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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】全固体リチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230908BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230908BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230908BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230908BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230908BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019060507
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020161364
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】満永 雅一
(72)【発明者】
【氏名】児島 映理
(72)【発明者】
【氏名】松本 修明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優太
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-035818(JP,A)
【文献】特開2017-062938(JP,A)
【文献】特開2015-097150(JP,A)
【文献】特開2014-165005(JP,A)
【文献】特開2005-183311(JP,A)
【文献】特開2016-212991(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M4/00-4/62
H01B1/00-1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極および負極が、固体電解質層を介して積層された電極積層体を有する全固体リチウム二次電池の製造方法であって、
固体電解質を溶媒に分散させ、固体電解質層形成用組成物を調製する工程と、
前記固体電解質層形成用組成物を塗布して乾燥し、前記固体電解質層を形成する工程とを有し、
前記固体電解質層形成用組成物を調製する工程において、前記溶媒中に下記一般式(1)で表される化合物を添加し、
前記固体電解質層の厚みを100μm以下とし、
前記正極合剤層と前記固体電解質層との界面における表面粗さRaを0.7μm以下とすることを特徴とする全固体リチウム二次電池の製造方法。
【化1】

〔前記一般式(1)中、RはHまたはヒドロキシル基を有していてもよいアルキル基を表し、Rは炭素数が10以上のアルキル基またはアルケニル基を表す。〕
【請求項2】
前記正極合剤層が、固体電解質を含有し、
正極活物質と固体電解質を溶媒に分散させ、正極合剤含有組成物を調製する工程と、
前記正極合剤含有組成物を塗布して乾燥し、前記正極合剤層を形成する工程とを有し、
前記正極合剤含有組成物を調製する工程において、前記溶媒中に前記一般式(1)で表される化合物を添加する請求項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記正極合剤含有組成物を調製する工程において、前記溶媒中に炭素材料およびバインダのうちの少なくとも一方を分散させる請求項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記負極が、負極活物質を含有する負極合剤層を有し、
負極活物質と固体電解質を溶媒に分散させ、負極合剤含有組成物を調製する工程と、
前記負極合剤含有組成物を塗布して乾燥し、前記負極合剤層を形成する工程とを有し、
前記負極合剤含有組成物を調製する工程において、前記溶媒中に前記一般式(1)で表される化合物を添加する請求項のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記負極合剤含有組成物を調製する工程において、当該組成物中に炭素材料およびバインダのうちの少なくとも一方を分散させる請求項に記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層形成用組成物を調製する工程における前記一般式(1)で表される化合物の添加量を、固体電解質100質量部に対して0.01質量部以上とする請求項のいずれかに記載の全固体リチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積エネルギー密度を高め得る全固体リチウム二次電池と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得る非水二次電池、特にリチウムイオン二次電池では、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)などのリチウム含有複合酸化物が用いられ、負極活物質に黒鉛などが用いられ、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、非水二次電池の適用機器の更なる発達に伴って、非水二次電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化した非水二次電池の信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年の非水二次電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層非水二次電池の信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型の二次電池も検討されている(特許文献1、2など)。