(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/10 20060101AFI20230908BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20230908BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20230908BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20230908BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20230908BHJP
【FI】
F16H1/10
F16H1/32 A
F16H55/06
F16H55/17 A
F16H57/029
(21)【出願番号】P 2018238077
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-07-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】内田 博之
【審判官】小川 恭司
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-7830(JP,A)
【文献】中国実用新案第204828602(CN,U)
【文献】特開2017-105416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/10 , F16H 1/32 , F16H 55/06 , F16H 55/17 , F16H 57/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が入力される入力軸、内歯歯車及び外歯歯車を備える歯車装置において、
前記入力軸は、軸方向に延びた中空部である入力軸中空部と、回転駆動される入力ピニオンと噛合う内歯歯車部と、を有し、
前記内歯歯車部は、軸方向から見て、前記内歯歯車部に内接噛合した前記入力ピニオンと前記入力軸中空部とが重ならない構成とされ
、
前記入力軸は、軸本体と、前記軸本体と別体であり前記内歯歯車部が含まれる歯車部材と、が連結されて構成され、
前記歯車部材は、前記軸本体に連結される連結部と、前記内歯歯車部と前記連結部との間に介在され、径方向に延びる介在部と、を有し、前記連結部、前記介在部は一体的に構成される、
歯車装置。
【請求項2】
前記歯車装置の入力側の少なくとも一部を覆う入力側カバーを更に備え、
前記入力側カバーは、
前記入力軸中空部に連通するカバー中空部と、
前記カバー中空部よりも径方向外方の位置に設けられ、前記入力ピニオンが挿通される入力ピニオン孔と、
を有する、
請求項1記載の歯車装置。
【請求項3】
前記内歯歯車部は、前記入力ピニオンの素材よりもヤング率が小さい素材で構成される、
請求項1又は請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記入力ピニオンは金属であり、前記内歯歯車部は樹脂である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記内歯歯車部の内歯と前記連結部とが径方向から見て重なる、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯車装置。
【請求項6】
前記介在部の内周と前記軸本体の外周とがインロー嵌合されている、
請求項5記載の歯車装置。
【請求項7】
前記連結部の外周に配置されたオイルシールを更に備え、
前記内歯歯車部の内歯、前記連結部及び前記オイルシールが径方向から見て重なる、
請求項5又は請求項6に記載の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸から入力された動力を内歯歯車及び外歯歯車を介して伝達及び出力する歯車装置がある。このような装置の中には、ホロー構造、具体的には、入力軸に軸方向に延びた中空部を有する歯車装置がある。ホロー構造により、ケーブル又は伝動軸等の長尺部材を、歯車装置の中空部に配置できるといった利点が得られる。
【0003】
特許文献1の
図1には、ホロー構造を有する偏心揺動型歯車装置において、入力軸(センタークランク軸)の中空部の内周に内歯を設け、モータの歯車が入力軸の内歯に内接噛合している構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の偏心揺動型歯車装置は、入力軸の中空部にモータの歯車が存在するので、中空部に長尺部材を配置しようとしても、歯車が長尺部材の配置を阻害し、ホロー構造の利点が損なわれるという課題がある。
