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特許7344992締まりばめを有する二つの部品の複合の円錐ころ軸受外輪及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】締まりばめを有する二つの部品の複合の円錐ころ軸受外輪及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/60 20060101AFI20230907BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20230907BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20230907BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16C33/60
F16C19/36
F16C33/64
F16C35/07
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021573858
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 US2020039395
(87)【国際公開番号】W WO2021011164
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2021-12-29
(31)【優先権主張番号】62/874,139
(32)【優先日】2019-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595016783
【氏名又は名称】ザ・ティムケン・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】THE TIMKEN COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100147511
【弁理士】
【氏名又は名称】北来 亘
(72)【発明者】
【氏名】ヒー,ミン
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102005019481(DE,A1)
【文献】実開平05-088710(JP,U)
【文献】特開2005-140157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 35/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受組立体のための外輪において、
半径方向内表面と半径方向外表面を画定している第1部、及び前記第1部から離れるように角度をなして延びていて、軸方向を向いた基底表面と半径方向を向いた端表面を画定している第2部、を有する本体を有している環状バッキング部材と、
半径方向外面、半径方向内面、第1の軸方向端面、及び第2の軸方向端面を有していて、各軸方向端面が前記半径方向外面と前記半径方向内面の間を延びている環状レース部材と、を備え、
前記環状レース部材の前記半径方向外面が前記環状バッキング部材の前記半径方向内表面に係合し、前記環状レース部材の前記第2の軸方向端面が前記環状バッキング部材の前記軸方向を向いた基底表面に係合して、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材がユニット化されるように、前記環状バッキング部材が前記環状レース部材と圧入係合されており、
前記環状レース部材の前記第2の軸方向端面は、前記環状バッキング部材の前記半径方向を向いた端表面に係合する段部を含んでおり、
前記環状バッキング部材の前記半径方向外表面は、前記軸受組立体の予荷重を調節するためにハウジングに対して軸方向に可動であるように前記ハウジングに係合するよう構成されている、外輪。
【請求項2】
前記環状レース部材の前記半径方向内表面は転動要素が転動するレースウェイを画定するように勾配が付けられている、請求項1に記載の外輪。
【請求項3】
