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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/12 20060101AFI20230908BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
F04B39/12 G
F04B39/00 106C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019143872
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021025460
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】西部 護
(72)【発明者】
【氏名】作田 淳
(72)【発明者】
【氏名】苅野 健
(72)【発明者】
【氏名】中井 啓晶
(72)【発明者】
【氏名】鶸田 晃
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-112597(JP,U)
【文献】特開2004-301054(JP,A)
【文献】特開昭62-185528(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157764(WO,A1)
【文献】特開昭63-227980(JP,A)
【文献】特開2018-127925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00-39/16
F04C 29/00-29/12
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を圧縮する圧縮機構と前記圧縮機構を駆動する電動機要素を備え、
前記電動機要素は、固定子及び回転子を備え、
前記固定子は、固定子積層板を積層して構成した固定子鉄心に巻線を巻き付けて構成し、
記巻線及び前記巻線への給電部等の通電部を隔壁によって前記作動流体から隔離し、
前記巻線及び前記通電部を前記作動流体と異なる成分または組成の環境下に設置した圧縮機であって、
前記隔壁を、ドーナツ状板の外周側および内周側に立ち上がり壁を有する断面略コ字状に形成し、
前記隔壁を、前記固定子積層板の上端面及び下端面に夫々個々に接合した
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記電動機要素の前記通電部を設置する前記環境は、気体雰囲気としたことを特徴する請求項1に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機およびそれを用いた冷凍サイクル装置に関し、特にHFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いる場合に好適な圧縮機と冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気調和機等の冷凍サイクル装置は、圧縮機、必要に応じて四方弁、放熱器(または凝縮器)、キャピラリーチューブや膨張弁等の減圧器、蒸発器、等を配管接続して冷凍サイクルを構成し、その内部に作動媒体(冷媒)を循環させることにより、冷却または暖房作用を行っている。
【0003】
これらの冷凍サイクル装置における作動媒体としては、フロン類(フロン類はR○○またはR○○○と記すことが、米国ASHRAE34規格により規定されている。以下、R○○またはR○○○と示す)と呼ばれるメタンまたはエタンから誘導されたハロゲン化炭化水素が知られている。
【0004】
上記のような冷凍サイクル装置用作動媒体としては、R410Aが多く用いられているが、R410A冷媒の地球温暖化係数(GWP)は2090と大きく、地球温暖化防止の観点から問題がある。
【0005】
そこで、地球温暖化防止の観点からは、GWPの小さな作動媒体として、二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体、例えば、HFO1123(1,1,2-トリフルオロエチレン)や、HFO1132(1,2-ジフルオロエチレン)が提案されている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/157764号
【文献】国際公開第2012/157765号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、HFO1123(1,1,2-トリフルオロエチレン)や、HFO1132(1,2-ジフルオロエチレン)は、R410Aなどの従来の作動媒体に比べて安定性が低く、ラジカルを生成した場合、自己分解反応により別の化合物に変化する恐れがある。自己分解反応は大きな熱放出を伴って圧力上昇するため、圧縮機や冷凍サイクル装置の信頼性を低下させる恐れがある。このため、HFO1123やHFO1132を圧縮機や冷凍サイクル装置に用いる場合には、この自己分解反応を抑制する必要がある。
