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特許7345126画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20230908BHJP
【FI】
G06T1/00 290Z
G06T1/00 510
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023069254
(22)【出願日】2023-04-20
【審査請求日】2023-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本眼科手術学会、眼科手術、2023年第36巻臨時創刊号、2022年12月28日 第46回日本眼科手術学会学術総会、2023年1月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】森岡 洵太
【審査官】吉川 康男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138142(JP,A)
【文献】特開2001-251641(JP,A)
【文献】特開平9-97333(JP,A)
【文献】特許第7120556(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を取得する画像取得部と、
前記画像中の注目領域を検出する検出部と、
前記検出部が検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正部と、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記画像は手術画像である請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像は眼の画像である請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記注目領域として前記画像中の円領域を検出する請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画像は動画であり、
前記補正部は、前記動画の各時点の画像に対して前記色補正を行う請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記画像に2値化処理を行う2値化処理部を備え、前記2値化処理がされた前記画像である2値化画像に基づいて前記注目領域を検出する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記検出部は、
前記2値化画像中の前記注目領域に対応する形状を検出する形状検出部と、
前記形状検出部が検出した前記形状以外の領域を隠したマスクを生成する生成部と、
前記2値化処理を行う前の前記画像に前記マスクを適用するマスク処理部と、
を備える請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記2値化画像中のノイズ領域を除去するノイズ除去部を備え、
前記形状検出部は、前記ノイズ領域を除去した後の前記2値化画像に基づいて前記注目領域に対応する形状を検出する請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像中の注目領域を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正ステップと、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力ステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項10】
画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像中の注目領域を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正ステップと、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を該画像に対して行う画像処理装置、画像処理方法又はプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の視覚特性は加齢に伴い変化する。具体的には、高齢になるほど色が暗く、又は黄色っぽく見えるようになると考えられている。加齢に伴う視覚特性の変化に関し、下記特許文献1には、人間の年齢に伴って変化する視覚特性の劣化を補償するように該画像を補正することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3552413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1の方法では、高齢ほど、画像の補正量が大きくなり、その結果、補正後の画像に白飛びが発生しやすくなる。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みてなされ、年齢に応じた色補正を行うとともに、色補正後の画像中の白飛びの割合を小さくできる画像処理装置、画像処理方法、又はプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の画像処理装置は、
