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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-07
(45)【発行日】2023-09-15
(54)【発明の名称】水処理設備及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20230908BHJP
   C02F 3/00 20230101ALI20230908BHJP
【FI】
C02F3/12 A
C02F3/12 K
C02F3/12 J
C02F3/00 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019237036
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104489
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【弁理士】
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】安部 剛
(72)【発明者】
【氏名】城野 晃志
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160188(JP,A)
【文献】特開2005-161233(JP,A)
【文献】特開昭60-012194(JP,A)
【文献】特開2008-23468(JP,A)
【文献】特開2014-208322(JP,A)
【文献】特開平11-57799(JP,A)
【文献】国際公開第2005/100267(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
3/00
11/00 - 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理槽と、前記生物処理槽で処理された有機性排水を固液分離する固液分離槽と、前記固液分離槽で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水機構とを備えている水処理設備であって、
散気機構を備え、前記固液分離槽で固液分離された汚泥の一部を導入して調質する汚泥調質槽と、
前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤が充填されたリアクターと、
前記汚泥調質槽に導入した汚泥を、前記リアクターとの間で循環させる汚泥循環路と、
前記汚泥調質槽で調質された汚泥の全てを前記生物処理槽に供給する汚泥供給路と、
を備えている水処理設備。
【請求項2】
前記汚泥調質槽に前記リアクターが浸漬配置され、前記汚泥循環路は前記汚泥調質槽の内部で汚泥を前記リアクターに循環させる循環流路で構成されている請求項1記載の水処理設備。
【請求項3】
前記固液分離槽から前記脱水機構に導かれる汚泥量Qoに対する前記固液分離槽から前記汚泥調質槽に導かれる汚泥量Qq及び前記固液分離槽から前記生物処理槽へ返送される汚泥量Qrの総量(Qq+Qr)の比(Qq+Qr)/Qoが10から18の範囲に設定され、汚泥量Qoに対する汚泥量Qqの比Qq/Qoが0.3から1の範囲に設定されている請求項1または2記載の水処理設備。
【請求項4】
前記汚泥調質槽の容量は、前記固液分離槽から前記汚泥調質槽に導かれる汚泥量Qqの3倍以上に設定され、少なくとも3日は前記汚泥調質槽で調質されるように構成されている請求項1から3の何れかに記載の水処理設備。
【請求項5】
前記散気機構から前記汚泥調質槽への散気量は汚泥量1m当たり1~2m/hの範囲に設定されている請求項1から4の何れかに記載の水処理設備。
【請求項6】
前記汚泥調質槽の溶存酸素濃度DOは0.5~3mg/Lに調整されている請求項1から4の何れかに記載の水処理設備。
【請求項7】
前記生物処理助剤が腐植物質及び/またはミネラルであり、前記特定微生物群がバチルス属細菌を含む土壌微生物群である請求項1から6の何れかに記載の水処理設備。
【請求項8】
有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理工程と、前記生物処理工程で処理された有機性排水を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水工程とを備えている水処理方法であって、
前記固液分離工程で固液分離された汚泥の一部を散気する汚泥調質工程と、
