(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】鍵盤装置
(51)【国際特許分類】
G10B 3/12 20060101AFI20230907BHJP
G10H 1/34 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G10B3/12 120
G10H1/34
G10B3/12 130
(21)【出願番号】P 2021565229
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049592
(87)【国際公開番号】W WO2021124477
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】粕渕 政希
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】高田 征英
(72)【発明者】
【氏名】澤田 睦夫
【審査官】菊池 智紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056781(JP,A)
【文献】特開2019-061113(JP,A)
【文献】特開2019-056743(JP,A)
【文献】特開2019-053107(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220496(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
G10B 1/00-3/24
G10C 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材と、その支持部材に一端側が回転可能に連結されるリンクと、そのリンクの他端側に回転可能に連結される鍵と、その鍵の後端側の部位
、又は
、当該部位に対応する前記支持部材
の部位、のいずれか一方に設けられ前記鍵の幅方向に延びるガイドピンと、前記鍵の後端側の部位
、又は
、当該部位に対応する前記支持部材
の部位、のいずれか他方に設けられ前記ガイドピンが挿入される案内溝と、を備え、
前記支持部材に対する前記リンクの回転によって前記鍵の前端側の部位の変位が案内され、前記案内溝に対する前記ガイドピンのスライドによって前記鍵の後端側の部位の変位が案内されることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記鍵の押鍵時の前記案内溝に対する前記ガイドピンのスライドにより、前記鍵の後端側の部位が前方下側に変位することを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
前記案内溝は、前記鍵の前方側に向けて下降傾斜する直線状に形成されることを特徴とする請求項2記載の鍵盤装置。
【請求項4】
前記支持部材に対する前記リンクの回転軸である第1回転軸は、前記リンクに対する前記鍵の回転軸である第2回転軸よりも後方側に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記鍵に前記ガイドピンが設けられ、
前記鍵の側面視において前記ガイドピンよりも後方下側に位置する基準点に対し、前記案内溝が前記基準点から離れる方向に凸の湾曲形状に形成されることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。
【請求項6】
前記鍵の側面視において前記基準点を中心にした仮想円であって前記鍵が押鍵される前の初期状態において前記第2回転軸を通る第1仮想円を描いた場合に、
前記第1回転軸から前記第2回転軸までの距離は、前記第1仮想円の曲率半径よりも小さく設定され、
前記鍵の側面視において前記基準点を中心にした仮想円であって前記初期状態において前記ガイドピンを通る第2仮想円を描いた場合に、
前記案内溝は、前記第2仮想円よりも強く湾曲する形状に形成されることを特徴とする請求項5記載の鍵盤装置。
【請求項7】
前記鍵に前記案内溝が設けられ、
前記鍵の側面視において前記ガイドピンよりも後方下側に位置する基準点に対し、前記案内溝が前記基準点に近づく方向に凸の湾曲形状に形成されることを特徴とする請求項4記載の鍵盤装置。
【請求項8】
前記鍵の側面視において前記基準点を中心にした仮想円であって前記鍵が押鍵される前の初期状態において前記第2回転軸を通る第1仮想円を描いた場合に、
前記第1回転軸から前記第2回転軸までの距離は、前記第1仮想円の曲率半径よりも小さく設定されることを特徴とする請求項7記載の鍵盤装置。
【請求項9】
前記鍵は、白鍵と黒鍵とから構成され、
前記ガイドピンが終端位置までスライドした際の前記鍵の下方への変位量は、前記白鍵よりも前記黒鍵の方が大きく設定されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項10】
前記リンクは、前記第1回転軸を挟んで前記第2回転軸とは反対側に重心を有し、
前記第1回転軸から前記リンクの重心までの距離は、前記第1回転軸から前記第2回転軸までの距離よりも大きく設定されることを特徴とする請求項
4から
8のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項11】
前記支持部材に対する固定位置が前後方向において可変に構成され前記ガイドピン又は前記案内溝が設けられるガイド部材を備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項12】
前記鍵に前記案内溝が設けられ、
複数の前記鍵の後端部分の変位が1本の前記ガイドピンによって案内されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項13】
前記案内溝は、前記案内溝に対して前記ガイドピンを抜き差し可能な開放部を備えることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項14】
前記ガイドピンのスライドの終端位置において前記案内溝の終端と前記ガイドピンとの間に隙間が形成されることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の鍵盤装置。
【請求項15】
