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特許7345008外科手術システムに使用されるマニピュレータアーム、ロボットシステムおよび外科用器具の並進方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】外科手術システムに使用されるマニピュレータアーム、ロボットシステムおよび外科用器具の並進方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/30 20160101AFI20230907BHJP
   B25J 17/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
A61B34/30
B25J17/02 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022070226
(22)【出願日】2022-04-21
(62)【分割の表示】P 2020182563の分割
【原出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2022097546
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018243446
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】須賀 和則
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-253162(JP,A)
【文献】特開2011-045500(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0209292(US,A1)
【文献】特開平08-141969(JP,A)
【文献】特開平11-123675(JP,A)
【文献】実開平02-031942(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/30-34/37
B25J 17/00-18/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科手術システムに使用されるマニピュレータアームであって、
複数のリンク部と複数の関節を備えたアーム本体部と、
前記アーム本体部の先端部に設けられる並進機構と、を備え、
前記並進機構は、
前記アーム本体部の先端部に連結される基端側ユニットと、
外科用器具が取り付けられる器具保持部を備えた先端側ユニットと、
前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを連結する連結ユニットと、を備え、
前記器具保持部は、第1モータおよび前記第1モータの出力を減速させて増大したトルクで前記外科用器具を駆動する減速機を備え
前記連結ユニットは、前記連結ユニットの長手方向における記基端側ユニットと前記先端側ユニットの位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されている連動機構と、前記連動機構を駆動するための第2モータと、を備える、マニピュレータアーム。
【請求項2】
前記基端側ユニットは、第1摺動機構を介して前記連結ユニットの長手方向に相対移動可能に前記連結ユニットに接続され、
前記先端側ユニットは、第2摺動機構を介して前記長手方向に相対移動可能に前記連結ユニットに接続され、
前記基端側ユニットが前記連結ユニットに対して前記長手方向の第1方向に移動するとき、前記先端側ユニットは、前記連結ユニットに対して前記第1方向とは反対の第2方向に移動するように構成されている、請求項1に記載のマニピュレータアーム。
【請求項3】
前記器具保持部は、前記第1モータの回転角を検出するエンコーダを備える、請求項1または2に記載のマニピュレータアーム。
【請求項4】
前記器具保持部は、複数の前記第1モータと、複数の前記減速機と、複数の前記エンコーダと、を備える、請求項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項5】
前記基端側ユニットは、前記アーム本体部の先端部に曲げ関節を介して接続されている、請求項1からの何れか1項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項6】
前記連結ユニットは、連動機構を備え、
前記連動機構は、前記基端側ユニットと前記先端側ユニットの前記長手方向における位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されている、請求項1からの何れか1項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項7】
前記基端側ユニットに対する前記先端側ユニットの相対位置変化速度は、前記基端側ユニットに対する前記連結ユニットの相対位置変化速度の2倍である、請求項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項8】
前記マニピュレータアームは、7以上の自由度を有する、請求項1から7の何れか1項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項9】
前記アーム本体部は、7自由度を有する、請求項1から8の何れか1項に記載のマニピュレータアーム。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1項に記載のマニピュレータアームと、
前記マニピュレータアームの移動の指示の入力を受け付ける操作装置と、
前記指示に応じて前記マニピュレータアームを移動させる制御装置と、を備える、ロボットシステム。
【請求項11】
外科手術システムに使用されるマニピュレータアームにおける外科用器具の並進方法であって、
前記マニピュレータアームは、
複数のリンク部と複数の関節を備えたアーム本体部と、
前記アーム本体部の先端部に設けられる並進機構と、を備え、
前記並進機構は、
前記アーム本体部の先端部に連結される基端側ユニットと、
外科用器具が取り付けられる器具保持部を備えた先端側ユニットと、
前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを連結する連結ユニットと、を備え、
前記器具保持部は、第1モータおよび前記第1モータの出力を減速させて増大したトルクで前記外科用器具を駆動する減速機を備え、
前記連結ユニットは、前記連結ユニットの長手方向における記基端側ユニットと前記先端側ユニットの位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されている連動機構と、前記連動機構を駆動するための第2モータと、を備え、
前記並進方法は、
前記基端側ユニットを、前記連結ユニットの長手方向の第1方向に移動させることに連動して、前記先端側ユニットを、前記第1方向とは反対の第2方向に移動させる、外科用器具の並進方法。
【請求項12】
前記基端側ユニットに対する前記先端側ユニットの相対位置変化速度は、前記基端側ユニットに対する前記連結ユニットの相対位置変化速度の2倍である、請求項11に記載の並進方法。
【請求項13】
前記マニピュレータアームは、7以上の自由度を有する、請求項11または12に記載の並進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術システムに使用されるマニピュレータアーム、ロボットシステムおよび外科用器具の並進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のマニピュレータアームを備え、施術者の操作に基づいて当該複数のマニピュレータアームを動かして外科手術を行うマスタ-スレーブ型のシステムが知られている(例えば特許文献1,2等参照)。このようなシステムにおいては、各マニピュレータアームの先端部に外科用器具が取り付けられ、取り付けられた外科用器具を直線移動させる並進機構を備えている。
【0003】
マニピュレータアームの先端部に取り付けた外科用器具を直線移動させる並進機構として、ベースリンク、アイドラーリンクおよびキャリッジリンクを伸縮するように設けたマニピュレータが知られている(下記特許文献3参照)。特許文献3に記載された並進機構は、3つのリンクにおいて1つ目のリンクに対する2つ目のリンクの移動方向および2つ目のリンクに対する3つ目のリンクの移動方向とすることで3つのリンクの伸縮を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-515524号公報
【文献】特表2017-513550号公報
