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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】アスファルト用シート
(51)【国際特許分類】
   E01C 19/08 20060101AFI20230908BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20230908BHJP
【FI】
E01C19/08
B32B17/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019191323
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021067024
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】川島 健治
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特許第5629040(JP,B1)
【文献】特開平10-329284(JP,A)
【文献】特開2002-211628(JP,A)
【文献】特開平02-274528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/08
B32B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強層、及び遮熱層を順に積層してなる積層物を備えたアスファルト用シートであって、
前記積層物が二つ設けられ、当該二つの積層物は、夫々の補強層が対向するように配置されるとともに、それらの間に断熱層が設けられ、
前記二つの積層物のうち、少なくとも一方の積層物における前記遮熱層の側に非吸油層が設けられており、
前記遮熱層は、金属を含有する層であり、
アスファルトの面から出る長波長放射が前記二つの積層物におけるそれぞれの前記遮熱層によって遮断されるアスファルト用シート。
【請求項2】
前記一方の積層物における前記非吸油層の側に、凹凸加工が施されている請求項1に記載のアスファルト用シート。
【請求項3】
前記非吸油層の表面に、撥油加工が施されている請求項1又は2に記載のアスファルト用シート。
【請求項4】
JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される前記積層物の剛軟度が、タテ40~210mm、ヨコ50~230mmである請求項1~3の何れか一項に記載のアスファルト用シート。
【請求項5】
前記非吸油層が前記二つの積層物の両方に設けられている請求項1~4の何れか一項に記載のアスファルト用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強層、及び遮熱層を順に積層してなる積層物を備えたアスファルト用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
道路舗装工事等に使用されるアスファルトは、従来、合材工場で加熱して柔らかくされ、これをトラックの荷台に積み込んで現場まで搬送している。このとき、トラックの荷台に積まれたアスファルトを保温するため、綿又は合成繊維からなる帆布をカバーとして使用している。
【0003】
工事現場へのアスファルトの搬送において、渋滞等の道路事情により長時間の保温が必要となる場合がある。また、過剰積載の規制の強化によって、1回の搬送量が少なくなってきている現状において、綿又は合成繊維からなる帆布でカバーする従来の方法では、特に、冬場にアスファルトの温度低下が起こりやすく、その結果、アスファルトが硬化して、工事現場で大きなロスが発生してしまうことがある。
【0004】
上記のような課題を解決し得るものとして、ポリエステル基布の少なくとも片面が耐熱性樹脂で被覆されてなるシートの樹脂被覆面を外側にして該シートを2枚重ね、中間にポリエステル繊維からなる不織布を挟んで縫製してなる合材カバーが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-60812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る合材カバーにおいては、保温性を高めるための中間層として、ポリエステル繊維からなる不織布が用いられている。このような不織布は、アスファルトから合材カバーの内部へと伝わっていく熱の量を小さくすることができるものの、アスファルトの温度の高くなった面から出る長波長放射を遮断することができない。従って、特許文献1に係る合材カバーでは、保温性を十分に高めることができない。
【0007】