前記ガイドピンが前記案内溝の終端まで変位することを規制する緩衝材を備えることを特徴とする請求項14記載の鍵盤装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置に関し、特に、部品点数を低減できる鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アコースティックピアノの鍵の回転中心は、鍵の前端(演奏者側)から比較的離れた後方側に位置しているため、アコースティックピアノの鍵の押鍵時には、鍵(押鍵が可能な領域)の全体が所定量下方に沈み込むように変位する。これに対して特許文献1には、ベース2に対して回転可能な前側リンクバー6及び後側リンクバー7を、鍵3の前端側および後端側のそれぞれに回転可能に連結する技術が記載されている。この技術によれば、鍵3の押鍵時の前側リンクバー6及び後側リンクバー7の回転により、鍵3の前端側および後端側のそれぞれ(鍵3の全体)を下方へ変位させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-056781号公報(例えば、
図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の技術では、鍵の後端部分の変位をリンクの回転によって案内する構成であるため、リンクの本数、即ち、部品点数が増大するという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、部品点数を低減できる鍵盤装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鍵盤装置は、支持部材と、その支持部材に一端側が回転可能に連結されるリンクと、そのリンクの他端側に回転可能に連結される鍵と、その鍵の後端側の部位、又は、当該部位に対応する前記支持部材の部位、のいずれか一方に設けられ前記鍵の幅方向に延びるガイドピンと、前記鍵の後端側の部位、又は、当該部位に対応する前記支持部材の部位、のいずれか他方に設けられ前記ガイドピンが挿入される案内溝と、を備え、前記支持部材に対する前記リンクの回転によって前記鍵の前端側の部位の変位が案内され、前記案内溝に対する前記ガイドピンのスライドによって前記鍵の後端側の部位の変位が案内される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(a)は、第1実施形態における鍵盤装置の上面図であり、(b)は、鍵盤装置の斜視図である。
【
図2】
図1(a)のII-II線における鍵盤装置の断面図である。
【
図3】
図2の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の断面図である。
【
図4】(a)は、
図3のIVa部分を拡大した鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図2のIVb部分を拡大した鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図5】(a)は、第2実施形態における鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図5(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図6】(a)は、第3実施形態における鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図6(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【
図7】(a)は、第4実施形態における鍵盤装置の部分拡大断面図であり、(b)は、
図7(a)の状態から白鍵が押鍵された状態を示す鍵盤装置の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、鍵盤装置1の全体構成について説明する。
図1(a)は、第1実施形態における鍵盤装置1の上面図であり、
図1(b)は、鍵盤装置1の斜視図である。
【0009】
なお、
図1(b)では、鍵盤装置1の一部(例えば、複数の鍵2の一部や、パネル3)の図示を省略している。また、
図1の矢印U-D方向、F-B方向、L-R方向は、それぞれ鍵盤装置1の上下方向、前後方向、左右方向を示しており、以降の図においても同様とする。
【0010】
図1(a)に示すように、鍵盤装置1は、複数(本実施形態では、88個)の鍵2と、それら複数の鍵2の周囲を取り囲むパネル3と、を備える鍵盤楽器(電子ピアノ)として構成される。鍵2は、幹音を演奏するための複数(本実施形態では、52個)の白鍵10と、派生音を演奏するための複数(本実施形態では、36個)の黒鍵20と、から構成され、それら複数の白鍵10及び黒鍵20が左右(矢印L-R方向)に並べて設けられる。
【0011】
パネル3は、正面パネル3aと、その正面パネル3aと前後方向(矢印F-B方向)で対向配置される背面パネル3bと、正面パネル3a及び背面パネル3bの左右方向端部同士を接続する一対の端パネル3cとを備え、それら正面パネル3a、背面パネル3b、及び、一対の端パネル3cによって白鍵10及び黒鍵20が取り囲まれる。
【0012】
背面パネル3bの上面には、例えば、LEDや液晶ディスプレイなどから形成され各種の状態を表示するための表示装置、ボリューム調整やモード変更などを行うための複数の操作子などが設けられる(いずれも図示せず)。また、背面パネル3bの背面には、例えば、電源スイッチ、MIDI信号やオーディオ信号を入出力するための複数のジャックなどが設けられる(いずれも図示せず)。
【0013】
図1(b)に示すように、鍵盤装置1には、鍵2やハンマー4等を支持するための板状のシャーシ5が左右方向(矢印L-R方向)に延びるように設けられる。シャーシ5の上面(矢印U側の面)には、鍵2の後端(矢印B側の端部)を支持する後側ベース50と、ハンマー4を支持する中央ベース51と、鍵2の前端(矢印F側の端部)の変位をガイドする前側ベース52と、が固定されている。
【0014】
後側ベース50の上面にはガイド部材6が固定され、ガイド部材6は、鍵2の後端部分をスライド変位させるための案内溝60を備えている。案内溝60は、ガイド部材6を左右に貫通するようにして形成される溝である。白鍵10及び黒鍵20は、その後端部から後方に突出する左右一対の支持板11,21と、それら一対の支持板11,21の間に左右に架け渡される円柱状のガイドピン12,22と、を備えている。