【0008】
このような自己分解反応は、過度に高温高圧となった雰囲気下にて、高エネルギが付加されると、これが起点となって発生する。
【0009】
例えば、一例を挙げると、正常な運転条件下ではない状態、すなわち、凝縮器側の送風ファン停止、冷凍サイクル回路の閉塞等によって、吐出圧力(冷凍サイクルの高圧側)が過度に上昇する。
【0010】
このような状態下で圧縮機のロック異常が生じ、このロック異常下においても、圧縮機への電力供給が続けられると、圧縮機の電動機へ電力が過剰に供給され、電動機が異常に発熱する。その結果、電動機の固定子を構成する固定子巻線の絶縁が溶融破壊されて導線同士でレイヤーショートと呼ばれる現象を引き起こし、これが高エネルギ源となって自己分解反応を誘起することになる。
【0011】
そして、不均化自己分解反応が発生すると圧縮機内の圧力が異常に上昇し、圧縮機の信頼性が低下する恐れがある。
【0012】
本発明はこのような点に鑑みてなしたもので、HFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いた圧縮機及び冷凍サイクル装置であって、その安全性を高いものとすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、その圧縮機は、電動機要素における通電部を作動流体から隔離するための隔壁を設けて、前記通電部を前記作動流体と異なる成分又は組成の流体下に設置した構成としている。そして、冷凍サイクル装置は上記圧縮機を用いた構成としている。
【0014】
これにより、通電部は前記作動流体と異なる成分または組成の環境下に位置するので、例えば作動流体としてHFO1123を含む冷媒を圧縮する圧縮機の電動機要素の通電部において、レイヤーショートが発生したとしても、前記作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避でき、前記作動流体が自己分解反応を起こすことを防止できる。そして、冷凍サイクル装置の安全性や信頼性を高いものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記構成により、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、前記作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避できるため、前記作動流体が自己分解反応を起こすことを防止でき、HFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いても圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の安全性や信頼性を高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態1における圧縮機の概略構成図
図2】本発明の実施の形態2、3における圧縮機の概略構成図
図3】本発明の実施の形態4における圧縮機の概略構成図
図4】本発明の実施の形態5における圧縮機の概略構成図
図5】本発明の実施の形態6における圧縮機の概略構成図
図6】本発明の実施の形態9における空気調和機の冷凍サイクル図
図7】同空気調和機の室内機を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明は、圧縮機であり、この圧縮機は作動流体を圧縮する圧縮機構と前記圧縮機構を駆動する電動機要素を備え、前記電動機要素における固定子巻線及び固定子巻線への給電部等の通電部を隔壁によって前記作動流体から隔離し、前記通電部を前記作動流体と異なる成分または組成の環境下に設置した構成としている。
【0018】
これにより、通電部は前記作動流体と異なる成分または組成の環境下に位置するので、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避でき、例えばHFO1123を含む作動流体を用いた場合でも、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止できる。すなわち、HFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いても圧縮機の安全性や信頼性を高いものとすることができる。
【0019】
第2の発明は、第1の発明において、前記圧縮機構部と前記電動機要素との間と、前記電動機構要素と大気雰囲気との間に隔壁を設け、前記電動機要素を作動流体から隔離する構成としている。
