊富に存在する免疫グロブリンクラスは、IgGであり、その模式構造を図1に示す(Deisenhofer 1981;Huber 1984;Roux 1999)。IgG構造は、2つの軽鎖及び2つの重鎖の4つの鎖を有し、各軽鎖は2つのドメインを有し、各重鎖は4つのドメインを有する。抗原結合部位は、可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)ドメイン並びに定常軽鎖(LC)及び定常重鎖(CHl)ドメインを含むFab領域(抗原結合断片)に位置する。重鎖のヒンジ、CH2及びCH3ドメイン領域は、Fc(結晶性断片)と呼ばれる。IgG分子は、ヒンジ領域のジスルフィド結合(-S-S-)により結合された2つの重鎖と、2つの軽鎖とを有するヘテロ四量体とみなすことができる。ヒンジジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのサブクラス間で異なる(Papadea and Check 1989)。FcRn結合部位は、抗体のFc領域に位置し(Martin,West et al.2001)、そのため、抗体の長期血清半減期性は、Fc断片中に保持されている。Fc領域は、単独では、ヒンジ、CH2及びCH3ドメインを含む重鎖のホモ二量体と考えることができる。
【0005】
天然IgG抗体のFc領域は、ホモ二量体であり、二量体として発現させ、精製することができる。上述のように、抗体のFc領域は、FcRnリサイクリング機序を介して血清半減期をもたらす。したがって、Fcは、治療用タンパク質、ペプチド(ペプチボディ)及びタンパク質ドメインの血清半減期を増大するための融合パートナーとして用いられる。しかしながら、一部の治療用途では、Fcを形成する2つのポリペプチド鎖間の共有結合を取り除く、ヒンジ領域の除去が必要になる場合がある。例えば、内部ジスルフィド結合または遊離システイン残基を含むタンパク質とFcとを融合させる場合、ヒンジジスルフィドは折り畳みと干渉し、凝集をもたらし得る。しかしながら、ヒンジ領域を取り除くと、2つのポリペプチド鎖間の共有結合が除去される。これは、製造段階またはインビボのいずれにおいて、2つのFc鎖間の非共有結合作用の解離をもたらし、Fc鎖と他のタンパク質/分子との会合をもたらし得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Raghavan and Bjorkman 1996
【文献】Ghetie and Ward 2000
【文献】Deisenhofer 1981;Huber 1984;Roux 1999
【文献】Papadea and Check 1989
【文献】Martin,West et al.2001
【発明の概要】
【0007】
本明細書にて開示するように、CH3ドメイン界面にジスルフィド結合を導入することにより、ヒンジ領域内のジスルフィド結合を欠くFc含有分子の熱安定性を改善することができる。更に、この共有結合により、Fc構造の二量体を形成する2つのポリペプチド鎖は、インビトロまたはインビボでの解離なく、そのままの形態を保持する。図3に示すように、ある特定の実施形態において、WTヒンジ除去Fcホモ二量体及び変異型ヒンジ除去Fcヘテロ二量体における2つのFc鎖間の唯一の共有結合は、導入されたジスルフィド結合だけである。
【0008】
ある特定の実施形態において、CH3ドメイン間のジスルフィド結合(-S-S-)の形成により相互作用が安定化するように、両CH3ドメイン上でCH3-CH3界面を形成する1つまたは複数の残基をスルフヒドリル含有残基で置換する。好ましい実施形態において、界面のアミノ酸、例えば、ロイシン、スレオニン、セリンまたはチロシンを、システインまたはメチオニン、好ましくはシステインで置換する。ある特定の実施形態において、アミノ酸を、所望の電荷特性を有する非天然アミノ酸、例えば、ホモシステインまたはグルタチオンで置換する。
【0009】
本発明の第1の態様において、ポリペプチドは、ヒンジ領域の1つまたは複数のシステインの欠失または置換及び1つまたは複数のCH3界面アミノ酸のスルフヒドリル含有残基、好ましくは、システインとの置換を有する抗体Fc領域を含む。ヒンジ領域は、置換によりまたは欠失を介してシステイン残基を欠いていてよい。ある特定の実施形態において、Fcは、ヒンジ領域を完全に欠いている。他の実施形態において、ヒンジ領域の一部のみ、好ましくは、システイン残基を含む部分を除去する。
【0010】
第1の態様の特定の実施形態において、CH3界面アミノ酸のY349、L351、S354、T394またはY407を、スルフヒドリル含有残基、好ましくはシステインで置換する。好ましい実施形態において、Fcは、L351C置換を含む。L351C置換を有する2つのFc含有ポリペプチドが適切な条件下で相互に作用する場合、2つの鎖中のL351C残基間でジスルフィド結合が形成される。同様に、T394C置換を有する2つのFc含有ポリペプチドが適切な条件下で相互に作用する場合、2つの鎖中のT394C残基間でジスルフィド結合が形成される。更に、Y407C置換を有する2つのFc含有ポリペプチドが適切な条件下で相互に作用する場合、2つの鎖中のY407C残基間でジスルフィド結合が形成される。Y349C置換を有するFc含有ポリペプチドがS354C置換を有するFc含有ポリペプチドと適切な条件下で相互に作用する場合、一方の鎖中のY349C残基と、もう一方の鎖中のS354C残基の間にジスルフィド結合が形成される。
【0011】
第1の態様のポリペプチドのFc領域は、CH2及び/またはCH3領域に、1つまたは複数の更なるアミノ酸置換を含み得る。好ましい実施形態において、Fc領域は、野生型CH2を有する類似のタンパク質と比べて、Fc含有タンパク質のエフェクター機能を変更する、1つまたは複数のアミノ酸置換をCH2領域に含む。他の実施形態において、Fc領域は、対応するアミノ酸置換をCH3領域に有するFc含有ポリペプチドとのFc含有ポリペプチドのホモ二量体化能を変更する及び/またはヘテロ二量体化能を増加させる、1つまたは複数のアミノ酸置換をCH3領域に含む。
【0012】
第1の態様のある特定の実施形態において、FcのC末端の1つまたは複数のアミノ酸を欠失させるかまたは置換する。好ましい実施形態において、C末端リジンを欠失させるか、別のアミノ酸に置換する。他の実施形態において、2つまたは3つの末端アミノ酸を欠失させるか、別のアミノ酸に置換する。
【0013】
第1の態様のある特定の実施形態において、ポリペプチドは、抗体重鎖である。他の実施形態において、ポリペプチドは、Fc融合タンパク質である。Fc融合タンパク質は、Fc分子のN末端及び/またはC末端にリンカーを含み得る。
【0014】
本発明の第2の態様において、核酸が第1の態様のポリペプチドをコードする。
【0015】
第3の態様において、発現ベクターが異種プロモーター及び/またはエンハンサーなどの制御配列に機能的に連結した第2の態様の核酸を含む。
【0016】
第4の態様において、宿主細胞が第3の態様の発現ベクターを含む。好ましい実施形態において、宿主細胞は、酵母菌または哺乳動物の細胞株などの真核細胞である。好ましい哺乳動物細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1の態様のポリペプチドを作製するための方法である。当該方法は、第4の態様の宿主細胞を、制御領域が宿主細胞内で活性となる条件下で培養すること、及びその培養物からポリペプチドを単離することを含む。
【0018】
第6の態様において、医薬組成物が第1の態様のポリペプチドを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ドメインを示したIgG1抗体の模式図である。IgG1抗体は、2つの重鎖(長さがより長い)及び2つの軽鎖(長さがより短い)を有するY字形の四量体である。2つの重鎖は、ヒンジ領域でジスルフィド結合(-S-S-)により互いに結合している。Fab:抗原結合断片、Fc:結晶性断片、VL:可変軽鎖ドメイン、VH:可変重鎖ドメイン、CL:定常(配列変動なし)軽鎖ドメイン、CHl:定常重鎖ドメイン1、CH2:定常重鎖ドメイン2、CH3:定常重鎖ドメイン3。
図2】ヒンジ領域を欠き(「ヒンジ除去」)、CH3ドメイン界面に導入したジスルフィド結合を有するFc二量体の模式図である。(a)野生型Fcホモ二量体の場合と、(b)CH3ドメイン界面に変異(例えば、knobs-into-holesまたは電荷対変異)も導入した、変異型Fcヘテロ二量体の場合。
図3】CH3ドメイン界面に導入したL351Cジスルフィド結合を有するヒンジ除去Fc電荷対変異型ヘテロ二量体融合構築物に関するSDSPAGEを示す。大きい単一バンドにより、Fc鎖の正(「+」)と負(「-」)の間の共有結合が確認される。
図4】ヒンジ領域を欠くヘテロ二量体(電荷対変異)Fc融合タンパク質の薬物動態の要約を示す。A.ヒンジを欠き、かつ治療用ペプチドとFcの間にリンカーを有さないFc融合体。B.Aと同様であるが、治療用ペプチド内に変異を有するFc融合体。C.Bと同様であるが、グリコシル化していないリンカーがFcと治療用ペプチドとを連結しているFc融合体。D.Cと同様であるが、異なるリンカーを有するFc融合体。E.Aと同様であるが、一方のFc鎖がY349C置換を含み、他方がS354C置換を含むFc融合体。F.Bと同様であるが、一方のFc鎖がY349C置換を含み、他方がS354C置換を含むFc融合体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
抗体Fcスカフォールド、特に、ヒンジ領域を欠くか、ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域の一部を欠くか、またはヒンジ領域が1つ若しくは複数のシステイン残基の置換を含む、Fcスカフォールドの安定性を改善するための方法が本明細書にて記載される。当該方法は、1つまたは複数の操作したジスルフィド結合をCH3ドメイン界面に導入することを含む。
【0021】
図1に示すように、IgG1抗体は、2つの重鎖(長さがより長い)及び2つの軽鎖(長さがより短い)を有するY字形の四量体である。2つの重鎖は、ヒンジ領域においてジスルフィド結合(-S-S-)により互いに結合している。IgG分子は、ヒンジ領域においてジスルフィド結合(-S-S-)により結合された2つの重鎖と、2つの軽鎖とからなるヘテロ四量体とみなすことができる。ヒンジジスルフィド結合の数は、免疫グロブリンのサブクラス間で異なる。
【0022】
天然抗体において、2つの重鎖間の共有結合が、ヒンジ領域においてジスルフィド結合(溶媒にさらされる)によりもたらされる。したがって、ヒンジ領域を欠くFc二量体または抗体には、2つの重鎖間に共有結合がない。ヒンジジスルフィドは、軽鎖と重鎖の間(CL-CH1)のジスルフィド結合とともに、4つのすべての鎖を共有結合的に連結させる。未変性抗体の分子量は約150KDaであり、非還元SDSPAGEにて単一バンドとして出る。野生型IgG1/Fcには、CH3ドメイン界面にジスルフィド結合はない。
【0023】
例示的なヒトIgG1 Fcアミノ酸配列は、
DKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列番号9)である。
【0024】
上記配列中、DKTHTCPPCPAPELLGG(配列番号10)がヒンジ領域に該当する。
【0025】