全固体型の二次電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の層(固体電解質層)を使用し、この固体電解質層を正極と負極との間に介在させて、正極-負極間でのLi(リチウムイオン)の移動を可能としつつ、正極-負極間の直接の接触による短絡の発生を防止する。このような構成の全固体二次電池は、固体電解質層を構成する固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い信頼性を備えている。
【0007】
なお、全固体二次電池においては、体積エネルギー密度向上の要請から、容量の向上に寄与しない固体電解質層の厚みを可及的に小さくすることが好ましい。ところが、固体電解質層は表面の凹凸が比較的大きいため、これを薄くしすぎると正極-負極間の接触による短絡が生じやすくなることから、その薄肉化には制限がある。
【0008】
全固体二次電池における固体電解質層は、固体電解質を有機溶媒に分散させたスラリーなどの組成物を調製し、これを基材上に塗布する工程などを経て形成することが一般的であるが、前記組成物において固体電解質の凝集が生じやすく、これが固体電解質層の表面の凹凸が大きくなる要因であると考えられる。
【0009】
一方、特許文献3には、固体電解質層形成用の前記組成物に分散剤を添加して、固体電解質の凝集を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-40531号公報
【文献】特開2017-168387号公報
【文献】特開2016-212991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3に記載の技術によっても、固体電解質層を薄くできる程度に固体電解質の凝集を抑制することは容易ではない。
【0012】
本発明は、前記上に鑑みてなされたものであり、その目的は、体積エネルギー密度を高め得る全固体リチウム二次電池と、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の全固体リチウム二次電池は、正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極および負極が、固体電解質層を介して積層された電極積層体を有し、前記正極合剤層と前記固体電解質層との界面における表面粗さRaが、1.0μm以下であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法は、正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極および負極が、固体電解質層を介して積層された電極積層体を有する電池の製造方法であって、固体電解質を溶媒に分散させ、固体電解質層形成用組成物を調製する工程と、前記固体電解質層形成用組成物を塗布して乾燥し、前記固体電解質層を形成する工程を有し、前記固体電解質層形成用組成物を調製する工程において、前記溶媒中に下記一般式(1)で表される化合物を添加することを特徴とする。
【0015】
【化1】
【0016】
前記一般式(1)中、RはHまたはヒドロキシル基を有していてもよいアルキル基を表し、Rは炭素数が10以上のアルキル基またはアルケニル基を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、体積エネルギー密度を高め得る全固体リチウム二次電池と、その製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の全固体リチウム二次電池の一例の断面を模式的に表す図面である。
図2】実施例1で用いた電極積層体の固体電解質層と正極合剤層との界面を、各層の積層方向に垂直な方向にトレースした曲線である。
図3】比較例1で用いた電極積層体の固体電解質層と正極合剤層との界面を、各層の積層方向に垂直な方向にトレースした曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の全固体リチウム二次電池は、正極活物質を含有する正極合剤層を有する正極および負極が、固体電解質層を介して積層された電極積層体を有しており、正極合剤層と固体電解質層との界面における表面粗さRaが、1.0μm以下である。
【0020】
前記の通り、固体電解質を含有する固体電解質層は電極との界面の凹凸が比較的大きく、このような表面性状が、固体電解質層を薄くした際の全固体リチウム二次電池の短絡の発生原因となる。しかし、正極側の界面の表面粗さRaが前記の値を満たす固体電解質層であれば、その正極側の表面および負極側の表面における凹部の箇所で正極-負極間距離が極端に短くなって正極と負極との接触が生じる現象の発生を抑制することができることから、例えば、厚みを100μm以下としても、短絡が生じ難く高い信頼性を有する全固体リチウム二次電池を形成することができる。よって、全固体リチウム二次電池において、充放電容量の向上に関与しない固体電解質層を薄くすることが可能であり、その体積エネルギー密度を高めることができる。固体電解質層の正極側の界面の表面粗さRaは、0.7μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましい。
【0021】
