(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20230908BHJP
【FI】
F16H7/12 A
(21)【出願番号】P 2019006686
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-06-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2018013675
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】今村 利夫
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180820(JP,A)
【文献】特開平7-151198(JP,A)
【文献】実開平5-014711(JP,U)
【文献】特開2017-180622(JP,A)
【文献】特表平10-502997(JP,A)
【文献】特開2003-120768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動軸が取り付けられるベースと、
前記揺動軸を介して前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、
前記揺動軸と平行な軸線を中心に回転自在に設けられ、ベルトに接触可能なプーリと、
前記揺動軸の周りに配設され、前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、前記ベルトを緩ませる方向である、前記一方向とは反対の方向に前記アームが回動したときに縮径するように設定されており、
さらに、前記コイルばねの内周側に設けられ、その外周面において縮径した前記コイルばねと接触する、円筒状のクラッチ部材を有し、
前記クラッチ部材は、一端が自由端であって、前記アームとの間に隙間が確保されるように配置され、
前記クラッチ部材は、他端も自由端であって、前記ベースとの間に隙間が確保されるように配置され、
前記クラッチ部材は、内周面と当該内周面に対向する前記アームとの間に隙間が確保されるように配置さ
れ、所定以上の負荷によって前記コイルばねが縮径変形した場合には、前記内周面が前記アームに接触することを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記クラッチ部材は、スリットを有する断面C字状であり、拡径方向の自己弾性復元力により前記コイルばねに対して内周側から接触していることを特徴とする請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記コイルばねの一端および他端は、径方向外向きに折り曲げられており、それぞれの折り曲げ部分が、前記アームおよび前記ベースに形成された保持溝にそれぞれ係止されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記コイルばねは、前記軸線の方向に圧縮されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記アームは前記ベースに偏心支持されていると共に、前記アームは前記プーリの外周面より内側に収まっていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車エンジンの補機駆動ベルトシステムやカムシャフト駆動ベルトシステムにおいては、従来から、ベルトの張力を一定に保つための機構として、オートテンショナが採用されている。
【0003】
オートテンショナは、例えば、特許文献1の
図1に示すように、エンジンブロック(不図示)に固定され、揺動軸が取り付けられるベースと、揺動軸を介してベースに回動自在に支持されたアームと、揺動軸(軸R)と平行な軸線を中心に転がり軸受を介してアームに回転可能に取り付けられたプーリと、アームを一方向に回動付勢するコイルばねと、円筒部分がアームと揺動軸の間に介在する摺動部材を有する。摺動部材は、軸受としての機能及びアームの揺動を減衰させるダンピング部としての機能を有する。
【0004】
オートテンショナは、プーリに巻きかけられたベルトの張力を調節する部品である。ベルトの張力の増減に伴って、プーリ及び、プーリを支持するアームは、軸Rを揺動中心として揺動するが、その揺動はダンピング部により減衰される。これにより、ベルトからの振動や衝撃による、プーリおよびアームの揺動を減衰させることができる。ベルトの張力が増加してベルトを緩ませる方向にオートテンショナの可動部材(以下、アームという)が回動した場合に、アームの回動を大きく減衰させる。逆に、ベルト張力が低下してベルトを張る方向にアームが回動する場合には、アームの回動を減衰させずに、ベルト張力の減少に対して十分に追従させる。
【0005】
カムシャフト駆動ベルトシステムに適用される、いわゆる主機用オートテンショナでは、ベルトシステムがかみ合い伝動であり、バルブタイミングのずれを抑えるために、アームをさほど大きく回動させない方がよい。これに対して、補機駆動ベルトシステムに適用する場合は、補機駆動ベルトシステムが摩擦伝動であり、ベルトに過大な張力が発生するのを抑えるために、アームを大きく回動させる必要がある。したがって、カムシャフト駆動ベルトシステムに適用する場合は、補機駆動ベルトシステムに適用する場合よりも、ベルトの張力が増加した場合にベルトを緩ませる方向にアームが回動する際には、アームの回動をより顕著に減衰させて、アームの回動を抑制するのがよい。
【0006】
例えば、特許文献1に開示されているオートテンショナは、コイルばねの外周側に、断面C字状で拡形変形及び縮径変形することが可能なスプリングクラッチを有している。スプリングクラッチは縮径方向の自己弾性復元力を有しているため、コイルばねは外周側のスプリングクラッチによって押さえつけられている。コイルばねがスプリングクラッチの内周面に接触していることから、ベルトの張力が変動すると、摩擦トルクがコイルばね及びスプリングクラッチの接触面に発生する。
【0007】
