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特許7344998三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法及びセラミック製品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法及びセラミック製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20230907BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B35/634 160
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022005137
(22)【出願日】2022-01-17
(65)【公開番号】P2023104259
(43)【公開日】2023-07-28
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】514173696
【氏名又は名称】國家中山科學研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】呉俊徳
(72)【発明者】
【氏名】郭養國
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113001706(CN,A)
【文献】特開2020-083755(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107698260(CN,A)
【文献】特開2009-39713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B
C04B
B33Y
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法であって、
可塑剤及び分散剤を提供し、前記可塑剤及び前記分散剤を均一に混合するステップであって、前記分散剤はクエン酸及び水酸化ナトリウム混合液であるステップ(A)と、
ステップ(A)で獲得した混合物を粘着剤と混合し、前記粘着剤はポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)であるステップ(B)と、
イットリア安定化ジルコニア粉末をステップ(B)で獲得した混合物に添加し、十分に攪拌及び脱泡し、前記三次元印刷に使用できるセラミックスラリーを調製するステップであって、前記セラミックスラリーのpH値は5~11であるステップ(C)と、
を含むことを特徴とする三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの分子量は88,000~97,000の間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法。
【請求項3】
前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記可塑剤の重量比は1:0.05~0.2の間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法。
【請求項4】
前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記分散剤の重量比は1:0.01~0.05の間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法。
【請求項5】
前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記粘着剤の重量比は1:0.05~0.2の間の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法。
【請求項6】
セラミック製品の製造方法であって、
請求項1に記載の調製方法でセラミックスラリーを調製するステップ(A)と、
前記セラミックスラリーを使用して三次元印刷を実行し、プライマリーグリーン体を形成するステップ(B)と、
前記プライマリーグリーン体を冷凍庫に安置して冷凍プロセスを実行し、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)を結晶化させるステップ(C)と、
冷凍後の前記プライマリーグリーン体を室温で解凍し、ゲル構造を有している可塑性グリーン体を形成するステップ(D)と、
を含むことを特徴とするセラミック製品の製造方法。
【請求項7】
前記冷凍プロセスの温度範囲は0~-40°Cの間の範囲であることを特徴とする請求項6に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(C)及びステップ(D)は冷凍2時間及び解凍30分間で循環することを特徴とする請求項6に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項9】
