(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】圧縮装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/02 20060101AFI20230908BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230908BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20230908BHJP
C25B 9/67 20210101ALI20230908BHJP
C25B 9/05 20210101ALI20230908BHJP
C25B 9/70 20210101ALI20230908BHJP
【FI】
C25B1/02
C25B9/00 Z
C25B9/23
C25B9/67
C25B9/05
C25B9/70
(21)【出願番号】P 2023511802
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2022043660
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2021208953
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中植 貴之
(72)【発明者】
【氏名】喜多 洋三
(72)【発明者】
【氏名】酒井 修
(72)【発明者】
【氏名】可児 幸宗
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特許第6956392(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0136027(US,A1)
【文献】米田 雅一,PEFCスタックの流路構造と作動条件に対する発電性能への影響解析,電池討論会講演要旨集 第55回,内本 喜晴 (公社)電気化学会 電池技術委員会,2014年11月19日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/02
C25B 9/00
C25B 9/23
C25B 9/67
C25B 9/05
C25B 9/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜をアノードとカソードで挟持した電気化学セルを複数積層したスタックと、
前記スタックの積層方向における端部に設けられた端板と、
前記アノードとカソード間に電圧を印加する電圧印加器と、を備え、
前記電圧印加器により電圧を印加することで、前記アノードに供給された水素含有ガス中の水素を、前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、
前記端板には、熱媒体が通流する第1流路が設けられ、
前記スタックには、当該スタックを貫通し、前記第1流路と接続された第2流路が設けられ、
前記第1流路の断面積は、前記第2流路の断面積より小さく、
前記第1流路は、環状流路と、前記環状流路を横断する横断路とを備え、
前記第2流路は、
前記環状流路と前記横断路との接続箇所において前記横断路と接続され、
前記スタック外に設けられ、前記熱媒体が流れる熱媒体外部流路は、前記横断路と前記第2流路との接続箇所と異なる箇所において前記横断路と接続される、圧縮装置。
【請求項2】
前記熱媒体外部流路は、前記横断路の中点から前記横断路と前記第2流路との接続箇所に近い側において前記横断路と接続されている、請求項1に記載の圧縮装置。
【請求項3】
前記横断路と前記熱媒体外部流路との接続箇所から前記横断路と前記第2流路との接続箇所に遠い側の前記横断路の断面積は、前記横断路と前記熱媒体外部流路との接続箇所から前記横断路と前記第2流路との接続箇所に近い側の前記横断路の断面積よりも大きい、請求項1または2に記載の圧縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化などの環境問題、石油資源の枯渇などのエネルギー問題から、化石燃料に代わるクリーンな代替エネルギー源として水素が注目されている。水素は燃焼しても基本的に水しか生成せず、地球温暖化の原因となる二酸化炭素が排出されず、かつ窒素酸化物などもほとんど排出されないので、クリーンエネルギーとして期待されている。また、水素を燃料として高効率に利用する装置としては燃料電池があり、自動車用電源向け、家庭用自家発電向けに開発および普及が進んでいる。
【0003】
例えば、燃料電池車の燃料として使用される水素は、一般的に、数十MPaに圧縮された高圧状態で車内の水素タンクに貯蔵される。そして、このような高圧の水素は、一般的に、低圧(常圧)の水素を機械式の圧縮装置によって圧縮することで得られる。
【0004】
ところで、来るべき水素社会では、水素を製造することに加えて、水素を高密度で貯蔵し、小容量かつ低コストで輸送または利用し得る技術開発が求められている。特に、燃料電池の普及促進には水素供給インフラを整備する必要があり、水素を安定的に供給するために、高純度の水素を製造、精製、高密度貯蔵する様々な提案が行われている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1では、電解質膜を挟んで配されたアノードおよびカソード間に所望の電圧を印加することによって、水素含有ガス中の水素の精製および昇圧が行われる電気化学式水素ポンプが提案されている。カソード、電解質膜およびアノードの積層体を膜-電極接合体(以下、MEA:Membrane Electrode Assembly)という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、一例として、従来に比べて圧縮装置内に流れる熱媒体の偏流を抑制し得る圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の一態様(aspect)の圧縮装置は、電解質膜をアノードとカソードで挟持した電気化学セルを複数積層したスタックと、前記スタックの積層方向における端部に設けられた端板と、前記アノードとカソード間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、前記電圧印加器により電圧を印加することで、前記アノードに供給された水素含有ガス中の水素を、前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、前記端板には、熱媒体が通流する第1流路が設けられ、前記スタックには、当該スタックを貫通し、前記第1流路と接続された第2流路が設けられ、前記第1流路の断面積は、前記第2流路の断面積より小さく、前記第1流路は、環状流路と、前記環状流路を横断する横断路とを備え、前記スタック外に設けられ、前記熱媒体が流れる熱媒体外部流路は、前記横断路と接続される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様の圧縮装置は、従来に比べて圧縮装置内に流れる熱媒体の偏流を抑制し得るという効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】