ベルトの張力が増加すると、ベルト張力を緩める方向にアームが回動し、コイルばねは拡径する。その際にコイルばねとスプリングクラッチとの間に大きな摩擦トルクが作用し、アームの回動が強く減衰される。逆に、ベルトの張力が減少すると、コイルばねのねじり復元力によってアームがベルトの張力を強める方向に回動し、その際にコイルばねは縮径する。このときは、コイルばねとスプリングクラッチとの間の摩擦トルクは、上記と比べると低くなるため、ベルト張力を高める方向のアームの回動については減衰トルクをほとんど受けない。つまり、ベルト張力を弱める方向についてはアームの回動に大きな減衰がかかり、ベルト張力を強める方向についてはアームの回動に減衰があまりかからないという、非対称なダンピング特性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、アームとベースの間に配設されるコイルばねの姿勢安定性を高めるためには、コイルばねの両端を径方向外向きに折り曲げて、それぞれアームとベースにしっかり固定することが好ましい。しかし、特許文献1のオートテンショナにおいて、コイルばねの外周側にクラッチが存在するため、コイルばねの一端及び他端は径方向外向きには折り曲げ不能である。このため、コイルばねがねじれるのを可能にし、コイルばね自身の据わりを良くして姿勢を安定化させるために工夫する必要がある。
【0010】
特許文献1では、コイルばねを軸方向に圧縮した状態でアームに組み付けることによってコイルばねの姿勢の安定を図っている。しかし、コイルばねを圧縮して組み付ける分、コイルばねを圧縮せず組み付ける場合よりもコイルばねの長さが実質的に長くなるため、製造コストが増加してしまう。
【0011】
また、軸方向に関して深さが周方向で変化する螺旋状の保持溝を、コイルばねの一端を係止するためにアームに形成する工夫や、軸方向に関して高さが周方向で変化する螺旋状の台座を、コイルばねの他端を係止するためにベースに形成する工夫も行っている。しかし、コイルばねの一端面から略一巻き目の領域(以下、一端側領域と呼ぶ)及びコイルばねの他端面から略一巻き目の領域(以下、他端側領域と呼ぶ)と軸方向に対向するアーム及びベースの対向面が単に軸方向に垂直な平坦面に形成する場合と比べて、特殊な形状である螺旋形状に形成するため、アームやベースの部品の値段が高く、製造コストが増加してしまう。
【0012】
また、ベースに形成させた螺旋状の台座に接触する、クラッチの他端面を、コイルばねの他端側領域の後面の螺旋形状と合致するように螺旋形状に形成する工夫も行っている。しかし、クラッチの軸方向の他端面が単に軸方向に垂直な平坦面に形成する場合と比べて、特殊な形状である螺旋形状に形成するため、クラッチの部品の値段が高く、製造コストが増加してしまう。
【0013】
そこで本発明は、コイルばねの姿勢安定のための特別な工夫が必要なく、製造コストを抑えることが可能なオートテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のオートテンショナは、揺動軸が取り付けられるベースと、前記揺動軸を介して前記ベースに対して回動自在に支持されたアームと、前記揺動軸と平行な軸線を中心に回転自在に設けられ、ベルトに接触可能なプーリと、前記揺動軸の周りに配設され、前記アームを前記ベースに対して一方向に回動付勢するコイルばねと、を備え、前記コイルばねは、前記ベルトを緩ませる方向である前記一方向とは反対の方向に前記アームが回動したときに縮径するように設定されており、さらに、前記コイルばねの内周側に設けられ、その外周面において縮径した前記コイルばねと接触する、円筒状のクラッチ部材を有する。
【0015】
本発明では、ベルトの張力が増加し、アームが回動付勢方向とは逆方向、つまり、ベルトを緩ませる方向にアームが回動したときに、コイルばねは縮径する。その上で、コイルばねの内周側にクラッチ部材が配置されている。そのため、ベルトを緩ませる方向にアームが回動したときに、縮径したコイルばねとその内周側のクラッチ部材とが強く接触してアームに大きな減衰トルクが作用する。つまり、コイルばねに対するクラッチ部材の配置が、前記特許文献1とは内外逆ではあるが、ベルトを緩ませる方向にアームが回動したときに強い減衰が作用する点は、前記特許文献1と同じである。
【0016】
上記構成によれば、コイルばねの内周側にクラッチ部材が配置されているため、コイルばねの両端を径方向外向きに折り曲げるなどしてコイルばねの端部を簡単に固定することが可能となる。したがって、上記で述べたような、コイルばねの姿勢安定のための特別な工夫が必要なく、製造コストを抑えることができる。
【0017】
本発明のオートテンショナは、前記クラッチ部材は、スリットを有する断面C字状であり、拡径方向の自己弾性復元力により前記コイルばねに対して内周側から接触していることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、クラッチ部材がばね性を有し、常にコイルばねの内周面に接触するため、アームに対して確実に減衰トルクを作用させることができる。
【0019】
本発明のオートテンショナは、前記コイルばねの一端および他端は、径方向外向きに折り曲げられており、それぞれの折り曲げ部分が、前記アームおよび前記ベースに形成された保持溝にそれぞれ係止されていることが好ましい。
【0020】
本発明では、コイルばねの内周側にクラッチ部材が配置された構成であるため、コイルばねの両端を径方向外向きに折り曲げて、アーム及びベースに固定できる。つまり、簡単な端部処理を行うだけで、それ以外に特別な工夫を施すことなく、コイルばねの姿勢を安定させることができる。
【0021】
本発明のオートテンショナは、前記クラッチ部材は、前記一端が自由端であって、前記アームとの間に隙間が確保されるように配置されることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、クラッチ部材の一端が自由端、つまりアームに固定されていない。加えて、クラッチ部材とアームとの間に隙間が確保されている。したがって、ベルトの張力の増減に伴ってコイルばねが拡径変形と縮径変形を繰り返す中で、アームと接触し発音することがない。そして、クラッチ部材の一端面がアームに接触してしまい、アームの回動が不用意に抑制されるのが防止される。また、クラッチ部材とアームの間に隙間がない場合と比べてクラッチ部材の軸方向長さが短縮できる分、オートテンショナの製造コストをより抑制することができる。