画像を取得する画像取得部と、
前記画像中の注目領域を検出する検出部と、
前記検出部が検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正部と、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力部と、
を備える。
【0007】
本開示の画像処理方法は、
画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像中の注目領域を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正ステップと、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力ステップと、
を備える。
【0008】
本開示のプログラムは、
画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像中の注目領域を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記注目領域に対して、前記画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う補正ステップと、
前記色補正後の前記注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する出力ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【0009】
本開示の画像処理装置、画像処理方法、及びプログラムによれば、画像の全体に対しては色補正を行わずに、画像の注目領域に対して色補正を行うので、補正後の画像中の白飛びの割合を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表示システムの構成図である。
図2】演算装置が実行する画像補正処理の一例を示すフローチャートである。
図3図2のステップS11の詳細のフローチャートである。
図4図2のステップS1で取得する原画像の一例である。
図5図2のステップS2で得られるマスク処理後の画像の一例である。
図6図2のステップS3で得られる画素値変換後の画像の一例である。
図7図2のステップS4で得られるグレースケール画像の一例である。
図8図2のステップS5で得られる2値化画像の一例である。
図9図2のステップS6で得られる第1のノイズ除去処理後の2値化画像の一例である。
図10図2のステップS7で得られる第2のノイズ除去処理後の2値化画像の一例である。
図11図2のステップS9で得られるマスクの一例である。
図12図2のステップS10で得られる注目領域の抽出画像の一例である。
図13図2のステップS11で得られる色補正後の注目領域画像の一例である
図14図2のステップS12で得られる、色補正後の注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像の一例である。
図15】大律2値化法を説明するために、画像の濃度ヒストグラム(輝度分布)を例示した図である。
図16図2のステップS1で取得する原画像の輝度分布を例示した図である。
図17図16の輝度分布を示す画像に対して、注目領域のみを色補正した場合の輝度分布を例示した図である。
図18図16の輝度分布を示す画像に対して、画像全体を色補正した場合の輝度分布を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態の表示システム1を示している。表示システム1は、例えば白内障手術などの眼科手術の動画(眼科手術を受けている被術眼の動画)を術中にリアルタイムで表示するシステムとして構成される。なお、白内障手術は、白内障を患った眼の水晶体の一部又は全部を除去し、除去した水晶体の代わりに眼内レンズを眼内に挿入する手術である。
【0012】
表示システム1は、撮影部2と入力部3と表示部4と演算装置5とを備えている。撮影部2は、眼科手術中に被術眼の各時点の画像を逐次撮影する。すなわち、撮影図2は眼科手術中に被術眼の動画を撮影する。撮影部2は被術眼を正面から見た動画を撮影する。撮影部2で撮影された動画は演算装置5に送られる。撮影部2が撮影する画像を構成する各画素の色は例えばRGB表示系の色で表される。RGB表示系では、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色の組み合わせにより、色が表現される。RGBの各原色の階調数又は輝度の階調数は例えば256階調としてよい。この場合、原色ごとに、階調値が例えば0~255で示される。階調値が大きいほど、高輝度であることを示す。すなわち、階調値が最小値「0」であることは、輝度が最も低いことを示す。反対に、階調値が最大値「255」であることは、輝度が最も高いことを示す。なお、256階調以外の階調数でもよい。また、輝度を256階調で表したとき、輝度が「0」であることは画素の色が「黒」であること示す。輝度が「255」であることは画素の色が「白」であることを示す。
