(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】客室内における座席配列の変更構造
(51)【国際特許分類】
B60N 2/06 20060101AFI20230908BHJP
B61D 1/04 20060101ALI20230908BHJP
B61D 33/00 20060101ALI20230908BHJP
B64D 11/06 20060101ALI20230908BHJP
B60N 2/14 20060101ALI20230908BHJP
B60N 2/07 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
B60N2/06
B61D1/04
B61D33/00 A
B64D11/06
B60N2/14
B60N2/07
(21)【出願番号】P 2019123392
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】保坂 栄二
(72)【発明者】
【氏名】トーステン ベルガー
(72)【発明者】
【氏名】望月 廣昭
(72)【発明者】
【氏名】栗林 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】金子 彰斗
(72)【発明者】
【氏名】醤油 昂弘
(72)【発明者】
【氏名】桑島 阿友美
(72)【発明者】
【氏名】見波 敏郎
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-047536(JP,U)
【文献】実開昭57-094537(JP,U)
【文献】特開2000-025494(JP,A)
【文献】特開2018-099998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/06
B61D 1/04
B61D 33/00
B64D 11/06
B60N 2/14
B60N 2/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の客室内における座席の配列間隔を自在に変更するための構造であって、
片持ち梁として座席を下方から支え、前記座席と車両の床板との間に空間を形成する支持フレームと、
ボールの転走溝を有すると共に前記車両の側構体に沿って前記客室の長手方向に沿って設けられる案内レールと、
前記支持フレームの基端部に固定されると共に
前記案内レールの転走溝を転走する多数のボールを介して当該案内レールに組付けられた支持スライダと、
前記案内レールに対して前記支持スライダを固定する位置固定部材と、
を備え、
前記案内レール
は長手方向に垂直な断面が略矩形状に形成されると共にその外側面には前記転走溝と平行な係止溝が形成され、前記支持スライダには前記係止溝に挿入される支持突部が突出し、
前記支持突部は
片持ち梁としての前記支持フレームから前記支持スライダに作用する
前記案内レールを中心とした回転モーメントに応じて前記案内レールの係止溝に接触し、
前記支持スライダは前記支持フレームから作用する荷重及び前記回転モーメントを負荷しつつ、前記支持フレームを前記案内レールに沿って自在に移動可能なことを特徴とする座席配列の変更構造。
【請求項2】
前記座席を搭載するシート固定台と、
前記支持フレームと前記シート固定台との間に設けられて前記座席の回転中心となる回転支持台と、
前記シート固定台に対して前記座席の幅方向に沿って設けられ、前記回転支持台に対する前記シート固定台の移動を案内するリニアガイドと、
前記支持フレームに対する前記シート固定台の回転を係止する回転止め部材と、
前記回転支持台に対する前記シート固定台の移動を係止するシート固定部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の座席配列の変更構造。
【請求項3】
前記案内レールは前記側構体に対して水平方向から固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の座席配列の変更構造。
【請求項4】
前記案内レールは前記側構体に沿って客室内に設けられたスペーサブロックに対して鉛直方向から固定されていることを特徴とする請求項1又は2記載の座席配列の変更構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両、バス等の客室内に設けられた座席の配列間隔を自在に変更するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両、バス等の乗物においては、通常、乗客用の座席が客室の側壁に沿って配列されており、客室内の中央は立ち席用又は通路用のスペースとして利用されている。また、客室内での座席の配列としては、当該座席の背当面を乗物の進行方向と略平行に配置した所謂ロング配列と、当該座席の背当面を乗物の進行方向又は反進行方向に向けて配置した所謂クロス配列が一般的である。
