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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】転がり案内装置の状態検知方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20230908BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C41/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019163648
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021042787
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 匡
(72)【発明者】
【氏名】上野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】水谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳明
(72)【発明者】
【氏名】川人 茜
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-152026(JP,A)
【文献】特開2008-303953(JP,A)
【文献】特開2003-177080(JP,A)
【文献】特開2012-193803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/00-31/06
41/00-41/04
19/00-19/56
33/30-33/66
G01M 13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って転走面を有する軌道部材と、前記転走面を転がる多数の転動体を介して前記軌道部材に組み付けられて当該軌道部材に沿って移動自在であると共に、前記転動体の無限循環路を複数有する移動部材と、を備えた転がり案内装置に適用される状態検知方法であって、
各無限循環路には当該無限循環路内における転動体の移動を検出するセンサを一乃至複数設け、
前記移動部材に設けられた複数のセンサのうち、一のセンサと他のセンサの出力信号を比較して相関係数を算出し、前記複数のセンサの相互間の比較で個々に算出された相関係数の大きさを対比して、その比較結果に基づいて前記無限循環路内における前記転動体の循環の良否を判断することを特徴とする転がり案内装置の状態検知方法。
【請求項2】
各無限循環路には前記センサが一つずつ設けられ、一のセンサの出力信号を残余のセンサの出力信号と個々に比較することを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置の状態検知方法。
【請求項3】
各無限循環路は、前記転動体が前記軌道部材と前記移動部材との間で荷重を負荷しながら転動する負荷通路と、前記負荷通路と平行に設けられると共に前記転動体が無負荷状態で転動する戻し通路と、前記負荷通路の端部と前記戻し通路の端部とを繋ぐ一対の方向転換路と、から構成され、
前記移動部材は、前記負荷通路及び前記戻し通路を有する本体部材と、前記本体部材を挟むようにして設けられた一対の蓋体とから構成され、
前記センサは前記一対の蓋体のうちのいずれか一方に取り付けられて前記方向転換路内を移動する転動体を検出することを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置の状態検知方法。
【請求項4】
各無限循環路には一対のセンサが前記転動体の循環方向に距離を置いて設けられ、これらセンサの出力信号を比較することを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置の状態検知方法。
【請求項5】
各無限循環路は、前記転動体が前記軌道部材と前記移動部材との間で荷重を負荷しながら転動する負荷通路と、前記負荷通路と平行に設けられると共に前記転動体が無負荷状態で転動する戻し通路と、前記負荷通路の端部と前記戻し通路の端部とを繋ぐ一対の方向転換路と、から構成され、
前記移動部材は、前記負荷通路及び前記戻し通路を有する本体部材と、前記本体部材を挟むようにして設けられた一対の蓋体とから構成され、前記一対のセンサは各蓋体に取り付けられて前記負荷通路を出入りする転動体を検出することを特徴とする請求項4記載の転がり案内装置の状態検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や各種搬送装置等の産業機械の直線案内部あるいは曲線案内部に利用される転がり案内装置に適用され、当該転がり案内装置が本来の性能を発揮できているか否かを検知する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の転がり案内装置は、長手方向に沿って転動体の転走面が形成された軌道部材と、前記転走面を転走する多数の転動体を介して前記軌道部材に組み付けられると共に当該軌道部材に沿って往復動自在な移動部材とを備えている。前記移動部材は転動体が荷重を負荷しながら転走する負荷転走面を有しており、当該負荷転走面は前記軌道部材の転走面と対向することにより前記転動体の負荷通路を構成している。また、前記移動部材は前記負荷通路の一端から他端へ転動体を循環させる無負荷通路を有しており、前記負荷通路及び前記無負荷通路が連続することによって前記転動体の無限循環路が構成されている。これにより、前記移動部材は前記軌道部材に沿ってストロークを制限されることなく移動することが可能となっている。