前記可塑性グリーン体をアルゴンガスを送入した高温炉中に安置し、昇温速度1°C/minで600°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、次いで、1450°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、セラミックグリーン体を形成するステップ(E)を更に含むことを特徴とすることを特徴とする請求項6に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項10】
前記セラミックグリーン体を高温炉に再度安置して600℃で2時間焼成し、残留炭素の無いセラミック材料を形成するステップ(F)を更に含むことを特徴とする請求項9に記載のセラミック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法に関し、詳しくは、イットリア安定化ジルコニア(Yttria-stabilized zirconia)粉末を含むセラミックスラリーの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元印刷または付加製造(Additive Manufacturing )が工業界及び学術界において徐々に重視される技術になってきている。基本的な運用方式は、コンピューターで描画した三次元画像ファイルを一層一層薄片にし、プリンターにより分層を積み重ねて画像ファイルのモデルを製造する。三次元印刷は従来の材料の製造プロセスでは達成困難な複雑な構造に適用され、更にカスタマイズされた設計を可能にしている。現在、三次元印刷に使用されている材料は主にポリマー、金属等であり、セラミック材料は極端な熱処理プロセスが必要であるため、前述の両者よりも三次元印刷の難度が高かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、セラミック材料の高い耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、及び高い機械強度等の特性は、各種プロセス分野において広く応用されている。例えば、台湾の半導体産業では、ウェハーはロボットアームにより異なるプロセス中に変換し、プロセスの高温及び腐食性の環境を考えれば、セラミック材料を主とするロボットアーム治具がファーストチョイスとなる。但し、従来のセラミックの調製には金型及び切断等のプロセスが必要であり、異なる治具での試験では、多くの時間とコストが掛かった。三次元印刷方式でセラミック治具を製造できれば、異なる設計の機能を高速に試験できるようになり、人的及び物的コストを節約できる。
【0004】
現在、セラミック材料の三次元印刷プロセスの開発は、主にバインダージェッティング方式(Binder jetting)、光造形法(Stereolithography)、及びダイレクトインクライティング(Direct ink writing)に大別されている。バインダージェッティング方式では、プリンターのノズルヘッドによりセラミック粉末が充填されているシリンダーブロックに対し粘着剤を噴射し、ノズルヘッド及びシリンダーブロックを移動することにより、徐々に三次元の造形物を印刷する。最後に粘着するグリーン体を粉末中から取り出し、焼結を行う。光造形法では、セラミック粉末またはセラミック前駆物質をまず高分子モノマーを主とする粘着剤に分散し、プリンターによりインクに光源を投射し、各層構造中の光源パターンを制御することにより、高分子モノマーを指定形状に重合した後、グリーン体を獲得する。光造形法は層が薄く高精細であるという利点があり、光硬化プロセスでは高比率の高分子モノマー粘着剤を使用するが、後続のセラミック材料の焼結プロセスにおいて、粘着剤が揮発することでサンプルに亀裂が入りやすかった。このため、少数のセラミック材料しかこの方式で印刷することができず、材料の適用範囲が狭かった。ダイレクトインクライティングでは、主にセラミック粉末のスラリーをノズルヘッドから押し出して指定の三次元形状のグリーン体に積み重ねる。前述の両者と比べると、この方法は様々な異なるセラミック材料に応用し易く、且つ多種類の材料の三次元印刷を行うことができた。ダイレクトインクライティングの主な欠点は低精細で、ノズルヘッドが詰まり易いことであった。スラリー中のセラミック粉末の分散程度及びスラリーの流動学的挙動を如何に制御するかがダイレクトインクライティングの主な課題であった。
【0005】