【0003】
前記クロス配列では客室の床板上に座席が一定の間隔で配列されている。例えば、着座した乗客の快適性は座席の配列間隔が大きいほど優れているが、座席の配列ピッチが大きいと、立ち席用又は通路用のスペースは狭くなるので、着座できなかった乗客の快適性は損なわれることになる。従って、繁忙期や閑散期といった乗客数の増減に応じて、客室内での座席の配列を柔軟に変更することができると便利である。また、前記ロング配列の場合であっても、座席を客室の側壁に沿って自在に移動させ固定することができれば、客室内の一部に広い空間を設け、当該空間を荷物の収容スペース、例えば乗客のスーツケースや自転車の収容スペースとして使用することができ、客室内の空間を柔軟に利用することができて便利である。
【0004】
座席の配列間隔を変更可能な構造としては、特許文献1に開示されたものが知られている。この特許文献1は航空機の客室内における座席の配列間隔を自在に変更するための構造を示している。客室の床板にはレールが敷設されており、座席は前記レールに沿って客室内を自在に移動可能であると共に、レール上の任意の位置に固定することが可能である。これにより、特許文献1に開示された構造では客室内における座席の配列間隔を自由に変更することができ、客室内の限られた空間を乗客数に応じて柔軟に利用し、乗客の快適性を向上させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された客室内における座席の配列間隔の変更構造では、前記座席から下方へ延びる脚部が前記床板に敷設されたレールに対して組付けられていることから、座席下の空間、すなわち座席と床面との間の空間は前記脚部が障害となって積極的に利用することができず、また、床面の清掃が実施し難いといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、客室内における座席の配列間隔を自在に調整することが可能であると共に、座席下の空間の有効な活用を可能とする座席配列の変更構造を提供することにある。
【0008】
すなわち、本発明は車両の客室内における座席の配列間隔を自在に変更するための構造であって、片持ち梁として座席を下方から支え、前記座席と車両の床板との間に空間を形成する支持フレームと、前記車両の側構体に沿って前記客室の長手方向に沿って設けられる案内レールと、前記支持フレームの基端部に固定されると共に前記案内レールに組付けられ、前記支持フレームから作用する荷重及び回転モーメントを負荷しながら前記案内レールに沿って自在に移動可能な支持スライダと、前記案内レールに対して前記支持スライダを固定する位置固定部材と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記座席を支える支持フレームは前記支持スライダの働きによって前記案内レールに沿って自在に移動可能であり、客室内における座席の配列間隔を自在に調整することが可能である。また、前記支持フレームは片持ち梁として前記座席を下方から支える一方、当該支持フレームの基端部に固定された前記支持スライダは前記案内レールに沿って自在に移動しながら前記支持フレームから作用する荷重及び回転モーメントを負荷するので、前記座席と床板との間には脚部などが不要となり、座席下の空間を有効に利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】鉄道車両の客室内における座席配置に本発明を適用した第一実施形態を示す概略図である。
【
図2】第一実施形態における座席配置の変更構造を示す模式図である。
【
図3】本発明の座席配置の変更構造に使用可能な案内レール及び支持スライダの組み合わせの一例を示す斜視図である。
【
図5】本発明を適用した座席配置の変更構造の第二実施形態を示す概略図である。
【
図6】第二実施形態における座席配置の変更構造を示す模式図である。
【
図7】第二実施形態に示す座席配置の変更構造の変形例を示す模式図である。
【
図8】本発明を適用した座席配置の変更構造の第三実施形態を示す分解図である。
【
図9】第三実施形態に使用可能なリニアガイドの一例を示す斜視図である。
【
図10】シート搭載フレームと回転支持台との結合関係を示す斜視図である。
【
図12】第三実施形態の座席配置の変更構造による座席のロング配列を示す平面図である。
【
図13】ロング配列からクロス配列に変更する第一の手順を示す平面図である。
