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特許7345078ジルコニウム酸溶液およびその製造方法、酸化ジルコニウム粉末およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-06
(45)【発行日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ジルコニウム酸溶液およびその製造方法、酸化ジルコニウム粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
C01G25/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023501516
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2022025276
(87)【国際公開番号】W WO2023013289
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2021128394
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰輝
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0180911(US,A1)
【文献】特開2015-182929(JP,A)
【文献】特開2011-105580(JP,A)
【文献】特開2009-167085(JP,A)
【文献】特開2007-070212(JP,A)
【文献】特開2006-143535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムをZrO換算で、0.1~10質量%含有するジルコニウム酸溶液であって、
アンモニア、4級アンモニウム、過酸化水素水、及び溶媒として純水を含有し、
動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が50nm以下であり、且つpHが10超過14以下であることを特徴とするジルコニウム酸溶液。
【請求項2】
前記4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であることを特徴とする請求項に記載のジルコニウム酸溶液。
【請求項3】
前記pHが12超過14以下であることを特徴とする請求項1、又は2に記載のジルコニウム酸溶液。
【請求項4】
ジルコニウムをZrO換算で、1~100g/L含有する酸性ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加し、得られた前記過酸化水素が添加された前記酸性ジルコニウム水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、ジルコニウム含有沈殿を生成する工程と、
前記ジルコニウム含有沈殿をスラリー状としたジルコニウム含有沈殿スラリーに4級アンモニウムを添加し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が50nm以下であるジルコニウム酸溶液を生成する工程と、
を有することを特徴とするジルコニウム酸溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の製造方法により得られるジルコニウム酸溶液を乾燥し、焼成し、酸化ジルコニウム粉末を生成する工程を有することを特徴とする酸化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1、又は2に記載のジルコニウム酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Mo、W、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを有するものであることを特徴とする複合ジルコニウム酸組成物。
【請求項7】
請求項に記載のジルコニウム酸溶液の製造方法により生成された前記ジルコニウム酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Mo、W、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを混合し、複合組成物を生成する工程を有する複合ジルコニウム酸組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1、又は2に記載のジルコニウム酸溶液に含まれるジルコニウム酸粒子を含有することを特徴とするジルコニウム酸膜。
【請求項9】
請求項1、又は2に記載のジルコニウム酸溶液を塗布し、焼成することを特徴とするジルコニウム酸膜の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載された複合ジルコニウム酸組成物に含まれる複合ジルコニウム酸粒子を含有することを特徴とする複合ジルコニウム酸膜。
【請求項11】
請求項に記載された複合ジルコニウム酸組成物を塗布し、焼成することを特徴とする複合ジルコニウム酸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム酸溶液およびその製造方法、酸化ジルコニウム粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウムは、高温下では酸化物や窒化物などの化合物を形成し、例えばジルコニウムの酸化物である二酸化ジルコニウム、すなわちジルコニア(ZrO)は、融点が2715℃と高く、耐熱性、耐久性、硬度、化学的安定性に優れていることから、ジェットエンジンやタービンブレードの遮熱コーティング材、固体電解質、電子材料、化粧品や制汗剤、食品包装材料などの様々な分野で用いられている。このように様々な分野で用いられているジルコニアを溶液化することができれば、さらにコーティングや、複数の元素と複合化し、用途に合わせた特性を付加することが容易になることから、近年研究が進められている。例えば、特許文献1には、ジルコニウム塩水溶液を加水分解することにより、水和ジルコニアゾルを得る製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-193945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された水和ジルコニアゾルの平均粒径は大きく、その平均粒径は、経時変化によって増大するおそれがあった。また、当該水和ジルコニアゾルの原料液は撹拌しながら、加水分解反応を煮沸温度で40時間以上行う必要があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて、溶液安定性に優れたジルコニウム酸溶液およびその製造方法、酸化ジルコニウム粉末およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明のジルコニウム酸溶液は、ジルコニウムをZrO換算で、0.1~10質量%含有するジルコニウム酸溶液であって、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が50nm以下であることを特徴とする。
本発明のジルコニウム酸溶液は、ジルコニウムをZrO換算で、0.1~10質量%含有すると、当該溶液の溶液安定性が向上する点で好ましい。また、本発明のジルコニウム酸溶液は、ジルコニウムをZrO換算で、1~8質量%であるとより好ましく、1~5質量%であるとさらに好ましい。
【0007】
ここで、ジルコニウム酸溶液中のジルコニウム酸濃度は、当該溶液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、ジルコニウムの酸化物、すなわちジルコニア(ZrO)換算のZr重量分率を測定して算出する。なお、本発明のジルコニウム酸溶液中のジルコニウム酸は、必ずしもZrOの状態で存在するものではない。ジルコニウム酸の含有量を、ZrO換算で示しているのは、ジルコニウム酸濃度を示す際の慣例に基づくものである。
【0008】
ここで、本発明のジルコニウム酸溶液中のジルコニウム酸は、対カチオンで安定化された、ジルコニウムと多数の酸素原子とからなるアニオン種として溶液中に存在するものと推測する。