CH3-CH3界面を形成するアミノ酸については、2009年1月6日に出願されたPCT/US2009/000071に加え、2008年1月7日に出願された共同所有の仮特許出願第61/019,569号及び2009年12月5日に出願された同第61/120,305号に記載されている(これらすべての出願全体を参照により援用する)。
【0026】
Fc領域に対応する座標を有する総数48の抗体結晶構造を、構造に基づく検索アルゴリズム(Ye and Godzik 2004)を用いて、蛋白質構造データバンク(PDB)から特定した(Bernstein,Koetzle et al.1977)。特定されたFc結晶構造を調べると、最高解像度で特定された構造が、Z34C(PDBコード:1L6X)と呼ばれるタンパク質A由来のBドメインの最小型に結合したリツキシマブのFc断片に対応することが明らかになった。寄託されているFc単量体座標及び結晶対称性を用いて、1L6Xの生物学的Fcホモ二量体構造を生成した。(i)距離限界基準によって求めた接触及び(ii)溶媒露出表面積分析の2つの方法を用いて、CH3-CH3ドメイン相互作用に関与する残基を特定した。
【0027】
界面残基は、接触に基づく方法に従って、その側鎖重原子が第2の鎖中の任意の残基の重原子から特定の限界よりも近くに位置する残基として定義される。4.5Aの距離限界が好ましいが、界面残基を特定するために、より長い距離限界(例えば、5.5A)を用いることも可能である(Bahar and Jernigan 1997)。
【0028】
第2の方法は、第2の鎖の存在下及び非存在下で、CH3ドメイン残基の溶媒露出表面積(ASA)を算出することを伴う(Lee and Richards 1971)。ASAにて2つの計算値の間に差異(1A超)を示す残基を界面残基として特定する。どちらの方法も、類似セットの界面残基を特定した。更に、これらは公開研究と一致した(Miller 1990)。
【0029】
表1は、4.5Aの距離限界を用いる接触基準方法に基づいて特定した24の界面残基の一覧である。これらの残基の構造保存を更に調べた。この目的のために、PDBにより特定された48のFc構造を重ね合わせ、側鎖重原子の平均二乗偏差を算出することにより分析した。残基の表記は、KabatのEU番号付けスキームに基づく。これはまた、蛋白質構造データバンク(PDB)の番号付けとも対応している。
【0030】
【表1】
【0031】
野生型Fcの結晶構造を得て、操作ジスルフィド結合のための、システイン残基の導入が見込まれる位置を分析した。具体的には、T394及びL351の位置が選ばれた。野生型Fc鎖のT394位置をCH3ドメイン界面で並列させる。両方のFc鎖上のT394をシステインに変異させると、ジスルフィド結合の形成が可能となるであろう。同様に、野生型Fc鎖のL351位置をCH3ドメイン界面で並列させる。両方のFc鎖上のL351をシステインに変異させると、ジスルフィド結合の形成が同じく可能となるであろう。両方のFc鎖上のT394とL351の両方をシステインに変異させると、2つのジスルフィド結合の形成が可能となるであろう。
【0032】
ジスルフィド結合は両鎖中の同じ残基が関与するので、T394とL351の両部位は、野生型Fcホモ二量体だけでなく、knobs-into-holesまたは電子対変異を有するFc鎖などの操作したFcヘテロ二量体にも適用することができる。
【0033】
Y349及びS354の位置を野生型Fc CH3界面で並列させる。Fcヘテロ二量体において、一方のCH3領域がY349C置換を含み、もう一方のCH3領域がS354C置換を含み得る。(Y349C/S354C)システインクランプ変異を含む電荷対ヘテロ二量体の安定性は、システインクランプを含まないヘテロ二量体よりも優れていることがわかった。特に、システインクランプのない電子対ヘテロ二量体の単量体は、SDS-PAGE上で別々のバンドで観察されたが、システインクランプ変異のある電子対ヘテロ二量体は、単一バンドで観察された。(L351C/L351C)システインクランプ変異を含む電子対ヘテロ二量体についても同様であった。
【0034】
Y349C置換を含む第1のCH3含有分子及びS354C置換を含む第2のCH3含有分子を含むヘテロ二量体は、当該位置に野生型アミノ酸残基を含むヘテロ二量体と比べて、より大きな安定性と、より高いヘテロ二量体のパーセンテージを示した。更に、L351C置換をそれぞれ含む第1及び第2のCH3含有分子を含むヘテロ二量体は、L351を含むヘテロ二量体と比べて、より大きな安定性及びより高い生成レベルを示した。
【0035】
CH3領域内の界面残基は、種々の抗体のサブクラス間、クラス間、更には異なる種間で、高度に保存されている傾向がある。したがって、当該システイン操作は、本実施形態ではヒトIgG1内に施しているが、他のFc含有分子への適用も可能である。例示的なFc配列を以下に記載する。以下の配列内のヒトIgG1のY349、L351、S354、T394またはY407に対応する残基を、スルフヒドリル含有残基、好ましくはシステインで置換することができる。他のヒトIgGサブクラスにて対応する残基は、[ ]で括って示す。
【化1】
【0036】
ある特定の実施形態において、CH3領域を含むポリペプチドは、IgG分子であり、CH1及びCH2ドメインを更に含む。例示的なヒトIgG配列は、IgGl(例えば、配列番号1)、IgG2(例えば、配列番号2)、IgG3(例えば、配列番号3)及びIgG4(例えば、配列番号4)の定常領域を含む。
【0037】
Fc領域はまた、IgA(例えば、配列番号5)、IgD(例えば、配列番号6)、IgE(例えば、配列番号7)及びIgM(例えば、配列番号8)重鎖の定常領域内にも構成され得るか、当該定常領域に由来してもよい。
【0038】
本発明の好ましい実施形態は、抗体、二重特異性抗体、単一特異性一価抗体、二重特異性マキシボディ(マキシボディはscFv-Fcを指す)、モノボディ、ペプチボディ、二重特異性ペプチボディ、一価ペプチボディ(ヘテロ二量体Fc分子の1つのアームに融合したペプチド)及び受容体-Fc融合タンパク質を含むが、これらに限定されない。
【0039】
いくつかの実施形態において、本戦略は、抗体ドメインの相互作用を変更する他の戦略、例えば、ドメインがそれ自体と相互作用する能力を減少させるか、または当該能力に有利に働く、CH3ドメイン変更とともに用いることができる。
【0040】
置換が適切に調整されれば、電荷は、界面における残基間のジスルフィド結合の形成に有利であり、これによりヘテロ二量体形成が安定化する。
【0041】
ある特定の態様において、本発明は、ヘテロ二量体タンパク質を作製するための方法を提供する。ヘテロ二量体は、第1のCH3含有ポリペプチド及び第2のCH3含有ポリペプチドを含み得、これらが会合して、ヘテロ二量体形成を促進し安定化するように操作された界面を形成する。第1のCH3含有ポリペプチド及び第2のCH3含有ポリペプチドは、界面内に、1つまたは複数のスルフヒドリル含有アミノ酸を含み、第1のCH3含有ヘテロ二量体上のアミノ酸のスルフヒドリル基と、第2のCH3含有ヘテロ二量体上のアミノ酸のスルフヒドリル基との間にジスルフィド結合が形成可能なように配置される。
【0042】
ある特定の実施形態において、CH3含有ポリペプチドは、IgG Fc領域、好ましくは、野生型ヒトIgG Fc領域に由来するものを含む。「野生型」ヒトIgG Fcとは、ヒト集団内に自然発生するアミノ酸配列を意味する。当然のことながら、Fc配列が個体間でわずかに異なり得るように、1つまたは複数の改変を野生型配列に施してもよく、これも本発明の範囲内であり得る。例えば、Fc領域は、グリコシル化部位における変異、非天然アミノ酸の包含または「knobs-into-holes」若しくは「電荷対」変異などの本発明に関連しない更なる改変を含み得る。
【0043】
IgG1 Fcに施すことができる更なる変異には、Fc含有ポリペプチド間のヘテロ二量体形成を促進するものが挙げられる。いくつかの実施形態において、2つの異なるFc含有ポリペプチド鎖が細胞内で同時に発現したときにヘテロ二量体形成を促進する、「knob(突起)」及び「hole(空隙)」を生じるようにFc領域を操作する(U.S.7,695,963)。他の実施形態において、2つの異なるFc含有ポリペプチドが細胞内で同時に発現したときに、ヘテロ二量体形成を促進しつつ、ホモ二量体形成を妨げるように、静電的ステアリングを用いてFc領域を改変する(WO09/089,004、その全体を参照により本明細書に援用する)。好ましいヘテロ二量体Fcには、Fcの1つの鎖がD399K及びE356K置換を含み、Fcのもう1つの鎖がK409D及びK392D置換を含むものが挙げられる。他の実施形態において、Fcの1つの鎖は、D399K、E356K及びE357K置換を含み、Fcのもう1つの鎖は、K409D、K392D及びK370D置換を含む。
【0044】
重鎖は、当該重鎖を含む抗体の1つまたは複数のFc受容体への結合に影響を与える1つまたは複数の変異を更に含み得る。抗体のFc部分の機能の1つは、抗体が標的と結合したときに、免疫系と連絡を取ることである。これは、「エフェクター機能」とみなされている。連絡により、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貧食(ADCP)及び/または補体依存性細胞傷害(CDC)がもたらされる。ADCC及びADCPは、免疫系の細胞表面上のFc受容体へのFcの結合を通じて媒介される。CDCは、Fcと補体系のタンパク質、例えばC1qとの結合を通じて媒介される。
【0045】
IgGサブクラスは、エフェクター機能を媒介する能力が異なる。例えば、IgG1は、ADCC及びCDCを媒介することにおいて、IgG2及びIgG4よりもはるかに優れている。抗体のエフェクター機能は、1つまたは複数の変異をFcに導入することにより、増加させることも減少させることもできる。本発明の実施形態は、エフェクター機能が増加するように操作されたFcを有するFc含有タンパク質、例えば、抗体またはFc融合タンパク質を包含する(U.S.7,317,091及びStrohl,Curr.Opin.Biotech.,20:685-691,2009;両文献の全体を参照により本明細書に援用する)。エフェクター機能を増加させた例示的なIgG1 Fc分子には、以下の置換を有するものが挙げられる(すべてEU番号付けスキームに基づく)。
S239D/I332E
S239D/A330S/I332E
S239D/A330L/I332E
S298A/D333A/K334A
P247I/A339D
P247I/A339Q
D280H/K290S
D280H/K290S/S298D
D280H/K290S/S298V
F243L/R292P/Y300L
F243L/R292P/Y300L/P396L
F243L/R292P/Y300L/V305I/P396L
G236A/S239D/I332E
K326A/E333A
K326W/E333S
K290E/S298G/T299A
K290N/S298G/T299A
K290E/S298G/T299A/K326E
K290N/S298G/T299A/K326E
K334V
L235S+S239D+K334V
Q311M+K334V
S239D+K334V
F243V+K334V
E294L+K334V
S298T+K334V
E233L+Q311M+K334V
L234I+Q311M+K334V
S298T+K334V
A330M+K334V
A330F+K334V
Q311M+A330M+K334V
Q311M+A330F+K334V
S298T+A330M+K334V
S298T+A330F+K334V
S239D+A330M+K334V
S239D+S298T+K334V
L234Y+K290Y+Y296W
