(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置の取付方法及び取付装置
(51)【国際特許分類】
F16C 35/063 20060101AFI20230908BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230908BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20230908BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20230908BHJP
B23P 19/06 20060101ALI20230908BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
F16C35/063
F16C19/18
F16C43/04
B60B35/18 A
B23P19/06 P
B23P19/06 U
B23P21/00 306A
B23P21/00 303B
(21)【出願番号】P 2018046057
(22)【出願日】2018-03-13
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲 大介
(72)【発明者】
【氏名】是本 隆浩
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-240857(JP,A)
【文献】特開2011-196456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/063
F16C 19/18
F16C 43/04
B60B 35/18
B23P 19/06
B23P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、を備え、
前記内方部材の一方から等速自在継手又は車体取付部材の軸体部が挿通されるとともに他方から締結部材が螺合されて車体に取り付けられる車輪用軸受装置の取付方法であって、
前記車輪用軸受装置の内部すきまの値が少なくとも前記外方部材又は前記内方部材に表示されており、
前記内部すきまの値を確認する確認工程と、
前記内部すきまの値に応じて前記締結部材の締結力を自動的に調節する制御工程と、
前記制御工程で自動的に調節された締結力に
て前記締結部材を締め付ける締付工程と、を具備する、ことを特徴とする車輪用軸受装置の取付方法。
【請求項2】
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、を備え、
前記内方部材の一方から等速自在継手又は車体取付部材の軸体部が挿通されるとともに他方から締結部材が螺合されて車体に取り付けられる車輪用軸受装置の取付装置であって、
前記車輪用軸受装置の内部すきまの値が少なくとも前記外方部材又は前記内方部材に表示されており、
前記内部すきまの値を確認する確認工程で前記内部すきまの値を読み取るカメラと、
前記締結部材を締め付ける締付工程で前記締結部材を締め付けるインパクトレンチと、
前記カメラ及び前記インパクトレンチに接続され、前記カメラで前記内部すきまの値を読み取るとともに、前記カメラで読み取った前記内部すきまの値に応じて前記インパクトレンチの締付力を自動的に調節する制御工程で前記カメラ及び前記インパクトレンチを制御する制御装置と、を具備する、ことを特徴とする車輪用軸受装置の取付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置の取付方法及び取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている(特許文献1参照)。かかる車輪用軸受装置は、車体に外方部材が固定される。また、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に複数の転動体(玉又は円錐ころ)が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造(アンギュラ玉軸受構造又は円錐ころ軸受構造)を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
ところで、転がり軸受では、転動体のガタつきを抑えつつも滑らかな回転を可能とすべく内部すきまが許容範囲に収められている。内部すきまとは、転がり軸受を軸又はハウジングに取り付ける前の状態で、外方部材に対する内方部材の移動量と定義されている。例えば、アキシアル方向(軸方向)の内部すきまとは、外方部材に対して一方へ内方部材を押したときの移動量δ1(
図12の(A)参照)と外方部材に対して他方へ内方部材を押したときの移動量δ2(
図12の(B)参照)を足した値と定義されている(内部すきま=δ1+δ2)。
【0004】
この点、車輪用軸受装置においては、内部すきまがマイナスの値とされ、転動体に予圧が掛かった状態となっている。そのため、
図13に示すように、それぞれの軌道面と転動体の接点で予圧に応じた荷重が掛かり、ひいては転がり抵抗を生じている。従って、車輪用軸受装置は、低予圧状態のときにトルクが小さくなり、高予圧状態のときにトルクが大きくなる。なお、自動車の省燃費化を実現するためにトルクの低減が求められるのは当然である。
【0005】