【0009】
また、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)が50nm以下であると経時安定性の観点から好ましく、40nm以下であるとより好ましい。なお、当該粒子径(D50)は、10nm以下、1nm以下、1nm未満の検出限界未満であってもよい。このように、本発明の粒子径(D50)は、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定により、粒子径(D50)が50nm以下である状態の溶液を、本発明の「ジルコニウム酸溶液」とする。例えば、本発明のジルコニウム酸溶液中のジルコニウム酸粒子などの動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による粒子径(D50)は、50nm以下であると経時安定性の観点から好ましく、40nm以下であるとより好ましい。なお、当該粒子径(D50)は、10nm以下、1nm以下、1nm未満の検出限界未満であってもよい。
【0010】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、測定直前に測定対象である溶液中の埃等を除去するため、2μm孔径のフィルタで当該溶液を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、測定態様である溶液の液温は25℃に調整した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0011】
なお、本発明における「溶液」とは、溶質が溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0012】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、アンモニア及び有機窒素化合物をさらに含有することを特徴とする。
本発明のジルコニウム酸溶液は、上述したジルコニウム酸の他に、アンモニア及び有機窒素化合物が含まれる。また、本発明に係る「アンモニア」及び「有機窒素化合物」は、本発明のジルコニウム酸溶液中でそれぞれがイオン化されたものを含む。後述する本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、酸性のジルコニウム溶液をアンモニア水に添加する逆中和法により、ジルコニウム含有沈殿スラリーである含水ジルコニウム酸アンモニウムケーキを生成した後、有機窒素化合物を加え、混合することにより、本発明のジルコニウム酸溶液が生成されることから、置換されたアンモニア及び有機窒素化合物が陽イオンとして当該溶液中に存在すると考えられる。
【0013】
当該溶液中に存在するアンモニア濃度の測定方法は、当該溶液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニア濃度を定量する方法、ガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)などが挙げられる。
【0014】
他方、有機窒素化合物としては、4級アンモニウム、脂肪族アミン、芳香族アミン、アミノアルコール、アミノ酸、ポリアミン、グアニジン化合物、アゾール化合物が挙げられる。
【0015】
4級アンモニウムとしては、例えば、アルキルイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。ここで、アルキルイミダゾリウムの具体例としては、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-プロピル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムなどが挙げられる。また、ピリジニウム、ピロリジウムの具体例としては、N-ブチル-ピリジニウム、N-エチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ブチル-3-メチル-ピリジニウム、N-ヘキシル-4-(ジメチルアミノ)-ピリジニウム、N-メチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-1-メチルピロリジニウムなどが挙げられる。さらに、テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、エチル-ジメチル-プロピルアンモニウムが挙げられる。なお、上述したカチオンと塩を形成するアニオンとしては、OH、Cl、Br、I、BF 、HSO などが挙げられる。
【0016】
脂肪族アミンとしては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンタアミン、n-ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ピぺリジンなどが挙げられる。
【0017】
芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、フェニレンジアミン、ジアミノトルエンなどが挙げられる。さらに、アミノアルコールとしては、例えば、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエチルメタノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタンおよびアミノフェノールなどが挙げられる。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、EDTAなどが挙げられる。さらに、ポリアミンとしては、例えば、ポリアミン、ポリエーテルアミンなどが挙げられる。
【0018】
グアニジン化合物としては、グアニジン、ジフェニルグアニジン、ジトリルグアニジンなどが挙げられる。また、アゾール化合物としては、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物などが挙げられる。ここで、イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。また、トリアゾール化合物の具体例としては、1,2,4-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1,2,3-ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0019】
当該溶液中に存在する有機窒素化合物濃度の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられ、またガス化した試料中のN分を熱伝導度計で定量する方法を併用してもよい。
【0020】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、前記有機窒素化合物が、4級アンモニウムであると好ましい。
前記有機窒素化合物が、4級アンモニウムであると、用途に合わせた特性を付加するために複数の元素と複合化する際、この有機窒素化合物は揮発性が高く、除去しやすいからである。
【0021】
さらに、前記有機窒素化合物が、4級アンモニウムであると、溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。例えば、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、水酸化テトラアルキルアンモニウム塩がより好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムが特に好ましく、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)がまた特に好ましい。
【0022】
また、前記有機窒素化合物は、4級アンモニウムの1種ではなく、4級アンモニウムと脂肪族アミンとの2種を混合したものであってもよい。4級アンモニウムと脂肪族アミンとの2種を混合したものであれば、毒性を上がらないように添加量を抑えつつ、溶解度を上げることができる点で好ましい。
【0023】
