IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エヌオーエフ メタル コーティングス ヨーロッパの特許一覧

特許7344891固体状の脱水バインダー、その製造方法、及びその再水和方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】固体状の脱水バインダー、その製造方法、及びその再水和方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 85/00 20060101AFI20230907BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20230907BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230907BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20230907BHJP
   C09D 185/00 20060101ALI20230907BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08L85/00
C23C26/00 A
C23C28/00 A
C09D5/08
C09D185/00
C23F11/00 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020545887
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2018082884
(87)【国際公開番号】W WO2019106037
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】1761267
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502108374
【氏名又は名称】エヌオーエフ メタル コーティングス ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】NOF METAL COATINGS EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】プーレ、ジャン マリー
(72)【発明者】
【氏名】ラブーシェ、ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ブリエール、ステファニー
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/070729(WO,A1)
【文献】特表2007-534794(JP,A)
【文献】特開2005-025945(JP,A)
【文献】特開昭47-039440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン並びにチタネート及び任意にジルコネートをベースとするバインダーを含む、水性組成物の調製を目的とした水水和性の固体組成物であって、
前記固体組成物は、Ti/Siモル比が10/90~60/40の範囲で、チタネート前駆体及び任意にジルコネート前駆体、並びにヒドロキシル基に加水分解可能な少なくとも1つの官能基を有するシランをベースとし、
Si元素の含有量は、固体組成物の総重量に基づいて、5~15重量%であり、
Ti元素及び/又は元素Zrの含有量は、固体組成物の総重量に基づいて、1.5~35重量%であり、
2μm~3mmの範囲の粒子サイズで、粉末形態である、固体組成物。
【請求項2】
Ti/Siモル比が20/80~50/50の幅である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
チタネート前駆体が有機チタネートであり、ジルコネート前駆体が有機ジルコネートである、請求項1又は2に記載の固体組成物。
【請求項4】
シランがさらにエポキシ官能基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項5】
シランが、エポキシ官能性ジ又はトリメトキシシラン及びエポキシ官能性ジ又はトリエトキシシラン、並びにそれらの混合物から選択される、請求項4に記載の固体組成物。
【請求項6】
さらにシリケートをベースとする、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項7】
前記チタネート及び任意にジルコネートの前駆体、前記シラン、任意選択でシリケート、並びに水が導入されている水性組成物の脱水によって得られる、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体組成物。
【請求項8】
前記水性組成物の総重量に基づいて、少なくとも25重量%の水を含む前記水性組成物の脱水によって得られる、請求項7に記載の固体組成物。
【請求項9】
重質有機溶媒、イオン液体、又はそれらの混合物をさらに含む前記水性組成物の脱水によって得られる、請求項7又は8に記載の固体組成物。
【請求項10】
前記水性組成物の総重量に基づいて、0.5~15重量%の重質有機溶媒、イオン液体、又はそれらの混合物を含む前記水性組成物の脱水により得られる、請求項9に記載の固体組成物。
【請求項11】
前記チタネート及び任意にジルコネートの前駆体、前記シラン、任意選択でシリケート、並びに水を含む水性組成物を、請求項7~10のいずれか1項で定義されたように脱水する工程を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の固体組成物を調製する方法。
【請求項12】
脱水が、凍結乾燥、ゼオドレーション、真空蒸発又は噴霧乾燥によって行われることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の、又は請求項11若しくは12に記載の方法により得られた、固体組成物を水和する工程を含む、シラン並びにチタネート及び任意にジルコネートのバインダーを含む水性組成物の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体状の脱水バインダー、それらを得る方法、及びバインダーを含む水性組成物の調製のためのそれらの再水和に関する。