【0015】
案内溝60の溝幅(ガイドピン12,22のスライド方向と直交する方向の寸法)は、ガイドピン12,22の直径と同一または僅かに小さく形成されており、ガイドピン12,22は、案内溝60にスライド可能に挿入される。よって、案内溝60に沿うガイドピン12,22のスライド(摺動)によって白鍵10及び黒鍵20の後端側の変位が案内される。一方、ガイドピン12,22よりも前方側における白鍵10及び黒鍵20の変位は、ハンマー4の回転によって案内されるようになっている。
【0016】
なお、本実施形態では、シャーシ5の各ベース(後側ベース50、中央ベース51、前側ベース52)及びガイド部材6によって鍵2やハンマー4を支持する支持部材を構成しているが、シャーシ5の各ベース及びガイド部材6の一部または全部を一体に形成して(1部品にして)支持部材を構成しても良い。
【0017】
次いで、
図2~4を参照して、鍵盤装置1の詳細構成について説明する。
図2は、
図1(a)のII-II線における鍵盤装置1の断面図であり、
図3は、
図2の状態から白鍵10が押鍵された状態を示す鍵盤装置1の断面図である。
図4(a)は、
図3のIVa部分を拡大した鍵盤装置1の部分拡大断面図であり、
図4(b)は、
図2のIVb部分を拡大した鍵盤装置1の部分拡大断面図である。
【0018】
なお、図面を簡素化するために、
図2~4では、鍵盤装置1の一部の図示を省略すると共に、一部の断面のハッチングを省略している。また、
図4(a)では、押鍵前の初期状態「以下「初期状態」と省略して記載する」の白鍵10を破線で図示し、押鍵途中の白鍵10を1点鎖線で図示している。
【0019】
また、以下の説明においては、主に白鍵10の構成について説明するが、黒鍵20の押鍵または離鍵に連動してハンマー4を回転させる構成、そのハンマー4の回転やガイドピン22(
図1(b)参照)のスライドによって黒鍵20の変位を案内する構成は、白鍵10と実質的に同一である。よって、以下に説明する白鍵10の構成による作用、効果は、黒鍵20においても同様に奏するものである。
【0020】
図2及び
図3に示すように、中央ベース51には、左右方向(矢印L-R方向)に沿う軸40回りにハンマー4が回転可能に連結される。ハンマー4は、白鍵10の押鍵時の感触を付与するための質量部41と、白鍵10の押鍵時にスイッチSを押し込むための押圧部42と、から構成される。
【0021】
ハンマー4のうち、軸40よりも後方側(矢印B側)の部位が質量部41であり、軸40よりも前方側(矢印F側)の部位が押圧部42である。押圧部42には、左右方向に延びる円柱状の軸43が形成されており、白鍵10の下面からは、軸43に回転可能に連結される連結部13が下方に突出して形成される。
【0022】
よって、白鍵10の押鍵時には(
図3参照)、白鍵10の連結部13によって軸43が下方に押し込まれることでハンマー4が軸40回りに回転し、このハンマー4の回転によって質量部41が持ち上がるように変位する。質量部41は、押鍵の感触を付与できる程度の重量を有しているため、ハンマー4の回転に伴う反力により、白鍵10を押鍵した際の感触が演奏者に付与される。
【0023】
一方、白鍵10が押鍵された際に押圧部42が下方に変位するが、押圧部42の下方には、上面にスイッチSを有する基板7が設けられるため、白鍵10が押鍵されることでスイッチSが押圧部42によって押し込まれる。このスイッチSのオン/オフ動作によって白鍵10の押鍵情報(ノート情報)が検出され、その検出結果に基づく楽音信号が外部に出力される。なお、基板7は、中央ベース51及び前側ベース52の間に架け渡されるようにして固定されているが、シャーシ5に基板7を支持させる構成でも良い。
【0024】
押圧部42によってスイッチSが押し込まれた状態(
図3の状態)が白鍵10の押鍵の終端位置となり、この押鍵の終端位置までの白鍵10の前端側(白鍵10の前後方向中央よりも前方側)の部位の変位は、軸40回りの連結部13の回転によって案内される。連結部13は、ハンマー4の軸40よりも前方側(矢印F側)に位置する軸43に回転可能に連結されているため、前方側に凸の円弧状の変位軌跡に沿って白鍵10の前端側を回転させることができる。
【0025】
そして、白鍵10の後端側の部位には左右(白鍵10の幅方向)に延びるガイドピン12が形成され、そのガイドピン12が上下に延びる案内溝60にスライド可能に挿入されているため、白鍵10の前端側の下方への変位(ハンマー4の回転)に追従させるようにして、ガイドピン12を案内溝60に沿って下方にスライドさせることができる。これにより、案内溝60におけるガイドピン12のスライドによって白鍵10の後端側の変位を案内できる。
【0026】
このように、本実施形態では、シャーシ5(中央ベース51)に対するハンマー4の回転によって白鍵10の前端側の変位が案内され、案内溝60に対するガイドピン12のスライドによって白鍵10の後端側の変位が案内されている。よって、白鍵10の後端側の変位を案内するためのリンクを不要にできるので、部品点数を低減できる。
【0027】
また、ハンマー4は、軸40を挟んで軸43とは反対側に質量部41を有し、そのハンマー4の回転によって白鍵10の前端側の変位が案内されているので、白鍵10の変位を案内するリンクとしての機能と、押鍵感触を付与する機能とをハンマー4に兼用させることができる。ハンマー4の軸40からハンマー4の重心Gまでの距離は、軸40から軸43までの距離よりも大きく設定されているため、軸40回りの重心Gのモーメントを大きくできる。これにより、ハンマー4を小型化(軽量化)しつつ、ハンマー4の回転に伴う押鍵感触を演奏者に付与できる。
【0028】
ここで、アコースティックピアノの鍵の回転中心は、鍵の上面(押鍵が可能な領域)よりも後方下側の比較的離れた位置に配置されるが、以下の説明においては、この回転中心を基準点Pと定義して説明する。
【0029】
この白鍵10(黒鍵20)における基準点Pとは、白鍵10の側面視においてガイドピン12よりも後方下側に位置する点であって、初期状態における白鍵10の上面の前端からの距離が水平方向で後方200mm以上500mm以下、垂直方向で下方0mm以上100mm以下となる位置にある点である。
【0030】