L234Y+F243V+Y296W
L234Y+E294L+Y296W
L234Y+Y296W
K290Y+Y296W
【0046】
本発明の更なる実施形態は、エフェクター機能が減少するように操作されたFcを有するFc含有タンパク質、例えば、抗体またはFc融合タンパク質を包含する。エフェクター機能を減少させた例示的なFc分子には、以下の置換を有するものが挙げられる(Eu番号付けスキームに基づく)。
N297AまたはN297Q(IgG1)
L234A/L235A(IgG1)
V234A/G237A(IgG2)
L235A/G237A/E318A(IgG4)
H268Q/V309L/A330S/A331S(IgG2)
C220S/C226S/C229S/P238S(IgG1)
C226S/C229S/E233P/L234V/L235A(IgG1)
L234F/L235E/P331S(IgG1)
S267E/L328F(IgG1)
【0047】
IgG Fc含有タンパク質のエフェクター機能を増加させるための別の方法は、Fcのフコシル化を減少させることによるものである。Fcに結合した二分岐複合型オリゴ糖からコアフコースを除去すると、抗原結合またはCDCエフェクター機能を変えることなく、ADCCエフェクター機能が大幅に向上した。Fc含有分子、例えば抗体のフコシル化を減少させるまたは無効にするための方法は複数知られている。これらの方法には、FUT8ノックアウト細胞株、変異型CHO株Lec13、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0を含めた特定の哺乳動物細胞株、FUT8遺伝子に対して特異的な低分子干渉RNAを含む細胞株、並びにβ-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII及びゴルジ体α-マンノシダーゼIIを同時に発現する細胞株内での組み換え発現が挙げられる。あるいは、Fc含有分子を植物細胞、酵母菌または原核細胞、例えば大腸菌などの非哺乳動物細胞内で発現させてもよい。したがって、本発明の特定の実施形態において、組成物は、フコシル化を減少させたFcまたはフコシル化を完全に欠くFcを含む。
【0048】
ヒトIgG1がN297(EU番号付けスキーム)にグリコシル化部位を有し、グリコシル化がIgG1抗体のエフェクター機能に寄与することが知られている。脱グリコシル化抗体を作製するために、グループが、N297に変異を加えた。これらの変異は、N297を、生理化学的性質の点でアスパラギンに類似するアミノ酸、例えばグルタミン(N297Q)または極性基なしでアスパラギンの働きを再現するアラニン(N297A)で置換することに主眼を置いている。
【0049】
本明細書にて使用する場合、「脱グリコシル化抗体」または「脱グリコシル化Fc」は、Fcの297位置にある残基のグリコシル化の状態を指す。抗体または他の分子は、1つまたは複数の他の位置にグリコシル化を含んでもよいが、この場合でも同様に脱グリコシル化抗体または脱グリコシル化Fc融合タンパク質とみなされ得る。
【0050】
2013年3月14日に出願された共同所有の米国仮特許出願第61/784,669号は、エフェクター機能のないIgG1 Fcについて記載している(この出願全体を参照により本明細書に援用する)。ヒトIgG1のアミノ酸N297のグリシンへの変異、すなわちN297Gにより、当該残基の他のアミノ酸置換よりもはるかに優れた精製効率及び生物物理学的性質がもたらされる。したがって、好ましい実施形態において、抗体またはFc融合タンパク質は、N297G置換を有するヒトIgG1 Fcを含む。
【0051】
脱グリコシル化IgG1 Fc含有分子は、グリコシル化IgG1 Fc含有分子よりも安定性が低いことが示された。脱グリコシル化分子の安定性を増加させるように、Fc領域を更に操作してもよい。いくつかの実施形態において、1つまたは複数のアミノ酸をシステインに置換して、二量体状態のジスルフィド結合を形成する。CH2領域の残基V259、A287、R292、V302、L306、V323またはI332をシステインで置換することができる。好ましい実施形態において、残基の特定の対が、当該対が優先的に互いにジスルフィド結合をし、これによりジスルフィド結合の不規則性が制限または防止されるような置換である。好ましい対には、A287CとL306C、V259CとL306C、R292CとV302C及びV323CとI332Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
残基V259、A287、R292、V302、L306、V323またはI332のうち1つまたは複数がシステインで置換された、Fc含有分子が本明細書にて提供される。好ましいFc含有分子には、A287CとL306C、V259CとL306C、R292CとV302CまたはV323CとI332Cの置換を含むものが挙げられる。
【0053】
目的のポリペプチドをIgG Fc領域のN末端またはC末端に融合させて、Fc融合タンパク質を作製してもよい。ある特定の実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fcと目的のポリペプチドとの間にリンカーを含む。多くの様々なリンカーポリペプチドが当該技術分野において知られており、Fc融合タンパク質にて用いることができる。好ましい実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fcと目的のペプチドまたはポリペプチドとの間にGGGGS(配列番号45)、GGNGT(配列番号46)またはYGNGT(配列番号47)からなる、1つまたは複数のペプチド複製を含む。いくつかの実施形態において、Fc領域と目的のペプチドまたはポリペプチド領域の間のポリペプチド領域は、GGGGS(配列番号45)、GGNGT(配列番号46)またはYGNGT(配列番号47)の単一複製を含む。リンカーGGNGT(配列番号46)またはYGNGT(配列番号47)は、適切な細胞内で発現した場合、グリコシル化され、当該グリコシル化により、溶液中及び/またはインビボ投与時におけるタンパク質の安定化が促される。したがって、ある特定の実施形態において、Fc融合タンパク質は、Fc領域と目的のタンパク質領域の間にグリコシル化されたリンカーを含む。
【0054】
2012年1月26日に出願された共同所有の米国仮特許出願第61/591,161号及び2013年1月28日に出願されたPCT出願番号PCT/US2013/023456(両出願の全体を参照により本明細書に援用する)がGDF15 Fc融合タンパク質について記載している。本発明のある特定の実施形態において、ポリペプチドは、ヒンジ領域の1つまたは複数のシステインの欠失または置換及び1つまたは複数のCH3界面アミノ酸のスルフヒドリル含有残基、好ましくは、システインとの置換を有する抗体Fc領域を含み、当該ポリペプチドはGDF15 Fc融合体ではない。より詳細には、ポリペプチドは、ヒンジ領域の1つまたは複数のシステインの欠失または置換及び1つまたは複数のCH3界面アミノ酸のスルフヒドリル含有残基、好ましくは、システインとの置換を有する抗体Fc領域を含み、当該ポリペプチドは、PCT出願番号PCT/US2013/023456に記載されている、以下を含むGDF15融合タンパク質などのGDF15
Fc融合タンパク質ではない。
【化2】
【0055】
抗体及びFc融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド
抗体重鎖及びFc融合タンパク質をコードする核酸が本発明に包含される。本発明の態様は、本明細書に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド変異体(例えば、縮重によるもの)を含む。
【0056】
核酸単離のためのプローブ若しくはプライマーまたはデータベース検索のためのクエリー配列として使用される、本明細書に記載のアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列は、当該アミノ酸配列からの「戻し翻訳」により得ることができる。よく知られているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて、抗体重鎖及びFc融合タンパク質をコードするDNA配列を単離及び増幅することができる。組み合わせDNA断片の所望の末端を定めるオリゴヌクレオチドを5’及び3’プライマーに用いる。これらのオリゴヌクレオチドには、増幅した組み合わせDNA断片を発現ベクターに挿入しやすくするために、制限エンドヌクレアーゼ認識部位を更に含めることができる。PCR技術については、Saiki et al.,Science 239:487(1988);Recombinant DNA Methodology,Wu et al.,eds.,Academic Press,Inc.,San Diego(1989),pp.189-196;及びPCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Innis et.al.,eds.,Academic Press,Inc.(1990)に記載されている。
【0057】
本発明の核酸分子には、一本鎖及び二本鎖の両方の形態のDNA及びRNA並びに対応する相補配列が含まれる。「単離核酸」は、天然源から単離された核酸である場合、その核酸を単離した生物のゲノムに存在する隣接遺伝子配列から分離された核酸である。鋳型から酵素的にまたは化学的に合成された核酸、例えば、PCR産物、cDNA分子またはオリゴヌクレオチドなどの場合、こうした方法から得られる核酸は単離核酸であると解釈される。単離核酸分子は、分離された断片の形態またはより大きな核酸構築物の成分である核酸分子を指す。好ましい一実施形態において、核酸は、内因性汚染物質を実質的に含まない。核酸分子は、その成分であるヌクレオチド配列を標準的な生化学的方法(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1989)に概説されているものなど)により特定、操作及び回収を行うことができる量または濃度で、かつ実質的に純粋な形態に、少なくとも1回は単離されたDNAまたはRNAに由来しているのが好ましい。こうした配列は、好ましくは、真核細胞遺伝子に通常存在する内部非翻訳配列、すなわちイントロンで中断されないオープンリーディングフレームの形態で提供及び/または構築される。非翻訳DNA配列は、オープンリーディングフレームの5’または3’側に存在してよく、この場合、これらの配列はコード領域の操作または発現を妨げない。
【0058】
本発明に係る変異体は、通常、重鎖またはFc融合タンパク質をコードするDNA中のヌクレオチドの部位特異的変異誘発により作製され、カセット若しくはPCR変異誘発または当該技術分野においてよく知られている技術を用いて、変異体をコードするDNAを作製し、その後本明細書にて概略するように細胞培養にて組み換えDNAを発現させる。しかしながら、確立されている技術を用いて、インビトロ合成により重鎖及びFc融合タンパク質を作製してもよい。変異体は、通常、天然類似体と質的に同じ生物学的活性を示すが、以下に更に詳しく概説するように、特徴を改変した変異体を選択することもできる。
【0059】
当業者であれば理解するように、遺伝子コードの縮重により、極めて多数の核酸であって、これらのすべてが本発明の重鎖及びFc融合タンパク質をコードする核酸を作製できる。したがって、特定のアミノ酸配列が特定されれば、当業者は、コードタンパク質のアミノ酸配列を変えない方法で、1つまたは複数のコドン配列を単に変更することにより、任意の数の異なる核酸を作製することができる。
