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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】ベーカリー食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/02 20060101AFI20230908BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20230908BHJP
【FI】
A21D13/02
A21D13/80
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019067029
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020162493
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000227489
【氏名又は名称】日東富士製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優
(72)【発明者】
【氏名】高柳 雅義
(72)【発明者】
【氏名】大島 秀男
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033690(JP,A)
【文献】特開昭60-118138(JP,A)
【文献】ホームメイド・クロワッサン,クックパッド,2008年12月06日,レシピID:693662,[検索日:2023年1月25日],インターネット<URL:https://cookpad.com/recipe/693662>
【文献】藤本 章人,身近で活躍する有用微生物II 食品と有用微生物-西洋の食文化と微生物4 パンと微生物,モダンメディア,2017年,第63巻、第8号,p.186-192
【文献】川原 修司,表面研削による北海道産麺用小麦の高品質全粒粉を活用したパン製造技術,日本食品科学工学会誌,2013年,Vol.60,No.6,p.266-269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦全粒粉を用いてイースト発酵を行うベーカリー食品の製造方法であって、前記小麦全粒粉として石臼挽きされたものであって、マルトース価が220~320であるものを用い、前記小麦全粒粉を70質量%以上含む穀粉及び/又は澱粉原料と、発酵種とを含有する原料を用いて生地を作成し、生地作成から12時間以上経た後に焼成することを特徴とするベーカリー食品の製造方法。
【請求項2】
前記発酵種のpHは3.6~4.2である、請求項に記載のベーカリー食品の製造方法。
【請求項3】
前記生地の作成に際し、前記穀粉及び/又は澱粉原料100質量部に対して、油脂を5~60質量部添加する、請求項1又は2に記載されたベーカリー食品の製造方法。
【請求項4】
前記生地の作成に際し、前記生地を折り込む際に前記油脂を添加するか、又は前記油脂としてパイチップ油脂を用いて、前記生地に前記パイチップ油脂を練り込む、請求項記載のベーカリー食品の製造方法。
【請求項5】
前記穀粉及び/又は澱粉原料として、前記小麦全粒粉だけを用いる、請求項1~のいずれか1項に記載されたベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦全粒粉を用いてイースト発酵を行うベーカリー食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なパンの主原料である小麦粉は、小麦より外皮(ふすま)と、胚芽とを除去した後、胚乳部分を粉砕して製造される。小麦粉の外皮(ふすま)や胚芽などの残渣(ふすま成分)は、小麦の胚乳部分に比べて、食物繊維、ミネラル、ビタミン等を豊富に含んでいる。よって、ふすま成分や、小麦の外皮、胚乳、胚芽の全てを粉砕して得られる全粒粉を、小麦粉の代わりに使用することにより、パンなどのべーカリー製品の栄養価を高めることが可能であり、主食となるパンなどのべーカリー製品において、小麦粉の代わりに全粒粉を使用した製品の需要は高い。
【0003】
しかし全粒粉を使用したべーカリー製品、特にパンを製造するにあたっては、全粒粉の配合量が多く小麦粉の配合量が少ないほど、小麦蛋白に由来するグルテンの形成が抑えられるので、生地の成す骨格形成が不良となり、生地を焼成等したあとの製品にボリュームが出ないという問題があった。また、生地の取り扱い性に劣るという問題もあった。更に製造されたベーカリー食品の食感も、ボソボソとしたものになってしまい、ソフトな食感が得にくいという問題があった。実際にこれまで、全粒粉が100%で小麦粉を添加しない生地でパンを製造することは実際的でないと考えられていた。
【0004】
特許文献1(特開2018-148816号公報)には、(A)穀粉、水、および酵母を含む混合物を混捏し、得られた生地を醗酵させる工程;及び(B)前記工程(A)で得られた前記生地の表面に粉末油脂を塗布し、その塗布面を包み込むように生地を折り畳んだ後、更に醗酵させる、少なくとも1回の工程を含むパン生地の製造方法が記載されている。また、パンとしては、小麦全粒粉パンであってもよいことが記載されている。