具体的には、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びジメチルアミンのように2種の有機窒素化合物を混合したものや、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン、及びジメチルアミンのように3種の有機窒素化合物を混合したものが挙げられる。
【0024】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、前記4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。
4級アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であると、上述したように溶解性が高いだけでなく、高い結晶化抑制や、高いゾル化抑制を有する点で好ましい。なお、本発明のジルコニウム酸溶液中の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の含有量が1.4質量%以下であると、急性経口毒性のGHS区分が4となり好ましく、0.21質量%以下であると、当該GHS区分が5となりさらに好ましい。例えば、本発明のジルコニウム酸溶液中のジルコニウムの含有量がZrO換算で10質量%である場合、TMAH/ZrOのモル比が1.48以下であると、当該GHS区分が4となり好ましく、TMAH/ZrOのモル比が0.21以下であると、当該GHS区分が5となりさらに好ましい。
【0025】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、過酸化水素をさらに含有することを特徴とする。
本発明のジルコニウム酸溶液は、上述したジルコニウム酸、アンモニア及び有機窒素化合物の他に、過酸化水素が含まれる。また、本発明に係る「過酸化水素」は、本発明のジルコニウム酸溶液中でイオン化されたものを含む。後述する本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法で詳しく説明するが、当該製造工程において、酸性のジルコニウム溶液に過酸化水素を添加することにより、ジルコニウムを含むアニオン種が錯化し、溶解安定性に優れたペルオキソ錯体を形成させると考える。
【0026】
当該溶液中に存在する過酸化水素の定量分析は、当該溶液の波長410nmにおける吸光度を、分光光度計(株式会社日立製作所製:U-2900)を用いて測定することにより、当該溶液中に存在する過酸化水素を定量する。
【0027】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、前記ジルコニウム酸溶液が、水溶液であることが好ましい。
本発明のジルコニウム酸溶液中のジルコニウム酸は、水への分散性が高く、水に対する溶解性が良好であるため、溶媒として純水を用いることができる。
【0028】
また、本発明のジルコニウム酸溶液は、pHが10超過14以下であると好ましい。
本発明のジルコニウム酸溶液は、pHが10超過14以下であると、当該溶液がより溶液安定性に優れるからである。また、当該pHは11以上14以下であるとより好ましく、13以上14以下であるとさらに好ましい。
【0029】
本発明のジルコニウム酸溶液は、添加物として、Nb、Ta、Ti、Mo、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などの酸化物粉末を含有してもよい。これらの酸化物粉末は、例えば、水や有機溶剤の溶媒に溶解した態様で、本発明のジルコニウム酸溶液と混合される。特に、極性溶剤である水や、アルコールに分散させたものが好ましく、水に分散させたものがより好ましい。これらの酸化物粉末は、当該溶剤中では、「金属酸塩」や「金属錯体」の形態をとることが多く、「金属酸塩」の場合は、金属塩アニオンがポリオキソメタレートアニオンの形態をとるものもある。本発明のジルコニウム酸溶液は、均一な溶液であることから、これらの酸化物粉末が懸濁状態であっても、均一性の向上、反応性(反応率)の向上が見込まれるからである。また、これらの酸化物粉末が本発明のジルコニウム酸溶液に溶解し、均一な溶液となれば、複合化元素が最も反応性が良好な状態にすることができる。
【0030】
さらに、本発明のジルコニウム酸溶液は、その作用効果を阻害しない範囲で、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸に由来する成分、及び、アンモニア及び有機窒素化合物に由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばNb、Ta、Ti、Mo、Si、Zr、Zn、Al、Y、V、La系(La、Ce、Nd、Eu、Gd、Dy、Yb)などが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明のジルコニウム酸溶液における他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明のジルコニウム酸溶液は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0031】
また、本発明の酸化ジルコニウム粉末は、ジルコニウム酸溶液に含まれるジルコニウム酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明の酸化ジルコニウム粉末は、上述したジルコニウム酸溶液に含まれるジルコニウム酸粒子を含有する。なお、本発明の酸化ジルコニウム粉末の製造方法は、後述する。
【0032】
上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法について、以下説明する。
【0033】
本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法は、ジルコニウムをZrO換算で、1~100g/L含有する酸性ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加し、得られた前記過酸化水素が添加された前記酸性ジルコニウム水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、ジルコニウム含有沈殿を生成する工程と、前記ジルコニウム含有沈殿をスラリー状としたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、ジルコニウム酸溶液を生成する工程と、を有することを特徴とする。
【0034】
先ず、ジルコニウムをZrO換算で、1~100g/L含有する酸性ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加し、得られた前記過酸化水素が添加された前記酸性ジルコニウム水溶液を、10~30質量%アンモニア水溶液に添加し、ジルコニウム含有沈殿を生成する工程において、酸性ジルコニウム水溶液は、ジルコニウムが硫酸を含む酸性水溶液に溶解した溶解液を溶媒抽出することにより得られた硫酸ジルコニウム水溶液や、オキシ塩化ジルコニウム(8水和物)水溶液などをいう。なお、本明細書で言及するジルコニウムは、特段の説明がない限り、ジルコニウム酸化物を含むものである。
【0035】
ここで、硫酸ジルコニウム水溶液は、水(例えば純水)を加えてジルコニウムをZrO換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、ジルコニウム濃度がZrO換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、ジルコニウム濃度がZrO換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいジルコニウム酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。なお、硫酸ジルコニウム水溶液のpHは、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であると好ましく、1以下であるとより好ましい。
【0036】
次に、硫酸ジルコニウム水溶液に、過酸化水素を添加することにより、ジルコニウムを含むアニオン種が錯化し、溶解安定性に優れたペルオキソ錯体となる。ここで、硫酸ジルコニウム水溶液に添加する過酸化水素の添加量は、H/ZrOのモル比が、溶解性に優れる点で、1.0以上であると好ましく、2.5以上であるとより好ましい。一方、H/ZrOのモル比が、5.0以下であると、安全性に優れる点で好ましい。