【
図14】ロング配列からクロス配列に変更する第二の手順を示す平面図である。
【
図15】ロング配列からクロス配列に変更する第三の手順を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を用いて本発明の座席配列の変更構造を詳細に説明する。
【0012】
図1は鉄道車両の客室1内における座席2の配列に対して本発明を適用した第一実施形態を示す図である。同図は車両から屋根構体を取り外すと共に客室1を幅方向の中央で切断した状態を示している。この例において座席2の配列は所謂クロス配列を示しており、各座席2は背当面20を車両の進行方向A又は反進行方向に向けた状態で前記客室1内に配列されている。
【0013】
前記座席2の下側の空間、すなわち車両の床面と座席の間の空間を有効に活用することができるよう、前記座席2は車両の床板10上に設けられているのではなく、当該車両の側構体11から張り出した支持フレーム3によって支持されている。また、客室1内における座席2の配列間隔を自在に変更することができるよう、前記支持フレーム3は位置変更機構4を用いて車両の側構体11に取り付けられている。
【0014】
図2は前記側構体11に対する前記座席2の支持構造を模式的に示した図である。同図に示すように、前記座席2は支持レーム3に搭載されており、当該支持フレーム3は位置変更機構4を介して車両の側構体11に固定され、片持ち梁として前記座席2を下方から支えている。前記位置変更機構4は、前記側構体11に固定された案内レール40と、前記案内レール40に組付けられた支持スライダ41とから構成されている。前記案内レール40は床面10と平行に且つ客室1の長手方向に沿って設けられており、前記支持スライダ41は前記案内レール40に沿って自在に移動可能である。また、前記支持スライダ41は片持ち梁としての前記支持フレーム3の基端部に固定されている。
【0015】
図3及び
図4は前記位置変更機構4の一例を示すものであり、
図3は当該位置変更機構4の斜視図、
図4は
図3のIV-IV線断面図である。
【0016】
前記位置変更機構4は、前記案内レール40と、前記支持スライダ41と、を備えている。前記案内レール40は長手方向に垂直な断面が略矩形状に形成された長尺部材であり、長手方向に沿った外側面にはボールの転走溝44が形成されている。前記支持スライダ41は前記転走溝を転動する多数のボール45を介して前記案内レール40に組付けられている。前記転走溝44は前記案内レール40の左右に一対形成されている。前記転走溝44は前記ボール45の球面よりも僅かに大きな円弧で凹曲面状に形成されており、前記案内レール40の外側面に対する前記転走溝44の深さは前記ボール45の半径よりも僅かに浅く設定されている。
【0017】
また、前記案内レール40の外側面には、前記転走溝44と平行に係止溝46が形成されている。前記係止溝46は前記転走溝44の下方に位置しており、前記案内レール40の長手方向に直交する断面形状は当該案内レール40の中心に向かって徐々に窄まった略台形状をなしている。また、前記係止溝46の深さは前記転走溝44よりも深く設定されている。前記係止溝46は前記案内レール40の左右に一対で形成されている。
【0018】
前記案内レール40には複数の固定孔47と複数の位置決め孔48とが長手方向に沿って所定間隔で交互に形成されている。前記固定孔47は前記案内レール40を例えば前記側構体11のような構造物にボルトで固定する際に利用される。一方、前記位置決め孔48は前記支持スライダ41を前記案内レール40上の特定位置で移動不能に固定する際に利用され、前記支持スライダ41に設けられたロックピン49が適宜挿入される。
【0019】
前記支持スライダ41は、略サドル形状に形成されて前記案内レール40に跨るブロック本体42と、前記ブロック本体42の移動方向の前後両端面に装着された一対の蓋体43と、前記ブロック本体42を貫通する前記ロックピン49と、を備えている。
【0020】
前記ブロック本体42は、固定ボルトの締結穴50が形成されたベース部42aと、このベース部42aから前記案内レール40の外側面に被さるように垂下する一対のスカート部42bと、を備えている。前記スカート部42bには前記案内レール40の転走溝44に対向する負荷転走溝51が形成されており、ボール45は前記ブロック本体42の負荷転走溝51と案内レール40の転走溝44との間で荷重を負荷しながら転動する。前記スカート部42bには前負荷転走溝51と平行にボール戻し孔52が設けられており、ボール45は前記ボール戻し孔52の内部を無負荷状態で転動する。
【0021】
