(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】導電フィルム、導電フィルム巻回体およびその製造方法、ならびに温度センサフィルム
(51)【国際特許分類】
G01K 7/18 20060101AFI20230908BHJP
G01K 7/16 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
G01K7/18 B
G01K7/16 B
(21)【出願番号】P 2019181493
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】中島 一裕
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-1002(JP,A)
【文献】国際公開第2019/107036(WO,A1)
【文献】特開2017-24267(JP,A)
【文献】特開平7-333073(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0302951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
H01B 5/00-5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの表面にハードコート層を備える樹脂フィルム基材、前記樹脂フィルム基材のハードコート層形成面上に設けられた下地層、および前記下地層上に設けられた金属薄膜を備え、
前記下地層は、少なくとも1層の無機誘電体薄膜を含み、
前記ハードコート層は、平均一次粒子径が10~100nmの第一微粒子を含み、
前記ハードコート層の断面において、前記第一微粒子が占める面積比率が10%以上である、
温度センサ用導電フィルム。
【請求項2】
前記金属薄膜は、長さ1μmの粗さ曲線から求められる算術平均粗さが2~25nmである、請求項1に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項3】
前記金属薄膜は、長さ1μmの粗さ曲線から求められる二乗平均平方根粗さが2.5~40nmである、請求項1または2に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層は、平均一次粒子径が0.5~3.5μmの第二微粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層の厚みが、前記第二微粒子の平均一次粒子径の0.5~1倍である、請求項4に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項6】
前記下地層は、少なくとも1層のシリコン系薄膜を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項7】
前記金属薄膜の厚みが、20~500nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項8】
前記金属薄膜がニッケルまたはニッケル合金からなる、請求項1~7のいずれか1項に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項9】
前記金属薄膜の抵抗温度係数が3000ppm/℃以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の温度センサ用導電フィルム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の導電フィルムを製造する方法であって、
前記金属薄膜をスパッタ法により成膜する、導電フィルムの製造方法。
【請求項11】
樹脂フィルムの表面にハードコート層を備える樹脂フィルム基材、前記樹脂フィルム基材のハードコート層形成面上に設けられた下地層、および前記下地層上に設けられ、パターニングされた金属薄膜を備え、
前記金属薄膜が、細線にパターニングされており温度測定に用いられる測温抵抗部と、前記測温抵抗部に接続され、前記測温抵抗部よりも大きな線幅にパターニングされているリード部とにパターニングされており、
前記下地層は、少なくとも1層の無機誘電体薄膜を含み、
前記ハードコート層は、平均一次粒子径が10~100nmの第一微粒子を含み、
前記ハードコート層の断面において、前記第一微粒子が占める面積比率が10%以上である、
温度センサフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材上にパターニングされた金属薄膜を備える温度センサフィルム、ならびに温度センサフィルムの作製に用いられる導電フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器には多数の温度センサが用いられている。温度センサとしては、熱電対やチップサーミスタが一般的である。熱電対やチップサーミスタ等により、面内の複数箇所の温度を測定する場合は、測定点ごとに温度センサを配置し、それぞれの温度センサをプリント配線基板等に接続する必要があるため、製造プロセスが煩雑となる。また、面内の温度分布を測定するためには基板上に多数のセンサを配置する必要があり、コストアップの要因となる。
【0003】
特許文献1には、フィルム基材上に金属膜を設け、金属膜をパターニングして、測温抵抗部とリード部を形成した温度センサフィルムが提案されている。金属膜をパターニングする形態では、1層の金属膜から測温抵抗部と、測温抵抗部に接続されたリード部とを形成可能であり、個々の測温センサを配線で接続する作業を必要としない。また、フィルム基材を用いるため、可撓性に優れ、曲面形状のデバイスや、フレキシブルデバイス等への対応も容易である。
【0004】
金属膜をパターニングした温度センサでは、リード部を介して測温抵抗部に電圧を印加し、金属の抵抗値が温度により変化する特性を利用して、温度を測定する。温度測定の精度を高めるためには、温度変化に対する抵抗変化の大きい材料が好ましい。特許文献2には、ニッケルは、銅に比べて温度に対する感度(抵抗変化)が約2倍であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-91045号公報
【文献】特開平7-333073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂フィルム基材上に金属薄膜を備える導電フィルムを作製し、金属薄膜をパターニングすることにより、温度センサフィルムが得られる。樹脂フィルム基材を用いる場合、ロールトゥーロールスパッタ等の連続成膜方式を採用することにより、長尺(例えば、10m~1万m程度)の樹脂フィルム基材上に、膜厚や特性が均一な金属薄膜を形成できる。
【0007】
ロールトゥーロールプロセスにより導電フィルムを形成する場合、ロール搬送時の擦れ等により金属薄膜への傷が生じ難いこと(耐擦傷性)が要求される。また、ロール搬送時やデバイスの組み立て時にフィルムが曲げられた際に、金属薄膜にクラックが生じ難いこと(耐屈曲性)が要求される。