加えて、駆動輪用の車輪用軸受装置に着目すると、内方部材の一方から等速自在継手の軸体部が挿通されるとともに他方から締結部材(例えばナットやボルトを指す)が螺合されて車体に取り付けられる。そのため、締結部材の締付力によって予圧が変わり、結果としてトルクに影響を与えてしまう。これは、従動輪用の車輪用軸受装置であって、内方部材の一方から車体取付部材の軸体部が挿通されるとともに他方から締結部材が螺合される場合も同様である。しかし、車輪用軸受装置の取付作業を行う作業者は、内部すきまの値に関わらず締結部材を規定の締付力で締め付けていくので、トルクがばらついたままとなってしまう。
【0006】
即ち、このような車輪用軸受装置においては、自動車の省燃費化を実現するためにトルクの低減が求められていたが、内部すきまの値に関わらず締結部材を規定の締付力で締め付けていくので、トルクがばらついたままとなってしまう問題があった。そのため、内部すきまの値に応じて締結部材の締付力を調節することにより、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を所定の許容範囲に収める技術が求められていた。つまりは、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑える車輪用軸受装置の取付方法が求められていた。また、かかる車輪用軸受装置の取付方法を実現できる車輪用軸受装置の取付装置が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑える車輪用軸受装置の取付方法を提供する。また、かかる車輪用軸受装置の取付方法を実現できる車輪用軸受装置の取付装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、
内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側軌道面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、を備え、
前記内方部材の一方から等速自在継手又は車体取付部材の軸体部が挿通されるとともに他方から締結部材が螺合されて車体に取り付けられる車輪用軸受装置の取付方法であって、
前記車輪用軸受装置の内部すきまの値が少なくとも前記外方部材又は前記内方部材に表示されており、
前記内部すきまの値を確認する確認工程と、
前記締結部材を締め付ける締付工程と、を具備し、
前記締付工程では、前記内部すきまの値に応じて前記締結部材の締付力を調節することにより、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を所定の許容範囲に収める、ものである。
【0010】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置の取付方法を実現できる車輪用軸受装置の取付装置であって、
前記確認工程で前記内部すきまの値を読み取るカメラと、
前記締付工程で前記締結部材を締め付けるインパクトレンチと、を具備し、
前記インパクトレンチは、前記内部すきまの値に応じて前記締結部材の締付力を自動的に調節する、ものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第一の発明に係る車輪用軸受装置の取付方法は、内部すきまの値を確認する確認工程と、締結部材を締め付ける締付工程と、を具備している。そして、締付工程では、内部すきまの値に応じて締結部材の締付力を調節することにより、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を所定の許容範囲に収める。かかる車輪用軸受装置の取付方法によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑えることが可能となる。
【0013】
第二の発明に係る車輪用軸受装置の取付装置は、確認工程で内部すきまの値を読み取るカメラと、締付工程で締結部材を締め付けるインパクトレンチと、を具備している。そして、インパクトレンチは、内部すきまの値に応じて締結部材の締付力を自動的に調節する。かかる車輪用軸受装置の取付装置によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】車体に取り付けられる前の内部すきまの値を許容範囲に収める方法を示す図。
【
図6】等速自在継手の軸体部を挿通して締結部材で締結する状況を示す図。
【
図7】車体に取り付けられた後の内部すきまの値を許容範囲に収める方法を示す図。
【
図8】ナットの締付力を強めたときの軌道面と転動体の接点に掛かる荷重を示す図。
【
図9】ナットの締付力を弱めたときの軌道面と転動体の接点に掛かる荷重を示す図。
【
図10】車輪用軸受装置を取り付ける際の工程順序を示す図。
【
図11】車輪用軸受装置の取り付けに用いる工具装置を示す図。
【
図12】転がり軸受構造における内部すきまを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。
図1は、車輪用軸受装置1を示す図である。
図2は、車輪用軸受装置1の構造を示す図である。そして、
図3及び
図4は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す図である。
【0016】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動部材4と、を備えている。車輪用軸受装置1は、内方部材3に等速自在継手7の軸体部71が挿通される駆動輪用の車輪用軸受装置である(
図6から