【文献】米国特許第8182470号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の並進機構では、外科用器具の直線移動速度について改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、簡単な構成で外科用器具の直線移動を迅速に行うことができる外科手術システムに使用されるマニピュレータアーム、ロボットシステムおよび外科用器具の並進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る外科手術システム用のマニピュレータアームは、複数のリンク部と複数の関節を備えたアーム本体部と、前記アーム本体部の先端部に設けられる並進機構と、を備え、前記並進機構は、前記アーム本体部の先端部に連結される基端側ユニットと、外科用器具が取り付けられる器具保持部を備えた先端側ユニットと、前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを連結する連結ユニットと、を備え、前記器具保持部は、第1モータおよび前記第1モータの出力を減速させて増大したトルクで前記外科用器具を駆動する減速機を備え、前記連結ユニットは、前記連結ユニットの長手方向における記基端側ユニットと前記先端側ユニットの位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されている連動機構と、前記連動機構を駆動するための第2モータと、を備える。前記基端側ユニットは、第1摺動機構を介して前記連結ユニットの長手方向に相対移動可能に前記連結ユニットに接続され、前記先端側ユニットは、第2摺動機構を介して前記長手方向に相対移動可能に前記連結ユニットに接続され、前記基端側ユニットが前記連結ユニットに対して前記長手方向の第1方向に移動するとき、前記先端側ユニットは、前記連結ユニットに対して前記第1方向とは反対の第2方向に移動するように構成されていてもよい。
【0008】
前記器具保持部は、前記第1モータの回転角を検出するエンコーダを備えてもよい。
【0009】
前記器具保持部は、複数の前記第1モータと、複数の前記減速機と、複数の前記エンコーダと、を備えてもよい。
【0010】
前記基端側ユニットは、前記アーム本体部の先端部に曲げ関節を介して接続されていてもよい
【0011】
前記連結ユニットは、連動機構を備え、前記連動機構は、前記基端側ユニットと前記先端側ユニットの前記長手方向における位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されていてもよい。
【0012】
前記基端側ユニットに対する前記先端側ユニットの相対位置変化速度は、前記基端側ユニットに対する前記連結ユニットの相対位置変化速度の2倍であってもよい。
【0013】
前記連結ユニットは、前記連動機構を駆動するための第2モータを備えてもよい。
【0014】
前記マニピュレータアームは、7以上の自由度を有してもよい。前記アーム本体部は、7自由度を有してもよい。
【0015】
本発明の他の態様に係るロボットシステムは、上記構成のマニピュレータアームと、前記マニピュレータアームの移動の指示の入力を受け付ける操作装置と、前記指示に応じて前記マニピュレータアームを移動させる制御装置と、を備える。
【0016】
本発明の他の態様に係る外科用器具の並進方法は、外科手術システムに使用されるマニピュレータアームにおける外科用器具の並進方法であって、前記マニピュレータアームは、複数のリンク部と複数の関節を備えたアーム本体部と、前記アーム本体部の先端部に設けられる並進機構と、を備え、前記並進機構は、前記アーム本体部の先端部に連結される基端側ユニットと、外科用器具が取り付けられる器具保持部を備えた先端側ユニットと、前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを連結する連結ユニットと、を備え、前記器具保持部は、第1モータおよび前記第1モータの出力を減速させて増大したトルクで前記外科用器具を駆動する減速機を備え、前記連結ユニットは、前記連結ユニットの長手方向における記基端側ユニットと前記先端側ユニットの位置が相対的に変化するように前記基端側ユニットと前記先端側ユニットとを移動させるように構成されている連動機構と、前記連動機構を駆動するための第2モータと、を備え、前記並進方法は、前記基端側ユニットを、前記連結ユニットの長手方向の第1方向に移動させることに連動して、前記先端側ユニットを、前記第1方向とは反対の第2方向に移動させる。
【0017】
前記基端側ユニットに対する前記先端側ユニットの相対位置変化速度は、前記基端側ユニットに対する前記連結ユニットの相対位置変化速度の2倍であってもよい。
【0018】
前記マニピュレータアームは、7以上の自由度を有してもよい。
【0019】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、および利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、簡単な構成で外科用器具の直線移動を迅速に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る外科手術システムの全体的な構成を示す概略図である。
図2図2は、図1に示す外科手術システムにおけるマニピュレータアームの全体的な構成を示す概略図である。
図3図3は、図2に示す第4リンクを模式的に例示する側面図である。
図4図4は、図1に示す外科手術システムのマニピュレータアームの制御系統の概略構成を示すブロック図である。
図5図5は、本実施の形態における並進機構の連結ユニットにおける内部構造を示す概略図である。
図6図6は、本実施の形態における並進機構の連結ユニットにおける内部構造を示す概略図である。
図7図7は、図6に示す伸長状態における電気配線回路を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、以下では、全ての図を通じて、同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る並進機構が適用される外科手術システムの全体的な構成を示す概略図である。外科手術システム100は、ロボット支援手術またはロボット遠隔手術等のように、医師等の施術者が患者側システム1を用いて患者Pに内視鏡外科手術を施すシステムである。なお、図1は、ポジショナ7と、複数のマニピュレータアーム3との大きさの比率を実際とは異なる比率で記載している。
【0024】
外科手術システム100は、患者側システム1と、この患者側システム1を操る操作装置2(後述する図4参照)とを備えている。操作装置2は、患者側システム1から離れて配置され、施術時において患者側システム1は操作装置2によって遠隔操作される。施術者は患者側システム1に行わせる動作を操作装置2に入力し、操作装置2はその動作指令を患者側システム1に送信する。そして、患者側システム1は、操作装置2から送信された動作指令を受け取り、この動作指令に基づいて患者側システム1が具備する長軸状のシャフトを有する外科用器具40等を動作させる。
【0025】
操作装置2は、外科手術システム100と施術者との間のインターフェースを構成し、患者側システム1を操作するための装置である。操作装置2は、手術室内において手術台111の傍らにまたは手術台111から離れて、あるいは、手術室外に設置されている。操作装置2は、図示しないが、施術者が動作指令を入力するための操作用マニピュレータアームおよび操作ペダル等の操作入力部と、外科用器具40として患者側システム1に取り付けられる内視鏡アセンブリ(図示せず)で撮影された画像を表示するモニタとを含む。施術者は、モニタで患部(施術部位110)を視認しながら、操作入力部を操作して操作装置2に動作指令を入力する。操作装置2に入力された動作指令は、有線または無線により患者側システム1の後述する制御部600に伝達される。
【0026】
患者側システム1は、外科手術システム100と患者Pとのインターフェースを構成する。患者側システム1は、手術室内において患者Pが横たわる手術台111の傍らに配置されている。手術室内は滅菌された滅菌野である。
【0027】
患者側システム1は、ポジショナ7と、ポジショナ7の先端部に取り付けられたアームベース(プラットフォーム)5と、アームベース5に着脱可能に取り付けられた複数の患者側マニピュレータアーム(以下、単に「アーム3」という)とを備えている。ポジショナ7は、所定の基台から延び、所定の基台とアームベース5との間を連結するものである。本実施の形態において、ポジショナ7は、多軸ロボットとして構成されており、所定の基台である移動可能な台車70に対してアームベース5の位置を3次元的に移動させることができる。アーム3およびアームベース5は、滅菌ドレープ(図示せず)で覆われ、アーム3およびアームベース5が手術室内の滅菌野から遮蔽される。