【0060】
本発明はまた、少なくとも1つの上記のポリヌクレオチドを含む、プラスミド、発現ベクター、転写または発現カセットの形態の発現系及び構築物を提供する。更に、本発明は、こうした発現系または構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0061】
通常、宿主細胞のいずれかに用いられる発現ベクターは、プラスミド維持のための配列並びに外因性ヌクレオチド配列のクローニング及び発現のための配列を含む。こうした配列は、ある特定の実施形態では「フランキング配列」と総称され、通常、プロモーター、1つまたは複数のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含む完全なイントロン配列、ポリペプチド分泌のためのリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現させるポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、並びに選択マーカー要素のヌクレオチド配列のうち1つまたは複数を含む。これらの配列のそれぞれについて以下に考察する。
【0062】
任意で、ベクターは、「タグ」コード配列、すなわち、重鎖またはFc融合タンパク質をコードする配列の5’または3’末端に位置するオリゴヌクレオチド分子を含んでよく、このオリゴヌクレオチド配列は、ポリHis(ヘキサHis(配列番号58)など)、またはFLAG、HA(ヘマグルチニンインフルエンザウイルス)若しくはmycなどの別の「tag」をコードしており、これらに対する市販の抗体がある。このタグは、通常、ポリペプチドの発現時にポリペプチドに融合し、宿主細胞からのタンパク質のアフィニティー精製または検出のための手段として機能し得る。アフィニティー精製は、例えば、タグに対する抗体を親和性マトリックスとして用いるカラムクロマトグラフィーにより行うことができる。任意で、その後、ある特定の切断用ペプチダーゼを用いるなどの各種手段により、精製した重鎖またはFc融合タンパク質からタグを取り除くことができる。
【0063】
フランキング配列は、同種(すなわち、宿主細胞と同種及び/または同系統由来)、異種(すなわち、宿主細胞の種または系統以外の種由来)、ハイブリッド(すなわち、2つ以上の供給源からのフランキング配列の組み合わせ)でも、合成でも、天然でもよい。したがって、フランキング配列の供給源は、当該フランキング配列が、宿主細胞機構内で機能でき、かつ当該機構により活性化され得るのであれば、いずれの原核生物若しくは真核生物、いずれの脊椎動物若しくは無脊椎動物またはいずれの植物であってもよい。
【0064】
本発明のベクターに有用なフランキング配列は、当該技術分野においてよく知られたいくつかの方法のいずれかにより得ることができる。通常、マッピングにより及び/または制限エンドヌクレアーゼ消化により本明細書にて有用なフランキング配列を事前に特定しておき、当該配列を、適切な制限エンドヌクレアーゼを用いて適切な組織源から単離することができる。場合により、フランキング配列の完全なヌクレオチド配列が知られていることもある。この場合、核酸合成またはクローニングについて本明細書に記載した方法を用いて、そのフランキング配列を合成してもよい。
【0065】
既知のフランキング配列が全配列であっても、その一部であっても、フランキング配列は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により並びに/または同種若しくは別種由来のオリゴヌクレオチド及び/若しくはフランキング配列断片などの好適なプローブでゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。フランキング配列がわからない場合は、例えば、コード配列または更には他の遺伝子を含み得るより大きなDNA片から、フランキング配列を含むDNA断片を単離することができる。単離は、制限エンドヌクレアーゼ消化により適切なDNA断片を生成し、次いで、アガロースゲル精製、Qiagen(登録商標)カラムクロマトグラフィー(Chatsworth,CA)、または当業者に知られた他の方法を用いることにより単離することができる。この目的を達成するのに適した酵素の選択は、当業者には容易に明らかであろう。
【0066】
複製起点は、通常、市販されている原核生物発現ベクターの一部であり、この起点は、宿主細胞中におけるベクターの増幅を助けるものである。選択したベクターが複製起点部位を含まない場合、既知の配列に基づいて化学的に合成し、ベクターにライゲーションしてもよい。例えば、プラスミドpBR322(New England Biolabs,Beverly,MA)由来の複製起点は、大部分のグラム陰性菌に好適であり、種々のウイルス性起点(例えば、SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)またはHPV若しくはBPVなどのパピローマウイルス)は、哺乳動物細胞でのクローニングベクターに有用である。通常、哺乳動物の発現ベクターには複製起点成分を必要としない(例えば、SV40起点は、ウイルス初期プロモーターも含むという理由でのみ用いられることが多い)。
【0067】
転写終結配列は、通常、ポリペプチドコード領域末端の3’側に位置し、転写を終結させる働きがある。一般に、原核細胞の転写終結配列は、G-Cに富んだ断片であり、後にポリ-T配列が続く。当該配列はライブラリーから簡単にクローニングでき、またベクターの一部として市販さえもされているが、本明細書に記載の方法のような核酸合成方法を用いて容易に合成することもできる。
【0068】
選択マーカー遺伝子は、選択培地中で増殖する宿主細胞の生存及び増殖に必要なタンパク質をコードする。典型的な選択マーカー遺伝子は、(a)抗生物質若しくは他の毒素、例えば、原核生物宿主細胞であればアンピシリン、テトラサイクリン若しくはカナマイシンに対する耐性を付与するタンパク質、(b)細胞の栄養要求性欠損を補うタンパク質、または(c)複合培地若しくは規定培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。具体的な選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子及びテトラサイクリン耐性遺伝子である。有利には、ネオマイシン耐性遺伝子は、原核生物及び真核生物のいずれの宿主細胞の選択にも用いることもできる。
【0069】
他の選択遺伝子を用いて、発現させる遺伝子を増幅させてもよい。増幅とは、増殖または細胞生存に重要なタンパク質の産生に必要な遺伝子が、組み換え細胞の継代の染色体内でタンデムに繰り返されるプロセスである。哺乳動物細胞に好適な選択マーカーの例には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)及びプロモーターのないチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられる。哺乳動物細胞の形質転換体は、ベクター内に存在する選択遺伝子により形質転換体のみが生存するように一意的に適合させた選択圧下に置く。選択圧を加えるには、培地中の選択剤の濃度を連続的に高め、これにより、選択遺伝子と、抗体重鎖またはFc融合タンパク質などの別の遺伝子をコードするDNAとの両方の増幅がもたらされる条件下で形質転換細胞を培養する。その結果、増幅したDNAから、重鎖またはFc融合タンパク質などの増大した量のポリペプチドが合成される。
【0070】
リボソーム結合部位は、通常、mRNAの翻訳開始に必要であり、Shine-Dalgarno配列(原核生物)またはKozak配列(真核生物)を特徴とする。この要素は、通常、プロモーターの3’側及び発現させるポリペプチドのコード配列の5’側に位置する。ある特定の実施形態において、1つまたは複数のコード領域を内部のリボソーム結合部位(IRES)に機能的に連結させてよく、これにより、単一RNA転写物から2つのオープンリーディングフレームの翻訳が可能になる。
【0071】
真核生物宿主細胞の発現系においてグリコシル化が望まれるような、いくつかの場合、種々のプレまたはプロ配列を操作して、グリコシル化または収量を改善することができる。例えば、特定のシグナルペプチドのペプチダーゼ切断部位を変更してもよいし、グリコシル化に作用し得るプロ配列を加えてもよい。最終のタンパク質産物は、完全に除去され得なかった、発現に伴う1つまたは複数の付加アミノ酸を(成熟タンパク質の最初のアミノ酸に対して)-1位に有し得る。例えば、最終のタンパク質産物は、アミノ末端に結合したペプチダーゼ切断部位に認められる1つまたは2つのアミノ酸残基を有し得る。あるいは、いくつかの酵素切断部位を用いて、酵素で成熟ポリペプチド内の当該領域を切断すれば、わずかに短縮した型の所望のポリペプチドが生じ得る。
【0072】
本発明の発現及びクローニングベクターは、通常、宿主生物により認識され、かつ重鎖またはFc融合タンパク質をコードする分子に機能的に連結したプロモーターを含む。プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流(すなわち5’側)(通常、約100~1000bp以内)に位置し、構造遺伝子の転写を制御する非転写配列である。プロモーターは、慣習的に、誘導的プロモーターと構成的プロモーターの2つのクラスの1つに分類される。誘導的プロモーターは、栄養素の有無または温度変化などの培養条件の何らかの変化に応じて、プロモーターの制御下でDNAのより高いレベルの転写を開始する。一方、構成的プロモーターは、機能的に連結された遺伝子を一様に翻訳する。すなわち、遺伝子発現に対する制御はほとんどまたは全くない。候補となる種々の宿主細胞により認識される多数のプロモーターがよく知られている。
【0073】
酵母宿主との使用に好適なプロモーターもまた当該技術分野においてよく知られている。酵母エンハンサーは、酵母プロモーターと一緒に有利に用いられる。哺乳動物宿主細胞との使用に好適なプロモーターは、よく知られており、限定するものではないが、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2など)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、最も好ましくは、シミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得られるものが挙げられる。他の好適な哺乳動物プロモーターには、異種哺乳動物プロモーター、例えば、熱ショックプロモーター及びアクチンプロモーターなどが挙げられる。
【0074】
