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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】腫瘍マーカーの測定方法及び測定試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20230907BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230907BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/574 A
G01N33/574 E
G01N33/48 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022027877
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2018538408の分割
【原出願日】2017-09-05
(65)【公開番号】P2022068354
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2016173878
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 紘輔
(72)【発明者】
【氏名】北村 由之
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-509270(JP,A)
【文献】特表2015-531487(JP,A)
【文献】特公昭56-017619(JP,B1)
【文献】特表平06-502494(JP,A)
【文献】特開2007-206077(JP,A)
【文献】米国特許第04180556(US,A)
【文献】国際公開第2005/111620(WO,A1)
【文献】特開2009-216487(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040815(WO,A1)
【文献】PRIMUS, F. J. et al.,"Sandwich"-Type Immunoassay of Carcinoembryonic Antigen in Patients Rieceiving Murine Monoclonal Antibodies for Diagnosis and Therapy,Clinical Chemistry,1988年,Vol. 34, No.2,pp.261-264
【文献】KIM, Y. D. et al.,Extraction of Human Plasma or Sera by Heat Treatment for a Solid Phase Radioimmunoassay of Carcinoembryonic Antigen,Clinical Chemistry,1979年,Vol.25, No.5,pp.773-776
【文献】KRICKA, L. J.,Human Anti-Animal Antibody Interferences in Immunological Assays,Clinical Chemistry,1999年,Vol.45, No.7,pp.942-956
【文献】俵木美幸 ほか,CEA低値検体における抗CEA自己抗体の重要性に関する検討,日本臨床検査自動化学会会誌,2012年,Vol.37, No.1,pp.17-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離された試料と、酸性化剤及び陽イオン性界面活性剤を含む前処理液とを混和する前処理工程を含む、生体から分離された試料中の腫瘍マーカーをイムノアッセイにより測定する方法であって、前記試料が血清、血漿、全血、尿、又は便である、方法。
【請求項2】
前記前処理液が、陽イオン性界面活性剤以外の界面活性剤をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前処理工程における酸性化剤の終濃度が0.05N超0.5N以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記腫瘍マーカーが、PSA、α-フェトプロテイン、CA125、CA15-3、CA19-9、または癌胎児性抗原である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性化剤が、塩酸又は硫酸である、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記前処理工程において混和をする前記試料と前記前処理液との体積比が1:10~10:1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
生体から分離された、抗動物抗体を含む試料と、酸性化剤及び陽イオン性界面活性剤を含む前処理液とを、後段のイムノアッセイに先立ち混和することを含む、前記試料中の腫瘍マーカーのイムノアッセイにおける抗動物抗体の影響による偽高値の発生を低減する方法。
【請求項8】
前記抗動物抗体が抗マウス抗体である、請求項記載の方法。
【請求項9】