【0013】
入力部3は例えばボタンやテンキー、マウスなど既知の構造を備え、ユーザからの入力を受け付ける部位である。具体的には、入力部3は、画像を見る対象者の年齢などの入力を受け付ける。入力部3に入力された入力内容は演算装置5に送られる。
【0014】
表示部4は画像を表示する部位である。表示部4は例えば液晶ディスプレイであるが、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど他の方式のディスプレイでもよい。また、表示部4はヘッドマウント型のディスプレイでもよい。表示部4はカラー画像を表示可能に構成される。表示部4での色の表示系は例えばRGB表示系である。
【0015】
演算装置5は表示システム1の全体的制御を司る部位である。演算装置5は、通常のコンピュータと同様の構成を有し、すなわちCPU6、RAM、ROM等から構成される。なお、演算装置5が本開示の画像処理装置に相当する。
【0016】
演算装置5は記憶部7を備える。記憶部7は、不揮発性記憶部であり、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。なお、記憶部7は、演算装置5に内蔵された内蔵記憶部として構成されてもよいし、演算装置5に外付けされた外付記憶部として構成されてもよい。記憶部7には、CPU6が実行する処理のプログラム8など各種データが記憶されている。
【0017】
次に、演算装置5のCPU6がプログラム8に基づいて実行する処理の詳細を説明する。図2図3はその処理の一例を示すフローチャートである。なお、図2図3の処理は例えば眼科手術中に実行される。図2の処理を開始すると、CPU6は、撮影部2が撮影した現時点の画像を取得する(S1)。図4はステップS1で取得する画像を例示している。図4の画像は、白内障手術中の被術眼の正面画像であり、具体的には、眼球の中央領域(瞳孔、虹彩及び角膜の領域)に手術器具を挿入して、水晶体を砕いている最中の画像である。なお、ステップS1が本開示の画像取得ステップに相当する。ステップS1を実行するCPU6が画像取得部に相当する。
【0018】
画像を見る対象者(具体的には白内障手術の術者)が注目する画像中の領域である注目領域を、被術眼の中央の円形領域(瞳孔、虹彩及び角膜の領域)として、ステップS2以降の処理で、その注目領域をステップS1で取得した画像から検出(抽出)する。注目領域は、眼球(被術眼)の、術者により手術の処置が行わる部位(術部、処置部)である。なお、注目領域の円は例えば虹彩外側の円である。
【0019】
具体的には、先ず、ステップS1で取得した画像の中央付近以外を隠す処理(マスク処理)をする(S2)。図5はステップS2のマスク処理をした後の画像を例示している。マスク処理された画像は、眼球の中央の円形領域(瞳孔、虹彩及び角膜の領域)を少なくとも含んでいる。
【0020】
次に、マスク処理後の画像の各画素値を、所定のしきい値を境にして最小画素値(256階調の場合「0」)又は最大画素値(256階調の場合「255」)のいずれかに変換する(S3)。具体的には、各画素のRGBのそれぞれの値を、しきい値より小さい場合には最大画素値(=「255」)に、しきい値以上の場合には最小画素値(=「0」)に変換する。例えば、画素のRGB値=(125、200、50)、しきい値=130の場合には、RGB値=(0、255、0)に変換する。
【0021】
このように、ステップS3では、画像中の暗い領域(低輝度領域)を明るくし、明るい領域(高輝度領域)を暗くする、輝度反転処理を行う。これは、一般的に眼球中央領域(注目領域)は周辺領域(強膜の領域)よりも暗いので、眼球中央領域を周辺領域よりも明るくするためである。なお、しきい値は、画素値変換した際に、眼球中央領域は明るくなり、周辺領域は暗くなるように、予め定められた値としてよい。図6は、図5の画像に対してステップS3の画素値変換を行った後の画像を示している。
【0022】
次に、ステップS3後の画像をグレースケールの画像に変換する(S4)。図7は、図6の画像をグレースケール変換した画像である。
【0023】
次に、ステップS4により得られたグレースケール画像の各画素の色を白又は黒のいずれかにする2値化処理を行う(S5)。具体的には、グレースケールの画像の各画素値を、しきい値以上の場合には白色を示す値(例えば「255」)、しきい値より小さい場合には黒色を示す値(例えば「0」)となるよう変換する。2値化処理の手法は公知のいずれの手法でもよいが、例えば大律法を用いてよい。大律法は判別分析法の一つであり、画像の濃度ヒストグラムに基づいて最適なしきい値を自動的に求める手法である。例えば、図15に示すように、画像の濃度ヒストグラムを、あるしきい値Tを境にクラス0とクラス1に分けたとき、以下のようなしきい値Tを求める手法である。
