(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート造梁及び構造物
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20230908BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
E04C5/18 105
E04G21/12 105C
(21)【出願番号】P 2019170728
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】502107621
【氏名又は名称】株式会社向山工場
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
(72)【発明者】
【氏名】松谷 輝雄
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-150684(JP,A)
【文献】特開2015-172299(JP,A)
【文献】特開2017-203357(JP,A)
【文献】特開2010-242482(JP,A)
【文献】特開平08-013693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00-5/20
E04G 21/12
E04B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造梁であって、
幅方向に貫通する開口と、
前記開口の周囲を囲うように配設された開口補強部と、を備え、
前記開口補強部は、瘤が形成された複数の補強筋を有しており、
前記瘤は、
前記開口及び前記補強筋を含む断面において、前記開口の端部から、前記補強筋の延在方向に対して垂線を引いた位置に配置されて
おり、
複数の前記補強筋は、
前記鉄筋コンクリート造梁の延在方向に配設された複数の横筋と、
該横筋の延在方向と直交する方向に配設された複数の縦筋と、
前記横筋及び前記縦筋と交差するように配設された複数の斜め筋と、を有していることを特徴とする鉄筋コンクリート造梁。
【請求項2】
複数の前記補強筋は、降伏点が590~1275N/mm
2の高強度鉄筋であることを特徴とする請求項
1に記載の鉄筋コンクリート造梁。
【請求項3】
複数の前記補強筋は、母材の周りに前記母材と同じ材料で前記母材の径より1.5倍以上大きい突形状の瘤を備えていることを特徴とする請求項1
又は2に記載の鉄筋コンクリート造梁。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート造梁を基礎梁又は梁せいが1500mm以上のとして備えることを特徴とする構造物。
【請求項5】
開口部補強構造であって、
幅方向に貫通する開口と、
前記開口の周囲を囲うように配設された開口補強部と、を備え、
前記開口補強部は、瘤が形成された複数の補強筋を有しており、
前記瘤は、
前記開口及び前記補強筋を含む断面において、前記開口の端部から、前記補強筋の延在方向に対して垂線を引いた位置に配置されて
おり、
前記開口が、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口として設けられたものであることを特徴とする開口補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄筋コンクリート造梁及び該鉄筋コンクリート造梁を備える構造物に関し、特に開口が形成された鉄筋コンクリート造梁及び該鉄筋コンクリート造梁を備える構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建物において、鉄筋コンクリートからなる壁や梁の開口では外力や、コンクリートの収縮等によるクラックが発生する。例えば、特許文献1には、コンクリート壁の開口の二辺に挟まれた隅部に配置されてコンクリート壁を補強する開口補強部材が記載されている。
【0003】
また、鉄筋コンクリート構造梁の開口補強に使用する補強筋としては、円形または多角形の工場溶接による既製品が一般的に使用される。ここで、梁せいが2m~3.5mのように高い基礎梁では、工事を円滑進めるために人通口が設けられる。このように、人や資材を移動させるため、基礎梁は梁せいが大きく特殊寸法となる。そのため、梁せいの高い基礎梁を一般階(上階)と同様に、工場で既製品化することはコスト面から困難であり、特注品として製作される。
【0004】