酸性化剤と陽イオン性界面活性剤とを含む前処理液を備える、請求項1~6のいずれか1項記載の方法による腫瘍マーカーのイムノアッセイ用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍マーカーの測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍マーカーとは、通常は正常細胞では産生されず、腫瘍細胞が特異的に産生するタンパク質の総称であり、特に被験者の血液等の生体試料から検出・測定可能なものをいう。腫瘍の診断において、生体試料中の腫瘍マーカーの測定値は、腫瘍の発生の有無の確認や、患者の治療後の腫瘍消失の確認等に使用することが可能である。腫瘍マーカーには、臓器特異的に多種のものが存在するが、主要なものとしてはPSA(前立腺)、α-フェトプロテイン(AFP・主に肝臓)、CA125(卵巣)、CA15-3(乳),CA19-9(消化器)、癌胎児性抗原(CEA・主に消化器)などが知られる。
【0003】
生体試料中の腫瘍マーカーは、多くは腫瘍マーカーに特異的に結合する抗体を用いるイムノアッセイ系で測定される。しかし、生体試料中に、腫瘍マーカーと結合する抗体、いわゆる自己抗体等)が存在することがあり、このような試料を測定した場合に、腫瘍マーカーの測定値が実際よりも低くなる、すなわち偽低値が生じるおそれがあることが知られている(非特許文献1、2)。一方、患者の治療において、腫瘍細胞上のエピトープに結合するマウスモノクローナル抗体を用いて、癌細胞を消滅させるための治療を受けた患者血清中には、抗マウス抗体(HAMA)が産生されることがあるが、このHAMAの影響で、腫瘍マーカーの測定値が実際よりも高くなる、すなわち、偽高値が生じるおそれがあることも知られている(非特許文献3)。さらに、原因は特定されていないが、HAMAおよび抗動物抗体(HAAA:Human anti-animal antibody: HAMAと合わせ以下HAMA等と記す)、低親和性自己抗体として観察される異好性抗体(Heterophile antibody:抗体と合わせて以下自己抗体等と記す)が血中に存在し、偽高値、偽低値の要因となることが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】俵木美幸ら、JICLA Vol.37、No.1、pp.17-20(2012)
【文献】阿部正樹ら、検査と技術 Vol.40、No.2、pp.162-163(2012)
【文献】F.J.Primus et al., Clin. Chem.34/2,pp.261-264(1988)
【文献】Kricka,L.J., Clin.Chem.45/7,pp.942-956(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体試料中の腫瘍マーカーの測定において、自己抗体等の影響による偽低値や、HAMA等の影響による偽高値の発生をいずれも低減し、より正確な測定を可能とする測定方法、及び測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、生体試料中の腫瘍マーカーの測定に際し、前記生体試料を免疫反応に供する前に、界面活性剤及び酸性化剤のいずれか又は両方を含む前処理液とを混和する前処理工程を介することで、自己抗体等、HAMA等の影響を受けず、より正確な腫瘍マーカーの測定値が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の構成は以下の通りである。
(1)生体から分離された試料と、酸性化剤及び陽イオン性界面活性剤を含む前処理液とを混和する前処理工程を含む、生体から分離された試料中の腫瘍マーカーをイムノアッセイにより測定する方法であって、前記試料が血清、血漿、全血、尿、又は便である、方法。
(2)前記前処理液が、陽イオン性界面活性剤以外の界面活性剤をさらに含む、(1)記載の方法。
(3)前処理工程における酸性化剤の終濃度が0.05N超0.5N以下である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記腫瘍マーカーが、PSA、α-フェトプロテイン、CA125、CA15-3、CA19-9、または癌胎児性抗原である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記酸性化剤が、塩酸又は硫酸である、(1)~()のいずれかに記載の方法。
(6)前記前処理工程において混和をする前記試料と前記前処理液との体積比が1:10~10:1である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
(7)生体から分離された、抗動物抗体を含む試料と、酸性化剤及び陽イオン性界面活性剤を含む前処理液とを、後段のイムノアッセイに先立ち混和することを含む、前記試料中の腫瘍マーカーのイムノアッセイにおける抗動物抗体の影響による偽高値の発生を低減する方法。
(8)前記抗動物抗体が抗マウス抗体である、請求項記載の方法。
(9)酸性化剤と陽イオン性界面活性剤とを含む前処理液を備える、請求項1~6のいずれか1項記載の方法による腫瘍マーカーのイムノアッセイ用試薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生体試料中の腫瘍マーカーの測定において、自己抗体等の影響による偽低値や、HAMA等の影響による偽高値の発生をいずれも低減し、より正確な測定を可能とする測定方法、及び測定試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】酸性化前処理液の塩酸濃度とCA19-9の偽高値を呈する血清検体の測定値の相関を示すグラフである。
