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特許7344910制振層を備えるPMUT超音波トランスデューサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】制振層を備えるPMUT超音波トランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20230907BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20230907BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230907BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
H04R31/00 330
H10N30/30
H10N30/20
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020565402
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 US2019033004
(87)【国際公開番号】W WO2019226497
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】62/674,356
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/413,999
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519019791
【氏名又は名称】フジフイルム ソノサイト インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】フレイ グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】リ ウェイ
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-535643(JP,A)
【文献】特表2014-503239(JP,A)
【文献】国際公開第2007/094254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
H04R 31/00
H10N 30/30
H10N 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置であって、
第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有するトランスデューサ膜層と、
前記トランスデューサ膜層の前記第一の側面にある一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子であって、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記膜層の前記第二の側面にキャビティを有し、前記キャビティは制振材料で少なくとも部分的に充填される、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子と、
を備え
前記キャビティは、前記キャビティに真空を適用し、前記キャビティに前記制振材料を供給するように構成された一対の経路に流動的に接続される、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置。
【請求項2】
前記キャビティを密閉する前記膜層に固定された基板層をさらに備える、請求項1に記載のPMUTトランスデューサ装置。
【請求項3】
前記制振材料はポリマ材料である、請求項1に記載の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置。
【請求項4】
前記制振材料は硬化すると気相から凝集または沈殿するポリマである、請求項1に記載の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置。
【請求項5】
前記経路は前記膜層のうちの一つ、または前記キャビティを密閉する前記膜層に固定された基板層に形成される、請求項に記載のPMUTトランスデューサ。
【請求項6】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法であって、
トランスデューサ膜層内のキャビティを制振材料で充填することであって、前記トランスデューサ膜層は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有し、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子はトランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記トランスデューサ膜層の前記第二の側面に前記キャビティを有する、充填すること、
前記キャビティをウェハの端部に結合するチャネル層を形成することであって、前記キャビティは前記チャネル層を通じて前記制振材料で充填される、形成すること、
含む、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法。
【請求項7】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法であって、
トランスデューサ膜層内のキャビティを制振材料で充填することであって、前記トランスデューサ膜層は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有し、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子はトランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記トランスデューサ膜層の前記第二の側面に前記キャビティを有する、充填すること、を含み、