【0006】
本発明は、ホロー構造を有する歯車装置において、入力軸に入力ピニオンが内接噛合して動力を入力でき、かつ、ホロー構造を有効に活用できる歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
動力が入力される入力軸、内歯歯車及び外歯歯車を備える歯車装置において、
前記入力軸は、軸方向に延びた中空部である入力軸中空部と、回転駆動される入力ピニオンと噛合う内歯歯車部と、を有し、
前記内歯歯車部は、軸方向から見て、前記内歯歯車部に内接噛合した前記入力ピニオンと前記入力軸中空部とが重ならない構成とされている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、入力軸に入力ピニオンが内接噛合して動力を入力でき、かつ、入力軸中空部を有効に活用できる歯車装置を提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態1に係る歯車装置を示す断面図である。
【
図3】
図1の歯車装置を入力側から見た正面図である。
【
図4】
図1の歯車装置を出力側から見た正面図である。
【
図5】本発明を振り分け型の偏心揺動型減速装置に適用した実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る歯車装置を示す断面図である。本明細書においては、回転軸O1に沿った方向を軸方向、回転軸O1から垂直な方向を径方向、回転軸O1を中心に回転する方向を周方向と定義する。軸方向のうち、モータ100が配置される側を入力側、その反対側を出力側と呼ぶ。
【0012】
実施形態1に係る歯車装置1は、減速装置であり、具体的には撓み噛合い式歯車装置である。歯車装置1は、モータ100の動力が入力される入力軸10を備える。入力軸10は、モータ100の動力を受ける軸であり、回転軸O1を中心に回転する。歯車装置1にはモータ100が連結され、回転駆動される入力ピニオン110から入力軸10に動力が伝達される。入力ピニオン110のピッチ径、歯数及び歯のサイズ(モジュール)は、歯車装置1の仕様によって規定されている。また、入力ピニオン110は、鋼等の金属から構成されるように規定されてもよい。
【0013】
【0014】
入力軸10は、軸方向に延びた中空部11mを有する軸本体11と、軸方向に延びた中空部12mを有する歯車部材12とが、連結されて構成される。軸本体11の中空部11mと歯車部材12の中空部12mとは連通し、これらにより入力軸10のホロー構造(入力軸中空部)が実現される。
【0015】
軸本体11は、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば略楕円状)の起振体11Aと、起振体11Aの軸方向の両側に設けられた軸部11B、11Cとを有する。軸部11B、11Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。軸本体11は筒状であり、その側壁部には入力側の端面から軸方向に延びたボルト穴11fが設けられている。ボルト穴11fは、周方向の複数の箇所に設けられている。軸本体11は鋼等の金属から構成される。ただし、これに限定されず、軸本体11は、鋼以外の鉄系金属でもよいし、鉄系以外の金属であってもよい。
【0016】
歯車部材12は、内歯が設けられた内歯歯車部12Aと、ボルト等の連結部材B1により軸本体11と連結される連結部12Bと、内歯歯車部12Aと連結部12Bとの間に介在されて両者を接続(一体化)する介在部12Cとを含む。歯車部材12は、入力ピニオン110の素材よりもヤング率が小さい素材(例えば樹脂やアルミだが、これらに限定されない)から構成される。なお、歯車部材12のうち、内歯歯車部12A又はその内歯の部分がヤング率の小さい素材(樹脂等)から構成され、その他の部分が鋼等の金属から構成されてもよい。
【0017】
内歯歯車部12Aは、内周部に内歯を有する環状の形態を有する。内歯歯車部12Aと入力ピニオン110とが噛合った状態で、回転軸O1から入力ピニオン110の歯先までの最短距離L1(