【0023】
本発明のオートテンショナは、前記クラッチ部材は、前記他端が自由端であって、前記ベースとの間に隙間が確保されるように配置されることが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、クラッチ部材の他端が自由端、つまりベースに固定されていない。加えて、クラッチ部材とベースとの間に隙間が確保されている。したがって、ベルトの張力の増減に伴ってコイルばねが拡径変形と縮径変形を繰り返す中で、ベースと接触し発音することがない。また、クラッチ部材とベースの間に隙間がない場合と比べてクラッチ部材の軸方向長さが短縮できる分、オートテンショナの製造コストをより抑制することができる。
【0025】
本発明のオートテンショナは、前記コイルばねは、前記軸線の方向に圧縮されていることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、ベルトの張力の増減に伴ってコイルばねが拡径変形をしたり縮径変形をしたり繰り返す中で、コイルばねは安定な姿勢を保つことができる。そして、コイルばねの内周側に配置されていて、その外周面において接触しているクラッチ部材も安定な姿勢を保つことができる。
【0027】
本発明のオートテンショナは、前記アームは前記ベースに偏心支持されていると共に、前記アームは前記プーリの外周面より内側に収まっていてもよい。
【0028】
上記構成によれば、アームを大きく回動させない方がいいカムシャフト駆動ベルトシステムに、本発明のオートテンショナは好適である。
【発明の効果】
【0029】
本発明のオートテンショナは、コイルばねの姿勢安定のための特別な工夫が必要なく、製造コストを抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図3】本実施形態のオートテンショナの分解斜視図である。
【
図8】その他の実施形態に係るオートテンショナに締結ボルトが挿通された状態の断面図(
図9のF-F線断面図、及び、
図7のB-B線断面図に対応する図)である。
【
図9】その他の実施形態に係るオートテンショナに締結ボルトが挿通された状態の正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、自動車用エンジンのカムシャフトを駆動するかみ合い伝動ベルト(即ち、タイミングベルト)の緩み側張力を一定に保つオートテンショナに本発明を適用した一例を示す。このようなカムシャフト駆動ベルトシステムにおいては、アームをさほど大きく回動させないオートテンショナが好適に用いられる。
【0032】
図1に示すように、本実施形態のオートテンショナ100は、揺動軸6が取り付けられるベース1と、揺動軸6を介してベース1に対して回動自在に支持されたアーム2と、アーム2に取り付けられ、伝動ベルト101に接触可能であるとともに、揺動軸6と平行な軸線回りに回転自在に設けられるプーリ3と、揺動軸6の回りに配設され、アーム2をベース1に対して一方向に回動付勢するコイルばね4と、コイルばね4の内周側に設けられ、その外周面においてコイルばね4と接触するクラッチ部材5と、を備えている。なお、
図1中の左側を一端側、右側を他端側とする。一端側の端面を一端面、他端側の端面を他端面とする。また、
図1中の左右方向を前後方向と定義する。また、
図2、4、6中の反時計方向の回転をX方向と、時計方向の回転をY方向と定義する。揺動軸の軸線を軸Rと定義する。
【0033】
(ベース1)
ベース(固定部材)1は、図示されないエンジンブロックに固定される取付け部分であり、圧延鋼板等からなる金属部品で形成される。
図1に示すように、ベース1は、台座部11と、台座部11の外縁部から前方に延びる円筒部12とを備えていて、揺動軸の軸Rと同軸心状に設けられている。
【0034】
図1、5に示すように、台座部11は、台座部11の中央部に揺動軸6の軸Rを中心として締結ボルト62が挿通されるベース挿通孔13と、台座部11の後面(背面)にエンジンブロックに対し位置決めするための突起14と、を備えている。
図1、5に示すように、台座部11の前面及び後面は、前後方向に垂直な平坦面に形成されている。なお、
図3に示すように、台座部11の前面にピン状の凸部15が形成されていてもよい。
【0035】
図1、5に示すように、円筒部12は、揺動軸6の軸Rと同軸心状に設けられていて、
図2、4、5、6に示すように、後方に延びる凹状のベース保持溝12aが1か所形成されている。これは、コイルばね4の他端が径方向外向きに折り曲げられた部分である折り曲げ部分42を、嵌め込んで係止するための溝である。ベース保持溝12aにおいて、コイルばね4の他端がベース1のベース当接面12bを揺動軸6の周方向に押圧している。
【0036】
(揺動軸6)
図1に示すように、揺動軸6は略円筒形状であり、前端にフランジ61が形成されている。揺動軸6は、ベース1に取り付けられていて、オートテンショナ100の支柱である。揺動軸6の軸線である軸Rは、前後方向に延びている。揺動軸6の後面は、締結ボルト62を介して、ベース1の前面に当接されている。揺動軸6とベース1とが周方向に相対回転しない様、両者は回り止めされている。
図3に示すように、揺動軸6の後面における周方向対角2か所に凹部64が形成されていて、この凹部64と台座部11の前面に形成されたピン状の凸部15が嵌合することで、揺動軸6とベース1が回り止めされていてもよい。なお、揺動軸6の後面における周方向対角2か所に雌ネジ部を設け、ベース1の後面から両者をねじ止めして、揺動軸6とベース1を回り止めしてもよい。揺動軸6は、ブッシュ7を介して、アーム2が軸Rを中心に回動可能なようにアーム2を支持している。
【0037】