図2】酸性化前処理液の塩酸濃度とCA19-9標準液の測定値の相関を示すグラフである。
図3】酸性化前処理液の塩酸濃度とCA19-9自己抗体モデル検体の測定値の相関を示すグラフである。
図4】酸性化前処理液の塩酸濃度とPSA自己抗体モデル検体の測定値の相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で記載される「%」の濃度は、特に記載のない限り、重量/体積(w/v)の濃度表示である。
【0011】
<腫瘍マーカーの測定方法>
本発明の方法で測定される腫瘍マーカーは、具体的にはPSA(前立腺)、α-フェトプロテイン(AFP・主に肝臓)、CA125(卵巣)、CA15-3(乳),CA19-9(消化器)、癌胎児性抗原(CEA・主に消化器)から選択されるヒト由来の腫瘍マーカーである。
【0012】
1.前処理工程
本発明の方法は、生体試料と抗体とを反応させる免疫反応により生体試料中に存在する腫瘍マーカーを測定する方法であるが、免疫反応(反応工程)の前に、生体試料と前処理液とを混和することによる前処理工程を含むことを特徴とする。前処理工程により、腫瘍マーカーを自己抗体等から遊離させた状態とし、かつ、HAMA等の非特異反応を阻害することが可能である。前処理液は、界面活性剤及び酸性化剤のいずれかを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。好ましくは、前処理液は、界面活性剤又は酸性化剤のいずれかを含む。
【0013】
前記前処理工程において混和する生体試料と前処理液の体積比は、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。本発明で用いられる生体試料は、腫瘍マーカーを含有し得る試料であれば特に限定されず、例えば、血清、血漿、全血、尿、便、口腔粘膜、咽頭粘膜、腸管粘膜および生検試料(例、腸管試料、肝臓試料)が挙げられる。好ましくは、生体試料は、血清または血漿である。
【0014】
前記前処理液に含まれる界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも使用可能であるが、特に陰イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N-ラウロイルサルコシン、ドデシル硫酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸などを好適に使用でき、特にSDSを好適に使用できる。SDSを使用する場合は、生体試料と混和した前処理時の濃度として、0.1~12.5%、特に0.25~10%、さらに0.5~7.5%とすることが好ましい。SDSの濃度を0.1~10%(w/v)とすることで、腫瘍マーカーに結合した自己抗体等、若しくは、HAMA等の非特異物質を十分に遊離させるとともに、SDSの析出等を生じにくい、という効果を奏する。
【0015】
前記前処理液に含まれる酸性化剤としては、塩酸、硫酸、酢酸等を好適に使用できる。酸性化剤を使用する場合、前処理液の酸の規定度は、前処理時の濃度で0.05N超0.5N以下、特に0.1N以上0.4N以下とすることが好ましい。酸の規定度を0.05N超0.5N以下とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0016】
前処理に酸性化剤を用いる場合、生体試料との混和時に沈澱が生じないよう、陽イオン性界面活性剤を添加することが好ましい。陽イオン界面活性剤としては、特に炭素数10個以上の一本鎖アルキル基と、第3級アミンまたは第4級アンモニウム塩を同分子中に有している陽イオン性界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤の例としては、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(C16TAC)、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)、ラウリルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等が挙げられる。陽イオン界面活性剤の添加量は、検体との混和時の濃度で0.01%以上15%以下が好ましく、さらに、0.05%~10%が好ましい。
【0017】
酸性化剤を含む前処理液には、上記陽イオン性界面活性剤に加えて、さらに非イオン性界面活性剤等の他の界面活性剤が含まれていてもよい。他の界面活性剤の添加により、さらに高感度に腫瘍マーカーを検出することが可能となる。
【0018】
前処理液には、さらに還元剤が使用されてもよい。還元剤としては、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(DEAET)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、ジチオトレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、チオグリセロール、亜硫酸ナトリウム、ボロハイドライド等の既存の還元剤をいずれも使用可能であるが、溶液中の安定性という理由で、DEAET、TCEPを特に好適に使用できる。還元剤の濃度としては、生体試料との混和液の終濃度として0.5~100mM、特に1.0~50mM、さらに2.0~20mMとすることが好ましい。