前記環状バッキング部材と前記環状レース部材がユニット化され軸受組立体内に設置されたときに、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材のうちの、前記環状レース部材のみが前記転動要素と接触するように構成されている、請求項1に記載の外輪。
【請求項4】
前記第2の軸方向端面の、前記段部の第1の側の部分は前記軸方向を向いた基底表面に係合し、前記第2の軸方向端面の、前記段部の反対側の隣接部分は前記軸方向を向いた基底表面に係合しない、請求項1に記載の外輪。
【請求項5】
前記第2の軸方向端面の、前記軸方向を向いた基底表面に係合しない前記部分は、前記環状バッキング部材の第2の軸方向端面と同一平面上にある、請求項4に記載の外輪。
【請求項6】
前記圧入係合は、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材が互いに対して軸方向にも周方向にも動くことができないようにする、請求項1に記載の外輪。
【請求項7】
軸受組立体において、
外輪であって、
半径方向内表面と半径方向外表面を画定している第1部、及び前記第1部から離れるように角度をなして延びていて、軸方向を向いた基底表面と半径方向を向いた端表面を画定している第2部、を有する本体を有している環状バッキング部材と、
外レースを画定していて、半径方向外面、半径方向内面、第1の軸方向端面、及び第2の軸方向端面を有し、各軸方向端面が前記半径方向外面と前記半径方向内面の間を延びている環状レース部材と、を備え、
前記環状レース部材の前記半径方向外面が前記環状バッキング部材の前記半径方向内表面に係合し、前記環状レース部材の前記第2の軸方向端面が前記環状バッキング部材の前記軸方向を向いた基底表面に係合して、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材がユニット化されるように、前記環状バッキング部材が前記環状レース部材と圧入係合されている、外輪と、
内レースを画定している内輪と、
前記内輪が前記外輪に対して回転する構成になるように前記内レース及び前記外レースと転動式に係合されている複数の転動要素と、を備えており、
前記環状レース部材の前記第2の軸方向端面は、前記環状バッキング部材の前記半径方向を向いた端表面に係合する段部を含んでおり、
前記環状バッキング部材の前記半径方向外表面は、前記軸受組立体の予荷重を調節するためにハウジングに対して軸方向に可動であるように前記ハウジングに係合するよう構成されている、軸受組立体。
【請求項8】
前記環状バッキング部材と前記環状レース部材がユニット化され、前記軸受組立体内に設置されたときに、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材のうちの、前記環状レース部材のみが前記転動要素と接触するように構成されている、請求項7に記載の軸受組立体。
【請求項9】
前記第2の軸方向端面の、前記段部の第1の側の部分は前記軸方向を向いた基底表面に係合し、前記第2の軸方向端面の、前記段部の反対側の隣接部分は前記軸方向を向いた基底表面に係合しない、請求項7に記載の軸受組立体。
【請求項10】
前記圧入係合は、前記環状バッキング部材と前記環状レース部材が互いに対して軸方向にも周方向にも動くことができないようにする、請求項7に記載の軸受組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2019年7月15日出願の米国仮特許出願第62/874,139号の恩典を主張し、これによりその内容全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0002】
本発明は、円錐ころ軸受に関し、より具体的には円錐ころ軸受の外輪に関する。
【背景技術】
【0003】
円錐ころ軸受用の従来の外輪は、棒状加工素材から機械加工されるか又は鍛造されている。一方で、外輪を板金から形成するというプロセスがより費用効果の高いときに外輪を板金から形成するために幾つかの試みがなされてきた。しかし板金の使用には追加の技術的課題が伴う。例えば、軸受を設計する場合の1つの考慮事項として、板金単独で作られた外輪は一部の軸受の高荷重及び高接触圧力を板金外輪の薄い厚さのせいで支持できない可能性がある、という事実が挙げられる。十分な支持を提供するために使用される1つの方法は、板金外輪を分離可能なバッキングリングと組み合わせることを伴う。
