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特許7345385放射線検出器及び放射線検出器の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】放射線検出器及び放射線検出器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/20 20060101AFI20230908BHJP
【FI】
G01T1/20 L
G01T1/20 E
G01T1/20 G
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019234436
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103123
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 雅実
(72)【発明者】
【氏名】榑林 章仁
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-096823(JP,A)
【文献】特開2018-084589(JP,A)
【文献】特開2019-164163(JP,A)
【文献】特許第3077941(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2012/0288688(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0113482(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光検出パネルと、
前記受光部を覆うように前記光検出パネル上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光検出パネル上に形成されたパネル保護部と、
前記シンチレータ層を覆い、前記パネル保護部上に位置する外縁を有するシンチレータ保護膜と、を備え、
前記パネル保護部には、前記シンチレータ保護膜の外縁と連続する溝が形成され、
前記溝は、
前記パネル保護部の延びる方向に沿って深さが一定である本照射部と、
前記本照射部の第1の端部に連続し、前記パネル保護部の延びる方向に沿って、前記第1の端部に近づくにつれて深さが次第に深くなる部分を含む前照射部と、
前記本照射部の第2の端部に連続し、前記パネル保護部の延びる方向に沿って、前記第2の端部から離れるにつれて深さが次第に浅くなる部分を含む後照射部と、を含む放射線検出器。
【請求項2】
前記シンチレータ保護膜の前記外縁を覆う被覆樹脂をさらに備える、請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
前記被覆樹脂は、前記パネル保護部をさらに覆い、
前記被覆樹脂は、前記被覆樹脂と前記パネル保護部との接触面の縁部が前記パネル保護部上に形成されるように、前記パネル保護部に留まることが可能な材料特性を有する、請求項2に記載の放射線検出器。
【請求項4】
前記パネル保護部の中央部は、前記パネル保護部の両縁部よりも高い、請求項2又は3に記載の放射線検出器。
【請求項5】
前記パネル保護部の幅は、700マイクロメートル以上であり、且つ、1000マイクロメートル以下である、請求項1~4の何れか一項に記載の放射線検出器。
【請求項6】
前記パネル保護部の高さは、100マイクロメートル以上であり、且つ、300マイクロメートル以下である、請求項1~5の何れか一項に記載の放射線検出器。
【請求項7】
一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光検出パネルを準備し、放射線を光に変換するシンチレータ層を、前記受光部を覆うように前記光検出パネル上に積層する工程と、
前記シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層を包囲するように、前記光検出パネル上にパネル保護部を配置する工程と、
前記光検出パネルの前記シンチレータ層が積層される側の表面全体及び前記パネル保護部の表面を覆うように、シンチレータ保護膜を形成する工程と、
前記パネル保護部に沿ってレーザ光を照射することにより、前記シンチレータ保護膜を切断する工程と、
前記シンチレータ保護膜の外側の部分を除去する工程と、を有し、
前記シンチレータ保護膜を切断する工程では、
前記レーザ光のエネルギを、前記シンチレータ保護膜を切断可能な閾値エネルギより小さい値から前記閾値エネルギよりも大きい値に増加させながら、前記パネル保護部に沿って走査する前照射工程と、
前記レーザ光のエネルギを、前記閾値エネルギよりも大きい値に維持しながら、前記パネル保護部に沿って走査する本照射工程と、
前記レーザ光のエネルギを、前記閾値エネルギより大きい値から前記閾値エネルギよりも小さい値に減少させながら、前記パネル保護部に沿って走査する後照射工程と、
を含む、放射線検出器の製造方法。
【請求項8】
前記パネル保護部は、樹脂枠を含み、
前記パネル保護部を配置する工程では、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光検出パネル上に前記樹脂枠を配置する、請求項7に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項9】
前記パネル保護部は、マスキング部材をさらに含み、
前記パネル保護部を配置する工程では、前記ボンディングパッドを覆うように、前記光検出パネル上に前記マスキング部材をさらに配置する、請求項8に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項10】
前記パネル保護部は、マスキング部材を含み、
前記パネル保護部を配置する工程では、前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間の領域、及び前記ボンディングパッドを覆うように、前記光検出パネル上に前記マスキング部材を配置し、
前記シンチレータ保護膜を形成する工程では、前記光検出パネルの前記シンチレータ層が積層される側の表面全体及び前記マスキング部材の表面に前記シンチレータ保護膜を形成する、請求項7に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項11】
前記シンチレータ保護膜を切断する工程の後に、前記マスキング部材を除去する工程をさらに含む、請求項10に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項12】
前記シンチレータ保護膜の外側の部分を除去する工程の後に、前記シンチレータ保護膜の外縁を覆う被覆樹脂を形成する工程をさらに有する、請求項10又は11に記載の放射線検出器の製造方法。
【請求項13】
一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び前記光電変換素子と電気的に接続され且つ前記受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光検出パネルと、
前記受光部を覆うように前記光検出パネル上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層と、
前記シンチレータ層の積層方向から見た場合に、前記シンチレータ層及び前記ボンディングパッドから離間して前記シンチレータ層と前記ボンディングパッドとの間を通り且つ前記シンチレータ層を包囲するように、前記光検出パネル上に形成されたパネル保護部と、
前記シンチレータ層を覆い、前記パネル保護部上に位置する外縁を有するシンチレータ保護膜と、を備え、
前記パネル保護部には、前記シンチレータ保護膜の外縁と連続する溝が形成され、
前記溝は、
前記パネル保護部の延びる方向に沿って深さが一定である本照射部と、
前記本照射部の第1の端部に連続し、前記パネル保護部の延びる方向に沿って、前記第1の端部に近づくにつれて深さが次第に浅くなる部分を含む前照射部と、
前記本照射部の第2の端部に連続し、前記パネル保護部の延びる方向に沿って、前記第2の端部から離れるにつれて深さが次第に深くなる部分を含む後照射部と、を含む放射線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線検出器及び放射線検出器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2及び3は、放射線検出器を開示する。これらの文献に開示された放射線検出器は、放射線を光に変換するシンチレータ層と、当該光を検出する光検出パネルと、を有する。光検出器パネルは、複数の受光素子が配置された受光部と、受光部の周囲に設けられて受光部と電気的に接続された複数のボンディングパッドと、を有する。受光部とボンディングパッドとの間には、受光部を囲む樹脂枠が形成されている。シンチレータ層は、耐湿性を有する保護膜に覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-96823号公報
【文献】特開2016-205916号公報
【文献】米国特許公報2012/0288688号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に開示された放射線検出器を製造する方法では、光検出パネル上にシンチレータ層を形成したのちに、樹脂枠を形成する。次に、保護膜を形成する。保護膜は、シンチレータ層の上と及びボンディングパッドの上とに形成されるが、保護膜は、シンチレータ層を覆えばよい。そこで、ボンディングパッドを覆う保護膜の一部を取り除く。具体的には、保護膜を切断するために、樹脂枠上において保護膜をレーザ光の照射により切断する。つまり、保護膜及び樹脂枠は、レーザ光の照射を受ける被照射体である。
【0005】
レーザ光の照射態様は、予め設定した内容と実際の動作とでは、わずかな相違が生じることがある。そうすると、保護膜は切断するが樹脂枠は切断しない設定とした場合でも、実際の動作にあっては、意図しない樹脂枠の切断が生じることがあり得る。
【0006】