前記一対の蓋体43の夫々にはボール45が無負荷状態で転動する方向転換路が設けられている。前記方向転換路は略U字状に湾曲した通路であり、前記蓋体43を前記ブロック本体42に固定すると、当該ブロック本体42に形成された負荷転走溝51とボール戻し孔52の長手方向の端部同士が前記方向転換路によって連結される。すなわち、前記ブロック本体42の両端面のそれぞれに対して前記蓋体43を固定すると、前記負荷転走溝51とボール戻し孔52とが連結され、前記支持スライダ41にボール45の無限循環路が完成する。従って、
図3及び
図4に示す座席移動装置4では、前記案内レール40に形成された一対の転走溝44に対応し、前記支持スライダ41がボール45の無限循環路を2回路備えている。
【0022】
また、
図4に示すように、前記ブロック本体42のスカート部42bには前記負荷転走溝51と平行に支持突部53が設けられている。前記支持突部53は前記スカート部42bの内側面から前記案内レール40に向けて突出しており、前記案内レール40の外側面に設けられた係止溝46に挿入されている。但し、前記支持突部53と前記係止溝46との間には隙間が設けられており、前記支持スライダ41に対して過度の荷重が作用しない限り、前記支持突部53が前記案内レール40に接触することはなく、前記支持スライダ41はボール45の転動によって案内レール40上を滑らかに運動することが可能である。
【0023】
このように構成された座席移動装置4は、前記案内レール40の一対の外側面に対してボール45の転動溝44が形成されており、当該転動溝44を転動するボール45を介して前記支持スライダ41が前記案内レール40に組付けられていることから、前記支持スライダ41は前記案内レール40の長手方向と直交する方向に作用するあらゆる荷重を負荷しながら、当該案内レール40に沿って自在に移動可能である。
【0024】
また、前記支持スライダ41が前記案内レール40に組付けられた状態では、前記ブロック本体42の支持突部53が前記案内レール40の係止溝46に挿入されているので、前記支持スライダ41は前記案内レール40の長手方向と直交する方向に関して当該案内レール40から分離不能である。このため、例えば前記座席2に着座した乗客の体重に応じて、前記支持フレーム3に固定された支持スライダ41に対して過大なモーメント荷重(
図4中の矢線R方向の荷重)が作用した場合であっても、前記支持突部53と前記係止溝46とが接触することにより、前記案内レール40に対すると前記支持スライダ41の組み付け状態が維持され、前記モーメント荷重に抗して前記支持フレーム3を保持することが可能である。
【0025】
更に、前記支持スライダ41にはロックピン49が設けられており、当該ロックピン49は前記支持スライダ41を貫通して前記案内レール40の位置決め孔48に挿入されている。前記ロックピン49は前記案内レール40に向けて付勢された状態で前記支持スライダ41に保持されており、当該ロックピン49に対して何ら外力を及ぼさない状態では、当該ロックピン49の先端部は常に前記案内レール40の位置決め孔48に挿入されている。
【0026】
前記ロックピン49が前記位置決め孔48に挿入されている状態では、前記支持スライダ41を前記案内レール40に対して移動させることができず、前記ロックピン49を付勢力に抗して前記位置決め孔48から離脱させた場合にのみ、前記支持スライダ41を前記案内レール40に沿って移動させることが可能となる。すなわち、前記ロックピン49が本発明における位置固定部材に相当する。
【0027】
尚、前記位置固定部材は前記支持スライダ41に搭載されたロックピン49に限られず、前記案内レール40に対する前記支持スライダ41の運動を確実に拘束することができるものであれば差し支えない。例えば、前記案内レール40を挟み込んで当該案内レール40に固定され、前記支持スライダ41の運動を係止するクランプ部材であってもよい。
【0028】
図2に示すように、前記位置変更機構4の支持スライダ41は前記締結穴50を利用して前記支持フレーム3に固定される。また、前記位置変更機構4の案内レール40は車両の側構体11に水平方向からボルトで固定される。図示はされていないが、前記側構体11の内部には当該側構体11の強度を確保する目的で鉛直方向(
図2の紙面上下方向)に沿って側柱が起立している。また、前記側柱は車両の進行方向(
図2の紙面奥行き方向)に沿って所定間隔で複数配列されている。これら複数の側柱に対しては車両の進行方向に沿って延びるレール取付けプレートが固定されており、前記案内レール40は前記レール取付けプレートにボルトで固定されている。従って、前記案内レール40に作用した鉛直方向荷重やモーメント荷重は前記レール取付けプレートを介して前記側柱によって負荷されるようになっている。尚、前述した側構体11の構造はあくまでも一例であり、当該側構体の具体的構造に応じて前記案内レールの固定方法は適宜変更することが可能である。