また、固体電解質層の界面の表面粗さRaの下限値については、特に制限はないが、通常は、0.1μm程度である。
【0022】
本明細書でいう固体電解質層の正極側の界面の表面粗さRaは、以下の方法によって求められる値である。本発明の全固体リチウム二次電池に係る電極積層体の断面を切り出し、その断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率:500倍で観察して写真を撮影する。その断面写真から、正極、固体電解質層および負極の積層方向に垂直な方向(正極、固体電解質層および負極の各積層面に平行な方向)の長さ:100μmの任意の領域を選択し、この領域における、固体電解質層と正極(正極合剤層)との界面をトレースして粗さ曲線を求める。そして、前記積層面に平行な方向に引いた直線を基準として、前記粗さ曲線から、固体電解質層の表面粗さ(算術平均粗さ)Raを算出する。
【0023】
正極合剤層と固体電解質層との界面における表面粗さRaを、1.0μm以下とするためには、固体電解質を均一に分散させ、均質な固体電解質層を形成する必要がある。
【0024】
前記の通り、固体電解質層は、通常、固体電解質および有機溶媒を含む組成物を塗布する工程を経て形成されるが、前記一般式(1)で表される化合物を前記組成物に添加すると、固体電解質の凝集を防ぐ分散剤として作用するため、組成物中での固体電解質粒子の分散性が向上し、厚みが薄くなっても均質な固体電解質層を形成することが可能となる。これにより、正極合剤層または負極合剤層と、固体電解質層との界面における表面粗さRaを小さくすることができる。特に、正極合剤層には数μm程度の微小な活物質が用いられることが多いため、正極合剤層との界面における表面粗さRaをより小さな値としやすく、例えば、固体電解質層の厚みが100μm以下と薄くしても、Raを1.0μm以下とすることができる。これにより、短絡が生じ難く高い信頼性を有する全固体リチウム二次電池を形成することができる。よって、全固体リチウム二次電池において、充放電容量の向上に関与しない固体電解質層を薄くすることが可能であり、その体積エネルギー密度を高めることができる。
【0025】
固体電解質層の表面粗さRaの下限値については、特に制限はないが、通常は、0.1μm程度である。
【0026】
以下に、本発明の全固体リチウム二次電池の各構成要素の詳細について説明する。
【0027】
<固体電解質層>
固体電解質層を構成する固体電解質には、水素化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用でき、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
水素化物系固体電解質の具体例としては、LiBH、LIBHと下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbiF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
硫化物系固体電解質の具体例としては、LiS-P、LiS-P、LiS-P-P、LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiPS-LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4-xGe1-x、Li11などが挙げられる。
【0030】
酸化物系固体電解質の具体例としては、LiLaZr12、LiTi(PO、LiGe(PO、LiLaTiOなどが挙げられる。
【0031】
固体電解質層は、固体電解質を溶媒に分散させ、前記一般式(1)で表される化合物を添加して調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行うことで形成することができる。
【0032】
前記化合物を表す前記一般式(1)において、Rは、Hまたはヒドロキシル基を有していてもよいアルキル基であるが、アルキル基の場合、その炭素数は1~22であることが好ましい。また、前記アルキル基は、ヒドロキシル基を含有していてもよく、含有していなくてもよいが、含有していることが好ましい。更に、前記アルキル基がヒドロキシル基を含有している場合、その個数については特に制限はないが、通常は1つであり、アルキル基を構成する末端の炭素(アルキル基が結合しているNとは反対側の末端の炭素)が1つのヒドロキシル基を有していることが好ましい。
【0033】
前記化合物を表す前記一般式(1)において、Rは炭素数が10以上のアルキル基またはアルケニル基であるが、その炭素数は、22以下であることが好ましい。Rがアルケニル基の場合、アルケニル基中の二重結合の位置については特に制限はなく、また、アルケニル基が有する二重結合の数については特に制限はないが、通常は1または2つである。
【0034】
前記一般式(1)で表される化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、前記一般式(1)で表される化合物としては市販品が使用可能であるが、入手可能な市販品は、前記一般式(1)を満たす複数種の化合物を含有している場合がある。
【0035】
前記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリン〔ビックケミー社製「DISPERBYK-109(商品名)」〕などが挙げられる。
【0036】