図2を参照)は、中空部12mの半径L2よりも大きい。これにより、軸方向から見たときに、入力ピニオン110と中空部11m、12mとが重ならない。さらには、内歯歯車部12Aに後述する空間H1を設ける場合、入力ピニオン110よりも径方向の内方に、空間H1の内周側を仕切る連結部12Bが存在する。この場合、上記の距離L1は、中空部12mの半径L2と、空間H1の内周側を仕切る連結部12Bの径方向の厚みL3との和よりも大きい。また、後述するように、入力カバー35に入力ピネオン110が通される貫通孔35hが設けられ、かつ、入力カバー35と歯車部材12の連結部12Bとの間にオイルシール47が配置される構成が採用されてもよい。この場合、上述の距離L1は、中空部12mの半径L2と、連結部12Bの厚みL3と、貫通孔35hを囲う壁体のうち回転軸O1に最も近い部分の壁体の径方向の厚みL4と、オイルシール47の径方向の厚み(内半径と外半径との差)L5との和よりも大きい。
【0018】
連結部12Bは、筒状の形態を有し、側壁部には軸方向に延びた挿通孔12fが設けられている。挿通孔12fは、周方向の複数箇所に設けられ、軸本体11のボルト穴11fと連通する。連結部12Bは連結部材B1(ボルト)により軸本体11と連結される。径方向から見て、連結部12Bと内歯歯車部12Aの内歯とは重なる。
【0019】
介在部12Cは、径方向に放射状に広がった形態、例えばディスク状の形態を有し、連結部12Bと内歯歯車部12Aとを軸方向の一方の側(出力側)で接続する。これにより内歯歯車部12A、連結部12B及び介在部12Cが一体化される。歯車部材12には、連結部12Bと内歯歯車部12Aと介在部12Cとに三方が囲われ、入力ピニオン110を内包可能な空間H1(
図2)が設けられる。介在部12Cの径方向内側には、軸本体11の軸部11Bにインロー嵌合により外嵌するインロー部12pが設けられている。
【0020】
図3は、
図1の歯車装置を入力側から見た正面図である。
図4は、
図1の歯車装置を出力側から見た正面図である。
【0021】
入力側カバー35は、
図1~
図3に示すように、中空部11m、12mの部分を除いて、歯車装置1の入力側を閉鎖する。入力側カバー35は、入力軸10の中空部11m、12mに連通するカバー中空部35mを有する。軸方向に見て、カバー中空部35mは、入力軸10の中空部11m、12mを内包する。
【0022】
入力側カバー35は、更に、カバー中空部35mから径方向の外方に位置する貫通孔35hを有する。貫通孔35hは、本発明に係る入力ピニオン孔の一例に相当する。貫通孔35hは、周方向の一箇所に設けられ、入力ピニオン110が通過可能な大きさを有する。貫通孔35hはモータ100の一端部が嵌入されてモータ100を位置決めする。入力側カバー35には、位置決めされたモータ100をネジ又はボルト等の連結部材を介して固定するためのネジ穴35n(
図3)が設けられている。モータ100が固定されたとき、モータ100の入力ピニオン110は入力軸10の内歯歯車部12Aと噛合う。
【0023】
入力側カバー35は、さらに、第1内歯歯車部材31の外側筒部31Bの一端にインロー嵌合により内嵌する張出部35p(
図2)と、入力軸10の連結部12Bと径方向に対向する筒状の張出部35q(
図2)とを有する。入力側カバー35は、第1内歯歯車部材31の外側筒部31Bにネジ等の連結部材B2(
図1)により周方向の複数の箇所で固定される。入力側カバー35の張出部35qと入力軸10の連結部12Bとの間は、オイルシール47によって封止され、潤滑剤の漏れが抑止される。オイルシール47と、連結部12Bと、内歯歯車部12Aとは、径方向から見て、互いに重なるように配置される。
【0024】
入力側カバー35は、連結部材B1の頭部よりも軸方向に厚い。連結部材B1の頭部は、カバー中空部35mの内側に内包されて、入力側カバー35の入力側端面よりも外方に突出しない。
【0025】
図1に示すように、歯車装置1は、さらに、外歯歯車22、2つの内歯歯車31G、32G、起振体軸受21、ケーシング33、出力側カバー34、入力側カバー35、軸受け41、42、主軸受け43、ストッパーリング45、46及びオイルシール47、48、49を備える。
【0026】
外歯歯車22は、可撓性を有する円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0027】
起振体軸受21は、例えばコロ軸受であり、起振体11Aと外歯歯車22との間に配置され、起振体11Aと外歯歯車22とを相対的に回転可能にする。
【0028】
ストッパーリング45、46は、外歯歯車22及び起振体軸受21の軸方向の両側に配置され、外歯歯車22及び起振体軸受21の軸方向の移動を規制する。