そこで、本発明は、意図しない被照射物の切断の発生を抑制する放射線検出器及び放射線検出器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態である放射線検出器は、一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び光電変換素子と電気的に接続され且つ受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光検出パネルと、受光部を覆うように光検出パネル上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層と、シンチレータ層の積層方向から見た場合に、シンチレータ層及びボンディングパッドから離間してシンチレータ層とボンディングパッドとの間を通り且つシンチレータ層を包囲するように、光検出パネル上に形成されたパネル保護部と、シンチレータ層を覆い、パネル保護部上に位置する外縁を有するシンチレータ保護膜と、を備え、パネル保護部には、シンチレータ保護膜の外縁と連続する溝が形成され、溝は、レーザ光のエネルギを、シンチレータ保護膜を切断可能な閾値エネルギより小さい値から閾値エネルギよりも大きい値に増加させながら、パネル保護部に沿って走査することによって形成された前照射部と、レーザ光のエネルギを、閾値エネルギよりも大きい値に維持しながら、パネル保護部に沿って走査することによって形成された本照射部と、レーザ光のエネルギを、閾値エネルギより大きい値から閾値エネルギよりも小さい値に減少させながら、パネル保護部に沿って走査することにより形成された後照射部と、を含む。
【0008】
上記の放射線検出器のパネル保護部の溝は、シンチレータ保護膜の外縁と連続しているので、レーザ光の照射によるシンチレータ保護膜の外縁の形成に伴って形成される。そして、パネル保護部に溝が形成されているということは、パネル保護部上に形成されたシンチレータ保護膜は確実に切断されていることを意味する。そして、前照射部では閾値エネルギよりも小さいエネルギから照射が開始される。このような照射態様によれば、パネル保護部の切断に要するエネルギに対して、余裕を持たせてレーザ光の照射を開始することができる。したがって、レーザ光の照射開始において、意図しない要因によって設定値よりも大きいエネルギが供給されたとしても、確保された余裕によってパネル保護部の切断を抑制することができる。同様に、後照射部では閾値エネルギよりも小さいエネルギまで減少された後に照射が停止される。このような照射態様によれば、パネル保護部の切断に要するエネルギに対して、余裕を持たせてレーザ光の照射を停止することができる。したがって、レーザ光の照射停止において、意図しない要因によって設定値よりも大きいエネルギが供給されたとしても、確保された余裕によってパネル保護部の切断を抑制することができる。したがって、意図しない被照射物であるパネル保護部の切断の発生を抑制することができる。
【0009】
上記の放射線検出器は、シンチレータ保護膜の外縁を覆う被覆樹脂をさらに備えてもよい。この構成によれば、シンチレータ保護膜の剥がれの発生を抑制することができる。
【0010】
上記の放射線検出器において、被覆樹脂は、パネル保護部をさらに覆い、被覆樹脂は、被覆樹脂とパネル保護部との接触面の縁部がパネル保護部上に形成されるように、パネル保護部に留まることが可能な材料特性を有してもよい。この構成によれば、被覆樹脂は、パネル保護部の外側に位置する光検出パネルの表面とボンディングパッドに到達しない。したがって、光検出パネルの表面とボンディングパッドを清浄に保つことができる。
【0011】
上記の放射線検出器において、パネル保護部の中央部は、パネル保護部の両縁部よりも高くてもよい。この構成によれば、被覆樹脂は、シンチレータ保護膜の外縁を確実に覆うことができる。
【0012】
上記の放射線検出器において、パネル保護部の幅は、700マイクロメートル以上であり、且つ、1000マイクロメートル以下であってもよい。この構成によれば、放射線検出器を小型化することができる。
【0013】
上記の放射線検出器において、パネル保護部の高さは、100マイクロメートル以上であり、且つ、300マイクロメートル以下であってもよい。この構成によれば、放射線検出器を小型化することができる。
【0014】
本発明の別形態である放射線検出器の製造方法は、一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子を含む受光部、及び光電変換素子と電気的に接続され且つ受光部の外側に配置された複数のボンディングパッドを有する光検出パネルを準備し、放射線を光に変換するシンチレータ層を、受光部を覆うように光検出パネル上に積層する工程と、シンチレータ層の積層方向から見た場合に、シンチレータ層を包囲するように、光検出パネル上にパネル保護部を配置する工程と、光検出パネルのシンチレータ層が積層される側の表面全体及びパネル保護部の表面を覆うように、シンチレータ保護膜を形成する工程と、パネル保護部に沿ってレーザ光を照射することにより、シンチレータ保護膜を切断する工程と、シンチレータ保護膜の外側の部分を除去する工程と、を有し、シンチレータ保護膜を切断する工程では、レーザ光のエネルギを、シンチレータ保護膜を切断可能な閾値エネルギより小さい値から閾値エネルギよりも大きい値に増加させながら、パネル保護部に沿って走査する前照射工程と、レーザ光のエネルギを、閾値エネルギよりも大きい値に維持しながら、パネル保護部に沿って走査する本照射工程と、レーザ光のエネルギを、閾値エネルギより大きい値から閾値エネルギよりも小さい値に減少させながら、パネル保護部に沿って走査する後照射工程と、を含む。
【0015】
放射線検出器の製造方法では、シンチレータ保護膜を切断する工程において、シンチレータ保護膜の外縁が形成されると共に、パネル保護部の溝が形成される。そして、パネル保護部に溝が形成されているということは、パネル保護部上に形成されたシンチレータ保護膜は確実に切断されていることを意味する。そして、当該溝は、エネルギを増加させながら形成する前照射工程と、エネルギを減少させながら形成する後照射工程とにより形成される。これらの工程によれば、溝の深さが深くなりすぎることがない。従って、意図しない被照射物であるパネル保護部の切断の発生を抑制することができる。
【0016】
別形態である放射線検出器の製造方法において、パネル保護部は、樹脂枠を含み、パネル保護部を配置する工程では、シンチレータ層及びボンディングパッドから離間してシンチレータ層とボンディングパッドとの間を通り且つシンチレータ層を包囲するように、光検出パネル上に樹脂枠を配置してもよい。この工程によれば、樹脂枠を有する放射線検出器を製造することができる。
【0017】
別形態である放射線検出器の製造方法において、パネル保護部は、マスキング部材をさらに含み、パネル保護部を配置する工程では、ボンディングパッドを覆うように、光検出パネル上にマスキング部材をさらに配置してもよい。この工程によれば、ボンディングパッドを好適に保護することができる。
【0018】
別形態である放射線検出器の製造方法において、パネル保護部は、マスキング部材を含み、パネル保護部を配置する工程では、シンチレータ層とボンディングパッドとの間の領域、及びボンディングパッドを覆うように、光検出パネル上にマスキング部材を配置し、シンチレータ保護膜を形成する工程では、光検出パネルのシンチレータ層が積層される側の表面全体及びマスキング部材の表面にシンチレータ保護膜を形成してもよい。この工程によれば、樹脂枠を備えない放射線検出器を製造することができる。つまり、シンチレータ層とボンディングパッドとの間の距離を縮めることが可能になるので、放射線検出器をさらに小型化することができる。
【0019】
別形態である放射線検出器の製造方法において、シンチレータ保護膜を切断する工程の後に、マスキング部材を除去する工程をさらに含んでもよい。この工程によれば、樹脂枠を備えない放射線検出器を好適に製造することができる。
【0020】
別形態である放射線検出器の製造方法において、シンチレータ保護膜の外側の部分を除去する工程の後に、シンチレータ保護膜の外縁を覆う被覆樹脂を形成する工程をさらに有してもよい。この工程によれば、シンチレータ保護膜の外縁の剥がれの発生をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、意図しない被照射物の切断の発生を抑制する放射線検出器及び放射線検出器の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1実施形態の放射線検出器の平面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1の放射線検出器の角部付近を拡大して示す平面図である。
図4図4(a)は、シンチレータ層を形成する前の状態を示す断面図である。図4(b)は、シンチレータ層を形成した後の状態を示す断面図である。
図5図5(a)は、樹脂枠を形成した後の状態を示す断面図である。図5(b)は、第1の有機膜を形成した後の状態を示す断面図である。
図6図6(a)は、無機膜を形成した後の状態を示す断面図である。図6(b)は、第2の有機膜を形成した後の状態を示す断面図である。
図7図7は、レーザ光による加工処理を示す断面図である。
図8図8は、被照射体が受けるエネルギの時間履歴を模式的に示すグラフである。
図9図9(a)は、前照射部を示す断面図である。図9(b)は前照射部及び本照射部を示す断面図である。図9(c)は前照射部、本照射部及び後照射部を示す断面図である。
図10図10(a)は、後照射部を形成する工程を説明するための断面図である。図10(b)は、図10(a)に続く後照射部を形成する工程を説明するための断面図である。
図11図11(a)は、レーザ光ヘッドの速度の時間履歴の一例を示すグラフである。図11(b)は、レーザ光ヘッドから出射されるレーザ光のエネルギの時間履歴の一例を示すグラフである。図11(c)は、レーザ光ヘッドから出射されるレーザ光の焦点位置の時間履歴の一例を示すグラフである。
図12図12(a)は、レーザ光ヘッドの速度の時間履歴の一例を示すグラフである。図12(b)は、レーザ光ヘッドと保護膜及び樹脂枠との位置関係を模式的に示す図である。
図13図13(a)は、保護膜の一部を除去した状態を示す断面図である。図13(b)は、被覆樹脂を形成した後の状態を示す断面図である。