【背景技術】
【0002】
バインダーは、特に防食コーティングの調製のための水性組成物の調製に使用されるバインダーが知られている。
【0003】
例えば、国際公開2005/078026号において出願人は、水相又は有機相に相溶性の有機チタネート又はジルコネート、任意選択でシランベースのバインダー、及び水を含む、水性分散液中の粒子状金属をベースとする金属部品用の防食コーティング組成物を開示した。
【発明の概要】
【0004】
本発明は脱水バインダー、特に、貯蔵容量を減少させ、ゾル-ゲルバインダーの寿命を延ばす脱水バインダーを提供する。
【0005】
本発明は、その第1の主題として、シラン並びにチタネート及び/又はジルコネートをベースとするバインダーを含む水性組成物の調製を目的とする水水和性固体組成物であって、前記固体組成物は、チタネート前駆体及び/及びジルコネート前駆体並びに(Ti+Zr)/Siモル比が10/90~60/40の範囲のヒドロキシル官能基に加水分解可能な少なくとも1つの官能基を有するシランをベースとする、固体組成物を有する。
【0006】
驚くべきことに、固体組成物の再水和のための必須条件の1つは、それがチタネートTi前駆体及び/又はジルコネートZr前駆体をベースとすることが分かった。有利には、固体組成物はチタネートTi前駆体をベースとする。
【0007】
本発明の目的上、「前駆体」は、反応を開始する化学試薬を意味する。それはしばしばアルコキシド(式M(OR)のアルコキシド:ここでMは金属、例えばTi、Zr又はSiであり、かつRは有機アルキル基Cn-1である)又は金属塩である。
【0008】
本発明の目的上、「チタネート前駆体」は、少なくとも1つのチタン原子を含み、それらの間で、又はケイ素前駆体シラン及びシリケートを含む他の前駆体と共有結合し、バインダーを形成する化合物を意味する。
【0009】
本発明の目的上、「ジルコネート前駆体」は、少なくとも1つのジルコニウム原子を含み、それらの間で、又はケイ素前駆体シラン及びシリケートを含む他の前駆体と共有結合し、バインダーを形成する化合物を意味する。
【0010】
本発明の目的上、「シラン」は、少なくとも1つのSi-C結合を有する、少なくとも1つのSi原子を含む有機化合物を意味する。シランにおいて、ケイ素原子への結合はSi-C結合に加え、一般にSi-O、Si-Si又はSi-H結合であり、より有利にはSi-O結合である。
【0011】
本発明の目的上、「シリケート」は、Si-C結合を有さない少なくとも1つのSi原子を含む、有機又は無機化合物を意味し、有利には有機化合物を意味する。シリケートにおいて、ケイ素原子との結合は、一般に、Si-O、Si-Si又はSi-H結合であり、より有利にはSi-O結合である。
【0012】
本発明の目的上、「粒子サイズ」は、対象の粒子の最大寸法を意味する。
【0013】
本発明の目的上、「~をベースとする組成物」は、使用される様々な基本成分の混合物及び/又はその場での反応の生成物を含む組成物を意味し、これらの成分のいくつかは、組成物の調製の様々な段階の間、又はその後の焼成の間に、少なくとも部分的に互いに反応することができ、及び/又は互いに反応することが意図され、当初調製されたように組成物を改変する。したがって、本発明に使用される組成物は、非架橋状態と架橋状態で異なり得る。
【0014】
本発明の目的上、「固体組成物」は、ハードゲルの形態又は粉末形態の組成物を意味する。特定の実施形態では、固体組成物は、水性組成物の脱水により得られる。固体組成物は水で再水和可能であり、特に、水性分散液中の粒子状金属をベースとする金属部品用の防食コーティング組成物の調製に使用することができる。
【0015】
本発明の目的上、「水性組成物」は、本発明に係るチタネート前駆体及び/又はジルコネート前駆体、並びにヒドロキシル官能基に加水分解可能な少なくとも1つの官能基を有するシランをベースとし、脱水して本発明に係る固体組成物を得ることを目的とする、水性組成物を意味する。
【0016】
本発明の目的上、「コーティング組成物」は、コーティングを施すために基材、特に金属基材に塗布され、次いで焼成操作に供されることを目的とする、水性分散液中の組成物を意味する。コーティング組成物は、再水和された固体組成物、任意選択で粒子状金属、及び任意選択で該組成物に添加される他の化合物からなる。
【0017】
したがって、本発明の目的上、「コーティング」は、コーティング組成物を基材、特に金属基材に塗布し、次いで、コーティング層を焼成操作にかけることによって得られる。「コーティング」、「防食コーティング」及び「ドライコーティングフィルム」という用語は、本出願では同義語として使用される。
【0018】
本発明の目的上、「乾燥物含量」とは、最初の水性組成物又は最初のコーティング組成物に含まれる溶媒及び揮発性物質の蒸発;有利には180℃のオーブンで1時間行う蒸発、によって得られる残留物の含量を意味する。乾燥物含量は、最初の水性組成物又は最初のコーティング組成物の総重量に基づく重量パーセントとして表される。
【0019】
(Ti+Zr)/Siモル比は、有利には10/90~60/40、より有利には20/80~50/50、さらにより有利には25/75~50/50の幅である。
【0020】
ケイ素の供給源はシランであるが、部分的にシリケートにすることもできる。シリケートも存在する場合、それにもかかわらず、シランはモルの観点から見れば支配的である。
【0021】
Tiの供給源は、有利には有機チタネートである。Zrの供給源は、有利には有機ジルコネートである。
【0022】
組成物がジルコネートを含まない場合、Ti/Siモル比は、有利には10/90~60/40、より有利には20/80~50/50、さらにより有利には25/75~50/50の幅である。
【0023】
固体組成物は、有利には、約2μm~約3mmの範囲の粒子サイズのゲル又は粉末形態である。
【0024】