押鍵時に基準点P回りにアコースティックピアノの鍵が回転した場合、鍵の全体が下方に沈み込むように変位することに加え、鍵の全体が前方側にスライドするような変位軌跡となる。つまり、鍵が押鍵の終端位置まで押鍵された押鍵状態(以下、「押鍵状態」と省略して記載する)においては、鍵の全体が初期状態に比べて前方下側に配置される。
【0031】
これに対して本実施形態では、案内溝60に対するガイドピン12のスライドの初期位置(
図2参照)よりも、ガイドピン12のスライドの終端位置(
図3参照)が前方下側に位置するように案内溝60が形成される。これにより、押鍵時の案内溝60に沿ったガイドピン12のスライドにより、白鍵10の後端部分を前方下側に変位させることができるので、白鍵10の全体を初期状態に比べて前方下側に配置できる。よって、押鍵状態における白鍵10の姿勢(配置)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0032】
また、押鍵時に基準点P回りにアコースティックピアノの鍵が回転した場合、鍵の上面の押鍵可能領域における後端のストローク(初期状態から押鍵状態までの下方への変位量)は、鍵の前端のストロークの約1/2となる。よって、本実施形態では、白鍵10の上面の押鍵可能領域(
図1のパネルから露出する領域)における後端のストローク(例えば、5mm)が、押鍵可能領域の前端のストローク(例えば、10mm)の45%以上55%以下となるように案内溝60が形成されている。これにより、押鍵時の白鍵10のストロークをアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0033】
このように、アコースティックピアノは、基準点Pを中心にして鍵の全体が回転するため、その鍵の変位軌跡に最も近似させるためには基準点P回りに白鍵10の全体を回転させることが理想的である。
【0034】
即ち、白鍵10の側面視において基準点Pを中心にした仮想円であって初期状態において軸43を通る仮想円C1を描いた場合に、その仮想円C1に沿って軸43を回転させることが好ましい。また、白鍵10の側面視において基準点Pを中心にした仮想円であって初期状態においてガイドピン12の中心(軸)を通る仮想円C2を描いた場合に、その仮想円C2に沿ってガイドピン12をスライドさせる(仮想円C2に沿った案内溝60を形成する)ことが好ましい。しかし、軸43を仮想円C1に沿って回転させるためには、ハンマー4の軸40を基準点P上に配置する必要があり、ハンマー4が大型化してしまう。
【0035】
よって、本実施形態では、ハンマー4の軸40をガイドピン12よりも前方側(矢印F側)に配置することにより、ハンマー4の小型化を図っているが、この場合、軸43が理想的な仮想円C1よりも外側で変位してしまう。これに対して本実施形態では、案内溝60が基準点Pから離れる方向に凸の湾曲形状に形成されているため、ハンマー4を小型化した場合であっても、押鍵途中における白鍵10の全体のストローク(下方への変位量)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0036】
具体的には、ハンマー4の軸40をガイドピン12よりも前方側に配置し、軸40に対する軸43の回転半径を仮想円C1の曲率半径よりも小さく設定することにより、上述した通り、ハンマー4を小型化できる。一方、軸43が仮想円C1の外側(前方側)を回り込むような変位軌跡となるが、
図4(a)に示すように、案内溝60が仮想円C2よりも強く湾曲する形状に形成されているため、ガイドピン12も同様に、仮想円C2よりも外側を回り込むように変位させることができる。
【0037】
つまり、押鍵途中の軸43の変位軌跡が仮想円C1よりも外側にずれるのに対し、そのずれに追従させるようにして、ガイドピン12を仮想円C2よりも外側で変位させることができる。これにより、白鍵10の前端側のストロークに対する後端側のストロークの割合を、初期状態から押鍵状態にかけて一定に保ち易くできる。よって、押鍵途中における白鍵10の全体のストローク(白鍵10の姿勢)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0038】
そして、初期状態および押鍵状態のそれぞれにおいて軸43の中心(軸心)が仮想円C1上に位置するように軸40の位置が設定され(
図2,3参照)、初期状態および押鍵状態のそれぞれにおいてガイドピン12の中心(軸心)が仮想円C2上に位置するように案内溝60の形状が設定されている(
図4参照)。これにより、初期状態や押鍵状態における白鍵10の姿勢をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0039】
このように、本実施形態によれば、ハンマー4を小型化した場合であっても、押鍵途中における白鍵10全体のストロークや、押鍵状態における鍵の姿勢をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。よって、アコースティックに近い演奏感を付与できる。
【0040】
なお、「案内溝60が仮想円C2よりも強く湾曲する形状」とは、例えば、案内溝60を単一の円弧から形成する場合には、案内溝60の曲率半径が仮想円C2の曲率半径よりも小さいことである。つまり、初期状態で仮想円C2上に位置する白鍵10の部位(ガイドピン12の軸心)が押鍵途中に仮想円C2の外側を回り、押鍵状態で再度仮想円C2上に位置するような形状である。
【0041】
ここで、例えば、ガイドピン12のスライドの終端位置で案内溝60の終端の内壁面にガイドピン12が接触する構成であると、その接触によって異音が発生するおそれがある。よって、本実施形態では、ガイドピン12のスライドの終端位置において、案内溝60の終端(下端)とガイドピン12との間に隙間が形成される程度に案内溝60を十分に長く形成している。これにより、案内溝60の終端の内壁面とガイドピン12との接触による異音の発生を抑制できる。
【0042】
また、
図3に示すように、ガイド部材6には、白鍵10の下面と対向する位置に緩衝材8が設けられ、ガイドピン12のスライドの終端位置で白鍵10に緩衝材8が接触するように構成されている。これにより、ガイドピン12のスライドの終端位置で案内溝60の終端とガイドピン12との間に隙間が形成される場合であっても、白鍵10の後端側の下方への変位(ガイドピン12の過剰なスライド)を緩衝材8によって規制できる。緩衝材8は、白鍵10よりも柔軟性の高いフェルトや発泡ウレタン等の材料を用いて形成されているため、白鍵10と緩衝材8との接触により、異音が生じることを抑制しつつ白鍵10の後端側の下方への変位を規制できる。