前記汚泥調質工程に導入された汚泥を前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤との間で循環させることで生物処理助剤に接触させて汚泥中の特定微生物群を優占化する優占化工程と、
前記優占化工程で優占化処理され、前記汚泥調質工程で調質された汚泥の全てを前記生物処理工程に供給する優占化汚泥供給工程と、
を含む水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水を生物処理する水処理設備及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機性排水を生物処理する水処理設備に搬入された汚水は、し渣の除去等の前処理が行なわれた後に、貯留槽に貯留され、貯留槽から生物処理槽に定量的に送水される。そして、生物処理された被処理水は固液分離され、活性炭ろ過等の高度処理が行なわれた後に河川等に放流される。一方、固液分離された汚泥はフィルタプレス脱水機などを用いて脱水された後に焼却などの処理が行なわれる。
【0003】
このような有機性排水に対する従来の水処理設備では、生物処理で生じた余剰汚泥の処理コストが水処理に掛かるコストの中で大きな割合を占めていることから、コスト低減のために余剰汚泥の減容化が求められている。
【0004】
そこで、本願発明者らは、活性汚泥法を採用する水処理装置の処理槽に生物処理助剤を供給して特定の微生物叢を汚泥中で優占化させ、特定の微生物叢を用いた生物処理によって悪臭の発生を軽減させるとともに余剰汚泥の発生量を低減させるべく鋭意研究開発を進めてきた。
【0005】
特許文献1には、有機性排水を活性汚泥の存在下で曝気する曝気手段と、曝気後の排水を汚泥と処理水とに分離する分離手段と、汚泥の少なくとも一部を腐植の存在下で反応させる腐植リアクターと、腐植化した汚泥の少なくとも一部を腐植および微小動物の存在下で反応および捕食させる腐植化汚泥槽とからなる、腐植を用いた汚泥減量化装置が提案されている。
【0006】
特許文献2には、有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理槽と、前記生物処理槽で処理された有機性排水を固液分離する固液分離槽と、前記固液分離槽で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水機構とを備えている水処理設備であって、前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤が充填されたリアクターを備えるとともに、前記固液分離槽で固液分離された汚泥を曝気する散気機構を備えた汚泥調質槽が設けられ、前記汚泥調質槽で調質された汚泥が前記脱水機構で脱水処理されるように構成された水処理設備が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-161233号公報
【文献】特開2015-160188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された汚泥減量化装置は、余剰汚泥の一部を腐植リアクターに供給し、腐植リアクターで変換された腐植汚泥の一部を曝気槽に供給するとともに、腐植汚泥の残余を余剰汚泥の残余とともに浸漬型のリアクターを備えた腐植化汚泥槽に供給し、腐植化汚泥槽で10日間程度滞留させた後に脱水処理するように構成されていた。
【0009】
そのために腐植化汚泥槽として大容量の処理槽が必要になるという問題や、腐植化汚泥槽で変換された腐植汚泥を脱水処理した後に堆肥などに用いることが開示されているものの、全てが堆肥として有効に利用できるものではなく、焼却などの最終処理を行なう場合もあり、腐植汚泥を生物処理に有効に活用するという観点でさらに改良の余地があった。
【0010】
特許文献2に記載された水処理設備では、固液分離装置から引抜かれた余剰汚泥を汚泥調質槽に導入して散気することにより微生物の自己分解作用を促進し、その後に汚泥貯留槽を経由して脱水処理するように構成されていたため、脱水時に汚泥濃度が低下しており、その結果、脱水効率が低下するばかりでなく、脱水機構に備える水槽の容量が大きくなり広い設置面積が必要になるという点で改良の余地があった。
【0011】
また、特許文献1,2の何れの構成であっても余剰汚泥が腐植リアクターとBODの高い栄養豊富な生物処理槽との間で循環される構成であるため、特定微生物群以外の微生物が十分に淘汰される環境ではなかった。そのため特定微生物群に対する優占化効率を高める観点でさらなる改良の余地があった。
【0012】