【0003】
前記転がり案内装置が本来の性能を発揮するためには、前記転動体が前記無限循環路内で円滑に循環していることが必須であり、仮に円滑な循環が阻害されると、当該転がり案内装置によって案内されるテーブル等の可動体の動作精度が悪化する等の支障が生じる。例えば、前記軌道部材の転走面や前記移動部材の負荷転走面にフレーキングが発生した場合や、転動体と転走面又は負荷転走面との間に異物が噛み込まれてしまった場合には、前記無限循環路内における転動体の円滑な循環が阻害されることになる。
【0004】
特許文献1に開示される転がり案内装置では、前記無限循環路内を転動する転動体の状態を把握することで、異常の発生を早期に検知可能な転がり案内装置が開示されている。同文献に開示される転がり案内装置では、前記無負荷通路の一部に渦電流式センサや近接センサといったセンサが設けられており、転動体の通過をこれらセンサで監視している。前記センサから出力される信号の波形は、例えば、前記転走面から剥離した金属片が付着した転動体とそうでない転動体とでは異なり、また、異常摩耗を生じた転動体とそうでない転動体とでは異なるので、前記センサの出力信号の波形を基準波形と比較することで、転がり案内装置に生じた異常を検知することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-152026
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では転がり案内装置に異常が生じているか否かを判断するにあたり、前記センサから取得した信号波形を基準波形と比較しているので、先ずは正常な転がり案内装置を動作させて前記センサから基準波形を取得し、その基準波形をメモリに格納保持しておくことが必要であり、かかる基準波形の取得という手間があった。
【0007】
また、無限循環路内における転動体の循環の良否を判断するにあたり、前記センサから取得した信号波形を基準波形と比較するのであれば、製品や使用環境の相違を考慮した基準波形が必要となり、種々の基準波形を準備する必要があった。
【0008】
更に、転がり案内装置は経時的な使用に伴って、異常摩耗の域には達しないものの、僅かずつではあるが転走面や転動体に摩耗を生じている。従って、転動体の通過に伴って出力される前記センサの信号波形は、転がり案内装置の累積使用時間の増大に伴って僅かずつではあるが変化している筈である。このため、転がり案内装置に異常が生じたか否かを前記センサの出力信号から精度よく判断するためには、比較対象である基準波形を転がり案内装置の累積使用時間の増大に伴って更新していく必要があり、この点においても基準波形の取得に手間がかかる。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、転がり案内装置に装着されたセンサを用いて無限循環路内における転動体の循環の良否を判断するに際し、比較対象となる基準波形を準備する必要がなく、転がり案内装置の異常発生の有無を簡便に且つ確実に把握することが可能な当該転がり案内装置の状態検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の適用対象となる転がり案内装置は、長手方向に沿って転走面を有する軌道部材と、前記転走面を転がる多数の転動体を介して前記軌道部材に組み付けられて当該軌道部材に沿って移動自在であると共に、前記転動体の無限循環路を複数有する移動部材と、を備えている。
【0011】
そして、このような転がり案内装置に適用される本発明の状態検知方法は、各無限循環路に対して当該無限循環路内における転動体の移動を検出するセンサを一乃至複数設け、前記移動部材に設けられた複数の前記センサのうち、一のセンサと他のセンサの出力信号を比較し、その比較結果に基づいて前記無限循環路内における前記転動体の循環の良否を判断するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動部材に設けられた複数の前記センサのうち、一のセンサと他のセンサの出力信号を比較し、その比較結果に基づいて前記無限循環路内における前記転動体の循環の良否を判断するので、当該判断に際し、比較対象となる基準波形を準備する必要がなく、転がり案内装置の異常発生の有無を簡便に且つ確実に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用可能な転がり案内装置の第一実施形態を示す斜視図である。
図2】転動体の無限循環路の構成を示す断面図である。