【0020】
これにより、第1の発明と同様、電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避でき、圧縮機の安全性や信頼性を高いものとすることができる。また、前記電動機要素の通電部を作動流体から隔離するために電動機要素の固定子と回転子との間に隔壁を設ける等のことをしなくてもよい。よって、電動機固定子と回転子との距離を現状通り小さいまま維持することができ、電動機の効率を高いものにすることができる。また、前記圧縮機構部と隔離する隔壁により前記回転子が作動流体や潤滑油の液滴と接触するのを防止できるため、撹拌損失を抑えることもできる。さらに、前記隔壁内の電動機要素設置環境下にある気体もしくは液体の熱膨張率を圧縮機構設置側の作動流体と同等レベルのものとしておけば、圧縮動作時における隔壁内の気体もしくは液体の圧力を圧縮機構部側の作動流体圧力と近い圧力にすることができ、作動流体と隔壁内環境間の圧力差を小さくして、隔壁のシール部で発生する摺動損失や粘性損失を抑えることもできる。
【0021】
第3の発明は、第1の発明において、前記電動機要素を圧縮機構とともに密閉容器内に収納するとともに、前記電動機要素の通電部を作動流体から隔離する隔壁を設置した構成としている。
【0022】
これにより、電動機要素を圧縮機構とともに密閉容器内に収納した形態のまま電動機要素の通電部を作動流体から隔離して作動流体に対し高エネルギが付加されることを回避でき、圧縮機の安全性や信頼性を高いものとすることができる。
【0023】
第4の発明は、第3の発明において、前記隔壁は、固定子における固定子積層板の上端面または下端面の外周側および内周側から立ち上がり、固定子巻線の上下コイルエンド部をそれぞれ個別に覆う構成として、前記作動流体から前記通電部を隔離した構成としている。
【0024】
これにより、作動流体から通電部を隔離する隔壁を、前記電動機積層板の上端面より上側または前記電動機積層板下端面よりも下側に集約することができる。よって、例えば電動機要素の固定子と回転子との間に隔壁を設ける等して通電部を隔離する必要がなく、前記電動機の固定子と回転子との間の距離を小さいままに保つことができ、圧縮機の信頼性を向上させつつ、電動機効率を高く保つことができる。
【0025】
第5の発明は、第3または第4の発明において、前記隔壁は、前記電動機要素の固定子積層板を含む固定子および固定子巻線、給電部等の通電部を一体に作動流体から隔離する構成として、作動流体から通電部を隔離する構成としている。
【0026】
これにより、隔壁をより簡易な構造とすることができる。また、電動機要素の通電部を覆う隔壁を封止する際に同種材料の接合となるために接合が容易となる。
【0027】
第6の発明は、第1の発明において、前記電動機要素の固定子と回転子との間に隔壁を設け、前記電動機要素の固定子及び固定子巻線、給電部等の通電部を大気雰囲気下に設置した構成としている。
【0028】
これにより、大気に対して電動機固定子の放熱を行いつつ、冷媒の漏洩を抑えることができ、電動機要素の効率および信頼性を向上することができる。
【0029】
第7の発明は、第1の発明において、前記圧縮機構部と前記電動機要素との間に隔壁を設け、前記電動機要素を大気雰囲気下に設置する構成としている。
【0030】
これにより、固定子及び固定子巻線、給電部等の通電部を部分的に回転子から隔離することなく電動機要素を大気雰囲気下に設置することができ、大気に対して電動機固定子の放熱を行いつつ、前記電動機固定子と回転子との距離を小さくすることができ、電動機の効率を向上させることができる。
【0031】
第8の発明は、第1~第5の発明において、前記電動機要素の通電部を設置する環境は気体雰囲気とした構成としている。
【0032】
これにより、電動機周囲環境の電気絶縁性が大きくなって、例えばレイヤーショートによる電気入力の影響をごく小さな領域で留めることができる。
【0033】
第9の発明は、第1~第5の発明において、電動機要素の通電部を設置する環境は液体中とした声生徒している。
【0034】
これにより、電動機周囲環境の熱容量が大きくなって、例えばレイヤーショートによる高エネルギ付加に起因する温度上昇の影響をごく小さな領域で吸収することができる。
【0035】
第10の発明は、第1~第5の発明において、前記電動機要素を設置する環境を、原子価あるいは最外殻電子が閉殻となっている元素または分子を含む気体または液体を隔壁内に封入して構築した構成としている。
【0036】