対象となり得る更なるプロモーターには、SV40初期プロモーター(Benoist and Chambon,1981,Nature 290:304-310)、CMVプロモーター(Thornsen et al.,1984,Proc.Natl.Acad.U.S.A.81:659-663)、ラウス肉腫ウイルスの3’長末端反復配列に含まれるプロモーター(Yamamoto et al.,1980,Cell 22:787-797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al.,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78:1444-1445)、メタロチオネイン遺伝子由来のプロモーター及び制御配列Prinster et al.,1982,Nature 296:39-42)、並びにβ-ラクタマーゼプロモーターなどの原核生物プロモーター(Villa-Kamaroff et al.,1978,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.75:3727-3731)、またはtacプロモーター(DeBoer et al.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.80:21-25)が挙げられるが、これらに限定されない。また、組織特異性を示し、トランスジェニック動物に用いられている動物転写制御領域として、膵腺房細胞で活性なエラスターゼI遺伝子制御領域(Swift et al.,1984,Cell 38:639-646;Ornitz et al.,1986,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.50:399-409、MacDonald,1987,Hepatology 7:425-515)、膵β細胞で活性なインスリン遺伝子制御領域(Hanahan,1985,Nature 315:115-122)、リンパ系細胞で活性な免疫グロブリン遺伝子制御領域(Grosschedl et al.,1984,Cell 38:647-658;Adames et al.,1985,Nature 318:533-538;Alexander et al.,1987,Mol.Cell.Biol.7:1436-1444)、精巣細胞、乳腺細胞、リンパ系細胞及びマスト細胞で活性なマウス乳腺癌ウイルス制御領域(Leder et al.,1986,Cell 45:485-495)、肝臓で活性なアルブミン遺伝子制御領域(Pinkert et al.,1987,Genes and Devel.1 :268-276)、肝臓で活発なαフェトプロテイン遺伝子制御領域(Krumlauf et al.,1985,Mol.Cell.Biol.5:1639-1648、Hammer et al.,1987,Science 253:53-58)、肝臓で活発なα1-アンチトリプシン遺伝子制御領域(Kelsey et al.,1987,Genes and Devel.1:161-171)、骨髄細胞で活性なβグロビン遺伝子制御領域(Mogram et al.,1985,Nature 315:338-340;Kollias et al.,1986,Cell 46:89-94)、脳内の乏突起神経膠細胞で活性なミエリン塩基性タンパク質遺伝子制御領域(Readhead et al.,1987,Cell 48:703-712)、骨格筋で活性なミオシン軽鎖-2遺伝子制御領域(Sani,1985,Nature 314:283-286)、並びに視床下部で活性な性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子制御領域(Mason et al.,1986,Science 234:1372-1378)も対象となる。
【0075】
高等真核生物による転写を高めるために、エンハンサー配列をベクターに挿入することができる。エンハンサーは、DNAのシス作用要素であり、通常約10~300bpの長さであり、プロモーターに作用して転写を増加させる。エンハンサーは、配向及び位置に比較的依存せず、転写ユニットの5’と3’の両側で確認されている。哺乳動物の遺伝子から入手できる複数のエンハンサー配列(例えば、グロビン、エラスターゼ、アルブミン、αフェトプロテイン及びインスリン)が知られている。しかしながら、通常、ウイルス由来のエンハンサーが使用される。当該技術分野において知られている、SV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、ポリオーマエンハンサー及びアデノウイルスエンハンサーが真核生物プロモーターの活性化を増大させる例示的な要素である。エンハンサーは、コード配列の5’側または3’側のいずれかでベクター内に配置され得るが、通常はプロモーターの5’側の位置に置かれる。抗体またはFc融合タンパク質の細胞外分泌を促進するために、適切な天然または異種シグナル配列(リーダー配列またはシグナルペプチド)をコードする配列を発現ベクターに組み込むことができる。シグナルペプチドまたはリーダーの選択は、タンパク質を産生させる宿主細胞の種類に依存し、天然シグナル配列を異種シグナル配列に置き換えてもよい。哺乳動物宿主細胞で機能するシグナルペプチドの例には、米国特許第4,965,195号に記載されているインターロイキン-7(IL-7)のシグナル配列、Cosman et al.,1984,Nature 312:768に記載されているインターロイキン-2受容体のシグナル配列、欧州特許第0367566号に記載に記載されているインターロイキン-4受容体シグナルペプチド、米国特許第4,968,607号に記載されているI型インターロイキン-1受容体シグナルペプチド、欧州特許第0460846号に記載されているII型インターロイキン-1受容体シグナルペプチドが挙げられる。
【0076】
ベクターは、当該ベクターが宿主細胞ゲノムに組み込まれたときに発現を促進する、1つまたは複数の要素を含み得る。例としては、EASE要素(Aldrich et al.2003 Biotechnol Prog.19:1433-38)及びマトリックス結合領域(MAR)が挙げられる。MARは、クロマチンの構造組織化を媒介し、「位置」効果から統合ベクターを保護し得る。したがって、MARは、ベクターを用いて安定的な形質導入体を作製するときには特に有用である。いくつかの天然及び合成MAR含有核酸が、当該技術分野において、例えば、米国特許第6,239,328号、同第7,326,567号、同第6,177,612号、同第6,388,066号、同第6,245,974号、同第7,259,010号、同第6,037,525号、同第7,422,874号、同第7,129,062号にて知られている。
【0077】
本発明の発現ベクターは、市販されているベクターのような出発ベクターから構築してもよい。こうしたベクターは、所望のフランキング配列をすべて含む場合もあれば、含まない場合もある。本明細書に記載のフランキング配列のうち1つまたは複数がまだベクターに存在していない場合、そのフランキング配列を個別に得て、ベクターにライゲーションしてもよい。フランキング配列のそれぞれを得るのに用いられる方法は、当業者によく知られている。
【0078】
ベクターを構築し、重鎖またはFc融合タンパク質をコードする核酸分子をベクターの適切な部位に挿入した後、増幅及び/またはポリペプチド発現のために、完成したベクターを好適な宿主細胞に挿入することができる。選択した宿主細胞への発現ベクターの形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、DEAE-デキストランによるトランスフェクションまたは他の既知の技術などのよく知られた方法により行うことができる。選択する方法は、用いる宿主細胞の種類に応じてある程度決まる。これらの方法及び他の好適な方法は、当事者によく知られており、例えば、Sambrookら(2001、上掲)に記載されている。
【0079】
宿主細胞は、適切な条件下で培養すると、重鎖またはFc融合タンパク質を合成する。この重鎖またはFc融合タンパク質は、その後、培地から回収してもよいし(宿主細胞が培地中に分泌する場合)、産生している宿主細胞から直接回収してもよい(分泌しない場合)。適切な宿主細胞の選択は、所望の発現レベル、活性に望ましいまたは必要であるポリペプチド改変(グリコシル化またはリン酸化など)及び生物活性分子への折り畳まれやすさなどの様々な要因に左右される。宿主細胞は、真核生物であっても原核生物であってもよい。
【0080】
発現用の宿主として入手可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野においてよく知られており、限定するものではないが、米国培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手できる不死化細胞株が挙げられ、当該技術分野において知られている発現系にて使用されているいずれの細胞株も本発明の組み換えポリペプチドを作製するために用いることができる。一般に、所望の重鎖またはFc融合体をコードするDNAを含む組み換え発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換する。用いることができる宿主細胞には、原核生物、酵母菌または高等真核細胞がある。原核生物には、グラム陰性菌またはグラム陽性菌、例えば、大腸菌または桿菌が挙げられる。高等真核細胞には、昆虫細胞及び哺乳動物起源の樹立細胞株が挙げられる。好適な哺乳動物宿主細胞株の例には、サル腎臓細胞株COS-7(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al.,1981,Cell 23:175)、L細胞、293細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはVeggie CHO及び無血清培地中で成長する関連細胞株などの誘導体(Rasmussen et al.,1998,Cytotechnology 28:31)、HeLa細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株及びMcMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821により記載されているようなアフリカミドリザル腎臓細胞株CV1(ATCC CCL 70)由来のCV1/EBNA細胞株、293、293 EBNAまたはMSR293などのヒト胚腎臓細胞、ヒト表皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換霊長類細胞株、正常二倍体細胞、一次組織のインビトロ培養に由来する細胞株、一次外植片、HL-60、U937、HaKまたはJurkat細胞が挙げられる。必要に応じて、種々のシグナルトランスダクションまたはレポーターアッセイでポリペプチドを用いることが望ましい場合、例えば、HepG2/3B、KB、NIH 3T3またはS49などの哺乳動物細胞株を、ポリペプチドの発現に用いることができる。
【0081】
あるいは、酵母菌などの下等真核生物または細菌などの原核生物でポリペプチドを産生することができる。好適な酵母菌には、サッカロマイセス・セレヴィシエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、クルイベロミセス株、カンジダまたは異種ポリペプチドを発現することができる任意の酵母菌株が挙げられる。好適な細菌株には、大腸菌、枯草菌、ネズミチフス菌または異種ポリペプチドを発現することができる任意の細菌株が挙げられる。ポリペプチドが酵母菌または細菌にて生成される場合、機能性ポリペプチドを得るために、例えば、適切な部位のリン酸化またはグリコシル化によって、産生されるポリペプチドを修飾することが望ましい場合がある。こうした共有結合は、既知の化学的または酵素的方法を用いて行うことができる。
【0082】