【0028】
複数のアーム3の先端部は、それぞれ外科用器具40を保持可能で駆動可能な器具保持部36として構成されている。複数のアーム3のうち1本のアームの先端部には、内視鏡アセンブリ(図示せず)が保持される。複数のアーム3のうち余のアームの先端部には、インストゥルメント42が着脱可能に保持される。以下、内視鏡アセンブリが取り付けられたアーム3を「カメラアーム」ということがあり、インストゥルメント42が取り付けられたアーム3を「インストゥルメントアーム」ということがある。本実施の形態における患者側システム1は、1本のカメラアームと3本のインストゥルメントアームとの、合わせて4本のアーム3を備えている。
【0029】
上記の患者側システム1において、アームベース5は、複数のアーム3の拠点となる「ハブ」としての機能を有している。本実施の形態では、ポジショナ7およびアームベース5によって、複数のアーム3を移動可能に支持するマニピュレータアーム支持体10が構成されている。ただし、ポジショナ7は多軸ロボットでなくてもよい。例えば、ポジショナ7は、アームベース5を支持するための直動レール、昇降装置、あるいは、天井または壁に取り付けられたブラケットであってもよい。ポジショナ7が接続される所定の基台は、台車70のように移動可能な構成に限られない。例えば、所定の基台は、手術室の壁、床またはこれらに固定された固定物でもよい。
【0030】
上記の患者側システム1では、ポジショナ7から内視鏡アセンブリまたは各インストゥルメント42まで、要素が一連に繋がっている。本明細書では、上記一連の要素において、ポジショナ7(より詳細には、ポジショナ7の台車70との接続部であるベース90)へ向かう側の端部を「基端部」といい、その反対側の端部を「先端部」ということとする。
【0031】
以下、台車70、ポジショナ7、アームベース5、および複数のマニピュレータアーム3について詳細に説明する。
【0032】
図1に示すように、台車70は、台車本体71と、前輪72および後輪73と、ハンドル74とを備えている。前輪72および後輪73は、台車本体71に回転可能に取り付けられ、これにより、台車本体71は、移動可能に構成されている。後輪73は、ハンドル74の回動軸回りに回動可能に構成されており、施術者または施術補助者Oがハンドル74を把持して回動軸回りに回動させることにより台車本体71の進行方向を変更することが可能である。
【0033】
患者側システム1は、制御部600により動作制御される。制御部600は、例えばマイクロコントローラ等のコンピュータにより構成される。台車本体71の内部には、制御部600および動作制御に用いられる制御プログラムおよび各種データが記憶される記憶部602が格納されている。また、台車本体71には、主に施術前におけるポジショナ7、アームベース5および複数のアーム3の位置および姿勢(後述する準備姿勢)を設定入力するための操作部604が設けられる。604は、例えばタッチパネル等により構成される。
【0034】
ポジショナ7は、台車本体71に取り付けられるベース90と、ベース90から先端部に向けて順次連結された複数のポジショナリンク部を備えている。ポジショナ7は、一のポジショナリンク部が他の一のポジショナリンク部に対して回動するように順に連結されることにより複数の関節部を構成する。複数のポジショナリンク部は、第1リンク91~第6リンク96を含む。複数の関節部は、第1関節J71~第7関節J77を含む。なお、本実施の形態における複数の関節部は、回転軸を備えた回転関節により構成されているが、少なくとも一部の関節部が直動関節により構成されてもよい。
【0035】
より詳細には、ベース90の先端部に、捩り(ロール)関節である第1関節J71を介して第1リンク91の基端部が連結されている。第1リンク91の先端部に、曲げ(ピッチ)関節である第2関節J72を介して第2リンク92の基端部が連結されている。第2リンク92の先端部に、曲げ関節である第3関節J73を介して第3リンク93の基端部が連結されている。第3リンク93の先端部に、捩り関節である第4関節J74を介して第4リンク94の基端部が連結されている。第4リンク94の先端部に、曲げ関節である第5関節J75を介して第5リンク95の基端部が連結されている。第5リンク95の先端部に、捩り関節である第6関節J76を介して第6リンク96の基端部が連結されている。第6リンク96の先端部に、捩り関節である第7関節J77を介してアームベース5のポジショナ取り付け部51が連結されている。これにより、ポジショナ7は、複数の自由度(7自由度)を有する多軸関節(7軸関節)アームとして構成される。
【0036】
上述した通り、アームベース5のポジショナ取り付け部51に取り付けられるポジショナリンク部である第6リンク96は、基端側の関節部である第6関節J76および先端側の関節部である第7関節J77の双方が捩り関節として構成されている。さらに、本実施の形態において、第6関節J76の回転軸は、第7関節J77の回転軸に対して相対的に傾斜している。より具体的には、第6関節J76の回転軸は、第6リンク96の長手方向に対して傾斜しており、第7関節J77の回転軸は、第6リンク96の長手方向に直交している。第6関節J76の回転軸と第7関節J77の回転軸は、それぞれの延長線で交差する。すなわち、第6関節J76の回転面は、第7関節J77の回転面に対して傾斜している。
【0037】
アームベース5は、アームベース本体50と、アームベース本体50の上部(基端側)に取り付けられ、ポジショナ7の先端部が取り付けられるポジショナ取り付け部51と、アームベース本体50の下部(先端側)に取り付けられ、複数のアーム3の基端部が取り付けられる少なくとも1つのアーム取り付け部52と、を備えている。アームベース5は、ポジショナ7の先端部(第6リンク96)に対して第7関節J77の回転軸であるアームベース回転軸V77回りに相対回転可能に構成される。本実施の形態において、複数(4つ)のアーム3に応じて複数(4つ)のアーム取り付け部52が設けられている。複数のアーム3のベース80が複数のアーム取り付け部52に固定されることにより、複数のアーム3の基端部(後述する第1リンク81)は、後述する第1関節J31の回転軸であるアーム基端部回転軸V31回りに相対回転可能に構成される。
【0038】
図2は、図1に示す外科手術システムにおけるマニピュレータアームの全体的な構成を示す概略図である。図2には、患者側システム1が備える複数のアーム3のうちのインストゥルメント42が取り付けられた1本のアーム3の概略構成が示されている。なお、本実施の形態では、患者側システム1が具備する複数のアーム3はいずれも同様または類似の構成を有するが、複数のアーム3のうち少なくとも1本が他のアームと異なる構成(例えば異なる自由度を有する等)を有してもよい。図2に示すように、アーム3は、アーム本体部30と、アーム本体部30の先端部に連結された並進機構35とを備えている。複数のアーム3は、それぞれの先端部が基端部に対して3次元的に移動可能なように構成されている。アーム3の先端部には、外科用器具40(インストゥルメント42または内視鏡アセンブリ)を保持可能な器具保持部36が設けられる。器具保持部36には外科用器具40の駆動ユニット45に設けられた4つの回転体と係合する4つの回転駆動部が設けられており、各回転駆動部はモータM39を内蔵している。本実施の形態において、器具保持部36は、並進機構35に設けられる。
【0039】
インストゥルメント42は、基端部に設けられた駆動ユニット45と、先端部に設けられたエンドエフェクタ(処置具)44と、駆動ユニット45とエンドエフェクタ44との間を繋ぐ細長いシャフト43とを有している。インストゥルメント42には長軸方向Dtが規定されており、駆動ユニット45、シャフト43、およびエンドエフェクタ44は長軸方向Dtに沿って配置される。駆動ユニット45は、器具保持部36の4つの回転駆動部と係合する4つの回転体を有しており、各回転体の回転をケーブルやロッド等の細長要素を介してエンドエフェクタ44に伝えるように構成されている。インストゥルメント42のエンドエフェクタ44は、動作する関節を有する外科用器具(例えば、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、および、クリップアプライヤー等)、ならびに、関節を有しない外科用器具(例えば、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、および、吸引オリフィス等)を含む群より選択される。本明細書および特許請求の範囲における「外科用器具」には、内視鏡アセンブリを構成するカメラならびに照明および各インストゥルメントの双方が含まれる。