また、特許文献1に係る合材カバーでは、ポリエステル基布のアスファルトとの接触面が耐熱性樹脂で被覆されているため、アスファルトの付着は少なくなるものの、ポリエステル基布を構成する繊維の隙間からアスファルトの油分が浸み込み、繰り返し使用しているとアスファルトの油分によって重くなり、作業性が悪化する。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、保温性を十分に高めることができるとともに、アスファルトの油分の吸収を防ぐことができるアスファルト用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係るアスファルト用シートの特徴構成は、
補強層、及び遮熱層を順に積層してなる積層物を備えたアスファルト用シートであって、
前記積層物が二つ設けられ、当該二つの積層物は、夫々の補強層が対向するように配置されるとともに、それらの間に断熱層が設けられ、
前記二つの積層物のうち、少なくとも一方の積層物における前記遮熱層の側に非吸油層が設けられていることにある。
【0010】
本構成のアスファルト用シートにおいては、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトに被せるために当該アスファルト用シートを広げると、二つの積層物の間が膨らみ、その膨らんだ状態が二つの積層物のそれぞれに設けられた補強層によって保たれ、断熱層と補強層との間に空気層が形成される。これにより、アスファルトから当該アスファルト用シートの内部へと伝わっていく熱の量を、断熱層と補強層との間に形成された空気層によって小さくすることができ、更に、二つの積層物の間に設けられた断熱層によってより小さくすることができる。また、二つの積層物のそれぞれには、遮熱層が設けられている。これにより、アスファルトの温度の高くなった面から出る長波長放射を二つの積層物におけるそれぞれの遮熱層によって遮断することができる。さらに、二つの積層物のうち、少なくとも一方の積層物における遮熱層の側には、非吸油層が設けられている。従って、非吸油層が設けられている一方の積層物の側をアスファルトに接触させるようにして使用すれば、アスファルトの油分の吸収が非吸油層によって阻止されることになる。以上のことから、本構成のアスファルト用シートによれば、保温性を十分に高めることができるとともに、アスファルトの油分の吸収を防ぐことができる。
【0011】
本発明に係るアスファルト用シートにおいて、
前記一方の積層物における前記非吸油層の側に、凹凸加工が施されていることが好ましい。
【0012】
本構成のアスファルト用シートによれば、一方の積層物における非吸油層の側に凹凸加工が施されているので、凹凸加工が施された一方の積層物の側をアスファルトに接触させるようにして使用すれば、アスファルトの表面形状に追従するように一方の積層物が撓んで密着するため、アスファルトとそれを覆う当該アスファルト用シートとの間にアスファルトの熱を逃がす隙間が生じず、保温性能を十全に発揮することができる。
【0013】
本発明に係るアスファルト用シートにおいて、
前記非吸油層の表面に、撥油加工が施されていることが好ましい。
【0014】
本構成のアスファルト用シートによれば、撥油加工が施された非吸油層の表面にアスファルトの油分が付着しようとしても弾かれるので、アスファルトの油分に起因する汚れを防ぐことができる。
【0015】
本発明に係るアスファルト用シートにおいて、
JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される前記積層物の剛軟度が、タテ40~210mm、ヨコ50~230mmであることが好ましい。
【0016】
本構成のアスファルト用シートによれば、JIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定される積層物の剛軟度がタテ40~210mm、ヨコ50~230mmであるため、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトに被せるために当該アスファルト用シートを広げたときに、二つの積層物の間が膨らみ、その膨らんだ状態が保持されるような腰の強さを確保することができるとともに、当該アスファルト用シートをアスファルトに被せたときに、荷台に積まれたアスファルトの表面形状に追従するように積層物が撓んで密着し得るような柔軟性を確保することができる。
【0017】
本発明に係るアスファルト用シートにおいて、
前記非吸油層が前記二つの積層物の両方に設けられていることが好ましい。
【0018】
本構成のアスファルト用シートによれば、非吸油層が二つの積層物の両方に設けられているので、二つの積層物の何れの側をアスファルトに接触させて使用しても、アスファルトの油分の吸収が非吸油層によって阻止されることになる。従って、当該アスファルト用シートの表裏両面をアスファルトへの接地面として使用することができ、当該アスファルト用シートの表裏両面の何れをアスファルトへの接地面とするかを気にしなくてもよいため、使い勝手が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るアスファルト用シートの積層構造を説明する模式図である。
図2図2は、本発明の実施例に係るアスファルト用シートを示し、(a)は実施例1の積層構造の模式図、(b)は実施例2の積層構造の模式図、(c)は実施例3の積層構造の模式図である。