【0019】
前処理液には、必要に応じて、尿素、チオ尿素等、他のタンパク変性剤が含まれていてもよい。変性剤の濃度は、処理時濃度で0.1M以上が好ましく、さらに0.5M以上4M未満が好ましい。また、前処理液には、処理効果を増強させるために、単糖類、二糖類、クエン酸、及びクエン酸塩類のいずれか、またはこれらを組合せて添加してもよい。さらに、前処理液には、EDTA等のキレート剤が含まれていてもよい。
【0020】
前処理工程は、生体試料と前処理液を混和した後、さらに加熱することが好ましい。特に、前処理液に界面活性剤を使用する場合には、その効果を高めるために加熱をすることが好ましい。加熱温度は35~95℃、特に50~90℃、さらに70~85℃とすることが好ましい。また、加熱時間は、1分以上、特に3分以上、さらに5分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特に存在しないが、通常、60分以下、特には30分以下の加熱時間でよい。
【0021】
2.反応工程
本発明の方法の前処理工程で処理された生体試料混和液は、次いで反応工程に供される。反応工程においては、生体試料混和液を緩衝液と混合させ、混合液中の抗原を測定対象の腫瘍マーカーに対する抗体と反応させる。
【0022】
前記緩衝液としては、例えば、MES緩衝液、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液をベースとしたものが挙げられ、特にリン酸緩衝液をベースとしたものを好適に使用できる。前処理液として界面活性剤を含有するものを使用した場合には、例えば、BSA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)デキストラン硫酸ナトリウムの水溶性高分子を前処理後の混和液と混合した際の終濃度で0.01~10%、特に0.05~5.0%程度含む緩衝液を使用することが好ましい。また、前処理液として酸性化剤を含有するものを使用した場合には、アルカリ剤を含むか、前処理液の酸の影響を緩和し得る緩衝能を有する緩衝液を使用することが好ましい。前処理工程の混和液と緩衝液との混合は、体積比で、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。
【0023】
本発明の方法で使用される腫瘍マーカーに対する抗体は、腫瘍マーカーのアミノ酸配列の少なくとも一部、若しくは糖鎖をエピトープとして認識する抗体である。腫瘍マーカーに対する抗体は、特に限定されず、既知のエピトープを認識する抗体をいずれも使用することができるが、好ましくは、腫瘍マーカーに対する抗体は、腫瘍マーカーに特異的なエピトープを認識する抗体である。
【0024】
腫瘍マーカーに対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよい。腫瘍マーカーに対する抗体は、免疫グロブリン(例、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY)のいずれのアイソタイプであってもよい。腫瘍マーカーに対する抗体はまた、全長抗体であってもよい。全長抗体とは、可変領域および定常領域を各々含む重鎖および軽鎖を含む抗体(例、2つのFab部分およびFc部分を含む抗体)をいう。腫瘍マーカーに対する抗体はまた、このような全長抗体に由来する抗体断片であってもよい。抗体断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。腫瘍マーカーに対する抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0025】
腫瘍マーカーに対する抗体は、従前公知の方法を用いて作製することができる。例えば、腫瘍マーカーに対する抗体は、上記のエピトープを抗原として用いて作製することができる。また、上述したようなエピトープを認識する腫瘍マーカーに対する多数の抗体が市販されているので、このような市販品を使用することもできる。
【0026】
腫瘍マーカーに対する抗体は、固相に固相化されていてもよい。本明細書において、固相に固相化された抗体を、単に固相化抗体ということがある。固相としては、例えば、液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、及びウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)、ならびに液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子等の固相担体)が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、金属、及びカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、又は磁性材料を用いることができるが、操作の簡便性等の観点から、磁性材料が好ましい。固相は、好ましくは固相担体であり、より好ましくは磁性固相担体であり、さらにより好ましくは磁性粒子である。抗体の固相化方法としては、従前公知の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、物理的吸着法、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、及びイオン結合法が挙げられる。特定の実施形態では、腫瘍マーカーに対する抗体は、固相に固相化された抗体であり、好ましくは、磁性の固相に固相化された抗体であり、より好ましくは、磁性粒子に固相化された抗体である。