また、ダイレクトインクライティングの印刷方式では、セラミックスラリーの調製方式及び各成分間の比率が印刷効果の鍵であった。焼結後の完成品が収縮したり、亀裂が入るのを回避するため、通常ではスラリー中の固体粉末の比率を高め、約30~50 vol%以上にし、且つ少量の粘着剤を組み合わせている。高い固体比率のスラリー中に、ポリ酸及びポリマー電解質等の適量の分散剤を添加し、粒子表面の電荷作用力を強化し、粒子間の集合及び沈殿を減少させる。このほか、このような高濃度スラリーは適切な流動学的挙動により印刷を行い、通常はスラリーがせん断減粘性を有する粘弾性が必要であり、せん断速度の増加に連れて粘度を低下させる必要があった。これにより、ダイレクトインクライティングの高速なせん断速度環境において、低圧力でインクを押し出し成形可能になる。また、スラリーは高い貯蔵弾性率(G’)及び高い降伏応力(yield stress)が必要であり、液体のインクを押し出した後に固体に近い弾性挙動を迅速に回復し、且つ構造を維持して重力の影響で潰れないようにする必要があった。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものである。上記課題解決のため、本発明は、ダイレクトインクライティングを行った後に塑造する三次元印刷セラミックスラリーの製造方法を提供することを主目的とする。前記技術はポリビニルアルコールを冷凍した後に生成される結晶を利用し、印刷したサンプルをゲル化することで、乾燥及び焼結過程での破裂問題、構造が複雑な物品は大量の支持材を同期で印刷しなければ構造の成形を確保できない問題、及び印刷難度が高い等の問題を解決し、特にセラミック材料の三次元印刷技術に使用する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法は、
可塑剤及び分散剤を提供し、前記可塑剤及び前記分散剤を均一に混合するステップ(A)と、
ステップ(A)で獲得した混合物を粘着剤と混合し、前記粘着剤はポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)であるステップ(B)と、
イットリア安定化ジルコニア粉末をステップ(B)で獲得した混合物に添加し、十分に攪拌及び脱泡し、前記三次元印刷に使用できるセラミックスラリーを調製するステップ(C)と、を含む。
【0008】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記可塑剤はポリエチレングリコール(Polyethylene glycol, PEG-400)である。
【0009】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記分散剤はクエン酸及び水酸化ナトリウム混合液である。
【0010】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記ポリビニルアルコールの分子量は88,000~97,000の間の範囲である。
【0011】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記可塑剤の重量比は1:0.05~0.2の間の範囲である。
【0012】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記分散剤の重量比は1:0.01~0.05の間の範囲である。
【0013】
また、本発明に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法において、前記イットリア安定化ジルコニア粉末及び前記粘着剤の重量比は1:0.05~0.2の間の範囲である。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の態様は、セラミック製品の製造方法である。このセラミック製品の製造方法は、
前述の調製方法でセラミックスラリーを調製するステップ(A)と、
前記セラミックスラリーを使用して三次元印刷を実行し、プライマリーグリーン体を形成するステップ(B)と、
前記プライマリーグリーン体を冷凍庫に安置して冷凍プロセスを実行し、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)を結晶させるステップ(C)と、
冷凍後のプライマリーグリーン体を室温で解凍し、ゲル構造を有している可塑性グリーン体を形成するステップ(D)と、を含む。
【0015】
また、本発明に係るセラミック製品の製造方法において、前記冷凍プロセスの温度範囲は0~-40°Cの間の範囲である。
【0016】
また、本発明に係るセラミック製品の製造方法において、前記ステップ(C)及びステップ(D)は冷凍2時間及び解凍30分間で循環する。
【0017】
また、本発明に係るセラミック製品の製造方法において、前記可塑性グリーン体をアルゴンガスを送入した高温炉中に安置し、昇温速度1°C/minで600°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、次いで、1450°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、セラミックグリーン体を形成するステップ(E)を更に含む。