前記一般式(1)で表される化合物の、固体電解質層における添加量は、その使用による効果を良好に確保する観点から、固体電解質100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましい。ただし、前記一般式(1)で表される化合物の固体電解質層中の添加量が多すぎると、効果が飽和するだけでなく、正極-負極間のLiイオンの移動に関与しない成分の量が多くなることになって、電池の放電特性低下を引き起こす虞がある。よって、前記一般式(1)で表される化合物の、固体電解質層における添加量は、固体電解質100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。なお、固体電解質形成用組成物に添加した前記一般式(1)で表される化合物は、これによって形成される固体電解質中にその殆どが含有されるため、固体電解質層形成用組成物の調製の際には、前記一般式(1)で表される化合物の固体電解質100質量部に対する添加量が、形成後の固体電解質層における前記好適添加量を満たすようにすればよい。
【0037】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒には、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0038】
固体電解質層の厚みは、特に限定はされないが、全固体リチウム二次電池の体積エネルギー密度をより高めるためには薄いほど好ましく、100μm以下とすることが好ましく、50μm以下とすることがより好ましく、30μm以下とすることが特に好ましく、製造上問題を生じない範囲で、通常、5μm程度まで薄くすることができる。
【0039】
<正極>
正極は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。
【0040】
正極活物質としては、LiMMn2-x(ただし、Mは、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LiMn(1-y-x)Ni(2-k)(ただし、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0<y<0.5、0≦z≦0.5、k+l<1、-0.1≦k≦0.2、0≦l≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1-x(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1-x(ただし、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM1-xPO(ただし、Mは、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物、LiTi12で表されるリチウムチタン複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
正極活物質の粒子径は、小さい方が正極合剤層と固体電解質層との界面における表面粗さRaを小さい値としやすくなることから、平均粒子径として、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。
【0042】
正極には、前記例示の正極活物質、更には必要に応じて添加される固体電解質、導電助剤やバインダを含有する正極合剤層を、集電体の片面または両面に形成した構造のものを使用することができる。
【0043】
正極の固体電解質には、固体電解質層に使用し得るものとして先に例示した各種固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0044】
正極のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが使用できる。また、正極の導電助剤としては、例えば、カーボンブラックなどの炭素材料などが使用できる。
【0045】
正極の集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタルなどを用いることができる。
【0046】
正極を製造するに際しては、例えば、正極活物質、更には必要に応じて添加される固体電解質、導電助剤、バインダなどをキシレンなどの溶媒に分散させた正極合剤含有組成物(ペースト、スラリーなど)を、集電体に塗布し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をして、集電体の表面に正極合剤層を形成する方法が採用できる。
【0047】
また、正極集電体にパンチングメタルなどの導電性多孔質基材を使用する場合には、例えば、前記の正極合剤含有組成物を、導電性多孔質基材の空孔内に充填し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をする方法で、正極を製造することができる。このような方法で製造した正極であれば、大きな強度が確保できるため、より大面積の固体電解質層を保持することが可能となる。
【0048】
正極合剤含有組成物に使用する溶媒は、固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒と同様に、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質層形成用組成物用の溶媒として先に例示した各種溶媒を使用することが好ましく、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することが特に好ましい。
【0049】
また、正極合剤含有組成物に固体電解質を含有させる場合には、前記一般式(1)で表される化合物を添加して、組成物の分散性を向上させることが好ましい。
【0050】