チタネート前駆体は、有利には、有機チタネートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1の好ましい実施形態では、有機チタネートは、C~C10テトラアルキルチタネート、有利にはC~Cテトラアルキルチタネートから選択される。それらは、以下の式(I)によって表すことができる:
【化1】
(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、任意に置換されたC~C10、好ましくはC~Cのアルキル基を表す)。C~C10テトラアルキルチタネート、有利にはC~Cテトラアルキルチタネートは、有利にはチタン酸テトラエチル(TET、Ti(OC)、チタン酸テトラ-n-ブチル(TBT、Ti(OC)、テトラ-イソプロポキシチタネート(Ti(OCH(CH)、テトラ-n-プロポキシチタネート(Ti(OCHCHCH)及びオクチレングリコールチタネート(OGT、Ti(O17)からなる群から選択される。
【0026】
第2の実施形態では、有機チタネートは、水と相溶性のない(有機相に相溶性のある)キレート形態の有機チタネート、特に、TYZOR(登録商標)AA(チタンアセチルアセトネート)及びTYZOR(登録商標)DC(ジイソプロポキシ-ビスエチルアセトアセテートチタネート)の名称でドルフ・ケタル社から市販されている、チタンアセチルアセトネート及びジイソプロポキシ-ビスエチルアセトアセテートチタネートから選択される。
【0027】
第3の実施形態では、有機チタネートは、水相に相溶性のあるキレート化されたチタネートの中から選択され、これは、有利には以下の一般式(II)によって表すことができる:
【化2】
(式中、R及びR’は独立して、任意に置換されたC~C10、好ましくはC~Cのアルキル基を表し、X及びX’は独立して、酸素原子又は窒素原子を含む官能基を表し、Y及びY’は独立して、1~4個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す。X及びX’は有利には、アミノ基又は乳酸基を表す。)。
【0028】
水相に相溶性のあるキレート形態の有機チタネートは、トリエタノールアミンチタネート類(ドルフ・ケタル社から市販されているTYZOR(登録商標)TE及びTEP)からなる群から有利に選択される。水相に相溶性のあるキレート形態の有機チタネートの例として、TYZOR(登録商標)TA(キレート形態のアルカノールアミンチタネート)及びTYZOR(登録商標)LA(チタネート-乳酸キレート)の名称でドルフ・ケタル社から販売されている、キレート形態のアルカノールアミンチタネート及びチタネート-乳酸キレートも挙げられる。
【0029】
ジルコネート前駆体は、有利には、有機ジルコネートである。
【0030】
第1の好ましい実施形態では、有機ジルコネートは、C~C10テトラアルキルジルコネート、有利にはC~Cテトラアルキルジルコネートから選択され、有利には以下の式(III)によって表すことができる:
【化3】
(式中、R1、R2、R3及びR4は独立して、任意に置換されたC~C10、好ましくはC~Cのアルキル基を表す)。テトラ-C~C10-アルキルジルコネート、有利にはテトラ-C~C-アルキルジルコネートは、有利にはテトラ-n-プロピルジルコネート及びテトラ-n-ブチルジルコネートからなる群から選択される。
【0031】
第2の実施形態では、有機ジルコネートは、水と相溶性のない(有機相に相溶性のある)キレート形態の有機ジルコネート、特に、TYZOR(登録商標)ZECの名称でドルフ・ケタル社から市販されているジエチルジルコネートキレートから選択される。
【0032】
第3の実施形態では、有機ジルコネートは、水相に相溶性のあるジルコネートキレートの中から選択され、これは有利には以下の一般式(IV)によって表すことができる:
【化4】
(式中、R及びR’は独立して、任意に置換されたC~C10、好ましくはC~Cのアルキル基を表し、X及びX’は独立して、酸素原子又は窒素原子を含む官能基を表し、Y及びY’は独立して、1~4個の炭素原子を有する炭化水素鎖を表す。X及びX’は有利には、アミノ基を表す。)。
【0033】
有機ジルコネートキレートは、有利には、トリエタノールアミンジルコネート(ドルフ・ケタル社により市販されているTYZOR(登録商標)TEAZ)であり得る。水相に相溶性のあるキレート形態の有機ジルコネートの例は、TYZOR(登録商標)LAZの名称でドルフ・ケタル社から市販されているジルコネート-乳酸キレートである。
【0034】
チタネート前駆体は、有利には、有機チタネートであり、より有利には、C~Cテトラアルキルチタネートから選択され、ジルコネート前駆体は、有利には、有機ジルコネートであり、より有利には、C~Cテトラアルキルジルコネートから選択される。
【0035】
シランは、ヒドロキシル官能基に加水分解可能な少なくとも1つの官能基を有し、有利にはC~C、好ましくはC~Cのアルコキシ基から選択される。
【0036】
「ヒドロキシル官能基に加水分解可能な官能基」という表現は、水と反応してヒドロキシル-OH官能基になることができる任意の化学官能基を意味する。
【0037】
シランは、ヒドロキシル官能基に加水分解可能な、有利には3つの、好ましくは同一の官能基を有する。
【0038】
シランは、その炭素原子の1つによってケイ素原子に結合された少なくとも1つの、有利には1つの炭化水素基を有する。この炭化水素基は、ヘテロ原子又はハロゲン、有利にはヘテロ原子も含み得る。この炭化水素基は、線状、分岐状であり得るものであり、又は環さえも含み得る。この炭化水素基は、有利には10個までの炭素原子、より有利には4~10個の炭素原子を含むことができる。
【0039】
好ましい変形例では、シランはまた、架橋及び基材への接着を促進するエポキシ官能基(オキシラン)を有する。したがって、炭化水素基は有利にはエポキシ官能基を含む。
【0040】
シランは、有利には、水性媒体中に容易に分散され、好ましくはそのような媒体に可溶である。
【0041】