【0018】
また、本発明に係るセラミック製品の製造方法において、前記セラミックグリーン体を高温炉に再度安置して600℃で2時間焼成し、残留炭素の無いセラミック材料を形成するステップ(F)を更に含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明ではポリビニルアルコールを粘着剤とし、且つセラミックスラリーの三次元印刷を行った後、冷凍/解凍プロセスを追加し、水性分散液中のポリビニルアルコールの結晶の生成を促進する。このような結晶は物理的架橋により形成されるゲル状のグリーン体を増強し、好ましい構造強度を有し、後続の乾燥及び焼結プロセスでグリーン体が破裂し難くなる。また、外力により更に塑造することで、複雑な構造の成形に適用可能になる。本発明は、三次元印刷される一般的なセラミックグリーン体は強度が低く、乾燥及び焼結過程で破裂し易く、構造が複雑な物品では大量の支持材を同期で印刷しなければ構造の成形を確保できず、印刷難度が高い等の問題を克服している。無毒な水性スラリーを使用すると共に、高い固形分、グリーン体の高い強度、三次元印刷、サンプル後の塑造等の目標を達成し、複雑な構造の工業サンプルのカスタマイズに適用する。
【0020】
また、本発明のセラミック製品の製造方法はポリビニルアルコールを冷凍した後に生成される結晶を利用し、印刷のサンプルをゲル化し、以下の2つの具体的な利点を達成している。
(1)グリーン体の強度の強化。一般的なセラミックグリーン体のグリーン体の強度を高める場合、往々にして有機物の用量を増加すると共にセラミックの固形分を減少させる。本発明により調製したグリーン体は高い固形分及び強度を有し、グリーン体の乾燥時のサンプルの収縮により発生する亀裂を減少させている。
(2)グリーン体の後塑造。複雑な構造の成形に対し、大部分の三次元印刷では少なくない支持材を印刷する必要があるため、難度が高かった。本発明により調製するグリーン体は、強度及び展延性が高く、後続のプロセスにより再塑造可能である。支持材を減らすと同時に、複雑な構造の成形も達成している。
【0021】
本明細書及び図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施例に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法を示す概略図である。
図4A】イットリウム安定化ジルコニア粉末が異なるpH値の境界でのゼータ電位図である。
図4B】イットリウム安定化ジルコニア粉末が異なるpH値の境界での粒径分布図である。
図5A】30、35、37.5 vol%の3つの異なる固形分のイットリウム安定化ジルコニアスラリーの粘度とせん断速度の測定結果図である。
図5B】30、35、37.5 vol%の3つの異なる固形分のイットリウム安定化ジルコニアスラリーの貯蔵弾性率と損失弾性率の測定結果図である。
図6A】本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法による三次元印刷を示す写真である。
図6B】本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法による三次元印刷を示す写真である。
図7】本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法により得られるゲル構造を有するプラスチックグリーン体が外力により変形した写真である。
図8】600°Cでの脱脂プロセス後の半製品イットリウム安定化ジルコニアのSEM画像である。
図9】1450°Cで焼成した後を完成したロボットアームのSEM画像である。
図10A】イットリウム安定化ジルコニア焼成製品の曲げ強さの試験結果図である。
図10B】イットリウム安定化ジルコニア焼成製品の密度試験結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照して説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、実用新案登録請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の第1実施例に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法を示すフローチャートである。図1に示す第1実施例に係る三次元印刷に使用できるセラミックスラリーの調製方法は、可塑剤及び分散剤を提供し、前記可塑剤及び前記分散剤を均一に混合するステップ(A)S101と、ステップ(A)で獲得した混合物を粘着剤と混合し、前記粘着剤はポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)であるステップ(B)S102と、イットリア安定化ジルコニア粉末をステップ(B)で獲得した混合物に添加し、十分に攪拌及び脱泡し、前記三次元印刷に使用できるセラミックスラリーを調製するステップ(C)S103と、を含む。