【0008】
本発明者らの検討により、樹脂フィルム基材上に金属薄膜を設けた導電フィルムは、金属薄膜の耐擦傷性や耐屈曲性が十分ではなく、導電フィルムの製造工程、金属薄膜のパターニングおよびデバイスへ組み立て時等に、金属薄膜に傷やクラックが発生し、断線等の不良を生じる場合があることが判明した。
【0009】
この点に鑑みさらに検討の結果、樹脂フィルムの表面にハードコート層を設け、ハードコート層上に金属薄膜を設けることにより、金属薄膜の耐擦傷性が向上することを見出した。しかし、ハードコート層を設けても、耐屈曲性の向上はみられなかった。また、ハードコート層上に金属薄膜を設けると、耐擦傷性が向上する反面、金属薄膜の密着性が低下し、高温環境や高湿度環境に長時間暴露した際に、樹脂フィルム基材から金属薄膜が剥離しやすくなることが判明した。
【0010】
当該課題に鑑み、本発明は、樹脂フィルム基材上に、耐擦傷性および耐屈曲性に優れる金属薄膜を備え、かつ金属薄膜の密着性に優れる導電フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
温度センサ用導電フィルムは、ハードコート層を備える樹脂フィルム基材のハードコート層形成面上に、下地層を備え、下地層上に金属薄膜を備える。ハードコート層は、平均一次粒子径が10~100nmである第一粒子(ナノ粒子)を含む。ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は10%以上が好ましい。ハードコート層には、ナノ粒子に加えて、平均一次粒子径が0.5~3.5μmの第二微粒子(マイクロ粒子)を含んでいてもよい。
【0012】
下地層は少なくとも1層の無機誘電体薄膜を含み、金属薄膜の直下に接する薄膜が無機誘電体薄膜であることが好ましい。また、下地層は、少なくとも1層のシリコン系薄膜を含むことが好ましい。一実施形態では、金属薄膜の直下に接する薄膜が酸化シリコン薄膜である。
【0013】
金属薄膜は、算術平均粗さRaが2nm以上であることが好ましく、二乗平均平方根粗さRqが2.5nm以上であることが好ましい。RaおよびRqは、長さ1μmの粗さ曲線から求められる。金属薄膜の算術平均粗さRaは25nm以下であってもよく、金属薄膜の二乗平均平方根粗さRqは40nm以下であってもよい。
【0014】
導電フィルムの金属薄膜をパターニングすることにより、温度センサフィルムを形成できる。温度センサフィルムは、樹脂フィルム基材のハードコート層上に、下地層およびパターニングされた金属薄膜を備え、金属薄膜が、測温抵抗部とリード部とにパターニングされている。樹脂フィルム基材の両面に、下地層および金属薄膜が設けられていてもよい。
【0015】
導電フィルムおよび温度センサフィルムの金属薄膜は、抵抗温度係数が3000ppm/℃以上であることが好ましい。金属薄膜の厚みは20~500nmが好ましい。金属薄膜は、ニッケルまたはニッケル合金からなるニッケル系薄膜であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
樹脂フィルム基材のハードコート層形成面上に下地層を介して金属薄膜が設けられた導電フィルム、および金属薄膜をパターニングした温度センサフィルムは、金属薄膜の耐擦傷性、耐屈曲性および密着性が高く、加工性、耐久性および信頼性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】導電フィルムの積層構成例を示す断面図である。
【
図3】温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図であり、Aは2線式、Bは4線式の形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、温度センサフィルムの形成に用いられる導電フィルムの積層構成例を示す断面図であり、樹脂フィルム基材50の一主面上に金属薄膜10を備え、樹脂フィルム基材50と金属薄膜10との間に下地層20を備える。この導電フィルム102の金属薄膜をパターニングすることにより、
図2の平面図に示す温度センサフィルム110が得られる。
【0019】
[導電フィルム]
<樹脂フィルム基材>
樹脂フィルム基材50は、透明でも不透明でもよい。
図1に示すように、樹脂フィルム基材50は、樹脂フィルム5の表面にハードコート層(硬化樹脂層)6を備える。樹脂フィルム基材50の厚みは特に限定されないが、一般には、2~500μm程度であり、20~300μm程度が好ましい。
【0020】
樹脂フィルム5の表面および/またはハードコート層6の表面には、易接着層、帯電防止層等が設けられていてもよい。樹脂フィルム5の表面および/またはハードコート層6の表面には、密着性向上等を目的として、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の処理を施してもよい。
【0021】
(樹脂フィルム)
樹脂フィルム5の樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリオレフィン、ノルボルネン系等の環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート等が挙げられる。耐熱性、寸法安定性、電気的特性、機械的特性、耐薬品特性等の観点から、ポリイミドまたはポリエステルが好ましい。樹脂フィルム5の厚みは特に限定されないが、一般には、2~500μm程度であり、20~300μm程度が好ましい。
【0022】
(ハードコート層)
樹脂フィルム5の表面にハードコート層6が設けられることにより、導電フィルムの硬度が向上し、導電フィルムの耐擦傷性が高められる。ハードコート層6は、例えば、樹脂フィルム5上に、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成できる。
【0023】
硬化性樹脂としては、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種の樹脂が挙げられる。
【0024】
これらの中でも、硬度が高く、紫外線硬化が可能で生産性に優れることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂には、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、中でも当該官能基を2個以上、特に3~6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマーを成分として含むものが挙げられる。
【0025】