図14図14(a)は、被照射体が受けるエネルギの時間履歴を模式的に示すグラフである。図14(b)は、レーザ光ヘッドの速度の時間履歴を模式的に示すグラフである。
図15図15は、第2実施形態の放射線検出器の平面図である。
図16図16は、図15のXVI-XVI線に沿った断面図である。
図17図17は、図15の放射線検出器の第1の斜視図である。
図18図18は、図15の放射線検出器の第2の斜視図である。
図19図19(a)は、シンチレータ層を形成する前の状態を示す断面図である。図19(b)は、シンチレータ層を形成した後の状態を示す断面図である。
図20図20(a)は、マスキング部材を配置した後の状態を示す断面図である。図20(b)は、第1の有機膜を形成した後の状態を示す断面図である。
図21図21(a)は、無機膜を形成した後の状態を示す断面図である。図21(b)は、第2の有機膜を形成した後の状態を示す断面図である。
図22図22(a)は、レーザ光による加工処理を示す断面図である。図22(b)は、マスキング部材を除去する処理を示す断面図である。
図23図23は、マスキング部材を除去した後の状態を示す断面図である。
図24図24は、第2実施形態の変形例である放射線検出器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
図1及び図2を参照して本実施形態に係る放射線検出器1の構成について説明する。図1及び図2に示すように、放射線検出器1は、光電変換素子アレイ7(光検出パネル)、シンチレータ層8、樹脂枠9、保護膜13(シンチレータ保護膜)、及び被覆樹脂14(被覆樹脂)を備える。光電変換素子アレイ7は、基板2、受光部3、信号線4、ボンディングパッド5、及びパッシベーション膜6を有している。保護膜13は、第1の有機膜10、無機膜11(金属膜)、及び第2の有機膜12を有している。
【0025】
受光部3は、絶縁性の基板2(例えばガラス製基板)の中央部の矩形状領域に2次元に配列された複数の光電変換素子3aを含む。光電変換素子3aは、アモルファスシリコン製のフォトダイオード(PD)や薄膜トランジスタ(TFT)等により構成されている。受光部3における各行又は各列の光電変換素子3aの各々は、信号読み出し用の信号線4により、外部回路(不図示)へ信号を取り出すためのボンディングパッド5と電気的に接続されている。
【0026】
ボンディングパッド5は、基板2の外縁のうち隣接する2辺(図1における上辺、右辺)に沿って所定間隔毎に複数配置されている。ボンディングパッド5は、信号線4を介して対応する複数の光電変換素子3aに電気的に接続されている。光電変換素子3a及び信号線4上には、絶縁性のパッシベーション膜6が形成されている。パッシベーション膜6には、例えば窒化シリコンや酸化シリコン等を用いることができる。ボンディングパッド5は、外部回路との接続のために露出されている。
【0027】
X線(放射線)を光に変換する柱状構造のシンチレータ8aは、受光部3を覆うように光電変換素子アレイ7上に積層されている。シンチレータ層8は、光電変換素子アレイ7における受光部3を含む略矩形状の領域(図1の破線で囲まれた領域)に複数積層されたシンチレータ8aにより形成されている。シンチレータ8aには、各種の材料を用いることができる。シンチレータ8aには、例えば発光効率が良いTlドープのCsIを用いることができる。
【0028】
シンチレータ層8の周縁部8bは、シンチレータ層8の外側に向かうにつれて高さが徐々に低くなる勾配形状となっている。つまり、周縁部8bにおいて、シンチレータ層8の外側に形成されたシンチレータ8aほど、高さが低い。ここで、周縁部8bは、下方に受光部3が形成されていない領域(有効画面外領域)である。あるいは、周縁部8bは、X線画像生成における影響の小さい領域である。したがって、このような勾配形状の周縁部8bを設けることで、製造時においてレーザ光による悪影響が及ぶシンチレータ層8上の領域を限定することができる。ここで、周縁部8bの勾配角度(角度θ)を定義する。角度θは、周縁部8bに形成されたシンチレータ8aの高さ位置をシンチレータ層8の内側から外側に向かって結んだ直線が基板2の上面に対してなす角度である。この角度θは、20度以上80度以下の範囲に含まれる。
【0029】
樹脂枠9は、シンチレータ層8の積層方向Aから見た場合に、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間を通り且つシンチレータ層8を包囲するように、光電変換素子アレイ7上に形成されている。樹脂枠9の角部の形状は、外側に凸の弧状(いわゆるR形状)となっている。樹脂枠9は、例えばシリコーン樹脂である。
【0030】
樹脂枠9は、中央部が両縁部よりも高くなるように形成されている。樹脂枠9の高さd1は、シンチレータ層8の高さdよりも低い。これにより、樹脂枠9を小型化すると共に、製造時におけるレーザ光によるシンチレータ層8への悪影響を抑制できる。ここで、樹脂枠9の高さd1は、光電変換素子アレイ7の上面位置と樹脂枠9の頂点位置との間の距離である。シンチレータ層8の高さdは、シンチレータ層8に含まれるシンチレータ8aの最大の高さである。
【0031】
樹脂枠9は、放射線検出器1を小型化する観点から、極力小さくすることが好ましい。より具体的には、樹脂枠9の高さd1は、100μm以上である。また、樹脂枠9の高さd1は、300μm以下である。さらに、樹脂枠9の幅d2は、700μm以上である。樹脂枠9の幅d2は、1000μm以下である。ここで、樹脂枠9の幅d2は、樹脂枠9の内縁E1と樹脂枠9の外縁E2との間の幅である。内縁E1は、シンチレータ層8側の縁部である。外縁E2は、ボンディングパッド5側の縁部である。
【0032】
また、樹脂枠9の内縁E1とシンチレータ層8の外縁E3との間の距離は、第1の距離D1である。また、樹脂枠9の外縁E2と光電変換素子アレイ7の外縁E4との間の距離は、第2の距離D2である。第1の距離D1は、第2の距離D2よりも短い。製造時におけるレーザ光によるボンディングパッド5への悪影響を抑制すると共に、シンチレータ層8の有効面積を確保するという観点から、第1の距離D1に対する第2の距離D2の比率は、5以上であることが好ましい。より具体的には、第1の距離D1は、1mm以下であることが好ましい。第2の距離D2は、5mm以上であることが好ましい。これは、以下の理由による。
【0033】
シンチレータ層8の外縁E3と樹脂枠9の内縁E1との間に隙間がなければシンチレータ層8の有効面積を最大化できる。しかし、製造時におけるレーザ光によるシンチレータ層8への悪影響及び樹脂枠9を形成する工程でのわずかな失敗(例えば樹脂枠9をシンチレータ層8上に形成してしまうこと)のおそれを考慮すると、第1の距離D1を1mm以下の範囲で確保することが好ましい。また、第2の距離D2を5mm以上とすることで、製造時におけるレーザ光によるボンディングパッド5への悪影響を考慮して、樹脂枠9とボンディングパッド5との間に十分な距離を確保できる。
【0034】
シンチレータ層8は、保護膜13に覆われている。保護膜13は、第1の有機膜10、無機膜11、及び第2の有機膜12を有する。これらの膜は、この順にシンチレータ層8側から積層されている。第1の有機膜10、無機膜11、及び第2の有機膜12は、いずれもX線(放射線)を透過する。また、第1の有機膜10、無機膜11、及び第2の有機膜12は、水蒸気を遮断する。具体的には、第1の有機膜10及び第2の有機膜12には、ポリパラキシリレン樹脂、ポリパラクロロキシリレン等を用いることができる。また、無機膜11は、光に対しては、透明、不透明、反射性のいずれであってもよい。無機膜11には、例えばSi、Ti、Cr等の酸化膜、金、銀、アルミニウム(Al)等の金属膜を用いることができる。例えば、光を反射させる金属膜を用いた無機膜11は、シンチレータ8aで発生した蛍光の漏れを防止できる。その結果、放射線検出器1の検出感度が向上する。本実施形態では、無機膜11として成形が容易なAlを用いた例について説明する。Al自体は空気中で腐蝕しやすい。しかし、無機膜11は、第1の有機膜10及び第2の有機膜12で挟まれている。したがって、Alを用いた無機膜11は、腐蝕から守られている。
【0035】
保護膜13は、例えばCVD法によって形成される。このため、保護膜13を形成した直後の状態では、保護膜13は、光電変換素子アレイ7の表面全体を覆う。そのため、ボンディングパッド5を露出させるために、保護膜13は、光電変換素子アレイ7のボンディングパッド5よりも内側の位置で切断される。そして、切断位置よりも外側の保護膜13は、除去される。後述するように、保護膜13は、樹脂枠9の中央部より外側付近でレーザ光により切断(加工)され、保護膜13の外縁13aは、樹脂枠9によって固定される。これにより、外縁13aからの保護膜13の剥がれを防止することができる。ここで、保護膜13の切断には、例えば炭酸ガスレーザ(COレーザ)及び超短パルス(ナノ秒やピコ秒)の半導体レーザ等を用いることができる。炭酸ガスレーザを用いることで、一度の走査(短時間)で保護膜13の切断が可能となる。その結果、生産性が向上する。なお、光電変換素子アレイ7、ボンディングパッド5、及びシンチレータ層8等への悪影響とは、例えば炭酸ガスレーザや超短パルスレーザを用いる場合には、熱的なダメージである。
【0036】
保護膜13の外縁13aは、樹脂枠9上に位置する。外縁13aは、樹脂枠9に沿って配置された被覆樹脂14によって樹脂枠9と共にコーティングされている。被覆樹脂14には、保護膜13及び樹脂枠9への接着性が良好な樹脂を用いてよい。例えば、被覆樹脂14には、アクリル系接着剤等を用いることができる。なお、被覆樹脂14には、樹脂枠9と同様にシリコーン樹脂を用いてもよい。あるいは、樹脂枠9には、被覆樹脂14と同様のアクリル系樹脂を用いてもよい。
【0037】
次に、図3を参照して、樹脂枠9及び保護膜13の角部(コーナー部分)について説明する。図3においては、樹脂枠9及び保護膜13の角部の状態を理解し易いように、被覆樹脂14の図示を一部省略している。
【0038】