【0029】
従って、
図1に示した座席2の配列例では、前記位置変更機構4の支持スライダ41が前記案内レール40に沿って移動すると、前記座席2を搭載した支持フレーム3が前記側構体11に沿って前記座席2と共に移動し、所謂クロス配列における座席2の配列間隔を車両の進行方向に沿って自由に変更することが可能である。また、前記支持スライダ41に設けられたロックピン49を操作することにより、前記案内レール40に対する前記支持スライダ41の移動又は固定を自由に選択することができるので、手軽に座席2の配列間隔を変更することが可能となる。
【0030】
更に、前記位置変更機構4の支持スライダ41は前記案内レール40の長手方向の端部から抜き取ることが可能なので、車両の側構体11の何処かの位置に案内レール40が途切れた座席取付け位置を設けておくことにより、当該位置で前記支持スライダ41を前記案内レール40から抜き取り、あるいは前記案内レール40に組付けることができるので、前記座席2を客室1に対して自由に設置又は撤去することが可能となる。
【0031】
そして、このような座席配列の変更構造によれば、前記客室1内における座席2の配列間隔を自在に変更することが可能なので、繁忙期や閑散期といった乗客数の増減に応じ、客室1内での座席2の配列を柔軟に変更することが可能である。また、前記支持フレーム3は片持ち梁として座席2を下方から支えているので、前記座席2と前記床板10との間には空間を形成することができ、当該空間を有効に活用することで前記客室1の快適性を高めることが可能である。更に、床面に対して座席2の脚部が接続されていないので、当該床面の清掃も容易なものとなる。
【0032】
一方、
図5は鉄道車両の客室1内における座席2の配列に対して本発明を適用した第二実施形態を示す図である。同図は前記座席2を前記客室1内に対して所謂ロング配列で配置した例を示すものであり、各座席2の背当面20が車両の進行方向Aと平行に設けられている。この例においても、前記座席2の下側の空間、すなわち車両の床面10と座席2の間の空間を有効に活用することができるよう、前記座席2は車両の床板10上に設けられているのではなく、当該車両の側構体11から張り出した支持フレーム3aによって支持されている。また、車両の進行方向Aに対する前記座席2の配置を自由に変更することができるよう、前記支持フレーム3aは前述した位置変更機構4を用いて車両の側構体11に取り付けられている。
【0033】
図6は前記側構体11に対する前記座席2の支持構造を模式的に示した図である。同図に示すように、前記座席2は支持レーム3aに搭載されており、当該支持フレーム3aは前記位置変更機構4を介して車両の側構体11に固定され、片持ち梁として前記座席2を下方から支えている。前記位置変更機構4は
図3及び
図4に示したものと同一であり、ここではその説明を省略する。
【0034】
従って、
図5に示した座席2の配列例では、前記支持スライダ41が前記案内レール40に沿って移動すると、前記座席2を搭載した支持フレーム3が前記側構体11に沿って前記座席2と共に移動し、客室1内における座席2の配置を車両の進行方向に沿って自由に変更することが可能である。また、前記リニアガイド4に設けられたロックピン49を操作することにより、前記案内レール40に対する前記支持スライダ41の移動又は固定を自由に選択することができるので、手軽に座席2の配列間隔を変更することが可能となる。
【0035】
尚、前記リニアガイド4は必ずしも車両の側構体11に固定する必要はなく、
図7に示すように、床板10と側構体11が交わる隅角部にスペーサブロック5を設け、前記側構体11に沿うようにして前記スペーサブロック5上に鉛直方向から前記位置変更機構4の案内レール40を固定しても良い。このような構造であっても、前記支持フレーム3aは片持ち梁として前記位置変更機構4に支承されるので、車両の床面と座席2の間の空間を有効に活用することが可能である。
【0036】
次に、本発明を適用した座席配置の変更構造の第三実施形態について説明する。
【0037】
この第三実施形態で示す座席配置の変更構造は、前述の第一実施形態及び第二実施形態と同じく前記客室1内における座席2の配置を車両の進行方向に沿って変更可能としつつ、それに加えて、前記クロス配列で配置された座席2を前記ロング配列に配置変更し、又は前記ロング配列で配置された座席2を前記クロス配列に配置変更することを可能とするものである。
【0038】