図1Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプにおける熱媒体流路の一例を示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態の実施例の電気化学式水素ポンプにおける熱媒体流路の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電気化学式の圧縮装置が、電解質膜をアノードとカソードで挟持した電気化学セルを複数積層したスタックを備える場合、各電気化学セルの温度を調整するために各電気化学セル間に設けられたセパレーターに熱媒体が供給される。
【0012】
圧縮装置には、上記スタックを貫通する流路であり、かつ上記セパレーターに供給される熱媒体または上記セパレーターから排出される熱媒体が流れるマニホールドが設けられている。
【0013】
また、上記スタックは、積層体(スタック)を両側から、一対の絶縁板などを介して一対の端板で挟み、両端板を複数の締結器(例えば、ボルトとナット)で締め付けるのが一般的な積層締結構造である。
【0014】
ここで、上記特許文献1の圧縮装置では、以上の積層構造体のうち、上記セパレーターだけでなく端板にも熱媒体流路が設けられている。このとき、端板に設けられた熱媒体流路と上記マニホールドとの間で熱媒体が一方に偏って流れることを抑制する必要があるが、上記特許文献1では、その点について十分検討されていない。
【0015】
そこで、本開示者らは、以上の状況を鑑みて鋭意検討した結果、端板に設けられた熱媒体流路と上記マニホールドとの間で熱媒体の偏流が生じることを抑制すべく、端板において熱媒体を適切に通流させ得る流路構成を見出して、以下の本開示の一態様に想到した。
【0016】
すなわち、本開示の第1態様の圧縮装置は、電解質膜をアノードとカソードで挟持した電気化学セルを複数積層したスタックと、スタックの積層方向における端部に設けられた端板と、アノードとカソード間に電圧を印加する電圧印加器とを備え、電圧印加器により電圧を印加することで、アノードに供給された水素含有ガス中の水素を、カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、端板には、熱媒体が通流する第1流路が設けられ、スタックには、当該スタックを貫通し、第1流路と接続された第2流路が設けられ、第1流路の断面積は、第2流路の断面積より小さく、第1流路は、環状流路と、環状流路を横断する横断路とを備え、スタック外に設けられ、熱媒体が流れる熱媒体外部流路は、横断路と接続される。
【0017】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、従来に比べて圧縮装置圧内に流れる熱媒体の偏流を抑制し得る。具体的には、本態様の圧縮装置は、端板に設けられた第1流路と、スタックに設けられた第2流路との間で熱媒体が一方に偏って流れることを従来よりも抑制することができる。
【0018】
ここで、第2流路には、複数の電気化学セルのそれぞれに所定量の熱媒体を分配するために必要な量の熱媒体を通流させる必要がある。このため、熱媒体が第2流路を通過する際の圧損低減には、第2流路の断面積が大きい方が都合がよい。
【0019】
そこで、本態様の圧縮装置は、熱媒体外部流路が第1流路の横断路に接続することで、熱媒体が、この横断路を介して第1流路の環状流路に回り込みやすくなるように構成できる。よって、本態様の圧縮装置は、従来に比べて、端板に設けられた第1流路と、スタックに設けられた第2流路との間で熱媒体が一方に偏りにくくなるように熱媒体を適切に通流させることができる。
【0020】
本開示の第2態様の圧縮装置は、第1態様の圧縮装置において、上記熱媒体外部流路は、横断路と第2流路との接続箇所と異なる箇所において横断路と接続されていてもよい。
【0021】
仮に、横断路と第2流路との接続箇所に、熱媒体外部流路が接続される場合、熱媒体は、端板に設けられた第1流路を通らずに第2流路に流出しやすくなる。
【0022】
そこで、本態様の圧縮装置は、横断路と第2流路との接続箇所と異なる箇所において、横断路と熱媒体外部流路とを接続することで、前者の接続箇所において横断路と熱媒体外部流路とを接続する場合に比べて、熱媒体を端板に設けられた第1流路に通流させやすく構成できる。
【0023】
本開示の第3態様の圧縮装置は、第2態様の圧縮装置において、上記熱媒体外部流路は、横断路の中点から横断路と第2流路との接続箇所に近い側において横断路と接続されていてもよい。
【0024】
仮に、熱媒体外部流路が、横断路の中点から横断路と第2流路との接続箇所に遠い側において横断路と接続される場合、熱媒体が第1流路を通過する際の圧損が増加する可能性がある。
【0025】
そこで、本態様の圧縮装置は、横断路の中点から横断路と第2流路との接続箇所に近い側において横断路と熱媒体外部流路とを接続することで、この接続箇所に遠い側において横断路と熱媒体外部流路とを接続する場合に比べて、熱媒体が第1流路を通過する際の圧損を低減することができる。
【0026】
本開示の第4態様の圧縮装置は、第2態様または第3態様の圧縮装置において、横断路と熱媒体外部流路との接続箇所から横断路と第2流路との接続箇所に遠い側の横断路の断面積は、横断路と熱媒体外部流路との接続箇所から横断路と第2流路との接続箇所に近い側の横断路の断面積よりも大きくてもよい。
【0027】
かかる構成によると、本態様の圧縮装置は、横断路と熱媒体外部流路との接続箇所から横断路と第2流路との接続箇所に遠い側の横断路の断面積を、前者の接続箇所から後者の接続箇所に近い側の横断路の断面積よりも大きくすることで、両者の断面積を逆にする場合に比べて、熱媒体が第1流路を通過する際の圧損増加を抑制しながら、熱媒体を第1流路に通流させやすく構成できる。
【0028】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。以下で説明する実施形態は、いずれも上記の各態様の一例を示すものである。よって、以下で示される形状、材料、構成要素、および、構成要素の配置位置および接続形態などは、あくまで一例であり、請求項に記載されていない限り、上記の各態様を限定するものではない。また、以下の構成要素のうち、上記の各態様の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において、同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。図面は理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したもので、形状および寸法比などについては正確な表示ではない場合がある。
【0029】
(実施形態)
以下の実施形態では、上記圧縮装置の一例である電気化学式水素ポンプの構成および動作について説明する。
【0030】
[装置構成]
図1Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプの一例を示す図である。
図1Bは、