【0043】
また、案内溝60は、ガイド部材6の後面側に開放(開口)する開放部60aを備えており、この開放部60aから案内溝60に対するガイドピン12の抜き差し(ガイドピン12の軸直角方向での抜き差し)が可能になっている。これにより、ガイド部材6に対して白鍵10の後端側を着脱できるので、白鍵10のメンテナンスを容易にできる。また、ガイドピン12のスライドの始端側に開放部60aが形成されているため、離鍵時における案内溝60の内壁面とガイドピン12との接触による異音の発生を抑制できる。
【0044】
更に、連結部13には、軸43が回転可能に嵌め込まれる軸孔13aが形成されているが、軸孔13aは、連結部13の下面に開放(開口)する開放部13bを備えている。これにより、開放部13bからの軸43の抜き差し(軸43の軸直角方向での抜き差し)が可能となるので、軸43に対して白鍵10の前端側を着脱できる。つまり、案内溝60及び軸43に対し、白鍵10の全体が着脱可能となっているため、白鍵10のメンテナンスを更に容易にできる。
【0045】
このように、本実施形態では、ハンマー4の回転や、案内溝60におけるガイドピン12のスライドによって白鍵10の変位が案内されているが、例えば、各部材の寸法(例えば、白鍵10の全長)のバラつきや組付け誤差により、初期状態において案内溝60に対するガイドピン12の挿入位置が所望の位置からずれることがある。よって、本実施形態では、前後方向における案内溝60の配置を調節できる構成となっている。
【0046】
具体的には、シャーシ5には上下に延びる貫通孔5aが前後一対に形成され、それらの貫通孔5aにシャーシ5の下面側から挿入されたねじ5bによって後側ベース50がねじ止めされる。そして、貫通孔5aは、ねじ5bの軸部よりも前後方向寸法が長い長孔として形成されている。よって、貫通孔5aに対するねじ5bの挿入位置を調節することにより、前後方向におけるシャーシ5に対する後側ベース50及びガイド部材6の配置、即ち、案内溝60の前後方向での配置を調節できるように構成される。よって、各部材に寸法のバラつきや組付け誤差が生じた場合であっても、案内溝60に対するガイドピン12の挿入位置を常に所望の位置に調節できる。
【0047】
ここで、アコースティックピアノの黒鍵の回転中心は、白鍵の回転中心(基準点P)よりも後方側(矢印B側)に位置しているため、押鍵の終端位置までの黒鍵の後端側のストロークは、白鍵の後端側のストロークよりも大きくなる。これに対して本実施形態では、
図4(b)に示すように、黒鍵20の変位が案内される案内溝60(
図4(b)の破線で示すもの)は、白鍵10の変位が案内される案内溝60(
図4(b)の実践で示すもの)よりも緩やかな(仮想円C2に近い)湾曲形状となっている。
【0048】
これにより、ガイドピン12,22が終端位置までスライドした際の黒鍵20の後端側のストロークを白鍵10よりも大きくすることができるので、アコースティックピアノに近似した演奏感を付与できる。なお、「緩やかな(仮想円C2に近い)湾曲形状」とは、例えば、案内溝60を単一の円弧から形成する場合には、案内溝60の曲率半径が大きいことである。
【0049】
次いで、
図5~7を参照して、第2~第4実施形態について説明する。なお、以下に説明する第2~4実施形態においては、主に白鍵10,310,410の構成について説明するが、かかる構成による作用、効果は黒鍵20(
図1参照)においても同様に奏するものである。
【0050】
まず、
図5を参照して、第2実施形態の鍵盤装置201について説明する。第1実施形態では、案内溝60が鍵2の前方上側に凸の湾曲形状に形成される場合を説明した。これに対して第2実施形態では、案内溝260が直線状に形成される場合について説明する。なお、上述した第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
図5(a)は、第2実施形態における鍵盤装置201の部分拡大断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)の状態から白鍵10が押鍵された状態を示す鍵盤装置201の部分拡大断面図である。なお、
図5(b)では、初期状態の白鍵10を破線で図示している。また、
図5は、
図2に対応する位置で切断した断面を図示しているが、図面を簡素化するためにハッチングを省略しており、後述する
図6,7においても同様とする。
【0052】
図5(a)に示すように、鍵盤装置201のガイド部材206は、前方側(
図5(a)の右側)に向けて下降傾斜する直線状の案内溝260を備える。案内溝260は、ガイド部材206を左右(
図5(a)の紙面垂直方向)に貫通するようにして形成される溝である。案内溝260の溝幅は、白鍵10のガイドピン12の直径と同一または僅かに小さく形成されており、ガイドピン12は、案内溝260にスライド可能に挿入される。よって、案内溝260に沿うガイドピン12のスライドによって白鍵10の後端側の変位が案内される。これにより、白鍵10の後端側の変位を案内するためのリンクを不要にできるので、部品点数を低減できる。
【0053】
ここで、
図5(b)を参照して、白鍵10が押鍵された場合について説明するが、白鍵10の前端側の変位は、上述した第1実施形態と同様にハンマー4の回転によって案内されている(
図2及び
図3参照)。
【0054】
図5(b)に示すように、案内溝260が前方側に向けて下降傾斜する直線状に形成されるため、押鍵時におけるガイドピン12のスライドにより、白鍵10の後端部分を前方下側に変位させることができる。よって、白鍵10の全体を初期状態に比べて前方下側に配置できるので、押鍵状態における白鍵10の姿勢(配置)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0055】
また、案内溝260が直線状に形成されているため、第1実施形態のように案内溝60が湾曲して形成される場合に比べ、各白鍵10毎に設けられる案内溝260の形状にバラつきが生じることを抑制できる。よって、各白鍵10の後端側のストロークを均一にできる。
【0056】