基礎梁では、従来から採用されている直棒による縦筋、横筋及び斜め筋を配筋する例が多いが、施工性も良く対応が容易である。例えば、特許文献2には、鉄筋コンクリート造よりなり、幅方向に貫通する開口を備える梁の開口補強構造に関して、中央部に所定の径に成形された開口孔を有し、表面に凹凸部を備える鋼板よりなる複数の開口補強鋼板が、所定の離間間隔をもって面どうしを向かい合わせて平行に配されるとともに、開口補強鋼板の開口孔と梁の開口とが同軸となるように、梁の内方に配設されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-339487号公報
【文献】特開2004-293181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、鉄筋コンクリート造梁に開口を設けると、内部荷重の流れが変化することで、開口の周辺の内部応力が局所的に高くなるため、開口の周辺より破壊を生じてしまい、鉄筋コンクリート造梁の強度が低下してしまう。したがって、鉄筋コンクリート造梁にはサイズの大きい開口を設けることができず、開口の直径は、梁せいの1/3以下となるように制限されていた。
【0007】
このように、基礎梁や梁せいが1500mm以上の大きな梁において、サイズの大きい開口を設けた場合にも、梁の強度を簡便な方法で確保することが可能な技術が望まれていた。また、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口などの開口周囲の強度を簡便な方法で確保することが可能な技術が望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、基礎梁や梁せいが1500mm以上の大きな梁において、サイズの大きい開口を設けた場合にも、梁の強度を簡便な方法で確保することが可能な鉄筋コンクリート造梁及び該鉄筋コンクリート造梁を備える構造物を提供することにある。
【0009】
また、本発明の別の目的は、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口などの開口周囲の強度を簡便な方法で確保することが可能な開口補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、本発明の鉄筋コンクリート造梁によれば、鉄筋コンクリート造梁であって、幅方向に貫通する開口と、前記開口の周囲を囲うように配設された開口補強部と、を備え、前記開口補強部は、瘤が形成された複数の補強筋を有しており、前記瘤は、前記開口及び前記補強筋を含む断面において、前記開口の端部から、前記補強筋の延在方向に対して垂線を引いた位置に配置されており、複数の前記補強筋は、前記鉄筋コンクリート造梁の延在方向に配設された複数の横筋と、該横筋の延在方向と直交する方向に配設された複数の縦筋と、前記横筋及び前記縦筋と交差するように配設された複数の斜め筋と、を有していること、により解決される。
【0011】
このような鉄筋コンクリート造梁では、開口の周囲を囲うように配設された開口補強部が、瘤が形成された複数の補強筋を備え、瘤が開口の直径に対応した位置に配置されていることで、クラックの発生が予想される位置の耐力を確保することが可能となる。つまり、サイズの大きい開口を設けた場合であっても、瘤付き鉄筋を補強筋として用いるという簡便な方法で、開口周りの強度を確保することが可能となる。
また、このように、瘤付きの複数の補強筋を適切に配置することで、開口周りの強度を確保することが可能となる。
【0013】
このとき、複数の前記補強筋は、降伏点が590~1275N/mm2の高強度鉄筋であると一層好適である。
このように、補強筋として瘤付きの高強度鉄筋を用いることにより耐力の向上と、その必要定着長さを短くすることが可能となる。瘤をつけて瘤の位置で支圧を受け支持するため従来使用されている直棒(瘤無し)に比較して補強筋長さを大幅に短縮できる。
【0014】
このとき、複数の前記補強筋は、母材の周りに前記母材と同じ材料で前記母材の径より1.5倍以上大きい突(鍔)形状の瘤を備えているとより一層好適である。
このように、補強筋が母材の周りに母材と同じ材料で母材の径より1.5倍以上大きい突形状の瘤を備えていることで、開口周りの強度を効果的に確保することが可能となる。
【0015】
前記課題は、本発明の構造物によれば、上記の鉄筋コンクリート造梁を基礎梁又は梁せいが1500mm以上の梁として備えること、により解決される。
【0016】