図9参照)。但し、車体取付部材の軸体部が挿通される従動輪用の車輪用軸受装置であってもよい(図示せず)。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。
【0017】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、外方部材2の軸方向中央部における内周には、二つの外側軌道面2c・2dが形成されている。外側軌道面2cは、後述する内側軌道面3cに対向する。外側軌道面2dは、後述する内側軌道面3dに対向する。加えて、外方部材2には、その外周から径方向外側へ広がる車体取り付けフランジ2eが形成されている。車体取り付けフランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0018】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0019】
ハブ輪31は、外方部材2の内側に挿通される。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれたスプライン穴3bが形成されている。更に、ハブ輪31の軸方向中央部における外周には、内側軌道面3dが形成されている。内側軌道面3dは、ハブ輪31が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側軌道面2dに対向する。加えて、ハブ輪31には、その外周から径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジ3eが形成されている。車輪取り付けフランジ3eには、回転軸Aを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入されている。
【0020】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gに隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌されることにより、ハブ輪31の外周に内側軌道面3cを構成する。内側軌道面3cは、ハブ輪31と一体化した内輪32が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側軌道面2cに対向する。
【0021】
転動部材4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動部材4は、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。同様に、アウター側の転動部材4も、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。本明細書において、転動体41は、鋼球であるが、円錐ころであってもよい。
【0022】
転動体41は、それぞれが保持器42によって円形にかつ等間隔にならべられている。そして、インナー側の転動部材4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2cと内方部材3(内輪32)の内側軌道面3cの間に転動自在に介装されている。また、アウター側の転動部材4を構成している転動体41は、外方部材2の外側軌道面2dと内方部材3(ハブ輪31)の内側軌道面3dの間に転動自在に介装されている。
【0023】
保持器42は、転動体41を収めるためのポケットが等間隔に形成された円環体となっている。保持器42は、互いに隣り合う転動体41と転動体41の間に球面壁が延びており、二つの球面壁によって一つの転動体41を挟み込むように保持している。このため、保持器42は、それぞれの転動体41の周方向の偏動(ズレ)を制限する。従って、隣り合う転動体41と転動体41が衝突したり、それぞれの転動体41がガタついたりするのを防ぐことができる。
【0024】
ところで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の間に形成される環状空間Sの両側開口端を密封すべくインナー側シール部材5とアウター側シール部材6を備えている。なお、インナー側シール部材5とアウター側シール部材6は、様々な仕様が存在しており、本明細書に開示された仕様に限定するものではない。
【0025】
インナー側シール部材5は、スリンガ51とシールリング52で構成されている。スリンガ51は、円筒状の嵌合部51aと、嵌合部51aから径方向外側へ延びる円板状の側板部51bを有している。そして、嵌合部51aが内方部材3(内輪32)の嵌合面3gに外嵌される。一方、シールリング52は、芯金53に弾性部材54を固着したものである。芯金53は、円筒状の嵌合部53aと、嵌合部53aから径方向内側へ延びる円板状の側板部53bを有している。そして、嵌合部53aが外方部材2の嵌合面2aに内嵌される。なお、弾性部材54には、サイドリップ54a・54bが形成されており、それぞれの先端縁がスリンガ51の側板部51bに接触している。更に、弾性部材54には、グリースリップ54cが形成されており、その先端縁がスリンガ51の嵌合部51aに接触又は近接している。
【0026】
アウター側シール部材6は、芯金61に弾性部材62を固着したものである。芯金61は、円筒状の嵌合部61aと、嵌合部61aから径方向内側へ延びる円板状の側板部61bを有している。そして、嵌合部61aが外方部材2の嵌合面2bに内嵌される。なお、弾性部材62には、サイドリップ62aと中間リップ62bが形成されており、それぞれの先端縁が車輪取り付けフランジ3eにつながる円弧面3iに接触している。更に、弾性部材62には、グリースリップ62cが形成されており、その先端縁が円弧面3iにつながる軸周面3jに接触又は近接している。