初期状態および押鍵状態のそれぞれにおいて、ガイドピン12の中心が仮想円C2上に位置するように案内溝260の形状が設定されている。よって、初期状態や押鍵状態における白鍵10の姿勢をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0057】
押鍵状態においては、案内溝260の終端(下端)とガイドピン12との間に隙間が形成されるため、案内溝260の内壁面とガイドピン12との接触による異音の発生を抑制できる。そして、ガイド部材206には、白鍵10の下面と対向する位置に緩衝材8(
図2,3参照)が設けられているため、押鍵状態で案内溝260の終端とガイドピン12との間に隙間が形成される場合であっても、白鍵10の後端側の下方への変位を緩衝材8によって規制できる。
【0058】
また、案内溝260は、ガイド部材206の後面側に開放する開放部260aを備えており、この開放部260aからガイドピン12の抜き差しが可能になっている。これにより、白鍵10のメンテナンスを容易にできる。更に、ガイドピン12のスライドの始端側に開放部260aが形成されているため、離鍵時における案内溝260の内壁面とガイドピン12との接触による異音の発生を抑制できる。
【0059】
次いで、
図6を参照して、第3実施形態の鍵盤装置301について説明する。第1,2実施形態では、ガイドピン12が白鍵10に形成され、案内溝60,260がガイド部材6,206に形成される場合を説明した。これに対して第3実施形態では、ガイドピン361がガイド部材306に形成され、案内溝314が白鍵10に形成される場合について説明する。なお、上述した第1,2実施形態と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0060】
図6(a)は、第3実施形態における鍵盤装置301の部分拡大断面図であり、
図6(b)は、
図6(a)の状態から白鍵310が押鍵された状態を示す鍵盤装置301の部分拡大断面図である。なお、
図6(b)では、初期状態の白鍵310を破線で図示し、押鍵途中の白鍵310を1点鎖線で図示している。
【0061】
図6(a)に示すように、鍵盤装置301のガイド部材306は、円柱状のガイドピン361を挿入するための挿入部362を備える。挿入部362は、上下に延びる板状体であり、挿入部362には、左右(
図6(a)の紙面垂直方向)に貫通する貫通孔363が形成される。図示は省略するが、ガイド部材306には、左右方向に所定間隔を隔てて一対の挿入部362が形成されており、それら一対の挿入部362の貫通孔363にガイドピン361が挿入された状態で固定されている。
【0062】
白鍵310は、その下面から上方に延びる案内溝314を備える。案内溝314は、白鍵310を左右に貫通するようにして形成される溝である。案内溝314の溝幅は、ガイドピン361の直径と同一または僅かに小さく形成されており、ガイドピン361は、案内溝314にスライド可能に挿入される。よって、白鍵310の押鍵時には、ガイドピン361に沿って案内溝314が下方にスライドすることにより、白鍵310の後端側の下方への変位が案内される。これにより、白鍵310の後端側の変位を案内するためのリンクを不要にできるので、部品点数を低減できる。
【0063】
また、図示は省略するが、左右に並ぶ複数(本実施形態では、1オクターブ分)のガイド部材306にわたって1本のガイドピン361が固定されている。つまり、複数の白鍵310(黒鍵)のそれぞれの案内溝314に共通のガイドピン361が挿入されているため、複数の白鍵310の後端側の変位を1本のガイドピン361によって案内することができる。よって、部品点数を低減できる。
【0064】
ここで、
図6(b)を参照して、白鍵310が押鍵された場合について説明するが、白鍵310の前端側の変位は、上述した第1実施形態と同様にハンマー4の回転によって案内されている(
図2及び
図3参照)。
【0065】
図6(b)に示すように、案内溝314に対するガイドピン361のスライドの初期位置よりも、終端位置が白鍵310の後方上側に位置するように案内溝314が形成される。これにより、押鍵時におけるガイドピン361に沿った案内溝314のスライドにより、白鍵310の後端部分を前方下側に変位させることができるので、白鍵310の全体を初期状態に比べて前方下側に配置できる。よって、押鍵状態における白鍵310の姿勢(配置)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0066】
また、本実施形態においても、第1実施形態と同様、ハンマー4の軸40がガイドピン361よりも前方側に配置されているため、押鍵途中に軸43が理想的な仮想円C1よりも外側で変位してしまう(
図2,3参照)。これに対して本実施形態では、案内溝314が基準点P(
図2,3参照)に近づく方向に凸の湾曲形状に形成されているため、ハンマー4の軸40がガイドピン361よりも前方側に配置される場合であっても、押鍵途中における白鍵310の全体のストロークをアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0067】
具体的には、上述した第1実施形態と同様、ハンマー4の軸40をガイドピン361よりも前方側に配置することにより、ハンマー4を小型化できる。一方、軸43の変位軌跡が仮想円C1の外側を回り込むような変位軌跡となるが(
図2,3参照)、
図6(b)に示すように、案内溝314が仮想円C2の内側に向けて凸の湾曲形状に形成される。これにより、白鍵310のうち、初期状態で仮想円C2上に位置する部位310aを、押鍵途中に仮想円C2よりも外側で変位させることができる。
【0068】
つまり、押鍵途中の軸43の変位軌跡が仮想円C1よりも外側にずれるのに対し、そのずれに追従させるようにして白鍵310の後端側を変位させることができる。よって、白鍵310の前端側のストロークに対する後端側のストロークの割合を、初期状態から押鍵状態にかけて一定に保ち易くできる。従って、押鍵途中における白鍵310の全体のストロークをアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0069】
そして、白鍵310のうち、初期状態において仮想円C2上に位置する部位310aが押鍵状態においても仮想円C2上に位置するように案内溝314の形状が設定されているため、初期状態や押鍵状態における白鍵310の姿勢をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。よって、アコースティックに近い演奏感を付与できる。