図1に示すように、揺動軸6の中央部には、前後方向に延びる孔63が形成されており、この孔63に締結ボルト62が相対回転不能に挿入されている。この締結ボルト62は、エンジンブロックへオートテンショナ100を固定する締結用ボルトも兼ねる。
【0038】
(ブッシュ7)
図1に示すように、このブッシュ7は、略円筒形状の軸受部材である。より具体的には、ブッシュ7の前端にフランジ71が形成されていて、円筒部分72とフランジ71を有する。このフランジ71は、アーム2の前面と揺動軸6のフランジ61の後面とに挟まれて着座している。このブッシュ7は、揺動軸6の軸受機能(摩耗や摺動抵抗の安定化等)を有している。更に、コイルばね4が前後方向に圧縮された状態でばね収容室9に収容されているので、ブッシュ7は、アーム2及びプーリ3の揺動を減衰させるダンピング部としての機能も有している。ブッシュ7は、金属製軸受(所謂メタル軸受)が好ましいが、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂製軸受でもよい。
【0039】
(アーム2)
図1に示すように、アーム2は、揺動軸6を介してベース1に回動自在に偏心支持されており、アルミニウム合金鋳物等からなる金属部品で形成される。アーム2はベース1に偏心支持されていると共に、アーム2はプーリ3の外周面より内側に収まっている。このアーム2は、ベース1の一端側に、かつ、ブッシュ7の円筒部分72の外周に配置されるボス部21と、ボス部21からボス部21の径方向外向きに向けて延びる外縁部24と、ボス部21から後方に延びる内筒部22と、ボス部21の径方向外側に内筒部22と平行に離間されて形成された外筒部23と、を備えている。内筒部22と外筒部23とは、揺動軸6と同軸心状に設けられている。アーム2の内周側の、プーリ中心に対して偏心した位置に、アーム挿通孔25が存在している。このアーム挿通孔25に、ブッシュ7を介して揺動軸6が挿入されている。アーム2の外縁部24の後面であって、ばね収容室9と前後方向に対向する面は、前後方向に垂直な平坦面に形成されている。アーム2は、ベルト101の張力の増減に伴って、揺動軸6の軸Rを揺動中心として揺動する。
【0040】
図4、6に示すように、アーム2の外筒部23には、前方に延びる凹状のアーム保持溝23aが1か所形成されている。これは、コイルばね4の一端が径方向外向きに折り曲げられた部分である折り曲げ部分41を、嵌め込んで係止するための溝である。
【0041】
図5に示すように、このアーム2の外筒部23の内周面は、アーム2の下限側回動規制壁面27として機能する。コイルばね4の外周面にアーム2を接触させて、アーム2がコイルばね4にX方向に回動付勢される範囲の下限を規制できる。これにより、ベルト101の張力が過度に減少してコイルばね4が拡径変形しても、その拡径変形の残り代がゼロになることはない。したがって、オートテンショナ100の組み立て後のコイルばね4の両端部の係合状態をガタツキのない安定な状態に維持できる。また、オートテンショナ100のエンジンブロックへの組み付け作業及びベルトのプーリへの巻き掛け作業がしやすくなる。具体的には、コイルばね4の外周面とこれに対向する外筒部23の内周面との間隙の大きさを設定することにより、アーム2がコイルばね4にX方向に回動付勢される範囲の下限を、オートテンショナ100の組み立て時に適切な値に設定することができる。
【0042】
図5に示すように、このアーム2の内筒部22の外周面は、アーム2の上限側回動規制壁面26として機能する。ベルト101の張力が過度に増加すると、コイルばね4が過度に縮径変形してオートテンショナ100が故障する虞があるが、オートテンショナ100が故障しないように、クラッチ部材5の内周面にアーム2を接触させて、アーム2がコイルばね4の回動付勢力に抗してベース1に対してY方向に回動する範囲の上限を規制できる。具体的には、クラッチ部材5の内周面とこれに対向するアーム2の内筒部22の外周面との間隙の大きさを設定することにより、アーム2がコイルばね4の回動付勢力に抗してY方向に回動する範囲の上限を、オートテンショナ100の組み立て時に適切な値に設定することができる。
【0043】
(転がり軸受8とプーリ3)
図1に示すように、プーリ3は、アーム2のボス部21の外周側に取り付けられており、転がり軸受8を介してボス部21に回転自在に支持されている。プーリ3には、タイミングベルト101が巻き掛けられる。タイミングベルト101の張力の増減に伴って、プーリ3(およびアーム2)は、プーリ3の回転中心ではなく、軸Rを揺動中心として揺動する。
【0044】
(ばね収容室9)
図1に示すように、ばね収容室9は、ベース1とアーム2との間に形成される。具体的には、アーム2の内筒部22と、アーム2の外筒部23と、アーム2の外縁部24とベース1の円筒部12と、ベース1の台座部11と、に囲まれた空間に形成される。このばね収容室9に、コイルばね4とクラッチ部材5とが収容される。
【0045】
(コイルばね4)
つぎに、本実施形態のコイルばね4を説明する。このコイルばね4は、断面円形の金属線を螺旋状に左巻きに巻回して形成された、ねじりコイルばねである。コイルばね4は、アーム2をベース1に対して一方向に回動付勢する。なお、コイルばね4は、ベルト101を緩ませる方向にアーム2が回動したときに縮径変形するように設定されている。また、コイルばね4は、オートテンショナ100に外力が作用していない状態において、全長にわたって径が一定である。
【0046】
図2、3、4、6に示すように、コイルばね4の一端及び他端は、それぞれ径方向外向きに折り曲げられている。
図6に示すように、コイルばね4の一端の折り曲げ部分41は、アーム2のアーム保持溝23aに係止され、アーム当接面23bに押圧している。
図2、4、6に示すように、コイルばね4の他端の折り曲げ部分42はベース1のベース保持溝12aに係止され、ベース当接面12bに押圧している。コイルばね4の両端はアーム2及びベース1にしっかり固定されている。
【0047】