ハードコート層6は、上記の樹脂成分に加えて、平均一次粒子径が10~100nmの微粒子(以下「ナノ粒子」と記載する場合がある)を含む。ハードコート層6にナノ粒子を含めることにより、樹脂フィルム基材50の表面に微細な凹凸が形成され、ハードコート層6と下地層20および金属薄膜10との密着性および金属薄膜の耐屈曲性が向上する傾向がある。分散性を高める観点から、ナノ粒子の平均一次粒子径は20nm以上が好ましい。下地層20との密着性向上に寄与する微細な凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の平均一次粒子径は90nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。
【0026】
ハードコート層の断面において、ナノ粒子が占める面積比率は10%以上が好ましい。ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は、15%以上または20%以上であってもよい。ナノ粒子が占める面積比率は、ハードコート層の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像を解析することにより求められる。
【0027】
ナノ粒子の比率が大きいほど、ハードコート層の表面全体に均一に凹凸が形成されやすく、下地層20および金属薄膜10の密着性および金属薄膜10の耐屈曲性が向上する傾向がある。一方、ナノ粒子の比率が過度に大きい場合は、粒子の凝集により表面凹凸が粗大化する場合がある。また、表面凹凸に起因して金属薄膜10の結晶化が妨げられ、抵抗温度係数(TCR)が低下する場合がある。そのため、ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましい。ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は、40%以下、35%以下または30%以下であってもよい。
【0028】
ハードコート層におけるナノ粒子の量を上記範囲とするためには、ハードコート層の形成用組成物におけるナノ粒子の量を調整すればよい。ナノ粒子の量は、樹脂成分100重量部に対して、10~50重量部が好ましい。ナノ粒子の量は、樹脂成分100重量部に対して、45重量部以下、40重量部以下、35重量部以下または30重量部以下であってもよい。
【0029】
ナノ粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の各種金属酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等のポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子、シリコーン系微粒子等を特に制限なく使用できる。樹脂バインダ中での分散性、および下地層20を構成する無機材料との密着性向上効果に優れることから、ナノ粒子は無機粒子であることが好ましく、中でも、金属酸化物粒子が好ましく、シリカまたはアルミナが特に好ましい。
【0030】
ハードコート層6には、上記のナノ粒子に加えて、ナノ粒子よりも粒子径の大きい第二粒子が含まれていてもよい。第二粒子の平均一次粒子径は、例えば、0.5~10μmであり、0.8~5μmであってもよい。サブミクロンまたはμmオーダーの平均粒子径を有する微粒子(以下「マイクロ粒子」と記載する場合がある)を含むことにより、ハードコート層6の表面(樹脂フィルム基材50の表面)、およびその上に設けられる薄膜の表面に、直径がサブミクロンまたはμmオーダーの突起が形成され、導電フィルムの滑り性および耐ブロッキング性が向上する傾向がある。ハードコート層の表面の全体に均一に突起を形成して、滑り性および耐ブロッキング性を向上する観点から、ハードコート層におけるマイクロ粒子の量は、樹脂成分100重量部に対して0.05~20重量部が好ましく、0.1~10重量部がより好ましい。
【0031】
ハードコート層を形成するための溶液には、紫外線重合開始剤が配合されていることが好ましい。溶液中には、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0032】
ハードコート層6の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するためには、0.5μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。塗布による形成の容易性を考慮すると、ハードコート層の厚みは15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0033】
ハードコート層にマイクロ粒子が含まれる場合、ハードコート層の厚みがマイクロ粒子の平均一次粒子径と同等以下であれば、ハードコート層の表面に突起が形成されやすく、滑り性、耐ブロッキング性、および耐擦傷性が向上に有利である。一方、マイクロ粒子の厚みに比してハードコート層の厚みが過度に小さい場合は、ハードコート層から微粒子が脱落し、滑り性、耐ブロッキング性、および耐擦傷性の低下の原因となり得る。ハードコート層の厚みは、マイクロ粒子の平均一次粒子径の0.5~1倍が好ましく、0.6~0.9倍がより好ましい。
【0034】
ハードコート層6の算術平均粗さRaは、2nm以上が好ましい。Raは、2.5nm以上または3nm以上であってもよい。ハードコート層6の二乗平均平方根粗さRqは、2.5nm以上が好ましい。Rqは3nm以上、3.5nm以上、4nm以上、4.5nm以上または5nm以上であってもよい。ハードコート層6に含まれるナノ粒子の量が多いほど、RaおよびRqが大きくなる傾向がある。
【0035】
算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根粗さRqは、走査型プローブ顕微鏡を用いた1μm四方の観察像から、長さ1μmの粗さ曲線を抽出し、JIS B0601:2013に準じて算出される。ハードコート層の表面粗さRa,Rqが大きいほど、ハードコート層上に形成される薄膜(下地層20および金属薄膜10)の密着性、および金属薄膜の耐屈曲性が向上する傾向がある。
【0036】
一方、ハードコート層の表面粗さが過度に大きい場合は、表面凹凸に起因して、金属薄膜の結晶化が阻害され、TCRが小さくなる場合がある。そのため、ハードコート層6の算術平均粗さRaは25nm以下が好ましく、ハードコート層6の二乗平均平方根粗さRqは40nm以下が好ましい。Raは、20nm以下、15nm以下、12nm以下または10nm以下であってもよい。Rqは35nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下または15nm以下であってもよい。
【0037】
<下地層>
導電フィルム102は、樹脂フィルム基材50のハードコート層6と金属薄膜10との間に下地層20を備える。下地層20は単層でもよく、
図1に示すように2層以上の薄膜の積層構成でもよい。下地層20は有機層でも無機層でもよく、有機層と無機層とを積層したものでもよいが、少なくとも1層は無機薄膜であることが好ましく、特に、金属薄膜10の直下に設けられる薄膜22が無機薄膜であることが好ましい。下地層20として無機薄膜が設けられることにより、金属薄膜10を形成する際に、樹脂フィルム基材50からの金属薄膜10への有機ガスの混入が抑制され、金属薄膜10の抵抗温度係数(TCR)が大きくなる傾向があり、温度センサフィルムにおける温度測定精度が向上する。