【0037】
このようにして、得られた過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液をアンモニア水溶液に添加する際、いわゆる逆中和法では、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を10質量%~30質量%のアンモニア水溶液中に添加されることにより、ジルコニウム酸化合物水和物のスラリー、いわゆるジルコニウム含有沈殿物のスラリーを得るのが好ましい。
【0038】
逆中和に用いるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%~30質量%であると好ましい。当該アンモニア濃度が10質量%であると、ジルコニウムが溶け残りにくくなり、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物を水に完全に溶解させることができる。他方、当該アンモニア濃度が30質量%以下であると、アンモニアの飽和水溶液付近であるから好ましい。
【0039】
かかる観点から、アンモニア水溶液のアンモニア濃度は10質量%以上であると好ましく、15質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましく、25質量%であると特に好ましい。他方、当該アンモニア濃度は30質量%以下であると好ましく、29質量%以下であるとより好ましく、28質量%以下であるとさらに好ましい。
【0040】
逆中和の際、アンモニア水に添加する、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液の添加量は、溶解性に優れるという点で、NH/ZrOのモル比が70以上300以下とするのが好ましく、100以上300以下とするのがより好ましく、140以上300以下とするのがさらに好ましい。また、アンモニア水に添加する過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液は、アミンや薄いアンモニア水に溶けるジルコニウム酸化合物が生成する観点から、NH/SO 2-のモル比が3.0以上とするのが好ましく、10.0以上とするとより好ましく、20.0以上とするとさらに好ましい。他方、コスト低減の観点から、NH/SO 2-のモル比が200以下とするのが好ましく、150以下とするとより好ましく、100以下とするとさらに好ましい。
【0041】
逆中和において、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液のアンモニア水への添加に係る時間は、1分以内であると好ましく、30秒以内であるとより好ましく、10秒以内であるとさらに好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を添加するのではなく、例えば一気に投入するなど、出来るだけ短い時間でアンモニア水へ投入し、中和反応させると好適である。また、逆中和では、アルカリ性のアンモニア水へ、酸性の過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液を添加することから、高いpHを保持したまま中和反応させることができる。なお、過酸化水素が添加された硫酸ジルコニウム水溶液及びアンモニア水は、常温のまま用いることができる。
【0042】
そして、逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去し、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を生成する。逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーには、不純物として、ジルコニウム乃至ジルコニウム酸化物と反応せず残った硫酸イオン、及び硫酸水素イオンの硫黄分が存在するため、これらを除去することが好ましい。なお、添加された過酸化水素は除去されず、ジルコニウム含有沈殿と共に、残存する。
【0043】
硫黄分の除去方法は任意であるが、例えばアンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法や、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。なお、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーから硫黄分を除去する際、温度調節は特に必要なく、常温で実施してもよい。
【0044】
具体的には、逆中和法により得られたジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーの導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返すことにより、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿物が得られる。当該導電率は、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーの液温を25℃に調整し、導電率計(アズワン社製:ASCON2)の測定部を当該沈殿物のスラリーの上澄み液に浸漬され、導電率の値が安定してから、その数値を読み取った。
【0045】
硫黄分の除去に用いられる洗浄液はアンモニア水であると好適である。具体的には、5.0質量%以下のアンモニア水が好ましく、4.0質量%以下のアンモニア水がより好ましく、3.0質量%以下のアンモニア水がさらに好ましく、2.5質量%のアンモニア水が特に好ましい。5.0質量%以下のアンモニア水であると、アンモニア、アンモニウムイオンが硫黄分に対して適切であり不要なコストの増加を回避することができる。
【0046】
次に、前記ジルコニウム含有沈殿をスラリー状としたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を添加し、ジルコニウム酸溶液を生成する工程において、ジルコニウム含有沈殿スラリーは、上述したように硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を純水などで希釈し、スラリー状としたものである。なお、硫黄分が除去された、ジルコニウム含有沈殿スラリーのジルコニウム濃度は、当該スラリーの一部を採取し、110℃で24時間乾燥させた後、1,000℃で4時間焼成し、ZrOを生成する。このように生成したZrOの重量を測定し、その重量から当該スラリーのジルコニウム濃度を算出することができる。
【0047】
そして、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーに有機窒素化合物を混合することにより、本発明のジルコニウム酸溶液が得られる。
【0048】
具体的には、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で0.1~10質量%となるように、得られたジルコニウム含有沈殿スラリーを、有機窒素化合物に加え、純水と混合し、当該混合物を撹拌しながら、液温を室温(25℃)に1時間保持することにより、本発明の黄色、又は無色透明なジルコニウム酸溶液が得られる。
【0049】
ジルコニウム含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、4級アンモニウムであると好ましい。
【0050】
ここで、4級アンモニウムは、溶解性の観点から、ジルコニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が40質量%以下になるように混合するのが好ましい。また、同様な観点から、ジルコニウム含有沈殿スラリー中の4級アンモニウム濃度が0.1質量%以上になるように混合するのが好ましく、20質量%以上になるように混合するのがより好ましい。
【0051】