図1AのB部の拡大図である。
【0031】
図1Aおよび
図1Bに示す例では、電気化学式水素ポンプ100は、電解質膜21をアノードANとカソードCAで挟持した電気化学セル10を複数積層したスタックを備える。
【0032】
図1Aでは、3個の電気化学セル10が積層されているが、電気化学セル10の個数はこれに限定されない。つまり、電気化学セル10の個数は、電気化学式水素ポンプ100が圧縮する水素量などの運転条件をもとに適宜の数に設定することができる。
【0033】
電気化学セル10は、電解質膜21と、アノードANと、カソードCAと、カソードセパレーター27と、アノードセパレーター26と、絶縁体28と、を備える。
【0034】
そして、電気化学セル10において、電解質膜21、アノード触媒層24、カソード触媒層23、アノード給電体25、カソード給電体22、アノードセパレーター26およびカソードセパレーター27が積層されている。
【0035】
アノードANは、電解質膜21の一方の主面上に設けられている。アノードANは、アノード触媒層24と、アノード給電体25とを含む電極である。アノードセパレーター26上には、平面視において、アノードANのアノード触媒層24の周囲を囲むようにOリング45が設けられている。これにより、アノードANが、Oリング45で適切にシールされている。
【0036】
カソードCAは、電解質膜21の他方の主面上に設けられている。カソードCAは、カソード触媒層23と、カソード給電体22とを含む電極である。カソードセパレーター27上には、平面視において、カソードCAのカソード触媒層23の周囲を囲むようにOリング45が設けられている。これにより、カソードCAが、Oリング45で適切にシールされている。
【0037】
以上により、電解質膜21は、アノード触媒層24およびカソード触媒層23のそれぞれと接触するようにして、アノードANとカソードCAとによって挟持されている。
【0038】
電解質膜21は、プロトン伝導性を備える高分子膜である。電解質膜21は、プロトン伝導性を備えていれば、どのような構成であってもよい。
【0039】
例えば、電解質膜21として、フッ素系高分子電解質膜、炭化水素系高分子電解質膜を挙げることができるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、電解質膜21として、Nafion(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成株式会社製)などを用いることができる。
【0040】
アノード触媒層24は、電解質膜21の一方の主面に接するように設けられている。アノード触媒層24は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0041】
カソード触媒層23は、電解質膜21の他方の主面に接するように設けられている。カソード触媒層23は、触媒金属として、例えば、白金を含むが、これに限定されない。
【0042】
カソード触媒層23およびアノード触媒層24の触媒担体としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛などのカーボン粒子、導電性の酸化物粒子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
カソード触媒層23およびアノード触媒層24では、触媒金属の微粒子が、触媒担体に高分散に担持されている。また、これらのカソード触媒層23およびアノード触媒層24中には、電極反応場を大きくするために、プロトン伝導性のイオノマー成分を加えることが一般的である。
【0044】
カソード給電体22は、カソード触媒層23上に設けられている。また、カソード給電体22は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、カソード給電体22は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形に適切に追従するような弾性を備える方が望ましい。本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、カソード給電体22として、カーボン繊維で構成した部材が用いられている。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトなどの多孔性のカーボン繊維シートでもよい。なお、カソード給電体22の基材として、カーボン繊維シートを用いなくもよい。例えば、カソード給電体22の基材として、チタン、チタン合金、ステンレススチールなどを素材とする金属繊維の焼結体、これらを素材とする金属粒子の焼結体などを用いてもよい。
【0045】
アノード給電体25は、アノード触媒層24上に設けられている。また、アノード給電体25は、多孔性材料で構成され、導電性およびガス拡散性を備える。さらに、アノード給電体25は、電気化学式水素ポンプ100の動作時にカソードCAおよびアノードAN間の差圧で発生する構成部材の変位、変形を抑制可能な高剛性であることが望ましい。
【0046】
具体的には、アノード給電体25の基材として、例えば、チタン、チタン合金、ステンレススチール、カーボンなどを素材とした繊維焼結体、粉体焼結体、エキスパンドメタル、金属メッシュ、パンチングメタルなどを用いてもよい。
【0047】
アノードセパレーター26は、アノードAN上に設けられた部材である。カソードセパレーター27は、カソードCA上に設けられた部材である。具体的には、アノードセパレーター26の中央部には凹部が設けられ、この凹部内に、アノード給電体25が収容されている。また、カソードセパレーター27の中央部には凹部が設けられ、この凹部内に、カソード給電体22が収容されている。
【0048】
以上のアノードセパレーター26およびカソードセパレーター27は、例えば、チタン、ステンレスなどの金属シートで構成されていてもよい。この金属シートをステンレスで構成する場合、SUS316LまたはSUH660は、様々な種類のステンレスの中で、耐酸性および耐水素脆性などの特性に優れている。
【0049】
図1Aに示すように、カソード給電体22と接触するカソードセパレーター27の主面は、カソードガス流路を設けずに平面で構成されている。これにより、カソードセパレーター27の主面にカソードガス流路を設ける場合に比べて、カソード給電体22とカソードセパレーター27との間で接触面積を大きくすることができる。すると、電気化学式水素ポンプ100は、カソード給電体22とカソードセパレーター27との間の接触抵抗を低減することができる。
【0050】
これに対して、アノード給電体25と接触するアノードセパレーター26の主面には、平面視において、例えば、複数のU字状の折り返す部分と複数の直線部分とを含むサーペンタイン状のアノードガス流路35が設けられている。そして、アノードガス流路35の直線部分は、
図1Aの紙面に垂直な方向に延伸している。ただし、このようなアノードガス流路35は例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス流路は、複数の直線状の流路により構成されていてもよい。
【0051】