図3】本発明の状態検知方法を実施するシステムの構成の一例を示すブロック図である。
図4】転動体検出センサの出力信号の一例を示す図である。
図5】本発明を適用可能な転がり案内装置の第二実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を用いながら本発明の転がり案内装置の状態検知方法を詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明を適用した転がり案内装置の第一実施形態を示す斜視図である。この転がり案内装置は、直線状に延びる軌道部材1と、転動体としての多数のボールを介して前記軌道部材1に組付けられた移動部材2とから構成されており、各種機械装置の固定部に前記軌道部材1を敷設し、前記移動部材2に対して各種の可動体を搭載することで、かかる可動体を軌道部材1に沿って往復移動自在に案内することができるようになっている。
【0016】
前記軌道部材1は略断面四角形状の長尺体に形成されている。この軌道部材1には長手方向に所定の間隔をおいて上面から底面に貫通するボルト取付け孔12が複数形成されており、これらボルト取付け孔12に挿入した固定ボルトを用いて、当該軌道部材1を固定部に対して強固に固定することができるようになっている。前記軌道部材1の左右両側面には転動体6の転走面11が2条ずつ設けられ、軌道部材全体としては4条の転走面11が設けられている。尚、前記軌道部材1に設けられる転走面11の条数はこれに限られるものではない。
【0017】
一方、前記移動部材2は、大きく分けて、金属製の本体部材21と、この本体部材21の移動方向の両端に装着される一対の合成樹脂製の蓋体22A,22Bとから構成されている。この移動部材2は前記軌道部材1の各転走面11に対応して転動体6としてのボールの無限循環路を複数備えており、図1に示す移動部材2では前記軌道部材1の4条の転走面11に対応して4回路の無限循環路が設けられている。また、前記蓋体22Aには前記移動部材2と軌道部材1との隙間を密閉するシール部材4が固定されており、軌道部材1に付着した塵芥などが前記無限循環路の内部に侵入するのを防止している。尚、図1は、前記転動体6の無限循環路が把握できるように、前記本体部材21から前記蓋体22Bを取り外した状態を示している。
【0018】
図2は前記無限循環路を示す断面図である。同図に示すように、無限循環路5は、負荷通路50、戻し通路51及び一対の方向転換路52を有している。前記移動部材2を構成する本体部材21には、前記軌道部材1の転走面11と対向する負荷転走面23が形成されており、転動体6は軌道部材1の転走面11と本体部材21の負荷転走面23との間で荷重を負荷しながら転がる。前記無限循環路5のうち、このように転動体6が荷重を負荷しながら転動している通路部分が前記負荷通路50である。また、前記本体部材21には前記負荷通路50と平行に前記戻し通路51が形成されている。この戻し通路51は、通常、前記本体部材21を貫通して設けられており、その内径は転動体6の直径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、転動体6は荷重を負荷することなく前記戻し通路内を転動する。
【0019】
前記方向転換路52は一対の蓋体22A,22Bに設けられている。これら蓋体22A,22Bは前記本体部材21を挟むようにして当該本体部材21の端面に固定されており、各蓋体22A,22Bの方向転換路52は前記負荷通路50の端部と前記戻し通路51の端部とを接続し、これらの間で転動体6を往来させている。
【0020】
従って、前記本体部材21に対して一対の蓋体22A,22Bを固定すると、転動体6の無限循環路5が完成する。この無限循環路5において転動体6が荷重を負荷しながら転動するのは、前記本体部材21の負荷転走面23と前記軌道部材1の転走面11とが対向して形成された負荷通路50のみである。
【0021】
尚、図を用いて説明した実施形態の転がり案内装置では転動体6としてボールを使用していたが、ローラを使用した転がり案内装置に本発明を適用することもできる。
【0022】
図1に示すように、前記移動部材2の蓋体22Bの外側には、前記シール部材4に代えて、転動体検出センサを内蔵したセンサプレート35が固定されている。このセンサプレート35は四基の転動体検出センサを内蔵しており、各転動体検出センサは前記移動部材2に設けられた4回路の無限循環路5のそれぞれに対応している。前記センサプレート35を前記蓋体22Bに固定すると、図2に示すように、各転動体検出センサ36が略半円状に形成された前記方向転換路52の頂点部分に対応して配置される。また、前記センサプレート35は前記移動部材2と軌道部材1との隙間を密閉するシール部材を兼ねている。尚、符号37は前記転動体検出センサ36と後述する制御部を繋ぐ信号ケーブルである。
【0023】
尚、各転動体検出センサ36は、前記センサプレート35を用いることなく、前記蓋体22Bに対して直接固定してもよい。
【0024】