前記キャビティはスピンコーティングを使用して前記制振材料により充填される、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法。
【請求項8】
前記キャビティは硬化すると前記キャビティの壁に凝集する気相で前記制振材料により充填される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法であって、
トランスデューサ膜層内のキャビティを制振材料で充填することであって、前記トランスデューサ膜層は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有し、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子はトランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記トランスデューサ膜層の前記第二の側面に前記キャビティを有する、充填すること、を含み、
前記キャビティは基板層が前記トランスデューサ膜層にボンディングされる前に前記制振材料により充填される、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法。
【請求項10】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法であって、
トランスデューサ膜層内のキャビティを制振材料で充填することであって、前記トランスデューサ膜層は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有し、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子はトランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記トランスデューサ膜層の前記第二の側面に前記キャビティを有する、充填すること、を含み、
基板層は前記トランスデューサ膜層にボンディングされ、前記キャビティは前記基板層の開口部を通じて前記制振材料により充填される、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法。
【請求項11】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法であって、
トランスデューサ膜層内のキャビティを制振材料で充填することであって、前記トランスデューサ膜層は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有し、一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子はトランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記トランスデューサ膜層の前記第二の側面に前記キャビティを有する、充填することと、
前記キャビティを前記制振材料で充填するために第一のボンディング層を使用して前記トランスデューサ膜層を前記第一の側面において第一の基板にボンディングすることと、
前記キャビティを前記制振材料で充填した後に第二のボンディン層を使用して前記トランスデューサ膜層を前記第二の側面において第二のウェハにボンディングすることと、
前記第一の基板を除去することと、
を含む、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置を製造するための方法。
【請求項12】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置のための方法であって、
電気駆動信号を用いて一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子を駆動することと、
前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子により音響信号を受信することと、
前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子により前記受信した音響信号に応答して電気応答信号を生成することであって、前記圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置は第一の側面および当該第一の側面と反対側の第二の側面を有するトランスデューサ膜層を備え、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子は前記トランスデューサ膜層の前記第一の側面にあり、前記一または二以上の圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ素子の各々は前記膜層の前記第二の側面にキャビティを有し、前記キャビティは制振材料で少なくとも部分的に充填される、生成することと、
を含前記キャビティは、前記キャビティに真空を適用し、前記キャビティに前記制振材料を供給するように構成された一対の経路に流動的に接続される、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置のための方法。
【請求項13】