図3図3は、本発明の実施例に係るアスファルト用シートを示し、(a)は実施例4の積層構造の模式図、(b)は実施例5の積層構造の模式図、(c)は実施例6の積層構造の模式図である。
図4図4は、本発明の比較例に係るアスファルト用シートを示し、(a)は比較例1の積層構造の模式図、(b)は比較例2の積層構造の模式図、(c)は比較例3の積層構造の模式図、(d)は比較例4の積層構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図1~4を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。なお、各図において、アスファルト用シートの積層構造における各層の厚み関係等は、実際のアスファルト用シートにおける構造物間のサイズ関係を厳密に再現したものではなく、説明容易化のため適宜誇張してある。
【0021】
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るアスファルト用シートの積層構造を説明する模式図である。図1に示されるアスファルト用シート1は、補強層2、遮熱層3及び非吸油層4を順に積層してなる二つの積層物1a,1bを備え、二つの積層物1a,1bにおける夫々の補強層2が対向するようにそれら積層物1a,1bが配置された状態で、二つの積層物1a,1bの外周縁を含む要所が図示されない縫合糸で縫い合わされて構成されている。なお、縫合以外に高周波誘導加熱等による溶融接着で接合しても構わない。二つの積層物1a,1bの間には、断熱層5が設けられている。アスファルト用シート1においては、積層物1aが上層を構成し、積層物1bが下層を構成する。なお、積層物1aと積層物1bとの間の領域は、中間層と称する。
【0022】
<補強層>
補強層2は、アスファルト用シート1を広げるに伴って二つの積層物1a,1bの間が膨らんだときにその膨らんだ状態を保つ役目をする。補強層2としては、例えば、シート状の織物、編物、スパンボンド不織布、ネット状シート、クロスシート、フィルム等が挙げられる。
【0023】
補強層2として織物を用いる場合、織物の糸条を構成する繊維(単繊維)の素材は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス繊維、金属繊維、合成繊維、天然繊維、再生繊維、半合成繊維等が挙げられる。なかでも、耐久性、特には、機械的強度、耐熱性、耐光性の観点から、ガラス繊維が好ましい。
【0024】
織物の組織は、特に限定されるものではなく、例えば、三元組織である平織、斜文織、朱子織、これら三元組織の変化組織、なし地織等の特別組織、さらにこれらを2種以上組み合わせた混合組織等を挙げることができるが、軽量化の観点から、平織又はその変化組織が好ましい。
【0025】
<遮熱層>
遮熱層3は、アスファルトの温度の高くなった面から出る長波長放射を遮断する機能を有する。遮熱層3としては、例えば、長波長の赤外線を反射するような金属箔等が挙げられる。なお、金属箔によって遮熱層3を形成する形態に限定されるものではなく、遮熱層3として、長波長の赤外線を反射するように、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のフィルムに、金属蒸着や、金属含有インクの印刷、コーティング、または、フィルム成膜時に金属を含有させたものを用いることができる。
【0026】
<非吸油層>
非吸油層4は、アスファルトの油分の吸収を阻止するために設けられるものである。非吸油層4としては、アスファルトに含まれる油分を吸収しない非吸油性を有するとともに、アスファルトに含まれる油分によって侵されない耐油性を有し、且つフィルム状に加工が容易である合成樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と称する。)、ポリウレタン等のフィルムを用いることができる。
【0027】
<断熱層>
断熱層5は、アスファルトからアスファルト用シート1の内部へと伝わっていく熱の量を小さくするために設けられるものである。断熱層5としては、嵩高なニードルパンチやメルトブロー、スパンレース等の不織布、ダンボールニットなどの丸編みや、ダブルラッセル等の経編みに関わらず嵩高な編物、グラスウール、ロックウール、綿や羊毛等の天然繊維からなるフェルト、ポリエステルやナイロン等の合成繊維からなるフェルト、樹脂発泡シート等が挙げられる。特に、厚み0.5~5mm、重量300g/m以下の繊維綿(フェルトや不織布)であって、150℃での熱収縮率が20%以下のものが好適である。
【0028】
<撥油加工>
非吸油層4の表面においては、シリコーン樹脂やフッ素系化合物等の撥油効果のあるものを被覆する撥油加工を適宜(シート全面、又はシート面の40%以上)に施すことにより、撥油被膜6を形成することが好ましい。これにより、アスファルトの油汚れの付着を防止することができる。
【0029】
<凹凸加工>