また、4級アンモニウムは、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)であるとより好ましい。ジルコニウム含有沈殿スラリーに添加される水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)の添加量は、TMAH/ZrOのモル比が1.5以上であると、溶解性と安定性に優れる点で好ましく、2.0以上であるとさらに安定性に優れる点でより好ましい。他方、TMAH/ZrOのモル比が5.0以下であると安全性に優れる点で好ましい。なお、TMAH/ZrOのモル比が1.0未満では、ジルコニウム含有沈殿スラリーが溶解せず、1.0~1.4ではジルコニウム含有沈殿スラリーは溶解するがゲル化してしまう。
【0052】
さらに、ジルコニウム含有沈殿スラリーと混合する有機窒素化合物は、4級アンモニウムの1種ではなく、2種以上を混合したものでもよい。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)及びジメチルアミンのように2種以上の有機窒素化合物を混合したものや、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、メチルアミン、及びジメチルアミンのように3種以上の有機窒素化合物を混合したものが挙げられ、用途に合わせて適宜変更してもよい。
【0053】
また、上述した本発明のジルコニウム酸溶液から酸化ジルコニウム粉末の製造方法について、以下説明する。
【0054】
本発明の酸化ジルコニウム粉末の製造方法は、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により得られるジルコニウム酸溶液を乾燥し、焼成し、酸化ジルコニウム粉末を生成する工程を有することを特徴とする。
【0055】
先ず、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により得られたジルコニウム酸溶液を静置炉内に載置し、加熱温度約110℃で7時間大気乾燥することにより、本発明のジルコニウム酸溶液中の水分を飛ばすことにより、本発明のジルコニウム酸溶液に含まれる酸化ジルコニウム粒子を含有する酸化ジルコニウム粉末の中間生成物が得られる。また、当該ジルコニウム酸溶液を、炉内気圧を0.01MPaに設定した真空乾燥炉内に載置し、60℃以上に加熱して6時間真空乾燥させてもよい。
【0056】
次に、得られた酸化ジルコニウム粒子を含有する酸化ジルコニウム粉末の中間生成物(乾燥粉ともいう。)を静置炉内に載置し、650℃以上に加熱し、1~3時間に亘って焼成することにより、酸化ジルコニウム粉末が得られる。加熱温度は、500℃以上2,000℃以下が好ましい。加熱温度が500℃以上2,000℃以下であると、酸化ジルコニウム粒子の成長に十分な温度であり、且つ焼成コストを抑制することができ、また焼成により得られる焼成品が固い塊状になることがないため、粉砕の手間やコストの増加を回避することができるからである。さらに、加熱温度は、700℃以上1,500℃以下がより好ましく、900℃以上1,500℃以下がさらに好ましい。また、焼成時間は、0.5時間~72時間が好ましい。焼成時間が0.5時間~72時間であると、酸化ジルコニウム粒子の成長に十分な時間であり、不要なコストを抑えることができるからである。さらに、焼成時間は、0.5時間~50時間がより好ましく、0.5時間~30時間がさらに好ましい。
【0057】
また、焼成品を粉砕したものを酸化ジルコニウム粉末として用いてもよい。また、粉砕されるか否かに拘らず、焼成品を篩などによって分級した得られた篩下(微粒側)を酸化ジルコニウム粉末として用いてもよい。篩上(粗粒側)は再度粉砕し、分級して用いてもよい。なお、ナイロン、またはフッ素樹脂によりコーティングした鉄球等が粉砕メディアとして投入された振動篩を使用して粉砕と分級とを兼ねることも可能である。このように分級と粉砕とを兼ねることにより、焙焼後大き過ぎる酸化ジルコニウム粒子が存在しても除去が可能である。具体的には、篩を用いて分級する場合、目開きが150μm~1,000μmのものを用いると好ましい。150μm~1,000μmであると、篩上の割合が多くなりすぎることがなく再粉砕を繰り返すことがなく、また篩下に再粉砕が必要な酸化ジルコニウム粉末が分級されることがない。
【0058】
また、本発明の複合ジルコニウム酸組成物は、上述した本発明のジルコニウム酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Mo、W、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを有するものであることを特徴とする。
本発明の複合ジルコニウム酸組成物は、ジルコニウム酸と当該群より選択される少なくとも1種の元素とがイオン結合した状態のイオンとして溶液中に存在するものと推測する。ここで、本発明の複合ジルコニウム酸組成物は、本発明における「溶液」に限らず、当該「溶液」中に沈殿物が生じるものも含まれる。なお、本発明の複合ジルコニウム酸組成物中のジルコニウム酸濃度は、当該組成物を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、ZrO換算のZr重量分率を測定して算出することができる。Zr重量分率と同様に、本発明の複合ジルコニウム酸組成物中の当該群より選択される少なくとも1種の元素濃度も算出することができる。
【0059】
また、本発明の複合ジルコニウム酸組成物の製造方法は、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により生成された前記ジルコニウム酸溶液と、Si、Al、Ti、Zn、Sn、Y、Ce、Ba、Sr、P、S、La、Gd、Nd、Eu、Dy、Yb、Nb、Li、Na、K、Mg、Ca、Mo、W、およびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素とを混合し、複合ジルコニウム酸組成物を生成する工程を有する。
上述した本発明のジルコニウム酸溶液と当該群より選択される少なくとも1種の元素とを混合した混合物を撹拌しながら、その液温を適切な温度に所定時間保持することにより、本発明の複合ジルコニウム酸組成物が得られる。ここで、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により生成された前記ジルコニウム酸溶液と混合される、当該群より選択される少なくとも1種の元素は、ポリオキソメタレート、ペルオキソ錯体からなる酸化物、水酸化物、金属錯体、塩といった種々の形態であってもよい。
【0060】
また、本発明のジルコニウム酸膜は、前記ジルコニウム酸溶液に含まれるジルコニウム酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明のジルコニウム酸膜、すなわちジルコニウム酸成形膜は、上述したジルコニウム酸溶液に含まれるジルコニウム酸粒子を含有する。
【0061】
本発明のジルコニウム酸膜の製造方法は、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により得られるジルコニウム酸溶液を塗布し、焼成し、ジルコニウム酸膜を生成する工程を有することを特徴とする。
【0062】
具体的には、上述した本発明のジルコニウム酸溶液の製造方法により得られたジルコニウム酸溶液を、必要に応じて、例えば2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、本発明のジルコニウム酸溶液が塗布された基板を、静置炉内に載置し、700℃以上に加熱し、1時間に亘って焼成することにより、本発明のジルコニウム酸膜が得られる。
【0063】
また、本発明の複合ジルコニウム酸膜は、前記複合ジルコニウム酸組成物に含まれる複合ジルコニウム酸粒子を含有することを特徴とする。
本発明の複合ジルコニウム酸膜、すなわち複合ジルコニウム酸成形膜は、上述した複合ジルコニウム酸溶液に含まれる複合ジルコニウム酸粒子を含有する。
【0064】
本発明の複合ジルコニウム酸膜の製造方法は、上述した本発明の複合ジルコニウム酸組成物の製造方法により得られる複合ジルコニウム酸組成物を塗布し、焼成し、複合ジルコニウム酸膜を生成する工程を有することを特徴とする。
【0065】
具体的には、上述した本発明の複合ジルコニウム酸組成物の製造方法により得られた複合ジルコニウム酸組成物を、必要に応じて、例えば2μm孔径のフィルタで濾過しながらシリンジを用いて基板上に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、本発明の複合ジルコニウム酸組成物が塗布された基板を、静置炉内に載置し、700℃以上に加熱し、1時間に亘って焼成することにより、本発明の複合ジルコニウム酸膜が得られる。