前記圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ装置は前記キャビティを密閉する前記膜層に固定された基板層をさらに備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記制振材料はポリマ材料である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記制振材料は硬化すると気相から沈殿するポリマである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年5月21日に出願された米国仮特許出願第62/674,356号、および2019年5月16日に出願された非仮出願第16/413,999号に基づく優先権の利益を主張するものであり、これらの出願はいずれもその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本開示技術は超音波トランスデューサに関し、特には、PMUT超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0003】
圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ(PMUT)は半導体処理技術により作成することのできるMEMSをベースとする圧電超音波トランスデューサである。超音波信号を生成するためにPZTまたは単結晶PMN-PT等の圧電セラミックのバルクピースを使用する従来の超音波トランスデューサと異なり、PMUTトランスデューサは薄膜の歪み動作に基づく。PMUTはウェハを使用して大量に製造することができるという事実にもかかわらず、それらはいくつかのカテゴリでは従来のトランスデューサ設計ほどの性能がない。PMUTトランスデューサは従来のトランスデューサと比較して非常に「リンギングしやすい(ringy)」傾向がある。送信素子のリンギングに起因して、それらは一般的に狭い範囲の周波数に応答し、それによりそれらが駆動される周波数の前後の重要な周波数においてエコー信号を検出する能力が制限される。
【発明の概要】
【0004】
この問題に対処するために、本開示技術は送信素子の各々の背後に形成されるキャビティに位置するある量の制振材料(damping material)を含むPMUT超音波トランスデューサに関する。PMUTトランスデューサはいくつかの送信/受信素子を有し、その各々は薄膜層の背面のキャビティを用いて形成される。送信/受信素子の背後のキャビティは、それらが駆動パルスで励起されると、送信/受信素子のリンギングを制振する材料で少なくとも部分的に充填される。いくつかの実施形態では、制振材料は高分子材料である。いくつかの実施形態では、制振材料は材料をキャビティ内に分散させるためにウェハをスピンコーティングすることにより付加される。他の実施形態では、制振材料は気相で付加され、硬化されるとキャビティの壁および面に凝集する。
【0005】
上記の概要は本開示における全ての実施形態の網羅的なリストを含まない。全てのシステムおよび方法は上記で要約された様々な態様および実施形態の全ての好適な組合せから、そして以下の発明の詳細な説明において開示されるそれらからも実施することができる。
【0006】
添付図面は例を示しており、したがって、例示的な実施形態であり、その範囲に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示技術のある実施形態により構成される単一のPMUT超音波送信/受信素子の断面図である。
図2A】本開示技術の一実施形態による、並列に接続されたいくつかのPMUTトランスデューサ送信/受信素子の上面図である。
図2B】本開示技術のある実施形態による、トランスデューサ素子の背後のキャビティに供給される制振材料を例示する断面図である。
図3】本開示技術のある実施形態による、制振材料を供給することのできるマニホールドに接続されたキャビティを有する単一のPMUTトランスデューサ送信/受信素子の断面図である。
図4】本開示技術のある実施形態による、その各々が複数のPMUTトランスデューサ送信/受信素子を含むいくつかの素子を有する超音波トランスデューサアレイを例示する。
図5】本開示技術のある実施形態による、各送信/受信素子の背後のキャビティ内に制振材料を備えるいくつかの送信/受信素子を有するPMUTトランスデューサの断面図である。
図6】本開示技術の別の実施形態による、背後のキャビティを備えるドーム型または平坦でない送信/受信素子を有するPMUTトランスデューサの断面図である。
図7】本開示技術のある実施形態による、処理のために犠牲ウェハに固定されるドーム型送信/受信素子を備えるPMUTトランスデューサの前面を示す。
図8】本開示技術のある実施形態による、PMUTトランスデューサ内のいくつかのドーム型送信/受信素子の背後のキャビティに付加される制振材料を示す。
図9】本開示技術のある実施形態による、制振材料で充填されたキャビティを備えるPMUT膜層に固定された基板ウェハを示す。
図10】本開示技術のある実施形態による、制振材料で充填されたキャビティを有し、犠牲層が除去されたPMUTトランスデューサを示す。
図11】本開示技術のある実施形態による、システムを例示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
様々な実施形態および態様が以下で論じられる詳細を参照して説明され、添付図面は様々な実施形態を例示する。以下の説明および図面は例示的なものであり、限定するものと解釈されるべきでない。様々な実施形態の深い理解を提供するために多数の固有の詳細が説明される。しかしながら、所定の例では、実施形態の簡潔な議論を提供するために周知の、または従来の詳細は説明されない。
【0009】