使用されるシランは、有利にはエポキシ官能性ジ又はトリメトキシシラン及びエポキシ官能性ジ又はトリエトキシシラン並びにそれらの混合物、特にβ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、4-(トリメトキシシリル)ブタン-1,2-エポキシド、又はγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、又はγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランから選択されるエポキシ官能性シランである。使用されるシランは、有利にはオクチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、(2-ジエチルホスファトエチル)トリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、メチルメタクリレートトリメトキシシラン、メチルメタクリレートトリエトキシシラン及びそれらの混合物であってもよい。
【0042】
固体組成物はまた、シリケートを含み得る。このシリケートは、Siの供給源でもある。シリケートは、有利には、ケイ素アルコキシド、特にオルトケイ酸テトラエチル(Si(OCであり、TEOSと呼ばれる)である。
【0043】
本発明に係る固体組成物は、前記チタネート前駆体及び/又は前記ジルコネート前駆体、前記シラン、任意選択で前記シリケート、並びに水が導入されている水性組成物の脱水により有利に得られる。
【0044】
脱水は、凍結乾燥、ゼオドレーション(zeodration)、噴霧乾燥又は真空蒸発などの当業者に知られている任意の手段によって行うことができる。有利には、固体組成物は、以下に記載される方法に従って得られる。
【0045】
本発明の目的上、「水性組成物」は、重量において主要な溶媒として水を含む組成物を意味する。
【0046】
本発明では、前記水性組成物は、前記水性組成物の総重量に基づいて、有利には少なくとも25重量%、より有利には少なくとも32重量%の水を含む。
【0047】
水性組成物は、水性組成物の総重量に基づいて、有利には20~40重量%、より有利には20~34重量%の前記シランをベースとする。該量は、水性組成物の調製中に導入される前記シランの量に対応する。水性組成物のすべての化合物が導入されると、それらは互いに反応して新しい化合物を形成し得る/するであろう。次に、Si元素の量について述べる。
【0048】
水性組成物は、水性組成物の総重量に基づいて、有利には0~5重量%、より有利には0~3.5重量%の前記シリケートをベースとする。この量は、水性組成物の調製中に導入される前記シリケートの量にも対応する。
【0049】
したがって、本発明による固体組成物において、Si元素の含有量(原子質量=28g/mol)は、固体組成物の総重量に基づいて、有利には5~15重量%、より有利には6~11重量%である。
【0050】
水性組成物は、水性組成物の総重量に基づいて、有利には2~55重量%、より有利には9~25重量%の前記チタネート前駆体、前記ジルコネート前駆体又はそれらの混合物をベースとする。この量は、水性組成物の調製中に、前記チタネート前駆体、前記ジルコネート前駆体又はそれらの混合物の導入量に対応する。水性組成物のすべての化合物が導入されると、それらは互いに反応して新しい化合物を形成し得る/するであろう。次に、Ti元素及び/又はZr元素の量について述べる。
【0051】
したがって、本発明による固体組成物において、Ti元素(原子質量=48)及び/又は元素Zr(原子質量=91g/mol)の含有量は、固体組成物の総重量に基づいて、有利には1.5~35重量%、有利には2.5~30重量%である。有利な変形例では、固体組成物はジルコネート前駆体を含まず、Ti元素(原子質量=48g/mol)の含有量は、固体組成物の総重量に基づいて、有利には1.5~16重量%、有利には2.5~15重量%である。
【0052】
最初の水性組成物が重質有機溶媒、イオン液体、又はそれらの混合物も含む場合、固体組成物はその後より容易に再水和可能であることがわかった。
【0053】
したがって、本発明の有利な実施形態では、固体組成物は、重質有機溶媒、イオン性溶媒、又はそれらの混合物をさらに含む、上記の水性組成物の脱水によって得られる。特に、前記水性組成物は、前記水性組成物の総重量に基づいて、0.5~15重量%の重質有機溶媒、イオン液体、又はそれらの混合物を含む。本発明の文脈における「重質有機溶媒」は、20℃での蒸気圧が好ましくは4mmHg未満、有利には2mmHg未満である水混和性有機溶媒を意味する。
【0054】
使用可能な重質有機溶媒の特定の例には、グリコールエーテルなどのグリコール溶媒、特にジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びジプロピレングリコール、アセテート、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、アルコール、ケトン、プロピレングリコールメチルエーテル、2,2,4-トリメチルペンタンジオール-(1,3)-イソブチレート(テキサノール)、揮発油並びにその混合物が含まれる。
【0055】
ジプロピレングリコールは、特に経済上及び環境上の理由から、特に有利である。
【0056】
重質有機溶媒として、乳酸エチル、オレイン酸メチル又はメチル若しくはエチル脂肪酸エステルなどのエステルも使用できる。
【0057】
イオン液体は溶融温度が、フランク・エンドレス、ダグラス・マクファーレン、及びアンドリュー・アボットによって編集された著作「イオン液体からの電着」に記載されているように100℃未満であり、かつ本発明の文脈では、室温未満である塩である。カチオンは一般に、ジアルキルイミダゾリウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム又はアルキルピリジウム類のものである。アニオンは一般に、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ハライド、メシレート、トシレート、トリフレート又はアセテート類のものである。
【0058】