【0066】
なお、本発明のジルコニウム酸溶液は、適宜用途に合わせて、分散剤、pH調整剤、着色剤、増粘剤、湿潤剤、バインダー樹脂等を添加してもよい。
【発明の効果】
【0067】
本発明のジルコニウム酸溶液は、溶解性、及び溶液安定性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、本発明に係る実施形態のジルコニウム酸溶液ついて、以下の実施例によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0069】
(実施例1)
溶解液生成工程として、硫酸ジルコニウム一水和物3.01g(0.01mol)を55質量%硫酸水溶液2.50g(0.014mol)に溶解させ、イオン交換水25gと35質量%過酸化水素水2.5g(0.026mol)を添加することによって(H/ZrOモル比=2.6)、ジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する硫酸ジルコニウム水溶液を得た。
【0070】
次に、沈殿工程として、硫酸ジルコニウム水溶液全量を、アンモニア水(NH濃度25質量%)100g(1.47mol)に、1分間未満の時間で添加して(NH/ZrOモル比=147、NH/SO 2-モル比=43)、いわゆる逆中和反応により、反応液を得た。この反応液はジルコニウム酸化合物水和物のスラリー、言い換えればジルコニウム含有沈殿物のスラリーであった。
【0071】
この反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
【0072】
さらに、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿を純水で希釈することにより、硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを得た。硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーの一部を110℃で24時間乾燥後、1,000℃で4時間焼成することでZrOを生成し、その重量から硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーに含まれるZrO濃度を算出した。
【0073】
そして、溶解工程として、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で4.5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が7.2質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合し(TMAH/ZrOのモル比=2.2)、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、実施例1に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例1に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.7であった。
【0074】
(実施例2)
実施例2では、溶解液生成工程において、添加する35質量%過酸化水素水の添加量が1.0g(0.01mol)、及びH/ZrOモル比=1.0としたこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例2に係る無色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例2に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.4であった。なお、実施例2に係るジルコニウム酸水溶液は、実施例1に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液とは異なり、無色透明であるが、これは実施例2に係るジルコニウム酸水溶液中に残存する過酸化水素水の添加量が少なく、黄色のペルオキソ錯体の生成量が少ないことによるものであるが、後述する溶液安定性に影響を及ぼすものではない。
【0075】
(実施例3)
実施例3では、(1)沈殿工程において、硫酸ジルコニウム水溶液全量が添加されるアンモニア水(NH濃度25質量%)が75g(1.10mol)、及びNH/ZrOモル比=110、NH/SO 2-モル比=32としたこと、(2)溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が8質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例3に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例3に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.5であった。
【0076】
(実施例4)
実施例4では、(1)沈殿工程において、硫酸ジルコニウム水溶液全量が添加されるアンモニア水(NH濃度25質量%)が50g(0.74mol)、及びNH/ZrOモル比=74、NH/SO 2-モル比=22としたこと、(2)溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が8質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例4に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例4に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.4であった。
【0077】
(実施例5)
実施例5では、(1)沈殿工程において、硫酸ジルコニウム水溶液全量が添加されるアンモニア水(NH濃度25質量%)が25g(0.37mol)、NH/ZrOモル比=37、NH/SO 2-モル比=11としたこと、(2)溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が8質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合し、この混合物を、液温が室温下(25℃)に維持しながら8時間保持し、撹拌したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例5に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例4に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.6であった。
【0078】
(実施例6)
実施例6では、(1)沈殿工程において、硫酸ジルコニウム水溶液全量が添加されるアンモニア水(NH濃度25質量%)が15g(0.22mol)、NH/ZrOモル比=22、NH/SO 2-モル比=6としたこと、(2)溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が8質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合し、この混合物を、液温が室温下(25℃)に維持しながら8時間保持し、撹拌したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例6に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例4に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.1であった。
【0079】
(実施例7)