【0038】
下地層20は導電性でも絶縁性でもよい。金属薄膜10の直下に配置される薄膜22が導電性の無機材料(無機導電体)である場合は、温度センサフィルムの作製時に金属薄膜10とともに薄膜21(または下地層20全体)をパターニングすればよい。薄膜21が絶縁性の無機材料(無機誘電体)である場合、薄膜21はパターニングしてもよく、パターニングしなくてもよい。
【0039】
無機材料としては、Si,Ge,Sn,Pb,Al,Ga,In,Tl,As,Sb,Bi,Se,Te,Mg,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Ni,Co,Rh,Ir,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd等の金属元素または半金属元素、およびこれらの合金、窒化物、酸化物、炭化物、窒酸化物等が挙げられる。ハードコート層6を構成する有機材料および金属薄膜10を構成するニッケル等の金属材料の両方に対する密着性に優れ、かつ金属薄膜への不純物混入抑制効果が高いことから、下地層の材料としては、シリコン系材料または酸化クロムが好ましい。
【0040】
シリコン系材料としては、シリコン、ならびに酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンおよび炭化シリコン等のシリコン化合物が挙げられる。中でも、ハードコート層および金属薄膜に対する密着性に優れ、かつ耐屈曲性向上効果に優れることから、シリコンまたは酸化シリコンが好ましい。金属薄膜10をパターニングした際の配線間の絶縁を確保する観点から、金属薄膜10の直下の層22は、酸化シリコン等の無機誘電体薄膜であることが好ましい。
【0041】
金属薄膜10の直下に、酸化シリコン薄膜等の比抵抗の大きい薄膜22が設けられることにより、配線(パターニングされた金属薄膜)間の漏れ電流が低減し、温度センサフィルムの温度測定精度が向上する傾向がある。酸化シリコンは化学量論組成(SiO2)でもよく、非化学量論組成(SiOx;x<2)でもよい。非化学量論組成である酸化シリコン(SiOx)は、1.2≦x<2が好ましい。
【0042】
下地層20として、シリコン薄膜21上に酸化シリコン薄膜22を形成してもよい。また、酸化クロム薄膜21と酸化シリコン薄膜22との積層構成を有する下地層20も、密着性および耐屈曲性向上、ならびにTCR向上の観点から好ましい。
【0043】
下地層20の厚みおよび下地層20を構成する薄膜の厚みは特に限定されない。金属薄膜10への下地効果により耐屈曲性を高める観点、および金属薄膜形成時の樹脂フィルム基材へのプラズマダメージ低減や樹脂フィルム基材からのアウトガスの遮断効果を高める観点から、下地層20の厚みは、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。生産性向上や材料コスト低減の観点から、下地層の厚みは200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。
【0044】
<金属薄膜>
下地層20上に設けられる金属薄膜10は、温度センサにおける温度測定の中心的な役割を果たす。金属薄膜10をパターニングすることにより、
図2に示すように、リード部11および測温抵抗部12が形成される。ナノ粒子を含むハードコート層6上に、下地層20を介して金属薄膜10を設けることにより、密着性を低下させることなく、耐擦傷性が向上するとともに、耐屈曲性も向上する傾向がある。
【0045】
金属薄膜10を構成する金属材料の例としては、銅、銀、アルミニウム、金、ロジウム、タングステン、モリブデン、亜鉛、スズ、コバルト、インジウム、ニッケル、鉄、白金、パラジウム、スズ、アンチモン、ビスマス、マグネシウム、およびこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、低抵抗であり、TCRが高く、材料が安価であることから、ニッケル、銅、またはこれらを主成分とする(50重量%以上含む)合金が好ましく、特にニッケル、またはニッケルを主成分とするニッケル合金が好ましい。
【0046】
金属薄膜10の厚みは特に限定されないが、低抵抗化の観点(特に、リード部の抵抗を小さくする観点)から、20nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましい。一方、成膜時間の短縮およびパターニング精度向上等の観点から、金属薄膜10の厚みは、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。一般に、金属薄膜の厚みが大きくなると、残留応力が大きくなり樹脂フィルム基材との密着性が低下する傾向があるが、ナノ粒子を含むハードコート層上に下地層を介して金属薄膜を設けることにより、密着性が向上するため、金属薄膜の厚みが大きい場合でも、樹脂フィルム基材からの金属薄膜の剥離を抑制できる。
【0047】
金属薄膜10がニッケル薄膜またはニッケル合金薄膜である場合、温度25℃における比抵抗は、1.6×10-5Ω・cm以下が好ましく、1.5×10-5Ω・cm以下がより好ましい。リード部の抵抗を小さくする観点からは、金属薄膜の比抵抗は小さいほど好ましく、1.2×10-5Ω・cm以下、または1.0×10-5Ω・cm以下であってもよい。金属薄膜の比抵抗は小さいほど好ましいが、バルクのニッケルよりも比抵抗を小さくすることは困難であり、一般に比抵抗は7.0×10-6Ω・cm以上である。
【0048】
金属薄膜10のTCRは、3000ppm/℃以上が好ましく、3400ppm/℃以上がより好ましく、3600ppm/℃以上がさらに好ましく、3800ppm/℃以上が特に好ましい。TCRは、温度上昇に対する抵抗の変化率である。ニッケルや銅等の金属は、温度上昇に伴って抵抗が線形的に増加する特性(正特性)を有する。正特性を有する材料のTCRは、温度T0における抵抗値R0と、温度T1における抵抗値R1から、下記式により算出される。
TCR={(R1-R0)/R0}/(T1-T0)
【0049】
本明細書では、T0=25℃およびT1=5℃における抵抗値から算出されるTCRと、T0=25℃およびT1=45℃における抵抗値から算出されるTCRの平均値を金属薄膜のTCRとする。
【0050】
TCRが大きいほど、温度変化に対する抵抗の変化が大きく、温度センサフィルムにおける温度測定精度が向上する。そのため、金属薄膜のTCRは大きいほど好ましいが、バルクの金属よりもTCRを大きくすることは困難であり、金属薄膜のTCRは一般に6000ppm/℃以下である。樹脂フィルム基材50上に下地層20を設け、その上に金属薄膜10を形成することにより、金属薄膜の比抵抗が小さくなり、TCRが大きくなる傾向がある。