【0025】
第1実施例ではポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol, PVA)をセラミックスラリーの粘着剤とし、PVAは水溶性ポリマーであり、粘着剤とする以外、高強度のヒドロゲルの調製にも用いられている。PVAの水溶液を冷凍すると、PVAポリマーの結晶化を促進する。このような結晶は室温に戻った後にも消失せず、PVA結晶の部位をポリマーの架橋の部位としてヒドロゲルを形成する。PVAの特性を利用し、簡単な配合により、三次元印刷及び後続の変形に使用できるセラミックグリーン体を形成する。
【0026】
第1実施例では、まず、イットリア安定化ジルコニアセラミック粉末が異なるpH値及び異なる分散剤濃度でのゼータ電位(Zeta potential)を測定し、セラミック粉末の表面電荷の大きさ及び分散剤が粉末の表面の電荷を改変する能力について理解する。ゼータ電位の測定結果に基づいて、第1実施例ではまずPEG-400の可塑剤及びpH値を調整した後のクエン酸/水酸化ナトリウム分散剤を均一に混合した後、PVA粘着剤が充填されたメスフラスコに注入して再度均一に混合する。最後に、イットリア安定化ジルコニア粉末を添加すると共に遊星式自転公転攪拌機を使用して十分に攪拌及び脱泡を行い、三次元印刷に適用するスラリーを調製する。
【実施例2】
【0027】
図2は本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法を示すフローチャートである。図2に示す第2実施例に係るセラミック製品の製造方法は、第1実施例に記載の調製方法でセラミックスラリーを調製するステップ(A)S201と、前記セラミックスラリーを使用して三次元印刷を実行し、プライマリーグリーン体を形成するステップ(B)S202と、前記プライマリーグリーン体を冷凍庫に安置して冷凍プロセスを実行し、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol,PVA)を結晶化させるステップ(C)S203と、凍後のプライマリーグリーン体を室温で解凍し、ゲル構造を有している可塑性グリーン体を形成するステップ(D)S204と、を含む。
【0028】
図3は本発明の第2実施例に係るセラミック製品の製造方法を示す概略図である。その詳しいフローチャートは以下の通りである。第1実施例に記載の調製方法でセラミックスラリーを調製する。前記セラミックスラリーを使用して三次元印刷を実行し、プライマリーグリーン体を形成する。前記プライマリーグリーン体を-20℃の冷凍庫に数時間安置し、前記プライマリーグリーン体を冷凍し、PVAの結晶化を促進する。冷凍後のプライマリーグリーン体を室温で解凍し、PVAで形成したゲル構造がグリーン体の高い強度を有し、且つ外力により指定形状に更に塑造する。グリーン体を室温で乾燥して余分な水分を除去した後、高温炉に安置して焼結プロセスを実行する。まず600℃で2時間加熱し、有機物を除去した後、1450℃まで昇温して数時間焼結する。
【0029】
図3に示すように、第2実施例のセラミック製品の製造方法は、前記可塑性グリーン体をアルゴンガスを送入した高温炉中に安置し、昇温速度1°C/minで600°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、次いで、1450°Cまで昇温すると共に2時間均熱し、セラミックグリーン体を形成するステップ(E)を更に含むが、但し本発明はこの限りではない。
【0030】
好適な実施の形態において、上述のセラミック製品の製造方法は、前記セラミックグリーン体を高温炉に再度安置して600℃で2時間焼成し、残留炭素の無いセラミック材料を形成するステップ(F)を更に含むが、但し本発明はこの限りではない。
【0031】
図4Aはイットリウム安定化ジルコニア粉末が異なるpH値の境界でのゼータ電位図である。図4Bはイットリウム安定化ジルコニア粉末が異なるpH値の境界での粒径分布図である。結果は、pH値が5を超えた後、ゼータ電位が全て-60~-70 mVの間の範囲を維持し、過大な変化がないことを示している。結果からは、この負電位では、イットリア安定化ジルコニア粉末の間がクーロン斥力により相互に排斥しあって集合し難くなっている。また、クエン酸を分散剤として添加することにより、確実に粉末が水中に更に均一に分散している。pH値を調整すると、イットリア安定化ジルコニア粉末の平均粒径及び分布が全て分散剤を未添加の状態よりも大きくなっている。イットリア安定化ジルコニア粉末は測定過程で密度のために沈降する問題が発生し、加えて、粒径の測定時間が約20分間であるため、予期した相互反発現象が発生している。但し、ゼータ電位の結果から、pH値が5である条件ではクエン酸がイットリア安定化ジルコニアの表面に十分吸着していると判断できる。
【0032】