【0070】
押鍵状態においては、案内溝314の終端(上端)とガイドピン361との間に隙間が形成されるため、案内溝314の内壁面とガイドピン361との接触による異音の発生を抑制できる。そして、ガイド部材306には、白鍵310の下面と対向する位置に緩衝材8(
図2,3参照)が設けられているため、押鍵状態で案内溝314の終端とガイドピン361との間に隙間が形成される場合であっても、白鍵310の後端側の下方への変位を緩衝材8によって規制できる。
【0071】
また、案内溝314は、白鍵310の下面側に開放する開放部314aを備えており、この開放部314aからガイドピン361の抜き差しが可能になっている。これにより、白鍵310のメンテナンスを容易にできる。更に、ガイドピン361のスライドの始端側に開放部314aが形成されているため、離鍵時における案内溝314の内壁面とガイドピン361との接触による異音の発生を抑制できる。
【0072】
また、図示は省略するが、第1実施形態と同様、黒鍵の案内溝は白鍵310の案内溝314よりも緩やかな湾曲形状となっている。即ち、ガイドピン361が終端位置までスライドした際の白鍵310及び黒鍵のストロークは、白鍵310よりも黒鍵の方が大きく設定されている。これにより、アコースティックピアノに近似した演奏感を付与できる。
【0073】
次いで、
図7を参照して、第4実施形態の鍵盤装置401について説明する。第3実施形態では、案内溝314が鍵2の後方下側に凸の湾曲形状に形成される場合を説明した。これに対して第4実施形態では、案内溝414が直線状に形成される場合について説明する。なお、上述した第3実施形態と同一の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0074】
図7(a)は、第4実施形態における鍵盤装置401の部分拡大断面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の状態から白鍵410が押鍵された状態を示す鍵盤装置401の部分拡大断面図である。なお、
図7(b)では、初期状態の白鍵410を破線で図示している。
【0075】
図7(a)に示すように、鍵盤装置401の白鍵410は、前方側(
図7(a)の右側)に向けて下降傾斜する直線状の案内溝414を備える。案内溝414は、白鍵410を左右(
図7(a)の紙面垂直方向)に貫通するようにして形成される溝である。案内溝414の溝幅は、ガイドピン361の直径と同一または僅かに小さく形成されており、ガイドピン361は、案内溝414にスライド可能に挿入される。よって、案内溝414に沿うガイドピン361のスライドによって白鍵410の後端側の変位が案内される。これにより、白鍵410の後端側の変位を案内するためのリンクを不要にできるので、部品点数を低減できる。
【0076】
ここで、
図7(b)を参照して、白鍵410が押鍵された場合について説明するが、白鍵410の前端側の変位は、上述した第1実施形態と同様にハンマー4の回転によって案内されている(
図2及び
図3参照)。
【0077】
図7(b)に示すように、案内溝414が前方側に向けて下降傾斜する直線状に形成されるため、押鍵時におけるガイドピン361のスライドにより、白鍵410の後端部分を前方下側に変位させることができる。よって、白鍵410の全体を初期状態に比べて前方下側に配置できるので、押鍵状態における白鍵410の姿勢(配置)をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。
【0078】
また、案内溝414が直線状に形成されているため、第3実施形態のように案内溝314が湾曲して形成される場合に比べ、各白鍵410毎に設けられる案内溝414の形状にバラつきが生じることを抑制できる。
【0079】
また、白鍵410のうち、初期状態において仮想円C2上に位置する部位410aが押鍵状態においても仮想円C2上に位置するように案内溝414の形状が設定されているため、初期状態や押鍵状態における白鍵310の姿勢をアコースティックピアノの鍵に近似させることができる。よって、アコースティックに近い演奏感を付与できる。
【0080】
押鍵状態においては、案内溝414の終端(上端)とガイドピン361との間に隙間が形成されるため、案内溝414の内壁面とガイドピン361との接触による異音の発生を抑制できる。そして、ガイド部材306には、白鍵410の下面と対向する位置に緩衝材8(
図2,3参照)が設けられているため、押鍵状態で案内溝414の終端とガイドピン361との間に隙間が形成される場合であっても、白鍵410の後端側の下方への変位を緩衝材8によって規制できる。
【0081】
また、案内溝414は、白鍵310の下面側に開放する開放部414aを備えており、この開放部414aからガイドピン361の抜き差しが可能になっている。これにより、白鍵410のメンテナンスを容易にできる。更に、ガイドピン361のスライドの始端側に開放部414aが形成されているため、離鍵時における案内溝414の内壁面とガイドピン361との接触による異音の発生を抑制できる。
【0082】
以上、上記実施形態に基づき説明をしたが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0083】
上記各実施形態では、鍵盤装置1,201,301,401が電子ピアノとして構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、他の電子楽器(例えば、電子オルガン、シンセサイザ、アコーディオン等)においても、上記各実施形態の技術思想を適用できる。
【0084】
上記各実施形態では、押鍵感触を付与する(鍵2を初期位置に復帰させる)ためのハンマー4によって鍵2の前端側の変位を案内する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、押鍵感触を付与する(鍵2を初期位置に復帰させる)機能を有さないリンクによって鍵2の前端側の変位を案内する構成でも良い。この場合には、ばね等の弾性体によって鍵2を初期位置に復帰させれば良い。
【0085】