また、電気化学式水素ポンプ100の電気化学セル10のそれぞれにおいて、カソードセパレーター27およびアノードセパレーター26の間には、電解質膜21の周囲を囲むように設けられた環状かつ平板状の絶縁体28が挟み込まれている。絶縁体28の基材として、例えば、フッ素ゴムなどを挙げることができるが、これに限定されない。これにより、電気化学セル10内におけるカソードセパレーター27およびアノードセパレーター26間の短絡を適切に防止することができる。
【0052】
さらに、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれにおいて、熱媒体分岐流路60が設けられている。ここでは、熱媒体分岐流路60は、カソードセパレーター27および給電板12のアノードセパレーター26側の主面に設けられたサーペンタイン状の流路溝で構成されているが、これに限定されない。熱媒体分岐流路60は、アノードセパレーター26の主面に設けられていてもよい。これにより、電気化学式水素ポンプ100の動作時において、熱媒体分岐流路60を流れる熱媒体の温度、流量などを制御することで、電気化学セル10の温調を適切に行うことができる。熱媒体分岐流路60を流れる熱媒体として、例えば、液水、不凍液などを挙げることができるが、これらに限定されない。ただし、熱媒体として、液水を用いると、取り扱いが容易である。
【0053】
図示を省略するが、隣り合うカソードセパレーター27およびアノードセパレーター26は、これらが一体化されたバイポーラプレート(双極板)であってもよい。この場合、バイポーラプレート(双極板)は、隣り合う電気化学セル10の一方のアノードセパレーター26として機能するとともに、電気化学セル10の他方のカソードセパレーター27として機能する。これにより、電気化学式水素ポンプ100の部品点数を削減することができる。例えば、セパレーターの個数を削減できるとともに、セパレーター間に設けられたシール部材を無くすことができる。また、アノードセパレーター26とカソードセパレーター27とが一体化されることで、互いの接合部の空隙が消失するので、両者間の接触抵抗を低減することができる。
【0054】
このようにして、カソードセパレーター27およびアノードセパレーター26で上記のMEAを挟むことにより、電気化学セル10が形成されている。
【0055】
図1Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電気化学セル10を積層したスタックの積層方向における両端に設けられた一対の給電板11および給電板12と、給電板11および給電板12のそれぞれの外側に設けられた一対の絶縁板13および絶縁板14と、絶縁板13および絶縁板14のそれぞれの外側に設けられた一対の端板15および端板16と、を備える。
【0056】
また、電気化学式水素ポンプ100は、上記スタック、給電板11および給電板12、絶縁板13および絶縁板14、および、端板15および端板16を積層方向に締結するための締結器17と、を備える。
【0057】
図1Aに示す例では、端板15は、電気化学セル10の各部材が積層された積層方向において、一方の端に位置するカソードセパレーター27上に、給電板11および絶縁板13を介して設けられたカソード端板である。端板16は、電気化学セル10の各部材が積層された積層方向において、他方の端に位置するアノードセパレーター26上に、給電板12および絶縁板14を介して設けられたアノード端板である。
【0058】
端板15には、カソードCAで圧縮された高圧の水素が通流するカソードガス排出流路40と、外部からアノードANに供給される水素含有ガスが通流するアノードガス供給流路41と、スタック外に設けられ、熱媒体が流れる熱媒体供給路67と、熱媒体が通流する熱媒体流路65と、が設けられている。なお、熱媒体供給路67は、
図2Aおよび
図3Aに示す如く、外部から熱媒体流路65および筒状の熱媒体導入マニホールド66に熱媒体を供給するための流路である。このような熱媒体流入側の流路構成の詳細については後で説明する。
【0059】
ここでは、熱媒体供給路67は、端板15の熱媒体流入口に接続された配管と、端板15に設けられた連通孔で構成され、熱媒体流路65は、端板15の絶縁板13側の主面に設けられた流路溝で構成されているが、かかる構成に限定されない。
【0060】
熱媒体供給路67は、本開示の「熱媒体外部流路」の一例に対応する。熱媒体流路65は、本開示の「第1流路」の一例に対応する。熱媒体導入マニホールド66は、本開示の「第2流路」の一例に対応する。
【0061】
端板16には、アノードANから排出される水素含有ガスが通流するアノードガス排出流路42と、熱媒体が通流する熱媒体流路64と、スタック外に設けられ、熱媒体が流れる熱媒体排出路69と、図示を省略しているが、カソードCAで圧縮された高圧の水素が通流するカソードガス排出流路と、が設けられている。なお、熱媒体排出路69は、図示を省略するが、熱媒体流路64および筒状の熱媒体導出マニホールド(図示せず)から外部に熱媒体を排出するための流路である。
【0062】
ここでは、熱媒体排出路69は、端板16の熱媒体流出口に接続された配管と、端板16に設けられた連通孔で構成され、熱媒体流路64は、端板16の絶縁板14側の主面に設けられた流路溝で構成されているが、かかる構成に限定されない。
【0063】
熱媒体排出路69は、本開示の「熱媒体外部流路」の一例に対応する。熱媒体流路64は、本開示の「第1流路」の一例に対応する。熱媒体導出マニホールドは、本開示の「第2流路」の一例に対応する。
【0064】
熱媒体流路64および熱媒体流路65を流れる熱媒体として、例えば、液水、不凍液などを挙げることができるが、これらに限定されない。ただし、熱媒体として、液水を用いると、取り扱いが容易である。
【0065】
以上の端板15および端板16におけるガス流路の構成は例示であって、本例に限定されない。例えば、カソードCAで圧縮された高圧の水素が通流するカソードガス排出流路は、端板15および端板16のいずれか一方のみに設けられていてもよい。また、例えば、端板15に、アノードANから排出される水素含有ガスが通流するアノードガス排出流路が設けられるとともに、端板16に、外部からアノードANに供給される水素含有ガスが通流するアノードガス供給流路が設けられていてもよい。また、端板15および端板16のいずれにも、アノードガス排出流路が設けられなくてもいい。
【0066】
締結器17は、電気化学セル10を積層したスタック、給電板11および給電板12、絶縁板13および絶縁板14、および、端板15および端板16を、上記積層方向に締結することができれば、どのような構成であってもよい。例えば、締結器17として、ボルトおよび皿ばね付きナットなどを挙げることができる。
【0067】
これにより、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、複数個の電気化学セル10が、上記の積層方向において、締結器17の締結圧により積層状態で適切に保持される。すると、電気化学セル10の各部材間でシール部材のシール性が適切に発揮されるとともに、各部材間の接触抵抗が低減する。