前記課題は、本発明の開口部補強構造によれば、開口部補強構造であって、幅方向に貫通する開口と、前記開口の周囲を囲うように配設された開口補強部と、を備え、前記開口補強部は、瘤が形成された複数の補強筋を有しており、前記瘤は、前記開口及び前記補強筋を含む断面において、前記開口の端部から、前記補強筋の延在方向に対して垂線を引いた位置に配置されており、前記開口が、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口として設けられたものであること、により解決される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉄筋コンクリート造梁によれば、サイズの大きい開口を設けた場合であっても、瘤付き鉄筋を補強筋として用いるという簡便な方法で、開口周りの強度を確保することが可能となる。
【0019】
また、本発明の開口補強構造によれば、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口などの開口周囲の強度を簡便な方法で確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁の内部構造を説明するための模式的斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁の長手方向の鉛直断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁における開口と横筋の関係を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁における開口と縦筋の関係を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁における開口と斜め筋の関係を示す説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁の開口補強筋の母材と瘤の関係を示す説明図である。
【
図8】開口を備える鉄筋コンクリート造梁における加力時(終局時)のひび割れの例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態(以下、本実施形態)を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0022】
本明細書における方向を示す用語に関し、
図1のように各方向を定義する。具体的には、以下の説明中、「延在方向」とは、鉄筋コンクリート造梁1の長手方向を意味する。また、「上下方向」とは、鉄筋コンクリート造梁1の高さ方向を意味する。また、「幅方向」とは、鉄筋コンクリート造梁1の厚み方向を意味する。なお、本願明細書において、○mm~△mmは、○mm以上△mm以下を意味する。
【0023】
(鉄筋コンクリート造梁1)
本実施形態の鉄筋コンクリート造梁1は、
図1乃至
図3に示すように、梁主筋2と、梁主筋2を囲むように配設されたせん断補強筋3とを備えている。鉄筋コンクリート造梁1は、その幅方向に貫通する開口10と、開口10の周囲を囲うように配設された開口補強部11と、を備え、開口補強部11は、瘤Kが形成された複数の開口補強筋20(後述する横筋21、縦筋22、斜め筋23)を有している。なお、
図1では、説明のためにコンクリートの図示を省略し、開口10を破線で示している。
【0024】
(開口補強筋20)
図1に示すように、開口補強筋20は、鉄筋コンクリート造梁1の延在方向に配設された複数の横筋21と、横筋21の延在方向と直交する方向(換言すると上下方向)に配設された複数の縦筋22と、横筋21及び縦筋22と交差するように配設された複数の斜め筋23と、を有している。
図2及び
図4乃至
図6に示されるように、複数の開口補強筋20が備える瘤Kは、開口10の径(具体的には、開口10の直径D)に対応した位置に配置されている。原則、開口10の端部位置に、開口10を挟むように各1個ずつ瘤Kを位置させることとするが、開口10での応力によっては瘤Kを、開口10を挟むようにして、それぞれ複数個(2個以上)配することも可能とする。
【0025】
(横筋21)
横筋21(水平補強筋)は、
図4に示されるように、両方の端部21aの間に複数の瘤K(中央瘤K1及び端部瘤K2)を備えることがある。
図4に示される横筋21は、2つの中央瘤K1を備える場合を示している。2つの中央瘤K1の間の距離は、開口10の直径Dに対応している。より詳細には、開口10及び横筋21を含む断面において、開口10の端部から、横筋21の延在方向に対して垂線を引いた位置に、中央瘤K1が位置するようになっている。このとき、中央瘤K1の位置の許容される誤差は、
図4に示す位置から±10%以内、好ましくは±5%以内である。なお、補強対象となる開口のサイズが大きくない場合は、瘤を1個配するだけでもよい。
【0026】