前記一般式(1)で表される化合物は、固体電解質層形成用組成物の場合と同様に、正極合剤含有組成物において固体電解質の分散剤として作用する。よって、前記一般式(1)で表される化合物を添加した正極合剤含有組成物によって形成される正極合剤層においては、固体電解質がより平均的に分布するようになる。なお、一般に固体電解質の分散剤として機能する材料の中には、導電助剤である炭素材料の凝集を引き起こすものも多く、炭素材料を含有する正極合剤含有組成物に添加すると、却って電池の放電特性の低下を引き起こす場合が多い。しかしながら、前記一般式(1)で表される化合物を正極合剤含有組成物に用いた場合には、導電助剤である炭素材料の凝集が抑制される。よって、前記一般式(1)で表される化合物を添加した正極合剤含有組成物を用いて形成した正極合剤層を有する正極を使用することで、全固体リチウム二次電池の放電特性の向上が期待できる。
【0051】
更に、前記の正極合剤含有組成物ではなく、正極活物質および固体電解質、更には必要に応じて添加される導電助剤およびバインダなどを含有し、溶媒を含有しない正極合剤を、導電性多孔質基材の空孔内に乾式で充填し、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をする方法で、正極を製造してもよい。
【0052】
また、電池の外装体の形態によっては、正極集電体を使用することなく、正極活物質および固体電解質、更には必要に応じて添加される導電助剤およびバインダなどを含有する正極合剤をペレット状に加圧成形した成形体(正極合剤成形体)を正極とすることもできる。
【0053】
正極合剤の組成としては、例えば、正極活物質の含有量が50~90質量%であることが好ましく、固体電解質の含有量が10~50質量%であることが好ましく、バインダの含有量が0.1~10質量%であることが好ましい。また、正極合剤に導電助剤を含有させる場合、その含有量は0.1~10質量%であることが好ましい。
【0054】
正極合剤含有組成物に前記一般式(1)で表される化合物を添加する場合には、その添加量は、固体電解質と正極活物質と導電助剤との総量100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。
【0055】
集電体の表面に正極合剤層を形成する場合には、その厚み(集電体の両面に正極合剤層を形成する場合には、片面あたりの厚み)は、30~300μmであることが好ましい。また、正極合剤成形体により構成される正極の厚みは、0.15~4mmであることが好ましい。
【0056】
<負極>
負極は、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている負極、すなわち、Liイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する負極であれば特に制限はない。
【0057】
負極活物質としては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などのリチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素を含む単体、化合物およびその合金;リチウム含有窒化物またはリチウム含有酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物;リチウム金属;リチウム/アルミニウム合金;も、負極活物質として用いることができる。
【0058】
負極には、負極活物質、更には必要に応じて添加される固体電解質、および固体電解質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げたもの、または前記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に負極剤層として積層したものなどを用いることができる。
【0059】
負極の固体電解質には、固体電解質層に使用し得るものとして先に例示した各種固体電解質のうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0060】
負極に集電体を用いる場合、その集電体としては、銅製、ニッケルやステンレス鋼製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタルなどを用いることができる。
【0061】
負極合剤層を有する負極を製造するに際しては、例えば、負極活物質、更には必要に応じて添加される固体電解質、バインダや導電助剤などをキシレンなどの溶媒に分散させた負極合剤含有組成物(ペースト、スラリーなど)を、集電体に塗布し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をする方法が採用できる。
【0062】
また、負極集電体にパンチングメタルなどの導電性多孔質基材を使用する場合には、例えば、前記の負極合剤含有組成物を、導電性多孔質基材の空孔内に充填し、乾燥した後、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をする方法で、負極を製造することができる。このような方法で製造した負極であれば、大きな強度が確保できるため、より大面積の固体電解質層を保持することが可能となる。
【0063】
負極合剤含有組成物に使用する溶媒も、固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒と同様に、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、固体電解質層形成用組成物用の溶媒として先に例示した各種溶媒を使用することが好ましく、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することが特に好ましい。