図5Aは30、35、37.5 vol%の3つの異なる固形分のイットリウム安定化ジルコニアスラリーの粘度とせん断速度の測定結果図である。図5Bは30、35、37.5 vol%の3つの異なる固形分のイットリウム安定化ジルコニアスラリーの貯蔵弾性率と損失弾性率の測定結果図である。図5Aからは3つのスラリー粘度が全てせん断速度の増加に従って線形トレンドが下降し、三次元印刷に必要なせん断減粘性性質に適合していることが分かる。図5Bからは、30 vol%のイットリア安定化ジルコニアスラリーの降伏応力値が僅か約100前後しかなく、半製品の倒れて歪む問題が発生することが予期されることがわかる。37.5 vol%のスラリーは最高の降伏応力値を有していると同時に、粘度も最高のスラリーである。この高い粘度では、ポンプにより押し出すのが難しくなり、押し出し速度が不安定になる等の問題が発生する。以上の種々の要素を総合すると、最後には降伏応力値が約580 Pa、35 vol%のスラリーを選択して三次元印刷を行う。
【0033】
35vol%のイットリア安定化ジルコニア粉末の固形分に0.5wt%のクエン酸を分散剤とし、2.5 wt%のポリビニルアルコールを粘着剤とし、2.5 wt%のPEG-400を可塑剤としてとして配合して印刷を行う。スラリーに水分が蒸発する問題及び焼結後に激烈に収縮する問題が存在することを鑑みると、印刷速度の選択として、35 mm/sの印刷速度で印刷を行い、押し出し比率(Extrusion ratio)は60%とし、サンプルの充填比率を85%とする。結果は図6A及び図6Bに示すように、この印刷速度では略良好であり、線形に配列されて揃えられ、層と層の間の積み重ね効果が高く、基本的に明確な印刷の欠陥は観察されていない。このようなスラリーは適合する貯蔵弾性率(storage modulus)及び降伏応力を確実に備えており、ダイレクトインクライティングによる印刷に使用可能である。
【0034】
乾燥速度の差により、印刷完成品を空気中に置くと歪み及び亀裂が発生した。サンプルを-20°Cの冷蔵庫に入れ、水を冷凍すると同時に、PVAの結晶の形成を促進した後、サンプルを常温まで解凍すると、グリーン体全体の可塑性が向上し、外力により変形するようになる(図7参照)。手で圧迫した後に変形する特性により、完成品が重力を受けた後に歪みの発生が抑制されている。
【0035】
図8は600°Cでの脱脂プロセス後の半製品イットリウム安定化ジルコニアのSEM画像である。図9は1450°Cで焼成した後を完成したロボットアームのSEM画像である。実験結果には、イットリア安定化ジルコニア粉末の形態が改変したことが示されている。図8の例では、脱脂前の粉末の間には明らかな隙間が存在し、イットリア安定化ジルコニア粉末の緻密化が尚も未完全である。但し、図9では、大多数の粉末の溶融に成功しており、接合されていることが分かる。SEMの結果には、赤枠で囲んだ箇所のように、いくらかの瑕疵があることが示されている。これらの小孔は、印刷過程で残留した気泡や、サンプルの乾燥及び焼結過程で異方性縮小により生じた可能性がある。焼結時間を更に延長すれば、このような瑕疵が減少することが予期される。
【0036】
焼結後のサンプルの機械強度について、ASTM C 1161標準により試験を行った。3点曲げ試験によりイットリア安定化ジルコニアの焼結完成品の曲げ強さを測定し、試験結果は図10Aに示す。結果からは、イットリア安定化ジルコニアの焼結完成品の平均曲げ強さが約400 MPaであり、最低のデータは392 MPaであり、大多数のイットリア安定化ジルコニアの焼結完成品が十分高い曲げ強さを備えていることが分かり、イットリア安定化ジルコニアサンプルの焼結が確実に成功していることが証明された。
【0037】
アルキメデス法によりイットリア安定化ジルコニアの焼結完成品の密度を測定し、測定結果は図10Bに示すように、ジルコニアの理論密度はそれぞれ6.00 g/cm3であり、結果からは平均密度が約5.88 g/cm3であり、理論密度の97.93%に達していることが分かった。測定結果は、イットリア安定化ジルコニアサンプルの密度が当初予定していた標準に確実に達していることが示され、1450℃で2時間均熱する条件において、焼結プロセスが成功していることが分かる。この結果はイットリア安定化ジルコニアサンプルのSEM図とも一致し、完成品内部のイットリア安定化ジルコニア結晶体が緊密に配列され、隙間が少なく、イットリア安定化ジルコニアスラリーの焼結が完成していることを証明している。
【0038】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
S101 ステップ(A)
S102 ステップ(B)
S103 ステップ(C)
S201 ステップ(A)
S202 ステップ(B)
S203 ステップ(C)
S204 ステップ(D)

図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B