上記各実施形態では、1つのハンマー4をリンクとして機能させて鍵2の回転を案内する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ハンマー4に加え、鍵2の回転を案内するためのリンクを別途設ける構成でも良い。即ち、鍵2の後端側の変位を案内溝およびガイドピンで案内する構成であれば、その後端側の変位を案内するためのリンクを少なくとも1本省略できる。
【0086】
上記各実施形態では、ハンマー4の軸40が軸43よりも後方側に位置する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ハンマー4の軸40が軸43よりも前方側に位置する構成でも良い。
【0087】
上記各実施形態では、ハンマー4の軸40から重心Gまでの距離が、軸40から軸43までの距離よりも長く設定される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ハンマー4の軸40から重心Gまでの距離は、軸40から軸43までの距離と同一に又はそれよりも短く設定しても良い。
【0088】
上記各実施形態では、ハンマー4の軸40がガイドピン12,22,361よりも前方側に配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ハンマー4の軸40をガイドピン12,22,361よりも後方側に配置する構成でも良い。これにより、鍵2の前端側の変位軌跡をアコースティックピアノの鍵により近似させることができる。
【0089】
上記各実施形態では、軸43が押鍵状態において仮想円C1上に位置する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ハンマー4の軸43が押鍵状態で仮想円C1よりも内側や外側に位置する構成でも良い。
【0090】
上記各実施形態では、ガイドピン12,22,361が円柱状(断面円形)に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、案内溝60,314,414に沿ってスライドできる構成であれば、ガイドピン12,22,361の断面形状を多角形に形成する構成でも良い。
【0091】
上記各実施形態では、左右に貫通する案内溝60,314,414にガイドピン12,22,361が挿入される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、案内溝60,314,414をガイド部材6や鍵2の側面に形成される凹みとし、その凹みに沿ってガイドピンをスライドさせる構成でも良い。
【0092】
上記各実施形態では、押鍵時に鍵2の後端部分が前方下側に変位するように案内溝60,314,414が形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、鍵2の後端部分が後方下側や下方に変位するような形状に案内溝60,314,414を形成しても良い。
【0093】
上記各実施形態では、案内溝60,314,414に開放部60a,314a,414aが形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、開放部60a,314a,414aを省略し、案内溝60,314,414の始端側および終端側のそれぞれを閉塞する構成でも良い。この場合には、押鍵時や離鍵時にガイドピン12,22,361が案内溝60,314,414の始端や終端の内壁面に接触する構成でも良い。
【0094】
上記各実施形態では、ガイド部材6,206,306に緩衝材8を設けることで鍵2の下方への変位を規制する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、案内溝60,314,414の終端に緩衝材8を設けても良い。即ち、押鍵の終端位置で鍵2の変位を規制できる構成であれば緩衝材8の配置は適宜設定できるが、鍵2の後端側の変位を所望の位置で規制できる程度に、緩衝材8を鍵2の後端側(ガイドピン12,22,361の近傍)に配置することが好ましい。
【0095】
上記各実施形態では、鍵2のうち、初期状態において仮想円C2上に位置する部位が押鍵状態において仮想円C2上に配置される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、鍵2のうち、初期状態において仮想円C2上に位置する部位が押鍵状態において仮想円C2よりも内側や外側に配置される構成でも良い。
【0096】
上記第1,3実施形態では、案内溝60,314が仮想円C2よりも内側または外側に向けて突出するように湾曲して形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、案内溝60を基準点Pに近づく方向に凸の湾曲形状に形成しても良く、案内溝314を基準点Pから遠ざかる方向に凸の湾曲形状に形成しても良い。また、案内溝60,314を仮想円C2に沿った湾曲形状(仮想円C2と同一の曲率半径の円弧状)に形成しても良い。
【0097】
上記第1,3実施形態では、案内溝60,314の湾曲形状を緩やかに形成することで白鍵10,310よりも黒鍵20の後端側のストロークを大きくする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、白鍵10,310及び黒鍵20の後端側のストロークが同一となるように、案内溝60,314の形状を白鍵および黒鍵のそれぞれにおいて同一としても良い。
【0098】
上記第3,4実施形態では、複数の鍵2のそれぞれの案内溝314,414に共通のガイドピン361が挿入される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第1,2実施形態と同様、各鍵2(各ガイド部材306)毎にそれぞれ別々のガイドピンを設ける構成でも良い。
【符号の説明】
【0099】
1,201,301,401 鍵盤装置
2 鍵
4 ハンマー(リンク)
40 軸(第1回転軸)
43 軸(第2回転軸)
5 シャーシ(支持部材の一部)
50 後側ベース(支持部材の一部)
51 中央ベース(支持部材の一部)
6 ガイド部材(支持部材の一部)
60 案内溝
60a 開放部
8 緩衝材
10 白鍵(鍵)
12 ガイドピン
314,414 案内溝
314a,414a 開放部
20 黒鍵(鍵)
22 ガイドピン
361 ガイドピン
C1 仮想円(第1仮想円)
C2 仮想円(第2仮想円)
G ハンマーの重心(リンクの重心)
P 基準点