本発明の目的は、上述した従来技術に鑑み、特定微生物群の優占化をより効率的に行ないうる水処理設備及び水処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による水処理設備の第一特徴構成は、有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理槽と、前記生物処理槽で処理された有機性排水を固液分離する固液分離槽と、前記固液分離槽で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水機構とを備えている水処理設備であって、散気機構を備え、前記固液分離槽で固液分離された汚泥の一部を導入して調質する汚泥調質槽と、前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤が充填されたリアクターと、前記汚泥調質槽に導入した汚泥を、前記リアクターとの間で循環させる汚泥循環路と、前記汚泥調質槽で調質された汚泥の全てを前記生物処理槽に供給する汚泥供給路と、を備えている点にある。
【0014】
固液分離槽で固液分離され汚泥調質槽に導かれた汚泥は汚泥循環路を介して特定微生物群を優占化する生物処理助剤が充填されたリアクターに循環供給される。汚泥調質槽を含めてこの循環路を循環する汚泥には生物処理槽に供給される有機性排水のような高BODを有する環境下には無く、また散気機構からの散気によって自己酸化反応が促進される過酷な環境となる。例えば、有芽胞菌であるバチルス属細菌などの特定微生物群は芽胞を形成して耐久性を発揮するが、他の微生物は淘汰されるようになる。その結果、汚泥調質槽に導かれた汚泥は効果的に特定微生物群に優占化され、汚泥全体として効果的に減容化される。また、そのようにして優占化された特定微生物群が汚泥調質槽から生物処理槽に供給されるので、生物処理槽に導かれる有機性排水に含まれる有機物に対する分解効率が向上するとともに余剰汚泥の発生量自体も少なくなる。なお、固液分離槽で固液分離された汚泥は濃度の高い状態で脱水機構に導かれるので脱水効率も、固液分離された汚泥を汚泥調質槽に導入して散気した後に脱水機構に導入する従来の構成のように低下することも無い。
【0015】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記汚泥調質槽に前記リアクターが浸漬配置され、前記汚泥循環路は前記汚泥調質槽の内部に形成され、汚泥を前記リアクターに循環させる循環流路で構成されている点にある。
【0016】
汚泥調質槽にリアクターを浸漬配置することにより、装置をコンパクトに構成することができ、例えば散気機構から供給される気泡により生じる上向流を利用して汚泥をリアクターに循環供給できれば、汚泥を循環させるための別途の動力源も不要になる。
【0017】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記固液分離槽から前記脱水機構に導かれる汚泥量Qoに対する前記固液分離槽から前記汚泥調質槽に導かれる汚泥量Qq及び前記固液分離槽から前記生物処理槽へ返送される汚泥量Qrの総量(Qq+Qr)の比(Qq+Qr)/Qoが10から18の範囲に設定され、汚泥量Qoに対する汚泥量Qqの比Qq/Qoが0.3から1の範囲に設定されている点にある。
【0018】
固液分離槽で固液分離され、脱水機に導かれる汚泥量Qoに対して汚泥調質槽に導かれる汚泥量Qqと生物処理槽へ返送される汚泥量Qrの総量の比が10から18の範囲に設定され、汚泥量Qoに対する汚泥量Qqの比が0.3から1の範囲に設定されることにより、効果的に脱水すべき汚泥量を低減しながらも汚泥調質槽で効率的に特定微生物群が馴養できる。
【0019】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記汚泥調質槽の容量は、前記固液分離槽から前記汚泥調質槽に導かれる汚泥量Qqの3倍以上に設定され、少なくとも3日は前記汚泥調質槽で調質されるように構成されている点にある。
【0020】
汚泥調質槽の容量を固液分離槽で固液分離された1日当たりの汚泥量の3倍以上に設定することにより、特定微生物群の十分な馴養期間を確保できる。
【0021】
同第五の特徴構成は、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記散気機構から前記汚泥調質槽への散気量は汚泥量1m当たり1~2m/hの範囲に設定されている点にある。
【0022】
汚泥量1m当たり1~2m/hの範囲に散気量が設定されることにより、汚泥調質槽の内部で汚泥の流動性が確保でき、汚泥の腐敗を招くようなことが無い。
【0023】