【0005】
更に特許文献2(特許5695340号公報)には、(1)小麦粉以外の穀粉又は穀粒、及び小麦粉からなる混合粉100重量部であって、穀粉又は穀粒:小麦粉の重量比が20:80~70:30;パン用酵母0.04~1.00重量部;及び水100~140重量部;の混合物を発酵させ、(2)得られた発酵物に対し、小麦粉、及び混合適量の水をさらに加えて混合し、発酵させる焼成後冷凍パン類用発酵種の製造方法であって、穀粉又は穀粒は、ライ麦粉及び/又はライ麦粒、小麦全粒粉、小麦ふすま及び米ぬかから選択されるいずれかである方法が記載されている。また、得られたサワー種は、5℃以下で、18~72時間、保存することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-148816号公報
【文献】特許5695340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、全粒粉を使用したべーカリー製品、特にパンにおいては、小麦蛋白に由来するグルテンの形成が抑えられるので、生地の成す骨格形成が不良となり、生地を焼成等した後の製品にボリュームが出ないという問題や、生地の取り扱い性に劣るという問題や、食感がボソボソとしたものになってしまい、ソフトな食感が得にくいという問題があった。
【0008】
特許文献1には、全粒粉を用いたパンの実施例は記載されておらず、全粒粉を用いた場合に上記課題を解決できるかどうかは不明である。
【0009】
特許文献2では、サワー種の原料として全粒粉を用いることが記載されているが、サワー種以外の原料としては、小麦粉が用いられており、全粒粉を主体に用いたベーカリー製品において、上記課題を解決できるかどうかは不明である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、小麦全粒粉を用いてイースト発酵を行うベーカリー食品の製造方法において、焼成後のボリュームや食感を良好にすると共に、生地の取り扱い性を良好にできるようにしたベーカリー食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のベーカリー食品の製造方法は、小麦全粒粉を用いてイースト発酵を行うベーカリー食品の製造方法であって、前記小麦全粒粉として石臼挽きされたものを用い、前記小麦全粒粉を70質量%以上含む穀粉及び/又は澱粉原料と、発酵種とを含有する原料を用いて生地を作成し、生地作成から12時間以上経た後に焼成することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、小麦全粒粉として石臼挽きされたものを用いると共に、発酵種を用いて、生地作成から12時間以上経た後に焼成することによって、生地のつながりが促進されつつ、生地の伸展性が良くなるので、作業性が良好となる。また、生地に負担がかからないので、ボリュームが向上し、ボリュームが向上するので、火抜けが良く、香ばしい香りと生地の熟成の香りのバランスが良好となり、食感も軽くなる。更に、全粒粉の場合、どうしても雑味が出やすくなるが、発酵種を加えることで、風味が向上し、味も美味しくなる。
【0013】
本発明において、前記小麦全粒粉は、マルトース価が220~320であることが好ましい。これによれば、生地のハンドリングや、ボリュームや、食感や、味が更に良好になる。
【0014】
また、前記発酵種のpHは3.6~4.2であることが好ましい。これによれば、生地のハンドリングが良好になり、風味が特に良好となる。
【0015】
更に、前記生地の作成に際し、前記穀粉及び/又は澱粉原料100質量部に対して、油脂を5~60質量部添加することが好ましい。これによれば、生地のハンドリングが特に良好になり、風味も良好となる。
【0016】
更に、前記生地の作成に際し、前記生地を折り込む際に前記油脂を添加するか、又は前記油脂としてパイチップ油脂を用いて、前記生地に前記パイチップ油脂を練り込むことが好ましい。これによれば、生地が層状となり、好ましい軽い食感となる。また、油脂由来の風味と全粒粉の風味の相乗効果が得られ、より好ましい風味となる。
【0017】
更にまた、前記穀粉及び/又は澱粉原料として、前記小麦全粒粉だけを用いることが好ましい。これによれば、食物繊維、ミネラル、ビタミン等を豊富に含む小麦全粒粉を最大限に含むので、栄養価を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、生地のつながりが促進されつつ、生地の伸展性が良くなるので、作業性が良好となる。また、得られるベーカリー食品のボリュームが向上し、香ばしい香りと生地の熟成の香りのバランスが良好で、食感も軽く、風味が良好で、味も美味しいベーカリー食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のベーカリー食品の製造方法は、小麦全粒粉を70質量%以上含む穀粉及び/又は澱粉原料と、発酵種とを含有する原料を用いて生地を作成し、生地作成から12時間以上経た後に焼成することを特徴とする。
【0020】