【0004】
加えて、薄い板金からプレス加工された外輪は、薄い板金から形成される結果として波を打っているのが典型的である。この波打ちは外輪がころ及びバッキングリングとの一致した接触を維持するのを妨げ、それによって周期的な荷重下に度重なる変形を生じさせる。波を打ったレースウェイは騒音や振動の源にもなり、軸受の耐用年数を事実上縮めかねない。また、コストを削減するためにバッキングリングは軸受のハウジングの一体的部分として形成されるのが典型的である。バッキングリングがハウジング内に固定された状態では、外輪が軸受のための正しい予荷重を提供するようにハウジング内で軸方向に調節され得ない。
【0005】
十分な支持をバッキングリング無しに提供するために使用される別の方法は、外輪が単独で高荷重及び高接触圧力を支持できるように厚い断面を有する外輪を形成することを伴う。このサイズの外輪を板金から形成するには、より厚い板金が使用されなくてはならない。しかしながら、外輪の必要な幾何学形状を正しく形成することが要求されることから、厚い断面の後面を有する外輪を厚さに対する直径の比が小さいブランク(即ち、より厚い板金)から形成することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国仮特許出願第62/874,139号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の実施形態は、軸受へ及ぶ使用荷重の十分な支持を提供することのできる円錐ころ軸受のための外輪を、分離可能なバッキングリングを使用することも外輪を厚い板金から形成することもなしに提供する。実施形態は更に、薄い鋼板からプレス加工されるレースの波打ちを回避し、それにより作動中の高い騒音及び振動のリスクを有効に排除する。発明の実施形態は、更に、正しい予荷重を提供するために軸受のハウジング内で軸方向に調節され得る外輪を提供する。バッキング部材とレースウェイ部材を別々に形成し、2つの部材を一体に圧入してユニット型複合円錐ころ軸受外輪を形成することによって、これを実現させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、発明は軸受組立体のための外輪を提供している。外輪は環状バッキング部材と環状レース部材を含んでいる。環状バッキング部材は、第1部及び第2部を有する本体を有している。第1部は半径方向内表面と半径方向外表面を画定している。第2部は、第1部から離れるように角度をなして延びていて、軸方向を向いた基底表面と半径方向を向いた端表面を画定している。環状レース部材は、半径方向外面、半径方向内面、第1の軸方向端面、及び第2の軸方向端面を有している。各軸方向端面は、半径方向外面と半径方向内面の間を延びている。環状レース部材の半径方向外面が環状バッキング部材の半径方向内表面に係合し、環状レース部材の第2の軸方向端面が環状バッキング部材の軸方向を向いた基底表面に係合して、環状バッキング部材と環状レース部材がユニット化されるように、環状バッキング部材は環状レース部材と圧入係合されている。
【0009】
別の態様では、発明は軸受組立体を提供している。軸受組立体は、ハウジング、ハウジングと係合された外輪、内レースを画定している内輪、複数の転動要素、及び内輪を通って延びるシャフトを含んでいる。外輪は環状バッキング部材と環状レース部材を含んでいる。環状バッキング部材は、第1部及び第2部を有する本体を有している。第1部は半径方向内表面と半径方向外表面を画定している。第2部は、第1部から離れるように角度をなして延びていて、軸方向を向いた基底表面と半径方向を向いた端表面を画定している。環状レース部材は、半径方向外面、半径方向内面、第1の軸方向端面、及び第2の軸方向端面を有している。各軸方向端面は、半径方向外面と半径方向内面の間を延びている。環状レース部材の半径方向外面が環状バッキング部材の半径方向内表面に係合し、環状レース部材の第2の軸方向端面が環状バッキング部材の軸方向を向いた基底表面に係合して、環状バッキング部材と環状レース部材がユニット化されるように、環状バッキング部材は環状レース部材と圧入係合されている。内輪が外輪に対して回転する構成になるように、複数の転動要素は内レース及び外レースと転動式に係合されている。シャフトは、内輪がシャフトと共に回転する構成になるように内輪へ連結されている。