同第六の特徴構成は、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記汚泥調質槽の溶存酸素濃度DOは0.5~3mg/Lに調整されている点にある。
【0024】
汚泥調質槽の溶存酸素濃度DOが0.5mg/Lより低い場合には、汚泥の自己分解による高い減容化効果が得られず、また特定微生物群が芽胞を形成するような厳しい環境に維持することもできない。また、溶存酸素濃度DOが3mg/Lより高い場合には、減容化効果及び芽胞形成効果が損なわれるようなことはないが散気のために供されるエネルギーが無駄になる。
【0025】
同第七の特徴構成は、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記生物処理助剤が腐植物質及び/またはミネラルであり、前記特定微生物群がバチルス属細菌を含む土壌微生物群である点にある。
【0026】
腐植物質及び/またはミネラルを生物処理助剤として汚泥に供給すると、汚泥中の微生物叢がバチルス属細菌を含む土壌微生物群に優占化される。このような汚泥で有機性排水を生物処理することで、有機性排水の処理効率が上昇し、汚泥の発生量の低減及び悪臭の発生の抑制が可能になる。
【0027】
本発明による水処理方法の第一の特徴構成は、有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理工程と、前記生物処理工程で処理された有機性排水を固液分離する固液分離工程と、前記固液分離工程で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水工程とを備えている水処理方法であって、前記固液分離工程で固液分離された汚泥の一部を散気する汚泥調質工程と、前記汚泥調質工程に導入された汚泥を前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤との間で循環させることで生物処理助剤に接触させて汚泥中の特定微生物群を優占化する優占化工程と、前記優占化工程で優占化処理され、前記汚泥調質工程で調質された汚泥の全てを前記生物処理工程に供給する優占化汚泥供給工程と、を含む点にある。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した通り、本発明によれば、特定微生物群の優占化をより効率的に行ないうる水処理設備及び水処理方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による水処理設備の第一の実施形態の説明図
図2】本発明による水処理設備の第一の実施形態の汚泥処理量の説明図
図3】本発明による水処理設備の第二の実施形態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明による水処理設備及び水処理方法の実施形態を説明する。
図1に示すように、本発明による水処理設備10は、生物処理槽11と、固液分離槽12と、汚泥調質槽13と、リアクター14と、汚泥貯留槽15と、脱水機構16と、脱水ケーキホッパ17などを備えている。
【0031】
生物処理槽11は微生物の集合体である活性汚泥を用いて有機性排水を生物処理する槽で、好気状態で有機性排水に含まれるBODを分解するとともにアンモニア性窒素を硝酸性窒素に硝化する硝化槽11Bと、硝化槽11Bで硝化された硝酸性窒素を嫌気状態で窒素ガスに還元して有機性排水から窒素を除去する脱窒素槽11Aを備えている。本実施形態では有機性排水としてし尿や浄化槽汚泥が対象となるが、し尿や浄化槽汚泥以外に下水汚泥、生活排水、食品工場などで生じる工場排水、家畜の糞尿などの各種の有機性排水も対象となる。
【0032】
活性汚泥中の微生物は、有機性排水に含まれるBODを二酸化炭素、水、アンモニア性窒素などの無機物に分解し、アデノシン三リン酸(ATP)を産生する異化反応を生起し、産生したアデノシン三リン酸(ATP)と有機物からアミノ酸などを生合成する同化反応を生起する。生合成物は微生物の細胞成分や分泌物となる。一部の生合成物は、自己酸化反応によって二酸化炭素や水になって消失する。
【0033】
固液分離槽12は生物処理槽11で有機性排水が生物処理された後の被処理水と汚泥とを固液分離する槽であり、本実施形態では槽内に膜分離装置Mが浸漬配置されて構成され、膜分離装置Mの分離膜を介して汚泥と分離された被処理水が取り出される。硝化槽11B及び固液分離槽11には散気装置が設置されており槽内が好気状態に維持されている。
【0034】
固液分離槽12で固液分離された被処理水は活性炭吸着設備などにより高度処理し、高度処理した被処理水は消毒設備で消毒された後に河川など外部に放流する。
【0035】