次に、本発明による固体組成物を困難なく、有利には攪拌しながら再水和して、シラン/(チタネート及び/又はジルコネート)バインダーを含む水性組成物を得ることができる。このシラン/(チタネート及び/又はジルコネート)バインダーは、その後、例えば、コーティング組成物の調製のために使用することができる。
【0059】
驚くべきことに、ケイ素前駆体及びチタネート前駆体をベースとする固体組成物は容易に再水和することができ、一方ケイ素前駆体のみをベースとする固体組成物は再水和できないことが見出された。
【0060】
再水和は、水を添加することによって、有利には攪拌下で行われる。水に加えて重質有機溶媒又はイオン液体も、最初の水性組成物について上述したものに対応する重量割合で、有利には15重量%以下の量、すなわち、水(に加えて重質有機溶媒、イオン液体及びそれらの混合物)混合物の総重量に基づいて0重量%~15重量%の範囲で加えることができる。加えられる水の量、及び任意選択で重質有機溶媒又はイオン液体の量は、同じ乾燥物含量を達成するために、最初の水性組成物中に存在していた液体の量に一般的に対応する。別の実施形態では、添加される水の量、及び任意選択で重質有機溶媒又はイオン液体の量は、再水和後の安定性を高めるために最初の水性組成物中に存在した液体の量よりも多くてもよい。したがって、最初の水性組成物をより濃縮して、脱水中の生産性を高め、より低い乾燥物含量に再水和することにより、最終組成物の良好な安定性を得ることができる。
【0061】
目標とする乾燥物含量は、有利には10~35%、より有利には20~25%の幅である。
【0062】
再水和された水性組成物は安定であり、元の水性組成物より安定ではないとしても、少なくとも元の水性組成物と同じくらい安定である。
【0063】
本発明はまた、その主題として、上記のような前記チタネート前駆体及び/又は前記ジルコネート前駆体、前記シラン、任意選択で前記シリケート、並びに水をベースとする水性組成物の脱水工程を含む、本発明による固体組成物を調製するための方法を有する。
【0064】
第1の実施形態では、脱水は、凍結乾燥によって行われる。
【0065】
凍結乾燥は、あらかじめ凍結した液体製品を低温真空乾燥するための特によく知られた方法である。凍結乾燥は、あらかじめ凍結した製品から昇華によって水を徐々に除去することから成る。
【0066】
この第1の実施形態では方法は、前記水性組成物を凍結する工程と、次いで凍結乾燥する工程とを含む。
【0067】
前記水性組成物は、例えば、液体窒素の使用により凍結され得る。
【0068】
凍結乾燥は-70℃~-90℃、有利には-80℃の温度、及び0.05ミリバール~0.3ミリバール、有利には0.1ミリバール~0.26ミリバールの圧力で有利に実施される。
【0069】
第2の実施形態では、脱水はゼオドレーションによって行われる。
【0070】
ゼオドレーション法は、ゼオライト床の存在下での真空乾燥法である。凍結工程は必要ない。
【0071】
第3の実施形態では、脱水は、有利には室温に近い温度で、真空蒸発によって行われる。
【0072】
真空蒸発法は、標準的な沸騰温度よりも大幅に低い温度で水を蒸発させる、よく知られた方法である。
【0073】
本発明において真空蒸発は、有利には60℃未満、より有利には35℃~50℃の温度で行われる。真空は、例えば、15ミリバール~25ミリバールの範囲の圧力で得ることができる。
【0074】
あるいは、脱水は噴霧乾燥によって達成することができる。噴霧乾燥は、液体を熱風の流れに通すことによって液体を粉末状に脱水する方法である。
【0075】
有利には、本発明の文脈において噴霧乾燥パラメーターは、60℃より低く、より有利には35℃~50℃の範囲の粉末温度を得るように決定される。
【0076】
適切な方法、特に上記の4つの方法のうちの1つによる脱水によって固体組成物が得られると、方法は、例えば機械的作用によって粉末粒子のサイズを減少させる工程を含み得る。
【0077】
得られた固体粒子に対するこの任意の作用を用いて、所望の粉末の細かさに調整することができる。この工程は、得られる粉末の嵩密度に影響を与え、その後の再水和工程を加速し得る。
【0078】
別の実施形態によれば、適切な方法による脱水によって、特に噴霧乾燥によって固体組成物が得られると、方法は、粉末粒子のサイズを増大させるための造粒工程を含み得る。この工程はまた、得られる粉末の見掛け密度に影響を与え、その後の再水和工程を加速する可能性がある。
【0079】
容易に再水和可能な固体組成物の調製は、特に貯蔵容量を減らすことを可能にする。また、固体組成物は水性組成物よりも分解に対する感度が実質的に低く、水和後、得られる水性組成物は、本発明による方法で処理されてない水性組成物と少なくとも同じくらい安定であるため、シラン/(チタネート及び/又はジルコネート)バインダーの寿命を延ばすことも可能になる。
【0080】
本発明はまた、本発明による固体組成物又は本発明による方法によって得られる固体組成物の水和工程を含む、シラン並びにチタネート及び/又はジルコネートをベースとするバインダーを含む水性組成物の調製方法に関する。
【0081】
水和、より正確には再水和は、水を添加することによって、有利には攪拌下で行われる。水に加えて重質有機溶媒又はイオン液体も、最初の水性組成物について上述したものに対応する質量割合で有利には15重量%以下の量、したがって、水(に加えて重質有機溶媒、イオン液体及びそれらの混合物)混合物の総重量に基づいて0重量%~15重量%の範囲で加えることができる。加えられる水の量、及び任意選択で重質有機溶媒又はイオン液体の量は、同じ乾燥物含量を達成するために、最初の水性組成物中に存在した液体の量に一般的に対応する。本発明の別の実施形態によれば、最初の水性組成物は、脱水中の生産性を高めるためにより濃縮され、より低い乾燥物に再水和することにより、最終組成物の良好な安定性を得ることができる。
【0082】
目標とする乾燥物含量は、有利には10~35%、より有利には20~25%の幅である。
【0083】
再水和された水性組成物は安定であり、元の水性組成物より安定ではないとしても、少なくとも元の水性組成物と同じくらい安定である。
【0084】