詳しくは後述するが、放射線検出器1の製造工程においてレーザ光が樹脂枠9上の保護膜13に照射されることで、保護膜13のレーザ光が照射された部分が、切断されている。ここで、保護膜13は、非常に薄いため、炭酸ガスレーザのレーザ光により、樹脂枠9の一部も併せて切断されている。これにより、樹脂枠9の中央付近には、溝30(対応領域)が形成されている。保護膜13の外縁13a、及び、樹脂枠9において保護膜13の外縁13aは、レーザ光によって加工された状態である。また、溝30も、レーザ光によって加工された状態である。ここで、溝30の深さ(高さ)d3は、樹脂枠9の高さd1の1/3以下である。これにより、樹脂枠9の下方に位置する光電変換素子アレイ7に対するレーザ光による悪影響が抑制されている。
【0039】
図3に示すように、レーザ光によって加工された保護膜13の外縁13a及び溝30の形状は、シンチレータ層8の積層方向Aから見た場合に、外側に凸の弧状の角部(図3に示す領域B参照)を有する略矩形の環状である。また、保護膜13の外縁13a及び溝30の表面は、積層方向Aから見た場合に、微細な波形状である。つまり、保護膜13の外縁13a及び溝30の表面は、例えばカッター等の刃物による平坦な切断面とは異なる。保護膜13の外縁13a及び溝30の表面は、微小な凹凸形状を有する。これにより、保護膜13の外縁13aと被覆樹脂14との接触面積が増える。したがって、保護膜13の外縁13aと被覆樹脂14との接着をより強固にすることができる。また、溝30と被覆樹脂14との接触面積も増える。したがって、溝30と被覆樹脂14との接着もより強固にすることができる。
【0040】
また、図1に示すように、樹脂枠9に設けられた溝30は、溝30を形成する工程に応じた3つの部分を含む。具体的には、溝30は、前照射部Rsと、本照射部Raと、後照射部Reと、を含む。また、重複領域31において、前照射部Rsと後照射部Reとは重複している。前照射部Rs、本照射部Raおよび後照射部Reの詳細については、後述する。
【0041】
次に、本実施形態に係る放射線検出器1の動作について説明する。入射面側から入射したX線(放射線)は、保護膜13を透過してシンチレータ8aに達する。このX線は、シンチレータ8aによって吸収される。シンチレータ8aは、吸収したX線の光量に比例した光を放射する。放射された光のうち、X線の入射方向に逆行した光は、無機膜11で反射される。このため、シンチレータ8aで発生した光のほとんど全てが、パッシベーション膜6を介して光電変換素子3aに入射する。各々の光電変換素子3aは、光電変換により、入射した光の光量に対応する電気信号を生成する。当該電気信号は、一定時間蓄積される。この光の光量は、入射するX線の光量に対応している。つまり、各々の光電変換素子3aに蓄積される電気信号は、入射するX線の光量に対応する。したがって、この電気信号によって、X線画像に対応する画像信号が得られる。光電変換素子3aに蓄積された画像信号は、信号線4を介してボンディングパッド5から順次読み出された後に、外部に転送される。転送された画像信号は、所定の処理回路で処理されることによって、X線画像が表示される。
【0042】
<放射線検出器の製造方法>
次に、図4図13を参照して、本実施形態に係る放射線検出器1の製造方法について説明する。まず、図4(a)に示すように、光電変換素子アレイ7を準備する(工程S1)。続いて、図4(b)に示すように、シンチレータ層8を形成(積層)する(工程S2)。具体的には、光電変換素子アレイ7上の受光部3を覆う領域において、TlをドープしたCsIの柱状結晶を例えば蒸着法により成長させる。CsIの柱状結晶の厚さは、一例として600μm程度である。
【0043】
次に、図5(a)に示すように、樹脂枠9を、光電変換素子アレイ7上に形成する(工程S3)。具体的には、シンチレータ層8の積層方向Aから見た場合に、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間を通り且つシンチレータ層8を包囲するように、樹脂枠9を形成する。より具体的には、第1の距離D1が1mm以下となり、第2の距離D2が5mm以上となるような位置に、樹脂枠9を形成する。樹脂枠9の形成には、例えば自動X-Yコーティング装置を用いることができる。以下、説明の便宜上、光電変換素子アレイ7上にシンチレータ層8及び樹脂枠9が形成されたものを指して、単に「基板」という。
【0044】
なお、工程S3では、樹脂枠9に加えて、さらに、第2実施形態に示すようなマスキング部材(図20(a)参照)を配置してもよい。マスキング部材は、樹脂枠9の外側の領域であって、ボンディングパッド5を覆うように配置される。マスキング部材は、ボンディングパッド5の表面を保護する。マスキング部材を配置した場合には、後述する保護膜13の外側の部分を除去する工程S6において、マスキング部材を保護膜13と共に取り除く。
【0045】
次に、図5(b)に示すように、第1の有機膜10を形成する(工程S4a)。シンチレータ層8を形成するCsIは、吸湿性が高い。したがって、シンチレータ層8を露出したままにしておくと、シンチレータ層8は空気中の水蒸気を吸湿する。その結果、シンチレータ層8は、溶解してしまう。そこで、例えばCVD法によって、基板全体の表面を、ポリパラキシリレンで被覆する。ポリパラキシリレンの厚さは、5μm以上25μm以下としてよい。
【0046】
続いて、図6(a)に示すように、無機膜(金属膜)11を形成する(工程S4b)。具体的には、放射線が入射する入射面側の第1の有機膜10の表面に、0.2μm厚さのAl膜を蒸着法により積層する。放射線が入射する入射面とは、放射線検出器1のシンチレータ層8が形成される側の面である。続いて、図6(b)に示すように、第2の有機膜12を形成する(工程S4c)。具体的には、無機膜11が形成された基板全体の表面を、再度CVD法によって、ポリパラキシリレンで被覆する。ポリパラキシリレンの厚さは、5μm以上25μmとしてよい。第2の有機膜12は、無機膜11の腐蝕による劣化を防ぐ。以上の処理(工程S4a、工程S4b及び工程S4c)により、保護膜13が形成される。保護膜13の樹脂枠9の略中央部分よりも外側の部分は、後段の処理によって除去される。保護膜13の樹脂枠9の略中央部分よりも外側の部分とは、ボンディングパッド5を覆う部分である。このため、光電変換素子アレイ7の側面には、第1の有機膜10及び第2の有機膜12を形成しなくともよい。また、光電変換素子アレイ7のシンチレータ層8が積層される側とは反対側の表面にも、第1の有機膜10及び第2の有機膜12を形成しなくともよい。
【0047】
続いて、図7に示すように、樹脂枠9に沿って、レーザ光Lを照射し、保護膜13を切断する(工程S5)。具体的には、表面に保護膜13が形成された基板全体を載せたステージ(不図示)に対して、レーザ光Lを照射するレーザ光ヘッド(不図示)を移動させることで、レーザ光Lを樹脂枠9に沿って一筆書きの要領で走査する。
【0048】
以下、保護膜13を切断する工程S5について、図8図9図10及び図11を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0049】
図8は、工程S5において、被照射体が受けるエネルギの時間履歴である。本明細書において「被照射体」とは、保護膜13及び樹脂枠9である。まず、切断閾値(閾値エネルギ)を定義する。切断閾値は、この値以上のエネルギを被照射体に照射すると、被照射体が切断されるという値である。なお、本明細書において、「切断」とは、被照射体において、レーザ光の照射を受ける面から当該面に対する裏面まで貫通する空隙が形成されることをいう。したがって、レーザ光の照射を受ける面から裏面にまで貫通せず、底を有する場合には、「切断」とは呼ばない。
【0050】
切断閾値は、材料の種類及び対象の厚みなどに応じて決まる。第1実施形態の放射線検出器1は、被照射体として保護膜13及び樹脂枠9を含む。この場合には、2個の切断閾値が定義される。具体的には、保護膜13に関する切断閾値Q1と、樹脂枠9に関する切断閾値Q2と、が定義される。樹脂枠9に関する切断閾値Q2は、保護膜13に関する切断閾値Q1より大きい。保護膜13を切断する工程S5では、保護膜13を切断し、かつ、樹脂枠9を切断しない。そうすると、工程S5において、照射されるべきレーザ光のエネルギ(Qs)は、樹脂枠9に関する切断閾値Q2と保護膜13に関する切断閾値Q1との間であればよい。具体的には、照射されるべきレーザ光のエネルギ(Qs)は、樹脂枠9に関する切断閾値Q2より小さく、かつ、保護膜13に関する切断閾値Q1より大きければよい。
【0051】
エネルギの時間履歴は、エネルギを増加させる期間tsと、エネルギを維持する期間taと、エネルギを減少させる期間teと、を含む。
【0052】
エネルギを増加させる期間tsは、前照射部Rs(図1参照)を加工する期間(工程S5s)に対応する。この期間tsは、エネルギを切断閾値Q1よりも小さい値(Q0)から保護膜13の切断閾値Q1まで増加させる期間ts1と、エネルギを保護膜13の切断閾値Q1からエネルギ(Qs)まで増加させる期間ts2と、を含む。エネルギを増加させる期間tsにおいて形成される溝30における前照射部Rsでは、当該前照射部Rsの深さがレーザ光の走査方向に沿って次第に深くなる。
【0053】
図9(a)は、期間tsにおける加工の様子を示す。期間ts1では、エネルギが切断閾値Q1よりも小さいので、溝30は、樹脂枠9まで達しない。そして、レーザ光の走査の進行に伴って、エネルギが増加する。そして、エネルギが切断閾値Q1に達すると、溝30は、保護膜13を貫通し、樹脂枠9の表面に至る。そして、期間ts2では、溝30は、所定の深さに到達する。
【0054】
エネルギを維持する期間taは、本照射部Ra(図1参照)を加工する期間(工程S5a)に対応する。期間taは、図1に示す本照射部Raに関する処理を行う期間に対応する。したがって、この期間taにおけるエネルギ(Qs)は、保護膜13の切断閾値Q1よりも大きく、樹脂枠9の切断閾値Q2よりも小さい。エネルギを維持する期間taにおいて形成される溝30における本照射部Raでは、当該本照射部Raの深さd3がレーザ光の走査方向に沿っておおむね一定である。
【0055】
図9(b)及び図9(c)は、期間taにおける加工の様子を示す。図9(b)は、本照射部Raの加工が開始された直後の様子を示す。図9(c)は、本照射部Raの加工が終了する直前の様子を示す。このように、樹脂枠9を所定の深さまで切り込むことが可能なエネルギ(Qs)に設定する。そうすると、保護膜13の厚みに多少の増減があったとしても、増減の幅が深さに対応する幅よりも小さい場合には、確実に保護膜13を切断することができる。