コイルばね4は、前後方向(揺動軸6の軸線の方向)に圧縮されて、ばね収容室9に収容されている。そのため、ベルト101の張力の増減に伴ってコイルばね4が拡径変形をしたり縮径変形をしたり繰り返す中で、コイルばね4は軸方向の自己弾性復元力によって、安定な姿勢を保つことができる。そして、コイルばね4の内周側に配置されていて、その外周面において接触しているクラッチ部材5にも安定な姿勢を保たせることができる。
【0048】
本実施形態のコイルばね4は、ばね用線材から形成される。コイルばね4は、例えば、ばね用オイルテンパー線(JISG3560に準拠)から形成される。コイルばね4を形成するばね用線材の断面寸法は、例えば直径が約2.5mmである。また、コイルばね4の有効巻き数(N)は、例えば4である。
【0049】
(クラッチ部材5)
図1、5に示すように、クラッチ部材5は、前後方向に延在する円筒形の板ばねであり、コイルばね4の内周側に配設される。
図3に示すように、クラッチ部材5は、スリット51を有しており、断面C字状である。スリット51は、クラッチ部材5の長さ方向に、クラッチ部材5の全長に亘って設けられており、スリット51の周方向の両端は、クラッチ部材の全長に亘って、自由端である。したがって、クラッチ部材5は、径方向の自己弾性復元力を有する締まりばねである。
【0050】
クラッチ部材5は、オートテンショナ100に外力が作用していない状態において、全長に亘って径が一定である。また、オートテンショナ100に外力が作用していない状態において、クラッチ面(外周面)の周方向に関する長さは、完全に閉じた外周面に略同じである。また、クラッチ部材5は、径方向にも長さ方向にも、厚さは略一定である。また、クラッチ部材5の内周面及び外周面は、平坦状である。
【0051】
図1、5に示すように、クラッチ部材5の前後方向の他端は、自由端であって、ベース1に固定されていない。加えて、ベース1との間に、隙間が確保されている。したがって、ベルト101の張力の増減に伴ってコイルばね4が拡径変形と縮径変形を繰り返す中で、ベース1と接触し発音することがない。また、クラッチ部材5とベース1の間に隙間がない場合と比べてクラッチ部材5の軸方向長さが短縮できる分、オートテンショナ100の製造コストを抑制することができる。なお、クラッチ部材5の他端面は、単に前後方向に垂直な平坦面である。
【0052】
図1、5に示すように、クラッチ部材5の前後方向の一端は、自由端であって、アーム2に固定されていない。加えて、アーム2との間に、隙間が確保されている。したがって、クラッチ部材5の前後方向の他端が自由端である場合で述べたような効果を有する。また、これに加えて、クラッチ部材5の一端面がアーム2の外縁部24の後面に接触してしまい、アーム2の回動が不用意に抑制されるのが防止される。
【0053】
クラッチ部材5の前後方向の長さ(面長)は、コイルばね4の長さ方向の長さと略等しい。クラッチ部材5の外周面は、コイルばね4の長さ方向及び周方向の略全体に亘り、自身の把持力を作用させて、内側から接触している。なお、接触面の摩耗防止のため、コイルばね4の内周面またはクラッチ部材5の外周面にグリース等の摩耗防止剤を介在させてもよい。また、含油性が向上するように、コイルばね4の内周面またはクラッチ部材5の外周面を微細な凹凸面としてもよい。
【0054】
本実施形態のクラッチ部材5は、薄板ばね鋼から形成される。クラッチ部材5は、例えば、厚さが約0.5mmの薄板ばね鋼(炭素工具鋼:SK-5)から形成される。スリット51の幅は、オートテンショナ100に外力が作用していない状態において、例えば、約1mmである。クラッチ面に作用する発生トルク比(TL/TS)(絶対値)は、例えば、実測で約3である。クラッチ面に作用する発生トルク比(TL/TS)(絶対値)については、後述する。
【0055】
(オートテンショナ100の作動)
以下に、オートテンショナ100の作動を説明する。伝動ベルト101の張力の増減に伴って、アーム2(およびプーリ3)は、揺動軸6の軸Rを揺動中心として揺動する。
【0056】
○伝動ベルト101の張力が増加しベルト101を緩ませる方向(Y方向)にアーム2が回動する場合
ベルト101から荷重を受けて、アーム2は、コイルばね4の周方向の回動付勢力に抗する方向に回動される。この場合は、アーム2の回動を大きく減衰させて、アーム2の回動を抑制させることが重要である。
【0057】
以下に詳細に説明する。
図7に示すように、伝動ベルト101の張力が増加すると、ベルト張力の合力であるベルト荷重F
Bがプーリ3の回転中心に作用する。このベルト荷重F
Bにより、プーリ3の回転中心から偏心された揺動軸6の軸R回りにトルクTが発生し、アーム2は、コイルばね4の周方向の回動付勢力に抗して、Y方向に回動する。なお、アーム2の回動トルクTは、T=F
B×eである。(ここで、eは、
図7に示すように、トルク半径:軸Rからベルト荷重F
Bの力線までの最短距離、である。)
図6に示すように、軸R回りに作用したトルクTにより、アーム当接面23bに力Faが伝達される。
【0058】
コイルばね4は、その一端の折り曲げ部分41でコイルばね4の周方向の回動付勢力に抗する力Faを受けて、Y方向にねじり変形させられて縮径変形する。その際、コイルばね4に対し把持力を有するクラッチ部材5に内周側から押さえつけられつつ、縮径変形する。これにより、アーム2の回動により縮径変形するとき、
図2、4、6に示すように、コイルばね4と、コイルばね4に対し把持力を有するクラッチ部材5との係合面には、摩擦トルクとしてロックトルク(TL)が発生する。ロックトルクの作用する向きは、アーム2の回動方向とは逆向きであるX方向である。伝動ベルト101の張力が増加した場合に、アーム2の回動トルクTに抗する減衰トルクの絶対値は、コイルばね4の周方向の回動付勢力による減衰トルクをTCとすると、(TCの絶対値+TLの絶対値)で表すことができる。したがって、アーム2の回動を顕著に減衰させる減衰力を発生させることができる。なお、アーム2の回動トルクTの絶対値が上記(TCの絶対値+TLの絶対値)と等しい釣り合い関係となるとき、その回動角度でアーム2の回動は停止する。
【0059】
○伝動ベルト101の張力が減少しベルト101を張る方向(X方向)にアーム2が回動する場合