本発明では、小麦全粒粉として石臼挽きで得られたものを用いる。石臼挽きで得られた全粒粉は、その粒度分布が広くなり、後述するマルトース価も適切な値となるため、パン等のベーカリー食品の製造作業性が良くなり、得られるベーカリー食品のボリュームや食感を良好にすることができる。また、石臼挽きで得られた全粒粉は、手作業で丁寧に作製されたものであり、消費者に好まれるものである。小麦を石臼挽きするための装置としては、例えば石臼製粉機、マスコロイダー等を用いることができる。
【0021】
なお、「石臼挽きで得られた」という記載は方法的な表現であるが、小麦全粒粉は、粉砕方法によってその性状が異なり、石臼挽きされたものと、衝撃粉砕法で粉砕されたものとは、例えば粒度分布や、後述するマルトース価などの物性が異なってくる。しかし、その違いを分析して物性値として表現することは、様々な実験を行って分析結果を比較検討する必要があり、多大な労力と時間と費用とが必要となるため、おおよそ実際的ではない。
【0022】
本発明においては、穀粉及び澱粉の合計質量に対して、小麦全粒粉を70質量%以上使用する。これにより、ふすま成分などの栄養素が豊富なベーカリー食品を得ることができる。穀粉及び澱粉の合計質量に対する小麦全粒粉の含有量が70質量%未満では、パンなどのべーカリー製品の栄養価を高める効果が乏しくなる。小麦全粒粉の含有量は、穀粉及び澱粉の合計質量に対して、70質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。小麦全粒粉以外の穀粉としては、例えば強力粉、中力粉、薄力粉などの小麦粉、米粉、ライ麦粉、大麦粉、オーツ麦粉、大豆粉、などが使用できる。また、澱粉としては、例えばコーンフラワー、馬鈴薯澱粉、タピオカでんぷん、小麦澱粉などが使用できる。
【0023】
本発明において使用する小麦全粒粉のマルトース価は、220から320であることが好ましく、250から300であることがより好ましい。損傷した澱粉中にはアミラーゼにより分解されたマルトースが存在しており、マルトース価は小麦粉中のアミラーゼによって、小麦粉の澱粉がどれだけ分解されるかを表す指標となる。すなわちマルトース価が高いこととは小麦粉中の損傷澱粉の割合が高いことを意味し、マルトース価が低いことは損傷澱粉の割合が低いことを意味する。本発明においてマルトース価は、AACC(American Association of Cereal Chemists)の公定法(22-15)により測定することができる。マルトース価が上記の範囲にあることによって、生地のべたつき、ハンドリングを良好にし、得られるベーカリー食品のボリュームや食感を良好にすることができる。
【0024】
ベーカリー食品の原料としては、パン等の製造に通常用いられる他の原料、例えば、食塩、油脂、脱脂粉乳等の乳原料、全卵粉末等の卵原料、砂糖等の糖類、アセスルファムカリウム、ネオテーム、スクラロース、エリスリトール、還元パラチノース等の低カロリー甘味料、ベーキングパウダー等の膨張剤、ジェランガム、キサンタンガム、グアーガム等の増粘剤、グリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤、麦麹、酵素、α加工澱粉等の生地改良剤、ビタミン、ミネラル、カルシウム等の栄養強化剤、ドライイースト、イーストフード、pH調整剤、保存料、風味料などを適宜含むことができる。
【0025】
また、本発明においては、得られるベーカリー食品のボリュームや食感を更に良好にするために、バイタルグルテンや還元処理バイタルグルテンを添加してもよい。バイタルグルテンは、小麦粉と水とを混捏したとき、その生地中に小麦蛋白質のチオール基のS-S結合の形成をともなって発達する、パンなどのイースト発酵食品の組織の骨格を形成する成分をいう。詳細には、小麦蛋白質であるグリアジンとグルテニンとの複合体を主な構成成分とし、その総蛋白含有量が、典型的には60~95質量%であり、より典型的には65~90質量%であり、更により典型的には70~85質量%である小麦蛋白質含有物である。バイタルグルテンは、通常、粉体状製品として市場に流通しており、その粉体状製品を水等に戻したときには、生地様の伸展性や弾力性を呈する。
【0026】
また、還元処理バイタルグルテンは、上記グルテンが還元処理されることにより、小麦蛋白質のチオール基のS-S結合が形成されにくく、水等で戻したときの生地様の性質が、バイタルグルテンとは異なる性質となるようにした改質グルテンをいう。詳細には、グルテンを調製する過程で、もしくはその調製の後に、乾燥物換算で、グルテン100質量部に対して還元剤を好ましくは0.005~0.5質量部、より好ましくは0.01~0.3質量部、更により好ましくは0.02~0.1質量部配合することによって得られる改質グルテンをいう。還元剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、グルタチオン、システイン、などが挙げられる。特に、還元作用が強いことから、ピロ亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0027】
これまでの本分野の技術常識においては、穀粉及び澱粉の合計質量に対して小麦全粒粉が70質量%以上となると、ボリュームの不足や伸展性の不足により、通常の方法でパンを製造することは困難であった。しかし本発明は、石臼挽きで得られた小麦全粒粉を70質量%以上含む穀粉及び/又は澱粉原料と、発酵種とを含有する原料を用いて生地を作成し、生地作成から12時間以上経た後に焼成するという方法を採用することにより、この問題を解決することができたのである。