・クラス0とクラス1が離れている。
・それぞれのクラス内のデータ群がまとまっている。
【0024】
眼球の正面画像においては、眼球中央領域(瞳孔、虹彩及び角膜の円形領域)と周辺領域(強膜の領域)との間で濃度差(輝度差)が生じやすい。そのため、大律法を用いることで、中央領域と周辺領域とを区分するのに適したしきい値が得られやすい。図8は、図7の画像に対して2値化処理した後の画像を示している。図8に示すように、眼球中央領域は白色となり、周辺領域は黒色となる2値化画像が得られる。
【0025】
なお、ステップS3~S5が本開示の2値化処理ステップに相当する。ステップS3~S5を実行するCPU6が2値化処理部に相当する。
【0026】
次に、ステップS5により得られた2値化画像中のノイズ領域を除去する(S6、S7)。具体的には、先ず、第1のノイズ除去処理として例えば2値化画像に対して公知のモルフォロジー変換を適用する(S6)。例えば、モルフォロジー変換のオープニング処理を2値化画像に適用することで、2値化画像中のノイズを除去できる。なお、上記オープニング処理は、収縮の後に膨張をする処理である。図9は、図8の画像に対してモルフォロジー変換を適用した後の画像を示している。
【0027】
次に、第2のノイズ除去処理として、ステップS6後の2値化画像中の各領域の面積に基づいてノイズを除去する(S7)。具体的には、2値化画像中の画素値が「255」(白色)の領域の輪郭を取得し、その輪郭で囲まれた各領域の面積を求める。このとき、同じ白色領域であっても、連続していない各領域は別の領域として面積を求める。面積は例えば領域に含まれる画素数とすればよい。そして、面積が最大となる白色領域を残し、それ以外の白色領域はノイズとして除去する。具体的には、最大面積以外の面積の白色領域の色を背景色(黒色)に反転させる。図10は、図9の2値化画像に対して面積に基づくノイズ除去を実行した後の画像を示している。なお、ステップS6、S7はノイズ除去ステップに相当する。ステップS6、S7を実行するCPU6がノイズ除去部に相当する。
【0028】
次に、ステップS7にて得られた2値化画像中の円(注目領域に対応する形状)を検出する(S8)。言い換えれば、2値化画像中の円の特徴を有した要素を検出する。円の検出は例えばハフ変換に基づいて行うとしてよい。なお、ステップS8が本開示の形状検出ステップに相当する。ステップS8を実行するCPU6が形状検出部に相当する。
【0029】
次に、ステップS8で検出した円以外の領域(言い換えれば、円の外側の領域)を隠したマスクを生成する(S9)。ここでは、ステップS8で検出した円要素に応じた直径及び中心位置の円を設定し、その円の内側領域が開き、その円の外側領域を隠したマスクを生成する。図11は、図10の画像に基づいて生成されたマスクを例示している。なお、ステップS9が本開示の生成ステップに相当する。ステップS9を実行するCPU6が生成部に相当する。
【0030】
次に、ステップS9で生成したマスクを、ステップS1で取得した原画像に適用する(S10)。なお、ステップS10がマスク処理ステップに相当する。ステップS10を実行するCPU6がマスク処理部に相当する。
【0031】
図12は、図4の画像に、図11のマスクを適用した後の画像を示している。上述のステップS2~S10により、ステップS1で取得した原画像から注目領域が検出(抽出)されることになる。ステップS2~S10による注目領域の検出は自動で行われる。なお、ステップS2~S10が本開示の検出ステップに相当する。ステップS2~S10を実行するCPU6が検出部に相当する。
【0032】
次に、ステップS2~S10で抽出された注目領域に対して、画像を見る対象者の年齢に応じた色補正を行う(S11)。ここでは、対象者が表示部4に表示される画像を見た場合に、若年者(例えば20歳の人)が知覚する色(輝度も含む)と同様に知覚されるように、注目領域の各画素値を補正する。また、ステップS11では、原画像の、注目領域以外の領域に対しては色補正を行わない。なお、ステップS11が補正ステップに相当する。ステップS11を実行するCPU6が補正部に相当する。
【0033】
図3はステップS11の色補正の詳細のフローチャートを例示している。図3の処理に移行すると、CPU6は、画像を見る対象者の年齢を設定する(S20)。具体的には、CPU6は、入力部3から入力される対象者の年齢情報を取得し、取得した年齢情報で示される年齢を対象年齢として設定する。年齢情報は、対象者の正確な年齢でもよいし、大まかな年齢(例えば60歳代)でもよいし、対象者が生まれた年(西暦など)でもよい。また、例えば、20歳以下を若年者、20歳より高齢を高齢者としたとき、対象者は高齢者としてよい。この場合、ステップS20では、20歳よりも高い年齢を設定する。
【0034】
次に、ステップS2~S10で抽出された注目領域の各画素の色の表示系を、RGB表示系からXYZ表示系に変換する(S21)。各画素の値(R、G、B)を、XYZ表示系における三刺激値(X、Y、Z)に変換する。ここで、R(赤)、G(緑)、B(青)からX、Y、Zへの変換は以下の式(E1)から(E3)で表される。