【0068】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、締結器17のボルトが、給電板11および給電板12、絶縁板13および絶縁板14、および、端板15および端板16を貫通することで、複数の電気化学セル10が、上記の積層方向において締結器17の締結圧により積層状態で適切に保持されている。
【0069】
図1Aの端板15に設けられたアノードガス供給流路41には、アノードガス導入経路32が接続されている。アノードガス導入経路32は、例えば、アノードANに供給される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。
【0070】
そして、アノードガス導入経路32は、アノードガス供給流路41を介して、筒状のアノードガス導入マニホールド30に連通している。アノードガス導入マニホールド30は、電気化学セル10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0071】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セル10のそれぞれにおいて、電気化学セル10のアノードANとは反対側のアノードセパレーター26の主面に、アノードガス導入マニホールド30と上記アノードガス流路35とを連絡する第1連絡路32Aが設けられている。例えば、第1連絡路32Aは、アノードセパレーター26に設けられた流路溝および連絡孔で構成されていてもよい。この第1連絡路32Aは、サーペンタイン状のアノードガス流路35の一方の端部とアノードガス導入マニホールド30との間を延伸している。
【0072】
このようにして、アノードガス導入マニホールド30は、電気化学セル10のそれぞれのアノードガス流路35の一方の端部と、第1連絡路32Aのそれぞれを介して連通している。これにより、アノードガス導入経路32からアノードガス導入マニホールド30に供給された水素含有ガスは、電気化学セル10のそれぞれの第1連絡路32Aを通じて、電気化学セル10のそれぞれに分配される。そして、分配された水素含有ガスがアノードガス流路35を通過する間に、アノード給電体25からアノード触媒層24に水素含有ガスが供給される。
【0073】
図1Aの端板16に設けられたアノードガス排出流路42には、アノードガス導出経路33が接続されている。アノードガス導出経路33は、例えば、アノードANから排出される水素含有ガスが流通する配管で構成されていてもよい。
【0074】
そして、アノードガス導出経路33は、アノードガス排出流路42を介して、筒状のアノードガス導出マニホールド31に連通している。アノードガス導出マニホールド31は、電気化学セル10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0075】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セル10のそれぞれにおいて、電気化学セル10のアノードANとは反対側のアノードセパレーター26の主面に、アノードガス導出マニホールド31とアノードガス流路35とを連絡する第2連絡路32Bが設けられている。例えば、第2連絡路32Bは、アノードセパレーター26に設けられた流路溝および連絡孔で構成されていてもよい。この第2連絡路32Bは、サーペンタイン状のアノードガス流路35の他方の端部とアノードガス導出マニホールド31との間を延伸している。
【0076】
このようにして、アノードガス導出マニホールド31は、電気化学セル10のそれぞれのアノードガス流路35の他方の端部と、第2連絡路32Bのそれぞれを介して連通している。これにより、電気化学セル10のそれぞれのアノードガス流路35を通過した水素含有ガスが、第2連絡路32Bのそれぞれを通じてアノードガス導出マニホールド31に供給され、ここで合流される。そして、合流された水素含有ガスが、アノードガス導出経路33に導かれる。
【0077】
図1Aの端板15に設けられたカソードガス排出流路40には、カソードガス導出経路(図示せず)が接続されている。カソードガス導出経路は、例えば、カソードCAから排出される高圧の水素(H
2)が流通する配管で構成されていてもよい。
【0078】
そして、カソードガス導出経路は、カソードガス排出流路40を介して、筒状のカソードガス導出マニホールド(図示せず)に連通している。カソードガス導出マニホールドは、電気化学セル10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。
【0079】
本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、電気化学セル10のそれぞれにおいて、カソードセパレーター27には、カソードセパレーター27の凹部内とカソードガス導出マニホールド内とを連通する連通経路(図示せず)が設けられている。
【0080】
これにより、電気化学式水素ポンプ100の動作時に、カソードCAで圧縮された高圧の水素は、連通経路、カソードガス導出マニホールドおよびカソードガス排出流路40をこの順番に通過することで、カソードガス導出経路に排出される。
【0081】
以上の端板15および端板16は、例えば、チタン、ステンレスなどの金属シートで構成されていてもよい。この金属シートをステンレスで構成する場合、SUS316LまたはSUH660は、様々な種類のステンレスの中で、耐酸性および耐水素脆性などの特性に優れている。
【0082】
図1Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、ポンプ61と、加熱器62と、熱媒体循環経路63と、を備える。
【0083】
熱媒体循環経路63は、熱媒体が熱媒体流路65、熱媒体分岐流路60および熱媒体流路64を通過することで、熱媒体を循環させるための流路である。
【0084】
具体的には、
図1Aに示す例では、端板16には、熱媒体循環経路63の一端が、端板16の熱媒体流出口に接続するように設けられている。端板15には、熱媒体循環経路63の他端が、端板15の熱媒体流入口に接続するように設けられている。このような熱媒体循環経路63は、例えば、熱媒体が流れる配管で構成されていてもよい。つまり、本例では、熱媒体循環経路63は、熱媒体供給路67と熱媒体排出路69とによって構成されており、ポンプ61を挟んで熱媒体循環経路63の上流側の配管部分が、熱媒体排出路69に対応するとともに、熱媒体循環経路63の下流側の配管部分が、熱媒体供給路67に対応する。
【0085】
ポンプ61は、熱媒体循環経路63上に設けられ、熱媒体循環経路63を流れる熱媒体を循環させる装置である。ポンプ61は、このような熱媒体を循環することができれば、どのような種類であってもよい。ポンプ61は、例えば、定容積型の往復ポンプ、回転ポンプなどを用いることができるが、これらに限定されない。
【0086】
加熱器62は、熱媒体を加熱する装置である。加熱器62は、熱媒体を加熱することができれば、どのような構成であってもよい。加熱器62は、例えば、熱媒体循環経路63上に設けられた電気ヒーターなどを用いることができるが、これに限定されない。また、熱媒体循環経路63には、熱電対などの温度検知器(図示せず)が設けられていてもよい。これにより、熱媒体循環経路63を循環する熱媒体の温度が、温度検知器の検知温度に基づいて所望の温度になるように、加熱器62による熱媒体に対する加熱量が制御される。