【0010】
更に別の態様では、発明は軸受組立体の外輪を製造する方法を提供している。方法は、半径方向内表面及び半径方向外表面を画定している第1部と、第1部から離れるように角度をなして延びていて、軸方向を向いた基底表面及び半径方向を向いた端表面を画定している第2部と、を有する本体を有している環状バッキング部材を形成する工程を含んでいる。方法は、更に、半径方向外面、半径方向内面、第1の軸方向端面、及び第2の軸方向端面を有していて、各軸方向端面が半径方向外面と半径方向内面の間を延びている環状レース部材を、板金ブランクから形成する工程を含んでいる。方法は、次いで、環状レース部材の半径方向外面が環状バッキング部材の半径方向内表面に係合し、環状レース部材の第2の軸方向端面が環状バッキング部材の軸方向を向いた基底表面に係合するユニット化された外輪を環状バッキング部材と環状レース部材が形成するように、環状バッキング部材と環状レース部材を一体に圧入する工程を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による複合円錐ころ軸受外輪を使用している軸受組立体の部分断面図である。
図2図1のユニット型複合円錐ころ軸受外輪の断面図である。
図3図1の複合円錐ころ軸受外輪のレース部材の断面図である。
図4図1の複合円錐ころ軸受外輪のレース部材の拡大断面図である。
図5図1の複合円錐ころ軸受外輪のバッキング部材の断面図である。
図6図1の複合円錐ころ軸受外輪のバッキング部材の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の幾つかの実施形態を詳細に解説する前に理解しておくべきこととして、発明はその適用において、以下の説明に述べられ又は以下の図面に描かれる構築の詳細事項及び構成要素の配置に限定されない。発明は他の実施形態の余地があり、発明は様々なやり方で実践され又は実施されることができる。
【0013】
図1を参照すると軸受組立体10が描かれている。軸受組立体10は、一般的な工業用途及び自動車用途を含む幾つもの数の用途で使用されることができ、軸受14、ハウジング18、及びシャフト22を含んでいる。軸受14は、ユニット型複合外輪26、複数の転動要素30、及び内輪34を含んでいる。内輪34は内レースウェイ38を画定し、ユニット型複合外輪26は外レースウェイ42を画定している。複数の転動要素30は、内輪34がユニット型複合外輪26に対して回転可能であるように、外レースウェイ42と内レースウェイ38の両方と転動式に係合されている。シャフト22は、内輪34を通って延びていて、内輪34がシャフト22と共に回転するように内輪34へ連結されている。
【0014】
ユニット型複合外輪26は、軸方向予荷重力がユニット型複合外輪26、転動要路30、及び内輪34へ及ぶように、ハウジング18の内表面46と係合されている。より具体的には、ハウジング18の内表面46は、外輪26の軸方向を向いた端表面を支持する肩部47を含んでいてもよい。肩部47と外輪27の間には、所望の予荷重を獲得するためにスペーサ48が使用されている。スペーサ48の厚さは、所望の軸受予荷重を実現するように選択/変更されることができる。
【0015】
予荷重力の大きさは軸受組立体10の性能に影響を与える。予荷重力の大きさが小さすぎるときには、取り付けられた軸受内に少量の軸方向クリアランス(即ち、エンドプレイ)が生じる可能性があり、ユニット型複合外輪26と内輪34は十分に大きな法線力を転動要素30へ及ぼさない。法線力が小さすぎるため、内輪34とユニット型複合外輪26は、転動要素30を内及び外レースウェイ38、42に沿って転動させるに足るほどの大きい摩擦力を転動要素30へ及ぼさない。このシナリオでは、転動要素30は代わりに内レースウェイ38及び/又は外レースウェイ42に沿って滑り、軸受組立体10の性能に悪影響を与える。予荷重力の大きさが大きすぎるときには、取り付けられた軸受内に或る量の軸方向干渉が生じる可能性があり、ユニット型複合外輪26と内輪34は大きすぎる法線力を転動要素30へ及ぼす。