【0029】
2つの内歯歯車31G、32Gは、軸方向に並んで外歯歯車22と噛合う。一方の内歯歯車31Gは、第1内歯歯車部材31の内周の一部に歯が設けられて構成される。もう一方の内歯歯車32Gは、第2内歯歯車部材32の内周の一部に歯が設けられて構成される。
【0030】
第1内歯歯車部材31は、環状の形態を有し、ケーシング33にボルト等の連結部材B3により連結されている。第1内歯歯車部材31は、内歯歯車31Gに加えて、ストッパーリング45を挟んで外歯歯車22の反対側に延在する延在部31Aを有する。延在部31Aと軸部11Bとの間には軸受41が配置される。第1内歯歯車部材31は、さらに、延在部31Aの径方向の外方及び歯車部材12の径方向の外方に筒状に延在する外側筒部31Bを有し、外側筒部31Bの入力側の端部に入力側カバー35が嵌合される。
【0031】
第2内歯歯車部材32は、環状の形態を有し、内歯歯車32Gに加えて、主軸受43の内輪として機能する内輪部32iと、動力の出力先である相手部材と連結されるフランジ部32fとを有する。
【0032】
ケーシング33は、内歯歯車32Gの外周側を覆う。ケーシング33の内周部には、主軸受43の外輪部33oが形成されており、ケーシング33は主軸受43を介して第2内歯歯車部材32を回転自在に支持する。主軸受43は、例えばクロスローラ軸受である。
【0033】
出力側カバー34は、第2内歯歯車部材32と連結され、外歯歯車22と内歯歯車32Gとの噛合い箇所を軸方向の出力側から覆う。出力側カバー34及び第2内歯歯車部材32は、動力を出力する相手部材に連結される。出力側カバー34と入力軸10の軸部11Cとの間には軸受42が配置され、入力軸10は回転自在に出力側カバー34に支持される。
【0034】
オイルシール48は、ケーシング33と第2内歯歯車部材32との間で、主軸受43よりも出力側に配置され、この部分から装置外部への潤滑剤の漏れを抑制する。もう一つのオイルシール49は、出力側カバー34と入力軸10との間で、軸受け42よりも出力側に配置され、この部分から装置外部への潤滑剤の漏れを抑制する。
【0035】
<減速動作>
モータ100の駆動により入力ピニオン110が回転すると、内歯歯車部12Aと入力ピニオン110との噛み合いにより回転運動が減速されて入力軸10に伝達される。入力ピニオン110は、内歯歯車部12Aに内接噛合されるため、これらの歯の噛合い数は、外歯同士の外接噛合と比較して多くなる。これによって、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aとの噛合いによる騒音が低減される。さらに、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aの歯の噛合い数が多いこと、並びに、歯車装置1が高い減速比を有するため、入力ピニオン110から内歯歯車部12Aに伝達されるトルクは小さい。このため、内歯歯車部12Aの歯として、例えば樹脂などのヤング率の小さい素材を適用できる。これにより、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aとの噛合いによる騒音をより低減することができる。
【0036】
入力軸10が回転すると、起振体11Aの運動が外歯歯車22に伝わる。このとき、外歯歯車22は、起振体11Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車22は、固定された第1内歯歯車部材31の内歯と長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車22は起振体11Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車22の内側で起振体11Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車22は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、入力軸10の回転周期に比例する。
【0037】
外歯歯車22が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車22と内歯歯車31Gとの噛合う位置が回転方向に変化する。ここで、外歯歯車22の歯数が100で、内歯歯車31Gの歯数が102だとすると、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車22と内歯歯車31Gとの噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車22が回転(自転)する。上記の歯数であれば、入力軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車22に伝達される。