シラン並びにチタネート及び/又はジルコネートをベースとするバインダーを含む再水和水性組成物は、国際公開2005/078026号に記載されるような、水性分散液中の粒子状金属をベースとする金属部品用の防食コーティング組成物の調製に特に適している。
【0085】
特に、そのようなコーティング組成物は、粒子状金属を含む。
【0086】
コーティング組成物の粒子状金属は、アルミニウム、マンガン、ニッケル、チタン、ステンレス鋼、亜鉛、それらの合金及びそれらの混合物などの金属顔料からなる群から選択されてもよい。粒子状金属は、有利には、亜鉛及びアルミニウム並びにそれらの合金及びそれらの混合物、又はマンガン、マグネシウム、スズ若しくはガルファンとそれらの合金から選択される。組成物中に存在する粒子状金属は有利には、球状、層状、レンチキュラー又は他の特定の形状を含む、様々な均一又は不均一な幾何学的構造の粉末形態である。粒子状金属は、有利には100μm未満、さらにより有利には40μm未満の粒子サイズを有する。
【0087】
粒子状金属が亜鉛とアルミニウムの合金又は混合物である場合、アルミニウムは非常に少量、例えば粒子状金属の1~5重量%で存在することができるが、それでもなお光沢のあるコーティングを提供する。通常、アルミニウムは粒子状金属の10重量%未満を占めるため、アルミニウムと亜鉛の重量比は0.5:9.5のオーダーである。一方、経済上の理由から、アルミニウムは亜鉛と全アルミニウムの重量の約50%を超えないため、アルミニウムと亜鉛の重量比は1:1と高くなることがある。コーティング組成物の粒子状金属含有量は、最良のコーティング外観を維持するために組成物の総重量の約40重量%を超えず、光沢のあるコーティングを達成するために通常少なくとも10重量%である。
【0088】
コーティング組成物は、有利には、コーティング組成物の総重量に基づいて、10~40重量%の前記粒子状金属を含む。
【0089】
このコーティング組成物は、金属部品の防食コーティングの調製に特に適している。コーティングは、コーティング組成物を基材、特に金属基材に、有利には噴霧、浸漬排水又は浸漬遠心分離により塗布することにより得られ、次いで、コーティング層は、対流若しくは赤外線などによって熱エネルギーを供給することにより約10~60分間、又は誘導により約30秒~5分間、好ましくは120℃~350℃の間の温度で行われる焼成操作に供される。
【0090】
特に、防食コーティングは焼成操作の前に、コーティングされた部品、有利には金属を、対流、赤外線、誘導などの熱エネルギーの供給により、30~250℃の温度で、有利には対流若しくは赤外線によりライン上で10~30分間、又は誘導により約30秒~5分間、70℃程度で乾燥させる操作を含む塗布操作から生じる。コーティングの前に、ほとんどの場合、特に注意深く洗浄及び脱脂することにより、基材表面から異物を除去することが望ましい。これらの条件下で、このようにして塗布されたドライコーティングフィルムの厚さは、有利には3μm(11g/m)~30μm(110g/m)であり、好ましくは4μm(15g/m)~12μm(45g/m)であり、特に5μm(18g/m)~10μm(40g/m)である。
【0091】
基材は有利には金属、好ましくは鋼、又は鉄若しくはアルミニウムを鍛造するための機械的堆積を含む様々な塗布方法によって堆積された亜鉛ベースの層若しくは亜鉛でコーティングされた鋼である。
【0092】
金属基材は、例えば、クロム酸塩又はリン酸塩処理によって前処理することができる。したがって、基材は、例えば、0.1~1g/mの量のリン酸鉄コーティング又は1.5~4g/mの量のリン酸亜鉛コーティングを有するように前処理することができる。
【実施例
【0093】
以下の例は、本発明を実施することができる方法を示しているが、決して本発明を限定するものではない。
【0094】
ゲル相クロマトグラフィー(GPC)
分析条件は以下のとおりである。
溶離液=水、流速=0.8mL/分、希釈=1qs60、注入=100μL、検出:35℃での示差屈折率、40℃で恒温化されたTSKゲルタイプカラム:1プレカラム+2カラムのG2500PWXL+1カラムのG3000PWXL+1カラムのG4000PWXL。
【0095】
粘度
DIN4タイプの等尺性カップを使用した流動時間の測定。
【0096】
テストパネルの準備:
特に指定のない限り、テストパネルは通常、冷間圧延された低炭素鋼パネルである。それらは、最初に洗浄溶液に浸漬することによって準備してもよい。次に、パネルを洗浄パッドでこすり洗いし、水ですすぎ、再び洗浄液に浸漬する。溶液を除去した後、パネルを水道水ですすぎ、乾燥させる。
【0097】
テストネジの準備:
ネジはアルカリ性媒体によって80℃で脱脂し、水で洗浄し、ショットブラスティングする前に乾燥する。
【0098】
テスト部品へのコーティングの塗布とコーティングの重量:
クリーンなテストネジは、通常、コーティング組成物にそれらを浸し、時々穏やかに振って、コーティング組成物から余分な組成物を除去して排出することでコーティングする。クリーンなテストパネルは、通常、Conwayバーに塗布することでコーティングする。次に、テスト部品を直ちに(180℃~310℃で)硬化するか、又は室温で乾燥させるか、若しくは適度な温度でコーティングを手で触れるようになるまで早期硬化させてから、(180℃~310℃で)硬化する。コーティング重量(g/m)は、コーティング前後の比較計量によって決定する。
【0099】
耐食性試験-耐塩水噴霧性の時間:
塩水噴霧試験はISO9227(2012年5月)に従って実施する。スコア10は、部品の赤錆の痕跡0個に対応する。スコア9は、赤錆の1~10個の局所的な点に対応する。
【0100】
比較例1:Siのみをベースとする前駆体から得られたゾル/ゲルバインダーマトリックスの凍結乾燥
液体窒素で事前に凍結した後、LC1からLC5までの異なる組成のバインダー350mLを、1リットルの丸底フラスコで連続的に凍結乾燥した。-80℃で0.1ミリバール~0.26ミリバールの圧力で行う凍結乾燥操作は、脱水された固体又は液体を得るために24時間かかった。バインダーLC1及びLC3は、24時間の凍結乾燥を2回連続して行った。
【0101】