積層物1a,1bにおける非吸油層4の側には、適宜に凹凸加工を施すことにより、凹部7と凸部8とを形成することが好ましい。凹凸加工としては、例えば、(1)シワやヒダを付けるシワ加工、プリーツ加工、(2)凹凸の模様を彫った押型で強圧して凹凸を形成するエンボス加工、(3)緯糸に強撚糸を用い、縮む性質を利用して凹凸を形成する楊柳加工、(4)非吸油層を補強層と圧着積層させることで、補強層の表面凹凸(生地目)を非吸油層表面に現出させる凹凸形成加工等が挙げられる。前記(4)の加工の場合、補強層には、経糸、緯糸の少なくとも一方の繊度が450dtexより大きい織物を用いると補強層表面の凹凸が大きいため、非吸油層表面に凹凸を現出させやすく好ましい。また、隙間のあいた織物、例えば、糸間が0.7mm以上であると、凹凸ができやすく好ましい。
このような凹凸加工を施すことにより、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトにアスファルト用シート1を被せると、荷台に積まれたアスファルトの表面形状に追従するように積層物1a,1bが撓んで密着するため、荷台に積まれたアスファルトとそれを覆うアスファルト用シート1との間にアスファルトの熱を逃がす隙間が生じず、保温性能を十全に発揮することができる。
【0030】
<剛軟度>
積層物1a,1bの剛軟度(JIS L1096 45°カンチレバー法)は、アスファルト用シート1のタテ、ヨコにおいて測定される。ここで、「タテ」とは、製品としての長手方向であり、「ヨコ」とは、製品としての短手方向である。本実施形態において、積層物1a,1bの剛軟度は、タテ40~210mm、ヨコ50~230mmであることが好ましく、タテ45~190mm、ヨコ58~205mmであることがより好ましい。積層物の剛軟度がタテ40~210mm、ヨコ50~230mmであれば、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトに被せるためにアスファルト用シート1を広げたときに、二つの積層物1a,1bの間が膨らみ、その膨らんだ状態が保持されるような腰の強さを確保することができるとともに、アスファルト用シート1をアスファルトに被せたときに、荷台に積まれたアスファルトの表面形状に追従するように積層物1a,1bが撓んで密着し得るような柔軟性を確保することができる。なお、剛軟度がタテ40mm、ヨコ50mmよりも小さいと、二つの積層物1a,1bの間が膨らんだ状態の保持が不安定になる虞がある。また、剛軟度がタテ210mm、ヨコ230mmよりも大きいと、アスファルトの表面形状に追従するように積層物1a,1bが撓まない虞がある。
【実施例
【0031】
次に、本発明のアスファルト用シートの具体的な実施例について説明する。なお、本発明は、以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0032】
表1には、本実施例及び本比較例のそれぞれのアスファルト用シートの層構成が示され、表2には、各層の構成素材が示されている。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
以下において、表1,2、及び図2~4を用いて、本実施例及び本比較例のそれぞれのアスファルト用シートの具体的な構成について説明する。なお、以下に述べる実施例1において、上記実施形態と同一又は同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、実施例1に特有の部分を中心に説明する。また、以下に述べる実施例2~6、及び比較例1~4については、実施例1を基準として、実施例1と共通するものについてはその詳細な説明を省略し、実施例1と異なる部分、又は、先行する実施例や比較例と異なる部分を中心に説明する。
【0036】
〔実施例1〕
図2(a)は、実施例1の積層構造の模式図である。図2(a)に示される実施例1のアスファルト用シート11は、補強層2、保護層9、遮熱層3、非吸油層4、及び撥油被膜6を順に積層してなる二つの積層物11a,11bを備えている。二つの積層物11a,11bは、夫々の補強層2が対向するように配置されるとともに、それら積層物11a,11bの間に断熱層5が設けられている。アスファルト用シート11においては、積層物11aが上層を構成し、積層物11bが下層を構成する。なお、積層物11aと積層物11bとの間の領域は、中間層と称する。
【0037】
実施例1のアスファルト用シート11において、補強層2は、ガラス織物によって構成されている。保護層9は、接着性向上のために設けられるものであり、PETフィルム(厚さ:12μm)によって構成されている。遮熱層3は、アルミニウム箔(厚さ:7μm)によって構成されている。非吸油層4は、接着性の向上のための保護層を兼ねるPETフィルム(厚さ:12μm)によって構成されている。撥油被膜6は、非吸油層4を構成するPETフィルムの表面にシリコーン樹脂を被覆することによって構成されている。断熱層5は、溶融したPET樹脂を高速高温の気流で吹き出すことによって作製されるPET不織布(メルトブロー)によって構成されている。