コイルばね4の周方向の回動付勢力を受け、アーム2は、回動付勢方向に回動される。この場合はアーム2の回動を減衰させずに、ベルト101の張力を増加(回復)させる方向にアーム2を回動させて、ベルト張力の減少に対して十分に追従させることが重要である。
【0060】
以下に詳細に説明する。コイルばね4の周方向の回動付勢力を受け、アーム2は、回動付勢方向に回動される。伝動ベルト101の張力が減少した場合には、コイルばね4のねじり復元力が支配的となり、アーム2がX方向に回動する。すると、
図2、4、6に示すように、アーム2の回動により拡径変形するコイルばね4と、コイルばね4に対し把持力を有するクラッチ部材5との係合面には、摩擦トルクとしてスリップトルク(TS)が発生する。しかし、コイルばね4が拡径変形する際に発生するスリップトルクの絶対値は、係合面の相対的な摺動(スリップ)が大きい分、コイルばね4が縮径変形する際に発生する場合のロックトルクの絶対値よりも相対的に小さい。そのため、コイルばね4とクラッチ部材5との係合面には、アーム2がY方向に回動した場合に比べて小さい減衰トルクTS(絶対値)しか生じない。減衰トルクTS(絶対値)の作用する向きは、アーム2の回動方向とは逆向きのY方向である。したがって、伝動ベルト101の張力が減少した場合のアーム2の回動トルクTの絶対値は、(TCの絶対値-TSの絶対値)となる。以上より、アーム2はコイルばね4のねじり復元力を十分に受けることができ、アーム2の回動を減衰させずに、ベルト張力の減少に対して十分に追従させることができる。
【0061】
〇クラッチ部材のクラッチ効果について
クラッチ部材をオートテンショナの構造に適用した場合の、クラッチ効果とは、コイルばねをクラッチ面に接触させることによって、摩擦トルクをクラッチ面に発生させて、ベースに対するアームの回動を規制できる効果のことである。上記で述べたように、本実施形態では、クラッチ効果は、ベルト101の張力が増加してベルト101を緩ませる方向にアーム2が回動する際(アーム2が、コイルばね4の回動付勢方向と逆の方向に回動する際)に発揮される。
【0062】
このクラッチ効果は、クラッチ面に作用する発生トルク比(TL/TS)(絶対値)、即ち、スリップトルク(TS)の絶対値に対するロックトルク(TL)の絶対値の比率(TL/TS)を指標(代用特性)として捉えることができる。発生トルク比(TL/TS)が大きいほど、クラッチ効果が顕著であることを示す。例えば、スリット等のない単なる円筒形の板ばねをクラッチ部材として適用したオートテンショナにおける、発生トルク比は、発生トルク比(TL/TS)=e^(2×π×μ×N)となる。ここで、μ:摩擦係数、N:コイルばねの有効巻き数、である。
【0063】
本実施形態の場合、係合面の摩擦係数やコイルばね4の有効巻き数のみならず、クラッチ部材5の断面特性や材料の弾性係数等の設計事項にも依る。
【0064】
(作用効果)
本実施形態において、ベルト101の張力が増加し、アーム2が回動付勢方向とは逆方向、つまり、ベルト101を緩ませる方向にアーム2が回動したときに、コイルばね4は縮径する。その上で、コイルばね4の内周側にクラッチ部材5が配置されている。そのため、ベルト101を緩ませる方向にアーム2が回動したときに、縮径したコイルばね4とその内周側のクラッチ部材5とが強く接触してアーム2に大きな減衰トルクが作用する。つまり、コイルばね4に対するクラッチ部材5の配置が、前記特許文献1とは内外逆ではあるが、ベルト101を緩ませる方向にアーム2が回動したときに強い減衰が作用し、クラッチ効果が顕著の発揮される点は、前記特許文献1と同じである。
【0065】
また、コイルばね4の内周側にクラッチ部材5が配置されているため、コイルばね4の両端を径方向外向きに折り曲げるなどしてコイルばね4の端部を簡単に固定することが可能となる。したがって、特許文献1のような、コイルばね4の姿勢安定のための特別な工夫が必要なく、製造コストを抑えることができる。
【0066】
本実施形態において、クラッチ部材5は、スリット51を有する断面C字状であり、拡径方向の自己弾性復元力によりコイルばね4に対して内周側から接触している。クラッチ部材5がばね性を有し、常にコイルばね4の内周面に接触するため、アーム2に対して確実に減衰トルクを作用させることができる。
【0067】
本実施形態において、コイルばね4の一端および他端は、径方向外向きに折り曲げられており、それぞれの折り曲げ部分41、42が、ベース1に形成されたベース保持溝12aおよびアーム2に形成されたアーム保持溝23aにそれぞれ係止されている。コイルばね4の内周側にクラッチ部材5が配置された構成であるため、コイルばね4の両端を径方向外向きに折り曲げて、アーム2及びベース1に固定できる。つまり、簡単な端部処理を行うだけで、それ以外に特別な工夫を施すことなく、コイルばね4の姿勢を安定させることができる。
【0068】
本実施形態において、アーム2はベース1に偏心支持されていると共に、アーム2はプーリ3の外周面より内側に収まっているため、アーム2を大きく回動させない方がいいカムシャフト駆動ベルトシステムに、オートテンショナ100は好適である。
【0069】
(変形例)
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下の様に変更して実施することができる。
【0070】
(1) 上記実施形態において、クラッチ部材5は、スリット51を有しており、断面C字状の円筒であるが、これに限らない。クラッチ部材は、例えば、スリット等のない単なる円筒であってもよい。
【0071】
(2) 上記実施形態において、コイルばね4の線材は円形断面に形成されているが、これに限らない。コイルばねの線材は、例えば、略四角形断面に形成されていてもよい。
【0072】
(3) クラッチ部材の前後方向の長さ(面長)は、コイルばね4の前後方向の長さと略等しくなくてもよい。
【0073】
(4) クラッチ部材の外周面は、コイルばねの長さ方向及び周方向の略全体に亘って接触していなくてもよい。クラッチ部材の外周面は、周方向に関してコイルばねの略全体に亘り接触していればよく、長さ方向に関しては、コイルばねの内周面の略全体に亘り接触していなくてもよい。