【0087】
ここで、
図1Aに示す例では、端板15に設けられた熱媒体流路65と、熱媒体分岐流路60とは、熱媒体導入マニホールド66(
図2Aおよび
図3A参照)を介して連通している。この熱媒体導入マニホールド66は、電気化学セル10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。つまり、スタックには、このスタックを貫通するとともに、熱媒体流路65と接続された熱媒体導入マニホールド66が設けられている。
【0088】
また、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれにおいて、熱媒体導入マニホールド66から溝状の連絡路(図示せず)を分岐させ、これらの連絡路の端部が、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれのサーペンタイン状の熱媒体分岐流路60の一方の端部と連通している。
【0089】
また、端板16に設けられた熱媒体流路64と、熱媒体分岐流路60とは、熱媒体導出マニホールドを介して連通している。熱媒体導出マニホールドは、電気化学セル10の各部材に設けられた貫通孔の連なりによって構成されている。つまり、スタックには、このスタックを貫通するとともに、熱媒体流路64と接続された熱媒体導出マニホールドが設けられている。
【0090】
また、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれにおいて、熱媒体導出マニホールドから溝状の連絡路(図示せず)を分岐させ、これらの連絡路の端部が、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれのサーペンタイン状の熱媒体分岐流路60の他方の端部と連通している。
【0091】
ここで、熱媒体循環経路63から送出された熱媒体は、熱媒体供給路67を介して熱媒体流路65および熱媒体導入マニホールド66に導かれる。また、熱媒体は、熱媒体導入マニホールド66内を流れる際に、カソードセパレーター27および給電板12のそれぞれの熱媒体分岐流路60に分配される。その後、熱媒体は、熱媒体導出マニホールドで合流される。合流された熱媒体は、熱媒体流路64および熱媒体排出路69に導かれた後、熱媒体循環経路63に排出される。
【0092】
このようにして、加熱器62で加熱された熱媒体は、ポンプ61の動作により、熱媒体が熱媒体流路65、熱媒体分岐流路60および熱媒体流路64を通過することで、熱媒体循環経路63を循環することができる。
【0093】
以上の熱媒体の流路構成は例示であって、本例に限定されない。例えば、端板16に、熱媒体流入口が設けられ、端板15に、熱媒体流出口が設けられていてもよい。また、例えば、熱媒体流路64および熱媒体流路65を循環する熱媒体の経路と、熱媒体分岐流路60を循環する熱媒体の経路とが、別個の系統で構成されていてもよい。ただし、上記の如く、熱媒体流路64、熱媒体流路65および熱媒体分岐流路60を循環する熱媒体の経路を単一の経路で構成する方が流路構成を簡素化することができる。
【0094】
図1Aに示すように、電気化学式水素ポンプ100は、電力印加器50を備える。
【0095】
電力印加器50は、アノードANとカソードCA間に電力を印加する装置である。具体的には、電力印加器50の高電位が、アノードANに印加され、電力印加器50の低電位が、カソードCAに印加されている。電力印加器50は、アノードANおよびカソードCA間に電力を印加できれば、どのような構成であってもよい。例えば、電力印加器50は、アノードANおよびカソードCA間に印加する電力を調整する装置であってもよい。このとき、電力印加器50は、バッテリ、太陽電池、燃料電池などの直流電源と接続されているときは、DC/DCコンバータを備え、商用電源などの交流電源と接続されているときは、AC/DCコンバータを備える。
【0096】
また、電力印加器50は、例えば、電気化学セル10に給電する電力が所定の設定値となるように、アノードANおよびカソードCA間に印加される電圧、アノードANおよびカソードCA間に流れる電流が調整される電力型電源であってもよい。
【0097】
図1Aに示す例では、電力印加器50の低電位側の端子が、給電板11に接続され、電力印加器50の高電位側の端子が、給電板12に接続されている。給電板11は、上記の積層方向において一方の端に位置するカソードセパレーター27と電気的に接触しており、給電板12は、上記の積層方向において他方の端に位置するアノードセパレーター26と電気的に接触している。
【0098】
このようにして、電気化学式水素ポンプ100は、電力印加器50により上記電力を印加することで、アノードANに供給された水素含有ガス中の水素を、電解質膜21を介してカソードCAに移動させ、カソードCAで圧縮された水素を生成する装置である。
【0099】
図示を省略するが、上記の電気化学式水素ポンプ100を備える水素供給システムを構築することもできる。この場合、水素供給システムの水素供給動作において必要となる機器は適宜、設けられる。
【0100】
例えば、水素供給システムには、アノードANから排出される高加湿状態の水素含有ガスと、外部の水素供給源から供給される低加湿状態の水素含有ガスとが混合された混合ガスの露点を調整する露点調整器(例えば、加湿器)が設けられていてもよい。外部の水素供給源は、例えば、水電解装置、改質器、水素タンクなどであってもよい。
【0101】
また、水素供給システムには、例えば、電気化学式水素ポンプ100の温度を検出する温度検出器、電気化学式水素ポンプ100のカソードCAから排出された水素を一時的に貯蔵する水素貯蔵器、水素貯蔵器内の水素ガス圧を検出する圧力検出器などが設けられていてもよい。
【0102】
上記の電気化学式水素ポンプ100の構成、および、水素供給システムにおける図示しない様々な機器は例示であって、本例に限定されない。例えば、アノードガス導出マニホールド31を設けずに、アノードガス導入マニホールド30を通してアノードANに供給する水素含有ガス中の水素を全てカソードCAで圧縮するデッドエンド構造が採用されてもよい。
【0103】
<熱媒体流入側の流路構成について>
図2Aは、実施形態の電気化学式水素ポンプにおける熱媒体流路の一例を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aの熱媒体流路の接続箇所の一例を平面視した図である。
【0104】
図2Aには、
図1Aの端板15を外側から斜視した図が示されている。ただし、
図2Aでは、図面を簡素化する趣旨で、端板15および締結器17などの図示が省略され、熱媒体流路65、熱媒体導入マニホールド66および熱媒体供給路67のみが示されている。
図2Bには、熱媒体流路65と熱媒体導入マニホールド66との接続箇所J1を下方から平面視した図が示されている。
【0105】
図2Aに示すように、熱媒体流路65は、環状流路65Aと、環状流路65Aを横断する横断路65Bとを備える。