本明細書における「一実施形態(one embodiment)」または「ある実施形態(an embodiment)」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性は少なくとも一つの実施形態に含まれる可能性があることを意味する。本明細書内の様々な場所における「一実施形態では(in one embodiment)」という句の出現は、必ずしも全てが同一の実施形態を指すとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は一または二以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わせられ得る。以下においてプロセスがいくつかの逐次的な工程の観点から説明されるが、説明される工程のうちいくつかは異なる順序で実行され得ることを理解されるべきである。その上、いくつかの工程は順次実行されるのではなく、並列に実行され得る。
【0010】
上記で示されたように、PMUTトランスデューサについての問題の一つは、トランスデューサ素子は励起パルスで駆動されるとリンギングする傾向があるという事実である。このリンギングは励起パルスの周波数付近である周波数範囲で検出することのできるエコー信号の帯域幅を制限する。その結果、PMUT超音波トランスデューサは従来のトランスデューサ設計を用いて検出することができる動作中心周波数よりも高いかまたは低い周波数信号に対してはるかに感度が低い。本明細書において開示される技術はPMUT送信/受信素子の背後のキャビティを制振材料で部分的または完全に充填することによりトランスデューサ素子のリンギングを低減するためのシステムに関する。説明されるように、制振材料は、基板層が膜層にボンディングされる前に材料をPMUTキャビティにスピンコーティングすることにより、または真空で非粘性の制振材料をキャビティに引き込むことにより付加される高分子材料とすることができる。別の実施形態では、キャビティには気体材料が入り込んでおり、硬化されるとキャビティ内に制振層が沈殿する。
【0011】
図1は本開示技術のある実施形態により構成されたPMUTトランスデューサの断面図を示している。一実施形態では、PMUTトランスデューサ50は同時にボンディングされる膜層52および基盤層80を備える。示されるように、膜層52は膜層52に位置する単一のPMUT送信/受信素子(簡単にするために、以下PMUT送信素子と呼ぶ)を含む。示されている実施形態において、膜層52は基板54を覆うシリコン酸化物の層56を備えるシリコン基板54から形成される。シリコン酸化物層56に重なる第一の電極58は駆動信号をPVDF等の圧電材料から作成されるPMUT送信素子60の一面に提供するために使用される。絶縁層62は電極58および送信素子60の一部に重なって位置する。第二の電極層64は絶縁層62に重なって位置する。典型的に、第二の電極層64はいくつかのPMUT送信素子(図示されていない)の共通のグランドとして振る舞う。しかしながら、電極層58および64への接続は逆にすることができる。
【0012】
膜層52のシリコン基板54の背面は送信素子60の背後に位置するキャビティ66を有する。キャビティ66は、送信素子が送信信号を用いて駆動され、音響信号を受け取ると、送信素子60がシリコン基板54を曲げることを可能にする。本開示技術の態様によると、キャビティ66は、駆動信号を用いて駆動される際または音響エコー信号を受信する際にPMUT送信素子60のリンギングを制振させる制振材料68で部分的または完全に充填されている。以下で論じられるように、制振量はトランスデューサの所望の特性に依存する。制振およびトランスデューサが多すぎると受信した超音波エネルギーに応答せず、制振およびトランスデューサの帯域幅が少なすぎると駆動信号の周波数付近の周波数に制限される。一実施形態では、キャビティ内の制振材料の量はPMUT素子の所望のリンギングの制振、PMUT素子により受信されたエコー信号の所望の検知周波数帯域幅、またはそれらの組合せに基づいて決定される。
【0013】
示されている実施形態では、膜層52の裏面にボンディングされている基板層80はシリコン層82およびシリコン層82に重なるシリコン酸化物の層84を備える。一実施形態では、膜層52および基板層80はPMUT送信素子60の背後のキャビティ66が基板層80により密閉されるように互いにボンディングされている。
【0014】
いくつかの実施形態では、基板層80はホール、穿孔、または音響スピーカー上のポートと同様の方法でその周波数特性を変更するためにキャビティ66をポートする他の構造(図示されていない)を含み得る。いくつかの実施形態では、基板層80は完全に省略され得る。
【0015】
当業者により理解されるように、PMUTトランスデューサの構造は製造方法により異なる場合がある。本開示技術は、送信素子の背後のキャビティ66を制振材料で部分的または完全に充填することによりPMUT送信素子を制振する技術に関する。
【0016】
図2Aは、並列に接続されたいくつかのPMUT送信素子の上面図である。示されている例では、PMUT送信素子90a、90b、90cの列は基板に隣り合って位置している。素子はそれらの底面の共通電極58により駆動信号を供給され、それらの上面の共通グランド電極64を共有する。いくつかの実施形態では、各PMUT送信素子90は駆動信号を供給するための各々の電極を有し得る。しかしながら、ほとんどの実施形態において、任意の単一のPMUT送信素子により生成することができる音響パワーの合計は従来の超音波トランスデューサと比較して小さい。したがって、PMUT素子は通常送信側での音響パワーの合計を増加させるために並列に駆動され、音響信号は受信信号パワーを増加させるために並列に受信され処理される。
【0017】
図2Bは、本開示技術のある実施形態による、トランスデューサ素子の背後のキャビティに供給される制振材料を例示する断面図である。図2Bに示され、また上記で示されたように、いくつかの実施形態では、基板層80は送信素子90a、90b、90cの各々の背後のキャビティ66a、66bおよび66cをそれぞれ密閉するために膜層52にボンディングされる。いくつかの実施形態では、制振材料83は基板層80が膜層62にボンディングされる前にキャビティに追加される。他の実施形態では、基板層80内のポート94a、94b、94c等はキャビティと並んでいる。制振材料は基板層80が膜層52にボンディングされた後にキャビティを充填するためにポート94a、94b、94cを通過することができる。いくつかの実施形態では、パリレン蒸着ポリ(pキシリレン)等の材料は、気相においてポート94a、94b、94cを通って供給することができ、キャビティ66a、66bおよび66c内に高分子制振層を形成するために凝集する高分子材料である。