凍結乾燥の前に組成物LC3~LC5を蒸留して、蒸発によりモノマー反応からの残留エタノール及び水/エタノール共沸混合物を除去し、次いで水を添加して、同じ量の最終乾燥物質を得た。
【0102】
得られた粉末及び粘性液体を、室温及び大気圧で1ヶ月間保存した。
【0103】
バインダーLC1~LC5の組成を以下の表に示す(最初の総重量と比較した、導入された質量%※):
【表1】

(※表1に示されるレベルは、混合物に最初に導入されたレベルである。実際、導入された構成要素のいくつかは、組成物の製造のさまざまな段階の間、又はその後の焼成中に、少なくとも部分的に互いに反応することができ、又は反応し、それにより、最初に調製されたように組成物を変更する。これは、表2、6、8にも適用される。)。
【0104】
次に、ジプロピレングリコールなしのバインダーLC1及びLC3の再水和試験を試みたが成功しなかった。得られたSiバインダー粉末は再水和できない。ジプロピレングリコール、LC2、LC4及びLC5を含むバインダーでは、多かれ少なかれ粘性の液体が得られる。これは水で希釈することができるが、ポリマーが不安定になる。実際、GPCグラフは分子量安定性の欠如を示す。
【0105】
凍結乾燥前の残留エタノールの質量含有量に関係なく、凍結乾燥が可能であることに留意すべきである。
【0106】
実施例1:Si及びTiベースの前駆体から得られた、Tiが豊富なゾル/ゲルバインダーマトリックスの凍結乾燥
液体窒素で事前に凍結した後、LI1からLi2の異なる組成のバインダー350mLを、1リットルの丸底フラスコ内で連続的に凍結乾燥した。-80℃で0.1ミリバール~0.26ミリバールの圧力で凍結乾燥操作を行い、24時間後に固体を得た後、約2μm~数mmの範囲の粒子サイズの微粉末に粉砕した。
【0107】
組成物LI1及びLI2は、残留エタノール及びモノマー反応から生じる水/エタノール共沸混合物を蒸発により除去するために凍結乾燥の前に蒸留にかけ、次いで、同じ量の最終乾燥物質を得るために水を添加した。
【0108】
得られた粉末を、室温及び大気圧で2~3週間保存した。
【0109】
バインダーLI1及びLI2の組成は、以下の表に示す(最初の総重量に対して導入された質量%):
【表2】
LI1又はLI2では、Ti/Siモル比は50/50である。凍結乾燥前の乾燥物含量は22重量%である。
【0110】
最初の組成がジプロピレングリコールを含むバインダーLI2からの粉末は、脱イオン水を加えることで約300~500rpmの攪拌速度で容易に再水和され、最初の液体組成物と同じ重量の乾燥物を有する液体が得られた。このようにして得られたバインダーをLI’2と呼ぶ。
【0111】
最初にジプロピレングリコールを含んでいなかったバインダーLI1からの粉末の再水和には時間がかかった。結果として得られたバインダーをLI’1と呼ぶ。
【0112】
再水和後、バインダーLI’1、LI’2のGPCスペクトルは、バインダーLI1、LI2のそれと同等であり、分子量は安定している。
【0113】
浴液槽は、バインダーLI2又はバインダーLI’2のいずれかで、浴液槽、添加剤、及び溶媒としての水の総重量に基づき、28.4重量%の乾燥亜鉛と、1.87重量%のエッカート・ヴェルケ社から販売されているAlu ChromalVIII(登録商標)パウダー(アルミニウムの乾燥物:80重量%)を添加して(それぞれB2及びB’2として)作成した。浴液槽B2及びB’2の乾燥物は39%である。
【0114】
次の表に示すように、20℃で1ヶ月保管した後の浴液槽B2/B’2の安定性は同等である:
【表3】
【0115】
バインダーLI2及びLI’2は、それぞれCR2及びCR’2の防食コーティング(ドライフィルム)の調製に用いた。次の表に、防食コーティング(ドライフィルム)の組成を示す(総重量に対する、理論上の質量%※):
【表4】
(※この表4に示される重量%は、バインダーの乾燥物が22重量%であり、非揮発性添加物のみがカウントされることを考慮して計算された重量%に対応する。)。
【0116】
次の表に示すように、得られた耐塩水噴霧性能は類似する:
【表5】
【0117】
実施例2:Si及びTiベースの前駆体から得られた、Tiが豊富なゾル/ゲルバインダーマトリックスの凍結乾燥
液体窒素で事前に凍結した後、LI3、LI4、LI5、及びLI6の異なる組成のバインダー250mLを1リットルの丸底フラスコ内で連続して凍結乾燥した。-80℃で0.1ミリバール~0.26ミリバールの圧力で凍結乾燥操作を行い、24時間後に固体を得た後、約2μm~数mmの範囲の粒子サイズの微粉末に粉砕した。
【0118】
組成物LI3~LI6は、モノマー反応から生じる残留エタノール及び水/エタノール共沸混合物を蒸発により除去するために凍結乾燥の前に蒸留にかけ、次いで、同じ量の最終的な乾燥物を得るために水及び1~5%の溶媒(DPG/EL/CCU)を添加する。
【0119】
得られた粉末を、室温及び大気圧で2日間保存した。
【0120】
バインダーLI3、LI4、LI5及びLI6の組成は、以下の表に示す(最初の総重量に対して導入された質量%):
【表6】
LI3又はLI4又はLI5又はLI6では、Ti/Siモル比は50/50である。凍結乾燥前の乾燥物含量は22重量%である。
【0121】
バインダーLI3又はLI4又はLI5又はLI6からの粉末は、脱イオン水を加えることにより約300~500rpmの攪拌速度で容易に再水和され、出発液体組成物と同じ重量の乾燥物を有する液体を得た。このようにして得られたバインダーを、それぞれLI’3、LI’4、LI’5、LI’6と呼ぶ。再水和後、バインダーLI’3、LI’4、LI’5、LI’6のGPCスペクトルは、バインダーLI3、LI4、LI5、LI6のそれらと同等であり、分子量は安定している。
【0122】
バインダーLI3、LI4、LI5、LI6、LI’3、LI’4、LI’5、LI’6は、実施例1と同じ組成で、バインダーLI2又はLI’2が本実施例のバインダーに置き換えられている浴液槽を作るために使用した。
【0123】