X=a11R+a12G+a13B (E1)
Y=a21R+a22G+a23B (E2)
Z=a31R+a32G+a33B (E3)
【0035】
係数a11、a12、a13、a21、a22、a23、a31、a32、a33はそれぞれRのXへの寄与度、GのXへの寄与度、BのXへの寄与度、RのYへの寄与度、GのYへの寄与度、BのYへの寄与度、RのZへの寄与度、GのZへの寄与度、BのZへの寄与度を示す量であるとみなされる。このa11からa33の9個のパラメータは既知の定数であり、例えば、a11=0.4124、a12=0.3576、a13=0.1805、a21=0.2126、a22=0.7152、a23=0.0722、a31=0.0193、a32=0.1192、a33=0.9505と定められている。
【0036】
ここでX、X、X、Y、Y、Y、Z、Z、Zを次の式(E4)から(E6)により定義する。さらに、これらを用いると式(E7)から(E9)が得られる。
=a11R、X=a12G、X=a13B (E4)
=a21R、Y=a22G、Y=a23B (E5)
=a31R、Z=a32G、Z=a33B (E6)
X=X+X+X (E7)
Y=Y+Y+Y (E8)
Z=Z+Z+Z (E9)
【0037】
次に、色補正として、加齢による水晶体の黄変に伴う水晶体の光透過性の変化(低下)の影響を小さくするように、ステップS21の変換により得られた三刺激値X、Y、Zを補正する(S22)。ここでは、ステップS20で取得した対象年齢での水晶体の光透過性と、若年者の年齢として予め定められた基準年齢(例えば20歳)での水晶体の光透過性とに基づいて、対象者が画像を見たときの色覚が、基準年齢の人の色覚に近づくように、三刺激値X、Y、Zを補正する。具体的には、基準年齢での水晶体の光透過性に対する対象年齢での水晶体の光透過性の比である水晶体透過比に基づく色覚変化(色覚低下)を打ち消すように、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるR、G、B成分X、Y、Z(n=R、G、B)を個別に調節(補正)する。より具体的には、以下の式(E10)、(E11)、(E12)により、補正三刺激値X‘、Y‘、Z‘を求める。
X‘=X/K (X)+X/K (X)+X/K (X) (E10)
Y‘=Y/K (Y)+Y/K (Y)+Y/K (Y) (E11)
Z‘=Z/K (Z)+Z/K (Z)+Z/K (Z) (E12)
【0038】
ここで、K (X)、K (X)、K (X)、K (Y)、K (Y)、K (Y)、K (Z)、K (Z)、K (Z)は実効成分比として定義される値であり、以下のように求められる。
【0039】
加齢による色覚低下を考えない場合、上述のX、Y、Z(n=R、G、B)は、表示部4の分光分布により以下の式(E13)から(E15)で表される。
=kΣS(λ)x(λ)f(λ) (E13)
=kΣS(λ)y(λ)f(λ) (E14)
=kΣS(λ)z(λ)f(λ) (E15)
【0040】
上式(E13)~(E15)においてλは可視光の波長である。S(λ)はD65白色点の波長λに対する分光分布である。x(λ)、y(λ)、z(λ)はそれぞれ波長λでのX、Y、Zの等色関数である。f(λ)(n=R、G、B)、すなわち、f(λ)、f(λ)、f(λ)はそれぞれ表示部4における赤色、緑色、青色の分光分布である。kは適当な定数である。Σにおける和の範囲は可視光波長域全体が含まれるように定められ、具体的には例えばλ=380からλ=780までとしてよい。
【0041】
以上は若者の健常者の場合であるが、これが加齢により以下のように変化する。周知のPokornyらの研究によれば、A歳の水晶体の光透過性に対するA歳(ただし、AはA以上とすればよい)の水晶体の光透過性の比である水晶体透過比Fは次の式(E16)で記述される。なお、^はべき乗、Lは水晶体の光学密度である。
F(λ、A、A)=10^{-L(λ、A)}/10^{-L(λ、A)}=10^{L(λ、A)-L(λ、A)} (E16)
【0042】
水晶体の光学密度Lは、Aを年齢とすると、Aが20より大きく60以下の場合、次の式(E17)で、Aが60より大きい場合は式(E18)であらわされる。なお、TL1、TL2は適当な定数である。
L(λ、A)=TL1(1+0.02(A-32))+TL2 (E17)
L(λ、A)=TL1(1.56+0.0667(A-60))+TL2 (E18)
【0043】
上記Fを用いると、加齢により式(E13)から(E15)は次の式(E19)から(E21)に変化する。
=kΣS(λ)x(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E19)
=kΣS(λ)y(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E20)
=kΣS(λ)z(λ)f(λ)F(λ、A、A) (E21)
【0044】