なお、膜分離装置Mを硝化槽11Bに浸漬配置して固液分離槽12と硝化槽11Bを兼用するように構成してもよい。また、膜分離装置Mを備えた固液分離槽12に代えて汚泥を沈降させて上澄み液となる被処理水を取り出す沈殿槽を固液分離槽12として用いることも可能である。
【0036】
生物処理の過程で増殖し固液分離槽12からポンプを介して引き出された余剰汚泥の一部は汚泥貯留槽15に貯留され、その後に例えばフィルタプレス式脱水機やスクリュープレス式脱水機などを備えた脱水機構16により脱水されて、得られた脱水ケーキは脱水ケーキホッパ17に貯留され、脱水ケーキホッパ17から取り出された後に肥料として資源化処理または焼却処理される。なお、複数のフィルタプレス式脱水機を備えるなど余剰汚泥を連続的に脱水処理可能な場合には汚泥貯留槽15は不要となる。
【0037】
また、固液分離槽12からポンプを介して引き出された余剰汚泥の一部は脱窒素槽11Aに返送汚泥として戻されて、硝化処理された汚泥に含まれる硝酸性窒素を窒素ガスに還元する脱窒素処理が行なわれる。
【0038】
さらに、固液分離槽12からポンプを介して引き出された余剰汚泥の一部は汚泥調質槽13に送られて、汚泥調質槽13に備えた散気装置で散気処理される。汚泥調質槽13で散気された汚泥は、内生呼吸(自己酸化)により減容化される。内生呼吸とは、栄養源となるBOD濃度が低いために、微生物が自分の細胞質を補充することなく代謝することをいう。最終的に微生物の細胞膜は破壊されて内側に残存する分子を放出し、それが今度は他の微生物の栄養源になる。
【0039】
さらに、汚泥調質槽13に導入された汚泥は、ポンプを介してリアクター14との間に形成される循環路に沿って循環される。
リアクター14は、活性汚泥を構成する微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤が充填された装置で、ケーシングの内部に生物処理助剤が保持された容器14Aが設置されている。容器14Aは内部に汚泥が通流するように少なくとも上下がパンチングメタルを含むメッシュ状の支持板で挟まれている。
【0040】
汚泥調質槽13からポンプアップされた汚泥は上方の流入部からリアクター14に流入し、ケーシングの底部に備えた散気装置により散気されつつケーシング内で循環し、その後ケーシング上方の流出部から汚泥調質槽13に返送される。
【0041】
生物処理助剤として、ペレット状に成形した腐植成分やミネラル塊、詳しくは腐植、腐植抽出物、フミン酸、フルボ酸、珪砂、珪石等のうちの一種または複数種が用いられる。このような成分からなる生物処理助剤に汚泥が接触すると通性嫌気性菌である土壌微生物群が優占化され、例えばバチルス属細菌のような土壌微生物群が優占化される。
【0042】
リアクター14を通過することによって生物処理助剤に接触した汚泥が汚泥調質槽13に返送されると、汚泥調質槽13の槽内でも土壌微生物群である特定微生物群が優占化され、当該特定微生物群によって硝化・脱窒等の生物処理が行なわれる。
【0043】
即ち、リアクター14及び汚泥調質槽13では、上述した異化反応、同化反応、内生呼吸が同時に進行するばかりでなく、生合成物が生物処理助剤の存在下で重縮合反応し腐植に変えられる腐植化反応が生起され、易分解性の腐植は異化反応によりガス化され、生成された腐植は同化反応及び自己酸化反応によりガス化し、効果的に減容化される。
【0044】
汚泥調質槽13を含めてこの循環路を循環する汚泥には生物処理槽11に供給される有機性排水のような高BODを有する環境下には無く、また散気機構からの散気によって自己酸化反応が促進される過酷な環境となる。
【0045】
バチルス属細菌などの有芽胞菌は芽胞を形成して耐久性を発揮するが、他の微生物は淘汰されるようになる。その結果、汚泥調質槽に導かれた汚泥は効果的に特定微生物群に優占化され、汚泥全体として効果的に減容化される。
【0046】
また、そのようにして優占化された特定微生物群が汚泥調質槽13から専ら生物処理槽11に供給されるので、生物処理槽11に導かれる有機性排水に含まれる有機物に対する分解効率が向上するとともに余剰汚泥の発生量自体も少なくなる。なお、固液分離槽12で固液分離された汚泥は濃度の高い状態で脱水機構16に導かれるので脱水効率も、固液分離された汚泥を汚泥調質槽に導入して散気した後に脱水機構に導入する従来の構成のように低下することも無い。この様なリアクター14が導入された設備をASB(Activation of Soil Bacteria)導入設備という。
【0047】
即ち、水処理設備10は、汚泥調質槽13に導入した汚泥を、リアクター14を介して循環させる汚泥循環路R1,R2と、汚泥調質槽13で調質された汚泥を専ら生物処理槽11に供給する汚泥供給路R3と、を備えている。