前記転動体検出センサ36はJISに規定される近接スイッチのように前記方向転換路52内における転動体6の通過を非接触で検出するものであればよく、例えば、前記転動体6が金属製のボールやローラの場合は誘導形近接スイッチ、静電容量形近接スイッチを利用することができる。また、音響反射によって物体を検出する超音波形近接スイッチ、光線の反射または遮光によって物体を検出する光電形近接スイッチ等も前記転動体検出センサ36として使用することができる。
【0025】
前記移動部材2が前記軌道部材1に沿って移動すると、前記転動体6は前記無限循環路5内を循環する。この際、前記無限循環路5内に配列された多数の転動体6は前記方向転換路を通過し、前記転動体検出センサ36の出力信号は個々の転動体6が当該転動体検出センサ36の近接位置を通過するたびに変化する。例えば、多数の転動体6が前記無限循環路5内を滑らかに循環しており、一定間隔で前記転動体検出センサ36の近接位置を通過するのであれば、当該転動体検出センサ36の出力信号は一定周期で変化する。一方、何らかの理由で前記無限循環路5内における転動体6の動きが悪くなった場合、前記転動体検出センサ36の近接位置における転動体6の通過間隔が不規則となる傾向にあり、これに伴って当該転動体検出センサ36の出力信号が変化する周期も不規則となる。
【0026】
従って、複数の前記転動体検出センサ36の出力信号を記録してこれらを対比した場合、仮にすべての無限循環路5において前記転動体5の動きが同じように円滑であれば、対比した複数の転動体検出センサの出力信号の差異は軽微なものとなる。一方、いずれかの無限循環路5において前記転動体6の動きが悪化しているとすれば、対比した複数の転動体検出センサ36の出力信号には大きな差異が存在するはずである。すなわち、複数の転動体検出センサ36の出力信号を対比することで、前記転動体6の循環に何らかの障害が生じている可能性を発見することができ、また、障害が発生していると推測される無限循環路5を特定することが可能である。
【0027】
図3は前記転動体検出センサ36を用いた転がり案内装置の状態検知システムの構成を示すブロック図である。前記センサプレート35に内蔵された4基の転動体検出センサ36の出力信号はA/D変換器等を介して制御部38に入力される。前記制御部38はRAM及びROMを内蔵したマイクロコントローラによって実現される。前記制御部38は予めROMに格納された検知プログラムを実行し、前記転動体検出センサ36の出力信号を他の転動体検出センサ36の出力信号と比較し、比較結果に応じた判定信号を出力する。前記制御部38が出力する判定信号は警報機、又はディスプレイ等のユーザーインターフェース39に出力される。
【0028】
前記制御部38は前記センサプレート35に含まれた4基の転動体検出センサ36のうち、特定の転動体検出センサ36の出力信号を他の3基の転動体検出センサ36の出力信号のそれぞれと個別に比較する。比較に当たっては、比較する二つの出力信号を関数x(i)、関数y(i)と考え、これら関数の類似度をこれら関数の重畳積分である相互相関関数によって調べる。但し、転動体検出センサの出力信号の波形は離散的なデータ列であるため、実際には以下の式を用いて相関係数rxyを計算する。
【0029】
【数1】
【0030】
【表1】
【0031】
比較した二つのデータ列の類似度が高い場合、相関係数rxyの絶対値は1に近い値となり、類似度が低い場合、相関係数rxyの絶対値は0に近い値となる。
【0032】
図4に示されるch1~ch4の各グラフは、前記移動部材2に含まれる4回路の無限循環路のそれぞれについて、転動体検出センサ36の出力信号の時間変化を示しており、横軸が時間経過、縦軸が信号強度の変化を示している。各転動体検出センサ36はその設置位置を転動体6が通過すると出力信号の電圧強度が高まり、転動体6が各転動体検出センサ36の設置位置から離れるにつれて出力信号の電圧強度が低下する。従って、各グラフの波形の一山が転動体6の通過を示しており、当該波形の谷が無限循環路5内で前後する転動体6の間隔に対応している。
【0033】
図4に示すグラフを観察すると、ch1~ch3の無限循環路5では、転動体6が等間隔で規則的に転動体検出センサ36の設置位置を通過していることが把握される。しかし、ch4の無限循環路5では、転動体6の通過速度が部分的に低下していることが把握され、前記転走面11におけるフレーキングの発生や、転動体6と転走面11との間の異物の噛み込み等、何らかの理由で無限循環路5内における転動体6の円滑な循環が阻害されていることが疑われる。
【0034】