【0106】
環状流路65Aは、円盤状の端板15の外縁部に沿って延伸するように、端板15の主面に形成された環状溝で構成されている。この環状溝の幅は、
図2Bに示す如く、幅寸L1に設定されている。
【0107】
横断路65Bは、接続箇所J1から環状流路65A内の面積を等分するように端板15の主面に形成された直線溝で構成されている。つまり、直線溝の長さは、平面視における環状流路65Aの円形の直径とほぼ等しい。この直線溝の幅は、
図2Bに示す如く、幅寸L1に設定されている。
【0108】
ここで、熱媒体流路65の断面積は、熱媒体導入マニホールド66の断面積よりも小さい。
図2Bに示す例では、環状流路65Aの断面積SAは「幅寸L1×溝の深さ」で表され、熱媒体導入マニホールド66の断面積Sは「π(φ/2)
2」で表される。そして、断面積SAは、断面積Sよりも小さい。また、横断路65Bの断面積SBは「幅寸L1×溝の深さ」で表され、熱媒体導入マニホールド66の断面積Sは「π(φ/2)
2」で表される。そして、断面積SBは、断面積Sよりも小さい。
【0109】
上記では、熱媒体流路65の断面形状は、四角形を想定して説明しているが、その形状は、本例に限定されるものではない。例えば、四角形の角部は、R形状(例えば、R0.1mm-R0.3mm程度)であってもよい。また、この断面形状は、楕円形状または円形状であってもよい。
【0110】
図2Aに示すように、熱媒体供給路67は、横断路65Bと接続されている。具体的には、熱媒体供給路67は、接続箇所J1と異なる接続箇所J2において横断路65Bと接続されている。つまり、接続箇所J1と接続箇所J2とは、横断路65Bの延伸方向において所定の距離だけ離れている。
図2Aに示す例では、熱媒体供給路67は、横断路65Bの中点Pから接続箇所J1に近い側において横断路65Bと接続されている。
【0111】
以上の熱媒体流路65の構成は、例示であって本例に限定されない。例えば、上記では、熱媒体流路65が、端板15の主面に形成された流路溝で構成されているが、熱媒体流路65は、端板15の内部に設けられた開口部で構成されていてもよい。このような開口部は、例えば、上記開口部に対応する凹部が設けられた一対の金属シートを一体的に接合することによって形成できる。
【0112】
<熱媒体流出側の流路構成について>
熱媒体流路64、熱媒体排出路69および熱媒体導出マニホールドは、
図2Aの各部材を180°回転させ、ガスの流れ方向を逆にすることで構成することができる。よって、本構成の詳細は、上記の熱媒体流路65、熱媒体供給路67および熱媒体導入マニホールド66の説明から容易に理解できるので説明を省略する。
【0113】
[動作]
以下、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0114】
以下の動作は、例えば、図示しない制御器の演算回路が、制御器の記憶回路から制御プログラムを読み出すことにより行われてもよい。ただし、以下の動作を制御器で行うことは、必ずしも必須ではない。操作者が、その一部の動作を行ってもよい。以下の例では、制御器により動作を制御する場合について、説明する。
【0115】
まず、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに、アノードガス導入経路32を流れる低圧の水素含有ガスが、アノードガス供給流路41、アノードガス導入マニホールド30および第1連絡路32Aを通じて供給されるとともに、電力印加器50の電力が電気化学式水素ポンプ100に給電される。アノードANを通過した水素含有ガスは、第2連絡路32B、アノードガス導出マニホールド31およびアノードガス排出流路42を通じて、アノードガス導出経路33に排出される。
【0116】
また、制御器は、電気化学式水素ポンプ100のアノードANに水素含有ガスが供給されているとき、加熱器62を制御して熱媒体を加熱させるとともに、ポンプ61を制御する。具体的には、加熱器62で適温に制御された熱媒体は、ポンプ61の動作により、熱媒体が熱媒体流路65、熱媒体分岐流路60および熱媒体流路64を通過することで、熱媒体循環経路63を循環する。
【0117】
以上により、アノードANのアノード触媒層24において、酸化反応で水素分子がプロトンと電子とに分離する(式(1))。プロトンは電解質膜21内を伝導してカソード触媒層23に移動する。電子は電力印加器50を通じてカソード触媒層23に移動する。
【0118】
そして、カソード触媒層23において、還元反応で水素分子が再び生成される(式(2))。プロトンが電解質膜21中を伝導する際に、所定水量の水が、電気浸透水としてアノードANからカソードCAにプロトンと同伴して移動することが知られている。
【0119】
このとき、図示しない流量調整器を用いて、カソードガス導出経路の圧損を増加させることにより、カソードCAで生成された水素(H2)を圧縮することができる。流量調整器として、例えば、カソードガス導出経路に設けられた背圧弁、調整弁などを挙げることができる。
アノード:H2(低圧)→2H++2e- ・・・(1)
カソード:2H++2e-→H2(高圧) ・・・(2)
【0120】
このようにして、電気化学式水素ポンプ100では、電力印加器50により電力を印加することで、アノードANに供給される水素含有ガス中の水素を、カソードCAに移動させ、カソードCAで圧縮された高圧の水素が生成される。これにより、電気化学式水素ポンプ100の水素圧縮動作が行われ、カソードCAで圧縮された水素は、連絡経路、カソードガス導出マニホールドおよびカソードガス排出流路40を通過した後、カソードガス導出経路を通じて、例えば、水素需要体に供給される。水素需要体として、例えば、水素インフラの配管、水素貯蔵器、燃料電池などを挙げることができる。つまり、カソードCAで圧縮された水素は、水素需要体の一例である水素貯蔵器に一時的に貯蔵されてもよい。また、水素貯蔵器で貯蔵された水素は、適時に、水素需要体の一例である燃料電池に供給されてもよい。
【0121】
以上のとおり、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、従来に比べて圧縮装置圧内に流れる熱媒体の偏流を抑制し得る。具体的には、具体的には、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、端板15に設けられた熱媒体供給路67と熱媒体導入マニホールド66との間で熱媒体が一方に偏って流れることを従来よりも抑制することができる。
【0122】
ここで、熱媒体導入マニホールド66には、複数の電気化学セル10のそれぞれに所定量の熱媒体を分配するために必要な量の熱媒体を通流させる必要がある。このため、熱媒体が熱媒体導入マニホールド66を通過する際の圧損低減には、熱媒体導入マニホールド66の断面積が大きい方が都合がよい。
【0123】
そこで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、熱媒体供給路67が、熱媒体流路65の横断路65Bに接続することで、