【0027】
反応工程は、前処理工程の混和液と緩衝液とを混合した後、固相化した抗体に接触させてもよく、また、緩衝液中に例えば粒子上に固相化した抗体を予め入れて粒子液とし、前記混和液と粒子液とを混合させてもよい。反応工程は、例えば免疫凝集法や競合法のように一次反応工程のみで実施してもよいが、二次反応工程を設けてもよい。なお、二次反応工程を設ける場合、一次反応工程と二次反応工程の間に、未反応成分を除去するための洗浄工程を設けてもよい。
【0028】
腫瘍マーカーに対する抗体は、標識物質で標識化されていてもよい。本明細書において、標識物質で標識化された抗体を、単に標識化抗体ということがある。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン)、蛍光物質またはタンパク質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光又は吸光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウム、ルテニウム)、放射性物質(例、H、14C、32P、35S、125I)が挙げられる。また、本発明の方法では二次反応を設ける場合、二次反応に用いる抗体としては、このような標識物質で標識化されていてもよい。
【0029】
特定の実施形態では、本発明の方法は、二次反応に用いる抗体として、腫瘍マーカーに対する抗体と異なるエピトープを認識する腫瘍マーカーに対する別の抗体を含む。このような別の抗体が認識するエピトープの詳細は、上述した腫瘍マーカーに対する抗体について詳述したエピトープと同様である(但し、併用される場合、エピトープの種類は異なる)。腫瘍マーカーに対する抗体により認識されるエピトープと、腫瘍マーカーに対する別の抗体により認識されるエピトープとの組合せは、特に限定されない。このような別の抗体の使用は、例えば、サンドイッチ法が利用される場合に好ましい。
【0030】
3.検出工程
一次抗体又は二次抗体に標識を用いた場合、使用する標識に適した方法、例えば酵素標識を用いた場合は酵素の基質を添加することによって、検出する。例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)を標識抗体として用いた場合は、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を酵素基質として用いた化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)の系とすることができる。
【0031】
本発明の方法は、腫瘍マーカーに対する抗体を使用するイムノアッセイである。このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。これらのイムノアッセイ自体は周知であり、ここで詳しく述べる必要はないが、それぞれ簡単に説明する。
【0032】
直接競合法は、測定すべき標的抗原(本発明では腫瘍マーカー)に対する抗体を固相に固相化し(固相及び固相化については上記のとおり)、非特異吸着を防ぐためのブロッキング処理(血清アルブミン等のタンパク質溶液で固相を処理)後、この抗体と、前記標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)と、一定量の標識した抗原(標識は上記のとおり)とを反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。被検試料中の抗原と標識抗原とが、抗体に対して競合的に結合するので、被検試料中の抗原量が多いほど、固相に結合する標識の量が少なくなる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量(標識の性質に応じて、吸光度、発光強度、蛍光強度等、以下同じ)を測定して、抗原濃度を横軸、標識量を縦軸にとった検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。直接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 20150166678 A1に記載されている。
【0033】
間接競合法では、標的抗原(本発明では腫瘍マーカー)を固相に固相化する(固相及び固相化については上記のとおり)。次いで、固相のブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)と、一定量の抗標的抗原抗体とを混合し、前記固相化抗原と反応させる。洗浄後、固相に結合された前記抗標的抗原抗体を定量する。これは、前記抗標的抗原抗体に対する標識した二次抗体(標識は上記のとおり)を反応させ、洗浄後、標識量を測定することにより行うことができる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。なお、標識二次抗体を用いずに、標識した一次抗体を用いることも可能である。間接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、上記したUS 20150166678 A1に記載されている。