実施例7では、(1)溶解液生成工程において、35質量%過酸化水素水の添加量が1.0g(0.01mol)、及びH/ZrOモル比=1.0としたこと、(2)沈殿工程において、硫酸ジルコニウム水溶液全量が添加されるアンモニア水(NH濃度25質量%)が50g(0.74mol)、及びNH/ZrOモル比=74、NH/SO 2-モル比=22としたこと、(3)溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で5質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が8質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)13.7g(0.023mol)とイオン交換水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例7に係る無色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例7に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.5であった。
【0080】
(実施例8)
実施例8では、溶解工程において、純水で希釈した硫黄分が除去されたジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で10質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が15.6質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)29.7g(0.049mol)とイオン交換水とを混合したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、実施例8に係る黄色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例8に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.5であった。
【0081】
(実施例9)
実施例9では、実施例1~8で用いた硫酸ジルコニウム一水和物ではなく、オキシ塩化ジルコニウム-8水和物を用いて、本発明に係るジルコニウム酸溶液を得た。
【0082】
先ず、溶解液生成工程において、オキシ塩化ジルコニウム-8水和物185.03g(0.614mol)を、イオン交換水:適量と35質量%過酸化水素水417.7g(4.3mol)を添加することによって(H/ZrOモル比=63.9)、ジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する酸性ジルコニウム水溶液を得た。
【0083】
次に、沈殿工程において、酸性ジルコニウム水溶液全量を、アンモニア水(NH濃度25質量%)2,500g(37mol)に、1分間未満の時間で添加して(NH/ZrOモル比=60、NH/CLモル比=30)、反応液すなわちジルコニウム含有沈殿物のスラリーを得た。このジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、ジルコニウム含有沈殿を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。さらに、このジルコニウム含有沈殿を純水で希釈することにより、ジルコニウム含有沈殿スラリーを得た。
【0084】
そして、溶解工程において、純水で希釈したジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で4.3質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が4.7質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)9.0g(0.015mol)とイオン交換水とを混合し(TMAH/ZrOのモル比=1.5)、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、実施例9に係る無色透明なジルコニウム酸水溶液を得た。得られた実施例9に係るジルコニウム酸水溶液のpHは13.5であった。
【0085】
(比較例1)
比較例1では、(1)溶解液生成工程において、添加する35質量%過酸化水素水の添加量が0.5g(0.005mol)、及びH/ZrOモル比=0.5としたこと、(2)沈殿工程において、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、限外ろ過装置を用いて、当該スラリーのジルコニウム濃度がZrO換算で10質量%となるまで濃縮し、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄することにより、半透明ゾル(懸濁溶液)を得たこと、(3)溶解工程において、この半透明ゾル(懸濁溶液)を撹拌しながら、液温を室温下(25℃)に維持しながら1時間保持したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例1に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0086】
(比較例2)
比較例2では、1)溶解液生成工程において、35質量%過酸化水素水を添加しなかったこと、(2)沈殿工程において、ジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、限外ろ過装置を用いて、当該スラリーのジルコニウム濃度がZrO換算で10質量%となるまで濃縮し、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄することにより、半透明ゾル(懸濁溶液)を得たこと、(3)溶解工程において、この半透明ゾル(懸濁溶液)を撹拌しながら、液温を室温下(25℃)に維持しながら1時間保持したこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例2に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0087】
(比較例3)
比較例3では、溶解液生成工程において、オキシ塩化ジルコニウム-8水和物185.03g(0.614mol)を、イオン交換水:適量と35質量%過酸化水素水63.9g(0.658mol)を添加することによって(H/ZrOモル比=1.0)、ジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する酸性ジルコニウム水溶液を得た。
【0088】
次に、沈殿工程において、酸性ジルコニウム水溶液全量を、水酸化カリウム水溶液2,063g(37mol)に、1分間未満の時間で添加して(KOH/ZrOモル比=60、KOH/Clモル比=30)、反応液であるジルコニウム含有沈殿物のスラリーを得た。このジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、半透明ゾル(懸濁溶液)を得た。
【0089】
そして、溶解工程において、純水で希釈したジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で4.3質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が4.7質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)9.0g(0.015mol)とイオン交換水とを混合し、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、比較例3に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0090】
(比較例4)
比較例4では、溶解液生成工程において、オキシ塩化ジルコニウム-8水和物185.03g(0.614mol)を、イオン交換水:適量と35質量%過酸化水素水63.9g(0.658mol)を添加することによって(H/ZrOモル比=1.0)、ジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する酸性ジルコニウム水溶液を得た。
【0091】
次に、沈殿工程において、酸性ジルコニウム水溶液全量を、水酸化ナトリウム水溶液1,470g(37mol)に、1分間未満の時間で添加して(NaOH/ZrOモル比=60、NaOH/Clモル比=30)、反応液であるジルコニウム含有沈殿物のスラリーを得た。このジルコニウム含有沈殿物のスラリーを、遠心分離機を用いてデカンテーションし、導電率が500μS/cm以下になるまで洗浄して、半透明ゾル(懸濁溶液)を得た。