【0027】
次に、車輪用軸受装置1における内部すきまについて説明する。
図5は、車体に取り付けられる前の内部すきまの値を許容範囲に収める方法を示す図である。
【0028】
ここでは、外方部材2の内側にインナー側の転動部材4(転動体41及び保持器42)が収容され、更に内輪32が小径段部3aに外嵌された状態であるものとする。但し、内輪32は、小径段部3aの最奥まで押し込まれておらず、ハブ輪31の段差面31sと内輪32のアウター側端面32sとの間にやや大きい隙間Gが開けられているものとする。
【0029】
図5の(A)は、外方部材2を固定した状態で内方部材3の可動量を測定している状況を示している。このとき、外方部材2は、車体取り付けフランジ2eのインナー側端面2kを下方に向けた状態で台上に固定されている。そして、図示しない器具によってハブ輪31の車輪取り付けフランジ3eを保持し、上下に動かす(矢印P参照)。こうすることで、外方部材2に対する内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の可動量αが分かることとなる。
【0030】
図5の(B)は、ハブ輪31を固定した状態で内輪32を所定位置まで押し込んでいる状況を示している。このとき、ハブ輪31は、車輪取り付けフランジ3eのアウター側端面31kを下方に向けた状態で台上に固定されている。そして、図示しない器具によって内輪32のインナー側端面32tを押し、下方へ押し込んでいく(矢印Q参照)。このとき、内輪32の移動量βを把握しながら内輪32を押し込んでいくことにより、内部すきまの値を許容範囲に収める。なお、内部すきまは、下記の数式で表すことができる。車体に取り付けられる前の内部すきまを「初期すきま」ともいう。
数式:内部すきま=α-β (α<β)
【0031】
ここで、内部すきまは、所定箇所に表示される。例えば、
図1における※印部で示すように、外方部材2のインナー側端面、外方部材2のうち車輪取り付けフランジ2eのインナー側端面、内輪32のインナー側端面のいずれかに表示される。或いは、いずれか複数の箇所に表示される。また、内部すきまは、数字や記号等を用いて表示される。例えば、内部すきまが-40μmであるときは、「-40」や「40」と表示される。或いは、「○」、「△」、「□」、「×」や「S」、「M」、「L」等の記号、その他の記号、これら記号の組み合わせによって表示される。
【0032】
次に、車輪用軸受装置1の連結構造について説明する。
図6は、等速自在継手7の軸体部71を挿通して締結部材75で締結する状況を示す図である。なお、本明細書において、締結部材75は、「ナット75」であるとして説明する。
【0033】
前述したように、ハブ輪31には、そのインナー側端部から軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、その軸方向の長さが内輪32の長さよりも短いため、内輪32のインナー側端面32tよりもアウター側に収まっている。なお、内輪32のインナー側端面32tは、回転軸Aに対して垂直となっている。
【0034】
一方で、等速自在継手7は、軸体部71を有している。軸体部71は、その外周面の一部が凹部と凸部が交互に並ぶスプライン軸となっている。また、等速自在継手7には、軸体部71と一体化したネジ部72が設けられている。更に、等速自在継手7には、軸体部71と一体化した筐体部73が設けられている(
図7から
図9参照)。なお、筐体部73のアウター側端面73tは、回転軸Aに対して垂直となっている。
【0035】
このような構造により、ハブ輪31のスプライン穴3bに軸体部71を挿通した状態で、アウター側からワッシャ74を嵌め、ナット75を締め付けていくと、互いの凹凸形状の歯面が削れてガタつくことなく完全に嵌合される。そして、内輪32のインナー側端面32tと筐体部73のアウター側端面73tが当接した状態となる(
図7から
図9参照)。このような連結方式をプレスコネクト方式(PCS)という。但し、一般的なスプライン(セレーション)嵌合による連結方式であってもよい。加えて、本車輪用軸受装置1においては、等速自在継手7の軸体部71を挿通してナット75で締結する構造であるが、ナット75の代わりにボルトで締結する構造であってもよい(図示せず)。
【0036】
次に、車体に取り付けられた後の内部すきまについて説明する。
図7は、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を許容範囲に収める方法を示す図である。
図8は、ナット75の締付力を強めたときの軌道面2c・2d・3c・3dと転動体41・41の接点に掛かる荷重を示す図である。
図9は、ナット75の締付力を弱めたときの軌道面2c・2d・3c・3dと転動体41・41の接点に掛かる荷重を示す図である。
【0037】
等速自在継手7の軸体部71を挿通してナット75で締結した後においては、ナット75の締付力がハブ輪31及び内輪32に加わる。つまり、ナット75の締付力がハブ輪31のアウター側端面31tに掛かるとともに、内輪32のインナー側端面32tにも掛かることとなる。つまり、ハブ輪31と内輪32には、軸方向に挟み込むような荷重が掛かる(矢印R参照)。そのため、車体に取り付けられる前の内部すきまの値に基づいてナット75の締付力を調節することにより、ハブ輪31と内輪32の軸方向への弾性変形量を適宜に変化させ、ひいては車体に取り付けられた後の内部すきまの値をより小さい許容範囲に収めることができる。なお、このときの内部すきまは、弾性変形量をγとすると、下記の数式で表すことができる。車体に取り付けられた後の内部すきまを「最終すきま」ともいう。