【0038】
実施例1のアスファルト用シート11においては、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトに被せるために当該アスファルト用シート11を広げると、二つの積層物11a,11bの間(中間層)が膨らみ、その膨らんだ状態が二つの積層物11a,11bのそれぞれに設けられた補強層2によって保たれ、断熱層5と補強層2との間に空気層Sが形成される。これにより、アスファルトから当該アスファルト用シート11の内部へと伝わっていく熱の量を、空気層Sによって小さくすることができ、更に断熱層5によってより小さくすることができる。また、二つの積層物11a,11bのそれぞれには、遮熱層3が設けられている。これにより、アスファルトの温度の高くなった面から出る長波長放射を二つの積層物11a,11bにおけるそれぞれの遮熱層3によって遮断することができる。さらに、二つの積層物11a,11bの両方の遮熱層3の側には、非吸油層4が設けられている。従って、アスファルトの油分の吸収が非吸油層4によって阻止されることになる。以上のことから、アスファルト用シート11によれば、保温性を十分に高めることができるとともに、アスファルトの油分の吸収を防ぐことができる。また、アスファルト用シート11によれば、非吸油層4が二つの積層物11a,11bの両方に設けられているので、二つの積層物11a,11bの何れの側をアスファルトに接触させて使用しても、アスファルトの油分の吸収が非吸油層4によって阻止されることになる。従って、当該アスファルト用シート11の表裏両面をアスファルトへの接地面として使用することができ、当該アスファルト用シート11の表裏両面の何れをアスファルトへの接地面とするかを気にしなくてもよいため、使い勝手が良い。
【0039】
〔実施例2〕
図2(b)は、実施例2の積層構造の模式図である。図2(b)に示される実施例2のアスファルト用シート21においては、遮熱層3と非吸油層4とが複合化されている。すなわち、非吸油層4を構成するPETフィルムに、遮熱層3を構成するアルミニウム金属が蒸着法により蒸着されている。また、断熱層5は、PET樹脂繊維の集積層を高速で上下するニードル(針)で繰り返し突き刺して繊維を絡ませることで作製されるPET不織布(ニードルパンチ)によって構成され、実施例1と比較して厚みが大きいものが使用されている。それ以外については、実施例1と同様である。
【0040】
〔実施例3〕
図2(c)は、実施例3の積層構造の模式図である。図2(c)に示される実施例3のアスファルト用シート31において、撥油被膜6は、非吸油層4を構成するPETフィルムの表面にフッ素系化合物を被覆することによって構成されている。また、中間層は空気層Sのみとされている。実施例3の場合、中間層を満たす空気層Sが本発明の「断熱層」として機能する。それ以外については、実施例1と同様である。
【0041】
〔実施例4〕
図3(a)は、実施例4の積層構造の模式図である。図3(a)に示される実施例4のアスファルト用シート41においては、上層及び下層共に撥油被膜6が設けられていない。また、上層の保護層9が設けられていない。さらに、中間層は空気層Sのみとされている。実施例4の場合、中間層を満たす空気層Sが本発明の「断熱層」として機能する。それ以外については、実施例1と同様である。
【0042】
〔実施例5〕
図3(b)は、実施例5の積層構造の模式図である。図3(b)に示される実施例5のアスファルト用シート51においては、上層と中間層(断熱層5)とが接着されるとともに、中間層(断熱層5)と下層とが接着されている。それ以外については、実施例1と同様である。
【0043】
〔実施例6〕
図3(c)は、実施例6の積層構造の模式図である。図3(c)に示される実施例6のアスファルト用シート61においては、積層物11a,11bにおける非吸油層4の側に凹凸加工が施されて凹部7と凸部8とが形成されている。それ以外については、実施例1と同様である。
【0044】
〔比較例1〕
図4(a)は、比較例1の積層構造の模式図である。図4(a)に示される比較例1のアスファルト用シート111においては、上層及び下層のそれぞれの補強層2の位置が実施例1のそれとは異なり、上層の補強層2は最も外側(外気側)に配され、下層の補強層2は最も外側(アスファルト接地側)に配されている。また、積層物11a,11bには、撥油被膜6が設けられていない。それ以外については、実施例1と同様である。
【0045】
〔比較例2〕
図4(b)は、比較例2の積層構造の模式図である。図4(b)に示される比較例2のアスファルト用シート121においては、上層及び下層共に遮熱層3及び保護層9が設けられていない。また、断熱層5は、ニードルパンチによるPET不織布によって構成され、実施例1と比較して厚みが大きいものが使用されている。それ以外については、実施例1と同様である。
【0046】
〔比較例3〕
図4(c)は、比較例3の積層構造の模式図である。図4(c)に示される比較例3のアスファルト用シート131は、実施例1と同程度の比較的厚みが小さい断熱層5が使用される以外は比較例2と同様である。