【0034】
サンドイッチ法は、固相に抗標的抗原抗体を固相化し(固相及び固相化については上記のとおり)、ブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)を反応させ、洗浄後、標的抗原に対する標識した二次抗体(標識は上記のとおり)を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。サンドイッチ法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 20150309016 A1に記載されている。
【0035】
上記した各種イムノアッセイのうち、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)、放射イムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)は、上記した直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等を行う際に用いる標識の種類に基づいて分類したイムノアッセイである。化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)は、標識として酵素(例えば、上記したアルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、上記したAMPPD)を用いて、イムノアッセイである。酵素イムノアッセイ法(EIA)は、標識として酵素(例えば、上記したペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ等)を用いるイムノアッセイである。各酵素の基質としては、吸光度測定等により定量可能な化合物が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、1,2-フェニレンジアミン(OPD)や3,3'5,5'-テトラメチルベンチジン(TMB)等、アルカリフォスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等、β-ガラクトシダーゼの場合には、MG:4-メチルウンベリフェリルガラクトシド、NG:ニトロフェニルガラクトシド等、ルシフェラーゼの場合には、ルシフェリン等が用いられる。放射イムノアッセイ(RIA)は、標識として放射性物質を用いる方法であり、放射性物質としては、上記のとおりH、14C、32P、35S、125I等の放射性元素が挙げられる。蛍光イムノアッセイ(FIA)は、標識として蛍光物質または蛍光タンパク質を用いる方法であり、蛍光物質または蛍光タンパク質としては、上記のとおりフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの標識を用いるイムノアッセイ自体はこの分野において周知であり、例えば、US 8039223 BやUS 20150309016 A1に記載されている。
【0036】
免疫比濁法(TIA)は、測定すべき標的抗原(本発明では腫瘍マーカー)と、該抗原に対する抗体との抗原抗体反応により生成された抗原抗体複合物により濁度が増大する現象を利用したイムノアッセイである。抗標的抗原抗体溶液に、種々の既知濃度の抗原を添加し、それぞれ濁度を測定し、検量線を作成する。未知の被検試料について、同様に濁度を測定し、測定された濁度を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。免疫比濁法自体は周知であり、例えば、US 20140186238 A1に記載されている。ラテックス凝集法は、免疫比濁法と類似しているが、免疫比濁法における抗体溶液に代えて、表面に抗標的抗原抗体を固定化したラテックス粒子の浮遊液を用いる方法である。免疫比濁法及びラテックス凝集法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 820,398 Bに記載されている。
【0037】
イムノクロマトグラフィー法は、ろ紙、セルロースメンブレン、ガラス繊維、不織布等の多孔性材料で形成された基体(マトリックスやストリップとも呼ばれる)上で上記したサンドイッチ法や競合法を行う方法である。例えば、サンドイッチ法によるイムノクロマトグラフィー法の場合、抗標的抗原抗体を固定化した検出ゾーンを上記基体上に設け、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)を基体に添加し、上流側から展開液を流して標的抗原を検出ゾーンまで移動させ、検出ゾーンに固定化させる。固定化された標的抗原を、標識した二次抗体でサンドイッチして、検出ゾーンに固定化された標識を検出することにより、被検試料中の標的抗原を検出する。標識二次抗体を含む標識ゾーンを検出ゾーンよりも上流側に形成しておくことにより、標的抗原と標識二次抗体との結合体が検出ゾーンに固定化される。標識が酵素の場合には、酵素の基質を含めた基質ゾーンも検出ゾーンよりも上流側に設けられる。競合法の場合には、例えば、検出ゾーンに標的抗原を固定化しておき、被検試料中の標的抗原と、検出ゾーンに固定化された標的抗原とを競合させることができる。検出ゾーンよりも上流側に標識抗体ゾーンを設けておき、被検試料中の標的抗原と標識抗体を反応させ、未反応の標識抗体を検出ゾーンに固定化して標識を検出又は定量することにより、被検試料中の標的抗原を検出又は定量することができる。イムノクロマトグラフィー法自体は、この分野において周知であり、例えばUS 6210898 Bに記載されている。