【0056】
エネルギを減少させる期間teは、後照射部Re(図1参照)を加工する期間(工程S5e)に対応する。この期間teは、エネルギ(Qs)から保護膜13の切断閾値Q1まで減少させる期間te2と、エネルギを保護膜13の切断閾値Q1から切断閾値Q1よりも小さい値(Q0)まで減少させる期間te1と、を含む。エネルギを減少させる期間teにおいて形成される溝30における後照射部Reでは、当該後照射部Reの深さがレーザ光の走査方向に沿って次第に浅くなる。
【0057】
図10(a)及び図10(b)は、期間teにおける加工の様子を示す。期間teでは、エネルギ(Qs)から次第に小さくなる。図10(a)に示すように、溝30における樹脂枠9の深さが次第に浅くなる。そして、期間teの一部は、期間tsの一部とレーザ光の走査方向において重複する。つまり、図10(b)に示すように、期間tsにおいて既にレーザ光の照射を受けた部分は、期間teにおいて再びレーザ光の照射を受ける。このように、レーザ光の照射を2回受ける領域では、2回目の照射前には、溝30の深さが次第に深くなっている。このような形状に対して、2回目の照射では、形成される溝30の深さが次第に浅くなるように、レーザ光のエネルギを制御している。従って、1回目の照射において残っていた部分Pが2回目の照射によって取り除かれる。その結果、保護膜13が貫通すると共に、樹脂枠9は所定深さまで掘り込まれる。
【0058】
なお、期間ts、teにおいて形成された部分の深さW1は、期間taにおいて形成された部分の深さW2と同じであってもよいし、異なっていてもよい。換言すると、深さW2は、深さW1よりも小さくてもよい。また、深さW2は、深さW1よりも大きくてもよい。
【0059】
図8に示す単位エネルギの履歴は、幾つかの制御変数から選択される一つの制御変数によって実現可能である。また、単位エネルギの履歴は、複数の制御変数を組み合わせて実現することもできる。
【0060】
例えば、制御変数として、レーザ光ヘッドの移動速度と、レーザ光の照射エネルギと、レーザ光の焦点位置と、が挙げられる。
【0061】
図11(a)は、図8の単位エネルギの履歴を実現するための、レーザ光ヘッドの移動速度の履歴の例示である。期間tsでは、時間の経過とともに減速(V0→Vs)する。期間taでは、速度(Vs)を維持する。期間teでは、時間の経過とともに増速(Vs→V0)する。
【0062】
図11(b)は、図8の単位エネルギの履歴を実現するための、レーザ光の照射エネルギの履歴の例示である。期間tsでは、時間の経過とともにエネルギを増やす(Q0→Qs)。期間taでは、エネルギ(Qs)を維持する。期間teでは、時間の経過とともにエネルギを減らす(Qs→Q0)。
【0063】
図11(c)は、図8の単位エネルギの履歴を実現するための、レーザ光の焦点位置の履歴の例示である。期間tsでは、時間の経過とともに焦点位置を被照射体の表面に近づける(P0→Ps)。期間taでは、焦点位置を被照射体の表面に維持する(Ps)。期間teでは、時間の経過とともに焦点位置を被照射体の表面から遠ざける(Ps→P0)。
【0064】
上記のレーザ光の制御態様によれば、確実に、レーザ光が保護膜13だけでなく樹脂枠9まで貫通することを防止できる。つまり、保護膜13を確実に切断し、且つ、樹脂枠9が設けられた光電変換素子アレイ7の表面に対して、レーザ光の照射によるダメージを与えることがない。したがって、不良品の発生が抑制されるので、生産性を向上させることができる。
【0065】
なお、工程S5の実施にあっては、上記の制御態様に加えて、以下に示す制御を行ってもよい。
【0066】
上記の制御は、レーザ光の照射を開始するタイミングとレーザ光ヘッドの移動を開始するタイミングとが同時であることを前提にしていた。例えば、レーザ光の照射を開始するタイミングとレーザ光ヘッドの移動を開始するタイミングとをずらすことにより、被照射体への過剰な大きさのエネルギの照射を防止することができる。
【0067】
例えば、レーザ光の照射を開始するときは、以下のように動作させる。まず、レーザ光ヘッドの移動を開始する(図12(a)のt0)。このとき、レーザ光の照射は開始しない(図12(b)のレーザ光ヘッド300A参照)。時間の経過(t0→t1)とともに、レーザ光ヘッドの速度が上昇する。そして、レーザ光ヘッドの速度が所定値(Va)に達したときに、レーザ光Lの照射を開始する(図12(a)のts、図12(b)のレーザ光ヘッド300B参照)。この所定値は、定常速度(Vs)であってもよいし、速度閾値(V1)より大きく定常速度(Vs)より小さい値であってもよい。つまり、レーザ光の照射を開始するタイミング(ts)を、レーザ光ヘッドの移動を開始するタイミング(t0)より後に設定する。レーザ光の照射を開始するタイミングは、レーザ光ヘッドの移動を開始するタイミングよりも遅延するので、このような制御を「ディレイ制御」と呼ぶ。
【0068】
また、レーザ光の照射を終了するときは、レーザ光の照射を停止するタイミングを、レーザ光ヘッドの移動を停止するタイミングより前に設定する。例えば、レーザ光ヘッドの速度が定常速度(Vs)であるときに、レーザ光の照射を停止してもよい。レーザ光ヘッドの速度を減速している期間において、樹脂枠9の切断閾値Q1を下回る単位エネルギを照射可能な速度である期間にレーザ光の照射を停止してもよい。また、第3実施形態で説明したように、レーザ光ヘッドの速度が大きくなると、単位長さあたりのエネルギが小さくなる。したがって、レーザ光ヘッドの速度を増加させながら、レーザ光の照射を停止してもよい。
【0069】
上記のレーザ光の制御態様によれば、さらに確実に、レーザ光が保護膜13だけでなく樹脂枠9まで貫通することを防止できる。つまり、保護膜13を確実に切断し、且つ、樹脂枠9が設けられた光電変換素子アレイ7の表面に対して、レーザ光の照射によるダメージを与えることがない。したがって、不良品の発生が抑制されるので、生産性を向上させることができる。
【0070】
なお、上記のディレイ制御は、図8に示すエネルギ履歴に基づく制御を前提としない。ディレイ制御は、単独で用いてもよい。
【0071】
以上の工程S5を実行することにより、保護膜13が切断される。
【0072】
続いて、図13(a)に示すように、保護膜13におけるレーザ光Lによる切断部から外側の部分を除去することによって、ボンディングパッド5を露出させる(工程S6)。切断部から外側の部分は、入射面と反対側の部分を含む。続いて、図13(b)に示すように、樹脂枠9に沿って、未硬化の樹脂材料をコーティングする(工程S7)。未硬化の樹脂材料は、保護膜13の外縁13a及び樹脂枠9を覆うように設けられる。未硬化の樹脂材料は、例えば、紫外線硬化型のアクリル樹脂等である。その後、未硬化の樹脂材料に対して紫外線を照射する。その結果、樹脂材料が硬化するので、被覆樹脂14が形成される。
【0073】
また、保護膜13は、被覆樹脂14を設けなくとも、樹脂枠9を介して光電変換素子アレイ7に密着する。しかし、被覆樹脂14を形成することによって、第1の有機膜10を含む保護膜13が樹脂枠9と被覆樹脂14とに挟み込まれて固定される。その結果、光電変換素子アレイ7上への保護膜13の密着性がさらに向上する。したがって、保護膜13によりシンチレータ8aが密封される。その結果、シンチレータ8aへの水分の浸入を確実に防ぐことができるので、シンチレータ8aの吸湿劣化によって、素子の解像度が低下すること防ぐことができる。
【0074】
また、上記の実施形態では、パネル保護部は、樹脂枠9であった。パネル保護部は、複数の部材によって構成されてもよい。例えば、パネル保護部は、樹脂枠9と、樹脂枠9の上に張り付けられるマスキング部材と、を有してもよい。この構成によれば、レーザ光を照射するとき(工程S5)、樹脂枠9とマスキング部材とにより構成されるパネル保護部が形成される。したがって、レーザ光の照射に対して保護膜13から光電変換素子アレイ7までの距離を大きく確保することができる。その結果、より確実に光電変換素子アレイ7へのレーザ光の照射の影響を抑制することができる。
【0075】
<作用効果>
以下、本実施形態の作用効果について説明する。前述の課題において、レーザ光の照射態様は、予め設定した内容と実際の動作とでは、わずかな相違が生じることがあると述べた。まず、この点について、その態様を例示する。
【0076】
レーザ光の照射を開始するとき、被照射体の表面においてレーザ光のエネルギがゼロ(非照射)から所定エネルギまで上昇する時間(図14(a)のt1)は、レーザ光ヘッドの移動速度がゼロから所定速度に達する時間(図14(b)のt1からt3)よりも極めて短い。
【0077】
そうすると、レーザ光ヘッドの移動速度がゼロから所定速度に達するまでの加速期間(t1~t3)に単位時間(長さ)あたりの被照射体が受けるレーザ光のエネルギ(Q3~Qs)は、レーザ光ヘッドが所定速度で移動している定常期間(t3~t4)に単位時間(長さ)あたりに被照射体が受けるレーザ光のエネルギ(Qs)と異なる。具体的には、加速期間(t1~t3)におけるレーザ光ヘッドの移動速度(0~Vs)は、定常期間(t3~t4)におけるレーザ光ヘッドの移動速度(Vs)よりも遅い。したがって、加速期間(t1~t3)に被照射体が受けるレーザ光のエネルギ(Q3~Qs)は、定常期間(t3~t4)に被照射体が受けるレーザ光のエネルギ(Qs)よりも大きい。したがって、この加速期間(t1~t3)において、レーザ光のエネルギに対してレーザ光ヘッドの速度が遅すぎると、被照射体に対して過剰な大きさのエネルギが照射される場合があり得る。このエネルギが、樹脂枠9が切れるエネルギ(Q2)を超えると、樹脂枠9の下に存在する光電変換素子アレイ7にダメージが及ぶ可能性がある。
【0078】