【0051】
金属薄膜10の算術平均粗さRaは、2nm以上が好ましい。Raは、2.5nm以上または3nm以上であってもよい。金属薄膜10の二乗平均平方根粗さRqは、2.5nm以上が好ましい。Rqは3nm以上、3.5nm以上、4nm以上、4.5nm以上または5nm以上であってもよい。金属薄膜の表面粗さが大きいほど、金属薄膜の密着性および耐屈曲性が向上する傾向がある。一方、金属薄膜の表面粗さが過度に大きい場合は、TCRが小さくなる場合がある。そのため、金属薄膜10の算術平均粗さRaは25nm以下が好ましく、金属薄膜10の二乗平均平方根粗さRqは40nm以下が好ましい。Raは、20nm以下、15nm以下、12nm以下または10nm以下であってもよい。Rqは35nm以下、30nm以下、25nm以下、20nm以下または15nm以下であってもよい。
【0052】
ハードコート層6上に、スパッタ法等のドライコーティング法により下地層20および金属薄膜10を形成する場合、金属薄膜10の表面には、ハードコート層6の表面形状を反映した凹凸形状が形成されやすい。そのため、ハードコート層6に含まれる微粒子の粒子径や含有量を調整して、ハードコート層6のRaおよびRqを前述の範囲とすることにより、上記のRaおよびRqを有する金属薄膜10を形成できる。
【0053】
上記のように、ナノ粒子を含むハードコート層上に、下地層を介して金属薄膜を形成することにより、金属薄膜の耐擦傷性だけでなく、耐屈曲性および密着性が高められ、さらにTCRが大きくなる傾向がある。耐擦傷性の向上は、ハードコート層が設けられたことによる表面硬度の向上に起因すると考えられる。
【0054】
ナノ粒子を含まない、またはナノ粒子の含有量が少ないハードコート層上に金属薄膜を設けると、ハードコート層を設けない場合に比べて、金属薄膜の密着性が低下する傾向がある。一方、所定量のナノ粒子を含むハードコート層上に薄膜を形成すれば、密着性が向上する傾向がある。これは、ナノ粒子により形成される微細な凹凸のアンカー効果によるものと考えられる。
【0055】
また、所定量のナノ粒子を含むハードコート層上に薄膜を形成すれば、密着性だけでなく、金属薄膜の耐屈曲性が向上し、屈曲時のクラックの発生が抑制される傾向がある。耐屈曲性向上の要因の1つとして、金属薄膜の結晶性の制御が考えられる。例えば、適度の表面凹凸が形成された基材上に金属薄膜を形成することにより、成膜時の金属薄膜の結晶化が適度に阻害されて非晶質部分が残存していることが、耐屈曲性の向上に寄与していると推定される。
【0056】
<下地層および金属薄膜の形成方法>
下地層20の形成方法は特に限定されず、ドライコーティング、ウェットコーティングのいずれも採用し得る。スパッタ法により金属薄膜を形成する場合は、生産性の観点から、下地層20もスパッタ法により形成することが好ましい。
【0057】
金属薄膜の形成方法は特に限定されず、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、化学溶液析出法(CBD)、めっき法等の成膜方法を採用できる。これらの中でも、膜厚均一性に優れた薄膜を成膜できることから、スパッタ法が好ましい。ロールトゥーロールスパッタ装置を用い、長尺の樹脂フィルム基材を長手方向に連続的に移動させながら成膜を行うことにより、導電フィルムの生産性が高められる。
【0058】
ロールトゥーロールスパッタによる金属薄膜の形成においては、スパッタ装置内にロール状のフィルム基材を装填後、スパッタ成膜の開始前に、スパッタ装置内を排気して、フィルム基材から発生する有機ガス等の不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。事前に装置内およびフィルム基材中のガスを除去することにより、金属薄膜10への水分や有機ガス等の混入量を低減できる。スパッタ成膜開始前のスパッタ装置内の真空度(到達真空度)は、例えば、1×10-1Pa以下であり、5×10-2Pa以下が好ましく、1×10-2Pa以下がより好ましく、5×10-3Pa以下がさらに好ましい。
【0059】
金属薄膜のスパッタ成膜には、金属ターゲットを用い、アルゴン等の不活性ガスを導入しながら成膜が行われる。例えば、金属薄膜10としてニッケル薄膜を形成する場合は、金属Niターゲットが用いられる。スパッタ法により下地層を形成する場合、下地層の材料に応じてターゲットを選択すればよい。例えば、シリコン薄膜を形成する場合は、シリコンターゲットが用いられる。酸化シリコン薄膜の成膜には、酸化シリコンターゲットを用いてもよく、シリコンターゲットを用いて反応性スパッタにより酸化シリコンを形成してもよい。酸化クロム薄膜の形成には金属Crターゲットまたは酸化クロムターゲットが用いられる。金属ターゲットを用いて酸化物薄膜を形成する場合は、アルゴン等の不活性ガスに加えて酸素等の反応性ガスをチャンバー内に導入しながら反応性スパッタによる成膜が行われる。反応性スパッタでは、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように酸素量を調整することが好ましい。
【0060】
スパッタ成膜条件は特に限定されない。金属薄膜への水分や有機ガス等の混入を抑制するためには、金属薄膜の成膜時の樹脂フィルム基材へのダメージを低減することが好ましい。樹脂フィルム基材50上に下地層20を設け、その上に金属薄膜10を形成することにより、金属薄膜10成膜時の樹脂フィルム基材50へのプラズマダメージを抑制できる。また、下地層20を設けることにより、樹脂フィルム基材50から発生する水分や有機ガス等を遮断して、金属薄膜10への水分や有機ガス等の混入を抑制できる。
【0061】
また、成膜時の基板温度を低くする、放電パワー密度を低くする等により、樹脂フィルム基材からの水分や有機ガスの発生を抑制できる。金属薄膜のスパッタ成膜における基板温度は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。一方、樹脂フィルム基材の脆化防止等の観点から、基板温度は-30℃以上が好ましい。プラズマ放電を安定させつつ、樹脂フィルム基材へのダメージを抑制する観点から、放電パワー密度は、1~15W/cm2が好ましく、1.5~10W/cm2がより好ましい。
【0062】
金属薄膜を成膜後に、加熱処理を実施してもよい。樹脂フィルム基材上に下地層および金属薄膜を備える導電フィルムを加熱することにより、金属薄膜の結晶性が高められ、TCRが大きくなる傾向がある。加熱処理を行う場合、加熱温度は80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。加熱温度の上限は、樹脂フィルム基材の耐熱性を考慮して定めればよく、一般には200℃以下または180℃以下である。ポリイミドフィルム等の高耐熱性フィルム基板を用いる場合、加熱温度は上記範囲を上回っていてもよい。加熱時間は1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。加熱処理を行うタイミングは、金属薄膜を成膜後であれば特に限定されない。例えば、金属薄膜をパターニング後に加熱処理を実施してもよい。