これにより、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避できるため、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止できる。すなわち、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、前記電動機要素が設置されている隔壁内が不活性な環境下であるのでレイヤーショートの際の高エネルギの付加による電動機要素周囲環境の反応を抑えることができる。よって、HFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いても圧縮機の安全性及び信頼性を高いものとすることができる。
【0037】
第11の発明は、第1~第5の発明において、前記電動機要素を設置する環境を、第18族元素を含む気体、または液体を隔壁内に封入して構築した構成としている。
【0038】
これにより、第10の発明と同様、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避できるため、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止できる。また、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、電動機要素が設置されている隔壁内が不活性な環境下であるのでレイヤーショートの際の高エネルギの付加による電動機要素周囲環境の反応を抑えることができ、圧縮機の安全性及び信頼性を高いものとすることができる。
【0039】
第12の発明は、第1~第5または第10、第11の発明において、前記電動機要素を設置する環境を、窒素、二酸化炭素を含む気体、または液体を隔壁内に封入して構築した構成としている。
【0040】
これにより、第10の発明と同様、圧縮機の電動機要素の通電部においてレイヤーショートが発生したとしても、作動流体に対して高エネルギが付加されることを回避できるため、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止できる。さらに、前記電動機要素周囲環境の不活性化を安価な気体もしくは液体で構築することができる。
【0041】
第13の発明は、第1~第5または第8~第12の発明において、前記電動機要素を設置する環境は、大気圧下における熱伝導率が0.001~0.3[W/mK]である気体を隔壁内に封入して構築した構成としている。
【0042】
これにより、前記電動機要素の放熱をより効率的に行うことができる。
【0043】
第14の発明は、第1~第5または第8~第13の発明において、前記電動機要素を設置する環境は、大気圧下における熱伝導率が0.05~0.7[W/mK]である液体を隔壁内に封入して構築した構成としている。
【0044】
これにより、第13の発明と同様、前記電動機要素の放熱をより効率的に行うことができる。
【0045】
第15の発明は、冷凍サイクル装置であり、この冷凍サイクル装置は、圧縮機と、凝縮器と、膨張弁と、蒸発器とを環状に接続して冷凍サイクル回路を構成し、前記冷凍サイクル回路に、二重結合を含み、かつ炭素を二つ有する冷媒ガスを含む作動流体を封入するとともに、前記圧縮機を前記第1から第14の発明に記載の圧縮機とした構成としている。
【0046】
これにより、圧縮機とともに冷凍サイクル装置も安全性の高いものとすることができる。
【0047】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0048】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る圧縮機の概略構成図である。
【0049】
本実施の形態の圧縮機は、密閉容器1内に電動機要素2と圧縮機構部3を設けて構成している。密閉容器1は、吸入管(図示せず)と吐出管(図示せず)によって空気調和機等の冷凍サイクル装置に接続される。
【0050】
圧縮機構部3は、密閉容器1の上部に配置され、電動機要素2は、圧縮機構部3の下部に配置されている。そして、上記電動機要素2と圧縮機構部3とは、回転軸4によって連結されている。
【0051】
電動機要素2は、固定子5及び回転子6を備えた集中巻方式のDCブラシレスモータで構成している。固定子5は固定子積層板を積層して構成した固定子鉄心に巻線7を巻き付けて構成してあり、インバータ回路部(図示せず)によって通電され、インバータ駆動される。回転子6は、回転軸4に固定されており、かつ回転軸4とともに回転する。
【0052】
圧縮機構部3は、例えば二連式のロータリ式圧縮機構によって構成してあり、前記回転軸4の回転によってローリングピストン(図示せず)が回転駆動され、作動媒体の吸入、圧縮を行う。
【0053】
密閉容器1の適所には、給電用の端子8が設けられおり、リード線等の給電部9を介して固定子の巻線7に電流を流すようになっており、前記端子8に接続した給電部9、巻線7が電動機要素2の通電部10となっている。
【0054】