法線力が大きすぎるため、内輪34とユニット型複合外輪26は、転動要素30が内及び外レースウェイ38、42に沿って転動するのを妨げ又は阻止するに足るほどの大きな摩擦力を転動要素30へ及ぼす。このシナリオでは、転動要素30は、内及び外レースウェイ38、42に沿って適正に動くことができず、内輪34はユニット型複合外輪26に対して適正に回転可能とはならない。取り付けられた軸受組立体10に正しい支承設定/予荷重を実現するため、外輪26と内輪34との間の相対的軸方向位置を調節するべくスペーサ48が使用されてもよい。スペーサ48の厚さは容易に修正されることができる。他の実施形態では、予荷重が他の手段によって調節できるとき、例えば内輪34に対するシャフト22の軸方向位置を調節することによって予荷重が調節できるときには、スペーサ48は必要ないかもしれない。
【0016】
図示の実施形態では、軸受組立体10の所望性能を確約するため、軸方向予荷重力の大きさを調節することができる。軸方向予荷重力を調節するために、ユニット型複合外輪26はハウジング18内でスペーサ48を介して軸方向に動かすことができる。ハウジング18内でユニット型複合外輪26を内輪34から離れるように軸方向に動かせば予荷重力の大きさは減少し、一方、ハウジング18内でユニット型複合外輪26を内輪34に向かって軸方向に動かせば予荷重力の大きさは増加する。それにより、転動要素30の転動挙動は軸受組立体10のための所望の性能特性を実現するよう特注仕様化されることができる。
【0017】
図示の実施形態では、軸受14は比較的大きなサイズであり、したがって比較的高い荷重及び比較的高い接触圧力を外輪26へ及ぼす。より費用効果を高めるために、外輪26の少なくとも一部分が板金から形成される。少なくとも部分的に板金から形成されながらも高い荷重と接触圧力を支持するために、図2に示されている外輪26は環状レース部材50と環状バッキング部材54を含んでいる。環状レース部材50は環状バッキング部材54と係合されてユニット型複合外輪26を提供している。複合外輪26の厚さは、特定の支承用途について、外輪26の2つの構成要素の間に何れの相対的な動きも引き起こすことなく且つ及ぼされる仕事力の下に降伏することなく適正な支承性能を確約するように、外輪が受けることになる力とトルクによって決定される。
【0018】
図3及び図4を参照して、環状レース部材50は、半径方向外面58、半径方向内面62、第1の軸方向端面66、及び第2の軸方向端面70を有している。半径方向内面62は転動要素30が転動する外レースウェイ42を画定している。図示の実施形態では、半径方向内面62は、軸受14が円錐ころ軸受であるように勾配が付けられている。第2の軸方向端面70に対する半径方向内表面62の勾配は用途に依存して変わり得る。第1の軸方向端面66及び第2の軸方向端面70は、半径方向外面58と半径方向内面62の間を延びている。第2の軸方向端面70は、第1の軸方向端面66から離れて軸方向に突き出る段部74を含んでいて、段部74は、一部が半径方向内面62によって画定され、また一部が第2の軸方向端面70によって画定されている。段部74は、軸方向を向いた段部面78と半径方向を向いた段部面82を含んでいる。図示の実施形態では、軸方向を向いた段部面78は第2の軸方向端面70の一部であり、第2の軸方向端面70の残部に平行に延びているが、他の実施形態では軸方向段部面78は第2の軸方向端面70の残部に対して角度をなして延びていてもよい。同様に、半径方向を向いた段部面82は、図示の実施形態では半径方向外面58に平行に延びているが、他の実施形態では、半径方向を向いた段部面82は半径方向外面58に対して非平行の角度をなして延びていてもよい。
【0019】