以下の表2は、ch1~ch4に設けられた4基の転動体検出センサ36のうち、二つの転動体検出センサ36の出力信号の類似度を相関係数rxyとして計算した一例を示すものである。前記制御部38はch1~ch4の転動体検出センサ36の出力信号を相互に比較するので、表2に示すように相関係数rxyの計算結果は6通り存在する。比較に当たっては、前記転動体6が前記無限循環路5を一巡する時間長さの出力信号を前記転動体検出センサ36から前記制御部38に取り込んでいる。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示された相関係数の値を見ると、ch1~ch3の転動体検出センサ36の出力信号を相互に比較した3つの組み合わせにおいて相関係数の値が0.9を超えており、これら出力信号の類似度が高いものと推測される。一方、ch4の転動体検出センサ36の出力信号をその他のch1~ch3の出力信号と比較した3つの組み合わせにおいて、相関係数の値は0.6よりも小さい値となっており、これら出力信号の類似度が低いことが推測される。従って、表2に示された相関係数からすると、ch1~ch4の4回路の無限循環路5のうち、ch4の無限循環路5では転動体6の循環の様子が他の無限循環路5と異なっており、当該無限循環路5では異物の噛み込み等の何らかの原因によって転動体6の循環に異常が生じていると判断することができる。
【0037】
このように、前記制御部38はch1~ch4の無限循環路5について転動体検出センサ36の出力信号の組み合わせから相関係数を算出し、当該相関係数が所定値以下(例えば0.7以下)となる組み合わせが存在する場合には、前記ユーザーインターフェース39を介して転がり案内装置の異常をユーザーに注意喚起する。ユーザーは前記ユーザーインターフェース39の表示から無限循環路5内における転動体6の循環に何らかの不具合が生じていると把握することができる。
【0038】
また、前記制御部はch1~ch4の無限循環路5の組み合わせのうち、相関係数が所定値以下(例えば0.7以下)となる無限循環路5の組み合わせを抽出し、抽出したすべての組み合わせに含まれる無限循環路5を特定し、前記ユーザーインターフェース39を介してその結果をユーザーに提示する。これにより、ユーザーは転動体6の循環異常が発生している可能性の高い無限循環路5を早期に把握することができ、転がり案内装置の異常の発生原因を早期に解明することが可能となる。
【0039】
更に、この種の転がり案内装置は例えばマシニングセンタ等の数値制御工作機械において、ワークテーブルの移動、主軸台の移動等を担う部品として使用されている。仮に前記軌道部材1に対する前記移動部材2の走行に異常が存在する場合には、数値制御工作機械によるワークの加工精度に影響が及ぶ可能性が考えられる。このため、前記制御部38による転がり案内装置の状態検知の結果を数値制御工作機械の制御コンピュータに対して直接入力することは、加工不良品の発生率を低下させるために有効である。具体的には、前記制御部38が生成した警告信号を数値制御工作機械の制御コンピュータに入力し、前記制御コンピュータが工作機械の運転を強制的に停止して、転がり案内装置の点検をオペレーターに対して促すことも可能となる。
【0040】
また、図1乃至図4を用いた説明では前記移動部材2に含まれるすべての無限循環路5に対して前記転動体検出センサ36を1基ずつ設け、特定の無限循環路5とその他の無限循環路5との間で転動体検出センサ36の出力信号を対比したが、各無限循環路5に対して一対の転動体検出センサ36を設け、これら転動体検出センサ36の出力信号を対比しても良い。その場合、一対の転動体検出センサ36の取付け位置は、個々の無限循環路5に関して前記転動体の循環方向に距離を置いた位置とし、例えば前記センサプレート35を前記移動部材2の蓋体22A,22Bの夫々の外側に設け、前記無限循環路5の負荷通路50の両端に一対の転動体検出センサ36を設ける。
【0041】
このようにすれば、前記負荷通路50の入口と出口における転動体6の動きを各転動体検出センサ36の出力信号から把握することができ、これら一対の転動体検出センサ36の出力信号から前述の相関係数を計算することにより、転動体6の循環に何らかの不具合が生じている無限循環路5を把握することが可能となる。
【0042】
以上説明してきた転がり案内装置の状態検知方法では、前記移動部材2に設けられた複数の無限循環路5の夫々に対して一乃至複数の転動体検出センサ36を設け、特定の転動体検出センサ36と他の転動体検出センサ36の出力信号を比較することで、その比較結果に基づいて前記無限循環路5内における前記転動体6の循環の良否を判断することが可能である。このため、前記転動体6の循環の良否を判断するに際して、前記転動体検出センサの出力信号を基準波形と比較する必要がないといった利点がある。
【0043】
従って、製品や使用環境の相違を考慮して基準波形を準備する必要がなく、また、転がり案内装置の累積使用時間の増大に伴って基準波形を更新する手間も不要であり、本発明方法によれば、転がり案内装置の異常発生の有無を簡便に且つ確実に把握することが可能である。
【0044】
尚、本発明方法の適用対象となる転がり案内装置は前述の実施形態に示したものに限られない。例えば、図5に示すように、前記転動体6を一定の間隔で配列した可撓性の保持ベルト60を当該転動体6と一緒に前記移動部材2の無限循環路5に対して組み込んだものであってもよい。
【0045】
また、本発明方法は転動体の無限循環路を備えた転がり案内装置であれば、例えば、ボールスプライン装置やボールねじ装置にも適用することが可能である。
【0046】
1…軌道部材、2…移動部材、5…無限循環路、6…転動体、35…センサプレート、36…転動体検出センサ、50…負荷通路、51…戻し通路、52…方向転換路
図1
図2
図3
図4
図5