また、各中央瘤K1は、近い方の端部21aとの間の距離が開口10の直径Dと対応しており、横筋21の全長は3Dとなっている。横筋21の各端部瘤K2は、近い方の端部21aからの距離Tが0~100mmとなっている。
【0027】
(縦筋22)
縦筋22(鉛直補強筋)は、
図5に示されるように、両方の端部22aの間に複数の瘤K(中央瘤K1及び端部瘤K2)を備えている。
図5に示される縦筋22は、2つの中央瘤K1を備えており、2つの中央瘤K1の間の距離は、開口10の直径Dに対応している。より詳細には、開口10及び縦筋22を含む断面において、開口10の端部から、縦筋22の延在方向に対して垂線を引いた位置に、中央瘤K1が位置するようになっている。このとき、中央瘤K1の位置の許容される誤差は、
図5に示す位置から±10%以内、好ましくは±5%以内である。
【0028】
また、各中央瘤K1は、近い方の端部22aとの間の距離が0.5D~0.75Dであり、縦筋22の全長は2D~2.5Dとなっている。縦筋22の各端部瘤K2は、近い方の端部21aからの距離Tが0~100mmとなっている。
【0029】
(斜め筋23)
斜め筋23(傾斜補強筋)は、
図6に示されるように、両方の端部23aの間に複数の瘤K(中央瘤K1及び端部瘤K2)を備えている。
図6に示される斜め筋23は、2つの中央瘤K1を備えており、2つの中央瘤K1の間の距離は、開口10の直径Dに対応している。より詳細には、開口10及び斜め筋23を含む断面において、開口10の端部から、斜め筋23の延在方向に対して垂線を引いた位置に、中央瘤K1が位置するようになっている。このとき、中央瘤K1の位置の許容される誤差は、
図6に示す位置から±10%以内、好ましくは±5%以内である。
【0030】
また、各中央瘤K1は、近い方の端部23aとの間の距離が開口10の直径Dと対応しており、斜め筋23の全長は3Dとなっている。斜め筋23の各端部瘤K2は、近い方の端部23aからの距離Tが0~100mmとなっている。
【0031】
図1及び
図2に示されるように、隣接する横筋21と縦筋22の交差角度は略90°(例えば、90°±10°、好ましくは90°±5°)である。また、4本の斜め筋23について、隣接する2本の斜め筋23の交差角度は略90°(例えば、90°±10°、好ましくは90°±5°)である。また、斜め筋23と隣接する横筋21の交差角度は略45°(例えば、45°±5°、好ましくは45°±3°)であり、斜め筋23と隣接する縦筋22の交差角度は略45°(例えば、45°±5°、好ましくは45°±3°)である。
【0032】
図1に示されるように、鉄筋コンクリート造梁1の幅方向において、開口10の両端部に開口補強部11が配置されている。開口10の一方の端部における開口補強部11に着目すると、開口補強部11が備える複数の開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)は互いに接している。
【0033】
(梁せいHと直径Dについて)
本実施形態の鉄筋コンクリート造梁1の梁せいHは、1500mm以上、例えば、2m~3.5mとすることも可能である。
図5に示すように、縦筋22は、中央瘤K1と近い方の端部22aとの間の距離が0.5D~0.75Dであり、全長は2D~2.5Dである。つまり、開口10の直径Dを、梁せいHの1/3超1/2以下と大きくすることも可能である。梁せいHを1500mmと仮定すると、開口10の直径を500mm超750mm以下とすることが可能である。
【0034】
(瘤Kのサイズ及び鉄筋強度について)
図7に示されるように、開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)が備える突形状の端部瘤K2は、棒状の母材Bの端部側に、母材Bの周りに母材Bと同じ材料で形成されている。端部瘤K2のサイズは、母材Bの径dより1.5倍以上であり、好ましくは2倍以上である。
【0035】
開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)の瘤Kは、夫々の直棒を瘤作成位置で溶融させて瘤状の突起を製作することが可能である。瘤Kの形状は円形や楕円形とすることが好ましい。なお、瘤Kは、鋼材を熔融軟化させるため、同芯型、偏芯型、楕円型、など多角形の金型をあてがうことで、瘤Kの形状を成形する。瘤Kの形成は、母材Bとは異なる材料を接合する必要はなく、1本の母材Bを熔融軟化させて瘤Kを作ることが可能である。
【0036】