図5及び図6を参照して、環状バッキング部材54は、第1部90及び第2部94を有する本体86を有している。第2部94は、第1部90から離れるように角度Aをなして延びている。図示の実施形態では、角度Aは90度であるが、他の実施形態では、環状レース部材50が環状バッキング部材54と係合されたときに環状レース部材50と環状バッキング部材54の間により良好な係合をもたらすために角度Aはそれより若干鋭くてもよく、例えば89度又は88度であってもよい。望ましくは、角度Aは90度よりはるかに鋭くないほうがよく、というのもより鋭い角度Aは環状レース部材50を環状バッキング部材54と係合させるのをより困難にするからである。同じく、望ましくは、角度Aは90度より大きくないほうがよく、というのも環状レース部材50が環状バッキング部材54から係合解除され滑り出てしまうからである。第1部90は、半径方向内表面98、半径方向外表面102、及び軸方向を向いた前表面106を画定している。軸方向を向いた前表面106は、半径方向内表面98と半径方向外表面102の間を半径方向厚さTを画定して延びている。第2部94は、軸方向を向いた基底表面110、軸方向を向いた端表面114、及び半径方向を向いた端表面118を画定している。半径方向外表面102は、軸方向を向いた前表面106と軸方向を向いた端表面114の間を軸方向長さLを画定して延びている。
【0020】
半径方向を向いた端表面118は、軸方向を向いた基底表面110と軸方向を向いた端表面114の間を軸方向厚さTを画定して延びている。図示の実施形態では、半径方向を向いた端表面118は半径方向外表面102に平行に延びているが、他の実施形態では、半径方向を向いた端表面118は半径方向外表面102に対して非平行な角度をなして延びていてもよい。軸方向厚さTと半径方向厚さTは、環状レース部材50と環状バッキング部材54がユニット化されたときに環状レース部材50を軸方向と半径方向のどちらの方向にも支持するのに十分に厚くなくてはならない。環状バッキング部材54が板金から作られているとき、軸方向厚さTと半径方向厚さTは、図示の実施形態に示されている様に同じであり得、環状バッキング部材54が形成される(例えば、押し抜きされる、プレス加工される、又は押し出される)板金の厚さに等しいとしてもよい。他の実施形態では、軸方向厚さが半径方向厚さと同じでないこともあり得る。例えば、軸方向厚さが半径方向厚さより薄いということもあり得る。同様に、幾つかの実施形態では、軸方向厚さと半径方向厚さは、環状バッキング部材54がどのように製造されるかに依存して、環状バッキング部材54が形成される板金の厚さより厚いこともあれば薄いこともあり得る。軸受14が軸受組立体10内に取り付けられたとき、半径方向外表面102はハウジング18に、より具体的にはハウジング18の内表面46に係合する。
【0021】
これより図3及び図5を参照して、環状レース部材50の半径方向外面58は外直径Dを画定し、環状バッキング部材54の半径方向内表面98は内直径Dを画定している。内直径Dは外直径Dより小さく、外部材54とレース部材50が組み立てられたときに内直径Dと外直径Dが部材50と部材54の間に締まりばめを画定するようになっている。締まりばめは、環状レース部材50が環状バッキング部材54とユニット化されたときに、環状レース部材50が軸方向に環状バッキング部材54に対して所定位置に堅く保持されることを可能にする。締まりばめは、軸方向の力がユニット型複合外輪26に作用したり軸受14の作動中に軸受14内に温度変化が起こったりしたせいで環状レース部材50が環状バッキング部材54から滑り出るのを防止するのに十分でなくてはならない。締まりばめは、更に、環状レース部材50が環状バッキング部材54とユニット化されたときに、環状レース部材50が回転方向に環状バッキング部材54に対して所定位置に堅く保持されることを可能にする。締まりばめは、更に、回転力及びトルクがユニット型複合外輪26に作用したり軸受14の作動中に軸受14内に温度変化が起こったりしたせいで環状レース部材50が環状バッキング部材54に対して回転するのを防止するのに十分でなくてはならない。
【0022】
図2に示されている様に、環状レース部材50が環状バッキング部材54とユニット化されたときに、環状レース部材50の半径方向外面58は、環状レース部材50を半径方向に支持する環状バッキング部材54の半径方向内表面98に係合する。環状レース部材50の第2の軸方向端面70、より具体的には第2の軸方向端面70の軸方向を向いた段部78を画定していない部分は、環状レース部材50を軸方向に支持する環状バッキング部材54の軸方向を向いた基底表面110に係合する。更に、ユニット化に際し、環状レース部材50のための追加の半径方向支持を提供するために、段部74の半径方向を向いた段部面82が環状バッキング部材54の半径方向を向いた端表面118に係合する。転動要素30が設置されたら環状バッキング部材54が転動要素30に接触しないように且つ接触しようがないように、段部74は、更に、レース部材50の半径方向内面62が軸方向長さLの全長に沿って延びることができるようにしている。