ポリペプチドはまた、本発明の単離核酸を、1つまたは複数の昆虫発現ベクター中の好適な制御配列に機能的に連結し、昆虫発現系を用いることによっても産生することができる。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系の材料及び方法は、例えば、Invitrogen,San Diego,Calif.,U.S.A.(MaxBac(登録商標)キット)からキット形態で市販されており、そのような方法は、Summers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555(1987)及びLuckow and Summers,Bio/Technology 6:47(1988)に記載されているように、当該技術分野においてよく知られている。無細胞翻訳系を採用して、本明細書に開示の核酸構築物に由来するRNAを用いてポリペプチドを産生することもできる。細菌、真菌、酵母及び哺乳動物細胞宿主とともに使用するための適切なクローニングベクター及び発現ベクターについては、Pouwelsら(Cloning Vectors:A Laboratory Manual,Elsevier,New York,1985)によって記載されている。本発明の単離核酸、好ましくは、少なくとも1つの発現制御配列に機能的に連結された単離核酸を含む宿主細胞は、「組み換え宿主細胞」である。
【0083】
医薬組成物
本発明のポリペプチドは、安全性の向上及び凝集の低減という特徴により、医薬組成物への配合に特に有用である。当該組成物は、生理学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤などの1つまたは複数の追加成分を含む。任意で、当該組成物は、例えば以下に示すように、1つまたは複数の生理学的に活性な剤を更に含む。種々の特定の実施形態において、当該組成物は、本発明の1つまたは複数の抗体及び/またはFc融合タンパク質に加えて、1、2、3、4、5または6つの生理学的に活性な剤を含む。
【0084】
一実施形態において、医薬組成物は、本発明の抗体及び/またはFc融合タンパク質を、緩衝剤、アスコルビン酸などの酸化防止剤、低分子量ポリペプチド(10個未満のアミノ酸を有するものなど)、タンパク質、アミノ酸、グルコース、スクロースまたはデキストリンなどの炭水化物、EDTA、グルタチオンなどのキレート化剤、安定剤及び賦形剤からなる群から選択される1つまたは複数の物質とともに含む。中性緩衝食塩水または同種血清アルブミンを混合した食塩水が適切な希釈剤の例である。また、適切な業界基準に従って、ベンジルアルコールなどの保存剤を加えてもよい。組成物は、適切な賦形剤溶液(例えば、スクロース)を希釈剤として用いる凍結乾燥物として製剤化することができる。好適な成分は、用いられる用量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性である。製剤に用いることができる成分の更なる例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.(1980) and 20th Ed.(2000),Mack Publishing Company,Easton,PAに示されている。
【0085】
本発明の1つまたは複数の抗体及び/またはFc融合タンパク質並びにラベルまたは本明細書に考察する状態のいずれかの治療にて使用するための他の説明書を含む、医師が使用するためのキットが提供される。一実施形態において、キットは、1つまたは複数の抗体及び/またはFc融合タンパク質の無菌製剤を含み、これは、上で開示した組成物の形態であってもよいし、1つまたは複数のバイアルであってもよい。
【0086】
投与量及び投与回数は、投与経路、用いられる特定の抗体及び/またはFc融合タンパク質、処置を施す疾患の性質及び重症度、症状が急性であるか慢性であるか、並びに対象の体格及び全身状態などの要素によって変化し得る。適切な用量は、関連技術分野において知られた手順、例えば、用量漸増を伴い得る臨床試験によって決定することができる。
【0087】
本発明の抗体及び/またはFc融合タンパク質は、例えば、ある期間にわたって一定の間隔で、例えば、1回または2回以上、投与することができる。特定の実施形態において、抗体及び/またはFc融合タンパク質は、1ヶ月以上、例えば、1ヶ月、2ヶ月若しくは3ヶ月に少なくとも1回または無期限投与する。慢性症状を治療するには、長期治療が通常最も効果的である。一方、急性症状を治療するには、短期間投与、例えば1~6週間の投与で十分であり得る。一般に、選択した1つまたは複数の指標に関するベースラインを越えて医学的に関連した改善の程度を患者が呈するまで、抗体及び/またはFc融合タンパク質を投与する。
【0088】
関連分野において理解されているように、本発明の抗体及び/またはFc融合タンパク質を含む医薬組成物は、適応症に適した方法で対象に投与される。医薬組成物は、任意の好適な技術によって投与することができ、限定するものではないが、非経口的、局所的または吸入による投与が挙げられる。医薬組成物を注入する場合は、例えば、関節内、静脈内、筋肉内、病巣内、腹腔内または皮下経路を介して、ボーラス注入または連続注入により投与することができる。局所投与、例えば疾患部位または損傷部位での局所投与は、経皮的送達及びインプラントからの持続放出性が企図される。吸入による送達には、例えば、経鼻または経口吸入、ネブライザの使用、エアロゾル形態での抗体及び/若しくはFc融合タンパク質の吸入などが挙げられる。他の代替法には、丸剤、シロップ剤またはトローチ剤などの経口製剤が挙げられる。
【0089】
定義
本明細書中に別途の記載がない限り、本発明に関して用いられる科学技術用語は、当該技術分野の当業者によって一般的に解される意味を有するものとする。更に、文脈により別途の要求がない限り、単数形の用語は複数を包含し、複数形の用語は単数を包含するものとする。概して、本明細書にて記載する細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝子学並びにタンパク質及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用する専門用語及びこれらの技術は、当該技術分野においてよく知られ、一般的に使用されるものである。本発明の方法及び技術は、概して、特に指定のない限り、当該技術分野においてよく知られた従来の方法に従って、また本明細書全体を通して引用し論じる種々の一般的かつ具体的な参考文献に記載されている通りに実施される。例えば、Sambrook et al.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)及びHarlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照されたい。これらの文献は、参照により本明細書に援用する。酵素反応及び精製技術は、製造業者の説明書に従って、当該技術分野において一般に実施される通りにまたは本明細書の記載通りに実施される。本明細書にて記載する分析化学、有機合成化学及び医薬製薬化学に関連して使用する用語並びにこれらの実験手順及び技術は、当該技術分野においてよく知られ、一般的に使用されるものである。化学合成、化学分析、薬剤調製、製剤化及び送達並びに患者の処置には標準的な技術を用いることができる。
【0090】
特に指定のない限り、次の用語は次の意味を有するように理解されるものとする。「単離分子」という用語(分子が、例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは抗体である場合)は、その起源または派生供給源により、(1)天然状態で当該分子に付随する自然会合成分と会合していない分子、(2)同種由来の他の分子を実質的に含まない分子、(3)異種由来の細胞によって発現される分子、または(4)天然には生じない分子である。したがって、化学的に合成した分子または天然起源の細胞とは異なる細胞系内で発現した分子は、その自然会合成分から「単離」されている。分子はまた、当該技術分野においてよく知られた精製技術を用いた分離により、自然会合成分を実質的に含まないものにすることができる。分子の純度または均質性は、当該技術分野においてよく知られた多数の手段により分析することができる。例えば、当該技術分野においてよく知られた技術を用いて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びゲル染色を用いてポリペプチドを可視化して、ポリペプチド試料の純度を分析してよい。ある特定の目的では、HPLCまたは当該技術分野においてよく知られている精製のための他の手段を用いることで、より高い分解能を得ることができる。
【0091】
ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列は、標準的な1文字または3文字の略記を用いて示す。特に指示のない限り、ポリペプチド配列は、アミノ末端を左側に、カルボキシ末端を右側に有し、一本鎖核酸配列及び二本鎖核酸配列の上鎖は、5’を左側に、3’末端を右側に有する。特定のポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列はまた、参照配列とどのように異なるかを説明することにより記載することができる。
【0092】
「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語はそれぞれ、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。これらの用語は、例えば、天然及び人工タンパク質、タンパク質断片並びにタンパク質配列のポリペプチド類似体(突然変異タンパク質、変異体及び融合タンパク質)、並びに翻訳後修飾または別の共有結合的若しくは非共有結合的修飾タンパク質を包含する。ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、単量体または多量体であってよい。
【0093】
「ポリペプチド断片」という用語は、本明細書にて使用する場合、対応する完全長タンパク質と比較して、アミノ末端及び/またはカルボキシ末端の欠失を有するポリペプチドを指す。断片は、例えば、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、50、70、80、90、100、150、200、250、300、350または400の長さのアミノ酸であり得る。断片は、例えば、最大で1,000、750、500、250、200、175、150、125、100、90、80、70、60、50、40、30、20、15、14、13、12、11または10の長さのアミノ酸であり得る。断片は、その末端のいずれかまたは両方に、1つまたは複数の付加アミノ酸、例えば、異なる天然タンパク質に由来するアミノ酸配列または人工アミノ酸配列を更に含み得る。
【0094】
本発明のポリペプチドには、何らかの理由により、例えば、(1)タンパク質分解に対する感受性の低減、(2)酸化に対する感受性の低減、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性の変更、(4)結合親和性の変更、及び(4)他の物理化学的性質または機能性の付与または変更のために、任意の方法にて修飾されたポリペプチドが含まれる。類似体には、ポリペプチドの突然変異タンパク質が含まれる。例えば、1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、保存的アミノ酸置換)を天然配列(例えば、分子間接触を形成するドメイン以外のポリペプチド部分)に施すことができる。「保存的アミノ酸置換」は、親配列の構造的特徴を実質的に変えないものである(例えば、置換アミノ酸は、親配列に生じるヘリックスの中断につながるものまたは親配列を特徴付ける若しくはその機能性に必要である他の種類の二次構造の破壊につながるものであってはならない)。当該技術分野にて認識されているポリペプチドの二次及び三次構造の例は、Proteins,Structures and Molecular Principles(Creighton,Ed.,W.H.Freeman and Company,New York(1984));Introduction to Protein Structure(C.Branden and J.Tooze,eds.,Garland Publishing,New York,N.Y.(1991));及びThornton et al.Nature 354:105(1991)に記載されており、各文献を参照により本明細書に援用する。