【0038】
<腫瘍マーカーの測定試薬>
本発明の腫瘍マーカーの測定試薬は、上述の腫瘍マーカーの測定方法を実現し得る測定試薬である。本発明の測定試薬は、通常のイムノアッセイに使用される構成に加え、界面活性剤及び酸性化剤のいずれか又は両方を含む前処理液を構成成分として含むことを特徴とする。
【0039】
本発明の試薬は、互いに隔離された形態または組成物の形態において各構成成分を含む。具体的には、各構成成分はそれぞれ異なる容器(例、チューブ、プレート)に収容された形態で提供されてもよいが、一部の構成成分が組成物の形態(例、同一溶液中)で提供されてもよい。あるいは、本発明の試薬は、デバイスの形態で提供されてもよい。具体的には、構成成分の全部がデバイス中に収容された形態で提供されてもよい。あるいは、構成成分の一部がデバイス中に収容された形態で提供され、残りのものがデバイス中に収容されない形態(例、異なる容器に収容された形態)で提供されてもよい。この場合、デバイス中に収容されない構成成分は、標的物質の測定の際に、デバイス中に注入されることにより使用されてもよい。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明の試薬は、採用されるべきイムノアッセイの種類に応じた構成を有していてもよい。例えば、サンドイッチ法が採用される場合、本発明の試薬は、必須の構成成分として、i)前処理液、ii)腫瘍マーカーに対する抗体、iii)緩衝液、並びに任意の構成成分として、iv)腫瘍マーカーに対する別の抗体、v)標識物質、vi)希釈液、及び、必要に応じて、vii)標識物質と反応する基質を含んでいてもよい。ii)及びiii)の構成成分は、同一溶液に含まれていてもよい。iv)の構成成分は、v)標識物質で標識化されていてもよい。好ましくは、腫瘍マーカーに対する抗体は、磁性粒子に固相化されていてもよい。
【実施例
【0041】
<実施例1 酸性化前処理の自己抗体干渉回避>
(1)検体調製
自己抗体等を含む検体に代えて、ルミパルスプレストCA19-9、AFP、CA15-3、CA125、CEAの高濃度の標準液を検体希釈液(組成:Tris緩衝液とBSAを含有 )で5倍に希釈し、各試薬の固相化抗体(マウス由来)と同一の遊離抗体を終濃度100μg/mLとなるように添加したものを、自己抗体モデル検体として使用した。使用した各標準液の濃度を表1に示す。併せて、固相化抗体に代えてマウスIgGを100μg/mL添加したものをコントロール検体として使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
各自己抗体モデル検体及びコントロール検体について、検体50μLを酸性化前処理液(2.5M 尿素、0.42M 塩酸、0.08M クエン酸水和物、2.5% マルトース、10.0% CTAB、4.9% TritonX-100(商品名))50μLと混和し、1000rpmの振とう条件下で37℃で6分間加温した。次いで、緩衝液(500mM Bicine、50mM MOPS、200mM NaCl、20mM EDTA3Na、10.0% BSA、0.10% ProClin(登録商標)、NaOH(~pH9.2))を100μL加え、酸性化前処理サンプルとした。同検体について、別途各50μLを、酸性化前処理液50μLと緩衝液100μLとを予め混合した液と混合し、未処理サンプルとした。自己抗体モデル検体とコントロール検体について、ルミパルスプレストCA19-9、AFP、CA15-3、CA125、CEA(富士レビオ社)を用いて各腫瘍マーカーを通常通りに測定した。
【0044】
測定結果を表2に示す。CA19-9、AFP、CA15-3、CA125、CEAのずれの腫瘍マーカーも、未処理の場合は、固相化抗体の添加により反応が阻害され、コントロール検体と比して測定値(カウント値)が顕著に低くなった。一方、酸性化前処理を行った検体については、固相化抗体による反応阻害が回避され、コントロール検体と同等の測定値が得られた。これらの結果より、腫瘍マーカーの測定系において、自己抗体等により生じる偽低値が、検体の酸性化前処理により回避し得ることが示唆された。
【0045】
【表2】
(単位:カウント)
【0046】
<実施例2 酸性化前処理のHAMA阻害効果>
(1)検体前処理
CA19-9測定時にHAMAの影響により偽高値を示す検体1例について、20μLを各濃度の塩酸(0.025N、0.05N、0.1N、0.2N、0.4N、0.6N、0.8N、1.0N、1.2N、1.4N、1.6N、1.8N、2.0N)20μLと混和し、37℃で10分間インキュベーションした。各検体溶液に塩酸と等モルの水酸化ナトリウム溶液40μLを添加して中和し、さらに、緩衝液(24mM リン酸二水素カリウム、76mM リン酸水素二カリウム、1.0% BSA、1.0% PVP、0.05% カゼインナトリウム、0.05% Tween20(商品名)、0.05% 塩化ナトリウム、20mM EDTA2Na、0.1% Proclin(登録商標)300、pH7.0)を80μL添加して測定サンプルとした。同時に、ルミパルスCA19-9の500IU/mL、0IU/mLの標準液をそれぞれPBSで3倍希釈し、検体と同様に酸性化処理、中和、緩衝剤添加を行い、コントロールサンプルとした。