【0023】
加えて、ユニット化に際し、段部74の軸方向を向いた段部面78は環状バッキング部材54の第2の軸方向端面114と同一平面上にあって合計半径方向長さFを有する共面ユニット型外輪後面を画定させる。ユニット化は、更に、環状バッキング部材54の軸方向を向いた前表面106を環状レース部材50の第1の軸方向端面66と同一平面上にさせて、合計半径方向長さFを有する共面ユニット型外輪前面を画定させる。他の実施形態では、こうである必要はない。環状バッキング部材54の半径方向厚さT及び軸方向厚さTが環状レース部材50を支持するのに十分に堅牢であることを確約するために、半径方向厚さT及び軸方向を向いた基底表面110の半径方向長さの寸法は、それぞれ、外輪前面長さF及び外輪後面長さFの関数であるのが望ましい。
【0024】
ユニット型複合外輪26を製造するため、環状レース部材50と環状バッキング部材54はまず別々に製造される。環状レース部材50を製造するため、第2の軸方向端面70の厚さに対比してより薄い厚さを有する相対的に薄い板金シートから板金ブランクが打ち抜かれる。図示の実施形態では、板金ブランクは、レーザーカッティング又はプレスブランキングのプロセスによって作成されるが、板金を打ち抜くのに他の方法が使用されてもよい。板金ブランクは、次いで、環状レース部材50になるようにプレス加工され又は形成される。転動要素30は直に環状レース部材50上を転動し、周期的に環状レース部材50に荷重を加えるので、環状レース部材50が形成される板金は高等級鋼(例えば、高炭素鋼)である。高等級鋼は、環状レース部材50が十分に高い強度と長い耐用年数を有することを確約する。図示の実施形態では、一連の工程で環状レース部材50を形成するのにパンチとダイが使用されるが、他の形成方法が使用されてもよい。パンチとダイを使用する環状レース部材50の形成は、打ち抜き、絞り又は押し出し、圧印又はサイジング、及び/又は穿孔の諸工程に限定されない。
【0025】
図示の実施形態では、環状バッキング部材54は、環状レース部材50と同様のやり方で製造されるが、他の実施形態では、環状レース部材50と環状バッキング部材54は異なる方法によって形成されることもできる。第2の板金ブランクが、別途、板金から打ち抜かれ、パンチとダイを用いて環状バッキング部材54へ形成される。但し、環状バッキング部材54が形成される板金は高等級鋼である必要はない、というのも環状バッキング部材54は転動要素30と係合されないからである。材料コストを削減するには環状バッキング部材54が形成される板金は低等級鋼(例えば、低炭素鋼乃至中炭素鋼)であるのが望ましい。他の実施形態では、環状バッキング部材54は板金から形成されることさえなく、代わりにエンジニアリングプラスチック、ナイロン、繊維ガラス、又は高い強度を有し板金よりコストの低い他の材料から形成されてもよい。その場合、環状バッキング部材54は、機械加工、射出成形、又は他の製造プロセスによって形成されることができるだろう。環状バッキング部材54が環状レース部材50を支持するのに十分な強度、硬度、及び熱安定性を有することを条件に、環状バッキング材料54は任意の製造方法を使用して任意の材料から形成されることができる。
【0026】
殆どの場合、部材50、54は、任意の種類の普通炭素鋼又は合金炭素鋼とすることができ、炭素と合金の含有量は用途及びプロセスの処理要件に依存して変わり得る。低炭素鋼乃至中炭素鋼はより低い降伏強度を有していて塑性変形させるのがより容易であるので、これらの鋼はプレス加工時により少ない形成力しか必要とせず、したがってこれらの種類の鋼から構成要素を作成するにはプレスの様な小さいプレス加工機器しか必要としない。他方、高炭素鋼は高い強度を有しており、はるかに大きなプレス加工機器を必要とする。したがって工具類の強度に対する要件が高い。プレス加工前に、高炭素鋼が適切に加工されなかった場合、形成後の構成要素の割れ又は破断のリスクは有意に高くなるだろう。低炭素含有量の鋼乃至中炭素含有量の鋼を使用している形成後の構成要素は、通常は、浸炭プロセスを用いて熱処理される一方、高い炭素含有量を有する鋼を使用している形成後の構成要素は、通常は、無心焼入れ(through-hardening)プロセスを用いて熱処理される。特定のタイプの軸受、例えば食品及び飲料産業で使用される軸受については、ステンレス鋼が使用できるだろう。