【0028】
本発明において、発酵種とは、穀物の粉(小麦粉、小麦全粒粉、ライ麦粉など)と水を混ぜて酵母や乳酸菌によって予め発酵させたパン種のことを意味し、例えばサワー種、ルヴァン種など、その種類は特に限定されず、液体状のものでも、中種のような粘度を有するものであってもよい。発酵種の元となる種は販売されており(例えば株式会社愛工舎製作所など)、そのような市販の種を使って発酵種を調製することもできる。例えば、上記市販の種50質量部、水25質量部、穀粉25質量部、モルトシロップ0.05質量部を混合して、定期的に攪拌しながら8時間程度発酵後、4℃に冷却して保存し、定期的に攪拌しながら4日間程度使用したら、同じ条件で種継を行うことによって、発酵種を継続的に供給することができる。
【0029】
本発明では、前述した小麦全粒粉を含む原料に、上記発酵種を加えて生地を作成し、この生地を用いて、分割、成形、ホイロ(最終発酵)、焼成、油調などの通常の工程を経て、ベーカリー食品を製造する。その際に、生地作成から12時間以上経た後に焼成するようにすることが、本発明の特徴である。
【0030】
具体的には、生地を作成した後、発酵に適した温度、好ましくは18~38℃、より好ましくは25~30℃で、好ましくは10~90分間、より好ましくは30~60分間発酵させてから、上記各工程の間、好ましくは生地作成工程と折込工程との間で、生地作成から12時間以上経過するように、リタード時間(寝かし時間)をとって、焼成する。
【0031】
生地を寝かす工程は、イースト発酵があまり進行せず、生地が凍結しない条件で行うことが好ましく、具体的には、好ましくは4℃~-10℃の温度下、より好ましくは0℃~-8℃の温度下で生地を保存すればよい。
【0032】
生地を長時間寝かすことにより、生地のつながりが促進されつつ、生地の伸展性が良くなり、生地に負担がかからないので、焼成後のボリュームが向上する。また、ボリュームが向上するので火抜けが良くなり、香ばしい香りと生地の熟成の香りのバランスが良好となる。更に、食感も軽くなるので、味も美味しくなる。
【0033】
生地作成から焼成までの時間は、12時間以上経過すればよいが、好ましくは12~24時間であり、より好ましくは16~20時間である。
【0034】
本発明が適用されるベーカリー食品は、特に限定されるものではないが、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、ハンバーガーバンズ、デニッシュペストリー、速製パン(マフィン、アメリカンビスケット等)、ピザ、クロワッサン等のパン類や、パイ、デニッシュ、ドーナツ等の菓子類が挙げられる。これらの中でも、生地の作成に際し、生地を折り込む際に油脂を添加するか、又は油脂としてパイチップ油脂を用いて、生地にパイチップ油脂を練り込んで製造される、クロワッサン、デニッシュに好ましく適用される。ここで、パイチップ油脂とは、チップ状に成形した練りパイ用マーガリンを意味する。
【実施例
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
<試験例1>(石臼挽き全粒粉と衝撃粉砕全粒粉との比較)
(配合組成)
下記表1の組成のベーカリー食品用組成物を用いてクロワッサンを製造した。表1中の配合量を表す数字は、穀粉の合計量100質量部に対する質量部である。以下の表においても同様である。
【0037】
なお、ルヴァン種としては、前種50質量部、水25質量部、穀粉25質量部、モルトシロップ0.05質量部を混合して、定期的に攪拌しながら8時間程度発酵後、4℃に冷却して保存したものを使用した。折り込み用マーガリンとしては、商品名「パイシート100」(ミヨシ油脂株式会社製)を用いた。
【0038】
すなわち、折り込み用マーガリン以外の原料を縦型ミキサー装置を用いて低速5分で製造ミキシングし、折り込み用マーガリンを加えて、更に低速6分、中低速6分ミキシングする。得られた生地を27℃で30分間発酵させ、-5℃で12時間寝かし(リタード)を行った。
【0039】
次いで、折り込みを3つ折り3回で、折り込む毎に1時間寝かし(リタード)を行い、合計2時間寝かして、カットし、成形して、90分前後ホイロをとり、焼成した。生地作成から焼成までの時間は、15時間であった。
【0040】
こうして得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、下記評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。
・作業性…生地がべたつくものを低い点数、生地のべたつきが少ないものを高い点数にして、1~10の間で評価点を付けた。
・伸展性…薄く伸ばした際、生地が裂けるものを低い点数、生地が裂けにくいものを高い点数とし、1~10の間で評価点を付けた。
・ボリューム…ボリュームが小さいものを低い点数、ボリュームが大きいものを高い点数にして、1~10の間で評価点を付けた。
・香り・味…エグ味が強く甘さが少ないものを低い点数、エグ味が少なく、甘さがあるものを高い点数にして、1~10の間で評価点を付けた。