各測定用サンプルについて、ルミパルスプレストCA19-9(富士レビオ社)を用いて、通常通りに測定した。
【0047】
前処理時の塩酸濃度と測定サンプルのカウント値(反応強度を示す)の関係を図1に、コントロールサンプルのカウント値を図2に示す。コントロールサンプルは、塩酸処理によってカウント値にほとんど変動が見られなかったことから、CA19-9自体は前処理の影響を受けないことが分かった。一方で、HAMAによる偽高値が生じる検体については、特に0.1N以上の塩酸による前処理によりカウント値が顕著に低減した。このことより、CA19-9の測定において、酸性化前処理によりHAMAの影響を回避できることが分かった。
【0048】
<実施例3 酸性化前処理の自己抗体干渉回避の至適濃度>
酸性化前処理に用いる酸性化剤について、自己抗体干渉回避に有効な至適濃度を検討した。ルミパルスCA19-9、PSAの高濃度の標準液(CA19-9:500IU/mL、PSA:100ng/mL)をそれぞれ陰性ヒト血清で1/10に希釈し、ルミパルスCA19-9、PSAの固相化抗体と同一の遊離抗体を100μg/mLとなるように添加した後、室温で2時間静置して自己抗体モデル検体を調製した。併せて、固相化抗体に代えてマウスIgGを100μg/mL添加したコントロール検体を調製した。検体各50μLを、酸性化前処理液(2.5M 尿素、塩酸、2.5% マルトース、10.0% CTAB、4.9% TritonX-100)50μLと混和した。酸性化前処理剤は、塩酸を2N、1N、0.8N、0.6N、0.4N、0.2N、0.1N、0.05N、0.025N、0N含むものをそれぞれ調製し、各濃度について同様の検討を行った。酸性化前処理液と混和した検体を1000rpmの振とう条件下で37℃で6分間加温した。次いで、上記塩酸と等量の水酸化ナトリウム溶液を100μL加えて中和した。中和後の溶液に実施例2と同様の緩衝液200μLを添加し、酸性化前処理サンプルとした。各酸性化前処理サンプルについて、ルミパルスプレストCA19-9、PSA(富士レビオ社)を用いて、通常通りに測定した。
【0049】
CA19-9、PSAの自己抗体モデル検体及びコントロール検体の酸性化前処理サンプルの測定結果をそれぞれ図3、4に示す。CA19-9の自己抗体モデル検体では、前処理の塩酸濃度を0.5N~0.9Nとしたときにコントロール検体との測定カウント値の差異が減少する傾向が見られた。一方、PSAの自己抗体モデル検体は、前処理の塩酸濃度を0.2N以上としたときにコントロール検体とのカウント値の差異が減少する傾向が見られた。これらの結果より、検体の酸性化前処理により、腫瘍マーカーの自己抗体等による偽陰性の発生を低減し得ることが示唆された。なお、これらの検討は、自己抗体に代えてCA19-9、PSAとの親和性の強い抗体を使用したモデル検体について行ったため、実際の自己抗体含有検体では、酸性化前処理剤の酸濃度をより低濃度としても偽低値発生を低減できる可能性がある。
【0050】
<実施例4 SDS前処理のHAMA阻害効果>
(1)検体のSDS前処理
CA19-9測定時にHAMAの影響により偽高値を示す検体5例について、各50μLをSDS前処理液(10% SDS、1.5% C14APS、0.225% TritonX-100(商品名)、3.75% EDTA2Na、37.5mM L-トリプトファン、150mM イミダゾール、10mM TCEP)100μLと混和し、1000rpmの振とう条件下で80℃で5分間加熱した。同時に、同じ検体について、前処理液に代えてPBS100μLを添加したものを未処理サンプルとした。さらに、ルミパルスCA19-9標準液についても同様にSDS前処理サンプル、未処理サンプルを調製した。
【0051】
(2)CA19-9の測定
市販のCA19-9測定試薬であるルミパルスプレストCA19-9(富士レビオ社)と、自動分析機ルミパルスプレストII(富士レビオ社)とを用いて各検体を測定した。測定試薬のうち、通常の磁性粒子液に代えて、磁性粒子液と20%BSA溶液とを体積比で5:1で混合したものを使用した以外は、通常の方法と同様に使用した。
【0052】
(3)結果
SDS前処理サンプルと未処理サンプルのCA19-9カウント値の比較を表3に示す。すべての検体において、カウント値が顕著に低下した。一方で、標準液のカウント値に大きな変動がなかったことから、前処理により、CA19-9分子自体には負の影響を与えることなく、HAMAの偽高値のみ回避し得ることが示唆された。
【0053】
【表3】
【0054】
<実施例5 SDS前処理の自己抗体干渉回避>
実施例1と同様の方法で、CA19-9の自己抗体モデル検体及びコントロール検体を調製し、実施例4と同様の方法で検体前処理、CA19-9の測定を行った。CA19-9の測定結果を表4に示す。未処理の場合は、自己抗体モデル検体では、固相化抗体の添加により反応が阻害され、コントロール検体と比してカウント値が顕著に低くなった。一方、SDS前処理を行った検体については、固相化抗体による反応阻害が回避され、コントロール検体と同等の測定値が得られた。これにより、腫瘍マーカーの測定系において、自己抗体等により生じる偽低値を、検体のSDS前処理により回避し得ることが示唆された。
【0055】
【表4】
図1
図2
図3
図4