式(E19)から(E21)で示されるX 、Y 、Z は、A歳の人が知覚する色(三刺激値X、Y、Z)と同一の色を、A歳の人が見た場合に知覚する色の三刺激値(つまり、A歳が知覚する色の再現)を示している。ここで、Aを基準年齢とし、AをステップS10で取得した対象年齢とする。この場合、X 、Y 、Z は、基準年齢Aの人の色覚を基準としたときの対象年齢Aの人の色覚を再現した色を示す。また、上記式(E13)から(E15)で示される色(X、Y、Z)を、基準年齢の人が知覚する色であるとする。
【0045】
そして、基準年齢Aの人が知覚するX、Y、Z(n=R、G、B)に対する、対象者が知覚するX 、Y 、Z (n=R、G、B)の比として、実効成分比を定義する。すなわち、実効成分比は以下の式(E22)から(E24)で定義される。
(X)=X /X (E22)
(Y)=Y /Y (E23)
(Z)=Z /Z (E24)
【0046】
実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)は、加齢(基準年齢と対象年齢の年齢差)に伴う水晶体の黄変による色覚変化(色覚低下)を示す黄変フィルタである。この実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)(n=R、G、B)が、上記式(E10)から(E12)中に用いられる。式(E10)から(E12)の黄変補正では、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)(黄変フィルタ)の影響を打ち消すために、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるR、G、B成分X、Y、Z(n=R、G、B)に、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数を補正係数として乗算している。このように、実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数である補正係数は、各刺激値X、Y、ZのR、G、B成分X、Y、Zごとに設定される。
【0047】
黄変補正係数(実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)の逆数)は、基準年齢Aと対象年齢Aの組み合わせごとに予め演算されて、図1に示す記憶部7に予め記憶されてよい。または、ステップS12の処理時に式(E22)から(E24)に基づいて実効成分比K (X)、K (Y)、K (Z)及びその逆数である黄変補正係数を演算してもよい。なお、入力部3による入力操作により、基準年齢Aを任意の年齢に設定できるようにしてもよい。
【0048】
式(E4)から(E9)を参照すると、黄変補正を行う前の三刺激値X、Y、ZにおけるR、G、Bの寄与度を示す9個の数値はa11、a12、a13、a21、a22、a23、a31、a32、a33である。これに対して、式(E10)から(E12)で示される黄変補正後の三刺激値X‘、Y’、Z‘におけるR、G、Bの寄与度を示す9個の数値はa11/K (X)、a12/K (X)、a13/K (X)、a21/K (Y)、a22/K (Y)、a23/K (Y)、a31/K (Z)、a32/K (Z)、a33/K (Z)である。すなわち、黄変補正では、三刺激値X、Y、ZのそれぞれにおけるRGB表示系のR、G、Bの寄与度を示す9個の数値を個別に調節(補正)することと同義である。
【0049】
以上のようにしてステップS12の黄変補正を行う。次に、以下の式(E25)から(E27)により、黄変補正後の各画素の値を三刺激値X‘、Y’、Z‘からRGB表示系の値(R‘、G‘、B‘)に変換する(S23)。
R‘=b11X‘+b12Y‘+b13Z‘ (E25)
G‘=b21X‘+b22Y‘+b23Z‘ (E26)
B‘=b31X‘+b32Y‘+b33Z‘ (E27)
【0050】
係数b11、b12、b13、b21、b22、b23、b31、b32、b33はそれぞれXのRへの寄与度、YのRへの寄与度、ZのRへの寄与度、XのGへの寄与度、YのGへの寄与度、ZのGへの寄与度、XのBへの寄与度、YのBへの寄与度、ZのBへの寄与度を示す量であるとみなされる。このb11からb33の9個のパラメータは既知の定数であり、例えば、b11=3.2406、b12=-1.5372、b13=-0.4986、b21=-0.9689、b22=1.8758、b23=0.0415、b31=0.0557、b32=-0.2040、b33=1.0570と定められている。
【0051】
図13は、図12の注目領域の画像に対してステップS11の色補正を行った後の画像を示している。図2に戻って、次に、ステップS11の色補正後の注目領域の画像を、ステップS1で取得した原画像と合成する(S12)。具体的には、原画像の注目領域を、色補正後の注目領域に置き換える。図14は、原画像に、色補正後の注目領域を合成することに得られた画像(局所補正画像)を示している。
【0052】
次に、ステップS12で得られた局所補正画像を表示部4に出力して表示させる(S13)。これにより、局所補正画像が対象者(術者)に提示される。なお、ステップS12、S13が出力ステップに相当する。ステップS12、S13を実行するCPU6が出力部に相当する。