図8は第三実施形態における座席配置の変更構造を示す図であり、当該変更構造の構成部品を分解図として示している。同図に示される変更構造は、案内レール40及び支持スライダ41からなる前述の位置変更機構4と、前記座席2を支える支持フレーム3と、前記支持フレーム3に固定されると共に前記座席2の回転中心となる回転支持台6と、前記座席2を固定するシート搭載フレーム7と、前記座席2の幅方向に沿って設けられると共に前記シート搭載フレーム7と前記回転支持台6の間に配置されるリニアガイド8と、を備えている。
【0039】
この実施形態において、前記支持フレーム3は、前記支持スライダに固定される略L字形の支持部材30と、前記支持部材30によって下方から支えられるベースプレート31と、を備えている。前記ベースプレート31には前記回転支持台6が固定されている。
【0040】
前記シート搭載フレーム7は複数の座席2を並列に配置することができるよう、各座席2の幅方向へ長尺に形成されている。この実施形態においては前記シート搭載フレーム7に固定された二つの座席2が一体となって組座席を構成しており、これら組座席の背当面20の向きを90度変更することが可能となっている。
【0041】
図9は前記シート搭載フレーム7に固定されるリニアガイド8の一例を示すものである。このリニアガイド8は、長手方向に沿ってボールやローラ等の転動体80の転走面81が形成された軌道レール82と、この軌道レール82の長手方向に沿って自在に直線運動を行う移動ブロック83とから構成されている。前記移動ブロック83は多数の転動体80を介して前記軌道レール82に組付けられており、前記移動ブロック83の内部には前記転動体80の無限循環路が設けられている。前記移動ブロック83は軌道レール82に組付けられた状態で、かかる軌道レール82の長手方向と直交する面内に作用するあらゆる荷重を負荷できることが可能である。
【0042】
図10に示すように、この実施形態において、前記シート搭載フレーム7には2基のリニアガイド8が設けられ、前記シート搭載フレーム7の下面側には2条の軌道レール82が平行に固定されている。前記軌道レール82の長手方向は前記シート搭載フレーム7の長手方向、すなわち前記座席2の幅方向と合致としている。一方、各軌道レール82には二基の移動ブロック83が組付けられており、これら移動ブロック83は前記回転支持台6に固定されている。従って、前記シート搭載フレーム7は前記軌道レール82と共に前記回転支持台6に対して前記座席2の幅方向へ自在に移動可能である。
【0043】
また、前記回転支持台6には前記リニアガイド8による前記シート搭載フレーム7の移動を係止するシート固定部材9が設けられている。前記シート固定部材9は前記軌道レール62に組付けられた二基の移動ブロック83の間で前記回転支持台6に固定されている。前記シート固定部材9は前記軌道レール82を挟み込むクランプ装置であり、このシート固定部材9を使用することで、前記回転支持台6に対する前記シート搭載フレーム7の移動を係止し、当該シート搭載フレーム7を前記支持フレーム3に対して任意の位置で固定することが可能となる。
【0044】
図11は前記支持フレーム3と前記リニアガイド8との間に設けられる回転支持台6の一例を示すものである。前記回転支持台6は相互に回転自在な内輪60及び外輪61を備えており、これら内輪60及び外輪61のいずれか一方が前記支持フレーム3のベースプレート31に固定され、他方が前記リニアガイド8の移動ブロック83に固定される。この実施形態では、前記内輪60を前記ベースプレート31に固定し、前記外輪61を前記移動ブロック83に固定している。従って、前記外輪61には前記移動ブロック83を固定するためのフランジ部61aが設けられ、当該フランジ部61aには固定ボルトの取付け穴64が複数形成されている。また、前記フランジ部61aには前記シート固定部材9が固定され、そのための固定ボルトの取付け穴65も形成されている。
【0045】
前記内輪60と外輪61の間にはボール又はローラ等の多数の転動体が配列されている。これら転動体が前記内輪60と前記外輪1の間を転動することにより、前記ベースプレート31に固定された内輪60に対して前記外輪61が自在に回転することが可能である。
【0046】
図8に示すように、前記ベースプレート31には当該ベースプレートに対する前記外輪61の回転を係止する回転止め部材としてのストッパピン91が設けられている。前記ストッパピン91は前記ベースプレート31を貫通しており、その先端は前記外輪61に設けられた係止溝62(