【0038】
一方、外歯歯車22はもう一方の内歯歯車32Gとも噛合っているため、入力軸10の回転によって外歯歯車22と内歯歯車32Gとの噛合う位置も回転方向に変化する。一方、内歯歯車32Gの歯数と外歯歯車22の歯数とは一致しているため、外歯歯車22と内歯歯車32Gとは相対的に回転せず、外歯歯車22の回転運動が減速比1:1で内歯歯車32Gへ伝達される。これらによって、入力軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車部材32及び出力側カバー34へ伝達される。そして、この減速された回転運動が相手部材に出力される。
【0039】
以上のように、実施形態1の歯車装置1によれば、入力軸10は、ホロー構造(中空部11m、12m)を有する一方、入力ピニオン110が内接噛合される内歯歯車部12Aを有する。さらに、内歯歯車部12Aは、軸方向に見て、中空部11m、12mと入力ピニオン110とが重ならない構成を有する。入力軸10には、内接噛合された入力ピニオン110から動力が入力されるため、外歯同士の噛合いに比べて、動力を入力する際の歯の噛合いによって生じる騒音を顕著に低減することができる。さらに、入力ピニオン110がホロー構造の中空部11m、12mを遮らないので、歯車装置1のホロー構造を有効に活用できるという利点が得られる。例えば、中空部11m、12mに長尺部材を通して歯車装置1を運転することができる。
【0040】
さらに、実施形態1の歯車装置1によれば、入力側を中空部11m、12mを除いて閉鎖する入力側カバー35を備える。さらに、入力側カバー35には、入力軸10の中空部11m、12mと連通するカバー中空部35mと、入力ピニオン110が挿通される貫通孔35hとが設けられている。したがって、入力ピニオン110から入力軸10への運動の伝達部分を、入力側カバー35によって閉鎖することができる。この閉鎖により、ホロー構造を阻害せずに、動力を入力する際の歯の噛合いによって生じる騒音を顕著に低減できる。また、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aとの噛合い部分が閉鎖されるので、この噛合い部分の潤滑剤の漏れの抑制、並びに、噛合い部分へのダストの侵入の抑制を図れる。
【0041】
さらに、実施形態1の歯車装置1によれば、入力ピニオン110が噛み合う内歯歯車部12Aが、入力ピニオン110よりもヤング率の小さな素材から構成されている。例えば、入力ピニオン110が金属であるのに対して、内歯歯車部12Aが樹脂から構成されている。このような構成は、入力ピニオン110が内接噛合されることで、歯の噛合い数が多くなることにより実現できる。そして、このような構成により、両者の噛合いにより生じる騒音を顕著に低減できるという効果が得られる。
【0042】
さらに、実施形態1の歯車装置1によれば、入力軸10は軸本体11と歯車部材12とが連結されて構成される。さらに、歯車部材12は、連結部12Bと、内歯歯車部12Aと、これらを接続する介在部12Cとから構成され、連結部12Bと内歯歯車部12Aとが径方向から見て重なるように配置される。このような構成により、連結部12Bと内歯歯車部12Aとの間に入力ピニオン110を配置して、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aとを噛合わせることができ、さらに、連結部12Bと内歯歯車部12Aとが、軸方向に並んだ構成と比べて、歯車部材12の軸方向の寸法の短縮化を図れる。したがって、歯車装置1の軸方向の寸法の短縮化を図れる。
【0043】
さらに、実施形態1の歯車装置1によれば、歯車部材12の介在部12Cの内周部と軸本体11とがインロー嵌合されている。これにより、軸本体11と歯車部材12との芯出しを高精度に行うことができ、芯ずれによる振動又は騒音の発生を低減できる。
【0044】
さらに、実施形態1の歯車装置1によれば、入力軸10と入力側カバー35との間に配置されるオイルシール47と、入力軸10における歯車部材12の連結部12Bと、内歯歯車部12Aの内歯とが、径方向から見て重なるように配置されている。これにより、入力ピニオン110と内歯歯車部12Aとの噛合い部分から潤滑剤が漏れないようにシールすることができ、さらに、オイルシール47を連結部12Bから軸方向にずらして配置する構成と比較して、歯車装置1の軸方向の寸法を小さくできるという効果が得られる。