【0018】
図3は、本開示技術によるPMUTトランスデューサのさらに別の実施形態を示している。この実施形態では、膜層52内の各キャビティは、キャビティをPMUTが製造されるウェアの端部に接続する入出力チャネル100に流動的に結合される。チャネル100は、真空がPMUT送信素子の背後のキャビティに適用されること、および非粘性制振材料がマニホールドチャネルを通じてキャビティに引き込まれることを可能にするために膜層内のシリコン基板または基板層内のマニホールドとして形成することができる。制振材料は、硬化されていない状態でチャネル100を通ってキャビティ66に流れ込み、次に制振層に硬化することができるように、十分に非粘性であることが必要である。好適な材料には薄いエポキシ、ポリマ、ベンゾシクロブテン(BCB)またはポリイミドを含む。あるいは、気体ポリマは上記で説明されたようなポリレン等のチャネル100を通じて引き込むことができる。
【0019】
上記で示されたように、任意の単一のPMUT送信素子から利用可能な音響パワーは一般的に組織に高周波の音波を当て、同一の単一の素子を用いて検出することのできる十分なパワーの有用な電子信号を生成するには十分でない。したがって、複数のPMUT送信素子はしばしばPMUT超音波トランスデューサ内で並列に組み合わせられ、駆動される。
【0020】
図4は各々が並列に動作されるいくつかの個々のPMUT送信素子を含む間隔を空けた素子106a、106b、106cのアレイを有するトランスデューサ104の一実施形態を示している。同時に、各アレイ素子106のPMUT送信素子は検査されている対象の組織または超音波を用いて検査されている他のオブジェクトに高周波の音波を当てるために十分なパワーの音響信号を生成する。一実施形態では、単一のアレイ素子のPMUT送信素子により生成される信号はエコー信号を受信すると並列に処理される。いくつかの実施形態では、トランスデューサの個々のアレイ素子106は、ビームステアリングがトランスデューサ104の正面の区域の外の区域から信号を直接送信および受信するために実行することができるように、別々に制御することができる。いくつかの実施形態では、PMUT送信素子の大部分または全てはトランスデューサのPMUT送信素子のリンギングが低減されるように制振材料で部分的または完全に充填されたキャビティを有する。PMUTトランスデューサ素子は半導体処理技術を使用して製造することができるため、線形アレイ、フェーズドアレイ、1.5および2次元アレイ等を含む多数のトランスデューサ構成が可能である。
【0021】
図5は本開示技術の別の実施形態によるPMUTトランスデューサのさらに別の実施形態を示している。この実施形態では、トランスデューサは、いくつかのPMUT圧電送信素子112a、112b、112c、112dがその外面に固定されたシリコン膜層110を含む。送信素子112a、112b、112cおよび112dの各々はシリコン膜層内の素子の背後に設置された関連付けられたキャビティ116を有する。上記で示されたように、キャビティ116は送信素子112のリンギングを低減する制振材料で充填される。示されている実施形態では、キャビティが充填されると、基板層120はキャビティ116を密閉するためにシリコン膜層110の背面に固定される。
【0022】
一実施形態では、制振材料は、膜層を含むウェハがキャビティを確実に均一に充填するレートでスピンされている間にノズルからベンゾシクロブテンまたはポリイミド等の材料をスプレーすることにより付加される。膜層のウェハは静電チャックによりサポートされるか、または犠牲ウェハとして振る舞い、プロセスの最後に除去されるシリコン基板に一時的に固定され得る。制振材料が硬化されると、背後のキャビティを密閉するために基板層120が背面膜層110にボンディングされるかまたは付加されることができるよう、制振材料内の凹凸を滑らかにするために膜層の背面をラッピングすることができる。
【0023】
送信PMUT送信素子は平坦である必要はない。いくつかの実施形態では、ドーム型PMUT送信素子等の他の形状が可能である。図6-10はPMUT送信素子が、例えばその全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,437,802号に開示されるようなドーム型である場合の本開示技術のある実施形態を示している。この実施形態では、ドーム型PMUT送信素子130は膜層140に形成される。各PMUT送信素子130の背後は膜層140内に形成されるキャビティ144である。いくつかの実施形態では、送信素子がキャビティの直径に対してフィットするように、キャビティ144はPMUT送信素子130の直径よりもわずかに小さい直径を有する円筒状であり得る。
【0024】
一実施形態では、キャビティ144を制振材料で完全に、または部分的に充填するために、膜層140は図7に示されるようにボンディング層152を備える犠牲ウェハ150に最初にボンディングされる。
【0025】
図8に示されるように、キャビティ144はBCB、ポリイミド、ポリマ、ソフトエポキシ、パリレン等の制振材料160で充填される。一実施形態では、制振材料160はエポキシを含む熱硬化性または熱可塑性ポリマを含む。上記で示されたように、制振材料はスピンコーティングすることまたはキャビティの全区域を確実に均一に充填する他の方法により付加することができる。
【0026】