図11参照)に嵌入している。前記ストッパピン91はコイルスプリング(図示せず)によって常に前記外輪61へ向けて付勢されており、前記ストッパピン91の先端は常に前記ベースプレート31上に突出して、前記係止溝62に挿入されている。また、前記ストッパピン91の下端にはハンドルが設けられており、当該操作ハンドルを下方へ引くことによって、前記ストッパピン91の先端が前記係止溝62から離脱するように構成されている。
【0047】
図11に示すように、前記外輪61は前記係止溝62を複数有している。これら係止溝62は外輪61の回転中心の周囲に所定の角度間隔で設けられている。図示した例では、前記係止溝62は90度の間隔で4か所に設けられており、前記ベースプレート31に対して前記外輪61を90度ずつ回転させて、4か所の位置で固定できるようになっている。尚、前記外輪61に対する前記係止溝62の形成位置は4か所に限られず、例えば、45度の間隔で8か所に設けるなど、適宜設計変更して差し支えない。
【0048】
次に、この切り替えユニットを使用して客室2内で座席1の配列をロング配列からクロス配列に変更する手順について説明する。
図12は座席2が客室1内の側構体11(図中に一点鎖線で表示)に沿ってロング配列で配置された例を示す平面図である。座席2は二つが一体の組座席2Aとなって前記支持フレーム3に搭載されている。このロング配列において各座席2はそれらの背当面20が客室1の中央方向(紙面下方向)に向いている。
【0049】
ロング配列からクロス配列に変更する場合、先ずは前記シート固定部材9による前記軌道レール82の把持を解除し、前記シート搭載フレーム7が前記回転支持台6に対して自由に移動できるようにする。この後、
図13に示すように、シート搭載フレーム7に固定された組座席2Aを当該組座席2Aの幅方向(矢線B方向)へ移動させる。前記回転支持台6と前記シート搭載フレーム7の間に設けられたリニアガイド8は前記軌道レール82の移動方向と直交する方向に作用するあらゆる荷重を負荷し得るので、前記組座席2Aの重心が前記回転支持台6の上から大きく外れたとしても、組座席2Aは傾くことなく前記支持フレーム3によって保持される。
【0050】
前記組座席2Aの幅方向への移動が完了したら、前記ストッパピン91を操作して、前記ベースプレート31に対する前記回転支持台6の内輪60の回転を可能とし、前記シート搭載フレーム7が前記支持フレーム3に対して回転できるようにする。この後、
図14に示すように、前記シート搭載フレーム7に固定された組座席2Aを前記回転支持台6の周囲で矢線C方向へ90度だけ回転させる。前の手順で前記組座席2Aを当該組座席2Aの幅方向へ移動させた結果、前記回転支持台6の回転中心は前記組座席2Aの幅方向の端部近傍に位置しており、当該組座席2Aを回転させたとしても、座席2そのものが客室1の側構体11と干渉するのを回避することができる。これにより、座席2の背当面20は車両の進行方向又は反進行方向を向く。このとき、回転後の座席2と客室1の側構体11との間には空間が存在している。
【0051】
そして、
図15に示すように、前記組座席2Aを矢線D方向に沿って客室1の側構体11に向けて押し込むと、各組座席のクロス配列への変更が完了する。この際、客室1の側構体11と座席2との間隔は任意に設定することが可能である。各組座席2Aの配列変更が完了したならば、前記ストッパピン91及び前記シート固定部材9を用いて前記支持フレーム3に対する前記シート搭載フレーム7の固定を行う。
【0052】
ここまでの説明では、ロング配列の組座席2Aをクロス配列に変更する手順について説明したが、逆の手順によってクロス配列の座席組2Aをロング配列に変更することも可能である。その場合、各組座席2Aは前記支持フレーム3に対して座席2の幅方向へ自在に移動可能なので、ロング配列に変更後、互いに隣接する二つの組座席2Aは間隔を開けずに詰めて配置にすることが可能であり、客室内のスペースを有効に活用することができる。
【0053】
以上説明してきたように、第三実施形態の座席配列の変更構造によれば、前記客室1内における座席2の配列間隔を車両の進行方向に沿って自在に変更することが可能となる他、前記客室1内における座席2の配列をクロス配列又はロング配列に自在に変更することが可能となるので、繁忙期や閑散期といった乗客数の増減に応じ、客室1内での座席2の配列を柔軟に変更することが可能である。また、そのような柔軟な座席配列の変更を可能としつつも、前記座席2と前記床板10との間には空間を形成することができ、当該空間を有効に活用することで前記客室1の快適性を高めると共に、床面の清掃も容易なものとすることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…客室、2…座席、3…支持フレーム、4…位置変更機構、10…床板、11…側構体、40…案内レール、41…支持スライダ、49…ロックピン(位置固定部材)