【0095】
ポリペプチドの「変異体」は、アミノ酸配列であって、そのアミノ酸配列に、別のポリペプチド配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸残基が挿入、欠失及び/または置換されているアミノ酸配列である。本発明の変異体には、CH2またはCH3ドメイン変異体を含むものが含まれる。ある特定の実施形態において、変異体は、Fc分子に存在すると1つまたは複数のFcγRに対するポリペプチドの親和性を向上させる1つまたは複数の突然変異を含む。こうした変異体は、向上した抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を示す。こうしたものをもたらす変異体の例は、米国特許第7,317,091号に記載されている。
【0096】
他の変異体には、CH3ドメイン含有ポリペプチドのホモ二量体化能を減少させつつ、ヘテロ二量体化能を増加させるものが挙げられる。こうしたFc変異体の例は、米国特許第5,731,168号及び同第7,183,076号に記載されている。更なる例は、共同所有の、2008年1月7日に出願された米国仮特許出願第61/019,569号及び2008年12月5日出願された同第61/120,305号に記載されている(両出願の全体を参照により本明細書に援用する)。
【0097】
ポリペプチドの「誘導体」は、例えば、別の化学的部分、例えば、ポリエチレングリコール、細胞傷害剤、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)などへの結合、リン酸化及びグリコシル化を介して化学的に修飾されたポリペプチド(例えば、抗体)である。特に指定のない限り、「抗体」という用語は、2つの完全長重鎖と2つの完全長軽鎖を含む抗体に加えて、その誘導体、変異体、断片及び突然変異タンパク質を含み、それらの例は本明細書に記載される。
【0098】
CH3ドメイン含有ポリペプチドは、例えば、天然免疫グロブリンの構造を有し得る。「免疫グロブリン」は、四量体分子である。天然免疫グロブリンでは、各四量体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対で構成され、各対が1つの「軽鎖」(約25kDa)及び1つの「重鎖」(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識を担う、約100~110またはそれ以上のアミノ酸からなる可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能を担う定常領域を画定する。ヒト軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖は、μ、δ、γ、αまたはεに分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA及びIgEという抗体のアイソタイプを定義する。軽鎖及び重鎖中では、可変領域と定常領域が約12またはそれ以上のアミノ酸からなる「J」領域によって連結され、重鎖はまた約10以上のアミノ酸からなる「D」領域を含んでいる。Fundamental Immunology Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.(1989))を広く参照されたい(本出願において、その全体を参照により援用する)。各軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗原結合部位を形成し、これにより未変性免疫グロブリンは2つの結合部位を有する。
【0099】
天然免疫グロブリン鎖は、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域により連結された、同じ一般構造の比較的保存的なフレームワーク領域(FR)を示す。軽鎖と重鎖はどちらも、N末端からC末端にかけて、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4のドメインを含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,US Dept.of Health and Human Services,PHS,NIH,NIH Publication no.91-3242,1991におけるKabatらの定義に従う。未変性抗体には、完全長の重鎖及び軽鎖を有する、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化または完全ヒトが含まれる。
【0100】
抗体は、1つまたは複数の結合部位を有し得る。2つ以上の結合部位がある場合、その結合部位は、互いに同一であっても、異なっていてもよい。例えば、天然ヒト免疫グロブリンは、通常、2つの同一結合部位を有するが、「二重特異性」または「二価」抗体は2つの異なる結合部位を有する。
【0101】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つまたは複数の可変領域及び定常領域を有するすべての抗体を包含する。一実施形態において、可変ドメイン及び定常ドメインのすべてが、ヒト免疫グロブリン配列に由来する(完全ヒト抗体)。これらの抗体は、様々な方法で作製することができ、その例を以下に示すが、ヒト重鎖及び/または軽鎖をコードする遺伝子に由来する抗体を発現するように遺伝子的に改変したマウスを目的抗原で免疫付与することが挙げられる。ヒト重鎖をコードする1つまたは複数の遺伝子を改変し、Ser362変異を含むようにすることができる。当該マウスを抗原で免疫にすると、マウスはSer364変異を有するヒト抗体を産生する。
【0102】
ヒト化抗体は、ヒト対象に投与されたとき、非ヒト種抗体と比較して、免疫応答を誘導する可能性が小さくなるように、かつ/または比較的軽度の免疫応答が誘導されるように、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失及び/または付加により、非ヒト種に由来する抗体配列とは異なる配列を有する。一実施形態において、ヒト化抗体を産生するために、非ヒト種抗体の重鎖及び/または軽鎖のフレームワーク及び定常ドメイン中の特定のアミノ酸を変異させる。別の実施形態において、ヒト抗体由来の定常ドメインを非ヒト種の可変ドメインに融合させる。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号、同第5,886,152号及び同第5,877,293号に見出すことができる。
【0103】
「キメラ抗体」という用語は、ある抗体に由来する1つまたは複数の領域と、他の抗体に由来する1つまたは複数の領域とを含む抗体を指す。キメラ抗体の一例では、重鎖及び/または軽鎖の部分が、特定の種由来の抗体または特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体と同一であるか、相同であるか、由来するものであり、かつ、鎖の残りの部分が、別の種由来の抗体または別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体と同一であるか、相同であるか、由来するものである。所望の生物学的活性を示す、こうした抗体の断片もまた含まれる。
【0104】
抗体の断片または類似体は、当業者であれば、本明細書の教示に従い、当該技術分野においてよく知られた技術を用いることにより容易に作製することができる。断片または類似体の好ましいアミノ末端及びカルボキシ末端は、機能ドメインの境界近傍に見出される。ヌクレオチド及び/またはアミノ酸配列データを公共または私有の配列データベースと比較することにより、構造ドメイン及び機能ドメインを特定することができる。
【0105】
コンピュータ比較法を用いて、既知の構造及び/または機能を持つ他のタンパク質に存在する配列モチーフまたは予想されるタンパク質コンフォメーションドメインを特定することができる。
【0106】
既知の三次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を特定するための方法が知られている。例えば、Bowie et al.,1991,Science 253:164を参照されたい。
【0107】
「CDRグラフト化抗体」は、特定の種またはアイソタイプの抗体に由来する1つまたは複数のCDRと、同じまたは異なる種またはアイソタイプの別の抗体のフレームワークとを含む抗体である。
【0108】
「多重特異性抗体」は、1つまたは複数の抗原上のエピトープを2つ以上認識する抗体である。このタイプの抗体のサブクラスは、「二重特異性抗体」である。
【0109】
2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチド配列の「同一性パーセント」は、GAPコンピュータプログラム(GCG Wisconsin Package 10.3版の一部(Accelrys,San Diego,CA))をデフォルトのパラメーターで用いて、配列を比較することにより決定される。
【0110】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、本明細書全体を通じて区別なく用いられ、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体(例えば、ペプチド核酸及び非天然ヌクレオチド類似体)を用いて生成されたDNAまたはRNAの類似体及びこれらのハイブリッドが挙げられる。核酸分子は、一本鎖でも二本鎖でもよい。一実施形態において、本発明の核酸分子は、抗体またはFc融合体及びその誘導体、突然変異タンパク質または変異体をコードする連続オープンリーディングフレームを含む。
【0111】
2つの一本鎖ポリヌクレオチドは、ギャップ導入なしで、かついずれの配列の5’末端にも3’末端にも不対のヌクレオチドなく、一方のポリヌクレオチド中のすべてのヌクレオチドが他方のポリヌクレオチド中の相補的ヌクレオチドと相対するように、2つの配列を逆平行方向にアライメントできる場合、互いに「相補体」である。ポリヌクレオチドは、中程度のストリンジェントな条件下で、2つのポリヌクレオチドが互いにハイブリダイズできるのであれば、もう1つのポリヌクレオチドに「相補的」である。したがって、ポリヌクレオチドは、もう1つのポリヌクレオチドの相補体でなくても、もう1つのポリヌクレオチドに相補的であり得る。
【0112】