【0040】
アーム3がインストゥルメントアームの場合、器具保持部36には、インストゥルメント42が着脱可能に保持される。器具保持部36に保持されたインストゥルメント42のシャフト43は、長軸方向Dtに沿って延在する。また、アーム3がカメラアームの場合、器具保持部36には、内視鏡アセンブリが着脱可能に保持される。ここで、カメラアームに設ける器具保持部36は、インストゥルメントアームに設ける器具保持部36と同じ形状および構造を有しているが、異なる形状または構造を有していてもよい。
【0041】
アーム3は、アームベース5に対し着脱可能に構成されている。アーム3は、洗浄処理および滅菌処理のための耐水性、耐熱性、および耐薬品性を備えている。アーム3の滅菌処理には様々な方法があるが、例えば、高圧蒸気滅菌法、EOG滅菌法、消毒薬による化学滅菌法等が選択的に用いられ得る。
【0042】
アーム本体部30は、アームベース5に着脱可能に取り付けられるベース80と、ベース80から先端部に向けて順次連結された複数のアームリンク部を備えている。アーム3は、一のアームリンク部が他の一のアームリンク部に対して回動するように順に連結されることにより複数の関節部を構成する。複数のアームリンク部は、第1リンク81~第7リンク87を含む。複数の関節部は、第1関節J31~第7関節J37を含む。なお、本実施の形態における複数の関節部は、回転軸を備えた回転関節により構成されているが、少なくとも一部の関節部が直動関節により構成されてもよい。
【0043】
より詳細には、ベース80の先端部に、捩り(ロール)関節である第1関節J31を介して第1リンク81の基端部が連結されている。第1リンク81の先端部に、曲げ(ピッチ)関節である第2関節J32を介して第2リンク82の基端部が連結されている。第2リンク82の先端部に、捩り関節である第3関節J33を介して第3リンク83の基端部が連結されている。第3リンク83の先端部に、曲げ関節である第4関節J34を介して第4リンク84の基端部が連結されている。第4リンク84の先端部に、捩り関節である第5関節J35を介して第5リンク85の基端部が連結されている。第5リンク85の先端部に、曲げ関節である第6関節J36を介して第6リンク86の基端部が連結されている。第6リンク86の先端部に、曲げ関節である第7関節J37を介して並進機構35の基端部が連結されている。これにより、アーム3は、複数の自由度(7自由度)を有する多軸関節(7軸関節)アームとして構成される。したがって、アーム3は、当該アーム3の先端部の位置姿勢を変化させることなくアーム3の全体的な姿勢を変えることができる。
【0044】
本実施の形態において、第1リンク81は、隣接する関節J31,J32間において折り曲げられた形状を有している。言い換えると、第1リンク81は、第1関節J31の回転軸と第2関節J32の回転軸とが交差しないように構成されている。すなわち、第1リンク81は、基端側の第1関節J31から所定の第1方向(第1関節J31の回転軸方向)に延びる第1部分81aと、第1部分81aの先端部から第1部分81aの延出方向に交差する第2方向(かつ第2関節J32に直交する方向)に延びて先端側の第2関節J32に接続される第2部分81bとを有する。第1リンク81における第1方向と第2方向とのなす角は、例えば120度以上かつ160度以下(例えば140度)である。なお、第1部分81aと第2部分81bとは滑らかに繋がっている。これにより、一部のアームリンク部が折り曲げられた形状を有していても、複数のアームリンク部内に電気配線等のワイヤ(図示せず)を通し易くすることができる。
【0045】
さらに、第4リンク84は、隣接する関節J34,J35間において折り曲げられた形状を有している。言い換えると、第4リンク84は、第4関節J34の回転軸と第5関節J35の回転軸とが交差しないように構成されている。すなわち、第4リンク84は、基端側の第4関節J34から所定の第1方向(第4関節J34の回転軸および第5関節J35の回転軸の双方に直交する方向)に延びる第1部分84aと、第1部分84aの先端部から第1部分84aの延出方向に交差する第2方向(第5関節J35の回転軸方向)に延びて先端側の第5関節J35に接続される第2部分84bとを有する。第4リンク84における第1方向と第2方向とのなす角は、例えば70度以上かつ110度以下(例えば90度)である。なお、第1部分84aと第2部分84bとは滑らかに繋がっている。
【0046】
特に、第4リンク84は、リンク長が他の関節部より短いように構成されている。図3は、図2に示す第4リンク84を模式的に例示する側面図である。図3に示すように、例えば、第4リンク84は、第4関節J34の回転軸と第5関節J35の回転軸との間の第1方向に関する長さL1が、第4関節J34の半径R4または第5関節J35の半径R5の4倍以下、より好ましくは3倍以下となるように構成されている。なお、第4関節J34の半径R4は、第4関節J34の回転軸と、第4リンク84の第1方向における基端部位置との間の距離として定義される。また、第5関節J35の半径R5は、第5関節J35の回転軸と、第4リンク84の第1方向における先端部位置との間の距離として定義される。また、第4リンク84は、上記長さL1が、第4関節J34の半径R4と第5関節J35の半径R5との和の2倍以下となるように構成されている。より好ましくは、上記長さL1は、第4関節J34の半径R4と第5関節J35の半径R5との和に、第4関節J34の半径R4および第5関節J35の半径R5のうちの短い方の半径R5を加えた長さより短い長さとなっている。
【0047】
その他のリンク82,83,85,86は、隣接する関節部間において直線状に形成されている。言い換えると、その他のリンク82,83,85,86は、隣接する関節部の回転軸同士が交差するように構成されている。
【0048】
各アームリンク部は、そのアームリンク部より基端部側に接続されるアームリンク部(またはベース80)より長手方向に直交する断面の面積が小さくなるように構成される。これにより、アーム3は、基端部から先端部に向かうに従って段々細くなるように構成される。さらに、曲げ関節である各関節J32,J34,J36は、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部が関節部における回転軸方向中央部を基準として回転軸方向一方側に位置し、先端部側のアームリンク部82,84,86の基端部が関節部における回転軸方向中央部を基準として回転軸方向他方側において基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部に対面するように位置するように構成される。すなわち、これらの関節J32,J34,J36は、相欠き接合により構成される。
【0049】
その上で、当該関節部における回転軸方向の幅、すなわち、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部の回転軸方向外端部と、先端部側のアームリンク部82,84,86の基端部の回転軸方向外端部との間の距離が、基端部側のアームリンク部81,83,85の先端部より基端部側に位置する部分の長手方向に直交する断面の直径(最大寸法)より短い。
【0050】
このように、各関節部およびそれの先端部側のアームリンク部が基端部側のアームリンク部に比べて幅狭に構成されることにより、患者Pの施術部位110に近接するほど狭くなるワークスペースにおいて、各アーム3の移動範囲(他のアーム3と干渉しない範囲)を増大させることができる。
【0051】
アーム本体部30の外殻は、主にステンレス等の耐熱性および耐薬品性を有する部材で形成されている。また、アーム本体部30の点検穴等の開口部は、樹脂製のカバーで覆われている。当該カバーを樹脂等の部材で形成することにより、アーム3の強度に寄与しない部分の軽量化を図ることができる。これにより、カバーが万が一にも落下したり、アーム3が他のアーム3または施術補助者O等にぶつかっても、その衝撃を軽減することができる。なお、アーム本体部30の外殻自体が樹脂部材で構成される部分を含んでもよい。また、リンク同士の連結部には、耐水性を備えるためのシール(図示せず)が設けられている。このシールは、高圧蒸気滅菌法に対応する耐熱性や、消毒薬に対する耐薬品性を備えている。なお、リンク同士の連結部において、連結される一方のリンクの端部の内側に他方のリンクの端部が挿入されており、これらのリンクの端部同士の間を埋めるようにシールが配置されることによって、シールが外観から隠蔽されている。これにより、シールとリンクとの間から水、薬液、蒸気の浸入が抑制されている。
【0052】