放射線検出器1は、一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子3aを含む受光部3、及び光電変換素子3aと電気的に接続され且つ受光部3の外側に配置された複数のボンディングパッド5を有する光電変換素子アレイ7と、受光部3を覆うように光電変換素子アレイ7上に積層され、放射線を光に変換するシンチレータ層8と、シンチレータ層8の積層方向Aから見た場合に、シンチレータ層8及びボンディングパッド5から離間してシンチレータ層8とボンディングパッド5との間を通り且つシンチレータ層8を包囲するように、光電変換素子アレイ7上に形成された樹脂枠9と、シンチレータ層8を覆い、樹脂枠9上に位置する外縁13aを有する保護膜13と、を備える。樹脂枠9には、保護膜13の外縁13aと連続する溝30が形成されている。溝30は、レーザ光のエネルギを、保護膜13を切断可能な切断閾値Q1より小さい値(Q0)から切断閾値Q1よりも大きい値に増加させながら、樹脂枠9に沿って走査することによって形成された前照射部Rsと、レーザ光のエネルギを、切断閾値Q1よりも大きい値(Qs)に維持しながら、樹脂枠9に沿って走査することによって形成された本照射部Raと、レーザ光のエネルギを、切断閾値Q1より大きい値から切断閾値Q1よりも小さい値(Q0)に減少させながら、樹脂枠9に沿って走査することにより形成された後照射部Reと、を含む。
【0079】
上記の放射線検出器1の樹脂枠9の溝30は、保護膜13の外縁13aと連続しているので、レーザ光の照射による保護膜13の外縁13aの形成に伴って形成される。そして、樹脂枠9に溝が形成されているということは、樹脂枠9上に形成された保護膜13は確実に切断されていることを意味する。そして、前照射部Rsでは切断閾値Q1よりも小さいエネルギQ0から照射が開始される。このような照射態様によれば、樹脂枠9の切断に要する切断閾値Q2に対して、余裕を持たせてレーザ光の照射を開始することができる。したがって、レーザ光の照射開始において、意図しない要因によって設定値よりも大きいエネルギが供給されたとしても、確保された余裕によって樹脂枠9の切断を抑制することができる。同様に、後照射部Reでは切断閾値Q1よりも小さいエネルギQ0まで減少された後に照射が停止される。このような照射態様によれば、樹脂枠9の切断に要する切断閾値Q2に対して、余裕を持たせてレーザ光の照射を停止することができる。したがって、レーザ光の照射停止において、意図しない要因によって設定値よりも大きいエネルギが供給されたとしても、確保された余裕によって樹脂枠9の切断を抑制することができる。したがって、意図しない樹脂枠9の切断の発生を抑制することができる。
【0080】
放射線検出器1は、保護膜13の外縁13aを覆う被覆樹脂14をさらに備える。この構成によれば、保護膜13の剥がれの発生を抑制することができる。
【0081】
被覆樹脂14は、樹脂枠9をさらに覆う。被覆樹脂14は、被覆樹脂14と樹脂枠9との接触面の縁部14eが樹脂枠9上に形成されるように、樹脂枠9に留まることが可能な粘性及びチクソ性を有する。この構成によれば、被覆樹脂14は、樹脂枠9の外側に位置する光電変換素子アレイ7の表面とボンディングパッド5に到達しない。したがって、光電変換素子アレイ7の表面とボンディングパッド5を清浄に保つことができる。
【0082】
樹脂枠9の中央部は、樹脂枠9の両縁部よりも高い。この構成によれば、被覆樹脂14は、保護膜13の外縁13aを確実に覆うことができる。
【0083】
樹脂枠9の幅は、700マイクロメートル以上であり、且つ、1000マイクロメートル以下である。この構成によれば、放射線検出器1を小型化することができる。
【0084】
樹脂枠9の高さは、100マイクロメートル以上であり、且つ、300マイクロメートル以下である。この構成によれば、放射線検出器1を小型化することができる。
【0085】
放射線検出器1の製造方法は、一次元又は二次元に配列された複数の光電変換素子3aを含む受光部3、及び光電変換素子3aと電気的に接続され且つ受光部3の外側に配置された複数のボンディングパッド5を有する光電変換素子アレイ7を準備し、放射線を光に変換するシンチレータ層8を、受光部3を覆うように光電変換素子アレイ7上に積層する工程S2と、シンチレータ層8の積層方向から見た場合に、シンチレータ層8を包囲するように、光電変換素子アレイ7上に樹脂枠9を配置する工程S3と、光電変換素子アレイ7のシンチレータ層8が積層される側の表面全体及び樹脂枠9の表面を覆うように、保護膜13を形成する工程S4a、S4b、S4cと、樹脂枠9に沿ってレーザ光を照射することにより、保護膜13を切断する工程S5と、保護膜13の外側の部分を除去する工程S6と、を有する。保護膜13を切断する工程S5では、レーザ光のエネルギを、保護膜13を切断可能な切断閾値Q1より小さい値から切断閾値Q1よりも大きい値に増加させながら、樹脂枠9に沿って走査する前照射工程S5sと、レーザ光のエネルギを、切断閾値Q1よりも大きい値に維持しながら、樹脂枠9に沿って走査する本照射工程S5aと、レーザ光のエネルギを、切断閾値Q1より大きい値から切断閾値Q1よりも小さい値に減少させながら、樹脂枠9に沿って走査する後照射工程S5eと、を含む。
【0086】
放射線検出器1の製造方法では、保護膜13を切断する工程S5において、保護膜13の外縁13aが形成されると共に、樹脂枠9の溝30が形成される。そして、樹脂枠9に溝30が形成されているということは、樹脂枠9上に形成された保護膜13は確実に切断されていることを意味する。そして、当該溝30は、エネルギを増加させながら形成する前照射工程S5sと、エネルギを減少させながら形成する後照射工程S5eとを含む。前照射部Rs及び後照射部Reによれば、溝30の深さが深くなりすぎることがない。従って、意図しない樹脂枠9の切断の発生を抑制することができる。その結果、レーザ光が保護膜13だけでなく樹脂枠9まで貫通することを防止できる。
【0087】
つまり、保護膜13を確実に切断し、且つ、樹脂枠9が設けられた光電変換素子アレイ7の表面に対して、レーザ光の照射によるダメージを与えることがない。したがって、不良品の発生が抑制されるので、生産性を向上させることができる。
【0088】
放射線検出器1の製造方法において、パネル保護部は、樹脂枠9である。樹脂枠9を配置する工程S3では、シンチレータ層8及びボンディングパッド5から離間してシンチレータ層8とボンディングパッド5との間を通り且つシンチレータ層8を包囲するように、光電変換素子アレイ7上に樹脂枠9を配置する。この工程S3によれば、樹脂枠9を有する放射線検出器1を製造することができる。
【0089】
以上、本発明の第1実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記第1実施形態に限定されない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形が可能である。
【0090】
例えば、以上の説明では、保護膜13は、ポリパラキシリレン製の第1の有機膜10及び第2の有機膜12の間に無機膜11を挟み込んだ構造を有していた。つまり、第1の有機膜10の材料は、第2の有機膜12の材料と同じであった。例えば、第1の有機膜10の材料は、第2の有機膜12の材料と異なってもよい。また、無機膜11として腐蝕に強い材料を使用しているような場合、保護膜13は、第2の有機膜12を省略してよい。また、上記の放射線検出器1の受光部3は、2次元に配列された複数の光電変換素子3aを有していた。受光部3は、1次元に配列された複数の光電変換素子3aを有してもよい。また、ボンディングパッド5は、矩形状の放射線検出器1の2辺でなく3辺に形成されてもよい。また、上記実施形態においては、レーザ光ヘッドを移動させてレーザ加工する方法について説明した。例えば、レーザ光の照射にあっては、放射線検出器1を載置するステージを移動させてもよい。
【0091】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の放射線検出器1Aと放射線検出器1Aの製造方法について説明する。第1実施形態の放射線検出器1は、パネル保護部として樹脂枠9を用いていた。具体的には、放射線検出器1の製造時において、保護膜13を切断する際にレーザ光から光電変換素子アレイ7を保護する部材として樹脂枠9を用いた。そして、放射線検出器1は、樹脂枠9を構成要素として備えていた。
【0092】
第2実施形態の放射線検出器1Aは、保護膜13を切断する際にレーザ光から光電変換素子アレイ7を保護する部材としてマスキング部材M1(図20等参照)を用いる。このマスキング部材M1は、保護膜20を切断する工程S15の後に、取り除く。つまり、放射線検出器1Aは、マスキング部材M1を構成要素として備えない。
【0093】
図15及び図16に示すように、放射線検出器1Aは、光電変換素子アレイ7と、シンチレータ層8と、保護膜20と、を備えている。光電変換素子アレイ7及びシンチレータ層8は、第1実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。以下、保護膜20について詳細に説明する。
【0094】
保護膜20は、本体部21と、外縁部22と、を有する。本体部21は、シンチレータ層8を覆う。本体部21における第1の有機膜10は、シンチレータ層8上に設けられている。第1の有機膜10は、柱状構造の複数のシンチレータ8aのそれぞれの間を埋める。外縁部22は、本体部21の外側に設けられている。外縁部22は、本体部21と連続する。
【0095】
外縁部22は、密着部23と、延在部24と、を有する。密着部23は、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kにおいて光電変換素子アレイ7に密着している。例えば、密着部23におけるシンチレータ層8側の第1の有機膜10の一部は、光電変換素子アレイ7との密着面を有する。その結果、密着部23は、光電変換素子アレイ7に密着する。密着面を大きくすることにより、密着部23と光電変換素子アレイ7との密着性が高まる。密着面を大きくすることは、換言すると、密着部の長さg1+g2を長くすることである。
【0096】