図2Aの矢印で示すように、熱媒体供給路67を通過した熱媒体が、この横断路65Bを介して熱媒体流路65の環状流路65Aに回り込みやすくなるように構成できる。よって、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、従来に比べて、端板15に設けられた熱媒体供給路67と熱媒体導入マニホールド66との間で熱媒体が一方に偏りにくくなるように熱媒体を適切に通流させることができる。
【0124】
このとき、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100では、端板15全体を加熱器62で適温に制御された熱媒体の熱で保温可能なように熱媒体が適切に通流されてもよい。ただし、このような熱媒体の温度制御は例示であって、本例に限定されない。例えば、熱媒体の温度制御は、端板15全体が適温に冷却されるように、加熱器62に代えて、冷却器を設けることで行われてもよい。
【0125】
また、仮に、接続箇所J1に、熱媒体供給路67が接続される場合、熱媒体供給路67を通過した熱媒体は、端板15に設けられた熱媒体流路65を通らずに熱媒体導入マニホールド66に流出しやすくなる。
【0126】
そこで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、接続箇所J1と異なる接続箇所J2において横断路65Bと熱媒体供給路67とを接続することで、接続箇所J1において横断路65Bと熱媒体供給路67とを接続する場合に比べて、熱媒体供給路67を通過した熱媒体を端板15に設けられた熱媒体流路65に通流させやすく構成できる。
【0127】
また、仮に、熱媒体供給路67が、横断路65Bの中点Pから接続箇所J1に遠い側において横断路65Bと接続される場合、熱媒体が熱媒体流路65を通過する際の圧損が増加する可能性がある。
【0128】
そこで、本実施形態の電気化学式水素ポンプ100は、横断路65Bの中点Pから接続箇所J1に近い側において横断路65Bと熱媒体供給路67とを接続することで、接続箇所J1に遠い側において横断路65Bと熱媒体供給路67とを接続する場合に比べて、熱媒体が熱媒体流路65を通過する際の圧損を低減することができる。
【0129】
(実施例)
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、以下に説明する熱媒体流路65の構成以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様である。
【0130】
図3Aは、実施形態の実施例の電気化学式水素ポンプにおける熱媒体流路の一例を示す斜視図である。
図3Bは、
図3Aの熱媒体流路の接続箇所の一例を平面視した図である。
【0131】
図3Aには、
図1Aの端板15を外側から斜視した図が示されている。ただし、
図3Aでは、図面を簡素化する趣旨で、端板15および締結器17などの図示が省略され、熱媒体流路65、熱媒体導入マニホールド66および熱媒体供給路67のみが示されている。
図3Bには、熱媒体流路65と熱媒体導入マニホールド66との接続箇所J1を下方から平面視した図が示されている。
【0132】
図3Aおよび
図3Bに示すように、横断路65Bと熱媒体供給路67との接続箇所J2から横断路65Bと熱媒体導入マニホールド66との接続箇所J1に遠い側の横断路65Bの部分65BBの断面積は、接続箇所J2から接続箇所J1に近い側の横断路65Bの部分65BAの断面積よりも大きい。
図3Bに示す例では、前者の断面積SBBは「幅寸L2×溝の深さ」で表され、後者の断面積SBAは「幅寸L1×溝の深さ」で表される。そして、幅寸L2が幅寸L1よりも大きいので、断面積SBBは、断面積SBAよりも大きい。
【0133】
以上により、本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、接続箇所J2から接続箇所J1に遠い側の横断路65Bの部分65BBの断面積を、接続箇所J2から接続箇所J1に近い側の横断路65Bの部分65BAの断面積よりも大きくすることで、両者の断面積を逆にする場合に比べて、熱媒体が熱媒体流路65を通過する際の圧損増加を抑制しながら、熱媒体を熱媒体流路65に通流させやすく構成できる。
【0134】
本実施例の電気化学式水素ポンプ100は、上記特徴以外は、実施形態の電気化学式水素ポンプ100と同様であってもよい。
【0135】
実施形態および実施形態の実施例は、互いに相手を排除しない限り、互いに組み合わせても構わない。
【0136】
また、上記説明から、当業者にとっては、本開示の多くの改良および他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本開示を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本開示の精神を逸脱することなく、その構造および/または機能の詳細を実質的に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本開示の一態様は、従来に比べて圧縮装置圧内に流れる熱媒体の偏流を抑制し得る圧縮装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0138】
10 :電気化学セル
11 :給電板
12 :給電板
13 :絶縁板
14 :絶縁板
15 :端板
16 :端板
17 :締結器
21 :電解質膜
22 :カソード給電体
23 :カソード触媒層
24 :アノード触媒層
25 :アノード給電体
26 :アノードセパレーター
27 :カソードセパレーター
28 :絶縁体
30 :アノードガス導入マニホールド
31 :アノードガス導出マニホールド
32 :アノードガス導入経路
32A :第1連絡路
32B :第2連絡路
33 :アノードガス導出経路
35 :アノードガス流路
40 :カソードガス排出流路
41 :アノードガス供給流路
42 :アノードガス排出流路
45 :Oリング
50 :電力印加器
60 :熱媒体分岐流路
61 :ポンプ
62 :加熱器
63 :熱媒体循環経路
64 :熱媒体流路
65 :熱媒体流路
65A :環状流路
65B :横断路
65BA :横断路の部分
65BB :横断路の部分
66 :熱媒体導入マニホールド
67 :熱媒体供給路
69 :熱媒体排出路
100 :電気化学式水素ポンプ
AN :アノード
CA :カソード
J1 :接続箇所
J2 :接続箇所
【要約】
圧縮装置は、電解質膜をアノードとカソードで挟持した電気化学セルを複数積層したスタックと、前記スタックの積層方向における端部に設けられた端板と、前記アノードとカソード間に電圧を印加する電圧印加器と、を備え、前記電圧印加器により電圧を印加することで、前記アノードに供給された水素含有ガス中の水素を、前記カソードに移動させ、圧縮された水素を生成する圧縮装置であって、前記端板には、熱媒体が通流する第1流路が設けられ、前記スタックには、当該スタックを貫通し、前記第1流路と接続された第2流路が設けられ、前記第1流路の断面積は、前記第2流路の断面積より小さく、前記第1流路は、環状流路と、前記環状流路を横断する横断路とを備え、前記スタック外に設けられ、前記熱媒体が流れる熱媒体外部流路は、前記横断路と接続される。