20℃で1ヶ月保管した後の浴液槽の安定性は、使用したバインダーが最初のバインダー(LI3、LI4、LI5)であっても、本発明に係る方法によって得られたバインダー(LI’3、LI’4、LI’5)であっても同等である。バインダーLI6の浴液槽は安定でないが、バインダーLI’6の浴液槽は安定している。
【0124】
バインダーLI3、LI4、LI’3、LI’4、LI’6はそれぞれ、実施例1と同じ組成で、バインダーLI2又はLI'2が本実施例のバインダーに置き換えられている、防食コーティングCR3、CR4、CR’3、CR’4、CR’6の調製に用いた。
【0125】
得られた耐塩水噴霧性能は、次の表に示すように、少なくとも同等である:
【表7】
【0126】
実施例3:Si及びTiベースの前駆体から得られたゾル/ゲルバインダーマトリックスの凍結乾燥
3つの丸底フラスコに分配された0.8リットルのバインダーLI7、及び4つのフラスコに分配された1リットルのバインダーLI8を、1リットルのフラスコ内で、液体窒素で事前に凍結した後、連続的に凍結乾燥した。-80℃で、0.1ミリバール~0.26ミリバールの圧力で凍結乾燥操作を行い、24時間後に脱水された固体/ゲルを得た。
【0127】
組成物LI7及びLI8は、モノマー反応から生じる残留エタノール及び水/エタノール共沸混合物を蒸発により除去するために凍結乾燥の前に蒸留にかけ、次いで水を添加して、同量の最終的な乾燥物を得た。
【0128】
得られた粉末を、室温及び大気圧で5日間保存した。
【0129】
バインダーLI7及びLI8の組成は、以下の表に示す(最初の総重量に対して導入された質量%):
【表8】
【0130】
LI7又はLI8では、Ti/Siモル比は28/72である。凍結乾燥前の固体分は22重量%である。
【0131】
バインダーLI8の柔らかい固体は、時間とともに硬化する。次に、40~60℃の温度で攪拌しながら脱塩水を加えることにより再水和し、出発液体組成物と同じ重量の乾燥物を有する液体(LI’8)を得た。
【0132】
半分の量のジプロピレングリコールを含むバインダーLI7からの固体は、40℃~60℃の温度でも、かなり遅く再水和する。
【0133】
したがって、より低いモル量のチタネートを含む最初の水性組成物への重質有機溶媒の添加は、その後の再水和を促進することがわかる。
【0134】
実施例4:Si及びTiベースの前駆体から得られたゾル/ゲルバインダーマトリックスの真空蒸発
実施例3に記載されているがあらかじめ蒸留されていない3640gのバインダーLI7を、40℃~45℃の水浴温度で、真空(20ミリバール)下で、12.5時間エルレンマイヤーフラスコ中で蒸発させて、脱水された固体/ゲルを得た。
【0135】
バインダーLI7の柔らかい固体は、時間とともに硬化する。次に、室温及び大気圧で1日間保管した後、脱塩水とジプロピレングリコールの混合物(脱塩水/ジプロピレングリコール混合物の総重量に基づいて6.5重量%のジプロピレングリコール)を7日間、20℃で追加することにより再水和し、出発液体組成物と同じ重量の乾燥物を有する液体を得た。このようにして得られた、LI’8と同一の組成のバインダーをLI”8と呼ぶ。
【0136】
再水和後、バインダーLI”8のGPCスペクトルはバインダーLI8のGPCスペクトルと同等であり、分子量は安定している。
【0137】
バインダーLI8、LI”8は、浴液槽、添加剤、及び溶媒としての水の総重量に基づき、28.4重量%の乾燥亜鉛と1.87重量%のエッカート・ヴェルケ社から販売されているAlu ChromalVIII(登録商標)パウダーを添加して、浴液槽を作成するために用いる。浴液槽B3及びB’3の乾燥物は、それぞれ41.6%及び41.3%である。
【0138】
20℃で1ヶ月保管した後の浴液槽の安定性は、使用したバインダーが最初のバインダー(LI8)であっても、本発明に係る方法で得られたバインダー(LI”8)であっても同等である。
【0139】
バインダーLI8とLI”8は、それぞれ防食コーティングCR8とCR”8の調製に用いた。次の表に、防食コーティング(ドライフィルム)の組成を示す(総重量に対する理論上の質量%※):
【表9】
(※この表9に示される重量%は、バインダーの乾燥物が22重量%であり、非揮発性添加物のみがカウントされることを考慮して計算された重量パーセントに対応する。)。
【0140】
次の表に示すように、得られた耐塩水噴霧性能は類似する:
【表10】
【0141】
実施例5:Si及びTi前駆体から得られた、Tiが豊富なゾル/ゲルバインダーマトリックスの真空蒸発
実施例2に記載されている、1~2kgのバインダーLI3又はLI4又はLI5を、40℃の水浴温度で、100rpmのロータリーエバポレーターで、真空(20ミリバール)下で約2.5~4時間蒸発させ、細かく粉砕し得る固体を得た。
【0142】
バインダーLI3又はLI4又はLI5又はLI6からの粉末は、脱イオン水を加えることにより約300~500rpmの攪拌速度で容易に再水和され、出発液体組成物と同じ重量の乾燥物を有する液体を得た。このようにして得られたバインダーは、それぞれ、LI”3、LI”4、LI”5、LI”6と名付けられた。
【0143】
再水和後、バインダーLI”3、LI”4、LI”5、LI”6のGPCスペクトルは、バインダーLI3、LI4、LI5、LI6のそれらと同等であり、分子量は安定している。
【0144】
バインダーLI3、LI4、LI5、LI6、LI”3、LI”4、LI”5、LI”6を使用して、実施例1と同じ組成で、バインダーLI2又はLI’2が本実施例のバインダーに置き換えられている浴液槽を作成する。
【0145】
20℃で1ヶ月保管した後の浴液槽の安定性は、使用したバインダーが最初のバインダー(LI3、LI4、LI5)でも、本発明に係る方法で得られたバインダー(LI”3、LI”4、LI”5)でも同等である。バインダーLI6で作られた浴液槽は安定していないが、バインダーがLI”6の場合は安定している。
【0146】
バインダーLI4、LI”4、LI”6それぞれは、実施例1で与えられたものと同じ組成で、LI2又はLI’2が本実施例のバインダーに置き換えられている防食コーティング組成物CR4、CR”4、CR”6の調製に用いた。
【0147】
得られた耐塩水噴霧性能を次の表に示す:
【表11】