密着部23は、第1部分23aと、第2部分23bとを有する。第1部分23aは、本体部21側に位置する部分である。第1部分23aは、第1の有機膜10と、無機膜11と、第2の有機膜12と、を有する。つまり、第1部分23aは、3層構造である。第2部分23bは、第1部分23aを挟んで本体部21に対して反対側に位置する。第2部分23bは、第1の有機膜10と、第2の有機膜12と、を有する。つまり、第2部分23bは、2層構造である。このため、無機膜11の外縁端11aの位置は、保護膜20の外縁端20aよりも内側である。保護膜20の外縁端20aよりも内側とは、換言すると、シンチレータ層8側である。第1部分23aにおいて、無機膜11は、第1の有機膜10の外縁部10bと第2の有機膜12の外縁部12bとの間に挟まれる。第2部分23bは、無機膜11の外縁部11bよりも外側に位置する。換言すると、第2部分23bは、無機膜11の外縁部11bよりもボンディングパッド5側に位置する。第1の有機膜10の外縁部10bは、第2部分23bにおいて、第2の有機膜12の外縁部12bに対して接合されている。第1の有機膜10及び第2の有機膜12が同じ材料で構成されている場合には、第1の有機膜10及び第2の有機膜12は、一体化していてもよい。密着部23において、第1の有機膜10の外縁部10b及び第2の有機膜12の外縁部12bは、協働して、無機膜11の外縁部11bを包む。
【0097】
延在部24は、第1の有機膜10及び第2の有機膜12からなる2層構造を有する。延在部24は、密着部23から光電変換素子アレイ7の反対側に自立状態で延在する。延在部24は、保護膜20のうちの最も外縁端20a側に位置する。このため、第1の有機膜10の外縁端10a及び第2の有機膜12の外縁端12aは、保護膜20の外縁端20aを構成する。延在部24は、立ち上がり部24aと、片部24bと、を有する。立ち上がり部24aは、密着部23のうち本体部21とは反対側の部分を基端として、光電変換素子アレイ7の表面の法線方向に延びている。ここで、「自立状態」とは、立ち上がり部24aが、何らの部材(例えば樹脂等)によって保持されたり支持されたりすることなく起立している状態をいう。立ち上がり部24aの基端部分は、密着部23に接続されている。立ち上がり部24aの基端部分以外の部分は、放射線検出器1Aのいずれの要素にも接していない。
【0098】
立ち上がり部24aは、光電変換素子アレイ7の表面の法線方向に自立状態で延在している。換言すると、立ち上がり部24aは、光電変換素子アレイ7から直立している。ただし、立ち上がり部24aの延在方向は、これに限定されない。立ち上がり部24aは、光電変換素子アレイ7の表面に対して平行である方向と交差する方向に自立状態で延在していればよい。例えば、立ち上がり部24aは、光電変換素子アレイ7から直立した状態を基準として、ボンディングパッド5側に傾いていてもよい。立ち上がり部24aは、光電変換素子アレイ7から直立した状態を基準として、シンチレータ層8側に傾いていてもよい。また、立ち上がり部24aの形状は、平面に限定されない。立ち上がり部24aの形状は、例えば曲面であってもよい。
【0099】
片部24bは、立ち上がり部24aの上部からボンディングパッド5側に向かって突出する。片部24bの突出方向は、光電変換素子アレイ7の表面に対して平行である。ただし。片部24bの突出方向は、光電変換素子アレイ7の表面に対して平行である方向に限定されない。片部24bの突出方向は、立ち上がり部24aの延在方向と異なっていればよい。例えば、片部24bは、光電変換素子アレイ7の表面に対して平行である状態を基準として、光電変換素子アレイ7に次第に近づくように傾いてもよい。片部24bは、光電変換素子アレイ7から次第に離間するように傾いてもよい。また、片部24bの形状は、平面に限定されない。片部24bの形状は、例えば曲面であってもよい。
【0100】
図16において、長さg1及び長さg2は、密着部23の長さを示す。具体的に、長さg1は密着部23の第1部分23aの長さを示す。長さg2は密着部23の第2部分23bの長さを示す。長さg1と長さg2との合計の長さは、例えば1000μm程度である。あるいは、長さg1と長さg2との合計の長さは、例えば1000μm以下である。長さg3は、立ち上がり部24aの高さである。換言すると、長さg3は、延在部24の高さである。長さg3は、例えば80μm以上250μm以下である。長さg4は、延在部24の片部24bの長さである。長さg4は、例えば300μm程度である。あるいは、長さg4は、例えば300μm以下である。長さg5は、密着部23と延在部24との境界からボンディングパッド5までの距離である。長さg5は、長さg4よりも長い。例えば、長さg5は、長さg4よりも、例えば数十μm~数百μm程度長い。この構成によれば、延在部24は、ボンディングパッド5に干渉しない。
【0101】
ここで、放射線検出器1Aの外観形状について説明する。図17は、放射線検出器1Aのコーナー部分を模式的に示す斜視図であり、図18は、図17とは異なる角度から見た放射線検出器1Aのコーナー部分を模式的に示す斜視図である。なお、図18では、保護膜20に覆われたシンチレータ層8が見えるようにその断面が図示されている。また、図18では、柱状構造の複数のシンチレータ8aが、破線によって示されている。図17及び図18からも理解されるように、保護膜20の外縁部22は、密着部23と、延在部24とを有している。立ち上がり部24aは、ボンディングパッド5側に傾いており、片部24bもボンディングパッド5側に傾いていてもよい。また、立ち上がり部24aと片部24bとの接続部分は、直角に折れ曲がっておらず、滑らかに屈曲していてもよい。
【0102】
<放射線検出器の作用効果>
放射線検出器1Aの作用効果について説明する。放射線検出器1Aにおいて、シンチレータ層8を覆う保護膜20の外縁部22は、光電変換素子アレイ7と密着する密着部23を有する。これにより、保護膜20と光電変換素子アレイ7との間を通りシンチレータ層8に向かって湿気が入り込むことを防ぐことができる。さらに、保護膜20の外縁部22は、延在部24を有する。延在部24は、密着部23から光電変換素子アレイ7の反対側に自立状態で延在する。保護膜20の外縁部22が延在部24を有さないと保護膜20の外縁端20aが密着部23に含まれる。その場合、特に、密着部23のうち保護膜20の外縁端20aが位置する部分と光電変換素子アレイ7との密着性が確保しにくくなる。その結果、密着部23と光電変換素子アレイ7との界面からシンチレータ層8に湿気が侵入しやすくなる。
【0103】
これに対し、放射線検出器1Aにおける保護膜20の外縁部22は、延在部24を有する。保護膜20の外縁端20aは、密着部23には含まれない。つまり、密着部23と光電変換素子アレイ7との密着性を十分に確保することができる。その結果、延在部24がない場合よりも、シンチレータ層8の耐湿性を向上させることができる。したがって、第1実施形態のように保護膜20の外縁部を樹脂部材(樹脂枠9)で保持しなくとも、シンチレータ層8の耐湿性を維持できる。さらに、保護膜20の外縁部を支持する樹脂部材を設ける必要がない分、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kを狭くすることができる。たとえば、樹脂枠9の幅が900μm程度であるとき、この幅に相当する長さだけ、領域Kを縮小することができる。よって、放射線検出器1Aは、シンチレータ層8の耐湿性を確保すると共に、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kの拡大を抑制することができる。つまり、領域Kを縮小できる。その結果、受光部3とボンディングパッド5とを電気的に接続する信号線4を短くすることができる。したがって、電気信号の伝達速度を向上させることができる。また、信号線4が短いので、ノイズの増大を抑制することもできる。
【0104】
保護膜20は、無機膜11と、第1の有機膜10と、第2の有機膜12と、を有する。第1の有機膜10は、無機膜11に対してシンチレータ層8側に配置される。第2の有機膜12は、無機膜11に対してシンチレータ層8の反対側に配置される。このように保護膜20が無機膜11を含むことによって、シンチレータ層8で発生した光の外部(受光部3以外の部分)への漏れを防止できる。その結果、放射線検出器1Aの感度が向上する。また、第1の有機膜10及び第2の有機膜12は、無機膜11の両側に設けられる。この構成によれば、第1の有機膜10及び第2の有機膜12は、無機膜11を保護することもできる。
【0105】
無機膜11の外縁端11aは、保護膜20の外縁端20aよりも内側に位置する。第1の有機膜10の外縁端10a及び第2の有機膜12の外縁端12aは、保護膜20の外縁端20aを構成する。そして、第1の有機膜10の外縁部10bは、無機膜11の外縁端11aよりも外側において、第2の有機膜12の外縁部12bに接合されている。第1の有機膜10の外縁部10bと第2の有機膜12の外縁部12bとは、無機膜11の外縁部11bを覆っている。例えば、無機膜11と第1の有機膜10との密着性、あるいは無機膜11と第2の有機膜12との密着性が良くない場合でも、無機膜11の外縁部11bが第1の有機膜10の外縁部10bと第2の有機膜12の外縁部12bとで封止される。したがって、第1の有機膜10に対する第2の有機膜12の密着性を確保することができる。
【0106】
無機膜11は、アルミニウム又は銀からなる金属膜である。したがって、無機膜11の光反射性を良好なものとすることができる。
【0107】
延在部24の高さは、80μm以上250μm以下である。したがって、シンチレータ層8の耐湿性をより確実に確保することができる。
【0108】
延在部24は、立ち上がり部24aと、片部24bとを有する。片部24bは、立ち上がり部24aの上部からボンディングパッド5に向かって突出する。このように、延在部24は、立ち上がり部24aだけでなく片部24bを有する。したがって、保護膜20の外縁端20aを密着部23から十分に遠ざけることができる。その結果、より確実に、密着部23に対する光電変換素子アレイ7の密着性を確保できる。この場合でも、片部24bの長さは、例えば300μm程度である。あるいは、片部24bの長さは、例えば300μm以下である。したがって、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kを縮小することができる。
【0109】
例えば配線工程でボンディングパッド5にワイヤ等の導電部材がボンディングされる際、ボンディング部分からシンチレータ層8側に向かって異物等が飛んでくる可能性がある。その場合でも、延在部24は、シンチレータ層8を異物等から保護する防護壁として機能する。これにより、ボンディングの際のシンチレータ層8のコンタミネーションを防ぐことができる。
【0110】