【0074】
(5) 上記実施形態では、コイルばね4の両端は折り曲げられているが、コイルばねの両端は螺旋形状に沿った形態のままでもよい。
【0075】
(6) クラッチ部材は、前後方向の一端が自由端ではなく、アームに接触しているか、または前後方向の他端が自由端ではなく、ベースに接触していてもよい。例えば、前後方向の一端が自由端であり、前後方向の他端に爪部を突設させることで、前後方向の他端がベースに当接し、かつ回り止めされている構成としてもよい。
【0076】
(7) コイルばねは、前後方向に圧縮されていなくてもよい。
【0077】
(8) アームはベースに偏心していなくてもよい。また、アームはプーリの外周面より内側に収まっていなくてもよい。
【0078】
(9) 自動車用エンジンの補機を駆動する伝動ベルトの緩み側張力を一定に保つオートテンショナに適用してもよい。
【0079】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、
図1に示すように、揺動軸6に形成された孔63の中心軸と、揺動軸6の揺動中心になる軸Rとが一致するオートテンショナ100(なお、プーリ3の中心軸は、揺動軸6の揺動中心になる軸Rに対して偏心している)に本発明の構成を採用した一例について説明したが、これに限らない。例えば、
図8及び
図9に示すように、揺動軸206に形成された孔263の中心軸R2と、揺動軸206の揺動中心になる軸Rとが一致せずに、孔263の中心軸R2が、揺動軸206の揺動中心になる軸Rから偏心した位置(離れた位置)になるように、孔263が揺動軸206に形成された、オートテンショナ200に本発明の構成を採用してもよい。このオートテンショナ200によれば、
図9に示すように、揺動軸206を、エンジンブロック(図示せず)に固定する場合、孔263に挿入される締結ボルト262の中心軸R3(中心軸R2に一致)を、プーリ203の中心軸R4だけでなく、揺動軸206の揺動中心になる軸Rからも偏心した配置にすることができる。
【0080】
オートテンショナ200の構成について、
図8及び
図9を参照して簡単に説明する。なお、オートテンショナ100と同様の構成については説明を省略する。
【0081】
(揺動軸206)
揺動軸206は、
図8及び
図9に示すように、揺動中心になる軸R方向に延びるオートテンショナ200の支柱であり、揺動軸206の軸Rは、プーリ203の中心軸R4に対して偏心している。これにより、プーリ203およびアーム202は伝動ベルト101の張力の増減に伴って軸Rを揺動中心として揺動する。揺動軸206の他端側には揺動軸206と一体的にフランジ206Aが形成されている。また、揺動軸206の外周面は、軸R方向と平行に形成されている。
【0082】
揺動軸206には、
図8に示すように、軸Rに対して偏心した位置に軸R方向に延びる孔263が形成されている。
図8に示すように、この孔263に締結ボルト262を挿入し、揺動軸206をエンジンブロック(図示せず)に固定する。
図9に示すように、揺動軸206をエンジンブロックに固定した状態では、締結ボルト262の中心軸R3は軸Rに対して偏心している。
【0083】
(押さえ部材218)
押さえ部材218は、
図8及び
図9に示すように、揺動軸206の、エンジンブロックに固定される側と反対側である一端側に別個に配置され、揺動軸206の一端面に相対回転不能に接触している。なお、押さえ部材218は揺動軸206と一体的に形成されていてもよい。押さえ部材218は、一端側から見たとき略六角形に形成されていることが好ましい。これにより、スパナ等工具でこの略六角形の側面を把持し、エンジンブロックに仮止め状態にした締結ボルト262を中心に揺動軸206を回転させることができる。押さえ部材218の他端側の面は、軸Rと直交方向に沿う円環状の平坦面に形成されている。これにより、アーム202のボス部221の一端面と平行になり、ブッシュ207のフランジ271に広い面積で確実に接触する。押さえ部材218は、材質が炭素鋼(S45C)であり、ブッシュ207のフランジ271と摺動する他端側の面の耐摩耗性を高めるため、軟窒化処理による表面硬化処理を施している。
【0084】
(ベース201)
ベース201は、
図8に示すように、揺動軸206とは別箇の部材であり、揺動軸206の軸Rと同軸心状に設けられる。ベース201は、径方向に対向するベース内筒部201Aおよびベース外筒部201Bと、ベース内筒部201Aの他端側の縁及びベース外筒部201Bの他端側の縁に接続している環状の底部201Cとを有している。ベース内筒部201Aとベース外筒部201Bは、揺動軸206の軸Rと同軸心状に設けられている。ベース201の底部201Cは径方向と平行な平坦面に形成されている。ベース201の底部201Cと揺動軸206の他端側に形成されているフランジ206Aの一端側の面とが接触していて、ベース201は、揺動軸206がエンジンブロックに固定されるまでの間は、揺動軸206に対して相対回転可能に構成されている。
【0085】
ベース201は、
図8に示すように、締結ボルト262によって揺動軸206とともに相対回転不能にエンジンブロックに固定される。ただし、オートテンショナ200がエンジンブロックに固定される前までの間は、ベース201は揺動軸206に対して相対回転可能に構成され、エンジンブロックに対し周方向に関する位置が固定される(回り止め)ことが好ましい。これにより、オートテンショナ200をエンジンブロックに仮止めした状態で締結ボルト262を中心に揺動軸206を回転させ、適当な位置に揺動軸206を配置することができる。ベース201の材質は、例えば冷間圧延鋼板(SPCC)であってもよく、この場合、防錆のため、表面に亜鉛メッキ処理が施されていることが好ましい。
【0086】
ベース201に形成された回り止め部201Dは、略L字状であり、ベース外筒部201Bから径方向外方へ延出する延出部分201D1と、延出部分201D1の先端部から後方(
図9の奥行方向)へ略90°向きを変えつつ、さらに延出した係止部分201D2(