【0027】
材料の厚さは、複合外輪26の所望壁厚さ、形成計画、及び市場での材料の入手可能性によって決まる。より厚い鋼板は、形成後の複合外輪26のより重い壁を現出させる可能性が高く、より広範な円錐ころ軸受外輪にこの技術を適用できる可能性が高まるだろう。とはいえ、鋼板の最大厚さは特定の鋼等級の入手可能性と発注量によって制限される場合が多い。
【0028】
環状バッキング部材54と環状レース部材50の両方が形成された後、環状レース部材50が環状バッキング部材54へ圧入されて、ユニット型複合外輪26を形成する。これは、インラインで部材50、54の形成工程と共に行われてもよいし、別々に行われてもよい。1つの例示としてのプロセスは、環状バッキング部材54を高温に熱し、それが干渉量よりわずかに多く膨張したら、環状レース部材50を環状バッキング部材54の中へ設置するというものである。次いで両構成要素が冷まされる。環状バッキング部材54のこの加熱は、インラインで、プレス加工のプロセスと共に、環状バッキング部材54を急速に温度上昇させる誘導加熱を使用することによって起こってもよい。環状バッキング部材54を加熱するための温度は、鋼の熱膨張係数及び要求される干渉量に依存するだろう。干渉量は、環状バッキング部材54と環状レース部材50の間の軸方向及び周方向の何らかの相対運動を防止するにあたり、組み立て後の構成要素が、構成要素の熱膨張係数の差のせいで分離することなく加熱処理工程を耐え抜くことができるように且つ軸受に対する最も高い予想トルク又は力の下に存続することができるように計算される。
【0029】
ユニット型複合外輪26は、環状バッキング部材54も板金から形成される場合には、ユニット型複合外輪26が、軸受14に及ぶ高荷重及び高接触圧力を支持することができ、十分な強度と耐用年数を有することができるように、ユニット型複合外輪26の材料特性を高めるための硬化熱処理工法を経る。しかしながら、環状バッキング部材54が金属以外の材料から作成される場合には、環状レース部材50が、環状バッキング部材54へ圧入される前に環状レース部材50の材料特性を高めるべく硬化熱処理工法を経る。場合により、硬化熱処理工法の結果として、ユニット型複合外輪26の寸法が受容可能な公差を越えて変わってしまう可能性がある。その場合には、ユニット型複合外輪26は熱処理後サイジング工程を経て最終的な作動寸法を獲得する。例えば、ユニット型複合外輪26はパンチとダイの間に置かれ、ユニット型複合外輪26の寸法が受容可能な公差内に納まるように絞られ及びサイジングされてもよい。次いで、正しい寸法になったユニット化複合外輪26が全体としての組立体10の中へ設置される。
【0030】
発明の様々な特徴及び態様は付随の特許請求の範囲に示されている。
【符号の説明】
【0031】
10 軸受組立体
14 軸受
18 ハウジング
22 シャフト
26 ユニット型複合外輪
30 転動要素
34 内輪
38 内レースウェイ
42 外レースウェイ
46 ハウジングの内表面
47 肩部
48 スペーサ
50 環状レース部材
54 環状バッキング部材
58 半径方向外面
62 半径方向内面
66 第1の軸方向端面
70 第2の軸方向端面
74 段部
78 軸方向を向いた段部面
82 半径方向を向いた段部面
86 本体
90 第1部
94 第2部
98 半径方向内表面
102 半径方向外表面
106 軸方向を向いた前表面
110 軸方向を向いた基底表面
114 軸方向を向いた端表面
118 半径方向を向いた端表面
A 角度
外直径
内直径
前面の合計半径方向長さ
後面の合計半径方向長さ
軸方向長さ
半径方向厚さ
軸方向厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6