この結果を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示されるように、石臼挽き全粒粉を含有する実施例1,2は、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味のいずれも高得点であった。衝撃粉砕全粒粉を用いた比較例1は、作業性、ボリュームが劣るものであった。
【0043】
<試験例2>(発酵種の有無の比較)
下記表2の組成のベーカリー食品用組成物を用いて、試験例1と同様にして、クロワッサンを製造した。
【0044】
得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、試験例1と同様な評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。この結果表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示されるように、石臼挽き全粒粉100質量部に対して、ルヴァン種2~20質量部添加した実施例1~5では、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味のいずれも良好な結果であった。
【0047】
一方ルヴァン種を添加しなかった比較例2では、伸展性、ボリューム、香り・味が劣るものであった。
【0048】
<試験例3>(工程時間の比較)
下記表3の組成のベーカリー食品用組成物を用いて、下記表4に示すようにリタード時間、焼成までの時間を変えて、その他は試験例1と同様にして、クロワッサンを製造した。
【0049】
得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、試験例1と同様な評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。この結果表4に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
表4に示されるように、焼成までの時間が16時間である実施例1、12時間である実施例6は、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味のいずれも良好な結果であった。
【0053】
一方、焼成までの時間が8時間である比較例3では、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味が劣るものであった。
【0054】
<試験例4>(石臼挽き全粒粉のマルトース価の比較)
下記表5に示す配合であって、下記表6に示すマルトース価の全粒粉を用い、その他は試験例1と同様にして、クロワッサンを製造した。
【0055】
得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、試験例1と同様な評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。この結果表6に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
表6に示すように、マルトース価が220~320である石臼挽き全粒粉を用いた実施例1,7,8は、マルトース価が上記範囲を外れる実施例9,10に比べて、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味がより良好であった。
【0059】
<試験例5>(発酵種のpH、水溶性酸度の比較)
下記表7に示す配合であって、下記表8に示すpH、水溶性酸度のルヴァン種を用いた他は、試験例1と同様にして、クロワッサンを製造した。
【0060】
得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、試験例1と同様な評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。この結果を表8に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
表8に示すように、pHが3.6~4.2に入るルヴァン種を用いた実施例1,11,12は、pHが上記範囲を外れるルヴァン種を用いた実施例13,14に比べて、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味がより良好であった。
【0064】
<試験例6>(油脂の量の比較)
下記表9に示す組成のベーカリー食品用組成物を用い、その他は試験例1と同様にして、クロワッサンを製造した。
【0065】
得られたクロワッサンについて、パネラー5名にて、試験例1と同様な評価基準により、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味を評価し、5名のパネラーの平均点で評価結果を表示した。この結果を表9に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
表9に示すように、マーガリンを添加した実施例1,15は、マーガリンを添加しなかった実施例16に比べて、作業性、伸展性、ボリューム、香り・味がより良好であった。