並進機構35は、アーム本体部30の先端部に設けられる。並進機構35は、並進機構35の先端部に取り付けられた器具保持部36を長軸方向Dtに並進移動させることにより、器具保持部36に取り付けられたインストゥルメント42をシャフト43の延在方向に並進移動させる機構である。
【0053】
並進機構35は、アーム本体部30の先端部(第6リンク86の先端部)に、曲げ関節である第7関節J37を介して連結される基端側ユニット61と、先端側ユニット62と、基端側ユニット61と先端側ユニット62とを連動させる連結ユニット63と、連結ユニット63内に設けられた連動機構60(後述する図6参照)とを有する。第7関節J37は、長軸方向Dtに直交する方向に延びている。連結ユニット63は、長軸方向Dtに沿って延びている。
【0054】
並進機構35は、連動機構60により、基端側ユニット61と連結ユニット63との長軸方向Dtにおける相対位置が変化するとともに、連結ユニット63と先端側ユニット62との長軸方向Dtにおける相対位置が変化することにより、基端側ユニット61に対して先端側ユニット62に設けられた器具保持部36に取り付けられたインストゥルメント42の長軸方向Dtに関する位置を変化させることができる。並進機構35のより詳しい構成については後述する。
【0055】
図4は、図1に示す外科手術システムのマニピュレータアームの制御系統の概略構成を示すブロック図である。上記構成のアーム本体部30には、アーム3の各関節J31~J37に対応して、駆動用のサーボモータ(図4ではSMと表記)M31~M37、サーボモータM31~M37の回転角を検出するエンコーダ(図4ではENと表記)E31~E37、および、サーボモータM31~M37の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図示せず)が設けられる。同様に、ポジショナ7には、ポジショナ7の各関節J71~J77に対応して、駆動用のサーボモータM71~M77、サーボモータM71~M77の回転角を検出するエンコーダE71~E77、および、サーボモータM71~M77の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図示せず)が設けられる。
【0056】
なお、図4では、関節J31~J37,J71~J77のうち、アーム3の第1関節J31および第7関節J37と、ポジショナ7の第1関節J71および第7関節J77との制御系統が代表的に示され、その他の関節J33~J36,J72~J76の制御系統は省略されている。さらに、並進機構35には、並進動作のために後述する第1プーリ65を回転させるためのサーボモータM38と、外科用器具40の駆動ユニット45に設けられた4つの回転体を回転させるための複数(例えば4つ)のサーボモータM39と、サーボモータM38,M39の回転角を検出するエンコーダE38,E39と、サーボモータM38,M39の出力を減速させてトルクを増大させる減速機(図示せず)とが設けられる。
【0057】
なお、エンコーダE31~E39,E71~E77は、サーボモータM31~M39,M71~M77の回転位置(回転角)を検出する回転位置検出手段の一例として設けられており、エンコーダE31~E39,E71~E77に代えてレゾルバ等の回転位置検出手段が用いられてもよい。また、アーム3の駆動系統の上記の各要素およびこれらのための配線ならびに制御部は、耐高温材料で構成され、滅菌処理のための耐熱性が備えられている。
【0058】
制御部600は、動作指令に基づいて複数のアーム3の移動を制御するアーム制御部601および動作指令に基づいてポジショナ7の移動を制御するポジショナ制御部603を含む。アーム制御部601にはサーボ制御部C31~C39が電気的に接続され、図示されない増幅回路等を介してサーボモータM31~M39が電気的に接続されている。同様に、ポジショナ制御部603にはサーボ制御部C71~C77が電気的に接続され、図示されない増幅回路等を介してサーボモータM31~M39が電気的に接続されている。
【0059】
上記構成において、施術時に操作装置2に入力された動作指令に基づいて、アーム制御部601にアーム3の先端部の位置姿勢指令が入力される。アーム制御部601は、位置姿勢指令に基づいて各サーボモータM31~M39の位置指令値を生成し、対応するサーボ制御部C31~C39に出力する。この位置指令値を取得したサーボ制御部C31~C39は、エンコーダE31~E39で検出された回転角および位置指令値に基づいて駆動指令値(トルク指令値)を生成して出力する。この駆動指令値を取得した増幅回路は、駆動指令値に対応した駆動電流をサーボモータM31~M39へ供給する。このようにして、アーム3の先端部が、位置姿勢指令と対応する位置および姿勢に到達するように、各サーボモータM31~M39がサーボ制御される。また、施術前に操作部604に入力された動作指令に基づいて、ポジショナ制御部603にポジショナ7の先端部の位置姿勢指令が入力される。ポジショナ制御部603は、アーム制御部601と同様に、位置姿勢指令に基づいてポジショナ7の位置および姿勢の制御を行う。
【0060】
また、制御部600には、アーム制御部601にデータを読み出し可能な記憶部602が設けられ、手術情報が予め記憶されている。この手術情報には、手術で使用される複数のアーム3の組み合わせが含まれている。
【0061】
また、記憶部602には、アーム3の先端部に保持される外科用器具(内視鏡アセンブリまたは各インストゥルメント)の長軸方向Dtに沿った長さ等の情報が記憶されている。これにより、アーム制御部601は、アーム3の先端部の位置姿勢指令に基づいて、当該アーム3の先端部に保持された外科用器具の先端部の位置を把握可能となっている。
【0062】
以下、本実施の形態における並進機構35についてより詳細に説明する。図5および図6は、本実施の形態における並進機構の連結ユニットにおける内部構造を示す概略図である。図5は収縮状態を示し、図6は伸長状態を示す。
【0063】
連結ユニット63は、基端側ユニット61が長軸方向Dtに摺動可能に取り付けられる第1壁部631と、先端側ユニット62が長軸方向Dtに摺動可能に取り付けられる第2壁部632と、を有している。基端側ユニット61と第1壁部631とは、第1摺動機構141により長軸方向Dtに相対移動可能に接続される。同様に、第2壁部632と先端側ユニット62とは、第2摺動機構142により長軸方向Dtに相対移動可能に接続される。
【0064】
連動機構60は、連結ユニット63に軸支される駆動プーリである第1プーリ65および従動プーリである第2プーリ66と、第1プーリ65および第2プーリ66に掛け回された無端状ベルトであるベルト部材67と、を備えている。本実施の形態において、第1プーリ65は、長軸方向Dtに関して、インストゥルメント42の基端側に位置し、第2プーリ66はその先端側に位置する。
【0065】
基端側ユニット61は、第1プーリ65の回転軸65sと第2プーリ66の回転軸66sとを含む平面SPを基準として平面SPの第1面SP1側におけるベルト部材67の所定位置である第1取り付け位置67aに取り付けられる。また、先端側ユニット62は、連結ユニット63に対して基端側ユニット61の移動方向とは反対方向に移動するように、ベルト部材67の第2取り付け位置67bに取り付けられる。第2取り付け位置67bは、ベルト部材67における平面SPの第1面SP1とは反対側の第2面SP2側に位置する。
【0066】
このとき、第1取り付け位置67aと第2取り付け位置67bとは、第1取り付け位置67aが第1プーリ65および第2プーリ66のうちの一方に近い位置に位置するほど第2取り付け位置67bが第1プーリ65および第2プーリ66のうちの他方に近い位置に位置するように構成される。すなわち、先端側ユニット62が第1プーリ65および第2プーリ66のうちの一方に最も近い位置に位置するとき、基端側ユニット61は、第1プーリ65および第2プーリ66のうちの他方に最も近い位置に位置する。例えば、図5に示す収縮状態においては、第1取り付け位置67aが第2プーリ66に近接し、第2取り付け位置67bが第1プーリ65に近接する位置に位置する。図6に示す伸長状態においては、第1取り付け位置67aが第1プーリ65に近接し、第2取り付け位置67bが第2プーリ66に近接する位置に位置する。
【0067】
第1プーリ65から第2プーリ66に向かう方向を第1方向とすると、第1プーリ65が時計回りに回転することにより、ベルト部材67の第1取り付け位置67aが第1方向に移動して第2プーリ66に近接し、第2取り付け位置67bが第1方向とは逆の第2方向に移動して第1プーリ65に近接し(図6の状態から図5の状態へ向かう場合)、第1プーリ65が反時計回りに回転することにより、ベルト部材67の第1取り付け位置67aが第2方向に移動して第1プーリ65に近接し、第2取り付け位置67bが第1方向に移動して第2プーリ66に近接する(図5の状態から図6の状態へ向かう場合)。この結果、基端側ユニット61が第2プーリ66に近接する位置から第1プーリ65に近接する位置まで移動することにより、先端側ユニット62が第1プーリ65に近接する位置から第2プーリ66に近接する位置まで移動する。