【0047】
〔比較例4〕
図4(d)は、比較例4の積層構造の模式図である。図4(d)に示される比較例4のアスファルト用シート141においては、上層に補強層2が設けられていない。それ以外については、実施例1と同様である。
【0048】
<物性試験>
[目付、厚み]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、目付(試験方法:JIS L1096)、及び厚み(試験方法:JIS L1908 2kPa)を測定した。
【0049】
[剛軟度、引張強度、引裂き強度]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、剛軟度をJIS L1096 45°カンチレバー法に準拠して測定した。また、実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、引張強度をJIS L1096 A カットストリップ法に準拠して測定した。さらに、実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、引裂き強度をJIS L1096 A シングルタング法に準拠して測定した。
【0050】
[耐摩耗性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの耐摩耗性について、JIS K7204 テーバー摩耗試験法に準拠して確認した。具体的には、回転する水平円盤(回転数:60回/min)に試験片を取り付け、研磨紙を貼り付けた一対の摩擦輪(摩耗輪タイプ:CS-10(200g))を試験片上において規定荷重で転がし、1000回転後の傷や破れの程度を三段階で評価した。評価基準は、次の層に至る傷が2mm未満の場合を「A」とし、2mm以上5mm未満の場合を「B」とし、5mm以上の場合を「C」とした。
【0051】
[赤外線反射率]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの耐摩耗性について、日射熱を想定した波長750~2500nmにおける反射率の平均値を測定し三段階で評価した。評価基準は、50%以上の場合を「A」とし、30%以上50%未満の場合を「B」とし、30%未満の場合を「C」とした。
【0052】
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、目付、厚み、剛軟度、引張強度、及び引裂き強度の測定結果、並びに、耐摩耗性、及び赤外線反射率の評価結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
[重量、厚み]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、重量(試験方法:JIS L1096)、及び厚み(試験方法:JIS B7507 無荷重平置き状態でノギスによる測定)を測定した。
【0055】
<製品評価>
[展開性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの展開性を三段階で確認した。評価基準は、成人女性1人で3分未満で展開できる場合を「A」とし、成人女性1人で3分以上5分未満で展開できる場合を「B」とし、成人女性1人での展開に5分以上かかる場合を「C」とした。
【0056】
[撤去・収納性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの撤去・収納性を四段階で確認した。評価基準は、成人女性1人で1分未満で撤去し、既定の場所(ダンプ運転席の上、荷台側)に収納できる場合を「AA」とし、成人女性1人で1分以上3分未満で撤去し、既定の場所に収納できる場合を「A」とし、成人女性1人で3分以上5分未満で撤去し、既定の場所に収納できる場合を「B」とし、成人女性1人で撤去・収納に5分以上かかる、又は重くて収納場所まで持ち上がらない、若しくは小さく畳めず、収納場所に収まらない場合を「C」とした。
【0057】
[保温性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの保温性を保温率(JIS L1096 A法)の測定により四段階で確認した。評価基準は、60%以上の場合を「AA」とし、50%以上60%未満の場合を「A」とし、40%以上50%未満の場合を「B」とし、40%未満の場合を「C」とした。
【0058】
[非吸油性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの非吸油性を三段階で確認した。評価基準は、吸油やアスファルト固化物の付着が目視により認められない場合を「A」とし、アスファルト固化物の付着が目視により若干認められるが吸油が目視により認められない場合を「B」とし、吸油が目視により認められる場合を「C」とした。
【0059】
[耐破れ性]