ここで、上記圧縮機は、電動機要素2の通電部10を密閉容器1内の前記圧縮機構部3が設けられている部分の作動流体から隔離するための隔壁11を設けて、前記通電部10が前記作動流体と異なる成分または組成の環境下に設置される構成としている。例えば、この例では電動機要素2と圧縮機構部3との間に隔壁11を設けることにより、固定子5の巻線7と給電部9、つまり通電部10を作動流体から隔離する構成としている。そして、上記電動機要素2は大気雰囲気との間にも隔壁11aを設け、通電部10を有する電動機要素2収納部分を密封している。なお、この例では電動機要素2を密閉容器1内に設けているので密閉容器1の底壁が隔壁の代わりとなり、隔壁11aは必ずしも必要とするものではない。
【0055】
以上のように構成された圧縮機について、次にその作用効果を説明する。
【0056】
インバータ回路部から端子8を介して電動機要素2に通電すると、固定子5の巻線7に電流が流れ、磁界が発生し、回転軸4が回転する。回転軸4が回転すると、回転軸4の偏心軸部(図示せず)がローリングピストン(図示せず)回転させ、作動媒体の吸入、圧縮を繰り返し、所定の圧縮動作を行う。
【0057】
ここで、上記圧縮機の作動媒体として二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体、具体的にはHFO1123(1,1,2-トリフルオロエチレン)を含む冷媒を用いており、正常な運転条件下ではない状態、例えば、凝縮器側の送風ファン停止、冷凍サイクル回路の閉塞等が生じると、吐出圧力(冷凍サイクルの高圧側)が過度に上昇する。
【0058】
このような状態下で圧縮機のロック異常が生じ、このロック異常下においても、圧縮機への電力供給が続けられると、圧縮機の電動機要素2へ電力が過剰に供給され、電動機要素2が異常に発熱する。その結果、固定子5を構成する巻線7の絶縁が溶融破壊されて導線同士でレイヤーショートを引き起こす。この際、電動機要素2の巻線7や給電部9からなる通電部10が隔壁11によって作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0059】
つまり、電動機要素2を圧縮機構部3とともに密閉容器1内に収納した従来と同様の形態のままでも、電動機要素2の固定子5における通電部10を確実に作動流体から隔離して、圧縮機の安全性及び信頼性を高いものとすることができる。
【0060】
また、前記電動機要素2の通電部10を作動流体から隔離すべく例えば電動機要素2の固定子5と回転子6との間に隔壁11を設ける等のことをしなくてもよい。よって、電動機要素2の固定子5と回転子6との距離を現状通り小さいまま維持することができ、電動機要素2の効率を低下させることなく高く維持することができる。
【0061】
加えて、前記圧縮機構部3と隔離する隔壁11により前記回転子6が作動流体や潤滑油の液滴と接触するのを防止できるため、撹拌損失を抑えることもできる。
【0062】
さらに、前記隔壁11内の電動機要素設置環境下にある気体もしくは液体の熱膨張率を圧縮機構設置側の作動流体と同等レベルのものとしておけば、圧縮動作時における隔壁内の気体もしくは液体の圧力を圧縮機構部側の作動流体圧力と近い圧力にすることができ、作動流体と隔壁内環境間の圧力差を小さくして、隔壁11のシール部で発生する摺動損失や粘性損失を抑えることもできる。例えば作動媒体をHFO1123(1,1,2-トリフルオロエチレン)を含む冷媒とした場合、電動機要素設置環境下にある気体もしくは液体はR32とすると好適である。
【0063】
(実施の形態2)
図2は実施の形態2における圧縮機の概略構成図で、この実施の形態の構成では前記実施の形態1と同様、密閉容器1内に電動機要素2と圧縮機構部3が設けてあり、電動機要素2を構成する固定子5の巻線7及び素のコイルエンド部7aと給電部9とからなる通電部10を隔壁11で覆って、密閉容器1内の作動流体から通電部10を隔離している。
【0064】
本実施の形態においても、電動機要素2を圧縮機構部3とともに密閉容器1内に収納した形態のまま電動機要素2の固定子5における通電部10を確実に作動流体から隔離することができる。よって、前記通電部10でレイヤーショートが起こっても、通電部10が作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0065】
また、回転子6が作動流体や潤滑油の液滴と接触するのを防止できるため、撹拌損失を抑えることもできる。
【0066】
なお、本実施の形態において隔壁内の環境は、例えば大気圧よりも低い負圧の状態でも、また、大気を封入していてもよく、作動流体から隔離されていれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0067】
(実施の形態3)