【0092】
そして、溶解工程において、純水で希釈したジルコニウム含有沈殿スラリーを、最終的な混合物のジルコニウム濃度がZrO換算で4.3質量%と、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が4.7質量%となるように、15質量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)9.0g(0.015mol)とイオン交換水とを混合し、この混合物を撹拌しながら、液温が室温下(25℃)に維持しながら1時間保持し、比較例4に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0093】
(比較例5)
比較例5では、沈殿工程において、実施例1のような逆中和反応ではなく、正中和反応、すなわちジルコニウムをZrO換算で4.3質量%含有する硫酸ジルコニウム水溶液に、アンモニア水(NH濃度25質量%)100g(1.47mol)を、1分間未満の時間で添加して(NH/ZrOモル比=147、NH/SO 2-モル比=43)、反応液を得た。この工程以外は、実施例1と同様な製造方法により、比較例5に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0094】
(比較例6)
比較例6では、溶解液生成工程において、35質量%過酸化水素水を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様な製造方法を実施し、比較例6に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液を得た。
【0095】
そして、実施例1~9、及び比較例1~6において得られたジルコニウム酸水溶液について、次のような物性を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。
【0096】
〈元素分析〉
必要に応じて試料を希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、ZrO換算のZr重量分率を測定した。
【0097】
〈動的光散乱法〉
粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、2μm孔径のフィルタで濾過し、前述の超音波を用いた分散処理を行った。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。表1の「初期粒子径D50(nm)」とは、生成された直後に液温25℃に調整したジルコニウム水溶液中のジルコニウム酸粒子径(D50)をいう。また、表1の「経時粒子径D50(nm)」とは、室温25℃に設定した恒温器内で20日間静置した後のジルコニウム水溶液中のジルコニウム酸粒子径(D50)をいう。
【0098】
〈アンモニア定量分析〉
水酸化ナトリウム溶液(30g/100ml)25mlを試料溶液1~5mlに加え、この混合液を沸騰させて蒸留し、その蒸留液(約200ml)を純水20mlと硫酸0.5mlとを入れた容器に流出させることによりアンモニアを分離した。次に、分離したアンモニアを250mlのメスフラスコに転移し純水で250mlに定容した。さらに、250mlに定容した溶液を100mlのメスフラスコに10ml分取し、分取した溶液に、水酸化ナトリウム溶液(30g/100mL)1mlを加え、純水で100mlに定容した。このようにして得られた溶液をイオンメータ(本体:HORITA F-53、電極:HORIBA 500 2A)を用いて定量分析することにより、溶液中に含まれるアンモニウムイオン濃度(質量%)を測定した。
【0099】
〈過酸化水素定量分析〉
試料10mlを採取し、純水を加えて、ポリ製メスフラスコを用いて1,000mlにメスアップした。次に、当該水溶液から10ml分取し、硫酸(1+1)10mlを加え、さらに100mg/l硫酸チタン水溶液4mlを加え、ポリ製メスフラスコを用いて100mlにメスアップすることにより、サンプルが得られた。そして、当該サンプルの波長410nmにおける吸光度を、分光光度計(株式会社日立製作所製:U-2900)を用いて測定することにより、過酸化水素を定量した。
【0100】
〈pH測定〉
25℃にした試料を卓上型pHメータ(株式会社堀場製作所製:F-71S:スタンダードToupH電極)を用いて測定した。
【0101】
〈経時安定性試験〉
実施例1~9、及び比較例1~6のジルコニウム酸水溶液を室温25℃に設定した恒温器内で20日間間静置した後、著しい粒度の増加の有無を目視観察、及び経時粒子径(D50)を測定することにより行った。著しい粒度の増加が観察されなかったもの、及び20日間静置後の実施例1~9、及び比較例1~6のジルコニウム酸水溶液中のジルコニウム酸粒子の経時粒子径(D50)を、上述した動的光散乱法を用いて測定し、当該経時粒子経(D50)が50nm以下であるものは、経時安定性を有するとして「○(GOOD)」と評価し、著しい粒度の増加や、沈殿物が観察されたものは経時安定性を有しないとして「×(BAD)」と評価した。
【0102】
〈成膜性試験〉
集電板の代替品であるガラス基板の表面に形成した塗膜の外観評価を光学顕微鏡で観察することによって行った。実施例1~9、及び比較例1~6のジルコニウム酸水溶液を、シリンジを用いて15mm×15mmのガラス基板に滴下し、スピンコート(1,500rpm、30秒)により、塗布した。そして、塗布した箇所を、高圧エアーにより風乾することにより、ガラス基板上に塗膜を形成した。形成した塗膜を光学顕微鏡で100倍にて観察し、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されなかったものは成膜性に優れているとして「○(GOOD)」と評価し、一つでも観察されたものを成膜性に優れていないとして「×(BAD)」と評価した。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示す通り、実施例1~9に係るジルコニウム酸水溶液は、当該水溶液中のジルコニウム酸濃度が0.1~10質量%であると、長期保管時の溶液安定性に優れるものであった。
【0105】
また、実施例1~9に係るジルコニウム酸水溶液は、当該水溶液中の動的光散乱法によるジルコニウム酸粒子径(D50)が50nm以下であると、経時安定性試験の結果について、良好な結果が得られた。具体的には、実施例1~9に係るジルコニウム酸水溶液は、20日間経過した後であっても、ジルコニウム酸の経時粒子径(D50)は初期粒子径(D50)から粒度の変化はほぼ観察されず、経時安定性に優れるものであった。他方、比較例1~5に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液は、沈殿物が観察され、初期粒子径(D50)及び経時粒子径(D50)は「>10,000nm」であった。比較例6に係る半透明ゾル(懸濁溶液)のジルコニウム酸水溶液は、溶解しなかったため、初期粒子径(D50)及び経時粒子径(D50)を測定しなかった。
【0106】
実施例1~9に係るジルコニウム酸水溶液は、当該水溶液のpHが10超過14以下であると、溶液安定性がより向上した。
【0107】
実施例1~9に係るジルコニウム酸水溶液は、これらのジルコニウム酸水溶液から形成した塗膜を光学顕微鏡で100倍にて観察した結果、全ての実施例に係るジルコニウム酸水溶液から形成されたジルコニウム膜において、気泡、塗工ムラ、ひび割れが、一つも観察されず、成膜性に優れるものであった。
【0108】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係るジルコニウム酸水溶液は、溶液安定性に優れており、複合酸化物触媒用原料、電池正極材被覆による電池性能向上を図る用途、コーティング剤、例えば透明酸化ジルコニウム膜形成用コート剤等や、複数の元素との複合化材料として好適である。本発明に係るジルコニウム酸水溶液は、従来ジルコニウム酸複合化材料等は高温での焼成を経て製造されていたのに対し、水溶液混合による低温(低エネルギー)での製造が可能であり、また物として安定であることから、天然資源の持続可能な管理、効率的な利用、及び脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。