【0064】
また、負極合剤含有組成物に固体電解質を含有させる場合には、前記一般式(1)で表される化合物を添加して、組成物の分散性を向上させることが好ましい。
【0065】
前記一般式(1)で表される化合物は、負極合剤含有組成物においても固体電解質の分散剤として作用する。よって、前記一般式(1)で表される化合物を添加した負極合剤含有組成物によって形成される負極合剤層においては、固体電解質がより平均的に分布するようになる。なお、負極活物質や導電助剤として炭素材料などの無機材料を使用している場合にも、前記正極合剤含有組成物の場合と同様に、前記一般式(1)で表される化合物であれば、これらの凝集が抑制される。よって、前記一般式(1)で表される化合物を添加した負極合剤含有組成物を用いて形成した負極合剤層を有する負極を使用することによっても、全固体リチウム二次電池の放電特性の向上が期待できる。
【0066】
また、前記の負極合剤含有組成物ではなく、負極活物質および固体電解質、更には必要に応じて添加されるバインダおよび導電助剤などを含有し、溶媒を含有しない負極合剤を、導電性多孔質基材の空孔内に乾式で充填し、必要に応じてカレンダ処理などの加圧成形をする方法で、負極を製造してもよい。
【0067】
更に、電池の外装体の形態によっては、負極集電体を使用することなく、負極活物質および固体電解質、更には必要に応じて添加されるバインダや導電助剤などを含有する負極合剤をペレット状に加圧成形した成形体(負極合剤成形体)を負極とすることもできる。
【0068】
負極活物質および固体電解質を含有する負極合剤を有する負極(負極合剤層を有する負極または負極合剤成形体からなる負極)の場合、負極合剤の組成としては、例えば、負極活物質の含有量が40~90質量%であることが好ましく、固体電解質の含有量が10~60質量%であることが好ましく、バインダの含有量が0.1~10質量%であることが好ましい。また、負極合剤に導電助剤を含有させる場合には、その含有量は0.1~10質量%であることが好ましい。
【0069】
負極合剤含有組成物に前記一般式(1)で表される化合物を添加する場合には、その添加量は、固体電解質と負極活物質と導電助剤との総量100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。
【0070】
集電体の表面に負極合剤層を形成する場合には、その厚み(集電体の両面に負極合剤層を形成する場合には、片面あたりの厚み)は、30~300μmであることが好ましい。また、負極合剤成形体により構成される負極の厚みは、0.15~4mmであることが好ましい。
【0071】
<電極積層体および外装体>
全固体リチウム二次電池は、正極と負極との間に固体電解質層を介在させて電極積層体とし、これを外装体内に封入して形成する。
【0072】
電極積層体は、別個に製造した正極と固体電解質層と負極とを重ねて製造してもよく、正極または負極の上に直接固体電解質層を形成したり、正極(または負極)の上に固体電解質層を形成し、その上に負極(または正極)を形成したりして製造してもよい。また、電極積層体を構成する正極や負極の枚数は、各1枚に限定されず、それぞれが複数枚であってもよく、この場合、各正極-負極間に固体電解質層を介在させればよい。正極、固体電解質層および負極を積層した後には、通常、プレス処理を施して、電極積層体とする。
【0073】
図1に、本発明の全固体リチウム二次電池の一例の断面を模式的に表す図面を示す。図1に示す全固体リチウム二次電池1では、正極10と負極20とを固体電解質層30を介在させつつ積層して構成した積層電極体が、外装缶40と、封口缶50と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット60とで形成された外装体(コイン形やボタン形などと称される扁平形の外装体)内に封入されている。図1に示す全固体リチウム二次電池1においては、封口缶50は、外装缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、外装缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が封口缶50に当接することで、外装缶40の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。そして、負極20の図中上面が負極端子を兼ねる封口缶50の内面と接触することで電気的に接続し、正極10の図中下面が正極端子を兼ねる外装缶40の内面と接触することで電気的に接続している。なお、図1においては、正極10や負極20の各層を区別して示していない。
【0074】
外装缶および封口缶で構成される外装体の場合、その形状は、平面視で多角形(三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形)であってもよく、平面視で円形や楕円形であってもよい。
【0075】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0076】
また、全固体リチウム二次電池の外装体には、樹脂フィルムや、樹脂フィルムと金属フィルム(アルミニウム箔など)とを積層した金属ラミネートフィルムなどで構成されたシート状外装体を使用することもできる。
【0077】
本発明の全固体リチウム二次電池は、従来から知られている二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0079】
実施例1
<正極>