本実施の形態3の圧縮機は、前記図2に示す隔壁11を、固定子5の積層板の上端面及び下端面に夫々個々に設けて通電部10を作動流体から隔離する構成としている。すなわち、隔壁11はドーナツ状板の外周側および内周側に立ち上がり壁を有する断面略コ字状に形成して、固定子5の固定子積層板の上端面及び下端面に接合している。
【0068】
これにより、前記実施の形態1,2と同様、電動機要素2を圧縮機構部3とともに密閉容器1内に収納した形態のものであっても、実施の形態2で記載したように電動機要素2における通電部10の給電部9や巻線7及びそのコイルエンド部7aを隔壁11で覆って作動流体から隔離することができる。よって、前記通電部10でレイヤーショートが起こっても、通電部10が作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0069】
また、実施の形態1と同様、電動機要素2の固定子5と回転子6との間に隔壁11を設ける等のことをしなくてもよいので、回転子6と固定子5の距離を小さいままにして電動機要素2の効率を高いものに維持することができ、しかも回転子6が作動流体や潤滑油の液滴と接触するのを防止できるため、撹拌損失を抑えることもできる。
【0070】
なお、本実施の形態において隔壁11と固定子積層板の接合は、例えば溶接でも、圧入でも、カシメでもよく、隔壁内部と作動流体を隔離して流体の混合を防止できれば良いものである。また、隔壁内の環境は、例えば大気圧よりも低い負圧の状態でも、また、大気を封入していてもよく、作動流体から隔離されていれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0071】
(実施の形態4)
図3は実施の形態4における圧縮機の概略構成図で、この実施の形態の構成では固定子積層板を含む固定子5および通電部10の全体を作動流体から一体に隔離する隔壁11を設置した構成としている。すなわち、前記実施の形態3で説明した固定子積層板の上端面及び下端面に接合した個々の隔壁11を一体にしたものであり、その一部は回転子6と固定子5の間にも位置することになるものである。
【0072】
これにより、前記各実施の形態と同様、電動機要素2を圧縮機構部3とともに密閉容器1内に収納した形態のものであっても、電動機要素2における通電部10を隔壁11で覆い、作動流体から通電部10を隔離することができる。よって、前記通電部10でレイヤーショートが起こっても、通電部10が作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0073】
なお、その他の作用効果は実施の形態1と同様であり、説明は省略する。
【0074】
(実施の形態5)
図4は実施の形態5における圧縮機の概略構成図で、この実施の形態では圧縮機構部3と電動機要素2の回転子6を作動流体下に設置し、電動機要素2の固定子5と通電部10は隔壁11により作動流体から隔離された大気雰囲気下に設置した構成としている。すなわち、電動機要素2の回転子6を圧縮機構部3とともに密閉容器1内に収納して作動流体下に設置し、電動機要素2の回転子6以外の固定子5及び通電部10は隔壁11となる密閉容器1の壁により作動流体から隔離した大気雰囲気下に設置した構成としている。
【0075】
本実施の形態においては、電動機要素2の固定子5及び通電部10が大気雰囲気下に設置されているので、前記通電部10でレイヤーショートが起こっても、通電部10が大気雰囲気下にあって作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0076】
また、電動機要素2の固定子5が大気雰囲気下に位置することによって、固定子5は大気へ放熱を行うことが可能になるため固定子温度の上昇を抑えることができる。そのため、電動機要素2の効率を高く保ちつつ、レイヤーショートの発生も抑えることができる。
【0077】
また、回転軸4が隔壁11を貫通することがなく、隔壁11にシール部を設ける必要がないので、シールに伴う摺動損失や微小な冷媒の漏洩も抑えることができる。
【0078】
これにより、圧縮機の安全性を高いものとすることができる。
【0079】
なお、本実施の形態において通電部周囲の大気の湿度は任意の値でよく、また、雨水等の水滴が電動機要素に付着していてもよく、気体と液体の体積比率が気体>液体であれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0080】
(実施の形態6)
図5は実施の形態6における圧縮機の概略構成図で、この実施の構成では密閉容器1内に圧縮機構部3のみを収納して作動流体下に設置し、電動機要素2は通電部10を含めその全体を密閉容器1の壁面で構成する隔壁11により作動流体から隔離した大気圧雰囲気下に設置し、圧縮機構部3と回転子6は隔壁11を貫通する回転軸4を介して動力を伝達する構成としている。
【0081】