図9の奥行方向に延出)とを有している。オートテンショナ200がエンジンブロックに組み付けられる際に、回り止め部201Dの係止部分201D2が、エンジンブロックの一端面に形成された長穴状の凹溝(図示せず)に係合されて、ベース201をエンジンブロックに対して回り止めさせる。また、
図9に示すように、延出部分201D1の先端部には、円弧状に形成された切り欠きが設けられている
【0087】
また、アーム202には、
図9に示すように、径方向外方に延出し、先端が先細り形状に形成されたインジケータ部202Aが突設されている(このインジケータ部202Aの、軸Rからの長さである突出半径は、ベース201に突設された回り止め部201Dの、軸Rからの長さである突出半径と略等しいことが好ましい。アーム202のインジケータ部202Aおよびベース201の回り止め部201Dは、軸Rを中心とした周方向に関するアーム202とベース201との合い印の機能を有する。
【0088】
(オートテンショナ200の意義)
オートテンショナ200の各部品の寸法公差や部品間の距離の公差などのカムシャフト駆動ベルトシステムに不可避の寸法公差(例えば伝動ベルト長さのバラツキ)に起因して、エンジンブロックに対して同じ姿勢で組み付けても、装置によって伝動ベルトに与える初期張力にばらつきが出てしまう。そこで、その他の実施形態のオートテンショナ200は、エンジンブロックへの組み付け時に所定のベルト初期張力を伝動ベルトに付与できるように構成されている。
【0089】
具体的には、前述したように、プーリ203の回転中心である中心軸R4は揺動軸206の軸Rに対して偏心して配置され、締結ボルト262は、揺動軸206の軸Rに対し偏心して配置されている。オートテンショナ200は、所定のベルト荷重がプーリ203の中心軸R4に作用し、所定の初期張力が伝動ベルトに付与されて、正常に伝動ベルトが装着された状態になっているときに、アーム202のインジケータ部202Aの先端位置とベース201の回り止め部201Dの切り欠きの円弧中心位置とが一致(つまり、合い印が一致)するように構成されている。
【0090】
(オートテンショナ200のエンジンブロックへの組み付けおよび伝動ベルトの装着)
次に、オートテンショナ200をエンジンブロックへ組み付け、伝動ベルトを装着するまでの手順について説明する。
図9に示すように、X方向は、コイルばね204の周方向の付勢力が働く方向である。Y方向は、コイルばね204の周方向の付勢力に抗する方向である。
(1)締結ボルト262を揺動軸206に備わる孔263に通し、エンジンブロックの雌ネジ部に仮止めする。
(2)ベース201の回り止め部201Dの係止部分201D2をエンジンブロックの一端側の面に形成された凹溝に係合させる。
(3)上記仮止め状態で、スパナ等工具で押さえ部材218の側面(略六角形状)を把持して、締結ボルト262を中心に揺動軸206をX方向に回転させる。これにより、締結ボルト262の中心軸R3を中心にオートテンショナ200全体がX方向に回転するとともに、伝動ベルトに近づく方向に軸R(即ちプーリ203およびアーム202)の位置が移動する。
(4)プーリ203が伝動ベルトに当接すると、ベルト荷重がプーリ203の中心軸R4に作用する。
(5)さらに、締結ボルト262の中心軸R3を中心に揺動軸206をX方向に回転させると、このベルト荷重の増加により、プーリ203の中心軸R4から偏心された揺動軸206の軸R回りにトルクが発生し、アーム202は、コイルばね204の周方向の付勢力に抗して、Y方向に回動し始めるとともに、伝動ベルトの張力が増加し始める。
(6)所定のベルト荷重がプーリ203の中心軸R4に作用するまで、さらに締結ボルト262の中心軸R3を中心に揺動軸206をX方向に回転させることで、さらにアーム202およびプーリ203が軸Rを中心にY方向に回動し、伝動ベルトに所定の初期張力を付与できる。ここで、所定のベルト荷重がプーリ203の中心軸R4に作用し、所定の初期張力が伝動ベルトに付与されたことの確認は、アーム202のインジケータ部202Aとベース201の回り止め部201Dとからなる合い印が一致しているか否かを確認することにより行う。
(7)この合い印が一致した状態で、締結ボルト262を完全にエンジンブロックの雌ネジ部に締結し、揺動軸206等の固定部をエンジンブロックに固定する。
【0091】
(オートテンショナ100との相違する効果)
実施形態に係るオートテンショナ100のように、揺動軸6に形成された孔63の中心軸と、揺動軸6の揺動中心になる軸Rとが同軸上に配置されている場合は、上記仮止め状態で、締結ボルト62を中心に揺動軸6をX方向に回転させる動作(オートテンショナ200のエンジンブロックへの組み付けおよび伝動ベルトの装着の項目の手順(3))ができない。そのため、上記合い印が一致した状態で揺動軸6等の固定部をエンジンブロックに固定させても、オートテンショナ100の各部品の寸法公差や部品間の距離の公差などに起因して、カムシャフト駆動ベルトシステムによって伝動ベルトに与える初期張力にばらつきが出易い。
【0092】
一方、
図8、及び、
図9に示すオートテンショナ200のように、孔263に挿入される締結ボルト262の中心軸R3(中心軸R2に一致)を、プーリ203の中心軸R4だけでなく、揺動軸206の揺動中心になる軸Rからも偏心した位置にすることで、量産において、カムシャフト駆動ベルトシステムに不可避の寸法公差が存在していても、これら全ての寸法公差の影響をキャンセル(調整)して、常に一様に、所定のベルト荷重をプーリ203の中心軸R4に作用させて、所定の初期張力を伝動ベルトに付与させることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 ベース
2 アーム
3 プーリ
4 コイルばね
5 クラッチ部材
6 揺動軸
11 台座部
12 円筒部
12a ベース保持溝
21 ボス部
22 内筒部
23 外筒部
23a アーム保持溝
24 外縁部
26 上限側回動規制壁面
27 下限側回動規制壁面
41 コイルばね4の一端の折り曲げ部分
42 コイルばね4の他端の折り曲げ部分
100 オートテンショナ
101 伝動ベルト