数式:内部すきま=α-β-γ (α<β)
【0038】
具体的に説明すると、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が大きい場合は、ナット75を強く締め付ける。すると、ハブ輪31と内輪32の軸方向への弾性変形量が比較的に大きくなり、ひいては車体に取り付けられた後の内部すきまの値をより小さい許容範囲に収めることができる(
図8参照)。反対に、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が小さい場合は、ナット75を弱く締め付ける。すると、ハブ輪31と内輪32の軸方向への弾性変形量が比較的に小さくなり、ひいては車体に取り付けられた後の内部すきまの値をより小さい許容範囲に収めることができる(
図9参照)。
【0039】
ところで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2に形成された外側軌道面2cと転動体41の接点をXとし、内輪32に形成された内側軌道面3cと転動体41の接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてアウター側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、転動体41には、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる。換言すると、外側軌道面2cと内側軌道面3cには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印Fa・Fb参照)。
【0040】
他方、本車輪用軸受装置1は、外方部材2に形成された外側軌道面2dと転動体41の接点をXとし、ハブ輪31に形成された内側軌道面3dと転動体41の接点をYとし、接点Xと接点Yを結ぶ仮想線をZとすると、仮想線Zが径方向外側へ向かうにつれてインナー側へ傾くアンギュラ玉軸受を構成している。そのため、転動体41には、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる。換言すると、外側軌道面2dと内側軌道面3dには、仮想線Zに対して平行に荷重が掛かることとなる(矢印Fc・Fd参照)。
【0041】
これらの荷重Fa・Fb・Fc・Fdの大きさは、予圧の大きさに応じて定まるものであり、換言すると内部すきまの値に応じて定まるものである。すると、これらの荷重Fa・Fb・Fc・Fdの大きさは、内部すきまの値がばらつくと同じくばらついてしまい、結果としてトルクがばらついてしまうこととなる。そのため、内部すきまの値を小さな許容範囲に収めることができれば、トルクのばらつきを抑えることができる。従って、ナット75の締付力を調節すれば、車体に取り付けられる前の内部すきまの値に関わらず、これらの荷重Fa・Fb・Fc・Fdの大きさを安定させることができ、ひいてはトルクを安定させることが可能となる。
【0042】
次に、具体的な車輪用軸受装置1の取付方法について説明する。
図10は、車輪用軸受装置1を取り付ける際の工程順序を示す図である。ここでは、本願の発明に関する一部工程に着目して説明する。
【0043】
ステップS1は、内部すきまの値を確認する工程(確認工程)である。具体的に説明すると、所定箇所(内部すきまが表示された箇所)をカメラで撮影することによって内部すきまの値を読み取る工程である。但し、カメラに限定するものではなく、表示形態に応じた適宜な機器でよいものとする。
【0044】
ステップS2は、ナット75を締め付ける工程(締付工程)である。具体的に説明すると、内部すきまの値に応じた締付力でナット75を締め付ける工程である。これは、前述したように、ナット75による締付力が軌道面2c・2d・3c・3dと転動体41・41の接点に掛かる荷重に影響を与えるからである。
【0045】
即ち、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が大きいと判断される場合は、ナット75を比較的に強く締め付け、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が小さいと判断される場合は、ナット75を比較的に弱く締め付ける。こうすることで、車体に取り付けられる前の内部すきまの値に関わらず、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を制御(管理)することができる。ひいては、本車輪用軸受部材1のトルクを制御(管理)することができる。
【0046】
以上のように、本車輪用軸受装置1の取付方法は、内部すきまの値を確認する確認工程(ステップS1)と、締結部材(ナット75)を締め付ける締付工程(ステップS2)と、を具備している。確認工程(ステップS1)では、後述するように、カメラなどで内部すきまの値を読み取る。そして、締付工程(ステップS2)では、内部すきまの値に応じて締結部材(75)の締付力を調節することにより、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を所定の許容範囲に収める。かかる車輪用軸受装置1の取付方法によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑えることが可能となる。
【0047】
加えて、一般的に車輪用軸受装置においては、低予圧状態のときに軸受剛性が小さくなり、高予圧状態のときに軸受剛性が大きくなることが知られている。そして、軸受剛性が走行安定性に影響を及ぼすことも知られている。これは、予圧の大きさが内部すきまの値に連関することを考えると、内部すきまが走行安定性に影響を及ぼすことを意味している。従って、本車輪用軸受装置1の取付方法によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑えることができるので、走行安定性を向上させることも可能となる。
【0048】
次に、具体的な車輪用軸受装置1の取付装置80について説明する。
図11は、車輪用軸受装置1の取り付けに用いる工具装置を示す図である。ここでは、本願の発明に関する一部構成に着目して説明する。
【0049】
カメラ81は、内部すきまの値を読み取るためのものである。カメラ81は、制御装置83に接続されている。そのため、制御装置83は、内部すきまの値を認識することができる。
【0050】
インパクトレンチ82は、ナット75を締め付けるためのものである。インパクトレンチ82は、制御装置83に接続されている。そのため、制御装置83は、インパクトレンチ82によるナット75の締付力を自動的に調節することができる。
【0051】
即ち、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が大きいと判断される場合は、ナット75を比較的に強く締め付け、車体に取り付けられる前の内部すきまの値が小さいと判断される場合は、ナット75を比較的に弱く締め付ける。こうすることで、車体に取り付けられる前の内部すきまの値に関わらず、車体に取り付けられた後の内部すきまの値を制御(管理)することができる。ひいては、本車輪用軸受部材1のトルクを制御(管理)することができる。
【0052】
以上のように、本車輪用軸受装置1の取付装置80は、確認工程(ステップ1)で内部すきまの値を読み取るカメラ81と、締付工程(ステップ2)で締結部材(ナット75)を締め付けるインパクトレンチ82と、を具備している。そして、インパクトレンチ82は、内部すきまの値に応じて締結部材(75)の締付力を自動的に調節する。かかる車輪用軸受装置1の取付装置80によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑え、ひいてはトルクのばらつきを抑えることが可能となる。
【0053】
加えて、本車輪用軸受装置1の取付装置80によれば、車体に取り付けられた後の内部すきまのばらつきを抑えることができるので、走行安定性を向上させることも可能となる。
【0054】
本願における車輪用軸受装置1は、車体取り付けフランジ2eを有する外方部材2と、ハブ輪31に一つの内輪32が外嵌された内方部材3と、外方部材2と内方部材3のそれぞれの軌道面2c・2d・3c・3d間に介装される複数の転動体41・41と、で構成された内方部材回転仕様の第3世代構造としているが、これに限定するものではない。例えば、ハブ輪として形成された外方部材と、車体取り付けフランジを有する支持軸に一つの内輪が嵌合された内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成された外方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい。
【0055】
或いは、車体取り付けフランジを有する外方部材と、一対の内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成され、この一対の内方部材がハブ輪の外周に嵌合される内方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。また、ハブ輪として形成された外方部材と、一対の内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成され、この一対の内方部材が支持軸の外周に嵌合される外方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。更に、ハウジングに圧入される外方部材と、一対の内方部材で構成され、この一対の内方部材がハブ輪の外周に嵌合される第1世代構造であってもよい。更に、車体取り付けフランジを有する外方部材と、ハブ輪と等速自在継手の嵌合体である内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複数の転動体と、で構成された第4世代構造であってもよい。
【0056】
最後に、本願における発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲に記載の均等の意味及び範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0057】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2c 外側軌道面
2d 外側軌道面
3 内方部材
3c 内側軌道面
3d 内側軌道面
31 ハブ輪
32 内輪
4 転動部材
41 転動体
42 保持器
7 等速自在継手
71 軸体部
75 締結部材(ナット)
80 取付装置
81 カメラ
82 インパクトレンチ
S1 確認工程(ステップ)
S2 締付工程(ステップ)