光電変換素子アレイ7には高価なものもある。製造工程における検査の結果、放射線検出器1Aが品質基準等を満たない場合に、光電変換素子アレイ7を再利用することが考えられる。その場合、光電変換素子アレイ7上に設けられたシンチレータ層8を除去して新たなシンチレータ層8を光電変換素子アレイ7上に設ける。そのためには保護膜20を除去しなければならない。本実施形態の放射線検出器1Aによれば、保護膜20の外縁部22は、延在部24を有する。例えば、保護膜20を光電変換素子アレイ7から剥離させるときに、延在部24を把持して引き上げる等、延在部24を剥離の起点として用いることが可能である。したがって、延在部24によれば、保護膜20を比較的容易に除去することができる。
【0111】
<放射線検出器の製造方法>
次に、図19図23を参照して、放射線検出器1Aの製造方法の各工程について説明する。まず、図19(a)に示すように、光電変換素子アレイ7を用意する(工程S11)。次に、図19(b)に示すように、受光部3を覆うように光電変換素子アレイ7上にシンチレータ層8を設ける(工程S12)。
【0112】
次に、図20(a)に示すように、ボンディングパッド5を覆うように光電変換素子アレイ7上にマスキング部材M1を設ける(工程S13)。マスキング部材M1の例は、UV硬化マスキングテープである。以下、UV硬化マスキングテープは、単に「UVテープ」と称する。ボンディングパッド5は基板2の外縁の辺に沿って複数配置される。そこで、まず、UVテープの長手方向を、ボンディングパッド5の配置方向に一致させる。次に、UVテープがボンディングパッド5を覆うように、UVテープの粘着面を光電変換素子アレイ7に張り付ける。UVテープの厚さは、例えば110μm程度であってもよい。また、UVテープの厚さは、110μm以下であってよい。マスキング部材M1の厚さを調節するために、複数のUVテープを重ねて用いてもよい。
【0113】
シンチレータ層8、領域K、及びマスキング部材M1を覆うように光電変換素子アレイ7上に保護膜20を設ける(工程S14)。具体的には、まず、図20(b)に示すように、第1の有機膜10を形成する(工程S14a)。例えば、CVD法によって、基板2の表面全体をポリパラキシリレン等で被覆する。次に、図21(a)に示すように、第1の有機膜10の上に無機膜11を形成する(工程S14b)。例えば蒸着法によってアルミニウム膜を無機膜11上に積層する。ここで、ボンディングパッド5が無機膜11で覆われないようにしてもよい。その場合、ボンディングパッド5をマスキング部材M2でマスキングしてからアルミニウム膜を蒸着するとよい。マスキング部材M2には、例えば、UVテープを用いてよい。そして、図21(b)に示すように、第2の有機膜12を形成する(工程S14c)。例えば、再度、CVD法によって、基板2の表面全体をポリパラキシリレン等で被覆する。
【0114】
続いて、図22(a)に示すように、レーザ光Lを照射することにより、マスキング部材M1上において保護膜20を切断する(工程S15)。例えば、基板2が載置されたステージ(不図示)に対して、レーザ光Lを照射するレーザ光ヘッド(不図示)を移動させることで、レーザ光Lをマスキング部材M1のシンチレータ層8側の縁部に沿って走査する。
【0115】
具体的な工程は、第1実施形態の工程S5と同様としてよい。
【0116】
マスキング部材M1を除去する(工程S16)。具体的には、UVテープであるマスキング部材M1の粘着面の粘着力を低下させたのちに、マスキング部材M1を除去する。まず、図22(b)に示すように、マスキング部材M1に向かって紫外線を照射する(工程S16a)。紫外線は保護膜20を透過してマスキング部材M1に到達する。マスキング部材M1は、紫外線の照射を受けることによって、粘着面の粘着力を失う。そして、図23に示すように、マスキング部材M1を取り除く(工程S16b)。切断された保護膜20のうち、マスキング部材M1を覆っていた部分は、マスキング部材M1とともに除去される。その結果、ボンディングパッド5が露出する。
【0117】
<作用効果>
放射線検出器1Aの製造方法において、パネル保護部は、マスキング部材M1である。マスキング部材M1を配置する工程S13では、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域K、及びボンディングパッド5を覆うように、光電変換素子アレイ7上にマスキング部材M1を配置する。保護膜20を形成する工程S14では、光電変換素子アレイ7におけるシンチレータ層8が積層される側の表面全体及びマスキング部材M1の表面に保護膜20を形成する。この工程S14によれば、樹脂枠9を備えない放射線検出器1Aを製造することができる。つまり、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の距離を縮めることが可能になるので、放射線検出器1Aをさらに小型化することができる。
【0118】
放射線検出器1Aの製造方法において、保護膜20を切断する工程S15の後に、マスキング部材M1を除去する工程S16bをさらに含む。これらの工程16a、16bによれば、樹脂枠9を備えない放射線検出器1Aを好適に製造することができる。
【0119】
なお、図24に示すように、放射線検出器1Aの製造方法において、保護膜20の外側の部分を除去する工程S16aの後に、保護膜20の外縁端20aを覆う被覆樹脂14Aを形成する工程をさらに有してもよい。この工程によれば、保護膜20における外縁端20aの剥がれの発生をさらに抑制することができる。
【0120】
また、以上説明した放射線検出器1Aの製造方法によれば、ボンディングパッド5がマスキング部材M1で覆われ、シンチレータ層8、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域、及びマスキング部材M1を覆うように保護膜20が設けられる。これにより、保護膜20は、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kにおいて光電変換素子アレイ7と密着する密着部23を有する。また、マスキング部材M1の端面と光電変換素子アレイ7との間には、マスキング部材M1の厚さによる段差が生じる。その段差に沿って、保護膜20が形成される。これにより、保護膜20は、密着部23から光電変換素子アレイ7の反対側に延在する延在部24を有する。さらに、マスキング部材M1のシンチレータ層8側の縁部に沿ってレーザ光Lを照射する。その結果、マスキング部材M1上において保護膜20が切断される。そして、マスキング部材M1が除去される。これにより、ボンディングパッド5が露出する。さらに、延在部24はマスキング部材M1に接することなく自立する。また、延在部24は、立ち上がり部24aと、片部24bとを有する。立ち上がり部24aは、マスキング部材M1の縁による段差に沿って形成される。片部24bは、立ち上がり部24aから、レーザ照射がなされたマスキング部材M1の縁部までの間に形成される。
【0121】
放射線検出器1Aは、密着部23と、延在部24と、を有する。密着部23は、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kにおいて光電変換素子アレイ7に密着する。延在部24は、密着部23から光電変換素子アレイ7の反対側に自立状態で延在する。さらに、延在部24は、立ち上がり部24a及び片部24bを含む。これらの構造によれば、先に説明したように、シンチレータ層8の耐湿性を維持することができる。さらに、シンチレータ層8とボンディングパッド5との間の領域Kを狭くすることができる。
【0122】
ここで、レーザ光Lの照射によってボンディングパッド5がダメージを受けてしまう可能性も考えられる。しかし、上記の放射線検出器1Aの製造方法では、保護膜20が切断されるとき、ボンディングパッド5は、マスキング部材M1に覆われている。このとき、マスキング部材M1は、レーザ光Lを吸収する吸収層としての役割を果たす。したがって、レーザ光Lがボンディングパッド5に照射されてボンディングパッド5がダメージを受けることを防ぐことができる。
【0123】
上記の放射線検出器1Aの製造方法では、レーザ光Lの照射によって保護膜20を切断する(工程S15)。この工程S15によれば、保護膜20の外縁部22において密着部23及び延在部24を精度良く整形することができる。ボンディングパッド5が基板2の外縁の1辺だけでなく複数の辺(例えば2~4辺)に沿って所定間隔に配置される場合でも、各辺についてレーザ光Lを走査すればよい。したがって、外縁部22において密着部23及び延在部24を容易に整形することができる。
【0124】
以上、本発明の第2実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、無機膜11の外縁端11aは、第1の有機膜10の外縁端10a及び第2の有機膜12の外縁端12aとともに、保護膜20の外縁端20aを構成してもよい。
【0125】
無機膜11は、白色顔料を含む樹脂膜であってもよい。白色顔料として、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム等が例示できる。白色顔料を含む樹脂膜を無機膜11とする場合、第2の有機膜12を形成した後に、さらに金属膜(例えば、アルミニウム)及び第3保護膜(第1、第2の有機膜と同種材料)をこの順で積層することで、耐湿性に劣る樹脂反射膜であっても金属反射膜と同等の耐湿性、及び金属反射膜以上の光出力を得ることができる。このようにしても、光反射性を有する無機膜11を実現することができる。
【符号の説明】
【0126】
1,1A…放射線検出器、2…基板、3…受光部、3a…光電変換素子、4…信号線、5…ボンディングパッド、6…パッシベーション膜、7…光電変換素子アレイ、8…シンチレータ層、8a…シンチレータ、8b…周縁部、9…樹脂枠、10…第1の有機膜、11…無機膜(金属膜)、12…第2の有機膜、13…保護膜、13a…保護膜13の外縁、14…被覆樹脂、30…溝、D1…第1の距離、D2…第2の距離、d,d1,d3…高さ、d2…幅、E1…樹脂枠9の内縁、E2…樹脂枠9の外縁、E3…シンチレータ層8の外縁、E4…光電変換素子アレイ7の外縁、M1…マスキング部材。
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