【0045】
(変形例)
なお、実施形態1では、本発明を所謂筒型の撓み噛合い式の歯車装置1に適用した構成を一例として説明した。しかしながら、本発明は、種々の歯車装置に適用可能であり、例えば所謂カップ型又はシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置、単純遊星歯車装置、センタークランク型の偏心揺動型減速装置に対しても同様に適用可能である。さらに、本発明は、各々が偏心体を有する2個以上の偏心体軸(偏心遊星軸)を歯車装置の軸心からオフセットして配置した所謂振り分け型の偏心揺動型減速装置に対しても同様に適用可能である。
【0046】
例えば、本発明を単純遊星歯車装置に適用する場合、一例としては、太陽歯車と一体化される太陽歯車軸を大径に構成し、太陽歯車軸とキャリアとに軸方向に延びて連通するホロー構造の中空部を設ける。さらに、太陽歯車軸を軸方向に延ばし、実施形態1の入力軸10と同様に、太陽歯車軸にモータからの入力ピニオンと噛合う内歯歯車部を設ける。加えて、内歯歯車部を、軸方向から見て、ホロー構造の中空部と入力ピニオンとが重ならない大きさに構成する。このような構成により、単純遊星歯車装置においても、ホロー構造の有効な活用を阻害せず、太陽歯車軸に対して入力ピニオンを内接噛合させることで、この部分から生じる騒音を顕著に低減することができる。
【0047】
本発明をセンタークランク型の偏心揺動型減速装置に適用する場合、一例としては、先行技術文献1の
図1のように、センタークランク軸(3)に軸方向に延びた中空部(33)を設けてホロー構造とする。さらに、センタークランク軸(3)を軸方向に延ばし、実施形態1の入力軸10と同様に、センタークランク軸(3)にモータからの入力ピニオンと噛合う内歯歯車部を設ける。加えて、内歯歯車部を、軸方向から見て、ホロー構造の中空部(33)と入力ピニオンとが重ならない大きさに構成する。本段落の括弧内の符号は、先行技術文献1の符号を示す。このような構成により、センタークランク型の偏心揺動型減速装置においても、ホロー構造の有効な活用を阻害せずに、センタークランク軸に対して入力ピニオンを内接噛合し、この部分から生じる騒音を顕著に低減することができる。
【0048】
図5は、本発明を振り分け型の偏心揺動型減速装置に適用した実施形態を示す断面図である。本発明を振り分け型の偏心揺動型減速装置に適用する場合、一例として、
図5のような構成を採用できる。
図5の偏心揺動型減速装置200は、軸本体211と歯車部材212とが連結された入力軸210を備える。入力軸210の歯車部材212は、内歯歯車部212A、連結部212B及び介在部212Cを備え、これらは、実施形態1の内歯歯車部12A、連結部12B及び介在部12Cと同様に構成される。入力軸210の軸本体211と歯車部材212とは、連結部材B5により連結部212Bを介して連結される。
【0049】
偏心揺動型減速装置200は、さらに、偏心体246a、246bを有する偏心遊星軸246と、軸心からオフセットされた貫通孔に偏心体246aが通される第1の外歯歯車248Aと、軸心からオフセットされた貫通孔に偏心体246bが通される第2の外歯歯車248Bとを有する。外歯歯車248A、248Bの貫通孔は、周方向の複数箇所(例えば3箇所)に設けられており、複数の偏心遊星軸246が通される。偏心体246a、246bは、偏心体用軸受け249Aを介して回転自在に外歯歯車248A、248Bの貫通孔に配置される。入力軸210には、その外周部に伝動歯車211gが設けられ、偏心遊星軸246に連結された遊星歯車246gと噛合っている。
【0050】
さらに、偏心揺動型減速装置200は、複数の偏心遊星軸246を、軸受け249Bを介して回転自在に支持するキャリア247と、外歯歯車248A、248Bと噛合う内歯歯車243とを備える。内歯歯車243は、内歯として機能する複数の外ピン243Bと、環状の内歯歯車本体243Aとを有する。内歯歯車本体243Aは、内周部に、複数の外ピン243Bを回転自在に保持するピン溝を有し、複数のピン溝に複数の外ピン243Bが保持される。キャリア247は、偏心遊星軸246を介して外歯歯車248A、248Bの自転成分の運動と同期する。
【0051】