【0063】
[温度センサフィルム]
導電フィルムの金属薄膜10をパターニングすることにより、温度センサフィルムが形成される。下地層20は、パターニングしてもよく、パターニングしなくてもよい。金属薄膜直下の層が酸化シリコン等の絶縁性材料である場合は、下地層20をパターニングする必要はない。
【0064】
図2に示すように、温度センサフィルムにおいて、金属薄膜は、配線状に形成されたリード部11と、リード部11の一端に接続された測温抵抗部12を有する。リード部11の他端は、コネクタ19に接続されている。
【0065】
測温抵抗部12は、温度センサとして作用する領域であり、リード部11を介して測温抵抗部12に電圧を印加し、その抵抗値から温度を算出することにより温度測定が行われる。温度センサフィルム110の面内に複数の測温抵抗部を設けることにより、複数個所の温度を同時に測定できる。例えば、
図2に示す形態では、面内の5箇所に測温抵抗部12が設けられている。
【0066】
図3Aは、2線式の温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図である。測温抵抗部12は、金属薄膜が細線状にパターニングされたセンサ配線122,123により形成されている。センサ配線は、複数の縦電極122が、その端部で横配線123を介して連結されてヘアピン状の屈曲部を形成し、つづら折れ状のパターンを有している。
【0067】
測温抵抗部12のパターン形状を形成する細線の線幅が小さく(断面積が小さく)、測温抵抗部12のセンサ配線の一端121aから他端121bまでの線長が大きいほど、2点間の抵抗が大きく、温度変化に伴う抵抗変化量も大きいため、温度測定精度が向上する。
図3に示すようなつづら折れ状の配線パターンとすることにより、測温抵抗部12の面積が小さく、かつセンサ配線の長さ(一端121aから他端121bまでの線長)を大きくできる。なお、温度測定部のセンサ配線のパターン形状は
図3に示すような形態に限定されず、らせん状等のパターン形状でもよい。
【0068】
センサ配線122(縦配線)の線幅、および隣接する配線間の距離(スペース幅)は、フォトリソグラフィーのパターニング精度に応じて設定すればよい。線幅およびスペース幅は、一般には1~150μm程度である。センサ配線の断線を防止する観点から、線幅は3μm以上が好ましく、5μm以上が好ましい。抵抗変化を大きくして温度測定精度を高める観点から、線幅は100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましい。同様の観点から、スペース幅は3~100μmが好ましく、5~70μmがより好ましい。
【0069】
測温抵抗部12のセンサ配線の両端121a,121bは、それぞれ、リード部11a、11bの一端に接続されている。2本のリード部11a,11bは、わずかな隙間を隔てて対向する状態で、細長のパターン状に形成されており、リード部の他端は、コネクタ19に接続されている。リード部は、十分な電流容量を確保するために、測温抵抗部12のセンサ配線よりも広幅に形成されている。リード部11a,11bの幅は、例えば0.5~10mm程度である。リード部の線幅は、測温抵抗部12のセンサ配線122の線幅の3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。
【0070】
コネクタ19には複数の端子が設けられており、複数のリード部は、それぞれ異なる端子に接続されている。コネクタ19は外部回路と接続されており、リード部11aとリード部11bの間に電圧を印加することにより、リード部11a、測温抵抗部12およびリード部11bに電流が流れる。所定電圧を印加した際の電流値、または電流が所定値となるように電圧を印加した際の印加電圧から抵抗値が算出される。得られた抵抗値と、予め求められている温度との関係式、または抵抗値と温度の関係を記録したテーブル等に基づいて、抵抗値から温度が算出される。
【0071】
ここで求められる抵抗値は、測温抵抗部12の抵抗に加えて、リード部11aおよびリード部11bの抵抗も含んでいるが、測温抵抗部12の抵抗は、リード部11a,11bの抵抗に比べて十分に大きいため、求められる測定値は、測温抵抗部12の抵抗とみなしてよい。なお、リード部の抵抗による影響を低減する観点から、リード部を4線式としてもよい。
【0072】
図3Bは、4線式の温度センサにおける測温抵抗部近傍の拡大図である。測温抵抗部12のパターン形状は、
図3Aと同様である。4線式では、1つの測温抵抗部12に4本のリード部11a1,11a2,11b1,11b2が接続されている。リード部11a1,11b1は電圧測定用リードであり、リード部11a2,11b2は電流測定用リードである。電圧測定用リード11a1および電流測定用リード11a2は、測温抵抗部12のセンサ配線の一端121aに接続されており、電圧測定用リード11b1および電流測定用リード11b2は、測温抵抗部12のセンサ配線の他端121bに接続されている。4線式では、リード部の抵抗を除外して測温抵抗部12のみの抵抗値を測定できるため、より誤差の少ない測定が可能となる。2線式および4線式以外に、3線式を採用してもよい。
【0073】
金属薄膜のパターニング方法は特に限定されない。パターニングが容易であり、精度が高いことからフォトリソグラフィー法によりパターニングを行うことが好ましい。フォトリソグラフィーでは、金属薄膜の表面に、上記のリード部および測温抵抗部の形状に対応するエッチングレジストを形成し、エッチングレジストが形成されていない領域の金属薄膜をウェットエッチングにより除去した後、エッチングレジストを剥離する。金属薄膜のパターニングは、レーザ加工等のドライエッチングにより実施することもできる。
【0074】
上記の実施形態では、樹脂フィルム基材50のハードコート層6上に、下地層20を設け、スパッタ法等により金属薄膜10を形成し、金属薄膜をパターニングすることにより、基板面内に、複数のリード部および測温抵抗部を形成できる。この温度センサフィルムのリード部11の端部にコネクタ19を接続することにより、温度センサ素子が得られる。この実施形態では、複数の測温抵抗部にリード部が接続されており、複数のリード部を1つのコネクタ19と接続すればよい。そのため、面内の複数個所の温度を測定可能な温度センサ素子を簡便に形成できる。
【0075】
上記の実施形態では、樹脂フィルム基材の一方の主面上にハードコート層を設け、その上に下地層および金属薄膜を形成したが、樹脂フィルム基材の両面にハードコート層を設け、それぞれの主面に下地層および金属薄膜を設けてもよい。また、樹脂フィルム基材の一方の主面のハードコート層上に下地層および金属薄膜を設け、他方の主面には異なる積層構成の薄膜を設けてもよい。
【0076】