【0068】
すなわち、基端側ユニット61または先端側ユニット62が連結ユニット63に対して第1プーリ65と第2プーリ66との間の距離を移動することにより、基端側ユニット61に対する先端側ユニット62の位置が第1プーリ65と第2プーリ66との間の距離の約2倍移動することになる。このように、本実施の形態における連動機構60は、基端側ユニット61に対する連結ユニット63の相対位置変化による基端側ユニット61に対する先端側ユニット62の相対位置変化を2倍速とする倍速機構として構成される。
【0069】
上記構成によれば、第1プーリ65および第2プーリ66に掛け回されたベルト部材67を備えた連結ユニット63によって、先端側ユニット62の連結ユニット63に対する移動方向が基端側ユニット61の連結ユニット63に対する移動方向とは反対方向となるように、連結される。これにより簡単な構成で外科用器具40の直線移動を迅速に行うことができる。
【0070】
本実施の形態における並進機構35は、さらに、連結ユニット63内に設けられ、基端側ユニット61と先端側ユニット62との間の電気的接続を可能とする電気配線回路121を備えている。
【0071】
電気配線回路121は、第1フレキシブルプリント配線部122と、第2フレキシブルプリント配線部123と、連結配線部124と、を備えている。第6リンク86と並進機構35の基端側ユニット61との間の第7関節J37には、中央に図示しないケーブル配線を通すための貫通孔61aが設けられている。アーム3内に配線される電気配線(ケーブル配線等)が貫通孔61aを通じて基端側ユニット61内に導入される。第1フレキシブルプリント配線部122の基端部は、貫通孔61aを通じて基端側ユニット61内に導入されたケーブル配線に接続される。これにより、台車70、ポジショナ7、アームベース5、アーム3を通じて配線された電気配線からの電力および制御信号が並進機構35の電気配線回路121に供給される。
【0072】
先端側ユニット62は、外科用器具40を駆動するためのモータを備える。より具体的には、先端側ユニット62は、上述した外科用器具40の駆動ユニット45に設けられた4つの回転体を回転させるための4つのサーボモータM39を内蔵している。これにより、外科用器具40を駆動するための先端側ユニット62における軸をケーブル等で駆動する必要がなくなり、並進機構35の構造を簡略化することができる。
【0073】
第2フレキシブルプリント配線部123は、上述した各サーボモータM39を駆動するために先端側ユニット62に電気的に接続される。これにより、アーム3等を通じて配線された電気配線からの電力および制御信号が並進機構35の電気配線回路121を介して先端側ユニット62に供給される。
【0074】
第1フレキシブルプリント配線部122は、基端側ユニット61の第1取り付け位置67aとベルト部材67の移動方向において同じ位置である第1固定位置122aで基端側ユニット61に固定される。第1プーリ65から第2プーリ66に向かう方向を第1方向とすると、第1フレキシブルプリント配線部122は、第1固定位置122aから第1方向に延び、途中で復元力を保持しつつ円弧状に曲げ返され(第1曲げ返し部C1)、第1方向とは反対の第2方向に反転し、第1プーリ65と第2プーリ66との間の第2固定位置122bにおいて連結ユニット63に固定される。
【0075】
第2フレキシブルプリント配線部123は、先端側ユニット62の第2取り付け位置67bとベルト部材67の移動方向において同じ位置である第3固定位置123aで先端側ユニット62に固定される。第2フレキシブルプリント配線部123は、第3固定位置123aから第1方向に延び、途中で復元力を保持しつつ円弧状に曲げ返され(第2曲げ返し部C2)、第2方向に反転し、第1プーリ65と第2プーリ66との間の第4固定位置123bにおいて連結ユニット63に固定される。
【0076】
より具体的には、第1フレキシブルプリント配線部122は、第1固定位置122aから第2プーリ66に近接する方向に伸び、第1曲げ返し部C1は第2プーリ66側(インストゥルメント42の先端側、すなわち並進機構35が延びる側)に凸となっている。同様に、第2フレキシブルプリント配線部123は、第3固定位置123aから第2プーリ66に近接する方向に伸び、第2曲げ返し部C2は第2プーリ66側(インストゥルメント42の先端側、すなわち並進機構35が延びる側)に凸となっている。第2固定位置122bは、平面SPの第1面SP1側において第1フレキシブルプリント配線部122が連結ユニット63に取り付けられる位置である。また、第4固定位置123bは、平面SPの第1面SP1とは反対側の第2面SP2側において第2フレキシブルプリント配線部123が連結ユニット63に取り付けられる位置である。すなわち、第2固定位置122bは、平面SPに対して第4固定位置123bと反対側の位置である。
【0077】
連結配線部124は、第1フレキシブルプリント配線部122の第2固定位置122bと第2フレキシブルプリント配線部123の第4固定位置123bとの間を電気的に接続する。連結配線部124は、第1プーリ65と第2プーリ66との間に設けられる。図5および図6の例では、第1プーリ65と第2プーリ66との間の中央部に位置する。第1プーリ65を駆動するモータ(サーボモータ)M38(図4参照)は、連結ユニット63に内蔵されている。図示しないが、連結配線部124は、サーボモータM38(図4参照)と電気的に接続されており、サーボモータM38は、電気配線回路121により供給される電力を電源として動作し、電気配線回路121を通じて送信される制御信号によって制御される。
【0078】
第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123は、ベルト部材67の延在方向(長軸方向Dt)に関して復元力を有して曲げ返される曲げ返し部C1,C2が第1取り付け位置67aと第2取り付け位置67bとの位置関係に応じて変化するように構成されている。すなわち、第1曲げ返し部C1および第2曲げ返し部C2は、ベルト部材67による先端側ユニット62と基端側ユニット61との位置関係の変化に応じてそれぞれの位置が変化するように構成される。
【0079】
第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123において、復元力を有して曲げ返される曲げ返し部C1,C2は、何れも、第2プーリ66に近接する位置と、連結配線部124に近接する位置(連結配線部124の第2プーリ66側)との間で変化する。
【0080】
例えば、図5に示す収縮状態において、第1取り付け位置67aが第2プーリ66に近接する位置に位置し、第2取り付け位置67bが第1プーリ65に近接する位置に位置した際、第1曲げ返し部C1が第2プーリ66に近接する位置となり、第2曲げ返し部C2が連結配線部124に近接する位置となる。また、図6に示す伸長状態において、第1取り付け位置67aが第1プーリ65に近接する位置に位置し、第2取り付け位置67bが第2プーリ66に近接する位置に位置した際、第1曲げ返し部C1が連結配線部124に近接する位置となり、第2曲げ返し部C2が第2プーリ66に近接する位置となる。
【0081】
上記構成によれば、連結ユニット63を介して基端側ユニット61と先端側ユニット62が相対移動したときに、第1フレキシブルプリント配線部112における第1曲げ返し部C1および第2フレキシブルプリント配線部123における第2曲げ返し部C2が第1方向または第2方向に移動する。したがって、基端側ユニット61に対する先端側ユニット62の並進動作を妨げることなく電気配線に必要な連結ユニット63内の容積を最小限にすることができる。これにより、並進機構35の内部に電気配線を配設しつつ大型化を抑制することができる。
【0082】
連結ユニット63は、第1壁部631とベルト部材67との間において、第1フレキシブルプリント配線部122が収容される第1空隙A1を有している。また、連結ユニット63は、第2壁部632とベルト部材67との間において、第2フレキシブルプリント配線部123が収容される第2空隙A2を有している。
【0083】
第1空隙A1は、第1壁部631の内壁と、第1壁部631の内壁に対向するように配置された第1ガイド部材131とで区画されている。また、第2空隙A2は、第2壁部632の内壁と、第2壁部632の内壁に対向するように配置された第2ガイド部材132とで区画されている。第1ガイド部材131および第2ガイド部材132は、それぞれベルト部材67の延在方向に延びている。第1空隙A1および第2空隙A2は、プーリ65,66の回転軸65s,66s方向に関して、第1壁部631および第2壁部632に直交する一対の側壁(図示せず)によって区画されている。