【0048】
図2に示すように、生物処理槽11に投入される有機性排水の単位時間当たりの投入量をQ、固液分離装置12から取り出される単位時間当たりの被処理水の水量をQとする場合に、固液分離槽12から脱水機構16に導かれる汚泥量Qoが0.3Qに設定され、固液分離槽12から汚泥調質槽13に導かれる汚泥量Qqと固液分離槽12から生物処理槽11に返送される汚泥量Qrの総量(Qq+Qr)が3.0Qから5.3Qの範囲に設定され、固液分離槽12から汚泥調質槽13に導かれる汚泥量Qqが0.09Qから0.3Qに設定されていることが好ましい。
【0049】
汚泥量Qqを0.09Qから0.3Qの範囲に設定することにより汚泥量Qo及びQqのMLSS濃度を、汚泥の減容及び馴致に最適な濃度15,000mg/L~20,000mg/Lに維持することができる。
【0050】
換言すると、固液分離槽12から脱水機構16に導かれる汚泥量Qoに対する固液分離槽12から汚泥調質槽13に導かれる汚泥量Qq及び固液分離槽12から生物処理槽11へ返送される汚泥量Qrの総量(Qq+Qr)の比(Qq+Qr)/Qoが10から18の範囲に設定され、汚泥量Qoに対する汚泥量Qqの比Qq/Qoが0.3から1の範囲に設定されていることが好ましく、脱水すべき汚泥量を低減しながらも汚泥調質槽で効率的に特定微生物群が馴養できるようになる。なお、この場合、固液分離槽12から生物処理槽11に返送される汚泥量Qrは、脱窒素効率などの観点で約3Qから5Qの間で、上述の条件に整合する範囲に設定される。
【0051】
また、汚泥調質槽13の容量は、固液分離槽12から汚泥調質槽13に導かれる1日当たりの汚泥量Qqの3倍以上に設定され、少なくとも3日は汚泥調質槽で調質されるように構成されている。
【0052】
汚泥調質槽の容量を固液分離槽12から汚泥調質槽13に導かれる1日当たりの汚泥量Qqの3倍以上に設定することにより、特定微生物群の十分な馴養期間を確保できる。
【0053】
さらに、散気機構から汚泥調質槽13への散気量は汚泥量1m当たり1~2m/hの範囲に設定されていることが好ましく、この数値の範囲に散気量が設定されることにより、汚泥調質槽13の内部で汚泥の流動性が確保でき、汚泥の腐敗を招くようなことが無い。
【0054】
さらにまた、汚泥調質槽13の溶存酸素濃度DOは0.5~3mg/Lに調整されていることが好ましい。汚泥調質槽13の溶存酸素濃度DOが0.5mg/Lより低い場合には、汚泥の自己分解による高い減容化効果が得られず、また特定微生物群が芽胞を形成するような厳しい環境に維持することもできない。また、溶存酸素濃度DOが3mg/Lより高い場合には、減容化効果及び芽胞形成効果が損なわれるようなことはないが散気のために供されるエネルギーが無駄になる。
【0055】
図3に示すように、汚泥調質槽13にリアクター14を浸漬配置し、汚泥循環路が汚泥調質槽13の内部に形成され、汚泥をリアクター14に循環させる循環流路で構成されていることが好ましい。汚泥調質槽13にリアクター14を浸漬配置することにより、装置をコンパクトに構成することができ、例えば散気機構から供給される気泡により生じる上向流を利用して汚泥をリアクター14に循環供給できれば、汚泥を循環させるための別途の動力源も不要になる。
【0056】
以上説明したように、本発明による水処理方法は、有機性排水を微生物によって生物処理する生物処理工程と、生物処理工程で処理された有機性排水を固液分離する固液分離工程と、固液分離工程で固液分離された汚泥を脱水処理する脱水工程とを備えている水処理方法であり、詳しくは、固液分離工程で固液分離された汚泥の一部を散気する汚泥調質工程と、汚泥調質工程に導入された汚泥を前記微生物のうち特定微生物群を優占化する生物処理助剤に接触させて汚泥中の特定微生物群を優占化する優占化工程と、優占化工程で優占化処理され、汚泥調質工程で調質された汚泥を専ら生物処理工程に供給する優占化汚泥供給工程と、を含む。
【0057】
高度処理設備は固液分離槽11で固液分離された液体成分を活性炭等により高度処理する設備で、消毒設備では高度処理後の有機性排水を外部に放流する前の最終的な処理として消毒が行なわれる。
【0058】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、大きさや素材の選択など各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0059】
10:水処理設備
11:生物処理槽
11A:脱窒素槽
11B:硝化槽
12:固液分離槽
13:汚泥調質槽
14:リアクター
15:汚泥貯留槽
16:脱水機構

図1
図2
図3