温度センサフィルムのリード部と外部回路との接続方法は、コネクタを介した形態に限定されない。例えば、温度センサフィルム上に、リード部に電圧を印加して抵抗を測定するためのコントローラを設けてもよい。また、リード部と外部回路からのリード配線とを、コネクタを介さずに半田付け等により接続してもよい。
【0077】
温度センサフィルムは、樹脂フィルム基材上に薄膜が設けられた簡素な構成であり、生産性に優れるとともに、耐屈曲性に優れるため、加工やハンドリングが容易であり、曲面形状のデバイスや、屈曲部分を有するフレキシブルデバイスへの適用も可能である。また、金属薄膜のTCRが大きいため、より精度の高い温度測定を実現可能である。さらに、本発明の実施形態では、金属薄膜の密着性が高いため、加工性、耐久性および信頼性に優れる温度センサフィルムを形成できる。
【実施例】
【0078】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
(ハードコート組成物の調製)
紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂(アイカ工業製「アイカアイトロン Z844-22HL」)の樹脂分100重量部に対して、平均一次粒子径30nmのシリカ粒子(CIKナノテック製「CSZ9281」)を固形分で15重量部配合し、メチルイソブチルケトンを溶媒とするハードコート組成物を調製した。
【0080】
(ハードコート層付きフィルム基材の作製)
厚み150μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ製「ルミラー 149UNS」;Ra=1.5nm,Rq=1.9nm)の一方の面にハードコート組成物を塗布し、100℃で1分間乾燥した。その後,紫外線照射により硬化処理を行い,厚み1.2μmのハードコート層を形成した。ハードコート層表面の算術平均粗さRaは3.4nm、二乗平均平方根粗さRqは4.4nmであり、ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は16%であった。
【0081】
(薄膜の形成)
ロールトゥーロールスパッタ装置内に、上記のハードコート層付きフィルム基材のロールをセットし、スパッタ装置内を到達真空度が5×10-3Paとなるまで排気した後、基板温度150℃にて、ハードコート層形成面上に、厚み5nmのシリコン薄膜、厚み10nmの酸化シリコン薄膜、および厚み160nmのニッケル薄膜を、順に、DCスパッタにより成膜した。Si層およびSiO2層の形成には、BドープSiターゲットを用いた。Si層は、スパッタガスとしてアルゴンを導入し、圧力0.3Pa、パワー密度1.0W/cm2の条件で成膜した。SiO2層は、スパッタガスとしてのアルゴンに加えて反応性ガスとして酸素を導入し(O2/Ar=1/1)、圧力0.3Pa、パワー密度1.8W/cm2の条件で成膜した。ニッケル層は、金属ニッケルターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンを導入し、圧力0.3Pa、パワー密度5.0W/cm2の条件で成膜した。
【0082】
[実施例2]
ハードコート組成物の調製において、樹脂分100重量部に対して、平均一次粒子径30nmのシリカ粒子15重量部に加えて、平均一次粒子径1.55μmの架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(積水化成品工業製「テクポリマー SSX-101」)0.2重量部を添加した。それ以外は実施例1と同様にして、ハードコート層付きフィルム基材を作製し、その上に、シリコン薄膜、酸化シリコン薄膜およびニッケル薄膜を形成した。
【0083】
[実施例3]
ハードコート組成物の調製において、平均一次粒子径30nmのシリカ粒子に代えて、平均一次粒子径30nmの酸化アルミ粒子(CIKナノテック製「NanoTek」)15重量部を用いた。ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は16%であった。それ以外は、実施例2と同様にして、ハードコート層付きフィルム基材を作製し、その上に、シリコン薄膜、酸化シリコン薄膜およびニッケル薄膜を形成した。
【0084】
[実施例4]
薄膜の形成において、厚み5nmのシリコン薄膜に代えて、厚み7nmの酸化クロム薄膜を形成し、酸化クロム/酸化シリコン/ニッケルの積層構成とした。酸化クロム薄膜の形成には、金属Crターゲットを用い、スパッタガスとしてのアルゴンに加えて反応性ガスとして酸素を導入し(O2/Ar=1/1)、圧力0.3Pa、パワー密度1.8W/cm2の条件で成膜した。それ以外は実施例2と同様にして、ハードコート層付きフィルム基材上に、酸化クロム薄膜、酸化シリコン薄膜およびニッケル薄膜を形成した。
【0085】
[実施例5~8および比較例3,4]
シリカ粒子の添加量および下地層の薄膜の構成を表1に示すように変更し、ハードコート層付きフィルム基材の作製およびハードコート層上への薄膜の形成を行った。
ナノ粒子を含まない比較例3,4では、ハードコート層表面の算術平均粗さRaは0.3nm、二乗平均平方根粗さRqは0.3nmであった。
樹脂分100重量部に対して7重量部のナノ粒子を添加した比較例4では、ハードコート層表面の算術平均粗さRaは2.0nm、二乗平均平方根粗さRqは2.2nmであり、ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は8%であった。
樹脂分100重量部に対して25重量部のナノ粒子を添加した実施例5,6では、ハードコート層表面の算術平均粗さRaは6.7nm、二乗平均平方根粗さRqは9.2nmであり、ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は37%であった。
樹脂分100重量部に対して40重量部のナノ粒子を添加した実施例7,8では、ハードコート層表面の算術平均粗さRaは15.1nm、二乗平均平方根粗さRqは18.9nmであり、ハードコート層の断面においてナノ粒子が占める面積比率は42%であった。
【0086】
[比較例1]
ハードコート層および下地層を設けずに、PETフィルム上に、DCスパッタにより、厚み160nmのニッケル薄膜を形成した。
【0087】
[比較例2]
ハードコート層を設けずに、PETフィルム上に、実施例1と同様の条件で、DCスパッタにより、シリコン薄膜、酸化シリコン薄膜およびニッケル薄膜を順に形成した。
【0088】
[評価]
実施例および比較例で作製したハードコート層付きフィルム基材および導電フィルムについて、下記の評価を実施した。
【0089】
<ハードコート層断面のナノ粒子量>
ハードコート層付きフィルム基材の断面のSEM観察を行い、観察像を二値化した画像を解析して、ナノ粒子(平均一次粒子径30nmのシリカ粒子)の占める面積比率を求めた。
【0090】
<表面形状>
原子間力顕微鏡(Bruker製「Dimension3100」)を用い、下記の条件により三次元表面形状を測定し、長さ1μmの粗さ曲線を抽出し、JIS B0601に準じて、算術平均粗さRaおよび二乗平均平方根粗さRqを算出した。