【0084】
本実施の形態においては、さらに、第1壁部631の内壁に沿ってベルト部材67の延在方向に延びる第3ガイド部材133と、第2壁部632の内壁に沿ってベルト部材67の延在方向に延びる第4ガイド部材134と、を有している。第3ガイド部材133は、第1壁部631の内壁に固定されている。第4ガイド部材134は、第2壁部632の内壁に固定されている。このため、第1空隙A1は、第1ガイド部材131と第3ガイド部材133とで区画される。第2空隙A2は、第2ガイド部材132と第4ガイド部材134とで区画される。
【0085】
このような構成により、第1フレキシブルプリント配線部122が第1ガイド部材131と第3ガイド部材133とで区画される第1空隙A1内に配設され、第1ガイド部材131および第3ガイド部材133で第1フレキシブルプリント配線部122の動作がガイドされる。また、第2フレキシブルプリント配線部123が第2ガイド部材132と第4ガイド部材134とで区画される第2空隙A2内に配設され、第2ガイド部材132および第4ガイド部材134で第2フレキシブルプリント配線部123の動作がガイドされる。これにより、各フレキシブルプリント配線部122,123における配線空間の容積を小さくしつつ各フレキシブルプリント配線部122,123のスムーズな動作を確保することができる。
【0086】
第1ガイド部材131は、第1取り付け位置67aでベルト部材67に取り付けられる。このため、第1ガイド部材131は、基端側ユニット61の移動に伴ってベルト部材67の延在方向に移動する。また、第2ガイド部材132は、第2取り付け位置67bでベルト部材67に取り付けられる。このため、第2ガイド部材132は、先端側ユニット62の移動に伴ってベルト部材67の延在方向に移動する。
【0087】
第1フレキシブルプリント配線部122における第1固定位置122aと第1曲げ返し部C1との間の部分は、第1ガイド部材131に接触または近接する位置に位置される。したがって、この部分が第1ガイド部材131によってガイドされる部分となる。基端側ユニット61が第2プーリ66に近接する位置から第1プーリ65に近接する位置に移動するに従って(図5から図6に変化すると)、第1フレキシブルプリント配線部122が第1ガイド部材131に接触し得る領域は増加する。しかし、このような移動の際に、第1ガイド部材131は、基端側ユニット61と一緒に移動するため、第1フレキシブルプリント配線部122が第1ガイド部材131に擦れることがない。言い換えると、基端側ユニット61が移動することによって第1フレキシブルプリント配線部122と第1ガイド部材131とがベルト部材67の延在方向に位置ずれを生じることがない。
【0088】
同様に、第2フレキシブルプリント配線部123における第3固定位置123aと第2曲げ返し部C2との間の部分は、第2ガイド部材132に接触または近接する位置に位置される。したがって、この部分が第2ガイド部材132によってガイドされる部分となる。先端側ユニット62が第2プーリ66に近接する位置から第1プーリ65に近接する位置に移動するに従って(図6から図5に変化すると)、第2フレキシブルプリント配線部123が第2ガイド部材132に接触し得る領域は増加する。しかし、このような移動の際に、第2ガイド部材132は、先端側ユニット62と一緒に移動するため、第2フレキシブルプリント配線部123が第2ガイド部材132に擦れることがない。言い換えると、先端側ユニット62が移動することによって第2フレキシブルプリント配線部123と第2ガイド部材132とがベルト部材67の延在方向に位置ずれを生じることがない。
【0089】
また、第1フレキシブルプリント配線部122における第1曲げ返し部C1と第2固定位置122bとの間の部分は、第3ガイド部材133に接触または近接する位置に位置される。したがって、この部分が第3ガイド部材133によってガイドされる部分となる。基端側ユニット61が第1プーリ65に近接する位置から第2プーリ66に近接する位置に移動するに従って(図6から図5に変化すると)、第1フレキシブルプリント配線部122が第3ガイド部材133に接触し得る領域は増加する。しかし、このような移動において連結ユニット63に固定される第2固定位置122bは移動しない(基端側ユニット61から見ると連結ユニット63と一緒に相対移動する)ため、第1フレキシブルプリント配線部122が第3ガイド部材133に擦れることがない。言い換えると、基端側ユニット61が移動することによって第1フレキシブルプリント配線部122と第3ガイド部材133とがベルト部材67の延在方向に位置ずれを生じることがない。
【0090】
同様に、第2フレキシブルプリント配線部123における第2曲げ返し部C2と第4固定位置123bとの間の部分は、第4ガイド部材134に接触または近接する位置に位置される。したがって、この部分が第4ガイド部材134によってガイドされる部分となる。先端側ユニット62が第1プーリ65に近接する位置から第2プーリ66に近接する位置に移動するに従って(図5から図6に変化すると)、第2フレキシブルプリント配線部123が第4ガイド部材134に接触し得る領域は増加する。しかし、このような移動において連結ユニット63に固定される第4固定位置123bは移動しない(先端側ユニット62から見ると連結ユニット63と一緒に相対移動する)ため、第2フレキシブルプリント配線部123が第4ガイド部材134に擦れることがない。言い換えると、先端側ユニット62が移動することによって第2フレキシブルプリント配線部123と第4ガイド部材134とがベルト部材67の延在方向に位置ずれを生じることがない。
【0091】
このように、これらのガイド部材131~134は、基端側ユニット61および先端側ユニット62の連結ユニット63に対する相対移動に際して、対応するフレキシブルプリント配線部122,123と擦れることがない。したがって、これらのガイド部材131~134により、フレキシブルプリント配線部122,123を適切にガイドしつつ、フレキシブルプリント配線部122,123がガイド部材131~134に擦れることにより摩耗することを防止することができる。
【0092】
第1ガイド部材131の長さは、基端側ユニット61(第1取り付け位置67a)が第1プーリ65に最も近接した位置(図6)における、第1フレキシブルプリント配線部122の基端部(第1固定位置122a)から第1曲げ返し部C1の頂点までの距離に基づいて定められる。同様に、第2ガイド部材132の長さは、先端側ユニット62(第2取り付け位置67b)が第1プーリ65に最も近接した位置(図5)における、第2フレキシブルプリント配線部123の第2曲げ返し部C2の頂点から先端部(第3固定位置123a)までの距離に基づいて定められる。
【0093】
また、第3ガイド部材133の長さは、基端側ユニット61(第1取り付け位置67a)が第2プーリ66に最も近接した位置(図5)における、第1フレキシブルプリント配線部122の第1曲げ返し部C1の頂点から先端部(第2固定位置122b)までの距離に基づいて定められる。同様に、第4ガイド部材134の長さは、先端側ユニット62(第2取り付け位置67b)が第2プーリ66に最も近接した位置(図6)における、第2フレキシブルプリント配線部123の基端部(第4固定位置123b)から第2曲げ返し部C2の頂点までの距離に基づいて定められる。
【0094】
図7は、図6に示す伸長状態における電気配線回路を示す斜視図である。並進機構35における電気配線回路121(第1フレキシブルプリント配線部122、第2フレキシブルプリント配線部123および連結配線部124)以外の構成は図示を省略している。第1フレキシブルプリント配線部122、第2フレキシブルプリント配線部123および連結配線部124は、1枚のフレキシブルプリント配線基板が第2固定位置122bと第4固定位置123bとで折り曲げられて構成されている。
【0095】
このため、連結配線部124は、連結ユニット63の側壁に沿って延出される。1枚のフレキシブルプリント配線基板で構成される電気配線回路121は、連結配線部124が連結ユニット63に係止されることにより連結ユニット63に固定される。
【0096】
また、第1フレキシブルプリント配線部122の基端側ユニット61への接続箇所122cは、第1フレキシブルプリント配線部122の長手方向基端部において、第1フレキシブルプリント配線部122の幅方向に関し、第1固定位置122aから側方へ延出された箇所が折り曲げられて構成されている。同様に、第2フレキシブルプリント配線部123の先端側ユニット62への接続箇所123cは、第2フレキシブルプリント配線部123の長手方向先端部において、第2フレキシブルプリント配線部123の幅方向に関し、第3固定位置123aから側方へ延出された箇所が折り曲げられて構成されている。