耐力向上の観点や瘤Kを形成した場合の効果の観点からは、開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)は、例えば、降伏点が590~1275N/mm2の高強度鉄筋(例えば、MK785)であると好適である。なお、開口が小さい場合、開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)として、降伏点が295~490N/mm2の普通強度鉄筋(例えば、SD295~SD490)を用いることも可能である。
【0037】
開口補強筋20として瘤付きの高強度鉄筋を用いることにより耐力の向上と、その必要定着長さを短くすることが可能となる。また、開口補強筋20が母材Bの径dより1.5倍以上、好ましくは2倍以上の大きい突形状の瘤を備えていることで、開口10周りの強度を効果的に確保することが可能となる。
【0038】
(鉄筋コンクリート造梁1の基礎梁としての利用)
本実施形態の鉄筋コンクリート造梁1を用いると、基礎梁などの鉄筋コンクリート梁にサイズの大きな開口10を設けることが可能となるため、設備の集中管理を行うオフィスビルなどの建物(構造物)に利用することができる。つまり、実施形態の鉄筋コンクリート造梁1を基礎梁として備える建物(構造物)を提供することができる。
【0039】
鉄筋コンクリート造梁1を基礎梁として利用する場合を想定すると、基礎梁は梁せいHが高いため、開口10を設ける場合、耐力も大きくなるので、開口補強筋20に高強度鉄筋を採用することが有効になるが、単に高強度鉄筋を配筋しただけでは、高強度であるがため付着長さを長くする必要がある。その対応として瘤のサイズを大きく形成することも考えられる。
【0040】
本実施形態の鉄筋コンクリート造梁1は、
図8に示す予想される加力時のひび割れTL(クラック)を中心に所定の間隔にて、開口補強筋20(横筋21、縦筋22、斜め筋23)に中央瘤K1や端部瘤K2を付与して、ひび割れをより小さくし、ひび割れにより生じる耐力を高強度鉄筋で抵抗させることで、一般の棒鋼配置より性能(開口耐力)を向上させ、付着有効長さを小さくすることが可能となっている。
【0041】
本実施形態の鉄筋コンクリート造梁1の利用用途としては、基礎梁に限られるものではない。本実施形態の技術思想は、梁せいHが1500mm(1.5m)以上のサイズの大きな梁の開口10の周りの開口補強に際し、定着機能増進のための瘤K付きの開口補強筋20を用いることにある。
【0042】
(まとめ)
本実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁1では、開口10の周囲を囲うように配設された開口補強部11が、瘤Kが形成された複数の開口補強筋20を備え、瘤Kが開口10の直径Dに対応した位置に配置されている。このような構成によって、クラックの発生が予想される位置の耐力を確保することが可能となる。つまり、サイズの大きい開口10を設けた場合であっても、瘤付き鉄筋を開口補強筋20として用いるという施工上簡便な方法で、開口10周りの強度を確保することが可能となっている。
【0043】
また、開口補強筋20は、鉄筋コンクリート造梁1の延在方向に配設された複数の横筋21と、複数の縦筋22と、複数の斜め筋23と、を有しており、各開口補強筋20が適切に配置されることで、開口10周りの強度を確保することが可能となっている。
【0044】
高強度鉄筋を使用する場合は、地震時などに応力が加わることによって開口10の周りに発生するひび割れ(クラック)に対応させる開口補強筋20の付着効果を、向上させることが必要である。ここで、瘤を付与しない高強度鉄筋を用いる場合は、鋼棒の付着力だけに依存せざるを得ない。従来の施工法のように鋼棒の周長表面の付着力だけでは、引張に使用する鋼材が高強度になるに従い、定着長さを長くする必要があり、長くなればひび割れ幅も大きくなる。
【0045】
そこで、本実施形態に係る鉄筋コンクリート造梁1では、高強度鉄筋に瘤Kを設け、その支圧効果を加味することで、開口補強筋20の単筋の時の付着効果をより高める。開口補強筋20の端部に限定することなく、開口の大きい補強筋の場合はその中央部付近においても必要な部位に瘤Kの形成が望まれることもあるが、その場合には、付着応力に加えて瘤Kの支圧効果が加味され、所要の付着長さを短くするという効果が発揮される。
【0046】
開口補強筋20は予想されるひび割れTLの発生位置における耐力の確保を必要とし、その耐力を保持するための定着力の確保が必要である。また、開口補強筋20は、付着力と定着力を併用することで長さが決定するが、開口補強筋20の長さは短いほど鉄筋の納まりがよくなる。そこで、予想されるひび割れTLを挟んで瘤Kを配置することと、開口補強筋20に瘤Kを配置することで、開口補強筋20の全長を短くすることが可能となっている。
【0047】
<変形例>