コントローラ:NanoscopeV
測定モード:タッピングモード
カンチレバー:Si単結晶
測定視野:1μm×1μm
【0091】
<抵抗温度係数>
(測定用試料の作製)
導電フィルムを、10mm×200mmのサイズにカットし、レーザーパターニングにより、ニッケル層を線幅30μmのストライプ形状にパターン加工して、
図3Aに示す形状の測温抵抗部を形成した。パターニングに際しては、全体の配線抵抗が約10kΩ、測温抵抗部の抵抗がリード部の抵抗の30倍となるように、パターンの長さを調整し、測定用試料(温度センサフィルム)を作製した。
【0092】
(抵抗温度係数の測定)
小型の加熱冷却オーブンで、温度センサフィルムの測温抵抗部を5℃、25℃、45℃とした。リード部の一方の先端と他方の先端をテスタに接続し、定電流を流し電圧を読み取ることにより、それぞれの温度における2端子抵抗を測定した。5℃および25℃の抵抗値から計算したTCRと、25℃、45℃の抵抗値から計算したTCRの平均値を、ニッケル層のTCRとした。
【0093】
(加熱処理後の導電フィルムの抵抗温度係数の測定)
導電フィルムを155℃の熱風オーブン中で1時間加熱した後、上記と同様の手順で温度センサフィルムを作製し、ニッケル層のTCRを測定した。
【0094】
<密着性>
薄膜を形成後に処理を行っていない試料(初期)、80℃の熱風オーブン中で500時間の加熱耐久試験を実施後の試料(加熱試験後)、および温度65℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽で500時間の高温高湿耐久試験を実施後の試料(高温高湿試験後)のそれぞれについて、下記の評価を実施した。
【0095】
導電フィルムのニッケル薄膜形成面に、縦・横それぞれの方向に1mm間隔でカッターナイフを用いて切り目を入れ、100マスの碁盤目を形成し、旧JIS-K5400の碁盤目試験に準じて剥離試験を行い、マスの面積の1/4以上の領域で薄膜が剥離している碁盤目の個数をカウントした。数字が小さいほど密着性が高いことを示す。
【0096】
<耐屈曲性>
JIS K5600-5-1:1999に従って、タイプ1の試験機を用いて円筒型マンドレル試験を行った。試料のNi層形成面を内側として屈曲(Ni層に圧縮歪を付与)、およびNi層形成面を外側として屈曲(Ni層に引張歪を付与)の両方の試験を実施した。それぞれの試験において、マンドレルの径を順に小さくしていき、Ni層にクラックがはじめて発生したマンドレルの直径を記録した。マンドレルの直径が小さいほど、耐屈曲性に優れることを示す。
【0097】
<耐擦傷性>
10mmφの円柱状治具の平面にスチールウール(日本スチールウール製「Bonstar #0000」)を固定し、摩耗試験機により、荷重50g/cm2、摺動間隔100mm、摺動速度100mm/秒で10往復の擦傷試験を行い、試験後のニッケル薄膜表面のキズの有無を目視で確認し、下記の基準により評価した。
○:傷の本数が14本以下
△:傷の本数が15~50本
×:傷の本数が51本以上
【0098】
<耐ブロッキング性>
導電フィルムのNi薄膜形成面に、表面が平滑なフィルム(日本ゼオン製、「ZEONORフィルム ZF-16」)を指圧にて圧着させ、フィルム同士のブロッキングの状態を目視により観察し、下記の基準により評価した。
○:圧着直後にブロッキングが生じていなかったもの
△:圧着直後はブロッキングが生じているが、時間の経過とともにブロッキングが解消されたもの
×:圧着直後にブロッキングが生じており、時間が経過してもブロッキングが解消しなかったもの
【0099】
実施例および比較例における導電フィルムの構成(ハードコート層における微粒子の含有量および下地層の構成)、ならびに導電フィルムの評価結果(表面粗さ、抵抗温度係数、密着性、耐屈曲性、耐擦傷性および耐ブロッキング性)を表1に示す。
【0100】
【0101】
PETフィルム上に直接ニッケル薄膜を形成した比較例1では、引張曲げに対する耐屈曲性および耐擦傷性が劣っており、耐ブロッキング性も十分といえるものではなかった。また、比較例1の導電フィルムは他の例に比べて初期のTCRが低く、加熱後もTCRの上昇はみられなかった。
【0102】
PETフィルム上に、下地層としてシリコン薄膜および酸化シリコン薄膜を形成し、その上にニッケル薄膜を形成した比較例2では、比較例1に比べてTCRの上昇がみられたが、耐屈曲性、耐擦傷性および耐ブロッキング性は比較例1と同等であった。
【0103】
PETフィルム上にマイクロ粒子を含むハードコート層を形成し、その上に下地層およびニッケル薄膜を形成した比較例3では、比較例1,2に比べて、ニッケル薄膜の表面粗さRa,Rqが小さくなっていた。これは、ウェットコーティングによりハードコート層を形成したことにより、PETフィルムの表面凹凸が埋められて平滑化され、その上に設けられた薄膜の表面粗さが小さくなったものと考えられる。
【0104】
マイクロ粒子を含みナノ粒子を含まないハードコート層を設けた比較例3では、比較例1,2に比べて耐擦傷性および耐ブロッキング性が向上しており、TCRが大きくなっていた。しかし、比較例3では、加熱試験(80℃、500時間)後および高温高湿試験(65℃90%RH、500時間)後の試料の密着性が著しく低下していた。
【0105】
ハードコート層に、0.2重量部のマイクロ粒子に加えて7重量部のナノ粒子を添加した比較例4(ハードコート層の断面におけるナノ粒子比率:8%)では、比較例3に比べると密着性が改善していたが、高温高湿試験後の密着性が十分といえるものではなかった。また、比較例4では耐屈曲性の明確な改善はみられなかった。
【0106】
比較例4よりもナノ粒子の量が多い実施例1~8では、いずれも、加熱試験後および高温高湿試験後の試料の密着性が優れており、耐屈曲性も向上していた。実施例1と実施例2との対比から、ナノ粒子に加えて少量のマイクロ粒子を添加することにより、耐ブロッキング性が向上することが分かる。
【0107】
比較例4および実施例1~8では、ハードコート層中のナノ粒子の量の増大に伴って、表面粗さRa,Rqが大きくなり、これに伴って密着性および耐屈曲性が向上する傾向がみられた。一方、ナノ粒子の量の増大に伴ってTCRが低下する傾向がみられたが、いずれの実施例も、下地層を含まない比較例1よりも高いTCRを示した。
【0108】
以上の実施例および比較例の対比から、樹脂フィルム上に所定量のナノ粒子を含むハードコート層を形成し、その上に下地層を介して金属薄膜を形成することにより、金属薄膜が耐擦傷性、耐屈曲性および密着性に優れ、かつ高いTCRを有する導電フィルムが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0109】
50 樹脂フィルム基材
5 樹脂フィルム
6 ハードコート層
20 下地層
10 金属薄膜
11 リード部
12 測温抵抗部
122,123 センサ配線
19 コネクタ
102 導電フィルム
110 温度センサフィルム