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートの耐破れ性を三段階で確認した。具体的には、製品を広げた状態でアスファルト舗装道路にて片面ずつ5m引きずり、各面の傷、破れ状態を評価した。評価基準は、両面共小さい傷はあるが、中間層まで貫通する傷はなく、破れもない場合を「A」とし、いずれかの面で中間層まで貫通する5mm未満の傷があるが、破れはない場合を「B」とし、いずれかの面で中間層まで貫通する5mm以上の傷がある、又は破れがある場合を「C」とした。
【0060】
実施例1~6、及び比較例1~4の各アスファルト用シートについて、重量、及び厚みの測定結果、並びに、展開性、撤去・収納性、保温性、非吸油性、油剤付着性、及び耐破れ性の評価結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、実施例1は、保温性の評価が「A」であり、保温性が十分に高められている。実施例2は、保温性の評価が「AA」となっている。これは、実施例2においては、実施例1よりも厚みが大きい断熱層5が使用されているからであると考えられる。また、実施例6についても、保温性の評価が「AA」となっている。これは、実施例6においては、積層物11a,11bにおける非吸油層4の側に凹凸加工が施されているからであると考えられる。すなわち、凹凸加工を施すことにより、アスファルトの表面形状に追従するように積層物11a,11bが撓んで密着するため、アスファルトとそれを覆うアスファルト用シート61との間にアスファルトの熱を逃がす隙間が生じず、保温性能を十全に発揮することができる。
【0063】
実施例1~6は、アスファルトの油分の吸収が非吸油層4によって阻止されることから、非吸油性の評価が「A」又は「B」であり、アスファルトの油分の吸収を防ぐことができるものとなっている。これは、アスファルトへの接地側に臨ませて非吸油層4が配されているからであると考えられる。
【0064】
実施例3,4は、保温性の評価が「B」となっている。これは、実施例3,4においては、断熱層5が設けられておらず、中間層が空気層Sのみとなっている。中間層を満たす空気層Sを断熱層として機能させても、必要とされる一定以上の保温率(40%以上)を達成することができる。
【0065】
実施例5は、実施例1と同じような構成で断熱層5が設けられているにもかかわらず、保温性の評価が「B」となっている。実施例5においては、上層と中間層(断熱層5)とが接着されるとともに、中間層(断熱層5)と下層とが接着されているために、例えば、トラックの荷台に積まれたアスファルトに被せるためにアスファルト用シート131を広げても、二つの積層物11a,11bの間が膨らまず、断熱層5と補強層2との間に空気層Sが形成されないためであると考えられる。このように、上層と中間層、及び中間層と下層とがそれぞれ接着されていても、必要とされる一定以上の保温率(40%以上)を達成することができる。
【0066】
実施例6は、撤去・収納性の評価が「AA」となっている。これは、実施例6においては、積層物11a,11bにおける非吸油層4の側に凹凸加工が施されているからであると考えられる。アスファルト用シート61は、凹凸加工が施されることにより、折れ曲がり易くなり、小さく折り畳めることができて収納性に優れるものになる。
【0067】
比較例1は、非吸油性の評価が「C」となっている。これは、比較例1においては、アスファルトへの接地に臨ませて非吸油層4ではなく補強層2が配されているからであると考えられる。非吸油性の確保のためには、アスファルトへの接地側に臨ませて非吸油層4を配置することが重要であることが分かる。
【0068】
比較例2は、保温性の評価が「C」となっている。これは、比較例2においては、二つの積層物11a,11bの両方に遮熱層3が設けられていないためであると考えられる。比較例2では、実施例1における断熱層5よりも厚みの大きい断熱層5が使用されている。このことは、たとえ断熱層5の厚みが大きくても、二つの積層物11a,11bの両方に遮熱層3を設けなければ保温性を十分に高めることができないことを示している。
【0069】
比較例3は、保温性の評価が「C」となっている。これは、比較例3においては、二つの積層物11a,11bの両方に遮熱層3が設けられておらず、しかも比較的厚みの小さい断熱層5が使用されているためであると考えられる。
【0070】
比較例4は、耐破れ性の評価が「C」となっている。これは、比較例4においては、上層の積層物11aに補強層2が設けられていないからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアスファルト用シートは、例えば、道路舗装工事の現場までアスファルトをトラックで運搬する際に、アスファルトを保温する用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 アスファルト用シート
1a,1b 積層物
2 補強層
3 遮熱層
4 非吸油層
5 断熱層
6 撥油被膜
7 凹部
8 凸部
9 保護層
11 アスファルト用シート
11a,11b 積層物
S 空気層
図1
図2
図3
図4