「ベクター」は、連結した別の核酸を、細胞内に導入するために用いることができる核酸である。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、その内部に更なる核酸セグメントをライゲーションできる、直鎖または環状二本鎖DNA分子を指す。別のタイプのベクターは、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)であり、更なるDNAセグメントをウイルスゲノム内に導入することができる。ある特定のベクターは、導入された宿主細胞において自律複製が可能である(例えば、細菌複製起点を含む細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入されると、宿主細胞のゲノムに組み込まれ、これにより宿主ゲノムとともに複製される。「発現ベクター」は、選択したポリヌクレオチドの発現を誘導できる種類のベクターである。
【0113】
ヌクレオチド配列は、制御配列が当該ヌクレオチド配列の発現(例えば、発現のレベル、タイミングまたは位置)に作用するのであれば、制御配列に「機能的に連結されて」いる。「制御配列」は、当該制御配列が機能的に連結している核酸の発現(例えば、発現のレベル、タイミングまたは位置)に作用する核酸である。制御配列は、例えば、制御対象の核酸に対して直接的にまたは1つ若しくは複数の他の分子(例えば、制御配列及び/または核酸に結合するポリペプチド)の作用を介して、その効果を発揮することができる。制御配列の例には、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。制御配列の更なる例は、例えば、Goeddel,1990,Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA及びBaron et al,1995,Nucleic Acids Res.23:3605-06に記載されている。
【0114】
「宿主細胞」は、核酸、例えば、本発明の核酸を発現するために用いることができる細胞である。宿主細胞は、原核生物、例えば、大腸菌であってもよいし、真核生物、例えば、単細胞真核生物(例えば、酵母菌若しくはは他の真菌)、植物細胞(例えば、タバコ若しくはトマト植物細胞)、動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞若しくは昆虫細胞)またはハイブリドーマであってもよい。例示的な宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株またはDHFRが欠損しているCHO株DXB-11(Urlaub et al,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-20参照)、無血清培地中で増殖するCHO細胞株(Rasmussen et al.,1998,Cytotechnology 28:31参照)、CS-9細胞、DXB-11 CHO細胞の誘導体及びAM-1/D細胞(米国特許第6,210,924号に記載のもの)を含めたCHO株の誘導体が挙げられる。他のCHO細胞株には、CHO-K1(ATCC#CCL-61)、EM9(ATCC#CRL-1861)及びUV20(ATCC#CRL-1862)が挙げられる。他の宿主細胞の例には、サル腎臓細胞株COS-7(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al.,1981,Cell 23:175参照)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、HeLa細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV1由来のCV1/EBNA細胞株(ATCC CCL 70)(McMahan et al.,1991,EMBO J.10:2821参照)、293、293EBNAまたはMSR293などのヒト胚腎臓細胞、ヒト表皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換霊長類細胞株、正常二倍体細胞、一次組織のインビトロ培養に由来する細胞株、一次外植片、HL-60、U937、HaKまたはJurkat細胞が挙げられる。通常、宿主細胞は、ポリペプチドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクションが可能な培養細胞であり、次いでその核酸が宿主細胞にて発現され得る。
【0115】
「組み換え宿主細胞」という表現は、発現させようとする核酸で形質転換またはトランスフェクションした宿主細胞を指すために用いることができる。宿主細胞はまた、核酸を含むが、制御配列が当該核酸との機能的連結をなすように宿主細胞に導入されない限り、当該核酸を所望のレベルで発現しない細胞であってもよい。宿主細胞という用語は、特定の対象細胞だけでなく、当該細胞の子孫または潜在的子孫も指すことが理解される。後続世代では、例えば、突然変異または環境的影響に起因して、ある特定の修飾が生じる場合があることから、こうした子孫は事実上親細胞と同一でない可能性があるが、本明細書で使用する当該用語の範囲内に変わらず含まれる。
【実施例
【0116】
以下の実施例は、実施した実験及び得られた結果を含め、例示のみを目的に提供するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【0117】
実施例1
システインクランプ構築物の作製
CHO-K1細胞株に適した無血清懸濁液中にて、電荷対(delHinge)システインクランプFc配列を有するペプチド融合体を安定的に発現させた。Fc融合分子をピューロマイシン耐性を有する安定発現ベクターにクローニングし、一方、Fc鎖はハイグロマイシン含有発現ベクターにクローニングした(Selexis,Inc.)。リポフェクタミンLTXを1:1の割合で用いてプラスミドをトランスフェクトし、トランスフェクションから2日後にピューロマイシン10μg/mL及びハイグロマイシン600μg/mLを含む成長培地で細胞を選択した。選択中、培地を週2回交換した。細胞が約90%の生存率に達したとき、流加連続生産にスケールアップした。産生培地中に細胞を1e6/mLで播種し、3日、6日及び8日目に流加した。細胞により産生させた馴化培地(CM)を10日目に回収し、清澄した。エンドポイント生存率は、概して90%を上回った。
【0118】
Fc融合体清澄馴化培地を、2段階クロマトグラフィー法を用いて精製した。約5LのCMを、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて事前に平衡化したGE MabSelect SuReカラムに直接加えた。結合タンパク質を3回の洗浄ステップにかけた(1回目は3カラム体積(CV)のPBS、次に1CVの20mM Tris、100mM 塩化ナトリウム、pH7.4、最後に3CVの500mM L-アルギニン、pH7.5)。この洗浄ステップにより、結合していないまたはわずかにしか結合していない培地成分及び宿主細胞不純物が除去される。次いで、再度、カラムを5CVの20mM Tris、100mM 塩化ナトリウム(pH7.4)で平衡化し、UV吸光度をベースラインに戻した。所望のタンパク質をpH3.6の100mM 酢酸で溶出し、大量に回収した。このタンパク質プールを1M Tris-HCl(pH9.2)を用いて5.0~5.5のpH範囲内になるように素早く滴定した。
【0119】
次に、pH調整タンパク質プールを、pH6.0の20mM MESを用いて事前に平衡化したGE SP Sepharose HPカラムに装填した。その後、結合タンパク質を5CVの平衡緩衝液で洗浄し、最後に、20CV、0~50%の直線勾配、20mM MES中0~400mM 塩化ナトリウム(pH6.0)により溶出した。溶出中に画分を回収して分析用サイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200)により分析し、均質産物のプールに適切な画分を特定した。SP HPクロマトグラフィーにより、遊離Fc、クリップされた化学種及びFc-GDF15多量体などの産物関連不純物が除去される。
【0120】
次いで、SP HPプールを透析により製剤緩衝液へと緩衝液交換を行った。Sartorius Vivaspin 20の10キロダルトン分子量カットオフの遠心分離装置を用いて、約15mg/mlに濃縮した。最後に、滅菌濾過し、得られた精製Fc融合分子を含む溶液を5℃で保存する。質量スペクトル分析、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド電気泳動及びサイズ排除高速液体クロマトグラフィーを用いて、最終産物の識別及び純度について分析した。
【0121】
実施例2
システインクランプ構築物の分析
ジスルフィド結合形成
上記の通り、ヒンジ領域を欠き、かつL351C変異を有するFc融合タンパク質を発現させ、精製した。
【0122】
試料をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。異なる分子量を有する構築物は、SDS-PAGE上で異なる移動度を有する。これにより結合鎖の特定が容易になる。図3において、最後のレーンは、ジスルフィド結合が切断される還元条件に対応し、その他のレーンは、精製プロセスによる各種画分の非還元条件に対応する。非還元条件下では、ジスルフィドがそのまま保たれている。非還元条件下ではより高いバンドが観察され、CH3ドメインにて2つのFc鎖の間にジスルフィド結合を介した共有結合の導入が確かに形成されたことが示されている。また、図3の最後のレーンから、還元条件下では、操作したジスルフィドが予想された通りに切断され、2つのバンドがもたらされたことが示されている。
【0123】
薬物動態分析
ヒンジ領域を欠く6つのFc融合タンパク質構築物(A~F)を比較した。
A.ヒンジを欠き、かつ治療用ペプチドとFcの間にリンカーを有さないFc融合体。
B.Aと同様であるが、治療用ペプチド内に変異を有するFc融合体。
C.Bと同様であるが、グリコシル化していないリンカーがFcと治療用ペプチドとを連結しているFc融合体。
D.Cと同様であるが、異なるリンカーを有するFc融合体。
E.Aと同様であるが、一方のFc鎖がY349C置換を含み、他方がS354C置換を含むFc融合体。
F.Bと同様であるが、一方のFc鎖がY349C置換を含み、他方がS354C置換を含むFc融合体。
【0124】
オスの食餌誘発性肥満CD-1マウス(1試験物あたりn=3)に試験物を1mg/kgの用量で尾静脈を介して静脈投与した。投与後1、4、8、24、72、168、240及び336時間の時点で、連続血液試料(各時点50μL)を各動物から採取した。捕捉と検出のための抗試験物抗体を利用するサンドイッチELISAを用いて、血清試料中の試験物濃度を定量化した。アッセイの定量下限値は313μg/Lであった。濃度-時間プロファイルをプロットし、Watsonを用いてPKパラメーターを算出するためにノンコンパートメント分析を実施した。
【0125】
図4に示すように、6つの試験変異体のうち、システインクランプ変異体であるE及びFは、全身クリアランスが最も小さく、それに対応して曝露が最も高かった(濃度-時間曲線下面積AUCとして表示)。Eはシステインクランプのない型のAよりもAUCが3倍を超えて大きく、一方、FはBと比較して1.6倍のAUC改善を示した。したがって、ジスルフィド結合をCH3界面に導入することにより、ヒンジ領域を欠くFc融合タンパク質の薬物動態が有意に改善した。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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