以上までに本実施形態の鉄筋コンクリート造梁に関して、その構成及び利用方法についての一実施形態を例に挙げて説明してきたが、上述の実施形態は、あくまでも一例に過ぎず、他の例も考えられる。
【0048】
本実施形態の技術的思想は、例えば、耐震壁に窓等の開口を設ける場合、その開口補強構造に適用することも可能である。具体的には、壁式ラーメン構造又は壁厚が250mmを超える連層耐震壁において、窓又は出入口として設けられた開口の周囲の開口補強構造として利用することも可能である。
【0049】
つまり、本実施形態の技術的思想は、開口部補強構造であって、幅方向に貫通する開口と、前記開口の周囲を囲うように配設された開口補強部と、を備え、前記開口補強部は、瘤が形成された複数の補強筋を有しており、前記瘤は、前記開口の径に対応した位置に配置されていることを特徴とする開口補強構造である。
【0050】
また、開口補強筋20として瘤K(中央瘤K1や端部瘤K2)が形成されたものを用いたが、瘤の代わりに定着金物を使用することも可能である。また、ネジ鉄筋を用いる場合には、端部や中央部に複数のナットを定着させたり、ナットを利用した定着平板を使用したりして、定着長さを調整することも可能である。また、普通形状(異形)鉄筋の場合は、中央瘤K1や端部瘤K2以外に瘤を複数設置して定着長さを調整してもよい。
【0051】
また、上記の実施形態では、開口10の内側に鋼管が配置されていなかったが、開口10の内側に鋼管を嵌挿して、鋼管の外周面に開口補強筋20を配置することも可能である。
【0052】
また、上記の実施形態では、開口10の形状が円形の場合について説明したが、開口10の形状は、円形に限定されるものではなく、その他の形状の開口10を設けることも可能である。そのような場合にも、その開口10の形状に合わせて開口10の径に対応した位置に開口補強筋20を配置する構成とすればよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、鉄筋コンクリート梁のスパン中央に開口10を設ける場合について説明したが、開口10の位置は限定されるものではなく、例えば、開口10を鉄筋コンクリート柱との接合端部付近等に設けてもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、鉄筋コンクリート造梁1の幅方向において、開口10の両端部、つまり2か所に開口補強部11が配置されていたが、開口補強部11を3か所以上に設けることも可能である。具体的には、
図3において、中央付近に開口補強部11を追加で1つ設けても良いし、中央近傍に開口補強部を追加で2つ設けても良い。
【0055】
また、上記の実施形態では、開口補強筋20について、2本の横筋21、2本の縦筋22、4本の斜め筋23を組み合わせることで1つの開口補強部11を構成していたが、横筋21、縦筋22、斜め筋23の本数を増減することも可能である。
【0056】
また、上記の実施形態では、開口補強筋20について、瘤K、具体的には、中央瘤K1や端部瘤K2のサイズが同じである例を示したが、中央瘤K1と端部瘤K2のサイズを異なるものとすることも可能である。
【0057】
上記実施形態では、中央瘤K1と端部瘤K2の両方を備えた例を示したが、中央瘤K1のみを設けることも可能である。具体的には、
図4に示す横筋21(水平補強筋)において、各端部瘤K2を設けないことも可能である。このとき、各中央瘤K1は、近い方の端部21aとの間の距離は0.5Dであり、横筋21の全長は2Dとなる。
【0058】
また、
図5に示す縦筋22(鉛直補強筋)において、各端部瘤K2を設けないことも可能である。このとき、各中央瘤K1は、近い方の端部22aとの間の距離は0.5Dであり、縦筋22の全長は2Dとなる。さらに、
図6に示す斜め筋23(傾斜補強筋)において、各端部瘤K2を設けないことも可能である。このとき、各中央瘤K1は、近い方の端部23aとの間の距離は0.5Dであり、斜め筋23の全長は2Dとなる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の鉄筋コンクリート造梁1は、サイズの大きい開口を設けた場合にも、梁の強度を簡便な方法で確保することが可能であるため、基礎梁や梁せいが1500mm以上のサイズの大きな梁として利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 鉄筋コンクリート造梁
2 梁主筋
3 せん断補強筋
10 開口
11 開口補強部
20 開口補強筋(補強筋)
21 横筋
21a 端部
22 縦筋
22a 端部
23 斜め筋
23a 端部
K 瘤
K1 中央瘤
K2 端部瘤
B 母材
D 直径
H 梁せい
TL ひび割れ