【0053】
その後、ステップS1に戻って、次の時点の画像に対して上述のステップS1~S13を行う。このように、撮影部2が撮影する動画を構成する各時点の画像に対してステップS1~S13が繰り返される。
【0054】
以上のように、本実施形態では、注目領域のみに色補正を行うので、色補正後の画像中の白飛びの割合を小さくできる。ここで、下記表1は、同一の原画像に対して、画像全体に色補正を行った場合と、注目領域のみに色補正を行った場合とで、補正後の画像全体に対する白飛び領域の割合を各年齢ごとに示している。なお、表1中の「白飛び減少割合」は、白飛び割合(全体補正)と白飛び割合(局所補正)との差である。表1に示すように、注目領域のみの局所補正では、全体補正に比べて、白飛び割合が減少しており、特に高齢ほど、その減少割合が大きい。
【0055】
【表1】
【0056】
また、図16は、ステップS1で取得する原画像の輝度分布を例示している。図16中の符号「101」は、原画像中の、眼球中央の円形領域(注目領域)の輝度分布を示している。符号「102」は、原画像中の、注目領域以外の領域の輝度分布を示している。
【0057】
図17は、ステップS1~S12により得られた補正画像、すなわち、原画像の注目領域のみを色補正した場合の輝度分布を例示している。図17中の符号「201」は、局所補正画像中の、眼球中央の円形領域(注目領域)の輝度分布を示している。符号「202」は、局所補正画像中の、注目領域以外の領域の輝度分布を示している。図16の符号「102」の輝度分布と、図17の符号「202」の輝度分布とは互いに同じである。
【0058】
図18は、図16の輝度分布で示される原画像の全体(つまり、注目領域と、それ以外の領域との双方)に対して、ステップS11と同様の色補正を行った場合の輝度分布を例示している。図18中の符号「301」は、全体補正画像中の、眼球中央の円形領域(注目領域)の輝度分布を示している。符号「302」は、全体補正画像中の、注目領域以外の領域の輝度分布を示している。図17の符号「201」の輝度分布と、図18の符号「301」の輝度分布とは互いに同じである。なお、図17図18は、対象者の年齢を70歳として色補正を行った場合の輝度分布を示している。
【0059】
図18に示すように、画像の全体に色補正を行うと、注目領域とそれ以外の領域との輝度差(特に、高輝度(高画素値)側の輝度差)が大きい。これに対して、画像の注目領域のみに色補正を行うと、図17に示すように、注目領域とそれ以外の領域との輝度差が、図18に比べて小さい。
【0060】
このように、本実施形態の局所補正では、注目領域とそれ以外の領域との間で輝度差が大きくなるという不自然さを低減できる。
【0061】
また、本実施形態では、眼科手術画像中の注目領域に色補正を行うので、術者が高齢者であったとしても、術者に眼科手術を行わせやすくできる。注目領域として眼球中央の円形領域を色補正するので、術者に白内障手術(水晶体の除去、眼内レンズの挿入など)を行わせやすくできる。
【0062】
また、上記実施形態では、注目領域を自動で検出するので、撮影部2が撮影した動画をリアルタイムで色補正することができる。また、2値化画像中のノイズ領域を除去したうえで注目領域に対応する形状を検出するので、その検出精度を高くできる。
【0063】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、眼科手術画像を色補正する例を示したが、眼以外の部位の手術画像を色補正してもよい。また、例えば手術以外の処置時(例えば眼の検査時)の眼画像を色補正してもよい。また、手術又は検査以外の画像に対して色補正を行ってもよい。
【0064】
上記実施形態では、色補正として黄変補正を例示したが、色補正の手法は本実施形態の手法に限定されない。また、黄変補正に加えて又は代えて、加齢に伴う瞳孔径の縮小の影響を打ち消す補正(縮瞳補正)を行ってもよい。この場合、特許第7120556号公報に記載のγ補正を行ってよい。
【0065】
また、上記実施形態では、局所補正画像を表示部4に出力する例を示したが、局所補正画像を画像投影装置(プロジェクタ)に出力してもよいし、局所補正画像を紙媒体等に印刷する画像印刷装置に出力してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 表示システム
2 撮影部
3 入力部
4 表示部
5 演算装置(画像処理装置)
6 CPU
7 記憶部
8 プログラム
【要約】
【課題】年齢に応じた色補正を行うとともに、色補正後の画像中の白飛びの割合を小さくできる画像処理装置、画像処理方法、又はプログラムを提供する。
【解決手段】画像処理装置としての演算装置5は、撮影部2が撮影した画像中の注目領域を検出し、検出した注目領域に対して年齢に応じた色補正を行い、色補正後の注目領域とそれ以外の領域とを含む局所補正画像を出力する。画像は例えば眼科手術画像である。注目領域は例えば眼球中央の円領域である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18