さらに、偏心揺動型減速装置200は、内歯歯車243とキャリア247との間に配置された主軸受け245A、245Bと、入力軸210とキャリア247との間に配置される軸受け262A、262Bを備える。内歯歯車243が外部の機構に支持された場合、キャリア247は主軸受け245A、245Bを介して内歯歯車243に回転自在に支持される。さらに、入力軸210は軸受け262A、262Bを介してキャリア247に回転自在に支持される。キャリア247は、例えば減速した運動を出力する相手部材に連結される。
【0052】
さらに、偏心揺動型減速装置200は、偏心揺動型減速装置200の入力側を、中空部211m、212mを除いて閉鎖する入力側カバー250を備える。入力側カバー250は、内歯歯車本体243Aにボルト等の連結部材B6により連結され、偏心揺動型減速装置200の入力側と偏心遊星軸246の入力側の外周とを覆う。入力側カバー250には、入力軸210の中空部211m、212mと連通するカバー中空部250mと、モータ100の入力ピニオン110を通す貫通孔(入力ピニオン孔に相当)250hとが設けられている。入力側カバー250には、前述の実施形態1と同様に、モータ100が取り付けられ、このとき、入力ピニオン110は歯車部材212の内歯歯車部212Aと噛合う。
【0053】
さらに、偏心揺動型減速装置200は、入力側において、入力軸210と入力側カバー250との間を封止するオイルシール265と、出力側において、入力軸210とキャリア247との間を封止するオイルシール266と、内歯歯車本体243Aとキャリア247との間を封止するオイルシール267とを備える。
【0054】
このような構成により、モータ100の駆動により入力ピニオン110が回転すると、入力ピニオン110を内接噛合した内歯歯車部212Aを介して運動が伝達され、入力軸210が回転軸O1を中心に回転する。入力ピニオン110と内歯歯車部212Aとの噛合いにより動力が入力されることで、実施形態1と同様の作用により、動力を入力する部分における騒音の発生を顕著に抑えることができる。
【0055】
入力軸210が回転すると、伝動歯車211gと遊星歯車246gとを介して、偏心遊星軸246に回転運動が伝達される。そして、偏心体246a、246bが回転して外歯歯車248A、248Bを偏心揺動させる。この偏心揺動により、外歯歯車248A、248Bと内歯歯車243との噛み合う位置が周方向に変化し、両者の歯数が異なることで、外歯歯車248A、248Bが回転(自転)する。そして、外歯歯車248A、248Bの自転成分はキャリア247を介して相手部材に出力される。
【0056】
このように構成された偏心揺動型減速装置200においても、入力軸210のホロー構造の有効な活用を阻害せず、入力軸210に対して入力ピニオン110を内接噛合させることで、この部分から生じる騒音を顕著に低減することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、入力軸10の少なくとも内歯歯車部12Aの内歯部分を、入力ピニオン110の素材よりもヤング率の小さい素材、例えば樹脂から構成されると説明した。しかし、これに限定されず、内歯歯車部12Aの内歯の部分を、入力ピニオン110の素材とヤング率が同等又は大きい素材から構成してもよい。この場合でも、入力ピニオン110が内接噛合することで、内歯歯車部12Aと入力ピニオン110との噛み合い部分から生じる騒音の低減を図れる。また、実施形態においては、具体的な一例を図示して説明したが、実施形態において単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換してもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 歯車装置
10 入力軸
100 モータ
110 入力ピニオン
11 軸本体
11m、12m 中空部(入力軸中空部)
12 歯車部材
12A 内歯歯車部
12B 連結部
12C 介在部
12f 挿通孔
12p インロー部
22 外歯歯車
31G、32G 内歯歯車
35 入力側カバー
35m カバー中空部
35h 貫通孔(入力ピニオン孔)
200 偏心揺動型減速装置
210 入力軸
211 軸本体
211g 伝動歯車
211m,212m 中空部(入力軸中空部)
212 歯車部材
212A 内歯歯車部
212B 連結部
212C 介在部
243 内歯歯車
246 偏心遊星軸
247 キャリア
248A、248B 外歯歯車
250 入力側カバー
250m カバー中空部
250h 貫通孔(入力ピニオン孔)
265 オイルシール
O1 回転軸