本実施の形態においても、電動機要素2の固定子5及び通電部10が大気雰囲気下に設置されているので、前記通電部10でレイヤーショートが起こっても、通電部10が大気雰囲気下にあって作動流体から隔離されているため、レイヤーショートが作動流体への高エネルギ源となることがなく、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができる。
【0082】
また、電動機要素2の固定子5が大気雰囲気下に位置することによって、固定子5は大気へ放熱を行うことが可能になって固定子温度の上昇を抑えることができる。そのため、電動機の効率を高く保ちつつ、レイヤーショートの発生も抑えることができる。
【0083】
また、回転子6と固定子5の間に隔壁11がなく、回転子6と固定子5の距離を小さくすることができるため、電動機の効率を高く保つことができるし、作動流体や潤滑油、またはその混合物の密閉容器内の液面の上昇に伴う攪拌損失の発生も抑えることができる。
【0084】
なお、隔壁11に回転軸4を通す孔を設け、孔に冷媒の漏洩を防止するシール機構を設ける必要があるが、シール機構はOリング等の接触によるものでもよいし、ラビリンスシール等の非接触のものでもよい。
【0085】
また、本実施の形態において通電部周囲の大気の湿度は任意の値でよく、また、雨水等の水滴が電動機要素に付着していてもよく、気体と液体の体積比率が気体>液体であれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0086】
(実施の形態7)
本実施の形態7における圧縮機は、前記実施の形態1~5で説明した電動機要素2の通電部10を隔離している隔壁内の環境を、原子価あるいは最外殻電子が閉殻となっている元素または分子を含む気体や第18族元素を含む気体、例えばアルゴンガス等の気体雰囲気としたものである。
【0087】
本実施の形態においても作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができるが、更にこの実施の形態では、通電部10が気体雰囲気下にあることにより、レイヤーショートが起こった際にも、電動機周囲環境の電気絶縁性が大きいので、電気入力の影響をごく小さな領域で留めることができる。
【0088】
これにより、圧縮機の安全性及び信頼性を高いものとすることができる。
【0089】
なお、本実施の形態において通電部10は乾き度が1.0未満の気体雰囲気下であってもよく、又その気体も数種類の気体が混合もしくは不純物気体が混合しているような混合気体であってもよく、通電部周囲の環境において気体の体積比率が、液体の体積比率を上回っていれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0090】
(実施の形態8)
本実施の形態8における圧縮機は、前記実施の形態1~5で説明した電動機要素2の通電部10を隔離している隔壁内の環境を、原子価あるいは最外殻電子が閉殻となっている元素または分子を含む液体や第18族元素を含む液体環境としている。
【0091】
本実施の形態においても作動流体が自己分解反応を起こすことを防止することができるが、更にこの実施の形態では、通電部10が液体環境下にあることにより、レイヤーショートが起こった際にも、電動機周囲環境の熱容量が大きいので、高エネルギ付加に起因する温度上昇の影響をごく小さな領域で吸収することができる。
【0092】
これにより、圧縮機の安全性及び信頼性を高いものとすることができる。
【0093】
なお、本実施の形態において通電部10は乾き度が0以上の液体下であってもよく、又その液体も種類の液体が混合もしくは不純物液体が混合しているような混合液体であってもよく、通電部周囲の環境において液体の体積比率が、気体の体積比率を上回っていれば本実施の形態の範疇に入るものである。
【0094】
ここで、上記電動機周囲環境は、前記実施の形態7,8に示すもの以外に窒素、二酸化炭素を含む気体、または液体であってもよい。
【0095】
また、上記電動機周囲環境を構成する気体もしくは液体は、大気圧下における熱伝導率が0.001~0.3[W/mK]である気体、もしくは大気圧下における熱伝導率が0.05~0.7[W/mK]である液体とするのが好ましい。
【0096】
このようにすることによって、固定子5の熱の放散効果が高まって固定子巻線の温度を、その絶縁被覆が溶融する温度以下に抑えることが可能となり、レイヤーショートそのものの発生も防ぐことができる。よって、圧縮機の安全性をより高いものとすることができる。
【0097】
(実施の形態9)
本実施の形態9は冷凍サイクル装置を示し、この例では前記各実施の形態で説明した圧縮機を用いて構成した空気調和機を示す。図6は空気調和機の冷凍サイクル図、図7は同空気調和機の室内機を示す概略断面図である。
【0098】