【0097】
フレキシブルプリント配線基板は、FPC(Flexible Printed Circuits)とも呼ばれ、ポリイミド等の絶縁性を有する薄い基材(ベースフィルム)上に銅等の導電性金属による配線または回路を貼り付けて構成されている。このため、フレキシブルプリント配線基板は、薄く、かつ基材の柔軟性により、平面状のフレキシブルプリント配線基板を円弧状に曲げ返した場合に、平面に戻ろうとする復元力を有している。このため、第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123のそれぞれは、固定位置122b,123bと取り付け位置67a,67bとの位置関係に基づいてその形状が一意に決定される。
【0098】
上記構成によれば、第1プーリ65および第2プーリ66に掛け回されたベルト部材67が収容される連結ユニット63の内部に基端側ユニット61と先端側ユニット62とを電気的に接続する電気配線として第1フレキシブルプリント配線部122、連結配線部124および第2フレキシブルプリント配線部123が配設される。
【0099】
基端側ユニット61と連結ユニット63との間に配設される第1フレキシブルプリント配線部122が、第1曲げ返し部C1において、復元力を保持しつつ円弧状に曲げ返される。また、先端側ユニット62と連結ユニット63との間に配設される第2フレキシブルプリント配線部123が、第2曲げ返し部C2において、復元力を保持しつつ円弧状に曲げ返される。
【0100】
これにより、連結ユニット63が基端側ユニット61に対して相対移動し、先端側ユニット62が連結ユニット63に対して相対移動したときに、第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123における円弧状位置(曲げ返し部C1,C2)がベルト部材67の延在方向(長軸方向Dt)に沿って移動する。したがって、基端側ユニット61および先端側ユニット62による並進動作を妨げることなく電気配線に必要な連結ユニット63内の容積を最小限にすることができる。これにより、並進機構35の内部に電気配線を配設しつつ大型化を抑制することができる。
【0101】
さらに、上記構成によれば、1枚のフレキシブルプリント配線基板により並進機構35の内部の電気配線が構成されるため、簡単な構成かつ電気配線に必要な容積をより小さくすることができる。
【0102】
本実施の形態において、第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123は、基端部から曲げ返し部C1,C2を経て先端部へと至る長さが互いに等しいように構成されている。さらに、第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123は、ベルト部材67の延在方向(長軸方向Dt)に伸びた長さが第1取り付け位置67aと第2取り付け位置67bとの位置関係によらず互いに等しい。
【0103】
より詳しくは、第1フレキシブルプリント配線部122の第1曲げ返し部C1の頂点と、第1曲げ返し部C1から遠い側の端部(第1固定位置122aまたは第2固定位置122b)との間の距離LP1、および、第2フレキシブルプリント配線部123の第2曲げ返し部C2の頂点と、第2曲げ返し部C1から遠い側の端部(第3固定位置123aまたは第4固定位置123b)との間の距離LP2は、図5に示す収縮状態、図6に示す伸長状態およびその間の状態に関わらず一定であり、互いに等しい。
【0104】
このとき、第1フレキシブルプリント配線部122の第1固定位置122aから第1曲げ返し部C1に至る第1長さは、第2フレキシブルプリント配線部123の第4固定位置123bから第2曲げ返し部C2に至る第2長さに等しい。さらに、ベルト部材67によって第1取り付け位置67aと第2取り付け位置67bとの位置関係が変化した場合、第1長さおよび第2長さは、互いに等しい関係を保った状態でそれぞれ変化する。
【0105】
これによれば、第1フレキシブルプリント配線部122の設計と第2フレキシブルプリント配線部123の設計とを同様の設計とすることができる。また、第1フレキシブルプリント配線部122の動作と、第2フレキシブルプリント配線部123の動作とが同じになるため、両者の寿命がほぼ同じになり、並進機構35における電気配線の維持管理が容易になる。
【0106】
以上より、本実施の形態における並進機構35は、外科手術システム100に適用されるアーム3に設けられる並進機構として好適な構成とすることができる。
【0107】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施の形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更できる。
【0108】
また、上記実施の形態において、電気配線回路121の第1フレキシブルプリント配線部122および第2フレキシブルプリント配線部123は、それぞれの曲げ返し部C1,C2がインストゥルメント42の先端側(第2プーリ66側)に凸となるように形成されているが、インストゥルメント42の基端側(第1プーリ65側)に凸となるように形成されてもよい。
【0109】
また、上記実施の形態において、電気配線回路121を構成する第1フレキシブルプリント配線部122、連結配線部124および第2フレキシブルプリント配線部123が1枚のフレキシブルプリント配線基板で構成される例を示したが、これに限られない。例えば、第1フレキシブルプリント配線部122と第2フレキシブルプリント配線部123とが別体に構成されてもよい。このとき、連結配線部124は、フレキシブルプリント配線基板で構成されてもよいし、それ以外の配線構造(ケーブル配線等)で構成されてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態において、連結ユニット63内にフレキシブルプリント配線部122,123をガイドするガイド部材131~134が設けられる構成について説明したが、これに限られない。例えば、第1ガイド部材131および第2ガイド部材132が設けられ、第3ガイド部材133および第4ガイド部材134は設けられていなくてもよい。あるいは、ガイド部材131~134は設けられていなくてもよい。
【0111】
また、上記実施の形態において、並進機構35が1つの連結ユニット63を備えた構成について説明したが、複数の連結ユニット63を備えていてもよい。例えば、基端側ユニット61と先端側ユニット62との間に2つの連結ユニットが設けられていてもよい。この場合、2つの連結ユニットは、それぞれ連動機構60を備えている。第1の連結ユニットのベルト部材67には、基端側ユニット61と、第2の連結ユニットとが取り付けられ、第2の連結ユニットのベルト部材67には、第1の連結ユニットと、先端側ユニット62とが取り付けられる。電気配線回路121の構成は、第1の連結ユニットおよび第2の連結ユニットのいずれについても、上記実施の形態における連結ユニット63の電気配線回路121と同様に構成することができる。
【0112】
また、複数のアーム3および/またはポジショナ7における複数の関節部(複数のリンク部)の数(自由度の数)、形状は上記実施の形態に限られず、種々の態様を採用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、簡単な構成で外科用器具の直線移動を迅速に行うために有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 患者側システム
3 アーム(マニピュレータアーム)
5 アームベース
7 ポジショナ
30 アーム本体部
35 並進機構
40 外科用器具
42 インストゥルメント(外科用器具)
60 連動機構
61 基端側ユニット
62 先端側ユニット
63 連結ユニット
65 第1プーリ
66 第2プーリ
67 ベルト部材
67a 第1取り付け位置
67b 第2取り付け位置
70 台車
100 外科手術システム
121 電気配線回路
122 第1フレキシブルプリント配線部
122a 第1固定位置
122b 第2固定位置
123 第2フレキシブルプリント配線部
123a 第3固定位置
123b 第4固定位置
124 連結配線部
131 第1ガイド部材
132 第2ガイド部材
631 第1壁部
632 第2壁部
A1 第1空隙
A2 第2空隙
C1 第1曲げ返し部
C2 第2曲げ返し部
M38,M39 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7