図9は制振材料160で充填されたキャビティを備える膜層140を示している。一実施形態では、基板層170は制振材料と同一の材料を使用して膜層140に固定される。制振材料がソフトエポキシであるケースでは、膜層140の背面の制振材料は滑らかにラッピングされ、基板層170の隣接する面に配置された制振材料の薄い層とすることができる。膜層の制振材料の隣接するする層および基板層は次に、基板層を膜層に固定するため、およびPMUT送信素子の背後のキャビティを密閉するために同時にプレスされて硬化される。
【0027】
図10に示されるように、基板層170が膜層140に接合すると、犠牲ウェハ150は除去され、それによりドーム型PMUT送信素子130の上面が露出する。
【0028】
キャビティ区域の全部または一部が制振材料で充填されるとPMUT送信素子の帯域幅は増加する。
【0029】
図11は本開示技術のある実施形態によるシステムを例示している。システムはストレインリリーフ素子1119または無線リンクによりプローブの近位端1114に取り付けられるケーブル1118を介して超音波イメージングシステム1130に電気的に結合された超音波トランスデューサプローブ1100を含む。図11に示されるように、プローブ1100は遠位端部分1112と近位端部分1114との間に延在する筐体1110を含む。図11に示されるように、超音波トランスデューサプローブ1100はシステム電子機器に電気的に結合されるトランスデューサアセンブリ1120を含む。一実施形態では、トランスデューサアセンブリ1120は上記で説明されたように制振材料で少なくとも部分的に充填された対応するキャビティを備える一または二以上のトランスデューサ素子を有する。動作中、トランスデューサアセンブリ1120は一または二以上のトランスデューサ素子から対象に向けて超音波エネルギーを送り、対象から超音波エコーを受信する。超音波エコーは、一または二以上の超音波画像を形成するために、一または二以上のトランスデューサ素子により電気信号に変換され、超音波イメージングシステム1130内のシステム電子機器に電気的に送信される。
【0030】
例示的なトランスデューサアセンブリ(例えば、トランスデューサアセンブリ1120)を使用して対象から超音波データをキャプチャすることは、一般的に、超音波を生成すること、超音波を対象に送信すること、および対象により反射された超音波を受信することを含む。超音波の広帯域の周波数は、例えば低周波超音波(例えば、15MHz未満)および/または高周波超音波(例えば、15MHz以上)の超音波をキャプチャするために使用することができる。当業者はこれらに限定されるものではないが、例えばイメージングの深さおよび/または所望の解像度等のファクタに基づいてどの周波数範囲を使用するかを容易に決定することができる。
【0031】
一実施形態では、超音波イメージングシステム1130は、当該技術分野において周知の方法で超音波イメージングシステム1130の機能をサポートするための、一または二以上のプロセッサ、集積回路、特定用途集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、および電源を備える超音波システム電子機器1134を含む。一実施形態では、超音波イメージングシステム1130は一または二以上のプロセッサを有する超音波制御サブシステム1131も含む。少なくとも一つのプロセッサは、音波を放出し、また戻りエコーから生成されるプローブからの電気パルスを受信するために電気信号をプローブ1100のトランスデューサに送信する。一または二以上のプロセッサは、受信した電気パルスに関連付けられた生のデータを処理し、ディスプレイスクリーン1133に画像を表示させる超音波イメージングサブシステム1132に送られる画像を形成する。したがって、ディスプレイスクリーン1133は超音波制御サブシステム1131のプロセッサにより処理された超音波データからの超音波画像を表示する。
【0032】
一実施形態では、超音波イメージングシステム1130は、データを入力し、超音波ディスプレイシステムのディスプレイから測定結果を取得することを可能にする一または二以上のユーザ入力デバイス(例えば、キーボード、カーソル制御デバイス、他のユーザ入力デバイス)(図示されていない)、取得した画像を格納するためのディスクストレージデバイス(例えば、ハード、フロッピー(登録商標)、サムドライブ、コンパクトディスク(CD)、デジタルビデオディスク(DVD)、他のストレージデバイス)(図示されていない)、および表示されたデータから画像を印刷するプリンタ(図示されていない)も有する。
【0033】
一実施形態では、超音波トランスデューサアセンブリはその上にいくつかのPMUT送信素子を備えるトランスデューサ膜層および膜層内の各トランスデューサ素子の背後にあるキャビティを備え、キャビティの各々は制振材料で少なくとも部分的に充填される。
【0034】
上記から、本発明の固有の実施形態は本明細書において例示の目的のために説明されるが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な修正がなされ得ることを理解されたい。
【0035】
本開示技術に従って構成されたPMUTトランスデューサは人間および動物の対象の両方の検査に有用であり、他の非生物の関心領域を撮像するために使用することができる。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲を除いて限定されない。
【0036】
上記明細書において、固有の例示的な実施形態が説明された。以下の特許請求の範囲において述べられるより広い精神および範囲から逸脱することなく様々な修正がこれらの実施形態になされ得ることは明らかである。したがって、明細書および図面は限定する意味ではなく例示の意味であるとみなされるべきである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11