図6図7において、この空気調和機は、室外機51と、室外機51に接続された室内機52から構成されている。室外機51には、冷媒を圧縮する圧縮機53、冷房暖房運転時の冷媒回路を切り替える四方弁54、冷媒と外気の熱を交換する室外熱交換器55、冷媒を減圧する減圧器56、室外送風機59が配設されている。また、室内機52には、冷媒と室内空気の熱を交換する室内熱交換器57と、室内送風機58とが配設されている。そして、前記圧縮機53、四方弁54、室内熱交換器57、減圧器56、室外熱交換器55を冷媒回路で連結してヒートポンプ式冷凍サイクルを形成している。
【0099】
なお、本実施形態による冷媒回路には、HFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を、単体、もしくは2成分混合または3成分混合した冷媒を使用している。
【0100】
上記構成からなる空気調和機は、冷房運転時には、四方弁54を圧縮機53の吐出側と室外熱交換器55とが連通するように切り換える。これにより、圧縮機53によって圧縮された冷媒は高温高圧の冷媒となって四方弁54を通って室外熱交換器55に送られる。そして、外気と熱交換して放熱し、高圧の液冷媒となり、減圧器56に送られる。減圧器56では減圧されて低温低圧の二相冷媒となり、室内機52に送られる。室内機52では、冷媒は室内熱交換器57に入り室内空気と熱交換して吸熱し、蒸発気化して低温のガス冷媒となる。この時室内空気は冷却されて室内を冷房する。さらに冷媒は室外機51に戻り、四方弁54を経由して圧縮機53に戻される。
【0101】
暖房運転時には、四方弁54を圧縮機53の吐出側と室内機52とが連通するように切り換える。これにより、圧縮機53によって圧縮された冷媒は高温高圧の冷媒となって四方弁54を通り、室内機52に送られる。高温高圧の冷媒は室内熱交換器57に入り、室内空気と熱交換して放熱し、冷却され高圧の液冷媒となる。この時、室内空気は加熱されて室内を暖房する。その後、冷媒は減圧器56に送られ、減圧器56において減圧されて低温低圧の二相冷媒となり、室外熱交換器55に送られて外気と熱交換して蒸発気化し、四方弁54を経由して圧縮機53へ戻される。
【0102】
上記のように構成された空気調和機は、その圧縮機53を前記各実施の形態で示した圧縮機とすることによって、HFO1123を含む作動流体を用いた場合であっても、作動流体が自己分解反応を起こすことを防止でき、安全性及び信頼性の高い冷凍システムとすることができる。
【0103】
以上、本発明の圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置について、上記各実施の形態を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0104】
例えば、本実施の形態では、圧縮機構部3として、二連式の圧縮機構部を有するロータリ式圧縮機を例にして説明したが、これは一つの圧縮機構部を有するロータリ式圧縮機であってもよいし、他の圧縮形式、例えば、スクロール式、レシプロ式などの容積式圧縮機、もしくは、遠心式圧縮機等、いずれの圧縮機であってもよいものである。
【0105】
また、電動機要素2はインナーローター式の電動機を例にして説明したが、実施の形態6のような場合は、アウターローター式の電動機要素であっても適用できるものである。
【0106】
また、通電部10を作動流体から隔離する構成として実施の形態1~6を例示したが、これらは任意に適宜組み合わせて使用してもよく、これによって通電部10をより確実に作動流体から隔離することができ好適である。
【0107】
また、冷凍サイクル装置としては空気調和機を例にして説明したが、これは圧縮機、凝縮器、膨張手段、および蒸発器等の構成要素が配管にて接続され、かつ、室外機を有する冷凍サイクル装置であれば具体的な適用例は特に限定されず、例えば、ヒートポンプ式給湯機等であってもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
上述したように本発明は、作動媒体としてHFO1123等の二重結合を有するエチレン系フッ化炭化水素を含む作動媒体を用いていても安全な圧縮機及び冷凍サイクル装置とすることができる。よって、各種の圧縮機およびそれを用いた冷凍サイクル装置に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1 密閉容器
2 電動機要素
3 圧縮機構部
4 回転軸
5 固定子
6 回転子
7 巻線
7a コイルエンド部
8 端子
9 給電部
10 通電部
11、11a 隔壁
51 室外機
52 室内機
53 圧縮機
54 四方弁
55 室外熱交換器
56 減圧器
57 室内熱交換器
58 室内送風機
59 室外送風機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7