溶媒としてキシレン(「超脱水」グレード)を用い、表面にLiとNbとの非晶質複合酸化物が形成された平均粒子径3μmのLiNi0.6Co0.2Mn0.2(正極活物質)と、硫化物固体電解質(LiPSCl)と、導電助剤であるカーボンナノチューブ(昭和電工社製「VGCF」(商品名)〕と、アクリル樹脂バインダとを、質量比で66:30:3:1の割合とし、固形分比が50%となるように前記溶媒と混合し、更に、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンを、硫化物固体電解質と正極活物質と導電助剤との総量:100質量部に対して0.3質量部の割合で添加し、シンキーミキサーで10分間撹拌して均一なスラリーを調製した。このスラリーを、厚みが20μmのAl箔上にアプリケータを用いてギャップを200μmとして塗布し、120℃で真空乾燥を行って正極を得た。
【0080】
<負極>
溶媒としてキシレン(「超脱水」グレード)を用い、平均粒子径20μmの黒鉛と、硫化物固体電解質(LiPSCl)と、アクリル樹脂バインダとを、質量比で50:47:3の割合とし、固形分比が50%となるように前記溶媒と混合し、更に、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンを、硫化物固体電解質と負極活物質と導電助剤との総量:100質量部に対して0.3質量部の割合で添加し、シンキーミキサーで10分間撹拌して均一なスラリーを調製した。このスラリーを、厚みが20μmのSUS箔上にアプリケータを用いてギャップを200μmとして塗布し、120℃で真空乾燥を行って負極を得た。
【0081】
<固体電解質層>
溶媒としてキシレン(「超脱水」グレード)を用い、平均粒子径1μmの硫化物系固体電解質(LiPSCl)と、アクリル樹脂バインダとを、質量比で98:2の割合とし、かつ固形分比が40%となるように前記溶媒と混合し、更に、1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンを、硫化物固体電解質:100質量部に対して0.3質量部の割合で添加し、シンキーミキサーで10分間攪拌して均一なスラリーを調製した。このスラリーを、厚みが20μmのSUS箔上にアプリケータを用いてギャップを200μmとして塗布し、120℃で真空乾燥を行った。得られた固体電解質シートを10mmφの大きさに打ち抜き、3.5トン/cmで加圧することでSUS箔を分離して、厚みが40μmの固体電解質層を得た。
【0082】
<電極積層体の組み立て>
得られた正極および負極シートを、いずれも10mmφの大きさに打抜き、SUSの上下ピンの間に正極-固体電解質層-負極の順に重ね、SUSの筒に入れて10トン/cmで加圧することにより、電極積層体を得た。
【0083】
<電池の組み立て>
ステンレス鋼製の封口缶の内底面上にSUS製メッシュを集電体として配置し、前記集電体上に負極が前記集電体側となるようにして前記電極積層体を重ね、更に、SUS製メッシュを前記積層体の正極の上に配置した後、ステンレス鋼製の外装缶をかぶせて封止を行うことにより、電極積層体の上面および下面に接するようにSUS製メッシュを配置した以外は図1と同様の構造のコイン形全固体リチウム二次電池を作製した。
【0084】
比較例1
1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして作製した正極、負極および固体電解質層を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形全固体リチウム二次電池を作製した。
【0085】
比較例2
1-ヒドロキシエチル-2-アルケニルイミダゾリンに代えて水酸基含有カルボン酸エステル系分散剤を添加した以外は実施例1と同様にして作製した正極、負極および固体電解質層を用いた以外は、実施例1と同様にしてコイン形全固体リチウム二次電池を作製した。
【0086】
実施例1、比較例1および2の電池の組み立てに用いた電極積層体について、固体電解質層と正極合剤層との界面の表面粗さRaを、前述の方法により測定した。
【0087】
その結果を表1に示す。併せて、実施例1および比較例1で用いた電極積層体の固体電解質層と正極合剤層との界面を、各層の積層方向に垂直な方向に100μmの長さにわたりトレースした曲線を図2および図3に示す。
【表1】
【0088】
実施例1、比較例1および2の電池について、それぞれ10個ずつを以下の条件で充放電させて放電容量を測定した。
【0089】
各電池について、0.1Cの電流値で電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、続いて4.2Vの電圧で電流値が0.05Cになるまで定電圧充電を行った後、0.1Cの電流値で定電流放電させて、電池電圧が2.7Vに低下するまでの放電容量を測定し、10個の電池の平均値を求めた。実施例1の電池の放電容量の平均値を100として表した結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
実施例1の電池は、固体電解質の分散が良好であり、固体電解質層を薄く形成しても、均質な固体電解質層を形成することができるので、正極合剤層と固体電解質層との界面における表面粗さRaを小さくすることができ、電池の特性にばらつきが少なく、放電容量の大きな電池を構成することができた。
【0092】
一方、比較例1および2の電池では、固体電解質が均一に分散しておらず、正極合剤層と固体電解質層との界面における表面粗さRaが大きくなったため、電池の特性にばらつきが生じ、放電容量が低下する結果となった。
【符号の説明】
【0093】
1 全固体リチウム二次電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 外装缶
50 封口缶
60 ガスケット
図1
図2
図3